説明

マルチフローターボジェットエンジンの航空機への取り付け

【課題】本発明は、航空機の構造物に取り付けられ得るパイロンからの、中間ケーシングと排気ケーシングとを配設したマルチフローターボジェットエンジンのサスペンションに関する。
【解決手段】サスペンションは、中間ケーシングのハブと上記パイロンとの間の前方の取り付け手段と、排気ケーシングとパイロンとの間の後方の取り付け手段とを備える。さらに、このサスペンションは、中間ケーシングをパイロンに強固に連結する連結手段を備え、後方の取り付け手段は、航空機のさまざまな飛行段階にわたって排気ケーシングの軸を中間ケーシングの軸と同軸に維持するために、排気ケーシングの径の変動を補償するためのアクチュエータなどの手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロンを使用して翼構造物またはその他の任意の航空機の構造物からマルチフローターボジェットエンジンを懸架することにより、マルチフローターボジェットエンジンを航空機に取り付けることに関する。
【背景技術】
【0002】
マルチフローターボジェットエンジンは、ファンを駆動するガスタービンエンジンからなるターボジェットを備える。本発明は、前方に位置するファンエンジンに関する。ファンにより圧縮される空気は2つ以上の同心の流れに分割され、内部の一次流れは、大気中に排気される前に、燃焼チャンバ内で加熱され、次に空気圧縮セクションを駆動するタービンセクション内で圧縮されながら、ガスタービンエンジンを通過する。その他の流れは冷たいままで、大気中に直接排気されるか、あるいは事前に一次流れのガスと混合され、スラストの大部分を提供する。冷気の流量と高温ガスの流量との間の比であるバイパス比は、民間航空機用のエンジンの場合には比較的高く、現在のところ、通常は5から6である。このタイプのエンジンは2つの構造ケーシング要素を備え、これらのケーシングを介して航空機とエンジンとの間で負荷が伝達される。1つはファンケーシングの延長上の前方で中間ケーシングとして知られているケーシングを形成する構造ケーシング要素であり、他方は後方で排気ケーシングを形成する構造ケーシング要素である。エンジンは、これらの構造要素を通る2つの横断方向のサスペンション面で翼構造物に取り付けられる。
【0003】
取付パイロンまたはストラットは、エンジンと航空機の翼構造物との間の連結インターフェースを形成する剛性の構造用部品であり、特に、これら2つの面でエンジンに連結される。これにより、負荷がエンジンから航空機の構造物に伝達される。さらに、このパイロンまたはストラットは案内補助部材の機能を有する。パイロンは、箱型構造の矩形断面を有する略長尺状構造物である。パイロンは、上部スパーと下部スパーと、横断方向リブを介して互いに接合された側面パネルとを組み立てることにより形成される。パイロンは、一方では、エンジンに取り付ける手段を備え、他方では、航空機の翼構造物に取り付ける手段を備える。
【0004】
このタイプのエンジンの取り付けは、上述した種類のバイパス比を有するエンジンに使用され、十分に有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許公開第2005/0194493号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エンジン技術における技術的進歩はバイパス比の増大をもたらし、将来的には2倍にすることを目指す。このことで、現在の取り付け手段では適応できなくなる構造的変更をもたらすことになる。これは、ファンの径は増大するが、一次流れを伴う部分の径はファンの径と同じ程度まで増大せずに元と同じ大きさにとどまるためである。このタイプのエンジンの軸に沿ってもたらされた負荷は、特に、航空機が離陸した時に、ファンの下流側中央部が比較的柔軟性を保っても、より大きくなる。これに対してまだ解決策が見つかっておらず、この部分により剛性をもたせることができる解決策すらない。このことは、軸に沿った変形、曲げ、または回転要素のずれにつながり、これら全てがエンジンの性能を低下させてしまう。
【0007】
米国特許公開第2005/0194493号明細書は、特に、航空機の離陸時に生じるエンジンの所定の変形に基づいてエンジンのサスペンションを不静定にすることにより、エンジンの非軸対称変形を低減することを提案したものである。巡航飛行では、サスペンションは静定のまま、従来の方法で機能する。ファンケーシングを翼構造物からエンジンを懸架するのに使用されるパイロンの要素に連結するリンクロッドは、エンジンの長手方向の曲げに対抗する手段を形成する。ケーシングとリンクロッドとの間の連結は、リンクロッドが待機状態を維持し、ファンケーシングの変形が一定の量を超える時にのみ装着されるように柔軟性を有する。
【0008】
本発明は、改良された解決策を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明によれば、航空機の構造物に取り付けられ得るパイロンから、中間ケーシングと排気ケーシングとを配設したマルチフローターボジェットエンジンを懸架するためのサスペンションであって、中間ケーシングのハブと上記パイロンとの間の前方の取り付け手段と、排気ケーシングとパイロンとの間の後方の取り付け手段とを備え、前記サスペンションが、さらに中間ケーシングをパイロンに強固に連結する連結手段を備え、後方の取り付け手段は、航空機のさまざまな飛行段階にわたって排気ケーシングの軸を中間ケーシングの軸と同軸に維持するために、排気ケーシングの径の変動を補償する手段を備える、サスペンションである。
【0010】
したがって、本発明のサスペンションは、中間ケーシングとパイロンとの間で強固に連結する不静定のタイプのサスペンションである。負荷のいくらかは、この連結を介してパイロンに伝達される。さらに、本発明のサスペンションはエンジンの曲げにより生じる問題を回避する。さらに、エンジンが熱原因で変形する場合には、本発明は、ファンとタービンのシャフトとの間の同軸度を維持しながらこれらの変形を補正することができる。
【0011】
別の特徴によれば、排気ケーシングの径の変動を補償する上記手段は、排気ケーシングからパイロンまでの距離を変化させることができるアクチュエータを備える。より詳細には、この距離はパイロンに対する排気ケーシングの高さのことである。
【0012】
より具体的には、径の変動を補償する上記手段は、タービンとファンケーシングとの間の同軸度を測定するセンサにより駆動される。一実施形態に従うこのセンサは、ファンブレードの先端間隙を表す信号を提供する。
【0013】
別の実施形態によれば、センサは、ファンケーシングと排気ケーシングとの間の高さの変動を測定する。
【0014】
ここで、本発明のサスペンションの一実施形態を、図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】先行技術に従う、バイパスターボジェットエンジンが翼の下に取り付けられる方法を示す斜視図である。
【図2】不静定リンクを使用した、翼の下でのバイパスターボジェットエンジンの取り付けを示す図である。
【図3】本発明の手段を備えたエンジンおよび排気ケーシングの膨張により引き起こされるエンジンの軸の変形を示す側面図である。
【図4】アクチュエータとエンジンの後方サスペンションとを通るAAにおける断面図である。
【図5】油圧アクチュエータが制御される方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示されているエンジンは、ファンケーシング3内のエンジンの軸XX周りに回転する前方のファンを備えるバイパスターボジェットエンジン1であり、ここでは見えない。その下流側では、ファンの下流側圧縮段、燃焼チャンバ、タービン段を備えるコアと呼ばれるエンジンの部分は、一次流れケーシング4として知られているケーシング組立体内部に収容される。一次流れケーシングの下流側のエンジンの部分は、砲弾状部分5を備える。エンジンは、パイロン6を形成する略平行六面体で非変形可能な剛性要素を介して、航空機の翼の下に懸架されるか、または取り付けられる。エンジンは、2つの構造ケーシング要素、つまり前方の中間ケーシング7と排気ケーシング8とにより取り付けが行われる。中間ケーシング7は、ファンケーシング3の延長上にある。中間ケーシング7は、外側シェルリングとハブとを備え、これらの2つは径方向アームで連結される。ハブは、同心回転シャフトまたは機械のシャフトの前方軸受を支持する。ツインスプールエンジン、より一般的にはマルチスプールエンジンの場合には、2つ以上の同心シャフトがある。排気ケーシング8は、一次流れストリーム用のケーシングの下流側に位置する。排気ケーシング8は、アームにより、後方軸受を支持するハブに連結される外側シェルリングを備える。
【0017】
図1からわかるように、エンジンは、ケーシングの2つの構造要素7、8に位置する2つの横断面で懸架される、または取り付けられる。このサスペンションの方法によれば、取り付けは、前方の取り付け手段71を介して中間ケーシング7のハブで行われ、また後方の取り付け手段81を介して排気ケーシングの外側シェルリングで行われ、これらの手段はリンクロッドとリンクとの集合体からなる。並進および回転の6つの軸に沿ってエンジンと航空機との間で負荷を伝達するように、エンジンの前方と後方との間で負荷が分散される。この機能を実行するようにリンクロッドを組み立てる方法は、本発明の一部を形成するものではないので、これ以上詳細には述べない。
【0018】
前方の取り付けがボールジョイント連結の要素を有する限りでは、例えば、概して航空機の離陸時または機首上げの姿勢時に、前方の取り付けはファンによりエンジンの軸に沿って加えられる曲げモーメントに対応しない。これらの負荷は、ファンケーシングの径と一次ストリーム流れのケーシングの径との間の比が高い時に、性能の低下につながる変形を引き起こす傾向がある。
【0019】
したがって、本発明の1つの特徴は、前方の取り付けに横断方向軸周りの曲げモーメントに対応する能力を付与することを提案する。
【0020】
図2は、以前と同じエンジンであるが、変更されたエンジンの取り付けを示す図である。その変更とは、2つのリンクロッド9、11を使用して第3の懸架ポイントを作ったことである。ここで、リンクロッドは、その上流側端部で中間ケーシングの外側シェルリングに取り付けられ、その下流側端部ではパイロン6に取り付けられる。その配置は、前方に向かって開口部を有するV字型の配置であるが、他の構造も可能である。
【0021】
その他のサスペンションの手段は、以前と同様である。
【0022】
この追加の連結によって、曲げ負荷は直接パイロンにより対応される。
【0023】
ファンケーシングをパイロンに固定するということだけでは、過渡的なエンジン速度の段階では十分でない。これは、図3の点線で示したように、ファンの下流側のエンジンの軸が常にファンの軸と一直線になるとは限らないためである。先行技術のサスペンションでは、排気ケーシングへの取り付けポイントは、エンジン速度に関係なく、パイロンに対する高さに関して調整される。パイロンに取り付けられるスパーに排気ケーシングを連結するリンクロッドは、確かに、静定構造の連結をするためにボールジョイントを介して連接されるが、リンクロッドが軸方向および径方向の自由度を有して組み立てられる方法は鉛直軸に沿った自由度を確保するものではない。
【0024】
エンジン速度の変化時に、特に、エンジンガスの温度の変動の影響を受けやすいエンジンのそれらの部分に寸法変動がある。これらの変動は、パイロンに対して、排気ケーシングの膨張やエンジン軸の鉛直移動につながる。
【0025】
この問題を解決するために、本発明は、排気ケーシングとパイロンとの間の鉛直方向に動的な要素を備えたサスペンションを作成する。この要素の目的は、ケーシングが膨張した時にパイロンとケーシングとの間の距離を短くして、ファンの軸とタービンの軸とを同軸に維持することである。
【0026】
動的要素は、有利には、図4に見られるように、一端部がパイロン6に固定され、好ましくはパイロンのボックス構造物内に収容され、他端部が最初に説明した端部に対して移動可能であり、排気ケーシング8に取り付けられたサスペンション81に連結されるようなアクチュエータ10からなる。この場合、サスペンション81は、ボールジョイントを使用して装着された2つのリンクで構成される。
【0027】
一実施形態によれば、図5に示されるように、例えば、油圧アクチュエータ10の場合、作動流体の供給手段24は、センサにより駆動されるバルブ20により制御される。センサは、バルブのための制御信号を伝え、ファンケーシングとタービンとの間の同軸度を測定する。
【0028】
このセンサは、高圧段のターボジェットエンジン圧縮機に位置決めされ、例えば、静電容量を使用してブレード先端間隙に応じた信号を伝えることができる。これは、圧縮機ブレードの遠位末端部と気流を画定するケーシングとの間の間隙である。速度の変動で、この間隙は、圧縮機の可動部分と固定部分との間の膨張の相違により変化する。したがって、この間隙は排気ケーシングの膨張の指標であり、センサにより供給される信号はアクチュエータ制御回路へと入力される。このように、タービンの軸がファンの軸と同軸に維持されるように、高さが変更され得る。
【0029】
アクチュエータを駆動するその他の手段も考えられる。例えば、タービンシャフトの軸とファンの軸とによりなされる角度を測定するセンサを使用してもよく、アクチュエータはこの測定された角度に従って駆動してもよい。
【0030】
同様に、任意の他のタイプのアクチュエータまたは等価の手段も使用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 バイパスターボジェットエンジン
3 ファンケーシング
4 一次流れケーシング
5 砲弾状部分
6 パイロン
7 中間ケーシング
8 排気ケーシング
9、11 リンクロッド
10 アクチュエータ
20 バルブ
22 センサ
24 供給手段
71 前方の取り付け手段
81 後方の取り付け手段、サスペンション
X エンジンの軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の構造物に取り付けられ得るパイロンから中間ケーシングと排気ケーシングとを配設したマルチフローターボジェットエンジンを懸架するためのサスペンションであって、中間ケーシングのハブと前記パイロンとの間の前方の取り付け手段と、排気ケーシングとパイロンとの間の後方の取り付け手段とを備え、前記サスペンションが、中間ケーシングをパイロンに強固に連結する連結手段をさらに備え、後方の取り付け手段が、航空機のさまざまな飛行段階にわたって排気ケーシングの軸を中間ケーシングの軸と同軸に維持するために、排気ケーシングの径の変動を補償する手段を備える、サスペンション。
【請求項2】
排気ケーシングの径の変動を補償する前記手段が、排気ケーシングからパイロンまでの距離を変化させることが可能なアクチュエータを備える、請求項1に記載のサスペンション。
【請求項3】
径の変動を補償する前記手段が、エンジンの同軸度を示す制御信号を供給するセンサにより駆動される、請求項1または2に記載のサスペンション。
【請求項4】
センサが、ファンブレード先端間隙の測定値を表す信号を提供する、請求項3に記載のサスペンション。
【請求項5】
センサが、タービンの軸と中間ケーシングの軸との間の角度の測定値を表す信号を提供する、請求項3に記載のサスペンション。
【請求項6】
中間ケーシングをパイロンに強固に連結する連結手段が、上流側端部を中間ケーシングの外側シェルリングに取り付けられ、下流側端部をパイロンに取り付けられた2つのリンクロッドを備える、請求項1に記載のサスペンション。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のサスペンションを備える、ターボジェットエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−173277(P2009−173277A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−12618(P2009−12618)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)