説明

ミバエの誘引・摂食刺激剤及び誘引体

【課題】良好な誘引活性及び摂食刺激活性を示すミバエの誘引・摂食刺激剤及び誘引体を提供する。
【解決手段】3−オキソ−α−イオノン、3−オキソ−α−イオノール、3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノン、3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノール、3−ヒドロキシ−α−イオノン、3−ヒドロキシ−α−イオノール、イソフォロン及びイソフォロールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する。α−イオノール及び/又はα−イオノンを更に含有してもよい。前記有効成分を、濾紙、厚紙、不織布、綿布、フランネル、ファイバーボード、及び、粘着材又は樹脂の成形品からなる群から選択される担体に含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な誘引活性及び摂食刺激活性を示すミバエの誘引・摂食刺激剤及び誘引体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミバエは全世界で約5000種が知られている。幼虫時代に果実類を食害するものも多い。果実食害性のミバエは、果実や果菜の生産及び輸出にとって経済的に大きな被害を与えることが多く、防除が非常に重要な農業害虫として多くの国で警戒されている。
【0003】
ナスミバエ(Bactrocera latifrons (Hendel))は、ナス、トマト、トウガラシ等のナス科植物等の生果実を加害する体長約6mmのハエで、東南アジア、台湾、ハワイ等に分布している。国内では沖縄県与那国島で分布が確認されている。
【0004】
本種は寄主果実に産卵し、ふ化した幼虫の食害によって果実が腐敗する。果菜類の生産地域に蔓延した場合、多額の被害が生じるおそれがある。前述の直接被害の他、果実から幼虫が一匹でも発見されると、ナスミバエ未発生地への輸出・移出の禁止措置が実施され、間接被害が生じるおそれがある。上記の理由から、ナスミバエの防除対策の強化が望まれている。
【0005】
防除に際して、ナスミバエの誘引剤を利用してナスミバエの個体数をモニタリングすることが提案されている。例えば、誘引剤に誘引されたナスミバエの個体数を調査することにより、ナスミバエ個体群の全体像把握に利用することが考えられている。防除手段として、ナスミバエの誘引剤を利用してナスミバエを駆除することも提案されており、例えば、誘引剤に殺虫剤を加えた餌で誘殺すること、或いは誘引したナスミバエを捕殺器等の機械的方法で捕殺することが考えられている。
【0006】
従来、ナスミバエ雄の誘引剤として、例えば、α−イオノール及びα−イオノンを有効成分とするものが知られている。
【特許文献1】米国特許第4877607号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、α−イオノール又はα−イオノン単体を有効成分とする誘引剤は、ナスミバエ雄に対する誘引作用が不十分であり、ナスミバエの防除対策に用いる新たな誘引剤の開発が求められていた。更に、ナスミバエの誘引剤として利用できる有効成分の選択肢は限られており、新たな有効成分を利用した誘引剤の開発が求められていた。
【0008】
また、ナスミバエの摂食刺激物質は未だ明らかにされておらず、ナスミバエに摂食刺激を誘起させ、誘引剤と混合した殺虫剤を体内に取り込ませて防除することが困難であった。
【0009】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、誘引活性及び摂食刺激活性を有する化合物を含有したミバエの誘引・摂食刺激剤及び誘引体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ナスミバエに対し、良好な誘引活性と摂食刺激活性とを示す化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
第1発明に係るミバエの誘引・摂食刺激剤は、3−オキソ−α−イオノン、3−オキソ−α−イオノール、3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノン、3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノール、3−ヒドロキシ−α−イオノン、3−ヒドロキシ−α−イオノール、イソフォロン及びイソフォロールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする。
【0012】
第2発明に係るミバエの誘引・摂食刺激剤は、α−イオノール及び/又はα−イオノンを更に含有することを特徴とする。
【0013】
第3発明に係るミバエの誘引体は、誘引・摂食刺激剤を、濾紙、厚紙、不織布、綿布、フランネル、ファイバーボード、及び、粘着材又は樹脂の成形品からなる群から選択される担体に含有させていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の誘引・摂食刺激剤は、良好なナスミバエ誘引活性又は摂食刺激活性を有する。また、本発明の誘引・摂食刺激剤は、前述の誘引活性だけでなく摂食刺激活性を有するため、少量の殺虫剤を混合するだけで高い殺虫効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のミバエの誘引・摂食刺激剤について更に詳しく説明する。
【0016】
本発明のミバエの誘引・摂食刺激剤は、3−オキソ−α−イオノン、3−オキソ−α−イオノール、3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノン、3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノール、3−ヒドロキシ−α−イオノン、3−ヒドロキシ−α−イオノール、イソフォロン及びイソフォロールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する。
【0017】
また、本発明のミバエの誘引・摂食刺激剤は、α−イオノール及び/又はα−イオノンを更に含有する。
【0018】
また、本発明のミバエの誘引体は、前記誘引・摂食刺激剤を、濾紙、厚紙、不織布、綿布、フランネル、ファイバーボード、及び粘着材又は樹脂からなる成形品からなる群から選択される担体に含有させている。
【0019】
前述の化合物は下記の化学構造式で表され、それ自体は既知の化合物である。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
【化9】

【0029】
【化10】

【0030】
本発明の誘引・摂食刺激剤は、例えば次のようにして製造することができる。前述の化合物を適当な溶媒に溶解する。溶媒として、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジメチルホルムアミド等の親水性有機溶媒、ベンゼン、ジクロロメタン、エーテル、メチレンクロライド、n−ヘキサン等の親油性有機溶媒などが挙げられる。
【0031】
その他、前記誘引・摂食刺激剤に乳化剤、分散剤、浸透剤、懸濁剤、湿潤剤、展着剤、賦形剤、安定化剤などを添加し、油剤、水和剤、粉剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、噴霧剤などの形態をとる誘引・摂食刺激剤を製造することができる。
【0032】
前記誘引・摂食刺激剤を担体に含浸させた後に担体を乾燥させることにより、ミバエの誘引体を製造することができる。担体として、例えば濾紙、厚紙、不織布、綿布、フランネル、ファイバーボードなどが挙げられる。
【0033】
前記誘引・摂食刺激剤を樹脂で形成された樹脂成形品に混入することで、所定の形状のミバエの誘引体を製造することができる。
【0034】
前記誘引・摂食刺激剤を粘着材で形成された成形品に混入し、前記粘着材を担体の表面に塗布することで、粘着性を有するミバエの誘引体を製造することができる。
【0035】
また前記誘引・摂食刺激剤に、更に殺虫剤又はベイト剤を添加して、粘着材又は樹脂中に混入することにより、殺虫効果又は更なる摂食効果を伴ったミバエの誘引体を製造することができる。
【0036】
前述の粘着材又は樹脂を用いたミバエの誘引体は、板状、粒状、テープ状などを有するように構成することができる。
【0037】
本発明の誘引・摂食刺激剤をナスミバエの防除対策に使用する場合、例えば、濾紙に本発明の誘引・摂食刺激剤を含浸させて製造したミバエの誘引体を、野外の木の上に配置した粘着テープの上に設置し、ナスミバエを誘引して捕獲する。
【0038】
また、本発明の誘引・摂食刺激剤をナスミバエの防除対策に使用する場合、例えば、綿布に本発明の誘引・摂食刺激剤を含浸させて製造したミバエの誘引体を製造する。製造した誘引体を円筒状の誘引容器内に設置する。誘引容器は内部に小型ファンを備えている。小型ファンにより、誘引体から揮発した揮発成分が誘引容器の噴出口から噴出され、ナスミバエを誘引する。噴出口に粘着材を塗布して置き、誘引されたナスミバエを捕獲する。
【0039】
また、本発明の誘引・摂食刺激剤をナスミバエの防除対策に使用する場合、例えば、噴霧剤の形態に製造した本発明の誘引・摂食刺激剤を殺虫剤と混合してスプレー容器に注入し、野外で本発明の誘引・摂食刺激剤を撒布し、ナスミバエを誘殺する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
3−オキソ−α−イオノン(株式会社NARD研究所製)約1mgに約100マイクロリットルのエタノールを加え、十分に攪拌し溶解させて実施例1の誘引・摂食刺激剤を調製した。調製した誘引・摂食刺激剤10マイクロリットルを、濾紙(直径90mm、定性濾紙No.2:アドバンテック東洋株式会社製)の中央部の直径約10mmの範囲に広がるように含浸させた後、エタノールが揮散するまで風乾させ、実施例1の誘引体を作製した。
【0042】
(実施例2)
3−オキソ−α−イオノンに代えて3−オキソ−α−イオノール(株式会社NARD研究所製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の誘引体を作製した。
【0043】
(実施例3)
まず、公知のパラジウム触媒存在下接触酸素添加法により、3−オキソ−α−イオノンから3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノンを得た。3−オキソ−α−イオノンに代えて3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例3の誘引体を作製した。
【0044】
(実施例4)
まず、公知のパラジウム触媒存在下接触酸素添加法により、3−オキソ−α−イオノールから3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノールを得た。3−オキソ−α−イオノンに代えて3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例4の誘引体を作製した。
【0045】
(実施例5)
まず、コウジカビ(Aspergillus niger)を用いた公知の発酵法によりα−イオノン(Sigma-Aldrich株式会社製)を酸化して3−ヒドロキシ−α−イオノンを得た。3−オキソ−α−イオノンに代えて3−ヒドロキシ−α−イオノンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例5の誘引体を作製した。
【0046】
(実施例6)
3−オキソ−α−イオノンに代えて3−ヒドロキシ−α−イオノール(株式会社NARD研究所製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例6の誘引体を作製した。
【0047】
(実施例7)
3−オキソ−α−イオノンに代えてイソフォロン(Sigma-Aldrich株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例7の誘引体を作製した。
【0048】
(実施例8)
3−オキソ−α−イオノンに代えてイソフォロール(Sigma-Aldrich株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例8の誘引体を作製した。
【0049】
(実施例9)
3−オキソ−α−イオノン約1mgに代えてイソフォロン約0.5mgとα−イオノン約0.5mgとの混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例9の誘引体を作製した。
【0050】
(実施例10)
3−オキソ−α−イオノン約1mgに代えてイソフォロール約0.5mgとα−イオノン約0.5mgとの混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例10の誘引体を作製した。
【0051】
(実施例11)
3−オキソ−α−イオノン約1mgに代えてイソフォロン約0.5mgとα−イオノール(サンケイ化学株式会社製)約0.5mgとの混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例11の誘引体を作製した。
【0052】
(実施例12)
3−オキソ−α−イオノン約1mgに代えてイソフォロール約0.5mgとα−イオノール約0.5mgとの混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例12の誘引体を作製した。
【0053】
(比較例1)
3−オキソ−α−イオノンに代えてα−イオノン(Sigma-Aldrich株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の誘引体を作製した。
【0054】
(比較例2)
3−オキソ−α−イオノンに代えてα−イオノールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の誘引体を作製した。
【0055】
(比較例3)
ブランクとして利用するために、3−オキソ−α−イオノンを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例3の誘引体を作製した。
【0056】
以下、試験例を上げて本発明の誘引及び摂食刺激剤を用いた誘引体の効果を具体的に説明する。
【0057】
(評価試験)
供試虫として、平成13年10月に沖縄県ミバエ対策事業所(現、沖縄県病害虫防除技術センター)から、与那国島産ナスミバエ個体群(テリミノイヌホオズキ果実等から採取)の分与を受け、那覇植物防疫事務所昆虫飼育室内で飼育したものを試験に用いた。成虫の飼育は26−27℃、湿度60−70%のバイオトロン内で行い、14時間明期10時間暗期の日長条件を用いた。成虫の試料として、粉末酵母(オートリーゼイーストAY−65:アサヒフードアンドヘルスケア株式会社)及びグラニュー糖を1:4の比で混合したものを使用した。上述の飼育条件下で羽化した羽化後21−27日目の個体を試験に用いた。
【0058】
試験前日の9−11時にバイオアッセイケージ(35X35X45cm)内に雌雄50頭を入れ、翌朝7時45分に試験室内の照明を点灯し、1時間後の8時45分から試験を開始した。試験開始15分前に、本試験に用いる誘引体を作製した。バイオアッセイケージ内中央にプラスチックカップを伏せて設置し、伏せたプラスチックカップの上で床面から45mmとなる位置に前記誘引体を設置し、観察を開始した。誘引体設置後、10、20、30、40、50、60分後の各時点における約10秒間の個体数の計測を行った。つまり、1回の実験に対して6回計測を行った。計測に際して、供試試料を染み込ませた部分である誘引体の中央部直径10mmの部分並びに濾紙上に留まっている個体を誘引個体とし、前記中央部直径10mmの部分を舐めていた個体を摂食個体とし、性別及び頭数を記録した。
【0059】
各時点での個体数を足した延べ個体数を求め、すべての化合物及び混合物に対する延べ個体数に対して、統計処理を行った。統計処理には、JMP(バージョン5.0.1J:SAS Institute JAPAN株式会社)を用いた。雌雄別に、観察時間ごとの誘引個体数又は摂食個体数を合計し、平方根変換を行い、Tukey−Kramer法で多重比較検定を行った。
【0060】
各化合物及び混合物のナスミバエ雄に対する誘引及び摂食刺激活性試験の結果を表1に示す。また、各化合物及び混合物のナスミバエ雌に対する誘引及び摂食刺激活性試験の結果を表2に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
(結果)
上記表1に示すように、ナスミバエ雄誘引活性を示すことが知られているα−イオノール(比較例2)に対する雄誘引個体数の数値は、ブランク(比較例3)に対する雄誘引個体数の数値よりも高く、両数値の間に有意差が認められ(P<0.05)、α−イオノールのナスミバエ雄成虫に対する誘引活性が確認された。
【0064】
α−イオノール(比較例2)に対する雄摂食個体数の数値は、ブランク(比較例3)に対する雄摂食個体数の数値と比べて高く、両数値の間に有意差が認められたことから(P<0.05)、α−イオノールがナスミバエ雄成虫に対して摂食刺激活性を示すことが今回新たに判明した。
【0065】
3−オキソ−α−イオノン(実施例1)、3−オキソ−α−イオノール(実施例2)、3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノン(実施例3)及び3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノール(実施例4)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値は、α−イオノン(比較例1)、α−イオノール(比較例2)及びブランク(比較例3)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値と比べて非常に高く、α−イオノン(比較例1)、α−イオノール(比較例2)及びブランク(比較例3)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値との間に有意差が認められた(P<0.05)。このことから、3−オキソ−α−イオノン、3−オキソ−α−イオノール、3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノン及び3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノールがナスミバエ雄成虫に対して特に強い誘引・摂食刺激活性を示すことが判明した。
【0066】
3−ヒドロキシ−α−イオノン(実施例5)及び3−ヒドロキシ−α−イオノール(実施例6)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値は、ブランク(比較例3)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値と比べて非常に高く、ブランク(比較例3)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値との間に有意差が認められた(P<0.05)。更に、3−ヒドロキシ−α−イオノン(実施例5)及び3−ヒドロキシ−α−イオノール(実施例6)に対する雄摂食個体数の数値は、α−イオノン(比較例1)に対する雄摂食個体数の数値と比べて高く、α−イオノン(比較例1)に対する雄摂食個体数の数値との間には有意差が認められた(P<0.05)。したがって、3−ヒドロキシ−α−イオノン及び3−ヒドロキシ−α−イオノールがナスミバエ雄成虫に対して良好な誘引・摂食刺激活性を示すことが判明した。
【0067】
イソフォロン(実施例7)及びイソフォロール(実施例8)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値は、ブランク(比較例3)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値よりも高く、ブランク(比較例3)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値との間に有意差が認められた(P<0.05)。更に、イソフォロン(実施例7)及びイソフォロール(実施例8)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値は、α−イオノン(比較例1)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値よりも高く、α−イオノン(比較例1)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値との間に有意差が認められた(P<0.05)。したがって、イソフォロン及びイソフォロールは、ナスミバエ雄成虫に対して良好な誘引・摂食刺激活性を示すことが判明した。
【0068】
イソフォロンとα−イオノンとの混合物(実施例9)及びイソフォロールとα−イオノンとの混合物(実施例10)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値は、ブランク(比較例3)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値よりも高く、ブランク(比較例3)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値との間に有意差が認められた(P<0.05)。また、イソフォロンとα−イオノンとの混合物(実施例9)に対する雄誘引個体数の数値は、α−イオノン(比較例1)に対する雄誘引個体数の数値よりも高く、α−イオノン(比較例1)に対する雄誘引個体数の数値との間に有意差が認められた(P<0.05)。したがって、イソフォロンとα−イオノンとの混合物及びイソフォロールとα−イオノンとの混合物は、ナスミバエ雄成虫に対して良好な誘引・摂食刺激活性を示すことが判明した。
【0069】
イソフォロンとα−イオノールとの混合物(実施例11)及びイソフォロールとα−イオノールとの混合物(実施例12)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値は、ブランク(比較例3)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値よりも非常に高く、ブランク(比較例3)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値との間に有意差が認められた(P<0.05)。また、イソフォロンとα−イオノールとの混合物(実施例11)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値は、α−イオノン(比較例1)及びα−イオノール(比較例2)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値よりも高く、α−イオノン(比較例1)及びα−イオノール(比較例2)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値との間に有意差が認められた(P<0.05)。また、イソフォロールとα−イオノールとの混合物(実施例12)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値は、α−イオノン(比較例1)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値よりも高く、α−イオノン(比較例1)に対する雄誘引個体数及び雄摂食個体数の数値との間には有意差が認められた(P<0.05)。更に、イソフォロールとα−イオノールとの混合物(実施例12)に対する雄摂食個体数の数値は、α−イオノール(比較例2)に対する雄摂食個体数の数値よりも高く、α−イオノール(比較例2)に対する雄摂食個体数の数値との間には有意差が認められた(P<0.05)。したがって、イソフォロンとα−イオノールとの混合物及びイソフォロールとα−イオノールとの混合物は、ナスミバエ雄成虫に対して良好な誘引・摂食刺激活性を示すことが判明した。
【0070】
一方ナスミバエ雌に対する誘引・摂食刺激活性についてみると、上記表2に示すように、3−オキソ−α−イオノン(実施例1)に対する雌誘引個体数の数値は、α−イオノン(比較例1)、α−イオノール(比較例2)及びブランク(比較例3)に対する雌誘引個体数よりも高く、α−イオノン(比較例1)、α−イオノール(比較例2)及びブランク(比較例3)に対する雌誘引個体数との間に有意差が認められた(P<0.05)。また、3−オキソ−α−イオノール(実施例2)に対する雌誘引個体数及び雌摂食個体数の数値は、α−イオノン(比較例1)、α−イオノール(比較例2)及びブランク(比較例3)に対する雌誘引個体数及び雌摂食個体数の数値よりも高く、α−イオノン(比較例1)、α−イオノール(比較例2)及びブランク(比較例3)に対する雌誘引個体数及び雌摂食個体数の数値との間に有意差が認められた(P<0.05)。したがって、3−オキソ−α−イオノン及び3−オキソ−α−イオノールはナスミバエ雌成虫に対して誘引・摂食刺激活性を示すことが判明した。
【0071】
これまで、シクロヘキセン環を有し、酸素原子を含む炭素数4のアルキル基の所定の構造を6位に配置してあるα−イオノン(比較例1)及びα−イオノール(比較例2)が、ナスミバエ雄に対する誘引活性を示すことが知られていた。今回新たに、ナスミバエ雄に対する誘引・摂食刺激活性を示す実施例1−12の化合物又は混合物が明らかになった。
ナスミバエ雄に対する誘引・摂食刺激活性を示す実施例1−8の化合物及び比較例1−2の化合物は、夫々共通のシクロヘキセン環を有する化合物であり、部分構造として、6位に配置されており酸素原子を含む炭素数4のアルキル基の所定の構造及び/又は3位に配置されており酸素原子を含む所定の構造を有している。したがって、本評価試験で使用したシクロヘキセン環を有する化合物の化学構造の内、化合物の6位に配置されており、酸素原子を含む炭素数4のアルキル基の所定の構造、及び化合物の3位に配置された酸素原子を含む所定の構造が、ナスミバエ雄に対する誘引及び摂食刺激活性発現にかかわっていると考察される。
シクロヘキセン環を有する化合物であり、2種類の所定の部分構造を有する化合物、つまり、6位に酸素原子を含む炭素数4のアルキル基の所定の構造が配置されており、3位に酸素原子を含む所定の構造が配置された3−オキソ−α−イオノン(実施例1)、3−オキソ−α−イオノール(実施例2)、3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノン(実施例3)及び3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノール(実施例4)は、1種類の所定の部分構造を有する化合物、つまり、α−イオノン(比較例1)、α−イオノール(比較例2)、イソフォロン(実施例7)及びイソフォロール(実施例8)と比較して、ナスミバエ雄に対する強い誘引及び摂食刺激活性を示した。このことは、前述の考察を支持しているものと思われる。
興味深いことに、1種類の所定の部分構造を有する夫々の化合物を組合せ、2種類の所定の部分構造を含むようにした混合物、つまり、イソフォロンとα−イオノールとの混合物(実施例11)及びイソフォロールとα−イオノールとの混合物(実施例12)が強い誘引活性及び/又は摂食刺激活性を示した。
3−オキソ−α−イオノン(実施例1)、3−オキソ−α−イオノール(実施例2)、3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノン(実施例3)及び3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノール(実施例4)は、実施例1−4の化合物に化学構造が類似しているが、3位にカルボニル基ではなくヒドロキシ基が配置されている3−ヒドロキシ−α−イオノン(実施例5)及び3−ヒドロキシ−α−イオノール(実施例6)と比較して、ナスミバエ雄に対する強い誘引活性を示した。したがって、3位に配置された酸素原子を含む所定の構造として、ヒドロキシ基よりもカルボニル基が、ナスミバエ雄に対する誘引活性発現に強くかかわっている可能性が考えられる。
【0072】
一般に、Bactrocera属ミバエの雄の直腸腺は雌に対する性フェロモンの分泌器官として機能していることが知られている。また本発明者らが鋭意検討を行った結果、ナスミバエ雄直腸フェロモン腺に3−オキソ−α−イオノン(実施例1)、3−オキソ−α−イオノール(実施例2)、並びに3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノール(実施例4)が蓄積される事実をつきとめた。3−オキソ−α−イオノン(実施例1)、3−オキソ−α−イオノール(実施例2)、並びに3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノール(実施例4)がナスミバエの配偶行動に係わっている可能性が示唆される。配偶行動に係わる3−オキソ−α−イオノン(実施例1)及び3−オキソ−α−イオノール(実施例2)などを取り込むために、3−オキソ−α−イオノン(実施例1)及び3−オキソ−α−イオノール(実施例2)などにナスミバエ雄が誘引され、摂食する可能性が示唆される。また、上記の理由により、3−オキソ−α−イオノン(実施例1)、3−オキソ−α−イオノール(実施例2)、並びに3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノール(実施例4)に構造が類似する化合物がナスミバエ雄に対して誘引及び摂食刺激活性を示す可能性が示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−オキソ−α−イオノン、3−オキソ−α−イオノール、3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノン、3−オキソ−7、8−ジヒドロ−α−イオノール、3−ヒドロキシ−α−イオノン、3−ヒドロキシ−α−イオノール、イソフォロン及びイソフォロールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とするミバエの誘引・摂食刺激剤。
【請求項2】
α−イオノール及び/又はα−イオノンを更に含有することを特徴とする請求項1に記載のミバエの誘引・摂食刺激剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の誘引・摂食刺激剤を、濾紙、厚紙、不織布、綿布、フランネル、ファイバーボード、及び、粘着材又は樹脂の成形品からなる群から選択される担体に含有させていることを特徴とするミバエの誘引体。

【公開番号】特開2009−274993(P2009−274993A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128415(P2008−128415)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】