説明

ミシンの下糸ボビンの停止装置

【課題】 水平釜を用いたミシンにおいて、縫製終了後の糸を切断する為のミシンの糸切り時等にボビンの慣性による回転すなわち空転を強制的に停止させ、糸が弛むことを防止すること。
【解決手段】 内釜33内に揺動可能に設けた内釜レバー34と、内釜33の外方に装着されると共に前記内釜レバー34を押圧して揺動させる空転防止レバー8とを備えること。糸切断動作の後に前記内釜レバー34を揺動させて、該内釜レバー34の先端をボビン31に巻かれた下糸の表面に押圧状態で当接させること。これによって、慣性空転しようとするボビン31を停止させること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平釜を用いたミシンにおいて、縫製終了後の糸を切断する為のミシンの糸切り時等にボビンの慣性による回転すなわち空転を強制的に停止させ、糸が弛むことを防止するミシンの下糸ボビンの停止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水平釜を用いたミシンには、通常,糸切り装置が設けられており、必要に応じて、ボビンに巻き付けられている下糸を切断することがある。ミシンの動作中は、ボビンから常時下糸が引き出されるので、ボビンはその下糸の引き出しと共に回転する。この回転速度は、比較的速く、またボビンの材質がプラスチック等の合成樹脂で、表面が滑らかに形成されていることが多く、糸切り作業に入っても慣性力により回転し続けることが多い。このような、慣性による回転すなわち空転が行なわれると、下糸の切断作業時に入った直後でもボビンが慣性による回転動作を行い下糸に弛みができ、場合によっては、切断装置による下糸の切断が不完全になることもある。
【特許文献1】実用新案登録第2572662号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、ボビンが空転を防止する手段として、特許文献1が存在する。これは、上糸、下糸を捕捉し可動メスと固定メスで糸を切断した際、下糸引き出し動作終了後にボビンが慣性で空転しないようにしているものである。これによると、空転防止体やルーパ等の部品が内釜内部に入り込み、複雑な構造を構成し、他の部品との装着スペースとの干渉が多くなり、組立等も面倒且つ困難である。さらに、ボビンの慣性回転を停止させる空転防止体の接触も、ボビン本体と接触するために、そのボビンのフランジ部との接触となり、接触面積が小さく、不安定になり易い。したがって、ボビンの慣性回転の確実なる停止ができないおそれも十分にあり得る。本発明の目的は、上下糸の切断作業時にボビンの慣性回転を確実に停止させ、上下糸の切断時における糸の弛みを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明は、内釜内に揺動可能に設けた内釜レバーと、内釜の外方に装着されると共に前記内釜レバーを押圧して揺動させる空転防止レバーとを備え、糸切断動作の後に前記内釜レバーを揺動させて、該内釜レバーの先端をボビンに巻かれた下糸の表面に押圧状態で当接させることによって、慣性空転しようとするボビンを停止させてなることを特徴とするミシンの下糸ボビンの停止装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0005】
次に、請求項2の発明は、内釜内に揺動自在に装着されると共に揺動によってその自由端部がボビンに巻き付けられた下糸の表面に当接可能とした内釜レバーと、前記内釜の外部に揺動自在に装着されると共に,その揺動自由端部は前記内釜レバーを押圧して揺動させる空転防止レバーと、該空転防止レバーを揺動させる駆動手段が設けられ、該駆動手段は糸切断動作の後に前記空転防止レバーを揺動させることにより前記内釜レバーを揺動させてなてなることを特徴とするミシンの下糸ボビンの停止装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0006】
次に、請求項3の発明は、前述の構成において、前記空転防止レバーは、略L字又は略C字形状に屈曲形成されてなるミシンの下糸ボビンの停止装置としたことにより、上記課題を解決した。次に、請求項4の発明は、前記空転防止レバーの駆動手段は、空転防止腕,空転防止ロッド及び変換腕とソレノイドとから構成され、前記変換腕は前記ソレノイドにより揺動自在に連結され、前記空転防止腕は前記空転防止レバーの揺動操作自在に連結され、前記変換腕と空転防止腕は空転防止ロッドにて枢支連結され、該空転防止ロッドと変換腕とは、長孔とピンによる枢支連結とし、且つ前記空転防止ロッドと変換腕のピンにはばねが設けられ、該ばねを介して前記空転防止ロッドと変換腕とは常時相互に引き合うように弾性付勢されてなるミシンの下糸ボビンの停止装置としたことにより、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、内釜レバーの自由端部がボビンに巻き付けられた下糸の表面に当接可能となり、その当接によってボビンの慣性回転を停止させるものである。この停止動作は、内釜レバーとボビンとの当接状態を巻き付けられた糸を介して行なわれるので、確実に停止させることができる。又、この発明では、空転防止レバーは、略L字又は略C字形状に屈曲形成されているので、その自由端は、内釜内部に他の構成部材と干渉することなく、内釜レバーに当接させることができるものである。これによって、内釜レバー,空転防止レバー等の組付け作業も簡単になり、作業効率も向上させることができる。次に、本発明では、ボビンに巻き付けられた下糸の巻き量が変化しても、内釜レバーのボビンに巻き付けられた糸に対する押圧力を一定にして、常時,安定したボビンの停止を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本発明の構成は、主に内釜レバー34と、空転防止レバー8と、駆動手段とから構成される。さらに駆動手段は、空転防止腕27,空転防止ロッド24及び変換腕22とから構成される。図1において、針1の手前側に釜軸2を中心として回転する外釜3が設けられ、該外釜3の奥側上面に沿って左右方向に往復運動する捕捉部材4、可動メス5等からなる上下糸の捕捉切断手段が配置される。また、針1の奥側には、上下方向・水平方向に運動自在に配置された送り歯6が設けられている。その針1の手前側には外釜3をまたいで、捕捉部材4、可動メス5の運動方向に沿うように糸押さえ部材7等が配置される。
【0009】
内釜33の周壁上端には、図1(a),(b)に示すように、内釜レバー34が揺動自在に設けられている。該内釜レバー34は平面的にみて、略「C」,「つ」字状又は湾曲状に形成されたものであり、その内釜レバー34は、その一端側に揺動中心部34aが形成され、自由端側には、前記ボビン31に巻き付けられた下糸を押し付ける先端部34bが形成されている。該先端部34bは、レバー腕状片34cに対して略直角に屈曲形成されている。内釜レバー34は、常時は、揺動中心部34aの軸支箇所に設けた内蔵バネ34dによって、ボビン31から内釜レバー34の先端部34bが離れるように付勢されている〔図1(a)参照〕。また、内釜レバー34は、内釜33の内方に形成されたストッパー壁面部により内釜33の外周とほぼ同一位置に設けられている。
【0010】
次に、空転防止レバー8は、図1(a)に示すように、前記内釜33の外側に装着されている。そして、図1(b)に示すように、上記空転防止レバー8及び内釜33等がミシン本体のベッド14に内装されている。具体的には、前記空転防止レバー8は、前記内釜レバー34と略同様に、略「C」,「つ」又は湾曲状に形成された椀状片8cの一端側が揺動中心部8aであり、その自由端側が押圧端部8bとなっている。押圧端部8bは、前記揺動中心部8aを揺動中心として、その椀状片8cの自由端側と共に内釜33内に入り込むものである。
【0011】
そして、その空転防止レバー8の押圧端部8bが内釜33内に入り込むと共に前記押圧端部8bが前記内釜レバー34の椀状片34cに当接して押圧し、内釜レバー34をその揺動中心部34aを揺動中心として揺動させる〔図2(b)及び図3(b)参照〕。このように内釜レバー34と空転防止レバー8とは、別部材として、それぞれの個々に揺動するものであり、空転防止レバー8の揺動が内釜レバー34に揺動動作を伝達するものである。そして、内釜レバー34の先端部34bがボビン31のドラムに巻き付けられた下糸に当接し、ボビン31の慣性回転を停止させることができる。
【0012】
前記空転防止レバー8は、以下の駆動手段により揺動動作を受ける。その駆動手段は、図4,図5及び図6(a)等に示すように、空転防止腕27,空転防止ロッド24及び変換腕22とから構成される。まず、変換腕22は、平面的に見て略「L」字形状に形成された帯板状のリンク部材であり、その角部箇所が、前記ベッド14内部に水平方向にて揺動自在となるように、軸支されている(図4,図5参照)。その変換腕22の一端と、前記空転防止レバー8との間に、前記空転防止腕27,空転防止ロッド24により枢連結されている。
【0013】
その空転防止ロッド24は、往復運動するように構成されている。前記変換腕22は、ピン19とリンク20を介してソレノイド17のプランジャー17aと揺動自在に結合している〔図4,図5及び図6(b)参照〕。そして、軸21を介してベッド14に揺動自在に支持された変換腕22の一端とリンク20とがピン22aとE型止め輪23により揺動自在に結合されている。その変換腕22の他端に固定したピン22bには、前記空転防止ロッド24と枢支連結されている。
【0014】
ボビン空転防止の駆動源となるソレノイド17は、取付け板18によりベッド14内に固定されている(図4,図5参照)。前記ソレノイド17のプランジャー17aは、ピン19によりリンク20を揺動自在に結合し、該リンク20は軸21によりベッド14に揺動自在に支持された変換腕22の一端で変換腕22に固定されたピン22aとE型止め輪23により揺動自在に結合されている。その変換腕22の他端に固定したピン22bには、空転防止ロッド24が長穴部24aで枢支連結し、E型止め輪25により摺動自在に連結されている。
【0015】
そして、前記空転防止ロッド24の係止穴24bと前記変換腕22側のピン22bとの間にバネ26が掛けられ、両者を引き寄せる方向に付勢した実施形態が存在する(図4乃至図6参照)。前記空転防止ロッド24の他端は釜室カバー9(図示なし)に揺動自在に支持された空転防止腕27の一端に固定されたピン27aにE型止め輪28により揺動自在に結合されている。その軸21に保持されたバネ30は、その両端をベッド14の凸部14aと変換腕22の腕端22cに掛けてあり、変換腕22を前記内釜レバー34のブレーキの役目を解除させる方向に弾性付勢され、具体的には、図4乃至図6(a)においては、時計回りに付勢されている。
【0016】
よって、図2,図3においては、前記空転防止腕27も空転防止ロッド24を介して反時計回りに付勢されている。前記釜取付け板29には、釜軸2を中心に回転運動する外釜3が支持されており、該外釜3には内釜(図示なし)及びボビン31が収納されている。図2(a),図3(a)は、ソレノイド17がオフ(OFF)状態、即ちボビン31に対する空転防止機能が働いていない各機構の状態を示す。また、図2(b)と図3(b)は、ソレノイド17がON状態、即ちボビン31の空転防止機能が働いている各機構の状態を示す。
【0017】
図4は、内釜レバー34がボビン31の巻き付けられた糸から離間し、空転防止機能が働いていない状態〔図2(a),図3(a)参照〕における状態をミシン本体のベッド14を下面側から見たものである。この状態において、前記ソレノイド17は、オフ(OFF)状態であり、前記空転防止腕27は、前記空転防止ロッド24を介して前記空転防止レバー8を内釜レバー34から離間させるように付勢される。具体的には、図2(a),図3(a)において、反時計回りに付勢され、軸8dを介して空転防止腕27に連結された空転防止レバー8も反時計回りに付勢され、釜室カバー9の凸部ストッパー9aで留まっている。その内釜33には、前記内釜レバー34が前記内蔵バネ34dにより、前記ボビン31に巻き付けられた糸から離間するように付勢される。具体的には、図2(a),図3(a)に示すように、時計回りに付勢され、先端部34bで内釜凹部に接触して留まっている。前記ボビン31に巻かれた下糸35は、内釜糸道を経由して針板の針穴36へ通じている。
【0018】
この下糸35の経路へ捕捉部材4が右から左へ移動しながら下糸35を捕捉し、糸切り位置へ導くことになる。図2(b)は、前記捕捉部材4によって、下糸35を前記可動メス5が固定メス32と噛合う位置まで移動させた状態を示す。この位置で上糸・下糸が切断され、この時点で前記ソレノイド17がオン(ON)状態となる。図5では、前記ソレノイド17がオン(ON)状態を示し、プランジャー17aは、前記バネ30に抗して吸引され、前記変換腕22,前記空転防止ロッド24,空転防止腕27を介して空転防止レバー8が回転し〔図2(b),図3(b)参照〕、その押圧端部8bが内釜レバー34の椀状片を押圧してボビン31に巻き付けられた糸を押さえ付けてボビン31の慣性回転(空転)を停止させる状態を示したものである。
【0019】
そのボビン31に巻いた下糸35の残量は減少し、ミシンを使う中で変化していくので、内釜レバー34の押圧端部が下糸35の巻付外周に当たる位置も時々変化する。その為に、前述したように、図4において前記変換腕22と前記空転防止ロッド24との枢支連結箇所で、単に丸穴とピンとによる枢支連結とせず、前記変換腕22側にピンを設け、前記空転防止ロッド24側に長穴部24aを設け、両者をバネ26で引き合う方向に付勢する実施形態とすることで、実質的には、前記長穴部24aの範囲内で、変換腕22がバネ26の引張力で空転防止ロッド24を引き付けることになる。
【0020】
そして、前記ソレノイド17のプランジャー17aの一定の吸引量に対して、前記バネ26の一定の弾性力のみが空転防止ロッド24,空転防止レバー8及び内釜レバー34に伝達され、内釜レバー34のボビン31に対する押圧力を常時一定にすることができ、下糸巻き量が変化しても、内釜レバー34のボビン31に対する制動力を常時一定にすることができる。
【0021】
以上の構成により、糸切り時に捕捉部材4に捕捉された下糸35が糸切り位置まで引き出される際のボビン31の回転を、糸切断後に内釜レバー34でブレーキを掛けることによりボビン31の不要な空転を防止する。そして、空転が停止した後、ブレーキを解除する。これにより、ボビン31に巻かれた下糸35の異常な弛み現象を防止し、糸切り後の正常な縫製上がりを得るようにした。
【0022】
本発明における停止装置は、糸切り機構と共に使用される。その糸切り機構は、可動メス5と該可動メス5と共に糸切断を行なう固定メス32とからなる切断手段と、前記可動メス5と共に水平往復運動してその復動時にのみ糸を捕捉且つ前記固定メス32による糸切り位置まで前記糸を案内する捕捉部材を有する捕捉手段とから構成されている。そして、前記捕捉部材4、可動メス5は、左右方向に往復運動を行い、その復動時に前記捕捉部材4が糸を捕捉し、可動メス5と共に固定メス32に向かって移動し、可動メス5と固定メス32によって糸を切断する。また、図4,図5において、符号15は、前記ベッド14内部に装着された下軸である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は本発明における外釜周辺の平面図、(b)は外釜周辺の斜視図である。
【図2】(a)は内釜レバーのボビンに対する非停止動作状態を示す平面図、(b)は内釜レバーのボビンに対する停止動作状態を示す平面図である。
【図3】(a)は内釜レバーのボビンに対する非停止動作状態機構を示す拡大平面図、(b)は内釜レバーのボビンに対する停止動作状態機構を示す拡大平面図である。
【図4】ベッド底面側から見たボビンの非停止動作状態における駆動手段の平面図である。
【図5】ベッド底面側から見たボビンの停止動作状態における駆動手段の平面図である。
【図6】(a)は図5のイ部拡大図、(b)は(a)のロ部拡大図である。
【符号の説明】
【0024】
8…空転防止レバー、17…ソレノイド、22…変換腕、24…空転防止ロッド、
26…バネ、27…空転防止腕、31…ボビン、33…内釜、34…内釜レバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内釜内に揺動可能に設けた内釜レバーと、内釜の外方に装着されると共に前記内釜レバーを押圧して揺動させる空転防止レバーとを備え、糸切断動作の後に前記内釜レバーを揺動させて、該内釜レバーの先端をボビンに巻かれた下糸の表面に押圧状態で当接させることによって、慣性空転しようとするボビンを停止させてなることを特徴とするミシンの下糸ボビンの停止装置。
【請求項2】
内釜内に揺動自在に装着されると共に揺動によってその自由端部がボビンに巻き付けられた下糸の表面に当接可能とした内釜レバーと、前記内釜の外部に揺動自在に装着されると共に,その揺動自由端部は前記内釜レバーを押圧して揺動させる空転防止レバーと、該空転防止レバーを揺動させる駆動手段が設けられ、該駆動手段は糸切断動作の後に前記空転防止レバーを揺動させることにより前記内釜レバーを揺動させてなることを特徴とするミシンの下糸ボビンの停止装置。
【請求項3】
前記空転防止レバーは、略L字又は略C字形状に屈曲形成されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載のミシンの下糸ボビンの停止装置。
【請求項4】
前記空転防止レバーの駆動手段は、空転防止腕,空転防止ロッド及び変換腕とソレノイドとから構成され、前記変換腕は前記ソレノイドにより揺動自在に連結され、前記空転防止腕は前記空転防止レバーの揺動操作自在に連結され、前記変換腕と空転防止腕は空転防止ロッドにて枢支連結され、該空転防止ロッドと変換腕とは、長孔とピンによる枢支連結とし、且つ前記空転防止ロッドと変換腕のピンにはばねが設けられ、該ばねを介して前記空転防止ロッドと変換腕とは常時相互に引き合うように弾性付勢されてなることを特徴とする請求項1,2又は3に記載のミシンの下糸ボビンの停止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−7220(P2007−7220A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193198(P2005−193198)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000002244)蛇の目ミシン工業株式会社 (79)
【Fターム(参考)】