説明

メソポーラスシリカ膜

【課題】メソ細孔が基板上に略垂直に配向したメソポーラスシリカ膜、メソポーラスシリカ膜構造体、及び該構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】(1)平均細孔周期が1.5〜6nmのメソ細孔構造を有するシリカ膜であって、該メソ細孔が膜表面に対して75〜90°の方向に配向しているメソポーラスシリカ膜、(2)該メソポーラスシリカ膜が基板上に形成された構造体、及び(3)特定の陽イオン界面活性剤を特定量含有する水溶液を調製し、該水溶液中に基板を浸し、加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源を特定量加え、10〜100℃の温度で撹拌して、基板表面にメソポーラスシリカ膜を形成した後、陽イオン界面活性剤を除去するメソポーラスシリカ膜構造体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソポーラスシリカ膜、メソポーラスシリカ膜構造体、及び該構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質構造をもつ物質は高い表面積を有するため、触媒担体、酵素や機能性有機化合物等の固定化担体として広く使用されている。特に、多孔質構造を形成する細孔の細孔径分布がシャープである場合、分子篩としての作用が発現し、構造選択性を有する触媒担体の利用や物質分離剤への応用が可能となる。かかる応用のために、均一で微細な細孔を有する多孔体が求められている。
均一で微細な細孔を有する多孔体として、メソ領域の細孔を有するメソポーラスシリカが開発され、前記用途の他に、ナノワイヤー、半導体材料、光エレクトロニクスへの応用等の分野での利用が注目されている。
【0003】
特許文献1には、(i)高分子表面に対して平行な方向に配向した管状のメソ細孔を有するメソ構造体、及び(ii)配向処理が施された高分子表面と、界面活性剤及びアルコキシドを含む液体とを接触させた状態でアルコキシドを加水分解し、高分子表面にメソ細孔が面内の所定の方向に配向しているメソ構造体を形成する方法が開示されている。
しかしながら、このメソ構造体は、メソ細孔が基板面に対して平行に配向しているため高機能構造体としての用途が限定されている。
一方、非特許文献1には、ガラス基板上に、強磁場中で垂直にミセルを配向させて得たメソ構造体が開示されている。このメソ構造体は、粉末X線回折(XRD)の面間隔から推定すると、メソ細孔が少なくとも5nm以上という大きなものしか得られていない。
このように、平均細孔周期が5nm以下のメソ細孔が基板上に垂直に配向したメソポーラスシリカ膜は得られていない。
【0004】
【特許文献1】特開2001−58812号公報
【非特許文献1】Journal of Materials Chemistry, 2005, 15, 1137−1140
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、メソ細孔が基板上に略垂直に配向したメソポーラスシリカ膜、メソポーラスシリカ膜構造体、及び該構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、次の(1)〜(3)を提供する。
(1)平均細孔周期が1.5〜6nmのメソ細孔構造を有するシリカ膜であって、該メソ細孔が該膜表面に対して75〜90°の方向に配向しているメソポーラスシリカ膜。
(2)平均細孔周期が1.5〜6nmのメソ細孔構造を有するシリカ膜が基板上に形成された構造体であって、該メソ細孔が該基板に対して75〜90°の方向に配向している、メソポーラスシリカ膜構造体。
(3)下記工程(I)〜(III)を含む、メソ細孔が基板に対して略垂直に配向しているメソポーラスシリカ膜構造体の製造方法。
工程(I):陽イオン界面活性剤(a)を臨界ミセル濃度の5倍以下の濃度で含有する水溶液を調製する工程、
工程(II):工程(I)で得られた水溶液中に基板を浸し、加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源(b)を0.1〜100ミリモル/Lの濃度になるように加え、10〜100℃の温度で撹拌して、基板表面にメソポーラスシリカ膜を有するメソポーラスシリカ膜構造体を形成する工程
工程(III):得られたメソポーラスシリカ膜構造体から陽イオン界面活性剤(a)を除去する工程
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、平均細孔周期が1.5〜6nmの周期性を有するメソ細孔が基板上に略垂直に配向したメソポーラスシリカ膜、メソポーラスシリカ膜構造体、及び該構造体の効率的な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<メソポーラスシリカ膜>
本発明のメソポーラスシリカ膜は、メソ細孔構造に由来した平均細孔周期が1.5〜6nm、好ましくは1.5〜5nm、より好ましくは1.5〜4.5nm、特に好ましくは1.5〜4nmの周期性を有する。
本発明でいうメソ細孔の細孔周期とは、最近接の細孔中心間の距離のことを言う。
本発明のメソポーラスシリカ膜のメソ細孔の細孔周期は、シャープであることが特徴の1つであり、好ましくは膜全体の80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の部位が平均細孔周期の±30%以内の周期性を有している。
そのメソ細孔の細孔周期は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することができる。本発明におけるメソ細孔の平均細孔周期は、実施例記載の方法により求めた値である。
本発明のメソポーラスシリカ膜は、メソ細孔が膜表面に対して略垂直、すなわち75〜90°、好ましくは75〜90°、より好ましくは80〜90°の方向に配向していることが特徴の1つである。なお、本明細書においてはこの角度を配向度ということもある。
【0009】
メソポーラスシリカ膜の平均厚みは特に制限はなく、メソポーラスシリカ膜の使用目的に応じて、膜厚を変えることができる。分離膜、高機能触媒等への適用を考慮すれば、好ましくは1〜500nm、より好ましくは5〜400nm、更に好ましくは10〜300nm、特に好ましくは20〜200nmである。
メソポーラスシリカ膜の膜厚は、ポリマー種の選択、混合時の撹拌力、試薬の濃度、溶液の温度、焼成条件等によって調整することができる。膜の平均厚みは、透過型電子顕微鏡観察により測定することができる。
【0010】
メソポーラスシリカ膜の構造は、用いるシリカ源により異なる。シリカ源として有機基を有するものを用いた場合、有機基を有するシリカ構造の膜が得られ、またシリカ源以外に、他の元素、例えばAl、Ti、V、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、B、Mn、Fe等の金属を含有するアルコキシ塩やハロゲン化塩等の金属原料を製造時又は製造後に添加することで、該金属をメソポーラスシリカ膜に存在させることができる。シリカ膜の構造としては、安定性の観点から、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランをシリカ源として製造され、シリカ壁が実質上酸化シリカから構成されていることが好ましい。
【0011】
<メソポーラスシリカ膜構造体の製造方法>
本発明の、メソ細孔が基板に対して略垂直に配向しているメソポーラスシリカ膜構造体の製造方法は、下記工程(I)〜(III)を含む。
工程(I):陽イオン界面活性剤(a)を臨界ミセル濃度の5倍以下の濃度で含有する水溶液を調製する工程、
工程(II):工程(I)で得られた水溶液中に基板を浸し、加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源(b)を0.1〜100ミリモル/Lの濃度になるように加え、10〜100℃の温度で撹拌して、基板表面にメソポーラスシリカ膜を有するメソポーラスシリカ膜構造体を形成する工程
工程(III):得られたメソポーラスシリカ膜構造体から陽イオン界面活性剤(a)を除去する工程
【0012】
以下、工程(I)、(II)、及び各工程で用いる各成分について説明する。
<陽イオン界面活性剤(a)>
(a)成分の陽イオン界面活性剤は、メソ細孔の形成と分散のために用いられる。陽イオン界面活性剤は、臨界ミセル濃度(cmc)を有する化合物である。陽イオン界面活性剤としては、第1〜3級アミン型、第4級アンモニウム塩型が挙げられ、該化合物は、窒素原子に直接結合する基として、エステル結合、アミド結合又はエーテル結合で分断されていてもよい炭素数が4〜22のアルキル基又はアルケニル基を1つ又は2つ有し、かつ残りは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基、又はベンジル基を有する化合物が好ましい。
これらの中では、第4級アンモニウム塩型界面活性剤がより好ましく、具体的には下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩が最も好ましい。
[R1234N]+- (1)
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1〜22の直鎖状又は分岐状のアルキル基又はアルケニル基であって、かつR1及びR2の少なくとも一方は炭素数が4以上である。R3及びR4は、炭素数1〜3のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基、又はベンジル基を示し、R3及びR4が同時にベンジル基であることはない。Xは1価の陰イオンを示す。)
【0013】
前記一般式(1)において、R1及びR2は、好ましくは炭素数4〜22、より好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数8〜16の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましい。R1及びR2の何れか一方がメチル基であることがより好ましい。
1及びR2の炭素数4〜22のアルキル基としては、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、各種エイコシル基等が挙げられる。これらの中では、R3及びR4は、メチル基が好ましい。
一般式(1)におけるXは、高い結晶性を得るという観点から、好ましくはハロゲンイオン、水酸化物イオン、硝酸化物イオン、硫酸化物イオン等の1価陰イオンから選ばれる1種以上である。Xとしては、より好ましくはハロゲン化物イオンであり、更に好ましくは塩化物イオン又は臭化物イオンであり、特に好ましくは臭化物イオンである。
【0014】
一般式(1)で表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩としては、ブチルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ブチルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
一般式(1)で表されるジアルキルジメチルアンモニウム塩としては、ジブチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキシルジメチルアンモニウムクロリド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキシルジメチルアンモニウムブロミド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロミド、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
これらの陽イオン界面活性剤(a)の中では、規則的なメソ細孔を形成させる観点から、特にアルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましく、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド又はアルキルトリメチルアンモニウムクロリドがより好ましく、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド又はドデシルトリメチルアンモニウムクロリドが特に好ましい。
【0015】
<シリカ源(b)>
(b)成分は加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源である。シリカ源(b)としては、アルコキシシランが好ましく、具体的には、下記一般式(2)〜(6)で示される化合物を挙げることができる。
SiY4 (2)
5SiY3 (3)
52SiY2 (4)
53SiY (5)
3Si−R6−SiY3 (6)
(式中、R5はそれぞれ独立して、ケイ素原子に直接炭素原子が結合している有機基を示し、R6は炭素原子を1〜4個有する炭化水素基又はフェニレン基を示し、Yは加水分解によりヒドロキシ基になる1価の加水分解性基を示す。)
より好ましくは、一般式(2)〜(6)において、R5がそれぞれ独立して、水素原子の一部がフッ素原子に置換していてもよい炭素数1〜22の炭化水素基であり、具体的には炭素数1〜22、好ましくは炭素数4〜18、より好ましくは炭素数6〜18、特に好ましくは炭素数8〜16のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基であり、R6が炭素数1〜4のアルカンジイル基(メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロパン−1,2−ジイル基、テトラメチレン基等)又はフェニレン基であり、Yが炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜8、特に好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基、またはフッ素を除くハロゲン基である。
【0016】
シリカ源(b)の好適例としては、次の化合物が挙げられる。
・一般式(2)において、Yが炭素数1〜3のアルコキシ基であるか、又はフッ素を除くハロゲン基であるシラン化合物。
・一般式(3)又は(4)において、R5がフェニル基、ベンジル基、又は水素原子の一部がフッ素原子に置換されている炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5の炭化水素基であるトリアルコキシシラン又はジアルコキシシラン。
・一般式(6)において、Yがメトキシ基であって、R6がメチレン基、エチレン基又はフェニレン基である化合物。
これらの中では、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、1,1,1−トリフルオロプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0017】
<工程(I)>
工程(I)における水溶液中の陽イオン界面活性剤(a)、シリカ源(b)の含有量は次のとおりである。
(a)成分の含有量は、高い垂直配向性を発現する観点から、すなわち、形成したミセルが基板に水平吸着するのを防ぎ、垂直配向させるために、20℃で水中における臨界ミセル濃度の5倍以下の濃度が好ましい。さらに好ましくは3倍以下であり、特に好ましくは2倍以下である。(b)成分の含有量は、好ましくは0.1〜100ミリモル/L、より好ましくは1〜100ミリモル/L、特に好ましくは5〜80ミリモル/Lである。
工程(I)における水溶液中のpHは、アルカリ性が好ましく、より好ましくはpH9〜12、更に好ましくはpH10〜12、特に好ましくはpH11〜12である。
(a)及び(b)成分を含有する水溶液には、本発明のメソポーラスシリカ膜の形成を阻害しない限り、その他の成分として、メタノール等の有機化合物や、無機化合物等の他の成分を添加してもよく、前記のように、シリカや有機基以外の他の元素を担持したい場合は、それらの金属を含有するアルコキシ塩やハロゲン化塩等の金属原料を製造時又は製造後に添加することもできる。
【0018】
<工程(II)>
工程(II)はメソポーラスシリカ膜構造体を形成する工程である。工程(I)で得られた水溶液中に基板を浸し、加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源(b)を0.1〜100ミリモル/Lの濃度になるように加え、10〜100℃、好ましくは10〜80℃の温度で所定時間撹拌した後、静置することで、基板の表面に、陽イオン性界面活性剤(a)とシリカ源(b)によりメソ細孔を有するメソポーラスシリカ膜が形成された、メソポーラスシリカ膜構造体を得ることができる。
工程(I)で得られた水溶液の撹拌時間は、温度により異なるが、通常10〜80℃で0.1〜24時間であり、この間にメソポーラスシリカ膜が基板上に形成される。
【0019】
<基板>
本発明におけるメソポーラスシリカ膜構造体の基板の材質は、メソポーラスシリカ膜の合成条件下で溶解したり、変形したりするものでなければ特に制限はない。具体的には、金属、金属酸化物、ガラス、水不溶性ポリマー、シリコン、ゲルマニウム、鉱物(例えば、石英)、半導体材料(例えば、ドープシリコン、ドープゲルマニウムなど)、セラミックス等が挙げられる。
また基板表面を、反応溶液に不溶であるポリマーを被覆したものを用いても良い。
金属及び金属酸化物としては、Si、Ta、Nb、Ga、Al、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Re、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、La、Gd、Cs、Ga、In、Ru等の1以上の金属及びそれらの金属酸化物及び合金が含まれる。
【0020】
<水不溶性ポリマー>
基板を構成する水不溶性ポリマーの好適例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド等からなるカチオン性ポリマー、ノニオン性ポリマー、両性ポリマーが挙げられる。
<カチオン性ポリマー>
本発明に用いられるカチオン性ポリマーは、連続相を水系とする媒体中に、陽イオン界面活性剤の存在下で、ポリマーエマルジョンとなって分散可能であるポリマーが好ましく、陽イオン界面活性剤の存在下でカチオン性モノマー、特にカチオン性基を有するエチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物を乳化重合して得られるカチオン性ポリマーが好ましい。
カチオン性モノマーとしては、アミノ基を有する単量体の酸中和物、又は該単量体を4級化剤で4級化した第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
アミノ基を有する単量体としては、ジアルキルアミノ基又はトリアルキルアンモニウム基を有する(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリルアミド類、ジアルキルアミノ基を有するスチレン類、ビニルピリジン類、N−ビニル複素環化合物類、アミノ基を有するビニルエーテル類、及びアリルアミン類から選ばれる1種以上が好ましい。
ジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジt−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、“(メタ)アクリル酸”とは、“アクリル酸、メタクリル酸、又はそれらの混合物”を意味し、“(メタ)アクリレート”も同様である。
【0021】
アミノ基を有する単量体の酸中和物は、前記アミノ基を有する単量体と酸とを混合することにより得ることができる。好ましい酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、トルエンスルホン酸、乳酸、コハク酸等が挙げられる。
アミノ基を有する単量体を4級化剤で4級化した第4級アンモニウム塩は、前記アミノ基を有する単量体を4級化剤で処理することにより得ることができる。4級化剤としては、塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、ヨウ化メチル等のハロゲン化アルキル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジ−n−プロピル等の硫酸ジアルキル等のアルキル化剤が挙げられる。また、ジアリル型第4級アンモニウム塩としては、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
カチオン性モノマーとしては、ジアルキルアミノ基又はトリアルキルアンモニウム基を有する(メタ)アクリル酸エステルがより好ましく、ジアルキルアミノ基又はトリアルキルアンモニウム基を有する(メタ)アクリル酸エステルが最も好ましい。
【0022】
カチオン性ポリマーは、前記カチオン性モノマー由来の構成単位を以外に、アルキル(メタ)アクリレート、芳香環含有モノマー等の疎水性モノマーに由来する構成単位、その他の共重合可能なモノマー構成単位を含んでいてもよい。その好適例としては、炭素数3〜22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、スチレン、2−メチルスチレン等のスチレン系モノマー、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアリールエステル、炭素数6〜22の芳香族基含有ビニルモノマー、酢酸ビニル等が挙げられる。これらの中ではアルキル(メタ)アクリレート、スチレンが好ましい。
カチオン性ポリマーは、陽イオン界面活性剤の存在下で、カチオン性基を有するエチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物を、公知の方法により乳化重合することによって製造することができる。
ポリマーの重合に用いる陽イオン界面活性剤としては、窒素系のカチオン性基を有する化合物、pH調整によりカチオン性を帯びる化合物等が用いられ、具体例としてはアルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド等が挙げられる。特に好ましい陽イオン界面活性剤は、第4級アンモニウム塩である。
重合開始剤としては、公知の無機過酸化物、有機系開始剤、レドックス剤等を使用することができる。
【0023】
<その他のポリマー>
ノニオン性ポリマーは、荷電を有しないノニオン性モノマーを重合して得ることができる。ノニオン性モノマーとしては、カチオン性ポリマーの説明で挙げた疎水性モノマーを挙げることができる。その好適例としては、炭素数3〜22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、及びスチレンから選ばれる一種以上が挙げられる。
ノニオン性ポリマーとしては、疎水性モノマーから構成される重合体、疎水性モノマーとビニルピロリドン、ビニルアルコール、エチレンオキシド、ポリエチレンオキシド(メタ)アクリレート、アクリルアミド等から選ばれる一種以上のノニオン性モノマーとの共重合体が挙げられる。
ノニオン性ポリマーの具体例としては、ポリスチレン、エチルアクリレート・エチルメタクリレート共重合体、エチルアクリレート・メチルメタクリレート共重合体、オクチルアクリレート・スチレン共重合体、ブチルアクリレート・酢酸ビニル共重合体、メチルメタクリレート・ブチルアクリレート・オクチルアクリレート共重合体、酢酸ビニル・スチレン共重合体、ビニルピロリドン・スチレン共重合体、ブチルアクリレート、ポリスチレンアクリル酸樹脂等が挙げられる。
両性ポリマーとしては、例えばカルボキシル基やスルホン酸基等のアニオン性基を有するモノマーと前記のカチオン性モノマーとの共重合体、カルボキシベタイン型モノマーの重合体又は共重合体、カルボキシル基やスルホン酸基等の陰イオン性基をカチオン性ポリマーに導入したもの、塩基性窒素含有基を陰イオン性ポリマーに導入したもの等が挙げられるが、前記疎水性モノマー由来の構成単位を主体とするもの好ましい。
【0024】
上記のカチオン性ポリマー、ノニオン性ポリマー及び両性ポリマーの中では、カチオン性ポリマー及びノニオン性ポリマーが好ましく、メソポーラスシリカ膜の形成し易さの観点から、カチオン性ポリマーがより好ましい。
水不溶性ポリマーの好適例としては、アルキル(メタ)アクリレート及びスチレンから選ばれる疎水性モノマーとカチオン性基を有する(メタ)アクリレートとのコポリマー、並びにアルキル(メタ)アクリレート及びスチレンから選ばれる一種以上の疎水性モノマーからなるノニオン性ポリマーを挙げることができる。
上記のポリマーは、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。
<基板の表面処理>
本発明の製造方法において、上記の基板は、それ自体を基材とすることもできるが、表面状態を制御するために、例えば、ラングミュア−ブロジェット(LB)法によるLB膜を形成することもできる。また、基板上に形成されたLB膜に熱処理等を施し、LB膜の累積構造を保持したまま化学構造を変化させた表面状態をとすることもできる。
【0025】
<工程(III)>
工程(III)では、工程(II)で得られたメソポーラスシリカ膜構造体を水溶液中から取り出し、必要に応じて、水洗、乾燥した後、該構造体から陽イオン界面活性剤(a)を除去する。
工程(II)で得られた構造体のメソポーラスシリカ膜のメソ細孔の内部には、陽イオン界面活性剤(a)が詰まっているので、これを除去することによりメソ細孔内を中空とし、高機能性材料として使用しうるメソポーラスシリカ膜構造体を作製することができる。
陽イオン界面活性剤(a)の除去方法としては、焼成、抽出等が挙げられる。
焼成による場合は、焼成温度が低すぎるとメソ細孔形成剤である陽イオン界面活性剤(a)が残存する可能性があり、また焼成温度が高すぎると細孔構造が破壊するおそれがある。このため、電気炉等で好ましくは350〜650℃、より好ましくは450〜650℃、特に好ましくは480〜650℃で、1〜10時間かけて焼成することによって、メソ構造を殆ど破壊することなく、メソ構造体から陽イオン界面活性剤(a)を除去することができる。
また、抽出法を採用する場合は、陽イオン界面活性剤(a)の完全な除去は困難であるものの、焼成に耐えられない材質の基板上にメソポーラスシリカ膜を形成した構造体を調製することができる。例えば、pH1〜4で室温〜80℃の水溶液にメソポーラスシリカ膜構造体を入れ、長時間撹拌することによって、陽イオン界面活性剤(a)を抽出し、メソポーラスシリカ膜構造体を得ることができる。また、超臨界状態の流体による抽出法等を採用することもできる。
【0026】
メソポーラス構造体の基板として水不溶性ポリマーを用いた場合は、該ポリマーを溶解しうる溶媒で洗浄して、基板からメソポーラスシリカ膜を剥がしたり、水不溶性ポリマー基板を完全に溶解除去して、メソポーラスシリカ膜のみを取り出すことができる。また、水不溶性ポリマー基板を焼き飛ばしてメソポーラスシリカ膜のみを取り出すことができる。
本発明においては、メソポーラスシリカ膜の形態を所望の状態に予め制御しておくことにより、所望の形態を有するメソポーラスシリカ構造体を容易に得ることができる。
なお、メソポーラスシリカ膜の製造工程において、陽イオン界面活性剤(a)を使用する場合は、陽イオン界面活性剤(a)がメソポーラスシリカ膜内部、メソ細孔内、又は膜表面に残留する可能性がある。陽イオン界面活性剤(a)が残留しても問題ない場合は除去する必要はないが、残留する陽イオン界面活性剤(a)の除去を望む場合は、水や酸性水溶液で洗浄して陽イオン界面活性剤(a)を除去することができる。
本発明のメソポーラスシリカ膜及び膜構造体において、理論上、膜としての仮の面積、すなわち細孔を考慮しないマクロな膜として捕らえた場合の面積の大きさに特に制限はない。極めて狭い面積から連続的に製造することにより、極めて大きい面積のものまで任意に調製することができる。例えば、本発明によれば、細孔を考慮しない面積として1mm2以上のものが製造可能であり、実際に1000mm2の膜を得ており、10000mm2程度の膜を得ることも可能である。
【実施例】
【0027】
実施例及び比較例で得られたメソポーラスシリカ膜の各種測定は、以下の方法により行った。
<膜厚、メソ細孔の平均細孔周期、及び配向度>
日本電子株式会社製の透過型電子顕微鏡(TEM)JEM−2100を用いて加速電圧160kVで測定を行い、1サンプルに付きそれぞれ2箇所の観察を行い、膜厚、平均細孔周期、及び配向度を求めた。観察に用いた試料は、メソポーラス膜を膜に対して垂直に割断し、透過型電子顕微鏡にてその透過像が得られる程度まで、薄く研磨してサンプルを作成した。そのサンプルを高分解能用カーボン支持膜付きCuメッシュ(200−Aメッシュ、応研商事株式会社製)に付着させ、観察を行った。
(1)平均細孔周期は、電子顕微鏡透過像において、基板に対してほぼ垂直に伸びている細孔の管を少なくとも3本以上含まれるように幅を任意に選び、両末端の管の真ん中と思われる部分の間の長さを測定し、その長さを挟まれた管の数で割った値である。平均周期性は2箇所の画像からそれぞれ任意に50回箇所選び出し測定して求め、その平均値とする。
(2)膜厚は、2箇所の画像からそれぞれ任意に50箇所を選んでその膜厚を測定し、その平均値とする。
(3)配向度は、膜を形成している、基板からほぼ垂直に伸びている細孔の管の垂直の程度を、基板面に対する角度として測定した数値である。数値は直角ないし鋭角の数値とする。鈍角の場合は180°から引いた値とする。測定は2箇所の画像からそれぞれ任意に50箇所を選び、その平均値を算出する。
【0028】
製造例1(カチオン性ポリマーの製造)
2L−セパラブルフラスコにイオン交換水600部、メタクリル酸メチル99.5部と塩化メタクロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム0.5部をいれ、内温70℃まで昇温させた。次いで水溶性開始剤として2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(和光純薬株式会社製のV−50)0.5部をイオン交換水5部に溶かした溶液を添加し、3時間加熱撹拌を行った。その後さらに75℃で3時間過熱撹拌を行った。冷却後、得られた混合液から凝集物を200メッシュ濾過(目開き;約75μm)し、得られた濾過液をエバポレーターにより加熱濃縮し、冷却後、濃縮液を1.2μmのメンブランフィルター〔Sartorius社製、商品名:Minisart〕で濾過し、イオン交換水で調整することで、カチオン性ポリマー粒子の懸濁液〔固形分(有効分)含有量40%、平均粒径312nm〕を得た。
得られた懸濁液を80℃で一晩乾燥させ固体を得た。この固体を10%となるようにジクロロメタンに溶解させた。
【0029】
実施例1(カチオン性ポリマー基板メソポーラスシリカ膜構造体の製造)
製造例1で得られたカチオン性ポリマーのジクロロメタン溶液を用いて、シリコンウェーハ〔株式会社ニラコ製、n型低抵抗タイプ(100)〕の表面上に、カチオン性ポリマー薄膜をディップコート法により作製した。
100mlフラスコに水60g、メタノール20g、1M水酸化ナトリウム水溶液0.46g、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド0.35gを入れ撹拌混合して水溶液を得た。上記で得られたカチオン性ポリマー薄膜が形成されたウェーハを前記水溶液中に浸し、その後テトラメトキシシラン0.34gをゆっくりと加え、2分間撹拌後、ウェーハを取り出した。得られたウェーハを水洗し、80℃で12時間乾燥後、600℃で2時間空気中で加熱することで、ウェーハ上にメソポーラスシリカの垂直配向膜が形成された構造体を得た。
このメソポーラスシリカの膜厚は18nmであり、メソ細孔の平均細孔周期は3.5nmであり、基板とメソ細孔の形成する平均角度は82°であった。
【0030】
実施例2(シリコンウェーハ基板メソポーラスシリカ膜構造体の製造)
実施例1において、カチオン性ポリマー薄膜が形成されたウェーハの代わりに、シリコンウェーハ〔株式会社ニラコ製、n型低抵抗タイプ(100)〕をそのまま用いた以外は、実施例1と同様にしてウェーハ上にメソポーラスシリカの垂直配向膜が形成された構造体を得た。
このメソポーラスシリカの膜厚は19nmであり、メソ細孔の平均細孔周期は2.7nmであり、基板とメソ細孔の形成する平均角度は89°であった。
得られたメソポーラスシリカ膜の垂直配向状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図1に示す。
【0031】
実施例3(シリコンウェーハ基板メソポーラスシリカ膜構造体の製造)
実施例1において、カチオン性ポリマー薄膜が形成されたウェーハの代わりに、シリコンウェーハ〔株式会社ニラコ製、p型低抵抗タイプ(100)〕を用いた以外は、実施例1と同様にしてウェーハ上にメソポーラスシリカの垂直配向膜が形成された構造体を得た。
このメソポーラスシリカの膜厚は18nmであり、メソ細孔の平均細孔周期は2.8nmであり、基板とメソ細孔の形成する平均角度は88°であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のメソポーラスシリカ膜は、メソ細孔構造を有し比表面積が大きいため、例えば構造選択性を有する分離膜、高機能触媒、吸着剤、酵素や機能性有機化合物の固定化担体等として、また、本発明のメソポーラスシリカ膜構造体は、機能性材料として、多岐にわたる応用が期待できる。
本発明の製造方法によれば、メソ細孔が基板に対して略垂直に配向しているメソポーラスシリカ膜構造体を効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例2で得られたメソポーラスシリカ膜の垂直配向状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。黒い部分はシリコンウェーハ基板である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均細孔周期が1.5〜6nmのメソ細孔構造を有するシリカ膜であって、該メソ細孔が膜表面に対して75〜90°の方向に配向しているメソポーラスシリカ膜。
【請求項2】
平均細孔周期が1.5〜6nmのメソ細孔構造を有するシリカ膜が基板上に形成された構造体であって、該メソ細孔が該基板に対して75〜90°の方向に配向している、メソポーラスシリカ膜構造体。
【請求項3】
基板が、金属、金属酸化物、ガラス、水不溶性ポリマー、又はシリコンからなるものである、請求項3に記載のメソポーラスシリカ膜構造体。
【請求項4】
下記工程(I)〜(III)を含む、メソ細孔が基板に対して略垂直に配向しているメソポーラスシリカ膜構造体の製造方法。
工程(I):陽イオン界面活性剤(a)を臨界ミセル濃度の5倍以下の濃度で含有する水溶液を調製する工程、
工程(II):工程(I)で得られた水溶液中に基板を浸し、加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源(b)を0.1〜100ミリモル/Lの濃度になるように加え、10〜100℃の温度で撹拌して、基板表面にメソポーラスシリカ膜を有するメソポーラスシリカ膜構造体を形成する工程
工程(III):得られたメソポーラスシリカ膜構造体から陽イオン界面活性剤(a)を除去する工程

【図1】
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【公開番号】特開2008−266049(P2008−266049A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108502(P2007−108502)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】