説明

マルチパス信号判定方法、プログラム及びマルチパス信号判定装置

【課題】演算量を増加させたり、回路規模を増大させることなく、マルチパス信号の判定を適切に行うこと。
【解決手段】受信信号に対する相関演算結果をもとに、Punctual位相の相関値と、Punctual位相からN(0<N<1)チップだけ進んだ位相での相関値との比率である「PE値」と、Early相関値及びLate相関値をIQ座標平面においてプロットした場合の、原点OからEarly相関値及びLate相関値それぞれの位置に向う位置ベクトルの成す角度である「ベクトル角」とを算出する。そして、PE値が判定範囲B,C内か外か、及び、ベクトル角が判定範囲A内か外かの判定結果に応じて、受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信信号がマルチパス信号であるかを判定するマルチパス信号判定方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
測位用信号を利用した測位システムとして、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された測位装置に利用されている。GPSでは、自機の位置を示す3次元の座標値と、時計誤差との4つのパラメータの値を、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から自機までの擬似距離等の情報に基づいて求める測位演算を行うことで、自機の現在位置を測位する。
【0003】
測位用信号を用いた測位に誤差が発生する主要な要因の1つとして、マルチパスがある。マルチパスが生じている環境のことはマルチパス環境と呼ばれる。マルチパス環境とは、測位用信号の発信源(GPSであればGPS衛星)からの直接波に、建物や地面等に反射した反射波や障害物を透過した透過波、障害物を回折した回折波等の間接波が重畳してマルチパス信号として受信される環境のことであり、間接波がエラー信号となって符号の復号が困難となる現象である。
【0004】
このマルチパスの影響を低減させるための技術として、種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、受信信号と、1チップ毎に位相が異なるC/Aコードの複数のレプリカコードそれぞれとの相関演算を行い、相関値がピークになると予想される位相範囲を求め、その位相範囲について、更に、受信信号と、0.1チップ毎に位相の異なる複数のレプリカコードとの相関演算を行って、コード位相を検出する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2000−312163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的に受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定することは難しい。そのために、受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定せず、仮にマルチパス信号であったとしても、測位演算に与える影響を低減させる、いわば防御策的な方法を採るのが一般的である。例えば特許文献1の技術は、受信信号がマルチパス信号である場合であっても適切なコード位相を検出可能とするための技術である。このような防御策的な方法を採用しているために、演算量を増加させたり、回路規模を増大させる、といった種々の代償を払っているのが現状である。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号と、前記拡散符号のレプリカ信号とを、IQ成分それぞれについて相関演算を行うことと、前記相関演算の結果からコード位相を判定することと、前記コード位相から進み及び遅れ方向それぞれにNチップ(0<N<1)離れた進み位相及び遅れ位相それぞれの相関値をIQ座標上にプロットした場合の互いの位置ベクトルの成す角度を算出することと、前記コード位相での相関値である第1相関値と、コード位相からXチップ(0<X<1)ずれた位相での相関値である第2相関値と、コード位相からYチップ(1<Y)ずれた位相での相関値である第3相関値とから、前記第3相関値に対する前記第1相関値と前記第3相関値に対する前記第2相関値との比率を計算することと、前記角度及び前記比率を用いて前記受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定することとを含むマルチパス信号判定方法である。
【0007】
また、第9の発明は、拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号と、前記拡散符号のレプリカ信号とを、IQ成分それぞれについて相関演算を行う相関演算部と、前記相関演算の結果からコード位相を判定するコード位相判定部と、前記コード位相から進み及び遅れ方向それぞれにNチップ(0<N<1)離れた進み位相及び遅れ位相それぞれの相関値をIQ座標上にプロットした場合の互いの位置ベクトルの成す角度を算出する角度算出部と、前記コード位相での相関値である第1相関値と、コード位相からXチップ(0<X<1)ずれた位相での相関値である第2相関値と、コード位相からYチップ(1<Y)ずれた位相での相関値である第3相関値とから、前記第3相関値に対する前記第1相関値と前記第3相関値に対する前記第2相関値との比率を計算する比率計算部と、前記角度及び前記比率を用いて前記受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定するマルチパス信号判定部とを備えたマルチパス信号判定装置である。
【0008】
発明の実施の形態で詳述するように、進み位相及び遅れ位相それぞれの相関値をIQ座標上にプロットした場合の互いの位置ベクトルの成す角度は、受信信号がマルチパス信号で無い(直接波信号)ならば一定値(理論上はゼロ)となり、マルチパス信号ならばsin波に近似される変動をする。また、第3相間値に対する第1相関値と第3相間値に対する第2相関値との比率は、受信信号が直接波信号ならば拡散符号に応じた一定値となり、マルチパス信号ならばsin波に近似される変動をする。このことから、「2つの位置ベクトルの成す角度」及び「2つの相関値の比率」の変動を判定することで、受信信号がマルチパス信号であるかを判定することができる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明のマルチパス信号判定方法であって、前記マルチパス信号であるか否かを判定することは、前記角度が所定の角度変動幅を超える角度であるか否かを判定することと、前記比率が所定の比率変動幅を超える比率であるか否かを判定することと、前記角度が前記所定の角度変動幅を超えており、且つ、前記比率が前記所定の比率変動幅を超えている場合に前記受信信号がマルチパス信号であると判定することとを含むマルチパス信号判定方法である。
【0010】
この第2の発明によれば、2つの位置ベクトルの成す角度が所定の角度変動幅を超えており、且つ、2つの相関値の比率が所定の比率変動幅を超えている場合に、受信信号がマルチパス信号であると判定される。
【0011】
第3の発明は、第2の発明のマルチパス信号判定方法であって、前記測位用信号は測位用衛星からの信号であり、前記測位用衛星ごとに前記拡散符号が異なり、前記所定の角度変動幅及び前記所定の比率変動幅の一方又は両方を、前記測位用衛星に応じて変更することを更に含むマルチパス信号判定方法である。
【0012】
この第3の発明によれば、測位用信号は測位衛星からの信号であるとともに測位用衛星ごとに拡散符号が異なり、所定の角度変動幅及び所定の比率変動幅の一方又は両方が、測位用衛星に応じて変更される。拡散符号が異なると、受信信号がマルチパス信号でない場合の2つの位置ベクトルの成す角度や2つの相関値の比率が異なることがある。このため、測位用衛星に応じて角度変動幅や比率変動幅を変更することで、より精度の高いマルチパス信号の判定が可能となる。
【0013】
第4の発明は、第1の発明のマルチパス信号判定方法であって、前記マルチパス信号であるか否かを判定することは、前記角度が所定の角度変動幅を超える角度であるか否かを判定することと、前記比率が第1の比率変動幅を超える比率であるか否かを判定することと、前記比率が前記第1の比率変動幅より大きい閾値条件である第2の比率変動幅を超える比率であるか否かを判定することと、1)前記角度が前記所定の角度変動幅を超えており、且つ、前記比率が前記第1の比率変動幅を超えている場合、或いは、2)前記比率が前記第2の比率変動幅を超えている場合に、前記受信信号がマルチパス信号であると判定することとを含むマルチパス信号判定方法である。
【0014】
この第4の発明によれば、1)2つの位置ベクトルの成す角度が所定の角度変動幅を超えており、且つ、2つの相関値の比率が第1の比率変動幅を超えている場合、或いは、2)2つの相関値の比率が、第1の比率変動幅より大きい閾値条件である第2の比率変動幅を超えている場合に、受信信号がマルチパス信号であると判定される。
【0015】
第5の発明は、第4の発明のマルチパス信号判定方法であって、前記測位用信号は測位用衛星からの信号であり、前記測位用衛星ごとに前記拡散符号が異なり、前記所定の角度変動幅、前記第1の比率変動幅及び前記第2の比率変動幅のうちの少なくとも1つを、前記測位用衛星に応じて変更することを更に含むマルチパス信号判定方法である。
【0016】
この第5の発明によれば、測位用信号は測位用衛星からの信号であるとともに測位衛星ごとに拡散符号が異なり、所定の角度変動幅、第1の比率変動幅及び第2の比率変動幅のうちの少なくとも1つが、測位用衛星に応じて変更される。拡散符号が異なると、受信信号がマルチパス信号でない場合の2つの位置ベクトルの成す角度や2つの相関値の比率が異なることがある。このため、測位用衛星に応じて角度変動幅や第1の比率変動幅、第2の比率変動幅を変更することで、より精度の高いマルチパス信号の判定が可能となる。
【0017】
第6の発明は、拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号と、前記拡散符号のレプリカ信号とを、IQ成分それぞれについて相関演算を行うことと、前記相関演算の結果からコード位相を判定することと、前記コード位相から進み及び遅れ方向それぞれにNチップ(0<N<1)離れた進み位相及び遅れ位相それぞれの相関値をIQ座標上にプロットした場合の互いの位置ベクトルの成す角度を算出することと、前記角度を用いて前記受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定することとを含むマルチパス信号判定方法である。
【0018】
また、第10の発明は、拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号と、前記拡散符号のレプリカ信号とを、IQ成分それぞれについて相関演算を行う相関演算部と、前記相関演算の結果からコード位相を判定するコード位相判定部と、前記コード位相から進み及び遅れ方向それぞれにNチップ(0<N<1)離れた進み位相及び遅れ位相それぞれの相関値をIQ座標上にプロットした場合の互いの位置ベクトルの成す角度を算出する角度算出部と、前記角度を用いて前記受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定するマルチパス信号判定部とを備えたマルチパス信号判定装置である。
【0019】
発明の実施の形態で詳述するように、進み位相及び遅れ位相それぞれの相関値をIQ座標上にプロットした場合の互いの位置ベクトルの成す角度は、受信信号がマルチパス信号で無い(直接波信号)ならば一定値(理論上はゼロ)となり、マルチパス信号ならばsin波に近似される変動をする。このことから、「2つの位置ベクトルが成す角度」の変動を判定することで、受信信号がマルチパス信号であるかを判定することができる。
【0020】
第7の発明は、拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号と、前記拡散符号のレプリカ信号とを、IQ成分それぞれについて相関演算を行うことと、前記相関演算の結果からコード位相を判定することと、前記コード位相での相関値である第1相関値と、コード位相からXチップ(0<X<1)ずれた位相での相関値である第2相関値と、コード位相からYチップ(1<Y)ずれた位相での相関値である第3相関値とから、前記第3相関値に対する前記第1相関値と前記第3相関値に対する前記第2相関値との比率を計算することと、前記比率を用いて前記受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定することとを含むマルチパス信号判定方法である。
【0021】
第11の発明は、拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号と、前記拡散符号のレプリカ信号とを、IQ成分それぞれについて相関演算を行う相関演算部と、前記相関演算の結果からコード位相を判定するコード位相判定部と、前記コード位相での相関値である第1相関値と、コード位相からXチップ(0<X<1)ずれた位相での相関値である第2相関値と、コード位相からYチップ(1<Y)ずれた位相での相関値である第3相関値とから、前記第3相関値に対する前記第1相関値と前記第3相関値に対する前記第2相関値との比率を計算する比率計算部と、前記比率を用いて前記受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定するマルチパス信号判定部とを備えたマルチパス信号判定装置である。
【0022】
発明の実施の形態で詳述するように、第3相間値に対する第1相関値と第3相間値に対する第2相関値との比率は、受信信号が直接波信号ならば拡散符号に応じた一定値となり、マルチパス信号ならばsin波に近似される変動をする。このことから、「2つの相関値の比率」の変動を判定することで、受信信号がマルチパス信号であるかを判定することができる。
【0023】
第8の発明は、第1〜第7の何れかの発明のマルチパス信号判定方法を、測位装置に内蔵されたプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【0024】
この第8の発明によれば、このプログラムをプロセッサに読み取らせて実行させることで、第1〜第7の何れかの発明と同様の作用効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。なお、以下では、GPS測位機能を有する携帯電話機に本発明を適用した場合を説明するが、本発明の適用可能な実施形態がこれに限定されるものではない。
【0026】
[原理]
(A)マルチパス信号の判定
先ず、受信信号がマルチパス信号であるかの判定方法について説明する。GPS受信機では、測位用衛星であるGPS衛星から送出される測位用信号であるGPS衛星信号の捕捉を、C/Aコードと呼ばれる拡散符号を用いて行う。具体的には、GPS衛星信号は、拡散符号であるC/Aコードで拡散変調されている。このGPS衛星信号の受信信号と、捕捉対象としているGPS衛星(捕捉対象衛星)のGPS衛星信号(捕捉対象衛星信号)のC/Aコードを模擬したレプリカコードとの相関演算を行う。このとき、レプリカコードの周波数及び位相をずらしながら相関演算を行う。相関演算により得られる相関値は、レプリカコードの周波数と受信信号の周波数とが一致し、且つ、レプリカコードの位相と受信信号の位相とが一致した場合に最大となる。相関値が最大となる位相及び周波数を検出することで、GPS衛星信号に含まれるC/Aコードの位相及び搬送波周波数(ドップラ周波数)が得られ、GPS衛星信号が捕捉される。また、C/AコードはGPS衛星毎に異なるコードが予め規定されており、これにより、受信信号から所望のGPS衛星信号を分離・捕捉することが可能となっている。また、最大となった相関値が一定値に満たない場合には、ピークとは判定されず、捕捉対象衛星信号ではないと判定される。この場合には、捕捉対象衛星信号を変えて、再度、相関演算を行う。
【0027】
ところで、GPS衛星は常にその位置が変化しており、GPS衛星とGPS受信機との間の距離(擬似距離)もそれに応じて変化している。このため、GPS受信機では、擬似距離の変化に対応するために、捕捉したGPS衛星信号を追跡(Tracking)する処理を行う。
【0028】
図1は、相関値が最大(ピーク)となる位相(ピーク位相)の検出を説明する図である。同図では、横軸をコード位相、縦軸を相関値として、C/Aコードの自己相関値の一例を示している。同図に示すように、C/Aコードの自己相関値は、ピーク値を頂点とする左右対称の略三角形の形状で表される。つまり、ピーク位相から同じ量だけ位相が遅れた位相での相関値と、進んだ位相での相関値とは等しくなる。
【0029】
このことから、現在追跡しているコード位相(Punctual位相)に対して、一定量(例えば、1/3チップ)だけ進んだ位相(Early位相)と、遅れた位相(Lata位相)それぞれでの相関値を算出する。そして、Late位相の相関値(Late相関値)Plと、Early位相の相関値(Early相関値)Peとが等しくなるように、Punctual位相を制御する。具体的には、同図(a)に示すように、Early相関値PeとLate相関値Plとが一致する場合には、Punctual位相Ppがピーク位相に一致しているとみなす。また、同図(b)に示すように、Early相関値PeがLate相関値Plより大きい場合には、Punctual位相がピーク位相より遅れているため、Punctual位相を進ませる。また、同図(c)に示すように、Early相関値PeがLate相関値Plより小さい場合には、Punctual位相がピーク位相より進んでいるため、Punctual位相を遅らせる。
【0030】
ところで、マルチパス環境では、GPS受信機で受信される信号(受信信号)は、GPS衛星から送信されるGPS衛星信号(直接波信号)に、建物や地面等に反射した反射波や障害物を透過した透過波、障害物を回折した回折波等の間接波信号が重畳した信号(マルチパス信号)となる。
【0031】
図2は、マルチパス信号に対する相関結果を示す図であり、直接波信号と、間接波信号と、この直接波信号と間接波信号とを合成(重畳)したマルチパス信号とのそれぞれの相関値のグラフを示している。同図に示すように、間接波信号に対する相関値は、直接波信号に対する相関値と同様に略三角形の形状をなしているが、間接波信号の相関値のピーク値(相関ピーク値)の大きさは、直接波信号の相関ピーク値よりも小さい。これは、GPS衛星から送出されたGPS衛星信号が、建物や地面に反射したり障害物を透過すること等によって信号強度が弱められていることによるものである。また、間接波信号のピーク位相は、直接波信号のピーク位相よりも遅れている。これは、GPS衛星から送出されたGPS衛星信号が、建物や地面に反射したり障害物を回折すること等によってGPS衛星からGPS受信機までの伝播経路が長くなったことによるものである。そして、マルチパス信号に対する相関値は、直接波信号の相関値と間接波信号の相関値との和となるため、三角形状が歪んでピーク値を中心とした左右対称とはならない。このため、図3に示すように、マルチパス信号におけるPunctual位相はピーク位相に一致しない。このピーク位相とPunctual位相との位相差を、以下、「誤差ERR」という。なお、間接波信号は直接波信号に対して遅れ位相であり、間接波信号の相関ピーク値は直接波信号の相関ピーク値よりも小さい。このため、Punctual位相はピーク位相に対して遅れ位相となる。
【0032】
本実施形態では、2つのパラメータ「PE値」及び「ベクトル角」を定義し、これをもとに、受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定するとともに、コード位相の誤差ERRを算出して信号捕捉・追尾によって得られたコード位相の補正を行う。
【0033】
図4は、PE値の定義を説明する図であり、受信信号に対する相関結果の一例を示している。同図において、Punctual位相の相関値(Punctual相関値)Pp、Punctual位相から1チップ以上進んだ位相での相関値Pn、Punctual位相からNチップだけ進んだコード位相での相関値Paから、式(1)でPE値を定義する。但し、0<N<1、であり、同図では、N=2/3、の場合を示している。すなわち、PE値は、相関値Pnに対するPunctual相関値Ppと、相関値Pnに対する相関値Paとの比率を表す。相関値Pnは、Punctual位相から1チップ以上離れた位相の相関値であるため、ノイズフロアに対する相関値といえる。
PE=(Pp−Pn)/(Pa−Pn) ・・(1)
【0034】
そして、このPE値と誤差ERRとの間には次のような関係がある。図5は、マルチパスの影響が“無し”の状態から“有り”の状態に変化させた場合の、受信信号のPE値と誤差ERRとの関係を示す図である。同図では、横軸を共通の時間軸として、実線がPE値の時間変化を示し、破線が誤差ERRの時間変化を示している。
【0035】
同図によれば、マルチパスの影響が“無し”の状態では、GPS受信機における受信信号は直接波信号のみでなる。この場合、誤差ERRはほぼゼロであり、PE値は一定値である。これは、直接波信号の相関値のカーブの形状が時間経過によって変化しないためである。但し、PRNコードに応じてこの三角形の傾斜の程度が異なるため、PE値は、GPS衛星に応じて異なることとなる。
【0036】
一方、マルチパスの影響が“有り”の状態では、受信信号は、直接波信号に間接波信号が重畳されたマルチパス信号となる。この場合、誤差ERR及びPE値は、ともに時間経過に伴って変動する。これは、GPS衛星やGPS受信機が移動することによりGPS衛星信号とGPS受信機との相対位置関係が変化することで間接波信号が変動し、マルチパス信号のカーブの相関値の形状が変化するためである。つまり、図4における受信信号の相関値Pp,Paが変化するからである。このPE値の変動はsin波で近似可能であり、その振幅は、直接波信号と間接波信号との信号強度関係や搬送周波数の差によって決まる。また、PE値と誤差ERRとは、ほぼ同様な時間変動をする。つまり、誤差ERRが増加するとPE値も増加し、逆に、誤差ERRが減少するとPE値も減少する。
【0037】
ベクトル角は、次のように定義される。図6は、直接波信号の相関結果を示す図である。同図(a)は、直接波信号のコード位相に対する相関値のグラフを示し、同図(b)は、同図(a)における各コード位相の相関値Pを、横軸を相関値のQ成分、縦軸を相関値のI成分とするIQ座標平面にプロットした図である。なお、相関値P=√(I+Q)、である。同図(b)によれば、直接波信号の相関値Pは、IQ座標平面において、原点Oを通る略直線状に分布する。すなわち、コード位相CP0,CP4の相関値P0,P4は、I成分及びQ成分がともにゼロであり、IQ座標平面では原点Oにプロットされる。また、コード位相CP1〜CP3の相関値P1〜P3は、I成分及びQ成分がともにゼロでないため、原点Oから離れた位置にプロットされ、特に、相関値Pが最大となるコード位相(ピーク位相)CP2の相関値P2は、原点Oから最も遠い位置にプロットされる。つまり、コード位相の負方向から正方向にかけて、ピーク位相CP2から1チップ以上進んだ位相CP0から1チップ以上遅れた位相CP4までの相関値Pは、IQ座標平面において、原点Oから離れるように移動し、ピーク位相で最も遠い位置に到達した後、再度、原点Oに戻るような略直線状の軌跡を描く。なお、この相関値Pが描く略直線状の軌跡は、同図ではQ軸に対して約45度の角度を成すこととしているが、直接波信号の搬送波の位相やIQ座標系のとり方等に応じて異なるものとなる。
【0038】
図7は、図2,図3に示した直接波信号に間接波信号を合成したマルチパス信号の相関結果である。図7(a)は、マルチパス信号のコード位相に対する相関値のグラフを示し、同図(b)は、同図(a)における各コード位相の相関値をIQ座標平面にプロットした図である。同図(b)によれば、マルチパス信号の相関値Pは、IQ座標平面において閉曲線の軌跡を描くように分布する。すなわち、コード位相CP0は、相関値P0のI成分及びQ成分がともにゼロであり、IQ座標平面の原点Oにプロットされる。また、コード位相CP1〜CP4の相関値P1〜P4は、I成分及びQ成分がともにゼロでないため、原点Oから離れた位置にプロットされ、特に、ピーク位相CP2の相関値P2は、原点Oから最も遠い位置にプロットされる。つまり、マルチマス信号の相関値Pは、原点Oから離れるように移動し、ピーク位相で最も遠い位置に達した後、再度、原点Oに戻るような閉曲線の軌跡を描く。
【0039】
また、マルチパス信号の相関値Pのうち、Early,Late相関値PのそれぞれをIQ座標平面にプロットすると、図8に示すようになる。同図(a)は、マルチパス信号に対する相関値を示し、同図(b)は、同図(a)における各コード位相の相関値をIQ座標平面にプロットした図である。同図(b)において、原点OからEarly相関値Peの位置に向う位置ベクトルを「Early相関ベクトル」とし、Late相関値Plの位置に向う位置ベクトルを「Late相関ベクトル」とする。そして、このEarly相関ベクトルとLate相関ベクトルとの成す角度θを「ベクトル角」と定義する。なお、相関値Pl,Peは等しいため、IQ座標平面におけるEarly相関ベクトル及びLate相関ベクトルの大きさは等しい。
【0040】
そして、このベクトル角と誤差ERRとの間には次のような関係がある。図9は、マルチパスの影響が“有り”の状態から“無し”の状態に変化させた場合の、ベクトル角と誤差ERRとの関係を示す図である。同図では、横軸を共通の時刻として、実線がベクトル角の時間変化を示し、破線が誤差ERRの時間変化を示している。
【0041】
マルチパスの影響が“無し”の状態では、受信信号は直接波信号のみとなる。この場合、誤差ERRはゼロであり、ベクトル角は一定値(理論上ではゼロ)となる。これは、図6に示したように、直接波信号の相関値Pは、IQ座標平面において、略直線状の軌跡を描くように分布するためである。なお、理論上では、直接波信号に対するEarly相関値とLate相関値とは等しいためにベクトル角はゼロであるが、実際には、所定の位相幅で位相をずらしながら相関演算を行うことから、ハードウェアの性能に応じて決まる一定値となる。
【0042】
一方、マルチパスの影響が“有り”の状態では、受信信号はマルチパス信号となり、誤差ERR及びベクトル角は、ともに時間経過に従って変動する。このベクトル角の変化は、sin波で近似可能であり、その振幅は、直接波信号と間接波信号との信号強度の関係や、搬送波周波数の差によって決まる。また、マルチパスの影響が“有り”の状態では、ベクトル角と誤差ERRとの間には、誤差ERRが大きくなるほど、ベクトル角は、マルチパスの影響が“無し”の状態(ゼロに近い一定値)に近づき、逆に、誤差ERRが小さくなるほど、ベクトル角は大きくなるように変化する。
【0043】
このようなPE値及びベクトル角それぞれと誤差ERRとの関係から、受信信号がマルチパス信号であるかを判定する。また、誤差ERRの大きさが充分大きい場合には、マルチパス信号であると判定する。
【0044】
具体的には、図10に示すように、PE値及びベクトル角に対して判定範囲を定める。
同図は、マルチパスの影響が“無し”の状態から“有り”の状態に変化させた場合の、誤差ERR、PE値及びベクトル角それぞれの時間変化を示す図であり、横軸を共通の時間軸として、破線が誤差ERRの時間変化を示し、実線がPE値の時間変化を示し、一点鎖線がベクトル角の時間変化を示している。
【0045】
同図に示すように、PE値に対する判定範囲B,Cを定める。この判定範囲B,Cは中心値が共通な範囲であり、この中心値は、受信信号が直接波信号のみでなる場合のPE値(すなわち、直接波信号に含まれるC/Aコードに応じた所定値)に等しい。また、判定範囲Cの幅は、判定範囲Bの幅より大きく定められている。ところで、直接波信号に対するPE値は、当該直接波信号に含まれるGPS衛星信号のC/Aコードに応じて異なる。このため、判定範囲B,Cの中心値は、捕捉対象のGPS衛星に応じて異なる値となる。また、ベクトル角に対する判定範囲Aを定める。この判定範囲Aの中心値は、受信信号が直接波信号でなる場合のベクトル角の値に等しい。
【0046】
そして、「条件A:PE値が判定範囲B外であり、且つ、ベクトル角が判定範囲A外である」或いは「条件B:PE値が判定範囲C外である」の少なくとも一方の条件を満たすならば、受信信号はマルチパス信号であると判断し、何れも満たさないならば、マルチパス信号でないと判断する。これは、次の理由による。
【0047】
マルチパスの影響が“無し”の状態では、PE値は、捕捉対象衛星に応じた一定値となり、また、ベクトル角は一定値(理論上は、ゼロ)となる。つまり、「条件A」及び「条件B」がともに満たされず、マルチパス信号でないと判定される。一方、マルチパスの影響が“有り”の状態では、PE値は誤差ERRに略一致した変化をし、また、ベクトル角の絶対値は、誤差ERRの絶対値が大きくなるに従って小さくなるとともに、誤差ERRの絶対値が小さくなるに従って大きくなるように変化する。つまり、誤差ERRとベクトル角との関係から、マルチパス信号であっても「条件A」が満たされない場合がある。例えば同図において、時刻t1,t3,t5のそれぞれの付近の期間は、「条件A」が満たされないが、誤差ERRの絶対値が大きい期間である。このため、「条件B」によって、ベクトル角の値に関わらず、PE値がある程度大きい場合にはマルチパス信号であると判定するようにしている。
【0048】
(B)誤差ERRの補正
次いで、受信信号がマルチパス信号と判定された場合のコード位相の補正について説明する。図5に示したように、PE値及び誤差ERRのそれぞれの時間経過に対する変化(増減方向)は略一致する。このため、誤差ERRは、次式(2)に従って算出することができる。
ERR=(PE−Offset)/k ・・(2)
上述のように、直接波信号に対するPE値はGPS衛星信号のPRNコードに応じて異なる。式(2)における「Offset」は、このPRNコード毎に異なるPE値を調整するためのオフセット値である。また、「k」は、スケール変換のための係数である。そして、図3に示したように、信号追跡によって得られたコード位相であるPunctual位相を誤差ERRだけ進ませることで、実際のピーク位相を得ることができる。
【0049】
[構成]
図11は、GPS受信機である携帯電話機1の内部構成を示すブロック図である。同図によれば、携帯電話機1は、GPSアンテナ10と、GPS受信部20と、ホストCPU(Central Processing Unit)51と、操作部52と、表示部53と、ROM(Read Only Memory)54と、RAM(Random Access Memory)55と、携帯用無線通信回路部60と、携帯用アンテナ70とを備えて構成される。
【0050】
GPSアンテナ10は、GPS衛星から送信されているGPS衛星信号を含むRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナである。なお、GPS衛星信号は、PRNコードであるC/Aコードによってスペクトラム変調された信号であり、1.57542[GHz]を搬送波周波数とするL1帯の搬送波に重畳されている。
【0051】
GPS受信部20は、GPSアンテナ10で受信されたRF信号からGPS衛星信号を捕捉・抽出し、GPS衛星信号から取り出した航法メッセージ等に基づく測位演算を行って現在位置を算出する。このGPS受信部20は、RF受信回路部30と、ベースバンド処理回路部40とを有する。
【0052】
RF受信回路部30は、SAW(Surface Acoustic Wave)フィルタ31と、LNA(Low Noise Amplifier)32と、局部発振信号生成部33と、乗算部34と、増幅部35と、A/D変換部36とを有し、いわゆるスーパーヘテロダイン方式によって信号受信を行う。
【0053】
SAWフィルタ31は、バンドパスフィルタであり、GPSアンテナ10から入力されるRF信号に対して所定帯域の信号を通過させ、帯域外の周波数成分を遮断して出力する。LNA32は、低雑音アンプであり、SAWフィルタ31から入力される信号を増幅して出力する。局部発振信号生成部33は、LO(Local Oscillator)等の発振器で構成され、局部発振信号を生成する。乗算部34は、複数の信号を合成する乗算器を有して構成され、LNA32から入力されるRF信号に局部発振信号生成部33で生成された局部発振信号を乗算(合成)して中間周波数の信号(IF信号)にダウンコンバージョンする。なお、図示されていないが、乗算部34では、位相を互いに90度ずらした局部発振信号それぞれをRF信号と乗算することによって、受信信号をIF信号にダウンコンバージョンするとともに、同相成分(I信号)と直交成分(Q信号)とに分離する。増幅部35は、乗算部34から入力されたIF信号(I信号及びQ信号)を所定の増幅率で増幅する。A/D変換部36は、増幅部35から入力された信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換する。従って、RF受信回路部30からは、IF信号のI信号とQ信号とが出力される。
【0054】
ベースバンド処理回路部40は、RF受信回路部30から入力されるIF信号からGPS衛星信号を捕捉・追尾し、データを復号して取り出した航法メッセージや時刻情報等に基づいて擬似距離の算出演算や測位演算等を行う。図12に、ベースバンド処理回路部40の回路構成を示す。同図に示すように、ベースバンド処理回路部40は、メモリ41と、レプリカコード生成部42と、相関演算部43と、CPU44と、ROM45と、RAM46とを有する。
【0055】
メモリ41は、RF受信回路部30から入力されたIF信号のI信号及びQ信号それぞれを、所定時間間隔でサンプリングして格納する。レプリカコード生成部42は、CPU44からの制御信号に従って、捕捉対象のGPS衛星のGPS衛星信号のPRNコードを模擬したレプリカコード(レプリカ信号)を生成・出力する。相関演算部43は、メモリ41に格納されているIF信号のI信号及びQ信号それぞれのサンプリングデータと、レプリカコード生成部42から入力されたレプリカコードとの相関演算を、レプリカコードの位相をずらしながら行う。
【0056】
CPU44は、ベースバンド処理回路部40の各部を統括的に制御するとともに、ベースバンド処理を含む各種演算処理を行う。ベースバンド処理では、CPU44は、レプリカコード生成部42に、捕捉対象のGPS衛星信号に該当するC/Aコードのレプリカコードを生成させる。そして、相関演算部43による相関演算結果(相関値)をもとに、GPS衛星信号に含まれるC/Aコード及びコード位相を検出してGPS衛星信号を捕捉・追跡する。GPS衛星信号の追跡は、図1を参照して説明したように、現在追跡している位相(Punctual位相)の相関値を、Late相関値及びEarly相関値とが一致するように可変することで行う。捕捉に成功したGPS衛星についてのデータ(衛星番号等)は、捕捉衛星データ461に格納される。
【0057】
また、受信信号に対する相関結果にもとづいて、測位演算用のメジャメント情報を決定する。メジャメント情報とは、CPU44が測位演算において使用する受信信号に関する情報であり、受信信号の受信周波数やコード位相の情報が含まれる。このメジャメント情報は、メジャメント情報462に格納される。
【0058】
次いで、CPU44は、捕捉したGPS衛星からの受信信号がマルチパス信号であるかを判定するマルチパス判定処理を行う。マルチパス判定処理では、先ず、PE値を算出する。すなわち、図4を参照して説明したように、追跡しているコード位相(Punctual位相)の相関値Ppと、このPunctual位相から2/3チップ進んだ位相の相関値Paと、Punctual位相から1チップ以上進んだ位相の相関値Pnを求め、式(1)に従ってPE値を算出する。
【0059】
また、CPU44は、ベクトル角を算出する。すなわち、図8を参照して説明したように、IQ座標平面において、Late相関値及びEarly相関値をプロットし、原点OからLate相関値の位置に向うLate相関ベクトルと、Early相関値の位置に向うEarly相関ベクトルとの成す角度θを「ベクトル角」とする。
【0060】
次いで、算出したPE値及びベクトル角値それぞれを、予め定められた判定範囲A〜Cと比較して、フラグF1〜F3を設定する。すなわち、PE値を判定範囲B,Cそれぞれと比較して、判定範囲B外ならばフラグF2を「1」に設定し、判定範囲C外ならばフラグF3を「1」に設定する。また、ベクトル角を判定範囲Aと比較し、判定範囲A外ならばフラグF1を「1」に設定する。なお、フラグF1〜F3は、初期値として「0」が設定されている。フラグF1〜F3の設定値は、フラグデータ463に格納される。
【0061】
判定範囲A〜Cは、フラグ判定範囲テーブル452で定義されている。図13に、フラグ判定範囲テーブル452のデータ構成の一例を示す。フラグ判定範囲テーブル452は、GPS衛星それぞれについて、判定範囲A〜Cそれぞれの中心値と、この中心値を基準とした正方向及び負方向それぞれへの幅とを対応付けて格納している。
【0062】
そして、CPU44は、フラグF1〜F3の設定値の組合せをもとに、受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定する。すなわち、「条件A:フラグF1,F2がともに「1」」或いは「条件B:フラグF3が「1」」の少なくとも一方を満たすならば、マルチパス信号であると判定し、そうでないならば、マルチパス信号でないと判定する。
【0063】
このマルチパス判定処理によって受信信号がマルチパス信号であると判定したならば、続いて、誤差補正処理を行う。誤差補正処理では、マルチパス判定処理において算出したPE値をもとに、式(2)に従ってコード位相の誤差ERRを算出する。このとき、PEオフセットテーブル453を参照して、捕捉対象衛星に応じたPEオフセットOffsetを用いて誤差ERRを算出する。
【0064】
PEオフセットテーブルは、GPS衛星それぞれのPEオフセットOffsetを定義したデータテーブルである。図14に、PEオフセットテーブル453のデータ構成の一例を示す。PEオフセットテーブル453は、GPS衛星毎に、PEオフセットを対応付けて格納している。
【0065】
誤差ERRを算出すると、CPU44は、算出した誤差ERRだけコード位相を進ませて、捕捉したGPS衛星についてのメジャメント情報を補正する。そして、補正後のメジャメント情報をもとに、捕捉したGPS衛星信号のデータを復号して航法メッセージを取り出し、擬似距離を算出して携帯電話機1の現在位置を測位する測位演算を行う。算出された測位位置は、測位結果データ464に格納される。
【0066】
ROM45は、CPU44がベースバンド処理回路部40及びRF受信回路部30の各部を制御するためのシステムプログラムや、ベースバンド処理を含む各種処理を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。図15に、ROM45の構成を示す。同図によれば、ROM45には、プログラムとしてベースバンド処理を実現するためのベースバンドプログラム451が記憶されるとともに、データとして、フラグ判定範囲テーブル452と、PEオフセットテーブル453とが記憶される。
【0067】
RAM46は、CPU44の作業領域として用いられ、ROM45から読み出されたプログラムやデータ、CPU44が各種プログラムに従って実行した演算結果等を一時的に記憶する。図16に、RAM46の構成を示す。同図によれば、RAM46には、捕捉衛星データ461と、メジャメント情報462と、フラグデータ463と、測位結果データ464とが記憶される。
【0068】
図11に戻り、ホストCPU51は、ROM54に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯電話機1の各部を統括的に制御する。具体的には、主に、電話機としての通話機能を実現するとともに、ベースバンド処理回路部40から入力された携帯電話機1の現在位置を地図上にプロットしたナビゲーション画面を表示部53に表示させるといったナビゲーション機能を含む各種機能を実現するための処理を行う。
【0069】
操作部52は、操作キーやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、利用者による操作に応じた操作信号をホストCPU51に出力する。この操作部52の操作により、測位の開始/終了指示等の各種指示が入力される。表示部53は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成される表示装置であり、ホストCPU51から入力される表示信号に基づく表示画面(例えば、ナビゲーション画面や時刻情報等)を表示する。
【0070】
ROM54は、ホストCPU51が携帯電話機1を制御するためのシステムプログラムや、ナビゲーション機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。RAM55は、ホストCPU51の作業領域として用いられ、ROM54から読み出されたプログラムやデータ、操作部52から入力されたデータ、ホストCPU51が各種プログラムに従って実行した演算結果等を一時的に記憶する。
【0071】
携帯用無線通信回路部60は、RF変換回路やベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話用の通信回路部であり、ホストCPU51の制御に従って無線信号の送受信を行う。携帯用アンテナ70は、携帯電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0072】
[処理の流れ]
図17は、CPU44が実行するベースバンド処理の流れを説明するためのフローチャートである。同図によれば、CPU44は、先ず。アルマナック等のGPS衛星の軌道情報に基づいて捕捉対象衛星を選定する(ステップA1)。そして、選択した各捕捉対象衛星を対象としたループAの処理を行う。
【0073】
ループAでは、レプリカコード生成部42に対して、対象の捕捉対象衛星に応じたC/Aコードのレプリカコードを生成させ、相関演算部43から入力される捕捉対象衛星からの受信信号に対する相関演算結果をもとに、測位演算用のメジャメント情報を算出する(ステップA3)。すなわち、相関値がピーク相関値をとる受信周波数及び位相を特定して、当該捕捉対象衛星のメジャメント情報とする。全ての捕捉対象衛星を対象としたループAの処理を終了すると、これらの捕捉対象衛星のうち、捕捉された各GPS衛星(捕捉衛星)を対象としたループBの処理を行う。ループBでは、対象の捕捉衛星からの受信信号がマルチパス信号であるかを判定するマルチパス検出処理を行う(ステップA5)。
【0074】
図18は、マルチパス検出処理のフローチャートである。同図によれば、CPU44は、先ず、フラグF1〜F3の全てを「0」に初期設定する(ステップB1)。続いて、相関演算部43から入力される対象の捕捉衛星からの受信信号に対する相関結果をもとに、PE値を算出する(ステップB3)。また、相関演算部43から入力される、Early相関値及びLate相関値をもとに、ベクトル角を算出する(ステップB5)。
【0075】
次いで、フラグ判定範囲テーブル452を参照して、算出したPE値を所定の判定範囲B,Cそれぞれと比較し、PE値が判定範囲B外ならば(ステップB7:YES)、フラグF2を「1」に設定するとともに(ステップB9)、判定範囲C外ならば(ステップB11:YES)、フラグF3を「1」に設定する(ステップB13)。また、算出したベクトル角を所定の判定範囲Aと比較し、判定範囲A外ならば(ステップB15:YES)、フラグF1を「1」に設定する(ステップB17)。
【0076】
そして、フラグF1〜F3の設定値をもとに、対象の捕捉衛星からの受信信号がマルチパス信号であるか否かを判断する。すなわち、「条件A:フラグF1,F2がともに「1」である」或いは「条件B:フラグF3が「1」である」の少なくとも一方を満たすならば(ステップB19:YES)、受信信号はマルチパス信号であると判断し(ステップB21)、ともに満たさないならば(ステップB19:NO)、マルチパス信号でないと判断する(ステップB23)。以上の処理を行うと、マルチパス検出処理を終了する。
【0077】
このマルチパス検出処理の結果、マルチパス信号であると判定したならば(ステップA7:YES)、続いて、メジャメント情報の誤差を補正する誤差補正処理を行う。すなわち、CPU44は、PEオフセットテーブル453を参照して、対象の捕捉衛星のPRNコードに対応するPEオフセットを読み出し(ステップA9)。読み出したPEオフセットと、対象の捕捉衛星のPE値とをもとに、式(1)に従って誤差ERRを算出する(ステップA11)。そして、コード位相を算出した誤差ERRだけ進めて、対象の捕捉衛星のメジャメント情報を補正する(ステップA13)。
【0078】
全ての捕捉衛星を対象としたループBの処理を終了すると、CPU44は、各捕捉衛星のメジャメント情報を用いて携帯電話機1の現在位置を算出する測位演算を行い(ステップA15)、算出した測位位置をホストCPU51に出力する(ステップA17)。その後、測位を終了するか否かを判断し、終了しないならば(ステップA19:NO)、ステップA1に戻り、終了するならば(ステップA19:YES)、ベースバンド処理を終了する。
【0079】
[作用・効果]
本実施形態によれば、受信信号に対する相関演算結果をもとに、Punctual位相の相関値と、Punctual位相からN(0<N<1)チップだけ進んだ位相での相関値との比率である「PE値」が算出される。また、Early相関値及びLate相関値をIQ座標平面においてプロットした場合の、原点OからEarly相関値及びLate相関値それぞれの位置に向う位置ベクトルの成す角度である「ベクトル角」とが算出される。そして、このPE値が判定範囲B,C内か外か、及び、ベクトル角が判定範囲A内か外かの判定結果に応じて、受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定することができる。マルチパス信号であると判定した場合には、誤差ERRを算出してコード位相を適切に補正することができる。この結果、携帯電話機1がマルチパス環境に位置している場合であっても、測位精度を向上させることが可能となる。
【0080】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0081】
(A)マルチパス信号の判定
例えば、上述の実施形態では、二つの条件(条件A,B)の少なくとも一方が満たされる場合に、受信信号がマルチパス信号であると判定することにしたが、これを、一方の条件のみを用いて判定することにしても良い。この場合、判定範囲A,B,Cの範囲を、大きくするように定めても良いし、小さくするように定めても良い。
【0082】
(B)電子機器
また、上述の実施形態では、GPS機能を有する携帯電話機について説明したが、例えば携帯型のナビゲーション装置や車載用のナビゲーション装置、PDA(Personal Digital Assistants)、腕時計といった他の電子機器についても同様に適用することが可能である。
【0083】
(C)適用可能なシステム
また、上述の実施形態では、GPSを利用した場合を説明したが、例えば、GPSと同じCDMA方式を用いたGALILEOといった他の衛星測位システムにも同様に適用可能なのは勿論である。更には、衛星測位システムに限らず、直接スペクトラム拡散方式により変調された信号が送出されるシステム、例えばIEEE802.11b規格の無線LANの無線信号を測位用信号として用いるシステムにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】相関値のピーク検出の説明図。
【図2】マルチパス信号に対する相関結果の一例。
【図3】誤差ERRの説明図。
【図4】PE値の定義の説明図。
【図5】PE値と誤差ERRの関係図。
【図6】直接波信号に対する相関結果の一例。
【図7】マルチパス信号に対する相関結果の一例。
【図8】ベクトル角の定義の説明図。
【図9】ベクトル角と誤差ERRの関係図。
【図10】受信信号がマルチパス信号であるかの判定の説明図。
【図11】携帯電話機の内部構成図。
【図12】ベースバンド処理回路部の回路構成図。
【図14】PEオフセットテーブルのデータ構成例。
【図13】フラグ判定範囲テーブルのデータ構成例。
【図15】ROMの構成例。
【図16】RAMの構成例。
【図17】ベースバンド処理のフローチャート。
【図18】ベースバンド処理中に実行されるマルチパス検出処理のフローチャート。
【符号の説明】
【0085】
1 携帯電話機、 20 GPS受信部、 30 RF受信回路部、
40 ベースバンド処理回路部、 42 レプリカコード生成部、 43 相関演算部、
44 CPU、 45 ROM、 451 ベースバンドプログラム、
452 フラグ判定範囲テーブル、 453 PEオフセットテーブル、 46 RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号と、前記拡散符号のレプリカ信号とを、IQ成分それぞれについて相関演算を行うことと、
前記相関演算の結果からコード位相を判定することと、
前記コード位相から進み及び遅れ方向それぞれにNチップ(0<N<1)離れた進み位相及び遅れ位相それぞれの相関値をIQ座標上にプロットした場合の互いの位置ベクトルの成す角度を算出することと、
前記コード位相での相関値である第1相関値と、コード位相からXチップ(0<X<1)ずれた位相での相関値である第2相関値と、コード位相からYチップ(1<Y)ずれた位相での相関値である第3相関値とから、前記第3相関値に対する前記第1相関値と前記第3相関値に対する前記第2相関値との比率を計算することと、
前記角度及び前記比率を用いて前記受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定することと、
を含むマルチパス信号判定方法。
【請求項2】
前記マルチパス信号であるか否かを判定することは、
前記角度が所定の角度変動幅を超える角度であるか否かを判定することと、
前記比率が所定の比率変動幅を超える比率であるか否かを判定することと、
前記角度が前記所定の角度変動幅を超えており、且つ、前記比率が前記所定の比率変動幅を超えている場合に前記受信信号がマルチパス信号であると判定することと、
を含む請求項1に記載のマルチパス信号判定方法。
【請求項3】
前記測位用信号は測位用衛星からの信号であり、前記測位用衛星ごとに前記拡散符号が異なり、
前記所定の角度変動幅及び前記所定の比率変動幅の一方又は両方を、前記測位用衛星に応じて変更することを更に含む請求項2に記載のマルチパス信号判定方法。
【請求項4】
前記マルチパス信号であるか否かを判定することは、
前記角度が所定の角度変動幅を超える角度であるか否かを判定することと、
前記比率が第1の比率変動幅を超える比率であるか否かを判定することと、
前記比率が前記第1の比率変動幅より大きい閾値条件である第2の比率変動幅を超える比率であるか否かを判定することと、
1)前記角度が前記所定の角度変動幅を超えており、且つ、前記比率が前記第1の比率変動幅を超えている場合、或いは、2)前記比率が前記第2の比率変動幅を超えている場合に、前記受信信号がマルチパス信号であると判定することと、
を含む請求項1に記載のマルチパス信号判定方法。
【請求項5】
前記測位用信号は測位用衛星からの信号であり、前記測位用衛星ごとに前記拡散符号が異なり、
前記所定の角度変動幅、前記第1の比率変動幅及び前記第2の比率変動幅のうちの少なくとも1つを、前記測位用衛星に応じて変更することを更に含む請求項4に記載のマルチパス信号判定方法。
【請求項6】
拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号と、前記拡散符号のレプリカ信号とを、IQ成分それぞれについて相関演算を行うことと、
前記相関演算の結果からコード位相を判定することと、
前記コード位相から進み及び遅れ方向それぞれにNチップ(0<N<1)離れた進み位相及び遅れ位相それぞれの相関値をIQ座標上にプロットした場合の互いの位置ベクトルの成す角度を算出することと、
前記角度を用いて前記受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定することと、
を含むマルチパス信号判定方法。
【請求項7】
拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号と、前記拡散符号のレプリカ信号とを、IQ成分それぞれについて相関演算を行うことと、
前記相関演算の結果からコード位相を判定することと、
前記コード位相での相関値である第1相関値と、コード位相からXチップ(0<X<1)ずれた位相での相関値である第2相関値と、コード位相からYチップ(1<Y)ずれた位相での相関値である第3相関値とから、前記第3相関値に対する前記第1相関値と前記第3相関値に対する前記第2相関値との比率を計算することと、
前記比率を用いて前記受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定することと、
を含むマルチパス信号判定方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載のマルチパス信号判定方法を、測位装置に内蔵されたプロセッサに実行させるためのプログラム。
【請求項9】
拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号と、前記拡散符号のレプリカ信号とを、IQ成分それぞれについて相関演算を行う相関演算部と、
前記相関演算の結果からコード位相を判定するコード位相判定部と、
前記コード位相から進み及び遅れ方向それぞれにNチップ(0<N<1)離れた進み位相及び遅れ位相それぞれの相関値をIQ座標上にプロットした場合の互いの位置ベクトルの成す角度を算出する角度算出部と、
前記コード位相での相関値である第1相関値と、コード位相からXチップ(0<X<1)ずれた位相での相関値である第2相関値と、コード位相からYチップ(1<Y)ずれた位相での相関値である第3相関値とから、前記第3相関値に対する前記第1相関値と前記第3相関値に対する前記第2相関値との比率を計算する比率計算部と、
前記角度及び前記比率を用いて前記受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定するマルチパス信号判定部と、
を備えたマルチパス信号判定装置。
【請求項10】
拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号と、前記拡散符号のレプリカ信号とを、IQ成分それぞれについて相関演算を行う相関演算部と、
前記相関演算の結果からコード位相を判定するコード位相判定部と、
前記コード位相から進み及び遅れ方向それぞれにNチップ(0<N<1)離れた進み位相及び遅れ位相それぞれの相関値をIQ座標上にプロットした場合の互いの位置ベクトルの成す角度を算出する角度算出部と、
前記角度を用いて前記受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定するマルチパス信号判定部と、
を備えたマルチパス信号判定装置。
【請求項11】
拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号と、前記拡散符号のレプリカ信号とを、IQ成分それぞれについて相関演算を行う相関演算部と、
前記相関演算の結果からコード位相を判定するコード位相判定部と、
前記コード位相での相関値である第1相関値と、コード位相からXチップ(0<X<1)ずれた位相での相関値である第2相関値と、コード位相からYチップ(1<Y)ずれた位相での相関値である第3相関値とから、前記第3相関値に対する前記第1相関値と前記第3相関値に対する前記第2相関値との比率を計算する比率計算部と、
前記比率を用いて前記受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定するマルチパス信号判定部と、
を備えたマルチパス信号判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−159261(P2009−159261A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334582(P2007−334582)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】