説明

マスク捕集性能試験機およびそれを使用する試験方法

【課題】マスクの捕集性能試験を繰り返すことが容易な試験機。
【解決手段】マスク2の捕集性能試験機1が空気中に粒子状物質Pを浮遊させることが可能な試験室100と、試験室100の内部で試験用のマスク2を取り付け取り外しできる吸気部200と、マスクを通過して吸気部200へ流入した粒子状物質Pを捕集するための捕集部600とを有する。試験室100は、その内面が頂面部111と、底面部113と、側面部112とで形成され、試験室100の外側において頂面部111と底面部113とが空気配管114でつながれて、試験機1には頂面部111から底面部113へ向かう方向へ試験室100の空気を循環させる循環路L−1が形成される。空気配管114には、その空気を循環させるファン116と、粒子状物質Pを循環路L−1に供給するための供給部500とが設けられる。捕集部600は、粒子状物質Pを捕集可能なフィルタ603を着脱可能に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マスクによる花粉等の粒子状物質の捕集性能を評価するのに好適な試験機とその試験機を使用する試験方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気中に浮遊している粉塵や花粉等の粒子状物質を捕集するためのマスクの性能試験方法は、種々知られている。例えば、JIS T 8159(2006年版)「呼吸用保護具の漏れ率試験方法」(非特許文献1)では、NaCl粒子を8±4mg/mの割合で含む空気を試験室であるチャンバ内に送り込み、チャンバ内の試験者が着用しているマスクの内部と外部とにおけるNaCl粒子濃度を測定して、マスクの捕集性能を評価する。また、国民生活センターのホームページhttp://www.kokusen.go/jp/news/data/n−20040205_2.html(非特許文献2)には、花粉等の捕集を主目的にしたマスクの評価方法と評価結果とが掲載されている。その評価方法によれば、温度23℃、湿度約50%にコンディショニングされた気密性の高い6畳の広さの試験室において、空気を扇風機で攪拌しながら小麦粉10gを散布する。マスクを着用した被験者がその試験室に入り、マスクの内側と外側の空気を1リットルずつ採取して、それらの空気中における小麦粉の粒子数をRion Particle Counter KC−01Dで計測する。
【非特許文献1】JIS T 8159(2006年版)「呼吸用保護具の漏れ率試験方法」
【非特許文献2】国民生活センターのホームページhttp://www.kokusen.go/jp/news/data/n−20040205_2.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
JIS T 8159に規定の試験方法で採用されるNaCl粒子は、粒径の中央値が0.06〜0.1μmのものであって、試験室の頂部に設けられたダクトと分配器とを通ってチャンバ内へ流入する。試験室の内部における被験者の頭部近傍の空気流速は、0.12〜0.2m/sとなるように規定されている。一方、花粉症予防用の簡易な構造のマスクで捕集しようとするスギ花粉等の花粉は、その粒径が20〜40μmである。そして、沈降速度が小さい領域での球状物体の空気中における沈降速度Wは、ρgD/(18α)(ρ:花粉の比重、g:重力加速度、D:粒径、α:空気動粘度)に比例すると考えられる。したがって、JIS T 8159の試験方法で、NaCl粒子に代えて花粉またはそれと粒径が同程度である粒子状物質を使用すると、試験室の床に沈降する粒子が多くなり、少量の粒子状物質で効率よく試験を実施することが難しくなる。この傾向は、試験を継続する時間が長くなるほど顕著になる。また、この試験室で試験を繰り返し実施するときには、試験の終了毎に試験室を清掃しなければならないが、床や壁に付着した花粉を除去するのにかなりの手間がかかる。
【0004】
また、国民生活センターが採用した評価方法では、花粉に代わる粒子状物質として小麦粉が使用され、試験室内の空気を扇風機で攪拌することによってその小麦粉を浮遊させるのであるが、小麦粉の粒子は粒径が5μm程度であって、スギ花粉等の花粉の粒径よりもはるかに小さいから、この評価方法は、花粉等の捕集を主目的とするマスクを評価する方法として必ずしも適切ではないということが生じ得る。また、この評価方法の場合でも、床に沈降してしまった小麦粉等の粒子状物質は、扇風機によって再度浮遊させることが難しい。特に、試験室の隅部に沈降した粒子状物質は、一般的に再度浮遊させることが極めて難しい。したがって、この評価方法では、浮遊する粒子状物質を所要の濃度に設定する場合に、沈降する粒子状物質の量に見合う余分の粒子状物質を室内に供給しなければならず、粒子状物質の使用量が多くなりがちであるという問題を生じる。また、この評価方法の場合でも、試験を繰り返し実施するときに、床面に沈降した粒子状物質や壁面に付着した粒子状物質を取り除くのにかなりの手間がかかるという問題が生じかねない。
【0005】
このような従来の状況に対して、この発明が課題とするところの一つは、粒子状物質として花粉または花粉に相当する大きな粒径の物質を使用して、マスクにおけるその粒子状物質の捕集性能を評価することが可能な試験機の提供である。また、そのような粒子状物質を空気中に浮遊させることが容易な試験機の提供もこの発明の課題の一つである。さらにはまた、マスクの捕集性能を評価する試験を繰り返し実施することが容易な試験機の提供もこの発明の課題の一つである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明が対象とするのは、マスク捕集性能試験機とその試験機を使用するマスクの捕集性能試験方法である。そして、前記試験機に係るこの発明が特に対象とするのは、空気中に粒子状物質を浮遊させることができる試験室と、前記試験室において試験用のマスクを取り付け取り外しできるように形成されていて取り付けた前記マスクの内側から前記空気を吸引することができる吸気部と、前記吸気部に吸引した前記空気中の前記粒子状物質を捕集するための捕集部とを有する試験機である。
【0007】
かかる試験機において、この発明が特徴とするところは、以下のとおりである。前記試験室の内面には頂面部と前記頂面部に対向する底面部と前記頂面部と前記底面部との間に介在する側面部とが含まれる。前記頂面部と前記底面部とは前記試験室の外側に設けられた空気配管でつながれていて、前記試験室と前記空気配管とが前記空気を前記頂面部から前記底面部へ向かう方向へ循環させることが可能な循環路を形成している。前記空気配管には、前記空気を循環させるファンと、前記循環路の外部から前記循環路の内部に前記粒子状物質を供給することが可能な供給部とが設けられている。前記吸気部は、前記試験室の内部にある先端部分が前記マスクを取り付け取り外しできるように形成されている。前記捕集部は、前記吸気部の前記先端部分から前記試験室の外部へ延びて前記吸気部の一部を成している吸気路に設けられていて、前記吸気部における前記空気の吸引作用下に前記粒子状物質を捕集可能なフィルタを着脱可能に形成されている。
【0008】
この発明の好ましい実施態様の一つにおいて、前記試験室の前記底面部は、前記試験室の内径が前記試験室の上方から下方に向かうに従って次第に小さくなるように形成されていて、前記底面部の最下部から前記空気配管が延びている。
【0009】
この発明の好ましい実施態様の他の一つにおいて、前記底面部が逆円錐形に形成されている。
【0010】
この発明の好ましい実施態様の他の一つにおいて、前記試験室の前記側面部が円筒状に形成されている。
【0011】
この発明の好ましい実施態様の他の一つにおいて、前記試験室は、前記円筒状の側面部に対して接線方向からクリーニング用の圧搾空気を噴射可能なノズルを有している。
【0012】
この発明の好ましい実施態様の他の一つにおいて、前記試験室の前記頂面部は、前記試験室の上方から下方に向かって段階的に内径が大きくなるように形成されている。
【0013】
この発明の好ましい実施態様の他の一つにおいて、前記フィルタが袋状フィルタであって、前記袋状フィルタの内側において前記粒子状物質を捕集する。
【0014】
この発明の好ましい実施態様のさらに他の一つにおいて、前記吸気部の前記先端部分が人頭模型である。
【0015】
マスクの捕集性能試験方法に係るこの発明は、空気中に浮遊する粒子状物質を捕集可能なマスクの捕集性能試験方法において、請求項1〜8のいずれかに記載の試験機を使用することを特徴にしている。
【0016】
マスクの捕集性能試験方法に係るこの発明の好ましい実施態様の一つにおいて、前記試験機における吸気部の吸引量に対応する空気量を前記試験機に設けられた循環路に供給しながら前記試験機を運転する。また、この発明の好ましい実施態様の他の一つにおいて、前記空気量が前記試験機に設けられた空調機によってコンディショニングされた空気を使用して供給される。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係るマスク捕集性能試験機は、試験室と、試験室の外側にあって試験室の頂面部と試験室の底面部とをつなぐ空気配管とが空気の循環路を形成しているから、その空気を循環させることによって、試験中に循環路に供給される粒子状物質を空気に混合・分散させることが容易となり、試験時間が長くなっても粒子状物質の沈降を防ぐことができる。試験室に設けた吸気部にはマスクを取り付けることができ、そのマスクの内側へ吸引した空気に含まれる粒子状物質をフィルタで捕集し、そのフィルタの重量変化を測定すると、マスクの捕集性能を知ることができる。
【0018】
試験室の底面部の内径が上方から下方に向かうに従って次第に小さくなり、底面部の最下部から空気配管が延びている態様のこの発明では、試験室内の粒子状物質が空気配管に向かって流れることを容易にして、粒子状物質が試験室の床面に沈降しても、その床面に堆積することを防ぐことができる。また、底面部がそのようであれば、試験を繰り返し実施する場合でも、試験室のクリーニングに手間取ることがない。
【0019】
試験室の底面部が逆円錐形に形成されている態様および試験室の側面部が円筒状に形成されている態様のこの発明であれば、試験終了後における試験室のクリーニングが一層容易になる。
【0020】
試験室が、円筒状側面部に対して接線方向からクリーニング用の圧縮空気を噴出可能なノズルを有している態様のこの発明では、その圧縮空気の噴出によって、側面部に付着している粒子状物質を簡単に除去することができる。
【0021】
試験室の頂面部の内径が上方から下方に向かって段階的に内径が大きくなる態様のこの発明では、循環する空気の流速を空気配管の内部では高くして粒子状物質の沈降を防ぐ一方、その流速を試験室内では低くして、マスク近傍では自然な状態に近づけることができる。
【0022】
吸引した空気中の粒子状物質を捕集するためのフィルタとして袋状のものを使用する態様のこの発明では、そのフィルタを秤量するときに捕集した粒子状物質は飛散することがないので、フィルタの取り扱いが容易になる。
【0023】
吸気部の先端部分が人頭模型である態様のこの発明では、顔面に対するマスクの接触状態の良否を評価することが可能になる。
【0024】
この発明に係る試験機を使用したマスクの捕集性能試験方法によれば、捕集性能に関するマスクの相対的な評価の繰り返しが容易になる。かかる試験方法において、吸気部の空気吸引量に対応する空気量を循環路に供給しながら試験機を運転すると、循環路は過度の減圧状態になることがない。また、その運転において、空調機によってコンディショニングされた空気を使用すれば、循環路の温湿度条件を変化させることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
添付の図面を参照して、この発明に係るマスク性能試験機の詳細を説明すると、以下のとおりである。
【0026】
図1は、マスク性能試験機1の配管系統図である。この試験機1は、花粉症等を予防するために日常生活で着用される簡易な構造のマスク2における花粉等の粒子状物質の捕集性能を評価するのに好適なものである。そして、ここでいう簡易な構造のマスク2とは、主要な濾材が不織布やガーゼ等の織布、発砲プラスチックシート等であって、耳掛けひも等を使用して着用し、マスク周縁全体を顔面に強く密着させることはマスク着用の際の不可欠な条件ではないものを意味している。そのようなマスク2の典型的なものには、市販の使い捨てマスクがある。図1の試験機1では、試験室100を中央にして、その周囲に吸気部200、集塵機300、空調機400、粒子状物質供給部500、粒子状物質の捕集部600、圧縮空気供給部700が配置されている。
【0027】
試験室100は、図1において断面形状が示されており、その内面に頂面部111と、これに対向するロート状すなわち逆円錐形の底面部113と、これら両面部111,113間に介在する円筒状の側面部112とを有し、底面部113と頂面部112とが試験室100の外側において底面部113から頂面部111にまで延びる配管114を介して通気可能につながっている。配管114の途中には循環用ファン116が設けられており、これら試験室100と空気配管114と循環用ファン116とで、後記する混合空気を頂面部111から底面部113へ向かう矢印A方向において循環させることが可能な循環路L−1を形成している。試験室100の内部には、試験機1での試験に供せられるマスク2を取り付け取り外し可能な人頭模型3が置かれている。頂面部111には、配管114を流れる混合空気が試験室100へ進入するときにその流速を低下させるための拡大管117が取り付けられている。配管114には、常態において開放しているバルブAB−V2が取り付けられている。なお、図1において、常態というときには、試験機1がマスク2の性能を評価中の状態にあることを意味している。
【0028】
吸気部200は、その先端部分を形成する人頭模型3と、人頭模型3から試験室100の外へ延びて集塵機300につながる吸気路L−5と、吸気路L−5の途中に設けられた吸気ファン201と、吸気ファン201よりも上流側において吸気路L−5に設けられた風量センサ202と、風量センサ202と吸気ファン201との間に介在する風量監視コントローラ203および吸気ファン回転制御用インバータ204とを含んでいる。吸気路L−5は、人頭模型3に吸気可能に形成されている口と鼻孔(図示せず)とにつながっていて、吸気ファン201の作用によってマスク2の内側から試験室100内の混合空気を吸引することができる。吸引された後に吸気路L−5を流れる混合空気は、捕集部600と風量センサ202とを通過し、風量センサ202を通過するときの流速が測定される。流速の実測値は、コントローラ203において規定値と照合され、両者の差に基づいてインバータ204が吸気ファン201の回転を制御し、吸気路L−5における流速を規定値に近づける。混合空気は、吸気ファン201の下流側に設けられている集塵機300を経て大気中に解放される。
【0029】
捕集部600は、気密性のもので、筺体601と蓋602とからなり、蓋602にはその内面側に袋状のフィルタ603を着脱することができる。蓋602には試験室100から延びている吸気路L−5が進入し、その吸気路L−5がフィルタ603の内側に向かって開放している。筺体601からは、吸気路L−5が風量センサ202に向かって延びている。それゆえ、人頭模型3において吸引した混合空気は吸気路L−5を通ってフィルタ603へ進入し、そこで濾過されながら筺体601の内側へ進み、さらに吸気路L−5を通って風量センサ202へと向かう。そのフィルタ603では、空気に混合されている粒子状物質Pを高い捕集率でとらえることのできる素材で形成されている。フィルタ603は、試験機1における試験の前後において重量を測定することによって、捕集した粒子状物質の量を知ることができる。
【0030】
空調機400は、送気路L−4を介して、試験室100と粒子状物質供給部500とにつながっている。試験機1における試験開始に先立って、空調機400から温湿度を調整した空気を矢印C方向へ送り出し、試験室100や供給部500の温湿度条件を整えることができる。送気路L−4に設けられたバルブA−V11やV9,V12は常態においては閉じており、空気を送り出すときに開放される。試験室100に送られた空気は排気路L−6aを通り、集塵機300を経て大気に解放される。供給部500へ送られた空気は排気路L−6cを通り集塵機300へ向かう。
【0031】
粒子状物質供給部500は、マスク2の捕集対象である花粉や花粉の代替物等の粒子状物質Pを循環路L−1の空気に対して所要量供給するためのもので、そのための計量器501や粒子状物質Pが塊状になることを防ぐために必要に応じて使用されるバイブレータ502等を備えている。供給部500からは、循環路L−1の空気配管114につながる供給管L−2が延びている。供給管L−2には、分離機503が設けられている他に、バルブV15,AB−V5,AB−V6,AB−V7が設けられており、また分離機503とバルブAB−V5との間に圧縮空気供給部700から延びる送気管L−3aがつなげられている。分離機503からは、排気管L−7が延びており、その排気管L−7には、排気ファン506とバルブV14,A−V9とが取り付けられている。供給部500から粒子状物質Pを空気配管114へ導くには、供給管L−2のバルブV15,AB−V5と、排気管L−7のバルブV14,A−V9と、送気管L−3aのバルブV13,A−V10とを開放し、送気管L−3aに圧縮空気を送りながら、排気ファン506を回転させて供給部500から分離器503に向かう矢印B方向への気流を生じさせて所要量の粒子状物質Pを空気輸送する。分離器503では、粒子状物質Pを圧縮空気から分離する。しかる後に、供給管L−2におけるバルブAB−V6とAB−V7とを交互に所要時間だけ開放して、粒子状物質Pを間欠的に少量ずつ循環路L−1の空気配管114へ流入させる。循環路L−1では、循環ファン116を回転させて、空気を循環させている間に空気と粒子状物質Pとを混合し、所要の粒子濃度を有する混合空気を得る。供給管L−2におけるバルブAB−V6とAB−V7とを交互に開放して循環している空気に対して粒子状物質Pを少量ずつ流入させることは、粒子状物質Pを均一に分散させる上において好ましい。また、そのようにバルブAB−6VとAB−V7とを交互に開放することによって、徒に多くの圧縮空気が循環路L−1へ進入することを防ぐことができる。供給部500は、排気管L−6aを介して集塵機300につながっているから、空調機400から供給部500へ流入した空気は、集塵機300を経て大気中に排出することができる。
【0032】
圧縮空気供給部700は、減圧弁701とフィルタ702と、送気管L−3とを有し、その送気管L−3からは、送気管L−3a,L−3b,L−3c,L−3dが分枝している。送気管L−3aは供給配管L−2にまで延びている。送気管L−3bは、試験室100にまで延びる複数のクリーニング用配管711,712,713,714,715,716,717に分枝している。これらクリーニング用配管711〜717のそれぞれには、常態において閉じているバルブA−V1〜A−V7とV1〜V7とが取り付けられている。クリーニング用配管711〜717のうちの配管711と717とは拡大管117と底面部113にまで延びていて、それらの内側に圧縮空気を噴出することができる。配管712〜716は、側面部112にまで延びていて、側面部112に対して接線方向から圧縮空気を噴出することができるノズル(図2,3,4参照)を有している。送気管L−3cは、集塵機300につながっており、送気管L−3dにはエアガン718が取り付けられている。これら送気管L−3cとL−3dとにおけるバルブV18とV17とは常態において閉じている。
【0033】
図1の配管系統図では、上記に加えて、試験室100に、排気管L−7,L−8および吸気管L−9が取り付けられている。排気管L−7は、常態において閉じているバルブV11,A−V8と、フィルタ118とを有し、空調機400からの空気を外へ逃がすときに、必要に応じて使用される。排気管L−8は、頂面部111から外へ延びていて、常態において閉じているバルブV8を有し、試験室100を大気に開放する必要があるときに適宜使用される。吸気管L−9は、常態において閉じているバルブAB−V1と、フィルタ119とを有し、試験室100をクリーニングするときに、濾過された空気を試験室100に供給することができる。排気管L−7と配管716との間に延びている配管716aは、配管716の圧縮空気を排気管L−7の途中に吹き込むことによって、排気管L−7の内部に沈降している粒子状物質Pを試験室100に送るためのものである。ただし、試験装置1は、排気管716aを設置することなく運転することも可能である。
【0034】
図1の配管系統図に基づく試験機1は、例えば次の手順によって運転される。
【0035】
手順1:試験室100の扉121(図2参照)を開いて試験室100に置かれている人頭模型3に試験すべきマスク2を取り付けた後に、扉121を閉じて試験室100を密閉する。
【0036】
手順2:袋状のフィルタ603を秤量した後に、捕集部600の蓋602に取り付けて、その蓋602で筺体601を密閉する。粒子状物質Pの捕集量に高い精度を求めるときには、空調機400から供給される空気の温湿度と同じ温湿度でコンディショニングしたフィルタ603を使用することが好ましい。
【0037】
手順3:空調機400を運転して所定の温湿度、例えば23℃、R.H.50%の空気を試験室100へ送り出し、循環路L−1を循環させて、循環路L−1をコンディショニングする。このときに、必要であるならば、試験室100におけるバルブA−V5,V−5,AB−V3,V8のいずれかを開放して、試験室100の空気を外へ逃がすことができる。
【0038】
手順4:循環ファン116を運転して、循環路L−1で空気を循環させる一方、粒子状物質供給部500から所定量の粒子状物質Pを分離機503にまで空気輸送する。続いて、バルブAB−V6とAB−V7とを交互に、例えば3〜5秒間隔で約30秒間交互に開閉して、粒子状物質Pを空気配管114へ供給して、粒子状物質Pが分散し、浮遊している混合空気を得る。
【0039】
手順5:吸気部200における吸気ファン201を運転して、マスク2の内側にある人頭模型3の鼻に形成された吸気口(図示せず)から混合空気を吸引する。吸気ファン201は、風量が例えば400〜1700cc/secの範囲の値となるように、センサ202と、コントローラ203と、インバータ204とを使用して制御する。混合空気の吸引を一定の時間、例えば360秒続けたなら、バルブV15,AB−V5を閉じておいて送気管L−3Aからの圧縮空気を分離機503よりも下流側に位置する供給管L−2の内部に10秒間程度吹き込んで、供給管L−2に残留している粒子状物質Pを循環路L−1に送ることが好ましい。さらに吸気ファン201の運転を続けて、吸気ファン201の総運転時間が所定の時間、例えば420秒に達したなら、吸気ファン201を停止する。
【0040】
手順6:捕集部600からフィルタ603を取り出して秤量する。
【0041】
手順7:人頭模型3からマスク2を外して試験室100を再び密閉する。集塵機300を運転しながら、圧縮空気供給部700からの圧縮空気をクリーニング用配管711〜717を使い、試験室100の拡大管117や側面部112、底面部113に対して吹き付けて、試験室100に残留している粒子状物質Pを排出する。このときに、循環ファン116も運転して、空気配管114の内部に残留している粒子状物質Pも排出する。
【0042】
このように運転する試験機1では、人頭模型3にマスク2を取り付けて所定の時間運転することで、マスク2を通過した粒子状物質Pと、人頭模型3とマスク2との間隙に進入した粒子状物質Pとをフィルタ603によって捕集することができる。試験前後におけるフィルタ603の重量差である捕集量の大小は、試験した複数のマスク2の間の捕集性能の良否を判断する目安となる。その捕集量が少ないことは、マスク2が粒子状物質に対する濾材として優れていることと、人頭模型3に対するフィット性に優れていることとの証明になる。花粉症予防のために日常生活で使用される簡易な構造のマスク2は、一般的にマスク周縁部を顔面に対して強く密着させるための手段を必ずしも有しておらず、着用者の顔面との間に多少の間隙が生じることを避け難い。それゆえ、マスク2の捕集性能を評価するのに、マスク2と人頭模型3との間隙から進入する粒子状物質Pを考慮に入れることは有意義である。ただし、試験機1において、マスク2と人頭模型3との間隙を粘着テープ等によって閉じてマスク2を評価することも可能である。また、マスク2が大人用のものであるか、小人用のものであるかによって、人頭模型3の大きさを選ぶべきことはいうまでもない。さらにはまた、マスク2を人頭模型3とは異なる形状に作られた吸気部200の先端部分に取り付けて評価することも可能である。
【0043】
試験機1において、花粉症予防用のマスク2を評価するときには、スギ花粉に代わる粒子状物質として、例えば石松子を使用することができる。石松子は入手が容易なもので、その粒径が30〜40μmであってスギ花粉のそれに近似している。重量は約1.05g/ccであって、スギ花粉の重量(約0.70g/cc)よりもやや重い。手順4における粒子状物質として石松子を使用するときには、試験室100における内容積約819,000ccと空気配管114における内容積約17,000ccとからなる内容積が約836,000ccの循環路L−1に対して、例えば3gの石松子を流入させる。また、試験機1の循環路L−1において、空気配管114の管内風速は、例えば9m/secに設定し、拡大管117を使用して試験室100の内部ではこの風速を例えば4cm/secにまで低下させ、石松子が自然な環境に近い状態でゆっくりと沈降する間に人頭模型3で混合空気を吸引することが好ましい。その人頭模型3を有する吸気部200における混合空気の吸引量は、適宜の値に設定することが可能である。例えば、大人の通常の呼吸時における吸引速度は400cc/sec程度であるが、マスク2に十分な性能を期待する意味において、吸引速度を1700cc/sec程度に設定する。捕集部600における袋状のフィルタ603は、石松子を確実に捕集することができるように、例えば、87g/mの秤量と、0.412KPa・s/mの通気抵抗値とを有する有効表面積が約71.5cmの不織布製のものが使用されている。通気抵抗値は、カトーテック株式会社(京都市南区西九条唐戸町20番地)の製造によるKES−F8−AP−1通気性試験機を使用して測定される値である。マスク2を通過した石松子を袋状のフィルタ603で捕集しておくと、フィルタ603を秤量するときなどに石松子が飛散することを防止できるので秤量精度が向上する。
【0044】
また、図示例の試験機1では、混合空気を循環させているので、試験を長時間続けていると、粒子状物質Pの濃度が吸気部200における吸引量に対応して漸減するが、粒子状物質の沈降が原因となってその濃度が大きく変化するということはない。その試験室100は、水平方向の断面形状が円形であることによって、試験中に粒子状物質Pが試験室100の隅部に沈降して堆積するというような問題を生じることがない。試験室100はまた、底面部113が逆円錐形のロート状を成していることによって、粒子状物質Pがたとえその底面部113に沈降しても、空気配管114へ容易に流入するから、この点においても結果的に混合空気における粒子状物質Pの沈降を防ぐことができる。したがって、試験機1を使用するこの発明の試験方法によれば、粒子状物質Pを空気中に分散させたり、浮遊させたりすることが容易になるので、毎回の試験で粒子状物質Pを徒に多く使用することがない。さらに、クリーニング用配管712〜716では、円筒状の側面部112に対して接線方向からクリーニング用の圧縮空気が噴出するので、側面部112に付着している粒子状物質Pを除去することが容易である。
【0045】
図2,3,4は、試験室100の正面の外観図と、側面の外観図と、図2のIV−IV線切断面を示す図である。図2における試験室100の正面には透明なガラスまたはプラスチックで形成された扉121が取り付けられている。また、拡大管117と側面部112との外面部分には、クリーニング用配管711,712,713,714とこれらの配管に接続するノズル711a,712a,713a,714aとが取り付けられている。図3における試験室100の側面部112と底面部113との外面部分には、クリーニング用配管715,716,717とこれらの配管部に接続するノズル715a,716a,717aとが取り付けられている。これらのノズル711a〜717aは、先端部分が下になるようにして水平面に対して約10度傾斜して取り付けられている。図4は、ノズル713aの先端部分713bを示している。その先端部分713bは、側面部112に沿って、好ましくは側面部112に対して接線方向から圧縮空気を噴出することができるように、側面部112にのぞいている。ノズル713a以外のノズル711a,712a,714a,715a,716a,717aの先端部分も同様に試験室100の内部にのぞいている。なお、図2,3,4の試験室100では、扉121、クリーニング用配管711〜717以外のものの図示が省略されている。
【0046】
図示例の試験機1において、試験室100は水平方向の断面形状を円形にすることが好ましいものではあるが、その断面形状を多角形にしてこの発明を実施することも可能である。試験室100はまた、図示例のクリーニング用配管711〜717やノズル711a〜717aに代わるクリーニング手段を有するものであってもよい。循環路L−1に粒子状物質Pを供給するには、図示例の手段に代わる各種の手段を使用することが可能である。粒子状物質Pを手操作によって循環路L−1へ投入することは、その手段の一例である。吸気部200についても、図示例とは異なる態様のもの、例えば袋状のフィルタ603に代えて、1枚のシート状フィルタを使用することが可能である。さらには、集塵機300や空調機400、圧縮空気供給部700、これらに付随する配管等を図示例とは異なる態様のものに代えることが可能である。試験機1を運転する手順1〜7は、手順の一例であって、これらに適宜の変更を加えたり、手順の一部を省いたりして試験機1を運転することも可能である。
【0047】
この発明に係る試験機1は、吸気部200の作用によって、循環路L−1の内圧が次第に低下する。1回の試験において、その低下の度合いが試験結果に影響を及ぼしかねない場合には、その低下の度合いに見合うように、すなわち循環路L−1を減圧状態から回復させることができるように、かつ、循環路L−1の温湿度条件を変化させることがないように、例えば空調機400によってコンディショニングされ、フィルタ603よりも捕集性能の高いフィルタで濾過された清浄空気を循環路L−1に供給しながら、試験を実施することが好ましい。いうまでもないことではあるが、試験機1では、マスク2以外の通気性濾過材料についての濾過性能試験を実施することもできる。その濾過性材料の形状や性状に応じて、人頭模型3を適宜形状の取り付け具に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
この発明によれば、空気に粒子状物質を混合・分散させることが容易なマスク捕集性能試験機の製造と、その試験機を使用したマスクの捕集性能試験の実施とが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】試験機の配管系統図。
【図2】試験室の正面図。
【図3】試験室の側面図。
【図4】図2のIV−IV線切断面を示す図。
【符号の説明】
【0050】
1 試験機
2 マスク
100 試験室
111 頂面部
112 側面部
113 底面部
200 吸気部
600 捕集部
603 フィルタ
L−1 循環路
P 粒子状物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中に粒子状物質を浮遊させることができる試験室と、前記試験室において試験用のマスクを取り付け取り外しできるように形成されていて取り付けた前記マスクの内側から前記空気を吸引することができる吸気部と、前記吸気部に吸引した前記空気中の前記粒子状物質を捕集するための捕集部とを有するマスク捕集性能試験機であって、
前記試験室の内面には頂面部と前記頂面部に対向する底面部と前記頂面部と前記底面部との間に介在する側面部とが含まれ、前記頂面部と前記底面部とが前記試験室の外側に設けられた空気配管でつながれていて、前記試験室と前記空気配管とが前記空気を前記頂面部から前記底面部へ向かう方向へ循環させることが可能な循環路を形成しており、
前記空気配管には、前記空気を循環させるファンと、前記循環路の外部から前記循環路の内部に前記粒子状物質を供給することが可能な供給部とが設けられており、
前記吸気部は、前記試験室の内部にある先端部分が前記マスクを取り付け取り外しができるように形成されており、
前記捕集部は、前記吸気部の前記先端部分から前記試験室の外部へ延びて前記吸気部の一部を成している吸気路に設けられていて、前記吸気部における前記空気の吸引作用下に前記粒子状物質を捕集可能なフィルタを着脱可能に形成されていることを特徴とする前記試験機。
【請求項2】
前記試験室の前記底面部は、前記試験室の内径が前記試験室の上方から下方に向かうに従って次第に小さくなるように形成されていて、前記底面部の最下部から前記空気配管が延びている請求項1記載の試験機。
【請求項3】
前記底面部が逆円錐形に形成されている請求項1または2記載の試験機。
【請求項4】
前記試験室の前記側面部が円筒状に形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の試験機。
【請求項5】
前記試験室は、前記円筒状の側面部に対して接線方向からクリーニング用の圧縮空気を噴出可能なノズルを有している請求項4記載の試験機。
【請求項6】
前記試験室の前記頂面部は、前記試験室の上方から下方に向かって段階的に内径が大きくなるように形成されている請求項1〜5のいずれかに記載の試験機。
【請求項7】
前記フィルタが袋状フィルタであって、前記袋状フィルタの内側において前記粒子状物質を捕集する請求項1〜6のいずれかに記載の試験機。
【請求項8】
前記吸気部の前記先端部分が人頭模型である請求項1〜7のいずれかに記載の試験機。
【請求項9】
空気中に浮遊する粒子状物質を捕集可能なマスクの捕集性能試験方法であって、
請求項1〜8のいずれかに記載の試験機を使用することを特徴とする前記試験方法。
【請求項10】
前記試験機における吸気部の吸引量に対応する空気量を前記試験機に設けられた循環路に供給しながら前記試験機を運転する請求項9記載の試験方法。
【請求項11】
前記空気量が前記試験機に設けられた空調機によってコンディショニングされた空気を使用して供給される請求項10記載の試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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