説明

ミラーコート光学物品

【課題】十分な反射率が得られ耐候性も備えた湿式法によって形成される有機反射膜からなるミラーコート層を備えたミラーコート光学物品を提供すること。
【解決手段】ミラーコート光学物品を製造する際に、プラスチック製光学基材の表面に屈折率が1.50以上のハードコート層を形成するとともに、同ハードコート層の上層に湿式法によって有機ケイ素化合物を主成分とした屈折率が1.42以下の第1の機能膜層を形成し、同第1の機能膜層の上層に湿式法によって同第1の機能膜層よりも屈折率の高い有機ケイ素化合物を主成分とした第2の機能膜層を形成することで表面ピーク反射率を7%以上の3層構造のミラーコート層を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば眼鏡レンズ、カメラ、望遠鏡等に使用されるようなプラスチック光学基材の表面にミラーコートを形成したミラーコート光学物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から主としてファッション性の観点からレンズ表面を鏡のように反射するミラーコート層を施したミラーコートレンズが提供されている。特にプラスチックレンズはガラスレンズよりも軽量で割れにくく着色しやすいという利点があるためミラーコート用の基材として多用されている。プラスチックレンズはガラスレンズに比べて柔らかく傷が付きやすいという特性があるため、従来からその表面にハードコート層を形成しており、ミラーコートはこのハードコート層の上に形成されることとなる。このようなミラーコートレンズの一例として特許文献1を挙げる。特許文献1のミラーコートレンズはハードコート層(コート被膜)の上層に真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の手法によって誘電体多層膜からなるミラーコートを形成することが開示されている。
【特許文献1】特開2000−66149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、誘電体多層膜によってミラーコートを形成する場合では一般にミラーコートの下地層に対する温度膨張の追随性能が悪いためクラックが生じやすく(耐熱性が悪い)、以前から耐熱性のよいミラーコートレンズが求められていた。また、誘電体多層膜によるミラーコートは比較的コストが高くより廉価にミラーコートを形成する手段が求められていた。これら課題を解決するために湿式法によって単層又は屈折率の異なる2層の有機反射膜をミラーコートとして使用することが検討されている。しかし、単層で有機反射膜を形成させた場合にはミラーコートとして十分な反射率が得られず、耐候性も十分でないことが出願人の知見で確認されている。一方、ミラーコートを屈折率の異なる2層の有機反射膜で構成する場合には低屈折率層が上層ではやはり十分な反射率が得られないことが同様に確認されている。従って、十分な反射率を得るためには高屈折率層を上層とすることが好ましいわけであるが、高屈折率の有機反射膜を得るためには現状の技術では酸化チタンを主体とする金属酸化物を多く含有させなければならない。ところが酸化チタンは紫外線による光触媒作用によって膜硬度の劣化を助長するため、高屈折率層を上層とした場合には耐候性が十分ではないこととなってしまう。
そのため、ハードコート層上に2層の有機反射膜を配置することによってミラーコート層を形成する際に十分な反射率を得ることができ、なおかつ耐候性を向上させる手段が求められていた。尚、上記課題は眼鏡レンズに限らずミラーコート層を形成させる光学物品一般に生ずるものである。
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、その目的は、十分な反射率が得られ耐候性も備えた湿式法によって形成される有機反射膜からなるミラーコート層を備えたミラーコート光学物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明では、少なくともプラスチック製光学基材の一方の面に直接又は他の層を介して屈折率が1.50以上のハードコート層を形成するとともに、同ハードコート層の上層に湿式法によって有機ケイ素化合物を主成分とした屈折率が1.42以下の第1の機能膜層を形成し、同第1の機能膜層の上層に湿式法によって同第1の機能膜層よりも屈折率の高い有機ケイ素化合物を主成分とした第2の機能膜層を形成することで表面ピーク反射率を7%以上の3層構造のミラーコート層を構成したことをその要旨とする。
請求項2に記載の発明では請求項1に記載の発明において、前記第1の機能膜層は40重量%を越えない範囲で中空シリカが含有されていることをその要旨とする。
請求項3に記載の発明では請求項1又は2に記載の発明において、前記第2の機能膜層の屈折率は前記第1の機能膜層よりも0.04以上高いことをその要旨とする。
請求項4に記載の発明では請求項2又は3に記載の発明において、前記第2の機能膜層は酸化チタンを除く金属酸化物を含有した膜層であることをその要旨とする。
請求項5に記載の発明では請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記第2の機能膜層は酸化ジルコニウムを含有した膜層であることをその要旨とする。
請求項6に記載の発明では請求項1〜5のいずれかに記載の発明において、前記ハードコート層はハードコート組成物を湿式法によって形成させたことをその要旨とする。
請求項7に記載の発明では請求項6に記載の発明において、前記ハードコート層を形成するハードコート組成物は下記A〜E成分を含有することをその要旨とする。
A.有機ケイ素化合物の加水分解物
B.酸化チタンを主成分とする複合金属酸化物微粒子
C.ジシアンジアミド
D.有機多価カルボン酸
E.Co(II)化合物
【0005】
本発明に使用されるプラスチック基材としては例えばポリメチルメタクレート及びその共重合体、ポリカーボネート、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR−39)、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン、その他硫黄含有樹脂等が一例として挙げられる。光学基材の用途例としては代表的には眼鏡用のプラスチックレンズが挙げられる。眼鏡用のプラスチックレンズとしてはCR−39、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート、ポリチオウレタン、その他硫黄含有樹脂などのプラスチック基材が好ましい。サングラスとして使用される場合にはプラスチック基材は着色されることが好ましい。
本発明に使用されるハードコート組成物としては重合可能な反応基と加水分解基を含む有機ケイ素化合物及び金属酸化物微粒子を主成分とする組成物が有効である。ハードコート層の屈折率は有機ケイ素化合物及び金属酸化物微粒子の種類と配合比で決定される。本発明では表面ピーク反射率を7%以上とするためにハードコート層の屈折率は1.50以上とするのが好ましい。但し、ハードコート層の屈折率があまり高すぎると(一般に1.65以上)金属酸化物微粒子における酸化チタンの含有量が相対的に増加することとなって耐候性や耐熱性が劣ることとなる。
有機ケイ素化合物は一般式として、
12nSiX3-n( n=0 or 1) (1)
(式中、R1は重合可能な反応基を有する有機基、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、Xは加水分解基)
で表される物質である。
ここに、R1の具体例として重合可能な反応基の具体例としては、例えばビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。ここでR1としてはエポキシ基が最も好ましい。エポキシ基が存在することでシラン化合物の加水分解物は開環重合するため、耐擦傷性、耐候性、耐薬品性が向上するためである。
また。R2の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基等が挙げられる。
また、Xは加水分解可能な官能基であり、その具体例として、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。Xとしてはアルコキシ基が最も好ましい。
上記有機ケイ素化合物の具体例としては、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトシキ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジアルコキシシラン等が挙げられる。なお、一般式(1)の有機ケイ素化合物のほかにテトラアルコキシシランやメチルトリアルコキシシラン等を併用して硬度等の物性を調節することも可能である。
【0006】
金属酸化物微粒子としては酸化チタンを主成分とする複合金属酸化物微粒子が有効である。酸化チタン以外の微粒子はケイ素、アルミニウム、錫、ジルコニウム、鉄、アンチモン、ニオブ、タンタル、タングステン等から選ばれる1種以上の酸化物であればよい。更に、これら微粒子は最表面がアンチモン酸化物で被覆されていることが好ましい。更に、特に酸化ジルコニウム、及び酸化ケイ素が酸化チタンに対して一体的結合され、これらからなる複合金属酸化物微粒子の最表面がアンチモン酸化物で被覆されていることがより好ましい。
複合金属酸化物微粒子は通常1〜100nm程度の平均粒径とされ、好ましくは3〜50nm程度、より好ましくは5〜15nm程度の平均粒径とされる。複合金属酸化物による微粒子化は酸化チタン単独の場合による光触媒作用を緩和するために行われるものであり、あまり平均粒径が小さいと屈折率の向上が望めず耐擦傷性も悪くなる。一方、平均粒径があまり大きすぎると光の散乱が生じてしまうため上記粒径範囲が好ましい。
尚、酸化チタンは無定形であっても結晶型(アナタース型、ルチル型、ブルッカイト型等)であっても構わない。アンチモン酸化物の被覆層の厚さには特に制限はないが通常上記複合金属酸化物微粒子の径の1/200〜1/5の範囲にあることが好ましい。
【0007】
本発明に使用されるハードコート組成物として上記有機ケイ素化合物及び金属酸化物微粒子にはジシアンジアミド、有機多価カルボン酸、Co(II)(2価のコバルト)化合物を含有することが有効である。
ジシアンジアミドは単独で使用するのではなく、有機多価カルボン酸と同時に使用することが耐候性の点で特に好ましい。ジシアンジアミドは有機多価カルボン酸の存在下での耐候性の発現が顕著である。有機多価カルボン酸としての具体例はマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、無水フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。ジシアンジアミドと有機多価カルボン酸とを同時に使用する場合の相乗効果では特にイタコン酸を使用することが耐候性の点で最も好ましい。
【0008】
Co(II)化合物は酸化チタンと同時に存在することで光触媒反応の進行を遅延させその結果ハードコート層成分である高分子物質の分解が抑えられ、ハードコート層の劣化を防止することができる。Co(II)化合物としては、酸化チタンを含有するハードコート組成物用の溶媒、例えば、アルコールやプロピレングリコールエーテルに溶解し、かつ上記A成分との相溶性がありその物性を阻害しないものが好ましい。より具体的には、Co(II)イオンのキレート化合物が好ましい。
Co(II)のキレ−ト剤としては特に脂肪族の配位子を有するものが好ましい。脂肪族酸の配位子としては、例えばアセチルアセトン、ジ−n−ブトキシド−モノ−エチルアセテート、ジ−n−ブトキシド−モノ−メチルアセテート、メチルエチルケトオキシム、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオンおよびアセトオキシム等が好ましく用いられる。特に2価のコバルトアセチルアセトネ−トの金属錯体を構成するアセチルアセトンを使用することが耐候性の点で最も好ましく、更にCo(II)化合物とジシアンジアミド及び有機多価カルボン酸(特にイタコン酸)の三者が存在することによって耐候性が極めて顕著に向上する。
【0009】
上記ハードコート層を形成する好ましいA〜Eのハードコート組成物は次のような配合割合とすることが好ましい。
(1)A及びB(有機ケイ素化合物の加水分解物と酸化チタンを主成分とする複合金属酸化物微粒子)については固形分比でA:B=8:2〜3:7
(2)C.ジシアンジアミドについてはA+Bの固形分に対し3〜15%
(3)D.有機多価カルボン酸についてはA+Bの固形分に対し5〜25%
(4)E.Co(II)化合物についてはA+B+C+Dの固形分に対し0.1〜5.0%
A成分に比較してB成分が多いほど形成されるハードコート層の屈折率が向上するものの、膜層がもろくなってクラックが生じやすくなる。そのためB成分はA成分との関係から上記の割合が最も好ましい。C成分は少ないと耐候(密着)性が低下するものの多すぎるとA+B成分とのバランスが悪くなり光学性能が低下してしまう。そのため、上記の割合が最も好ましい。また、D成分は少ないと耐候(耐クラック)性が低下し、多すぎると硬度が低下してしまう。そのため、上記の割合が最も好ましい。E成分は少ないと耐候(密着及びクラック)性の向上の効果がないため、C、D成分と同時に存在することが必要である。また、E成分が多すぎると着色してしまうため、結局上記の割合が最も好ましい。
【0010】
上記ハードコート組成物には塗膜の各性能をより改善するために、種々の添加剤を配合することが望ましい。例えば、光学基材との密着性、染色性を向上させるための添加剤としては、硬化剤やエポキシ樹脂、被塗布物に紫外線が到達するのを阻止するための紫外線吸収剤を使用してもよい。また、硬化を促進するための硬化触媒を配合することも可能である。
ハードコート組成物を溶媒に溶解又は分散させ、更に必要に応じて希釈溶剤によって希釈させることでハードコート液を作製することができる。希釈溶剤はアルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類等を挙げることができる。
ここで湿式とはディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法の公知の方法でハードコート液を基材に塗布し、乾燥させ、必要に応じて加熱させることで被膜層を形成する方式であって、その膜厚は、通常、約0.5〜10.0μmとすることが好ましい。膜厚が薄すぎると、実用的な耐擦傷性を得難く、また、厚すぎると面精度の低下やクラック等の外観的な問題が生じやすくなるためである。
【0011】
また、基材は通常塗布前に前処理を行う。前処理は基材表面の酸-アルカリによる脱脂処理、プラズマ処理、超音波洗浄等が挙げられる。これら前処理によって基材表面の層の密着性に影響のある汚れが除去される。
また、光学基材とハードコート層との間にはプライマー層を介在させる、つまりハードコート層をプライマー層の上に形成するようにしてもよい。つまり、光学基材の表面にプライマー層が形成されている場合にはプライマー層を光学基材の表面と解釈できる。ここにプライマー層はハードコート層とレンズ基材との密着性の向上のためこの位置に配置される連結層であって、例えばウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、有機ケイ素系樹脂等から構成される。ディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法の湿式法を用いることも自由である。プライマー層は一般にレンズ基材をプライマー液に浸漬させて成膜させる。プライマー液は水又はアルコール系の溶媒にこれらから選択された樹脂材料と必要に応じて無機酸化物微粒子ゾルを混合させた液である。
【0012】
本発明のミラーコート層は、ハードコート層にまず第1の機能膜層を形成し、その上層に更に第2の機能膜層を形成して構成されている。第1の機能膜層及び第2の機能膜層は湿式法で形成される。ここで湿式法とはディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法の公知の方法で各層用に調整された処理液を塗布し、乾燥させ、必要に応じて加熱させることで被膜層を形成する方式である。機能膜層の加熱方法としては熱風、赤外線などで行うことが可能である。加熱温度は適用される光学基材及び使用されるコーティング組成物によって決定されるが、通常は室温から250℃、より好ましくは60℃から150℃が使用される。常温よりも低温では硬化又は乾燥が不十分であり、またこれより高温になると基材や膜の黄変などの問題点を生ずる。
第1の機能膜層としては有機ケイ素化合物や低屈折率物質の中空シリカが多く用いられる。有機ケイ素化合物を主成分とし、必要に応じて中空シリカを取り入れることが好ましい。
有機ケイ素化合物としては、次式(2)および(3)で表される有機ケイ素化合物が用いられる。
1a2bSiX4-(a+b) (2)
3-a2aSi-C24(CF2)24-SiR2a3-a (3)
(ここで、R1は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜10のパ−フルオロアルキル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基からなる群から選ばれる有機基を有する炭素数1〜6のアルキル基であり、R2は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基であり、Xは加水分解可能な官能基であり、その具体例として、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。Xとしてはアルコキシ基が最も好ましい。また、a=0または1、b=0,1または2、m=4または6である。)
上記(2)式で表される有機ケイ素化合物としては、具体的には、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、α-グリシドキシメチルトリメトキシシラン、α-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキキシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキキシラン等を挙げることができる。
上記(3)式で表される有機ケイ素化合物の例としては、
(CH3O)3Si-C24-(CF24-C24-Si(OCH33
(CH3O)3Si-C24-(CF26-C24-Si(OCH33
等のビスシラン化合物を挙げることができる。
これらは、単独で用いても、2種以上を併用することも可能である。
【0013】
本発明では第1の機能膜層の屈折率は1.42以下である。このような屈折率に限定することでその上層に配置される第2の機能膜層の屈折率も下げることが可能となる。この屈折率は例えば第1の機能膜層は40重量%を越えない範囲で中空シリカを含有することで実現可能である。第1の機能膜層に40重量%の中空シリカが含有されるとその屈折率は中空シリカ単独の屈折率に近づけることができる(例えば信越化学工業(株)製の商品名「X−12−2510A」を第1の機能膜層のコート液用ベース剤とした場合では中空シリカを40重量%とすると第1の機能膜層の屈折率は1.35程度とされる。)。但し、中空シリカは含有量として40重量%を越えると第1の機能膜層の膜強度の劣化が顕著である。
中空シリカはSiO2を主成分とし、中空状に密閉され内部に空洞を有した構造となった微粒子である。中空シリカの屈折率は通常のシリカが1.46であるのに対して1.25程度と低いため有機ケイ素化合物に必要量添加することで第1の機能膜層の屈折率を下げる効果がある。中空シリカの粒径は10〜100nm程度が好ましい。平均粒径が大きすぎると乱反射を起こし多量に含有されていると白色を呈するようになる。また、平均粒径が小さすぎると屈折率低下の効果がなくなる。
【0014】
第2の機能膜層には上記第1の機能膜層に使用される有機ケイ素化合物に加えてジルコニウム,アルミニウム,タンタル,チタン、錫、インジウム等から選ばれる1種類以上の金属酸化物微粒子から構成された等価膜層が多く用いられている。使用される金属酸化物微粒子としては特に酸化ジルコニウムが好ましく、酸化チタンは比較的好ましくない。酸化チタンは光触媒作用があるため膜の硬度の劣化を助長してしまうからである。第2の機能膜層には酸化ジルコニウムが30重量%を越えない範囲で含有されることが好ましい(例えば信越化学工業(株)製の商品名「X−12−2510A」を第2の機能膜層のコート液用ベース剤とした場合では酸化ジルコニウムを30重量%とすると第2の機能膜層の屈折率は1.50程度とされる。)。第2の機能膜層の屈折率は第1の機能膜層の屈折率よりも0.04以上高いことが所定以上の表面ピーク反射率の獲得のためには好ましい。第2の機能膜層の屈折率が第1の機能膜層の屈折率よりも高いほど表面ピーク反射率を高くすることができる。
更に表面ピーク反射率を7%以上とするためには、
|ハードコート層の屈折率と第1の機能膜層の屈折率の差|+
|第1の機能膜層の屈折率と第2の機能膜層の屈折率の差|>0.2
であることが好ましい。この左辺の値が大きくなおかつ第2の機能膜層の屈折率は第1の機能膜層の屈折率よりも0.04以上高ければ表面ピーク反射率は高いものとなる。
また、第1の機能膜層の屈折率が低ければ第2の機能膜層の屈折率も相対的に低くすることが可能となり、耐候性の向上に寄与することとなる。
【0015】
ミラーコート用コート液は水又はアルコール系の溶媒に上記各層を形成するための有機ケイ素化合物及び/又は金属酸化物微粒子を混合させた液である。上記いずれかの方法によって第1の機能膜層用のコート液をまずハードコート層表面に展着させ、その後公知の方法にて溶媒を蒸発させて第1層目を形成させる。次いで第2の機能膜層用のコート液を同様に第1層の表面に展着させ同様の工程で第2層目を形成させる。各膜層の膜厚は30〜180nmが好ましく、特に60〜130nmの範囲が好ましい。
また、第1の機能膜層および第2の機能膜層の形成前にはそれぞれハードコート層および第1の機能膜層にコロナ処理やプラズマ処理をすることが好ましい。また、第2の機能膜層の上面に更に滑性処理を行うことは自由である。滑性処理とは例えば反応性シリコーン化合物や含フッ素有機シラン化合物等を塗布してごく薄い(10nm以下)厚みの滑性層を形成するものである。
このようなミラーコート光学物品は少なくとも一方の面にミラーコート層が配置されるが、両面にミラーコート層を配置するようにしてもよい。眼鏡レンズに応用する場合には物体側の面に配置することとなる。また、一方の面のみにミラーコート層を配置した場合に他方の面側には何もコート層を形成しなくとも、ハードコート層のみを形成するようにして、他の機能性膜層(例えば反射防止膜)等を形成させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
上記各請求項に記載の発明によれば、十分な反射率を得ることができるとともに、耐候性を備えた湿式法で有機反射膜を形成させたミラーコート光学物品を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施例1)
<使用レンズについて>
ノルボルネンジイソシアネ−ト50重量部、ペンタエリスリト−ルテトラキス(3−メルカプトプロピオネ−ト)25重量部、ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチア−1,11−ウンデカンジオ−ル25重量部の合計100重量部に対して、触媒としてジブチルチンジクロライド0.03重量部を配合した均一溶液をレンズ用モ−ルドに注入し、20℃〜130℃まで20時間かけ昇温硬化させ、屈折率1.594、アッベ数42の光学特性を有する度数0.00のレンズを形成した。これを光学基材としてのプラスチックレンズとした。
<酸化チタンゾルについて>
本実施例において酸化チタン系複合微粒子(いわゆる酸化チタンゾル)は、商品名「ハイネックスAB20」(触媒化成工業株式会社製)を使用した。「ハイネックスAB20」は主成分を酸化チタンとするとともに酸化ジルコニウム及び酸化ケイ素をその他の微粒子として複合微粒子を構成している。より具体的には酸化チタンと酸化ジルコニウムの結合体を酸化チタンと酸化ケイ素の結合体で包囲する構造とされ、更に外方からアンチモン酸化物で被覆されている。固形分濃度25%で分散溶媒としてメタノ−ルを使用している。
<ハードコート液の調整及びハードコート層の形成>
テトラエトキシシランを11重量部、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを76重量部、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランを22重量部に、メタノ−ル150部加え、氷冷下攪拌しながら0.01N塩酸24部を滴下して加水分解を行い、更に5℃で1昼夜撹拌した(この溶液をベース溶液とする)。
このベース溶液の合計283重量部の混合物に対して上記「ハイネックスAB20」を192重量部、レベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー製「SILWETLー7001」 )を0.60重量部、イタコン酸を20.02重量部、ジシアンジアミドを8.33重量部、Co(II)のアセチルアセトネートを1.48重量部を加え5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約30%のハードコート液を得た。
前処理された基材にハードコート組成物をディッピング法(引き上げ速度300mm/min )により塗布し、100℃×2時間の条件にて硬化させレンズ基材の両面に膜厚2.0μm、屈折率1.63のハ−ドコ−ト層を得た。
【0018】
<コート液の調製及び第1の機能膜層の形成>
第1の機能膜層用のコート液は、商品名「X−12−2510A」(信越化学工業(株)製)をベース溶液とした。「X−12−2510A」はいくつかの組成の含フッ素有機ケイ素化合物を主成分とする固形分濃度3%の溶液である。このベース液に固形分と中空シリカ微粒子(平均粒子径60nm、外殻厚み10nm)の合計100重量%に対し中空シリカ微粒子が30重量%になるように中空シリカゾル(20%濃度、イソプロピルアルコール溶媒)を添加し室温で3日間撹拌し固形分2.6%に調整したものをコート液とした。
凸面側のハードコート層表面を30mmの距離から20秒間コロナ処理した後、このコート液を、スピンコート条件:回転数1300rpm回転時間30秒で処理してハ−ドコ−ト層表面に塗布して、100℃で15分加熱硬化させて膜厚100nm、屈折率1.38の第1の機能膜層を形成した。
【0019】
<コート液の調整及び第2の機能膜層の形成>
第2の機能膜層用のコート液は上記「X−12−2510A」をベース液として、このベース液の固形分とZrO2微粒子(平均粒子径6nm)の合計100重量%に対しZrO2微粒子が20重量%になるようにZrO2ゾル(35%濃度、メタノ−ル溶液)を添加し固形分2.6%に調整したものをコート液とした。上記第1の機能膜層表面を30mmの距離から20秒間コロナ処理した後にこのコート液を、スピンコート条件:回転数3000rpm回転時間30秒で処理して第1の機能膜表面に塗布して、120℃で1.5時間加熱硬化させて膜厚50nm、屈折率1.47の第2の機能膜層を形成した。
このようにして得られた3層構造のミラーコート層が形成されたプラスチックレンズについて光学特性を測定するとともに耐久性能の各種試験を行った。
光学特性は反射色、視感度反射率、400〜800nmの範囲にあるピーク反射率のそれぞれの特性を測定した。耐久性能については耐擦傷性、耐候性、耐熱性、市水煮沸のそれぞれを検証した。
耐擦傷性は#000のスチ−ルウ−ルで塗膜面を1kg荷重をかけて10往復擦り、表面状態を確認し判定した。外観の判定は目視で行い、「○」は全くキズがつかないか僅かにキズがつく、「×」は多数のキズがつくか膜が擦り取れて(剥離)しまう、とした。
耐候性試験はサンシャインウエザオメーター(スガ試験機株式会社製)にて180時間の紫外線曝露試験を行い、曝露後のクラックの有無と密着性を評価した。外観の判定は目視で行い、「○」はクラックなし、「△」はごくわずかなクラック、「×」はクラックが発生、とした。密着性についてはJIS D−0202に準じてクロクカットテ−プ試験によって行った。ナイフを用いて基材表面に1mm間隔の切れ目を入れ、100個のマス目を形成する。次に、その上にセロハンテ−プ(ニチバン株式会社製)を強く押し付けてから、表面から90度方向へ勢いよく引っ張り剥離した後、コ−ト膜の残っているマス目の数を数えて2段階でランク付けした。「○」は100〜95、「×」は94〜0とした。
耐熱性はレンズを金属製メガネフレ−ムに枠入れ加工し、それを60℃−95%RHの恒温恒湿器内に3日間保管する。その後、フレ−ムに入った状態でレンズをオ−ブンで60℃で20分間加熱する。白熱灯を使用してクラックの有無を確認する。異状なければ10℃ずつ温度を上げて繰り返し行なう。耐熱性温度をクラックが発生しなかった最高温度で表示した。
市水煮沸は市水(水道水)を沸騰させた中に10分間浸漬し、反射色・反射率の変化、剥離、クラック等の外観変化の有無を評価した。「○」は変化なし、「×」は変化あり、とした。これらの結果を表1に示す。
【0020】
(実施例2)
実施例2は実施例1と同じプラスチックレンズに同じ条件でハードコート層及び第1の機能膜層を形成し、第2の機能膜層についてはスピンコート条件を回転数800rpmとして膜厚120nm、屈折率1.47の第2の機能膜層を形成させた実施例である。
実施例2においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0021】
(実施例3)
実施例3は実施例1と同じプラスチックレンズに同じ条件でハードコート層を形成し、実施例1でベース溶液とした「X−12−2510A」をそのままコート液として第1の機能膜層を実施例1と同様のスピンコート条件でスピンコート法によって形成させ、実施例2と同じ条件で第2の機能膜層を形成させた実施例である。実施例3では膜厚100nm、屈折率1.42の第1の機能膜層を形成した。
実施例3においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0022】
(実施例4)
実施例4は実施例1と同じプラスチックレンズに同じ条件でハードコート層及び第1の機能膜層を形成し、実施例1でベース溶液とした「X−12−2510A」をそのままコート液として第2の機能膜層を実施例2と同様のスピンコート条件でスピンコート法によって形成させた実施例である。実施例3では膜厚120nm、屈折率1.42の第2の機能膜層を形成した。
実施例4においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0023】
(実施例5)
実施例5は実施例1と同じプラスチックレンズに同じ条件でハードコート層及び第1の機能膜層を形成し、第2の機能膜層については上記実施例1のコート液におけるZrO2微粒子が30%になるようにZrO2ゾルを添加し固形分2.6%に調整したものをコート液とし、上記実施例2と同じ方法で形成させた実施例である。実施例5では膜厚120nm、屈折率1.50の第2の機能膜層を形成した。
実施例5においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0024】
(実施例6)
実施例6ではハ−ドコ−ト液の組成が実施例1とは異なりそのため形成されるハ−ドコ−ト層の屈折率が実施例1とは異なる実施例である。実施例6ではγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン223重量部に、メタノ−ル50重量部を加え、氷冷下撹拌しながら0.01N塩酸76重量部を滴下して加水分解を行い、更に5℃で1昼夜撹拌した。このベ−ス溶液349重量部に対してZrO2ゾル(35%濃度)546重量部、レベリング剤L−7001を1.7重量部、触媒アルミニウムアセチルアセトネ−トを2.2重量部、メタノ−ル260重量部を加えて更に5℃で1昼夜撹拌して固形分35%のハ−ドコ−ト液を調整した。このハ−ドコ−ト液を使用して実施例1と同じプラスチックレンズを同じディッピング法でレンズ基材の両面に膜厚2.0μm、屈折率1.62のハ−ドコ−ト層を得た。このハ−ドコ−ト層に対して第1及び第2の機能膜層を実施例2と同じ条件で形成した。
実施例6においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0025】
(実施例7)
実施例7は実施例1のレンズ基材の内部に偏光膜を挿入し、その他のハードコート層、第1の機能膜層及び第2の機能膜層は実施例2と同じ条件で形成した実施例である。実施例7ではレンズ両面に第1の機能膜層を同じ条件で形成し、レンズの凸面側のみ第2の機能膜層を形成した。
実施例7においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表1に示す。
(実施例8)
実施例8は実施例1におけるハードコート層用のハードコート液の組成としてCo(II)のアセチルアセトネートを添加せずに調整したハードコート液によってハードコート層を形成したものであり、他の構成は実施例1と同様である。
実施例8においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0026】
(比較例1)
比較例1は実施例1と同じプラスチックレンズに同じ条件でハードコート層及び第1の機能膜層を形成し、第1の機能膜層についてはスピンコート条件を回転数500rpmとして膜厚200nm、屈折率1.38の第1の機能膜層を形成した比較例である。比較例1では第2の機能膜層は形成させなかった比較例である。
比較例1においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表2に示す。
【0027】
(比較例2)
比較例2は実施例1と同じプラスチックレンズに同じ条件でハードコート層を形成し、このハードコート層の凸面側に蒸着法で誘電体多層膜(5層)を形成させた比較例である。
比較例2においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表2に示す。
【0028】
(比較例3)
比較例3では実施例1と同じプラスチックレンズに同じ条件でハードコート層を形成し、このハードコート層の凸面側にコート液として商品名「X−12−2170A」(信越化学工業(株)製)を使用して第1の機能膜層を形成した。「X−12−2170A」は酸化チタンを主成分とする固形分濃度5%の高屈折率処理液である。このコート液を使用してスピンコート条件:回転数2500rpm、回転時間30秒で膜厚100nm、屈折率1.68の第1の機能膜層を形成した。この第1の機能膜層の上層に「X−12−2510A」をコート液としてスピンコート条件:回転数500rpm回転時間30秒で処理して第1の機能膜層表面に塗布して、120℃で1.5時間加熱硬化させて膜厚200nm、屈折率1.42の第2の機能膜層を形成した。
比較例3においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表2に示す。
【0029】
(比較例4)
比較例4では実施例1と同じプラスチックレンズに同じ条件でハードコート層を形成し、このハードコート層の凸面側に実施例6で調製したハ−ドコ−ト液を溶剤で希釈し固形分3%としたコート液を使用し、スピンコート条件:回転数3000rpm回転時間30秒で処理してハ−ドコ−ト層表面に塗布して、100℃で15分加熱硬化させて膜厚50nm、屈折率1.62の第1の機能膜層を形成した。
次いで、この第1の機能膜層の上層に実施例1の第1の機能膜層用のコート液をスピンコート条件:回転数750rpm回転時間30秒で処理して第1の機能膜層表面に塗布して、120℃で1.5時間加熱硬化させて膜厚220nm、屈折率1.38の第2の機能膜層を形成した。
比較例4においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表2に示す。
【0030】
(比較例5)
比較例5では実施例1と同じプラスチックレンズに同じ条件でハードコート層を形成し、実施例1の第2の機能膜層用のコート液を使用し、スピンコート条件:回転数800rpm回転時間30秒で処理してハ−ドコ−ト層表面に塗布して、100℃で15分加熱硬化させて膜厚120nm、屈折率1.47の第1の機能膜層を形成した。この第1の機能膜層の上層に実施例5の第2の機能膜層用のコート液を使用しスピンコート条件:回転数800rpm回転時間30秒で処理して第1の機能膜層表面に塗布して、120℃で1.5時間加熱硬化させて膜厚120nm、屈折率1.50の第2の機能膜層を形成した。
比較例5においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表2に示す。
【0031】
(比較例6)
比較例6では実施例1と同じプラスチックレンズに同じ条件でハードコート層を形成し、実施例5の第2の機能膜層用のコート液を使用しスピンコート条件:回転数800rpm回転時間30秒で処理してハ−ドコ−ト層表面に塗布して、100℃で15分加熱硬化させて膜厚120nm、屈折率1.50の第1の機能膜層を形成し、この第1の機能膜層の上層に比較例3の第1の機能膜層用のコート液を使用し比較例3と同じスピンコート条件で膜厚100nm、屈折率1.68の第2の機能膜層を形成した。
比較例6においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表2に示す。
【0032】
(比較例7)
比較例7では実施例1と同じプラスチックレンズに同じ条件でハードコート層を形成し、第1の機能膜層については上記実施例1のコート液におけるZrO2微粒子が43%になるようにZrO2ゾルを添加し固形分2.6%に調整したものをコート液とし、スピンコート条件:回転数3000rpm回転時間30秒で処理してハ−ドコ−ト層表面に塗布して、100℃で15分加熱硬化させて膜厚50nm、屈折率1.54の第1の機能膜層を形成した。この第1の機能膜層の上層に比較例3の第1の機能膜層用のコート液を使用し比較例3と同じスピンコート条件で膜厚100nm、屈折率1.68の第2の機能膜層を形成した。
比較例7においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表2に示す。
【0033】
(比較例8)
比較例8では実施例1と同じプラスチックレンズに同じ条件でハードコート層を形成し、実施例1の第2の機能膜層用のコート液を使用し、スピンコート条件:回転数800rpm回転時間30秒で処理してハ−ドコ−ト層表面に塗布して、100℃で15分加熱硬化させて膜厚120nm、屈折率1.47の第1の機能膜層を形成した。この第1の機能膜層の上層に比較例7の第1の機能膜層用のコート液を使用し比較例7と同じスピンコート条件で膜厚50nm、屈折率1.54の第2の機能膜層を形成した。
比較例8においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表2に示す。
【0034】
(比較例9)
比較例9では実施例1で使用したハードコート液において「ハイネックスAB20」に換えて、商品名「メタノ−ルシリカゾル」(日産化学工業(株)製)を使い実施例と同じ方法でレンズ基材の両面に膜厚2.0μm、屈折率1.49のハ−ドコ−ト層を形成させた。第1の機能膜層及び第2の機能膜層は実施例2と同じである。
比較例9においても光学特性を測定するとともに実施例1と同様の条件で耐久性能の各種試験を行った。これらの結果を表2に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
<結果>
上記耐候性試験の結果、実施例はいずれもミラーコートとして必要な反射率を備え、耐久性能も問題ないことが分かる。これらから第1の機能膜層の屈折率が低いため第2の機能膜層の屈折率をそれほど大きく上げなくとも反射率を上げることができ、その結果最外層となる第2の機能膜層の耐擦傷性や耐候性が低下することがないことがわかる。また、湿式法での膜形成であるため誘電体多層膜を蒸着するような乾式に比べて耐熱性、市水煮沸性が極めて高い。
一方、比較例では単層や上層面側に1.42よりも小さな屈折率の機能膜層を配置しても所定の反射率が得られないことがわかる(比較例1、比較例4)。また、蒸着によってミラーコートを形成させた例では(比較例2)反射率は十分であるものの耐熱性、市水煮沸性が低く、サングラスのような屋外で使用する用途には好ましくない。更に真空蒸着法は製造設備が湿式に比べて高価になるという問題がある。
また、第1の機能膜層の屈折率に対する第2の機能膜層の屈折率の差があまりない場合には十分な反射率が得られず(比較例5)、第2の機能膜層の屈折率が大きければ反射率が大きくなる傾向ではあるが、屈折率が絶対的に大きい場合には耐擦傷性や耐候性が低下することが理解できる(比較例6、比較例7、比較例8)。また比較例9ではハードコート層の屈折率が低いためその影響で十分な反射率を得られず耐候性も劣ってしまったものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともプラスチック製光学基材の一方の面に直接又は他の層を介して屈折率が1.50以上のハードコート層を形成するとともに、同ハードコート層の上層に湿式法によって有機ケイ素化合物を主成分とした屈折率が1.42以下の第1の機能膜層を形成し、同第1の機能膜層の上層に湿式法によって同第1の機能膜層よりも屈折率の高い有機ケイ素化合物を主成分とした第2の機能膜層を形成することで表面ピーク反射率を7%以上の3層構造のミラーコート層を構成したことを特徴とするミラーコート光学物品。
【請求項2】
前記第1の機能膜層は40重量%を越えない範囲で中空シリカが含有されていることを特徴とする請求項1に記載のミラーコート光学物品。
【請求項3】
前記第2の機能膜層の屈折率は前記第1の機能膜層よりも0.04以上高いことを特徴とする請求項1又は2に記載のミラーコート光学物品。
【請求項4】
前記第2の機能膜層は酸化チタンを除く金属酸化物を含有する膜層であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のミラーコート光学物品。
【請求項5】
前記第2の機能膜層は酸化ジルコニウムを含有する膜層であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のミラーコート光学物品。
【請求項6】
前記ハードコート層はハードコート組成物を湿式法によって形成させたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のミラーコート光学物品。
【請求項7】
前記ハードコート層を形成するハードコート組成物は下記A〜E成分を含有することを特徴とする請求項6に記載のミラーコート光学物品。
A.有機ケイ素化合物の加水分解物
B.酸化チタンを主成分とする複合金属酸化物微粒子
C.ジシアンジアミド
D.有機多価カルボン酸
E.Co(II)化合物

【公開番号】特開2009−204759(P2009−204759A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45434(P2008−45434)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】