説明

ミクロ多孔質金属フルオライド

【課題】 シャープな多孔分布と高表面積を有するミクロ多孔質金属フルオライドの製造方法を提供する。
【解決手段】 (i)金属塩とアミド化合物を含有する水溶液を加熱して、該金属の水酸化物を沈殿として形成する工程、
(ii)該金属水酸化物を焼成する工程、
(iii)該焼成物をフッ素化する工程、
からなることを特徴とするシャープな多孔分布と高表面積を有するミクロ多孔質金属フルオライドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャープな多孔分布と高表面積を有するミクロ多孔質金属フルオライド及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質物質は、触媒や分子分離、選択反応等の分野において広く利用されている(Yun Feng Lu et al,Nature/vol.389/25,Sept.1997)。しかし、前記分野において用いられている大部分の多孔質物質は、シリケートや金属酸化物から構成されるものである。これらのものは、腐触環境下や高温度下、例えば、HCl、HF、F2等の存在下では、安定性の良好なものではない。
多孔質物質中のシリカや金属酸化物は、前記腐触性の媒体と反応するため、その物質構造が破壊されてしまう。
【0003】
近年においては、高表面積を有する多孔質金属フルオライドについて広く研究がなされている(J.Am.Chem.Soc.2001,123,5364)。Stacy等は、窒素トリフルオライドを用いるプラズマ下でのゼオライトのフッ素化により、高表面積のAlF3に変換する新しい方法を報告している(J.Am.Chem.Soc.2001,123,5364)。Kemnitz等は、有機中間体とHFとの反応により、約206m/gの表面積を有する非晶質の金属フルオライドを得る非水溶液系合成ルートを見出している(Angew.Chem.Int.Ed.2003,42,4251)。
【0004】
我々は、多孔質金属フルオライドの製造方法を提案した。この方法では、無機ケイ素化合物をその前躯体(プレカーサ)に導入し、次いで無機化合物を、AHFと反応させて揮発性ガス(SiF)を生成させる事によって除去し、これによって多孔質で表面積が拡大された製品を形成する方法である。この場合に得られる多孔質製品(多孔質クロムフルオライド)は、187m/gの表面積を有する(PCT/JP2004/010455)。
【0005】
前記した方法で得られる物質の細孔の大部分は、20Åより大きいものであり、20Å〜300Åの高範囲に分布している。腐蝕性媒体(例えば、HCLやHF等)の存在下で分子膜物質を製造するには、その材料として、2Å〜20Åの細孔を有し、且つ分子サイズ(4Å及び5Å)様のシャープな多孔分布を有する多孔質金属フルオライドを製造することが必要である。
【0006】
HCl、HF、F等が存在する反応器に用いられる膜を製造することを目的として、分子級サイズの細孔とシャープな多孔分布を有する、新しいタイプのミクロサイズ金属フルオライドの製造に関する研究が活発に行われてきた。多孔質金属フルオライドの場合、分子サイズの多孔(細孔)直径は、HF、HCl等の分離にとって有利であり、また高表面積触媒活性にとって有利である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、シャープな多孔分布と高表面積を有するミクロ多孔質金属フルオライド及びその製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す発明が提供される。
(1)(i)金属塩とアミド化合物を含有する水溶液を加熱して、該金属の水酸化物を沈殿として形成する工程、
(ii)該金属水酸化物を焼成する工程、
(iii)該焼成物をフッ素化する工程、
からなることを特徴とするシャープな多孔分布と高表面積を有するミクロ多孔質金属フルオライドの製造方法。
(2)(i)金属塩とアミド化合物と無機ケイ素化合物を含有する水溶液を加熱して、該金属の水酸化物を沈殿として形成する工程、
(ii)該金属水酸化物を焼成する工程、
(iii)該焼成物をフッ素化する工程、
からなることを特徴とするシャープな多孔分布と高表面積を有するミクロ多孔質金属フルオライドの製造方法。
(3)(i)金属塩とアミド化合物を含有する水溶液を加熱して、該金属の水酸化物を沈殿として形成する工程、
(ii)該金属水酸化物を焼成する工程からなることを特徴とするシャープな多孔分布と高表面積を有するミクロ多孔質金属酸化物の製造方法。
(4)(i)金属塩とアミド化合物と無機ケイ素化合物を含有する水溶液を加熱して、該金属の水酸化物を沈殿として形成する工程、
(ii)該金属水酸化物を焼成する工程からなることを特徴とするシャープな多孔分布と高表面積を有するミクロ多孔質金属酸化物の製造方法。
(5)該アミド化合物が尿素である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)該無機ケイ素化合物がメタケイ酸ナトリウムである前記(2)、(3)又は(5)に記載の方法。
(7)シャープな多孔分布と高表面積を有するミクロ多孔質金属フルオライドであって、1Å〜50Åの細孔直径分布を有し、5Å〜20Åの平均細孔直径を有し、1m/g〜120m/gの表面積を有することを特徴とするミクロ多孔質金属フルオライド。
(8)ハロゲン化炭化水素を触媒の存在下でフッ化水素でフッ素化するに際し、該触媒として前記(7)に記載のミクロ多孔質金属フルオライドを用いることを特徴とするハロゲン化炭化水素のフッ素化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シャープな多孔(細孔直径)分布と高表面を有するミクロ多孔質金属フルオライドを容易に製造することができる。
本発明の方法によって得られるミクロ多孔質フルオライドは、HFやHCl等の腐蝕性ガスの分離膜素材や、HFやHCl等の腐蝕性ガス環境下で用いられる触媒素材等として有利に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明によるミクロ多孔質金属フルオライド(MPMF)の製造方法においては、金属塩とアミド化合物を含む水溶液又は金属塩とアミド化合物と無機ケイ素化合物を含む水溶液を作る。これらの水溶液において、金属塩の濃度は、0.1〜10wt%、好ましくは0.5〜3wt%である。アミド化合物の濃度は、0.1〜10wt%、好ましくは1〜5wt%である。金属塩とアミド化合物の割合は、以下の式を満足するような割合にするのがよい。
(R×m)/(R×n)=10〜0.5 (1)
好ましくは5〜1
前記式において、Rは溶液中に含まれる全アミド化合物のモル数、mは1モルのアミド化合物に含まれるアミド基のモル数を示し、Rは溶液中に含まれる金属塩の全モル数、nは1モルの金属塩に含まれる陰イオンのモル数を示す。
【0011】
無機ケイ素化合物(ケイ素原子含有化合物)を用いる場合、その濃度は、0.5〜10wt%、好ましくは1〜5wt%である。無機ケイ素化合物と金属塩との割合は、次式を満足させるような割合にするのがよい。
(R×p)/(R×q)=0.5〜30 (2)
好ましくは1〜10
前記式において、Rは溶液中に含まれる全無機ケイ素化合物のモル数、pは1モルの無機ケイ素化合物に含まれるケイ素のモル数を示し、Rは溶液中に含まれる金属塩の全モル数、qは1モルの金属塩に含まれる金属イオンのモル数を示す。
【0012】
本発明における金属塩は、水溶性のもので、その金属水酸化物が非水溶性を示すものであればよい。このような金属塩には各種のものがあり、その具体例を示すと、例えば、Cr、Mg、Co、Al、Ca、Ni、Ti、Zn、Fe等の金属無機酸塩(ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩等)が挙げられる。
【0013】
本発明におけるアミド化合物は、沈殿剤として作用するもので、アミド基(NHCO−)を含有するものである。このような化合物としては、下記式で表されるものを好ましく用いることができる。
NHCOR (1)
前期式中、Rはアミノ基(NH)、炭化水素基、炭化水素オキシ基、置換アミノ基等の置換基を示す。
前期置換基(R)において、炭化水素基には、アルキル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル等が包含される。その炭素数は1〜12、好ましくは1〜8である。
前記炭化水素オキシ基(RO)において、その炭化水素基(R)としては、前記した炭化水素基(R)が挙げられる。前記置換アミノ基(−NHR)としては、炭素数1〜4のアルキル基を有するものが好ましく用いられる。
【0014】
本発明における無機ケイ素化合物は、ケイ素原子を含有する水溶性又は、非水溶性のもので、塩基化合物と反応してケイ素水酸化物を形成するものである。このような化合物としては、従来公知の各種のものを用いることができる。その具体例としては、例えば、SiO、NaSiO、KSiO、MgSiO、Al(SiO等が挙げられる。これらの無機ケイ素化合物は、塩基化合物(アミド化合物等)と反応して下記式で表されるケイ素水酸化物を形成する。
Si(O)m(OH)n(m≦2, m≦4) (2)
【0015】
本発明の方法を好ましく実施するには、まず、金属塩とアミド化合物を含有する水溶液又は金属塩とアミド化合物と無機ケイ素化合物を含有する水溶液を調製する。この水溶液の調製は、所定成分を水中で均一に攪拌すればよい。
次に、前記水溶液を加熱する。この場合の加熱温度は、アミド化合物が分解してNHを生成する温度であればよい。一般的には、50〜100℃、好ましくは約80℃である。この加熱反応により、金属塩は水不溶性の金属水酸化物となり、無機ケイ素化合物は、水不溶性のケイ素水酸化物となる。即ち、水酸化物の沈殿物が生成される。
【0016】
この沈殿物は、これを溶液から分離し、水洗し、乾燥し、焼成する。焼成温度は300〜600℃、好ましくは400〜500℃であり、焼成雰囲気はN2雰囲気又は大気である。この焼成により金属酸化物が得られるが、このものは、ミクロ多孔質構造を有し、ミクロ多孔質金属フルオライド(MPMF)の前駆体(プレカーサ)となる。
【0017】
次いで、前記金属酸化物をフッ素化して、MPMFとする。このフッ素化は、その金属酸化物にHFスチームを接触させることによって実施される。このHFスチームはNで希彩されていない100%HFであるのが好ましい。HFスチームと該プレカーサとの接触温度は、150〜500℃、好ましくは250〜350℃である。また、接触時間は、0.1〜20時間、好ましくは1〜5時間である。
【0018】
前記プレカーサのフッ素化反応において、該プレカーサがケイ素水酸化物を含む場合、このケイ素水酸化物は揮発性のSiFガスとして除去される。
【0019】
前記のようにして、多孔分布がシャープで表面積が大きいミクロポ−ラス金属フルオライド(MPMF)を得ることができる。この場合、フッ化物表面に残存するAHFは、Nで洗浄除去することができる。
【0020】
本発明により製造されるMPMFの具体例を示すと、例えば、ミクロポーラス構造を有するクロムフルオライド(MPCrF)、コバルトフルオライド(MPCoF)、アルミニウムフルオライド(MPAlF)、カルシウムフルオライド(MPCaF)、マグネシウムフルオライド(MPMgF)、ニッケルフルオライド(MPNiF)、チタンフルオライド(MPTiF)、亜鉛フルオライド(MPZnF)、鉄フルオライド(MPFeF)、等が挙げられる。
【0021】
本発明によれば、シャープな多孔分布と高表面積を有するミクロ多孔質金属フルオライドであって、1Å〜50Å、好ましくは5〜20Åの細孔直径分布を有し、5Å〜50Å、好ましくは8〜12Åの平均細孔直径を有し、1m/g〜120m/g、好ましくは30〜120Åの表面積を有することを特徴とするミクロ多孔質金属フルオライド、及びミクロ多孔質金属酸化物を得ることができる。
その具体例を例示すると、105m/gの表面積を有し、5Å〜15Åのシャープな多孔分布(細孔直径分布)を有し、平均多孔直径(平均細孔直径)が約10ÅのMPCrFを示すことができる。
【0022】
本発明で得られるMPMFは、膜材料や、触媒または触媒材料等として有利に用いられる。その他、吸附材料、電極材料として有利に用いられる。
本発明によるMPMFは、ハロゲン化炭化水素をフッ化水素(HF)で気相においてフッ素化する反応において、その触媒として有利に用いられる。この場合、MPMFは、固定床方式や流動床方式の触媒として用いることができる。この場合、その反応原料としてのハロゲン化炭化水素において、その炭化水素の炭素数は、1〜18、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜6である。そのハロゲンの種類としては、塩素、臭素、ヨウ素、又はフッ素であるが、一般的には、塩素である。反応濃度は、200〜450℃、好ましくは230〜330℃である。ハロゲン化炭化水素に対するHFのモル比は、1〜30、好ましくは3〜10である。
【実施例】
【0023】
次に本発明を実施例により詳述する。
【0024】
実施例1
0.63NaSiO(メタケイ酸ナトリウム)、6.6g尿素(NHCONH)及び40ml脱イオン水の混合物を15.8gの10%CrCl水溶液に加え、はげしく攪拌し、次いで10時間フラックスした。これにより沈殿が生じた。この沈殿物(水酸化物)を濾別し、水で4回洗浄し、120℃で一夜乾燥した。得られた固形物を反応器に入れ、N雰囲気下、400℃で4時間焼成した。この焼成物は、ミクロポーラス構造のクロミアであり、BETとSEM性状評価した。このものは、約222.0m/gの表面積(Ar吸着によるBET表面積、HK法)を有するものであった。5Å〜20Åの細孔割合は90%以上であった。
【0025】
前記で得た焼成物(クロミア)を用い、これに350℃で20時間HFスチームをNで希釈されていないスキーム下で反応させた。その後、得られたクロミアフルオライド上の残存AHFをNで洗浄した。このクロミアフルオライドをBET法で性状評価したところ、105.0m/gの表面積(Ar吸着、HK法)を有するものであった。7Å〜20Åの細孔割合は、90%以上であった。
【0026】
実施例2
184gの13%尿素水溶液を40gの10%MgCl水溶液にはげしく攪拌しながら加えた。次いで10時間フラックスして沈殿物を得た。沈殿物(水酸化物)を濾別後、4回水洗し、120℃で一夜乾燥した。得られた固形物を反応器に入れ、N雰囲気下、400℃で4時間焼成した。得られたミクロ多孔マグネシアをBETで性状評価したところ、このものは、約115.6m/gの表面積(N吸着)を有するものであった。20Å〜40Åの細孔割合は80%以上であった。
次に、このものを原料として用いた以外は同様にしてフッ素化反応を行った。
このようにしてミクロ多孔質マグネシア(MPMgF)を得た。このものの表面積(N吸着)は、38.0m/gであった。また、その20Å〜200Åの細孔割合は80%以上であった。
【0027】
実施例3
実施例1において、CrClの代わりにAlClを用いた以外は同様にして実験を行った。この場合には、ミクロ多孔質構造のアルミナフッ化物(MPAlF)が得られた。
【0028】
実施例4
実施例1において、CrClの代わりにNiClを用いた以外は同様にして実験を行った。この場合には、ミクロ多孔質構造の酸化ニッケルフッ化物(MPNiF)が得られた。
【0029】
実施例5
実施例1において、CrClの代わりにCaClを用いた以外は同様にして実験を行った。この場合には、ミクロ多孔質構造のカルシアフッ化物(MPCaF)が得られた。
【0030】
実施例6
実施例1において、CrClの代わりにMgClを用いた以外は同様にして実験を行った。この場合には、ミクロ多孔質構造のマグネシアフッ化物(MPMgF)が得られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)金属塩とアミド化合物を含有する水溶液を加熱して、該金属の水酸化物を沈殿として形成する工程、
(ii)該金属水酸化物を焼成する工程、
(iii)該焼成物をフッ素化する工程、
からなることを特徴とするシャープな多孔分布と高表面積を有するミクロ多孔質金属フルオライドの製造方法。
【請求項2】
(i)金属塩とアミド化合物と無機ケイ素化合物を含有する水溶液を加熱して、該金属の水酸化物を沈殿として形成する工程、
(ii)該金属水酸化物を焼成する工程、
(iii)該焼成物をフッ素化する工程、
からなることを特徴とするシャープな多孔分布と高表面積を有する金属フルオライドの製造方法。
【請求項3】
(i)金属塩とアミド化合物を含有する水溶液を加熱して、該金属の水酸化物を沈殿として形成する工程、
(ii)該金属水酸化物を焼成する工程からなることを特徴とするシャープな多孔分布と高表面積を有するミクロ多孔質金属酸化物の製造方法。
【請求項4】
(i)金属塩とアミド化合物と無機ケイ素化合物を含有する水溶液を加熱して、該金属の水酸化物を沈殿として形成する工程、
(ii)該金属水酸化物を焼成する工程、
(iii)該焼成物をフッ素化する工程、
からなることを特徴とするシャープな多孔分布と高表面積を有する金属酸化物の製造方法。
【請求項5】
該アミド化合物が尿素である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
該無機ケイ素化合物がメタケイ酸ナトリウムである請求項2、4又は5に記載の方法。
【請求項7】
シャープな多孔分布と高表面積を有するミクロ多孔質金属フルオライドであって、1Å〜50Åの細孔直径分布を有し、5Å〜50Åの平均細孔直径を有し、1m/g〜120m/gの表面積を有することを特徴とするミクロ多孔質金属フルオライド。
【請求項8】
ハロゲン化炭化水素を触媒の存在下でフッ化水素でフッ素化するに際し、該触媒として請求項7に記載のミクロ多孔質金属フルオライドを用いることを特徴とするハロゲン化炭化水素のフッ素化方法。


【公開番号】特開2006−225167(P2006−225167A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37014(P2005−37014)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託研究「二酸化炭素削減等地球環境産業技術研究開発事業地球環境産業技術に係る先導研究 温室効果ガス代替物質の革新的製造技術開発に関する先導研究」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】