説明

メタクリル酸製造用触媒の製造方法

【課題】本発明は、高い性能と機械的強度をもつメタクリル酸製造用触媒を提供することを目的とする。
【解決手段】モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、これら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末にバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型することを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高活性、高選択性、充分な機械的強度を有するヘテロポリ酸触媒を使用してメタクロレイン、イソブチルアルデヒドまたはイソ酪酸を気相接触酸化してメタクリル酸を製造するための触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレイン、イソブチルアルデヒドまたはイソ酪酸を気相接触酸化してメタクリル酸を製造するために使用される触媒としては数多くの触媒が提案されている。これら触媒の大部分はモリブデン、リンを主成分とするもので、ヘテロポリ酸及び/又はその塩の構造を有するものである。ヘテロポリ酸系触媒は成形性が悪く、また成型された触媒の機械的強度も弱いという問題点がある。
【0003】
ヘテロポリ酸系触媒の機械的強度の改良に関する提案は、触媒の性能、例えばメタクリル酸収率の向上などに関する提案に比べて非常に少ない。特許文献1には強度向上剤としてたとえばセラミックファイバーなどの耐熱性繊維を混合し、成型する方法が提案されている。
特許文献2にはモリブデン、リンを必須成分とする触媒においてその酸化物前駆体と酸化物を混合し、成型する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平2−36296号公報
【特許文献2】特開2004−351297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの知見ではこれら提案されている手段をもってしても工業用触媒として十分な機械強度とならず、またその成形性の悪さから製造時の歩留まりが悪く、製造コストが高くなってしまうという問題点がある。また、機械的強度が弱いと触媒を反応管に充填する際に、活性成分が剥離してしまうことがあり、必要とされる性能が出なくなってしまう場合があるため、さらなる改良が求められている。
【0006】
さらに現時点で提案されているメタクリル酸製造用触媒の性能は、メタクロレイン、イソブチルアルデヒドまたはイソ酪酸の気相接触酸化反応と同様の反応として知られているアクロレインの酸化によるアクリル酸を製造するために提案されているモリブデン−バナジウム系触媒と比較すると、反応活性、目的物質の選択性とも低く、寿命も短いため、提案されている触媒は一部工業化されているものの、これら触媒性能の改良も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須成分とするヘテロポリ酸部分中和塩において、その機械的強度を向上させ、かつ高いメタクリル酸収率を実現させるべく鋭意検討した結果、その前駆体スラリーまたは水溶液を乾燥して得られる顆粒を成型前に焼成することで成形性が著しく向上し、工業的に満足な機械強度を持つ触媒を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、
【0008】
(1)モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、これら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末に水及び/または1気圧下での沸点が150℃以下の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の液体であるバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する工程を特徴とするメタクリル酸製造用被覆触媒の製造方法
(2)モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、アンチモンを除くこれら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末とアンチモンを含有する化合物を混合した混合物を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末に水及び/または1気圧下での沸点が150℃以下の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の液体であるバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する工程を特徴とするメタクリル酸製造用被覆触媒の製造方法
(3)モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、アンチモンを除くこれら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末とアンチモンを含有する化合物を混合した混合物に、水及び/または1気圧下での沸点が150℃以下の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の液体であるバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する工程を特徴とするメタクリル酸製造用被覆触媒の製造方法
(4)バインダーがアルコール水溶液である(1)〜(3)に記載の被覆触媒の製造方法
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の被覆触媒を使用した、メタクロレイン、イソブチルアルデヒドまたはイソ酪酸を気相接触酸化することによるメタクリル酸の製造方法
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須成分とする高活性、高選択率かつ高い機械的強度を有する触媒の製造が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法は、触媒の活性成分(モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅及びアンチモン;以下必須成分という)を含有する化合物を含む水溶液または該化合物の水分散体(以下、両者をあわせてスラリーという)を調製し、これを乾燥して得られた乾燥粉末を焼成(以降、この工程を予備焼成と称する)し、次いで成型する工程を含んでなる。なお、成型工程の後に更に焼成工程(本焼成)を設けることもできる。
また、本発明において、前記スラリーを調製する際の活性成分を含有する化合物は、必ずしも全ての活性成分を含んでいる必要はなく、一部の成分を前記予備焼成の後に添加してもよよい。
【0011】
本発明において、必須成分以外の金属元素を活性成分として更に含有させることもできる。必須成分以外の金属元素としては、砒素、銀、マンガン、亜鉛、アルミニウム、ホウ素、ゲルマニウム、錫、鉛、チタン、ジルコニウム、クロム、レニウム、ビスマス、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル、セリウム、トリウム、カリウム、ルビジウム等からなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。必須成分以外の金属元素の添加方法は、成分の局所的濃度分布が生じない限り特に制限は無く、(a)スラリー調製時、(b)予備焼成前、(c)予備焼成工程後の成型工程前のいずれでもよいが、(b)または(c)が好ましい。
【0012】
本発明において、活性成分含有化合物の使用割合は、その原子比がモリブデン10に対して、バナジウムが通常0.1以上で6以下、好ましくは0.3以上で2.0以下、リンが通常0.5以上で6以下、好ましくは0.7以上で2.0以下、セシウムが通常0.01以上で4.0以下、好ましくは0.1以上で2.0以下、アンモニア(通常アンモニウム基として含有される)が通常0.1以上で10.0以下、好ましくは0.5以上で5.0以下、アンチモンが通常0.01以上で5以下、好ましくは0.05以上で2.0以下である。必要により用いるその他の活性成分の種類及びその使用割合は、その触媒の使用条件等に合わせて、最適な性能を示す触媒が得られるように、適宜決定される。なお本発明中に記載される触媒の原子比(組成)は原料仕込み段階のものであり、酸素を除いた値である。
【0013】
以降、上記の工程に従って実施形態を説明する。
スラリー調製
本発明において、触媒調製用に用いられる活性成分含有化合物は、該化合物としては活性成分元素の、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酸化物又は酢酸塩等が挙げられる。好ましい化合物をより具体的に例示すると硝酸カリウム又は硝酸コバルト等の硝酸塩、酸化モリブデン、五酸化バナジウム、三酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化亜鉛又は酸化ゲルマニウム等の酸化物、正リン酸、リン酸、硼酸、リン酸アルミニウム又は12タングストリン酸等の酸(又はその塩)等が挙げられる。また、セシウム化合物として酢酸セシウム又は水酸化セシウム及びセシウム弱酸塩を、また、アンモニウム化合物として酢酸アンモニウム又は水酸化アンモニウムを使用するのが好ましい。銅化合物としては酢酸銅(酢酸第一銅、酢酸第二銅、塩基性酢酸銅又は酸化第二銅等、好ましくは酢酸第二銅)または酸化銅(酸化第一銅、酸化第二銅)を使用すると好ましい。これら活性成分含有化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。スラリーは、各活性成分含有化合物と水とを均一に混合して得ることができる。スラリーを調製する際の活性成分含有化合物の添加順序は、モリブデン、バナジウム、リン及び必要により他の金属元素を含有する化合物を充分に溶解し、その後セシウム含有化合物、アンモニウム含有化合物、銅含有化合物を添加するのが好ましい。スラリー調製時にアンチモン含有化合物を添加する場合は、必須の活性成分含有化合物のうち、最後に添加するのが好ましいが、より好ましくは、アンチモン含有化合物以外の活性成分を含有するスラリーを得た後、乾燥し、この粉末とアンチモン含有化合物を混合した後焼成するか、この粉末を焼成したのちアンチモン含有化合物を混合する。スラリーを調製する際の温度は、モリブデン、リン、バナジウム、及び必要により他の金属元素を含有する化合物を充分溶解できる温度まで加熱することが好ましい。また、セシウム含有化合物、アンモニウム含有化合物を添加する際の温度は、通常0〜35℃、好ましくは10〜30℃程度の範囲であるほうが、得られる触媒が高活性になる傾向があるため、10〜30℃まで冷却することが好ましい。スラリーにおける水の使用量は、用いる化合物の全量を完全に溶解できるか、または均一に混合できる量であれば特に制限はないが、乾燥方法や乾燥条件等を勘案して適宜決定される。通常スラリー調製用化合物の合計質量100質量部に対して、200〜2000質量部程度である。水の量は多くてもよいが、多過ぎると乾燥工程のエネルギーコストが高くなり、また完全に乾燥できない場合も生ずるなどデメリットが多い。
【0014】
乾燥
次いで上記で得られたスラリーを乾燥し、乾燥粉体とする。乾燥方法は、スラリーが完全に乾燥できる方法であれば特に制限はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固等が挙げられる。これらのうち本発明においては、スラリー状態から短時間に粉末又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が特に好ましい。
噴霧乾燥の乾燥温度はスラリーの濃度、送液速度等によって異なるが概ね乾燥機の出口における温度が70〜150℃である。また、この際得られるスラリー乾燥体の平均粒径が30〜700μmとなるよう乾燥するのが好ましい。
【0015】
予備焼成
得られた乾燥粉体を予備焼成することで成形性、成型触媒の形状および機械的強度が著しく向上する。予備焼成雰囲気は空気気流中でも窒素などの不活性ガス気流中でもよいが、工業的には空気気流中が好ましい。予備焼成の温度は200〜400℃であるが、好ましくは250〜380℃で、より好ましくは290〜310℃である。200℃より低い温度で予備焼成しても成形性への影響が少なくなる傾向があり、400℃を超えると触媒性能に悪影響を及ぼすことがある。予備焼成時間は3〜12時間の間が好ましく、より好ましくは5〜10時間である。12時間以上焼成しても差し支えないが、それに見合った効果は得られにくい。
予備焼成により成形性が向上する理由は特定できないが、本発明者らは、一般に該触媒のようなヘテロポリ酸部分中和塩はスラリーを乾燥しただけの場合はほとんどがドーソン型と呼ばれる構造をとっており、加熱によりケギン型と呼ばれる構造に転移するため、この転移が成形性の改良につながっているのではないかと考えている。
【0016】
成型
次いで、得られた予備焼成顆粒を下記のようにして成型するが、シリカゲル、珪藻土、アルミナ粉末等の成型助剤を混合してから成型すると作業性がよくなり好ましい。成型助剤の使用量は、予備焼成顆粒100質量部に対して通常1〜30質量部である。また、更に必要により触媒成分に対して不活性な、セラミックス繊維、ウイスカー等の無機繊維を強度向上材として用いる事は、触媒の機械的強度の向上に有用である。しかし、チタン酸カリウムウイスカーや塩基性炭酸マグネシウムウイスカーの様な触媒成分と反応する繊維は好ましくない。これら繊維の使用量は、予備焼成顆粒100質量部に対して通常1〜30質量部である。
【0017】
前記のようにして得られた予備焼成顆粒または、これと成型助剤、強度向上材を混合した混合物は、反応ガスの圧力損失を少なくするために、柱状物、錠剤、リング状、球状等に成型し使用する。このうち選択性の向上や反応熱の除去が期待できることから不活性担体を予備焼成顆粒または混合物で被覆し、被覆触媒とするのが特に好ましい。
被覆工程は以下に述べる転動造粒法が好ましい。この方法は、例えば固定容器内の底部に、平らなあるいは凹凸のある円盤を有する装置中で、円盤を高速で回転することにより、容器内の担体を自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌させ、ここにバインダーと予備焼成顆粒または混合物を添加することにより予備焼成顆粒または混合物を担体に被覆する方法である。バインダーの添加方法は、1)予備焼成顆粒または混合物に予め混合しておく、2)予備焼成顆粒または混合物を固定容器内に添加するのと同時に添加、3)予備焼成顆粒または混合物を固定容器内に添加した後に添加、4)予備焼成顆粒または混合物を固定容器内に添加する前に添加、5)予備焼成顆粒または混合物とバインダーをそれぞれ分割し、2)〜4)を適宜組み合わせて全量添加する等の方法が任意に採用しうる。このうち5)においては、例えば予備焼成顆粒または混合物の固定容器壁への付着、予備焼成顆粒または混合物同士の凝集がなく担体上に所定量が担持されるようオートフィーダー等を用いて添加速度を調節して行うのが好ましい。
【0018】
バインダーは水及びその1気圧下での沸点が150℃以下の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であれば特に制限はないが、被覆後の乾燥等を考慮すると沸点150℃以下の有機化合物が好ましい。水以外のバインダーの具体例としてはメタノール、エタノール、プロパノール類、ブタノール類等のアルコール、好ましくは炭素数1乃至4のアルコール、エチルエーテル、ブチルエーテルまたはジオキサン等のエーテル、酢酸エチル又は酢酸ブチル等のエステル、アセトン又はメチルエチルケトン等のケトン等並びにそれらの水溶液等が挙げられ、特にエタノールが好ましい。バインダーとしてエタノールを使用する場合、エタノール/水=10/0〜0/10(質量比)、好ましくは10/0〜1/9(質量比)が好ましい。これらバインダーの使用量は、乾燥粉体100質量部に対して通常10〜60質量部、好ましくは15〜40質量部である。
【0019】
本発明において用いうる担体の具体例としては、炭化珪素、アルミナ、シリカアルミナ、ムライト、アランダム等の直径1〜15mm、好ましくは2.5〜10mmの球形担体等が挙げられる。これら担体は通常は10〜70%の空孔率を有するものが用いられる。担体と被覆される予備焼成顆粒または混合物の割合は通常予備焼成顆粒または混合物/(予備焼成顆粒または混合物+担体)=10〜75質量%、好ましくは15〜60質量%となる量使用する。
このようにして予備焼成顆粒または混合物を担体に被覆するが、この際得られる被覆品は通常直径が3〜15mm程度である。
【0020】
本焼成
前記のようにして得られた被覆触媒はそのまま触媒として気相接触酸化反応に供することができるが、焼成すると触媒活性が向上する場合があり好ましい。この場合の焼成温度は通常100〜450℃、好ましくは270〜420℃、焼成時間は1〜20時間である。
なお、焼成は、通常空気雰囲気下に行われるが、窒素のような不活性ガス雰囲気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下での焼成後に必要に応じて更に空気雰囲気下で焼成を行ってもよい。
上記のようにして得られた触媒(以下本発明の触媒という)は、メタクロレイン、イソブチルアルデヒドまたはイソ酪酸を気相接触酸化することによるメタクリル酸の製造に用いられる。
【0021】
以下、本発明で得られる触媒を使用するのに最も好ましい原料である、メタクロレインを使用した気相接触反応につき説明する。
気相接触酸化反応には分子状酸素又は分子状酸素含有ガスが使用される。メタクロレインに対する分子状酸素の使用割合は、モル比で0.5〜20の範囲が好ましく、特に1〜10の範囲が好ましい。反応を円滑に進行させることを目的として、原料ガス中に水をメタクロレインに対しモル比で1〜20の範囲で添加することが好ましい。
原料ガスは酸素、必要により水(通常水蒸気として含む)の他に窒素、炭酸ガス、飽和炭化水素等の反応に不活性なガス等を含んでいてもよい。
また、メタクロレインはイソブチレン、第三級ブタノール、及びメチルターシャリーブチルエーテルを酸化して得られたガスをそのまま供給してもよい。
気相接触酸化反応における反応温度は通常200〜400℃、好ましくは250〜360℃、原料ガスの供給量は空間速度(SV)にして、通常100〜6000hr−1、好ましくは300〜3000hr−1である。
また、接触酸化反応は加圧下または減圧下でも可能であるが、一般的には大気圧付近の圧力が適している。
【実施例】
【0022】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
なお以下において転化率、選択率及び収率は次の通りに定義される。
転化率=反応したメタクロレインのモル数/供給したメタクロレインのモル数×100
選択率=生成したメタクリル酸のモル数/反応したメタクロレインのモル数×100
収率=生成したメタクリル酸のモル数/供給したメタクロレインのモル数×100
【0023】
実施例1
1)触媒の調製
純水5680mlに三酸化モリブデン800gと五酸化バナジウム40.43g、及び85質量%正燐酸73.67gを添加し、92℃で3時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。続いて、この溶液を15〜20℃に冷却して、撹拌しながら9.1質量%の水酸化セシウム水溶液307.9gと、14.3質量%の酢酸アンモニウム水溶液689.0gを徐々に添加し、15〜20℃で1時間熟成させて黄色のスラリーを得た。
続いて、さらにそのスラリーに6.3質量%の酢酸第二銅水溶液709.9gを徐々に添加し、さらに15〜20℃で30分熟成した。
続いて、このスラリーを噴霧乾燥し顆粒を得た。得られた顆粒の組成は
Mo100.81.15Cu0.4Cs0.3(NH2.3
である。
この顆粒320gを空気流通下310℃で5時間かけて焼成し予備焼成顆粒を得た。予備焼成により約4質量%の質量減があった。これに三酸化アンチモン22.7gと強度向上材(セラミック繊維)45gとを均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.5mm)300gに20質量%エタノール水溶液をバインダーとして、転動造粒法により被覆成型した。次いで得られた成型物を空気流通下において380℃で5時間かけて本焼成を行い目的とする被覆触媒を得た。
得られた触媒の組成は
Mo100.81.15Cu0.4Cs0.3(NH2.3Sb1.0
である。
【0024】
2)メタクロレインの触媒酸化反応
得られた被覆触媒10.3mlを内径18.4mmのステンレス反応管に充填し、原料ガス組成(モル比)
メタクロレイン:酸素:水蒸気:窒素=1:2:4:18.6、空間速度(SV)1200hr−1、反応浴温度310℃で、メタクロレインの酸化反応を実施した。反応は、最初反応浴温度310℃で3時間反応を続け、次いで反応浴温度を350℃に上げ15時間反応を続けた(今後この処理を高温反応処理という)。次いで反応浴温度を310℃に下げて反応成績の測定を行った。
結果を表1に示す。
【0025】
強度測定
得られた被覆触媒50gを、内部に一枚の邪魔板を備えた、半径14cmの円筒型回転機に仕込み23rpmで10分間回転させた。その後剥離した粉末をふるいで除去し、残存量を測定したところ49.82gであった。すなわち剥離した粉末の割合は全体に対して0.36%となり、以降この値を磨損度と表現し、触媒の形状と合わせて表1に表記する。
【0026】
実施例2
実施例1において予備焼成温度を290℃とした以外は実施例1と同様の方法で触媒を調製し、メタクロレイン酸化反応と強度測定を行なった。結果を表1に示す。
【0027】
実施例3
実施例1において予備焼成温度を270℃とした以外は実施例1と同様の方法で触媒を調製し、メタクロレイン酸化反応と強度測定を行なった。結果を表1に示す。
【0028】
実施例4
実施例1において予備焼成温度を250℃とした以外は実施例1と同様の方法で触媒を調製し、メタクロレイン酸化反応と強度測定を行なった。結果を表1に示す。
【0029】
実施例5
実施例1において予備焼成温度を380℃とした以外は実施例1と同様の方法で触媒を調製し、メタクロレイン酸化反応と強度測定を行なった。結果を表1に示す。
【0030】
実施例6
実施例2において、乾燥工程後の顆粒320gと三酸化アンチモン22.7gを予備焼成の前に混合したこと以外は実施例2と同様の方法で触媒を調製し、メタクロレイン酸化反応と強度測定を行なった。結果を表1に示す。
【0031】
実施例7
実施例2において、被覆成型の際に添加する強度向上材(セラミック繊維)を10gとし球状多孔質アルミナ担体(粒径3.5mm)を335gとしたこと以外は実施例2と同様の方法で触媒を調製し、メタクロレイン酸化反応と強度測定を行なった。結果を表1に示す。
【0032】
比較例1
実施例1において予備焼成を行なわなかったこと以外は実施例1と同様の方法で触媒を調製し、メタクロレイン酸化反応と強度測定を行なった。結果を表1に示す。
【0033】
比較例2
純水7100mlに三酸化モリブデン1000gと五酸化バナジウム75.81g、85質量%正燐酸88.08g、および酸化銅11.05gを添加し、92℃で3時間加熱攪拌してスラリーを得た。
続いて、このスラリーを噴霧乾燥し顆粒を得た。得られた顆粒の組成は
Mo101.21.1Cu0.2
である。
顆粒320gを空気流通下290℃で5時間焼成し予備焼成顆粒を得た。これに強度向上材(セラミック繊維)45gとを均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.5mm)300gに90質量%エタノール水溶液をバインダーとして被覆成型した。次いで得られた成型物を空気流通下において310℃で5時間の本焼成を行い目的とする被覆触媒を得た。
以降、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応と強度測定を行なった。結果を表1に示す。
【0034】
比較例3
比較例2において、予備焼成をしなかったこと以外は比較例2と同様にメタクロレイン酸化反応と強度測定を行なった。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例1〜6と比較例1から、予備焼成により成形性、磨損度が向上されていることが分かる。
実施例2と実施例6から、三酸化アンチモンは予備焼成の前に添加しても、後に添加しても同様の効果が得られ、触媒の性能もほぼ同等であることが分かる。
比較例2、3から、本発明の触媒における必須成分の一部を活性成分としない触媒は予備焼成により磨損度は向上するものの性能が大きく低下してしまう場合があることが分かる。
【0037】
実施例8
純水5680mlに三酸化モリブデン800gと五酸化バナジウム40.43g、及び85質量%正燐酸73.67gを添加し、92℃で3時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。続いて、この溶液を15〜20℃に冷却して、撹拌しながら9.1質量%の水酸化セシウム水溶液307.9gと、14.3質量%の酢酸アンモニウム水溶液689.0gを徐々に添加し、15〜20℃で1時間熟成させて黄色のスラリーを得た。
続いて、そのスラリーに6.3質量%の酢酸第二銅水溶液709.9gを徐々に添加し、さらに15〜20℃で30分熟成した。続いて、スラリーに三酸化アンチモン32.4gを添加し、15〜20℃で30分熟成した。
続いて、このスラリーを噴霧乾燥し顆粒を得た。得られた顆粒の組成は
Mo100.81.15Cu0.4Cs0.3(NH2.3Sb0.4
である。
この顆粒320gを空気流通下290℃で5時間かけて焼成し予備焼成顆粒を得た。予備焼成により約4質量%の質量減があった。これに強度向上材(セラミック繊維)45gを均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.5mm)300gに20質量%エタノール水溶液をバインダーとして、転動造粒法により被覆成型した。次いで得られた成型物を空気流通下において380℃で5時間かけて本焼成を行い目的とする被覆触媒を得た。
以降、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応と強度測定を行なった。結果を表2に示す。
【0038】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、これら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末に水及び/または1気圧下での沸点が150℃以下の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の液体であるバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する工程を特徴とするメタクリル酸製造用被覆触媒の製造方法
【請求項2】
モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、アンチモンを除くこれら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末とアンチモンを含有する化合物を混合した混合物を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末に水及び/または1気圧下での沸点が150℃以下の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の液体であるバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する工程を特徴とするメタクリル酸製造用
被覆触媒の製造方法
【請求項3】
モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、アンチモンを除くこれら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末を焼成し焼成粉末を得て、該焼成粉末とアンチモンを含有する化合物を混合した混合物に、水及び/または1気圧下での沸点が150℃以下の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の液体であるバインダーを使用することにより不活性担体にコーティングし、被覆成型する工程を特徴とするメタクリル酸製造用被覆触媒の製造方法
【請求項4】
バインダーがアルコール水溶液である請求項1〜3に記載の被覆触媒の製造方法
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の被覆触媒を使用した、メタクロレイン、イソブチルアルデヒドまたはイソ酪酸を気相接触酸化することによるメタクリル酸の製造方法

【公開番号】特開2011−152543(P2011−152543A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101877(P2011−101877)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【分割の表示】特願2005−140037(P2005−140037)の分割
【原出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】