説明

マラチオンおよび揮発性環状シリコーンを含む医薬組成物

本発明は、マラチオンを安定化することを目的とした揮発性シリコーン油の使用からなる。本発明は、同様に、マラチオンおよび揮発性シリコーン油ならびに局所使用のための賦形剤を含む、シラミ駆除剤および/またはシラミの卵駆除剤の組成物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラミ寄生症の治療において有用である組成物に関するものであって、マラチオンに揮発性シリコーン油を会合させ、この揮発性シリコーン油がシラミ駆除剤分子にとっての溶媒担体の役割をすることを特徴とする組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シラミ寄生症は一般的なものであり、世界中で発生しており、あらゆる年令そしてあらゆる社会経済的カテゴリの人に影響を及ぼしている。しかしながら、3〜10才の年令において感染がより頻繁に発生する。その反面、この感染は多くの場合無症候性である。
【0003】
Pediculus humanus var capitis de Geerつまりシラミは、頭髪中に棲息し頭髪外では24〜48時間しか生き延びない、人間に専在する汎存性寄生生物である。シラミの最適生存温度は、摂氏28〜30度の間である。感染は直接的(頭髪の接着)または間接的(櫛、ブラシ、帽子、スカーフなどの共用)であり得る。たとえ短時間であっても一回接触するだけでシラミが人から人へと移るには充分である。寄生度の強い唯一人の患者が、寄生生物のレゼルボアとしての役目を果たし得る。限られた空間内における多人数の共同生活は伝染の危険因子である。
【0004】
P.capitisによるシラミ寄生症は、一部の研究者により、呼吸器感染の次に学校で最も頻繁に発生する伝染病とみなされている。2003年1月17日付けのフランス衛生審議会の報告書によると、この疾病の重要性は全て、接触により容易に伝染すること、治療の不全が反復すること、治療後も再感染すること、そして重複感染(膿痂疹)の頻度が高いことに同時に関係している。その上、シラミ駆除剤は保険による払い戻しの対象とならないため各家庭がこの寄生生物に対処するために使う予算は時として高額となり、こうして最終的に風土病は長く持続する可能性がある。
【0005】
その上、シラミ寄生症は再蔓延しているのが見うけられ、その理由の一つは、DDTなどの有機塩素系製品およびジョチュウギクから誘導された製品に対する耐性の問題にあると考えられる。
【0006】
疾患の兆候は、頭髪中のシラミの卵の存在そして吸血によるかみ傷に起因する永続的なかゆみの存在である。また掻傷病変の重複感染の可能性も存在する。
【0007】
シラミに対する防御には二つのタイプが存在する。すなわち、機械式タイプの防御と、頭髪上に直接塗布する製品タイプの防御である。機械式タイプの防御は、機械式または電動式の櫛を使用することからなる。除去されなかったシラミおよびシラミの卵はつねに繁殖する可能性があることから、これらの櫛は充分に有効なものではない。その上、櫛でシラミおよびシラミの卵を根絶することは困難である。
【0008】
一部のシリコーン添加誘導体も同様に物理的作用によって効果を及ぼす。実際、ジメチコンの名でも公知であるヘキサメチルシロキサンは、乾燥しながらプラスチック製フイルムの中にシラミを包み込み、こうして呼吸の可能性をことごとく阻止する。シクロメチコンとも呼ばれるデカメチルシクロペンタシロキサンは、ヘキサメチルシロキサンの拡散を改善するために同時に使用されることがある。
【0009】
頭髪上に製品を塗布することからなる防御は、シャンプー、スプレーまたはパウダー中での殺虫剤の使用に基づいている。
【0010】
このシラミ寄生症治療には、リンデン(ヘキサクロロシクロヘキサン)などのさまざまな殺虫剤分子を利用する。これらは有機塩素系分子である。その利用は、シラミ寄生症において適応とされているが、シラミの卵には作用しないことが判明している。この化合物の副作用は重大であり、実際この化合物は、けいれんという形で出現する神経毒性と同様に、血液循環系通過が起こる場合には2才未満の幼児において血液毒性をも誘発する可能性がある。
【0011】
ピレトリン分子および合成ピレスロイド分子も同様に、シラミ寄生症の治療の枠内で広く用いられている。この分子は、目または粘膜に塗布された場合、ひりひり感や灼熱痛の感覚などの副作用も同様に誘発する。同様に喘息患者または呼吸困難を伴う気管支病歴をもつ患者に対して加圧ボトルでこの分子を使用することは禁忌である。
【0012】
マラチオンは、有機リン系分子であり、殺虫剤として周知である。マラチオンはシラミ寄生症に対する選抜きの治療であり、その上優れたシラミの卵の駆除作用を有する。この分子は実際、最も活性のあるものとして広く認知されており、現在シラミ駆除剤の市場における基準的な分子である。
【0013】
マラチオンは単独で、あるいはピレトリンと組合せた形で使用することができる。
【0014】
しかしながら、マラチオンのベクトリゼーションには、通常の環境内、特に一般的に用いられるエタノールおよびイソプロパノールなどの極性溶媒中でのその不安定性を理由として、特に慎重さが求められる。これらの通常使用される溶媒中では、その活性の部分的な減少を誘発するマラチオンの異性化が発生する。マラチオンの分解の第一段階は、温度の作用下でのイソ−マラチオンの形成を導く(式1参照)。イソ−マラチオンがその他の化合物に変換される第二段階は、その他の複数の物理化学的因子によって左右される。
【0015】
【化1】

【発明の概要】
【0016】
したがって、本発明は、揮発性シリコーン油を使用してマラチオンを安定化することからなる。本発明において、シリコーン油は、ポリジメチルシクロシロキサン類および短鎖線状ポリシロキサン類またはポリジメチルシクロシロキサンと短鎖線状ポリシロキサン類の会合として定義される。好ましくは、ポリジメチルシクロシロキサンはデカメチルシクロペンタシロキサンまたはシクロメチコンである。短鎖線状ポリシロキサンは、好ましくはヘキサメチルシロキサンまたはジメチコンである。
【0017】
したがって、本発明は、マラチオンを安定化するための、ポリジメチルシクロシロキサン類、そしてより詳細にはデカメチルシクロペンタシロキサンの使用からなる。
【0018】
本発明は、同様に、マラチオンを安定化するための、短鎖線状ポリシロキサン類、そしてより詳細にはヘキサメチルシロキサンの使用からなる。
【0019】
本発明は、同様に、マラチオンを安定化するための、50%超の数量での揮発性シリコーン油の使用からなる。
【0020】
マラチオンを非極性ベクターそしてより詳細には揮発性シリコーン油と会合させることの利点は、次の二つのレベルに位置づけられる:
− 揮発性シリコーン油は、天然には不安定であるマラチオンを安定化させる。
− 揮発性シリコーン油例えばデカメチルシクロペンタシロキサンは、単独で、100%のシラミ駆除活性とおよそ70%の有利なシラミの卵の駆除活性を示す。
【0021】
したがって、揮発性シリコーン油は、マラチオンの完全な安定性を保証することで、シラミ駆除剤および/またはシラミの卵駆除剤の組成物中でマラチオンをベクター化するための理想的な溶媒となる。その上、揮発性シリコーン油は5時間後に蒸発し、低い粘性を示し、そのため洗い流しによる除去が容易になる。好ましくは、マラチオンを安定化するために選択される揮発性シリコーン油は、ポリジメチルシクロシロキサン類と短鎖ポリシロキサン類の中から選抜される。
【0022】
本発明は、同様に、局所使用のための賦形剤と会合した状態でマラチオンおよび揮発性シリコーン油を含むシラミ駆除剤および/またはシラミの卵駆除剤である医薬組成物および/または皮膚科用組成物にも関する。
【0023】
本発明は同様に、局所使用のための賦形剤を伴って揮発性シリコーン油により安定化されたマラチオンを含むシラミ駆除剤および/またはシラミの卵駆除剤である医薬組成物および/または皮膚科用組成物にも関する。
【0024】
より詳細には、本発明は、二種類のみの有効成分としてマラチオンおよび揮発性シリコーン油を含むシラミ駆除剤および/またはシラミの卵駆除剤の組成物に関する。
【0025】
本発明は同様に、
− 0.1%〜10%のマラチオンおよび40%〜99.9%の揮発性シリコーン油、
を含む組成物からなる。
【0026】
さらに好ましくは、本発明は、
− 0.1%〜0.5%のマラチオンおよび99.5%〜99.9%の揮発性シリコーン油、
を含む組成物からなる。
【0027】
好ましくは、シラミ駆除剤および/またはシラミの卵駆除剤の組成物中で使用される揮発性シリコーン油は、ポリジメチルシクロシロキサン類および短鎖ポリシロキサン類の中から選択される。
【0028】
本発明に係る組成物は、マラチオン、およびポリジメチルシクロシロキサン類から選択された揮発性シリコーン油、より詳細にはデカメチルシクロペンタシロキサンを含む。
【0029】
本発明に係る組成物は、マラチオン、および短鎖ポリシロキサン類から選択された揮発性シリコーン油、より詳細にはヘキサメチルシロキサンを含む。
【0030】
本発明に係る組成物の構成は、意図的に極めて単純化されている。実際、香料などの添加物の添加は、マラチオンの不安定化を誘発し得ると考えられる。
【0031】
本発明は、スプレー、ムース、ジェルまたはローションの形で調製された組成物からなる。
【0032】
以下の実施例は、本発明を例示するものであるが、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0033】
実施例1:ポリジメチルシクロシロキサンによるマラチオンの安定化
発明者らは、HPLCによりマラチオンの分解を測定した。これは、UV(210nm)による検出を伴う逆相HPLC方法である。使用されたカラムは、水/アセトニトリル勾配を伴い0.6ml/分の流量を示すxTERRA C18である。試験対象のマラチオン組成物は、マラチオン単独か、または50%のマラチオンと50%のイソプロパノールとの組成物、さらには50%のマラチオンと50%のポリジメチルシクロシロキサンとの組成物か、さらにまたは33%のマラチオンと33%のイソプロパノールと33%のポリジメチルシクロシロキサンとの組成物を含んでいる。これらの組成物は、粘性剤としてのポビドンなどの賦形剤も含んでいる。
【0034】
これらの組成物の安定性を114時間、摂氏60度で評価した(表1)。
【0035】
表1中に示されている結果は、以下のことを明らかにしている:
a) マラチオンは、イソプロパノールを用いた場合よりもポリジメチルシクロシロキサンを用いた場合に、溶解状態ではるかに安定している。
b) ポリジメチルシクロシロキサンと会合した状態でのマラチオンの安定性は、マラチオン単独の場合の安定性を上回っている。
c) イソプロパノールおよびポリジメチルシクロシロキサンを用いて溶解した状態でのマラチオンの安定性は、ポリジメチルシクロシロキサンを用いて溶解した状態でのマラチオンの安定性よりもはるかに低い。
【0036】
したがって、イソプロパノールが溶解状態のマラチオンの安定性を低減させる一方で、ポリジメチルシクロシロキサンはそれを著しく改善する、という結論を下すことができる。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例2:マラチオンとデカメチルシクロペンタシロキサンの溶液のシラミ駆除活性およびシラミの卵駆除活性
1) シラミ駆除活性についての試験
この試験は、シラミ60匹のロットについて実施した:
− 3〜5日齢のシラミ30匹
− 18〜20日齢のシラミ30匹
【0039】
この試験を実施するため、ろ紙で覆った直径5センチメートルのペトリ皿の底にシラミのロットを置き、その後、試験すべき溶液300μlをシラミ上に直接注ぎ込む。その後、溶液を含浸させたろ紙上にシラミを放置し、1時間後および24時間後に観察する。
【0040】
試験した溶液は以下の通りである:
− マラチオン0.5%およびデカメチルシクロペンタシロキサン95.5%。
【0041】
結果:
【表2】

【0042】
1時間後、90%のシラミが死滅し、一方残りの10%が弱っている(「ノックダウン状態」)ことが確認される。24時間後、100%のシラミが死滅している。したがって、マラチオンとデカメチルシクロペンタシロキサンを組合せた溶液は、非常に効果的なシラミ駆除活性を有する。
【0043】
2) シラミの卵の駆除活性に関する試験
この溶液のシラミの卵の駆除活性の確認も行なった。そのために、0日目(J0)にシラミの卵に対しマラチオン0.5%とデカメチルシクロペンタシロキサン99.5%の溶液を適用した。使用したシラミの卵は、1〜2日齢の新しいシラミの卵と8〜9日齢の古いシラミの卵である。これらのシラミの卵の孵化を14日間、監視した。
【0044】
結果:
【表3】

【0045】
試験対象のシラミの卵の日齢の如何に関わらず、マラチオン0.5%およびデカメチルシクロペンタシロキサン99.5%を含む溶液を使用すると、100%の場合で全てのシラミの卵の孵化が妨げられる。
【0046】
したがってマラチオン0.5%とデカメチルシクロペンタシロキサン99.5%を含む溶液は、シラミ駆除活性およびシラミの卵駆除活性を有する。
【0047】
実施例3:調合物;
ローションAの実施例
− マラチオン:0.5%
− デカメチルシクロペンタシロキサン:99.5%
【0048】
ローションBの実施例
− マラチオン:0.5%
− デカメチルシクロペンタシロキサン:50%
− 低分子量で液体形態の炭化水素化合物(「鉱油」という総称でも呼ばれるもの):49.5%
【0049】
スプレーアトマイザの実施例
− マラチオン:0.5%
− ヘキサメチルジシロキサン:39.5%
− デカメチルシクロペンタシロキサン:60%
【0050】
エアゾールスプレーの実施例
− マラチオン:0.5%
− デカメチルシクロペンタシロキサン:40%
− 低分子量で液体形態の炭化水素化合物(「鉱油」という総称でも呼ばれるもの):59.5%
− 推進用炭化水素混合物:十分量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マラチオンを安定化することを目的とした、揮発性シリコーン油の使用。
【請求項2】
揮発性シリコーン油が、ポリジメチルシクロシロキサン類と短鎖線状ポリシロキサン類またはそれらの混合物の中から選択されていることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ポリジメチルシクロシロキサンが、デカメチルシクロペンタシロキサンであることを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
短鎖線状ポリシロキサンが、ヘキサメチルシロキサンであることを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
揮発性シリコーン油が、50%超の数量で利用されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載の使用。
【請求項6】
マラチオンおよび揮発性シリコーン油ならびに局所使用のための賦形剤を含む、シラミ駆除剤および/またはシラミの卵駆除剤の組成物。
【請求項7】
二種類のみの有効成分としてマラチオンおよび揮発性シリコーン油を含む、シラミ駆除剤および/またはシラミの卵駆除剤の組成物。
【請求項8】
シリコーン油が、ポリジメチルシクロシロキサン類および短鎖線状ポリシロキサン類またはそれらの混合物の中から選択されていることを特徴とする、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
ポリジメチルシクロシロキサンがデカメチルシクロペンタシロキサンであることを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
短鎖線状ポリシロキサンがヘキサメチルシロキサンであることを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
マラチオンが0.1%〜10%で存在し、揮発性シリコーン油が40%〜99.9%で存在する、請求項6〜10のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項12】
マラチオンが0.1%〜0.5%で存在し、揮発性シリコーン油が99.5%〜99.9%で存在する、請求項6〜10のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項13】
スプレー、ムースまたはローションの形で調製された、請求項6〜12のいずれか一つに記載の組成物。

【公表番号】特表2012−515153(P2012−515153A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544910(P2011−544910)
【出願日】平成22年1月11日(2010.1.11)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050029
【国際公開番号】WO2010/079310
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(506260401)
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE DERMO−COSMETIQUE
【Fターム(参考)】