説明

メタクリル酸製造用触媒及びその製造方法並びにメタクリル酸の製造方法

【課題】メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を高収率で製造できるメタクリル酸製造用触媒、その製造方法及びその触媒を用いたメタクリル酸の製造方法を提供すること。
【解決手段】メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、リン、モリブデンを含む粉体と、アルカリ金属の酸化物、水酸化物、硝酸塩、(重)炭酸塩、カルボン酸塩及びハロゲン化物から選択される少なくとも1種のアルカリ金属化合物を混合した後、湿式成形し、焼成することを特徴とするメタクリル酸製造用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に使用する触媒(以下、メタクリル酸製造用触媒という。)及びその製造方法、並びにこの触媒を用いたメタクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸製造用触媒としては、リンモリブデン酸に代表されるヘテロポリ酸化合物が知られている。この触媒の性能を向上させるために、セシウム、カリウム、ルビジウム、タリウムなどを溶液として加える製造方法が数多く提案されている。
【0003】
これらの提案の中で、例えば、特許文献1には、モリブデン、バナジウム、リン及びアンチモン等を含む均一溶液と、アンモニア水と、セシウム等のその他の触媒成分元素を含む均一溶液とを混合し、この混合溶液を乾燥することによってメタクリル酸製造用触媒を製造する方法が開示されている。特許文献2には、セシウムなどをはじめ全ての触媒原料を水に溶解あるいは懸濁させた液としてから混合し、必要によりアンモニアと混合し、生成物を乾燥する酸化触媒の製造方法が開示されている。特許文献3には、Z元素(カリウム、ルビジウム、セシウムなど)を含む溶液又はスラリーと、モリブデン、リン及びバナジウムを含み、Z元素を含まない溶液又はスラリーとを混合し、この混合溶液にアンモニウムを含み、Z元素を含まない溶液又はスラリーを混合し、さらにZ元素を含む溶液又はスラリーを追加混合して触媒前駆体を含む溶液又はスラリーを調製し、これを乾燥・焼成するメタクリル酸製造用触媒の製造方法が開示されている。特許文献4には、モリブデン、リンおよびZ(Zは、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。)を含む固形物Aと、モリブデンおよびリンを含みZを含まない固形物Bを乾式混合した後、成形し、得られた成形物を300〜500℃で焼成するメタクリル酸合成用触媒の製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開平5−31368号公報
【特許文献2】特開平9−290162号公報
【特許文献3】特開2003−190798号公報
【特許文献4】特開2003−1111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これまで提案されている方法で製造されたメタクリル酸製造用触媒はいずれも反応成績が工業触媒として必ずしも十分な性能とは言えず、更なる改良が望まれている。
【0005】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を高収率で製造できるメタクリル酸製造用触媒、その製造方法、及びその触媒を用いたメタクリル酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒であって、リン、モリブデンを含む粉体と、特定のアルカリ金属化合物を混合した後、湿式成形し、焼成して製造される触媒が、選択性が高く、高収率でメタクリル酸を製造可能であることを見出した。
【0007】
すなわち、上記課題を解決した本発明のメタクリル酸製造用触媒は、
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒であって、リン、モリブデンを含む粉体と、アルカリ金属の酸化物、水酸化物、硝酸塩、(重)炭酸塩、カルボン酸塩及びハロゲン化物から選択される少なくとも1種のアルカリ金属化合物とを混合した後、湿式成形し、焼成することで製造されるメタクリル酸製造用触媒である。
【0008】
さらに本発明は前記のメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リン、モリブデンを含む粉体と特定のアルカリ金属化合物を混合した後、湿式成形し、焼成することで、触媒粒子の表面側に相対的に多くのアルカリ金属を存在せしめることが可能となり、特に湿式成形によりアルカリ金属の均一な分散が達成できる。この結果、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を高収率で製造できるメタクリル酸製造用触媒、その製造方法、及び高収率でメタクリル酸を製造することのできるメタクリル酸の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の触媒は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒であって、リン、モリブデンを含む粉体と、特定のアルカリ金属化合物を混合した後、湿式成形し、焼成する以下のような方法により好適に製造できる。
【0011】
リン、モリブデンを含む粉体の調製法としては、まず、メタクリル酸製造用触媒の原料化合物を、適宜選択した溶媒に溶解又は懸濁させ、溶液又はスラリーを調製する。溶液又はスラリーの調製方法は、特に限定はなく、例えば、沈殿法、酸化物混合法等の公知の方法が挙げられる。
【0012】
上記原料化合物としては、モリブデン、リン、バナジウム、銅の化合物等が挙げられ、アルカリ金属化合物も含まれる。モリブデンの原料化合物としては、例えば、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン類、パラモリブデン酸アンモニウム、ジモリブデン酸アンモニウム等のモリブデン酸アンモニウム類等が挙げられる。モリブデン以外の原料化合物としては、例えば、各元素の、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、ハロゲン化物等が利用できる。リンの原料化合物としては、例えば、リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等が挙げられる。バナジウムの原料化合物としては、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、蓚酸バナジル等が挙げられる。銅の原料化合物としては、硝酸銅、水酸化銅、塩化銅等が挙げられる。
【0013】
使用する溶媒としては、例えば、水、エタノール、アセトンなどが挙げられるが、水を用いることが好ましい。
【0014】
次に、上記で得られた溶液又はスラリーを乾燥する。乾燥方法は特に限定はなく、例えば、蒸発乾固法、噴霧乾燥法、ドラム乾燥法、気流乾燥法等の公知の方法が利用できる。この際に使用する乾燥機の機種や乾燥温度等の条件に特に限定はなく、所望する乾燥物の形状や大きさにより適宜選択することができる。
【0015】
得られる乾燥物が塊状である場合は適宜粉砕して粉体状にする。このようにして得られる粉体の大きさは、十分に混合できる大きさであれば、特に制限はない。アルカリ金属化合物と均一に混合する観点から、0.5μm〜2mmの範囲が好ましいが、0.5μm以下の大きさの粉体を含んでも良い。1μm〜1mmの範囲が更に好ましい。この粉体とアルカリ金属化合物とを混合して、触媒前駆体粉体とする。この粉体とアルカリ金属化合物との混合方法は、両者が十分に混合できれば特に制限はなく、公知の混合方法が利用できる。また、触媒前駆体に成形助剤を含めることもできる。
【0016】
アルカリ金属化合物としては、カリウム化合物、セシウム化合物、ルビジウム化合物が利用できるが、中でもセシウム化合物が好ましい。アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の、酸化物、水酸化物、硝酸塩、(重)炭酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物が利用できる。セシウム化合物としては、特に限定されず、例えば重炭酸セシウム、炭酸セシウム、硝酸セシウム、水酸化セシウム、酢酸セシウム、蟻酸セシウム、酸化セシウムなどが利用できるが、中でも重炭酸セシウムが好ましい。またアルカリ金属化合物の混合方法は特に限定されないが、液体に分散させた状態で混合しても良いし、粉体状で混合しても良い。液体に分散させた状態や、粉体状で混合する場合、アルカリ金属化合物の大きさは、特に限定されないが、リン、モリブデンを含む粉体と十分混合できる大きさであることが好ましい。アルカリ金属化合物をリン、モリブデンを含む粉体に均一に混合する観点から、0.5μm〜2mmの範囲が好ましいが0.5μm以下の大きさのアルカリ金属化合物を含んでも良い。1μm〜1mmの範囲が更に好ましい。アルカリ金属化合物が塊状である場合には適宜粉砕して用いることができる。アルカリ金属化合物の量は原子比でモリブデン12に対してアルカリ金属0.01〜4の範囲であり、0.1〜3の範囲が好ましい。アルカリ金属の原料化合物は、リン、モリブデンを含む粉体の調製時に添加(内添)しても良い。内添する場合は、アルカリ金属の原料化合物は上記のアルカリ金属化合物と同じでも異なっていても良い。
【0017】
得られた混合物(触媒前駆体)は、湿式成形し、焼成することで、最終目的物であるメタクリル酸製造用触媒となる。
【0018】
上記メタクリル酸製造用触媒は下記式(1)で表される組成であることが好ましい。
aMobcCudefgh (1)
(上記式は酸素以外の元素の組成を表し、式中、P、Mo、V、及びCu及びOは、それぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅及び酸素を表し、Xは、砒素、アンチモン及びテルルからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を表し、Yは、ビスマス、ゲルマニウム、ジルコニウム、銀、セレン、ケイ素、タングステン、ホウ素、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、コバルト、マンガン、バリウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を表し、Zは、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を表す。b=12のとき、a=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜2、eは0〜3、f=0〜3、g=0.01〜4であり、hは前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
【0019】
上記触媒成分は、リン、モリブデン、バナジウム、銅、Z元素及び酸素を必須成分として構成されるものであり、X元素及びY元素は任意成分である。aは0.5〜2が好ましい。cは0.01〜1が好ましい。gは0.5〜2が好ましい。後述する各原料の配合比を適宜調整することで、目的とするメタクリル酸製造用触媒における各元素の原子比率(aおよびc〜g)を上記範囲で任意に設定することができる。製造されたメタクリル酸製造用触媒における触媒成分の組成は、例えばアンモニア水に溶解した成分をICP発光分析法と原子吸光分析法で分析することによって酸素以外の組成を分析できる。
【0020】
成形方法は成形時に液体を使用する湿式成形が利用でき、湿式押出成形、造粒成形等が挙げられるが、中でも湿式押出成形が好ましい。成形品の形状としては、例えば、円柱状、リング状、球状等が挙げられる。
【0021】
湿式押出成形の場合には、成形助剤として多糖類等が用いられ、β−1,3グルカンやセルロース誘導体を用いた場合、さらに活性、選択性に優れた触媒が得られる。β−1,3グルカンとしては、例えば、カードラン、ラミナラン、パラミロン、カロース、パキマン、スクレログルカン等を挙げることができる。β−1,3グルカンは1種を用いても2種以上を用いてもよい。β−1,3グルカンは、2質量%水溶液又は2質量%分散液での粘度が100〜10000mPa・sのものが好ましい。セルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等を挙げることができる。中でも、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。セルロース誘導体は1種を用いても2種以上を用いてもよい。セルロース誘導体は、2質量%水溶液での粘度が1000mPa・s以上のものが好ましい。また、セルロース誘導体の重量平均分子量は好ましくは100000以上である。β−1,3グルカンとセルロース誘導体は併用しても良い。
【0022】
成形助剤の使用量は、触媒前駆体の種類や大きさ、溶媒の種類及び組成等により適宜選択されるが、通常は触媒前駆体100質量部に対して0.05〜15質量部であり、好ましくは0.1〜10質量部以下である。添加量が多くなるほど成形性が向上する傾向があり、少なくなるほど成形後の熱処理等の後処理が簡単になる傾向がある。ただし、β−1,3グルカンとセルロース誘導体とを併用する場合は、β−1,3グルカンとセルロース誘導体との合計使用量は、通常は触媒前駆体100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、また、20質量部以下が好ましい。成型助剤は、リン、モリブデンを含む粉体の調製後、前記粉体とアルカリ金属化合物の混合と同時又は混合後に添加しても、あるいは予め前記粉体に成型助剤を添加し、その後アルカリ金属化合物と混合しても良い。
【0023】
湿式押出成形の場合に使用する溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、ヘキサンなどを使用することができるが、エタノールを用いることが好ましい。溶媒添加後に十分に混練りを行い混練り品を得る。
【0024】
次に得られた混練り品を押出成形する。成形機としては、オーガー式押出成形機、ピストン式押出成形機などを用いることができる。押出成形による成形体(触媒前駆体成形体ともいう)の形状としては特に限定はなく、リング状、円柱状、星型状などの任意の形状に成形することができる。成形体の大きさについても特に限定はないが、例えば外径、長さともに3〜10mm程度とすることができる。
【0025】
次に得られた触媒前駆体成形体を乾燥及び/又は焼成して触媒を得る。
【0026】
乾燥方法は特に限定されず、一般的に知られている熱風乾燥、湿度乾燥、真空乾燥、遠赤外線乾燥又はマイクロ波乾燥などの方法を任意に用いることができる。乾燥条件は、得られるメタクリル酸合成用触媒前駆体の成形体を目的とする含水率とすることができるように適宜選択することができる。
【0027】
焼成方法は特に限定されず、公知の処理方法及び条件を適用することができる。焼成の最適条件は、用いる原料化合物、触媒前駆体の組成、調製法等によって異なるが、空気等の酸素含有ガス流通下又は不活性ガス流通下で、200〜500℃、好ましくは300〜450℃で、0.5時間以上、好ましくは1〜40時間で行われる。ここで、不活性ガスとは、触媒の反応活性を低下させない気体のことをいい、具体的には、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。焼成処理は加熱装置を用いて行ってもよいが、成形した後に焼成処理を行う場合には、成形された触媒前駆体を反応器に充填してその中で焼成を行ってもよい。
【0028】
次に、本発明のメタクリル酸の製造方法について説明する。本発明のメタクリル酸の製造方法は、上記のようにして得られたメタクリル酸製造用触媒の存在下でメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するものである。
【0029】
気相接触酸化反応は、通常、固定床で行う。触媒層は、特に限定されず、触媒のみの無希釈層でも、不活性担体を含んだ希釈層でもよく、単一層でも複数の層から成る混合層であってもよい。反応には、メタクロレインと分子状酸素とを含む原料ガスを用いる。
【0030】
原料ガス中のメタクロレイン濃度は広い範囲で変えることができるが、1容量%以上が好ましく、3容量%以上がより好ましい。また、20容量%以下が好ましく、10容量%以下がより好ましい。
【0031】
原料ガス中の分子状酸素濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.4モル以上が好ましく、0.5モル以上がより好ましい。また、メタクロレイン1モルに対して4モル以下が好ましく、3モル以下がより好ましい。分子状酸素源としては空気を用いることが経済的であるが、必要ならば純酸素で富化した空気等も用いることができる。
【0032】
また、原料ガスは水(水蒸気)を含んでいることが好ましい。水の存在下で反応を行うと、より高収率でメタクリル酸が得られる。原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1容量%以上が好ましく、1容量%以上がより好ましい。また、50容量%以下が好ましく、40容量%以下がより好ましい。
【0033】
原料ガスは、低級飽和アルデヒド等の不純物を少量含んでいてもよいが、その量はできるだけ少ないことが好ましい。また、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスを含んでいても良い。
【0034】
気相接触酸化反応の反応圧力は、常圧(大気圧)から5気圧まで用いられる。反応温度は、230℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。また、450℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましい。
【0035】
原料ガスの流量は特に限定されず、適切な接触時間になるように適宜設定することができる。接触時間は1.5秒以上が好ましく、2秒以上がより好ましい。また、15秒以下が好ましく、5秒以下がより好ましい。
【0036】
本発明のようにアルカリ金属化合物の添加が触媒性能の向上に寄与する理由は明らかではないが、リン、モリブデンを含む粉体とアルカリ金属化合物を混合し、その後成形及び焼成を実施することで、アルカリ金属化合物を予めリン、モリブデンを含む粉体の調製時のみに添加(内添)する場合に比較して、アルカリ金属化合物に含有されるアルカリ金属を触媒粒子の表面側に相対的に多く存在せしめることが可能となり、メタクロレインからメタクリル酸を製造する反応に有効な働きを担うためと推測している。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。下記の実施例及び比較例中の「部」は質量部である。
【0038】
原料ガス及び生成物の分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。なお、メタクロレインの反応率、生成するメタクリル酸の選択率、及び、単流収率は以下のように定義される。
【0039】
メタクロレインの反応率(%)=(B/A)×100
メタクリル酸の選択率(%) =(C/B)×100
メタクリル酸の単流収率(%)=(C/A)×100
ここで、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは反応したメタクロレインのモル数、Cは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0040】
[実施例1]
(触媒調製)
純水150部に、パラモリブデン酸アンモニウム100部、五酸化バナジウム2.15部、硝酸第二銅3.99部を順次添加し、60℃で溶解後、85質量%リン酸水溶液5.44部を添加し60℃で30分攪拌保持した。得られたスラリーに、攪拌しながら、純水25部に重炭酸セシウム9.15部を溶解した溶液、三酸化アンチモン2.53部、純水5部に硝酸銀0.80部を溶解した溶液、を順次添加して触媒成分の原料化合物を含むスラリーを得た。
【0041】
このスラリーを101℃まで加熱し、攪拌しながら蒸発乾固した後、さらに、130℃で16時間乾燥し、その後擂潰機で擂潰し、リン、モリブデンを含む粉体を得た。擂潰後の粉体の大きさは、710μm以下であった。
【0042】
得られたリン、モリブデンを含む粉体全量に、重炭酸セシウム2.75部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(2質量%エタノール溶液での粘度4500mPa・s、重量平均分子量850000)4部を加え、乾式混合した。重炭酸セシウムの粒径は710μm以下であった。次いでエタノール40部を先に乾式混合したものに対して加えた。次いで、混練り機で粘土状物質になるまで混合(混練り)した後、オーガー式押出成形機を用いて押出成形し、外径6mm、内径2mm、長さ5mmのリング状の触媒前駆体成形体を得た。
【0043】
得られた触媒前駆体成形体を室温で16時間真空乾燥し、次いで空気流通下、380℃にて12時間焼成してメタクリル酸製造用触媒を得た。この得られたメタクリル酸製造用触媒の触媒成分元素の酸素以外の組成は、
1.0Mo120.5Sb0.2Cu0.35Cs1.3Ag0.1
であった。
【0044】
(メタクロレイン気相接触酸化反応)
このように調製したメタクリル酸製造用触媒をステンレス製反応管に充填し、メタクロレイン5体積%、酸素10体積%、水蒸気30体積%及び窒素55体積%の原料ガスを用い、常圧下接触時間3.6秒、反応温度290℃で反応させた。その反応評価結果を表1に示した。
【0045】
[比較例1]
リン、モリブデンを含む粉体を実施例1と同様に得た後、重炭酸セシウムを添加せずにヒロドキシプロピルメチルセルロースのみを加え乾式混合した以外は、実施例1と同様に触媒調製を行った。この得られたメタクリル酸製造用触媒の触媒成分の酸素以外の組成は、
1.0Mo120.5Sb0.2Cu0.35Cs1.0Ag0.1
であった。得られたメタクリル酸製造用触媒を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン気相接触酸化反応を行った。その反応評価結果を表1に示した。
【0046】
[比較例2]
リン、モリブデンを含む粉体の調製時に、乾式混合した重炭酸セシウムと同量の重炭酸セシウム2.75部を、触媒スラリー調製時の重炭酸セシウムの添加量に追加して添加し、リン、モリブデンを含む粉体を得た後、重炭酸セシウムを添加せずにヒロドキシプロピルメチルセルロースのみを加え乾式混合した以外は、実施例1と同様に触媒調製を行った。この得られたメタクリル酸製造用触媒の触媒成分の酸素以外の組成は、
1.0Mo120.5Sb0.2Cu0.35Cs1.3Ag0.1
得られたメタクリル酸製造用触媒を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン気相接触酸化反応を行った。その反応評価結果を表1に示した。
【0047】
[実施例2]
純水400部に三酸化モリブデン100部、85質量%リン酸水溶液7.3部、五酸化バナジウム4.2部、酸化銅0.9部、硝酸鉄1.2部を加え、還流下で5時間攪拌した。この液を50℃まで冷却した後、29重量%アンモニア水37.4部を滴下し、15分間攪拌した。次に硝酸セシウム9.0部を純水30部に溶解した溶液を滴下し15分間攪拌してスラリーを得た。
【0048】
このスラリーを101℃まで加熱し、攪拌しながら蒸発乾固した後、さらに、130℃で16時間乾燥し、その後擂潰機で擂潰し、リン、モリブデンを含む粉体を得た。擂潰後の乾燥粉体の大きさは、710μm以下であった。
【0049】
得られたリン、モリブデンを含む粉体全量に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(2質量%エタノール溶液での粘度4500mPa・s、重量平均分子量850000)4部を加え、乾式混合した。次いでエタノール40部に粒径710μm以下の重炭酸セシウム4.49部を分散させた液を先に乾式混合したものに対して加えた。次いで、混練り機で粘土状物質になるまで混合(混練り)した後、オーガー式押出し成形機を用いて押出成形し、外径6mm、内径2mm、長さ5mmのリング状の触媒前駆体成形体を得た。
【0050】
得られた触媒前駆体成形体を室温で16時間真空乾燥し、次いで空気流通下、380℃にて12時間焼成してメタクリル酸製造用触媒を得た。この得られたメタクリル酸製造用触媒の触媒成分の酸素以外の組成は、
1.1Mo120.8Cu0.2Fe0.1Cs1.2
であった。得られたメタクリル酸製造用触媒を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン気相接触酸化反応を行った。その反応評価結果を表1に示した。
【0051】
[比較例3]
リン、モリブデンを含む粉体にヒドロキシプロピルメチルセルロースを乾式混合した後、エタノール40部に粒径710μm以下の重炭酸セシウム4.49部を分散させた液の添加に代えて、エタノール40部のみ添加した点以外は、実施例2と同様に触媒調製を行った。この得られたメタクリル酸製造用触媒の触媒成分の酸素以外の組成は、
1.1Mo120.8Cu0.2Fe0.1Cs0.8
であった。得られたメタクリル酸製造用触媒を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン気相接触酸化反応を行った。その反応評価結果を表1に示した。
【0052】
[比較例4]
リン、モリブデンを含む粉体の調製時に、乾式混合した重炭酸セシウムと同量の重炭酸セシウム4.49部を、触媒スラリー調製時に硝酸セシウムを添加する際に、同時に添加し、リン、モリブデンを含む粉体を得、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを乾式混合した後、エタノール40部に粒径710μm以下の重炭酸セシウム4.49部を分散させた液の添加に代えて、重炭酸セシウムを添加せずエタノールのみ添加した点以外は、実施例2と同様に触媒調製を行った。この得られたメタクリル酸製造用触媒の触媒成分の酸素以外の組成は、
1.1Mo120.8Cu0.2Fe0.1Cs1.2
であった。得られたメタクリル酸製造用触媒を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン気相接触酸化反応を行った。その反応評価結果を表1に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
1) 乾式混合した重炭酸セシウムと同量の重炭酸セシウム2.75部を触媒スラリー調製時に重炭酸セシウムを添加する際に、同時に添加
2) 重炭酸セシウムを分散させた液をリン、モリブデンを含む粉体に添加
3) 乾式混合した重炭酸セシウムと同量の重炭酸セシウム4.49部を触媒スラリー調製時に硝酸セシウムを添加する際に、同時に添加
【0055】
比較例1と2,比較例3と4から、従来のアルカリ金属化合物を予めリン、モリブデンを含む粉体の調製時のみに添加(内添)する方法では、アルカリ金属量の増加は収率を低下させる傾向を示していることが分かる。これに対して、本発明になる実施例1と2では、アルカリ金属量が増加しているにも拘わらず、収率が上昇している。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のメタクリル酸製造用触媒を用いると、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を高収率で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
リン、モリブデンを含む粉体と、アルカリ金属の酸化物、水酸化物、硝酸塩、(重)炭酸塩、カルボン酸塩及びハロゲン化物から選択される少なくとも1種のアルカリ金属化合物とを混合した後、湿式成形し、焼成することを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法により製造されるメタクリル酸製造用触媒。
【請求項3】
請求項2に記載のメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2008−302313(P2008−302313A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152715(P2007−152715)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】