説明

ミスマッチ塩基対検出分子およびミスマッチ塩基対検出方法、並びにその利用

【課題】 熱安定性、アルカリ安定性が向上しているとともに、優れたミスマッチ結合力、分子認識力を有する化合物、この化合物の固定化物、この化合物を用いたミスマッチ塩基対の検出方法、当該方法に用いられるキット、並びに塩基配列の異常の検出方法とを提案する。
【解決手段】 一般式(1)


(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは炭素数4〜6のアルキレン基または炭素数4〜6のアルキレン基の1つ以上の炭素原子が酸素原子で置換されている有機基を示す。)で表される化合物であり、正常な塩基対を形成することができない塩基の対であるミスマッチ塩基対に、疑似的に塩基対を形成する化合物、この化合物の固定化物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、一本鎖の核酸がハイブリダイズして二本鎖を形成した場合に、正常な塩基対を形成することができない塩基の対(以下、「ミスマッチ塩基対」または単に「ミスマッチ」と称する。)が生じたとき、当該ミスマッチ塩基対に特異的に結合することが可能な化合物と、その利用方法に関するものであり、特に、高い熱安定性およびアルカリ安定性を有する、ミスマッチ塩基対の間に擬似的に塩基対を形成することが可能な化合物(ミスマッチ塩基対検出分子)と、この化合物の固定化物、この化合物を用いたミスマッチ塩基対の検出方法、当該方法に用いられるキット、並びに当該方法を用いたDNAまたはRNAにおける塩基配列の異常の検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DNAやRNAなどの核酸(ポリヌクレオチド)がハイブリダイズして二本鎖となる場合には、対をなす塩基が決まっている。具体的には、グアニン(G)にはシトシン(C)、アデニン(A)にはチミン(T)が対をなす。それゆえ、核酸がハイブリダイズしている状態では、通常は、全ての塩基が上記のような対を形成しているが、状況によっては、当該核酸の塩基配列の一部が、このような対を形成することができない場合がある。
【0003】
例えば、あるDNAと他のDNAをハイブリダイズし得る条件下においた場合に、これらDNA同士が全く相補的な塩基配列を有するものであれば、全ての塩基において上記のような対が形成される。これに対して、これらDNA同士は、ほぼ完全に相補的な塩基配列を有するものであれば、大部分の塩基はこのような対を形成することができるが、1個または数個の一部の塩基はこのような対を形成することができない。このように、通常の塩基対を形成することができない塩基の対のことを、本発明ではミスマッチ塩基対と称する。
【0004】
ところで、最近、ゲノムの塩基配列中における微細な違い(1個または2個以上の塩基が異なること、多型)についての研究が行われてきている。上記多型の代表的な例としては、1個の塩基が通常のものとは異なっている多型、すなわち一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism、略称SNP)が挙げられる。このような多型は、各種遺伝病の原因となり得ることが明らかにされており、さらには、各生物の個体差を生じさせる要因の一つとなるとも考えられている。したがって、このような多型について研究することはポストゲノムシークエンスにおいて、非常に重要なものとなっている。
【0005】
ここで、例えば、上記SNPを含む遺伝子を正常な遺伝子とハイブリダイズさせると、大部分の塩基は正常な塩基対を形成し得ることができるために、ハイブリダイズして二本鎖の状態を形成することは可能である。しかしながら、上記SNPの部分については、ミスマッチ塩基対が生じることになる。
【0006】
上記ミスマッチ塩基対を検出する方法としては、従来から、様々な技術が提案されており、近年では、(1−1)二本鎖DNAのハイブリダイゼーション効率を比較する手法が一般的である。また、(1−2)MutS等のDNAの修復タンパク質(ミスマッチ認識酵素)が遺伝子損傷箇所に選択的に結合することを利用する手法も知られている。しかしながら、これらの方法は、それぞれ課題を抱えているため実用性に欠ける場合がある。
【0007】
具体的には、(1−1)の方法では、ミスマッチ塩基対を含むDNAの塩基配列をあらかじめ知っておかなければならないために多大な労力が必要となり、多くの検体を処理する方法としては不適当である。また、この方法では、ミスマッチ塩基対を検出する感度が実用的に十分ではない場合がある。さらに、(1−2)の方法では、ミスマッチ塩基対の種類を区別して認識することが可能であるが、熱安定性を維持したり、酵素活性を維持する構造(フォールディング)を維持したりすることが難しく、使用上の制約が多い。
【0008】
ところで、本発明者らは、以前に、次に示す各化合物を開発し、これら化合物を用いることで、ミスマッチ塩基対やバルジ塩基に擬似的な塩基対を形成する技術を提案している。
(2−1)二本鎖DNA中に生成する不対塩基(バルジ塩基)を持つDNA(バルジDNA)に特異的に結合し、安定化する分子であるバルジDNA認識分子(特許文献1参照)。
(2−2)A−L−Bの一般式で表され、Aが正常な塩基対を形成することができない塩基の対における片方の塩基と対を形成し得る化学構造部分、Bが正常な塩基対を形成することができない塩基の対のもう一方の塩基と対を形成し得る化学構造部分、Lが上記AおよびBの化学構造部分を結合するリンカー構造を示すミスマッチ塩基対認識分子(特許文献2参照)。
【0009】
上記(2−1)の化合物を用いれば、バルジ塩基の検出が可能となり、(2−2)の化合物を用いれば、ミスマッチ塩基の検出が可能となる。また、(2−2)の技術を応用することで、例えば、テロメアの一本鎖部分において安定なヘアピン構造を形成させ、染色体末端におけるテロメア領域の伸長反応を阻害することも提案している(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2001−89478公報(平成13(2001)年4月3日公開)
【特許文献2】特開2001−149096公報(平成13(2001)年6月5日公開)
【特許文献3】特開2002−30094公報(平成14(2002)年1月29日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、遺伝子のSNPを検出することは、ポストゲノムシークエンスにおいて一大トピックとなっているため、様々な方法が提案されているが、何れも十分な実用性を発揮できるレベルまで達していない。これに対して、上記(2−2)の化合物をミスマッチ塩基対に結合する低分子リガンドとして用いる技術は、使用条件の制約も小さく、ミスマッチ塩基対を簡便かつ高感度に検出することが可能となる。
【0011】
ここで、上記(2−2)の化合物(低分子リガンド)として、ナフチリジン系ダイマーが用いられている。しかしながら、これまでに開発されているナフチリジン系ダイマーは、高温条件下やアルカリ条件下といったより厳しい条件下では、熱安定性およびアルカリ安定性の点で必ずしも十分であるとはいえない。このため、例えば、遺伝子多型解析法を実現するアフィニティーカラムに固定化したり、表面プラズモン共鳴センサーに適用した場合、熱の影響により担体上で壊れていくというおそれがある。また、例えば、アフィニティーカラムに固定化したときに、吸着物質をアルカリ溶液で溶出すると分解するおそれがある。さらに、一度検出に用いたセンサー表面やアフィニティークロマト担体表面を再生する過程で、熱的やアルカリ条件で二本鎖を解離させることが必要があるが、その際に分解するおそれがある。
【0012】
熱安定性およびアルカリ安定性を向上させたミスマッチ塩基対検出分子を提供することができれば、高温条件下やアルカリ条件下においても、信頼性の高いミスマッチ塩基対の検出データを得ることができ、またかかる条件下においても検出が可能となるためミスマッチ塩基対の検出方法の幅が広がる。また、ミスマッチ塩基対検出分子の固定化物を備えた装置の耐久性を向上させることができる。このため、かかる熱安定性およびアルカリ安定性を向上させたミスマッチ塩基対検出分子の開発が強く望まれている。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、その目的は、熱安定性、アルカリ安定性が向上しているとともに、優れたミスマッチ塩基対結合力、分子認識力を有する化合物を提案するとともに、この化合物の固定化物、この化合物を用いたミスマッチ塩基対の検出方法、当該方法に用いられるキット、並びに当該方法を用いたDNAまたはRNAにおける塩基配列の異常の検出方法とを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を鑑み鋭意検討した結果、特定の構造を有するアミノナフチリジンダイマーが、優れた熱安定性およびアルカリ安定性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子は、上記の課題を解決するために、次に示す一般式(1)
【0016】
【化1】

【0017】
((1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは水素原子を示し、Rは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数4〜6のアルキレン基あるいは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数4〜6のアルキレン基であって該アルキレン基骨格を構成する1つ以上の炭素原子が酸素原子若しくはイオウ原子で置換されている有機基を示す。)
で表される化合物であり、正常な塩基対を形成することができない塩基の対であるミスマッチ塩基対に、疑似的に塩基対を形成する化合物であることを特徴としている。
【0018】
上記一般式(1)で表される化合物は、次に示す一般式(2)
【0019】
【化2】

【0020】
((2)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは水素原子を示し、Aは酸素原子またはイオウ原子を示し、nは3〜5を示す。)で表される化合物であることが好ましい。
【0021】
また、上記一般式(1)で表される化合物は、次に示す一般式(3)
【0022】
【化3】

【0023】
((3)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Aは酸素原子またはイオウ原子を示す。)で表される化合物であることがより好ましい。
【0024】
また、上記一般式(1)で表される化合物は、次に示す化学式(4)
【0025】
【化4】

【0026】
で表される化合物であることがさらに好ましい。ここで、上記ミスマッチ塩基対は、グアニン−グアニン、グアニン−アデニン、シトシン−チミン、シトシン−シトシン、シトシン−アデニン、チミン−チミンのうちの少なくとも一つであることが好ましい。
【0027】
また、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子は、上記の課題を解決するために、次に示す一般式(1)
【0028】
【化5】

【0029】
((1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは有機基を示し、Rは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数3〜6のアルキレン基あるいは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数3〜6のアルキレン基であって該アルキレン基骨格を構成する1つ以上の炭素原子が酸素原子若しくはイオウ原子で置換されている有機基を示す。)で表される化合物であり、正常な塩基対を形成することができない塩基の対であるミスマッチ塩基対に、疑似的に塩基対を形成する化合物であってもよい。
【0030】
上記一般式(1)で表される化合物は、次に示す一般式(2)
【0031】
【化6】

【0032】
((2)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは有機基を示し、Aは酸素原子またはイオウ原子を示し、nは2〜5を示す。)で表される化合物であることが好ましい。ここで、上記ミスマッチ塩基対は、グアニン−グアニン、グアニン−アデニン、シトシン−チミン、シトシン−シトシン、シトシン−アデニン、チミン−チミンのうちの少なくとも一つであることが好ましい。
【0033】
上記の構成によれば、ミスマッチ塩基対検出分子の熱安定性およびアルカリ安定性が格段に向上するとともに、優れたミスマッチ塩基対結合力、分子認識力を有するミスマッチ塩基対検出分子を提供することができるという効果を奏する。
【0034】
また、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出方法は、上記ミスマッチ塩基対検出分子を用いて、ハイブリダイズされた核酸に含まれる、正常な塩基対を形成することができない塩基の対であるミスマッチ塩基対に疑似的に塩基対を形成させる工程と、当該ミスマッチ塩基対に形成された疑似的な塩基対を検出する工程とを含むこむことを特徴としている。
【0035】
上記ミスマッチ塩基対検出方法においては、上記ミスマッチ塩基対検出分子は担体に固定化されて用いられてもよいし、標識化されて用いられてもよい。
【0036】
さらに、本発明の利用方法の一例としては、ミスマッチ塩基対検出キットが挙げられる。このミスマッチ塩基対検出キットは、上記ミスマッチ塩基対検出方法を実施するために用いられるキットであって、少なくとも上記ミスマッチ塩基対検出分子を固定化した担体を含むものであればよい。上記ミスマッチ塩基対検出キットは、さらに、標的領域を増幅するためのプライマーセットと、標的領域を含み当該領域の塩基配列が確認されている核酸とを含んでいてもよい。
【0037】
あるいは、本発明の利用方法の他の例としては、塩基配列の異常の検出方法が挙げられる。この検出方法は、例えば、検体となる一本鎖のDNAまたはRNAと、それに対応する正常な塩基配列を有するDNAまたはRNAとをハイブリダイズさせる工程と、上記ミスマッチ塩基対検出方法を用いて、上記ハイブリダイズした二本鎖DNAまたはRNAにミスマッチ塩基対が含まれるか否かを検出する工程とを含むものであればよい。
【0038】
上記構成または方法によれば、例えば、SNP等の多型といった遺伝子の個人的な相違を高温条件下やアルカリ条件下においても迅速かつ安価に検出することが可能となる。その結果、本発明は、遺伝子科学(ゲノムサイエンス)、遺伝子タイピング技術、SNPタイピング技術等に有効に用いることができるという効果を奏する。
【0039】
また、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出装置(例えば、ミスマッチ塩基対検出センサー)は、上記ミスマッチ塩基対検出分子を固定化した担体を備えていることを特徴としている。
【0040】
上記の構成によれば、例えば、表面プラズモン共鳴法(SPR)などを利用することにより、確実かつ簡便にミスマッチ塩基対の検出を行うことができる。
【0041】
また、本発明にかかる化合物は、一般式(1)
【0042】
【化7】

【0043】
((1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは水素原子を示し、Rは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数4〜6のアルキレン基あるいは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数4〜6のアルキレン基であって該アルキレン基骨格を構成する1つ以上の炭素原子が酸素原子若しくはイオウ原子で置換されている有機基を示す。)で表されることを特徴としている。
【0044】
上記一般式(1)で表される化合物は、次に示す一般式(2)
【0045】
【化8】

【0046】
((2)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは水素原子を示し、Aは酸素原子またはイオウ原子を示し、nは3〜5を示す。)で表される化合物であることが好ましい。
【0047】
また、上記一般式(1)で表される化合物は、次に示す一般式(3)
【0048】
【化9】

【0049】
((3)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Aは酸素原子またはイオウ原子を示す。)で表される化合物であることがより好ましい。
【0050】
また、上記一般式(1)で表される化合物は、次に示す化学式(4)
【0051】
【化10】

【0052】
で表される化合物であることがさらに好ましい。
【0053】
また、本発明にかかる化合物は、一般式(1)
【0054】
【化11】

【0055】
((1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは有機基を示し、Rは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数3〜6のアルキレン基あるいは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数3〜6のアルキレン基であって該アルキレン基骨格を構成する1つ以上の炭素原子が酸素原子若しくはイオウ原子で置換されている有機基を示す。)で表される化合物であってもよい。
【0056】
また、上記一般式(1)で表される化合物は、次に示す一般式(2)
【0057】
【化12】

【0058】
((2)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは有機基を示し、Aは酸素原子またはイオウ原子を示し、nは2〜5を示す。)で表される化合物であることが好ましい。
【0059】
また、本発明にかかる担体は、上記化合物を固定化した担体であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0060】
以上のように、本発明では、特に、熱安定性およびアルカリ安定性を向上させたアミノナフチリジンダイマーをミスマッチ塩基対検出分子として用い、ハイブリダイズされた核酸中におけるミスマッチ塩基対を検出するものである。それゆえ、本発明を利用すれば、例えば、アフィニティーカラムクロマトグラフィー担体や、表面プラズモン共鳴センサにミスマッチ塩基対検出分子を担持させて用いても、熱で分解することがなく、また、カラムの場合では、吸着物質をアルカリ溶液で溶出しても分解するおそれがなく、カラムの繰返し使用が可能となる。
【0061】
また、ミスマッチ塩基対検出分子を固定化したデバイスの耐久性は、ミスマッチ塩基対検出分子の耐熱性等により決まると言っても過言ではないところ、本発明のミスマッチ塩基対検出分子によれば、従来のアミノナフチリジンダイマー系認識分子に比較して、耐熱性、耐アルカリ性が格段に向上する。それゆえ、デバイスの耐久性向上、解析コストの低減に大きく貢献する。その結果、本発明は、遺伝子科学(ゲノムサイエンス)、遺伝子タイピング技術、SNPタイピング技術等に有効に用いることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
本発明における実施の一形態について図1ないし図3に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0063】
本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子(ミスマッチ塩基対認識分子)は、正常な塩基対を形成することができない塩基の対であるミスマッチ塩基対に結合して、擬似的な塩基対を安定して形成するアミノナフチリジンダイマーであり、例えば、このミスマッチ塩基対検出分子を用いて蛍光強度変化等を測定することで、ミスマッチ塩基対を簡便に検出することが可能となる。
【0064】
なお、上記「擬似的な塩基対」とは、天然に存在する塩基対とは異なる塩基対を指すものであって、塩基対の結合強度の程度を指すものではない。すなわち、「擬似的な塩基対」とは、塩基対そのものの種類を示すものであって、「塩基対の結合強度が低く正常な塩基対を形成しているとは言いがたいが、塩基対を形成しているとみなすことができる」というような状態を示すものではない。
【0065】
また、上記「擬似的な塩基対」に対応する「天然に存在する塩基対」とは、正常な塩基対であり、具体的には、グアニン−シトシン(G−C)、アデニン−チミン(A−T)あるいはアデニン−ウラシル(A−U)の各塩基対を指す。
【0066】
また、本発明においては、「ハイブリダイズされた核酸」とは、互いに相補的な塩基配列を含んでおり、これら相補的な塩基配列によって一本鎖の核酸が二本鎖またはそれ以上の状態になっていることを指すものとする。上記核酸には、DNAもRNAも含まれる。
【0067】
<ミスマッチ塩基対検出分子>
本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子は、次に示す一般式(1)
【0068】
【化13】

【0069】
で表される化合物であり、正常な塩基対を形成することができない塩基の対であるミスマッチ塩基対に、疑似的に塩基対を形成する化合物である。
【0070】
この化合物は、ナフチリジン環とアミノ基とを含む構造を有している化合物(便宜上、アミノナフチリジンと称する)が二量体(ダイマー)を形成しているため、本発明では、上記一般式(1)に示す化合物を、説明の便宜上、アミノナフチリジンダイマーと称する。
【0071】
上記一般式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示す。ここで、炭素数1〜5の炭化水素基は、飽和であっても不飽和であってもよく、また直鎖状であっても枝分かれ状であってもよい。かかる炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基等を挙げることができるがR1およびR2はこれらに限定されるものではない。また、R1およびR2は上述したような炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基であってもよい。かかる有機基としては、例えば、アルコキシル基、ジアルキルアミノ基、アルキルアミノ基等を挙げることができるがこれに限定されるものではない。
【0072】
また、上記一般式(1)中、Rは水素原子を示し、Rは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数4〜6のアルキレン基あるいは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数4〜6のアルキレン基であって該アルキレン基骨格を構成する1つ以上の炭素原子が酸素原子若しくはイオウ原子で置換されている有機基を示す。具体的には、Rとしては、例えば、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、これらのアルキレン基の1つ以上の炭素が酸素原子またはイオウ原子で置換されている有機基を挙げることができる。また、これらの有機基は炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有していてもよい。ここでの炭素数1〜5の炭化水素基は、飽和であっても不飽和であってもよく、また直鎖状であっても枝分かれ状であってもよい。かかる炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基等を挙げることができる。
【0073】
この中でも、Rは、一般式(1)においてナフチリジン環に結合しているアミド結合(−NH−CO−)に酸素原子またはイオウ原子が結合するように、例えば、−O−(CH)n−(nは3〜5)または−S−(CH)n−(nは3〜5)で表される構造であることがより好ましい。すなわち、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子は、一般式(2)
【0074】
【化14】

【0075】
((2)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは水素原子を示し、Aは酸素原子またはイオウ原子を示し、nは3〜5を示す。)で表される化合物であることがより好ましい。また、この中でも、上記nは3であることがさらに好ましい。すなわち、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子は、一般式(3)
【0076】
【化15】

【0077】
((3)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Aは酸素原子またはイオウ原子を示す。)で表される化合物であることがさらに好ましい。
【0078】
ここで、Rが炭素数4〜6のアルキレン基または炭素数4〜6のアルキレン基の1つ以上の炭素原子が酸素原子で置換されている有機基であることにより、ミスマッチ塩基対検出分子の熱安定性およびアルカリ安定性を向上させることが可能となる。上述したように、これまでに開発されているナフチリジン系ダイマーは、高温条件下および/またはアルカリ条件下で用いる場合に、熱安定性およびアルカリ安定性の点で必ずしも十分であるとはいえなかった。本発明者らは、従来のナフチリジン系ダイマーの熱安定性およびアルカリ安定性を向上させるために、特許文献2で報告されている化学式(5)
【0079】
【化16】

【0080】
で表されるアミノナフチリジンダイマーから出発して熱安定性およびアルカリ安定性を向上させたアミノナフチリジンダイマーを得ることを試みた。この化学式(5)で表される化合物では、ナフチリジン環に結合しているアミド結合の炭素原子を1番目としたときに、分子の中央部に向かってそれぞれ2番目と3番目の炭素原子を結合する炭素−炭素結合が切れやすい。このことから、本発明者らは、アミド結合と分子の中央部の窒素原子を繋ぐアルキレン基の長さを、メチレン基1個分長くすれば上記炭素−炭素結合が切れにくくなり、分子の安定性が向上すると考え、酸素原子1個分鎖を長くし、以下の化学式(6)
【0081】
【化17】

【0082】
で表されるアミノナフチリジンダイマーを合成しその熱安定性を評価した。しかしこの化学式(6)で表されるアミノナフチリジンダイマーの半減期は、後述する実施例に示すように非常に短く、予想に反して逆に非常に不安定になることがわかった。このような結果から、本発明者らは、化学式(6)で表されるアミノナフチリジンダイマーの中央部の窒素原子が、ナフチリジン環に結合しているアミド結合の炭素原子に結合し5員環を形成して安定化したのではないかと考え、5員環が形成されないように、メチレン基をさらに1個多くすることを試みた。また、ナフチリジン環に結合しているアミド結合の炭素原子の反応性を抑えるために、この炭素原子に結合する炭素原子を酸素原子に置き換え、以下の化学式(4)
【0083】
【化18】

【0084】
で表されるアミノナフチリジンダイマーを合成しその熱安定性を評価した。そして、実際に、この化学式(4)で表されるアミノナフチリジンダイマーの熱安定性およびアルカリ安定性が、驚くべきことに、化学式(5)で表されるアミノナフチリジンダイマーと比較して顕著に向上していることを見出した。
【0085】
すなわち、上記Rが炭素数4以上のアルキレン基または炭素数4以上のアルキレン基の1つ以上の炭素原子が酸素原子で置換されている有機基であることにより、5員環が形成されることがないため、本発明のミスマッチ塩基対検出分子の熱安定性およびアルカリ安定性を向上させることが可能となる。また、アミノナフチリジンに結合しているカルボニル基に炭素原子に換わって酸素原子が結合していることにより、カルボニル基の炭素原子の反応性が抑制されるため、本発明のミスマッチ塩基対検出分子の熱安定性およびアルカリ安定性を向上させることが可能となる。また、上記Rの炭素数は4以上であれば、5員環が形成されないため、本発明のミスマッチ塩基対検出分子の熱安定性およびアルカリ安定性を向上させることができるが、炭素数が大きくなるすぎるとミスマッチ塩基対に対する結合性が弱くなる。それゆえ、上記Rは炭素数6以下のアルキレン基または炭素数6以下のアルキレン基の1つ以上の炭素原子が酸素原子で置換されている有機基であることが好ましい。
【0086】
また、上述したような5員環が形成されないようにするためには、分子の中央部の窒素原子を有機基で修飾してもよい。かかる場合にも5員環が形成されないため、アミノナフチリジンダイマーのアミド結合と分子の中央部の窒素原子を繋ぐアルキレン基の長さが、上記化学式(6)と同様、5員環を形成できる長さであっても、アミノナフチリジンダイマーは高い熱安定性およびアルカリ安定性を示す。従って、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子は、一般式(1)
【0087】
【化19】

【0088】
で表される化合物であって、上記一般式中、Rは有機基を示し、Rは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数3〜6のアルキレン基あるいは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数3〜6のアルキレン基であって該アルキレン基骨格を構成する1つ以上の炭素原子が酸素原子若しくはイオウ原子で置換されている有機基を示すものであってもよい。
【0089】
ここで、Rによって示される有機基は、5員環の形成を阻害し、且つ、ミスマッチ塩基対に対する反応性を損なわないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基であってもよい。ここで、炭素数1〜5の炭化水素基は、飽和であっても不飽和であってもよく、また直鎖状であっても枝分かれ状であってもよい。かかる炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基等を挙げることができるがRはこれらに限定されるものではない。また、Rは上述したような炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基であってもよい。かかる有機基としては、例えば、アルコキシル基、ジアルキルアミノ基、アルキルアミノ基等を挙げることができるがこれに限定されるものではない。また、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子を担体に固定するためのリンカーによっても、上述したような5員環の形成は阻害される。それゆえ、Rは、担体に固定するリンカーとして通常用いられる有機基であってもよい。かかる有機基としては、具体的には、例えば、アルキレン基、ポリエチレンオキシ基等を挙げることができる。なお、ここで、R1、R2については、Rが水素原子である場合と同様であるのでここでは説明を省略する。また、Rについても、鎖長が3であってもよい点を除いては、Rが水素原子である場合と同様であるのでここでは説明を省略する。
【0090】
また、かかるミスマッチ塩基対検出分子は、Rが水素原子である場合と同様、Rは、一般式(1)においてナフチリジン環に結合しているアミド結合(−NH−CO−)に酸素原子またはイオウ原子が結合するように、例えば、−O−(CH)n−(nは2〜5)または−S−(CH)n−(nは2〜5)で表される構造であることがより好ましい。すなわち、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子は、一般式(2)
【0091】
【化20】

【0092】
((2)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは有機基を示し、Aは酸素原子またはイオウ原子を示し、nは2〜5を示す。)で表される化合物であることがより好ましい。
【0093】
本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子の製造方法は特に限定されるものではなく、通常の有機合成法により適宜製造することができる。例えば、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子である1,8−ナフチリジン誘導体は、2−アミノ−1,8−ナフチリジン又はその7位が上記R又はRで置換された2−アミノ−1,8−ナフチリジンを、N−保護−4−アミノ−酪酸の反応性誘導体、例えば酸塩化物を反応させて、2位のアミノ基をアシル化した後、アミノ基を保護基を脱保護して製造することができる。この際の保護基としては、塩酸塩やアシル基やアルコキシカルボニル基などのペプチド合成において使用されるアミノ保護基を使用することができる。このようにして得られた塩基認識部位を、両末端にカルボキシル基又はその反応性誘導体基を有するリンカー部用の化合物と反応させることにより目的のミスマッチ塩基認識分子を得ることができる。この際に、リンカー部用化合物の分子中に窒素原子などの反応性の基が存在している場合には、前記した保護基などで適宜保護して使用することができる。ここで、上記塩基認識部位とは、ミスマッチ塩基対の塩基の片方を認識し、当該塩基とワトソン−クリック型の塩基対を形成することができる部位をいい、上記リンカー部とは、ミスマッチ塩基対検出分子において、2つの塩基認識部位同士を繋ぐ部分をいう。
【0094】
もちろん、本発明にかかるアミノナフチリジンダイマーの製造方法はこれらに限定されるものではなく、当該技術分野で公知の方法を用いることができる。また、上記製造方法における各種の条件についても特に限定されるものではなく、好ましい条件を適宜選択して用いることができる。なお、代表的な条件の一例については、後述する実施例にて詳細に説明する。
【0095】
本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子は、少なくとも、グアニン−グアニン、グアニン−アデニン、チミン−シトシン、シトシン−シトシン、アデニン−シトシン、チミン−チミンの各ミスマッチ塩基対(それぞれ、説明の便宜上、G−Gミスマッチ、G−Aミスマッチ、T−Cミスマッチ、C−Cミスマッチ、A−Cミスマッチ、T−Tミスマッチと称する)において擬似的な塩基対を安定して形成することが好ましい。また、これらミスマッチ塩基対における擬似的な塩基対の安定の程度は、G−Gミスマッチが最も高く、G−Aミスマッチ、T−Cミスマッチがこれに次いで高く、C−Cミスマッチ、A−Cミスマッチ、T−Tミスマッチが続くことが好ましい。もちろん本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子が、擬似的な塩基対を安定して形成することができるのは、R、R又はRよって塩基に対する選択性が変化しうるため、上記ミスマッチ塩基対に限定されるものではない。
【0096】
<擬似的な塩基対の形成>
本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子が、比較的安定にミスマッチ塩基対に取り込まれる状態を、例えばG−Gミスマッチ塩基対を例に挙げて図1に模式的に示す。図1の左側では、二本鎖のDNAにおいてG−Gミスマッチ塩基対がある部分を示している。このG−Gミスマッチ以外の箇所では正常な塩基対が形成されており、全体として見れば、それぞれのDNAがハイブリダイズした状態にある。
【0097】
これに、本発明にかかるアミノナフチリジンダイマー(図中N−Nで示す)が加えられると、図1の右側に示すように、ミスマッチ塩基対を形成しているグアニン(図中Gで示す)は何れも、アミノナフチリジンダイマーのグアニン認識部位(図中Nで示す)と対を形成する。
【0098】
このとき、それぞれのグアニン認識部位は、適当な長さでかつ適当な自由度のあるリンカー部(図中−で示す)で結合されており、二本鎖のDNAにおける鎖の中に、ほぼ他の正常な塩基対と同様な形で取り込まれていると考えられる。さらに、上記アミノナフチリジンダイマーの2つのグアニン認識部位は、前後の塩基によるスタッキング効果(塩基同士間の分子間力のようなもの)により安定化されているため、二本鎖のDNAおける鎖の間に比較的安定に取り込まれると考えられる。
【0099】
<ミスマッチ塩基対検出方法>
本発明にかかるミスマッチ塩基対検出方法は、ハイブリダイズされた核酸に擬似塩基対生成剤を加えて、これにより形成された擬似的な塩基対を検出する方法であって、上記擬似塩基対生成剤として、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子を少なくとも用いる方法であればよい。より具体的には、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出方法は、少なくとも、擬似塩基対形成工程と、擬似塩基対検出工程とを有していればよい。
【0100】
上記擬似塩基対形成工程は、ハイブリダイズされた核酸に擬似塩基対生成剤を加えて、当該核酸に含まれるミスマッチ塩基対に擬似的な塩基対を形成させる工程であればよく、本発明では、上記擬似塩基対生成剤の主成分の一つとして、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子を用いればよいが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本発明では、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子に加えて、他の低分子リガンドを擬似塩基対生成剤として併用してもよい。
【0101】
本発明において擬似塩基対生成剤として用いることが可能な上記他の低分子リガンドとしては、例えば、本発明者らがC−Cミスマッチ、T−Cミスマッチ、G−Gミスマッチ、A−Cミスマッチ等を検出することができるミスマッチ塩基対検出分子として見出した化合物(特願2003−314410参照。)を用いることができる。このような化合物としては、具体的には、例えば、次に示す式(7)、(8)等
【0102】
【化21】

【0103】
【化22】

【0104】
で表される化合物を挙げることができる。
【0105】
もちろん、本発明において擬似塩基対生成剤として用いられる他の低分子リガンドは、上記(7)、(8)で表される化合物に限定されるものではなく、C−Cミスマッチ、T−Cミスマッチ、G−Gミスマッチ、A−Cミスマッチ等以外のミスマッチ塩基対を認識する他の化合物を用いてもよいことは言うまでもない。また、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子と、同じ種類のミスマッチ塩基対を認識する化合物であっても、安定化の程度の相違に応じて、異なる種類の化合物を上記他の低分子リガンドとして用いても構わない。
【0106】
上記擬似塩基対検出工程は、ハイブリダイズされた核酸のミスマッチ塩基対に、本発明にかかるミスマッチ塩基対、あるいは必要に応じて用いられる他の低分子リガンドにより形成された擬似的な塩基対を検出する工程であればよく、その具体的な検出方法等については特に限定されるものではない。具体的には、例えば、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子を標識化して用いることにより、擬似的な塩基対を検出する方法が挙げられる。
【0107】
上記標識化の具体的な方法は特に限定されるものではないが、例えば、上記一般式(1)で表される化学構造の適当な位置に、放射性元素を導入したり、化学発光または蛍光を発する分子種を導入したりする方法が挙げられる。また、上記化学構造の適当な位置としては、例えば、上記リンカー部や、当該リンカー部から固定化のためなどのために延ばされた枝(後述)等を挙げることができる。あるいは、上記標識化としては、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子(あるいは上記他の低分子リガンド)等の低分子リガンドを標識化するのではなく、ミスマッチ塩基対の検出対象となる核酸(DNAやRNA等)の核酸部分を標識化する方法であってもよい。
【0108】
上記ミスマッチ塩基対の検出は、上記標識化のレベルを測定することにより達成されるが、上記標識化、すなわち放射線強度や発光または蛍光の強度の測定方法は特に限定されるものではなく、公知の方法や装置を用いて放射線強度や発光または蛍光強度を測定し、その強度の変化からミスマッチ塩基対の有無を検出すればよい。
【0109】
また、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子と、上記その他の低分子リガンドとを併用する場合には、各化合物における標識の種類を変えておけばよい。このように標識の種類を変えておけば、擬似塩基対生成剤として、他の低分リガンドを併用したとしても、それぞれの標識の種類が異なるため、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子の標識から本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子が認識することができるミスマッチ塩基対の有無を検出することができ、上記その他の低分子リガンドの標識から該低分子リガンドが認識することができるミスマッチ塩基対の有無を検出することが可能となる。
【0110】
なお、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出方法では、上記擬似塩基対形成工程および擬似塩基対検出工程以外の工程が含まれていてもよい。
【0111】
<本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子の固定化>
本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子の使用方法は特に限定されるものではなく、前記一般式(1)の化学構造のままで用いてもよいし、修飾された化学構造を有するもの(例えば、上述したように、リンカー部等に化学発光または蛍光を発する分子種を導入したもの等)であってもよいが、さらには、担体に固定化されて用いられてもよい。
【0112】
ここで言う「固定化」とは、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子が、担体となる任意の化合物に固定化されている状態であればよいが、具体的には、例えば、担体となる化合物と化学的に結合した状態等を挙げることができる。なお、「固定化物」とは、担体に固定化された状態の化合物をいい、その固定化の方法は、特に限定されるものではない。
【0113】
上記担体としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリスチレン、アガロース、ポリアクリルアミド等の高分子(樹脂)材料等を挙げることができる。化学的な結合としては、担体と直接に共有結合した状態となっていてもよいし、リンカー部から固定化のためなどのために延ばされた枝を介して結合させてもよい。このような「枝」としては特に限定されるものではないが、例えば、アルキレン基、ポリエチレンオキシ基等を用いることができる。
【0114】
固定化のより具体的な例としては、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子をタイタープレートなどのプレートに固定化する。この場合、例えば、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子を固定化した上記プレートに二本鎖の核酸、好ましくは標識化された核酸を加え、数分間インキュベートした後、核酸類を除去すると、変異を含む核酸はプレート上の本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子と擬似的な塩基対を形成するため、プレート表面にトラップされることになる。しかも、核酸が標識されていれば、容易に変異を検出・同定することが可能となる。
【0115】
<ミスマッチ塩基対検出キット>
本発明には、上述したミスマッチ塩基対検出方法だけでなく、該検出方法を実施するための検出キットが含まれる。具体的には、少なくとも上記ミスマッチ塩基対検出分子を固定化した担体を含む構成であればよいが、さらに、化学式(7)、(8)で表される化合物のようなミスマッチ塩基対検出分子を併用してもよい。これら複数のミスマッチ塩基対検出分子を併用する場合、各ミスマッチ塩基対検出分子は、前述したように異なる標識化がなされていることが好ましい。
【0116】
さらに、上記キットには、標的領域を増幅するためのプライマーセットと、標的領域を含み当該領域の塩基配列が確認されている核酸とが含まれていてもよい。また、上記検出キットには、さらに、標識化のレベルを測定するための薬剤や、標識化のレベルのコントロールとなる比較用の標本(核酸等)類や、各種バッファー等が含まれていてもよい。
【0117】
上記何れの構成であっても、前述したミスマッチ塩基対検出方法を実施するために好ましい薬剤や標本等が含まれている。そのため、上記検出キットを用いることで、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出方法を容易かつ簡素に実施することができ、本発明を臨床検査産業や医薬品産業等の産業レベルで利用することが可能となる。
【0118】
<塩基配列の異常の検出方法>
本発明の代表的な利用方法としては、例えば、塩基配列の異常の検出方法を挙げることができる。この方法の具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば、ハイブリダイズ工程とミスマッチ塩基対検出工程とを含んでいればよい。
【0119】
上記ハイブリダイズ工程は、検体となる一本鎖のDNAまたはRNAと、それに対応する正常な塩基配列を有するDNAまたはRNAとをハイブリダイズさせる工程である。
【0120】
上記検体となる一本鎖のDNAやRNAとは、SNP等の変異の有無を検査したい遺伝子(DNA)またはその転写産物(mRNA)、あるいはmRNAから得られるcDNAであればよい。この遺伝子(DNA、RNA、cDNA等)は全長配列であってもよいし、一部の配列であってもよい。また、上記検体となる一本鎖のDNAまたはRNAの具体的な状態は、特に限定されるものではないが、例えば、取り扱いやすいように、二本鎖の状態で任意の制限酵素で消化して適当な長さに切断してから、一本鎖に解離させてもよい。また、物理的に切断してから一本鎖にしてもよい。
【0121】
上記正常な塩基配列を有するDNAまたはRNAとは、検体となるDNAまたはRNAの野生型の塩基配列(多型等の変異の無い塩基配列)と相補的な塩基配列を有するものであればよいが、例えば、50塩基程度のオリゴマーを挙げることができる。このようなオリゴマーを用いることで、より効率的なハイブリダイズが可能となる。このとき、検体となるDNAやRNAも50塩基程度に切断したものであってもよい。
【0122】
また、ハイブリダイズの条件も特に限定されるものではなく、従来公知の条件(各核酸の混合、加熱、冷却等の操作)でハイブリダイズさせればよい。このようにハイブリダイズさせることにより、検体となるDNAやRNAに多型等の変異が含まれていれば、ハイブリダイズされた二本鎖のDNAまたはRNAにミスマッチが生じる。
【0123】
上記ミスマッチ塩基対検出工程は、前述したミスマッチ塩基対検出方法を用いて、上記ハイブリダイズしたDNAまたはRNAにミスマッチ塩基対が含まれるか否かを検出する工程である。前段のハイブリダイズ工程により、得られる二本鎖のDNAやRNAに例えばG−Gミスマッチ塩基対が含まれていれば、当該ミスマッチ塩基対に、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子を加えることで、ミスマッチ塩基対を検出することが可能となる。なお、ミスマッチ塩基対検出工程については、<ミスマッチ塩基対検出方法>にて詳細に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0124】
このように、本発明では、上記ミスマッチ塩基対検出分子を加えることにより、ミスマッチ塩基対に擬似的な塩基対が形成されるため、このような擬似的な塩基対が形成された分子の有無を測定することにより、採取された遺伝子にSNP等の変異が存在するか否かを簡便かつ高感度で検出・同定することができる。また、標識化のレベル(放射線量や発光・蛍光の程度)から、SNP等の変異を定量することも可能となる。
【0125】
<本発明のその他の利用方法>
さらに、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子は、低分子の有機化合物であり、擬似的な塩基対を形成した場合にはこの分子が核酸中に取り込まれるので、未反応のミスマッチ塩基対検出分子と核酸類とを比較的簡便に分離することができる。
【0126】
加えて、本発明を用いれば、ハイブリダイズされた核酸にミスマッチ塩基対が含まれている場合であっても、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子とミスマッチ塩基対を形成する各塩基との間に水素結合が形成される。その結果、ミスマッチ塩基対検出分子がミスマッチ塩基対間で安定化されるのみならず、ミスマッチ塩基対の近傍、好ましくは隣接する塩基対にスタックされる。そのため、ミスマッチ塩基対が存在している場合でもあって、比較的安定な二本鎖の核酸を得ることができる。したがって、本発明には、ミスマッチ塩基対が安定化された状態にある、ハイブリダイズされた核酸が含まれていてもよい。
【0127】
また、本発明を用いれば、従来の技術では達成できないミスマッチ塩基対を高感度でかつ簡便に検出、同定または定量することができる。そのため、本発明は、DNA損傷に伴う各種疾患の治療、予防又は診断に応用することも可能である。さらに、本発明では、ミスマッチ塩基対を有する状態でもハイブリダイズした状態を比較的安定に存在させることができるため、ミスマッチ塩基対を含有するDNAの安定化を図る用途や、ミスマッチ塩基対の発生原因やミスマッチ塩基対の修復機構の解明等といった研究の材料として利用することも可能である。
【0128】
あるいは、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子を、表面プラズモン共鳴(SPR)の検出用チップの金属薄膜上に固定化することも可能である。この場合、二本鎖の核酸を含有する試料液を検出用チップの表面に流すだけで、ミスマッチ塩基対の有無を特異的に検出することが可能となる。すなわち、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子を、担体に固定化した場合、例えば、SPR(表面プラズモン共鳴)センサーに固定化した場合、このSPRを利用して、簡便かつ確実に塩基対のミスマッチ塩基対を検出することができるミスマッチ塩基対検出装置(ミスマッチ塩基対検出センサー)を製造することができる。
【0129】
このミスマッチ塩基対検出装置に用いる担体としては、従来のSPRに用いられるようなガラスに金属薄膜を貼り付けたチップなどの従来公知の担体を用いることができる。なお、かかるチップの表面は、物質を固定化しやすいように表面処理されていてもよい(例えば、カルボキシメチルデキストラン化処理など)。そして、この担体の金属薄膜の表面に本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子を結合させる(固定化させる)ことで、ミスマッチ塩基対検出装置として用いることができる。本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子を担体に固定化させる方法は、上述した方法を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子にリンカーを設けて、担体と結合させる方法が挙げられる。
【0130】
このようにして調製したミスマッチ塩基対検出装置に対して、ミスマッチ塩基対を検出したい検体を含む溶液を接触させ、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子と検体とを相互作用させ、その相互作用の状態をSPR反応、すなわち、金属薄膜上の物質の質量に比例して反射光の干渉光の反射角度が小さくなる現象を利用し、その角度変化をもとに、金属薄膜表面に結合した物質に対する溶液中の物質の結合・解離を計測することにより、簡便かつ正確にミスマッチ塩基対を検出することができる。なお、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出装置は、このSPRを利用するものに限られるものではない。
【0131】
以上、本発明の具体的な実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明は、公知の多くの検出手段に応用することが可能である。そのため、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者が有する知識に基づいて、種々の改良、変更、修正を加えた態様で実施することができる。
【実施例】
【0132】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0133】
〔実施例1:化学式(4)で表される化合物の合成〕
以下の式
【0134】
【化23】

【0135】
に示す化学反応に従って化学式(4)で表される化合物を合成した。
【0136】
アルコール(上記反応式中1と表示)(233mg、1.0mmol)を乾燥アセトニトリル(5mL)に室温で溶かし、N,N’−ジサクシノイルカーボネート(3.0mmol、0.77g)とトリエチルアミン(6mmol、0.84mL)を加えた。反応混合物を原料のアルコールが薄層クロマトグラフィーで検出できなくなるまで(約5時間)撹拌する。反応混合物から減圧下で溶媒を除き、重炭酸水溶液(10mL)で希釈後、酢酸エチル(10mL)で2回抽出した。酢酸エチル層を合わせ、飽和食塩水(10mL)で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾過後、ろ液を濃縮して混合炭酸エステル2(上記反応式中2と表示)を得た。続いて、2をジクロロメタン(5mL)に溶解し、2-アミノ-7-メチル-1、8-ナフチリジン(3.0mmol、0.48g)とトリエチルアミン(4.0mmol、0.56mL)を含むジクロロメタン溶液を加え、室温で24時間撹拌した。反応混合物をジクロロメタン(20mL)で希釈し、重炭酸水溶液(10mL)ついで飽和食塩水(10mL)で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾過後、ろ液を濃縮して粗生成物を得た。粗生成物はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール 12:1)で精製し、N-Boc保護されたカルバメート3(上記反応式中3と表示)(292mg、2段階収率49%)を得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ = 8.16 (d, 2H, J = 8.8 Hz), 8.00 (d, 2H, J = 8.8 Hz), 7.86 (d, 2H, J = 8.0 Hz), 7.13 (d, 2H, J = 8.4 Hz), 4.17 (t, 4H, J = 6.4 Hz), 3.42 (s, 1H), 3.25 (t, 4H, J = 6.4 Hz), 2.63 (s, 6H), 1.88 (bs, 4H), 1.37 (s, 9H). 13C NMR (CDCl3, 400 MHz) δ = 163.2, 155.6, 154.8, 153.6, 153.3, 139.1, 136.6, 121.4, 118.1, 112.8, 80.0, 63.7, 50.4, 44.5, 28.6, 25.7. HR-FABMS calcd for C31H38N7O6 [(M + H)+], 604.2884; found. 604.2886.
カルバメート3(10mg)のジクロロメタン(3mL)溶液に、4M HClの酢酸エチル溶液(2mL)を加え、室温で1時間撹拌した。溶媒を留去して目的とする化合物の塩酸塩4(上記反応式中4と表示)を定量的に得た。
1H NMR (CD3OD, 400 MHz) δ = 8.15 (m, 6H), 7.35 (d, 2H, J = 8.4 Hz), 4.34 (t, 4H, J = 6.0 Hz), 3.15 (t, 4H, J = 7.2 Hz), 2.71 (s, 6H), 2.11 (bs, 4H). 13C NMR (CD3OD, 400 MHz) δ = 163.0, 154.5, 154.3, 154.0, 139.1, 137.6, 121.4, 118.2, 113.1, 62.7, 45.4, 26.5, 23.8. HR-FABMS calcd for C26H30N7O6 [(M + H)+], 504.2359; found. 504.2361.
〔実施例2:化学式(4)で表される化合物の熱安定性評価〕
得られた化学式(4)で表される化合物をカコジル酸バッファー(pH7.0)溶液に、濃度710μMとなるように加え、80℃における該化合物の濃度の経時的変化を調べて、該化合物の熱安定性を評価した。また、対照化合物として、上記化学式(5)および(6)で表される化合物についても、化学式(4)で表される化合物と同様にして熱安定性を調べ比較した。上述したように、上記化学式(5)で表される化合物は特許文献2にミスマッチ塩基対検出分子として報告されているナフチリジンダイマーである。また、上記化学式(6)で表される化合物は、上述したように、化学式(4)で表される化合物と比較して炭素数が中央部の窒素原子の片側で1個ずつ少ない化合物である。結果を図2に示す。
【0137】
図2中、縦軸は時間0における各化合物の濃度を100%としたときの、時間経過後にバッファ中に存在する各化合物の濃度の割合を示す。横軸は時間(分)を示す。また、図中(4)、(5)および(6)は、それぞれ化学式(4)、(5)および(6)で表される化合物についての結果を示す。図2に示されるように、化学式(4)、(5)および(6)で表される化合物の半減期はそれぞれ95分、40分および4分であった。この結果から、化学式(4)で表される化合物は他の2つに比べ、熱安定性が顕著に向上していることがわかった。
【0138】
〔実施例3:化学式(4)で表される化合物のアルカリ安定性評価〕
得られた化学式(4)で表される化合物を100mMの塩化ナトリウムおよび50mMの水酸化ナトリウムを含むカコジル酸バッファー(pH7.0)溶液に、濃度100μMとなるように加え、室温における該化合物の3時間後の濃度を調べて、該化合物のアルカリ安定性を評価した。また、対照化合物として、上記化学式(5)で表される化合物についても、化学式(4)で表される化合物と同様にしてアルカリ安定性を調べ比較した。結果を図3に示す。
【0139】
図3中、縦軸は時間0における、各化合物の濃度を100としたときの、時間経過後にバッファ中に存在する各化合物の濃度の割合を示す。図中(4)および(5)は、それぞれ化学式(4)および(5)で表される化合物についての結果を示す。それぞれの化合物において左側が時間0のときの、右側が3時間後の結果を示す。図3に示されるように、50mMの水酸化ナトリウムを含むバッファー中で、化学式(4)で表される化合物は、3時間後も79.4%が分解せずに存在したのに対し、化学式(5)で表される化合物は、同じバッファー中で3時間後には11.6%にまで減少していることが示された。この結果から、化学式(4)で表される化合物は化学式(5)で表される化合物に比べ、アルカリ安定性が顕著に向上していることがわかった。
【0140】
〔実施例4:化学式(4)で表される化合物が認識するミスマッチ塩基対の確認〕
以下に示す各塩基配列を有する2本のオリゴヌクレオチドからなり、塩基XとYとからなるミスマッチ塩基対を含む二本鎖DNAを準備した。ここで、以下の塩基配列における(X,Y)の塩基は、それぞれ、(C,C)、(A,C)、(T,C)、(G,G)、(G,A)、(G,T)、(A,A)または(T,T)とした。これらの二本鎖DNAを、100mMの食塩を含む10mMのカコジル酸ナトリウムバッファー(pH7.0)溶液として調製した。カコジル酸ナトリウムバッファー(pH7.0)溶液における二本鎖DNAの濃度は、塩基濃度として100μMとした。
5'-CTAACXGAATG-3'(配列番号1)
5'-CATTCYGTTAG-3'(配列番号2)
なお、配列表においては、X,Yはともに、A又はC又はG又はTを示す「n」で表す。
【0141】
上記二本鎖DNAのカコジル酸ナトリウムバッファー(pH7.0)溶液に、化学式(4)で表されるアミノナフチリジンダイマーを100μM加え、温度変化に対する260nmの吸光度の変化を測定し、変曲点から融解温度Tm(drug(+))を算出した。なお、温度は、1℃/分の速度で上昇させた。次に、化学式(4)で表されるアミノナフチリジンダイマーを加えない場合についても同様にして、融解温度Tm(drug(−))を測定し、これら融解温度の差(ΔTm=drug(+) − drug(−))を求めた。
【0142】
さらに、上記二本鎖DNAにおいて、ミスマッチ塩基対を含まない完全に相補的な配列のもの(Full Match)を準備し、上記と同様にして二本鎖DNA溶液を調製した。すなわち、上記塩基配列において、(X,Y)が(A,T)または(G,C)のものについて二本鎖DNA溶液を調製した。そして、これら二本鎖DNA溶液について、上記と同様にして、融解温度を測定し、その差を求めた。結果を次の表1に示す。なお、表1には上記化学式(5)および(6)で表される化合物について、同様にミスマッチ塩基対の確認を行った結果も併せて示す。
【0143】
【表1】

【0144】
表中、(4)、(5)および(6)は、それぞれ化学式(4)、(5)および(6)で表される化合物についての結果を示す。上記表1の結果から明らかなように、化学式(4)で表されるアミノナフチリジンダイマーはG−Gミスマッチ塩基対を含む二本鎖DNAを最も安定化し、次にG−AミスマッチやT−Cミスマッチを含む二本鎖DNAを安定化することが分かった。また、A−Cミスマッチ、C−CミスマッチやT−Tミスマッチを含む二本鎖DNAも弱く安定化した。これに対して、他のミスマッチ塩基対を含む二本鎖DNAや、Full Matchの二本鎖DNAは全く安定化しなかった。
【0145】
これにより、本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子は、上記のミスマッチ塩基対において安定した擬似的な塩基対を形成することがわかり、ミスマッチ塩基対検出分子として機能することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0146】
以上のように、本発明は、ポストゲノムシークエンスに関わる各種研究用の試薬類等を生産または製造する産業に適用できるだけでなく、SNP等の多型を原因とする遺伝病の検査や、ハイブリダイズした核酸の安定化による各種疾患の治療等といった医薬品産業等にも適用することができる。さらに、遺伝子の個人的な違い(遺伝子の一塩基多型、SNP)を迅速かつ安価に検出することができ、個人認証などのさまざまな領域に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子がミスマッチ塩基対において擬似的な塩基対を形成する作用を模式的に示す図である。
【図2】本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子の熱安定性評価の結果を示すグラフである。
【図3】本発明にかかるミスマッチ塩基対検出分子のアルカリ安定性評価の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

((1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは水素原子を示し、Rは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数4〜6のアルキレン基あるいは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数4〜6のアルキレン基であって該アルキレン基骨格を構成する1つ以上の炭素原子が酸素原子若しくはイオウ原子で置換されている有機基を示す。)
で表される化合物であり、正常な塩基対を形成することができない塩基の対であるミスマッチ塩基対に、疑似的に塩基対を形成する化合物であることを特徴とするミスマッチ塩基対検出分子。
【請求項2】
上記一般式(1)で表される化合物が、次に示す一般式(2)
【化2】

((2)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは水素原子を示し、Aは酸素原子またはイオウ原子を示し、nは3〜5を示す。)
で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のミスマッチ塩基対検出分子。
【請求項3】
上記一般式(1)で表される化合物が、次に示す一般式(3)
【化3】

((3)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Aは酸素原子またはイオウ原子を示す。)
で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のミスマッチ塩基対検出分子。
【請求項4】
上記一般式(1)で表される化合物が、次に示す化学式(4)
【化4】

で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のミスマッチ塩基対検出分子。
【請求項5】
上記ミスマッチ塩基対が、グアニン−グアニン、グアニン−アデニン、シトシン−チミン、シトシン−シトシン、シトシン−アデニン、チミン−チミンのうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のミスマッチ塩基対検出分子。
【請求項6】
一般式(1)
【化5】

((1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは有機基を示し、Rは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数3〜6のアルキレン基あるいは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数3〜6のアルキレン基であって該アルキレン基骨格を構成する1つ以上の炭素原子が酸素原子若しくはイオウ原子で置換されている有機基を示す。)
で表される化合物であり、正常な塩基対を形成することができない塩基の対であるミスマッチ塩基対に、疑似的に塩基対を形成する化合物であることを特徴とするミスマッチ塩基対検出分子。
【請求項7】
上記一般式(1)で表される化合物が、次に示す一般式(2)
【化6】

((2)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは有機基を示し、Aは酸素原子またはイオウ原子を示し、nは2〜5を示す。)
で表される化合物であることを特徴とする請求項6に記載のミスマッチ塩基対検出分子。
【請求項8】
上記ミスマッチ塩基対が、グアニン−グアニン、グアニン−アデニン、シトシン−チミン、シトシン−シトシン、シトシン−アデニン、チミン−チミンのうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項6または7に記載のミスマッチ塩基対検出分子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のミスマッチ塩基対検出分子を用いて、ハイブリダイズされた核酸に含まれる、正常な塩基対を形成することができない塩基の対であるミスマッチ塩基対に疑似的に塩基対を形成させる工程と、
当該ミスマッチ塩基対に形成された疑似的な塩基対を検出する工程とを含むことを特徴とするミスマッチ塩基対検出方法。
【請求項10】
上記ミスマッチ塩基対検出分子は、担体に固定化されて用いられることを特徴とする請求項9に記載のミスマッチ塩基対検出方法。
【請求項11】
上記ミスマッチ塩基対検出分子は、標識化されて用いられることを特徴とする請求項9または10に記載のミスマッチ塩基対検出方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載のミスマッチ塩基対検出方法を実施するために用いられるキットであって、少なくとも上記ミスマッチ塩基対検出分子を固定化した担体を含むことを特徴とするミスマッチ塩基対検出キット。
【請求項13】
さらに、標的領域を増幅するためのプライマーセットと、標的領域を含み当該領域の塩基配列が確認されている核酸とを含むことを特徴とする請求項12に記載のミスマッチ塩基対検出キット。
【請求項14】
検体となる一本鎖のDNAまたはRNAと、それに対応する正常な塩基配列を有するDNAまたはRNAとをハイブリダイズさせる工程と、
請求項9〜11のいずれか1項に記載のミスマッチ塩基対検出方法を用いて、上記ハイブリダイズした二本鎖DNAまたはRNAにミスマッチ塩基対が含まれるか否かを検出する工程とを含むことを特徴とする塩基配列の異常の検出方法。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のミスマッチ塩基対検出分子を固定化した担体を備えていることを特徴とするミスマッチ塩基対検出装置。
【請求項16】
一般式(1)
【化7】

((1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、あるいは炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子および/または酸素原子で置換されている有機基を示し、Rは水素原子を示し、Rは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数4〜6のアルキレン基あるいは炭素数1〜5の炭化水素基を置換基として有するまたは有しない炭素数4〜6のアルキレン基であって該アルキレン基骨格を構成する1つ以上の炭素原子が酸素原子若しくはイオウ原子で置換されている有機基を示す。)
で表される化合物。
【請求項17】
請求項16に記載の化合物を固定化した担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−104159(P2006−104159A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295238(P2004−295238)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】