説明

ミネラル補給資材およびその製造方法

【課題】鉄鋼スラグ中に含まれる各種ミネラル成分を農地などの土壌中で効率的に溶出させ、さらに持続的にその効果を発揮できるミネラル補給資材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】石炭系腐植酸を硝酸処理したニトロ腐植酸とクエン酸との反応生成物と、2CaO・SiO2を5〜30重量%含む、高炉スラグおよび製鋼スラグから選ばれた少なくとも1つのスラグとを、固形分換算でニトロ腐植酸とクエン酸との反応生成物およびスラグの混合物全体に対して、上記反応生成物が1〜30重量%含まれるように混合して造粒する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はミネラル補給資材およびその製造方法に関し、特に肥料、土壌改良資材として、少なくとも鉄イオン、マンガンイオン、ケイ酸イオン、カルシウムイオンを土壌に補給できるミネラル補給資材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の農地では、石灰資材の連用による土壌のアルカリ化によって鉄やマンガンの肥効が効かなくなったり、堆肥や収穫残渣等の有機物資源の未利用によってミネラル不足となったりして、これらアルカリ以外のミネラル養分欠乏が発生している。
ミネラル養分欠乏に対処するために、ミネラル専用肥料が販売されているが、その殆んどが非常に高価であり、そのため使用量も少なく、また、ミネラル専用肥料においてもその効果が長続きしないものが多い。
【0003】
従来、石灰資材にクエン酸を配合する元肥用石灰資材が開示されている(特許文献1)。また、鉄鋼スラグに酸性化材および肥料を配合してなる芝生用土壌改良材が開示され、酸性化材の例示として、硝酸などの鉱酸、クエン酸、ニトロフミン酸などの有機酸、ピートモス、硫黄華等が例示され、実施例としてはピートモス、硫黄華が挙げられている(特許文献2)。
さらに、若年炭と硝酸および/または硫酸との反応生成物(硝酸酸化を受けたものがニトロフミン酸である。)等の腐植酸またはその含有物を水溶性マグネシウム塩で造粒した粒状物からなる苦土肥料が開示されている(特許文献3)。
【0004】
一方、鉄鋼スラグを原料とするケイ酸カルシウムを主成分とし、その他にマグネシウム、リン酸、鉄、マンガン、ホウ素などを含んだ土づくり肥料として、「ミネカル」や「農力アップ」(共に商品名、非特許文献1)が知られている。特にミネカルは、水田へのケイ酸・鉄の補給効果や、畑への酸性改良効果により、土壌病害の発生しにくい環境を作ることができ、また、多量に施用してpHを7.0〜7.5に上げても、ホウ素やマンガンなどを含んでいるため、微量要素欠乏症を起こしにくくなるという効果があり、畑地の土壌酸性改良資材として多用されている。
【0005】
しかしながら、ミネカルは、初期の肥効が穏やかな反面、効果的な酸性改良を行なうには畑地10アール当たり、1〜10t散布する必要があり、使用量が多量になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−26182
【特許文献2】特開平1−168791
【特許文献3】特開2006−96628
【0007】
【非特許文献1】http://www.sangyoshinko.co.jp/business/fertilizer3.html#minekaru
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、鉄鋼スラグ中に含まれる各種ミネラル成分を農地などの土壌中で効率的に溶出させ、さらに持続的にその効果を発揮できるミネラル補給資材およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のミネラル補給資材は、ニトロ腐植酸とクエン酸と鉄鋼製造過程で発生するスラグとの混合物を造粒してなり、上記混合物は、ニトロ腐植酸とクエン酸とを予め均一に混合して、該混合時の反応熱が除かれた物質とスラグとが混合されてなることを特徴とする。
また、上記ニトロ腐植酸が石炭系腐植酸を硝酸処理したニトロ腐植酸であり、固形分換算で該ニトロ腐植酸とクエン酸との反応生成物および上記スラグの混合物全体に対して、上記反応生成物が1〜30重量%含まれていることを特徴とする。
鉄鋼製造過程で発生するスラグは、高炉スラグおよび製鋼スラグから選ばれた少なくとも1つのスラグであり、2CaO・SiO2を5〜30重量%含むことを特徴とする。
【0010】
本発明のミネラル補給資材の製造方法は、鉄イオン、マンガンイオン、ケイ酸イオンおよびカルシウムイオンから選ばれた少なくとも1つのイオンを供給できる製造方法であって、
ニトロ腐植酸とクエン酸とを混合溶解させる工程と、所定期間、上記混合溶解させた物質を25℃±5℃の温度で静置する工程と、上記静置されたものを、鉄鋼製造過程で発生するスラグに混合して混合物を製造する工程と、上記混合物を皿型造粒機を用いて造粒する工程とを含むことを特徴とする。
特に上記静置する期間が1日〜50日であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のミネラル補給資材は、ニトロ腐植酸とクエン酸との混合物を所定の方法で鉄鋼製造過程で発生するスラグに混合して造粒するので、ミネラル成分、特に鉄イオン、マンガンイオン、ケイ酸イオン、カルシウムイオンを効率的に土壌中に溶出することができる。その結果、土壌10アール当たり、60〜100kgの散布で、ミネラル補給効果を1年程度持続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】溶出状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
クエン酸と鉄鋼製造過程で発生する鉄鉱スラグを直接混合した場合、クエン酸とスラグとが強烈な中和反応を起こす。この反応により発熱、刺激臭が発生するためクエン酸とスラグとの直接混合が困難になる。しかし、ニトロ腐植酸とクエン酸とを混合機の中で一定時間混合して均一に混ぜ合わせ、約1ヶ月程度養生させたのちに、鉄鉱スラグと混合し造粒することで刺激臭が発生することなく工業的製造が可能となった。さらにアルカリ性の鉄鉱スラグ中に含有するミネラル成分、特に鉄イオン、マンガンイオン、ケイ酸イオン、カルシウムイオンがニトロ腐植酸、クエン酸に含まれる無機酸、有機酸の効果により速やかに溶出することが分かった。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0014】
本発明で使用できるニトロ腐植酸は、硝酸を用いて石炭または亜炭を分解して得られる。
腐植酸はフミン酸とも言われ、動植物の遺体が土に埋もれ、土壌中の微生物の働きによって複雑に分解・重合を繰り返して生成した有機化合物である。これら有機化合物の中でも比較的ベンゼン核を多く持った分子形態をしており、酸不溶・アルカリ可溶の不定形高分子有機酸である石炭系フミン酸が好ましく使用できる。
石炭系フミン酸の中でも、泥炭、亜炭、褐炭などの若年炭を粉砕し、希硝酸溶液と混合して酸化分解し、酸不溶・アルカリ可溶の粉末をろ過分離して得られるフミン酸は、硝酸による酸化分解の際に副反応としてニトロ化が若干起きる。このため、ニトロフミン酸またはニトロ腐植酸と呼ばれるが、本発明においては、このニトロ腐植酸を使用することが好ましい。
ニトロ腐植酸の市販品としてはファイマテック株式会社製商品等がある。
【0015】
本発明に使用できるクエン酸は化学式がHOOCCHC(OH)(COOH)CHCOOHで表される有機酸であり、含水塩も使用できる。
ニトロ腐植酸とクエン酸との混合は、ニトロ腐植酸にクエン酸粉末またはその水溶液とを混合反応させて得られる物質である。
この反応物質を工業的に生産する場合、最小生産量である900kgを例にすれば、1日〜50日、好ましくは10日〜50日間養生する。養生することにより、クエン酸とアルカリ性である鉄鉱スラグを混合する際に起こる中和反応が回避され、ニトロ腐植酸、クエン酸、鉄鉱スラグを一粒化することができる。
ニトロ腐植酸とクエン酸との反応において、反応比率は固体重量比で(ニトロ腐植酸/クエン酸)=(95.0〜99.9/0.1〜5.0)であることが好ましい。この配合比率の範囲外では鉄鉱スラグとの混合、造粒が困難になる。
【0016】
本発明に使用できる鉄鋼製造過程で発生する鉄鉱スラグは、高炉スラグ、製鋼スラグ、酸化スラグ、還元スラグを含む製鋼電気炉スラグ、合金鉄スラグ等が挙げられる。
これらのスラグの中でも、鉄鋼製造過程で安定して発生する高炉スラグまたは製鋼スラグであって、2CaO・SiO2を含有する可溶性ケイ酸を含むスラグが好ましい。特にスラグ全体に対して2CaO・SiO2を5〜30重量%含む高炉スラグまたは製鋼スラグが好ましい。高炉スラグと製鋼スラグとは単独でも混合物としても使用できる。
【0017】
高炉スラグは、製鉄所の高炉で溶融された鉄鉱石の鉄以外の成分が副原料の石灰石やコークス中の灰分と一緒になり分離回収されたものであり、ケイ酸やカルシウムが多く含まれている。
高炉スラグ成分例としては、可溶性石灰35〜45重量%、酸化鉄0.4〜2.4重量%、可溶性ケイ酸30〜40重量%(2CaO・SiO28〜10重量%)、く溶性マグネシウム2〜6重量%、く溶性マンガン0.3〜1.7重量%、く溶性ホウ素約0.01重量%以下が挙げられる。
【0018】
製鋼スラグは、高炉で製造された銑鉄から不純物を取り除き、さらに生石灰やケイ石などの副原料を加えて加工性の高い鋼にする過程で発生したものであり、ケイ酸やカルシウム以外にマグネシウム、リン酸、鉄、マンガン、ホウ素などのミネラル成分を含有している。
製鋼スラグ成分例としては、可溶性石灰35〜45重量%、酸化鉄10〜30重量%、可溶性ケイ酸10〜40重量%(2CaO・SiO28〜30重量%)、く溶性マグネシウム2〜5重量%、く溶性マンガン3〜5重量%、く溶性リン酸1〜3重量%、く溶性ホウ素約0.01〜0.1重量%が挙げられる。
【0019】
本発明においては、スラグ全体に対して、2CaO・SiO2含量が5〜30重量%の製鋼スラグが好ましい。これは2CaO・SiO2がケイ酸(SiO2)を溶出しやすく、またリン酸を高濃度含むことによる。その結果、有効成分の溶出が高くなる。
なお、上記スラグは、商品名ミネカルおよび農力アップとして産業振興株式会社より市販されている。
【0020】
上記スラグに対して、ニトロ腐植酸とクエン酸との反応生成物の配合割合は、固形分換算で上記反応生成物および上記スラグの混合物全体に対して、上記反応生成物が1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%である。反応生成物が1重量%未満ではミネラルの溶出が期待できず、30重量%をこえると皿型造粒機による製造が困難である。
【0021】
本発明のミネラル補給資材の製造方法について説明する。
石炭または亜炭を硝酸で分解して生成するニトロ腐植酸を準備する。このニトロ腐植酸の中に無水クエン酸を所定量加えて、室温(25℃)で20分間、混合攪拌する。
得られた反応生成物を一定期間養生させた後、鉄鋼製造過程で発生する鉄鉱スラグを所定量加えて、バインダーとしてリグニンスルフォン酸カルシウムを添加し、室温(25℃)で20分間、混合攪拌する。配合するスラグの平均粒子径は40μmであるが、これは造粒時にニトロ腐植酸とクエン酸の反応生成物と均一に混合でき、表面の凹凸も少なくなる等の理由で好ましい。
ニトロ腐植酸とクエン酸の反応生成物と鉄鉱スラグの混合物を皿型造粒機に移し、水を散水しながら見掛けの粒子径が2mm〜6mmとなるように造粒し、80〜110℃で乾燥し、ミネラル補給資材が製造できる。
【0022】
造粒されたミネラル補給資材は、ニトロ腐植酸とクエン酸との反応生成物を1〜30重量%含む。そのため、造粒されたミネラル補給資材が水を含むと膨潤・崩壊しやすくなるので、土壌中で混ざりやすくなり、さらに無機酸と有機酸が同時に効果を発揮することで、さらに溶け出しやすくなったミネラル成分が、腐植酸とキレート結合などすることで、植物へも吸収利用されやすくなる。一方、結晶内に取り込まれている大部分のスラグ中の成分は、長期にわたり持続的に溶出することで、ミネラル補給効果が維持される。
本発明のミネラル補給資材は、ニトロ腐植酸とクエン酸との反応生成物である酸性物質とアルカリ物質の鉄鉱スラグとを混合することにより中性物質となるため、肥料、培養土、造園用の人工土壌として利用できる。また、ニトロ腐植酸とクエン酸との反応生成物の中で、特にニトロ腐植酸成分は土壌改良資材、クエン酸成分は微生物の餌として土壌環境の改善に寄与する。
【実施例】
【0023】
実施例1
ニトロ腐植酸(ファイマテック株式会社製、商品名ニトロ腐植酸、腐植酸含有量60〜70重量%)2gをとり、この中に無水クエン酸粉末0.2gを加えて、室温(25℃)で20分間、混合攪拌した。混合物は混合開始時に発熱したが20分後に室温にもどった。この中にミネカル(産業振興株式会社製、商品名)8gを加えて、皿型造粒法を用いて見掛けの粒子径が2mm〜6mmとなるように造粒してミネラル補給資材を得た。配合割合を表1に示す。
得られたミネラル補給資材を50ミリリットルの純水に加えて、鉄イオンおよびマンガンイオンの溶出量を原子吸光法で測定した。ミネラル補給資材1kgあたりの溶出量(mg)に換算した結果を表2に示す。
また、7日後の溶出状態を図1に示す。
【0024】
比較例1
ニトロ腐植酸(ファイマテック株式会社製、商品名ニトロ腐植酸、腐植酸含有量60〜70重量%)2gをとり、この中にミネカル(産業振興株式会社製、商品名)8gを加えて、皿型造粒法を用いて見掛けの粒子径が2mm〜6mmとなるように造粒してミネラル補給資材を得た。配合割合を表1に示す。
得られたミネラル補給資材を50ミリリットルの純水に加えて、鉄イオンおよびマンガンイオンの溶出量を原子吸光法で測定した。ミネラル補給資材1kgあたりの溶出量(mg)に換算した結果を表2に示す。
【0025】
比較例2
ミネカル(産業振興株式会社製、商品名)8gを50ミリリットルの純水に加えて、鉄イオンおよびマンガンイオンの溶出量を実施例1の方法で測定した。ミネラル補給資材1kgあたりの溶出量(mg)に換算した結果を表2に示す。
また、7日後の溶出状態を図1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
実施例2
ニトロ腐植酸(ファイマテック株式会社製、商品名ニトロ腐植酸、腐植酸含有量60〜70重量%)2gをとり、この中に無水クエン酸粉末0.2gを加えて、室温(25℃)で20分間、混合攪拌した。混合物は混合開始時に発熱したが20分後に室温にもどった。この中に農力アップ(産業振興株式会社製、商品名)8gを加えて、皿型造粒法を用いて見掛けの粒子径が2mm〜6mmとなるように造粒してミネラル補給資材を得た。配合割合を表3に示す。
得られたミネラル補給資材を50ミリリットルの純水に加えて、ケイ酸イオンおよびカルシウムイオンの溶出量を原子吸光法で測定した。ミネラル補給資材1kgあたりの溶出量(mg)に換算した結果を表3に示す。
【0029】
比較例3
農力アップ(産業振興株式会社製、商品名)8gを50ミリリットルの純水に加えて、鉄イオンおよびマンガンイオンの溶出量を実施例2の方法で測定した。ミネラル補給資材1kgあたりの溶出量(mg)に換算した結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のミネラル補給資材は、鉄鉱スラグに含まれている鉄、マンガン、ケイ酸、カルシウムなどのミネラル分が土壌に溶出され易く、長期にわたりミネラル補給効果が維持されるので、肥料、培養土、造園用の人工土壌、土壌改良資材、土壌環境の改善材として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロ腐植酸とクエン酸と鉄鋼製造過程で発生するスラグとの混合物を造粒してなる土壌へのミネラル補給資材であって、
前記混合物は、前記ニトロ腐植酸と前記クエン酸とを予め均一に混合して、該混合時の反応熱が除かれた物質と前記スラグとが混合されてなることを特徴とするミネラル補給資材。
【請求項2】
前記ニトロ腐植酸が石炭系腐植酸を硝酸処理したニトロ腐植酸であり、固形分換算で該ニトロ腐植酸とクエン酸と前記スラグとの混合物全体に対して、前記物質が1〜30重量%含まれていることを特徴とする請求項1記載のミネラル補給資材。
【請求項3】
前記スラグが高炉スラグおよび製鋼スラグから選ばれた少なくとも1つのスラグであり、2CaO・SiO2を5〜30重量%含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載のミネラル補給資材。
【請求項4】
鉄イオン、マンガンイオン、ケイ酸イオンおよびカルシウムイオンから選ばれた少なくとも1つのイオンを土壌に供給できるミネラル補給資材の製造方法であって、
ニトロ腐植酸とクエン酸とを混合溶解させる工程と、
所定期間、前記混合溶解させた物質を25℃±5℃の温度で静置する工程と、
前記静置された物質と、鉄鋼製造過程で発生するスラグとを混合して混合物を製造する工程と、
前記混合物を皿型造粒機を用いて造粒する工程とを含むことを特徴とするミネラル補給資材の製造方法。
【請求項5】
前記所定期間が1日〜50日であることを特徴とする請求項4記載のミネラル補給資材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−82111(P2012−82111A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230671(P2010−230671)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(591063202)産業振興株式会社 (10)
【Fターム(参考)】