説明

マニピュレータ

【課題】動作中に駆動部の剛性を連続的に変化させることができるマニピュレータ及びその制御装置。
【解決手段】3軸角度検出器27a、27b、27cの出力信号を位置姿勢算出手段29においてマニピュレータ9の先端部位置および姿勢を算出する。その結果を用いて、作用力算出手段30において各駆動部に作用するトルクをそれぞれ算出する。ステータ押付力算出手段31では、駆動トルクを確保するのに必要なステータ押付力を算出する。電磁力算出手段32において、ステータ押付力算出手段31で求めたステータ押付力を電磁石20a、20bで発生する電磁力へ変換し、電磁石20a、20bへ電圧を印加する。一方、位置姿勢算出手段29で算出した位置姿勢データ、指令値入力装置28で入力されたマニピュレータ9の先端部の位置姿勢データを用いて、制御量算出手段34において各駆動部の球面超音波モータの制御量を算出しモータへ供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一つの駆動部を備えたマニピュレータに係り、特に、駆動部の剛性を任意のタイミングで変化させることが可能なマニピュレータ及びその制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、それ自体の剛性を調整可能な駆動部としては、剛体間の摩擦力を利用して駆動力を発生する超音波モータが知られている。これに関する公知例として、例えば板ばねやゴムシート等の弾性体を交換し、その弾性係数を変更することで駆動部の剛性を変化する構成が特許文献1に開示されている。また、特許文献1と同様に、弾性体としてばねを利用した構成が特許文献2及び特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−174783号公報
【特許文献2】特開2005−224029号公報
【特許文献3】特開2007−135266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1ないし特許文献3で開示された従来技術では、剛体間の押し付け状態を安定に保つため、ばねやゴムシート等の一定の弾性を有する弾性部材を用いている。そのため、駆動部の剛性を変化させる場合には、その都度駆動部を分解して異なる弾性を有する弾性部材を交換して取り付ける作業を実施しなくてはならない。従って、作業中の様に任意のタイミングで剛性を変化させる必要がある場合には、この方式は適用できない。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決し、動作中であっても剛性を変化させる駆動部を備えたマニピュレータ及びその制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、超音波の表面進行波を発生させる少なくとも1つの円環状超音波振動子からなるステータと、ステータ中心軸が中心を通り摩擦力を発生する様に接触させて設置した球体からなるロータと、前記ステータを駆動し、ステータに発生した表面進行波の方向により前記ロータの回転を制御する制御装置を備えたマニピュレータにおいて、前記ステータを、前記ロータに押付ける力を調整し前記駆動部の外力に対する剛性を動的に調整する可変剛性機構を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、可変剛性機構は、前記ステータの前記ロータへの押付力を調整し、前記ステータに対する前記ロータの摩擦力の大きさを可変にすることを特徴とする。
【0008】
また、マニピュレータには3軸角度検出器を備え、前記制御装置には制御装置に対する指令を入力する指令値入力手段と、前記3軸角度検出器の信号から前記マニピュレータの手先の位置および姿勢を算出する位置姿勢算出手段と、前記位置姿勢算出手段の結果から各駆動部に作用する力を算出する作用力算出手段と、前記作用力算出手段の結果から前記ステータを前記ロータに押し付ける押付力を算出するステータ押付力算出手段と、その押付力を発生するための可変剛性機構の剛性調整量を算出する剛性調整量算出手段と、前記指令値入力手段から入力された目標手先位置姿勢と前記位置姿勢算出手段から算出された手先位置姿勢を基に、前記駆動部の制御量を算出する制御量算出手段を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、可変剛性機構は、前記ステータを支持するハウジングを備え、前記ステータのうち少なくとも1つに永久磁石を設け、前記ハウジングの前記永久磁石と対向する位置に電磁石を設け、電磁石に流れる電流を制御することで前記永久磁石と前記電磁石間に発生する引力若しくは斥力を調整し、前記ロータに対する前記ステータの摩擦力を調整することを特徴とする。
【0010】
また、可変剛性機構は、前記ステータを支持するハウジングを備え、前記ステータのうち少なくとも1つに電磁石を設け、前記ハウジングの前記電磁石と対向する位置に永久磁石を設け、電磁石に流れる電流を制御することで前記永久磁石と前記電磁石間に発生する引力若しくは斥力を調整し、前記ロータに対する前記ステータの摩擦力を調整することを特徴とする。
【0011】
また、マニピュレータには3軸角度検出器を備え、前記制御装置には制御装置に対する指令を入力する指令値入力手段と、前記3軸角度検出器の信号から前記マニピュレータの手先の位置および姿勢を算出する位置姿勢算出手段と、前記位置姿勢算出手段の結果から各駆動部に作用する力を算出する作用力算出手段と、前記作用力算出手段の結果から前記ステータを前記ロータに押し付ける押付力を算出するステータ押付力算出手段と、その押付力を発生するための電磁石の電磁力を算出する電磁力算出手段と、前記指令値入力手段から入力された目標手先位置姿勢と前記位置姿勢算出手段から算出された手先位置姿勢を基に、前記駆動部の制御量を算出する制御量算出手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、可変剛性機構は、前記ステータを支持するハウジングを備え、前記ステータのうち少なくとも1つに永久磁石を設け、前記ハウジングの前記永久磁石と対向する位置に永久磁石を設け、各永久磁石の距離を制御する距離制御装置を設けて前記永久磁石間に発生する引力若しくは斥力を調整し、前記ロータに対する前記ステータの摩擦力を調整することを特徴とする。
【0013】
また、マニピュレータには3軸角度検出器を備え、前記制御装置には制御装置に対する指令を入力する指令値入力手段と、前記3軸角度検出器の信号から前記マニピュレータの手先の位置および姿勢を算出する位置姿勢算出手段と、前記位置姿勢算出手段の結果から各駆動部に作用する力を算出する作用力算出手段と、前記作用力算出手段の結果から前記ステータを前記ロータに押し付ける押付力を算出するステータ押付力算出手段と、その押付力を発生するための永久磁石の距離を算出する磁石距離算出手段と、前記指令値入力手段から入力された目標手先位置姿勢と前記位置姿勢算出手段から算出された手先位置姿勢を基に、前記駆動部の制御量を算出する制御量算出手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、可変剛性機構は、前記ステータを支持するハウジングを備え、前記ステータのうち少なくとも1つに形状記憶合金ばねの端部が接続され、前記形状記憶合金ばねの他端部は前記ハウジングに接続され、前記形状記憶合金ばねに電流を流す通電制御回路を設け、前記形状記憶合金ばねを通電制御して形状記憶合金ばねの温度を制御して弾性を調整し、前記ロータに対する前記ステータの摩擦力を調整することを特徴とする。
【0015】
また、マニピュレータには3軸角度検出器を備え、前記制御装置には制御装置に対する指令を入力する指令値入力手段と、前記3軸角度検出器の信号から前記マニピュレータの手先の位置および姿勢を算出する位置姿勢算出手段と、前記位置姿勢算出手段の結果から各駆動部に作用する力を算出する作用力算出手段と、前記作用力算出手段の結果から前記ステータを前記ロータに押し付ける押付力を算出するステータ押付力算出手段と、その押付力を発生するための形状記憶合金ばねの剛性を算出するばね剛性算出手段と、前記指令値入力手段から入力された目標手先位置姿勢と前記位置姿勢算出手段から算出された手先位置姿勢を基に、前記駆動部の制御量を算出する制御量算出手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、超音波の表面進行波を発生させる少なくとも1つのステータと、ステータ中心軸が中心を通り摩擦力を発生する様に接触させて設置したロータと、前記ステータを駆動し、ステータに発生した表面進行波の方向により前記ロータの回転を制御する制御装置を備えたマニピュレータにおいて、前記ステータを前記ロータに押付ける力を調整し前記駆動部の外力に対する剛性を動的に調整する可変剛性機構を備えたことにより、容易に剛性を調整可能で、動作中に任意のタイミングで剛性を変化できるマニピュレータを提供できる。従って、マニピュレータの姿勢が変化した場合や、先端に重量の異なる作業装置を搭載した場合等のように駆動部に作用する力が変化した場合においても、変化に対応して同一のマニピュレータで円滑に作業を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】原子炉内検査作業中における水中検査装置の機器配置を示す説明図である。
【図2】本発明の実施例1におけるマニピュレータの構成を示す説明図である。
【図3】本発明の実施例1におけるマニピュレータに搭載する駆動部の模式図である。
【図4】本発明の実施例1におけるマニピュレータに搭載する駆動部の縦断面図である。
【図5】本発明の実施例1におけるマニピュレータの円筒剛体棒の構造を示す模式図である。
【図6】本発明の実施例1におけるマニピュレータ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施例1におけるマニピュレータの剛性調整処理のフロー図である。
【図8】本発明の実施例1におけるマニピュレータの位置姿勢算出処理を表すフロー図である。
【図9】本発明の実施例1におけるマニピュレータの剛性調整処理を表すフロー図である。
【図10】本発明実施例1におけるマニピュレータの作用力算出処理を表す模式図である。
【図11】本発明実施例1におけるマニピュレータの制御量算出処理を表すフロー図である。
【図12】本発明の実施例2におけるマニピュレータ駆動部の縦断面図である。
【図13】本発明の実施例2におけるマニピュレータ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図14】本発明の実施例2におけるマニピュレータ剛性調整処理の詳細を表すフロー図である。
【図15】本発明の実施例3におけるマニピュレータ駆動部の縦断面図である。
【図16】本発明の実施例4におけるマニピュレータ駆動部の縦断面図である。
【図17】本発明の実施例5におけるマニピュレータ駆動部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施例を図面について説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の好適な実施例である、原子炉内検査装置に関する実施例1について、図1から図11を用いて説明する。実施例1は、原子炉内の水中検査装置に本発明のマニピュレータを適用したものである。なお、実施例1では、適用対象を原子炉内の目視検査装置としているが、その他の目的にも同様の装置構成で対応可能である。
【0020】
図1において、原子炉1内には、シュラウド2、上部格子板3、炉心支持板4、シュラウドサポート5等の構造物があり、PLR配管6をはじめとする配管が接続されている。また、原子炉1の上部には、作業スペースであるオペレーションフロア7があり、同じく上方には燃料交換装置8がある。
【0021】
原子炉内の目視検査を行う場合には、検査員14は燃料交換装置8上から、水中に投入した水中検査装置のマニピュレータ9に搭載したカメラで撮影した検査部位の映像を表示装置12でモニタリングしながら、コントローラ13によりマニピュレータ9の操作を行う。ここで、表示装置12およびコントローラ13は制御装置11と接続され、マニピュレータ9はケーブル10を介して制御装置11と接続されている。
〔マニピュレータ〕
図2を用いて、マニピュレータ9の詳細構成を説明する。多関節型のマニピュレータ9の関節部には、球面超音波モータを用いた駆動部15a、15b、15cが設けられている。各駆動部には、剛性を動的に調節する可変剛性機構が設けられている。マニピュレータ9の先端部には水中検査装置のための目視検査用カメラ16を搭載している。また、ケーブル10と駆動部15a、駆動部15aと駆動部15b、駆動部15bと駆動部15c、駆動部15cと目視検査用カメラ16の間は、各々軽量の円筒形剛体棒17で接続されている。
【0022】
目視検査用カメラ16と駆動部15a〜15cの電源および制御信号は、ケーブル10を介して制御装置11から供給され、逆に目視検査用カメラ16の映像信号および駆動部15a〜15cの状態信号は、ケーブル10を介して制御装置11へ伝送される。なお、マニピュレータ9全体は、水中検査装置として用いるために、図中に示すように外側を弾性カバー19で覆った防水構造を有している。また、ケーブル10側には固定部18を設けており、構造物等に固定して検査作業を実施する。
【0023】
図3および図4を用いて、図2に示したマニピュレータ9の駆動部15aの詳細構成を説明する。図3は、駆動部15aの模式図、図4は、駆動部15aの球面超音波モータMのロータ22中心を通る平面の縦断面図である。駆動部15a〜15cはいずれも同一構造を有している。
【0024】
図3に示すように、球面超音波モータMは、真球状のロータ22外周の中心を挟んで180゜対向する位置にステータ21a、21bを互いに平行に配置している。各ステータ21a、21bは可動式となっている。また、ステータ21a、21bと中心軸を一致させかつ平行に電磁石20a、20bをハウジング23に設置している。
【0025】
ステータ21a、21bには、周方向に複数のスリットが入った円環状リングの下面に圧電素子(図示せず)を接着しており、圧電素子に電圧を印加することで超音波振動を発生させ、ロータ22との間に発生する摩擦力によりロータ22を任意方向に回転駆動する。
【0026】
次に、図4によって駆動部15aの詳細構造を説明する。可変剛性機構は左右対称に設置されている。ステータ21a、21bのハウジング23側の側面に、永久磁石24a、24bをそれぞれ接着し、永久磁石の面と平行になるように、電磁石20aと20bをハウジング23に固定している。
【0027】
ステータ21a、21bの回転防止とスライド方向限定のため、スライドピン26をそれぞれのステータに2つずつ設けている。また、永久磁石24a、24bと電磁石20a、20bの間には、磁力を発生しない場合においても、ステータ21a、21bがロータ22に密着してロータ22を所定位置に保持できるように、保持ばね25a、25bを備えている。
【0028】
実施例1では、ロータ22に作用する力の大きさに応じて、模式的に描いたケーブル10を介して制御装置11から電磁石20a、20bへ印加する電圧を制御することで、永久磁石と電磁石間で発生する磁力の大きさと向きを変化させる。これにより、ロータ22に対するステータ21a、21bの押付力が変化し、ロータ22の回転トルクすなわち駆動部の剛性を動的に調整することが可能となる。上記の構成と反対に、ステータに電磁石を設けハウジングに永久磁石を設けても同等の効果を得ることが出来る。
【0029】
図5を用いて、図2に示した円筒形剛体棒17の内部構造を説明する。ロータ22に作用する力を算出するために、マニピュレータ9の位置および姿勢を取得する必要がある。そのため、駆動部15a〜15cの姿勢角を計測する。駆動部へ直接角度検出器を設けると、駆動部が大型になり可動範囲が制限されるため、本発明では、駆動部以外の場所に3軸角度検出器27を設置し、姿勢角を計測する。なお、3軸角度検出器27の信号は、ケーブル10を介して制御装置11へ伝送される。
〔制御装置〕
図6を用いて、制御装置11内の構成を説明する。駆動部15a〜15cに設けた3軸角度検出器27a、27b、27cの出力信号は、位置姿勢算出手段29において角度データへ変換し、各駆動部の角度データから順運動学を解くことにより、マニピュレータ9の先端部の位置および姿勢を算出する。その結果を用いて、作用力算出手段30において、駆動部15a〜15cに作用するトルクをそれぞれ算出する。
【0030】
ステータ押付力算出手段31では、作用力算出手段30において求めた、各駆動部に作用するトルク以上の駆動トルクを確保するのに必要なステータ押付力を算出する。さらに、電磁力算出手段32において、ステータ押付力算出手段31において求めたステータ押付力を、電磁石20a、20bで発生させる電磁力へ換算し、電磁石20a、20bへ必要な電圧を印加する。
【0031】
一方、位置姿勢算出手段29で算出した位置姿勢データと、指令値入力装置28で入力されたマニピュレータ9の先端部の位置姿勢データを用いて、制御量算出手段33において、駆動部15a〜15cの球面超音波モータMの制御量を算出しモータへ供給する。なお、目視検査用カメラ16の映像信号は、画像取得手段34で電子データへ変換し、表示装置12へ供給する。
〔検査処理プロセス〕
図7から図11を用いて、本実施例の剛性調整処理の詳細を説明する。図7は、処理全体のフロー図である。原子炉内検査を開始後、ステップ35に進み、マニピュレータ9の操作に入る。操作開始後、まず、指令値入力装置28で入力されたマニピュレータ9の先端部の位置姿勢指令値を取り込む。そして、ステップ37の位置姿勢算出処理において、マニピュレータ9の手先の位置姿勢を算出する。
【0032】
さらに、ステップ38の剛性調整処理において、駆動部15a〜15cに作用するトルクをそれぞれ算出し、駆動するために必要な剛性調整量を算出する。最後に、ステップ39に進み、位置姿勢指令値とステップ37において算出した手先位置姿勢、ステップ38において算出した剛性調整量を用いて、駆動部15a〜15cの制御量を算出する。なお、検査終了の信号が入力された場合には、マニピュレータ9の制御量をゼロとし、処理を終了する。
〔位置姿勢算出処理〕
図8を用いて、図7のステップ37における位置姿勢算出処理の詳細を説明する。処理開始後、ステップ40において、3軸角度検出器27a〜27cの出力信号を取り込む。次に、ステップ41の角度算出処理において、3軸角度検出器27a〜27cの出力信号から角度を算出する。実施例1では、3軸角度検出器27a〜27cとして−180゜から+180゜の範囲の角度を計測する傾斜計を用いる。一般に、傾斜計は基準電圧と称する一定の電圧値からの増減値がセンサの傾斜角に比例する性質を持っており、センサ固有のスペックとして示されている一定値の角度変換係数を乗じることで、傾斜角を求めることができる。ここで、基準電圧は通常、傾斜計固有のスペックとして一定値が示されているが、本実施例では、センサが傾斜していない時の電圧値を予め計測し、それを平均化したものを基準電圧とする。
【0033】
そして、ステップ42の手先位置・姿勢算出処理において、ステップ41で求めた駆動部15a〜15cのそれぞれの角度を用いて、マニピュレータ9の先端部の位置と姿勢を算出する。ステップ41の計算では、一般的なロボットの動作解析で用いられ、関節角度から手先の位置・姿勢を算出する際に利用する順運動学を用いる。最後に、ステップ43において、ステップ41で算出した駆動部15a〜15cの角度とステップ42で算出した手先位置・姿勢を保存して、処理を終了する。
〔剛性調整処理〕
図9および図10を用いて、図7のステップ38における剛性調整処理の詳細を説明する。処理を開始後、ステップ44で、ステップ37内で算出した駆動部15a〜15cの角度データを取り込む。
【0034】
次に、ステップ45の作用力算出処理において、角度データを基に各駆動部に作用する力を算出する。図10は、駆動部15aに作用する力を求める場合の力の分布を示している。図10に示すように、作用力を算出する駆動部より上部に位置する剛体(ここでは、駆動部15b、15c、円筒形剛体棒17、目視検査用カメラ16)の重量に重力加速度gを乗じて、それぞれの剛体にかかる力の大きさを求める。
【0035】
次に、駆動部15aの中心から各剛体の中心までの距離を用いて、駆動部15aに加わるトルクTaを算出する。各剛体に働く力は、それぞれの中心にかかる集中荷重とし、駆動部15bおよび15cについても同様の処理で作用力を求める。
【0036】
そして、ステップ46のステータ押付力算出処理において、以下の式(1)を用いてステータ21a、21bの押付力Fsを算出する。
Fs=Ta/(2μ・r)・・・・・・・・・(1)
ここで、μはロータ22とステータ21a、21b間の摩擦係数であり、予め試験により測定したものであり、rはロータ22の中心からステータ21a、21bの中心までの距離である。なお、式(1)で算出したステータ押付力Fsでトルク不足によりロータ22が回転しない場合は、Fsに定数を乗じて押付力を増加させても良い。最後に、ステップ47の電磁力算出処理において、押付力Fsを発生するために必要な印加電圧Vmを求め、電磁石20a、20bへ供給するとともに、ステップ48において、その電磁力を保存し処理を終了する。ここで、押付力Fsと印加電圧Vmの関係は、予め試験により関係式を求めておき、変換に利用する。
〔制御量算出処理〕
図11を用いて、図7のステップ39における制御量算出処理の詳細を説明する。処理を開始後、ステップ49において、目標位置・姿勢とステップ37内で算出した駆動部15a〜15cの角度データ(現在角度)を取り込む。次に、ステップ50の目標関節角度算出処理において、取り込んだ手先位置・姿勢の目標値を、駆動部15a〜15cの角度の目標値(目標関節角度)へ変換する。
【0037】
ステップ50の計算では、一般的なロボットの動作解析で用いられ、手先の位置・姿勢から関節角度を算出する際に利用する逆運動学を用いる。そして、ステップ51のロータ回転量算出処理において、目標関節角度と現在角度の偏差Δθを求め、ステップ52の印加電圧算出処理において、駆動部15a〜15cのそれぞれのステータへの印加電圧Vsを算出し、ステータへ電圧を供給して、処理を終了する。ここで、偏差Δθを実現するためのステータ印加電圧の算出は、モータ固有のスペックとして示されている一定値を用いる。
【実施例2】
【0038】
次に、本発明の実施例2のマニピュレータについて、図12から図14を用いて説明する。実施例2は、実施例1と比較して、駆動部に設ける可変剛性機構と制御装置内での剛性調整処理の構成が異なるが、それ以外の構成は同一である。以下に異なる点のみを説明する。
【0039】
図12を用いて、駆動部の詳細構成を説明する。図に示すように、ロータ53の中心に対し180゜対向してステータ54a、54bを配置する。
【0040】
次に、駆動部に備えた可変剛性機構について、詳細を説明する。可変剛性機構は左右対称に設置する。ステータ54a、54bとハウジング57の間に形状記憶合金ばね55a、55bを配置し、形状記憶合金ばね55a、55bの両端は、それぞれステータ54a、54bの側面とハウジング57の側面に固定する。ステータ54a、54bの回転防止とスライド方向の限定ため、スライドピン56をそれぞれのステータに2つずつ備えている。
【0041】
ここで、形状記憶合金ばね55a、55bには、印加電圧がゼロの場合においてもステータ54a、54がロータ53に密着して保持できる剛性を持ったものを用いる。実施例2では、ロータ53に作用する力の大きさに応じて、形状記憶合金ばね55a、55bへ模式的に描いたケーブル10を介して、通電制御回路を有する制御装置111から印加する電圧を制御することで、形状記憶合金ばね55a、55bに一定の電流を流して昇温させ、その剛性を変化させる。これにより、ステータ54a、54bの押付力が変化し、ロータ53の回転トルク、すなわち駆動部の剛性を動的に調整することが可能となる。
【0042】
図13を用いて、制御装置111内の構成を説明する。3軸角度検出器58a、58b、58cの出力信号は、位置姿勢算出手段60において、角度データへ変換し、各駆動部の角度データから、マニピュレータの先端部の位置および姿勢を算出する。その結果を用いて、作用力算出手段61において駆動部に作用するトルクをそれぞれ算出する。ステータ押付力算出手段62では、作用力算出手段61において求めた、各駆動部に作用するトルク以上の駆動トルクを確保するのに必要なステータ押付力を算出する。
【0043】
さらに、ばね剛性算出手段63において、ステータ押付力算出手段62において求めたステータ押付力を、形状記憶合金ばね55a、55bで発生する力へと変換し、形状記憶合金ばね55a、55bへ所定の電圧を印加する。
【0044】
一方、位置姿勢算出手段60で算出した位置姿勢データ、指令値入力装置59で入力されたマニピュレータ9先端部の位置姿勢データを用いて、制御量算出手段64において駆動部の球面超音波モータの制御量を算出しモータへ供給する。なお、目視検査用カメラ66の映像信号は、画像取得手段67で電子データへ変換し、表示装置68へ供給する。
【0045】
図14を用いて、剛性調整処理の詳細を説明する。処理を開始後、ステップ69で駆動部の角度データを取り込む。次に、ステップ70の作用力算出処理において、角度データを基に、各駆動部に作用する力を算出する(ステップ45と同様)。そして、ステップ71のステータ押付力算出処理において、ステータ54a、54bの押付力Fsを算出する(ステップ46と同様)。なお、ステップ71で算出したステータ押付力Fsで、トルク不足によりロータ53が回転しない場合は、Fsに定数を乗じて押付力を増加させても良い。最後に、ステップ72のばね剛性算出処理において、押付力Fsを発生するために必要な印加電圧Vmを求め、形状記憶合金ばね55a、55bへ供給するとともに、ステップ73においてそのばね剛性データを保存し、処理を終了する。ここで、押付力Fsと印加電圧Vmの関係は、予め試験により、関係式を求めておき、変換に利用する。
【実施例3】
【0046】
次に、本発明の実施例3のマニピュレータの可変剛性機構について、図15を用いて説明する。ハウジング77に、ロータ74とステータ75a、75bを有する球面超音波モータMが支持されている。球面超音波モータMの一端はステータ固定片76を介してハウジング77に固定されている。球面超音波モータMの他端は、永久磁石78、スライドピン79、保持ばね81、電磁石80を介してハウジング77に保持されている。電磁石80はケーブル10を介して制御装置112に接続されている。
【0047】
実施例3は、実施例1と比較して球面超音波モータMの片側に単一の可変剛性機構を備える他、それ以外の構成は同一である。この構成においても、調整範囲は小さくなるが同様の効果を奏することが出来る。
【実施例4】
【0048】
本発明の実施例4のマニピュレータの可変剛性機構について、図16を用いて説明する。ハウジング85に、ロータ82とステータ83a、83bを有する球面超音波モータMが支持されている。球面超音波モータMの一端はステータ固定片84を介してハウジング82に固定されている。球面超音波モータMの他端は、スライドピン86、形状記憶合金ばね87を介してハウジング85に保持されている。形状記憶合金ばね87はケーブル10を介して制御装置113に接続されている。
【0049】
実施例3は、実施例2と比較して球面超音波モータMの片側に単一の可変剛性機構を備える他、それ以外の構成は同一である。この構成においても、調整範囲は小さくなるが同様の効果を奏することが出来る。
【実施例5】
【0050】
本発明の実施例5の原子炉内検査装置の可変剛性機構について、図17を用いて説明する。ハウジング95に、ロータ92とステータ93a、93bを有する球面超音波モータMが支持されている。97は保持ばねである。球面超音波モータMの一端はステータ固定片94を介してハウジング95に固定されている。球面超音波モータMの他端は、永久磁石91、スライドピン96を介してハウジング95に保持されている。もう一つの永久磁石98が調整ねじ99によって永久磁石91に対し距離制御可能に設けられている。100は調整ねじ99の駆動装置であり、ケーブル10を介して制御装置114で制御される。上記調整ねじ99及び駆動装置100はこれら永久磁石の距離制御装置を構成する。永久磁石91に対する永久磁石98の位置を変える事によりその磁力を調節し、ロータ92に対するステータ93a、93bの保持力を変化させる。制御装置114は、例えば図13の制御装置111のばね剛性算出手段に替えて、二つの永久磁石の距離を決定する距離算出手段を有する。
【0051】
実施例5は、球面超音波モータMの片側に単一の可変剛性機構を備えているが、実施例1,2と同じく球面超音波モータMの両側に設けても良い事は明らかである。
【0052】
以上説明した実施例1から実施例5の構成によれば、動作中に駆動部の剛性を動的に調整するマニピュレータを実現でき、マニピュレータの手先の姿勢が変化した場合や、先端に重量の異なる検査装置を搭載した場合等、駆動部に作用する力が変化した場合においても、力の変化に対応して速やかに連続的に同一のマニピュレータで作業を継続することができる。
【0053】
また、実施例1から実施例5に記載した構成は、炉内目視検査を対象とした水中検査装置に応用したマニピュレータを説明しているが、先端部に搭載する装置を変更することで、その他、炉内構造物に発生する欠陥の長さおよび深さを測定するための渦電流センサや超音波センサによる探傷検査装置、炉内構造物の研磨、切断、溶接等を行う作業装置にも適用可能である。なお、本発明は、原子炉内の補修・検査等に用いる装置のみでなく、水中および気中で使用する各種作業装置に広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0054】
9・・・マニピュレータ
10・・・ケーブル
11、111、112、113、114・・・制御装置
15a、15b、15c・・・駆動部
20a、20b、80・・・電磁石
21a、21b、54a、54b、75a、75b、83a、83b、93a、93b・・ステータ
22、53、74、82、92・・・ロータ
23、57、77、85、95・・・ハウジング
24a、24b、78、91、98・・・永久磁石
25a、25b、81、97・・・保持ばね
27、27a、27b、27c、58a、58b、58c・・・3軸角度検出器
28、59・・・指令値入力手段
29、60・・・位置姿勢算出手段
30、61・・・作用力算出手段
31、62・・・ステータ押付力算出手段
32・・・電磁力算出手段
55a、55b、87・・・形状記憶合金ばね、
63・・・ばね剛性算出手段
99・・・調整ねじ
100・・・駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の表面進行波を発生させる少なくとも1つの円環状超音波振動子からなるステータと、ステータ中心軸が中心を通り摩擦力を発生する様に接触させて設置した球体からなるロータと、前記ステータを駆動し、ステータに発生した表面進行波の方向により前記ロータの回転を制御する制御装置を備えたマニピュレータにおいて、
前記ステータを、前記ロータに押付ける力を調整し前記駆動部の外力に対する剛性を動的に調整する可変剛性機構を備えたことを特徴とするマニピュレータ。
【請求項2】
請求項1に記載されたマニピュレータにおいて、前記可変剛性機構は、前記ステータの前記ロータへの押付力を調整し、前記ステータに対する前記ロータの摩擦力の大きさを可変にすることを特徴とするマニピュレータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマニピュレータにおいて、
前記マニピュレータには3軸角度検出器を備え、前記制御装置には制御装置に対する指令を入力する指令値入力手段と、前記3軸角度検出器の信号から前記マニピュレータの手先の位置および姿勢を算出する位置姿勢算出手段と、前記位置姿勢算出手段の結果から各駆動部に作用する力を算出する作用力算出手段と、前記作用力算出手段の結果から前記ステータを前記ロータに押し付ける押付力を算出するステータ押付力算出手段と、その押付力を発生するための可変剛性機構の剛性調整量を算出する剛性調整量算出手段と、前記指令値入力手段から入力された目標手先位置姿勢と前記位置姿勢算出手段から算出された手先位置姿勢を基に、前記駆動部の制御量を算出する制御量算出手段を備えたことを特徴とするマニピュレータ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のマニピュレータにおいて、前記可変剛性機構は、前記ステータを支持するハウジングを備え、前記ステータのうち少なくとも1つに永久磁石を設け、前記ハウジングの前記永久磁石と対向する位置に電磁石を設け、電磁石に流れる電流を制御することで前記永久磁石と前記電磁石間に発生する引力若しくは斥力を調整し、前記ロータに対する前記ステータの摩擦力を調整することを特徴とするマニピュレータ。
【請求項5】
請求項1または2に記載のマニピュレータにおいて、前記可変剛性機構は、前記ステータを支持するハウジングを備え、前記ステータのうち少なくとも1つに電磁石を設け、前記ハウジングの前記電磁石と対向する位置に永久磁石を設け、電磁石に流れる電流を制御することで前記永久磁石と前記電磁石間に発生する引力若しくは斥力を調整し、前記ロータに対する前記ステータの摩擦力を調整することを特徴とするマニピュレータ。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のマニピュレータにおいて、
前記マニピュレータには3軸角度検出器を備え、前記制御装置には制御装置に対する指令を入力する指令値入力手段と、前記3軸角度検出器の信号から前記マニピュレータの手先の位置および姿勢を算出する位置姿勢算出手段と、前記位置姿勢算出手段の結果から各駆動部に作用する力を算出する作用力算出手段と、前記作用力算出手段の結果から前記ステータを前記ロータに押し付ける押付力を算出するステータ押付力算出手段と、その押付力を発生するための電磁石の電磁力を算出する電磁力算出手段と、前記指令値入力手段から入力された目標手先位置姿勢と前記位置姿勢算出手段から算出された手先位置姿勢を基に、前記駆動部の制御量を算出する制御量算出手段を備えたことを特徴とするマニピュレータ。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のマニピュレータにおいて、前記可変剛性機構は、前記ステータを支持するハウジングを備え、前記ステータのうち少なくとも1つに永久磁石を設け、前記ハウジングの前記永久磁石と対向する位置に永久磁石を設け、各永久磁石の距離を制御する距離制御装置を設けて前記永久磁石間に発生する引力若しくは斥力を調整し、前記ロータに対する前記ステータの摩擦力を調整することを特徴とするマニピュレータ。
【請求項8】
請求項7に記載のマニピュレータにおいて、
前記マニピュレータには3軸角度検出器を備え、前記制御装置には制御装置に対する指令を入力する指令値入力手段と、前記3軸角度検出器の信号から前記マニピュレータの手先の位置および姿勢を算出する位置姿勢算出手段と、前記位置姿勢算出手段の結果から各駆動部に作用する力を算出する作用力算出手段と、前記作用力算出手段の結果から前記ステータを前記ロータに押し付ける押付力を算出するステータ押付力算出手段と、その押付力を発生するための永久磁石の距離を算出する磁石距離算出手段と、前記指令値入力手段から入力された目標手先位置姿勢と前記位置姿勢算出手段から算出された手先位置姿勢を基に、前記駆動部の制御量を算出する制御量算出手段を備えたことを特徴とするマニピュレータ。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のマニピュレータにおいて、前記可変剛性機構は、前記ステータを支持するハウジングを備え、前記ステータのうち少なくとも1つに形状記憶合金ばねの端部が接続され、前記形状記憶合金ばねの他端部は前記ハウジングに接続され、前記形状記憶合金ばねに電流を流す通電制御回路を設け、前記形状記憶合金ばねを通電制御して形状記憶合金ばねの温度を制御して弾性を調整し、前記ロータに対する前記ステータの摩擦力を調整することを特徴とするマニピュレータ。
【請求項10】
請求項9に記載のマニピュレータにおいて、
前記マニピュレータには3軸角度検出器を備え、前記制御装置には制御装置に対する指令を入力する指令値入力手段と、前記3軸角度検出器の信号から前記マニピュレータの手先の位置および姿勢を算出する位置姿勢算出手段と、前記位置姿勢算出手段の結果から各駆動部に作用する力を算出する作用力算出手段と、前記作用力算出手段の結果から前記ステータを前記ロータに押し付ける押付力を算出するステータ押付力算出手段と、その押付力を発生するための形状記憶合金ばねの剛性を算出するばね剛性算出手段と、前記指令値入力手段から入力された目標手先位置姿勢と前記位置姿勢算出手段から算出された手先位置姿勢を基に、前記駆動部の制御量を算出する制御量算出手段を備えたことを特徴とするマニピュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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