説明

ミミズ糞を利用した微生物資材とその使用法

【課題】土壌への施用後、短期間で土壌の団粒化や施肥効果を発揮することができ、しかも、嵩張らず、運搬や取扱いを容易に行うことのできることのできる、ミミズ糞を利用した微生物資材を提供する。
【解決手段】ミミズ糞に含まれる土壌微生物の抽出液(以下、単に抽出液という)に、微好気性菌を含む絶対好気性菌を添加する。この抽出液とは、ミミズの糞に所要の水、例えば塩素や各種の化学物質を含有しないイオン水などを添加して土壌微生物を抽出した液分をいう。抽出液に添加される微好気性菌を含む絶対好気性菌とは、例えば紅色非硫黄細菌などの光合成細菌や、乳酸菌などを含む微生物をいう。紅色非硫黄細菌の場合、種の種類を問わないが、本発明を実施するうえでは、ロドバクター・キャプスラータ( Rhodobacter capsulata)が特に望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミミズ糞に含まれる土壌微生物を利用した微生物資材に関するもので、特に、ミミズ糞に含まれる土壌微生物を主成分としながらも短時間で機能を発揮するばかりでなく、保存性にも優れたミミズ糞を利用した微生物資材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミミズの糞は、各種の有用な土壌微生物を含んでいることから、古くから圃場の団粒化促進材として、あるいは中熟堆肥と同様、肥料成分を有する土壌改良材として使用されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
また、ミミズの糞に含まれる放線菌は土壌病害駆除に役立つ。このため、特許文献3には、ミミズ糞に含まれる放線菌を選択的に高濃度に増殖させるべく、ミミズ糞に光合成細菌を配合した土壌改良材が提案されている。
【0004】
そして、ミミズの糞は粒状物質であるため、粒材あるいは粉材としてそのまま土壌に散布し、あるいは土壌に鋤き込むことによって土壌改良材等として使用される。例えば、特許文献1には、収集した糞を篩にかけて不純物を除去し、自然乾燥等により水分が例えば30%程度等の適度になるように調整したものを畑土壌等に混入して使用することが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003-095770号公報
【特許文献2】特開2005-281117号公報
【特許文献3】特開2000-063832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、こうしたミミズ糞を用いた従来の資材は、物理的形態がいずれも粒状物であるため、土壌に散布等しても、土壌環境改善のために少なくとも2ヶ月くらいの土壌養成期間が必要となる。土壌環境の改善には、まずミミズの糞中の栄養成分が土壌中へ拡散するとともにミミズ糞中の微生物も土壌中に拡散し、土壌環境中にミクロフローラを形成することが必要だからである。
【0007】
また、粒状物質としてのミミズ糞は、運搬に嵩張るだけでなく、施用も煩雑な手作業になり、多大の労力が必要となる。
【0008】
ミミズ糞に光合成細菌を配合した土壌改良資材も、上記した問題点を解消するものではない。しかも、この技術は、光合成細菌がバチルス属細菌のように耐乾燥性の微生物ではないため、ミミズの糞に混合して乾燥させた場合、そのほとんどが死滅してしまうおそれがある。したがって、商品形態が乾燥粒材あるいは乾燥粉材のミミズ糞の場合、そこに配合された光合成細菌は、死菌としての役割、すなわち、光合成細菌菌体成分の植物に対する肥料成分の役割しかないことになる。
【0009】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点に鑑み、土壌への施用後、短期間で土壌の団粒化や施肥効果を発揮することができ、しかも、嵩張らず、運搬や取扱いを容易に行うことのできることのできる、ミミズ糞を利用した微生物資材を提供することにある。
また、もう一つの本発明の目的は、光合成細菌を生菌資材として使用できるばかりでなく、液体資材であるにもかかわらず、長期保存可能なミミズ糞を利用した微生物資材を提供することにある。
更に、本発明の別の目的は、ミミズ糞に含まれる土壌微生物を土壌改良以外に他に使用する方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために本発明は、次の構成を備える。
すなわち、請求項1に係るミミズ糞を利用した微生物資材は、ミミズ糞に含まれる土壌微生物の抽出液(以下、単に抽出液という)に、微好気性菌を含む絶対好気性菌を添加して成る。
【0011】
本発明にいう抽出液とは、ミミズの糞に所要の水、例えば塩素や各種の化学物質を含有しないイオン水などを添加して土壌微生物を抽出した液分をいう。
抽出液に添加される微好気性菌を含む絶対好気性菌とは、例えば紅色非硫黄細菌などの光合成細菌や、乳酸菌などを含む微生物をいう。紅色非硫黄細菌の場合、種の種類を問わないが、本発明を実施するうえでは、ロドバクター・キャプスラータ( Rhodobacter capsulata)が特に望ましい。
【0012】
ミミズの糞にはストレプトマイセス属放線菌やシュードモナス、ミクロコッカス、バチルスなどの土壌細菌が生息していることが知られている。
【0013】
しかし、その一方で、ミミズの糞は、ミミズが食物として摂取した土壌微生物や腐植などが、腸管から分泌される粘液よって消化される過程で、腸管に生息する微生物と混錬され、排出されるものであるため、その糞粒中には、腸内細菌や糸状菌も生息している。
【0014】
腸内細菌は、硫化水素やメチルメルカプタン、硫化メチル、二硫化メチルといった有毒性の悪臭物質を生成する代表的な通性嫌気性菌である。このため、ミミズの糞に含まれる土壌微生物を抽出した液は、抽出直後に使用する場合以外、保存している間にミミズの糞から抽出された腸内細菌の増殖により上記有害物質が生成され、いわゆる腐った水の状態になり易い。
【0015】
このような状態になった抽出液を、土壌に還元したり、植物に施用した場合、その土壌や植物に対して極めて有害な作用を及ぼす可能性がある。
【0016】
紅色非硫黄細菌は、低い溶存酸素濃度のところでも生育できる好気性菌であるので、腸内細菌等の増殖により酸素濃度が低下したところでも生育することができる。このため、バチルス等通常の好気性菌であれば、溶存酸素濃度の低下によって活性を失い、通性嫌気性菌の増殖を許してしまうことになるが、紅色非硫黄細菌の場合はかなり低い酸素濃度のところでも生育できるので、通性嫌気性菌の栄養源を奪うことになり、結果として腐敗防止の役割を果たすことになる。
【0017】
また、生菌として、抽出液中に共存することから、放線菌の増殖にも役立つ。
【0018】
前記絶対好気性菌は、上記抽出液の腐敗を進行させる微生物の増殖を抑制する程度の量、例えば、生菌として1mlあたり107から109細胞存在する程度の量が添加される。
【0019】
請求項2に係るミミズ糞を利用した微生物資材は、前記抽出液に、絶対好気性菌に加えて静菌物質が添加されて成る。
【0020】
静菌物質とは、糸状菌や通性嫌気性菌などの腐敗に寄与する微生物の生育を抑制する一方、光合成細菌等有用微生物の生育を阻害する可能性の低い、選択性を有する物質をいい、例えばデハイドロ酢酸が好ましい。
【0021】
デハイドロ酢酸は光合成細菌の生育抑制効果は微弱であるが、通性嫌気性菌や糸状菌の生育は強く抑制する。したがって、ミミズの糞の抽出液にデハイドロ酢酸を添加することにより、紅色非硫黄細菌の増殖はほとんど抑制されないが、通性嫌気性菌の増殖は著しく阻害されるため、抽出液の腐敗防止効果はより促進されることになる。
【0022】
デハイドロ酢酸は、ミミズ糞に含まれる土壌微生物抽出液に、例えば0.1〜1.0%の割合で添加される。
【0023】
本発明に係るミミズ糞を利用した微生物資材は、抽出液に、絶対好気性菌または絶対好気性菌及び静菌物質に、さらに、放線菌、ミネラル、及び絶対好気性菌栄養源を添加しても良い。微生物栄養源は、本資材の総量に対して2〜10%程度混入するのが望ましい。
【0024】
また、本微生物資材には、ミミズ糞中の土壌微生物に加えて各種のコンポストに含まれる微生物を添加するようにしても良い。
【0025】
請求項8と9に係る本微生物資材の使用法は、原液もしくは希釈液を圃場あるいは有機性廃棄物に散布して土壌を改良し、あるいは有機性廃棄物を醗酵させて堆肥化物とする点に特徴がある。対象となる有機性廃棄物には、食物残渣、し尿、下水汚泥など種々の腐敗性廃棄物を含む。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、次の効果を奏する。
本発明に係るミミズ糞を利用した微生物資材は、ミミズ糞に含まれる土壌微生物の抽出液に微好気性菌を含む絶対好気性菌を添加して成ることから、生菌を含む液体として動力噴霧器などにより土壌に簡単に施用でき、しかも土壌中にすばやく浸透し、生菌が速やかに活動を開始することにより、従来の粒子状のミミズ糞を施用した場合に比べて、約1/6の10日間程度で土壌の団粒化を図ることができる。
【0027】
本発明によれば、上記したように液体であることから、施用作業を、動力噴霧器による散布、あるいは畝に敷設した有孔チューブに送液することなどによって行うことができ、従来のミミズ糞を用いた土壌改良資材施用に伴う労力を大幅に軽減することが出来る。また、本発明資材は、濃縮化することが可能であるため、運搬時の取扱いが容易になるばかりでなく、保管の際のスペースの減少にも役立つ。
【0028】
また、本発明資材に添加された絶対好気性菌は、ほとんどが死滅してしまう乾燥環境に配合されるものとは異なり、液中に存在することになるため、生存してその機能を発揮することができる。しかも、紅色非硫黄細菌にあっては、低い溶存酸素濃度のところでも生育できる好気性菌であるので、抽出液中に含まれる腸内細菌等の増殖により酸素濃度が低下したところでも生育することができ、通性嫌気性菌の栄養源を奪って、抽出液が腐敗するのを防止できる。
【0029】
更に、本発明資材に添加されるデハイドロ酢酸は、光合成細菌を含む絶対好気性菌の生育抑制効果が微弱である反面、通性嫌気性菌や糸状菌に対して強い選択毒性を有するので、紅色非硫黄細菌などの絶対好気性菌の増殖をほとんど抑制しないで通性嫌気性菌の増殖を著しく阻害してより確実に抽出液の腐敗を防止することができる。
【0030】
したがって、これを散布することにより、土壌改良効果のほか、水田においては、ガス湧きの防止、イネの分けつ促進、並びに1穂粒数および1粒重量の増加、また畑においては、作物の生育促進、果実の糖度・色度の上昇、花卉の色度上昇、さらにはバイオマスの醗酵促進と悪臭軽減などの効果を期待できる。
【0031】
抽出液に、さらに、放線菌、ミネラル、及び絶対好気性菌栄養源を添加することにより、上記した本発明資材の機能をより確実に発揮させることができるばかりでなく、放線菌による土壌病害の抑制効果を更に高めることができる。
【0032】
本発明に係る一つの使用方法によれば、本資材あるいはその希釈液を圃場に散布するものであるから、その使用法がいたって簡単であり、かつ取扱いも容易となる。
また、本発明のもう一つの使用法によれば、有機性廃棄物に散布し、切返し等、適度の酸素補給をすることにより、極めて短時間で有機性廃棄物をコンポスト化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態の一例を詳説する。
先ず、本発明に係るミミズ糞を利用した微生物資材の製造方法を説明する。
【0034】
ミミズ糞は、従来の一般的な産業的生産方法によって得ることができる。例えば、遮光幕で覆ったビニールハウスの床に、廃オガコを腐植させた堆肥を敷き、その上にシマミミズを放つ。温度を15℃から27℃、湿度を60〜70%に保ち、ミミズの餌となる廃オガコ堆肥を適宜補充しながら1ヶ月が経過すると、まとまった量のミミズ糞を得ることができる。
【0035】
ミミズ糞2kg、酵母10g、米ぬか30g、廃糖蜜10g、及び貝化石粉末10gをナイロン製の網袋に入れ、この網袋を精製した真水の入った容量200リットルの培養機内に浸すように吊るす。水層部の温度を18℃から20℃に設定し、そのまま曝気しながら水中ポンプで攪拌すると、網袋内の可溶物が水に抽出される。この段階で、培養器内の液体をろ過し、光合成細菌(Rhodobacter capsulata)を添加する。添加量は、生菌として1mlあたり107から109細胞存在する程度の量が望ましい。そして、再度曝気しながら水中ポンプで撹拌すると、微生物の培養が開始される。系内の温度と酸素濃度をそのまま保って20時間後に攪拌と曝気を止め、液体を系外に取り出して、本微生物資材とする。この資材は、濃縮された資材であり、使用時には対象に応じて適宜の倍率に希釈して用いられる。
【0036】
上記ミミズ糞に含まれる土壌微生物の培養が完了後、これをろ過した濾液を抽出液とし、これに光合成細菌を添加するようにしても良い。また、静菌物質としてのデハイドロ酢酸は、上記微生物資材に適宜の時期に添加される。
【0037】
本発明に係るミミズ糞を利用した微生物資材の保存性をみるため、次の試料(1)から(4)を作製した。
試料(1):上記ミミズ糞に含まれる土壌微生物の抽出液そのもの
試料(2):抽出液に光合成細菌を添加したもの
試料(3):抽出液にデハイドロ酢酸を添加したもの
試料(4):抽出液に光合成細菌とデハイドロ酢酸の両者を添加したもの
【0038】
なお、光合成細菌は、PSB107細胞/ml(試料(2))もしくは108細胞/ml(試料(4))を添加し、デハイドロ酢酸は、0.5%添加した。
これら試料(1)から(4)を、無窓インキュベーター内の暗条件、30℃で静置し、試験開始0日目と3週間目とにおける、各試料における細菌と、放線菌と、糸状菌と、光合成細菌の生菌数を調べた。
その結果を表1(図1)に示す。
【0039】
試料(1)において、試験開始時と3週間目の各菌数の違いを見るに、細菌数は9.0x107から2.2x107 とほぼ変わらず、放線菌数は2.3x108から7.8x105 に減少し、糸状菌数は1.7x102から 4.8x102とほぼ変わっていない。この試料(1)を観察すると、3週間目の液体表面には、試験開始時にはなかった薄い菌膜が見られ、軽い臭気を感じた。
【0040】
試料(2)において、同様に各菌数の推移を見るに、細菌数は1.9x108から4.4x107に減少し、放線菌数も4.0x108から2.9x106に減少し、糸状菌数は1.8x102から1.0x102とほぼ変わらない。添加された光合成細菌も6.9x107から1.3x107とほとんど変わらない値を示している。光合成細菌の添加により、細菌数が減少している。このことは、光合成細菌が、通性嫌気性菌の増殖を阻害し、抽出液の腐敗防止に役立っているのが解る。
【0041】
放線菌の菌数が減少しているのは(この点は、同様に光合成細菌を添加した試料(4)についても同様である)、上記特許文献3とは異なる結果を示すもので、放線菌による病害抑制を目的とする場合、放線菌を本資材に更に添加する必要があるかも知れない。3週間目の液体表面には、試料(1)とは異なり、菌膜は見られなかった。
【0042】
試料(3)において、同様に各菌数の推移を見るに、細菌数は6.3x107から8.9x107とほぼ変わらない。放線菌数は5.5x108から4.4x103に減少し、糸状菌数は1.0x10から検出限界以下に減少している。糸状菌は、水中で増殖するとほつれた糸くずのような塊になり、溶液を撹拌すると水中をふわふわと漂うので、溶液の品質劣化を肉眼的に把握する指標となっている。試料(3)は、デハイドロ酢酸が特に糸状菌に対して静菌作用を発揮しているのが解る。
【0043】
3週間目の液体表面には、試料(2)と同様、菌膜は見られなかった。
【0044】
試料(4)において、各菌数の推移を見るに、細菌数は3.9x108から5.2x107に減少し、放線菌数も5.7x108から5.4x103に減少し、更に糸状菌数も3.0x10から検出限界以下に減少している。これに対し、光合成細菌は、1.3x108から4.0x105へと若干減少しているものの、微生物資材としての効果を発揮するには十分な量の生菌が確保されている。試料(4)は、添加した光合成細菌とデハイドロ酢酸が相互に協力して抽出液の腐敗防止に大きく貢献していることを示す。
液体表面に菌膜は存在しなかった。
【0045】
本発明資材としては試料(2)と試料(4)が該当するが、これらはいずれも抽出液の保存性を高めるものであることが解る。
【0046】
次に、本発明資材の施用例を示す。
【0047】
[水稲栽培への施用例]
秋田県南秋田郡八郎潟町夜叉袋所在の水田の一区画を試験区、他区画を対照区とし、「あきたこまち」を播種した。播種日は平成16年4月5日、田植え日は平成16年5月10日、稲刈り日は平成16年10月6日であった。試験区には、上記試料(2)と同じ微生物資材を田植え日以降、約30日間隔で都合3回、それぞれ3箇所の用水口より各20リットル(計60リットル)ずつ流入施用した。対象区には、本資材を施用しなかった。
収穫した稲の収量、品質について調べたところ、表2(図2)に示す結果が得られた。
【0048】
表2の結果によれば、一株当たりの本数、草丈、穂長において試験区のものが対象区及び地区平均のものに比べてやや上回り、収量において1割程度の増加が認められた。試験区と、対象区及び地区平均とを比べた場合、もっとも顕著な差異は、品質である。試験区の米はその全てが1等米に該当したのに対し、対象区と地区平均はそれぞれ50%と20%に過ぎなかった。このことは、本資材を水稲栽培に施用したとき、優れた効果を奏することを示す。
【0049】
[各種野菜のポット試験]
温度を16℃から18℃に保ったガラス温室内で、500ml容量のポットに、市販の野菜育苗用培土を詰め、なすと、ピーマンと、レタスと、トマトの種を播種した。
各野菜の試験区のポットには、前記試料(2)と同じ組成の資材を水で250倍に希釈した溶液を散布した。対象区のポットには、水を潅水した。
播種後、30日を経過した後、各野菜を抜き取り、地表から成長点までの高さ、本葉枚数、最大葉の大きさ(縦と横の長さ)、生重量(地上部、地下部、合計重量)を測定した結果を表3〜表6(図3〜図6)に示す。
なお、各試験区と対象区は4反復とし、測定値はその平均値を算出した。
【0050】
表3〜表6に見られるように、いずれの野菜においても、本資材を投入した試験区の収穫物の方が対象区の収穫物よりも測定項目のほとんど全てにおいて優位性を有することが明らかである。このことは、本資材が野菜の生育に良好な影響を及ぼしていることを示す。また、ポット中の培土は、対照区のものよりふっくらとし、団粒化が進んでいることが解った。
【0051】
本資材は、このほか、バイオマスのコンポスト化にも大きく貢献できることが判明している。
【0052】
[稲藁のコンポスト化]
例えば、長さ1.5cmに切断した乾燥稲藁100kgを二分し、一方の50kgは水分含量を65%に調整して保管し(試料A)、他方の50kgには本資材(前記試料(2)に相当する資材)の50倍希釈液を散布して水分含量が65%になるように調整し、保管した(試料B)。
両試料A,Bを、室温20〜28℃の温度範囲内で保管し、3日おきに天地返しして空気との接触を良くした。
12日後、両試料を観察すると、試料Bの稲藁は完全に醗酵して堆肥としての使用が可能になったのに対し、試料Aは2ヵ月後であっても醗酵せず、しかも悪臭を発した。
このことは、本資材が稲藁の堆肥化を短期間で可能とする資材であることを示している。
【0053】
[豚糞尿のコンポスト化]
従来、豚糞尿の堆肥化は、一般的には、豚糞尿に対して1/10の量の米ぬかなどの水分調整材を混合して水分含量が約55%程度になるように調整し、自然発酵による堆肥化を行っていた。この場合、一次醗酵及び二次醗酵に各1週間、その後の醗酵に3から4ヶ月を要する。
【0054】
豚糞尿に本発明に係る資材(前記試料(2)に相当する資材)の50倍希釈液を、豚糞尿1tにつき、20リットル散布し、曝気したところ、3から4週間で醗酵が完了した。
従来であれば、一次醗酵及び二次醗酵の過程で悪臭が著しく発生するが、本資材を用いた醗酵法ではそのようなことはなかった。
このことは、本資材が豚糞尿の醗酵を短期間でしかも臭気をあまり生じさせることなく行えることを示している。
【0055】
[街路樹剪定枝のコンポスト化]
かつ葉樹を主体とした街路樹の選定枝を粉砕し、グラインダーで磨り潰した繊維状の素材に、前記した資材(前記試料(2)に相当する資材)を水で50倍に希釈して散布した。全体の湿度を60%程度に保持し、温度を20℃から25℃の状態に保ち、3日おきに希釈液を散布して湿度を上記状態に調整するとともに天地返しをして空気との接触を図った。
【0056】
5日後から剪定枝の繊維状素材は、一部が黒化し、醗酵が開始されたことが解った。2週間後、当該素材は、完全に黒化し、繊維状の部分がなくなって、堆肥として使用可能なレベルにまで達した。処理後、2週間の剪定枝のC/N比は30.6で、醗酵が進んだことを示していた。
【0057】
対照区として、上記素材をそのまま自然発酵させたところ、3ヵ月後に至っても何の変化もなく、原型を止め、醗酵が進んでいないことが解った。
このことは、本資材によって上記植物性の繊維状廃棄物に対しても、短期間で堆肥化処理が可能であることを示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係るミミズ糞を利用した微生物資材の保存性試験の結果を示す表(表1)
【図2】本発明に係るミミズ糞を利用した微生物資材の水稲栽培への施用試験結果を示す表(表2)
【図3】本発明に係るミミズ糞を利用した微生物資材を用いて、なすについてポット試験を行った結果の表(表3)
【図4】本発明に係るミミズ糞を利用した微生物資材を用いて、ピーマンについてポット試験を行った結果の表(表4)
【図5】本発明に係るミミズ糞を利用した微生物資材を用いて、レタスについてポット試験を行った結果の表(表5)
【図6】本発明に係るミミズ糞を利用した微生物資材を用いて、トマトについてポット試験を行った結果の表(表6)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミミズ糞に含まれる土壌微生物の抽出液に、微好気性菌を含む絶対好気性菌を添加して成るミミズ糞を利用した微生物資材。
【請求項2】
請求項1記載の微生物資材において、前記抽出液に、さらに静菌物質が添加されて成る、ミミズ糞を利用した微生物資材。
【請求項3】
前記絶対好気性菌が、前記抽出液の腐敗を進行させる微生物の増殖を抑制する程度の量、添加されている、請求項1又は2に記載のミミズ糞を利用した微生物資材。
【請求項4】
前記絶対好気生菌が紅色非硫黄細菌である、請求項1〜3のいずれかに記載のミミズ糞を利用した微生物資材。
【請求項5】
微好気性菌を含む絶対好気生菌の生菌が1mlあたり107から109細胞存在する、請求項1〜4のいずれかに記載のミミズ糞を利用した微生物資材。
【請求項6】
前記静菌物質がデハイドロ酢酸で、ミミズ糞の抽出液に0.1〜1.0%の割合で添加されて成る、請求項2に記載のミミズ糞を利用した微生物資材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のミミズ糞を利用した土壌微生物資材において、前記抽出液に、さらに、放線菌、ミネラル、及び絶対好気性菌栄養源が添加されて成るミミズ糞を利用した微生物資材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載の微生物資材を、原液もしくは希釈して圃場に散布することを特徴とするミミズ糞を利用した微生物資材の使用法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の微生物資材を、原液もしくは希釈して有機性廃棄物に散布し、当該有機性廃棄物を醗酵させて堆肥化物とすることを特徴とするミミズ糞を利用した微生物資材の使用法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−176759(P2007−176759A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378545(P2005−378545)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(592008767)株式会社松本微生物研究所 (6)
【出願人】(501047139)株式会社ヘルスアンドライフ (1)
【Fターム(参考)】