説明

メタノール又は炭化水素製品の輸送方法

メタノール又は炭化水素製品を船により一地域から他の地域に輸送する方法において、該メタノール又は炭化水素製品は、(a)空気を酸素と窒素とに分離する工程、(b)該酸素を使用して、炭素源から一酸化炭素と水素との混合物を製造する工程、(c)該一酸化炭素と水素との混合物を使用して、メタノール、或いは液体又は固体炭化水素製品を製造する工程により得られ、船には(d)該メタノール、或いは液体又は固体炭化水素製品を工程(a)で得られた窒素と一緒に積み込む工程を行う該方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
メタン、天然ガス及び/又は随伴ガスのようなガス状炭化水素質供給原料を液体製品、特にメタノール及び液体又は固体炭化水素、特にパラフィン系炭化水素に転化する方法を記載した文献が多数知られている。これに関連して、通常、人口が少ない及び/又は何の産業もないために、ガスを直接使用することが不可能な遠隔地域(例えば砂漠、熱帯雨林の地域)及び/又は沖合い地域について言及されることが多い。例えばパイプラインにより、或いは液化天然ガスの形態でガスを輸送するのは、非常に高価な投資を必要とするか、簡単には実用できない。これは、比較的少ないガス生産量及び/又は生産田の場合には、なおさらのことである。ガスの再噴射には、石油の生産コストが上がるし、また随伴ガスの場合は、原油の生産に望ましくない影響が起こるかも知れない。随伴ガスを燃焼させるのは、炭化水素源の枯渇や空気の汚染の観点から望ましくない選択となっている。
【特許文献1】EP−A−776959
【特許文献2】EP−A−668342
【特許文献3】US−A−4943672
【特許文献4】US−A−5059299
【特許文献5】WO−A−9934917
【特許文献6】WO−A−9920720
【特許文献7】US−A−6309432
【特許文献8】US−A−6296757
【特許文献9】US−A−5689031
【特許文献10】EP−A−668342
【特許文献11】EP−A−583836
【特許文献12】US−A−6420618
【特許文献13】WO−A−02070631
【特許文献14】WO−A−02070629
【特許文献15】WO−A−02070627
【特許文献16】WO−A−02064710
【特許文献17】WO−A−02070630
【非特許文献1】Perry’s Chemical Engineers Handbook、第6版、pp12〜49以下(McGraw−Hill,New York,1984)
【非特許文献2】Kirk−Othmer,Encyclopedia of Chemical Technology,第4版、第7巻、p662以下(John Wiley and Sons,New York,1993)
【非特許文献3】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版、第A18巻、p332以下(VCH,Weinheim,1991)参照。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
本発明は、遠隔地域においてガスから製造したメタノール又は炭化水素製品を(末端)使用者に近い地域に輸送する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、メタノール又は炭化水素製品を船により一地域から他の地域に輸送する方法において、該メタノール又は炭化水素製品は、(a)空気を酸素と窒素とに分離する工程、(b)該酸素を使用して、炭素源から一酸化炭素と水素との混合物を製造する工程、(c)該一酸化炭素と水素との混合物を使用して、メタノール、或いは液体又は固体炭化水素製品を製造する工程により得られ、船には(d)該メタノール、或いは液体又は固体炭化水素製品を工程(a)で得られた窒素と一緒に積み込む工程を行う該方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
工程(a)は空気を冷却し、液体空気成分である酸素及び窒素及び任意に他の成分を単離することにより、行うことが好ましい。工程(a)で使用される酸素/窒素混合物は、好ましくは空気である。酸素富化流は、酸素を全流に対し、好適には少なくとも50モル%、更に好適には85モル%、好ましくは95モル%、更に好ましくは98モル%含有する。酸素欠乏流は、窒素を全流に対し、好適には少なくとも95モル%、好ましくは95モル%、更に好ましくは98モル%含有する。酸素欠乏流、酸素を全流に対し、好適には2モル%以下、好ましくは1モル%以下、更に好ましくは0.2モル%以下、含有する。所望ならば、痕跡量の酸を全て除去してよい。
【0005】
近年、空気を液化し、主成分として酸素、窒素及び希ガスに分離するため、極低温という考え方が発展してきた。極低温用の冷凍は、低温で熱を吸収又は抽出し、これを高温で大気に放出することにより作られる。極低温冷凍を大規模な工業用に作る一般的な方法には、液体の気化サイクル、Joule−Thomson膨張サイクル及びエンジン膨張サイクルの3つがある。最初の2つは、両方とも流体の、通常、バルブによる(through)不可逆的等エンタルピー(isenthalpic)膨張を利用する点で類似する。エンジンでの膨張は、仕事の達成による可逆的等エンタルピー膨張に近い。更なる詳細は、Perry’s Chemical Engineers Handbook、第6版、pp12〜49以下(McGraw−Hill,New York,1984);Kirk−Othmer,Encyclopedia of Chemical Technology,第4版、第7巻、p662以下(John Wiley and Sons,New York,1993);及びUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版、第A18巻、p332以下(VCH,Weinheim,1991)参照。
【0006】
殆どの工業的空気分離プラントは、Lindeの二重蒸留塔法を基本としている。この方法は、前記文献に明確に記載されている。一般的な例では、原料空気をろ過し、通常、5〜10バラの圧力に圧縮する。圧縮空気は冷却し、凝縮した水は分離器で除去する。プラントの極低温部での水及び二酸化炭素の凍結を避けるため、原料空気は更に、通常、活性化アルミナ及び/又はモレキュラーシーブの吸着床に通して最終痕跡量の水及び二酸化炭素を除去する。次いで精製空気をsらに冷却し、通常、中間段階である第一極低温蒸留ユニットに供給する。第一蒸留ユニット塔底部の、通常、酸素を40〜50モル%含む粗液体材料を通常、中間段階でもある第二蒸留ユニット(この第二ユニットは、通常、第一蒸留ユニットの塔頂部上にあり、また第一ユニットの凝縮器はこの第二ユニット用のリボイラーとして作用する)に供給する。第二蒸留ユニットは、比較的低圧(通常、1〜2バラ)で操作される。第一蒸留ユニットの塔頂部では、ほぼ純粋な液体窒素が得られ、通常、第二塔の塔頂部に供給される。第二蒸留塔の塔底部では純粋な液体酸素が得られ、一方、第二蒸留塔からは純粋なガス状窒素が得られる。
【0007】
以上の考え方に対しては、多くの変形が知られている。このような変形としては、空気をガス状製品、液体製品及びそのあらゆる種類の組合わせがある。ほぼ純粋な酸素及び/又は窒素流と一緒に、部分的に富化した酸素及び/又は窒素流を液相又はガス相のいずれかで製造することは周知である。更に、原料空気に存在する希ガスのいずれかを分離する蒸留ユニットが別途にあってもよい。また、低温を作る方法は多くの方法で変化できる。この点については、前記文献及び更にEP−A−798524、JP−A−08094245、EP−A−593703、EP−A−562893、US−A−5237822、JP−A−02052980、EP−A−211957、EP−A−102190、SU−A−947595、JP−A−71020126及びJP−A−71020125参照。
【0008】
工程(b)では工程(a)で得られた酸素が、合成ガスとも言われる一酸化炭素と水素との混合物の製造に使用される。本発明で使用される炭素質原料は、好適にはメタン、天然ガス、随伴ガス又はC1〜4炭化水素であり、好ましくは随伴ガス、更に好ましくは遠隔地域の随伴ガスである。他の可能な炭素質供給原料は、石炭、褐炭、泥炭、重質炭化水素、例えば原油残留物、例えばピッチ、及びアスファルト、及びバイオ燃料、例えば木、有機廃棄物及び植物油である。
【0009】
工程(b)は、いわゆる部分酸化により行うことが好ましい。部分酸化は酸化又はガス化反応器で行ってよい。周知の炭素(炭化水素)質原料部分酸化方法は、炭素(炭化水素)質原料を非接触法で高温高圧下に部分的に燃焼させるシェルガス化方法である。他の一実施態様では、酸化は触媒の存在下で行われる。この種の触媒は、当該技術分野で周知であり、通常、1種以上の第VIII族貴金属を含む。炭化水素質原料流には、H/CO比を調節するため、水蒸気及び/又は二酸化炭素を添加してよい。酸化は、好適には900〜1500℃、好ましくは1000〜1350℃の温度、及び5〜120バール、特に25〜70バールの圧力で行われる。ガス混合物のH/CO比は、通常、1:1〜3:1、好ましくは約2:1である。工程(c)でガス状混合物を触媒と接触させる前に、触媒に悪影響を与える可能性のある化合物を除去することが好ましい。この点については、硫黄含有化合物及び窒素含有化合物(例えばNH及びHCN)の除去が参考となる。
主として水素及び一酸化炭素を含む精製ガス状混合物は、工程(c)において本発明方法で輸送される液体又は固体製品或いは該製品の前駆体の製造に使用される。
【0010】
製品は、好ましくはメタノールである。一酸化炭素及び水素からメタノールを製造するための工程(c)を行う方法の具体例は周知であり、例えばICI(Imperial Chemical Industries)法、Lurgi法及びMitsubishi法が工程(c)に使用できる。このような方法において、メタノール合成ガスは、使用方法に応じて、所望の約700〜2000psig圧でメタノール合成反応器に供給される。次いで、合成ガスはメタノールを形成するため、銅系触媒と反応させる。この反応は発熱反応である。したがって、普通は熱の除去を必要とする。次いで、粗又は不純メタノールは、エタノール、プロパノール等の高級アルコールのような不純物を除くため、凝縮し、精製する。未反応メタノール合成ガスを含む未凝縮の蒸気相は、工程(c)に再循環する。
【0011】
本発明の他の一実施態様では、工程(c)は、工程(b)の合成ガスを触媒と接触させて、これらの化合物を液体又は固体パラフィンに添加することによって行われる。水素及び一酸化炭素を含む混合物のパラフィン系炭化水素への接触転化に使用される触媒は、当該技術分野で公知で、通常、フィッシャー・トロプシュ触媒と言われている。この方法で使用される触媒は、触媒活性成分として、元素の周期表第VIII族金属を含むことが多い。特に触媒活性な金属としては、ルテニウム、鉄、コバルト及びニッケルが挙げられる。コバルトは、好ましい触媒活性金属である。
【0012】
工程(c)に好適なフィッシャー・トロプシュ合成法の具体例は、いわゆる商用Sasol法、Shell Middle Distillate(シェル中間留分)法又は非商用Exxon法である。これらの方法及びその他の方法は、例えばEP−A−776959、EP−A−668342、US−A−4943672、US−A−5059299、WO−A−9934917及びWO−A−9920720に更に詳細に記載されている。これらの文献はここに援用する。フィッシャー・トロプシュ法はスラリー反応器、固定床反応器、特に多管固定床反応器又は3相流動床反応器で行ってよい。
【0013】
フィッシャー・トロプシュ合成工程で製造された蝋状製品は、本発明方法に従ってそのまま輸送してもよいし、或いは別途のフラクションとして輸送してもよい。フィッシャー・トロプシュ合成製品には、好適には製品の凝固点を低下させると共に、ポンプ移送性を向上するため、マイルドな水素化異性化を行う。得られた合成粗製品は、慣用の精製法で更に仕上げするため、他の地域に輸送してよい。
【0014】
遠隔地では、パラフィン蝋状製品から25〜120℃の凝固点を有する各種グレードの蝋を単離してよい。沸点範囲が35〜300℃の蝋状フィッシャー・トロプシュ製品からは、低沸点の液体フラクションを単離して、炭化水素溶剤、水蒸気分解用供給原料又は洗浄剤製造用供給原料として輸送できる。
【0015】
或いは蝋状製品には水素化分解/水素化異性化方法を行って、例えばナフサ、ケロシン及びガス油の沸点範囲のパラフィン製品が得られる。こうして得られた部分異性化液体製品は、航空燃料(ブレンド用成分)、ディーゼル燃料(ブレンド用成分)、工業用ガス油(ブレンド用成分)、孔開け用流体、水蒸気分解用供給原料又は溶剤として使用するため、最終消費者に輸送してよい。このような方法工程で得られた部分異性化蝋は有利には、潤滑基油を得るため、更に脱蝋処理してもよいし、中間製品として、最終ユーザーに一層近い基油製造地域に輸送してもよい。これら方法の具体例は、US−A−6309432、US−A−6296757、US−A−5689031、EP−A−668342、EP−A−583836、US−A−6420618、WO−A−02070631、WO−A−02070629、WO−A−02070627、WO−A−02064710及びWO−A−02070630に更に詳細に記載されている。これらの文献はここに援用する。こうして、以上の水素化分解/水素化異性化及び最適脱蝋工程は、遠隔地域で行われ、得られた前記製品は、輸送される炭化水素製品である。
【0016】
工程(d)は、酸素含有量を得らすため、まず船内の空の製品コンテナーに、工程(a)で得られた窒素をパージすることが好ましい。パージは、好ましくは少なくとも5分間、更に好ましくは少なくとも10分間行う。最も好ましくはパージは、50〜100分間行う。パージ後、製品コンテナーには液体又は固体のメタノール又は炭化水素製品を充填する。好ましくは工程(a)で得られた窒素は、製品コンテナーの製品上のガス状空間を窒素雰囲気にするため、積み荷コンテナーに供給する。更に好ましくは窒素は、少なくとも5分間、更に好ましくは少なくとも10分間供給する。積み荷操作を低減するため、通常、窒素は20分間以下供給する。工程(d)で使用される窒素圧は、好ましくは2バールを超え、更に好ましくは5〜25バール、なお更に好ましくは15〜20バールである。
【0017】
本発明方法は、特に工程(b)で得られるような特製品や固体製品に好適である。これら製品の具体例は、洗浄剤供給原料製品、基油製品、部分異性化蝋製品、合成粗製品及び蝋製品である。本発明は、液体として輸送する製品又は積み荷及び荷降ろしの際、液化が必要な製品に適用することが好ましい。更に好ましくは、これらの製品は、引火点が200℃を超えるものである。
【0018】
本発明方法で窒素を使用する利点は、製品を船に乗せる時間が7日を超え、更に好ましくは30日を超え、100日以下で、なお一層発揮されることが見い出された。
【0019】
フィッシャー・トロプシュ設備で液体窒素として任意に貯蔵された窒素は、多くの用途、例えば圧縮器乾燥ガスシール用の緩衝ガス、フィッシャー・トロプシュ誘導蝋のサンプル採取中のドラムの覆い、フィッシャー・トロプシュ触媒及び水素化処理触媒の荷降ろし/積み荷中の装置の不活性化、各種反応器の覆い及び不活性化、手空き蝋管のパージ、設備の保守、又は例えば部分酸化装置のバーナー装置の負荷調整(turndown)操作中、十分なガス速度を維持する手段としての用途等に使用してよい。しかし、このように窒素が本発明方法に非常に有益であるとは予測できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール又は炭化水素製品を船により一地域から他の地域に輸送する方法において、該メタノール又は炭化水素製品は、(a)空気を酸素と窒素とに分離する工程、(b)該酸素を使用して、炭素源から一酸化炭素と水素との混合物を製造する工程、(c)該一酸化炭素と水素との混合物を使用して、メタノール、或いは液体又は固体炭化水素製品を製造する工程により得られ、船には(d)該メタノール、或いは液体又は固体炭化水素製品を工程(a)で得られた窒素と一緒に積み込む工程を行う該方法。
【請求項2】
工程(i)で使用される酸素/窒素混合物が空気である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸素富化流が酸素を全流に対し少なくとも85モル%、好ましくは95モル%、更に好ましくは98モル%含有する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸素欠乏流が窒素を全流に対し少なくとも95モル%、好ましくは98モル%、更に好ましくは99モル%含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
製品がメタノールである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
炭化水素製品がフィッシャー・トロプシュ法で得られたパラフィン系製品である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(d)が、まず工程(a)の窒素を用いて、船に乗せた製品コンテナーをパージし、次いで製品コンテナーに工程(c)で得られた炭化水素製品を充填し、引き続き船に乗せた製品コンテナーに工程(a)の窒素を別途加えるようにして行われる請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−509908(P2007−509908A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537296(P2006−537296)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052679
【国際公開番号】WO2005/044954
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】