説明

マーキング治具及び電気融着継手の施工方法

【課題】電気融着継手を管に正常に施工できる管の挿入長さの許容範囲を明確にできるとともに、この許容巾内において電気融着継手の設置位置を調整すること。
【解決手段】内周面に電熱線が埋設された溶融部を備える受口を有し、受口の溶融部奥側及び入口側に非溶融部を有する電気融着継手に接続される管のマーキング治具であって、受口に挿入される管の外周面に沿う本体41と、前記管の端部に当接する当接部42とからなり、本体41には、受口への管の最大挿入代及び最小挿入代だけ、前記当接部から離れた位置に、前記本体を貫通した開口部43を有するマーキング治具4を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエチレン管等の樹脂管又はその内部に補強層を有する金属補強樹脂管を施工するために用いるマーキング治具及び電気融着継手の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、寒冷地の鉄道路線等において、軌道上に舞い降りる雪を排除、消雪するための消雪システムが提案され実用化されている。この消雪システムにはスプリンクラによる散水方式や、水を熱媒体とした放熱板を用いその放熱板に舞い降りた雪を溶かす消雪パネルユニット方式などがある。そして新幹線の高架路線等で特に積雪の多い地域には、散水スプリンクラ方式がとられることが多い。この方式を採用した軌道消雪装置は、鉄道軌道に沿って散水用配管と送水用配管が並行して設けられる。このうち、散水用配管は通常5〜6m毎に配設した鋼管を分岐継手を介して接続し、この分岐継手にヘッド回転式のスプリンクラを設置し、送水管から供給される10〜20℃程度の水を空気中に散布するようになっている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
散水スプリンクラ方式に適用される電気融着継手として、例えば特許文献2には、分岐パイプに形成した鍔部を継手本体の流路孔内面に係止して分岐パイプの筒部を外面から突出させ、筒部に環装させた固定具と鍔部とで継手本体の貫通孔近傍を挟持して分岐パイプを固定し樹脂管との接続部分のうち、少なくとも一箇所を、電熱線を配線して電気融着による接続構造にする分岐継手が記載されている。
【0004】
一方、ポリエチレン管等の樹脂管又はその内部に補強層を有する金属補強樹脂管を施工するにあたって、電気融着継手を用いる場合には、正常な接続強度を得るために電気融着継手に管を挿入する基準となる挿入代を前もってマーキングしておき、このマーキングに合わせて管を挿入し施工することが行われている。そして、このマーキングを簡便に行うことができるように例えば特許文献3に記載されるようなパイプ用マーキング装置が用いられる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−155705号公報(第4頁から第6頁、図2)
【特許文献2】特開2007−146990号公報(第8頁から第10頁)
【特許文献3】特開2004−090116号公報(第2頁から第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した散水スプリンクラ方式の軌道消雪装置はスプリンクラの飛散距離に合わせてスプリンクラの設置間隔を厳密に規定する必要がある。ところが、上記電気融着継手に用いられる管は定尺であっても全長の許容差(例えば±10mm)が認められており、電気融着継手の基準挿入代であるマーキングを管の端部に施すと、管の全長の許容差分だけスプリンクラの設置位置がずれてしまうこととなる。
特に軌道消雪装置は鉄道の軌道に沿って総延長が数10kmにも及ぶので、1本の管の許容差を蓄積するとスプリンクラ設置位置が大幅にずれてしまい、散水を行っても消雪できない個所が発生する虞がある。
【0007】
一方で、スプリンクラの設置位置を基準にして電気融着継手の基準挿入代を無視した施工を行うと、電気融着継手と管との接合強度が低下し、漏水等の不具合を発生させる虞があった。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、散水スプリンクラ方式の軌道消雪装置の如く、電気融着継手の設置位置を調整しつつ固定でき、かつ電気融着継手の施工において不具合を発生させないための管の挿入代を表記するマーキング治具、及び電気融着継手の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記技術課題を解決するために、本発明にかかるマーキング治具は、内周面に電熱線が埋設された溶融部を備える受口を有し、前記受口の前記溶融部奥側及び入口側に非溶融部を有する電気融着継手に接続される管のマーキング治具であって、前記受口に挿入される管の外周面に沿う本体と、前記管の端部に当接する当接部とからなり、前記本体には、前記受口への前記管の最大挿入代及び最小挿入代だけ、前記当接部から離れた位置に、前記本体を貫通した開口部を有することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、電気融着継手が正常に融着接合できる許容巾を管の表面にマーキングすることができるので、この許容巾内において電気融着継手の設置位置を調整することができる。
【0011】
また、本発明において、前記最大挿入代開口部と前記最小挿入代開口部とは、前記管の軸方向に連通していることが望ましい。
施工作業者においては、最大挿入代及び最小挿入代のマーキングで十分である。しかしながら、施工後の最小挿入代マーキングは、電気融着継手の受口内に隠れてしまうこととなるので、施工管理者側からみれば、管の表面に残ったマーキングが、施工作業者による正しいマーキングによるものなのかの判定を下しにくい面がある。
最大挿入代開口部と最小挿入代開口部とを管の軸方向に連通させることによって、例えば、管の軸方向には一線状のマーキングがなされるから、この一線状マーキングの一部が電気融着継手の受口に隠れるように施工されていれば、電気融着継手が正常に融着接合できる許容巾内で施工されていることが、容易に判定できる。
【0012】
また、本発明において、前記最大挿入代開口部と前記最小挿入代開口部との間隔は、前記電気融着継手の前記奥側非溶融部長さよりも短く設けることが好ましい。
【0013】
また、本発明にかかる電気融着継手の施工方法は、内周面に電熱線が埋設された受口を有し、前記受口の前記電熱線奥側及び入口側に非溶融部を有する電気融着継手と、これに接続される管との施工方法であって、請求項1乃至3に記載のマーキング治具を用いて、管の外表面にマーキングする工程と、前記電気融着継手に管を挿入し、前記電気融着継手を所定の位置に固定する工程と、前記電気融着継手を所定の位置に固定したとき、管の外表面の前記最小挿入代のマーキングが前記受口に隠れ、前記最大挿入代のマーキングが前記受口外に現れていることを確認する工程と、前記電気融着継手に通電し、管との接合を行う工程とからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電気融着継手が正常に融着接合できる許容巾を管の表面にマーキングすることができるので、電気融着継手を管に正常に施工できる管の挿入長さの許容範囲を明確にできるとともに、この許容巾内において電気融着継手の設置位置を調整することができ、電気融着継手を所定の位置に固定することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明にかかるマーキング治具及び電気融着継手の施工方法の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明にかかるマーキング治具を用いる電気融着継手の断面図、図2は本発明にかかるマーキング治具の一実施例、図3は本発明にかかるマーキング治具の使用方法を説明する模式斜視図である。
【0016】
まず、図1をもちいて、本発明のマーキング治具を用いる電気融着継手Aについて説明する。電気融着継手Aは、図1に示すように、継手本体11と分岐部21とを備えて構成されている。
【0017】
継手本体11は、図1に示すように、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂で構成された所要長さのパイプ状直管部と、その中途部に貫通孔13を形成する首部12が一体形成されている。直管部の両内周面には所定長さに亘って螺旋溝14が形成され、この溝内に電熱線31が配設されている。この電熱線31は、継手本体11の両端部においては溶接等で接続された金属端子32が継手本体11の外面に露出するように立設している。
この電熱線31は、図に示すように、貫通孔13を挟んで継手本体11の両側に密となるように連続的に形成した螺旋溝14,14に嵌め込むように配設されている。この密の電熱線31部分が樹脂管B(不図示)を接続させる溶融接続部15となっており、連通した管内全体が流路孔16となっている。
【0018】
分岐部21は、分岐パイプ22と、固定具23とを備えてなる。分岐パイプ22は、流路孔16の内周面に沿うように金属の板状部材を凸湾曲形成された平面視略矩形状の鍔部22aと、その鍔部22aの中心から垂直に立設された所要長さの中空金属パイプからなる筒部22bとが一体に形成されている。また、この筒部22bは、基部から中途部にかけては継手本体の首部12に支持されてなり、中途部から先部に亘っては後述する固定具23と螺合させる雄螺子22cが形成され、その内面側にはスプリンクラヘッド等の外部装置または分岐管を接続させるための雌螺子からなる分岐接続部22dが形成されている。
【0019】
固定具23は、略環状の金属部材であり、筒部22bに形成された雄螺子22cと螺合する雌螺子23bが、先端部の内周面に形成されていると共に、中途部の内周面には、筒部22bとの間を密封するシール部材用の凹溝23cと、下端部の内周面には継手本体の首部12との間を密封するシール部材用の凹溝23dが夫々形成されている。
そして、この固定具23にシール部材としてOリング24a、24bを装着し、筒部22bに形成された雄螺子22cに螺合・捩じ込んで、鍔部22aと固定具23とで貫通孔13縁部を挟持することにより、樹脂管Bに対して直交方向に分岐パイプ22を立設支持している。
【0020】
また、電熱線や融着部に悪影響を及ぼさないように、継手本体の両端には環状凹溝を設け、ここにパッキン18を備えている。このパッキン18は、継手本体の内周面と被接続樹脂管との間を密閉するシール作用をなし、管を接続した後でも継手本体の端部開口から流路孔16内に水分や塵芥が入り込まないようにしている。
【0021】
この電気融着継手Aは、溶融接続部15の入口側及び奥側に電熱線を密に巻回していない入口非溶融部19a及び奥側非溶融部19bを有する。この非溶融部は、一般にコールドゾーンと称され、溶融接合する際に、溶融接合部15で加熱溶融した樹脂を固化させて、継手や管の端面から溶融樹脂が吹き出さないようにするとともに、継手と管との間の溶融樹脂の圧力を保持させて、強固な溶融接続をなすための役割を有する。
【0022】
これら非溶融部の長さは、例えば日本工業規格(JIS K 6775−3(第14頁、第15頁参照))において、5mm以上と規定されている。
【0023】
図1に示した電気融着継手Aにおいては、例えば入口非溶融部19aの長さは20mm、奥側非溶融部19bは溶融部15の奥側端部から鍔部22aの端部までの長さである。そして、樹脂管Bの基準挿入代55は、溶融部15の奥側端部15aから20mm奥側の位置から流路孔16の入口端面までの長さとしている。
【0024】
そして、最小挿入代51は、基準挿入代55から10mm減じた長さ、すなわち溶融部15の奥側端部15aから10mm奥側の位置から流路孔16の入口端面までの長さとしている。また、最大挿入代53は基準挿入代55から20mm加えた長さ、すなわち溶融部15の奥側端部15aから40mm奥側の位置から流路孔16の入口端面までの長さとしている。つまり、電気融着継手Aの流路孔16に挿入される樹脂管Bの挿入量は、最小挿入代51から最大挿入代53の間で許容され、この間に挿入された樹脂管Bと正常に融着接合することができる。
なお、更に許容巾を広く設けたい場合には、最大挿入代53を鍔部22aの端部から流路孔16の入口端面までの長さとすればよい。
【0025】
図2に示すように、マーキング治具4は、樹脂管Bの外周面に沿う円弧状の本体41と、樹脂管Bにマーキングする際に樹脂管Bの端部に当接させる当接面42aを備える当接部42とからなっている。そして、本体41には、本体41の肉厚方向に貫通した十字状の開口部43を有している。
【0026】
この開口部43の軸方向の当接部42側の端部と当接部42の当接面42aとの距離は、上述した電気融着継手の最小挿入代51となっており、最小挿入代開口部43aである。また、開口部43の軸方向の当接部42と反対側の端部と当接面42aとの距離は、上述した電気融着継手の最大挿入代53となっており、最大挿入代開口部43bである。一方、開口部43の周方向には基準挿入代開口部43cが形成されている。
【0027】
そして、電気融着継手Aと樹脂管Bとは、次の手順で施工される。図3(a)は樹脂管Bにマーキング治具4を装着した状態の斜視図、図3(b)は樹脂管Bにマーキングを施した状態の斜視図、図3(c)は樹脂管Bに電気融着継手Aを挿入した状態の斜視図である。
【0028】
まず、図3(a)に示すように、樹脂管Bの外周面B1にマーキング治具4の本体41を跨がせ、端面B2に当接部42が当接するように、マーキング治具4を装着する。そして、開口部43を通じ、マーカー(不図示)を用いて、樹脂管Bの外周面B1にマーキングする。
【0029】
すると、図3(b)に示すように、十文字状のマークB3が樹脂管Bの外周面B1に施されることとなる。このマークB3において、樹脂管Bの端部B2に近い側は最小挿入代マークB31で、この最小挿入代マークB31と端部B2との距離は、最小挿入代51である。一方、樹脂管Bの端部B2から遠い側は最大挿入代マークB33で、この最大挿入代B33と端部B2との距離は、最大挿入代53である。また、周方向の表示は基準挿入代マークB35である。
【0030】
そして、図3(c)に示すように、樹脂管Bを電気融着継手Aに挿入する(図中では、図の右側から電気融着継手Aに挿入されるべき樹脂管Bを省略している。)。このとき、マークB3の最小挿入代マーク31は、電気融着継手Aの受口に隠れ、最大挿入代マークB33は樹脂管Bの外周面B1に、その表示が見える状態になる。
【0031】
すなわち、マークB3の最小挿入代マークB31が、電気融着継手Aの受口に隠れ、最大挿入代マークB33が樹脂管Bの外周面B1に、その表示が見える状態は、電気融着継手Aの挿入長さの許容範囲内にあることを示すことができる。そして、この状態で電気融着継手Aに通電して、電気融着継手Aと樹脂管Bとを接続すれば、正常に融着接合することができる。
【0032】
また、マークB3の最小挿入代マーク31と、最大挿入代マークB33との間で、電気融着継手Aの挿入長さを樹脂管Bの軸方向に調整することができるので、電気融着継手Aの分岐部21を所望の位置に固定することができる。
【0033】
ところで、マーキング治具4の開口部43は、最小挿入代51及び最大挿入代53の位置に、2つの円孔状又は2つの周方向切欠き状に最小挿入代開口部43aと最大挿入代開口部43bとを設けることができる。施工作業者にとっては、最小挿入代のマークが電気融着継手Aの受口に隠れ、最大挿入代のマークが樹脂管Bの外周面B1に見える状態であれば、電気融着継手Aの挿入長さの許容範囲内であることを認識することができる。
【0034】
しかし、施工管理者側からみれば、施工後に樹脂管Bの外周面に表示されたマークを施工作業者が最小挿入代マークだけを施して、挿入不足のまま施工された状態と判定することが困難な場合が考えられる。したがって、開口部43は、最小挿入代開口部43aと最大挿入代開口部43bとを図2のごとく連通させて、例えば一文字状の開口部であることがより好ましい。
【0035】
なお、図2に示した実施の形態においては、十文字状の開口部43の例を示したが、これに限定されるものでなく、例えば、王状の開口部やH状の開口部とすることができる。また、本体41は樹脂管Bの外周面B1に沿う円弧状の例を示したが、これに限定されるものでなく、板状や円筒状とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明にかかるマーキング治具を用いる電気融着継手の断面図である。
【図2】本発明にかかるマーキング治具の一実施例であって、(a)はこの平面図、(b)はこの側面図ある。
【図3】本発明にかかるマーキング治具の使用方法を説明する模式斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
A:電気融着継手、
11:継手本体、12:首部、13:貫通孔、14:螺旋溝、15:溶融接続部、15a:奥端部、16:流路孔、18:パッキン、19a:入口非溶融部、19b:奥側非溶融部、
21:分岐部、22:分岐パイプ、22a:鍔部、22b:筒部、22c:雄螺子、22d:分岐接続部、23:固定具、23b:雌螺子、24a、24b:Oリング、
31:電熱線、32:金属端子、
B:樹脂管、B1:外周面、B2:端部、B3:マーク、B31:最小挿入代マーク、B33:最大挿入代マーク、B35:基準挿入代マーク、
4:マーキング治具、41:本体、42:当接部、42a:当接面、43:開口部、43a:最小挿入代開口部、43b:最大挿入代開口部、43c:基準挿入代開口部、
51:最小挿入代、53:最大挿入代、55:基準挿入代、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に電熱線が埋設された溶融部を備える受口を有し、前記受口の前記溶融部奥側及び入口側に非溶融部を有する電気融着継手に接続される管のマーキング治具であって、
前記受口に挿入される管の外周面に沿う本体と、前記管の端部に当接する当接部とからなり、
前記本体には、前記受口への前記管の最大挿入代及び最小挿入代だけ、前記当接部から離れた位置に、前記本体を貫通した開口部を有することを特徴とするマーキング治具。
【請求項2】
前記最大挿入代開口部と前記最小挿入代開口部とは、前記管の軸方向に連通していることを特徴とする請求項1に記載のマーキング治具。
【請求項3】
前記最大挿入代開口部と前記最小挿入代開口部との間隔は、前記電気融着継手の前記奥側非溶融部長さよりも短く設けたことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のマーキング治具。
【請求項4】
内周面に電熱線が埋設された受口を有し、前記受口の前記電熱線奥側及び入口側に非溶融部を有する電気融着継手と、これに接続される管との施工方法であって、
請求項1乃至3に記載のマーキング治具を用いて、管の外表面にマーキングする工程と、
前記電気融着継手に管を挿入し、前記電気融着継手を所定の位置に固定する工程と、
前記電気融着継手を所定の位置に固定したとき、管の外表面の前記最小挿入代のマーキングが前記受口に隠れ、前記最大挿入代のマーキングが前記受口外に現れていることを確認する工程と、
前記電気融着継手に通電し、管との接合を行う工程とからなることを特徴とする電気融着継手の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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