説明

マンガン化合物担持物及びその合成方法

【目的】炭化水素化合物の酸化反応用の固体触媒として有効な新規なマンガン化合物担持物及びその合成方法を提供する。
【解決手段】担体表面にマンガン化合物が0.2〜500nmの厚さで担持されていることを特徴とする新規な薄層マンガン化合物担持物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体表面にマンガン化合物が担持されていることを特徴とするマンガン化合物担持物及びその合成方法に関する。
【0002】
さらに詳しくは、担体表面にマンガン化合物が0.2〜500nmの厚さで担持されていることを特徴とするマンガン化合物担持物及びその合成方法に関する。
【背景技術】
【0003】
バーネサイト構造を有するマンガン化合物は、マンガンを中心として6つの酸素がその頂点に配置したMnOで示される八面体構造が頂点と稜を共有して広がった層を形成し、その層が積み重なった層状化合物であり、その組成は一般に下記式(1)で示される。
【0004】
x/n(Mn4+2−xMn3+)O・yHO (1)
(ここで、nは陽イオンMの原子価、xは0〜2の数、yは1〜2の数である。)
また、トドロカイト構造を有するマンガン化合物は、マンガンを中心として6つの酸素がその頂点に配置したMnOで示される八面体構造が縦と横にそれぞれ3個ずつ頂点と稜を共有してできる1次元の(3×3)トンネル構造を有している。このため、トドロカイト構造を有するマンガン化合物は一次元ミクロ細孔を有する化合物であり、その組成は一般に下記式(2)で示される。
【0005】
x/nMn4+6−xMn3+12・yHO (2)
(ここで、nは陽イオンMの原子価、xは0〜6の数、yは3〜4.5の数である。)。
【0006】
バーネサイト構造を有するマンガン化合物の合成法は、塩基性水溶液に2価のマンガン化合物と周期律表2族元素化合物を溶解させ、該水溶液に7価のマンガン化合物を加え、数日放置、熟成して合成する方法が知られている。また、トドロカイト構造を有するマンガン化合物は先のバーネサイト構造を有するマンガン化合物を周期律表2族元素化合物水溶液でイオン交換した後、水熱処理を行って合成する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。これらの方法で得られるマンガン化合物は、固体全体がバーネサイト構造又はトドロカイト構造を有するものである。ここで、マンガン化合物は一般に、炭化水素化合物の酸化反応における固体触媒、例えばシクロヘキサンの酸化や一酸化炭素の酸化反応等の固体触媒として用いられている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【0007】
【非特許文献1】JOURNAL OF CATALYSIS 176,275−284(1998)(第276頁)
【非特許文献2】JOURNAL OF CATALYSIS 161,115−122(1996)(第116頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1,2で使用されているマンガン化合物は、層間距離、細孔サイズに対し、その2次元の層、又は、一次元細孔の奥行きが長いため、炭化水素化合物の酸化反応時に炭化水素原料及び生成物が、層間又は細孔内に滞在する時間が長くなるという問題があった。即ち、炭化水素原料及び生成物のマンガン化合物内部での滞留時間が長くなり、活性点で過剰反応が進行し、目的物の選択性が低下した。また、コーク等の高沸物が触媒の活性点や細孔部に析出し、活性点の被毒や細孔の閉塞を生じ、結果的に触媒活性や触媒寿命を大幅に低下させるという問題もあった。
【0009】
これらの問題点を解決するためには、反応生成物が活性点のある場所から即座に離脱する構造を持った触媒が必要となる。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は酸化反応触媒として有効なマンガン化合物担持物及びその合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、新規なマンガン化合物担持物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は担体表面にマンガン化合物が0.2〜500nmの厚さで担持されていることを特徴とするマンガン化合物担持物及びその合成方法に関するものである。
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明のマンガン化合物担持物は、担体表面にマンガン化合物が担持されている担持物である。
【0015】
本発明のマンガン化合物担持物に用いられるマンガン化合物は、マンガン化合物であれば如何なるものでもよく、その中でもバーネサイト構造又はトドロカイト構造を有するマンガン化合物が好ましく用いられる。
【0016】
本発明のマンガン化合物担持物に用いられる担体は、特に限定されるものではなく、例えばシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア又はシリカアルミナ等が挙げられ、その中でも担体表面にマンガン化合物が形成され易いことから、アルミナ、チタニア、ジルコニア等が好ましく、特にジルコニアが好ましい。
【0017】
本発明のマンガン化合物担持物では、担体表面に存在するマンガン化合物の厚さは0.2〜500nmであり、その中でも得られるマンガン化合物担持物が反応効率に優れることから、好ましくは1〜100nmである。厚さが500nmより厚い場合には、反応時に目的物の選択性が低下したり、触媒活性や触媒寿命を低下させる。一方、厚さが0.2nmより薄い場合は触媒活性が低く、触媒として機能しない。
【0018】
本発明のマンガン化合物担持物の形状は、特に限定されるものではなく、例えば粉状、顆粒状、球状、楕円状、円柱状、中空円柱状、板状、シート状、ハニカム状等が挙げられ、その中でも十分な反応活性があり、副反応及びコーキングを抑制することができることから、粉状、顆粒状、球状、楕円状、円柱状、中空円柱状等が好ましい。
【0019】
また、本発明のマンガン化合物担持物の大きさは、特に制限されるものではなく、十分な触媒活性があり、副反応及びコーキングを抑制することができることから、0.1μm〜10cmが好ましく、特に好ましくは1μm〜5cmである。
【0020】
本発明のマンガン化合物担持物の合成方法は、担体表面にマンガン化合物が0.2〜500nmの厚さで担持されているマンガン化合物担持物が得られる限り如何なる合成方法により合成可能であり、例えば2価のマンガン化合物と周期律表2族元素化合物を担体に担持した担持物を、7価のマンガン化合物、周期律表1族元素化合物、水の混合水溶液中に添加し熟成した後、ろ別、洗浄してマンガン化合物担持物を合成する方法(以下、合成方法(1)と称する);合成方法(1)により得られたマンガン化合物担持物を、さらに周期律表2族元素化合物とイオン交換した後、水熱合成してマンガン化合物担持物を合成する方法(以下、合成方法(2)と称する);等を用いることができる。なお、マンガン化合物がバーネサイト構造を有するマンガン化合物担持物を合成する方法としては、合成方法(1)が好ましく用いられ、マンガン化合物がトドロカイト構造を有するマンガン化合物担持物を合成する方法としては、合成方法(2)が好ましく用いられる。
【0021】
本発明のマンガン化合物担持物の合成の一つである合成方法(1)で使用する担体は、特に限定されるものではなく、例えばシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカアルミナ等を使用することができ、その中でも担体表面にマンガン化合物が形成され易いことから、アルミナ、チタニア、ジルコニア等が好ましく、特にジルコニアが好ましい。該担体の比表面積は、担体表面にマンガン化合物が形成され易いことから、好ましくは5〜1000m/g、特に好ましくは10〜500m/gである。
【0022】
合成方法(1)で使用する担体の形状は、特に限定されるものではなく、例えば粉状、顆粒状、球状、楕円状、円柱状、中空円柱状、板状、シート状、ハニカム状等が挙げられる。これらのうち、十分な反応活性があり、副反応を抑制することができることから、粉状、顆粒状、球状、楕円状、円柱状、中空円柱状等が好ましく用いられる。該担体の粒子径の大きさは、特に制限されるものではなく、1μm〜10cmが好ましく、特に好ましくは10μm〜5cmである。
【0023】
合成方法(1)で使用する2価のマンガン化合物は、特に限定されるものではなく、例えばフッ化マンガン(II)、塩化マンガン(II)、臭化マンガン(II)、よう化マンガン(II)、炭酸マンガン(II)、硝酸マンガン(II)、硫酸マンガン(II)、水酸化マンガン(II)、硫酸アンモニウムマンガン(II)、ぎ酸マンガン(II)、酢酸マンガン(II)、安息香酸マンガン(II)、グルコン酸マンガン(II)、ナフテン酸マンガン(II)、ステアリン酸マンガン(II)等のマンガン塩が挙げられる。これらのうち、効率よくマンガン化合物担持物が得られることから、塩化マンガン(II)、炭酸マンガン(II)、硝酸マンガン(II)、硫酸マンガン(II)、水酸化マンガン(II)酢酸マンガン(II)等が好ましく、特に好ましくは塩化マンガン(II)である。
【0024】
合成方法(1)で使用する周期律表2族元素化合物は、例えばふっ化ベリリウム、塩化ベリリウム、よう化ベリリウム、硫酸ベリリウム、炭酸ベリリウム、硝酸ベリリウム、水酸化ベリリウム等のベリリウム塩類;ふっ化マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、よう化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸アンモニウムマグネシウム、塩化アンモニウムマグネシウム等のマグネシウム塩類;ふっ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、よう化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム等のカルシウム塩類;ふっ化ストロンチウム、塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、よう化ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酢酸ストロンチウム等のストロンチウム塩類;ふっ化バリウム、塩化バリウム、臭化バリウム、よう化バリウム、硫酸バリウム、硝酸バリウム、炭酸バリウム、水酸化バリウム、酢酸バリウム等のバリウム塩類等が挙げられる。これらのうち、効率よくマンガン化合物担持物が得られることから、マグネシウム塩類が好ましく、特に好ましくは塩化マグネシウムである。
【0025】
合成方法(1)における2価のマンガン化合物と周期律表2族元素化合物を担体に担持する方法は、特に限定されるものではなく、担体に金属成分を担持させる従来公知の方法、例えば含浸法、沈着法、イオン交換法等が用いられる。その際の2価のマンガン化合物の担持量は、特に制限されるものではなく、効率よくマンガン化合物担持物が得られることから、担体全重量に対し、2価のマンガン化合物0.01〜60重量%が好ましく、特に好ましくは0.1〜50重量%である。
【0026】
また、周期律表2族元素化合物の担持量は、特に制限されるものではなく、効率よくマンガン化合物担持物が得られることから、担体全重量に対し、周期律表2族元素化合物0.01〜60重量%が好ましく、特に好ましくは0.1〜50重量%である。
【0027】
さらに、2価のマンガン化合物と周期律表2族元素化合物の比は、特に制限されるものではなく、効率よくマンガン化合物担持物が得られることから、2価のマンガン化合物/周期律表2族元素化合物の比(原子比)は0.01〜10が好ましく、特に好ましくは0.05〜5である。
【0028】
合成方法(1)における2価のマンガン化合物と周期律表2族元素化合物を担体に担持する際の温度は特に制限はなく、−100〜150℃が好ましく、特に好ましくは−20〜80℃である。また、反応圧力は特に制限はなく、0.001〜3MPaが好ましく、特に好ましくは0.01〜0.3MPaである。さらに、反応時間は、反応温度及び2価のマンガン化合物の濃度に左右され、5分〜500時間が好ましい。反応中の雰囲気は、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の雰囲気中で行うことが可能である。また、反応は、回分式、連続式のいずれでも実施することができる。
【0029】
合成方法(1)で使用する7価のマンガン化合物は、特に限定されるものではなく、例えば酸化マンガン(VII)、過マンガン酸リチウム、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ルビジウム、過マンガン酸セシウム、過マンガン酸銀、過マンガン酸マグネシウム、過マンガン酸カルシウム、過マンガン酸ストロンチウム、過マンガン酸バリウム等が挙げられる。これらのうち、効率よくマンガン化合物担持物が得られることから、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム等が好ましく、特に好ましくは過マンガン酸カリウムである。
【0030】
合成方法(1)で使用する周期律表1族元素化合物は、特に限定されるものではなく、例えばふっ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、よう化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム等のリチウム塩類;ふっ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、よう化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム等のナトリウム塩類;ふっ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、よう化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、酢酸カリウム等のカリウム塩類;ふっ化ルビジウム、塩化ルビジウム、臭化ルビジウム、よう化ルビジウム、硫酸ルビジウム、硝酸ルビジウム、炭酸ルビジウム、水酸化ルビジウム、酢酸ルビジウム等のルビジウム塩類;ふっ化セシウム、塩化セシウム、臭化セシウム、よう化セシウム、硫酸セシウム、硝酸セシウム、炭酸セシウム、水酸化セシウム、酢酸セシウム等のセシウム塩類等が挙げられ、その中でも効率よくマンガン化合物担持物が得られることから、ナトリウム塩類、カリウム塩類等が好ましく、特に好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等である。
【0031】
合成方法(1)における前記2価のマンガン化合物と周期律表2族元素化合物を担体に担持した担持物(以下、担持物Aと称する)を、7価のマンガン化合物、周期律表1族元素化合物、水の混合水溶液中に添加し熟成する方法は、特に制限されるものではなく、例えば担持物Aを7価のマンガン化合物、周期律表1族元素化合物、水の混合水溶液中に一気に添加する方法;7価のマンガン化合物をあらかじめ担持物Aに担持した後に、7価のマンガン化合物、周期律表1族元素化合物、水の混合水溶液中に添加する方法;等が挙げられる。その際の、7価のマンガン化合物と2価のマンガン化合物の比は、特に制限されるものではなく、効率よくマンガン化合物担持物が得られることから、Mn7+/Mn2+(原子比)は0.01〜5が好ましく、特に好ましくは0.05〜1である。
【0032】
該周期律表1族元素化合物の量は、特に制限されるものではなく、効率よくマンガン化合物担持物が得られることから、使用する水100gに対し、0.01〜100gが好ましく、特に好ましくは0.1〜50gである。
【0033】
7価のマンガン化合物、周期律表1族元素化合物、水の混合水溶液中に添加し熟成する際の温度は特に制限はなく、0〜100℃が好ましく、特に好ましくは10〜50℃である。反応圧力は特に制限されず、0.001〜3MPaが好ましく、特に好ましくは0.01〜0.3MPaである。また、反応時間及び反応温度は、7価のマンガン化合物の濃度に左右され、好ましくは1時間〜100日、特に好ましくは1〜30日である。
【0034】
合成方法(1)では、熟成の後、担体のろ別、洗浄および乾燥が行われ、マンガン化合物担持物が合成される。その際のろ別は特に制限されるものではなく、例えばろ紙によるろ過が挙げられる。また、洗浄の方法は公知の方法でよく、例えばろ別されたマンガン化合物担持物を蒸留水で洗浄する方法を用いることができる。乾燥温度は特に制限されるものではなく、好ましくは80〜120℃である。必要であれば、さらに焼成処理を行っても良い。
【0035】
本発明のマンガン化合物担持物の合成方法の一つである合成方法(2)における、合成方法(1)で得られたマンガン化合物担持物を周期律表2族元素化合物とイオン交換する方法は、特に制限されるものではなく、例えば合成方法(1)で得られたマンガン化合物担持物を、周期律表2族元素化合物を水に溶解した水溶液に浸漬する方法を用いることができる。その際の周期律表2族元素化合物の量は、特に制限されるものではなく、効率よくマンガン化合物担持物が得られることから、合成方法(1)で得られたマンガン化合物担持物の重さ1gに対し、0.1〜200gが好ましく、特に好ましくは0.5〜100gである。周期律表2族元素化合物を溶解させる水の量は、特に制限されるものではなく、担体の細孔容積の1倍以上が好ましい。
【0036】
合成方法(2)における合成方法(1)で得られたマンガン化合物担持物を、周期律表2族元素化合物とイオン交換する際の温度は特に制限はなく、0〜100℃が好ましく、特好ましくは10〜50℃である。反応圧力は、特に制限されず、0.001〜3MPaが好ましく、特に好ましくは0.01〜0.3MPaである。また、反応時間は、反応温度及び周期律表2族元素化合物の濃度に左右され、10分〜7日が好ましく、特に好ましくは1〜48時間である。反応中の雰囲気は、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の雰囲気中で行うことが可能である。なお、反応は、回分式、連続式のいずれでも実施することができる。
【0037】
合成方法(2)における水熱合成の方法は特に限定されるものではなく、例えば耐圧容器中に合成方法(1)で得られたマンガン化合物担持物と周期律表2族元素化合物の水溶液を入れ、密封した後、恒温槽内で加熱する合成方法を用いることができる。また、必要であれば、周期律表2族元素化合物水溶液の代わりに水を用いても良い。水熱合成の際の温度は特に制限されるものではなく、効率よくマンガン化合物担持物が得られることから、50〜300℃が好ましく、特に好ましくは80〜260℃、さらに好ましくは100〜200℃である。水熱合成の時間は、特に制限されるものではなく、効率よくマンガン化合物担持物が得られることから、1時間〜150日が好ましく、特に好ましくは2時間〜80日である。反応中の雰囲気は、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の雰囲気中で行うことが可能である。なお、反応は、回分式、連続式のいずれでも実施することができる。
【0038】
合成方法(2)で得られたマンガン化合物担持物は、ろ別後、水洗、乾燥して合成することが好ましい。ろ別は特に制限されるものではなく、例えばろ紙によるろ過が挙げられる。また、洗浄の方法は公知の方法でよく、例えばろ別された構造体を蒸留水で洗浄する方法が挙げられる。乾燥温度は特に制限されるものではなく、80〜120℃が好ましい。また、必要であれば、さらに焼成処理を行っても構わない。
【0039】
本発明のマンガン化合物担持物は、炭化水素化合物の酸化反応触媒として使用することができる。例えば一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、シクロヘキサン、エチルベンゼン等の炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール等の酸化反応に使用することができる。酸化反応以外に、窒素酸化物、過酸化水素および有機過酸化物等の分解反応にも使用することができる。
【0040】
また、本発明のマンガン化合物担持物は、触媒の担体としても使用することができ、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の周期律表1族元素;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の周期律表2族元素;スカンジウム、イットリウム、ランタノイド、アクチノイド等の周期律表3族元素;チタニウム、ジルコニウム等の周期律表4族元素;バナジウム、ニオブ、タンタル等の周期律表5族元素;クロム、モリブデン、タングステン等の周期律表6族元素;マンガン、レニウム等の周期律表7族元素;鉄、ルテニウム、オスニウム等の周期律表8族元素;コバルト、ロジウム、イリジウム等の周期律表9族元素;ニッケル、パラジウム、白金等の周期律表10族元素;銅、銀、金等の周期律表11族元素、亜鉛、カドミウム等の周期律表12族元素;ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等の周期律表13族元素;ゲルマニウム、スズ、鉛等の周期律表14族元素;アンチモン、ビスマス等の周期律表15族元素、硫黄、テルル等の周期律表16族元素等の触媒の担体として使用可能である。また、一種類以上の元素を担持し触媒として使用することもできる。
【発明の効果】
【0041】
本発明のマンガン化合物担持物は、担体表面にマンガン化合物が担持されているため、炭化水素等の酸化反応における炭化水素等及び反応生成物はマンガン化合物中の滞留時間が短くなり、目的物の選択性が高くなる効果を有する。また活性点の被毒や細孔の閉塞を生じにくいため、触媒活性が低下しにくく、さらに触媒寿命の長いという効果を有する。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、断りのない限り用いた試薬は市販品を用いた。
【0043】
以下に実施例に用いた測定法を示す。
【0044】
(マンガン化合物担持物のマンガン化合物の結晶状態の測定)
マンガン化合物の結晶状態は、粉末X線回折測定装置(XRD)(日本電子社製、商品名JDX−3530)を用い、電圧40kV、電流30mAで30回積算して測定した。
【0045】
実施例1
塩化マンガン(II)・4水和物1.9g、塩化マグネシウム・6水和物0.37gを水7mlに溶解した。この水溶液に担体としてジルコニア粉末(ノートン社製、比表面積53m/g、細孔容積0.3l/g)3.3gを添加し、1時間攪拌し、ジルコニアに水溶液を含浸させた。次に、70℃、190hPaで1時間減圧乾燥した後、120℃で1.5時間乾燥し、前駆体を得た。
【0046】
次に、過マンガン酸カリウム0.56g、水酸化ナトリウム4.8gを水30mlに溶解し、先に得られた前駆体を添加し、攪拌しながら室温で7日間熟成した。その後、濾過・洗浄した後、90℃で24時間乾燥して、マンガン化合物担持物3.9gを得た。
【0047】
得られたマンガン化合物担持物のXRD測定の結果、担体であるジルコニア以外に、担体表面にバーネサイト構造の回折ピークが見られたことより、このマンガン化合物担持物は、バーネサイト構造を有するマンガン化合物が表面に担持されている担持物であった。
【0048】
なお、用いたジルコニアの表面積が174.9m(53m/g×3.3g)であり、マンガン化合物の1骨格当りの厚さが0.23nm(2.3×10−10m)であることより、ジルコニア表面にマンガン化合物が1層で覆う時のマンガン化合物の体積は、4.0×10−8(174.9m×2.3×10−10m)となる。化学的にバーネサイト構造の基本骨格はMnOであり、密度が5.0×10g/mであることから、1層当たりの担持量は、0.2g(5.0×10g/m×4.0×10−8)となる。仕込のジルコニアの重量が3.3g、得られたマンガン化合物担持物の重量が3.9g、重量増加が0.6gであり、この量が担持されたマンガン化合物の重量であることから、バーネサイト構造を有するマンガン化合物が表面に3層(0.6g/0.2g)積層されており、バーネサイト構造の層間距離が0.7nmであり、バーネサイト骨格の厚さが0.23nmであることから、実施例1で得られたマンガン担持物担持体は、表面に2nm(0.23nm(骨格の厚さ)×3+0.7nm(層間距離)×2)のマンガン化合物が担持された担持物であった。
【0049】
実施例2
塩化マンガン・6水和物9.8gを水30mlに溶解し、実施例1で得られたマンガン化合物担持物1.2gを添加し、室温で24時間イオン交換した。その後、オートクレーブに懸濁液を移し密閉した後、140℃で48時間水熱処理を行った。水熱処理後、濾過、洗浄した後、90℃で乾燥して、マンガン化合物担持物1.3gを得た。
【0050】
得られたマンガン化合物担持物のXRD測定の結果、担体であるジルコニア以外に、担体表面にトドロカイト構造の回折ピークが見られたことより、このマンガン化合物担持物は、トドロカイト構造を有するマンガン化合物が表面に担持されている担持物であった。
【0051】
なお、バーネサイト3層からトドロカイト2層が合成されることより、実施例1のバーネサイト3層からは、トドロカイト2層が実施例2では合成されることとなり、トドロカイト構造1層当たりの厚みが1nmであることから、2nmのマンガン化合物が担持された担持物であった。
【0052】
実施例3
塩化マンガン(II)・4水和物1.2g、塩化マグネシウム・6水和物0.26gを水7mlに溶解した。この水溶液に実施例1で用いたジルコニア粉末3.3gを添加し、1時間攪拌し、ジルコニアに水溶液を含浸させた。粉体をろ別、次いで蒸留水で水洗した後に、70℃、190hPaで1時間減圧乾燥、次いで120℃で1.5時間乾燥して前駆体を得た。
【0053】
次に、過マンガン酸カリウム0.09g、水酸化ナトリウム0.2gを水1mlに溶解し、上記で得られた前駆体を添加し、1時間攪拌した。得られた粉体をろ別、次いで水洗した後に、70℃、190hPaで1時間減圧乾燥し、前駆体2を得た。
【0054】
続いて、過マンガン酸カリウム0.26g、水酸化ナトリウム4.3gを水30mlに溶解し、上記の前駆体2を添加し、攪拌しながら室温で7日間熟成した。その後、ろ別、蒸留水で洗浄した後、90℃で24時間乾燥し、マンガン化合物担持物3.7gを得た。
【0055】
得られたマンガン化合物担持物のXRD測定の結果、担体であるジルコニア以外に、担体表面にバーネサイト構造の回折ピークが見られたことより、このマンガン化合物担持物は、バーネサイト構造を有するマンガン化合物が表面に担持されている担持物であった。
【0056】
なお、表面に担持されているマンガン化合物の厚さは、実施例1と同様に算出したところ、2nmであった。
【0057】
実施例4
塩化マンガン・6水和物9.8gを水30mlに溶解し、実施例3で得られたマンガン化合物担持物1.2gを添加し、室温で24時間イオン交換した。その後、オートクレーブに懸濁液を移し密閉した後、140℃で48時間水熱処理を行った。水熱処理後、ろ別、蒸留水で洗浄し、さらに90℃で乾燥し、マンガン化合物担持物1.3gを得た。
【0058】
得られたマンガン化合物担持物のXRD測定の結果、担体であるジルコニア以外に、担体表面にトドロカイト構造の回折ピークが見られたことより、このマンガン化合物担持物は、トドロカイト構造を有するマンガン化合物が表面に担持されている担持物であった。
【0059】
なお、表面に担持されているマンガン化合物の厚さは、実施例2と同様に算出したところ、2nmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体表面にマンガン化合物が0.2〜500nmの厚さで担持されていることを特徴とするマンガン化合物担持物。
【請求項2】
マンガン化合物がバーネサイト構造又はトドロカイト構造であることを特徴とする請求項1に記載のマンガン化合物担持物。
【請求項3】
担体が、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア又はシリカアルミナであることを特徴とする請求項1又は2に記載のマンガン化合物担持物。
【請求項4】
2価のマンガン化合物と周期律表2族元素化合物を担体に担持した担持物を、7価のマンガン化合物、周期律表1族元素化合物、水の混合水溶液中に添加し熟成した後、ろ別、洗浄することを特徴とするマンガン化合物担持物の合成方法。
【請求項5】
請求項4に記載のマンガン化合物担持物を、さらに周期律表2族元素化合物とイオン交換した後、水熱合成することを特徴とするマンガン化合物担持物の合成方法。

【公開番号】特開2006−225201(P2006−225201A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41144(P2005−41144)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】