説明

ミクロ相分離構造膜、及びその製造方法

【課題】 光・電子機能高分子材料、エネルギー関連材料、表面修飾材料、パターンドメディア等の高密度記録材料、ナノフィルター等として用いることのできる、ミクロ相分離構造膜を提供すること。
【解決手段】 親水性ポリマー成分及び疎水性ポリマー成分が、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を介して結合してなるブロック共重合体を含むミクロ相分離構造膜であって、 前記疎水性ポリマー成分からなるマトリックス内に、膜表面に対して垂直方向に配向した、前記親水性ポリマー成分からなるシリンダー構造を有し、前記マトリックスと前記シリンダー構造との間に、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を有することを特徴とするミクロ相分離構造膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロ相分離構造膜、及びその製造方法、更に詳細には、異方性イオン伝導材料として用いることのできるミクロ相分離構造膜、及びその製造方法に関する。本発明のミクロ相分離構造膜は、光・電子機能高分子材料、エネルギー関連材料、表面修飾材料、パターンドメディア等の高密度記録材料、ナノフィルター等として用いることができる。また、本発明は、多孔質構造体及びその製造方法に関する。本発明の多孔質構造体は、燃料電池用高分子電解質、イオン交換樹脂、マイクロリアクター用薄膜、タンパク質の分離膜、有機ゼオライトや種々のピラー用の高配向用テンプレート等の異方性イオン伝導材料として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近年において、有機分子を集積、配向させ、新規な機能を付加させる試みが行われている。例えば、互いに非相溶な2種以上の重合体が、それらの末端で化学的に結合したブロック共重合体は、その秩序状態において安定なミクロ相分離構造を形成する。重合体のミクロ相分離構造の成長においては、一般的に重合体全体の構造が破壊されない程度の温度で加熱することによって、ある程度の構造成長の実現は可能である。この方法においては、重合体にランダムに形成されたミクロ相分離構造のドメインが核となって、それぞれの構造を反映した成長がランダムに進行するため、通常は各ドメインのミクロ相分離構造がランダムに配向したマルチドメインとなる。また、バルク材料の相分離構造においては、個々のドメインが無秩序に配向したマルチドメイン構造を与える。相分離構造の配向を制御することは、結晶化過程における核発生及び成長と同様に、膜の界面で相分離構造が発生してその配向を維持するように膜内部で成長させる必要がある。
【0003】
本発明者らは、上記目的を達成するため、親水性高分子鎖と疎水性高分子鎖が結合してなるブロック共重合体と、このブロック共重合体から形成される配向方向が一定であるミクロ相分離構造膜を開発した(特許文献1)。また、本発明者らは、カルコン類縁体を用いて、同様のミクロ相分離構造膜を開発している(特許文献2)。
【0004】
一方で、イオニクスの分野においては、液体の電解質が用いられることが多く、全固体化素子の実現には未だ課題が多いのが実情である。これまでに開発されたイオン伝導材料による固体燃料電池としては、ジルコニウム、イットリウム、ビスマス、バナジウム等の酸化物又は硫化物を利用した固体酸化物燃料電池、溶融炭酸塩やリン酸を用いた固体燃料電池、Nafion(登録商標)やDow(登録商標)等に代表されるフッ素系高分子電解質膜を用いた固体燃料電池等が知られている。ポリエチレン、ポリプロピレンによる層型多孔平膜やポリオレフィン系樹脂等は薄膜化が可能であり、かつ高孔率であるという特徴から、リチウムイオン伝導用の固体電解質として実用化されている。
【0005】
このようなイオン伝導体を安価で大量生産するために、微孔構造の微細化と孔形制御や膜内における配向制御の実現が求められているが、未だに、十分なものが得られていないのが実情である。
また、イオンの可動を高速化することのできるソフトな部分と固体の形状を維持するためのハードな部分を併せ持つ材料の設計が可能となる有機化合物・高分子材料が注目されている。架橋型高分子ゲルの編目構造や異種高分子のブレンド、イオン性液体、液晶などによって製造される膜面内での層状構造を利用したイオン伝導機構が開発されているが、用いられる原料の化学構造から、その配向制御は困難であり、電極基板に対してイオン輸送の異方性を示すことはできない(非特許文献1、2、3)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−124088
【特許文献2】特開2007−131653
【非特許文献1】T. Kato et al., JACS, 126, 994 (2004)
【非特許文献2】Adam. Z. Weber, et al., J. Electrochem. Soc., 150 (7) A1008 (2003)
【非特許文献3】T. Kato et al., JACS, 125, 3196 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特許文献1に記載されたような、ナノメートル領域における相分離を示す高分子薄膜による配向型極微細パターン化平膜を利用し、その膜内における相分離構造の配向に依存した物質拡散特性を有する、光・電子機能高分子材料、エネルギー関連材料、表面修飾材料、パターンドメディア等の高密度記録材料、ナノフィルター等として用いることのできる、ミクロ相分離構造膜を提供することを目的とする。また、本発明は、燃料電池用高分子電解質、イオン交換樹脂、マイクロリアクター用薄膜、タンパク質の分離膜、有機ゼオライトや種々のピラー用の高配向用テンプレート等の異方性イオン伝導材料として用いることのできる多孔質構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有するブロック共重合体を用いることにより、上記目的を達成し得るという知見を得た。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、親水性ポリマー成分及び疎水性ポリマー成分が、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を介して結合してなるブロック共重合体を含むミクロ相分離構造膜であって、前記疎水性ポリマー成分からなるマトリックス内に、膜表面に対して垂直方向に配向した、前記親水性ポリマー成分からなるシリンダー構造を有し、前記マトリックスと前記シリンダー構造との間に、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を有することを特徴とするミクロ相分離構造膜を提供するものである。
【0009】
前記ブロック共重合体の親水性ポリマー成分としては、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリルアミド)、又は親水性側鎖を有するポリ(アクリレート)、親水性側鎖を有するポリ(メタクリレート)が挙げられ、前記疎水性ポリマー成分としては、メソゲン側鎖、長鎖アルキル側鎖又は疎水性側鎖を有するポリ(アクリレート)又はポリ(メタクリレート)、ポリ(スチレン)、又はビニルポリマーであるものが挙げられる。
前記共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は1.4以下であることが好ましい。
【0010】
前記共重合体としては、下記一般式で表されるものが挙げられる。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、x及びzは、同一であっても、異なっていてもよく、それぞれ、5〜500の整数を表し、Aは、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を表わし、Rは下記一般式(2)、(3)又は(4)で表わされる置換基である。)
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
前記反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位としては、下記式(5)〜(32)のいずれかで表わされるものが挙げられる。
【0019】
【化5−1】

【化5−2】

【化5−3】

【化5−4】

【化5−5】

【化5−6】

【化5−7】

【化5−8】

【化5−9】

【化5−10】

【0020】
(式中、Rは反応性基を表し、Rは、シアノ基又はカルボン酸エステルを表わし、Fuはフラーレンを表し、b及びcは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、0〜4の整数を表わし、dは0〜3の整数を表し、e、f及びgは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ1〜10の整数を表し、Arは複数の芳香環からなる芳香族炭化水素又はキノン類を表し、Rは水素、又は芳香族炭化水素、又は複素環を表し、MはH又は金属イオンを表し、MLは遷移金属錯体を表し、Porはポルフィリン類を表す。)
【0021】
前記反応性基としては、下記からなる群から選択されるものが挙げられる。
【0022】
【化6】

【0023】
(式中、Rは水素原子又はアルキル基を表す。)
前記シリンダー構造は、六方細密型のシリンダー構造であることが好ましい。
前記ミクロ相分離構造膜は、基板の上に形成されてもよい。
また、本発明は、前記ミクロ相分離構造膜における前記シリンダー構造がエッチングによって空孔化されてなる多孔質構造体を提供する。
【0024】
また、本発明は、親水性ポリマー成分及び疎水性ポリマー成分が、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を介して結合してなるブロック共重合体を、該ブロック共重合体が溶解可能な溶媒に溶解し、ブロック共重合体溶液を調製する工程;上記ブロック共重合体溶液を基板表面に塗布するか、上記ブロック共重合体溶液を、該溶液が溶解しない液体に滴下する工程;及び上記溶媒を蒸発させて上記ブロック共重合体のミクロ相分離構造膜を形成する工程を有することを特徴とするミクロ相分離構造膜の製造方法を提供する。
【0025】
前記ブロック共重合体の親水性ポリマー成分としては、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリルアミド)、又は親水性側鎖を有するポリ(アクリレート)、親水性側鎖を有するポリ(メタクリレート)が挙げられ、前記疎水性ポリマー成分としては、メソゲン側鎖、長鎖アルキル側鎖又は疎水性側鎖を有するポリ(アクリレート)又はポリ(メタクリレート)、ポリ(スチレン)、又はビニルポリマーが挙げられる。
前記共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は1.4以下であることが好ましい。
【0026】
前記共重合体としては、下記一般式で表されるものが挙げられる。
【0027】
【化7】

【0028】
(式中、x及びzは、同一であっても、異なっていてもよく、それぞれ、5〜500の整数を表し、Aは、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を表わし、Rは下記一般式(2)、(3)又は(4)で表わされる置換基である。)
【0029】
【化8】

【0030】
(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【0031】
【化9】

【0032】
(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【0033】
【化10】

【0034】
(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
前記反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位としては、下記式(5)〜(32)のいずれかで表わされるものが挙げられる。
【0035】
【化11−1】

【化11−2】

【化11−3】

【化11−4】

【化11−5】

【化11−6】

【化11−7】

【化11−8】

【化11−9】

【化11−10】

【0036】
(式中、Rは反応性基を表し、Rは、シアノ基又はカルボン酸エステルを表わし、Fuはフラーレンを表し、b及びcは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、0〜4の整数を表わし、dは0〜3の整数を表し、e、f及びgは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ1〜10の整数を表し、Arは複数の芳香環からなる芳香族炭化水素又はキノン類を表し、Rは水素、又は芳香族炭化水素、又は複素環を表し、MはH又は金属イオンを表し、MLは遷移金属錯体を表し、Porはポルフィリン類を表し、Xは、水素、ハロゲン、又はアルキル基を有するフェノキシ基を表す。)
【0037】
前記反応性基としては、下記からなる群から選択されるものが挙げられる。
【0038】
【化12】

【0039】
(式中、Rは水素原子又はアルキル基を表す。)
前記基板としては、疎水性物質からなる基板、又は表面を疎水化処理した基板が好ましい。
前記ブロック共重合体溶液を、加熱処理して前記溶媒を蒸発させてもよい。
前記加熱処理に加え、基板表面の配向処理を施してもよい。
前記加熱処理の温度は、ブロック共重合体の融点より10℃低い温度から、分解温度より低い温度の範囲で実施されることが好ましい。
【0040】
また、本発明は、疎水性ポリマー成分を含有してなる多孔質構造体であって、複数の柱状の孔を有しており、かつ孔の表面に、反応性基を有する構成単位を有していることを特徴とする多孔質構造体を提供する。
前記疎水性ポリマー成分としては、メソゲン側鎖、長鎖アルキル側鎖又は疎水性側鎖を有するポリ(アクリレート)又はポリ(メタクリレート)、ポリ(スチレン)、又はビニルポリマーが挙げられる。
前記疎水性ポリマー成分重合体としては、下記一般式で表されるものが挙げられる。
【0041】
【化13】

【0042】
(式中、zは5〜500の整数を表し、Rは下記一般式(2)、(3)又は(4)で表わされる置換基である。)
【0043】
【化14】

【0044】
(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【0045】
【化15】

【0046】
(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【0047】
【化16】

【0048】
(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
前記反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位としては、下記式(5’)〜(32’)のいずれかで表わされるものが挙げられる。
【0049】
【化17−1】

【化17−2】

【化17−3】

【化17−4】

【化17−5】

【化17−6】

【0050】
(式中、Rは反応性基を表し、Rは、シアノ基又はカルボン酸エステルを表わし、b及びcは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、0〜4の整数を表わす。)
【0051】
前記反応性基としては、下記からなる群から選択されるものが挙げられる。
【0052】
【化18】

【0053】
(式中、Rは水素原子又はアルキル基を表す。)
また、本発明は、前記多孔質膜構造体からなる燃料電池用高分子電解質を提供する。
また、本発明は、上記燃料電池用高分子電解質を有する燃料電池を提供する。
また、本発明は、前記方法によって得られたミクロ相分離構造膜における親水性ポリマー成分の部分をエッチングにより空孔化する工程を有する、多孔質構造体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0054】
本発明のミクロ相分離構造膜は、異方性イオン伝導材料や燃料電池用高分子電解質として用いることのできるものであり、光・電子機能高分子材料、エネルギー関連材料、表面修飾材料、パターンドメディア等の高密度記録材料、ナノフィルター等として用いることができる。
また、本発明の多孔質構造体は、異方性イオン伝導材料や燃料電池用高分子電解質として用いることのできる多孔質構造体であり、燃料電池用高分子電解質、イオン交換樹脂、マイクロリアクター用薄膜、タンパク質の分離膜、有機ゼオライトや種々のピラー用の高配向用テンプレート等の異方性イオン伝導材料として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、まず本発明のミクロ相分離構造膜について説明する。
本発明のミクロ相分離構造膜は、親水性ポリマー成分及び疎水性ポリマー成分が、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を介して結合してなるブロック共重合体を含むミクロ相分離構造膜であって、前記疎水性ポリマー成分からなるマトリックス内に、膜表面に対して垂直方向に配向した、前記親水性ポリマー成分からなるシリンダー構造を有し、前記マトリックスと前記シリンダー構造との間に、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を有する。
【0056】
本発明のミクロ相分離構造膜に含まれるブロック共重合体は、親水性ポリマー成分及び疎水性ポリマー成分が、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を介して結合してなる。上記ブロック共重合体における親水性ポリマー成分及び疎水性ポリマー成分としては、互いに非相溶性であり、適当な溶媒に溶解した後、温度変化により相分離するような組み合わせであれば特に制限はない。
【0057】
親水性ポリマー成分としては、例えば、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリルアミド)、又は親水性側鎖を有するポリ(アクリレート)、親水性側鎖を有するポリ(メタクリレート)等が挙げられる。なお、前記親水性ポリマーは、エッチングによって除去され、空孔化することによって多孔質構造体を得ることができるので好ましい。
【0058】
また、疎水性ポリマー成分としては、上述したように、適当な溶媒に溶解した後、温度変化により相分離するような親水性ポリマー成分との組み合わせであれば、特に制限はないが、例えば、メソゲン側鎖、長鎖アルキル側鎖又は疎水性側鎖を有するポリ(アクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(スチレン)、又はビニルポリマー等が挙げられる。
【0059】
メソゲン側鎖とは、例えば、下記一般式で示されるような構造単位を1つ以上有するものが挙げられる。
E−(Y1−F)n−Y2−G
上記式において、E、F及びGは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、1,4−フェニレン、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、ナフタレン−2,6−ジイル、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル、1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ピラジン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイルであり、を表わし、Y1及びY2は、同一であっても異なっていてもよく、単結合、−CH2CH2−、−CH2O− 、−OCH2− 、−C(=O)O−、−OC(=O)−、−C≡C−、−CH=CH−、−CF=CF−、−(CH24−、−CH2CH2CH2O− 、 −OCH2CH2CH2−、−CH=CH−CH2CH2−、−CH2CH2−CH=CH−、−N=N−、−CH=CH−C(=O)O−又は−OC(=O)−CH=CH−を表わし、nは、0〜3の整数である。)
また、長鎖アルキル側鎖とは、炭素数が好ましくは6〜22個のアルキル側鎖を意味する。
疎水性側鎖としては、例えば脂肪族側鎖等が挙げられる。
【0060】
本発明のミクロ相分離構造膜においては、マトリックスとシリンダー構造との間に反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を有する。反応性基とは、他の化合物と、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等を生成し得る官能基のことであり、その具体例については後述する。本発明において用いられる共重合体は、親水性ポリマー成分及び疎水性ポリマー成分が、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を介して結合してなるブロック共重合体であるが、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素は主鎖中に含まれているものであってもよい。本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法については後述するが、この製造方法によれば、マトリックスがブロック共重合体の疎水性ポリマー成分からなり、シリンダー構造はブロック共重合体の親水性ポリマー成分からなり、その間には、ブロック共重合体の親水性ポリマー成分と疎水性ポリマー成分との間にある、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素が位置することになる。
【0061】
前記ブロック共重合体としては、例えば、下記一般式(1)で表わされる共重合体が好ましく用いられる。
【0062】
【化19】

【0063】
一般式(1)において、x及びzは同一であっても、異なっていてもよく、それぞれ5〜500の整数であり、好ましくは40〜120の整数である。x及びzの割合を調整することによって、得られるミクロ相分離構造膜のシリンダー部分とマトリックス部分の大きさ(面積)を調整することができる。
【0064】
ブロック共重合体中の親水性ポリマー成分の体積分率は10〜90%であることが好ましく、10〜50%であることが更に好ましい。本発明のミクロ相分離構造膜は、垂直配向した六方最密充填のシリンダーアレイ型相分離構造となる。このシリンダーアレイ型分離構造膜においては、前述したように、親水性ポリマー成分がシリンダー部分となり、その他の部分は疎水性ポリマー成分からなっている。従って、親水性ポリマー成分の体積分率を変えることにより、シリンダー構造の部分の大きさや間隔を変更することが可能である。すなわち、シリンダー構造の部分の大きさを小さくしたり、間隔を広くしたい場合には、親水性ポリマー成分の体積分率を低くし、シリンダー部分の大きさを大きくしたり、間隔を狭くしたいような場合には、親水性ポリマー成分の体積分率を高くすればよい。親水性ポリマー成分の体積分率は10〜90%の範囲で変化させることが好ましい。親水性ポリマー成分の体積分率が10%未満であると、シリンダー部分の占める割合が小さくなるため、垂直配向させてシリンダーアレイ型分離構造とするのが困難になる場合があり、一方、90%を超えると、シリンダー部分の占める割合が大きくなるため、垂直配向させてシリンダーアレイ型分離構造の形成が困難になる場合がある。
【0065】
なお、前記シリンダー構造の大きさに特に制限はないが、例えば、シリンダー構造をエッチングによって空孔化して多孔質構造体とし、得られた多孔質構造体を燃料電池用高分子電解質として用いる場合は、好ましくは、直径が1〜10nmであり、更に好ましくは 1〜3nmである。
【0066】
親水性ポリマー成分の重合度は、好ましくは40〜120である。親水性ポリマー成分の重合度が40未満であるとミクロ相分離構造が形成されなかったり、また形成されても疎水性ポリマー成分の重合度に強く依存する場合があり、一方、120を超えると、ミクロ相分離構造が形成されなかったり、また形成されても疎水性ポリマー成分の重合度に強く依存する場合があるので、親水性ポリマー成分の重合度は上記範囲内であることが好ましい。
【0067】
一般式(1)において、Rとしては、下記一般式(2)、(3)又は(4)で表わされる置換基が挙げられる。
【0068】
【化20】

【0069】
【化21】

【0070】
【化22】

【0071】
一般式(2)、(3)及び(4)において、aは0〜20の整数であり、好ましくは6〜12の整数である。また、Rは水素又は炭素数1〜22のアルキル基であり、好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
一般式(1)におけるA、すなわち、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位としては、特に制限はないが、例えば、下記一般式(5)〜(32)のいずれかで表わされるものが挙げられる。
【0072】
【化23−1】

【化23−2】

【化23−3】

【化23−4】

【化23−5】

【化23−6】

【化23−7】

【化23−8】

【化23−9】

【化23−10】

【0073】
なお、上記式(5)〜(32)において、反応性基を有する構成単位は式(1)〜(22)で表わされるものを意味し、電子受容体を有する構成単位は、式(23)、(24)及び(31)で表わされるもの、並びに式(25)及び(26)でArがキノン類であるものを意味する。電子供与体を有する構成単位は、式(25)及び式(25)でArが芳香族炭化水素で表わされるものを意味する。また、色素を有する構成単位は、式(27)〜(30)及び(31)で表わされるものを意味する。
上記式において、Rは、シアノ基又はカルボン酸エステルを表わす。
また、Fuはフラーレンを表し、フラーレン としては、例えば、C60、C70、C76、C78、C82等を挙げることができ、これらは単独または2種以上併用して用いてもよい。
b及びcは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、0〜4の整数を表わし、好ましくは1又は2である。
dは0〜3の整数を表し、好ましくは0又は1である。
また、e、f及びgは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ1〜10の整数を表し、好ましくはeは2又は3であり、fは好ましくは2〜5の整数であり、gは、好ましくは2又は3である。
【0074】
また、Arは複数の芳香環からなる芳香族炭化水素又はキノン類を表す。芳香環としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン等の複数の芳香環からなる芳香族炭化水素又はアントラキノン等のキノン類が挙げられる。
また、Rは水素、又は芳香族炭化水素、又は複素環を表す。芳香族炭化水素としては、Arと同様であり、複素環としては、ピリジン、イミダゾール等が挙げられる。
また、MはH(金属が入っていないポルフィリンを意味する)、又はZn2+、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Mn2+、Pt2+等の金属イオンを表す。
また、MLは遷移金属錯体を表す。遷移金属錯体としては、Ru(bpy)、Cu(bpy)等が挙げられる。なお、bypは、2,2’−ビピリジンのことを意味する。
また、Porはポルフィリン類を表す。ポルフィリン類としては、テトラフェニルポルフィリン、プロとポルフィリン、クロロフィル等が挙げられる。
は、水素、ハロゲン、又はアルキル基を有するフェノキシ基を表す。
アルキル基を有するフェノキシ基としては、例えば、下記式で表すものが挙げられる。
【0075】
【化24】

【0076】
また、Rは反応性基を表し、例えば、下記からなる群から選択される。なお、本明細書において、R又は反応性基という場合、下記式で表されるものが具体的に挙げられるが、これらに水素原子が付加したものも、単にRは反応性基という場合がある。
【0077】
【化25】

【0078】
上記式において、Rは水素原子又はアルキル基を表す。アルキル基としては、炭素数が0〜4個のアルキル基が好ましい。
一般式(1)で表わされるブロック共重合体の具体例としては、上述した、一般式(5)〜(32)で表わされる、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を有するものとして、それぞれ、一般式(5’’)〜(32’’)で表わされるものが挙げられる。一般式(5’’)〜(32’’)で用いられている、R5は親水性ポリマー成分を表し、R6は疎水性ポリマー成分を表す。すなわち、本発明で用いられるブロック共重合体は、親水性ポリマー成分及び疎水性ポリマー成分が、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を介して結合してなる。
【0079】
【化26−1】

【化26−2】

【化26−3】

【化26−4】

【化26−5】

【化26−6】

【化26−7】

【化26−8】

【化26−9】

【化26−10】

【0080】
上記一般式(5’’)〜(32’’)において、R、Fu、b、c、d、e、f、g、Ar、R、M、ML、Por及びRは、上述した一般式(5)〜(32)におけるものと同様である。
一般式(1)で表わされるブロック共重合体としては、その分子量は、好ましくは5,000〜10,0000、更に好ましくは10,000〜50,000である。
本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法において用いられるブロック共重合体分子量分布(Mw/Mn)は1.4以下であることが好ましく、1.3以下であることが更に好ましい。なお、本明細書において、分子量分布(Mw/Mn)はゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法によって測定したポリスチレン換算の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnより算出した値を意味する。
【0081】
具体的な測定方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
すなわち、高速液体グロマトグラム装置に、東ソー(株)製、ゲル浸透クロマトグラフィー用カラム(商品名:TSKgel HXL−M)を装着し、溶離液としてテトラヒドロフランを用いて、分子量の測定を行う。まず、標準資料として、平均分子量が既知のポリスチレンについて測定を行う。上記ポリスチレンの溶出時間と、測定試料の溶出時間とを比較することによって、ポリスチレン換算の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnを算出し、分子量分布を求める。
前記ブロック共重合体の製造方法については後述する。
【0082】
本発明のミクロ相分離構造膜は、基板の上に形成されてもよい。基板としては、疎水性物質からなる基板や表面を疎水化処理した基板が好ましく用いられる。このような基板としては、例えばポリエステル、ポリイミド、雲母板、シリコンウエハ、石英板、ガラス板等の基板や、これらの基板表面をカーボン蒸着処理やシリル化処理等の疎水化処理を施した基板が好ましく用いられる。この時に用いられる基板の厚みには特に制限はない。
【0083】
次に、本発明の多孔質構造体について説明する。
本発明の多孔質構造体は、前述した、本発明のミクロ相分離構造膜における前記シリンダー構造がエッチングによって空孔化されてなる。すなわち、本発明の多孔質構造体は、疎水性ポリマー成分を含有してなる多孔質構造体であって、複数の柱状の孔を有しており、かつ孔の表面に反応性基を有する構成単位を有していることを特徴とする。
エッチングは、シリンダー構造(親水性ポリマー成分)のみを優先的に除去するウェットエッチングやドライエッチング、又は波長が400nm以下のβ線又は紫外線照射による分解とエッチングとの組み合わせを用いる方法が挙げられるこの場合、親水性ポリマー成分の部分(シリンダー造部分)と、疎水性ポリマー成分の部分(マトリックス部分)のエッチング速度比が島構造部分の方が大きい溶剤を用いることが好ましい。また、シリンダー構造部分のエッチング速度がマトリックス構造部分のエッチング速度よりも大きくなるようなドライエッチングを用いることもできる。
その他のエッチングの方法としては、オゾンエッチング、フッ素イオンエッチング、プラズマエッチング等が挙げられる。
【0084】
前述したように、エッチング処理をすることによって、ミクロ相分離構造膜の親水性ポリマー成分の部分が除去されるので、得られる多孔質膜構造体は、複数の柱状の孔を有したものとなり、かつ孔の表面には、反応性基を有する構成単位が露出することとなる。すなわち、本発明の多孔質構造体の製造方法においては、親水性ポリマー成分と、疎水性ポリマー成分とが、反応性基を有する構成単位を介して結合してなるブロック共重合体を用いるので、ミクロ相分離構造膜のマトリックス部分とシリンダー構造部分との間には、反応性基を有する構成単位が存在している。従って、エッチングによって、親水ポリマー部分が除去されるので、マトリックス部分の疎水性ポリマー成分部分がそのままの形態で残り、孔の表面には反応性基が形成されることとなる。すなわち、本発明は、疎水性ポリマー成分を含有してなる多孔質構造体であって、複数の柱状の孔を有しており、かつ孔の表面に反応性基を有する構成単位を有していることを特徴とする多孔質構造体をも提供する。
【0085】
前述したように、本発明の多孔質構造体は、本発明のミクロ相分離構造膜における親水性ポリマー部分(シリンダー構造部分)が空孔化されるので、この多孔質構造体を構成する重合体は、前述した疎水性ポリマー成分の片末端反応性基を有するポリマーである。具体例としては、上述した、一般式(5’’)〜(16’’)及び(18’’)〜(22’’)においては、親水性ポリマー部分が取り除かれた構造、すなわち、一般式(5’’)〜(16’’)及び(18’’)〜(22’’)のRの部分が除去された構造を有する。なお、一般式(17’’)においては、切断される部分が異なる。一般式(5’’)〜(16’’)及び(18’’)から(22’’)において、親水性ポリマー部分が取り除かれた構造、すなわち、本発明の多孔質構造体を構成する疎水性ポリマーの有する、反応性基を有する構成部分の構造を、下記(5’)〜(22’)に示す。一般式(17’)においては、下記に示すように、親水ポリマー部分が除去された後に、反応性基である水酸基が2個形成される。
【0086】
【化27−1】

【化27−2】

【化27−3】

【化27−4】

【化27−5】

【化27−6】

【0087】
上記式(1’)〜(22’)において、R、R、b及びcは、上述した式(1)〜(32)において説明したのと同様である。
また、反応性基としては、例えば、下記群から選択される反応性基が挙げられる。
【0088】
【化28】

【0089】
このようにして得られた多孔性構造体の孔の表面には反応性基を有する構成単位が形成されているので、例えば、この反応性基と共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等を生成し得る化合物をターゲットにしたフィルターとして用いることもでき、また、この反応性基と化学反応を起こすような分子を孔に透過させることによって、触媒としての作用を付与することができる。また、燃料電池用高分子電解質、イオン交換樹脂、マイクロリアクター用薄膜、タンパク質の分離膜、有機ゼオライトや種々のピラー用の高配向用テンプレート等として用いることができ、このような多孔質構造体を、実際に、上記用途に用いる際に、感度や効率等の更なる向上が期待できる。また、本発明の多孔質構造体の他の用途としては、例えば、精密な空間や流路などを形成するスペーサー機能を利用したマイクロマシーンやセンサー、バイオ機器、マイクロリアクターチップ、埋め込み型人工臓器の他、マイクロフィルター、精密ろ過膜(マイクロメンブレン)、電池用セパレータ(例えば、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の各種電池で利用される電池用セパレータ)、燃料電池の部材(例えば、ガス拡散層、集電層、透湿層、保湿層などの燃料電池で用いられる各種部材)、マイクロノズル(例えば、プリンター用マイクロノズル、噴射用マイクロノズル、噴霧用マイクロノズル、隙間用マイクロノズルなど)、ディストリビュータ、ガス拡散層、マイクロ流路などの各種機能部材が挙げられる。
【0090】
また、本発明の多孔質構造体を燃料電池用高分子電解質に用いると、膜内を移動する電解質であるプロトンや水酸化物イオンを垂直配向の多孔質構造体壁面のイオン性基を伝って効率よく輸送することができる。このような多孔質体を実際に上記用途に用いることで伝導度の向上や燃料電池の電解質膜の小型化等の向上が期待できる。
【0091】
次に、本発明のミクロ相分離構造膜を製造する好ましい方法である、本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法について説明する。
本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法は、親水性ポリマー成分及び疎水性ポリマー成分が、反応性基を有する構成単位を介して結合してなるブロック共重合体を、該ブロック共重合体が溶解可能な溶媒に溶解し、ブロック共重合体溶液を調製する工程;上記ブロック共重合体溶液を基板表面に塗布するか、上記ブロック共重合体溶液を、該溶液が溶解しない液体に滴下する工程;及び上記溶媒を蒸発させて上記ブロック共重合体のミクロ相分離構造膜を形成する工程を有する。
【0092】
本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法において用いられる共重合体としては、前述した、本発明のミクロ相分離構造膜において説明したブロック共重合体が用いられる。
本発明の多孔質構造体の製造方法において用いられるブロック共重合体の製造方法に特に制限はないが、得られるブロック共重合体の分子量及び構造を制御できるという点、並びに、反応性基を有する構成単位を有する共重合体を容易に製造できるという点から、原子移動ラジカル重合法(ATRP)を用いて製造することが好ましい。
原子移動ラジカル重合 は、有機ハロゲン化物、又はハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、周期律表第8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体を触媒として重合される。
【0093】
これらの方法によると、一般的に非常に重合速度が高く、ラジカル同士のカップリングなどの停止反応が起こりやすいラジカル重合でありながら、重合がリビング的に進行し、分子量分布の狭いブロック共重合体を得ることができ、また、分子量は、用いるモノマーと開示剤の仕込み時の比率によって自由に制御することが可能である。
【0094】
ATRP法において、開始剤として用いられる有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物としては、上述した、親水性ポリマー成分の片末端側に一般式(5)〜(32)で表わされる構成単位を結合した化合物をハロゲン化したものが用いられる。すなわち、本発明において用いられるブロック共重合体に含まれる、反応性基を有する構成単位としては、ATRP法において、重合開始点となり得る構造を有することができる。
また、ATRP法においては、原子移動ラジカル重合 の触媒として用いられる遷移金属Xの錯体としては、周期律表第8族、9族、10族、または11族の遷移金属(X)を中心金属とする金属錯体を触媒を用いる。このうち、好ましいものとして、一価および0価の銅、二価のルテニウム、二価の鉄または二価のニッケルの錯体を挙げることができる。これらの中でも、コストや反応制御の点から銅の錯体が好ましい。
一価の銅化合物としては、例えば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅などがあげられる。その中でも塩化第一銅、臭化第一銅が、重合の制御の観点から好ましい。また、二価のルテニウムとしては、クメンジクロロルテニウムダイマーやトリスジクロライドトリフェニルフォスフィンルテニウム等が挙げられる。
【0095】
一価の銅化合物を用いる場合、触媒活性を高めるために、トリオクチルアミン、トリエチルアミン、2,2’−ビピリジル、その誘導体(例えば4,4’−ジノリル−2,2’−ビピリジル、4,4’−ジ(5−ノリル)−2,2’−ビピリジルなど)などの2,2’−ビピリジル系化合物、1,10−フェナントロリン、その誘導体(例えば4,7−ジノリル−1,10−フェナントロリン、5,6−ジノリル−1,10−フェナントロリンなど)などの1,10−フェナントロリン系化合物、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミンなどのポリアミンなどを配位子として添加しても良い。
また、ATRP法は、無溶媒(塊状重合)又は、種々の溶媒中で行うことができる。溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、ハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、ニトリル系溶媒、エステル系溶媒などをあげることができ、これらは単独で又は二種以上を混合して用いることができる。溶媒としては、ジクロロベンゼン、アニソール等を用いることが好ましい。
【0096】
また、ATRP法は、通常、室温20 〜120℃程度の温度で実施することができ、20 〜120℃程度の温度で実施することが好ましい。重合温度が上記温度よりも低いと、反応系の粘度が高くなり過ぎ反応速度が低くなりすぎる場合があり、上記温度を超えると、安価な重合溶媒を用いることができなくなる。
ATRP法によってブロック共重合体を製造する方法としては、単量体を逐次添加する方法、あらかじめ合成した重合体を高分子開始剤として次のブロックを重合する方法、別々に重合した重合体を反応により結合する方法等が挙げられる。これらの方法は、目的に応じて使い分けることができるが、重合工程の簡便性の点から、あらかじめ合成した重合体を高分子開始剤として、次のブロックを重合する方法が好ましい。
なお、本発明で用いられるブロック共重合体を製造する方法としては、上述したATRP法に限定されず、例えば、親水性ポリマー部分と疎水性ポリマー部分とを結合させた後に、反応性基を有する構成単位を結合させる方法であってもよい。
【0097】
本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法においては、まず、前記ブロック共重合体を、該ブロック共重合体が溶解可能な溶媒に溶解し、ブロック共重合体溶液を調製する。
前記ブロック共重合体溶液を調製するために用いられる、ブロック共重合体を溶解可能な溶媒としては、前記ブロック共重合体を溶解し得るものであれば特に制限なく用いることができ、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、四塩化炭素、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、二塩化エチレン、塩化メチル、及びこれらの混合物等が挙げられる。また、溶液中のブロック共重合体の濃度は、0.1〜5質量%程度とすることが好ましい。また、ブロック共重合体が溶解し難い場合には、撹拌、加熱等の操作を行ってもよい。
【0098】
次いで、ブロック共重合体溶液を基板表面に塗布するか、上記ブロック共重合体溶液を、該溶液が溶解しない液体に滴下する。基板としては、疎水性物質からなる基板や表面を疎水化処理した基板が好ましく用いられる。このような基板としては、例えばポリエステル、ポリイミド、雲母板、シリコンウエハ、石英板、ガラス板等の基板や、これらの基板表面をカーボン蒸着処理やシリル化処理等の疎水化処理を施した基板が好ましく用いられる。この時に用いられる基板の厚みには特に制限はない。
【0099】
ブロック共重合体溶液を基板表面に塗布する方法としては、特に制限はないが、例えば、スピンコート、キャスト、ディップ及びバーコート等の方法によって実施することができる。また、塗布量については、特に制限はないが、通常は、膜圧が約30nm〜約10μm程度になる量であり、基板1cm2当たり0.002〜0.1ml程度が好ましい。
また、ブロック共重合体溶液が溶解しない液体としては、ブロック共重合体を溶解するために用いた溶媒が溶解しないものであれば、特に制限なく用いることができ、例えば、水、電解質溶液、水銀、流動パラフィン、オクタノール等が挙げられる。滴下量は、好ましくは、液体1cmあたり1〜100滴である。
【0100】
次いで、上記溶媒を蒸発させてブロック共重合体のミクロ相分構造膜を形成する。溶媒を蒸発させる方法としては、例えば、基板を加熱する方法が挙げられる。基板を加熱する場合、加熱温度は、ブロック共重合体の融点よりも10℃低い温度よりも高い温度が好ましい。また、加熱温度はブロック共重合体の分解温度よりも低くすることが好ましい。加熱温度を上記範囲とすることにより、相分離構造を形成するのに十分な高分子の流動性を確保できるので、加熱温度は上記範囲内であることが好ましい。
配向処理のために、加温状態で1×10〜3×10V/m、好ましくは1×10〜3×10V/mの電界を印加してもよい。上記ブロック共重合体は電界に沿って配向するため、所望の方向に電界をかければよい。例えば、微小な櫛形電極を用いたり、微小な電極を高分子被覆した電極に近づけて電圧印加して、領域選択的に相分離構造の配向制御をすることが可能である。特に、基板にほぼ垂直に分子が配向したものは基板に垂直にシリンダー構造が形成されるため有用性が高い。従って、基板にほぼ垂直に電界を印加し、ブロック共重合体をほぼ垂直に配向させることが好ましい。
また、電界は1×10〜3×10V/mの間の一定の電界をかけてもよく、その電界の方向(+/−)もいずれでもよい。また、電界の最高値を1×10〜3×10V/mとし、電界をその+方向もしくは−方向又はその両方向に交互に掃引(具体的には印加する電位を掃引)させてもよい。このように、電界の方向を切り替えて印加すると、より配向が明瞭になるため好ましい。
【0101】
電界の印加方法については特に制限はなく、従来公知の方法で実施することができる。簡便な方法として、基板を電極として膜を形成し、その膜の上に電解液を塗布し、電極基板と電解液との間に所望の電圧を印加する方法が挙げられる。
電極基板としては、電気伝導性のある電極材料であればよく、白金、ステンレス、金等の金属板、グラファイト、インジウムスズ酸化物を被覆したガラスやプラスチックフィルム、シリコンウェハ等を用いることができる。電界液としては、溶媒に水又はテトラヒドロフラン、クロロホルム、ジメチルするホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒を用い、これに溶質として塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化カリウム、硫酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等の電解質を溶解させたものを用いることができる。
上述のようにして得られたミクロ相分離構造膜は、ナノメートル領域の周期的な分離構造である六方細密型のシリンダー構造を形成しており、親水性ポリマー鎖のドメインによって、シリンダー構造(親水性ポリマー成分からなる)が形成され、疎水性ポリマー鎖によってマトリックス(疎水性ポリマー成分からなる)を形成したものとなる。
【0102】
次に、本発明の多孔質構造体の製造方法について説明する。
本発明の多孔質構造体の製造方法は、前述した、ミクロ相分離構造膜の製造方法によって得られたミクロ相分離構造膜における親水性ポリマー成分の部分をエッチングにより空孔化する工程を有する。
エッチングは、シリンダー構造(親水性ポリマー成分)のみを優先的に除去するウェットエッチングやドライエッチング、又は波長が400nm以下のβ線又は紫外線照射による分解とエッチングとの組み合わせを用いる方法が挙げられるこの場合、親水性ポリマー成分の部分(シリンダー造部分)と、疎水性ポリマー成分の部分(マトリックス部分)のエッチング速度比が島構造部分の方が大きい溶剤を用いることが好ましい。また、シリンダー構造部分のエッチング速度がマトリックス構造部分のエッチング速度よりも大きくなるようなドライエッチングを用いることもできる。
その他のエッチングの方法としては、オゾンエッチング、フッ素イオンエッチング、プラズマエッチング等が挙げられる。
【実施例】
【0103】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
実施例1
アルゴン雰囲気下で、片末端メトキシポリエチレングリコール(MeO−PEO114OH)2.5g、及びトリオクチルアミン(1.74g)を塩化メチレン(20mL)に溶解し、−20℃に冷却した。次いで、3−ブロモ−9−カンファースルホン酸塩化物(1.64g)を投入し、室温で24時間撹拌を行った。次いで、反応溶液を撹拌したエーテル(150mL)にゆっくりと滴下し、生成物を沈殿させた。得られた沈殿物をろ過し、ろ取した粗生成物を2−プロパノール(200mL)に投入し、ゆっくりと60℃に加熱し、粗生成物を溶解した。次いで、この溶液を室温に12時間放置し、固体を析出させた。析出した固体をろ過した後、減圧下に乾燥することによって、MeO−PEO114CamBr(ポリエチレンオキシ−α−メトキシ−ω−3-ブロモ−10−カンファースルホネート)を得た。H−NMRによりカンファースルホン酸の導入率を求めたところ、カンファースルホン酸の導入率は100%であった。
【0104】
実施例2
トリオクチルアミンに代え、トリエチルアミンを用いた以外は、実施例1と同様に操作を行い、MeO−PEO114CamBrを得た。得られたMeO−PEO114CamBrのカンファースルホン酸の導入率は60%であった。
【0105】
実施例3
トリオクチルアミンに代え、トリエチルアミンを用い、3−ブロモ−9−カンファースルホン酸塩化物に代え、イソブチロ酪酸塩化物(2.0g)を用い、反応温度を全て70℃で行った以外は、実施例1と同様に操作を行い、MeO−PEO114COMeBrを得た。得られたMeO−PEO114COMeBrのカルボン酸の導入率は100%であった
【0106】
実施例4
実施例1で得られたMeO−PEO114CamBrを高分子開始剤として用い、以下のようにしてブロック共重合体を製造した。アルゴン雰囲気下で、MeO−PEO114CamBr(50mg)、下記式で表される、液晶性メタクリル酸エステルモノマー(MA(Chal)(490mg)、RuCl(p−シメン)(ルテニウムダイマー)(9.0mg)、トリシクロヘキシルホスフィン(6.7mg)をアニソール(2.5mL)に溶解し、80℃で24時間撹拌した。24時間の撹拌後、反応溶液を空気に暴露して触媒を失活させて重合反応を停止させた。次いで、反応溶液を室温まで冷却した後、反応溶液をクロロホルム(15mL)で希釈し、シリカゲルカラムに通じて触媒を除去し、次いで溶媒を留去した。次いで、得られた生成物を熱イソプロパノールで洗浄して、未反応のモノマー及び高分子開始剤を除去し、ブロック共重合体を得た。得られたブロック共重合体について、H−NMRにより、液晶性ポリメタクリル酸エステルの重合度を求め、また、ポリスチレンを基準物質として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
液晶性ポリメタクリル酸エステルの重合度は53であり、数平均分子量(Mn)は41,200であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.32であった。
【0107】
【化29】

【0108】
実施例5
液晶性メタクリル酸エステルモノマー(MA(Chal)(1.0g)、以外は、実施例4と同様に操作を行い、ブロック共重合体を得た。得られたブロック共重合体の液晶性ポリメタクリル酸エステルの重合度は121であり、数平均分子量(Mn)は39,800であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.39であった。
【0109】
実施例6
実施例1で得られたMeO−PEO114CamBr、及び実施例5及び6で得られたブロック共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを行ったところ、実施例5及び6で得られたブロック共重合体の分子量は、実施例1で得られたMeO−PEO114CamBrよりも、狭い分子量分布を保持したまま高分子量域に移動していた。このことは、実施例5及び6で得られた生成物がブロック共重合体であることを示す。
【0110】
実施例7
実施例3で得られたブロック共重合体を2重量%の濃度になるようにトルエンに溶解し、得られたブロック共重合体溶液を、水面上に展開した。得られた水面展開膜を鋼製のグリッドにすくいとった後、真空下、80℃の温度で24時間熱処理を行い、ミクロ相分離構造膜を得た。得られたミクロ相分離構造膜を、酸化ルテニウムの上記に暴露し、PEOドメインのみを選択的に染色した後、透過型電子顕微鏡写真で観察した。透過型電子顕微鏡写真を図1に示す。図1は得られたミクロ相分離構造膜の膜方向を観察した透過型電子顕微鏡写真である。
【0111】
実施例8
実施例3で得られたブロック共重合体を2重量%の濃度になるようにトルエンに溶解し、得られたブロック共重合体溶液を、シリコン基板上にスピンコートにより展開した。真空下、80℃の温度で24時間熱処理を行い、ミクロ相分離構造膜を得た。得られた薄膜に313nmの光を照射することにより液晶性高分子の領域のカルコン部位を架橋させた。次いで、この薄膜を160〜180℃の温度で24時間熱処理を行いスルホン酸エステル部位を熱により開裂させた。この薄膜をメタノールを用いて洗浄し、遊離したシリンダー部位であるポリエチレンオキシドを除去した。次いで、真空下で室温で24時間乾燥させた。
【0112】
薄膜の評価方法
薄膜の評価方法はFTIRによりポリエチレンオキシド除去前に存在しているポリエチレンオキシドのC−O−Cの伸縮振動に由来する1200〜1100cm−1をポリエチレンオキシド除去後に消失したことにより評価した。またラマン分光によりスルホン酸エステル由来の1172〜1165cm−1SO2−Oの伸縮振動がエッチング後、スルホン酸SO3Hに由来する1165〜1150cm−1と1352〜1342cm−1にシフトしたことにより評価した。
【0113】
実施例9
以下のチャートに従い、開始剤を合成した。
【0114】
【化30】

【0115】
以下、上記チャートの各工程について説明する。
5-(Boc-アミノ)-1-ペンタノール(1)の合成
300ml二口フラスコに、5-アミノペンタノール10g (98mmol)及び脱水ジクロロメタン50mlを入れ氷浴中で攪拌した。次いで、フラスコに50mlの脱水ジクロロメタンに溶解したジ-炭酸-ジ-t-ブチル22.5g (23.6ml,103mmol)を、滴下漏斗を用いて少しずつ滴下した。滴下終了後室温に戻し18時間攪拌した。反応終了後溶媒を除去し、クロロホルム100mlに溶解させ5%-炭酸水素ナトリウム50mlで3回、純水50mlで1回、飽和食塩水50mlで1回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を留去して定量的に19.9g の5-(Boc-アミノ)-1-ペンタノール(1)を得た。
【0116】
2-ブロモ-2-メチルプロピオン酸5’-(Boc‐アミノペンチル)(2)の合成
500ml二口フラスコに、上述のようにして得られた5-(Boc-アミノ)-1-ペンタノール(1) 15g (73.8mmol)、トリエチルアミン11.1g (15.3ml,109.7mmol)、脱水THF 50mlを入れ氷浴中で攪拌した。次いで、フラスコに、50mlの脱水THFに溶解した2-ブロモイソブチルブロミド20.3g (10.9ml,88.3mmol)を滴下漏斗を用いて少しずつ滴下した。滴下終了後、室温に戻し18時間攪拌した。反応終了後溶媒を除去し、クロロホルム100mlに溶解させ5%-炭酸水素ナトリウム50mlで3回、純水50mlで1回、飽和食塩水50mlで1回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(和光純薬工業製シリカゲル60N, 球状, 中性、Φ4.5×15cm、酢酸エチル+ヘキサン=1:4で溶出)で精製し、2-ブロモ-2-メチルプロピオン酸5’-(Boc‐アミノペンチル)(2)を収量22.7g、収率87%で得た。
【0117】
2-ブロモ-2-メチルプロピオン酸5’-アミノペンチル(3)の合成
200mlナス型フラスコに、上述のようにして得られた2-ブロモ-2-メチルプロピオン酸5’-(Boc‐アミノペンチル) (2)20g(56.8mmol)及びジクロロメタン100mlを加え、室温で攪拌した。次いで、フラスコに、トリフルオロ酢酸 7.4g(64.9mmol)を加え、室温で18時間攪拌した。溶媒を留去して、2-ブロモ-2-メチルプロピオン酸5’-アミノペンチル(3)を収量14.3gで定量的に得た。
【0118】
1,7-ジブロモペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸無水物(4)の合成
500mlの三口フラスコに、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸無水物8.7g (22.2mmol)及び硫酸130mlを入れ55℃で24時間攪拌した。24時間後にヨウ素187mg (0.74mmol)を加えさらに5時間攪拌した。次いで、臭素8.1g(2.6ml,54.4mmol)を滴下し、反応温度を85℃にして24時間攪拌した。反応終了後、純水40mlを加え、生成した沈殿をろ過して赤色の固体1,7-ジブロモペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸無水物を収量11.1g(20.2mmol)、収率91%で得た。
【0119】
ビス1,7-(4-t-オクチルフェノキシ)ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸無水物(5)の合成
1000mlナス型フラスコに、上述のようにして得られた1,7-ジブロモペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸無水物(4)8.0g (14.5mmol)、4-t-オクチルフェノール 11.6g (56.2mmol)、炭酸カリウム3.9g (28.2mmol)、及びジメチルホルムアミド540mlを加え、アルゴン雰囲気下、80℃で18時間攪拌した。反応終了後、54mlの酢酸を加えてさらに攪拌し沈殿を析出させた。析出した沈殿物を濾取し、メタノールで洗浄した後、真空乾燥させて赤紫色の固体ビス1,7-(4-t-オクチルフェノキシ)ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸無水物(5)を収量6.39g(7.98mmol)、収率55%で得た。
【0120】
N-(5-(2-ブロモ-2-メチルエチルカルボニルオキシ)ペンチル)-ビス(1,7-t-オクチルフェノキシ)ペリレン-3,4-ジカルボキシイミド-9,10-ジカルボン酸無水物(6)の合成
500mlの三口フラスコにビス1,7-(4-t-オクチルフェノキシ)ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸無水物(5)1.36g (1.76mmol)、イミダゾール 1.32g (19.4mmol)、クロロホルム250mlを入れ、80℃のオイルバス中で加熱攪拌した。温度到達後、上述のようにして得られた2-ブロモ-2-メチルプロピオン酸5’-アミノペンチル(3)0.47g(1.76mmol)を10mlのクロロホルムに溶かし少しずつ加えた。さらにトリフルオロ酢酸を少量加え3日間反応させた。反応終了後、室温まで冷却し、酢酸を80ml加えて30分間攪拌した。反応溶液を水で3回,飽和食塩水で1回分液操作を行い、得られた有機相を炭酸カリウムで乾燥させた。溶液をろ過し、溶媒を留去して、得られた残渣をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(和光純薬工業製シリカゲル60N, 球状, 中性、Φ9×25cm、クロロホルムで溶出)で精製し、赤色固体N-(5-(2-ブロモ-2-メチルエチルカルボニルオキシ)ペンチル)-ビス(1,7-t-オクチルフェノキシ)ペリレン-3,4-ジカルボキシイミド-9,10-ジカルボン酸無水物(6)を収量96mg(0.092mmol)、収率5.2%で得た。
【0121】
開始剤(PEO114-pery-BMP)の合成
50mlナス型フラスコに、N-(5-(2-ブロモ-2-メチルエチルカルボニルオキシ)ペンチル)-ビス(1,7-t-オクチルフェノキシ)ペリレン-3,4-ジカルボキシイミド-9,10-ジカルボン酸無水物96mg(0.092mmol)、イミダゾール485mg (7.13mmol)、PEO114-NH2 558mg(0.11mmol)、クロロホルム15ml、N,N-ジメチルアセトアミド7.4mlを加え、100℃のオイルバス中で48時間加熱攪拌した。溶媒を留去し、クロロホルム50mlに溶解させ、水100mlで2回、飽和食塩水100mlで1回洗浄した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を留去して、得られた固体を分取クロマトグラフィー(日本分析工業製 JAIGEL-3HA 501202,501204,クロロホルムで溶出)で精製し、赤色の開始剤を収量485mg(0.079mmol)、収率86%で得た。
次いで、以下に示すチャートのようにして共重合体を作製した。
【0122】
【化31】

【0123】
凍結脱気されたアニソールに開始剤(PEO114-pery-BMP)及び液晶性モノマー(MA(Az))を溶解し、これに塩化銅(I)とN,N,N,N-ヘプタメチルトリエチレンテトラミン(HMTETA)ろから調製した錯体を加え、アルゴン下、80℃で1日加熱攪拌した。反応終了後、室温まで冷却し、空気中に暴露して反応を停止させた。反応溶液を塩基性アルミナ(MERCK社製、クロロホルムで溶出)ショートカラムクロマトグラフィーに通じて、錯体を除去し、溶出液から溶媒を留去した後、少量のクロロホルムに溶解させ、メタノール中で再沈澱させて精製した。その結果、分子量分布MW/MN= 1.15、重合度n = 50のブロック共重合体を得た。
【0124】
次いで、以下のようにして製膜を行った。
得られたブロック共重合体PEO114-pery-b-PMA(Az)50の2重量%クロロホルム溶液を調製し、シリコン基板上にスピンコートして薄膜を作成した。水面上で基板から剥離させたものを銅グリッド上にすくい取り、真空中140℃で熱処理した後、四酸化ルテニウムでPEOドメインを選択染色したものを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。結果を図2に示す。図2に示すように、得られたミクロ相分離構造膜には、ヘキサゴナルドットパターンが観測された。
また、ブロック共重合体PEO114-pery-b-PMA(Az)50の2重量%クロロホルム溶液を、シリコン基板上にバーコートしたサンプルを劈開して、断面を原子間力顕微鏡(AFM)によって観測したところ、図3に示したように、膜断面を貫通したシリンダー型の構造が観測された。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】得られたミクロ相分離構造膜の膜方向を観察した透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】得られたミクロ相分離構造膜の膜方向を観察した透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】得られたミクロ相分離構造膜の膜断面を観察した透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ポリマー成分及び疎水性ポリマー成分が、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を介して結合してなるブロック共重合体を含むミクロ相分離構造膜であって、
前記疎水性ポリマー成分からなるマトリックス内に、膜表面に対して垂直方向に配向した、前記親水性ポリマー成分からなるシリンダー構造を有し、前記マトリックスと前記シリンダー構造との間に、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を有することを特徴とするミクロ相分離構造膜。
【請求項2】
前記ブロック共重合体の親水性ポリマー成分が、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリルアミド)、又は親水性側鎖を有するポリ(アクリレート)、親水性側鎖を有するポリ(メタクリレート)であり、前記疎水性ポリマー成分がメソゲン側鎖、長鎖アルキル側鎖又は疎水性側鎖を有するポリ(アクリレート)又はポリ(メタクリレート)、ポリ(スチレン)、又はビニルポリマーである、請求項1記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項3】
前記共重合体の分子量分布(Mw/Mn)が1.4以下である、請求項1又は2記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項4】
前記共重合体が 下記一般式(1)で表される、請求項1記載のミクロ相分離構造膜。
【化1】

(式中、x及びzは、同一であっても、異なっていてもよく、それぞれ、5〜500の整数を表し、Aは、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を表わし、Rは下記一般式(2)、(3)又は(4)で表わされる置換基である。)
【化2】

(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【化3】

(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【化4】

(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【請求項5】
前記反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位が、下記式(5)〜(32)のいずれか表わされる、請求項1〜4のいずれか1項記載のミクロ相分離構造膜。
【化5−1】

【化5−2】

【化5−3】

【化5−4】

【化5−5】

【化5−6】

【化5−7】

【化5−8】

【化5−9】

【化5−10】

(式中、Rは反応性基を表し、Rは、シアノ基又はカルボン酸エステルを表わし、Fuはフラーレンを表し、b及びcは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、0〜4の整数を表わし、dは0〜3の整数を表し、e、f及びgは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ1〜10の整数を表し、Arは複数の芳香環からなる芳香族炭化水素又はキノン類を表し、Rは水素、又は芳香族炭化水素、又は複素環を表し、MはH又は金属イオンを表し、MLは遷移金属錯体を表し、Porはポルフィリン類を表し、Xは、水素、ハロゲン、又はアルキル基を有するフェノキシ基を表す。)
【請求項6】
前記反応性基が、下記からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項記載のミクロ相分離構造膜。
【化6】

(式中、Rは水素原子又はアルキル基を表す。)
【請求項7】
前記シリンダー構造が、六方細密型のシリンダー構造である、請求項1〜6のいずれか1抗記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項8】
基板の上に形成されてなる、請求項1〜7のいずれか1項記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載のミクロ相分離構造膜における前記シリンダー構造がエッチングによって空孔化されてなる多孔質構造体。
【請求項10】
親水性ポリマー成分及び疎水性ポリマー成分が、反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を介して結合してなるブロック共重合体を、該ブロック共重合体が溶解可能な溶媒に溶解し、ブロック共重合体溶液を調製する工程;
上記ブロック共重合体溶液を基板表面に塗布するか、上記ブロック共重合体溶液を、該溶液が溶解しない液体に滴下する工程;及び
上記溶媒を蒸発させて上記ブロック共重合体のミクロ相分離構造膜を形成する工程を有することを特徴とするミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項11】
前記ブロック共重合体の親水性ポリマー成分が、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリルアミド)、又は親水性側鎖を有するポリ(アクリレート)、親水性側鎖を有するポリ(メタクリレート)であり、前記疎水性ポリマー成分がメソゲン側鎖、長鎖アルキル側鎖又は疎水性側鎖を有するポリ(アクリレート)又はポリ(メタクリレート)、ポリ(スチレン)、又はビニルポリマーである、請求項1記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項12】
前記共重合体の分子量分布(Mw/Mn)が1.4以下である、請求項10又は11記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項13】
前記共重合体が 下記一般式(1)で表される、請求項10記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【化7】

(式中、x及びzは、同一であっても、異なっていてもよく、それぞれ、5〜500の整数を表し、Aは反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位を表わし、Rは下記一般式(2)、(3)又は(4)で表わされる置換基である。)
【化8】

(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【化9】

(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【化10】

(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【請求項14】
前記反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位が、下記式(5)〜(32)のいずれかで表わされる、請求項10〜13のいずれか1項記載のミクロ相分離構造膜。
【化11−1】

【化11−2】

【化11−3】

【化11−4】

【化11−5】

【化11−6】

【化11−7】

【化11−8】

【化11−9】

【化11−10】

(式中、Rは反応性基を表し、Rは、シアノ基又はカルボン酸エステルを表わし、Fuはフラーレンを表し、b及びcは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、0〜4の整数を表わし、dは0〜3の整数を表し、e、f及びgは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ1〜10の整数を表し、Arは複数の芳香環からなる芳香族炭化水素又はキノン類を表し、Rは水素、又は芳香族炭化水素、又は複素環を表し、MはH又は金属イオンを表し、MLは遷移金属錯体を表し、Porはポルフィリン類を表し、Xは、水素、ハロゲン、又はアルキル基を有するフェノキシ基を表す。)
【請求項15】
前記反応性基が、下記からなる群から選択される、請求項10〜14のいずれか1項記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【化12】

(式中、Rは水素原子又はアルキル基を表す。)
【請求項16】
前記基板が、疎水性物質からなる基板、又は表面を疎水化処理した基板である、請求項10〜15のいずれか1項記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項17】
前記ブロック共重合体溶液を、加熱処理して前記溶媒を蒸発させる、請求項10〜16のいずれか1項記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項18】
前記加熱処理に加え、基板表面の配向処理を施す、請求項17記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項19】
前記加熱処理の温度が、ブロック共重合体の融点より10℃低い温度から、分解温度より低い温度の範囲で実施される、請求項17又は18記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項20】
疎水性ポリマー成分を含有してなる多孔質構造体であって、複数の柱状の孔を有しており、かつ孔の表面に、反応性基を有する構成単位を有していることを特徴とする多孔質構造体。
【請求項21】
前記疎水性ポリマー成分がメソゲン側鎖、長鎖アルキル側鎖又は疎水性側鎖を有するポリ(アクリレート)又はポリ(メタクリレート)、ポリ(スチレン)、又はビニルポリマーである、請求項20記載の多孔質構造体。
【請求項22】
前記疎水性ポリマー成分重合体が、下記一般式で表される構造を含む、請求項20記載の多孔質構造体。
【化13】

(式中、zは5〜500の整数を表し、Rは下記一般式(2)、(3)又は(4)で表わされる置換基である。)
【化14】

(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【化15】

(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【化16】

(式中、aは0〜20の整数であり、Rは水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基である。)
【請求項23】
前記反応性基、電子受容体・電子供与体又は色素を有する構成単位が、下記式(5’)〜(22’)のいずれかで表わされる、請求項20〜22のいずれか1項記載の多孔質構造体。
【化17−1】

【化17−2】

【化17−3】

【化17−4】

【化17−5】

【化17−6】

(式中、Rは反応性基を表し、Rは、シアノ基又はカルボン酸エステルを表わし、b及びcは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、0〜4の整数を表わす。)
【請求項24】
前記反応性基が、下記からなる群から選択される、請求項20〜23のいずれか1項記載の多孔質構造体。
【化18】

(式中、Rは水素原子又はアルキル基を表す。)
【請求項25】
請求項20〜24のいずれか1項記載の多孔質膜構造体からなる燃料電池用高分子電解質。
【請求項26】
請求項25記載の燃料電池用高分子電解質を有する燃料電池。
【請求項27】
請求項10〜19のいずれか1項記載の方法によって得られたミクロ相分離構造膜における親水性ポリマー成分の部分をエッチングにより空孔化する工程を有する、多孔質構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−57519(P2009−57519A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227972(P2007−227972)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】