説明

マスク

【課題】本発明は、剛性に優れ、容易に変形し難く、しかも変形させた場合の復元性(変形しても元の形に戻る性質)に優れる、鼻骨などの起伏が大きい部分の隙間をも埋め得る形状保持性に優れる形状保持材を備えてマスクを開発することを目的とする。
【解決手段】マスク本体の少なくとも一部に、延伸されたポリエステル樹脂からなる線状物を顔の凹凸に合うように加熱変形させてなる変形後の復元率が85%以上の形状保持材を具備してなることを特徴とするマスクに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクを装着した際に、鼻骨から頬骨にかけて隙間なくフィットし、花粉、粉塵、ウイルスの侵入を防止することができるマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のマスクは、マスク本体の両端に取り付けられたゴム材である掛け紐を両耳に掛け、その掛け紐の弾力性のみにより、マスク本体を顔に密着させていた。しかしながら、顔の形状、特にマスク本体が覆う鼻及び口の部分は凹凸に富むから、マスク本体の掛け紐のみではマスク本体とこれが覆う鼻及び口の部分との間に掛け紐の弾力性により隙間が出来、その隙間から外気が侵入して花粉症の人ではくしゃみは止まらない結果となる。逆に吐く息が隙間から漏れたりして、メガネを掛けている人はレンズが曇り、病院の手術室ではその隙間から細菌が出入りして、マスクとしての役割が減少する虞がある。
【0003】
マスク本体を顔に密着させる手段として、例えば、マスク上端に形状保持材として、7〜16倍に延伸して塑性変形性を180度及び90度折り曲げによる戻り角度を20度以下になるようにしたポリエチレン延伸物からなる形状保持材を用いる方法(特許文献1:実用新案登録第3045995号公報)、あるいは、圧延倍率5〜16倍、延伸倍率1.3〜2.5倍及び総延伸倍率10〜40倍のポリオレフィン系樹脂からなる形状保持性材料を用いる方法(特許文献2:特開2005−35148号公報)などが提案されている。
【0004】
しかしながら、ポリエチレンなどの延伸物は、手などで変形した後の形状保持性はあるものの、時間の経過とともに、幾分変形が回復して元の形(直線状)に戻る傾向にあり、鼻骨などの起伏が大きい部分の隙間をなくすには不十分であることが判った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−35148号公報
【特許文献2】実用新案登録第3045995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、剛性に優れ、容易に変形し難く、しかも変形させた場合の復元性(変形しても元の形に戻る性質)に優れる、鼻骨などの起伏が大きい部分の隙間をも埋め得る形状保持性に優れる形状保持材を備えてマスクを開発することを目的として、種々検討した結果、延伸されたポリエステル樹脂からなる線状物を加熱変形することにより、剛性に優れ、しかも変形させた場合の復元性に優れる形状保持材となることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、マスク本体の少なくとも一部に、延伸されたポリエステル樹脂からなる線状物を顔の凹凸に合うように加熱変形させてなる形状保持材を具備してなるマスクであって、当該形状保持材が、下記式(1)で表される復元率が85%以上であることを特徴とするマスクを提供することにある。
【0008】
復元率=100%−〔(元の高さ−変形回復後の高さ)/10mm〕×100%・・式(1)
元の高さ(mm):形状保持材の凸部(鼻高部)のトップ、
変形回復後の高さ(mm):凸部のトップ(元の高さ:mm)を、23℃で、変計量10mmで5秒間押さえた後、応力を開放し、30秒後の高さ。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマスクは、マスク本体の一部に、剛性に優れ、容易に変形し難く、復元性(変形しても元の形に戻る性質)に優れるポリエステル樹脂からなる形状保持材が付設されているので、マスクと鼻骨などの顔面との隙間をなくすことができ、しかも、長時間装着しても、体温で変形することもなく、ずれ落ちに難い為、花粉、粉塵、ウイルスの侵入を防止できる。又、装着時のフィット感から安心感が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るマスクの斜視図である。
【図2】型枠の正面図及び側面図である。
【図3】マスクの形状保持材が挿入された部と顔の隙間の測定箇所を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ポリエステル樹脂>
本発明のマスクに用いる形状保持材の素材となるポリエステル樹脂は、ポリエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの多価アルコールとテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などのジカルボン酸から得られるポリエステル樹脂、あるいは乳酸などのヒドロキシ酸から得られるポリ乳酸などのポリエステル樹脂で、結晶性の樹脂である。これらポリエステル樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。
【0012】
ポリエステル樹脂の分子量は、溶融押出し成形してフィラメント、テープなどの線状物とし得る限り、とくに限定はされず、市販のポリエステル樹脂を用い得る。
【0013】
これら、ポリエステル樹脂の中でも、PET、PBT、PLAが、押出し成形性に優れるので、好ましく、とくにPETが好ましい。
【0014】
<形状保持材>
本発明に係る形状保持材は、前記ポリエステル樹脂から得られる延伸されたポリエステル樹脂からなる線状物を顔の凹凸に合うように加熱変形させてなる形状保持材であって、下記式(1)で表される当該形状保持材の凸部を、23℃で、変計量10mmで変形させた際の復元率が85%以上、好ましくは90〜99%である形状保持材である。
【0015】
復元率=100%−〔(元の高さ−変形回復後の高さ)/10mm〕×100%・・式(1)
元の高さ(mm):形状保持材の凸部(鼻高部)のトップ、
変形回復後の高さ(mm):凸部のトップ(元の高さ:mm)を変計量10mmで5秒間押さえた後、応力を開放し、30秒後の高さ。
【0016】
本発明に係る形状保持材は、前記ポリエステル樹脂を溶融押出して、ストランドを得た後、延伸、好ましくは80〜100℃の温度で、3〜5倍に延伸した後、冷却、好ましくは40〜50℃の温度で冷却して得た非晶状態あるいは低結晶状態の線状物を顔面の凹凸に合うように、加熱変形して結晶化させることにより得られる。
【0017】
非晶状態あるいは低結晶状態のポリエステル樹脂の線状物を加熱変形して結晶化させる際の温度は、線状物の結晶化度が増す温度であれば、とくに限定はされないが、通常、55℃以上〜ポリエステル樹脂の溶融温度未満であり、例えば、ポリエステル樹脂としてPETを用いる場合は、55〜160℃、好ましくは60〜130℃で、1〜5秒間行うことにより、より結晶化度を増すことができるので、得られる形状保持材は剛性が増すので、形状保持性に優れ、容易に変形し難く、しかも弾性回復性(変形回復性)に優れる。
【0018】
本発明に係る形状保持材の形状は、マスクの用途に応じて適宜決め得るが、通常、フィラメント、テープ、棒状、チューブなどの形状を有する。
【0019】
<マスク本体>
本発明に係るマスクのマスク本体は、マスクとして使用されている素材であればとくに限定はされず、織布、不織布、ガーゼまたは通気性紙からなる。
【0020】
マスク本体に使用される織布、不織布は、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル;6ナイロン、66ナイロンなどのポリアミド;など種々公知の熱可塑性樹脂を用いて、種々公知の方法で得られる織布、不織布である。
【0021】
これら素材の中でも、不織布が好ましく、とくにポリプロピレンスパンボンド不織布が剛性、通気性に優れるので好ましい。
【0022】
<マスク>
本発明のマスクは、前記マスク本体の少なくとも一部に、延伸されたポリエステル樹脂からなる線状物を顔の凹凸に合うように加熱変形してなる形状保持材を具備してなる。例えば、具体的には、図1に示すように、耳掛け紐3を有するマスク1において、マスク本体2の上辺の鼻に当る箇所に形状保持材4を具備してなる。
【0023】
マスク本体に、前記形状保持材を装着する方法としては、予め、ポリエステル樹脂の線状物を顔面の凹凸に合うように、加熱変形して得た形状保持材を用意した後、マスク本体に装着してもよいが、マスク本体にポリエステル樹脂の線状物を装着させた後、当該線状物を顔面の凹凸に合うように、加熱変形して形状保持材とする方法が、マスク本体に装着し易いので好ましい。
【0024】
マスク本体へ線状物あるいは形状保持材を装着する方法としては、マスク本体の形状保持性を必要とする箇所、例えば、マスク本体上部の鼻に当たる箇所に線状物あるいは形状保持材を挿入あるいは貼付する方法を例示できる。マスク本体の素材として、熱可塑性樹脂から得られる不織布、例えば、ポリプロピレンスパンボンド不織布を用いる場合は、ポリエステル樹脂からなる線状物あるいは形状保持材とポリプロピレンスパンボンド不織布とを熱融着することにより、線状物あるいは形状保持材がマスク本体中でのずれを防止できる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
なお、実施例及び比較例における物性値等は、以下の方法により測定した。
【0027】
[実施例1]
ポリエステル樹脂として、三井化学株式会社製のポリエチレンテレフタレート(商品名
三井PET J055;IV:1.4)を用意し、幅3mm、長さ20mmの口金を備えた溶融押出成形機を用い、押出温度:280℃でテープ状物を押出し、60℃の温水で冷却後、98℃の熱水で4倍延伸した後、50℃の温風下でアニールを行い、幅3.5m
m、厚み0.45mmの延伸線状物を得た。
【0028】
次いで、ポリプロピレン製の「スパンボンド不織布/メルトブローン不織布/スパンボンド不織布」の3層の合計目付:60g/m2からなる175×95mmのマスク本体の
上部に、上記延伸線状物を長さ:90mmにカットしたもの挿入した。
【0029】
次いで、前記延伸線状物を挿入したマスク本体の上部を、図2の正面図a及び側面図bに示す、上型5および下型6からなる型枠7の下型6を加熱ヒーター8で70℃に設定し、上型および下型間で5秒間挟み、鼻梁に合うように、加熱変形して、形状保持材を具備したマスクを作製した。
【0030】
作製したマスクを男女5名づつのパネラーに着用してもらい、着用後30分間経過した時に、図3に示す顔の各部位〔頬:A部、眼下:B部、鼻高部:C部〕と形状保持材を具備したマスク本体の上部との隙間を測定した。表1に、パネラー10名で測定した各部位の隙間の平均値を示す。
【0031】
上記マスクから、加熱変形させた線状物である形状保持材を抜き出し、23℃で、鼻高部のトップ(元の高さ:mm)を変計量10mmで5秒間押さえた後、応力を開放し、30秒後の高さ(変形回復後の高さ:mm)を測定し、前記式(1)で、変形量10mmに対しての復元率を求めた。
評価結果を表1に示す。
【0032】
[比較例1]
実施例1で用いたポリエチレンテレフタレートの延伸線状物に替えて、90度曲げ後の戻り角度が9度のポリエチレン延伸物(三井化学株式会社製 商品名 テクノロートH20000)を用いる以外は、実施例1と同様に行いマスクを作製した。得られたマスクを用い、実施例1と同様な方法で、マスクを評価した。評価結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のマスクは、マスクと鼻骨などの顔面との隙間をなくすことができ、しかも、長時間装着してもずれ落ちに難い為、花粉、粉塵、ウイルスの侵入を防止用として、好適に使用し得る。
【符号の説明】
【0035】
1 マスク
2 マスク本体
4 形状保持材
5 上型
6 下型
7 型枠
8 ヒーター
9 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク本体の少なくとも一部に、延伸されたポリエステル樹脂からなる線状物を顔の凹凸に合うように加熱変形させてなる形状保持材を具備してなるマスクであって、当該形状保持材が、下記式(1)で表される復元率が85%以上であることを特徴とするマスク。
復元率=100%−〔(元の高さ−変形回復後の高さ)/10mm〕×100%・・式(1)
元の高さ(mm):形状保持材の凸部(鼻高部)のトップ、
変形回復後の高さ(mm):凸部のトップ(元の高さ:mm)を、23℃で、変計量10mmで5秒間押さえた後、応力を開放し、30秒後の高さ。
【請求項2】
線状物の加熱変形を、60℃以上〜ポリエステル樹脂の融点未満の温度で行うことを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリ乳酸のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載のマスク。
【請求項4】
マスク本体が、不織布であることを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項5】
不織布が、ポリプロピレンスパンボンド不織布であることを特徴とする請求項4に記載のマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−92282(P2011−92282A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246842(P2009−246842)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】