説明

メタクリル酸製造用触媒、その製造方法、およびメタクリル酸の製造方法

【課題】メタクリル酸選択率および収率の高い触媒を得ることができるメタクリル酸製造用触媒の製造方法、メタクリル酸選択率および収率の高いメタクリル酸製造用触媒、およびメタクリル酸を生産性よく製造できるメタクリル酸の製造方法を提供する。
【解決手段】モリブデン、リンおよびバナジウムを含む水性スラリーまたは水溶液に昇華性物質を加えて水性スラリーまたは水溶液を冷却した後、水性スラリーまたは水溶液を攪拌しながら水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属化合物を加え、凝集物を生成させる工程を有するメタクリル酸製造用触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するためのメタクリル酸製造用触媒、その製造方法、およびメタクリル酸製造用触媒を用いたメタクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するメタクリル酸製造用触媒としては、モリブデンおよびリンを含むヘテロポリ酸系触媒が知られている。メタクリル酸製造用触媒の製造方法としては、例えば、以下の方法が提案されている。
(1)触媒成分元素を含む複数の溶液を0〜25℃の温度範囲内で混合し、生成物を乾燥する方法(特許文献1)。
(2)複数の触媒原料溶液を急速に供給し、高速で攪拌混合し、かつ加熱熟成処理を高速攪拌下に行う方法(特許文献2)。
(3)触媒成分を含む混合溶液または水性スラリーを16000Hz以上の音波にて処理した後、乾燥および熱処理する方法(特許文献3)。
(4)金属塩を含む反応母液に酸またはアルカリを含む注加溶液を注加し、該注加溶液の濃度を、反応の進行に伴って段階的または連続的に上昇させることによって沈澱粒子径を調整し、触媒性能を向上させる方法(特許文献4)。
(5)モリブデンおよびケイ素を含む水性懸濁液中の凝集粒子に分散処理(ホモジナイザー、超音波)を施す方法(特許文献5)。
【0003】
しかし、(1)〜(5)の方法によって得られた触媒は、工業触媒としてはメタクリル酸収率がいまだ不充分であり、工業触媒として用いるためには、さらなるメタクリル酸収率の向上が望まれている。
【特許文献1】特開平05−031368号公報
【特許文献2】特開平07−185354号公報
【特許文献3】特開平07−299369号公報
【特許文献4】特開平08−318153号公報
【特許文献5】特開2003−170052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、メタクリル酸選択率および収率の高い触媒を得ることができるメタクリル酸製造用触媒の製造方法、メタクリル酸選択率および収率の高いメタクリル酸製造用触媒、およびメタクリル酸を生産性よく製造できるメタクリル酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、モリブデン、リン、バナジウムおよびアルカリ金属を含む触媒の製造方法であって、モリブデン、リンおよびバナジウムを含む水性スラリーまたは水溶液に昇華性物質を加えて水性スラリーまたは水溶液を冷却した後、水性スラリーまたは水溶液を攪拌しながら水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属化合物を加え、凝集物を生成させる工程を有することを特徴とする。
【0006】
前記昇華性物質は、ドライアイスであることが好ましい。
水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属化合物を加える際の温度は、30℃以下であることが好ましい。
水性スラリーまたは水溶液を攪拌する際には、ホモジナイザー等の高速回転剪断攪拌機を用いることが好ましい。
【0007】
得られるメタクリル酸製造用触媒は、下記式(1)の組成式で表される複合酸化物が好ましい。
Moabc Cudefg ・・・(1)。
式中、Mo、P、V、CuおよびOは、それぞれモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素を表し、Xは、カリウム、ルビジウム、およびセシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Yは、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタンおよびセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、a、b、c、d、e、fおよびgは、各元素の原子比を表し、a=12のとき、0.1≦b≦3、0.01≦c≦3、0.01≦d≦3、0.01≦e≦3、0≦f≦3であり、gは、前記各元素の原子比を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のメタクリル酸製造用触媒の製造方法によれば、メタクリル酸選択率および収率の高い触媒を得ることができる。
本発明のメタクリル酸製造用触媒は、メタクリル酸選択率および収率が高い。
本発明のメタクリル酸の製造方法によれば、メタクリル酸を生産性よく製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<メタクリル酸合成用触媒>
本発明のメタクリル酸合成用触媒(以下、単に「触媒」とも記す。)は、少なくともモリブデン、リン、バナジウムおよびアルカリ金属を含有する複合酸化物である。該触媒には、ヘテロポリ酸またはヘテロポリ酸塩の構造が含まれていることが好ましい。
【0010】
触媒は、さらに、銅、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタン、セリウム等を適宜含んでいてもよい。
【0011】
触媒としては、式(1)の組成式で表される複合酸化物が特に好ましい。
Moabc Cudefg ・・・(1)。
式中、Mo、P、V、CuおよびOは、それぞれモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素を表し、Xは、カリウム、ルビジウム、およびセシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Yは、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタンおよびセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、a、b、c、d、e、fおよびgは、各元素の原子比を表し、a=12のとき、0.1≦b≦3、0.01≦c≦3、0.01≦d≦3、0.01≦e≦3、0≦f≦3であり、gは、前記各元素の原子比を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【0012】
<メタクリル酸製造用触媒の製造方法>
本発明のメタクリル酸合成用触媒は、モリブデン、リンおよびバナジウムを含む水性スラリーまたは水溶液に昇華性物質を加えて水性スラリーまたは水溶液を冷却した後、水性スラリーまたは水溶液を攪拌しながら水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属化合物を加え、凝集物を生成させる工程を有する製造方法によって製造されたものである。
【0013】
本発明のメタクリル酸製造用触媒は、例えば、少なくともモリブデン、リンおよびバナジウムを含む水性スラリーまたは水溶液を調製する工程(調製工程)と、水性スラリーまたは水溶液に昇華性物質を加えて水性スラリーまたは水溶液を冷却した後、水性スラリーまたは水溶液を攪拌しながら水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属化合物を加え、凝集物を生成させる工程(凝集工程)と、凝集物を含む液を乾燥して乾燥物を得る工程(乾燥工程)と、乾燥物を賦型して賦型品を得る工程(賦型工程)と、賦型品をを熱処理する工程(熱処理工程)とを経て製造される。
【0014】
(調製工程)
水性スラリーまたは水溶液の調製方法としては、共沈法、蒸発乾固法、酸化物混合法等の公知の方法が挙げられる。
水性スラリーまたは水溶液の調製方法としては、簡便である点から、水に各元素の原料を加え、加熱しながら撹拌する方法が好ましい。加熱温度は、80〜130℃が好ましく、90℃〜130℃が特に好ましい。
【0015】
各元素の原料としては、各元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、ハロゲン化物等が挙げられる。
モリブデン原料としては、パラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、塩化モリブデン等が挙げられる。
リン原料としては、正リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等が挙げられる。
バナジウム原料としては、五酸化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0016】
(凝集工程)
まず、調製工程にて加熱された水性スラリーまたは水溶液を冷却する。該冷却は、水性スラリーまたは水溶液に昇華性物質を直接加えることによって行う。
昇華性物質としては、ドライアイス、六フッ化硫黄等が挙げられ、経済性・環境性の点から、ドライアイスが好ましい。
昇華性物質の添加量は、水性スラリーまたは水溶液100質量部に対して3〜20質量部が好ましく、3〜10質量部が特に好ましい。
【0017】
ついで、水性スラリーまたは水溶液を攪拌しながら水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属化合物を加え、凝集物を生成させ、沈殿させる。
水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属化合物を加える際の温度は、30℃以下が好ましく、15℃以下がより好ましい。水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属化合物を加える際の温度の下限は、水性スラリーまたは水溶液がアルカリ金属化合物の添加に影響を及ぼすような状態にならない限り、特に制限されない。
水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属化合物を加える際には、水性スラリーまたは水溶液に昇華性物質が残存していてもよく、残存してなくてもよい。
【0018】
アルカリ金属化合物としては、セシウム化合物、カリウム化合物、ルビジウム化合物等が挙げられ、熱安定性の点から、セシウム化合物が好ましい。
セシウム化合物としては、重炭酸セシウム、硝酸セシウム、酸化セシウム等が挙げられる。
アルカリ金属化合物の添加量は、目的とする触媒の組成に応じて適宜決定すればよい。
【0019】
撹拌装置としては、回転翼撹拌機、高速回転剪断撹拌機(ホモジナイザー等)等の回転式撹拌装置、振り子式の直線運動型撹拌機、容器ごと振とうする振とう機、超音波等を用いた振動式撹拌機等の公知の撹拌装置が挙げられる。
撹拌装置としては、撹拌の強度を容易に調節でき、工業上簡便である点から、回転翼撹拌機、高速回転剪断撹拌機等の回転式撹拌装置が好ましく、凝集物が沈殿した後も攪拌を保持でき、より優れた触媒活性および選択性を有する触媒を得ることができる点から、ホモジナイザー等の高速回転剪断撹拌機が特に好ましい。
【0020】
回転式撹拌装置における撹拌翼または回転刃の回転速度は、液の飛散等の不都合が起きない程度に、容器、撹拌翼、邪魔板等の形状、液量等を勘案して適宜調整すればよい。
アルカリ金属化合物添加後の液の温度は、5〜40℃が好ましく、より好ましくは5〜20℃である。撹拌時間は、5〜60分間が好ましく、より好ましくは10〜30分間である。
【0021】
上記の処理を施した水性スラリーまたは水溶液中の凝集物(凝集粒子)の平均粒子径は、0.1〜1μmが好ましく、0.1〜0.5μが特に好ましい。凝集粒子の平均粒子径は、島津製作所社製のSALD−7000を用い、レーザ回折式粒径分布測定法にて測定された、体積基準50%径である。
【0022】
(乾燥工程)
凝集物を含む液を、加熱して乾燥し、乾燥物を得る。
乾燥方法としては、例えば、ドラム乾燥法、気流乾燥法、蒸発乾固法、噴霧乾燥法等の公知の方法が挙げられる。
【0023】
(賦型工程)
乾燥物の賦型に用いる装置としては、打錠成形機、押出成形機、転動造粒機等の公知の粉体用成形機が挙げられる。
賦型品の形状としては、特に制限はなく、球状、リング状、円柱状、星型状等の任意の形状が挙げられる。
【0024】
(熱処理工程)
熱処理条件としては、特に限定はなく、公知の熱処理条件を適用できる。熱処理は、通常、空気等の酸素含有ガス流通下および/または不活性ガス流通下で、200〜500℃、好ましくは300〜450℃で、0.5時間以上、好ましくは1〜40時間で行う。
【0025】
<メタクリル酸の製造方法>
次に、本発明のメタクリル酸の製造方法について説明する。
本発明のメタクリル酸の製造方法は、上記のようにして得られる本発明のメタクリル酸製造用触媒の存在下でメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する方法である。
反応は、通常、固定床で行う。また、触媒層は1層でもよく、2層以上でもよい。メタクリル酸製造用触媒は、担体に担持させたものであってもよく、その他の添加成分を混合したものであってもよい。
【0026】
本発明のメタクリル酸製造触媒を用いてメタクリル酸を製造する際には、メタクロレインおよび分子状酸素を含む原料ガスと、触媒とを接触させる。
原料ガス中のメタクロレイン濃度は、広い範囲で変えることができ、1〜20容量%が好ましく、3〜10容量%が特に好ましい。メタクロレインは、水、低級飽和アルデヒド等の本反応に実質的な影響を与えない不純物を少量含んでいてもよい。
原料ガス中の分子状酸素濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.4〜4モルが好ましく、0.5〜3モルが特に好ましい。
分子状酸素源としては、経済性の点から、空気が好ましい。必要ならば、空気に純酸素を加えて分子状酸素を富化した気体等を用いてもよい。
【0027】
原料ガスは、メタクロレインおよび分子状酸素源を、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈したものであってもよい。
原料ガスに、水蒸気を加えてもよい。水の存在下で反応を行うことにより、メタクリル酸をより高収率で得ることができる。原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1〜50容量%が好ましく、1〜40容量%が特に好ましい。
【0028】
原料ガスとメタクリル酸製造用触媒との接触時間は、1.5〜15秒が好ましく、2〜5秒がより好ましい。
反応圧力は、大気圧〜数気圧が好ましい。
反応温度は、200〜450℃が好ましく、250〜400℃が特に好ましい。
【0029】
以上説明した本発明のメタクリル酸製造用触媒の製造方法にあってはモリブデン、リンおよびバナジウムを含む水性スラリーまたは水溶液に昇華性物質を加えて水性スラリーまたは水溶液を冷却しているため、メタクリル酸選択率および収率の高い触媒を得ることができる。この理由としては、昇華性物質を加えることによって、昇華性物質から発生した気体が凝集物に取り込まれ、局所的なpH変化または温度変化が起こり、最終的に得られる触媒の化学構造に影響を及ぼすためであると考えられる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例中の「部」は質量部を意味する。
触媒組成は、各元素の原料仕込み量から求めた。
凝集粒子の平均粒子径(体積基準50%径)は、島津製作所社製のSALD−7000を用い、レーザ回折式粒径分布測定法にて測定した。
【0031】
原料ガスおよび生成物の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。
ガスクロマトグラフィーの結果から、メタクロレインの反応率、メタクリル酸の選択率、およびメタクリル酸の収率を下記式にて求めた。
メタクロレインの反応率(%)=(B/A)×100、
メタクリル酸の選択率(%)=(C/B)×100、
メタクリル酸の収率(%)=(C/A)×100。
式中、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは反応したメタクロレインのモル数、Cは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0032】
〔実施例1〕
純水400部に、三酸化モリブデン100部、メタバナジン酸アンモニウム3.4部、85質量%リン酸水溶液7.3部および硝酸銅5.6部を溶解し、これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌した。得られた水性スラリーにドライアイス5部を加え、ホモジナイザーを用いて攪拌しながら冷却した。水性スラリーが15℃になった時点で、ホモジナイザーを用いて攪拌しながら水性スラリーに、重炭酸セシウム11.2部を純水20部に溶解した溶液を加えて、さらに15℃で20分間攪拌した。得られた混合液中の凝集粒子の平均粒子径は0.46μmであった。混合液を101℃に加熱し、攪拌しながら蒸発乾固させた。得られた乾燥物を130℃で16時間さらに乾燥させた後、加圧成型により賦型した。得られた賦型品を空気流通下に380℃で5時間熱処理した。
得られた触媒の酸素以外の元素組成(以下同じ)は、次の通りであった。
Mo120.51.1Cu1Cs1
【0033】
この触媒を反応管に充填し、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%、窒素55容量%の原料ガスを反応温度290℃、接触時間3.6秒で通じた。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析してメタクロレインの反応率、メタクリル酸の選択率、およびメタクリル酸の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0034】
〔実施例2〕
水性スラリーが30℃になった時点で、水性スラリーに重炭酸セシウムの溶液を加えて、さらに30℃で20分間攪拌した以外は実施例1と同様にして混合液を得た。得られた混合液中の凝集粒子の平均粒子径は0.44μmであった。該混合液を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同じ組成の触媒を得た。
この触媒を用いた以外は、実施例1と同様にしてメタクリル酸の製造を行い、メタクロレインの反応率、メタクリル酸の選択率、およびメタクリル酸の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0035】
〔比較例1〕
水性スラリーにドライアイスを加える代わりに、水性スラリーを入れたフラスコを氷水に浸すことで冷却した以外は、実施例1と同様にして混合液を得た。得られた混合液中の凝集粒子の平均粒子径は0.39μmであった。該混合液を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同じ組成の触媒を得た。
この触媒を用いた以外は、実施例1と同様にしてメタクリル酸の製造を行い、メタクロレインの反応率、メタクリル酸の選択率、およびメタクリル酸の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0036】
〔比較例2〕
水性スラリーにドライアイスを加える代わりに水性スラリーを入れたフラスコを氷水に浸すことで冷却し、ホモジナイザーの代わりに回転翼撹拌機を用いて水性スラリーが50℃になった時点で水性スラリーに重炭酸セシウムの溶液を加えて、さらに50℃で20分間攪拌した以外は、実施例1と同様にして混合液を得た。得られた混合液中の凝集粒子の平均粒子径は0.84μmであった。該混合液を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同じ組成の触媒を得た。
この触媒を用いた以外は、実施例1と同様にしてメタクリル酸の製造を行い、メタクロレインの反応率、メタクリル酸の選択率、およびメタクリル酸の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
〔実施例3〕
純水200部に、三酸化モリブデン100部、メタバナジン酸アンモニウム3.4部および85質量%リン酸水溶液7.3部を溶解し、これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌した。得られた水性スラリーにドライアイス5部を加え、ホモジナイザーを用いて攪拌しながら冷却した。水性スラリーが15℃になった時点で、ホモジナイザーを用いて攪拌しながら水性スラリーに、硝酸セシウム11.3部を純水20部に溶解した溶液およびアンモニア水36.3部を加えて、さらに15℃で20分間攪拌した。その後、液温を70℃に昇温し、硝酸銅5.6部および硝酸鉄1.2部を加えた。得られた混合液中の凝集粒子の平均粒子径は0.54μmであった。混合液を101℃に加熱し、攪拌しながら蒸発乾固させた。得られた乾燥物を130℃で16時間さらに乾燥させた後、加圧成型により賦型した。得られた賦型品を空気流通下に380℃で5時間熱処理した。
得られた触媒の元素組成は次の通りであった。
Mo120.51.1Cu0.4Fe0.05Cs1
【0039】
この触媒を用いた以外は、実施例1と同様にしてメタクリル酸の製造を行い、メタクロレインの反応率、メタクリル酸の選択率、およびメタクリル酸の収率を求めた。結果を表2に示す。
【0040】
〔実施例4〕
ホモジナイザーの代わりに回転翼撹拌機を用いた以外は、実施例3と同様にして、混合液を得た。得られた混合液中の凝集粒子の平均粒子径は4.64μmであった。該混合液を用いた以外は、実施例3と同様にして、実施例3と同じ組成の触媒を得た。
この触媒を用いた以外は、実施例1と同様にしてメタクリル酸の製造を行い、メタクロレインの反応率、メタクリル酸の選択率、およびメタクリル酸の収率を求めた。結果を表2に示す。
【0041】
〔比較例3〕
ホモジナイザーの代わりに回転翼撹拌機を用い、水性スラリーにドライアイスを加える代わりに水性スラリーを入れたフラスコを氷水に浸すことで冷却し、水性スラリーが50℃になった時点で水性スラリーに硝酸セシウムの溶液を加えて、さらに50℃で20分間攪拌した以外は、実施例3と同様にして、混合液を得た。得られた混合液中の凝集粒子の平均粒子径は4.67μmであった。該混合液を用いた以外は、実施例3と同様にして、実施例3と同じ組成の触媒を得た。
この触媒を用いた以外は、実施例1と同様にしてメタクリル酸の製造を行い、メタクロレインの反応率、メタクリル酸の選択率、およびメタクリル酸の収率を求めた。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
以上の結果から、触媒成分を含む水性スラリーをドライアイスを用いて30℃以下に冷却し、ホモジナイザーによる攪拌を行いながらアルカリ金属化合物を加え、凝集物を沈殿させることによって得られた触媒は、メタクリル酸の選択率をほぼ維持したままメタクロレインの反応率を大きく増加させていることがわかる。一方、水性スラリーの冷却にドライアイスではなく氷水を用いた比較例1〜3の触媒は、いずれも触媒活性が低下していた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のメタクリル酸製造用触媒は、メタクリル酸選択率および収率が高く、メタクリル酸の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、モリブデン、リン、バナジウムおよびアルカリ金属を含む触媒の製造方法であって、
モリブデン、リンおよびバナジウムを含む水性スラリーまたは水溶液に昇華性物質を加えて水性スラリーまたは水溶液を冷却した後、水性スラリーまたは水溶液を攪拌しながら水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属化合物を加え、凝集物を生成させる工程を有することを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法で製造されたメタクリル酸製造用触媒。
【請求項3】
請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法で製造されたメタクリル酸製造用触媒を用いて、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2007−237149(P2007−237149A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67473(P2006−67473)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】