説明

マスタシリンダ

【課題】ブレーキ操作のフィーリングを向上する。
【解決手段】マスタシリンダ14は、シリンダハウジング60と、シリンダハウジング60内に摺動自在に収容され、シリンダハウジング60内に第1液室78を形成する第1ピストン62と、第1ピストン62の外周に設けられ、作動油を第1大気圧室73内にシールする第1カップリング72と、第1カップリング72よりも第1大気圧室73側に設けられ、シリンダハウジング60との間に摺動摩擦を発生させ、且つ第1カップリング72よりもシール性が低い摩擦部材302とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の電子制御ブレーキシステムに設けられて、ブレーキ操作部材の操作に応じた液圧を発生させるマスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の制動力を制御するブレーキ制御装置として、たとえば特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1には、作動方向と作動解除方向との間に大きなヒステリシスを有する液圧倍力装置を備えたブレーキ液圧倍力システムが開示されている。
【0003】
また、近年では、車両における制動装置として、車両の走行状況に応じて最適な制動力を車両に与えるよう各車輪の制動力を制御する電子制御ブレーキシステムが多く採用されている(たとえば、特許文献2参照)。このような電子制御ブレーキシステムでは、圧力センサによって各車輪のホイールシリンダ圧を監視し、ホイールシリンダ圧が運転者のペダル操作量に基づいて演算される目標油圧になるように、電磁流量制御弁を制御している。
【特許文献1】特開平11−286269号公報
【特許文献2】特開2006−1379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、バキュームブースタやハイドロブースタなどの倍力装置を用いたコンベンショナルなブレーキシステムの場合、キャリパにおけるホイールシリンダとピストンの摺動摩擦が作動油を介してブレーキペダルに伝達され、踏力ヒステリシスを発生させている。
【0005】
しかしながら、電子制御ブレーキシステムの場合、マスタシリンダがホイールシリンダと切り離されているため、キャリパにおける摺動摩擦がブレーキペダルに伝達されない。電子制御ブレーキシステムでは、ストロークシミュレータを用いてペダル反力を創出しているが、ストロークシミュレータは、主にばねの組み合わせで構成されているため、コンベンショナルなブレーキシステムと比較して良好な踏力ヒステリシスを実現できず、運転者は、ブレーキ操作におけるペダルフィーリングに違和感を伴う場合がある。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブレーキ操作におけるペダルフィーリングを向上することのできるマスタシリンダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のマスタシリンダは、ブレーキ操作手段の操作に応じて作動油を送り出すマスタシリンダであって、シリンダハウジングと、シリンダハウジング内に摺動自在に収容され、シリンダハウジング内に液室を形成するピストンと、ピストンの外周に設けられ、作動油を液室内にシールするシール部材と、シール部材よりも液室側に設けられ、シリンダハウジングとの間に摺動摩擦を発生させ、シール部材よりもシール性が低い摩擦部材とを備える。
【0008】
この態様によると、作動油を液室内にシールするシール部材とは別に、摩擦部材を設けたことにより、ペダル踏み込み時とペダル戻し時のヒステリシスを増大させることができる。その結果、ブレーキ操作におけるペダルフィーリングを向上することができる。
【0009】
また、摩擦部材により作動油の流れが阻害されると、シール部材と摩擦部材との間に残留したエアのエア抜き性が低下するおそれがあるが、本態様では、摩擦部材のシール性をシール部材よりも低く構成しているので、摩擦部材が作動油の流れを阻害することがない。従って、摺動摩擦の創出とエア抜き性の両立が可能となるので、好適にブレーキ操作におけるペダルフィーリングを向上することができる。
【0010】
摩擦部材は、該摩擦部材前後の作動油の流れを許容する油路を備えてもよい。この油路は、摩擦部材の本体部より径方向に突出する突出部により形成されてもよい。この場合、突出部の数を調整することにより、ヒステリシス量を変化させることができる。簡易な構成でヒステリシス量の制御が可能となるので、設計管理がし易く、製造コストを低減できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ブレーキ操作におけるペダルフィーリングを向上することのできるマスタシリンダを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマスタシリンダ14を備えたブレーキ制御装置の構成を示す図である。図1に示すブレーキ制御装置10は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、運転者によるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル12の操作量に基づいて車両の4輪のブレーキを最適に制御するものである。
【0014】
ブレーキペダル12は、運転者による踏み込み操作に応じて作動油を送り出すマスタシリンダ14に接続されている。マスタシリンダ14の詳細な構成については、後述する。ブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。
【0015】
マスタシリンダ14の第1出力ポート14aには、運転者によるブレーキペダル12の踏力に応じたペダルストロークを創出するストロークシミュレータ24が接続されている。ストロークシミュレータ24の詳細な構成については後述する。
【0016】
マスタシリンダ14とストロークシミュレータ24とを接続する流路の中途には、シミュレータカット弁23が設けられている。シミュレータカット弁23は、通常時通電することにより開弁し、異常時等非通電時に閉弁する常閉型の電磁開閉弁である。また、マスタシリンダ14には、作動油を貯留するためのリザーバタンク26が接続されている。
【0017】
マスタシリンダ14の第1出力ポート14aには、右前輪用のブレーキ油圧制御管18が接続されており、ブレーキ油圧制御管18は、右前輪に対して制動力を付与する右前輪用のホイールシリンダ20FRに接続されている。また、マスタシリンダ14の第2出力ポート14bには、左前輪用のブレーキ油圧制御管16が接続されており、ブレーキ油圧制御管16は、左前輪に対して制動力を付与する左前輪用のホイールシリンダ20FLに接続されている。
【0018】
右前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、右電磁開閉弁22FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、左電磁開閉弁22FLが設けられている。これらの右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FLは、何れも、非通電時に開状態にあり、通電時に閉状態に切り換えられる常開型電磁弁である。
【0019】
また、右前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管16の途中には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。
【0020】
ブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出されるが、これらの右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏み込み操作力(踏力)を求めることができる。このように、ストロークセンサ46の故障を想定して、マスタシリンダ圧を2つの圧力センサ48FRおよび48FLによって監視することは、フェイルセーフの観点からみて好ましい。なお、以下では適宜、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLを総称して、マスタシリンダ圧センサ48という。
【0021】
一方、リザーバタンク26には、油圧給排管28の一端が接続されており、この油圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。オイルポンプ34の吐出口は、高圧管30に接続されており、この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。本実施の形態では、オイルポンプ34として、モータ32によってそれぞれ往復移動させられる2体以上のピストン(図示せず)を備えた往復動ポンプが採用される。また、アキュムレータ50としては、作動油の圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギに変換して蓄えるものが採用される。
【0022】
アキュムレータ50は、オイルポンプ34によって例えば14〜22MPa程度にまで昇圧された作動油を蓄える。また、リリーフバルブ53の弁出口は、油圧給排管28に接続されており、アキュムレータ50における作動油の圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ53が開弁し、高圧の作動油は油圧給排管28へと戻される。さらに、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力、すなわち、アキュムレータ50における作動油の圧力を検出するアキュムレータ圧センサ51が設けられている。
【0023】
そして、高圧管30は、増圧弁40FR、40FL、40RR、40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ20FR、左前輪用のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RRおよび左後輪用のホイールシリンダ20RLに接続されている。以下、適宜、ホイールシリンダ20FR〜20RLを総称して「ホイールシリンダ20」といい、適宜、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、何れも、非通電時は閉じた状態にあり、必要に応じてホイールシリンダ20の増圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。なお、図示されない車両の各車輪に対しては、ディスクブレーキユニットが設けられており、各ディスクブレーキユニットは、ホイールシリンダ20の作用によってブレーキパッドをディスクに押し付けることで制動力を発生する。
【0024】
また、右前輪用のホイールシリンダ20FRと左前輪用のホイールシリンダ20FLとは、それぞれ減圧弁42FRまたは42FLを介して油圧給排管28に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてホイールシリンダ20FR,20FLの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。一方、右後輪用のホイールシリンダ20RRと左後輪用のホイールシリンダ20RLとは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁42RRまたは42RLを介して油圧給排管28に接続されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
【0025】
右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用のホイールシリンダ20FR〜20RL付近には、それぞれ対応するホイールシリンダ20に作用する作動油の圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ44FR,44FL,44RRおよび44RLが設けられている。以下、適宜、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLを総称して「ホイールシリンダ圧センサ44」という。
【0026】
上述の右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FL、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL、オイルポンプ34、アキュムレータ50等は、ブレーキ制御装置10の油圧アクチュエータ81を構成する。そして、かかる油圧アクチュエータ81は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)200によって制御される。
【0027】
ECU200は、ホイールシリンダ20FR〜20RLにおけるホイールシリンダ圧を制御する制御手段として機能する。ECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、エンジン停止時にも記憶内容を保持できるバックアップRAM等の不揮発性メモリ、入出力インターフェース、各種センサ等から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して取り込むためのA/Dコンバータ、計時用のタイマ等を備えるものである。
【0028】
ECU200には、上述の電磁開閉弁22FR,22FL、シミュレータカット弁23、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL等の油圧アクチュエータ81を含む各種アクチュエータ類が電気的に接続されている。
【0029】
また、ECU200には、制御に用いるための信号を出力する各種センサ・スイッチ類が電気的に接続されている。すなわち、ECU200には、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLから、ホイールシリンダ20FR〜20RLにおけるホイールシリンダ圧を示す信号が入力される。
【0030】
また、ECU200には、ストロークセンサ46からブレーキペダル12のペダルストロークを示す信号が入力され、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLからマスタシリンダ圧を示す信号が入力され、アキュムレータ圧センサ51からアキュムレータ圧を示す信号が入力される。
【0031】
さらに、図示しないが、ECU200には、各車輪ごとに設置された車輪速センサから各車輪の車輪速度を示す信号が入力され、ヨーレートセンサからヨーレートを示す信号が入力され、操舵角センサからステアリングホイールの操舵角を示す信号が入力されたりしている。
【0032】
このように構成されるブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれると、ECU200により、ブレーキペダル12の踏み込み量を表すペダルストロークとマスタシリンダ圧とから車両の目標減速度が算出され、算出された目標減速度に応じて各車輪のホイールシリンダ圧の目標値である目標油圧が求められる。そして、ECU200により増圧弁40、減圧弁42が制御され、各車輪のホイールシリンダ圧が目標油圧になるよう制御される。
【0033】
一方、このとき電磁開閉弁22FR及び22FLは閉状態とされ、シミュレータカット弁23は開状態とされる。よって、運転者によるブレーキペダル12の踏込によりマスタシリンダ14から送出された作動油は、シミュレータカット弁23を通ってストロークシミュレータ24に流入する。
【0034】
また、アキュムレータ圧が予め設定された制御範囲の下限値未満であるときには、ECU200によりオイルポンプ34が駆動されてアキュムレータ圧が昇圧され、アキュムレータ圧がその制御範囲に入ればオイルポンプ34の駆動が停止される。
【0035】
図2は、本発明の第1の実施形態に係るマスタシリンダ14の構成を説明するための図である。マスタシリンダ14は、シリンダハウジング60と、第1ピストン62と、第2ピストン64と、摩擦部材302とを備える。
【0036】
マスタシリンダ14は、シリンダハウジング60内に、第1ピストン62が摺動自在に収容されている。第1ピストン62の一方の端には、ブレーキペダル12に連結されたピストンロッド70が設けられている。さらに、シリンダハウジング60内には、第2ピストン64が摺動自在に収容されている。このように2つのピストンがシリンダハウジング60に挿入されることにより、第1ピストン62と第2ピストン64との間に第1液室78が形成され、第2ピストン64とシリンダハウジング60の底部との間に第2液室80が形成されている。
【0037】
また、第1ピストン62と第2ピストン64の間には、所定の取付荷重で第1スプリング66が設けられており、第2ピストン64とシリンダハウジング60の底部との間には、第2スプリング68が設けられている。
【0038】
マスタシリンダ14の第1出力ポート14aは、第1液室78に連通しており、第1出力ポート14aには、右前輪用のブレーキ油圧制御管18が接続されている。また、上述したように、第1出力ポート14aには、ブレーキ油圧制御管18を介してストロークシミュレータ24が接続されている。なお、図2では、第2液室80に連通する第2出力ポート、ブレーキ油圧制御管18とストロークシミュレータ24の間に設けられるシミュレータカット弁の図示を省略している。
【0039】
第1ピストン62の外周面には、2つの環状の溝部が形成されている。一方のピストンロッド70側の溝部には、第1カップリング72が収容され、他方の第1液室78側の溝部には、第2カップリング74が収容されている。この第1カップリング72および第2カップリング74は、ゴムなどの弾性材料により形成された断面カップ状のシール部材である。第1カップリング72および第2カップリング74は、カップの内側面がマスタシリンダ14の軸方向前方を向くように設けられており、第1カップリング72と第2カップリング74の間に、第1大気圧室73が形成されている。第1大気圧室73は、シリンダハウジング60の側面に設けられた第1入力ポート71を介して、図示しないリザーバタンクに連通している。なお、本明細書において、マスタシリンダ14の軸方向前方とは、ブレーキペダル12が踏み込まれたときに、第1ピストン62が移動する方向であり、マスタシリンダ14の軸方向後方とは、ブレーキペダル12の踏み込みが解除されて所定の位置の戻るときに、第1ピストン62が移動する方向である。
【0040】
また、第2ピストン64の外周面にも、2つの環状の溝部が形成されている。一方の第1液室78側の溝部には、第3カップリング76が収容され、他方の第2液室80側の溝部には、第4カップリング77が収容されている。第3カップリング76は、カップの内側面がマスタシリンダ14の軸方向後方を向くように設けられており、第4カップリング77は、カップの内側面がマスタシリンダ14の軸方向前方を向くように設けられている。第3カップリング76と第4カップリング77の間には、第2大気圧室75が形成されている。第2大気圧室75は、シリンダハウジング60の側面に設けられた第2入力ポート79を介して、リザーバタンクに連通している。
【0041】
ストロークシミュレータ24は、上述したように、運転者によるブレーキペダル12の踏力に応じたペダルストロークを創出する。ストロークシミュレータ24は、有底円筒状のシリンダハウジング160内に、ピストン162がカップリング172を介して液密的摺動自在に収容されている。ストロークシミュレータ24は、このピストン162により、シリンダハウジング160内に液室178および大気圧室180が形成されている。大気圧室180には、第1スプリング166および第2スプリング167が、ピストン162を液室178側に付勢するように設けられている。ストロークシミュレータ24の液室178は、入力ポート182、ブレーキ油圧制御管18を介して、マスタシリンダ14の第1液室78に連通されている。また、ストロークシミュレータ24の大気圧室180は、図示しない出力ポートを介して、マスタシリンダ14の第1大気圧室73またはリザーバタンクに連通されている。
【0042】
上述のように構成されたマスタシリンダ14では、ブレーキペダル12が踏まれて第1ピストン62が前進すると、第1カップリング72のカップが径方向外側に開くことにより、第1大気圧室73内の作動油のシリンダハウジング60外部への漏出が防がれる。また、このとき、第2カップリング74、第3カップリング76のカップが径方向外側に開くことにより、第1液室78内の作動油がシールされ、第1液室78にマスタシリンダ圧が発生する。なお、第1の実施形態では、ブレーキ制御装置10の通常の制御状態において、第2液室80の第2出力ポート14bが連通している左電磁開閉弁22FLは閉状態とされるので、第2ピストン64は移動しない。
【0043】
また、ブレーキペダル12が踏み込まれて第1ピストン62が前進移動すると、ストロークシミュレータ24では、マスタシリンダ圧によりピストン162が第1スプリング166および第2スプリング167の付勢力に抗して押動される。このとき、第1スプリング166および第2スプリング167により、ペダル反力が創出される。
【0044】
図3は、本発明の第1の実施形態に係るマスタシリンダ14をより詳細に説明するための図である。図3では、マスタシリンダ14の第1ピストン62周辺部分を拡大して図示している。
【0045】
第1の実施形態に係るマスタシリンダ14においては、図3に示すように、第1ピストン62の外周に摩擦部材302が設けられる。摩擦部材302は、ゴムなどの弾性材料により形成されたドーナツ状の部材であり、第1ピストン62の外周面に形成された摩擦部材収容用溝部304に収容されている。第1の実施形態において、摩擦部材302は、第1カップリング72よりも軸方向前方且つ第2カップリング74よりも軸方向後方に設けられる。すなわち、摩擦部材302は、第1カップリング72と第2カップリング74の間に設けられる。摩擦部材302は、シリンダハウジング60との間に、摺動摩擦を発生させる。さらに、摩擦部材302は、第1カップリング72よりも低いシール性を有する。摩擦部材302がシリンダハウジング60との間に発生する摺動摩擦は、第1カップリング72がシリンダハウジング60との間に発生する摺動摩擦よりも高いことが好ましい。
【0046】
図4は、摩擦部材302を説明するための図である。図4は、図3に示すマスタシリンダ14のX−X断面を図示している。
【0047】
図4に示すように、摩擦部材302は、シリンダハウジング60の内周面と第1ピストン62の外周面との間に設けられている。摩擦部材302は、円環状のベース部302aと、ベース部302aの外周面から径方向外方に突設された径方向外方突出部302bと、ベース部302aの内周面から径方向内方に突設された径方向内方突出部302cとを有する。
【0048】
第1の実施形態では、図4に示すように、6個ずつ径方向外方突出部302bと径方向内方突出部302cが形成されている。径方向外方突出部302bは、周方向に等間隔で形成されており、隣り合う径方向外方突出部302bの中間部に、径方向内方突出部302cが形成されている。
【0049】
マスタシリンダ14において、各径方向外方突出部302bは、その先端部が、シリンダハウジング60の内周面に圧接されている。また、各径方向内方突出部302cは、その先端部が第1ピストン62の外周面に圧接されている。
【0050】
マスタシリンダ14では、隣り合う2つの径方向外方突出部302bと、シリンダハウジング60の内周面と、ベース部302a外周面とにより、外方油路306が形成されている。第1の実施形態では、6個の径方向外方突出部302bが形成されているので、6個の外方油路306が形成されている。また、隣り合う2つの径方向内方突出部302cと、第1ピストン62の外周面と、ベース部302aの内周面とにより、内方油路308が形成されている。第1の実施形態では、6個の径方向内方突出部302cが形成されているので、6個の内方油路308が形成されている。
【0051】
図5は、第1の実施形態に係るマスタシリンダ14を用いた場合のヒステリシス特性を示す図である。図5において、横軸は、ペダル踏力Fを表し、縦軸は、ペダルストロークSを表す。図5において、太い実線αは、第1の実施形態に係るマスタシリンダ14を用いた場合のヒステリシス特性を示す。また、細い実線βは、比較用として、摩擦部材302を設けないマスタシリンダのヒステリシス特性を示す。図5に示すように、第1の実施形態に係るマスタシリンダ14を用いた場合、摩擦部材302を設けなかった場合と比較して、ヒステリシス量を大きくすることができる。
【0052】
以上説明したように、第1の実施形態に係るマスタシリンダ14によれば、径方向外方突出部302b、径方向内方突出部302cの先端部が、それぞれシリンダハウジング60の内周面、第1ピストン62の外周面に圧接されていることにより、シリンダハウジング60との間に、摺動摩擦を発生させることができる。これにより、ヒステリシス量を向上することができるので、ブレーキ操作におけるペダルフィーリングを向上することができる。
【0053】
また、摩擦部材として単に通常のOリングを用いた場合、シリンダハウジングとの間に摺動摩擦を発生させることはできるが、Oリングにより作動油の流れが阻害されるので、第1大気圧室73の摩擦部材302と第1カップリング72との間に残留したエアのエア抜き性が低下するおそれがある。第1の実施形態に係るマスタシリンダ14では、摩擦部材302に径方向外方突出部302b、径方向内方突出部302cを設けたことにより、外方油路306、内方油路308が形成されるので、第1カップリング72よりも作動油のシール性が低くなり、摩擦部材302前後の作動油の流れが許容される。従って、摺動摩擦の創出とエア抜き性の両立が可能となるので、好適にブレーキ操作におけるペダルフィーリングを向上することができる。
【0054】
第1の実施形態に係るマスタシリンダ14では、摩擦部材302に6個ずつ径方向外方突出部302bと径方向内方突出部302cが形成したが、径方向外方突出部302b、径方向内方突出部302cの数は6個に限られず、径方向外方突出部302b、径方向内方突出部302cの数を調整することにより、ヒステリシス量を変化させることができる。また、径方向外方突出部302b、径方向内方突出部302cの数だけでなく、突出高さや、形状を変えることによっても、ヒステリシス量を変化させることができる。このように、簡易な構成でヒステリシス量の制御が可能となるので、製造コストを低減できる。
【0055】
また、第1の実施形態に係るマスタシリンダ14では、作動油が充填されている第1大気圧室73に摩擦部材302を設けているので、摩擦部材302の摺動面はウェットな状態である。そのため、温度やブレーキ使用頻度による摺動摩擦のばらつきを小さくでき、その結果、ヒステリシス量の変動を小さくすることができる。また、作動油が充填された第1大気圧室73内を摺動させているので、摩擦部材302の耐久性を向上することができる。
【0056】
また、第1の実施形態に係るマスタシリンダ14の場合、摩擦部材302が第1大気圧室73に設けられている。従って、たとえば摩擦部材302の径方向外方突出部、径方向内方突出部がすり減ることにより外方油路、内方油路が小さくなり、第1大気圧室73内のエア抜き性が低下した場合であっても、ブレーキ性能の低下には影響を及ぼさないという利点がある。
【0057】
図6は、本発明の第2の実施形態に係るマスタシリンダ600を説明するための図である。図6は、マスタシリンダ600の第1ピストン62周辺部分を拡大して図示している。なお、図6に示すマスタシリンダ600おいては、図2に示すマスタシリンダ14と同一または対応する構成要素には同様の符号を付すと共に、重複する説明は適宜省略する。
【0058】
第2の実施形態に係るマスタシリンダ600では、摩擦部材302は第1ピストン62の外周に設けられるが、第2カップリング74より軸方向前方に設けられている点が、第1の実施形態に係るマスタシリンダ14と異なる。
【0059】
この第2の実施形態に係るマスタシリンダ600のように、摩擦部材302を第2カップリング74より軸方向前方に設けた場合も、摩擦部材302の径方向外方突出部、径方向内方突出部の先端部が、それぞれシリンダハウジング60の内周面、第1ピストン62の外周面に圧接されていることにより、シリンダハウジング60との間に、摺動摩擦を発生させることができる。これにより、ヒステリシス量を向上することができるので、ブレーキ操作におけるペダルフィーリングを向上することができる。
【0060】
また、摩擦部材302に径方向外方突出部および径方向内方突出部を設けたことにより、外方油路および内方油路が形成されるので、第2カップリング74よりも作動油のシール性が低くなり、摩擦部材302前後の作動油の流れが許容される。従って、摺動摩擦の創出とエア抜き性の両立が可能となるので、好適にブレーキ操作におけるペダルフィーリングを向上することができる。
【0061】
また、作動油が充填された第1液室78内に摩擦部材302を設けたことにより、温度やブレーキ使用頻度による摺動摩擦のばらつきを小さくできる点、および摩擦部材302の耐久性を向上できる点などは、第1の実施形態に係るマスタシリンダ14と同様である。
【0062】
図7は、本発明の第3の実施形態に係るマスタシリンダ700を説明するための図である。図7は、マスタシリンダ700の第2ピストン64周辺部分を拡大して図示している。なお、図7に示すマスタシリンダ700おいては、図2に示すマスタシリンダ14と同一または対応する構成要素には同様の符号を付すと共に、重複する説明は適宜省略する。
【0063】
第3の実施形態に係るマスタシリンダ700は、ストロークシミュレータ(図示せず)を第2液室80に接続した場合の実施形態である。第2液室80にストロークシミュレータを接続した場合は、ブレーキペダルが踏み込まれると、第1ピストンとともに第2ピストン64も動くので、第2ピストン64に摩擦部材302を設けてもよい。図7に示す第3の実施形態に係るマスタシリンダ700では、摩擦部材302は、第2ピストン64外周の、第3カップリング76よりも軸方向後方の部位に設けられている。
【0064】
この第3の実施形態に係るマスタシリンダ700のように、摩擦部材302を第3カップリング76よりも軸方向後方に設けた場合も、摩擦部材302の径方向外方突出部、径方向内方突出部の先端部が、それぞれシリンダハウジング60の内周面、第2ピストン64の外周面に圧接されていることにより、シリンダハウジング60との間に、摺動摩擦を発生させることができる。これにより、ヒステリシス量を向上することができるので、ブレーキ操作におけるペダルフィーリングを向上することができる。
【0065】
また、摩擦部材302に径方向外方突出部および径方向内方突出部を設けたことにより、外方油路および内方油路が形成されるので、第3カップリング76よりも作動油のシール性が低くなり、摩擦部材302前後の作動油の流れが許容される。従って、摺動摩擦の創出とエア抜き性の両立が可能となるので、好適にブレーキ操作におけるペダルフィーリングを向上することができる。
【0066】
また、作動油が充填された第1液室78内に摩擦部材302を設けたことにより、温度やブレーキ使用頻度による摺動摩擦のばらつきを小さくできる点、および摩擦部材302の耐久性を向上できる点などは、第1の実施形態に係るマスタシリンダ14と同様である。
【0067】
図8は、本発明の第4の実施形態に係るマスタシリンダ800を説明するための図である。図8は、マスタシリンダ800の第2ピストン64周辺部分を拡大して図示している。なお、図8に示すマスタシリンダ800おいては、図2に示すマスタシリンダ14と同一または対応する構成要素には同様の符号を付すと共に、重複する説明は適宜省略する。
【0068】
第4の実施形態に係るマスタシリンダ800もまた、ストロークシミュレータ(図示せず)を第2液室80に接続した場合の実施形態である。第2液室80にストロークシミュレータを接続した場合、図8に示すように、第2ピストン64外周の、第3カップリング76よりも軸方向前方且つ第4カップリング77よりも軸方向後方の部位に、すなわち、第3カップリング76と第4カップリング77の間の部位に摩擦部材302を設けてもよい。
【0069】
この第4の実施形態に係るマスタシリンダ800のように、摩擦部材302を第3カップリング76と第4カップリング77の間に設けた場合も、摩擦部材302の径方向外方突出部、径方向内方突出部の先端部が、それぞれシリンダハウジング60の内周面、第2ピストン64の外周面に圧接されていることにより、シリンダハウジング60との間に、摺動摩擦を発生させることができる。これにより、ヒステリシス量を向上することができるので、ブレーキ操作におけるペダルフィーリングを向上することができる。
【0070】
また、摩擦部材302に径方向外方突出部および径方向内方突出部を設けたことにより、外方油路および内方油路が形成されるので、第3カップリング76よりも作動油のシール性が低くなり、摩擦部材302前後の作動油の流れが許容される。従って、摺動摩擦の創出とエア抜き性の両立が可能となるので、好適にブレーキ操作におけるペダルフィーリングを向上することができる。
【0071】
また、作動油が充填された第2大気圧室75内に摩擦部材302を設けたことにより、温度やブレーキ使用頻度による摺動摩擦のばらつきを小さくできる点、および摩擦部材302の耐久性を向上できる点などは、第1の実施形態に係るマスタシリンダ14と同様である。
【0072】
第4の実施形態に係るマスタシリンダ800の場合、摩擦部材302が第2大気圧室75に設けられている。従って、たとえば摩擦部材302の径方向外方突出部、径方向内方突出部がすり減ることにより外方油路、内方油路が小さくなり、第2大気圧室75内のエア抜き性が低下した場合であっても、ブレーキ性能の低下には影響を及ぼさないという利点がある。
【0073】
図9は、本発明の第5の実施形態に係るマスタシリンダ900を説明するための図である。図9は、マスタシリンダ900の第2ピストン64周辺部分を拡大して図示している。なお、図9に示すマスタシリンダ900おいては、図2に示すマスタシリンダ14と同一または対応する構成要素には同様の符号を付すと共に、重複する説明は適宜省略する。
【0074】
第5の実施形態に係るマスタシリンダ900もまた、ストロークシミュレータ(図示せず)を第2液室80に接続した場合の実施形態である。第2液室80にストロークシミュレータを接続した場合、図9に示すように、第2ピストン64外周の、第4カップリング77よりも軸方向前方の部位に摩擦部材302を設けてもよい。
【0075】
この第5の実施形態に係るマスタシリンダ900のように、摩擦部材302を第4カップリング77よりも軸方向前方に設けた場合も、摩擦部材302の径方向外方突出部、径方向内方突出部の先端部が、それぞれシリンダハウジング60の内周面、第2ピストン64の外周面に圧接されていることにより、シリンダハウジング60との間に、摺動摩擦を発生させることができる。これにより、ヒステリシス量を向上することができるので、ブレーキ操作におけるペダルフィーリングを向上することができる。
【0076】
また、摩擦部材302に径方向外方突出部および径方向内方突出部を設けたことにより、外方油路および内方油路が形成されるので、第4カップリング77よりも作動油のシール性が低くなり、摩擦部材302前後の作動油の流れが許容される。従って、摺動摩擦の創出とエア抜き性の両立が可能となるので、好適にブレーキ操作におけるペダルフィーリングを向上することができる。
【0077】
また、作動油が充填された第2液室80内に摩擦部材302を設けたことにより、温度やブレーキ使用頻度による摺動摩擦のばらつきを小さくできる点、および摩擦部材302の耐久性を向上できる点などは、第1の実施形態に係るマスタシリンダ14と同様である。
【0078】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るマスタシリンダを備えたブレーキ制御装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るマスタシリンダの構成を説明するための図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るマスタシリンダをより詳細に説明するための図である。
【図4】摩擦部材を説明するための図である。
【図5】第1の実施形態に係るマスタシリンダを用いた場合のヒステリシス特性を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るマスタシリンダを説明するための図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係るマスタシリンダを説明するための図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係るマスタシリンダを説明するための図である。
【図9】本発明の第5の実施形態に係るマスタシリンダを説明するための図である。
【符号の説明】
【0080】
10 ブレーキ制御装置、 12 ブレーキペダル、 14、600、700、800、900 マスタシリンダ、 20 ホイールシリンダ、 24 ストロークシミュレータ、 26 リザーバタンク、 40 増圧弁、 42 減圧弁、 60 シリンダハウジング、 62 第1ピストン、 64 第2ピストン、 66 第1スプリング、 68 第2スプリング、 70 ピストンロッド、 72 第1カップリング、 74 第2カップリング、 76 第3カップリング、 77 第4カップリング、 78 第1液室、 80 第2液室、 200 ECU、 302 摩擦部材、 306 外方油路、 308 内方油路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作手段の操作に応じて作動油を送り出すマスタシリンダであって、
シリンダハウジングと、
前記シリンダハウジング内に摺動自在に収容され、前記シリンダハウジング内に液室を形成するピストンと、
前記ピストンの外周に設けられ、前記作動油を前記液室内にシールするシール部材と、
前記シール部材よりも液室側に設けられ、前記シリンダハウジングとの間に摺動摩擦を発生させ、且つ前記シール部材よりもシール性が低い摩擦部材と、
を備えることを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項2】
前記摩擦部材は、該摩擦部材前後の作動油の流れを許容する油路を備えることを特徴とする請求項1に記載のマスタシリンダ。
【請求項3】
前記油路は、前記摩擦部材の本体部より径方向に突出する突出部により形成されることを特徴とする請求項2に記載のマスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−143254(P2009−143254A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319444(P2007−319444)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】