説明

マルチユーザタッチシステムおよびその動作方法

【課題】マルチユーザ用大型タッチ表面を提供すること。
【解決手段】マルチユーザタッチシステムは、搭載アンテナのパターンを有する表面を含む。送信機が一意に識別可能な信号を各アンテナに送信する。受信機は別々のユーザに容量結合されていて、一意に識別可能な信号を受信するよう構成されている。そして、多数のユーザが同時にアンテナのいずれかに触れると、プロセッサが特定のアンテナを特定のユーザに関連付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般にタッチセンシティブ表面の分野に関し、より詳細には大型のマルチユーザタッチ表面に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザに直感的なポインティングインターフェースを提供するために、タッチスクリーンが広く用いられている。たとえばタッチスクリーンは、ほんの少数の一般的なタッチ用途を挙げれば、自動預入支払機、科学および産業用制御装置、公共キオスク、およびハンドヘルドコンピューティングデバイスに用いられている。タッチスクリーンは、抵抗センサ、容量センサ、音響センサ、あるいは赤外線センサを用いることができる。ほとんどのタッチスクリーン用途では、タッチセンシティブ表面は、陰極線管(CRT)や液晶ディスプレイ(LCD)などのディスプレイ装置に恒久的に搭載されている。
【0003】
ほとんどの従来技術のタッチスクリーンの動作中には、送信機がタッチスクリーンのx軸およびy軸にわたって信号を駆動する間に、フォーマット画像がタッチスクリーンを通して背面投影される。ユーザが手指やスタイラスでスクリーンに触れて画像の特定の部分を指し示すと、スクリーンの触れられた場所の特定のx座標およびy座標の位置を受信機が検出する。受信機は、接触および現在表示されている画像に応じて適切な動作を行うことができるプロセスに連結されている。
【0004】
最近、タッチ技術を電子白板用途へと拡張することに関心が寄せられている。そこでの主な相違は、大きさの違いである。上述のように、従来のタッチスクリーンは小型ディスプレイでの使用および単一ユーザ用に設計されているのに対し、白板は大型のディスプレイであり、一般に集団状況で使用される。
【0005】
タッチスクリーンを大型化することは、特に音響信号を用いて可能であるが、従来技術のタッチスクリーンは多数のユーザによる接触を区別しない。また、ほとんどの従来技術のタッチスクリーンは多数のユーザの接触を識別できず、単一または多数のユーザによる同時接触を識別できるタッチスクリーンはない。
【0006】
電子白板はグループ討論には有用であるが、対話型タッチ表面を、多数のユーザが周囲に着座することのできるテーブルに変更すると、より長時間の作業を可能にする。この構成の問題は、ユーザが、本、紙、および茶碗などの物をテーブル上に置く傾向があることである。感圧表面に対して、静的オブジェクトは擬似タッチ点(touch point)を生じる。単一タッチシステム(single touch system)では、いかなるこうしたオブジェクトも、タッチ表面の誤動作の原因となる。
【0007】
したがって、改良型の対話型タッチ表面は以下の特性を有するべきである。多数の同時接触を検出し、どのユーザが各位置に触れているのかを検出し、タッチ表面上に置かれたオブジェクトは通常の動作を妨げることなく、頻繁な修理または再校正なしで通常の使用に耐え、付加的な機器(たとえば特別なスタイラス、ボディ送信機(body transmitter)など)を必要とせず、安価であること。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の目的は、マルチユーザ用大型タッチ表面を提供することである。この発明の別の目的は、多数の同時接触を多数のユーザと一意に関連付けることのできるタッチシステムを提供することである。また、単一ユーザによる多数の同時接触を区別することもこの発明の目的である。ディスプレイ装置に関係なく動作することのできるタッチ表面を得ることも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、タッチセンシティブ位置を有するタッチセンシティブ表面を含むマルチユーザタッチシステムを提供する。この発明の背景にある基本概念は、ユーザに、タッチ表面上のタッチ点から周囲に埋め込まれた装置へとつながる容量結合回路を完成させるということである。たとえば、対話型ディスプレイテーブルはアンテナアレーを含み、それぞれのアンテナが固有の信号を送信する。ユーザが特定のアンテナ付近に触れると、送信信号がそのユーザに容量結合される。ユーザが導電性電極上に着座しているか、もしくは立っている場合、信号はその電極にも容量結合される。こうして、その電極に接続された受信機は、ユーザがどのアンテナ付近に触れているのかを検出することができる。当然、システムはこの逆に機能することもでき、この場合、テーブルが受信アンテナのアレーであり、ユーザが椅子または床板の固有の送信機からの信号を結合する。
【0010】
設計が適切であれば、人体を介した容量結合は信頼性の高いものである。考慮すべき事柄の一つとしては、「近傍」すなわち容量結合により動作することである。四分の一波長に比べてアンテナが非常に短くなるよう送信周波数を制限することで、非常にわずかなエネルギーが放射される。したがって、EMI両立性の問題を回避するために、妥当な大きさのテーブルに対して、周波数は1メガヘルツ以下の範囲にある。
【0011】
より具体的には、送信機が、タッチ表面上に搭載された多数のアンテナに連結されており、これらのアンテナに一意に識別可能な信号を送信する。受信機が、異なるユーザに容量結合されており、かかる一意に識別可能な信号を受信するよう構成されている。多数のユーザがアンテナのいずれかに同時に触れると、各接触アンテナは特定のユーザに関連付けられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明は、複数のユーザがタッチ表面に同時に触れ、そして各接触または複数の同時接触の位置を特定のユーザに関連付けることを可能にするタッチセンシティブ・システムを提供する。この発明のタッチシステムは、信号をタッチ表面上の位置とユーザとの間で容量結合することで、一意のタッチ位置を特定のユーザと結び付けることができる。したがって、多数のユーザが同時にタッチ表面と対話することができる。
【0013】
(システム構成)
図1に示すように、この発明の好適な実施の形態は、テーブルの上面板101を用いて、任意の画像(図示せず)を表示することができる。このテーブルの上面板には、タッチセンシティブパッド105からなる導電性の行102および列103が備え付けられている。パッドは、詳細を後述するように、アンテナとして働く。導電性タッチパッド105は、表示画像と一致するタッチセンシティブ表面300を形成する。図示の構成では、行および列がひし形パターンに構成されているが、後述のように他の幾何学模様も可能であることが理解されよう。
【0014】
導電性のパッドの行および列は、プリント回路基板の製作に用いられるものと同様の技術を用いて、たとえば積層基板上に堆積することができる。タッチパッドの大きさと間隙により、タッチ位置の有効分解能が決まる。
【0015】
送信機120が、後述の一意に識別可能な電子信号を、タッチパッドの行および列に個別に供給する。図示のとおり、送信機120は、マイクロコントローラ110と、シフトレジスタ111と、ラッチ112と、ドライバ113とを含む。タッチパッド105の行および列に対して一組のレジスタ、ラッチ、ドライバがある。
【0016】
さらに、各ユーザに1脚ずつ、テーブルの周囲に配置された椅子121〜122がある。椅子は、導電性部分(たとえば肘掛け、脚、あるいは座部)を含む。各椅子の導電性部分は、個々の受信機200に電気的に接続されている。ユーザを識別するために他の導電性の品目(たとえば導電性の床敷き、リストバンド、ベルトなど)も使用可能であることを理解されたい。しかしながら、導電性の椅子が好ましい。なぜなら椅子は、ユーザが快適な状態でシステムを容易に操作することのできる、邪魔にならない自然な環境を形成するからである。受信機200は、システム100の全体的な動作を制御するプロセッサ150に接続されている。図1のシステムを簡略化した回路図については図4を参照のこと。
【0017】
図2は受信機200を詳細に示す。受信機200は、同期復調器220に接続された増幅器210を含む。復調器の出力はアナログ/デジタル変換器230に接続され、このアナログ/デジタル変換器はマイクロプロセッサ240に接続される。マイクロプロセッサは、送信機のマイクロコントローラ110から同期信号119を受信し、プロセッサに対して、シリアル(たとえばRS−232)インターフェース250を介して位置座標を生成する。
【0018】
図3は、タッチセンシティブ表面300の詳細を示す。この発明の一実施の形態において、タッチ表面は、エッジコネクタ311〜312がそれぞれのドライバ113に接続された2層プリント回路基板として構成されている。かかる層は、第1の絶縁層301と、行の層302と、第2の絶縁層303と、列の層304と、機械的支持層305とを含む。
【0019】
(アンテナパターン)
タッチセンシティブ表面またはアンテナについて多数のアンテナパターンが可能である。本明細書ではより興味深いものを説明する。「フルマトリクス」パターンでは、非常に多くのアンテナが規則的な格子状に配置されている。このような個別に駆動されるアンテナ「ピクセル」のマトリクスにより、単一ユーザに対してでさえも、多数のタッチ位置の明白な決定が可能となる。
【0020】
フルマトリクスに対する小さな変形としては、六角形、三角形あるいは何らかの他のモザイク形状の使用が挙げられる。アンテナが平面上にある必要はない。ある種の用途では、タッチ表面を、いずれの適宜の形状としたオブジェクトに一致させてもよい。このような場合、不規則なパターンのアンテナが望ましい場合もある。また、ある種の用途では、非常に不規則なパターンが有用である可能性もあり、かかるパターンはある種の任意の画像に一致する。
【0021】
実際には、多くの用途においてフルマトリクスパターンは不要である場合がある。同時マルチユーザ機能は望ましいものであるが、各ユーザが、せいぜい単一のタッチ点またはバウンディングボックスを指示すれば十分かもしれない。この機能は、アンテナ数を劇的に低減する、図1に示すような簡単な行と列のパターンで得ることができる。
【0022】
行/列パターンの設計は些細なことではない。問題は、アンテナ同士が遮蔽もすることである。したがって、行導体(アンテナ)のシートを配置し、次にこれらの導体を列導体のシートで覆うと、重複するいずれの箇所においても行導体を遮蔽してしまう。この発明者は、図1に示す連結ひし形パターンが優れた選択肢であることを発見した。このパターンは、行導体が、90度回転させた列導体と同一であるという興味深い特性を有する。これにより単一の導体パターンを設計して、それを行と列の両方に用いることが可能となり、製造コストが節減された。
【0023】
実際には、ユーザによる接触が、異なる結合度で多数の行および多数の列にまたがる可能性が高い。これを用いて、そのタッチ点に対する重心を評価し、行および列間隔よりも高い分解能を有する位置を得ることができる。しかしながら、この情報を使用する別の方法は、有意に結合されたアンテナの最小および最大の行および列が境界を定める、タッチイベントに対するバウンディングボックスを提供することである。
【0024】
これは装置の興味深い使用へとつながる。単一のユーザが2点に触れて、バウンディングボックスの境界を定めることができる。これは、グラフィックスデザインシステムにおいて長方形の領域を選択する非常に自然な方法である。実際には、この発明者は、以下の2つの動作モードを用いることを提案する。結合領域が小さい場合には、ユーザは点を示しているとみなし、結合領域が大きい場合には、ユーザはバウンディングボックスを特定しようとしているとみなす。最終的な結果として、この簡略化した行/列設計であっても、全てのユーザについて同時の多数接触の使用が可能になる。
【0025】
当然、行/列パターンが単一ユーザからの多数の接触を識別できれば有利であろう。問題は、2つのX座標および2つのY座標が与えられた場合である。この場合にシステムは、意図される接触が(X1,Y1)と(X2,Y2)であるのか、(X1,Y2)と(X2,Y1)であるのかを区別できない。ほとんどの場合に、タイミング情報を用いてこの2つの事例を明確にすることができる。(X1,Y1)と(X2,Y2)が連続して結合されれば、対を判断することができる。
【0026】
(アナログ・アンテナ)
アンテナアレー(導電性タッチパッド)の目的は、位置に依存する結合パターンを簡単な方法で生成することである。これを代替的に、多数の点から駆動される抵抗シートを用いて達成することができる。
【0027】
これについて考える最も簡単な方法は、一次元の場合を考慮することである。発振器により、初めに抵抗ストリップの一端を駆動し、次に反対側の端を駆動し、駆動のたびに非駆動側を接地する。これにより、アースへと進む、振幅が線形に低減する信号が生成される。駆動側を切り替えると、この線形に低減する方向が瞬時に入れ替わる。2つの場合を通じて結合信号の割合を調べれば、タッチ位置を特定することができる。
【0028】
これを多次元に拡張することができる。信号を、X次元で、次にY次元で線形に低下するように応用可能である。しかしながらこれは、単に条導体を抵抗シートの端に配置するだけでは、未使用の導体が所望の次元で短絡してしまうため、達成することはできない。1つの部分的な解決策は、条導体を、他の軸を駆動する際には切断することのできる一連の小さな結合点に分割することである。より実際的な方法では、導体を4方の角に配置し、結果として生じる非線形の電磁界パターンを校正する。
【0029】
(システム動作)
動作中において、画像をテーブル上に投影することができる。投影はオーバヘッド投影であっても、またタッチ表面が透明もしくは半透明である場合には背面投影であってもよい。ゲームや産業用制御などの多くの用途に関して、画像をタッチセンシティブ表面に別の手段で固定することができ、あるいは固定画像と投影画像の混合を用いることができる。後述するように、タッチ表面を壁に取り付けた場合には、投影は従来のものとすることができ、あるいは、いずれか他の投影手段を用いることができる。
【0030】
タッチ表面をテーブルの上面板に取り付ける場合には、導電性の椅子121〜122に着座しているユーザが、体の部位(たとえば手指あるいは足指)で、またはユーザが把持している導電性ポインタでタッチ表面に触れたときに、送信機と受信機200との間で容量結合を生じる。事実上、ユーザが、タッチスクリーンを介して送信機を受信機に結合する。
【0031】
結合信号は、各椅子に容量結合された位置を特定するために分析され、よって着座している各ユーザによって指し示された一意的な位置を識別することができる。
【0032】
本システムは、図4に示すような簡略化した等価回路図により理解することができる。Ctable401は、ユーザの手指とタッチ表面の送信アンテナとの間のキャパシタンスを表す。Cchair402は、ユーザと導電性の椅子との間のキャパシタンスを表す。結合キャパシタンスは、これら2つのキャパシタンスを直列に組み合わせたものであり、下記式で表される。
coupling=(Ctable*Cchair)/(Ctable+Cchair
【0033】
手指の結合領域は、導電性の椅子にある胴体の上部全体に比べて非常に小さいため、CtableはCchairに比べて非常に小さくなりがちである。したがって、CcouplingはCtableにほぼ等しい。これの意味するところは、椅子を介した正確な容量結合は重要でないということである。結合が導電性の床板を介したものである場合、足の結合領域ははるかに小さいものであるが、それでも手指に比べれば非常に大きい。厚底の靴は、導体間の間隔を劇的に増加させるため問題となると考えられるかもしれない。しかしながらこの発明者は、ゴム製の厚底の誘電率は高いためキャパシタンスを増加するということに部分的に起因して、十二分な結合が得られる、ということを見出した。
【0034】
本システムが良好に動作するためには、ユーザ間の結合パスがはっきりと独立していることが好ましい。この制約は、2人以上のユーザまたはその椅子が接触しているか、あるいは非常に近い物理的近接度にある場合に破られる。これについては、「パーソナル・スペース」という社会規範で十分に、ユーザ間の結合を許容可能な程度に小さく抑えられる。
【0035】
しかしながら、この挙動を明示的に利用することができる。別のユーザあるいはその椅子に触れることにより、いずれか一方のユーザの接触は、両ユーザに関する接触として解釈される。典型的に、第2のユーザを「介した」結合は相当に弱いため、「主要な」ユーザと「共有」ユーザ群とを区別することが可能である。これにより、ユーザ群が共同で1つの選択を示すための単純で直感的な機構が得られる。
【0036】
上述のように、本システムは、以下の2通りの方法のうち1つで動作することができる。すなわち、タッチ表面を大きなアンテナアレーとして、一意に識別可能な信号を特定のユーザと関連付けられた少数の受信機に送信するか、あるいは、大きなアンテナアレーが、少数の一意に識別可能な信号を特定のユーザと関連付けられた送信機から受信することができる。この発明者は、多くの理由から前者がより優れた構成であるということを見出した。第1に、容易に大量生成が可能な論理レベルの信号で、送信機を駆動することができる。受信機は実装するのがいくぶんより複雑である。したがってこの発明では、受信機数を最小限にする構成を選ぶ。
【0037】
詳細に後述するように、一意に識別可能な信号の生成には多くの方法がある。信号の処理という点からみて、直交信号組を用いることができる。たとえば、全てのアンテナを異なる周波数で駆動する。すると、多数のアンテナに結合された受信機が、受信信号のスペクトルを調べることにより特定のユーザを識別する。しかしながら、大きなアレイに必要とされる非常に多数の周波数を生成することは、比較的費用がかかる可能性がある。
【0038】
別の選択肢として時分割多重化がある。この場合、各アンテナを順番に、固定周波数で別個に駆動し、受信信号のタイミングを使用して、どのアンテナが現在結合されているかを特定する。このシステムの実装は非常に単純である。なぜなら、受信機は、単一周波数を探すため特に単純であるからである。しかしながら、この技術は非常に大きなアレイには適切でない場合がある。問題は、様々な制約の相互作用により生じる非常に微妙なものである。
【0039】
応答度を高いものとするために、アレイ全体を1秒当たり10〜100回程度走査しなければならない。しかしながら、上述のように実際の変調周波数は1メガヘルツ以下の範囲に制限されている。これではアンテナ当たりの変調サイクル数が非常に少なくなってしまい、特に他の干渉ノイズ源を考慮すると、受信機の設計が困難となる。
【0040】
時分割多重化方式の実用性を拡張するのに役立つ、走査時間を短縮する方法がある。多数のアンテナを同時に駆動して、それらのいずれかからの結合がないかを調べることができる。したがって、2値探索パターンを使用して、ほぼ対数時間で特定のタッチ点を探し出すことができる。しかしこれは、初めに言ったほど直接的ではない。一般に、多数のアンテナに対する結合の程度は異なるため、実際には、これらの探索により候補となる領域を絞った上で、その領域を徹底的に探索する。
【0041】
電話システムに精通した者であれば気付くように、時および周波数分割多重化に加えて、符号分割多重化を考慮することができる。これは実際に、大きなアレイに対して特に洗練された方法であることがわかった。単純な生成多項式を用いて、擬似ランダムビットシーケンスを生成する。このシーケンスは、自己相関が、ゼロ以外のあらゆるところで非常に小さいという特性を有する。次に、このシーケンスを長いシフトレジスタに供給し、アンテナ毎にタップを1個ずつ有する、2値のタップ付き遅延線を生成する。タップはアンテナを直接変調する。次に受信機は、受信信号を元のシーケンスと相互相関させる。相互相関信号中の各遅れは、特定のアンテナからの結合と一致する。これにより、すべての結合を1回の計算で特定することができる。
【0042】
この符号分割多重化方式の利点は、多数のアンテナに対して極めて良好に適合する(scale)ことである。アンテナを増やすには、シフトレジスタ上に単に追加のタップを増やすだけでよい。受信機の側では、FFTなどの技術により、相互相関計算の難しさが劇的に低減できる。時分割多重化と違い、アンテナ数を増やしても有効なアンテナの積分時間は長く一定なままであり、ノイズの問題は回避される。
【0043】
(送信と受信)
この発明のシステムの容量結合は、近傍結合に依っている。したがって、受信機200において信号対ノイズ比(SNR)を最大にするために、タッチセンシティブ・スクリーンによる遠方放射は最小限に抑えねばならない。この理由から、送信信号の周波数は低く(たとえば実際的なテーブルの大きさに対して1メガヘルツ未満に)維持される。これは、システムの設計に重要な影響を及ぼす。低周波数では、受信機において要求される積分時間が増加して、使用に適したSNRを達成する。利点として、この周波数が電波スペクトルの周波数よりもずっと下であることから、この発明のシステムは、RF信号が他の装置の動作に干渉する恐れのある環境で使用可能となっている。
【0044】
(時分割多重化)
時分割多重化伝送方式では、パッドの各行そして次に各列を順番に、個別に駆動することで、個々の送信機の数を比較的小さくすることができる。送信信号が受信機200に存在する回数を計数することで、結合された行と列を容易に区別することができる。これは、同期信号119により達成可能である。
【0045】
(符号分割多重化)
時刻同期信号が唯一の容易に分離可能な信号であるわけではない。符号分割多重化を用いれば、送信機側の直交拡散符号により、多数の信号が同一の周波数帯域を占有することができる。次に受信機200において、これら多数の信号を、元の拡散符号と相関することにより分離する。擬似ランダムノイズ(PRN)ビットシーケンスを適切に選ぶことにより、自己相関関数が、ゼロ以外のあらゆるところで非常に小さくなる。
【0046】
したがって、パッドの各行および各列を同一のPRNビットシーケンスによって、ただし各シーケンスに固有の時間遅延を持たせて駆動することで、受信信号を、元のシーケンスとの相互相関により容易に分離することができる。
【0047】
したがって、多項関数を用いて、単一PRNビットシーケンスを送信機に対して生成する。PRNシーケンスはシフトレジスタを通過して、時間遅延を提供する。次に送信信号は、シフトレジスタから離れたタップからの(from taps off the shift register)PRNシーケンスによって拡散させられ、異なる受信機によって送信される。
【0048】
符号分割多重化方式は多くの利点を有する。第1に、テーブル全体における位置を受信機あたり1回の相互相関で判定することができる。第2に、有効な積分時間を、時分割方式に比べて非常に長いものとすることができる。第3に、スペクトル拡散動作により、システムが多くの種類の干渉に対して強固なものとなる。
【0049】
(抵抗タッチスクリーン)
行および列パッドの複雑なパターンを用いる代わりに、上述のように単一の抵抗基板をタッチセンシティブ表面として用いることもできる。この場合、非常に少数(たとえば、それぞれの角に1つずつ、あるいはそれぞれの辺に1つずつ)の送信機が用いられる。基板全体にわたる抵抗の低下は各送信機に関して異なるため、ユーザまで容量結合された信号の相対的な量を用いてタッチ位置を特定することができる。
【0050】
(代替の実施の形態)
代替の実施の形態では、電気信号を逆に駆動して、椅子121〜122が固有の送信機に結合されるようにし、行と列は単一の受信機に結合される。
【0051】
さらに別の実施の形態では、テーブル上の固有の位置それぞれが個別に送信機または受信機に結合され得る。この構成により単一ユーザによる多数のタッチ点が識別可能となる。
【0052】
位置を個別にアドレス指定可能としたこの設計では、各位置上の信号を積分しながら、なおも妥当な全体的更新率を維持する十分な時間がない場合がある。この場合には、符号分割多重化方式を用いる。受信符号を分析することで、タッチ位置を特定することができる。符号分割多重化では、位置ごとの時間スライス積分(time sliced integration)が不要であるため、十分な積分時間が可能となる。
【0053】
タイミング信号を用いて多数の同時接触を明確にすることもできる。三角形メッシュなどの他の幾何学模様でも、多数の明確なタッチ位置が可能となる。メッシュの間隔は、指先が少なくとも1つの行および1つの列に及び得るよう十分小さく、しかも容量結合を最大とするのに十分大きくなければならいことに留意されたい。
【0054】
(用途)
この発明によるシステムは、上述の対話型用途のいずれにも用いることができるが、次に本システムを多数のユーザが同時に操作できるようにする。さらに、本システムを対話型ゲームという全く新しいジャンルに用いることができ、このゲームにおいて多数のユーザは互いに競争するか、あるいは共同して未知の問題を解決する。
【0055】
本システムの重要な特徴の1つとして、多数の接触を検出し、多数の人が本システムと同時に対話できるようにすることがある。場合によっては、ユーザの識別は重要でないかもしれない。したがって、単一の受信機を使用することができる。変わりどころの例としては、デジタルフィンガーペイント壁画(ユーザがメッセージや美術作品をフィンガーペイントすることのできる壁で、メッセージや美術作品は徐々に変色し、時間とともに薄れてゆく)が挙げられる。
【0056】
このシステムは、デジタル映像をタッチパッドのフルマトリクスに投影し、近隣の床を単一の受信電極とすることで機能する。興味深いことに、本システムは行/列タッチウォールと併せて実施することもできる。この場合、床を多数の別個の受信機に分割し、各ユーザに独立した結合パスを提供するようにする。本システムは、これらの受信機をすべて走査して結合を探索することができ、ユーザが自由に歩き回れるようにする。
【0057】
この発明によるシステムの別の重要な特徴として、現在どのユーザがアンテナ付近に触れているのかを特定できることがある。これは多くの方法で用いることのできる非常に強力な特徴である。たとえばこの発明者はマルチプレーヤゲームを作成した。このゲームでは、色の異なるオブジェクトがしばしば同時にタッチ表面に現れ、プレーヤは特定の色のオブジェクトに素早く触れなければならない。各オブジェクトに対してこれを最初に正確に行ったプレーヤには、スコアに得点が加算される。間違った色に触れてしまうと得点を失う。このゲームは、この発明の識別機能によってのみ可能となる。
【0058】
同時識別性の対話が可能となることで、いくつかの興味深い可能性が開かれる。より魅力的な着想の1つには、仮想の個人用ワークエリアを作り出せることがある。本システムは、共有表面上におけるグループの共同作業用に設計されているが、実際には、個人同士が「離れて」、問題の何らかのサブセットにしばらく取り組み、それから各自の結果を全体にまとめたいと思うかもしれない。こういった状況が発生した際に、本システムは、適宜のユーザの正面に、そのユーザに対してのみ応答する仮想の個人用ワークエリアを作り出すことができる。これでそのユーザは、いくらかのスクリーン空間を失う以外には他のユーザのより大きな労力に影響を与えることなく、この空間でオブジェクトを操作することができる。これらの仮想の個人用ワークエリアは、ソフトウェアにより定義されるものであるため、進行しながら、所望のあらゆる形状で作り出したり壊したりすることができる。
【0059】
仮想の個人用ワークエリアの概念を、特別な「特権オブジェクト」に拡張することができる。特権オブジェクトとは、特定の部類のユーザのみが、当該オブジェクトに関して特定の操作を行えるようにするアイコンである。たとえば、配管工と電気技術者が同一の家の見取り図を見ているとしても、配管工のみが配管を修正でき、電気技術者のみが配線を修正できる。
【0060】
この発明を好適な実施の形態の例により説明してきたが、様々な他の適用形態および変更形態を、この発明の精神および範囲内で行うことができるということが理解されよう。したがって、併記の特許請求の範囲の目的は、かかる変形や変更形態すべてをこの発明の真の精神および範囲内に入るものとして網羅することである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明に係るマルチユーザタッチスクリーンの概略図である。
【図2】この発明に係る受信機のブロック図である。
【図3】この発明の一実施の形態に使用されるタッチスクリーンのブロック図である。
【図4】この発明に係る容量結合の概略図である。
【符号の説明】
【0062】
100 システム、101 テーブルの上面板、102 行、103 列、105 タッチセンシティブパッド、111 シフトレジスタ、120 送信機、121〜122 椅子、150 プロセッサ、200 受信機、210 増幅器、220 同期復調器、230 アナログ/デジタル変換器、300 タッチセンシティブ表面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のタッチセンシティブ要素を含む表面と、
一意に識別可能な信号を各タッチセンシティブ要素に送信するよう構成された送信機と、
それぞれが異なるユーザに接続された複数の受信機と、
多数のユーザが前記複数のタッチセンシティブ要素のいずれかに同時に触れた際に、送信された一意に識別可能な信号に基づいて、特定のタッチセンシティブ要素を前記特定のタッチセンシティブ要素にタッチするユーザと関連付ける手段と
を含むマルチユーザタッチシステム。
【請求項2】
前記特定のユーザは、前記複数のタッチセンシティブ要素のサブセットにタッチし、
前記サブセット内の各タッチセンシティブ要素を前記特定のユーザと関連付ける手段をさらに含む請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記サブセットは、複数のタッチセンシティブ要素を含む請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
各タッチセンシティブ要素は、前記表面上に関連する位置を有する請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記多数のユーザが前記複数のタッチセンシティブ要素のいずれかに同時に触れる間に、前記表面にイメージを投影する手段をさらに備える請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
各タッチセンシティブ要素は、前記表面上に関連する位置を有し、
前記多数のユーザが前記複数のタッチセンシティブ要素のいずれかに同時に触れる間に、前記表面にイメージを投影する手段と、
前記特定のタッチセンシティブ要素の位置を前記特定のユーザ及びイメージ内の対応する位置と関連付ける手段と
をさらに備える請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記複数のタッチセンシティブ要素は、前記表面上に行及び列状に配置される請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
タッチ表面は、プリント回路基板として構成され、
第1の絶縁層と、
行の層と、
第2の絶縁層と、
列の層と、
機械的支持層と
を含む請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
多数のタッチセンシティブ要素の位置は、各ユーザに対し特定のユーザと明白に関連付けられる請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記タッチセンシティブ要素は、規則的なパターンで配置される請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記タッチセンシティブ要素は、規則的なパターンで配置される請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記タッチセンシティブ要素の位置の重心を定める手段をさらに備える請求項4に記載のシステム。
【請求項13】
前記サブセット内の前記タッチセンシティブ要素の位置に関連したバウンディングボックスの境界を定める手段をさらに備える請求項4に記載のシステム。
【請求項14】
特定のユーザにより把持され前記特定のタッチセンシティブ要素に触れる導電性ポインタをさらに備える請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
それぞれ異なるユーザを前記異なるユーザに関連した受信機に接触するように構成された導電性椅子をさらに備える請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
一意に識別可能な信号を、表面上に搭載された複数のタッチ要素に送信するステップと、
多数のユーザが複数のタッチ要素のいずれかに同時に触れた際に、特定の接触要素を特定のユーザに関連付けるステップと
を含むマルチユーザタッチシステムの動作方法。
【請求項17】
前記複数のタッチ要素は、導電性椅子を介して前記ユーザに容量結合される請求項16に記載の方法。
【請求項18】
各送信機が、異なるユーザに接続され、送信機に接続されたそれぞれ異なるユーザに関連した一意に識別可能な信号を送信するように構成された、複数の送信機と、
複数のタッチセンシティブ要素を含む表面と、
前記複数のタッチセンシティブ要素のそれぞれに接続された受信機と、
多数のユーザが前記複数のタッチセンシティブ要素のいずれかに同時に接触する際、送信された一意に識別可能な信号に基づいて、特定のタッチセンシティブ要素を前記特定のタッチセンシティブ要素に接触する特定のユーザに関連付ける手段と
を備えるマルチユーザタッチシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−152806(P2008−152806A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60636(P2008−60636)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【分割の表示】特願2002−133685(P2002−133685)の分割
【原出願日】平成14年5月9日(2002.5.9)
【出願人】(597067574)ミツビシ・エレクトリック・リサーチ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド (484)
【住所又は居所原語表記】201 BROADWAY, CAMBRIDGE, MASSACHUSETTS 02139, U.S.A.
【Fターム(参考)】