説明

マンコンベアの応力解析方法、当該応力解析方法を実行する応力解析プログラム、及び当該応力解析プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体

【課題】いかなる仕様のマンコンベアであってもトラス線図を自動作成できるようにすることにより、マンコンベアの強度解析に要する工数を低減する。
【解決手段】マンコンベアの応力解析を行うために、コンピュータ101を、三次元CADを用いて作成したマンコンベアの三次元モデル1からマンコンベアのトラス部分を抽出する手段301、三次元CADからトラス部分2の各構成部材の座標を読み込んでトラス線図を作成する手段302、マンコンベアの自重とあらかじめ設定された荷重条件とからトラス線図の各接点における荷重を算出する手段303、トラス線図と各接点の荷重とからクレモナ図を作成する手段304、クレモナ図から各構成部材毎の軸力を算出する手段305、各構成部材の断面積と軸力とから各構成部材毎の応力を算出する手段306、として機能させるための応力解析プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータ、動く歩道等のマンコンベアの応力解析方法に関し、より詳しくは、三次元CADを用いたマンコンベアの応力解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本国内に設置される全てのエスカレータあるいは動く歩道等のマンコンベアについては、その強度計算書の提出が義務付けられており、そのうちのトラスの強度計算については、クレモナの図式解法により算出するのが一般的である。
【0003】
マンコンベアは、階高、傾斜角度、梁間寸法等の仕様が物件毎にまちまちであることから、トラスの形状も物件毎に異なり、各物件に対して、その都度それに対応した強度計算書を作成しなければならない。通常、クレモナ図を作成し、トラスの各部材の発生応力を求めるためには、以下の手順を踏む。
【0004】
(a)トラス図面作成
(b)トラス線図作成
(c)トラス線図の各接点に荷重(自重+法定荷重)分配
(d)クレモナ図作成
(e)トラスの各構成部材毎の軸力(荷重)算出
(f)トラスの各構成部材毎の応力(軸力÷断面積)算出
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トラス線図と荷重条件が決まればクレモナ図は一意的に作成できる。トラス形状が一定のルールに従って変化するものについては、トラス線図もこのルールに従って作成できるため、これらの作業は自動化されているが、トラスの形状がルールから外れたり、部分的に補強材を追加したりするような場合には、作業を自動化できない場合がある。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、いかなる仕様のマンコンベアであってもトラス線図を自動作成できるようにすることにより、マンコンベアの強度解析に要する工数を低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のマンコンベアの応力解析方法は、
三次元CADを用いて作成したマンコンベアの三次元モデルから前記マンコンベアのトラス部分を抽出する工程と、
前記三次元CADから前記トラス部分の各構成部材の座標を読み込んでトラス線図を作成する工程と、
前記マンコンベアの自重とあらかじめ設定された荷重条件とから前記トラス線図の各接点における荷重を算出する工程と、
前記トラス線図と前記各接点の荷重とからクレモナ図を作成する工程と、
前記クレモナ図から前記各構成部材毎の軸力を算出する工程と、
前記各構成部材の断面積と前記軸力とから前記各構成部材毎の応力を算出する工程と、
を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、三次元CADで作成したモデルのデータを用いることにより、いかなる仕様のマンコンベアでもトラス線図を自動作成できるため、強度解析を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は三次元CADを用いて作成したエスカレータの三次元モデルを示す図、図2は図1の三次元モデルから抽出したトラス部分を示す図、図3は図2のトラス部分に基づいて作成したトラス線図、図4は図3のトラス線図に基づいて作成したクレモナ図、図5は本実施形態の応力・安全率の計算結果を示す表、図6は本実施形態のトラス部分の材料規格を示す表、図7は応力解析を行うコンピュータのシステム構成図、図8は応力解析プログラムの処理手順を示すフローチャートである。
【0010】
本発明を実現するために、対象となるマンコンベアのモデルを三次元CADを用いて作成する。本発明で用いる三次元CADは、今日一般的に普及しているもので、そのデータにはXYZの三軸の座標情報だけでなく、体積、比重データ等も併せ持つ三次元CADを想定している。図1はそのような三次元CADを用いて作成したエスカレータの三次元モデル1である。
【0011】
今日の三次元CADは、三次元モデルの各部寸法を変数化させることによって自由に形状を変化させることができる所謂パラメータ設計を採用しているため、エスカレータの場合、要求仕様(例えば、階高、梁間寸法、傾斜角度、踏段幅等)から一意的に一台のエスカレータの三次元モデルを構築することが可能である。
【0012】
さらに、このエスカレータの三次元モデルのうち、トラス部分のみを抽出したのが図2である。この場合、三次元CADが持つレイヤー機能等を使えばトラス部分2のみの抽出が簡単にできる。この段階でトラス部分2の各構成部材の相対座標を読み込めば、図3に示すようなトラス線図を一意的に自動作図するシステムを構築することが可能である。したがって、強度解析に要する工数を低減することができる。
【0013】
次に、トラス線図の各接点に自重+法定荷重(2600N/m×トラスの水平面への投影面積)を分配する。ここで法定荷重は建築基準法によって定められる値である。従来の方法では、全ての仕様条件に対し、マンコンベアの自重を計算することは困難であるため、標準仕様、標準寸法のマンコンベアの重量を基準として、その階高変化、あるいは上下階水平部の寸法変化分に対して一定の割合の重量を比例増減させる等の概略計算で行っていた。
【0014】
しかしながら、本発明では、三次元CADを使用することで、図1に示すようなエスカレータのモデルを作成すれば、その重量は、三次元CADのデータを読み込んでそのモデルを構成する各構成部材の体積と比重の積算で求めることができるため、正確な自重を上記トラス線図の各接点に分配することができる。したがって、応力解析の精度が向上するものである。
【0015】
トラス線図と接点荷重が求まれば、従来と同様の方法で図4に示すようなクレモナ図を自動作成し、各構成部材に作用する軸力を算出するシステムを構築することができる。ここで、例えば、図3のトラス線図中の符号7、8の領域に挟まれる部材の軸力は、図4のクレモナ図において7−8の線分により表される。
【0016】
また、図5に示すように、各部材毎に軸力から応力を算出する場合、軸力を図6に示すような部材の断面積で割らなければならない。このとき、図2のトラスの三次元モデルのデータから各構成部材の断面積を読み込むようにしておけば、部分的に補強されているような場合でも、人を介して断面積を修正することなく、全て自動でトラスの応力解析を行うシステムを構築することが可能となる。
【0017】
したがって、いかなる仕様のマンコンベアでも、強度解析を容易かつ正確に行うことができるものである。
【0018】
図7に示すように、応力解析を行うコンピュータ101は、キーボード、ディスクドライブ装置等の入力装置102、プリンタ等の出力装置103、中央処理装置104、ハードディスク等のファイル装置105、メインメモリ106等を備えている。メインメモリ106には、各種処理を実行するための制御プログラム107が格納されている。
【0019】
中央処理装置104は、メインメモリ106中の制御プログラム107の指令を受けて図8に示す処理を順次実行する。この処理を実行するための応力解析プログラムは、CD−ROM等の記録媒体201を入力装置102に読み取らせることで、ファイル装置105に格納される。
【0020】
図8に示すように、この応力解析プログラム300は、まずステップ301において、三次元CADを用いて作成したエスカレータの三次元モデル1(図1参照)からエスカレータのトラス部分2(図2参照)を抽出する。
【0021】
次いで、ステップ302において、三次元CADからトラス部分2の各構成部材の座標を読み込んでトラス線図を作成する。
【0022】
次いで、ステップ303において、エスカレータの自重とあらかじめ設定された荷重条件とからトラス線図の各接点における荷重を算出する。ここで、エスカレータの自重は、三次元CADのデータを読み込んで算出するようにしておけば、正確な自重をトラス線図の各接点に分配することができるので、応力解析の精度が向上する。
【0023】
次いで、ステップ304において、トラス線図と各接点の荷重とからクレモナ図を作成する。
【0024】
次いで、ステップ305において、クレモナ図から各構成部材毎の軸力を算出する。
【0025】
そして、ステップ306において、各構成部材の断面積と軸力とから各構成部材毎の応力を算出する。ここで、三次元モデルのデータから各構成部材の断面積を読み込むようにしておけば、部分的に補強されているような場合でも、人を介して断面積を修正することなく、全て自動で処理を行うことができるので、手間が低減する。
【0026】
なお、このコンピュータ101は、三次元CADとは別体のものでもよいし、三次元CADに内蔵されたものを用いてもよい。
【0027】
また、本発明が適用可能なマンコンベアはエスカレータに限られるものではなく、その他のマンコンベアにも適用することができる。
【0028】
その他にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に種々の改変を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】三次元CADを用いて作成したエスカレータの三次元モデルを示す図。
【図2】図1の三次元モデルから抽出したトラス部分を示す図。
【図3】図2のトラス部分に基づいて作成したトラス線図。
【図4】図3のトラス線図に基づいて作成したクレモナ図。
【図5】実施形態の応力・安全率の計算結果を示す表。
【図6】実施形態のトラス部分の材料規格を示す表。
【図7】応力解析を行うコンピュータのシステム構成図。
【図8】応力解析プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0030】
1 マンコンベアの三次元モデル
2 三次元モデル1のトラス部分
101 コンピュータ
201 CD−ROM(記録媒体)
300 応力解析プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元CADを用いて作成したマンコンベアの三次元モデルから前記マンコンベアのトラス部分を抽出する工程と、
前記三次元CADから前記トラス部分の各構成部材の座標を読み込んでトラス線図を作成する工程と、
前記マンコンベアの自重とあらかじめ設定された荷重条件とから前記トラス線図の各接点における荷重を算出する工程と、
前記トラス線図と前記各接点の荷重とからクレモナ図を作成する工程と、
前記クレモナ図から前記各構成部材毎の軸力を算出する工程と、
前記各構成部材の断面積と前記軸力とから前記各構成部材毎の応力を算出する工程と、
を含むことを特徴とするマンコンベアの応力解析方法。
【請求項2】
前記マンコンベアの自重を前記三次元CADから読み込んだデータに基づいて算出することを特徴とする請求項1記載のマンコンベアの応力解析方法。
【請求項3】
前記各構成部材の断面積を前記三次元CADから読み込むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のマンコンベアの応力解析方法。
【請求項4】
マンコンベアの応力解析を行うために、コンピュータを、
三次元CADを用いて作成したマンコンベアの三次元モデルから前記マンコンベアのトラス部分を抽出する手段、
前記三次元CADから前記トラス部分の各構成部材の座標を読み込んでトラス線図を作成する手段、
前記マンコンベアの自重とあらかじめ設定された荷重条件とから前記トラス線図の各接点における荷重を算出する手段、
前記トラス線図と前記各接点の荷重とからクレモナ図を作成する手段、
前記クレモナ図から前記各構成部材毎の軸力を算出する手段、
前記各構成部材の断面積と前記軸力とから前記各構成部材毎の応力を算出する手段、
として機能させるための応力解析プログラム。
【請求項5】
前記マンコンベアの自重を前記三次元CADから読み込んだデータに基づいて算出することを特徴とする請求項4記載の応力解析プログラム。
【請求項6】
前記各構成部材の断面積を前記三次元CADから読み込むことを特徴とする請求項4又は請求項5記載の応力解析プログラム。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6のいずれか一項記載の応力解析プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図8】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate