説明

ミシン刺繍押さえ及びミシン

【課題】刺繍押さえを押さえ棒に取り付けたり取り外したりする作業を容易にできるミシン刺繍押さえおよびミシンを提供する。
【解決手段】刺繍押さえ3は、押さえ棒13の下部に取付具により取り付けられる押さえホルダ31と、押さえホルダ31に取り付けられ昇降する操作腕39と、操作腕39と共に連動するように押さえホルダ31に昇降可能に保持されミシンの針板23に対面する押さえ足33と、押さえホルダ31に設けられ押さえ足33を針板23に向けて付勢する付勢力をもつ押さえバネ34と、副レバー4とを有する。副レバー4は、押さえホルダ31に回動可能に設けられている。副レバー4は、回動に伴い操作腕39を昇降させるカムプロフィールをもつカム面42と、操作腕39を係合させて押さえ足33を押さえホルダ31側に移動させて針板23から浮上させる第1高さ位置M1に仮固定させる固定溝44とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はミシンの昇降可能な押さえ棒に取り付けられる刺繍押さえ及びミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は刺繍ミシンの布押さえ機構を開示する。このものは、押さえ棒と、押さえ棒に固定された支持部材と、支持部材に昇降可能に支持された被案内軸と押さえ足とをもつ押さえ足部材と、支持部材に枢支ピンを介して揺動可能に支持された上下駆動レバーと、被案内軸の外周側に嵌合され上下駆動レバーを下方に付勢する圧縮コイルバネとを有する。刺繍時において針留めの昇降を上下駆動レバーが拾う。
【0003】
特許文献2は刺繍ミシンの刺繍押さえを開示する。このものは、押さえ棒を昇降させるために押さえ上げレバーの手動操作により、押さえ棒を上昇させる。このと、押さえ上動用回動レバーの当接部がミシン機枠と当接することで、布押さえ部を有する押さえ足部材をホルダ部材に対して相対的に上昇させる押さえ上げ機構が設けられている。このものによれば、押さえ上げレバーの操作により押さえ棒を上昇させたとき、布押さえ部の上昇ストロークを拡大できる。
【0004】
特許文献3は、ミシンの針を包囲するように設けられた安全カバーを開示する。このものによれば、安全カバーはミシンのベッド部に取り付けられており、ユーザの指が針に触れることが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−58360号公報
【特許文献2】特開2006−263170号公報
【特許文献3】特開2006−263272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した文献に係る技術によれば、刺繍押さえをミシンの押さえ棒に取り付けたり取り外したりする作業のときには、押さえ足は針板側に大きく突出しており、刺繍押さえの高さ寸法が大きく、作業は必ずしも容易ではなかった。
【0007】
特許文献1によれば、ユーザが刺繍枠を通すためには、ミシンの押さえ上げレバーの操作と、刺繍押さえレバーの操作との操作が必要とされ、作業性が悪い。特許文献2によれば、押さえ棒が1段目保持位置であると、刺繍押さえの押さえ足を上昇させるレバーがミシン機枠に触れるため、ユーザがレバーを手で押さえて取り付ける必要があり、作業性が悪い。更に、押さえ棒がゼロ段保持位置であると、刺繍押さえの押さえ足が針板に接触するため、ユーザは、刺繍押さえの押さえ足を手で必ず押さえ、押さえ足が針板に接触しないようにしなければならず、作業性が悪い。
【0008】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、刺繍押さえを押さえ棒に取り付けたり取り外したりする作業を容易にできるミシン刺繍押さえ及びミシンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る様相1のミシン刺繍押さえは、針を保持する針留めをもち高さ方向に昇降可能な針棒と、高さ方向に昇降可能な押さえ棒と、押さえ棒を昇降させるための押さえ上げレバーとをもつミシンのうち、押さえ棒に取り付けられるミシン刺繍押さえであって、
(i)押さえ棒の下部に取付具により取り付けられる押さえホルダと、
(ii)押さえホルダに取り付けられ針棒または針留めに持ち上げられて高さ方向に昇降する操作腕と、
(iii)操作腕と共に連動するように押さえホルダに昇降可能に保持されミシンの針板に対面すると共に被裁縫物を押さえる押さえ足と、
(iv)押さえホルダに設けられ押さえ足を針板に向けて付勢する付勢力をもつ押さえバネと、
(v)押さえホルダに回動可能に設けられ、回動に伴い操作腕を昇降させるカムプロフィールをもつカム面と操作腕を係合させて前記押さえ足を押さえホルダ側に移動させて針板から浮上させる第1高さ位置に仮固定させる固定溝とユーザの指により操作される操作部とをもつ副レバーとを具備することを特徴とする。
【0010】
刺繍押さえを押さえ棒に取り付けるとき、刺繍押さえの操作腕が副レバーの固定溝に係合して仮固定されていれば、押さえ足は押さえホルダ側に移動し、刺繍押さえの全体の高さ寸法は縮んでいる。すなわち、押さえ足は針板側に大きく突出しないように押さえホルダ側に移動した状態で仮固定されている。このため刺繍押さえを押さえ棒に取り付けるとき、その取り付け作業性は容易となる。更に、刺繍押さえの操作腕が副レバーの固定溝に係合して仮固定されていれば、副レバーの回動位置は自由回動しないように押さえホルダに保持されており、刺繍押さえを押さえ棒に取り付けるとき、副レバーの自由回動が抑えられ、刺繍押さえを押さえ棒に取り付ける取付作業が更に容易となる。
【0011】
更に、高さ寸法が縮んだ刺繍押さえを押さえ棒に取り付ければ、刺繍押さえと針板との間に広めの隙間が自動的に形成されるため、刺繍押さえをユーザが手作業で逐一刺繍押さえを上昇させずとも良く、その隙間に刺繍枠を通して容易にセットできる。
【0012】
また、押さえ棒に取り付けられている刺繍押さえを取り外すときにおいても、刺繍押さえの操作腕が副レバーの固定溝に係合して仮固定されていれば、押さえ足は押さえホルダ側に移動し、刺繍押さえの全体の高さ寸法は縮んでいる。すなわち、押さえ足は針板側に大きく突出しないように押さえホルダ側に移動している。このため刺繍押さえを押さえ棒から取り外すとき、その取り外し作業性は容易となる。更に、刺繍押さえの操作腕が副レバーの固定溝に係合して仮固定されていれば、副レバーの回動位置は自由回動しないように押さえホルダに保持されており、刺繍押さえを押さえ棒から取り外すとき、その取付外し作業が更に容易となる。
【0013】
(2)本発明に係る様相2のミシン刺繍押さえによれば、上記様相において、刺繍押さえの操作腕は、針棒が針留めと共に昇降するとき、針留めに載せられて針留めと共に針棒の昇降に連動して高さ方向に昇降可能とされており、押さえ足は操作腕に連動して高さ方向に昇降することを特徴とする。この場合、針棒の昇降につれて針留めが昇降し、ひいては刺繍押さえが昇降される。刺繍押さえの昇降により、針板上の布等の被裁縫物の移動性が確保される。
【0014】
(3)本発明に係る様相3のミシン刺繍押さえによれば、上記様相において、操作腕は、昇降する針留めの上死点よりも所定量ΔH下方に位置されており、針留めの下死点からの上死点への上昇量に対して、操作腕の上昇量は少なく設定されていることを特徴とする。
刺繍時において針棒と共に針留めが高さ方向(矢印H方向)に昇降したとしても、針留めにより持ち上げられる刺繍押さえの持ち上げ量は、針留めの昇降量に比較して少ない。このため、刺繍等の縫製時において、刺繍押さえの昇降がユーザの目障りになることが抑えられる。
【0015】
(4)本発明に係る様相4のミシン刺繍押さえによれば、上記様相において、押さえ足を前記ミシンのベッドの針板に向けて下降回動させて刺繍可能位置とさせる方向に副レバーを常時に付勢させる第1バネが設けられていることを特徴とする。操作腕と固定溝との仮固定が解除されると、第1バネにより副レバーは自動的に刺繍可能位置に設定されるので、操作性が良い。
【0016】
(5)本発明に係る様相5のミシン刺繍押さえによれば、上記様相において、刺繍押さえの押さえ足は、刺繍を行う刺繍高さ位置と、刺繍高さ位置よりも高く針板から浮上する第1高さ位置と、第1高さ位置よりも高く針板から浮上する第2高さ位置に副レバーの回動操作により昇降可能とされており、副レバーのカム面のカムプロフィールは、ユーザによる副レバーの回転操作に伴い、押さえ足を、刺繍高さ位置、第1高さ位置、前記第2高さ位置に順に上昇させ、且つ、ユーザによる副レバーの回転操作が解除されると、操作腕を針板に向けて下降させることを特徴とする。本様相によれば、副レバーが回動操作されると、副レバーのカム面のカムプロフィールは、押さえ足を、刺繍高さ位置、第1高さ位置、前記第2高さ位置に順に上昇させることができる。また、ユーザによる副レバーの回転操作が解除されると、操作腕を針板に向けて下降させる。
【0017】
(6)本発明に係る様相6のミシン刺繍押さえによれば、上記様相において、押さえ足は、ミシンを操作するユーザに対面するように立設された透明なカバー壁をもつことを特徴とする。刺繍押さえは透明なカバー壁をもつため、刺繍等の裁縫を行うとき、ユーザの指が誤って針に接触することが抑えられ、ユーザ保護性を高め得る。更に、刺繍中に針が折れた場合であっても、折れて飛散する針に対して障壁性を高めることができ、折れた針がユーザ側に飛散することもカバー壁により抑えられる。かかる意味においてもユーザ保護性を高め得る。特許文献3のようにベッド側にカバー壁が取り付けられることも考えられるが、この場合には、刺繍押さえの取り付け作業と、カバー壁の取り付け作業との双方が必要とされる。しかし本様相によれば、透明なカバー壁は刺繍押さえと一体化されているため、刺繍押さえを押さえ棒に取り付ければ、ユーザ保護用の透明なカバー壁を自動的に取り付けることができ、作業性が良い。
【0018】
(7)本発明に係る様相7のミシンは、針を保持する針留めをもち高さ方向に昇降可能な針棒と、高さ方向に昇降可能な押さえ棒と、押さえ棒を昇降させるための押さえ上げレバーと、押さえ棒に取り付けられるミシン刺繍押さえとを具備するミシンであって、
ミシン刺繍押さえは、
(i)押さえ棒の下部に取付具により取り付けられる押さえホルダと、
(ii)押さえホルダに取り付けられ針棒または針留めに持ち上げられて高さ方向に昇降する操作腕と、
(iii)操作腕と共に連動するように押さえホルダに昇降可能に保持されミシンの針板に対面すると共に被裁縫物を押さえる押さえ足と、
(iv)押さえホルダに設けられ押さえ足を針板に向けて付勢する付勢力をもつ押さえバネと、
(v)押さえホルダに回動可能に設けられ、回動に伴い操作腕を昇降させるカムプロフィールをもつカム面と操作腕を係合させて前記押さえ足を押さえホルダ側に移動させて針板から浮上させる第1高さ位置に仮固定させる固定溝とユーザの指により操作される操作部とをもつ副レバーとを具備することを特徴とする。
【0019】
刺繍押さえを押さえ棒に取り付けるとき、刺繍押さえの操作腕が副レバーの固定溝に係合して仮固定されていれば、押さえ足は押さえホルダ側に移動し、刺繍押さえの全体の高さ寸法は縮んでいる。すなわち、押さえ足は針板側に大きく突出しないように押さえホルダ側に移動した状態で仮固定されている。このため刺繍押さえを押さえ棒に取り付けるとき、その取り付け作業性は容易となる。更に、刺繍押さえの操作腕が副レバーの固定溝に係合して仮固定されていれば、副レバーの回動位置は自由回動しないように押さえホルダに保持されており、刺繍押さえを押さえ棒に取り付けるとき、副レバーの自由回動が抑えられ、刺繍押さえを押さえ棒に取り付ける取付作業が更に容易となる。
【0020】
更に、高さ寸法が縮んだ刺繍押さえを押さえ棒に取り付ければ、刺繍押さえと針板との間に広めの隙間が自動的に形成されるため、刺繍押さえをユーザが手作業で逐一刺繍押さえを上昇させずとも良く、その隙間に刺繍枠を通して容易にセットできる。
【0021】
また、押さえ棒に取り付けられている刺繍押さえを取り外すときにおいても、刺繍押さえの操作腕が副レバーの固定溝に係合して仮固定されていれば、押さえ足は押さえホルダ側に移動し、刺繍押さえの全体の高さ寸法は縮んでいる。すなわち、押さえ足は針板側に大きく突出しないように押さえホルダ側に移動している。このため刺繍押さえを押さえ棒から取り外すとき、その取り外し作業性は容易となる。更に、刺繍押さえの操作腕が副レバーの固定溝に係合して仮固定されていれば、副レバーの回動位置は自由回動しないように押さえホルダに保持されており、刺繍押さえを押さえ棒から取り外すとき、その取付外し作業が更に容易となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、刺繍押さえを押さえ棒に取り付けたり取り外したりするにあたり、刺繍押さえの操作腕を副レバーの固定溝に係合して仮固定させれば、刺繍押さえの押さえ足は押さえホルダ側に移動し、刺繍押さえの全体の高さ寸法は縮んでいる。このため刺繍押さえの取り付け作業、取り外し作業を容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】刺繍押さえが押さえ棒に取り付けられている状態をミシン正面側から視認する斜視図である。
【図2】刺繍押さえが押さえ棒に取り付けられている状態をミシン裏面側から視認する斜視図である。
【図3】刺繍押さえを分解した状態を示す斜視図である。
【図4】刺繍押さえを組み立てた状態を示す斜視図である。
【図5】(a)は刺繍裁縫の状態を示す正面図であり、(b)は刺繍裁縫の状態を示す側面図である。
【図6】(a)は刺繍押さえ着脱時の状態を示す正面図であり、(b)は刺繍押さえ着脱時の状態を示す側面図である。
【図7】(a)は刺繍枠通過時の状態を示す正面図であり、(b)は刺繍枠通過時の状態を示す側面図である。
【図8】(a)はユーザエラーにより図6の状態の押さえ上げレバーを2段目から1段目に下降させた状態を示す側面図であり、(b)はユーザエラーにより図6の状態の押さえ上げレバーを2段目から0段目に下降させた状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
押さえホルダは、押さえ棒の下部に取付具により取り付けられる。操作腕は、押さえホルダに取り付けられるものであり、針棒の一部または針留めに持ち上げられて高さ方向に昇降する。押さえ足は、操作腕と共に連動するように押さえホルダに昇降可能に保持されており、ミシンの針板に対面すると共に被裁縫物を押さえる。押さえバネは、押さえホルダに設けられており、押さえ足を針板に向けて付勢する付勢力をもつ。副レバーは、押さえホルダに回動可能に設けられる。副レバーは、回動に伴い操作腕を昇降させるカムプロフィールをもつカム面と、操作腕を係合させて押さえ足を押さえホルダ側に移動させて針板から浮上させる第1高さ位置に仮固定させる固定溝と、ユーザの指により操作される操作部とをもつ。
【0025】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、ミシンの押さえ棒13の下端部13dに刺繍押さえ3を取り付けた状態を正面から示す。図2は、当該状態を裏面から示す。ミシンはマイコンを搭載しており、図1,図2に示すように、針10を保持する針留め11を止め具12により保持する高さ方向(矢印H方向)に沿って昇降可能な針棒1と、高さ方向に昇降可能な押さえ棒13と、押さえ棒13を矢印H方向に昇降させるためにユーザが指先で回転操作する押さえ上げレバー14と、針棒1、押さえ棒13および押さえ上げバー14を保持するミシン本体2と、押さえ棒13の下端部13dに取付具(螺子)30により着脱可能に取り付けられた刺繍押さえ3とを有する。刺繍押さえ3は、刺繍時に、刺繍を行う被裁縫物としての布、その布に形成された刺繍を適宜押さえるものである。
【0026】
図1に示すように、主バネ15はミシン本体2のミシン機枠21の着座部21aに着座されており、押さえ棒13を下方(矢印D方向)に常時付勢させる付勢力を示す。なお、図1に示すように、刺繍押さえ3の構成要素である操作腕39は、針留め11の上側に位置しており、針棒1と共に昇降する針留め11の矢印U方向への上昇により持ち上げられる。針棒1が昇降するとき、操作腕39は、針留め11に載せられて針留め11と共に針棒1に連動して高さ方向(矢印H方向)に昇降可能とされている。従って、押さえ足33をもつ刺繍押さえ3は、操作腕39の昇降に連動して高さ方向に昇降する。針棒1の昇降は検知部20により検知され、検知信号はマイコンに入力される。
【0027】
ユーザが押さえ上げレバー14を操作すると、それに連動して押さえ棒13は連動して矢印H方向において昇降する。ユーザが押さえ上げレバー14を操作すると、矢印H方向において、押さえ棒13を、通常の裁縫位置である0段目と、0段目よりも上方の1段目と、1段目よりも上方の2段目とに押さえ上げレバー14により固定的に仮固定できる。上糸張力調整装置(図略)はミシン本体2に搭載されており、0段目では、通常の裁縫を実行できるように、上糸を有効(上糸の張力有り状態)とさせ、1段目では、上糸を無効(上糸の張力なし状態)とさせ、2段目では、上糸を有効(上糸の張力有り状態)とさせる。このように押さえ上げレバー14および押さえ棒13が0段目のとき、押さえ棒13が1段目よりも下降しており、通常の裁縫を行い得る。押さえ上げレバー14および押さえ棒13が1段目のとき、上糸は無効とされて上糸の張力が無くなるため、ユーザは被裁縫物としての布を針板23上において任意に移動させ得る。押さえ上げレバー14および押さえ棒13が2段目のとき、押さえ棒13が1段目よりも上昇しているため、押さえ棒13の下端部が上昇しており、刺繍枠と押さえ棒13の下端部との接触をユーザは気にすることなく、刺繍枠を針板23上で任意に移動させてフリーハンド刺繍(刺繍枠をユーザが手で移動させて刺繍させるモード)を行うことができる。このような機能をもつミシンにおいて、刺繍を行うとき、押さえ棒13の下端部に本実施形態に係る刺繍押さえ3は着脱可能に装備される。本実施形態によれば、一般的には、本実施形態に係る刺繍押さえ3を押さえ棒13の下端部13dに取付具30で取り付けるとき、押さえ上げレバー14は2段目S2に設定されており、押さえ棒13は矢印H方向において2段目(図5参照)に上昇されている。その主たる理由としては、刺繍時には押さえ上げレバー14を2段目S2に設定すること、および、針板23と押さえ棒13の下端部との空間を増加し、取り付け作業を容易にするためである。
【0028】
図3は刺繍押さえ3を分解した状態を示す。図4は刺繍押さえ3を組み立てた状態を示す。刺繍押さえ3は、押さえ棒13の下端部3dに取付具30により取り付けられる押さえホルダ31と、押さえホルダ31に取り付けられ針棒1および針留め11と共に高さ方向(矢印H方向)に昇降する操作腕39と、押さえホルダ31に対して昇降可能に保持され被縫製物を押さえるための押さえ足33と、押さえホルダ31に取り付けられるコイル状の押さえバネ34と、押さえホルダ31に回動可能に設けられユーザが指で回動操作する副レバー4とを有する。
【0029】
図3に示すように、押さえホルダ31は、高さ方向(矢印H方向)に延びる長孔31aと、上通孔31bをもつ上鍔部31cと、下通孔31eをもつ下鍔部31fと、枢支軸32hと、ストッパ32sと、取付具30が螺合により取り付けられる固定部32tとを有する。図3に示すように、副レバー4は、副レバー4の回転中心を形成する枢支孔40を形成する筒部40cと、回動に伴い操作腕39を昇降させるカムプロフィールをもつカム面42と、カム面42に形成された固定溝44と、ユーザの指で操作される操作部45とを有する。カム面42は、固定溝44の両側にカム面42a,42bをもつ。
【0030】
ホルダ31と副レバー4との間に第1バネ46が介在するように、枢支孔40と枢支軸32hとが回転可能に嵌合して副レバー4がホルダ31に取り付けられる。第1バネ46はねじりコイルバネであり、ホルダ31に係止されるアーム46aと、副レバー4に係止されるアーム46cとをもつ。第1バネ46は、副レバー4の操作部45を下方(図4の矢印F方向)に付勢させる付勢力を発揮する。これにより第1バネ46は押さえ足33を針板23(図5〜図8参照)に向けて下方(矢印D方向)に向けて常時付勢させる付勢力を発揮する。なお、第1バネ46により付勢された副レバー4は、これの被ストッパ4sがストッパ32sに当接するまで下方(矢印F方向)に回動される。
【0031】
押さえ足33は透明な材料(例えば透明樹脂,透明は透明度が高い方が好ましい)で形成されており、図3に示すように、押さえ軸35の下端部35pが嵌合される軸孔33aをもつ軸部33bと、針が挿入される針孔33cをもつ底部33eと、底部33eよりも上方に立設されユーザに対面する透明なカバー壁33hとを有する。カバー壁33hは透明であるため、針元への視認性が確保される。更に、カバー壁33hは、ユーザの指が針などに触れないようにする。更には、針が折損するときにおいて、針のユーザへの飛散が抑えられる。カバー壁33hは、ミシンの正面に位置するユーザに対向しているものの、側方(図4に示す矢印X方向)には形成されていないため、針10への糸通し作業に支障をきたさない。
【0032】
図3に示すように、押さえ軸35は高さ方向に延設されており、上孔35aと、止め輪35bを嵌合する係止溝35cと、下孔35dとを、押さえ軸35の上端から下端にかけて順に有する。スプリングピン37は、押さえ足33の取付孔33xおよび押さえ軸35の下孔35dに挿入され、これにより押さえ足33は押さえ軸35の下端部35pに取り付けられている。なお押さえ足33と押さえ軸35とを一体成形しても良い。上鍔部31cと下鍔部31fとの間にコイル状の押さえバネ34が介在した状態で、下通孔32eおよび上通孔31bに押さえ軸35の上部が嵌合されている。押さえバネ34はコイルバネで形成されており、止め輪35bと上鍔部31cとの間において弾性収縮可能に圧縮されており、押さえ棒13ひいては押さえ足33を下方(矢印D方向)に、つまり針板に向けて付勢させる付勢力を発揮する。
【0033】
図3に示すように、操作腕39は、曲成部39aによりクランク状に曲成されており、先端部39cと基端部39dとをもつ。必ずしも曲成されていなくても良い。操作腕39の先端部39cは、押さえ軸35の上孔35aに挿入され、更に、長孔31aを副レバー4側に向けて貫通している。先端部39cは長孔31aに嵌合されているため、長孔31aに沿って高さ方向(矢印H方向)に昇降できるものの、横方向への変位は抑制され、押さえ軸35は中心軸方向には回動しない。
【0034】
図4に示すように、刺繍押さえ3が組み付けられた状態では、操作腕39の先端部39cは、押さえ軸35の上端部35uと共に上鍔部31cから上方に露出している。更に操作腕39の先端部39cは、副レバー4のカム面42の上方に位置した状態でカム面42に対面している。このとき図4から理解できるように、コイル状の押さえバネ34の付勢力は下方(矢印D方向)に作用するため、押さえ軸35の止め輪35bは下鍔部31fの上面に当たり、操作部45の先端部39cは上鍔部31cの上面に当たる。この状態で先端部39cは副レバー4のカム面42に対面している(図4参照)。
【0035】
このため副レバー4が枢支孔40を中心として矢印B方向,矢印F方向に回動操作されるとき、カム面42は操作部45の先端部39cを長孔31aに沿って高さ方向(矢印H方向)に昇降させることができる。操作部45の先端部39cが長孔31aに沿って昇降すると、押さえ軸35および押さえ足33が同方向に連動して昇降する。操作腕39の先端部39cは、カム面42に沿って移動しつつ固定溝44に係合して固定溝44に仮固定可能とされている。後述するように、固定溝44は、操作腕39の先端部39cを係合させて押さえ足33をこれの第1高さ位置M1に仮固定させる。第1高さ位置M1では、押さえ足33の底部33eは針板23から隙間寸法B5浮上された状態に維持される(図6の(a)(b)参照)。
【0036】
次に、刺繍押さえ3の取付形態および使用形態について図5〜図7を参照しつつ説明する。図5〜図7においていずれも、押さえ上げレバー14は2段目S2に設定され、押さえ棒13は2段目の高さ位置に保持されて針板23よりも浮上している。
【0037】
図5は、第1バネ46により副レバー4が下方に下げられて刺繍可能位置P1に設定されている状態を示す。副レバー4が刺繍可能位置P1に設定されているとき、押さえバネ34の付勢力で押さえ足33の底部33eを下方(矢印D方向)に付勢して針板23に押しつけている。従って、押さえ足33の底部33eと針板23とで、布(被裁縫物)は挟まれて固定される。図5に示すように副レバー4が刺繍可能位置P1に設定されているときには、副レバー4のカム面42と操作腕39の先端部39cの間には隙間寸法A3(図5の(b)参照)が発生している。従って、先端部39cはカム面42の上方に位置しつつカム面42に非接触である。このように副レバー4が刺繍可能位置P1(図5の(b)参照)では、操作腕39の先端部39cと長孔31aの上端31auとの間には、距離W1(図5の(b)参照)が形成されている。このため操作腕39はホルダ31の長孔31aに沿って更に上昇できるため、押さえ足33は更に相対的に上昇できる。図5に示すように副レバー4が刺繍可能位置P1に設定されているとき、ミシンが起動すると、従来技術と同様に、針棒1の上下動の1サイクルの間に、押さえ足33は1度は上昇して針板23上の布を押さえる力がなくなるため、ユーザは、布に刺繍しつつ、針板23上の布を自由に移動させることができ、刺繍等の裁縫が可能となる。
【0038】
図5に示すように副レバー4が刺繍可能位置P1に設定されているときにおいて、もし、刺繍等の裁縫が行われるととき、押さえ足33の昇降量が大きいと、押さえ足33が矢印H方向に大きく昇降するため、ユーザの目障りとなるおそれがある。この点本実施形態によれば、図1に示すように、針留め11は、これの下死点と上死点との間において矢印H方向に昇降するが、操作腕39は、針留め11の上死点よりも微小量ΔH(例えば0.2〜2.0ミリメートル)下方に位置する。このため、刺繍時において針棒1と共に針留め11が高さ方向(矢印H方向)に上昇したとしても、針留め11により持ち上げられる操作腕39の昇降量は、針留め11の昇降量に比較して微小なΔH相当量である。ひいては刺繍押さえ3の押さえ足33の持ち上げ量も微小量であり、特にユーザの目障りにならない。なお、針留め11が下死点に下降するときには、操作腕39も下降するが、押さえ足33が針板23に当たり、ΔH以上は下降しない。
【0039】
なお、刺繍等の裁縫時には、図1から理解できるように、針棒1はこれの上死点と下死点との間を矢印H方向において昇降する。同様に、針10を留めるために針棒1に保持されている針留め11もこれの上死点と下死点との間を昇降する。針留め11がこれの下死点に下降したとしても、針留め11が針板23上の刺繍押さえ3の押さえ足33に衝突しないようにされている。なお、針留め11は、針留め本体11aと針留め螺子11cとを含む(図1参照)。
【0040】
図5に示す状態から、ユーザが指で副レバー4を刺繍可能位置P1から更に上方(矢印B方向)に向けて角度B1(図6の(b)参照)上昇させると、副レバー4は仮固定位置P2とされる。この過程では、操作腕39は、副レバー4のカム面42aに沿って移動して上向き(矢印U方向)に持ち上げられ、操作腕39の先端部39cは長孔31aに沿って上昇する。この結果、操作腕39に連動して昇降する押さえ足33も矢印U方向に上昇し、操作腕39の先端部39cは固定溝44に係合して仮固定される(図6の(b)参照)。すなわち、副レバー4は仮固定位置P2とされる。この場合、押さえ足33の底部33eはこれの第1高さ位置M1に仮固定される(図6の(b)参照)。
【0041】
このように副レバー4が仮固定位置P2とされている状態では、係合寸法B4(図6の(b)参照)は、操作腕39の先端部39cと固定溝44の溝底面との係合量に相当する。このように副レバー4が仮固定位置P2とされている状態では、ユーザが副レバー4の操作部45から指を離したとしても、第1バネ46および押さえバネ34の付勢力にも拘わらず、副レバー4は下方(矢印F方向)に回動しない。よって、副レバー4は刺繍可能位置P1から角度B1、上方に回動した仮固定位置P2に仮固定される。
【0042】
このように操作腕39が持ち上げられる過程において、操作腕39と一体化された押さえ軸35および押さえ足33は、押さえバネ34の矢印D方向に向かう付勢力に抗しつつ、矢印U方向に上昇して針板23から浮上する。これにより押さえ足33の底部33eは第1高さ位置M1(図6参照)となり、押さえ足33の底部33eと針板23との間に隙間寸法B5(図6参照)が形成される。このように副レバー4の仮固定位置P2に設定されているときには、隙間寸法B5が形成されている。このため、ユーザは、副レバー4や押さえ足33を指で持ち上げずとも、刺繍用の布を張った刺繍枠を、針板23上において押さえ足33の底部33eの下方を任意に通過させることができる。従って、ミシンベッドへの刺繍枠のセッティングを簡単に行い得る。
【0043】
換言すると、図6に示すように、副レバー4が仮固定位置P2とされている状態では、ユーザが刺繍押さえ3の副レバー4の操作部45から指を離したとしても、操作腕39の先端部39cが固定溝44に係合されて仮固定されており、副レバー4は下方(矢印F方向)に回動しない。更に、押さえ足33の底部33eと針板23との間に隙間寸法B5が形成される。このため、刺繍押さえ3を押さえ棒13の下端部13dに対して取り付けたり、取り外したりする作業が容易となる。刺繍押さえ3の着脱作業は、図6に示すように副レバー4を仮固定させた状態で行うことが一番作業性が良く、好ましい。
【0044】
なお、隙間寸法B5以上の高さ寸法をもつ刺繍枠を用いることも間々ある。この場合、図6に示す状態から、ユーザが指で副レバー4の操作部45を上方(矢印B方向)に更に回動させると、つまり、副レバー4をこれの刺繍可能位置P1から角度C1持ち上げると、副レバー4のカム面42bに沿って操作腕39を更に持ち上げる。この場合、操作腕39と一体化された押さえ軸35および押さえ足33も連動して矢印U方向に上昇する。このため、図7の(a)(b)に示すように、押さえ足33は針板23から更に浮上して第2高さ位置M2となる。この場合、押さえ足33の底部33eと針板23との間に、より広い隙間寸法C2(C2>B5)が形成される。このように広い隙間寸法C2が形成されているため、高さが高い刺繍枠であっても、その刺繍枠を針板23上において押さえ足33の底部33eの下方を通過させることもでき、背が高い刺繍枠のセッティングも容易に行い得る。
【0045】
但し、図7に示すように押さえ足33が第2高さ位置M2とされている状態では、操作腕39と固定溝44とは係合していない。このため、ユーザが刺繍押さえ3の副レバー4の操作部45から指を離せば、第1バネ46付勢力により副レバー4は下方(矢印F方向)に向けて自動的に回動し、副レバー4は仮固定位置P2(図6の(b)参照)となり、押さえバネ34の付勢力で押さえ足33は下方に突出する。
【0046】
このように副レバー4を仮固定位置P2に下方に戻す理由は次のようである。すなわち、針棒1が下降して下死点に到達したときであっても、針棒1に保持されている針留め11と刺繍押さえ3との接触を回避し、損傷を回避するためである。従って、隙間寸法B5は、針棒1が下降して下死点に到達したときであっても、針留め11と刺繍押さえ3との接触を回避する大きさに予め設定されている。このように図7に示す状態では、操作腕39と固定溝44とは係合していないため、刺繍押さえ3の副レバー4の操作部45や押さえ足33からユーザが指を離せば、第1バネ46の付勢力により副レバー4は下方(矢印F方向)に回動し、図6の状態に戻る。このため、ユーザが間違ってミシンを起動させて針棒1を下降させたとしても、針棒1に取り付けられている針留め11と押さえ足33の底部33eとは接触せず、接触による針留め11や押さえ足33の損傷が回避される。
【0047】
本実施形態によれば、ユーザがフリーハンド刺繍等の刺繍の準備を行う場合には、前述したように、押さえ上げレバー14を2段目S2に保持させて押さえ棒13を2段目に設定した状態で、刺繍押さえ3を押さえ棒13の下端部13dに取付具30(図1参照)により取り付ける。これにより図6に示す状態、または、図7に示す状態とする。図6に示す状態では、押さえ足33の底部33eと針板23との間に隙間寸法B5が形成されるため、押さえ足33と針板23との間において刺繍枠を通過させてセットさせることができ、通過させた後に副レバー4を仮固定位置P2から矢印F方向に角度B1下降させれば、副レバー4は刺繍可能位置P1(図5参照)となり、刺繍を行い得る。
【0048】
また図7に示す状態では、押さえ足33の底部33eと針板23との間に、より広い隙間寸法C2(C2>B5)が形成されるため、高さが高めの刺繍枠を押さえ足33と針板23との間に通過させてセットさせることができるため、通過させた後にユーザが副レバー4を矢印F方向に下降させれば、副レバー4を刺繍可能位置P1(図5参照)にでき、刺繍を行い得る。
【0049】
なお、ユーザの実用操作では、ユーザエラーを予想して予め対処しておくことが好ましい。実用操作では、ユーザが、刺繍押さえ3を下降させるための副レバー4を下降させるのではなく、持ち上げレバー14を不注意により操作して下降させてしまうおそれが考えられる。図8の(a)(b)は、この場合を示す。図8の(a)は、ユーザが押さえ上げレバー14を2段目S2から角度D1回動させて1段目S1に誤って下降させた状態を示す。この状態では、押さえ上げレバー14の操作に伴い押さえ棒13も少し下降するが、これに伴い、刺繍押さえ3の押さえ足33も下降する。但し、図8の(a)に示すように押さえ足33の底部33eは針板23に当接せず、押さえ足33と針板23との間には隙間寸法D5(D5<B5)が形成される。このため、操作腕39の先端部39cを固定溝44から離脱させる力は発生しないため、操作腕39は固定溝44に係合したままである(図8の(a)参照)。
【0050】
これに対して、図8の(b)は、ユーザが押さえ上げレバー14をこれの2段目S2から角度E1回動させて0段目S0に誤って下降させた状態を示す。この状態では、押さえ上げレバー14の下方操作に連動して押さえ棒13がかなり下降するが、これに伴い、押さえ足33の底部33eは、針板23に当たるため、押さえバネ34の付勢力に抗して矢印U方向に相対的に持ち上げられる。ひいては押さえ足33、押さえ軸35および操作腕39が、押さえホルダ31に対して矢印U方向に相対的に持ち上げられる。結果として、操作腕39の先端部39cが固定溝44から離脱して、長孔31aの上端31auに接近する(図8の(b)参照)。このときの持ち上げ量は、図6に示す操作腕39の係合寸法B4よりも大きいため、前述したように操作腕39の先端部39cはカム面42の固定溝44から離脱する。このように操作腕39が固定溝44から離脱すれば、第1バネ46および押さえバネ34の付勢力により、副レバー4は下方(矢印F方向)に自動的に回動して刺繍可能位置P1(図8の(b)参照)に自動的に切り替えられともに、押さえ足33は下方に突出する。このためユーザは再び押さえ上げレバー14を2段目S2(刺繍モードのため上糸の張力は有効とされる)まで戻せば、押さえ棒13は2段目まで矢印U方向に上昇し、自動的に図5に示す状態(刺繍可能状態)となるため、ユーザは直ちに刺繍を行い得る。
【0051】
以上説明したように本実施形態によれば、フリーハンド刺繍等の刺繍を行う場合には、準備として、押さえ上げレバー14を回動操作させて押さえ棒13を落下しないように仮固定させた状態とする。本ミシンでは、刺繍モードは、前述したように押さえ棒13が2段目に仮固定された状態のとき設定されるためである。このように押さえ棒13の高位置を仮固定させた状態で、刺繍押さえ3を押さえ棒13の下端部13dにユーザは手作業で取り付けることができる。
【0052】
この場合、刺繍押さえ3の操作腕39が副レバー4のカム面42の固定溝44に係合されて仮固定させる。この状態であれば、押さえ足33は、押さえバネ34および押さえバネ34の付勢力に抗して、押さえホルダ31側に移動する。この結果、刺繍押さえ3の高さ寸法HA(図6参照)は、縮められている。この場合、押さえ足33の底部33eが押さえバネ34の付勢力により押さえホルダ31から大きく突出するように移動することは、阻止されている。このため、刺繍押さえ3の取り付けおよび取り外しにあたり、ユーザが手作業で刺繍押さえ3の押さえ足33を押さえホルダ31側に移動させて刺繍押さえ3の高さ寸法HAを縮める作業を廃止できる。よって、ユーザの手の自由操作性が確保され、作業性を向上できる。
【0053】
更に、刺繍押さえ3の操作腕39が副レバー4の固定溝44に嵌められて仮固定されている限り、副レバー4の自由回動も阻止されるため、作業性を更に向上できる。更に操作腕39が副レバー4のカム面42の固定溝44に係合されて仮固定されていれば、図6の(b)から理解できるように、副レバー4は針板23から離間するように上方に移動し、副レバー4の操作部45と針板23との空間HEを増加させている。よって、刺繍押さえ3を押さえ棒13に作業性良く容易に取り付けることができる。
【0054】
更にユーザが刺繍押さえ3を押さえ棒13に取り付けた状態では、図6の(a)(b)に示すように、押さえ足33は第2高さ位置M2に維持され、押さえ足33と針板23との間の隙間寸法B5も保持される。このため、押さえ棒13に取り付けた押さえ足33をユーザが針板23から上昇させる手間も廃止でき、隙間寸法B5に刺繍枠を直ちに通して刺繍枠のセッティンクも容易となる。かかる意味においても作業性を更に向上できる。高さが高い刺繍枠であれば、前述したように、副レバー4を上方に回動させれば、更に広い隙間寸法C2(図7参照)が形成される。
【0055】
加えて本実施形態によれば、刺繍押さえ3は、ミシン操作を行うユーザに対面する透明なカバー壁33hをもつため、刺繍等の裁縫を行うとき、ユーザの指が誤って針10に接触することが抑えられ、ユーザ保護性を高め得る。更に、刺繍中に針が折れた場合であっても、折れて飛散する針に対して障壁性を高めることができ、折れた針がユーザ側に飛散することもカバー壁33hにより抑えられる。特許文献3のようにミシンのベッド側にカバー壁33hが取り付けられることも考えられるが、この場合には、刺繍押さえ3の取り付け作業と、カバー壁33hの取り付け作業との双方が必要とされる。しかし本実施形態によれば、前述したように透明なカバー壁33hは刺繍押さえ3と一体化されているため、刺繍押さえ3を押さえ棒13の下端部13dに取り付ければ、ユーザ保護用の透明なカバー壁33hを自動的に取り付けることができ、作業性が良い。
【0056】
更に前述したように、本実施形態によれば、前述したように、刺繍時において針棒1と共に針留め11が高さ方向(矢印H方向)に昇降したとしても、針留め11により持ち上げられる刺繍押さえ3の持ち上げ量は、針留め11の昇降量に比較して微小なΔH相当量であり、カバー壁33hの昇降量も微小であり、ユーザの目障りにならない。このためカバー壁33hのサイズを大きくでき、かかる意味においてもユーザ保護性を高め得る。
【0057】
(その他)上記した実施形態によれば、刺繍押さえ3を押さえ棒13の下端部に取付具で取り付けるとき、押さえ棒13は2段目に上昇されているが、これに限らず、1段目に上昇されているときでも良い。押さえバネ34はコイルバネとされているが、捻りコイルバネ、板バネ等の他のバネでも良い。押さえ足33は透明なカバー壁33hを有するが、カバー壁33hを有しないものでも良い。上記した実施形態によれば、押さえ棒13を、通常の裁縫位置である0段目(上糸張力有効)と、0段目よりも上方の1段目(上糸張力無効)と、1段目よりも上方の2段目(上糸張力有効)とに押さえ上げレバー14により固定的に仮固定できる。但し、このようなミシンに限らず、要するに、刺繍押さえ3の取り付けのために、押さえ棒13を所定の高さ位置に仮固定できるミシンであれば、他のミシンでも良い。操作腕39は針棒1の針留め11により昇降されるが、針溜め11ではなく針棒1により直接昇降されても良い。本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0058】
1は針棒、10は針、11は針留め、12は止め具、13は押さえ棒、14は押さえ上げレバー、2はミシン本体、23は針板、3は刺繍押さえ、30は取付具、31は押さえホルダ、31aは長孔、39は操作腕、39cは先端部、33は押さえ足、33cは針孔、33hはカバー壁、33eは底部、46は第1バネ、34は押さえバネ、35は押さえ軸、4は副カバー、40は枢支孔、42はカム面、44は固定溝、45は操作部、P1は刺繍可能位置、P2は仮固定位置、M1は第1高さ位置、M2は第2高さ位置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針を保持する針留めをもち高さ方向に昇降可能な針棒と、高さ方向に昇降可能な押さえ棒と、前記押さえ棒を昇降させるための押さえ上げレバーとをもつミシンのうち、前記押さえ棒に取り付けられるミシン刺繍押さえであって、
前記押さえ棒の下部に取付具により取り付けられる押さえホルダと、
前記押さえホルダに取り付けられ前記針棒または前記針留めに持ち上げられて高さ方向に昇降する操作腕と、
前記操作腕と共に連動するように前記押さえホルダに昇降可能に保持されミシンの針板に対面すると共に被裁縫物を押さえる押さえ足と、
前記押さえホルダに設けられ前記押さえ足を前記針板に向けて付勢する付勢力をもつ押さえバネと、
前記押さえホルダに回動可能に設けられ、回動に伴い前記操作腕を昇降させるカムプロフィールをもつカム面と前記操作腕を係合させて前記押さえ足を前記押さえホルダ側に移動させて前記針板から浮上させる第1高さ位置に仮固定させる固定溝とユーザの指により操作される操作部とをもつ副レバーとを具備することを特徴とするミシン刺繍押さえ。
【請求項2】
請求項1において、前記刺繍押さえの前記操作腕は、前記針棒が前記針留めと共に昇降するとき、前記針留めに載せられて前記針留めと共に前記針棒の昇降に連動して高さ方向に昇降可能とされており、前記押さえ足は前記操作腕に連動して高さ方向に昇降することを特徴とするミシン刺繍押さえ。
【請求項3】
請求項1または2において、前記操作腕は、昇降する前記針留めの上死点よりも所定量ΔH下方に位置されており、前記針留めの下死点からの上死点への上昇量に対して、前記操作腕の上昇量は少なく設定されていることを特徴とするミシン刺繍押さえ。
【請求項4】
請求項1〜3のうちの一項において、前記押さえ足を前記ミシンのベッドの前記針板に向けて下降回動させて前記副レバーを刺繍可能位置とさせる方向に付勢させる第1バネが設けられていることを特徴とするミシン刺繍押さえ。
【請求項5】
請求項1〜4のうちの一項において、前記刺繍押さえの前記押さえ足は、刺繍を行う刺繍高さ位置と、前記刺繍高さ位置よりも高く且つ前記針板から浮上する第1高さ位置と、前記第1高さ位置よりも高く且つ前記針板から浮上する第2高さ位置に前記副レバーの回動操作により昇降可能とされており、
前記副レバーの前記カム面のカムプロフィールは、ユーザによる前記副レバーの回転操作に伴い、前記押さえ足を、前記刺繍高さ位置、前記第1高さ位置、前記第2高さ位置に順に上昇させ、且つ、
ユーザによる前記副レバーの回転操作が解除されると、前記操作腕を前記針板に向けて下降させることを特徴とするミシン刺繍押さえ。
【請求項6】
請求項1〜5のうちの一項において、前記押さえ足は、ミシンを操作するユーザに対面するように立設された透明なカバー壁をもつことを特徴とするミシン刺繍押さえ。
【請求項7】
針を保持する針留めをもち高さ方向に昇降可能な針棒と、高さ方向に昇降可能な押さえ棒と、前記押さえ棒を昇降させるための押さえ上げレバーと、前記押さえ棒に取り付けられるミシン刺繍押さえとを具備するミシンであって、
前記ミシン刺繍押さえは、
前記押さえ棒の下部に取付具により取り付けられる押さえホルダと、
前記押さえホルダに取り付けられ前記針棒または前記針留めに持ち上げられて高さ方向に昇降する操作腕と、
前記操作腕と共に連動するように前記押さえホルダに昇降可能に保持されミシンの針板に対面すると共に被裁縫物を押さえる押さえ足と、
前記押さえホルダに設けられ前記押さえ足を前記針板に向けて付勢する付勢力をもつ押さえバネと、
前記押さえホルダに回動可能に設けられ、回動に伴い前記操作腕を昇降させるカムプロフィールをもつカム面と前記操作腕を係合させて前記押さえ足を前記押さえホルダ側に移動させて前記針板から浮上させる第1高さ位置に仮固定させる固定溝とユーザの指により操作される操作部とをもつ副レバーとを具備することを特徴とするミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−228431(P2012−228431A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99544(P2011−99544)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】