説明

ミラー角度調節機構部を備えたレーザ発振器

【課題】レーザ持続時間が異なる場合であっても、レーザを安定して出力可能なミラー角度を設定する。
【解決手段】放電空間の両端に配置されたミラー(6、8)によりレーザを発振するレーザ発振器(10)が、レーザ発振器を動作させるプログラムからレーザ出力指令と持続時間指令とを読取る読取手段(35)と、読取手段により読取られたレーザ出力指令と持続時間指令とに基づいてミラーの角度指令値を決定するミラー角度決定手段(36)と、ミラー角度決定手段により決定されたミラーの角度指令値に応じてミラーの角度を調節するミラー角度調節手段(16、18)とを含む。さらに、レーザ発振器を立上げてからレーザを出力した時間を積算してレーザ出力積算時間を算出する積算手段(20)を具備し、積算手段により算出されたレーザ出力積算時間を持続時間に加算して新たな持続時間としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ発振器に関する。特に、本発明は、レーザビームを金属または樹脂などの被加工ワークに照射して、被加工ワークを切断または溶接するのに用いられるレーザ発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ発振器は、制御装置により作成されたレーザ出力指令に応じて電力が供給されてレーザが出力される。レーザを出力すると、レーザ発振器内の共振器の各部分の温度が上昇するので、共振器は熱歪みの影響を受ける。通常、共振器は或る一定の出力条件に対して調整されている。このため、共振器が熱歪みの影響を受けると、レーザ出力とその射出角度とが安定しなくなる場合がある。
【0003】
特許文献1に開示されるレーザ発振器おいては、共振器の反射ミラーのガス流方向に対する角度が放電電力に比例した信号により制御されている。このため、特許文献1の場合には、共振器が熱歪みの影響を受けた場合であっても、レーザ出力とその射出角度とを補正することができる。
【特許文献1】特許第2539223号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、共振器に対する熱の影響はレーザの出力を持続する持続時間によっても変化する。さらに、そのような熱の影響はレーザ発振器における過去のレーザ出力によっても変化する。
【0005】
特許文献1の場合には放電電力のみに基づいてミラーの角度を変更しているので、レーザの持続時間が異なる場合、および過去のレーザ出力による熱の影響が解消されていない場合には、ミラー角度を適切に設定できない場合がある。そのような場合には、レーザ出力およびレーザ射出角度が不安定になるので、被加工ワークを良好に加工するのが困難になる。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、レーザの持続時間が異なる場合、および過去のレーザ出力による熱の影響が解消されていない場合であっても、レーザ出力とその射出角度とを安定させられるようにミラー角度を設定できるレーザ発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、放電空間の両端に配置されたミラーによりレーザを発振するレーザ発振器において、該レーザ発振器を動作させるプログラムからレーザ出力指令と該レーザ出力指令にてレーザ出力を持続させる持続時間指令とを読取る読取手段と、該読取手段により読取られた前記レーザ出力指令と前記持続時間指令とに基づいて前記ミラーの角度指令値を決定するミラー角度決定手段と、前記ミラー角度決定手段により決定された前記ミラーの角度指令値に応じて前記ミラーの角度を調節するミラー角度調節手段とを具備するレーザ発振器が提供される。
【0008】
すなわち1番目の発明においては、レーザの持続時間を考慮してミラー角度指令値を決定している。このため、レーザの持続時間が異なる場合であっても、レーザ出力とその射出角度とを安定させられるようにミラー角度を設定できる。
【0009】
2番目の発明によれば、1番目の発明において、さらに、前記レーザ発振器を立上げてからレーザを出力した時間を積算する積算手段を具備し、前記積算手段により積算されたレーザ出力積算時間を前記持続時間指令に加算して新たな持続時間指令とするようにした。
すなわち2番目の発明においては、過去のレーザ出力による熱が残存している場合にはその影響を考慮して新たな持続時間指令を作成している。このため、熱が残存している場合であっても、レーザ出力とその射出角度とを安定させられるようにミラー角度を設定できる。
【0010】
3番目の発明によれば、2番目の発明において、前記レーザ出力積算時間を、前記レーザ発振器における前回のレーザ出力からの経過時間に応じて低下させるようにした。
前回のレーザ出力により生じた熱は前回のレーザ出力からの経過時間に応じて解消する。従って、3番目の発明においては、前回のレーザ出力からの経過時間を考慮することにより、より正確なミラー角度を設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明に基づくレーザ発振器の概念図である。図1示されるレーザ発振器10は放電励起型である比較的高出力のレーザ発振器、例えば出力1kW以上の炭酸ガスレーザである。レーザ発振器10には、部分透過性をほとんど有しないリア鏡6(反射率99%)と、部分透過性を有する出力鏡8(反射率50%)とが互いに対面して設けられている。これらリア鏡6および出力鏡8の間には放電セクション29が形成されている。レーザ発振器10の駆動時には、レーザが出力鏡8から矢印C方向に出力される。
【0012】
放電セクション29には、互いに対面する放電電極対7a、7bが設けられている。これら放電電極対7a、7bは同一寸法であって、誘電体コーティングが施されている。図示されるように、これら放電電極対7a、7bは、レーザの出力方向Cに対して概ね平行に配置されている。
【0013】
図1においては、リア鏡6はミラー角度調節機構部16に連結されており、出力鏡8は他のミラー角度調節機構部18に連結されている。これらミラー角度調節機構部16、18はリア鏡6および出力鏡8のそれぞれの初期位置からのミラー角度A1、A2を調節する。ここで、ミラー角度A1、A2は、レーザ出力方向Cに対して垂直で且つ放電電極対7a、7bに対して平行な軸線回りにリア鏡6、出力鏡8がそれぞれ回転する回転角度である。
【0014】
さらに、図1に示されるように、これら放電電極対7a、7bはマッチング回路(図示しない)を介して高周波電源4に接続されている。高周波電源4は例えば2MHzの高周波電源である。
【0015】
本発明に基づくレーザ発振器10はデジタルコンピュータである制御装置30により制御される。制御装置30は、レーザ発振器10のための加工プログラム32および後述するマップ33等を記憶する記憶部31を含んでいる。さらに、制御装置30は、加工プログラム32に記述されたレーザ出力指令Yおよびそのレーザ出力指令Yでの持続時間指令Tを読取る読取手段35と、レーザ出力指令Yおよび持続時間指令Tに基づいてリア鏡6および出力鏡8のためのミラー角度指令値Aを決定するミラー角度指令値決定手段36とを含んでいる。
【0016】
さらに、レーザ発振器10の高周波電源4は積算手段20に接続されている。積算手段20は、レーザ発振器10を立上げた後における複数回のレーザの出力時間を積算して、レーザ出力積算時間TTを算出する。レーザ出力積算時間TTは、制御装置30のミラー角度指令値決定手段36に供給される。
【0017】
以下、本発明に基づくレーザ発振器10の動作について説明する。はじめに、記憶部31に記憶された加工プログラム32に基づいて、制御装置30がレーザ発振器10を駆動する。このとき、制御装置30の読取手段35が加工プログラム32からレーザ出力指令Yを読取る。レーザ出力指令Yはミラー角度指令値決定手段36に送信される。同時に、読取手段35は、レーザ出力指令Yにてレーザ出力を持続させる持続時間指令Tを加工プログラム32から読取り、ミラー角度指令値決定手段36に送信する。また、レーザ出力指令Yは高周波電源4に送信され、高周波電源4はこのレーザ出力指令Yに応じた電力を放電電極対7a、7bに供給する。
【0018】
ミラー角度指令値決定手段36はレーザ出力指令Yおよび持続時間指令Tに基づいて、リア鏡6および出力鏡8のミラー角度指令値Aを設定する。図2(a)は、一般的なミラー角度指令値Aのマップを示す図であり、図2(b)は或る実施形態におけるミラー角度指令値A(単位:rad)の具体的なマップを示す図である。
【0019】
これら図2(a)および図2(b)に示されるように、ミラー角度指令値Aは、レーザ出力指令Yおよび持続時間指令Tの関数としてマップ33の形で記憶部31に記憶されている。マップ33におけるミラー角度指令値Aは、レーザ出力およびレーザ射出角度が安定するときのミラー角度であり、実験などにより予め求められている。或る実施形態におけるミラー角度指令値Aの具体的な値は図2(b)に示されている。
【0020】
ミラー角度指令値決定手段36は、そのようなマップ33からリア鏡6および出力鏡8のミラー角度指令値Aをそれぞれ決定する。リア鏡6および出力鏡8のそれぞれのミラー角度指令値Aは、図示されるような共通のマップから決定してもよく、またはリア鏡6および出力鏡8に固有のマップ(図示しない)からそれぞれ決定するようにしてもよい。なお、ミラー角度指令値決定手段36は所定の式に基づいてリア鏡6および出力鏡8のミラー角度指令値を算出するようにしてもよい。
【0021】
ミラー角度指令値決定手段36により決定されたミラー角度指令値Aはミラー角度調節機構部16、18に送信される。そして、これらミラー角度調節機構部16、18はミラー角度指令値Aに基づいてリア鏡6および出力鏡8のミラー角度A1、A2をそれぞれ調節する。
【0022】
このようにしてリア鏡6および出力鏡8のミラー角度A1、A2が調節されている場合には、レーザ出力時における、レーザ出力とその射出角度とを安定させられる。従って、レーザ発振器10に関連するレーザ加工機においては、被加工ワークを良好に加工することが可能となり、被加工ワークの加工不良率も低下させられる。
【0023】
ところで、レーザ発振器10を立上げた後で複数回にわたってレーザを出力すると、過去のレーザ出力による熱の影響が解消されていない場合がある。特に前回のレーザ出力の終了後からの経過時間が比較的短い場合には、共振器に対する熱歪みの影響が解消されていないことが多い。
【0024】
そのような場合には、以下の式(1)で示されるように、積算手段20により算出されたレーザ出力積算時間TTを持続時間指令Tに加算して、新たな持続時間指令Tを作成する。
T ← T + TT (1)
次いで、新たな持続時間指令Tとレーザ出力指令Yとに基づいてミラー角度指令値Aを決定し、リア鏡6および出力鏡8のミラー角度A1、A2を調節する。この場合には、過去のレーザ出力による残存している熱の影響を考慮して新たな持続時間指令を作成している。このため、熱が残存している場合であっても、レーザ出力とその射出角度とを安定させられるようなミラー角度を設定することが可能となる。
【0025】
また、前回のレーザ出力の終了後からの経過時間が比較的長い場合には、共振器に対する熱歪みの影響が解消している場合がある。このような場合には、レーザ出力積算時間TTを前回のレーザ出力の終了後の経過時間に応じて短くするのが好ましい。
【0026】
図3はレーザ出力積算時間とレーザ非出力時間(前回のレーザ出力の終了後からの経過時間)との関係を示す図である。図3における縦軸はレーザ出力積算時間TTを表しており、横軸はレーザ非出力時間T0を表している。図3においては、レーザ出力積算時間TTは、レーザ非出力時間T0が長くなると線形的に低下する挙動を示されている。
【0027】
そして、本実施形態においては、積算手段20により積算されたレーザ出力積算時間TTを以下の式(2)に基づいて変更する。
TT ← TT − α × T0 (2)
なお、式(2)における符号αは図3に示される直線の傾きである。
【0028】
このような場合には、熱歪みの影響がレーザ非出力時間T0に応じて解消されているレーザ出力積算時間TTが算出される。これにより、レーザ出力積算時間TTは、より正確な熱歪みの影響を含むようになる。次いで、上式(1)から新たな持続時間指令Tを求め、この持続時間指令Tおよびレーザ出力指令Yに基づいてミラー角度指令値Aを同様に決定する。これにより、リア鏡6および出力鏡8のミラー角度A1、A2をより正確に設定できるのが分かるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に基づくレーザ発振器の概念図である。
【図2】(a)一般的なミラー角度指令値Aのマップを示す図である。(b)或る実施形態におけるミラー角度指令値Aのマップを示す図である。
【図3】レーザ出力積算時間とレーザ非出力時間との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
4 高周波電源
6 リア鏡
7a、7b 放電電極対
8 出力鏡
10 レーザ発振器
16、18 ミラー角度調節機構部
20 積算手段
29 放電セクション
30 制御装置
31 記憶部
32 加工プログラム
33 マップ
35 読取手段
36 ミラー角度指令値決定手段(ミラー角度決定手段)
A ミラー角度指令値
T 持続時間指令
T0 レーザ非出力時間
TT レーザ出力積算時間
Y レーザ出力指令

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電空間の両端に配置されたミラーによりレーザを発振するレーザ発振器において、
該レーザ発振器を動作させるプログラムからレーザ出力指令と該レーザ出力指令にてレーザ出力を持続させる持続時間指令とを読取る読取手段と、
該読取手段により読取られた前記レーザ出力指令と前記持続時間指令とに基づいて前記ミラーの角度指令値を決定するミラー角度決定手段と、
前記ミラー角度決定手段により決定された前記ミラーの角度指令値に応じて前記ミラーの角度を調節するミラー角度調節手段とを具備するレーザ発振器。
【請求項2】
さらに、前記レーザ発振器を立上げてからレーザを出力した時間を積算する積算手段を具備し、
前記積算手段により積算されたレーザ出力積算時間を前記持続時間指令に加算して新たな持続時間指令とするようにした請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項3】
前記レーザ出力積算時間を、前記レーザ発振器における前回のレーザ出力からの経過時間に応じて低下させるようにした請求項2に記載のレーザ発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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