説明

マルチワイヤ配線板用接着剤およびこの接着剤を用いたマルチワイヤ配線板とその製造法

【課題】各種特性に優れ、0.2mmより薄い基材(基板)に対してワイヤを布線でき、高多層化によるはんだ耐熱性の低下を抑制できるマルチワイヤ配線板用接着剤およびこの接着剤を用いたマルチワイヤ配線板およびその製造法を提供する。
【解決手段】(a)重量平均分子量80,000以上のポリアミドイミド樹脂と、(b)重量平均分子量が10,000から50,000の範囲にあるポリアミドイミド樹脂と、(c)熱硬化性成分とを含む接着剤であって、硬化物のガラス転移点(Tg)が180℃以上である、マルチワイヤ配線板用接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチワイヤ配線板に用いる接着剤およびこの接着剤を用いたマルチワイヤ配線板とその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に接着層を設け、導体回路形成のための絶縁被覆ワイヤ(以下、特に断り無ければ、ワイヤと略す)を布線、固定し、スルーホールによって層間を接続するマルチワイヤ配線板は、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4により開示され、高密度の配線ができ、さらに特性インピーダンスの整合やクロストークの低減に有利なプリント配線板として知られている。
【0003】
前記特許文献には、熱硬化性樹脂と硬化剤とゴム成分からなる接着層を用いたマルチワイヤ配線板の製造工程として、(1)内層回路板の作製、(2)内層回路板の上に接着剤のラミネート、(3)数値制御式自動布線機による絶縁ワイヤの固定、(4)プリプレグのラミネート、(5)スルーホール穴明け、(6)スルーホールの銅めっき、を行うことが記載されている。工程(4)にプリプレグを用いる理由は、ドリル等による穴明け時に、ワイヤが剥がれてしまうのを防止したり、その後のめっき工程において、ワイヤが損傷を受けて信頼性が低下することを防止するためである。
【0004】
また、接着剤にゴム成分を用いている理由は、接着剤を支持フィルムに塗布・乾燥して接着シートとして作製し、絶縁基板や内層回路板にプリプレグを積層したものの上に、積層接着して用いることから、作業上の取り扱いを容易にするために、接着層の膜形成が可能であること、可とう性を有すること、および布線する時以外は非粘着性であることが必要なためである。さらには、ワイヤを接着層に固定する時は、スタイラスが超音波で振動しながら、その先端部分でワイヤを接着層に接触させ、その超音波振動による熱エネルギーによって接着層を活性化し溶融接着させるために、溶融可能な組成であることが必要である。
【0005】
マルチワイヤ配線板を含むプリント配線板は、高密度実装に対応するため、高密度、微細化が進んでいる。この高密度、微細化をマルチワイヤ配線板で行う場合、ワイヤとワイヤとの間の絶縁抵抗、ワイヤと内層回路層との間の絶縁抵抗、およびワイヤの位置精度とが極めて重要であり、隣接した導体間の絶縁抵抗を高く保つこと、およびワイヤが布線あるいは布線後の工程で動かないようにすることが必要である。従来の技術においては、絶縁抵抗は、従来の配線密度であれば許容誤差内に収まり、ワイヤ位置精度は、布線し、プリント配線板を積層接着した後に、設計値に対して、約0.2mm程度の移動(以下、ワイヤスイミングという。)はあったものの、配線密度が低く穴径が大きかったため実用に供するものであった。
【0006】
しかし、前述のように配線密度が高くなってくると、ゴム成分を用いた接着剤では絶縁抵抗が低下する。また、高密度化に伴い穴径も小さくなり、ワイヤスイミングが大きいとスルーホールとなるべき位置のワイヤが移動し、接続されずに接続不良を起こすという問題が発生した。この絶縁抵抗の低下とワイヤスイミングを大きくする原因は、接着剤にゴム成分を用いていることであった。すなわち、ゴム成分そのものの絶縁抵抗が低いこと、および布線した後に接着剤中のゴム成分の流動が残ったままプリプレグ等を積層接着するため、ワイヤスイミングが発生する。
【0007】
そこで、特許文献5に開示されているように、接着剤としてエポキシ樹脂、エポキシ変性ポリブタジエン、カチオン性光重合開始剤等を成分とするUV硬化型接着シートが開発された。この接着剤は、布線の後、紫外線により接着剤を若干硬化させた後、積層を行うため、ワイヤスイミングを抑制でき、上記接着剤のゴム成分に換えて絶縁抵抗の高いエポキシ変性ポリブタジエン成分を導入したことで、絶縁抵抗の低下を抑制したものである。
【0008】
近年、マルチワイヤ配線板は、さらなる高密度実装に対応するため、高多層化が進んでいる。しかし、特許文献5に開示された接着剤を用いたマルチワイヤ配線板は、ワイヤを固定した接着層の高多層化に伴い、はんだ耐熱性が低下するという問題が生じた。この原因は、マルチワイヤ配線板中に、ガラス転移点が低く、ガラス転移点以上の熱膨張率が大きい接着剤の占有率が多くなったため、はんだ耐熱後の冷却過程における収縮の差によって、ボイドおよび剥離が発生するためと記載されており、接着剤の特性が大きく関与している。即ち、当時は基材(基板)やプリプレグと接着剤のTg未満、およびTg以上の熱膨張率、弾性率の差を低減することで耐熱性が向上すると考えられていた。このため、Tg未満とTg以上での弾性率の向上と、熱膨張率の低減が必須と思われていた。
【0009】
その後、耐熱性を向上するための検討がなされ、特許文献6に開示された接着剤を用いたマルチワイヤ配線板は、288℃のはんだフロートの耐熱性試験に耐えるものとなった。この接着剤は、分子量が80,000以上のポリアミドイミド樹脂と熱硬化成分からなり、硬化物のガラス転移温度(以下Tgと略す)が180℃以上、Tgから350℃までの熱膨張率が1000ppm以下、かつ、300℃の最低弾性率が30MPa以上の物性で規定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4097684号明細書
【特許文献2】米国特許第3646572号明細書
【特許文献3】米国特許第3674914号明細書
【特許文献4】米国特許第3674602号明細書
【特許文献5】特許第3324007号公報
【特許文献6】特許第3821252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、近年の高多層化の要求に応えるためには、基材(基板)の薄型化が必要となってきた。従来は、基材厚みは0.2mm以上であったが、最近は0.1mmあるいはこれ以下が使用され始めている。通常ワイヤを布線する場合は、回路形成した基材(基板)の両面にプリプレグをプレスラミネートし、その上に接着剤を貼り付けた状態で行う。機械的にワイヤを経由して伝えられた超音波振動は変形しやすい接着剤を熱溶融させるが、板厚の薄型化によって、その直下にある基板の単位面積あたりの質量が小さくなって、基板が超音波振動に追随しやすくなり、上記の接着剤における超音波による発熱効率が低下して、布線性が低下するという課題が出てきた。具体的には、同じ布線条件でワイヤを布線しても、高密度部分でワイヤが十分に接着剤に固定できず、ワイヤの位置ずれによる断線や短絡不良が生じてしまう。このため、特許文献6(特許第3821252号公報)に記載の接着剤では、0.2mmより薄い基材(基板)を用いたマルチワイヤの製造が困難となった。
【0012】
その他、接着剤において考慮しなければならないことは、絶縁抵抗の低下を抑制するために絶縁抵抗の低いゴム成分を添加しないこと、ワイヤの位置精度を高めなければならないこと、プリプレグ、基材(基板)、接着剤の熱膨張率の低減のためにガラス転移点:Tgの高いものを使用すること、従来の製造装置および製造方法をできるだけ使用可能とするために可とう性を有すること、皮膜形成ができること、および布線時以外の非粘着性を維持できることである。
【0013】
本発明は、各種特性に優れ、0.2mmより薄い基材(基板)に対してワイヤを布線でき、高多層化によるはんだ耐熱性の低下を抑制できるマルチワイヤ配線板用接着剤およびこの接着剤を用いたマルチワイヤ配線板およびその製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の通りである。
本発明のマルチワイヤ配線板用接着剤は、(a)重量平均分子量80,000以上のポリアミドイミド樹脂と、(b)重量平均分子量が10,000から50,000の範囲にあるポリアミドイミド樹脂と、(c)熱硬化性成分とを含む接着剤であって、硬化物のガラス転移点(Tg)が180℃以上である。
上記マルチワイヤ配線板用接着剤において、上記(a):(b)の質量比が30:70から70:30の範囲であり、かつ、(a)+(b):(c)の質量比が100:10から100:150の範囲であることが好ましい。
また、上記マルチワイヤ配線板用接着剤において、上記(b)のポリアミドイミド樹脂の末端がイソシアネート基であり、さらに前記イソシアネート基が、加熱により解離するマスク剤と結合していることが好ましい。
また、上記マルチワイヤ配線板用接着剤において、上記(c)熱硬化性成分が、1種類以上のエポキシ樹脂を含み、かつ、前記エポキシ樹脂の硬化剤もしくは前記エポキシ樹脂の硬化促進剤を含むことが好ましい。
また、上記マルチワイヤ配線板用接着剤において、上記エポキシ樹脂の少なくとも1種が室温(25℃)で液状であることが好ましい。
また、本発明のマルチワイヤ配線板は、絶縁基板もしくは予め導体回路を形成した基板と、上記接着剤からなる接着層と、前記接着層により固定された絶縁被覆ワイヤと、所望の箇所に設けたスルーホールとからなることを特徴とする。
さらに、本発明のマルチワイヤ配線板の製造法は、絶縁基板もしくは予め導体回路を形成した基板上に、上記接着剤からなる接着層を形成する工程、絶縁被覆ワイヤを前記接着層上に布線し、固定した後、前記基板を加熱プレスして前記接着層を硬化させる工程、前記基板の所望の箇所に穴をあけてその穴内壁にめっきを行って、導体回路を形成する工程を有することを特徴とする。
また、上記マルチワイヤ配線板の製造法において、前記基板を加熱プレスした後に、さらに加熱処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、各種特性に優れ、0.2mmより薄い基材(基板)に対してワイヤを布線でき、高多層化によるはんだ耐熱性の低下を抑制できるマルチワイヤ配線板用接着剤およびこの接着剤を用いたマルチワイヤ配線板およびその製造法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)〜(h)は、本発明の一実施例を示す各製造工程の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明で用いる接着剤は、マルチワイヤ配線板に用いる絶縁被覆ワイヤ(以下ワイヤと略す)を布線機という装置で配線固定する絶縁層として用いる。この接着剤は、各種成分を溶剤に溶解してワニスとし、直接基板上に塗布、乾燥しても良いが、好ましくは剥離可能なキャリアフィルム上に塗工機を用いてフィルム上に塗工、乾燥し、膜厚が均一なBステージのフィルムとし、これをホットロールラミネータ等で基板に貼り合せる方法が好ましい。このため、接着剤の成分には分子量の大きなポリアミドイミド樹脂成分を含む。基板は、基板または絶縁基板とも表す。
【0018】
本発明では、(a)重量平均分子量80,000以上のポリアミドイミド樹脂を用いる。本発明のマルチワイヤ配線板用接着剤が、重量平均分子量80,000以上のポリアミドイミド樹脂を含まないとBステージでのフィルム形成性、ワイヤの布線性(固定力)、また工程中でのワイヤ位置精度が低下するおそれがある。また、(a)ポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量としては、入手容易性の観点から200,000以下が好ましい。
【0019】
次に、本発明のマルチワイヤ配線板用接着剤では、(b)重量平均分子量が10,000から50,000の範囲にあるポリアミドイミド樹脂を用いる。なお、(b)ポリアミドイミド樹脂は、上記(a)ポリアミドイミド樹脂と、類似骨格であることが好ましい。マルチワイヤ配線板用接着剤のワニスを配合する際に、ポリアミドイミド樹脂の骨格が異なると相溶性は低く相分離しやすい。また、重量平均分子量の範囲を上記(b)の範囲に規定したことと(a)と併用する理由は、鋭意検討した結果、(a)のみの場合よりも布線性を向上できることが分かったためである。(b)の重量平均分子量がこの範囲外であると、布線性向上効果が低下するおそれがある。
【0020】
本発明では、(a):(b)の質量比率が30:70から70:30の範囲にあることが好ましい。(a)成分の質量比率が70を超えて多い場合、分子量の低い成分が少なくなるため、ワイヤの埋り込み性等が向上せず、0.2mmより薄い基板では配線不良が発生するおそれがある。また、(a)成分の質量比率が30未満では、分子量の高い成分が減少するためフィルム形成時にクラックが発生したり、ワイヤの保持力が低下するため、配線不良が発生するおそれがある。また、本発明では(c)熱硬化性成分を用いる。熱可塑性のポリアミドイミド樹脂成分のみでは、配線板の製造工程中のウェット処理、例えば、穴あけ後にスルーホールを形成する、粗化、めっきの薬液処理で溶解、劣化が進み、配線板の特性低下を引き起こすおそれがある。さらに、部品実装のはんだリフローでは、熱膨張が大きく耐熱性が低下することと、基板内部を流動してしまうこともある。このため、熱硬化性成分によって接着剤を架橋させ、熱膨張率を低減すると共に、高温での樹脂流動を抑制することが必要である。よって、(a)+(b):(c)の質量比率が100:10から100:150の範囲であることが好ましい。(c)成分の質量比率が10未満では、熱硬化成分が少ないため、接着力不足による配線不良が発生するおそれがある。また、(c)成分が150を超えて多い場合、相溶性の低下から、ワニス配合時にゲル化してしまい、フィルム形成ができないおそれがある。
【0021】
また、本発明の接着剤の硬化物のガラス転移点(Tg)は180℃以上である。本発明の接着剤は、通常、180〜220℃、0.5〜2時間の条件で硬化物となる。なお硬化物とは、示差走査熱量測計(DSC)による反応熱測定を行い、原材料(接着剤)の発熱量に対し、10%以下の発熱量である状態を言う。一般的に有機物はTgを超えると熱膨張率が約10倍程度大きくなり、結果的にリフローでの熱膨張が大きすぎて耐熱性の低下を招く。これは、熱硬化性成分の添加である程度抑制できるが、硬化物としてのTgが180℃未満では耐熱性が低下するおそれがある。
【0022】
本発明の(a)、(b)成分にポリアミドイミド樹脂が用いられる理由としては、Tgの高いポリアミドイミド樹脂の合成が容易であること、骨格中のアミド結合部分は後述するエポキシ樹脂と挿入反応し、架橋点として利用できることが挙げられる。ポリアミドイミド樹脂の骨格としては、硬化後にTg180℃以上とするために芳香族を持つものが好ましい。また、合成方法としては各種あるが、骨格を制御しやすく、絶縁性を低下させるイオン性不純物の混入が無いイソシアネート法が好ましい。例として、原料に、芳香族ジアミンとトリメリット酸無水物を当量反応させたジイミドジカルボン酸と芳香族ジイソシアネートを当量反応させると重量平均分子量10,000以上の芳香族ポリアミドイミドを合成できる。この当量比を精密制御することで重量平均分子量を80,000以上、さらには100,000以上にまで高分子量化が可能である。この方法で合成したポリアミドイミド樹脂の末端は一般的にアミド基またはカルボキシル基であり、後者の場合は塩基性触媒下でエポキシ樹脂と反応させることができる。
【0023】
ポリアミドイミド樹脂の元となる芳香族ジイミドジカルボン酸としては、下記式1のものが挙げられる。また、芳香族ジイソシアネートとしては下記式2のものが挙げられる。合成したポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて測定する。標準ポリスチレンにて分子量/溶出時間曲線を作製し、該樹脂の溶出時間からポリスチレン換算することで、重量平均分子量を求める。測定条件は、カラムGL−S300MDT−5(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、商品名)、溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)/テトラヒドロフラン(THF)の混合溶媒を用いる。
【0024】
【化1】

【0025】
【化2】

【0026】
本発明では、(b)のポリアミドイミド樹脂の末端がイソシアネート基であり、さらにイソシアネート基が加熱により解離するマスク剤と結合していることが好ましい。マスク剤を結合することで比較的熱に対して安定であるが、100℃以上の加熱によって架橋点として使用でき、Tg向上、流動性制御、布線性の向上に効果的である。このマスクイソシアネート基は他の官能基、例えばエポキシ樹脂骨格やその反応後に生じる水酸基と架橋させることができる。また、ワイヤの布線性を向上させるための手法としては、Bステージのフィルム物性として、ポリアミドイミド成分が若干の架橋構造を持っていることが好ましいことが発明者の長年の研究で分かっている。その点でこのマスクイソシアネート基は好適であり、フィルム化の塗工の際に、乾燥時の加熱の制御で若干反応させることができる。さらに、最終的に加熱硬化することで硬化物の熱膨張率の低減に有効である。(b)にイソシアネート基を導入する手法は各種考えられるが、上記に例示したイソシアネート法で、ジイソシアネートを過剰にする方法が簡便である。さらに、このイソシアネート末端のポリアミドイミド樹脂を合成後、各種のマスク剤を反応させることで得られる。マスク剤としては、活性水素を持つ化合物であればよく、例えば、MEKオキシム、マロン酸ジエステル、アセト酢酸エステル、ε−カプロラクタム、フェノール、アルコールなどが挙げられるが、本発明ではMEKオキシムが好適である。フリーのイソシアネート基よりも熱反応性は低下するが、室温(25℃)における安定性が良好となり、接着剤の保存安定性には十分である。
【0027】
本発明では(c)の熱硬化性成分が、1種類以上のエポキシ樹脂とその硬化剤もしくは硬化促進剤を含むことが好ましい。エポキシ樹脂のグリシジル基は、硬化剤や硬化促進剤によってはエポキシ樹脂同士と反応するが、上述した様にポリアミドイミド樹脂のアミド基と挿入反応して架橋することができる。これによって、硬化物のTgを180℃以上とし、熱膨張を抑制することで耐熱性を向上できる。
【0028】
さらに、エポキシ樹脂を複数使用することもできる。この場合、少なくとも1種が室温(25℃、以下同様)で液状のものであることが好ましい。Bステージフィルムでワイヤの布線性を確保するためには、室温で液状のものが含まれることが好ましく、室温でフィルムを柔軟にすることで布線時にワイヤに与えられる超音波振動が接着剤に伝えられて熱エネルギーに変換されやすくなり、ワイヤが接着剤中に埋まり込みやすくなる。例えば、溶剤もこれに含まれるが、工程中の加熱によって除去した際の収縮が大きくなる。液状のエポキシ樹脂は、溶剤量を減らす効果があると共に、この熱収縮を低減する効果もある。
【0029】
エポキシ樹脂としては、グリシジル基を2つ以上有しているものであればどのようなものでも使用でき、グリシジル基が3つ以上であればさらに好ましい。室温で液状のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型のYD128、YD8125(東都化成株式会社製、商品名)、Ep815、Ep828(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)、DER337(ダウケミカル日本株式会社製、商品名)、ビスフェノールF形のYDF170、YDF2004(東都化成株式会社製、商品名)が挙げられる。
【0030】
また、室温で固形のエポキシ樹脂としては、YD907、YDCN704S、YDPN172、YP50(東都化成株式会社製、商品名)、Ep1001、Ep1010、Ep180S70(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)、ESA019、ESCN195(住友化学株式会社製、商品名)、DER667、DEN438(ダウケミカル日本株式会社製、商品名)、EOCN1020(日本化薬株式会社製、商品名)が挙げられる。さらに、難燃性を付与するためには、臭素化エポキシ樹脂を用いてもよく、例えば、YDB400(東都化成株式会社、商品名)、Ep5050(油化シェルエポキシ株式会社、商品名)、ESB400(住友化学株式会社、商品名)が挙げられる。また、これらは、単独で用いてもよいが、必要に応じて複数のエポキシ樹脂を選択してもよい。
【0031】
エポキシ樹脂の硬化剤もしくは硬化促進剤としては、アミン類、イミダゾール類、多官能フェノール類、酸無水物等が使用できる。アミン類としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、グアニル尿素等があり、イミダゾール類としては、アルキル置換イミダゾール、ベンズイミダゾール等があり、多官能フェノール類としては、ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールAおよびそのハロゲン化合物、さらに、これにアルデヒドとの縮合物であるノボラック、レゾール樹脂等があり、酸無水物としては、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等がある。
【0032】
なお、市販のエポキシ樹脂の硬化剤としては、H−400(フェノールノボラック樹脂、水酸基当量106g/当量,明和化成株式会社製、商品名)、DIC株式会社製、商品名:フェノライトLF2882、フェノライトLF2822、フェノライトTD−2090、フェノライトTD−2149、フェノライトVH−4150、フェノライトVH4170、フェノライトKA−1160、フェノライトKA−1163、フェノライトKA−1165などが挙げられる。また、市販のエポキシ樹脂の硬化促進剤としては、2E4MZ、2PZ−CN、2PZ−CNS(以上、四国化成工業株式会社製、商品名)などが挙げられる。
【0033】
これらの硬化剤の配合量は、アミン類の場合は、アミンの活性水素の当量とエポキシ樹脂のエポキシ当量がほぼ等しくなる量が好ましい。例えば、1級アミンの場合は、水素が2つあり、エポキシ樹脂1当量に対して、この1級アミンは0.5当量であり、2級アミンの場合は、1当量である。次に、イミダゾール類の場合は、単純に活性水素との当量比とならず、好ましくはエポキシ樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部である。多官能フェノール類や酸無水物の場合、エポキシ樹脂1当量に対して、0.8〜1.2当量が好ましい。
【0034】
本発明のマルチワイヤ配線板用接着剤においては、他に、必要に応じてスルーホール内壁等のめっき密着性を上げること、およびアディティブ法で配線板を製造するために、無電解めっき用触媒を加えることもできる。
通常、上記成分を有機溶媒中で混合し接着剤ワニスとする。有機溶媒としては、溶解性がよければどのようなものでもよい。例えば、本発明で好適なポリアミドイミド樹脂を用いる場合、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、シクロヘキサノン等が例示できる。接着剤ワニス中の樹脂固形分量は、通常、20〜40質量%である。
【0035】
本発明の接着剤を用いたマルチワイヤ配線板の製造法を、図1を用いて説明する。
まず、図1(a)は、電源、グランド等の導体回路(内層銅回路)を予め設けた基板1を示す。導体回路は、ガラス布エポキシ樹脂銅張積層板やガラス布ポリイミド樹脂銅張積層板等を公知のエッチング法等により形成できる。また、必要に応じてこの内層銅回路2は多層回路とすることもでき、また全く無くすこともできる。よって、導体回路のない絶縁基板を使用してもよい。
【0036】
図1(b)は、アンダーレイ層3として絶縁層を形成した図である。これは耐電食性を向上させたり、特性インピーダンスを調整したりするために設けられるが、必ずしも必要としない場合がある。このアンダーレイ層3には、通常のガラス布エポキシ樹脂やガラス布ポリイミド樹脂のBステージのプリプレグ、あるいはガラスクロスを含まないBステージの樹脂シート等が使用できる。これらの樹脂層は、基板にラミネートした後、必要に応じて熱処理あるいは積層による硬化等を行い、絶縁層(アンダーレイ層)とする。
【0037】
次に、図1(c)に示すように、前記接着剤を用いてワイヤを布線、固定するための接着層4を形成する。接着層4を設ける方法としては、前記接着剤をスプレーコーティング、ロールコーティング、スクリーン印刷法等で直接絶縁基板に塗布、乾燥する方法等がある。均一な膜厚の接着層を得るには、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレート等のキャリアフィルムに、一旦ロールコートして塗工乾燥しドライフィルム(接着剤フィルム)とした後、絶縁基板にホットロールラミネートまたはプレスラミネートする方法が好ましい。さらに、ドライフィルム化された塗膜はロール状に巻かれ、所望の大きさに切断できるような可とう性と、基板にラミネートする際に気泡を抱き込まないような非粘着性が必要である。
【0038】
次に、図1(d)に示すように、絶縁被膜ワイヤ5を布線する。この布線は、一般に布線機により超音波振動等を加えながら加熱して行う。これにより、接着層4が軟化して接着層中に埋め込まれる。しかし、この接着層4の軟化点が低すぎると、ワイヤ5の端部でワイヤ5が接着層4から剥がれてしまったり、絶縁被膜ワイヤ5を直角に曲げて布線するコーナー部で、ワイヤ5が歪んでしまったりして、十分な精度が得られない場合がある。
【0039】
また、接着層の軟化点が高すぎると、布線時にワイヤが十分に埋め込まれず、ワイヤと接着層の間の接着力が小さいために、ワイヤが剥がれてしまったり、ワイヤの交差部において、上側のワイヤが下側のワイヤを乗り越える時に、下側のワイヤが押されて位置ずれが発生したりする。このため、布線時には接着層の軟化点を適正な範囲に制御する必要がある。
よって、接着層の軟化点は、20〜100℃が好ましい。なお、本発明のマルチワイヤ配線板用接着剤において、上記組成で、接着剤からなる接着層の軟化点を、20〜100℃にすることが可能である。
【0040】
布線に用いられるワイヤは、同一平面上に交差布線されてもショートしないように絶縁被覆されたものが用いられる。ワイヤ芯材は銅または銅合金で、その上にポリイミド等で被覆したものが用いられる。また、ワイヤ〜ワイヤ間の交差部の密着力を高めるために、絶縁被覆層の外側にさらにワイヤ接着層を設けることができる。このワイヤ接着層は、熱可塑、熱硬化、光硬化タイプの材料が適用できるが、後述する接着剤と同系の組成であることが好ましい。
【0041】
布線を終了した後、加熱プレスを行う。ここで布線した基板表面の凹凸を低減し、接着層内に残存しているボイドを除去する。接着層内のボイドは、布線時にワイヤを超音波加熱しながら布線する際に発生したり、あるいはワイヤとワイヤの交差部付近に生じる空間に起因するものであるため、加熱プレスによる布線した基板面の平滑化および接着層中のボイド除去が不可欠となる。この加熱プレス後、熱処理により接着層を完全に硬化させる。また、この熱処理は必要に応じて省くことができる。
【0042】
次に、図1(e)に示すように、布線したワイヤを保護するためのオーバーレイ層6が設けられる。このオーバーレイ層6は、通常、ガラス布エポキシ樹脂やガラス布ポリイミド樹脂のBステージのプリプレグ、あるいはガラスクロスを含まないBステージの樹脂シート等が適用され、最終的にこれらを硬化し作製する。
【0043】
次に、図1(f)、(g)に示すように、必要な箇所に穴明け(ビアホールやスルーホール)を行った後、めっきを行う。ここで、スルーホール等の穴明け前のオーバーレイ層形成時にプリプレグを介して表面に銅箔等の金属箔を張り付け、公知のエッチング法等により、表面に回路を形成することができる。以上のような製造方法で布線層が2層のマルチワイヤ配線板が完成する。
【0044】
次に、完成した2層布線のマルチワイヤ配線板を図1(h)に示すように、2枚のマルチワイヤ配線板を絶縁層としてガラス布エポキシ樹脂やガラス布ポリイミド樹脂のBステージのプリプレグ、あるいはガラスクロスを含まないBステージの樹脂シート等を介して、積層接着する。その後、必要な箇所に穴明けを行った後、めっきを行う。以上のような製造方法で布線層が4層のマルチワイヤ配線板が完成する。また、2層布線のマルチワイヤ配線板を、3枚以上絶縁層を介して積層接着することにより、布線層が6層以上のマルチワイヤ配線板とすることもできる。また、必要に応じて、2枚以上の2層布線マルチワイヤ配線板の間に、回路を形成した層を含ませることもできる。
【0045】
(作用)
本発明の接着剤に、重量平均分子量80,000以上のポリアミドイミド樹脂を使用することで、Bステージの接着剤の取り扱い性を良好とすることができることは既に述べた。このポリアミドイミド樹脂と類似骨格で重量平均分子量が10,000〜50,000の範囲のポリアミドイミド樹脂の2種を併用することで、高密度に布線する時のワイヤの接着層と基板上に設けたBステージの接着剤間の密着力を保持できることにより布線性は良好となった。また、低分子量のポリアミドイミド樹脂の末端を反応性の高いイソシアネート基とし、これをマスク剤と反応させたポリアミドイミド樹脂を用いることと、液状のエポキシ樹脂を用いることで、さらに布線性は良好になった。また、接着剤の硬化物のガラス転移点を180℃以上とすることで、この接着剤を用いたマルチワイヤ配線板のはんだリフロー時の耐熱性が向上する。
【0046】
また、本発明のマルチワイヤ配線板では、熱硬化が可能な上記組成の接着剤を適用する。通常のUV硬化型接着剤AS−U01(日立化成工業株式会社製、商品名)を用いたマルチワイヤ配線板の製造工程では、ワイヤを布線した後、UV処理により若干硬化させ、加熱プレスを行うことにより、ワイヤスイミングを抑制している。これに対し、本発明の接着剤は、重量平均分子量が80,000以上のポリアミドイミド樹脂を用いているため、樹脂の流動が小さく、布線後、加熱プレスを行ってもワイヤスイミングが殆ど見られないため、加熱プレスによりワイヤを固定し、接着剤からなる接着層を硬化できる。
【0047】
また、本発明では布線後の加熱プレスの温度、圧力および時間により、布線工程までに発生した接着剤中の気泡やワイヤの交差部付近に生じるボイドを除去し、基板表面の凹凸を低減できる。その結果、図1(e)に示すようなオーバーレイ層を設けた後でも気泡やボイドの無い、接続信頼性の高いマルチワイヤ配線板を製造することが可能となる。
【実施例】
【0048】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1〜7および比較例1〜6
(ポリアミドイミド樹脂の合成)
大型4つ口フラスコに2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンを380g、トリメリット酸無水物を190g、N−メチルピロリドンを2600g入れて加熱し80℃で一旦保持後、トルエンを入れて還流する。その後、190℃まで昇温し、室温まで冷却する。その後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を250g入れて、170℃まで加熱して2時間保持し、室温まで冷却した。このワニスで合成した芳香族ポリアミドイミドのポリスチレン換算分子量は、重量平均で120,000であった。
分子量を変化させる場合は、MDIの比率を変化させた。また、イソシアネート末端とする場合は、MDIを過剰とした。さらに、マスク剤をイソシアネート基と反応させる場合は、最後にMEKオキシムをポリアミドイミド樹脂の固形質量に対して1.5%を添加して、100℃で1時間保持後、室温まで冷却した。
これらの方法で、重量平均分子量が約120,000のもの(以下PAI−aと略す)、分子量が約70,000のもの(以下PAI−bと略す)、重量平均分子量が約40,000のもの(以下PAI−cと略す)、重量平均分子量が約30,000で両末端がイソシアネート基のものにMEKオキシムを反応させたもの(以下PAI−dと略す)を合成した。
【0049】
(接着剤用ワニス)
合成した前記ポリアミドイミド樹脂に対し、下記表1に示す樹脂配合で、各種成分を配合し、接着剤用ワニスとした。なお、表1中の(c)熱硬化性成分としては、固形のエポキシ樹脂として、EOCN1020(日本化薬株式会社製、商品名)を、液状のエポキシ樹脂としてビスフェノールA型のYD8125(東都化成株式会社製、商品名)を、硬化剤として、H−400(フェノールノボラック樹脂、水酸基当量106g/当量,明和化成株式会社製、商品名)を、硬化促進剤として、2E4MZ(四国化成工業株式会社製、商品名)を使用した。また、接着剤用ワニスに配合した有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドンであり、樹脂固形分量は、30質量%である。
【0050】
【表1】

【0051】
(接着剤フィルム塗工)
上記の接着剤用ワニスを、乾燥後の膜厚が、100μmとなるように、転写用基材であるテトロンフィルムHSL−50(帝人株式会社製、商品名)に塗布し、Bステージ状態となるように、100℃で10分乾燥し、接着剤フィルムを作製した。なお、比較例3〜5においては、フィルム塗膜のクラックにより、比較例6においては、接着剤用ワニスのゲル化により、接着剤フィルムが作製できなかった。
【0052】
(接着剤の硬化物のガラス転移点の測定;TMA法)
前記接着剤フィルムを、150℃、30分加熱、引き続き、180℃、120分の熱処理を行い、硬化させ、ガラス転移点測定用のサンプル(硬化物)とした。測定条件は、次の通りである。MAC SCIENCE製TMAを用い、治具:引っ張り、チャック間距離:15mm、測定温度:室温〜350℃、昇温速度:10℃/min、引っ張り荷重:5g、サンプルサイズ:5mm幅×30mm長で測定した。結果を下記表2に示した。
なお、比較例3〜6においては、接着剤フィルムを作製できず、よって、ガラス転移点測定用のサンプル(硬化物)も作製できなかったため、ガラス転移点の測定は不可であった。
【0053】
上記接着剤用ワニスを用いて、以下に示す方法でマルチワイヤ配線板を作製した。
(接着層付き基板)
コア基板として、板厚0.1mmまたは0.2mmのガラス布ポリイミド樹脂両面銅張積層板MCL−I−671(日立化成工業株式会社製、商品名)に通常のエッチング法により回路を形成した。次いで、仕上がり厚み0.05mmのガラス布ポリイミド樹脂プリプレグGIA−671(日立化成工業株式会社製、商品名)を該基板の両面に加熱プレスにより硬化させアンダーレイ層を形成した。次いで、上記接着剤フィルムを該基板の両面にホットロールラミネータで接着させ、接着層を形成した。
接着層の軟化点が、50℃になるように、ホットロールラミネータ条件は、130℃、0.3m/分、0.5MPaとした。なお、接着層の軟化点の測定においては、接着層をラミネートした基板の一部を切断し、軟化点測定用サンプルとした。測定条件は、次の通りである。MAC SCIENCE社製TMAを用い、治具:ペネトレーション、測定温度:0℃〜100℃、昇温速度:10℃/分、圧縮荷重:5g、サンプルサイズ7mm角で測定した。
【0054】
(布線)
続いて、該基板の接着層表面にワイヤ(HPA−0.08、日立電線株式会社製、商品名)を布線機により、超音波加熱を行いながら布線した。このワイヤは銅の心線径80μmに、ポリイミド樹脂を約15μm塗布し、さらにポリアミドイミド樹脂を15μm塗布し、Bステージ状の接着剤層を形成したものである。
板厚0.1mm及び0.2mmのコア基板を使用した場合の接着層表面のワイヤ布線状態を顕微鏡で観察した。布線性として、ワイヤ剥がれ不良を×、不良なしを○とした。結果を下記表2に示した。
【0055】
(接着層硬化)
次に、ポリエチレンシートをクッション材として、150℃、30分、16kgf/cmの条件で加熱プレスした。引き続き、180℃、120分の熱処理を行い、接着層を硬化させた。
(表面回路形成)
次に、ガラス布ポリイミド樹脂プリプレグGIA−671(日立化成工業株式会社製、商品名)を両面に、さらにその上に18μm銅箔を加熱プレスにより接着硬化させた。
【0056】
(穴明け/ビアホール形成)
続いて、該基板の必要な箇所に穴(スルーホール及びビアホール)を明けた。穴を明けた後、ホールクリーニング等の前処理を行い、スミア等を除去した後、無電解銅めっき液に浸漬し、30μmの厚さにめっきを行った後、片面をエッチング法により、内層回路を形成し、2層布線構造のマルチワイヤ配線板とした。
(4層布線構造マルチワイヤ配線板作製)
2枚の2層布線構造マルチワイヤ配線板の片側のみ内層回路を形成した面を対向させ、ガラス布ポリイミド樹脂プリプレグGIA−671(日立化成工業株式会社製、商品名)を間に配置した構成で、加熱プレスにより硬化させ、絶縁層を形成した。次いで、穴明け、スルーホールめっきを行い、エッチング法により表面回路を形成し、4層布線構造マルチワイヤ配線板を製造した。
【0057】
(はんだ耐熱性試験)
上記4層布線構造マルチワイヤ配線板を130℃で6時間乾燥させ、基板中の水分を除去した。その基板をデシケータ中で水分を吸収しないように、室温まで冷却した。その直後に、288℃のはんだ浴に10秒間浮かべた後、取出し室温まで冷却した。この操作を3回繰り返した後、基板の状態を顕微鏡で観察した。基板中に、ボイドおよび剥離の発生無しを○、発生有りを×とした。結果を下記表2に示した。
【0058】
【表2】

【0059】
実施例1〜7において、TMA法でガラス転移点の測定した結果、各種配合(接着剤)では、ガラス転移点(Tg)が180℃以上であることがわかった。これらを用いたマルチワイヤ配線板の製造途中でのワイヤの布線工程で基材(基板)厚みが0.1mmにおいても配線(布線)不良は発生しなかった。また、はんだ耐熱試験後にも、マルチワイヤ配線板中にボイドおよび剥離が発生せず良好であった。
【0060】
ポリアミドイミド樹脂(b)が配合されない、比較例1では、マルチワイヤ配線板の製造途中でのワイヤの布線工程で、コア基板の板厚が0.2mmの場合に配線(布線)不良は発生しなかったが、コア基板の板厚が0.1mmの場合に配線中にワイヤが剥がれる不良が発生した。比較例2では、コア基板の板厚が0.1mmの場合、配線中にワイヤが剥がれる不良が発生した。
比較例3〜4では、接着剤ワニスの状態で異常はなかったが、接着剤の塗膜にクラックが入ってしまい、Tgの測定ができなかった。
比較例5では、接着剤ワニスの状態で異常はなかったが、ポリアミドイミド樹脂(a)の比率が少ないため、接着剤の塗膜にクラックが入ってしまった。よって、比較例5では、TMA法でガラス転移点(Tg)が測定できなかった。
比較例6では、ポリアミドイミド樹脂((a)+(b))100質量部に対し、(c)熱硬化性成分が150質量部超(155質量部)であり、ワニス作製の撹拌時にゲル化してしまい、フィルム形成ができなかった。よって、比較例6では、TMA法でガラス転移点(Tg)が測定できなかった。
なお、ガラス転移点(Tg)が180℃以上であることが確認された、比較例1および2では、コア基板の厚みが0.1mmでの配線不良が発生したが、作製したマルチワイヤ配線板は、はんだ耐熱試験後にマルチワイヤ配線板中にボイドおよび剥離が発生せず良好であった。
【0061】
以上に説明したように、本発明による接着剤を用いて製造した布線層が4層以上のマルチワイヤ配線板は、コア基板の板厚が0.1mmであってもワイヤ布線性は良好であり、ワイヤを布線、固定した後の接着層中にボイドを含まず、かつワイヤを布線後の加熱プレスを行っても、ワイヤの動きが少なく、高密度の布線が可能で、はんだ耐熱性に優れた布線層が4層以上のマルチワイヤ配線板を提供することができる。
【符号の説明】
【0062】
1.基板、2.内層銅回路、3.アンダーレイ層、4.接着層、5.ワイヤ(絶縁被膜ワイヤ)、6.オーバーレイ層、7.ビアホール、8.めっき、9.層間絶縁層、10.めっき

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)重量平均分子量80,000以上のポリアミドイミド樹脂と、(b)重量平均分子量が10,000から50,000の範囲にあるポリアミドイミド樹脂と、(c)熱硬化性成分とを含む接着剤であって、硬化物のガラス転移点(Tg)が180℃以上であることを特徴とするマルチワイヤ配線板用接着剤。
【請求項2】
(a):(b)の質量比が30:70から70:30の範囲であり、かつ、(a)+(b):(c)の質量比が100:10から100:150の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のマルチワイヤ配線板用接着剤。
【請求項3】
(b)のポリアミドイミド樹脂の末端がイソシアネート基であり、さらに、前記イソシアネート基が、加熱により解離するマスク剤と結合していることを特徴とする請求項1または2に記載のマルチワイヤ配線板用接着剤。
【請求項4】
(c)熱硬化性成分が、1種類以上のエポキシ樹脂を含み、かつ、前記エポキシ樹脂の硬化剤もしくは前記エポキシ樹脂の硬化促進剤を含むことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれかに記載のマルチワイヤ配線板用接着剤。
【請求項5】
エポキシ樹脂の少なくとも1種が、室温(25℃)で液状であることを特徴とする請求項4に記載のマルチワイヤ配線板用接着剤。
【請求項6】
絶縁基板もしくは予め導体回路を形成した基板と、請求項1〜5のうちいずれかに記載のマルチワイヤ配線板用接着剤からなる接着層と、前記接着層により固定された絶縁被覆ワイヤと、所望の箇所に設けたスルーホールとからなることを特徴とするマルチワイヤ配線板。
【請求項7】
絶縁基板もしくは予め導体回路を形成した基板上に、請求項1〜5のうちいずれかに記載のマルチワイヤ配線板用接着剤からなる接着層を形成する工程、絶縁被覆ワイヤを前記接着層上に布線し、固定した後、前記基板を加熱プレスして前記接着層を硬化させる工程、前記基板の所望の箇所に穴をあけてその穴内壁にめっきを行って、導体回路を形成する工程を有するマルチワイヤ配線板の製造法。
【請求項8】
基板を加熱プレスして接着層を硬化させる工程において、加熱プレスした後に、さらに加熱処理を行うことを特徴とする請求項7に記載のマルチワイヤ配線板の製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−245424(P2010−245424A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94770(P2009−94770)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】