説明

ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうるシアノファージ、該シアノファージを利用するアオコ防除方法及びアオコ防除剤並びに該シアノファージの単離方法、濃縮・精製方法、継代培養方法及び保存方法

【課題】 ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうるシアノファージ、該シアノファージを利用するアオコ防除方法及びアオコ防除剤並びに該シアノファージの単離方法、濃縮・精製方法、継代培養方法及び保存方法の提供。
【解決手段】 ミクロキスティス属の藻類に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージ。該シアノファージの単離方法は、シアノファージを含有する液体試料をフィルターで濾過し、得られた濾液をミクロキスティス属の藻類の培養液に接種して培養を行い、溶藻が観察された培養液を限界希釈することにより前記シアノファージをクローニングする工程を含む。前記のシアノファージを有効成分として含むアオコ防除剤。前記のシアノファージを水域に散布することからなるアオコ防除方法。前記のシアノファージの濃縮・精製方法、継代培養方法、および保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロキスティス(Microcystis)属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージ(すなわち、藍藻感染性ウイルス)、該シアノファージを利用するアオコ防除方法及びアオコ防除剤並びに該シアノファージの単離方法、濃縮・精製方法、継代培養方法及び保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アオコと呼ばれる藍藻類の大量発生現象が世界中の内水面(天然および人工の湖沼や池など)で頻発している。代表的なアオコ形成種として知られるミクロキスティス(Microcystis)属藍藻の中には、肝臓毒ミクロシスティン(発癌プローモータ活性を有する環状ペプチド毒素)を生産する種が存在する。1990年代半ばには、中国上海近郊において、水源におけるアオコ発生がもたらしたミクロシスティンの蓄積が、同水源由来の水道水を利用する市民に異常に高頻度での肝臓癌発生をもたらした。また1996年には、ブラジルにおいて、水源での本毒素の混入が原因で50人以上の透析患者が死亡するなど、藍藻毒による被害は、人体への健康被害を引き起こすという点で重大である。さらに藍藻毒による被害は、家畜・野生生物の斃死を引き起こすなど畜産業・水産業の分野においても深刻な問題として位置付けられる。また農作物を含む植物への毒素の吸収・蓄積は、農業分野において問題視されている。このように、アオコは飲料水源の質の悪化ならびに農林水産業を含む各種産業を支える水源の質の悪化を引き起こす。さらにアオコの発生による親水環境の劣悪化は、観光経済の不活性化の原因にもなる。わが国でも、各地の水源において有毒藍藻であるミクロキスティス属によるアオコが発生しており、今後、アオコによる水源の毒化による被害の発生・深刻化が懸念される。すでに水産分野では、カナダでのミクロシスティンが原因と思われる肝臓細胞の壊死による養殖サケの大量斃死やイタリアでの食物連鎖を介した魚介類へのミクロシスティンの濃縮事例等が報告されており、消費者の食資源・水資源への信頼を確保するためには、アオコへの具体的な対策の構築が危急の課題であるといえる。言うまでもなく、根本的なアオコ防除技術としては、水圏環境への栄養塩負荷(窒素・リンなどアオコ原因藍藻の栄養分の湖沼等への流入)の減少を図ることが不可欠である。しかし現実には、湖沼等の陸水環境が自然または人間活動に由来する栄養物質の流入先になるケースが多く、内水面の栄養塩レベルの低減という抜本的なアオコ防除対策を講じることは甚だ困難な状態にある。
【0003】
近年の研究により、海洋においてウイルスが植物プランクトンの動態(とくに赤潮原因プランクトンの消長)を制御する重要な因子であることが明らかとなってきた。しかしながら、淡水域でのアオコ原因藍藻とそれらに感染するシアノファージとの相互関係に関する研究事例はまだまだ少ないのが現状である。過去に、ミクロキスティス属の一種ミクロキスティス・エルギノーサ(Microcystis aeruginosa)を宿主とするファージが分離されたとの2例の報告(非特許文献1,2)がなされたが、いずれも宿主株の同定ミスによる誤報であり、現在ではいずれも無毒藍藻シネココッカス(Synechococcus)属を宿主とするシアノファージであったことが確認されている(非特許文献3)。また、愛媛県松山市の古池からミクロキスティス・エルギノーサに対するプラーク形成因子(マット状に増殖させたミクロキスティス・エルギノーサに透明なゾーンを形成する0.2μm以下の殺藻因子)を検出した事例(非特許文献4,5)や、オーストラリア(クイーンズランド)のバルーン湖からミクロキスティス・エルギノーサの溶藻に関与すると考えられるポドウイルス科に近い形態学的特徴を持つファージ様粒子を検出した事例が報告されている(非特許文献6)。しかしながら、いずれの実験においてもミクロキスティス・エルギノーサを溶藻するファージの単離ならびに培養系の構築には成功していない。したがって、世界的にみてもミクロキスティス属を宿主とするシアノファージは未だ分離されていない状況であり、研究を目的とした分譲可能な寄託株さえ、いずれの寄託機関にも存在しないのが現状である。
【0004】
上述のようなアオコによる被害の甚大さにもかかわらず、アオコに対する予防・防除対策は未だ開発途上の段階にある。これまでに 遮光装置・エアレーション装置・流動化装置等によるアオコ発生の阻止、特殊な捕集装置を備えた船舶によるアオコそのものの回収、アオコ溶藻細菌の利用によるアオコ防除などの対策が提案され、その一部は試験または実施されてきた。しかしながら、これまでのところ効率的なアオコ防除技術は十分に確立されておらず、早急な対策の構築が求められている。
微生物を用いたアオコ防除技術としては、細菌類(粘液細菌を含む)を利用したものがこれまでに数件提案されている(特許文献1、2及び3)。しかしながら、過去にシアノファージを利用したアオコ防除技術に関する特許出願はなされていない。
【0005】
【非特許文献1】Safferman, R. S., Schneider, I. R., Steere, R. L., Morris, M. E., Diener, T. O. Phycovirus SM-1: A virus infecting unicellular blue-green algae.Virology, 37, 386-395 (1969).
【非特許文献2】Fox, J. A., Booth, S. J., Martin, E. L. Cyanophage SM-2: A new blue-green algal virus. Virology, 73: 557-560 (1976).
【非特許文献3】Suttle, C. A. Cyanophages and their role in the ecology of cyanobacteria. In: Whitton, B. A., Potts, M. (eds.), The Ecology of Cyanobacteria: Their Diversity in Time and Space. Kluwer Academic Publishers, Boston, pp. 563-589 (2000).
【非特許文献4】Manage, M. M., Kawabata, Z., Nakano, S. Seasonal changes in densities of cyanophage infectious to Microcyatis aeruginosa in a hypereutrophic pond. Hydrobiologia, 411: 211-216 (1999).
【非特許文献5】Manage, M. M., Kawabata, Z., Nakano, S. Dynamics of cyanophage-like particles and algicidal bacteria causing Microcyatis aeruginosa mortality. Limnology, 2: 73-78 (2001).
【非特許文献6】Tucker, S., Pollard, P. Identification of cyanophage Ma-LBP and infection of the cyanobacterium Microcyatis aeruginosa from an Australian subtropical lake by the virus. Appl. Environ. Microbiol. 72(2): 629-635 (2005).
【特許文献1】特開昭62-49999号公報
【特許文献2】特開2000-254686号公報
【特許文献3】特開2001-300582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主目的は、シアノファージの殺藻能をアオコの発生予防・防除に対して応用することである。シアノファージ利用によるアオコ防除は、他生物や水圏生態系全体への負荷が小さい環境修復技術としてその安全性に高い期待が寄せられており、シアノファージの大量培養技術・散布手法・コスト・安全性評価等の面での諸問題がクリアされれば、実用化への道が開かれるものと期待される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
こうした背景の下、本発明者らは、アオコ原因藍藻の一種であるミクロキスティス・エルギノーサ(Microcystis aeruginosa NIES-298株(有毒株):環境研究所(茨城県つくば市小野川16-2)保存株)に感染して増殖するファージを世界で初めて単離・培養することに成功し、本発明を完成するに至った。本出願で詳述されるシアノファージ株は、世界で初めてのミクロキスティス属を宿主とするファージの分離事例である。また、形態学的にはミオウイルス科の特徴を有しており、Tucker, S., Pollard, P. Identification of cyanophage Ma-LBP and infection of the cyanobacterium Microcyatis aeruginosa from an Australian subtropical lake by the virus. Appl. Environ. Microbiol. 72(2): 629-635 (2005).(非特許文献6)に示されたポドウイルス科の形態を有するファージ様粒子とはまったく異なるものである。とくに頭部のサイズは前者(Ma-LMM01)が60〜120nmであるのに対し、後者(ポドウイルス科の形態を有するファージ様粒子)では42nmおよび52nmと報告されている。
【0008】
すなわち、本発明は、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを提供する。ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻はミクロキスティス・エルギノーサであるとよい。シアノファージはミオウイルス科に属するとよい。本発明の一態様において、シアノファージは、頭部および尾部構造を有し、外膜構造を欠き、頭部は直径約60〜120nmの正二十面体である。この態様において、シアノファージの頭部平均直径は86nmであることが好ましい。尾部構造のうちコア部分は約140〜350nm、鞘は約60〜260nmである。この態様において、コア部分および鞘の平均長は209nmおよび142nmであることが好ましい。本発明のシアノファージとしては、シアノファージ(Cyanophage)Ma-LMM01株(NITE BP-71)、Ma-LMM02株、Ma-LMM03株又はMa-LMM05株などを挙げることができる。本発明のシアノファージは、ゲノムの塩基配列が配列番号1の塩基配列と同一であるか、あるいは少なくとも1つの遺伝子の塩基配列が配列番号1の塩基配列中の対応する遺伝子の塩基配列と90%以上の相同性を有するものであるとよい。
【0009】
また、本発明は、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを含有する液体試料をフィルターで濾過し、得られた濾液をミクロキスティス属のアオコ原因藍藻の培養液に接種して培養を行い、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻の溶藻が観察された培養液を限界希釈することにより前記シアノファージをクローニングする工程を含む、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージの単離方法を提供する。
【0010】
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを含有する液体試料としては、該シアノファージに感染しているミクロキスティス属のアオコ原因藍藻を含有する液体試料(例えば、ミクロキスティス属が優占するアオコの終息期の湖水試料、該シアノファージに感染しているミクロキスティス属の藍藻の培養液など)、該ファージを含有する湖底泥の懸濁液、およびその懸濁液を遠心分離して得られた上清などを例示することができる。
【0011】
本発明のシアノファージの単離方法において、動植物プランクトンや細菌類の大部分を除去するため、孔径3μm 0.8μm,および0.2μmのメンブレンフィルターで順番に濾過を行うのが適当である。
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻を培養するための培地としては、MA培地やCB培地などの液体培地、およびこれらの液体培地に寒天またはアガロースを溶かし込み固化させることにより作製した固相培地などを例示することができる。これらの培地成分は、NIES-collection list of strains, 4th ed. (ed.) The National Institute for Environmental Studies, The Environmental Agency, Japan, 127 p. (1994)に示されている。
【0012】
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻の培養液を調製するためのアオコ原因藍藻は、対数増殖期にあるミクロキスティス・エルギノーサであるとよく、例えば新鮮なCB培地に体積比で約1/10量の対数増殖期末期または定常期初期にあるミクロキスティス・エルギノーサ培養液を接種し、曝気条件下または非曝気条件下において、温度30℃、光強度100μmol photons m-2 s-1、12時間明:12時間暗の培養条件下で2〜3日間培養することで、対数増殖期にあるミクロキスティス・エルギノーサ培養液を調製することができる。曝気は、空気に二酸化炭素を0.3〜0.7%となるよう混合後、培養液中に通気速度を0.5〜1L/分にすることが望ましい。このミクロキスティス・エルギノーサ培養液に該シアノファージを粒子数が藻体細胞数の10-1〜10-10倍になるように接種し培養を行うとよい。ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻の培養は、本発明のシアノファージに感染させる前であるか、後であるかを問わず、曝気条件下または非曝気条件下において、温度15〜32℃、光強度50〜150μmol photons m-2 s-1、明暗周期のある条件下で行うことが好ましい。培養は、溶藻が確認されるまで続けるとよい。
【0013】
シアノファージのクローニングにおける限界希釈は、10-1〜10-10倍の希釈段階で行うとよい。
また、本発明は、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージに感染して、溶藻が確認されたミクロキスティス属のアオコ原因藍藻の培養液を遠心処理または濾過し、得られた上清または濾液をミクロキスティス属のアオコ原因藍藻の培養液に接種して培養を行う操作を少なくとも1回繰り返す工程を含む、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを継代培養する方法を提供する。
【0014】
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージに感染して、溶藻が確認されたミクロキスティス属のアオコ原因藍藻の培養液は、上述のようにして得ることができる。
溶藻が確認されたミクロキスティス属のアオコ原因藍藻の培養液を遠心処理する場合は、5000〜7000 x gの遠心加速度で20〜30分間遠心処理を行い、その上清を得るとよい。上清の表面に一部の藍藻細胞が浮遊している場合は、これをピペット等で除去するとよい。
【0015】
溶藻が確認されたミクロキスティス属のアオコ原因藍藻の培養液を濾過する場合は、孔径0.8μmのフィルターで濾過して、その濾液を得るとよい。
遠心処理により得られた上清または濾過により得られた濾液は、対数増殖中のミクロキスティス属の藻類の培養液に接種して培養を行うとよい。培養は、温度15〜32℃、光強度50〜150μmol photons m-2 s-1、明暗周期を与えた条件下で行うことが好ましい。培養液中の藻体の増殖を評価し、継代培養したシアノファージがミクロキスティス属の藻類に対する感染性を保持していることを確認するとよい。
【0016】
また、本発明は、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージの懸濁液をフィルターで濾過した後、ポリエチレングリコールを添加し、2〜10℃の温度で放置し、遠心分離により濃縮することで得られたシアノファージの懸濁液を塩化セシウムステップ密度勾配中において111,000 x g以上の遠心加速度で1〜2時間超遠心分離して精製することによる、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージの濃縮・精製方法を提供する。111,000 x g以上の遠心加速度で超遠心分離する時間は1〜2時間であり、好ましくは1時間である。本発明の方法において、ミクロキスティス属に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージの懸濁液に、塩化ナトリウム(終濃度4%)、クロロホルム(終濃度0.5%)を添加・撹拌し、孔径0.8μmのフィルターで濾過して得られた濾液に終濃度10%となるようポリエチレングリコールを添加し2〜10℃に一夜放置後、7,000 x gで40分間遠心分離してファージ-ポリエチレングリコール複合体を沈殿させることにより、シアノファージ粒子を濃縮するとよい。得られたペレットは、SMバッファー(50mM Tris-HCl, 100mM NaCl, 10mM MgSO4・7H2O, 0.01% ゼラチン, pH 7.5)で懸濁し、等量のクロロホルムを添加して撹拌後、7,500 x gで20分間遠心するとよい。また、ファージ粒子の感染性を高く維持する方法として、クロロホルムを添加しない方法も推奨される。さらに本発明は、得られたファージ粒子濃縮液を1.45〜1.70g/mlの塩化セシウムステップ密度勾配中において111,000 x gで1時間以上超遠心分離して白濁バンドとして得ることによるシアノファージの精製方法を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、アオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを有効成分として含むアオコ防除剤を提供する。
さらにまた、本発明は、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを水域に散布することからなるアオコ防除方法を提供する。
【0018】
本明細書において、「アオコ防除」とは、アオコの発生を予防すること、アオコの発生を小規模化すること、発生したアオコを駆除することを含む概念である。
アオコ防除の対象となる水域は、天然・人工を問わずいかなる水域であってもよいが、アオコ発生水域やアオコの頻発する水域など、アオコが現在発生している水域、アオコが現在発生していないが将来発生することが予想される水域をアオコ防除の対象とするとよい。
【0019】
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを固定化剤に包埋したものを、水域の底泥中に設置・埋設してもよい。これにより、シアノファージを継続的に同水域に放出させることができ、アオコの発生しにくい条件を作り出し、アオコ発生を予防または小規模化することができる。
シアノファージを包埋するための固定化剤としては、合成高分子ゲル、合成樹脂プレポリマー、天然多糖類、中空糸膜、シリコンポリマー、活性炭、マイクロカプセル、滅菌処理を施した湖底泥等を例示することができる。
【0020】
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを固定化剤に包埋したものを耐水性のネットまたは容器に入れて、アオコの頻発する水域内で筏、ブイ、船舶係留施設および/または船舶に吊す、あるいは固定してもよい。この方法によっても、シアノファージを継続的に同水域に放出させることができ、アオコの発生しにくい条件を作り出し、アオコ発生を予防または小規模化することが可能である。
【0021】
また、本発明は、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージの懸濁液を-196〜-80℃に保存することを含む、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを保存する方法を提供する。
【0022】
凍結保存をする場合には、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージ懸濁液をそのまま、あるいはジメチルスルホオキシド(終濃度5〜20%)等の凍結保護剤を添加・混合後に-80〜-196℃で凍結保存するとよい。懸濁液の状態で保存する場合には、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージ懸濁液を4℃暗所に保存するとよい。-20℃以上の温度での保存の場合には大幅な力価の減少が、また4℃保存の場合には時間経過とともに緩やかな力価の減少がそれぞれ起こるため、長期保存には-80℃以下の超低温条件下での保存が推奨される。
【0023】
本明細書において、「アオコ」とは、藍藻類の急激な増殖に伴い主に内水面(天然および人工の湖沼、河川、池など)の色が変化する現象を指す。この用語は、ミクロシスティン等のシアノトキシン(藍藻毒)の水圏環境中へ放出の有無または水産生物へのシアノトキシンの蓄積または斃死等の被害の有無に関わらず広く用いられる。有害アオコの原因となる藍藻としては、ミクロキスティス属、アナベナ属、ノストク属、ホルミディウム属、アファニゾメノン属、プランクトスリクス属などが挙げられる。ミクロキスティス属に属する種としてはミクロキスティス・エルギノーサ、ミクロキスティス・ヴェーゼンベルギー、ミクロキスティス・フロスアクエ、ミクロキスティス・ノヴァセキ、ミクロキスティス・イクチオブラーベ、ミクロキスティス・ヴィリディスなどが挙げられ、とくにその一部は世界各地の水源で発生する有毒種であり問題視されている。
【0024】
ファージとは、感染した宿主細胞内においてのみ増殖しうる感染性をもった球形、マッチ棒状、レモン型、または繊維状などの微小構造体を指し、真正細菌・古細菌・藍藻類といった原核生物を宿主とするウイルスである。このうち藍藻を宿主とするものを「シアノファージ」と呼称する。シアノファージは、通常の原核生物や真核生物のように周囲の栄養分を取り込む、あるいは光合成を行うことにより二分裂で増殖することはできず、宿主藍藻細胞に感染し、宿主細胞の生合成系を利用することでのみ自己の複製を行う。この点で、シアノファージは細菌とは全く異なる微生物因子である。また、藍藻類を溶藻する細菌類(溶藻細菌)と比較して宿主特異性が著しく高いのが特徴である。なお、「宿主特異性が高い」とは、病原性寄生生物(この場合はシアノファージ)が感染し増殖しうる宿主生物種の範囲(宿主域)が狭いことを意味する。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージが提供された。また、本発明により、該シアノファージを利用するアオコ防除剤、アオコ防除方法、並びに該シアノファージの単離方法、継代培養方法、濃縮・精製方法、および保存方法が提供された。本発明のシアノファージを用いることにより、アオコの発生を予防、小規模化、および/またはアオコを駆除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
ミクロキスティス・エルギノーサは、アオコ原因藍藻の一種であり、細胞の長径は約3〜5μm、自然界中では通常 単細胞または粘質性多糖類で包まれた群体の形で存在する。春季から秋季に増殖してアオコを形成するケースが多く、国内ではほぼ毎年、琵琶湖、三方湖、霞ヶ浦等、全国各地の湖沼等で本種によるアオコの発生が報告されている。また世界的にも広範に分布し、欧州、北アメリカ、南アメリカ、オーストラリア、アジア等で本種によるアオコの発生が報告されている。
【0027】
本発明のシアノファージは、ミクロキスティス・エルギノーサに特異的に感染して増殖しうる。ミクロキスティス・エルギノーサに特異的に感染して増殖しうるシアノファージは、頭部および尾部構造を有し、外膜構造を欠き、頭部は直径約60〜120nm(平均86nm)の正二十面体、尾部構造のうちコア部分は約140〜350nm(平均長209nm)、鞘は約60〜260nm(平均長142nm)である。このシアノファージに感染したミクロキスティス・エルギノーサ細胞内では娘ファージ粒子が形成され、宿主細胞の崩壊に伴いそれらが環境中に放出されることで、新たな(すなわち、未感染の)ミクロキスティス・エルギノーサ細胞の感染・死滅を誘発する。また、該シアノファージの宿主特異性は高く、これまでのところ、ミクロキスティス・エルギノーサ以外の藍藻類および真核性植物プランクトンに対する影響は全く検出されていない。
【0028】
本発明のシアノファージは、以下のようにして単離することができる。まず、ミクロキスティス属の藻類に特異的に感染して増殖しうるファージに感染しているミクロキスティス属の藻類を含有する湖沼等の試水(例えば、ミクロキスティス属の優占するアオコの終息期の湖水)または湖沼等の底泥中に存在するシアノファージを懸濁させたCB培地を孔径0.2μmのフィルターで濾過して得られた濾液等を、対数増殖状態にあるミクロキスティス属の藻類の培養液に接種し、30℃、12時間明:12時間暗の明暗のサイクルで5〜7日間、50〜150μmol photons m-2 s-1の白色蛍光灯の照射下で培養する。光強度は市販の光量子計を用いて測定することができる。
【0029】
ミクロキスティス属の藻類の培養液は、この藻類を予めマイクロピペット法、プレート塗沫法、または限界希釈法によりクローニングして、株化しておき、CB培地に接種後、50〜150μmol photons m-2 s-1の白色蛍光灯を12時間明:12時間暗の明暗サイクルで照射し、15〜32℃で培養、好ましくは30℃で培養することにより調製できる。培養温度は30℃が最適である。新鮮な滅菌済みCB培地に対し体積比で約1/10量の対数増殖期末期または定常期初期にあるミクロキスティス属藻類の培養液を接種し上記条件下においた場合、培養開始後約2〜3日で対数増殖期に入る。
【0030】
次いで、ミクロキスティス属の藻類の溶藻が観察された培養液をミクロキスティス属の藻類用培地で限界希釈することによりシアノファージをクローニングする。ミクロキスティス属を培養するための培地としてはMA培地やCB培地などを例示することができる。限界希釈は次のようにして行うとよい。まず、ミクロキスティス属の藻類の溶藻が観察された培養液を採取し、CB培地で100〜10-10倍に段階希釈し、各希釈液を対数増殖中のミクロキスティス属の藻類の培養液に接種する。これらを、例えば30℃、100μmol photons m-2s-1、12時間明:12時間暗の明暗周期条件下で14日間培養する。培養後、ミクロキスティス属の藻類の溶藻が観察された最も希釈段階の高いものを選択して、その培養液について上記の段階希釈法による処理を少なくとも2回繰り返す。最終の段階希釈法による処理の後、ミクロキスティス属の藻類の溶藻が観察された培養液のうち、最も希釈段階の高い培養液を採取して、対数増殖中のミクロキスティス属の藻類の培養液に接種し、溶藻せしめる。以上の操作をもって、本発明のシアノファージのクローニングの完了とみなすことができる。
【0031】
シアノファージのクローニングが完了したミクロキスティス属の藻類の培養液、すなわちシアノファージ懸濁液を孔径0.8μmのフィルターで濾過することにより細胞残さを除去した後、濾液を上記の要領で段階希釈法によって処理して得られた各希釈段階における死滅ウェル数から、統計的計算により濾液中に存在したシアノファージの感染性粒子密度を推定することができる。具体的には、各希釈段階で溶藻が起こったウェル数から西原らの計算ソフトを用いて最確数を算出することが可能である(西原力, 蔵野憲秀, 篠田純男. マイクロコンピュータによる最確数の計算. 衛生化学32(3): 226-228(1986))。また、同濾液をDAPI (4'-6-diaminido-2-phenylindole)、SYBR Green I等の核酸染色剤で染色後、蛍光顕微鏡下で直接観察により計数、またはフローサイトメータにより計数することで濾液中に存在するシアノファージの粒子密度を算定することができる。蛍光顕微鏡としてはOLYMPUS社 BX50などを、フローサイトメータとしてはBeckman Coulter社EPICS XLなどをそれぞれ例示することができる。
【0032】
本発明のシアノファージをアオコ発生水域に散布することにより、アオコを防除することができる。アオコの防除にあたっては、本発明のシアノファージの培養液、同濾液、またはその遠心上清をそのまま使用してもよいが、本発明のシアノファージを活性成分として含む製剤を調製してこれを使用してもよい。本発明のアオコ防除方法およびアオコ防除剤は、自然環境中にすでに存在している宿主特異性の高いシアノファージを利用するので、生態系への負荷が小さな環境修復技術として、その安全性に高い期待が寄せられる。また、本発明のアオコ防除剤は、他の通常の薬剤と異なり、シアノファージ自体に(宿主細胞への感染を介した)自己複製能が備わっているため、少量の投入で広範囲へのアオコ制御効果が期待できる。また、シアノファージを固定化剤に包埋したものを筏、ブイ、船舶係留施設および/または船舶に吊す、あるいは固定する、または底泥中に設置し、シアノファージを継続的に環境中に放出させる方法も推奨される。この方法は、シアノファージの希釈拡散を抑え、アオコ防除の対象となる水域に長期間にわたり高いシアノファージ密度を維持させる上で有効であると考えられる。固定化剤としては、合成高分子ゲル、合成樹脂プレポリマー、天然多糖類、中空糸膜、シリコンポリマー、活性炭、マイクロカプセル、各種増粘剤、滅菌済みの湖底泥等を利用することができる。
【0033】
次に、本発明のシアノファージを継代培養する方法について説明する。
本発明のシアノファージに感染して、溶藻が確認されたミクロキスティス属の藻類の培養液を孔径0.8μmのフィルターで濾過することにより細胞残さを除去し、得られた濾液を対数増殖中のミクロキスティス属の藻類の培養液に接種して培養を行う。培養液中の細胞密度を光学顕微鏡、蛍光顕微鏡(G励起)下で経日的にモニターする方法、あるいはクロロフィル測定装置を用いることにより、その後の藻体の増殖を評価することができる。クロロフィル測定装置としては米国ターナーデザイン社製10-AU-CEなどを例示することができる。これにより、上記の方法で継代培養したシアノファージが、ミクロキスティス属の藻類に対する感染性を保持していることが確認できる。
【0034】
本発明のシアノファージ接種後、溶藻が確認された宿主培養液は、孔径0.8μmのフィルターで濾過後、密封保冷することで、大幅な力価の低下を伴うことなく保存することが可能である。シアノファージ懸濁液をそのまま、あるいはジメチルスルホオキシド(終濃度5〜20%)等の凍結保護剤を添加・混合後に-80〜-196℃で凍結保存するとよい。懸濁液の状態で保存する場合には、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージ懸濁液を4℃暗所に保存するとよい。-20℃以上の温度域での保存の場合、力価の減少がみられる場合があるため、長期保存には-80℃以下の超低温条件下での保存が推奨される。
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
〔実施例1〕
材料および方法
供試プランクトンの培養条件
シアノファージの分離には、茨城県霞ヶ浦から分離されたミクロキスティス・エルギノーサ NIES-298株(環境研究所保存株)を用いた。同株の培養にはCB培地を用い、培養は温度30℃、光強度100 μmol photons m-2 s-1、12時間明:12時間暗の明暗周期条件下で行った。
【0037】
シアノファージの分離
殺藻因子の分離に供した試水は、2003年8月24日に京都府広沢池ならびに2003年8月25日に福井県三方湖で採取した。試水を孔径0.2μmのフィルターで濾過し、(1) 液体培養法(96ウェルプレートで宿主と濾液を1ウェルあたり100μlずつ混合する方法)、(2) プラークアッセイ(濾液1mlを対数増殖期中期の宿主ミクロキスティス・エルギノーサNIES-298株の培養液1mlと混合し、30分間反応させ、37℃でインキュベートしたCB培地2.5ml(0.72% L. M. P. agaroseを含む)と混合し、その混合液を、あらかじめシャーレに流し込み固めておいたCB培地20ml(0.4% L. M. P. agaroseを含む)上に流し込み固化、その後シャーレを裏返しにして12時間明:12時間暗、30℃、光強度100μmol photons m-2 s-1で2週間培養する方法)、(3) 集積培養法(宿主培養液50mlとろ過試水25mlを混合して2週間培養した後に(2)に示した方法でプラークアッセイを行なう方法)、の3種類の方法を用いてミクロキスティス・エルギノーサNIES-298株を宿主とするシアノファージの探索を行なった。また、対照として滅菌済みのCB培地を同様にそれぞれ接種した実験区を設け、上述の条件下で培養を行った。宿主培養の状態を肉眼、光学顕微鏡、または蛍光顕微鏡観察により実験区(濾液接種区)と対照区(CB培地接種区)の間で比較し、実験区における溶藻の有無を確認した。
【0038】
殺藻因子をクローニングすることを目的とし、以下のように限界希釈法を2回繰り返し行った。上述の培養で溶藻が確認された培養液、または宿主固相培養上に生じたプラークを採取して得たシアノファージを対数増殖中のミクロキスティス・エルギノーサNIES-298株の培養液に接種して得たシアノファージ懸濁液をそれぞれ孔径0.2μmのフィルターで濾過後、CB培地で100〜10-10倍に段階希釈した。その後、各希釈液100μlを対数増殖中のミクロキスティス・エルギノーサNIES-298株の培養液150μlに接種した。実験には96穴マイクロプレートを使用し、各希釈段階につき8本立てで接種を行った。また、CB培地のみを接種したものを対照実験区として設けた。これらを上述の条件下で14日間培養した。溶藻が見られたウェルのうち、最も高い希釈段階で接種を行ったウェル中の溶藻培養液を採取し、再度上述の段階希釈法による処理を試みた。2回目の処理で溶藻が見られたウェルのうち、最高希釈段階の溶藻培養液200μlを採取し、孔径0.2μmのフィルターで濾過後、その濾液を対数増殖中のミクロキスティス・エルギノーサNIES-298株の培養液1mlに接種し、溶藻せしめた。以上の操作をもって、殺藻因子のクローニングが完了したものとみなした。また、得られた殺藻因子懸濁液をDAPI(4'-6-diaminido-2-phenylindole)で染色後、蛍光顕微鏡下で観察し、混在する細菌(コンタミネーション)の有無を確認するとともに、対数増殖期のミクロキスティス・エルギノーサNIES-298株培養25mlに対して感染多重度(接種されたシアノファージ数の宿主細胞数に対する割合、すなわち1宿主細胞あたり何個のシアノファージが接種されたかを示す数値)が0.01以下となるよう接種し、CB培地を接種した対照区と比較することで殺藻性の確認を行った。
【0039】
さらに、得られたファージ懸濁液について、DAPI (4'-6-diaminido-2-phenylindole)染色による直接計数値と、プラークアッセイおよび限界希釈法(MPN法)による力価の測定・比較を行った。これにより、生産された粒子のうちで感染力を持つ粒子が占める割合を推定した。
【0040】
シアノファージの保存
シアノファージ接種後、溶藻が確認された宿主培養液を孔径0.8μmのフィルターで濾過後、それぞれ0.5mlを、凍結保護剤無添加、グリセロール添加(終濃度10%)、DMSO添加(ジメチルスルホオキシド:終濃度10%)、またはセルバンカー2添加(日本全薬工業(株)製:終濃度50%)の各条件下で、-196℃および-80℃にそれぞれ14日間保存した。また、凍結保護剤無添加試料については-20℃および4℃で同様の保存を行った。その後、実験開始時のシアノファージ懸濁液の力価を保存開始後7日目および14日目の力価と比較した。力価の測定は、上述の段階希釈法により得られた結果、すなわち各希釈段階で溶藻が起こったウェル数から西原らの計算ソフト(西原力, 蔵野憲秀, 篠田純男. マイクロコンピュータによる最確数の計算. 衛生化学32(3): 226-228(1986))を用いて最確数を算出する方法により行った。
【0041】
透過型電子顕微鏡による微視的観察
得られたシアノファージによる溶藻培養液を感染多重度が0.001〜1となるよう対数増殖中のミクロキスティス株の培養液に接種した。接種前に採取したサンプルおよび接種後に経時的に採取したサンプルについて、常法により固定包埋処理後、JEOL社製JEM-1010透過型電子顕微鏡による観察を行った。また、溶藻培養液中のシアノファージの形態観察をネガティブ染色法により行った。
【0042】
接種実験(1)
上述のシアノファージを感染多重度が10-1〜10-9になるよう対数増殖中のミクロキスティス株培養液に接種後、上述の培養条件下で6日間培養し、宿主細胞密度の変化を直接計数法により追跡した。対照区として、0.2μmで濾過したシアノファージ懸濁液をオートクレーブ処理(121℃ x 15分)したものを接種した実験区を設けた。
【0043】
接種実験(2)
一段階増殖実験により該シアノファージの増殖特性を測定した。具体的には、該シアノファージを感染多重度が1以上になるよう対数増殖中のミクロキスティス株培養液に接種後、宿主細胞密度の変化ならびに培養液中のシアノファージ力価およびシアノファージ粒子密度の変化を経時的に測定した。力価については上述の方法で最確数を算出することにより、また粒子密度はSYBR Green Iによる染色を施した試料を直接蛍光顕微鏡下で観察し被染色粒子数を計数する方法によりそれぞれ測定した。得られた結果から、該シアノファージの潜伏時間およびバーストサイズ(1感染細胞から放出される感染性を持った娘シアノファージ粒子数)を算出した。
また、感染の継続性について検討するため、溶藻培養液を孔径0.8μmのフィルターで濾過して得られた濾液50μlを対数増殖中の(シアノファージに感染していない)ミクロキスティス株培養液1 mlに接種するという操作を3回以上繰り返し行った。また、対照として滅菌済みCB培地を接種した実験区を設け、ともに上述の条件下で培養を行い、増殖を比較した。
【0044】
宿主特異性の検討
表1に示した対数増殖中の各藻体株培養液800μlに対して、上述の溶藻培養液を孔径0.8μmのフィルターで濾過して得られた濾液40μlをそれぞれ接種し、上述の条件下で培養を行った。また、対照としてそれぞれの宿主培養に適した培地(無菌化済みのもの)を接種した実験区を設けた。実験は各実験区につき2本立てで行い、経日的に光学顕微鏡により各株培養の細胞の状態を観察し、その後の藻体の増殖を評価した。接種14日後までに溶藻が確認されなかったものについては、該シアノファージの宿主ではないものと判定した。
【0045】
シアノファージの濃縮・精製およびシアノファージの核酸・タンパク質の分析
対数増殖中のミクロキスティス株培養液に該シアノファージを接種して溶藻液、すなわち該シアノファージ懸濁液を得た。これを孔径0.8μmのフィルターで濾過して得られた濾液に、終濃度10%となるようポリエチレングリコールを添加し、4℃に一夜放置後、7,000 x gで40分間遠心分離した。得られたシアノファージのペレットをSMバッファー(50mM Tris-HCl, 100mM NaCl, 10mM MgSO4・7H2O, 0.01% ゼラチン, pH 7.5)に懸濁後、塩化セシウムステップ密度勾配遠心法によりさらに精製した。具体的には、1.45〜1.70g/mlの塩化セシウムステップ密度勾配中において111,000 x gで1時間遠心分離を行い、白濁バンドとして得られたシアノファージ濃縮画分を抜き取った。このシアノファージ濃縮画分をTEバッファー(10 mM Tris-HCl (pH 8.0), 1 mM EDTA)で透析することにより、精製されたシアノファージ懸濁液を得た。
得られた精製シアノファージ懸濁液に、プロテイナーゼKを終濃度1mg/ml、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)を終濃度0.5%、EDTAを終濃度20mMとなるようにそれぞれ添加し、55℃で1.5時間処理した。処理後、フェノール-クロロホルム抽出により核酸を抽出し、透析終了後、パルスフィールドゲル電気泳動に供した。また、得られた核酸溶液に、各種制限酵素(SpeI, XhoI, XbaI, BamHI, EcoRI, EcoRV, HincII, HindIII, NotI, PstI, SacI, SalI, ScaI, SmaI)をそれぞれ添加し、30℃で16時間(SmaIのみ)または37℃で16時間(SmaI以外の制限酵素)処理した。得られた各反応産物を、アガロースゲル上で泳動し、実験に用いた各制限酵素に対する該シアノファージゲノムの感受性を確認した。
さらに該シアノファージの構造タンパク質を以下の方法で調べた。上記の精製シアノファージ懸濁液に4倍量のサンプル・バッファー(62.5 mM Tris-HCl, 5% 2-メルカプトエタノール, 2 % SDS, 25 % グリセロール, 0.01 % ブロモフェノルブルー)を添加後、100℃で5分間処理した。得られたタンパク質溶液を、15% SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、クマシーブリリアントブルー溶液への浸析または銀染色法による染色後、該シアノファージの主要構造タンパク質のサイズ推定を行った。
【0046】
シアノファージゲノムの全塩基配列
上述の精製シアノファージ懸濁液よりDNAを精製し、Hydroshear (genemachines社)を用いて1〜6kbに剪断後、さらに2〜4kbサイズの断片画分をアガロースゲル電気泳動法およびゲル抽出法により精製した。得られた断片をpUC118/Hinc II vectorへ挿入後、エレクトロポレーションにより大腸菌(Invitrogen社製ElectroMAX DH10B compitent cell)細胞内へ導入し、プレーティングして抗生物質耐性による選択を行った。生じたコロニーから、プラスミドDNAを調製後、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitを用いて塩基配列解読を行い、得られた配列のアセンブル作業を行った。冗長度が低い部分については周辺配列に基づくプライマーセットの作製、PCRによる該当領域の増幅およびシーケンシングを行い、該ウイルスのゲノムマップの全塩基配列を決定した。この塩基配列に基づき、該シアノファージゲノム上にコードされている遺伝情報の推定をBLAST等のデータベースを用いて行った。
【0047】
結果および考察
シアノファージの分離
シアノファージ分離実験の結果、ミクロキスティス・エルギノーサNIES-298株は、各試水の0.2μm以下の画分を接種することにより、細胞の色素が失われ、死滅に至った。一方、滅菌済みCB培地を接種した実験区では、藻体の死滅は観察されず、増殖の順調な継続が確認された。得られた溶藻試料をクローニングすることで、これまでに表2に示すシアノファージのクローン株が分離された。これらのシアノファージ株は蛍光顕微鏡観察の結果、無菌状態にあることが確認されており、本発明者らにより安定に保持されている。また、研究目的での分譲が可能な状態にある。さらに、表2に示すシアノファージのクローン株のうちCyanophage Ma-LMM01株は、平成17年1月25日付けで独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されている(受託番号:NITE BP-71)。Cyanophage Ma-LMM01株は、図1に示すとおり、ミクロキスティス・エルギノーサNIES-298株の培養を速やかに溶藻せしめる強力な殺藻力を有する。
得られた該シアノファージ懸濁液の直接計数値および力価を比較した結果、頭部にDNAを持つ粒子のうち7.5%以下が感染性を持つことが明らかとなった。一般のミオウイルス科のファージの場合、鞘の収縮していない粒子のみが感染力を持つことが知られており、該シアノファージ粒子についても一部の鞘が収縮していないファージ粒子のみが感染性をしめしたものと考えられる。したがって、本ファージの利用に当たっては、収縮した鞘を持たない粒子の割合をできるだけ多くして用いることで、効率的なアオコ防除への適用が可能になるものと考えられる。
以下に、Cyanophage Ma-LMM01株に関する性状解析の結果を述べる。
【0048】
シアノファージの安定性
保存実験に供したシアノファージCyanophage Ma-LMM01懸濁液および各条件下に置いた該シアノファージ懸濁液の0日目、7日目、および14日目の力価を比較した結果、凍結保護剤添加の有無にかかわらず-80℃または-196℃(液体窒素中)での凍結条件下では該シアノファージの力価はほとんど低下しないことが判明した。-20℃の条件下で凍結保護剤無添加のシアノファージ懸濁液を凍結保存した場合には、顕著な力価の減少がみられた。また、4℃での冷暗所保存では、緩やかな力価の低下がみられた(図2)。以上の結果から、凍結保護剤添加の有無にかかわらず-80℃以下の超低温条件下において該シアノファージ懸濁液を安定な状態で保存することが可能であることが明らかとなった。
【0049】
透過型電子顕微鏡による微視的観察結果
透過型電子顕微鏡による細胞切片およびシアノファージCyanophage Ma-LMM01粒子の観察結果を図3に示した。該シアノファージの接種区では、接種から6-12時間目には一部の細胞の崩壊が確認された。透過型電子顕微鏡による観察の結果、殺藻因子接種から52時間後の宿主細胞内では該シアノファージ様の頭部粒子が多数検出された(図3B,C)。これに対して、対照実験として滅菌済みCB培地を接種した実験区では藻体細胞は活発な増殖を継続し、透過型電子顕微鏡による細胞切片観察の結果、健常な細胞内構造が観察された(図3A)。
溶藻培養液をネガティブ染色法により観察した結果、ミオウイルス科の形態学的特徴を示すファージ粒子が多数観察された。(図3D−F)。粒子は頭部および尾部構造を有し、外膜構造を欠き、頭部は直径約60〜120nm(平均86nm)の正二十面体、尾部構造のうちコア部分は約140〜350nm(平均長209nm)、鞘は約60〜260nm(平均長142nm)であった。このように鞘には収縮性あるものと推察された。また尾部の先端に球形の構造体を持つ粒子も希に観察された。この球形構造体は、シアノファージそのものの部品ではなく、宿主細胞由来の膜構造体であると考えられる(図3F)。
【0050】
接種実験(1)結果
異なる感染多重度で該シアノファージを接種した場合のミクロキスティス・エルギノーサ NIES-298株対数増殖期培養の細胞密度の推移を図4に示した。その結果、感染多重度が高い場合には溶藻に至るまでの日数が約4日、感染多重度がさらに低い場合には溶藻までに6日を要した。これらの結果は、該シアノファージに感染したミクロキスティス・エルギノーサ細胞内で形成された娘ファージ粒子が、宿主細胞の崩壊に伴い環境中(この場合は培養液中)に放出され、新たな(すなわち未感染の)ミクロキスティス・エルギノーサ細胞の感染・死滅を誘発していることを示している。熱処理した該シアノファージを接種した対照区では溶藻はみられなかった。
【0051】
接種実験(2)結果
該シアノファージ接種後6〜12時間目にかけて、シアノファージ力価の急増が観察されたことから、感染から宿主崩壊に伴う娘ファージ粒子の放出までに要する時間、すなわち潜伏時間は約6〜12時間と判断された。同時間帯における宿主細胞密度の減少と、力価の上昇度より、1宿主細胞から崩壊時に放出される感染性を持つ娘シアノファージ粒子数は50〜170と算出された。この結果は3回の試験結果に基づくものである。実験データの一例を表3に示した。
該シアノファージの最大収量は、直接計数の結果、約3x109粒子/mlであった。また、連続した植え継ぎ実験の結果、該シアノファージは対数増殖中のミクロキスティス・エルギノーサ細胞を速やかにかつ繰り返し溶藻せしめることが確認された。これらの結果およびSuttle, C. A. Cyanophages and their role in the ecology of cyanobacteria. In: Whitton, B. A., Potts, M. (eds.), The Ecology of Cyanobacteria: Their Diversity in Time and Space. Kluwer Academic Publishers, Boston, pp. 563-589 (2000).(非特許文献3)の提案したシアノファージ命名法に基づき、該シアノファージ株を「Cyanophage Ma-LMM01(Microcystis aeruginosa (Ma)を宿主とする三方湖(Lake Mikata)由来のMyovirus科のシアノファージ(Cyanophage)、株番号01の意)」と命名した。Cyanophage Ma-LMM01株の性状解析結果を引き続き解説する。
【0052】
宿主特異性
Cyanophage Ma-LMM01株は、表1に示した18株の淡水産藍藻株および真核性微細藻類株のうち、標的種であるミクロキスティス・エルギノーサ NIES-298株を除くすべての藻類株に対して殺藻性を示さなかった。この実験結果から、該シアノファージがミクロキスティス・エルギノーサに対して高度に特異的な感染性を有するシアノファージであることが明らかとなった。
【0053】
精製シアノファージ粒子のゲノムおよびタンパク質
塩化セシウムステップ密度勾配遠心法によりCyanophage Ma-LMM01粒子を1本の白濁バンドとして精製することができた(図5)。
Cyanophage Ma-LMM01株より抽出された核酸は鎖長約162kbpの直鎖2本鎖DNAであり(図6A)、実験に用いた各種制限酵素(BamHI, EcoRI, EcoRV, HincII, HindIII, NotI, PstI, SacI, SalI, ScaI, SmaI, SpeI, XhoI, XbaI)に対して感受性であった(図6B)。ショットガンクローニングにより得られた断片配列をアセンブルすることで、環状のゲノムマップが得られた。この環状2本鎖DNAゲノムマップの全長は162109bpであり、その上には多種多様な遺伝子がコードされていることが確認された(図7)。Cyanophage Ma-LMM01株ゲノムの塩基配列を配列表の配列番号1に示した。ゲノムマップは環状であり、この配列に従って複製された鎖長約162kbpの直鎖2本鎖DNAゲノムがファージ粒子中に収納されていると考えられる。全ゲノム塩基配列または複数の遺伝子の塩基配列の相同性が90%以上、好ましくは97%以上のものは、同種のウイルスであると考えられる。配列の同一性は、ClustalW等のアラインメント用ソフト(Tompson, J. D., D. G. Higgins, and T. J. Gibson, Improved sensitivity of profile searches through the use of sequence weights and gap excision. Comput. Appilc. Biosci. 10:19-29 (1994).)を使用することにより算出することができる。この塩基配列に関するデータベース解析の結果、本ゲノムにコードされていると予測されたタンパク質の一部を表4に示した。
また、Cyanophage Ma-LMM01株は少なくとも4種の主要構造タンパク質(84±5kDa, 47±5kDa, 38±5kDa, 26±5kDa)をもつことがSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により示された(図8)。
【0054】
このように、本発明者らは、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを分離することに成功した。シアノファージは宿主藍藻に感染することで爆発的に増殖する能力を有することから、小規模の現場投与かつ低コストでのアオコ発生予防およびアオコ駆除に多大な効果が期待できること、該シアノファージは天然湖水から分離されたものであること、ならびに該シアノファージはミクロキスティス属の藍藻に特異的に感染し殺藻することを考慮すると、該シアノファージの散布はミクロキスティス属の藍藻によるアオコの防除法として有効であることが期待される。また、該シアノファージには高い保存性が備わっている上、きわめて小型であることから、固定化剤に包埋したものをアオコ頻発水域において筏、ブイ、船舶係留施設及び/又は船舶に吊す、または固定する、あるいは同水域の底泥中に設置し、シアノファージを継続的に環境中に放出させることからなるアオコの発生予防および駆除方法を提供する上で有利な要件を備えているといえる。
【0055】
(表1)

【0056】
(表2)

【0057】
(表3)

【0058】
(表4)

【0059】
(表5)
表4(続き)

【0060】
(表6)
表4(続き)

【0061】
(表7)
表4(続き)

【0062】
(表8)
表4(続き)

【0063】
(表9)
表4(続き)

なお、上記のシアノファージクローンは、独立行政法人 水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所(所長:秋山敏男) 赤潮環境部 赤潮制御研究室および福井県立大学生物資源学部海洋生物資源学科海洋生態代謝学研究室に保管されており、特許法施行規則第27条の3の規定に準じて分譲を行う用意がある。また、上記のうちCyanophage Ma-LMM01株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターにおいても保存されており(受託番号NITE BP-71)、同センターの規定に準じて分譲を行う用意がある。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によりシアノファージを利用したアオコ防除が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】アオコ原因有毒藍藻ミクロキスティス・エルギノーサNIES-298株の培養。フラスコ左はCB培地接種区(対照区)、右はCyanophage Ma-LMM01を感染多重度0.01以下で接種した実験区。Cyanophage Ma-LMM01接種後3日目には宿主培養の色調がやや薄く変化し、7日目にはシアノファージ接種区でほぼ完全な宿主の溶藻が確認された。
【図2】各保存条件下におけるCyanophage Ma-LMM01懸濁液の力価の変化を示すグラフ。グラフのY軸は添加した凍結保護剤の種類と保存温度を示す。未処理は凍結保護剤無添加区を示す。保存前の力価と比較して、セルバンカー2添加区、DMSO添加区、グリセロール添加区、未処理区の-80℃および-196℃保存区では力価の低下がほとんどみられなかった。また、凍結保護剤を添加せず-20℃に保存した実験区では顕著な力価の低下が、また4℃に置いた実験区では緩やかな力価の低下がそれぞれみられた。
【図3】A:アオコ原因有毒藍藻ミクロキスティス・エルギノーサNIES-298株の健常細胞の断面像,B:Cyanophage Ma-LMM01接種後52時間目の細胞の断面像(シアノファージ粒子頭部の形成がみられる),C:宿主細胞内で増殖するCyanophage Ma-LMM01粒子頭部の拡大像,D:Cyanophage Ma-LMM01の陰性染色写真(鞘が伸びた状態),E:Cyanophage Ma-LMM01の陰性染色写真(鞘の収縮した状態),F:Cyanophage Ma-LMM01の陰性染色写真(尾部先端部に球状構造体を持つ粒子)。D, E, Fの画像から、該シアノファージは0.2μmフィルターの孔を通過可能と推察される。
【図4】Cyanophage Ma-LMM01を、感染多重度(MOI)が10-1〜10-9になるように対数増殖中のミクロキスティス株培養液に接種後、6日間培養した際の宿主細胞密度の変化を示すグラフ。対照区として、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過したシアノファージ懸濁液をオートクレーブ処理(121℃ x 15分)したものを接種した実験区を設けた(コントロール)。
【図5】塩化セシウムステップ密度勾配遠心法により精製されたCyanophage Ma-LMM01のバンド(矢印:密度約1.5 g/ml)。同画分の陰性染色観察ならびに感染性試験の結果から、同画分が精製されたCyanophage Ma-LMM01粒子を含むものと判断した。より高密度な画分により幅広の白濁バンドがみられたが、陰性染色の結果および感染性試験の結果より、この画分に含まれるのはCyanophage Ma-LMM01ではなく、宿主細胞に由来する粒子であると推察された。
【図6】A:精製済みCyanophage Ma-LMM01粒子より抽出した核酸のパルスフィールドゲル電気泳動像(右レーン:Phage),左レーンは分子量マーカー(M)。B:各種制限酵素による処理後のCyanophage Ma-LMM01ゲノムの泳動像。各レーンの表示は、使用した制限酵素の種類または分子量マーカーの種類を示す(1, 1kbラダーマーカー; 2, BamHI;3, EcoRI; 4, EcoRV; 5, HincII; 6, HindIII; 7, NotI; 8, PstI; 9, SacI; 10, SalI;11, ScaI; 12, SmaI; 13-14, λ/HindIII; 15, SpeI; 16, XhoI; 17, XbaI; 18, 1kbラダーマーカー)。パルスフィールドゲル上で単一バンドを呈すること、ならびに各種制限酵素に対して感受性であることから、Cyanophage Ma-LMM01ゲノムは鎖長約162kbpの直鎖状2本鎖DNAであると判断された。
【図7】Cyanophage Ma-LMM01のゲノムマップ模式図。矢印は予想される遺伝子の位置と長さを示す。全長は162109bpである。
【図8】精製済みCyanophage Ma-LMM01粒子のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動像。クマシー染色で検出可能な4本の主要構造タンパク質(ゲル写真右に分子量を表示)以外にも、銀染色ではさらに数本のマイナーなバンドが確認された。
【配列表フリーテキスト】
【0066】
<配列番号1>
配列番号1は、Cyanophage Ma-LMM01株ゲノムマップ全体の塩基配列を示す。なお、本マップは多数のファージゲノム(直鎖2本鎖DNA)の配列をアセンブルした結果であり、全体としては環状となるため、配列番号1に示す配列の5’末端(塩基番号1)と3’末端(塩基番号162109)は連結している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージ。
【請求項2】
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻がミクロキスティス・エルギノーサである請求項1記載のシアノファージ。
【請求項3】
ミオウイルス科に属する請求項2記載のシアノファージ。
【請求項4】
シアノファージ(Cyanophage)Ma-LMM01株(NITE BP-71)、Ma-LMM02株、Ma-LMM03株又はMa-LMM05株のいずれかである請求項3記載のシアノファージ。
【請求項5】
ゲノムの塩基配列が配列番号1の塩基配列と同一であるか、あるいは少なくとも1つの遺伝子の塩基配列が配列番号1の塩基配列中の対応する遺伝子の塩基配列と90%以上の相同性を有する請求項1〜4のいずれかに記載のシアノファージ。
【請求項6】
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを含有する液体試料をフィルターで濾過し、得られた濾液をミクロキスティス属のアオコ原因藍藻の培養液に接種して培養を行い、溶藻が観察された培養液を限界希釈することにより前記シアノファージをクローニングする工程を含む、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージの単離方法。
【請求項7】
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージに感染して、溶藻が確認されたミクロキスティス属のアオコ原因藍藻の培養液を遠心処理または濾過し、得られた上清または濾液をミクロキスティス属のアオコ原因藍藻の培養液に接種して培養を行う操作を少なくとも1回繰り返す工程を含む、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを継代培養する方法。
【請求項8】
培養を、曝気条件下または非曝気条件下において、温度15〜32℃、光強度50〜150μmol photons m-2 s-1の明暗周期を与えた条件下で行う請求項7記載の方法。
【請求項9】
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージの懸濁液をフィルターで濾過した後、ポリエチレングリコールを添加し、2〜10℃の温度で放置し、遠心分離により濃縮することで得られたシアノファージの懸濁液を塩化セシウムステップ密度勾配中において111,000 x g以上の遠心加速度で1〜2時間超遠心分離して精製することによる、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージの濃縮・精製方法。
【請求項10】
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージの懸濁液を-196℃〜-80℃に保存することを含む、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを保存する方法。
【請求項11】
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを有効成分として含むアオコ防除剤。
【請求項12】
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを水域に散布することを含むアオコ防除方法。
【請求項13】
ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを固定化剤に包埋して、耐水性のネットまたは容器に入れて水域内で筏、ブイ、船舶係留施設及び/又は船舶に吊す、または固定する、あるいは底泥中に埋設することにより、ミクロキスティス属のアオコ原因藍藻に特異的に感染して増殖しうる、全長0.01μm〜0.4μmのシアノファージを水域に散布する請求項12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−254904(P2006−254904A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37263(P2006−37263)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【出願人】(000127879)株式会社エス・ディー・エス バイオテック (23)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【Fターム(参考)】