説明

メアンダライン型ジョセフソン接合アレー

【課題】 電圧標準用デジタル−アナログ変換機のジョセフソン接合アレーにおいて、アレーをメアンダライン型にし、単位長さあたり2倍の接合を集積する。しかし、メアンダライン構造にするとアレーのインダクタンスが増えるために特性インピーダンスが増加してしまう。特性インピーダンスの増加を防ぐためには、接地導体とアレーの間隔を小さくしてキャパシタンスを大きくすればよいが、これはゴミや不純物による短絡故障の原因にもなりかねない。
【解決手段】 本願発明は、単位長さあたりジョセフソン接合の集積密度を上げるためにアレーをメアンダライン型にするとき、ジョセフソン接合の下部配線の幅を大きくし接地導体に近づけることでインピーダンスの増加を防ぎ、下部配線と接地導体を絶縁体で分離することで短絡故障の危険を回避する。歩留まりの減少を招くことなく、接合の集積密度を上げることで、チップの製造コストを下げることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、バイアス電流とマイクロ波の印加により一定電圧を発生するジョセフソン接合の多数個を直列接続したジョセフソン接合アレーで構成される電圧標準装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ジョセフソン電圧標準装置は、周波数を正確に電圧に変換できる交流ジョセフソン効果という物理法則に基づいている。シリコンなどを材料とするチップ上のジョセフソン接合にマイクロ波を供給するためにはマイクロ波伝送線路が用いられる。マイクロ波伝送線路としては、準平面型導波路(Coplanar Waveguide: CPW) が利用されてきた(下記非特許文献1参照)。
【0003】
図1には、誘電体基板1の一面に信号導体配線2と接地導体(外部導体)3が設けられた配線構造である準平面型導波路が示されている。信号配線が接地導体にはさまれた構造になっており、誘電体の一面のみを使って信号伝送ができるため、回路の特性評価や他の回路との接続が容易である。
【0004】
電圧標準で用いられるジョセフソン接合アレーは、超伝導体の下部電極4と常伝導体の中間層5と超伝導体の上部電極6から構成されるジョセフソン接合を多数個直列に接続したものである。
【0005】
図2に示すように、すべての接合に均一にマイクロ波を印加するために、ジョセフソン接合7アレーも接合の両側に接地導体3を配置し、準平面型の伝送線路を形成したものも知られている(非特許文献2参照)。
【非特許文献1】小西良弘著「マイクロ波回路の基礎とその応用」、総合電子出版社、1992年8月20日(第1版)、第70頁〜第71頁
【非特許文献2】S.P.Benz: Appl. Phys. Lett.67 (18), 30 October 1995 「Superconductor−normal −superconductor junctions for programmable voltage standards」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで問題となるのは、大きな出力電圧を得ようとする場合、多くのジョセフソン接合を直列に接続する必要があり、ジョセフソン接合アレーが非常に長くなり、チップのサイズの大型化を招くことである。また、チップサイズが大きくなれば製造コストの増加を招いてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ジョセフソン接合アレーをメアンダライン(蛇行)型にすることにより、同じ長さのアレーであれば2倍のジョセフソン接合を配置できる。ところが、メアンダライン型にすると、アレーのインダクタンスが増加するため、アレーの特性インピーダンスを例えば50オームに保とうとすると、アレーと外部導体とのキャパシタンスを大きくする必要があるため、アレーと接地導体の距離を非常に小さくする必要がある。しかし、アレーと外部導体のギャップを小さくすることは、パーティクルによる短絡故障を招きかねない。そこで、下部電極のみ幅を広げ、絶縁膜(誘電体膜)を介して接地導体とキャパシタンスを確保すれば、下部電極と接地導体は絶縁膜(誘電体膜)で絶縁されているため、アレーと接地導体の短絡故障の危険を減らすことができる。
【発明の効果】
【0008】
ジョセフソン接合アレーをメアンダライン型にすることで2倍のジョセフソン接合を集積でき、アレーの下部電極とマイクロ波伝送線路の外部導体の間に絶縁膜をはさむことにより、アレーと外部導体が電気的に完全に絶縁されるため、ごみや不純物による絶縁性能の劣化または短絡故障の可能性が小さくなる。以上の効果は、チップサイズを小型化、またはチップサイズを大型化せずに大きな出力電圧を得ることが可能になり、作製の歩留まりを向上させ電圧標準チップの製造コストを下げるために有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、発明を実施するための最良の形態を示す。
【実施例】
【0010】
図3に示されるように、従来のジョセフソン接合アレーにおいては、下部電極4上に2個のジョセフソン接合7を配置し、上部電極6で2個のジョセフソン接合を接続し、両側に接地導体3を配置してアレーを形成している。
【0011】
アレーのインダクタンスをL、アレーと接地導体3のキャパシタンスをCとすると、アレーの特性インピーダンスZはZ=√(L/C)で与えられる。特性インピーダンスは常に一定の値、典型的には50オームでなければならないので、アレーと接地導体の間隔を調節してインピーダンスをあわせる必要がある。
【0012】
図4に示されるように、図3に示されるジョセフソン接合と同じ長さで、接合の数を2倍にするには、下部電極4と上部電極6をメアンダライン(蛇行)状にしてジョセフソン接合7を2列にすれば、2倍のジョセフソン接合が配置できる。アレーのインダクタンスLは大幅に増加するため、下部電極4の大きさを大きくし、接地導体3に近づける。
【0013】
図5は、図4のAA面における断面図であるが、下部電極4と接地導体3がゴミや不純物による短絡故障が起こらないように、下部電極4と接地導体3は絶縁膜8により絶縁する構成としている。作製を容易にするためには、上部電極6と接地導体3は同一レイヤーの導体膜を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本願発明にかかるジョセフソン接合アレー構造体は、デジタル−アナログ変換機に用いることができる。また、該デジタル−アナログ変換機を用いて、プログラマブルジョセフソン電圧標準用接合アレーとすることができる。
さらに、該プログラマブルジョセフソン電圧標準用接合アレーをチップ状として、ジョセフソン電圧標準用チップとすることができ、該ジョセフソン電圧標準用チップを用いて、ジョセフソン電圧発生装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】準平面型導波路
【図2】従来のジョセフソン接合アレーの断面図
【図3】従来のジョセフソン接合アレーの平面図
【図4】本発明の一実施例を示す平面図
【図5】図4のAA断面図
【符号の説明】
【0016】
1:基板
2:信号配線導体
3:接地導体
4:下部電極
5:中間層
6:上部電極
7:ジョセフソン接合
8:絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にジョセフソン接合アレーがメアンダライン状に配置されたジョセフソン接合アレー構造体であって、該ジョセフソン接合アレーは、下部電極、中間層及び上部電極から構成され、下部電極との間に絶縁膜を介して外部導体が配置されていることを特徴とするジョセフソン接合アレー構造体。
【請求項2】
上記下部電極と上記外部導体の間に上記絶縁膜を介して形成される特性インピーダンスの値が一定となる構造であることとを特徴とする請求項1に記載のジョセフソン接合アレー構造体。
【請求項3】
上記ジョセフソン接合アレー構造体は、準平面型マイクロ波伝送線路を形成するように配置された構造であることを特徴とする請求項1に記載のジョセフソン接合アレー構造体。
【請求項4】
上記基板は、誘電体又は半導体であることを特徴とする請求項1に記載のジョセフソン接合アレー構造体。
【請求項5】
上記外部導体は、超伝導体であることを特徴とする請求項1に記載のジョセフソン接合アレー構造体。
【請求項6】
上記絶縁膜は、誘電体であることを特徴とする請求項1に記載のジョセフソン接合アレー構造体。
【請求項7】
デジタル−アナログ変換機において、請求項1乃至6のいずれかに記載のジョセフソン接合アレー構造体が用いられていることを特徴とするデジタル−アナログ変換機。
【請求項8】
プログラマブルジョセフソン電圧標準用接合アレーにおいて、請求項7に記載のデジタル−アナログ変換機が用いられていることを特徴とするプログラマブルジョセフソン電圧標準用接合アレー。
【請求項9】
ジョセフソン電圧標準用チップにおいて、該チップは、請求項8に記載のプログラマブル電圧標準用接合アレーを基板上に作製し、チップ状に切り分けたものであることを特徴とするジョセフソン電圧標準用チップ。
【請求項10】
ジョセフソン電圧発生装置において、請求項6記載のプログラマブル電圧標準用チップが用いられていることを特徴とするジョセフソン電圧発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−128460(P2006−128460A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316047(P2004−316047)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、「計量器校正情報システムの研究開発」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】