説明

マルチパス検出装置、測位装置、姿勢方位標定装置、マルチパス検出方法およびマルチパス検出プログラム

【課題】マルチパスの影響が無い搬送波の観測情報に基づいて高精度に位置および姿勢角を標定することを目的とする。
【解決手段】位相差算出部130は各GPS衛星と各GPSアンテナ951との距離を搬送波の数で示す各搬送波位相に基づいて各GPS衛星からの搬送波についてGPSアンテナ951間の搬送波位相の一重差または二重差を算出する。LOSベクトル算出部140は航法メッセージと単独測位結果とに基づいて各GPS衛星に対するLOSベクトルを算出する。基線長算出部150は搬送波位相の一重差または二重差とLOSベクトルとに基づいてGPSアンテナ951間の基線長を算出する。マルチパス判定部160は算出した観測基線長を既知基線長と比較して観測基線長の算出に用いられた各搬送波にマルチパス波が含まれているか判定する。位置姿勢方位標定部120はマルチパス波でない搬送波の観測情報に基づいて位置姿勢を標定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複数のGPS(Global Positioning System)受信機を用いたマルチパス検出装置、マルチパス検出方法、マルチパス検出プログラムおよびマルチパス除去機能のついた測位装置/姿勢方位標定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPSは、アンテナに到達した衛星からの測位信号(搬送波、電波)の伝播時間を計測してアンテナの衛星からの距離を観測し、また測位信号が示す航法メッセージより衛星の位置を計算し、これらの情報を元に三角測量の原理でアンテナの位置を測位するシステムである。GPSにおいて、衛星からの測位信号が直接ではなく、建物等に反射した後にアンテナに到達する事象であるマルチパスは、測位信号の伝播時間に遅延を起こすため、測位精度劣化の大きな原因の一つとなる。
マルチパスを抑制する方法として、グランドプレーン、チョークリングや電波吸収体の設置、アンテナ及び相関器の工夫などがある。しかし、1つの手段だけでマルチパスを完全に検出することは難しく、可能な限りの対策を施すことが理想的である。
また、GPSは姿勢決定に用いることもでき、この場合は必ず複数のアンテナが必要になる。
【特許文献1】特開平11−94573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、例えば、マルチパスの影響が無い搬送波の観測情報に基づいて高精度に位置および姿勢角を標定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のマルチパス検出装置は、複数のGPS(Global Positioning System)アンテナがGPSアンテナ間の相対位置を固定して設置された移動体において各GPS衛星から送信され各GPSアンテナにより受信された各搬送波の中にマルチパス波が含まれているかを検出するマルチパス検出装置であり、各GPS衛星と各GPSアンテナとの距離を搬送波の数で示す搬送波位相の情報を入力し、入力した搬送波位相の情報に基づいてGPSアンテナ間における同じGPS衛星との搬送波位相の差をCPU(Central Proccessing Unit)を用いて算出する位相差算出部と、前記位相差算出部が算出したGPSアンテナ間の搬送波位相の差と任意の方法により特定された特定のGPSアンテナから特定のGPS衛星への方向を示すLOS(Line Of Sight)ベクトルとを入力し、入力した搬送波位相の差と入力したLOSベクトルとに基づいてGPSアンテナ間の距離を示す基線長を観測基線長としてCPUを用いて算出する基線長算出部と、予め算出されたGPSアンテナ間の距離を示す既知基線長と前記基線長算出部が算出した観測基線長とをCPUを用いて比較し、観測基線長が既知基線長より所定の閾値以上異なる場合に当該観測基線長の算出に用いられた各搬送波の中にマルチパス波が含まれていると判定するマルチパス判定部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、例えば、マルチパスの影響が無い搬送波を特定することができるため、マルチパスの影響が無い搬送波の観測情報に基づいて高精度に位置および姿勢角を標定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における位置姿勢標定システム100の構成の概要図である。
位置姿勢標定システム100は図1に示すようなプラットフォーム954が固定して設置された移動体(例えば、車両)の位置(例えば、3次元座標)および姿勢角(例えば、ロール[回転角]、ピッチ[仰角]、ヨー[方位角]の3軸方向の角度)を標定するシステムである。
プラットフォーム954には複数のGPSアンテナ951と3軸方向の角速度を計測するジャイロ953とが固定して配置されている。つまり、複数のGPSアンテナ951間の相対位置関係は拘束されており、変化しない。
【0007】
位置姿勢標定システム100は、相対位置関係が拘束されることにより移動体が移動しても固定であるGPSアンテナ951間の基線ベクトルの長さ(以下、基線長とする)との関係に基づいて、GPS衛星からGPSアンテナ951に到達した測位信号の搬送波がマルチパス波であるか否かを判定する。そして、位置姿勢標定システム100はマルチパス波でないと判定した搬送波についてGPS受信機952で得られたGPS観測情報に基づいて移動体の位置および姿勢角を標定する。
【0008】
ここで、基線ベクトルとは、2点間の距離と方向とを示すベクトルであり、例えば、図1における主局から従局(1)へのベクトルや主局から従局(2)へのベクトルのことである。
また、マルチパス波とはGPS衛星から発信された搬送波が、直接ではなく、建物等の地物に反射した後にGPSアンテナ951に到達したものであり、GPS衛星からGPSアンテナ951までのマルチパス波の伝搬時間には遅延時間が含まれるため、マルチパス波の伝搬時間に基づいて算出される測位結果には大きな誤差が含まれる。そこで、位置姿勢標定装置101はマルチパス波の判定を行い、マルチパス波以外の搬送波の観測情報に基づいて移動体の位置および姿勢角を標定する。以下、地物で反射したマルチパス波でない搬送波であり、GPS衛星からGPSアンテナ951に直接到達した搬送波を直接波とする。
【0009】
また、複数のGPSアンテナ951間の相対位置関係が保てるのであれば、必ずしも図1に示すようにプラットフォーム954を設ける必要はない。
【0010】
さらに、図1に示す位置姿勢標定システム100は、GPSアンテナ951およびGPS受信機952をプラットフォーム954に3台備えているが、備える台数は2台でも4台以上でも構わない。
例えば、3台のGPS受信機952のうち最低2台がGPSアンテナ951を介してGPS衛星から搬送波を受信できれば、位置姿勢標定装置101はマルチパス波の判定が行え、移動体の3次元座標を特定することができる。また、2台のGPSアンテナ951に到達した搬送波の観測情報に基づいて1つの基線ベクトルが定まり、1つの基線ベクトルに基づいて基線ベクトルに対応する移動体の方位角および仰角が定める。また、もう1台のGPSアンテナ951に到達した搬送波の観測情報に基づいて基線ベクトルがもう1つ定まり、2つの基線ベクトルにより移動体の回転角が定まる。
【0011】
図2は、実施の形態1における位置姿勢標定システム100のハードウェア構成図である。
位置姿勢標定システム100は、複数のGPSアンテナ951と各GPSアンテナ951に接続するGPS受信機952と、3軸方向(ロール角[回転角]、ピッチ角[仰角]、ヨー角[方位角])の角速度を測定するジャイロ953と、位置姿勢標定装置101とを備える。
ジャイロ953は3軸方向(ロール角、ピッチ角、ヨー角)の角速度(アンギュラーレートともいう)を測定して出力する。
各GPS受信機952は、それぞれが接続するGPSアンテナ951にGPS衛星から到達した測位信号(L1、L2、L5など)の搬送波について、搬送波の位相情報、搬送波で伝搬された測位信号が示す航法メッセージ(衛星軌道情報)、搬送波の伝播時間に基づいて算出したGPSアンテナ951とGPS衛星との距離(擬似距離)、擬似距離に基づいて算出したGPSアンテナ951の位置(単独測位結果)などをGPS観測情報として出力する。
【0012】
GPS受信機952がGPS観測情報として出力する搬送波の位相情報は、これに含まれる整数値バイアスが何らかの方法で取り除かれれば、搬送波の伝搬時間に相当する搬送波の数を示し、搬送波の伝搬距離を表す。位相情報が示す搬送波の数は“整数”部分と“小数”部分とで表され、“小数”部分はGPSアンテナ951に到達時の搬送波の位相に相当する。
以下、位相情報が示す搬送波の“整数”部分を“搬送波数”とし、位相情報が示す搬送波の“小数”部分を“位相”とし、位相情報が示す搬送波の数(“整数”+“小数”)を“搬送波位相”とする。
【0013】
位置姿勢標定装置101は、プログラムを実行するCPU911(Central Processing Unit:中央処理装置)を備えている。CPU911はRAM、ROM、磁気ディスク装置などの記憶機器で構成される記憶装置920とバスを介して接続する。
記憶装置920には、オペレーティングシステム(OS)921、プログラム群923、ファイル群924が記憶されている。プログラム群923は、CPU911やOS921により実行される。
上記プログラム群923には、実施の形態の説明において「〜部」として説明する機能を実行するプログラムが記憶されている。プログラムは、CPU911により読み出され実行される。
ファイル群924には各種データが記憶され、実施の形態の説明において、「〜情報」として説明するデータ、「〜部」として説明する機能を実行した際の判定結果・演算結果を示すデータ、「〜部」として説明する機能を実行するプログラム間で受け渡しするデータなどが「〜ファイル」として記憶されている。例えば、GPS受信機952から取得したGPSの観測情報、搬送波についてのマルチパス波か否かの判定結果、標定した移動体の位置・姿勢角などの情報が「〜ファイル」として記憶される。
また、実施の形態の説明において、フローチャートや構成図の矢印の部分は主としてデータの入出力を示し、そのデータの入出力のためにデータは、記憶装置920、あるいは、信号線やその他の伝送媒体により伝送される。
また、実施の形態の説明において「〜部」として説明するものは、ROMに記憶されたファームウェアで実現されていても構わない。或いは、ソフトウェアのみ、或いは、ハードウェアのみ、或いは、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせ、さらには、ファームウェアとの組み合わせで実施されても構わない。
【0014】
図3は、実施の形態1における位置姿勢標定装置101の機能構成図である。
実施の形態1における位置姿勢標定システム100が備える位置姿勢標定装置101の機能構成について、図3に基づいて以下に説明する。
【0015】
図3において、位置姿勢標定装置101(マルチパス検出装置、測位装置、姿勢方位標定装置)は、観測された搬送波についてマルチパス波であるか否かをCPUを用いて検出するマルチパス検出部110とマルチパス波でない搬送波の観測情報に基づいて移動体の位置および姿勢角をCPUを用いて標定する位置姿勢方位標定部120(測位部、姿勢標定部)と移動体の位置および姿勢角、GPS受信機952のGPS観測情報、ジャイロ953の計測値(レート)、後述するGPSアンテナ951間の既知基線長など、位置姿勢標定装置101の標定結果や標定に使用する各情報を記憶する標定記憶部190とを備える。
【0016】
また、マルチパス検出部110は位相差算出部130、LOSベクトル算出部140、基線長算出部150およびマルチパス判定部160を備える。
【0017】
位相差算出部130は、各GPS衛星と各GPSアンテナとの距離を搬送波の数で示す搬送波位相の情報を入力し、入力した搬送波位相の情報に基づいてGPSアンテナ間における同じGPS衛星との同一時刻の搬送波位相の差(後述する搬送波位相の一重差または二重差)をCPUを用いて算出する。
【0018】
LOSベクトル算出部140は、搬送波で伝搬された各GPS衛星の位置を示す航法メッセージと搬送波に基づいて測位された当該GPSアンテナの位置を示す測位情報とを入力し、入力した航法メッセージが示す各GPS衛星の位置と入力した測位情報が示す各GPSアンテナの位置とに基づいて当該GPSアンテナから当該GPS衛星への方向を示すLOS(Line Of Sight)ベクトルをCPUを用いて算出する。
【0019】
基線長算出部150は、位相差算出部130が算出したGPSアンテナ間の搬送波位相の差と任意の方法により特定された特定のGPSアンテナから特定のGPS衛星への方向を示すLOSベクトルとを入力し、入力した搬送波位相の差と入力したLOSベクトルとに基づいてGPSアンテナ間の距離を示す基線長を観測基線長としてCPUを用いて算出する。
【0020】
マルチパス判定部160は、予め算出されたGPSアンテナ間の距離を示す既知基線長と基線長算出部150が算出した観測基線長とをCPUを用いて比較し、観測基線長が既知基線長より所定の閾値以上異なる場合に当該観測基線長の算出に用いられた各搬送波の中にマルチパス波が含まれていると判定する。
【0021】
図4は、実施の形態1における位置姿勢標定方法を示すフローチャートである。
実施の形態1における位置姿勢標定システム100の位置姿勢標定方法(マルチパス検出方法、測位方法、姿勢方位標定方法の一例)について、図4に基づいて以下に説明する。
【0022】
<S110:GPS観測処理>
まず、各GPS受信機952は接続するGPSアンテナ951に到達したGPS衛星からの測位信号の搬送波を受信し、受信した測位信号の搬送波についてGPS観測情報を出力する。
GPS観測情報には、例えば、搬送波の位相情報(搬送波位相)、搬送波で伝搬された測位信号が示す航法メッセージ(衛星軌道情報)、搬送波の伝播時間に基づくGPSアンテナ951とGPS衛星との距離(擬似距離)、擬似距離に基づくGPSアンテナ951の位置(単独測位結果)などが含まれる。
【0023】
<S120:マルチパス検出処理>
次に、位置姿勢標定装置101のマルチパス検出部110はGPS観測情報に基づいてGPSアンテナ951間における同じGPS衛星からの搬送波の搬送波位相の差(距離の一重差、二重差)をCPUを用いて算出し、算出した搬送波位相の差と固定長であるGPSアンテナ951間の既知基線長とに基づいてマルチパス波である搬送波をCPUを用いて検出する。
例えば、マルチパス検出部110は搬送波位相の差と当該搬送波を受信したGPSアンテナ951から当該搬送波を発信したGPS衛星への方向を示すLOS(Line Of Sight)ベクトルとに基づいてGPSアンテナ951間の基線長を観測基線長として算出し、観測基線長と既知基線長とを比較し、観測基線長が既知基線長より所定の閾値以上異なる場合に観測基線長の算出に用いた搬送波をマルチパス波と判定する。
また例えば、マルチパス検出部110は既知基線長とジャイロ953の計測値に基づく移動体の姿勢角とLOSベクトルとに基づいてGPSアンテナ951間における同じGPS衛星との距離差を推定距離差として算出し、搬送波位相の差が示す観測距離差が推定距離差と所定の閾値以上異なる場合に観測距離差に対応する搬送波はマルチパス波であると判定する。
マルチパス検出処理(S120)の詳細については後述する。
【0024】
<S130:位置姿勢方位標定処理>
そして、位置姿勢標定装置101の位置姿勢方位標定部120はマルチパス波でない搬送波のGPS観測情報に基づいて移動体の位置および姿勢角を標定する。
例えば、位置姿勢方位標定部120は、マルチパス波であると判定した搬送波が無い場合に、GPS観測情報に含まれる単独測位結果を移動体の位置とする。
また例えば、位置姿勢方位標定部120は、マルチパス波でないと判定した4つ以上の搬送波についての擬似距離または搬送波位相に基づいて移動体の位置を測位する。
また例えば、位置姿勢方位標定部120は、マルチパス波でないと判定した搬送波の搬送波位相に基づいてGPS受信機952間の基線ベクトルを2つ算出し、算出した2つの基線ベクトルに基づいて移動体の姿勢角を算出する。
また例えば、位置姿勢方位標定部120は、マルチパス波でないと判定した搬送波の擬似距離または搬送波位相とデッドレコニングで算出した移動体の位置および航法メッセージが示すGPS衛星の位置に基づく移動体−GPS衛星間の距離との差(擬似距離残差)に基づいてカルマンフィルタ処理によりデッドレコニングで算出した移動体の位置および姿勢角の誤差を推定し、デッドレコニングで算出した移動体の位置および姿勢角を推定誤差に基づいて補正して移動体の位置および姿勢角を標定する。
位置姿勢方位標定処理(S130)の詳細については後述する。
【0025】
図5は、実施の形態1におけるマルチパス検出処理(S120)を示すフローチャートである。
実施の形態1における位置姿勢標定装置101のマルチパス検出部110が実行するマルチパス検出処理(S120)について、図5に基づいて以下に説明する。
マルチパス検出部110の各部は図5に基づいて説明する以下の各処理をCPUを用いて実行する。
【0026】
<S210:位相差算出処理>
まず、位相差算出部130はGPS受信機952が出力したGPS観測情報に含まれる搬送波の位相情報(搬送波位相)を入力し、入力した搬送波の位相情報が示す搬送波位相に基づいてGPSアンテナ951間における搬送波位相の差(距離の一重差、二重差)を算出する。
【0027】
位相差算出処理(S210)において、位相差算出部130は、各GPS受信機952が同じ時刻情報に基づいて動作する場合には搬送波位相の一重差を算出し、各GPS受信機952が異なる時刻情報に基づいて動作する場合には搬送波位相の二重差を算出する。
ここで、1機の同じGPS衛星に対する2台のGPS受信機952の観測値(1機の同じGPS衛星から2台のGPSアンテナ951のそれぞれに到達した搬送波についての観測値)の差をGPS受信機952間の一重差といい、搬送波位相の一重差とは1機の同じGPS衛星から発信され2台のGPS受信機952のそれぞれで観測された搬送波位相の差のことである。
また、2つの一重差の差を二重差といい、搬送波位相の二重差は異なるGPS衛星に対して得られた搬送波位相の一重差同士の差のことである。
【0028】
例えば、図6において、a点、b点に位置する2つのGPSアンテナ951を介して同じ時刻情報に基づいてGPS観測がなされる場合、位相差算出部130はGPS衛星iから発信された搬送波について、a点に位置するGPSアンテナ951を介して観測された搬送波位相とb点に位置するGPSアンテナ951を介して観測された搬送波位相との差を搬送波位相の一重差として算出する。
図6において、GPS衛星iからの搬送波についてのa点とb点とにおける搬送波位相の一重差は、a点で観測された搬送波位相が示すGPS衛星iとa点との距離ρと、b点で観測された搬送波位相が示すGPS衛星iとb点との距離ρとの差として以下の式1で表される。
【0029】
【数1】

【0030】
同様にして、位相差算出部130は2つのGPSアンテナ951において搬送波が観測された全てのGPS衛星について搬送波位相の一重差を算出する。例えば、GPS衛星iからの搬送波、GPS衛星jからの搬送波およびGPS衛星kからの搬送波が2つのGPSアンテナ951の双方を介して観測されている場合、位相差算出部130はGPS衛星iとGPS衛星jとGPS衛星kとのそれぞれについて搬送波位相の一重差を算出する。
【0031】
また例えば、図6において、a点、b点に位置する2つのGPSアンテナ951を介して異なる時刻情報に基づいてGPS観測がなされる場合、位相差算出部130はGPS衛星iから発信された搬送波についてa点とb点とにおける搬送波位相の一重差を算出すると共に、GPS衛星jから発信された搬送波についてa点とb点とにおける搬送波位相の一重差を算出し、算出した2つの搬送波位相の一重差の差を搬送波位相の二重差として算出する。
図6において、GPS衛星iからの搬送波とGPS衛星jからの搬送波とについてのa点とb点とにおける搬送波位相の二重差は、GPS衛星iからの搬送波についての搬送波位相の一重差とGPS衛星jからの搬送波についての搬送波位相の一重差との差として以下の式2で表される。
【0032】
【数2】

【0033】
同様にして、位相差算出部130は2つのGPSアンテナ951において搬送波が観測された全てのGPS衛星について搬送波位相の二重差を算出する。例えば、GPS衛星iからの搬送波、GPS衛星jからの搬送波、GPS衛星kからの搬送波およびGPS衛星lからの搬送波が2つのGPSアンテナ951の双方を介して観測された場合、位相差算出部130は、GPS衛星iについての搬送波位相の一重差に対して他のGPS衛星j、k、lについての搬送波位相の一重差の差をとって、GPS衛星iとGPS衛星jとについての搬送波位相の二重差と、GPS衛星iとGPS衛星kとについての搬送波位相の二重差と、GPS衛星iとGPS衛星lとについての搬送波位相の二重差とを算出する。
【0034】
以下に、位相差算出部130が、位相差算出処理(S210)において、各GPS受信機952が同じ時刻情報に基づいて動作する場合に搬送波位相の一重差を算出し、各GPS受信機952が異なる時刻情報に基づいて動作する場合に搬送波位相の二重差を算出する理由について説明する。
【0035】
まず、受信機a(GPS受信機952の一つ)により観測される衛星i(GPS衛星の一つ)についての搬送波位相Φは、以下の式3で表すことができる。
【0036】
【数3】

【0037】
上記式1において、搬送波位相観測における電離層遅延dionは、測位信号が示すC/Aコードに基づいて算出される擬似距離におけるそれとは反対に負となり、見かけ上光の速さを超える。典型的な電離層遅延dionの量は天頂付近で5m程度であり、アンテナから見て衛星が位置する仰角(以下、衛星の仰角とする)に依存する。
また、対流圏遅延dtropはその性質上ドライ項とウェット項に分けることができる。ドライ項は対流圏遅延dtropの90%を占めるが、安定しているため適切に計測することで正確に見積もることができる。これに対し、ウェット項は気温、気圧、湿度及び衛星の仰角により変化する。対流圏遅延量dtropは5〜25mにおよび、衛星の仰角に依存するところが大きい。
一方、搬送波位相の観測誤差は非常に小さく、受信機のノイズε(Φγx)は通常波長λの1%以下であり、搬送波位相誤差はL1で5cm程度である。
また、アンテナフェーズセンタオフセットε(Φant)とは、アンテナの幾何学的な中心に対する位相中心のオフセット量のことであり、アンテナのモデルによりその量は異なるが、一般的に1〜2cmといわれている。実施の形態においてGPSアンテナ951間とはGPSアンテナ951における受信搬送波の位相中心となるアンテナフェーズセンタを示すものとする。
【0038】
ここで、ある共通の衛星に対し、異なる2受信機で取得した搬送波位相観測値の差を受信機間一重差といい、上記式3に対して受信機間一重差をとることにより衛星iの時計誤差dtをキャンセルすることができる。
搬送波位相を表す式3に対する受信機間一重差の式4を以下に示す。
【0039】
【数4】

【0040】
上記式4が表す受信機間一重差では、上記式3に対して衛星iの時計誤差dtがキャンセルされている。
【0041】
また、二重差とは、異なる衛星(例えば、衛星iと衛星j)に対する受信機間一重差の差をとったものであり、上記式4に対して二重差をとることにより受信機a、b間の時計誤差dTabをキャンセルすることができる。
受信機間一重差を表す式4に対する二重差の式5を以下に示す。
【0042】
【数5】

【0043】
二重差をとる際には通常、最天頂の衛星を主衛星として受信機間一重差をとり、残りの複数の従衛星に対する受信機間一重差との差をとる。たとえば、受信機2台で共通してn機の衛星が観測できている場合、二重差観測値はn−1個となる。
【0044】
上記式5が表す二重差では、上記式1に対して衛星、受信機ともに時計の誤差(dt、dT)がキャンセルされている。
【0045】
ここで、GPSによる姿勢決定のような用途に用いる場合、2台のアンテナは姿勢決定対象に設置されるため、2台のアンテナのスパンがそれほど大きくなく、衛星の軌道誤差、対流圏による群遅延および電離層遅延の影響はそれぞれの受信機による観測でほとんど等しくなる。
このため、上記式4、5は以下の式6、7のように表すことができる。
【0046】
【数6】

【0047】
複数アンテナを使用する姿勢決定専用GPS受信機(GPSジャイロ)では、クロックを共通とした多チャンネル受信機が使用される場合が多い。この場合、受信機間の時計誤差というものは存在しないので、二重差に比べてノイズの少ない一重差を使用することができ理想的である。クロックが共通でない非専用受信機を使用する場合、受信機のクロック誤差をキャンセルするだけでなく、ケーブル長の違いをキャンセルするためにも二重差をとることが有効となる。
【0048】
そこで、位相差算出処理(S210)において、位相差算出部130は各GPS受信機952が同じ時刻情報に基づいて動作する場合に搬送波位相の一重差を算出し、各GPS受信機952が異なる時刻情報に基づいて動作する場合に搬送波位相の二重差を算出する。
【0049】
図5に戻り、マルチパス検出処理(S120)の説明を続ける。
以降の処理において、マルチパス検出部110は、位相差算出処理(S210)において算出された搬送波位相の差に基づいて当該GPSアンテナ951間の基線ベクトルを算出し、算出した基線ベクトルの長さと予め計測された基線長とを比較して当該搬送波がマルチパス波か直接波かを判定する。
以下、位相差算出処理(S210)において搬送波位相の一重差または二重差が3つ以上算出されているものとして説明を行う。搬送波位相の一重差または二重差の数は搬送波の観測がされたGPS衛星の数を示し、3つの搬送波位相の一重差は3つのGPS衛星の搬送波が観測されたことを示し、3つの搬送波位相の二重差は4つのGPS衛星の搬送波が観測されたことを示す。
【0050】
<S230:LOSベクトル算出処理>
LOSベクトル算出部140は、S210において位相差算出部130が搬送波位相の差を算出した搬送波について、当該搬送波を受信したGPSアンテナ951から当該搬送波を発信したGPS衛星への方向を示すLOSベクトルを算出する。
このとき、LOSベクトル算出部140はLOSベクトルの算出対象とするGPSアンテナ951において観測された当該搬送波の観測情報を入力し、入力した観測情報に基づいてLOSベクトルを算出する。
【0051】
例えば、図6において、位相差算出部130がGPS衛星iから発信された搬送波についてa点、b点に位置する2つのGPSアンテナ951間の搬送波位相の一重差を算出した場合、LOSベクトル算出部140は、GPS観測情報に含まれる単独測位結果が示すGPSアンテナ951の位置aとGPS観測情報に含まれる航法メッセージが示すGPS衛星iの位置とに基づいて、a点に位置するGPSアンテナ951からGPS衛星iへの方向を示すLOSベクトルeを算出する。
また例えば、図6において、位相差算出部130がGPS衛星iから発信された搬送波とGPS衛星jから発信された搬送波とについてa点とb点とに位置する2つのGPSアンテナ951における搬送波位相の二重差を算出した場合、LOSベクトル算出部140は、GPS観測情報に含まれる単独測位結果が示すGPSアンテナ951の位置aおよびGPS観測情報に含まれる航法メッセージが示すGPS衛星i、jの位置に基づいて、a点に位置するGPSアンテナ951からGPS衛星iへの方向を示すLOSベクトルeとa点に位置するGPSアンテナ951からGPS衛星jへの方向を示すLOSベクトルeとを算出する。
同様にして、LOSベクトル算出部140は搬送波位相の一重差または二重差が算出された各GPS衛星についてLOSベクトルを算出する。例えば、GPS衛星iからの搬送波とGPS衛星jからの搬送波とGPS衛星kからの搬送波との3つの搬送波について搬送波位相の一重差が算出されている場合、LOSベクトル算出部140はa点に位置するGPSアンテナ951からGPS衛星i、j、kのそれぞれへのLOSベクトルe、e、eを算出する。つまり、LOSベクトル算出部140は3つの搬送波位相の一重差が算出されている場合には3つのGPS衛星に対するLOSベクトルを算出し、3つの搬送波位相の二重差が算出されている場合には4つのGPS衛星に対するLOSベクトルを算出する。
【0052】
上記のLOSベクトル算出方法において、GPS受信機952から得られる単独測位結果は精度が低く、数mの誤差を含むものであるが、GPSアンテナ951とGPS衛星との距離(約2万km)に比べるとその誤差は極めて小さいため、GPS受信機952の単独測位結果を利用しても得られるLOSベクトルは精度が非常に高く、正確な方向を表す。
【0053】
なお、LOSベクトルは一つのGPSアンテナ951について求めればよく、LOSベクトル算出部140はa点に位置するGPSアンテナ951についてLOSベクトルを算出した場合、b点に位置するGPSアンテナ951についてLOSベクトルを算出しなくてよい。
また、LOSベクトル算出部140は任意の方法を用いてLOSベクトルを算出すればよく、例えば、ジャイロ953の計測値が示す移動体の姿勢の角速度とオドメータ(図示省略)の計測値が示す移動体の速度とに基づいてデッドレコニングにより測位したGPSアンテナ951の位置を用いてLOSベクトルを算出してもよい。
【0054】
<S240:基線長算出処理>
基線長算出部150は、S210において位相差算出部130が算出した搬送波位相の差およびS230においてLOSベクトル算出部140が算出したLOSベクトルに基づいて、GPSアンテナ951間の基線長を算出する。
【0055】
図6は、実施の形態1における搬送波位相の差とLOSベクトルと基線ベクトルとの関係図である。
基線長算出部150によるGPSアンテナ951間の基線長の算出方法について、図6に基づいて以下に説明する。
【0056】
図6において、a点とb点とのそれぞれにGPSアンテナ951が位置し、a点に位置するGPSアンテナ951とb点に位置するGPSアンテナ951との双方がGPS衛星iからの搬送波とGPS衛星jからの搬送波とを受信しているものとする。また、GPS衛星を“衛星”、GPSアンテナ951を“受信機”として以下の説明を行う。
【0057】
ここで、受信機aと受信機bとの搬送波位相の一重差が示す衛星iから受信機aまでの距離ρと衛星iから受信機bまでの距離ρとの距離差は、受信機aから受信機bへの距離および方向を示す基線ベクトルbabと受信機aから見た衛星iの位置する方向を示すLOSベクトルeとの内積に相当するため、搬送波位相の一重差は以下の式8で表すことができる。
同様に、搬送波位相の二重差は以下の式9で表すことができる。
【0058】
【数7】

【0059】
ここで、基線ベクトルbabを三次元座標で求めるため、3つの搬送波位相の一重差または二重差について上記式8、9を生成し、以下の式10、11を得る。
【0060】
【数8】

【0061】
そして、式10、11より基線ベクトルbabは以下の式12で表すことができる。
【0062】
【数9】

【0063】
基線長算出部150はS210において位相差算出部130が算出した搬送波位相の一重差または二重差を「w」に代入し、S230においてLOSベクトル算出部140が算出したLOSベクトルを「A」に代入して上記式12を計算することにより基線ベクトルを算出し、算出した基線ベクトルの長さを基線長として算出する。
このとき、基線長算出部150は位相差算出処理(S210)において搬送波位相の一重差または二重差が4つ以上算出されている場合、各搬送波位相の一重差または二重差を3つずつ組み合わせ、各組み合わせに対して基線長を算出する。
【0064】
図5に戻り、マルチパス検出処理(S120)の説明を続ける。
【0065】
<S250:マルチパス判定処理A>
マルチパス判定部160は基線長算出処理(S240)において算出されたGPSアンテナ951間の基線長(以下、観測基線長とする)を予め算出されているGPSアンテナ951間の基線長(以下、既知基線長とする)と比較して観測基線長の算出に用いられた搬送波のマルチパス判定を行う。
ここで、マルチパス判定部160は、位相差算出処理(S210)において算出された搬送波位相の一重差または二重差の数により実行するマルチパス判定処理を選択し、搬送波位相の一重差または二重差の数が3つの場合には当該3つの搬送波位相の一重差または二重差の算出に用いられた各搬送波にマルチパス波が含まれるかを判定し、搬送波位相の一重差または二重差の数が4つ以上の場合には当該4つ以上の搬送波位相の一重差または二重差の算出に用いられた各搬送波からマルチパス波を特定する。
【0066】
まず、位相差算出処理(S210)において搬送波位相の一重差または二重差が3つ算出された場合のマルチパス判定処理A(S250)について説明する。
【0067】
位相差算出処理(S210)において搬送波位相の一重差または二重差が3つ算出されている場合、マルチパス判定部160は観測基線長と既知基線長との差が所定の閾値未満であれば観測基線長の算出に用いられた各GPS衛星からの搬送波にはマルチパスが含まれていないと判定し、観測基線長と既知基線長との差が所定の閾値以上であれば観測基線長の算出に用いられた各GPS衛星からの搬送波にマルチパスが含まれていると判定する。
そして、マルチパス判定部160は判定結果として、例えば、当該観測基線長の算出に用いられた搬送波についてのGPS観測情報にマルチパスによる観測誤差が含まれているか否かを位置姿勢方位標定部120に出力する。
【0068】
ここで、既知基線長は、移動体に設置され、各GPSアンテナ951の相対的な位置関係が固定された図1に示すような当該プラットフォーム954により、例えば、建物などの遮蔽物が周りに無くマルチパスが発生しにくい広場においてGPS観測を行い、DGPS(ディファレンシャルGPS)やスタティック干渉測位によりGPSアンテナ951間の相対位置を求めて算出し、標定記憶部190に記憶しておく。但し、既知基線長はマルチパス波に基づいて算出した際の観測基線長の推定精度より高い精度(例えば、数mm〜数cm程度の誤差)であれば任意の方法により得て構わない。例えば、当該プラットフォーム954におけるGPSアンテナ951間の基線長の設計値を用いても構わない。
【0069】
また、マルチパス判定部160は観測基線長と既知基線長との比較に用いる閾値として、例えば、3σ(シグマ)の標準偏差を用いて仮説検定を行う。このとき、マルチパス判定部160は既知基線長を平均値とした標準偏差(3σ)内に観測基線長が含まれるか否かを判定し、標準偏差(3σ)内に含まれない場合に当該観測基線長の観測に用いられた各GPS衛星からの搬送波にマルチパスが含まれていると判定する。マルチパス判定部160は所定の閾値を用いてマルチパス判定を行うことにより、所定の閾値内に収まるGPS受信機952のランダムノイズによる誤差を除去し、GPS受信機952のランダムノイズ以外の観測誤差、つまり、マルチパスによる観測誤差がGPS観測情報に含まれている搬送波を判定することができる。GPS衛星の時計誤差、GPS受信機952の時計誤差、電離層遅延、対流圏遅延といった他の観測誤差については前述の通り搬送波の一重差または二重差の算出によりに除去されている。
【0070】
次に、位相差算出処理(S210)において搬送波位相の一重差または二重差が4つ以上算出された場合のマルチパス判定処理A(S250)について説明する。
【0071】
位相差算出処理(S210)において搬送波位相の一重差または二重差が4つ以上算出されている場合、基線長算出処理(S240)において搬送波位相の一重差または二重差を3つずつ組み合わせて当該2つのGPSアンテナ951間の観測基線長について複数の値が算出されている。
そこで、マルチパス判定部160は各観測基線長に対して既知基線長と比較してマルチパス判定を行う。
そして、マルチパス判定部160は判定結果として、例えば、既知基線長との差が所定の閾値以内であった各観測基線長の算出に用いられた搬送波のGPS観測情報を位置姿勢方位標定部120に通知する。
【0072】
例えば、位相差算出処理(S210)においてGPS衛星i、j、k、lのそれぞれの搬送波に基づいて4つの搬送波位相の一重差i、j、k、lが算出された場合、基線長算出処理(S240)において以下の4つの搬送波位相の一重差の組み合わせについて観測基線長が算出される。
(1)観測基線長A:搬送波位相の一重差i、j、kの組み合わせ
(2)観測基線長B:搬送波位相の一重差i、j、lの組み合わせ
(3)観測基線長C:搬送波位相の一重差i、k、lの組み合わせ
(4)観測基線長D:搬送波位相の一重差j、k、lの組み合わせ
このとき、マルチパス判定部160は観測基線長A、観測基線長B、観測基線長C、観測基線長Dのそれぞれに対して既知基線長との比較判定を行う。
比較判定の結果、例えば、観測基線長Aのみが既知基線長に対して所定の閾値の範囲内にある場合、マルチパス判定部160は観測基線長Aにのみ搬送波位相の一重差が含まれないGPS衛星lからの搬送波をマルチパス波と特定する。そして、マルチパス判定部160は観測基線長Aの算出に用いられたGPS衛星iからの搬送波とGPS衛星jからの搬送波とGPS衛星kからの搬送波のそれぞれについてのGPS観測情報をマルチパスによる観測誤差が含まれていないGPS観測情報として位置姿勢方位標定部120に通知する。
【0073】
また例えば、位相差算出処理(S210)においてGPS衛星i、j、k、l、mのそれぞれの搬送波に基づいてGPS衛星iとj、GPS衛星iとk、GPS衛星iとlおよびGPS衛星iとmについての4つの搬送波位相の二重差ij、ik、il、imが算出された場合、基線長算出処理(S240)において以下の4つの搬送波位相の二重差の組み合わせについて観測基線長が算出される。
(1)観測基線長A’:搬送波位相の二重差ij、ik、ilの組み合わせ
(2)観測基線長B’:搬送波位相の二重差ij、ik、imの組み合わせ
(3)観測基線長C’:搬送波位相の二重差ij、il、imの組み合わせ
(4)観測基線長D’:搬送波位相の二重差ik、il、imの組み合わせ
このとき、マルチパス判定部160は観測基線長A、観測基線長B、観測基線長C、観測基線長Dのそれぞれに対して既知基線長との比較判定を行う。
比較判定の結果、例えば、観測基線長Aのみが既知基線長に対して所定の閾値の範囲内にある場合、マルチパス判定部160は観測基線長Aにのみ搬送波位相の二重差が含まれないGPS衛星mからの搬送波をマルチパス波と特定する。そして、マルチパス判定部160は観測基線長Aの算出に用いられたGPS衛星iからの搬送波とGPS衛星jからの搬送波とGPS衛星kとGPS衛星lからの搬送波のそれぞれについてのGPS観測情報をマルチパスによる観測誤差が含まれていないGPS観測情報として位置姿勢方位標定部120に通知する。
【0074】
以上のように、各搬送波位相の一重差または二重差の組み合わせに基づいて算出された各観測基線長に対して既知基線長との比較判定を行うことにより、マルチパス判定部160はマルチパス波でない搬送波を特定することができる。さらに、マルチパス波が一つ含まれているような場合、マルチパス判定部160は上記のようにそのマルチパス波を特定することができる。
【0075】
次に、図4で説明した実施の形態1における位置姿勢方位標定処理(S130)の詳細について説明する。
位置姿勢方位標定処理(S130)において、位置姿勢方位標定部120は、マルチパス検出処理(S120)におけるマルチパス検出部110のマルチパス判定結果に基づいて、マルチパス波でない搬送波のGPS観測情報を用いて移動体の位置および姿勢角を標定する。
位置姿勢方位標定部120による移動体の位置および姿勢角の標定方法は任意の方法で構わず、以下にその一例を示す。
【0076】
図7は、実施の形態1における位置姿勢方位標定部120の構成の一例を示す図である。
図8は、実施の形態1における位置姿勢方位標定処理(S130)の一例を示すフローチャートである。
実施の形態1における位置姿勢方位標定処理(S130)の一例について、図7、図8に基づいて以下に説明する。
【0077】
図7において、位置姿勢方位標定部120(測位部、姿勢標定部)は擬似距離測位部210、基線ベクトル姿勢標定部220およびデッドレコニング部230を備え、各部は図8に基づいて以下に説明する各処理をCPUを用いて実行する。
【0078】
<S310:位置標定方法判定処理>
まず、位置姿勢方位標定部120はマルチパス検出処理(S120)においてマルチパス波でないと判定された搬送波の数(GPS衛星の数)に応じて移動体の位置を標定する方法を選択する。
ここで、搬送波の数は当該搬送波を発信したGPS衛星の数であり、搬送波の観測が可能なGPS衛星の数を示すものとする。
【0079】
<S320:擬似距離測位処理>
擬似距離測位部210は搬送波をマルチパス波でなく直接波として観測できたGPS衛星の数が4機以上ある場合、擬似距離に基づいてGPS測位を行って移動体の位置を測位する。
例えば、擬似距離測位部210は当該GPS衛星からの搬送波のGPS観測情報が示す4つ以上の擬似距離を用いて三角測量の原理で各GPSアンテナ951またはいずれかのGPSアンテナ951の3次元座標の絶対位置を算出する。このとき、特定のGPSアンテナ951(例えば、図1における主局)に到達した4つの搬送波について擬似距離が観測されていればそのGPSアンテナ951の位置を算出することができるが、擬似距離測位部210は5つ以上の擬似距離を用いて最小二乗法によりGPSアンテナ951の位置を算出してもよい。5つ以上の擬似距離を用いて最小二乗法により測位することにより、4つの擬似距離を用いた測位結果より高い精度で測位結果を得ることができる。
そして、擬似距離測位部210は算出したGPSアンテナ951の絶対位置と移動体における当該GPSアンテナ951の設置位置(移動体に対するGPSアンテナ951の相対位置)とに基づいて移動体の位置を特定する。
また例えば、擬似距離測位部210は当該GPS衛星からの搬送波のGPS観測情報が示す4つ以上の搬送波位相(GPS衛星とGPSアンテナ951との距離に相当)を用いて、上記と同様にして、移動体の位置を特定する。
【0080】
<S330:デッドレコニング測位処理>
デッドレコニング部230は搬送波をマルチパス波でなく直接波として観測できたGPS衛星の数が3機以下である場合、前回の位置標定時からのジャイロ953の計測値とオドメータ(図示省略)の計測値とについて、ジャイロ953の計測値が示す移動体の姿勢の角速度とオドメータの計測値が示す移動体の速度とに基づいてデッドレコニングにより移動体の位置を測位する。
【0081】
<S340:姿勢標定方法判定処理>
次に、位置姿勢方位標定部120はマルチパス検出処理(S120)においてマルチパス波でないと判定された搬送波の数(GPS衛星の数)に応じて移動体の姿勢角を標定する方法を選択する。
【0082】
<S350:基線ベクトル姿勢標定処理>
基線ベクトル姿勢標定部220は、各GPS受信機952が同じ時刻情報に基づいて動作して直接波を観測できたGPS衛星の数が3機以上ある場合に、また、各GPS受信機952が異なる時刻情報に基づいて動作して直接波を観測できたGPS衛星の数が4機以上ある場合に、2つの基線ベクトルに基づいて移動体の姿勢角を標定する。
基線ベクトル姿勢標定部220は、マルチパス波でない搬送波(直接波)についてのGPS観測情報を用いて、マルチパス検出部110の基線長算出部150による基線長算出処理(S240)と同様にして、2つの基線ベクトルを算出する。そして、基線ベクトル姿勢標定部220は算出した2つの基線ベクトルに基づいて移動体の3次元の姿勢角(回転角[ロール角]、仰角[ピッチ角]、方位角[ヨー角])を算出する。1つの基線ベクトルは仰角および方位角を示し、2つの基線ベクトルにより回転角が特定される。
例えば、図1において、基線ベクトル姿勢標定部220は主局から従局(1)への基線ベクトルと主局から従局(2)への基線ベクトルとの2つの基線ベクトルを算出して移動体の姿勢角を特定する。
【0083】
<S360:デッドレコニング姿勢標定処理>
デッドレコニング部230は、各GPS受信機952が同じ時刻情報に基づいて動作して直接波を観測できたGPS衛星の数が2機以下である場合に、また、各GPS受信機952が異なる時刻情報に基づいて動作して直接波を観測できたGPS衛星の数が3機以下である場合に、前回の姿勢角標定時からのジャイロ953の計測値について、ジャイロ953の計測値が示す移動体の姿勢の角速度に基づいてデッドレコニングにより移動体の姿勢角を標定する。
【0084】
上記において、以下のようなことを説明した。
位置姿勢標定システム100は、各アンテナのフェーズセンタの相対位置関係がずれないように設置され、あらかじめ任意の2アンテナのフェーズセンタ間距離、すなわち基線長が計測された複数のGPSアンテナや、複数のGPS受信機及び必要に応じてこれらの複数アンテナの角速度を計測するジャイロのようなセンサなどにより構成される。そして、位置姿勢標定システム100はミリメートルのオーダーで自己とGPS衛星の間の距離を観測可能な搬送波位相の受信機間一重差または二重差と、GPSの航法メッセージから非常に高い精度で計算可能な自己からGPS衛星までのLOSベクトルとを用いてマルチパス検出を行い、マルチパスの影響のない高精度な位置や姿勢方位の標定を行う。
【0085】
衛星や受信機の時計誤差を考慮した場合、少なくとも3機または4機の衛星が、2アンテナで共通して観測出来ていれば、搬送波位相の受信機間一重差または二重差を用いて、それぞれのアンテナフェーズセンタ間の3次元位置関係を表す基線ベクトルを求めることが出来る。しかし、受信した測位信号にマルチパスがあった場合、基線ベクトルはこの影響を受けて正しく求まらない。よって求めた基線ベクトルの長さと、あらかじめ計測された基線長とを比較することで、マルチパスの有無を検出することが出来る。位置姿勢標定装置101はこのような原理に基づいてマルチパスを検出する装置である。
【0086】
また上記の原理では、受信3機または4機についての衛星測位信号のうちどれか一つにマルチパスがある場合、そのどれがマルチパスであるかを判断することは出来ない。しかし、4機または5機以上についての衛星測位信号が2アンテナで受信出来ている場合、任意の3機または4機を組み合わせて上記原理によりマルチパス検出を行うことで、どの衛星から受信した測位信号にマルチパスが含まれていたか判断することが出来る。位置姿勢標定装置101はこのような原理に基づいてマルチパスを特定する装置でもある。
【0087】
さらに、位置姿勢標定装置101は上記のマルチパス検出の仕組みによりマルチパスが除去されたGPS観測情報(例えば、搬送波位相の受信機間一重差または二重差)を使用して測位する装置である。
【0088】
さらに、位置姿勢標定装置101は上記マルチパス検出の仕組みによりマルチパスが除去されたGPS観測情報(例えば、搬送波位相の受信機間一重差または二重差)を使用して姿勢角を標定する装置でもある。
【0089】
実施の形態2.
上記実施の形態1における位置姿勢方位標定方法では搬送波位相の一重差または二重差が3つ以上求まらない場合にはマルチパス波の判定が行えない。
そこで、実施の形態2では搬送波位相の一重差または二重差が3つ以上求まらない場合におけるマルチパス波の検出方法について説明する。
以下、上記実施の形態1と異なる事項について説明し、説明を省略した事項については上記実施の形態1と同様とする。
【0090】
図9は、実施の形態2における位置姿勢標定装置101の機能構成図である。
実施の形態2における位置姿勢標定装置101は、上記実施の形態1における機能構成に加えて、距離差算出部170を備えることを特徴とする。
【0091】
距離差算出部170は、予め算出されたGPSアンテナ間の距離を示す既知基線長と各GPSアンテナを備えた移動体に設置されたジャイロの計測値と任意の方法により特定された特定のGPSアンテナから特定のGPS衛星への方向を示すLOSベクトルとを入力し、入力した既知基線長と入力したジャイロの計測値と入力したLOSベクトルとに基づいてGPSアンテナ間における同じGPS衛星との距離差を推定距離差としてCPUを用いて算出する。
【0092】
また、マルチパス判定部160は、位相差算出部130が算出したGPSアンテナ間の搬送波位相の差に相当する観測距離差と距離差算出部170が算出した推定距離差とをCPUを用いて比較し、観測距離差が推定距離差より所定の閾値以上異なる場合に当該観測距離差の算出に用いられた各搬送波の中にマルチパス波が含まれていると判定する。
【0093】
図10は、実施の形態2におけるマルチパス検出処理(S120)を示すフローチャートである。
実施の形態2におけるマルチパス検出処理(S120)は、上記実施の形態1に対して、位相差算出処理(S210)において搬送波位相の一重差または二重差が3つ以上算出できたかを判定し(S220:分岐処理A)、搬送波位相の一重差または二重差が3つ以上算出できなかった場合、既知基線長とジャイロ953の計測値とLOSベクトルとに基づいてGPSアンテナ951間におけるGPS衛星との距離差を算出し(S260:距離差算出処理)、算出した距離差と搬送波位相の一重差または二重差とを比較してマルチパス判定を行う(S270:マルチパス判定処理B)ことを特徴とする。
以下に、距離差算出処理(S260)、マルチパス判定処理B(S270)について説明する。
【0094】
<S260:距離差算出処理>
位相差算出処理(S210)において搬送波位相の一重差または二重差が3つ以上算出できなかった場合、距離差算出部170は既知基線長とジャイロ953の計測値とLOSベクトルとに基づいてGPSアンテナ951間におけるGPS衛星との距離差を算出する。
【0095】
位相差算出処理(S210)において搬送波位相の一重差が算出された場合、距離差算出部170は前回の姿勢角標定時からのジャイロ953の計測値に基づいてデッドレコニングにより移動体の姿勢角を算出し、移動体の姿勢角に対応するGPSアンテナ951間の基線ベクトルの方向(以下、基線方向とする)を算出する。そして、距離差算出部170は算出した基線方向と既知基線長とが示す基線ベクトルと、基線ベクトルの基点とするGPSアンテナ951から搬送波位相の一重差が算出された当該GPS衛星へのLOSベクトルとの内積を計算して既知基線長のLOSベクトル成分の長さを算出する。
この既知基線長のLOSベクトル成分の長さはGPSアンテナ951間における当該GPS衛星についての搬送波位相の一重差に相当する。以下、距離差算出部170が算出した搬送波位相の一重差または二重差に相当する長さを推定距離差とする。
例えば、図6において、基線ベクトルbabのLOSベクトルe成分の長さは、a点−GPS衛星i間の距離ρを示す搬送波位相とb点−GPS衛星i間の距離ρを示す搬送波位相との差(ρ−ρ)、つまり、a点のGPSアンテナ951とb点のGPSアンテナ951とにおけるGPS衛星iについての搬送波位相の一重差に相当する。
なお、既知基線長やLOSベクトルの算出方法は上記実施の形態1と同様である。
【0096】
また、位相差算出処理(S210)において搬送波位相の二重差が算出された場合、距離差算出部170は、搬送波位相の二重差が算出された2つのGPS衛星それぞれについて既知基線長のLOSベクトル成分の長さを算出し、算出した2つの既知基線長のLOSベクトル成分の長さの差(推定距離差)を算出する。
この2つの既知基線長のLOSベクトル成分の長さの差はGPSアンテナ951間における当該2つのGPS衛星についての搬送波位相の二重差に相当する。
例えば、図6において、距離差算出部170は、a点のGPSアンテナ951とb点のGPSアンテナ951とにおけるGPS衛星iとGPS衛星jとについての搬送波位相の二重差に相当するものとして、基線ベクトルbabについてLOSベクトルe成分の長さとLOSベクトルe成分の長さとの差を算出する。
【0097】
距離差算出部170は位相差算出処理(S210)において算出された各搬送波位相の一重差または二重差のそれぞれについて上記のようにして推定距離差を算出する。
例えば、GPS衛星i、jについて搬送波位相の一重差が算出されている場合、距離差算出部170はGPS衛星iについての搬送波位相の一重差に相当する推定距離差とGPS衛星jについての搬送波位相の一重差に相当する推定距離差とを算出する。
【0098】
次に、図10におけるマルチパス判定処理B(S270)について説明する。
【0099】
<S270:マルチパス判定処理B>
マルチパス判定部160は位相差算出処理(S210)において算出された搬送波位相の一重差または二重差(観測距離差)を距離差算出処理(S260)において算出された搬送波位相の一重差または二重差に相当する推定距離差と比較して搬送波位相の一重差または二重差(観測距離差)の算出に用いられた搬送波のマルチパス判定を行う。
このとき、マルチパス判定部160は、上記実施の形態1で説明したマルチパス判定処理A(S250)における観測基線長と既知基線長とに対する処理と同様に、搬送波位相の一重差または二重差(観測距離差)と推定距離差との差が所定の閾値未満であれば搬送波位相の一重差または二重差(観測距離差)の算出に用いられたGPS衛星からの搬送波はマルチパス波でないと判定し、搬送波位相の一重差または二重差(観測距離差)と推定距離差との差が所定の閾値以上であれば搬送波位相の一重差または二重差(観測距離差)の算出に用いられたGPS衛星からの搬送波はマルチパス波であると判定する。
【0100】
図11は、実施の形態2における位置姿勢方位標定部120の構成の一例を示す図である。
図12は、実施の形態2における位置姿勢方位標定処理(S130)の一例を示すフローチャートである。
実施の形態2における位置姿勢方位標定処理(S130)の一例について、図11、図12に基づいて以下に説明する。
【0101】
図11において、位置姿勢方位標定部120はデッドレコニング部230、カルマンフィルタ部240および位置姿勢補正部250を備え、各部は図12に基づいて以下に説明する各処理をCPUを用いて実行する。
【0102】
カルマンフィルタ部240は位置姿勢方位標定処理(S130)において拡張カルマンフィルタ処理を実行する。
拡張カルマンフィルタ処理とは、状態量のダイナミクスをモデル化した状態方程式と、観測量と状態量との関係を定式化した観測方程式との両方程式に基づいて状態量の誤差を推定する処理である。特に、拡張カルマンフィルタは、カルマンフィルタが線形の状態方程式および観測方程式に基づいて誤差推定を行うのに対し、非線形の状態方程式および観測方程式に基づいて誤差推定を行う。但し、カルマンフィルタ部240は通常のカルマンフィルタ処理を実行してもよい。
【0103】
<S410:デッドレコニング処理>
デッドレコニング部230は、前回の位置姿勢標定時からのジャイロ953の計測値とオドメータの計測値とについて、ジャイロ953の計測値が示す移動体の姿勢の角速度とオドメータ(図示省略)の計測値が示す移動体の速度とに基づいてデッドレコニングにより移動体の位置および姿勢角を算出する。
【0104】
<S420:カルマンフィルタ処理>
カルマンフィルタ部240は、搬送波位相の一重差または二重差の観測残差を観測量として拡張カルマンフィルタ処理を行い、デッドレコニング処理(S410)において算出された移動体の位置および姿勢角やデッドレコニング処理(S410)において使用されたジャイロ953の出力レート(計測値)などの状態量について誤差を推定する。
このとき、位置姿勢方位標定部120は、マルチパス判定処理B(S270)において算出された搬送波位相の一重差または二重差と推定距離差との差を搬送波位相の一重差または二重差の観測残差とする。
【0105】
<S430:位置姿勢補正処理>
位置姿勢補正部250は、カルマンフィルタ処理(S420)により推定された誤差を補正量として、デッドレコニング処理(S410)において算出された移動体の位置および姿勢角を補正(加算)して移動体の位置および姿勢角を標定する。
また、デッドレコニング部230は、次回以降のデッドレコニング処理(S410)において、カルマンフィルタ処理(S420)により推定された誤差で補正したジャイロ953の出力レート(計測値)を用いてデッドレコニングを行う。
【0106】
また、位置姿勢方位標定部120は、上記実施の形態1と同様に、可能な場合には擬似距離や基線ベクトルに基づいて移動体の位置および姿勢角を標定し、擬似距離や基線ベクトルに基づいて標定できない移動体の位置または姿勢角について上記のようにデッドレコニングおよびカルマンフィルタ処理により標定してもよい。
【0107】
上記において、以下のようなことを説明した。
上記実施の形態1におけるマルチパス検出処理(S120)は、2または3アンテナで共通して観測出来ている衛星数が2機または3機以下の場合は適用することが出来ない。しかし、ジャイロセンサによるアンテナの角速度を用いれば、2または3アンテナで共通して3機または4機以上の衛星が観測されているときに計算された基線ベクトルを積分して、現在の基線ベクトルを予測することが出来る。これを搬送波位相の受信機間一重差または二重差と組み合わせることにより、共通して観測されている衛星がたとえ1機(二重差の場合は2機)の場合でも、マルチパス検出を行うことが出来る。位置姿勢標定装置101はこのような原理に基づいてマルチパスを検出する装置である。
【0108】
実施の形態3.
図13は、実施の形態3におけるマルチパス検出処理(S120)を示すフローチャートである。
図13に示すように、位相差算出処理(S210、上記実施の形態1参照)において算出された搬送波位相の一重差または二重差の数が幾つである場合でも、距離差算出処理(S260、上記実施の形態2参照)およびマルチパス判定処理B(S270、上記実施の形態2参照)を行って、マルチパスを検出してもよい。
実施の形態3におけるその他の事項については、上記実施の形態1または上記実施の形態2と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】実施の形態1における位置姿勢標定システム100の構成の概要図。
【図2】実施の形態1における位置姿勢標定システム100のハードウェア構成図。
【図3】実施の形態1における位置姿勢標定装置101の機能構成図。
【図4】実施の形態1における位置姿勢標定方法を示すフローチャート。
【図5】実施の形態1におけるマルチパス検出処理(S120)を示すフローチャート。
【図6】実施の形態1における搬送波位相の差とLOSベクトルと基線ベクトルとの関係図。
【図7】実施の形態1における位置姿勢方位標定部120の構成の一例を示す図。
【図8】実施の形態1における位置姿勢方位標定処理(S130)の一例を示すフローチャート。
【図9】実施の形態2における位置姿勢標定装置101の機能構成図。
【図10】実施の形態2におけるマルチパス検出処理(S120)を示すフローチャート。
【図11】実施の形態2における位置姿勢方位標定部120の構成の一例を示す図。
【図12】実施の形態2における位置姿勢方位標定処理(S130)の一例を示すフローチャート。
【図13】実施の形態3におけるマルチパス検出処理(S120)を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0110】
100 位置姿勢標定システム、101 位置姿勢標定装置、110 マルチパス検出部、120 位置姿勢方位標定部、130 位相差算出部、140 LOSベクトル算出部、150 基線長算出部、160 マルチパス判定部、170 距離差算出部、190 標定記憶部、210 擬似距離測位部、220 基線ベクトル姿勢標定部、230 デッドレコニング部、240 カルマンフィルタ部、250 位置姿勢補正部、911 CPU、920 記憶装置、921 OS、923 プログラム群、924 ファイル群、951 GPSアンテナ、952 GPS受信機、953 ジャイロ、954 プラットフォーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のGPS(Global Positioning System)アンテナがGPSアンテナ間の相対位置を固定して設置された移動体において各GPS衛星から送信され各GPSアンテナにより受信された各搬送波の中にマルチパス波が含まれているかを検出するマルチパス検出装置であり、
各GPS衛星と各GPSアンテナとの距離を搬送波の数で示す搬送波位相の情報を入力し、入力した搬送波位相の情報に基づいてGPSアンテナ間における同じGPS衛星との搬送波位相の差をCPU(Central Proccessing Unit)を用いて算出する位相差算出部と、
前記位相差算出部が算出したGPSアンテナ間の搬送波位相の差と任意の方法により特定された特定のGPSアンテナから特定のGPS衛星への方向を示すLOS(Line Of Sight)ベクトルとを入力し、入力した搬送波位相の差と入力したLOSベクトルとに基づいてGPSアンテナ間の距離を示す基線長を観測基線長としてCPUを用いて算出する基線長算出部と、
予め算出されたGPSアンテナ間の距離を示す既知基線長と前記基線長算出部が算出した観測基線長とをCPUを用いて比較し、観測基線長が既知基線長より所定の閾値以上異なる場合に当該観測基線長の算出に用いられた各搬送波の中にマルチパス波が含まれていると判定するマルチパス判定部と
を備えたことを特徴とするマルチパス検出装置。
【請求項2】
前記マルチパス検出装置は、さらに、
搬送波で伝搬された各GPS衛星の位置を示す航法メッセージと搬送波に基づいて測位された当該GPSアンテナの位置を示す測位情報とを入力し、入力した航法メッセージが示す各GPS衛星の位置と入力した測位情報が示す各GPSアンテナの位置とに基づいて当該GPSアンテナから当該GPS衛星への方向を示すLOSベクトルをCPUを用いて算出するLOSベクトル算出部を備え、
前記基線長算出部は、前記LOSベクトル算出部が算出したLOSベクトルに基づいて前記観測基線長を算出する
ことを特徴とする請求項1記載のマルチパス検出装置。
【請求項3】
前記位相差算出部は搬送波位相の差を4つ以上算出し、
前記基線長算出部は前記位相差算出部が算出した各搬送波位相の差を3つずつ組み合わせて各搬送波位相の差の組み合わせのそれぞれに対して観測基線長を算出し、
前記マルチパス判定部は前記基線長算出部が算出した各観測基線長に対して判定を行い、各観測基線長に対する判定結果に基づいてマルチパス波を特定する
ことを特徴とする請求項1〜請求項2いずれかに記載のマルチパス検出装置。
【請求項4】
前記位相差算出部は、同じ時刻情報に基づいて観測された搬送波位相の情報を3機以上のGPS衛星について入力し、GPSアンテナ間における同じGPS衛星との搬送波位相の差を示す搬送波位相の一重差を各GPS衛星について算出する
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかに記載のマルチパス検出装置。
【請求項5】
前記位相差算出部は、搬送波位相の情報を4機以上のGPS衛星について入力し、GPSアンテナ間における第一のGPS衛星との搬送波位相の差と当該GPSアンテナ間における第ニのGPS衛星との搬送波位相の差との差を示す搬送波位相の二重差を各GPS衛星について算出する
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかに記載のマルチパス検出装置。
【請求項6】
複数のGPS(Global Positioning System)アンテナがGPSアンテナ間の相対位置を固定して設置された移動体において各GPS衛星から送信され各GPSアンテナにより受信された各搬送波の中にマルチパス波が含まれているかを検出するマルチパス検出装置であり、
各GPS衛星と各GPSアンテナとの距離を搬送波の数で示す搬送波位相の情報を入力し、入力した搬送波位相の情報に基づいてGPSアンテナ間における同じGPS衛星との搬送波位相の差をCPU(Central Proccessing Unit)を用いて算出する位相差算出部と、
予め算出されたGPSアンテナ間の距離を示す既知基線長と各GPSアンテナを備えた前記移動体に設置されたジャイロの計測値と任意の方法により特定された特定のGPSアンテナから特定のGPS衛星への方向を示すLOS(Line Of Sight)ベクトルとを入力し、入力した既知基線長と入力したジャイロの計測値と入力したLOSベクトルとに基づいてGPSアンテナ間における同じGPS衛星との距離差を推定距離差としてCPUを用いて算出する距離差算出部と、
前記位相差算出部が算出したGPSアンテナ間の搬送波位相の差に相当する観測距離差と前記距離差算出部が算出した推定距離差とをCPUを用いて比較し、観測距離差が推定距離差より所定の閾値以上異なる場合に当該観測距離差の算出に用いられた各搬送波の中にマルチパス波が含まれていると判定するマルチパス判定部と
を備えたことを特徴とするマルチパス検出装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6いずれかに記載のマルチパス検出装置と、
前記マルチパス検出装置の前記マルチパス判定部がマルチパス波でないと判定した搬送波の観測情報に基づいて前記移動体の位置をCPUを用いて測位する測位部と
を備えたことを特徴とする測位装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項6いずれかに記載のマルチパス検出装置と、
前記マルチパス検出装置の前記マルチパス判定部がマルチパス波でないと判定した搬送波の観測情報に基づいて前記移動体の姿勢角をCPUを用いて算出する姿勢標定部と
を備えたことを特徴とする姿勢方位標定装置。
【請求項9】
複数のGPS(Global Positioning System)アンテナがGPSアンテナ間の相対位置を固定して設置された移動体において各GPS衛星から送信され各GPSアンテナにより受信された各搬送波の中にマルチパス波が含まれているかを検出するマルチパス検出装置のマルチパス検出方法であり、
位相差算出部が各GPS衛星と各GPSアンテナとの距離を搬送波の数で示す搬送波位相の情報を入力し、入力した搬送波位相の情報に基づいてGPSアンテナ間における同じGPS衛星との搬送波位相の差をCPU(Central Proccessing Unit)を用いて算出する位相差算出処理を行い、
基線長算出部が前記位相差算出部の算出したGPSアンテナ間の搬送波位相の差と任意の方法により特定された特定のGPSアンテナから特定のGPS衛星への方向を示すLOS(Line Of Sight)ベクトルとを入力し、入力した搬送波位相の差と入力したLOSベクトルとに基づいてGPSアンテナ間の距離を示す基線長を観測基線長としてCPUを用いて算出する基線長算出処理を行い、
マルチパス判定部が予め算出されたGPSアンテナ間の距離を示す既知基線長と前記基線長算出部が算出した観測基線長とをCPUを用いて比較し、観測基線長が既知基線長より所定の閾値以上異なる場合に当該観測基線長の算出に用いられた各搬送波の中にマルチパス波が含まれていると判定するマルチパス判定処理を行う
ことを特徴とするマルチパス検出装置のマルチパス検出方法。
【請求項10】
複数のGPS(Global Positioning System)アンテナがGPSアンテナ間の相対位置を固定して設置された移動体において各GPS衛星から送信され各GPSアンテナにより受信された各搬送波の中にマルチパス波が含まれているかを検出するマルチパス検出装置のマルチパス検出方法であり、
位相差算出部が各GPS衛星と各GPSアンテナとの距離を搬送波の数で示す搬送波位相の情報を入力し、入力した搬送波位相の情報に基づいてGPSアンテナ間における同じGPS衛星との搬送波位相の差をCPU(Central Proccessing Unit)を用いて算出する位相差算出処理を行い、
距離差算出部が予め算出されたGPSアンテナ間の距離を示す既知基線長と各GPSアンテナを備えた前記移動体に設置されたジャイロの計測値と任意の方法により特定された特定のGPSアンテナから特定のGPS衛星への方向を示すLOS(Line Of Sight)ベクトルとを入力し、入力した既知基線長と入力したジャイロの計測値と入力したLOSベクトルとに基づいてGPSアンテナ間における同じGPS衛星との距離差を推定距離差としてCPUを用いて算出する距離差算出処理を行い、
マルチパス判定部が前記位相差算出部の算出したGPSアンテナ間の搬送波位相の差に相当する観測距離差と前記距離差算出部の算出した推定距離差とをCPUを用いて比較し、観測距離差が推定距離差より所定の閾値以上異なる場合に当該観測距離差の算出に用いられた各搬送波の中にマルチパス波が含まれていると判定するマルチパス判定処理を行う
ことを特徴とするマルチパス検出装置のマルチパス検出方法。
【請求項11】
請求項9〜請求項10いずれかに記載のマルチパス検出方法をコンピュータに実行させるマルチパス検出プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate