説明

マルチターゲットスパッタ装置

【課題】真空チャンバ内の雰囲気を維持しつつ順次複数のターゲットによる成膜が可能であるとともに、構造がシンプルで小型化、低コスト化に優れたマルチターゲットスパッタ装置を提供する。
【解決手段】真空チャンバ12内に配置された基板20の下方に配置される導電性の板体であって、略水平に回転可能に支持され、回転中心から一定の距離の円周に沿って開口した複数の貫通孔を有する回転板体32と、回転板体に設けられ、貫通孔の略真下にターゲット板23を略水平に支持するターゲット支持部40と、ターゲット支持部に設けられ、ターゲット板の裏面に当接する導電性のプレートであって、回転板体から絶縁されたバッキングプレートと、バッキングプレートを介してターゲット板を所定の電位とするターゲット電極70と、ターゲット電極を昇降させる昇降部80とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタにより基板表面に薄膜を形成するスパッタ装置に関し、特に複数のターゲットを配置したマルチターゲットスパッタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば基板上に複数層の薄膜を積層させて形成される超電導多層構造体等の成膜にスパッタ装置が利用される。このようなスパッタ装置には、真空チャンバ内にターゲット電極を一つ設けた方式の装置や、複数のターゲット電極を設けた方式の装置がある。
【0003】
ターゲット電極を一つ設けた方式の場合は、真空チャンバ内の雰囲気を維持しつつ成膜するため、例えば真空チャンバの側部にロードロック室を設け、ロードロック室を介してターゲットの交換を行うものが多い。しかしながら、このようにロードロック室を備えるスパッタ装置の場合、ターゲット交換の都度ロードロック室を大気圧に戻し、再び高真空にする等、煩雑な操作や時間を要するという問題があった。
【0004】
また、真空チャンバ内に複数のスパッタ電極を備える方式の場合、例えば複数のスパッタ電極を配置するスペースを真空チャンバ内に必要となる、あるいはそれぞれのスパッタ電極用の電源が必要になる等、スパッタ装置の大型化、複雑化並びに高コスト化を招くおそれがあるという問題があった。
【0005】
そこで、上記問題を解決するため様々な提案がされている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−256425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1によれば、真空チャンバ内で水平に回転可能に支持され、その回転中心から一定の距離の円周上にターゲットより僅かに小さな径のリフト通過孔が穿孔されたターンテーブルと、このターンテーブルの上に配置され、そのターンテーブルのリフト通過孔が停止する位置の真上のスパッタ位置にターゲットを保持するターゲット保持部を有するターゲット支持板と、前記ターンテーブルのリフト通過孔がターゲット保持部の真下で停止したとき、このリフト通過孔の下から上昇し、そこに配置したターゲットを持ち上げてターゲット保持部まで上昇させるリフトと、を有し、真空チャンバ内のスパッタリング位置にスパッタリング用の複数のターゲットを順次供給するスパッタリング用マルチターゲット装置が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1によれば、真空チャンバ内にターンテーブルを設け、その上にターゲット支持板を設け、さらにその上にスパッタリング用の空間が必要になる等で真空チャンバの容積を大きくする必要が生じ、また真空チャンバの内部構造が複雑となる虞がある。
また、特許文献1によれば、リフトはリフト通過孔に配置されたターゲットを持ち上げ、さらにその上にあるターゲット保持部まで上昇させる必要がある。そのため、リフトの長尺化やリフトの稼動の複雑化を招く虞がある。
このように、特許文献1によれば、スパッタ装置が大型化して省スペース化を図れないという虞や、装置の複雑化や高コスト化を招く虞があるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、真空チャンバ内の雰囲気を維持しつつ順次複数のターゲットによる成膜が可能であるとともに、構造がシンプルで小型化、低コスト化に優れたマルチターゲットスパッタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、スパッタにより薄膜が形成される基板と、前記薄膜の母材となる複数のターゲット板とを真空チャンバ内に配置し、前記基板の下方対向位置に前記ターゲット板を順次位置させ、前記薄膜を前記基板上に形成するマルチターゲットスパッタ装置において、前記基板の下方に配置される導電性の板体であって、略水平に回転可能に支持され、前記回転中心から一定の距離の円周に沿って開口した複数の貫通孔を有する回転板体と、前記回転板体に設けられ、前記貫通孔の略真下に前記ターゲット板を略水平に支持するターゲット支持部と、前記ターゲット支持部に設けられ、前記ターゲット板の裏面に当接する導電性のプレートであって、前記回転板体から絶縁されたバッキングプレートと、前記バッキングプレートを介して前記ターゲット板を所定の電位とするターゲット電極と、前記ターゲット電極を昇降させる昇降部と、を備え、前記回転板体が回転して前記基板の下方対向位置に前記ターゲット板を順次位置させ、前記昇降部が前記ターゲット電極を上昇させて前記バッキングプレートの裏面に押し当てる、マルチターゲットスパッタ装置である。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載のマルチターゲットスパッタ装置において、前記回転板体は、前記貫通孔の周囲部分を、前記ターゲット板の周囲を覆うシールド部とすることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載のマルチターゲットスパッタ装置において、前記ターゲット電極は、頭部が前記バッキングプレートの裏面に当接する筒体を含み、前記筒体を冷却するための冷媒を通すパイプを前記筒体の内側に備えることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のマルチターゲットスパッタ装置において、前記ターゲット電極は、前記ターゲット板の表面近傍に磁場を形成するマグネットを備えることを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のマルチターゲットスパッタ装置において、前記基板と前記ターゲット板との間の空間を囲繞する円筒状の囲繞部材を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明は、請求項3〜5のいずれかに記載のマルチターゲットスパッタ装置において、前記バッキングプレート及び前記筒体は、Cuからなることを特徴とする。
【0016】
請求項7の発明は、請求項3〜6のいずれかに記載のマルチターゲットスパッタ装置において、絶縁材からなり、前記筒体の側面を囲繞する絶縁筒体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スパッタにより薄膜が形成される基板と、前記薄膜の母材となる複数のターゲット板とを真空チャンバ内に配置し、前記基板の下方対向位置に前記ターゲット板を順次位置させ、前記薄膜を前記基板上に形成するマルチターゲットスパッタ装置において、前記基板の下方に配置される導電性の板体であって、略水平に回転可能に支持され、前記回転中心から一定の距離の円周に沿って開口した複数の貫通孔を有する回転板体と、前記回転板体に設けられ、前記貫通孔の略真下に前記ターゲット板を略水平に支持するターゲット支持部と、前記ターゲット支持部に設けられ、前記ターゲット板の裏面に当接する導電性のプレートであって、前記回転板体から絶縁されたバッキングプレートと、前記バッキングプレートを介して前記ターゲット板を所定の電位とするターゲット電極と、前記ターゲット電極を昇降させる昇降部と、を備え、前記回転板体が回転して前記基板の下方対向位置に前記ターゲット板を順次位置させ、前記昇降部が前記ターゲット電極を上昇させて前記バッキングプレートの裏面に押し当てる構成であるから、真空チャンバ内に配置された回転板体を挟んだ上方にスパッタリング用のスペースを設け、下方にターゲット電極が昇降するスペースを設ければ済むので、真空チャンバ内の省スペース化や構造の簡略化を図ることができる。従って、真空チャンバ内の雰囲気を維持しつつ基板の下方対向位置に前記ターゲット板を順次位置させ、順次複数のターゲットによる成膜が可能であるとともに、構造がシンプルで小型化、低コスト化に優れたマルチターゲットスパッタ装置を提供できる。
【0018】
また、前記回転板体は、前記貫通孔の周囲部分を、前記ターゲット板の周囲を覆うシールド部とする構成であるから、ターゲット板の周囲にあるターゲット物質以外のスパッタを防止可能なマルチターゲットスパッタ装置をシンプルな構造により提供できる。
【0019】
また、前記ターゲット電極は、頭部が前記バッキングプレートの裏面に当接する筒体を含み、前記筒体を冷却するための冷媒を通すパイプを前記筒体の内側に備える構成であるから、筒体をバッキングプレートに押し当てる際にバッキングプレートを介してターゲット板を冷却可能となり、スパッタ中のイオン衝撃によるターゲット板の温度上昇を抑制可能な実用性が高いマルチターゲットスパッタ装置を提供できる。
【0020】
また、前記ターゲット電極は、前記ターゲット板の表面近傍に磁場を形成するマグネットを備える構成であるから、マグネトロンスパッタリングによりスパッタ効率の向上を図ることができる。
【0021】
また、前記基板と前記ターゲット板との間の空間を囲繞する円筒状の囲繞部材を備える構成であるから、スパッタ中のスパッタ物質が他のターゲット板に飛翔して付着することによるターゲット板の汚染を、簡単な構造の囲繞部材により防止できる。
【0022】
また、前記バッキングプレート及び前記筒体は、Cuからなる構成であるから、廉価な部材によりバッキングプレートとターゲット電極との導電性や熱伝導性の向上を図ることができる。
【0023】
また、絶縁材からなり、前記筒体の側面を囲繞する絶縁筒体を備える構成であるから、絶縁筒体によって、ターゲット電極と、真空チャンバ或いは回転板体との間の異常放電を防止することで、装置の稼動安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るマルチターゲットスパッタ装置の全体構成を説明する断面説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係るマルチターゲットスパッタ装置の真空チャンバ内部を説明する概略斜視図である。
【図3】図2のA−A線断面説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係るマルチターゲットスパッタ装置のターゲット支持部を説明する分解斜視図である。
【図5】本発明の実施形態に係るマルチターゲットスパッタ装置のターゲット支持部を説明する底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係るマルチターゲットスパッタ装置について説明する。
本実施形態のマルチターゲットスパッタ装置は、スパッタにより薄膜が形成される基板と、前記薄膜の母材となる複数のターゲット板とを真空チャンバ内に配置し、前記基板の下方対向位置に前記ターゲット板を順次位置させ、前記薄膜を前記基板上に形成するマルチターゲットスパッタ装置である。したがって、例えば酸化物超電導薄膜積層体のように、異なる種類の薄膜を基板上に積層させてなる電子デバイスを製作する場合等に好適なスパッタ装置である。
【0026】
以下、本実施形態のマルチターゲットスパッタ装置10について、図を用いて説明する。
本実施形態のマルチターゲットスパッタ装置10は、図1に示すように、真空チャンバ12と、基板ホルダ14と、回転板体32と、ターゲット支持部40と、ターゲット電極70と、昇降部80と、フレキシブルチューブ82と、絶縁管81とを備える。
【0027】
本実施形態の基板20は、例えば単結晶材料からなり、直径が略20mmで、厚さは略0.5mmの円板状に形成される。また、ターゲット板23は、例えば各種の化合物材料等の成膜材料からなり、基板20より僅かに大きい直径と基板20の厚さの略3〜4倍程度の厚さの円板状に形成される。基板やターゲットの直径並びに厚さは、本実施形態の寸法に限らず任意の寸法とすることができる。
【0028】
次に、本実施形態の真空チャンバ12は、図1に示すように、例えば30cm程度の高さで幅及び奥行きが50cm程度の大きさの直方体状の筐体よりなり、その内側がスパッタ時の反応室を形成する。そして、真空チャンバ12は、図1に示すように、真空チャンバ12内を真空雰囲気とする真空ポンプ(図示せず)に、配管16を介して連通される。また、真空チャンバ12は、前面に開閉扉(図示せず)を備えており、開閉扉を開いてターゲット板23の交換等を実施可能な構成となっている。また、真空チャンバ12は、図1に示すように、後述する基板ホルダ14を進退させる通過孔15を天壁の所定の位置に設け、連結管18を介してロードロック室(図示せず)に連通している。
【0029】
また、真空チャンバ12は、図1に示すように、後述するターゲット電極70が昇降する昇降用孔17を備える。昇降用孔17は、例えばターゲット板23の直径の略3倍程度の直径で、通過孔15と対向する位置の底壁11に開設される。そして、真空チャンバ12は、図1に示すように、昇降用孔17に設けられた後述するフレキシブルチューブ82に連通する。
さらに、真空チャンバ12は、図1に示すように、ガス導入管108を備える。このガス導入管108は、例えばAr原子のように、スパッタの際に基板20とターゲット板23との間でイオン化してターゲット板23に衝突する原子を含むプロセスガスを導入するパイプである。
なお、真空チャンバ12はステンレス製で形成され、図1に示すように、接地電位Gに接地される。
【0030】
次に、基板ホルダ14は、図1及び図2に示すように、例えばステンレス製の円筒体からなり、基板20の落下を防止する爪部21(図3参照)をその下端に備え、基板20を水平状態で保持する。そして、基板20は、前記ロードロック室内で基板ホルダ14に取付けられ、図1に示すように、連結管18内を移動して真空チャンバ12内に進入し、所定位置に配置される。なお、本実施形態の基板ホルダ14及び基板20は、接地電位に接地、すなわち真空チャンバ12と同電位となっている。さらに、基板ホルダ14は、図1及び図3に示すように、円板状のシャッタ22を備え、常時はシャッタ22が基板20を覆い、スパッタリング時等の必要に応じてシャッタ22が開く構成となっている。また、図1〜図4において符号Kは、上述のようにして保持された基板20の中央を通過する鉛直線を示し、鉛直線Kは上述した昇降用孔17の略中心を通過する位置関係となっている。なお、図3では、説明の便宜上、後述する囲繞部材100を省略した。
【0031】
次に、回転板体32は、例えばステンレス等の導電性の円板体よりなる。具体的には、図1及び図2に示すように、真空チャンバ12に収納できる程度の直径で、ターゲット板23の厚さの略3〜5倍程度の厚さを有する円板状に形成される。
この回転板体32は、図1に示すように、基板20の下方であって真空チャンバ12の高さ方向の中央近傍に略水平な状態で配置され、その中央を例えばステッピングモータからなる駆動部33の回転軸35によって回転可能に支持される。図1において符号110は、回転軸35を回動自在に支持するベアリングを示している。本実施形態において、駆動部33は、図1に示すように、底壁11の中央部の裏面側にネジ等で固設され、回転軸35を真空チャンバ12内に立設する。また、ベアリング110は、図1に示すように、真空チャンバ12の底壁11にネジ等で固設される。
【0032】
また、回転板体32は、図2に示すように、ターゲット板23の直径より僅かに大きい直径の円孔からなる複数の貫通孔38を有する。これらの貫通孔38の中心は、図2に示すように、回転板体32の回転中心Mから一定の距離、具体的には回転中心Mから鉛直線Kまでの距離の円周Sに沿って配置される。
【0033】
また、本実施形態の回転板体32は、図3に示すように、回転板体32の裏面に開口し、貫通孔38に連通する開口部36を備える。
具体的には、開口部36は、例えばターゲット板23の直径の略2〜3倍の直径で、回転板体32の厚さの略4分の3〜5分の4程度の深さを有する円板状に形成される。そして、開口部36は、図3に示すように、開口部36の中心が貫通孔38の中心の真下に位置するように配置される。この開口部36には、図3に示すように、ターゲット板23が収納される。
【0034】
さらに、回転板体32は、図3に示すように、回転板体32の一部であって、開口部36の側壁39上端から水平方向に突出する部分、すなわち貫通孔38の周囲のドーナツ板状部分41を、後述するシールド部37としている。
また、回転板体32は、後述する連結雄ネジ52を螺合させる螺合孔51(図3参照)を開口部36の周囲に同心円状に配置する。
そして、本実施形態の回転板体32は、基板20や真空チャンバ12と同じ接地電位に接地される。
【0035】
次に、本実施形態の要部であるターゲット支持部40について、図3〜図5を用いて説明する。
本実施形態のターゲット支持部40は、図3及び図4に示すように、バッキングプレート42と、絶縁板44と、補強部材63と、絶縁部材48とを備える。
まず、バッキングプレート42は、図3及び図4に示すように、例えば開口部36の直径よりやや小さい直径でターゲット板23の厚さの2倍程度の厚さを有するCu製の円板体で形成される。そして、バッキングプレート42は、図3及び図4に示すように、その上面の中央部に、例えばターゲット板23より僅かに大きい直径でターゲット板23の厚さの略半分の深さを有する座繰穴43を備える。この座繰穴43にターゲット板23を載置するのである。
また、バッキングプレート42は、図3及び図4に示すように、バッキングプレート42と後述する補強部材63とを連結するための連結ボルト50のネジ部分50bを挿通させるボルト挿通穴45を、座繰穴43の周囲に同心円状に配置して開設する。さらに、バッキングプレート42は、図3及び図4に示すように、連結ボルト50のヘッド50a収納する収納孔55をボルト挿通穴45の上部に開設する。
【0036】
次に、補強部材63は例えばステンレスからなり、図3及び図4に示すように、円板63aと、フランジ63bとで形成される。円板63aは、例えばバッキングプレート42と略同じサイズの円板の中央部に、貫通孔38と略同じ直径の案内孔57を貫通させてドーナツ板状に形成される。そして、円板63aの上端に例えば円板63aの直径の略2倍程度の直径のフランジ63bを一体に設けている。
また、補強部材63は、図3及び図4に示すように、連結ボルト50を螺合させるネジ穴58を、円板63aに同心円状に配置する。さらに、補強部材63は、図3及び図4に示すように、後述する絶縁部材48を挿通させる挿通孔59を、フランジ63bに同心円状に配置する。
【0037】
次に、絶縁板44は例えばセラミックス等の絶縁材からなり、図3及び図4に示すように、補強部材63の直径の略1.5倍の直径と、バッキングプレート42の3分の2の厚さを有する円板状に形成される。そして、絶縁板44は、図3及び図4に示すように、その中央にバッキングプレート42を嵌合させる嵌合孔53を貫通させ、後述する絶縁部材48を挿通させる挿通孔47を、その外周近傍に同心円状に配置する。
【0038】
次に、絶縁部材48は、例えばセラミックス等の絶縁材からなり、図3及び図4に示すように、下端にフランジ48aを備える管体48bよりなる。この管体48bの内側には、ターゲット支持部40を回転板体32に固設するための連結雄ネジ52が挿通される。また、管体48bの長さは、図3に示すように、絶縁板44の厚さと補強部材63(フランジ63b)の厚さとを略加算した長さで形成される。
【0039】
以下に、図3及び図4を用い、これらのバッキングプレート42、絶縁板44、補強部材63並びに絶縁部材48の連結及びターゲット支持部40の回転板体32へ連結について説明する。
まず、バッキングプレート42の下に補強部材63を配置する。その際、バッキングプレート42の中心の真下に補強部材63の中心がくるように配置さる。そして、連結ボルト50をボルト挿通穴45に挿通させつつ、ネジ穴58に螺合させることで、バッキングプレート42と補強部材63とを連結する。このように、バッキングプレート42と補強部材63とを連結するのは、後述するように円筒状のターゲット電極70を上昇させて頭部74をバッキングプレート42の裏面に押し当てる際に、前記裏面を突き上げてバッキングプレート42が上方に湾曲することを抑制するためである。
また、連結ボルト50のヘッド50aは、上述した収納孔55に収納され、図3に示すように、バッキングプレート42の上端面49から突出しない。
【0040】
次に、バッキングプレート42を絶縁板44の嵌合孔53に嵌合させる。
次に、絶縁部材48を補強部材63の挿通孔59及び絶縁板44の挿通孔47に挿通させる。
さらに、連結雄ネジ52を絶縁部材48に挿通しつつ連結雄ネジ52の先端部分を螺合孔51に螺合することにより、ターゲット支持部40が回転板体32に固設される。
このように連結することで、図3に示すように、上述した鉛直線Kが、座繰穴43及び案内孔57の中心を通過する構成となっている。
以上のように構成される、ターゲット支持部40の底面図を図5に示す。
そして、図3に示すように、ターゲット板23は座繰穴43に載置されるのである。
【0041】
このように、ターゲット支持部40は、回転板体32に設けられ、貫通孔38の略真下にターゲット板23を略水平に支持する構成となっているのである。
また、バッキングプレート42は、図3に示すように、絶縁部材48によって回転板体32から絶縁される。すなわち、バッキングプレート42は、ターゲット支持部40に設けられ、ターゲット板23の裏面に当接する導電性のプレートであって、回転板体32から絶縁された構成となっているのである。
【0042】
また、上述した回転板体32のドーナツ板状部分41は、図3に示すように、ターゲット板23の周囲のバッキングプレート42の上端面49をこれと離隔しつつ覆う。その際、ドーナツ板状部分41とターゲット板23との距離並びにドーナツ板状部分41とバッキングプレート42の上端面49との隙間Hは、パッシェンの法則に基づいて成膜時の圧力から放電が発生しないように設定されている。本実施形態において隙間Hは3mm〜5mmとした。
【0043】
また、図3に示すように、ドーナツ板状部分41のエッジ、すなわち貫通孔38の内周とターゲット板23のエッジとの水平距離Dは、1mm〜2mmとすることが好ましい。イオン化されたAr原子が、ターゲット板23の周囲のバッキングプレート42に当たることによりCu原子が飛び出して基板20にスパッタされることを、ドーナツ板状部分41で確実に抑制し、薄膜の品質を向上させるためである。
このように、回転板体32は、貫通孔38の周囲のドーナツ板状部分41を、ターゲット板23の周囲を覆うシールド部37とする構成となっているのである。
【0044】
なお、本実施形態のターゲット支持部40において、バッキングプレート42と補強部材63とを別体で形成しているが、これらを一体に形成する構成であってもよい。
【0045】
次に、フレキシブルチューブ82、昇降部80、ターゲット電極70について図1〜図3を用いて説明する。
本実施形態のフレキシブルチューブ82は、図1に示すように、昇降用孔17と略同じ直径を有する円筒状の蛇腹を備える例えば公知の成形ベローズ管で形成され、その長さが伸縮自在な構成となっている。またフレキシブルチューブ82は、図1に示すように、上端及び下端にそれぞれ鍔89,90を備え、下端側の開放端を閉鎖する閉鎖板91が鍔90を介して固定されている。
そして、フレキシブルチューブ82は、図1に示すように、鉛直線Kが管央を通過するように配置され、鍔89を介して真空チャンバ12の底壁11に固定される。このように、フレキシブルチューブ82の内側は、昇降用孔17を介して真空チャンバ12内と連通する。
【0046】
次に、昇降部80は、図1に示すように、可動支持台85と支持管84とを備える。
可動支持台85は、図1に示すように、水平な天板95と天板95の中央に垂下する円柱体96とを備え、公知の油圧シリンダ機構(図示せず)によって所定の範囲で昇降する。そして、昇降部80は、図1に示すように、フレキシブルチューブ82の下方で鉛直線Kが天板95の中央を通過する位置に配置される。
なお、可動支持台85を昇降させる機構は、油圧シリンダ機構に限るものではなく、ピニオンとラックによりモータ等の回転運動を昇降運動に変換する機構であってもよい。
【0047】
次に、支持管84は、図1に示すように、例えば上端及び下端にフランジ93,94を備える金属製の円筒体で形成される。また、支持管84は、その円筒中空部(図示せず)に連通する配管86を側部に備える。そして、支持管84は、図1に示すように、鉛直線Kが支持管84の中央を通過するように配置され、天板95上面にフランジ94を介してネジ等で固定され、また、上端のフランジ93を介して閉鎖板91に連結される。
なお配管86内を、後述するパイプ72や、ターゲット電極70と電源とを接続する電源コード(図示せず)等が通っている。
【0048】
次に、ターゲット電極70は、図1〜図3に示すように、上端が閉塞された金属筒体で形成される。具体的には、ターゲット電極70は、図1及び図3に示すように、例えば真空チャンバ12の高さの略3分の2の長さと、上述した貫通孔38の直径と略同じ直径を有し、頭部74が閉鎖され、開放端である下端に接続フランジ71を備えるCu製の円筒体よりなる。そして、ターゲット電極70は、図1及び図3に示すように、上述した鉛直線Kが円筒体の中心を通過するように配置され、後述する絶縁管81で支持される。その際、図3に示すように、頭部74がバッキングプレート42の裏面と対向するように配置される。そして、ターゲット電極70は、昇降部80によって昇降し、図3に示すように、上昇する際に頭部74がバッキングプレート42の裏面に当接する。また、ターゲット電極70は、電源(図示せず)に接続され、所定の電圧が印加される。
【0049】
さらに、ターゲット電極70は、図3に示すように、その内側に例えば直線状のパイプ72を備える。このパイプ72は、ターゲット電極70(筒体)を冷却させるための例えば液体窒素N等の冷媒を通すための管であり、上端が液体窒素を噴出させる噴出口を形成し、下端側は配管86を通過して液体窒素を送るポンプに連結される(図示せず)。そして、図3に示すように、上端から液体窒素Nを噴出させてターゲット電極70の内側に当て、ターゲット電極70を冷却する構成となっている。なお、ターゲット電極70の頭部内側は、図3に示すように、下に凸の円錐状73に形成され、液体窒素Nが接触する面積を広くして冷却効果を高めている。
【0050】
また、ターゲット電極70は、図2及び図3に示すように、第1永久磁石75と第2永久磁石76とからなるマグネットを頭部74に備える。
第1永久磁石75は、例えば、上面がS極で底面がN極で円板状に形成されたネオジウム磁石であり、図2及び図3に示すように、頭部74の中央に埋設される。
一方、第2永久磁石76は、上面がN極で下面がS極でリング状に形成されたネオジウム磁石であり、第1永久磁石75を取り巻くように頭部74に埋設される。
このようにマグネットを備えることで、ターゲット板23の表面近傍に磁場を形成できる。すなわち、本実施形態のマルチターゲットスパッタ装置10は、マグネトロンスパッタが可能な構成となっているのである。
なお、頭部74の上面は平坦に形成され、バッキングプレート42の平坦な裏面と頭部74上面との密着性を高めている。
【0051】
次に、絶縁管81はセラミックス等の絶縁材からなり、図1に示すように、例えば上端及び下端にフランジ87,88を備え、ターゲット電極70と略同直径と長さを有する円筒体で形成される。そして、絶縁管81は、図1に示すように、鉛直線Kがその中央を通過する位置に配置され、下端のフランジ88を介して閉鎖板91に連結され、上端のフランジ87を介してターゲット電極70に連結される。絶縁管81の中空部には、上述したパイプ72、上述した液体窒素の回収パイプ(図示せず)や、上述した電源コード等を通過させている。
なお、閉鎖板91には、絶縁管81の中空部と支持管84の中空部とを連通させる連通穴(図示せず)が開設されている。
【0052】
このように連結される支持管84、閉鎖板91、絶縁管81及びターゲット電極70は、図1に示すように、昇降部80が昇降することで一体に昇降し、この昇降の際にフレキシブルチューブ82が伸縮する構成となっている。
そして、図3に示すように、上昇時にターゲット電極70の頭部74をバッキングプレート42の裏面に押し当てる。その際、図1に示すように、ターゲット電極70は、絶縁管81を介して真空チャンバ12と絶縁されるとともに、真空チャンバ12と離隔しつつ昇降してバッキングプレート42の裏面に当接する。したがって、バッキングプレート42を介してターゲット板23を真空チャンバ12や回転板体32に対して負電位等の所定の電位とすることができる。また、フレキシブルチューブ82を伸縮しつつターゲット電極70が昇降するので、真空チャンバ12内の雰囲気を維持しつつターゲット電極70を昇降できる。
【0053】
なお、本実施形態のマルチターゲットスパッタ装置10は、図1及び図2に示すように、基板20とターゲット板23との間の空間を囲繞する円筒状の囲繞部材100を備える。囲繞部材100は、図1及び図2に示すように、基板20とターゲット板23との間の空間を中空部とする両端が開放した導電性の円筒体よりなる。そして、鉛直線Kが前記中空部の中央を通過するように配置され、真空チャンバ12の側壁13から突出する導電性のアーム101で支持される。
したがって、囲繞部材100は、基板20とターゲット板23との間のスパッタ空間を囲繞するので、スパッタの際にターゲット板23からのスパッタ物質を他のターゲット板に対して遮蔽する遮蔽体として機能するのである。
【0054】
また、本実施形態のマルチターゲットスパッタ装置10は、図1及び図2に示すように、ターゲット電極70としての筒体の側面を、接触することなく囲繞する絶縁筒体105を備える。
本実施形態の絶縁筒体105は例えばセラミックス等の絶縁材からなり、図1及び図2に示すように、フランジ部材107を備える管体106からなる。管体106は、例えばターゲット電極70の直径の略2倍の内径と昇降用孔17の直径と略同じ外径で、ターゲット電極70の長さと略同じ管長を有する。フランジ部材107は、図1に示すように、例えば管体106の側面の長さ方向中間位置に、管体106と一体に突設される。そして、絶縁筒体105は、図1に示すように、その下端部分を昇降用孔17に嵌合させ、フランジ部材107を介して底壁11に固設される。
したがって、絶縁筒体105によって、ターゲット電極70(筒体)と、真空チャンバ12或いは回転板体32との間の異常放電を防止することで、マルチターゲットスパッタ装置10の稼動安定性を高めることができる。
【0055】
以上のように構成されるマルチターゲットスパッタ装置10の動作例を主に図1〜図3を用いて説明する。
まず、ターゲット板23をターゲット支持部40にセットし、真空チャンバ12内を真空ポンプにより真空雰囲気とする。
次に、ロードロック室から基板ホルダ14を真空チャンバ12内に侵入させて所定位置に基板20をセットする。
次に、駆動部33により回転板体32を回転させ基板20とターゲット板23とを対向させる(図2参照)。
次に、電源によってターゲット電極70を負電位とするとともに、パイプ72から液体窒素を噴出させてターゲット電極70(筒体)を冷却する。
次に、昇降部80によってターゲット電極70を上昇させる。その際、ターゲット電極70の頭部74が案内孔57通過し、バッキングプレート42の裏面に押し当てられる。このように、ターゲット電極70は、バッキングプレート42を介してターゲット板23を、基板20、真空チャンバ12及び回転板体32に対して負電位とする。
次に、ガス導入管108からArガスを導入する。そうすることにより、イオン化したAr原子がターゲット板23表面に衝突してターゲット板の物質を放出させる。そして、所定の時間シャッタ22を開放して基板20に薄膜を形成する。その際、ターゲット電極70が備えるマグネット(第1永久磁石75,第2永久磁石76)によって前記ターゲット板の表面近傍に磁場を形成し、マグネトロンスパッタリングによりスパッタ効率の向上を図ることができる。
次に、所定の厚さの薄膜形成後に、昇降部80によってターゲット電極70を下降させ、駆動部33によって回転板体32を回転させて次のターゲット板を基板20に対向させる。そして、上述と同様にして、真空チャンバ12内の雰囲気を維持しつつ前記薄膜の上に別の薄膜を形成することができる。
【0056】
このように、本実施形態のマルチターゲットスパッタ装置10は、回転板体32が回転して基板20の下方対向位置にターゲット板23を順次位置させ、昇降部80がターゲット電極70を上昇させてバッキングプレート42の裏面に押し当てる構成となっているのである。
【0057】
これまで説明した実施形態によれば、真空チャンバ12内の雰囲気を維持しつつ順次複数のターゲット板23による成膜が可能であるとともに、構造がシンプルで小型化、低コスト化に優れたマルチターゲットスパッタ装置10を提供できる。
【0058】
また、本実施形態のマルチターゲットスパッタ装置10によれば、イオン化されたArが、接地電位にあるシールド部37によってシールドされる。したがって、イオン化されたArがターゲット板23の周囲のバッキングプレート42の上端面49に衝突することもなく、バッキングプレート42を構成するCu原子等が基板20にスパッタされることがない。
また、ターゲット電極70が冷却されるので、バッキングプレート42を介してターゲット板23を冷却可能となり、スパッタ中のイオン衝撃によってターゲット板23の温度が上昇して割れたり変質したりすることを防止することができる。
また、囲繞部材100により、スパッタ中にスパッタ物質が他のターゲット板に飛翔して付着することによるターゲット板の汚染を防止し、ターゲット板23の品質維持を図ることができる。
さらに、絶縁筒体105によって、例えばターゲット電極70が昇降する際に真空チャンバ12との間で放電することを防止できる。
【0059】
以上、本発明の実施形態のうちいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらはあくまでも例示であり、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
例えば、上記の説明では基板20に対してターゲット電極70及びターゲット板23を負電位とするDCマグネトロンスパッタ方式を前提としたが、これに限るものではなくターゲット電極に高周波回路を接続したRFマグネトロンスパッタ方式であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 マルチターゲットスパッタ装置
12 真空チャンバ
20 基板
23 ターゲット板
32 回転板体
37 シールド部
38 貫通孔
40 ターゲット支持部
42 バッキングプレート
70 ターゲット電極
75,76 マグネット
80 昇降部
100 囲繞部材
105 絶縁筒体
S 円周


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタにより薄膜が形成される基板と、前記薄膜の母材となる複数のターゲット板とを真空チャンバ内に配置し、前記基板の下方対向位置に前記ターゲット板を順次位置させ、前記薄膜を前記基板上に形成するマルチターゲットスパッタ装置において、
前記基板の下方に配置される導電性の板体であって、略水平に回転可能に支持され、前記回転中心から一定の距離の円周に沿って開口した複数の貫通孔を有する回転板体と、
前記回転板体に設けられ、前記貫通孔の略真下に前記ターゲット板を略水平に支持するターゲット支持部と、
前記ターゲット支持部に設けられ、前記ターゲット板の裏面に当接する導電性のプレートであって、前記回転板体から絶縁されたバッキングプレートと、
前記バッキングプレートを介して前記ターゲット板を所定の電位とするターゲット電極と、
前記ターゲット電極を昇降させる昇降部と、を備え、
前記回転板体が回転して前記基板の下方対向位置に前記ターゲット板を順次位置させ、前記昇降部が前記ターゲット電極を上昇させて前記バッキングプレートの裏面に押し当てることを特徴とするマルチターゲットスパッタ装置。
【請求項2】
前記回転板体は、前記貫通孔の周囲部分を、前記ターゲット板の周囲を覆うシールド部とすることを特徴とする請求項1に記載のマルチターゲットスパッタ装置。
【請求項3】
前記ターゲット電極は、頭部が前記バッキングプレートの裏面に当接する筒体を含み、前記筒体を冷却するための冷媒を通すパイプを前記筒体の内側に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチターゲットスパッタ装置。
【請求項4】
前記ターゲット電極は、前記ターゲット板の表面近傍に磁場を形成するマグネットを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマルチターゲットスパッタ装置。
【請求項5】
前記基板と前記ターゲット板との間の空間を囲繞する円筒状の囲繞部材を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のマルチターゲットスパッタ装置。
【請求項6】
前記バッキングプレート及び前記筒体は、Cuからなることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のマルチターゲットスパッタ装置。
【請求項7】
絶縁材からなり、前記筒体の側面を囲繞する絶縁筒体を備えることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載のマルチターゲットスパッタ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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