メタボリックシンドローム改善又は予防剤
【課題】メタボリックシンドローム(内臓脂肪の蓄積に起因して高血圧、高脂血症、糖尿病等の生活習慣病が発症した状態)の改善又は予防剤を提供する。
【解決手段】重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンを有効成分として含有するメタボリックシンドローム改善又は予防剤。肝機能改善剤として使用することもできる。生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能であり、医薬品、飲食品等の成分として使用することができる。
【解決手段】重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンを有効成分として含有するメタボリックシンドローム改善又は予防剤。肝機能改善剤として使用することもできる。生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能であり、医薬品、飲食品等の成分として使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリックシンドローム改善又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メタボリックシンドローム(内臓脂肪の蓄積に起因して高血圧、高脂血症、糖尿病等の生活習慣病が発症した状態)は、動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞等)の発症リスクを高めるものとして広く認知されるようになっている。
【0003】
メタボリックシンドローム改善又は予防剤としては、例えば、水溶性β−グルカンを最大含有量とする食物繊維集合体を有効成分として含有するものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/077929号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、メタボリックシンドローム改善又は予防剤としては、生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能なものが望ましい。しかしながら、そのようなメタボリックシンドローム改善又は予防剤に関しては、未だ、消費者の多様な需要を満たすのに十分な選択肢が存在するとはいえないのが実情である。
【0006】
そこで、本発明は、生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能な新規のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、低分子量のβ−1,3−1,4−グルカンをマウスに投与すると、大麦抽出物に含まれる高分子量のβ−1,3−1,4−グルカンを投与した場合に比べて、内臓脂肪の蓄積を始めとするメタボリックシンドロームの症状が強く抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンを有効成分として含有するメタボリックシンドローム改善又は予防剤を提供する。
【0009】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、内臓脂肪の蓄積を抑制し、また、脂肪細胞の肥大化を抑制することを可能とする。そして、そのような作用を介して、内臓脂肪型肥満ないしメタボリックシンドロームを改善(治療、軽減)及び予防することを可能とする。ここで、内臓脂肪の「蓄積の抑制」とは、内臓脂肪の増大を抑制するか、内臓脂肪を低減させることをいうものとする。
【0010】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤はまた、肝機能を改善し、また、肝臓トリグリセリドの蓄積を抑制することを可能とする。そして、そのような作用を介して、肝障害(脂肪肝、肝炎、肝線維化、肝硬変、肝癌等)を抑制(治療、軽減、予防)することを可能とする。ここで、肝臓トリグリセリドの「蓄積の抑制」とは、肝臓トリグリセリドの増大を抑制するか、肝臓トリグリセリドを低減させることをいうものとする。また、肝機能が改善されたかどうかは、例えば、血漿AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)が低下したかどうかで判定することができる。
【0011】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、内臓脂肪蓄積抑制作用及び脂肪細胞肥大化抑制作用を有することから、内臓脂肪蓄積抑制剤又は脂肪細胞肥大化抑制剤として使用することもできる。
【0012】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤はまた、肝機能改善作用、肝臓トリグリセリド蓄積抑制作用及び肝障害抑制作用を有することから、肝機能改善剤、肝臓トリグリセリド蓄積抑制剤又は肝障害抑制剤として使用することもできる。
【0013】
β−1,3−1,4−グルカンはイネ科植物(特に大麦、オート麦)に多く含有されるものであり、生体に対する安全性が確立されている。そのため、本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能であり、医薬品、飲食品、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等の成分として使用するのに好適である。
【0014】
また、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンは、高分子量のものに比べて水溶性が高く、また、溶液の粘度が低い。この点でも、本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、医薬品、飲食品、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等の成分として使用するのに好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能な新規のメタボリックシンドローム改善又は予防剤が提供される。また、そのようなメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する医薬品、飲食品、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】β−グルカン粉末中のβ−1,3−1,4−グルカンの分子量分布曲線である。
【図2】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの腸間膜脂肪細胞サイズを示すグラフである。
【図3】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの副睾丸周辺脂肪細胞サイズを示すグラフである。
【図4】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの後腹壁脂肪細胞サイズを示すグラフである。
【図5】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの糞中総脂質量を示すグラフである。
【図6】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの腸間膜脂肪重量を示すグラフである。
【図7】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの副睾丸周辺脂肪重量を示すグラフである。
【図8】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの後腹壁脂肪重量を示すグラフである。
【図9】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの腹腔内総脂肪重量を示すグラフである。
【図10】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの腸間膜脂肪細胞サイズを示すグラフである。
【図11】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの血漿ASTを示すグラフである。
【図12】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの肝臓トリグリセリド量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンを有効成分として含有する。
【0019】
本発明において、「メタボリックシンドローム」とは、内臓脂肪が蓄積され、高血圧、高脂血症、糖尿病等の生活習慣病のいずれかが発症した状態をいうものとする。例えば、日本人の場合は、「ウエスト周囲径:男性≧85cm、女性≧90cm(男女とも、内臓脂肪面積≧100cm2に相当)」という要件を満たし、かつ、下記(1)〜(3)のうちの少なくとも2つの要件を満たせば、メタボリックシンドロームと診断することができる(日本内科学会誌、94(4)、794−809、2005参照)。
(1)リポタンパク異常: 高トリグリセリド血症(トリグリセリド値≧150mg/dL)及び/又は低HDLコレステロール血症(HDLコレステロール値<40mg/dL)
(2)血圧高値: 収縮期血圧≧130mmHg及び/又は拡張期血圧≧85mmHg
(3)高血糖: 空腹時血糖≧110mg/dL
【0020】
本発明において、β−1,3−1,4−グルカンは、β−1,3−グルコシド結合及びβ−1,4−グルコシド結合を有するβ−グルカンであればよく、また、例えば、植物由来であっても、微生物(細菌、担子菌等)由来であってもよい。β−1,3−1,4−グルカンを得る天然物としては、β−1,3−1,4−グルカンの含有量が多い点で、例えば、イネ科植物(大麦、オート麦、ライ麦、はと麦、小麦等)が好適であり、特に大麦及びオート麦が好適である。また、例えば、イネ科植物から得る場合は、種子が好適である(全粒、胚乳、糠等のいずれでもよい)。
【0021】
重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンは、例えば、大麦種子を粉砕し、粉砕物をα−アミラーゼで処理して高分子量β−1,3−1,4−グルカン(重量平均分子量:70万〜120万Da)を得、更にこれをβ−グルカナーゼで処理することによって得ることができる。ここで、大麦種子粉砕物のα−アミラーゼ処理は、例えば、80〜95℃の水中で、40〜60分間、粉砕物とα−アミラーゼとを攪拌することによって行うことができる。α−アミラーゼ処理後、固液分離を行い、液層をアルコール(メタノール、エタノール等)で沈殿させて濃縮すれば、高分子量β−1,3−1,4−グルカンを得ることができる。高分子量β−1,3−1,4−グルカンのβ−グルカナーゼ処理は、例えば、50〜60℃の水中で、5〜30分間、高分子量β−1,3−1,4−グルカンとβ−グルカナーゼとを攪拌することによって行うことができる。β−グルカナーゼ処理後、濃縮を行えば、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンを得ることができる。なお、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンは、市販のものがあれば、それを使用してもよい。
【0022】
本発明において、β−1,3−1,4−グルカンの重量平均分子量は5万〜50万Daであればよいが、例えば、5万〜30万Daが好ましく、5万〜20万Daがより好ましく、5万〜15万Daが更に好ましい。
【0023】
β−1,3−1,4−グルカンの重量平均分子量は、公知の方法(例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、ゲル濾過クロマトグラフィー(GFC))により測定することができる。また、重量平均分子量の決定に用いる検量線は、例えばプルランの標準品を用いて作成することができる。
【0024】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、固体(例えば、凍結乾燥させて得られる粉末)、液体(水溶性又は脂溶性の溶液又は懸濁液)、ペースト等のいずれの形状でもよく、また、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、軟膏剤、硬膏剤等のいずれの剤形をとってもよい。また、本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンからなるものであってもよい。
【0025】
上述の各種製剤は、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンと、薬学的に許容される添加剤(賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等)と、を混和することによって調製することができる。
【0026】
例えば、賦形剤としては、ラクトース、スクロース、デンプン、デキストリン等が挙げられる。結合剤としては、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、Tween60、Tween80、Span80、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。基剤としては、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール、米糠油、魚油(DHA、EPA等)、オリーブ油等が挙げられる。溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、Tween80等が挙げられる。懸濁化剤としては、上述の界面活性剤の他、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0027】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、医薬、飲食品(飲料、食品)、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等の成分として使用することができる。例えば、飲料としては、水、清涼飲料水、果汁飲料、乳飲料、アルコール飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンク等が挙げられる。食品としては、パン類、麺類、米類、豆腐、乳製品、醤油、味噌、菓子類等が挙げられる。本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤はまた、特定保健用食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康食品、機能性食品、病者用食品等の成分として使用することもできる。
【0028】
飲料、食品、飼料等におけるメタボリックシンドローム改善又は予防剤(重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカン)の含有割合は、例えば、0.01〜20質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましく、0.01〜5質量%が更に好ましい。
【0029】
飲料、食品、飼料等は、当該分野で通常使用される添加物を更に含有していてもよい。そのような添加物としては、例えば、苦味料、香料、リンゴファイバー、大豆ファイバー、肉エキス、黒酢エキス、ゼラチン、コーンスターチ、蜂蜜、動植物油脂;グルテン等のタンパク質;大豆、エンドウ等の豆類;グルコース、フルクトース等の単糖類;スクロース等の二糖類;デキストロース、デンプン等の多糖類;エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール類;ビタミンC等のビタミン類;亜鉛、銅、マグネシウム等のミネラル類;CoQ10、α−リポ酸、カルニチン、カプサイシン等の機能性素材、が挙げられる。これらの添加物は、各々を単独で、又は複数種を組み合わせて使用することができる。
【0030】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、ヒトに摂取されても、非ヒト哺乳動物に摂取されてもよい。摂取量及び摂取方法は、個体の状態、年齢等に応じて適宜決定することができる。好適な摂取方法としては、例えば、経口摂取が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0032】
[高分子量β−グルカン粉末の調製及び分析]
ステンレス製抽出タンク(200L)に張った湯(約40〜50℃)約60Lに大麦(CDC Fibar)種子の粉砕物6kg及び耐熱性α−アミラーゼ(クライスターゼYC15、大和化成)300gを投入し、95℃で60分間攪拌した。その後、混合液10Lをポリタンクに分注し、20℃、8000rpmで20分間遠心分離した。得られた半透明、高粘度の上清約45Lをドラム缶リフト(250L)に投入し、メタノール約140Lを添加して、十分な攪拌後、1時間静置した。
【0033】
静置後、混合液をステンレス篩(φ400)上に流し込んで固形物を分取した。メタノール20Lで洗浄し、防爆用エバポレーターでメタノールを除去した後、ステンレスパット上で固形物を凍結乾燥した。凍結乾燥した固形物をラボミルサー(IFM−150、岩谷産業)で2分間断続粉砕して、高分子量β−グルカン粉末を得た。
【0034】
高分子量β−グルカン粉末の0.2%水溶液の粘度は3.49mPa・sであった。
【0035】
高分子量β−グルカン粉末中のβ−1,3−1,4−グルカンの分子量分布は図1に示す通りであった。また、高分子量β−グルカン粉末中のβ−1,3−1,4−グルカンの重量平均分子量は約90万Daであった。分子量分布及び重量平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により行った。GPC条件は下記の通りである。ポンプは2台(ポンプA、B)使用し、ポンプA、Bには、それぞれ溶離液A、Bを流した。分析用サンプルとしては、高分子量β−グルカン粉末10mgを水10mLに溶解した溶液を0.45μmのフィルターで濾過して得た濾液を使用した。分子量分布及び重量平均分子量は、プルラン標準品(Shodex)を用いて作成した検量線に基づいて決定した。
【0036】
GPC条件:
・オーブン温度:40℃
・カラム:Shodex OHPak SB−805HQ(分子量400万排除)
+ Shodex OHPak SB−804HQ(分子量100万排除)
+ Shodex OHPak SB−803HQ(分子量10万排除)
・ミキシングコイル:内径0.5mm,空寸体積0.5mLのステンレスチューブ
・溶離液A:超純水
流量:1mL/分
・溶離液B:カルコフロー溶液
流量:0.5mL/分
・HPLC装置:島津製作所 LC−10 Series
システムコントローラー:SCL−10Avp
ポンプ:LC−10ATvp
オーブン:CTO−10ACvp
オートサンプラー:SIL−10ADvp
検出器:RID−10A,RF−10AxL
・解析ソフトウェア:Class−VP,Class−VP用GPC解析ソフトウェア
・検出器:示差屈折率(RI)検出器(温度:40℃);蛍光(FL)検出器(励起波長:360nm;蛍光波長:420nm)
・注入量:100μL
・分析時間:40分
【0037】
高分子量β−グルカン粉末の成分組成は表1に示す通りであった。表中、各成分量の単位は質量%である。なお、β−1,3−1,4−グルカン量は、カルコフローを用いたFL分析により測定されたものである。
【0038】
【表1】
【0039】
[低分子量β−グルカン粉末の調製及び分析]
ステンレス製プラントマイクロ抽出機(20L)に水10Lを入れ、80℃まで昇温後、高分子量β−グルカン粉末300gを投入した。攪拌後、更に水10L及び高分子量β−グルカン粉末300gを投入して、80℃で1時間攪拌した。62℃まで冷却してβ−グルカナーゼ(新日本化学工業)300mgを添加した後、再び80℃まで昇温して10分間保持した。その後、混合液をステンレスパット上で凍結乾燥し、得られた固形物をラボミルサー(IFM−150、岩谷産業)で2分間断続粉砕して、低分子量β−グルカン粉末を得た。
【0040】
低分子量β−グルカン粉末の0.2%水溶液の粘度は1.20mPa・sであった。
【0041】
低分子量β−グルカン粉末中のβ−1,3−1,4−グルカンの分子量分布は図1に示す通りであった。また、低分子量β−グルカン粉末中のβ−1,3−1,4−グルカンの重量平均分子量は約10万Daであった。分子量分布及び重量平均分子量の測定は、高分子量β−グルカン粉末の場合と同様にして行った。
【0042】
[試験例1]
(マウスの群分け)
一般状態が良好なマウス(4週齢、雄、C57BL/6Jマウス、日本チャールス・リバー)24頭を、初体重(平均)が群間でバラつかないように各群8頭の3群(セルロース群、高分子量β−グルカン群、低分子量β−グルカン群)に分けた。
【0043】
(試験飼料の調製)
各群のマウスに投与する試験飼料は、粉末飼料AIN93Gをベースにして、表2の組成が得られるように調製した。表中、各成分量の単位はg/kg飼料である。
【0044】
【表2】
【0045】
(試験飼料の投与)
1週間馴化飼育した後、各群のマウスに所定の試験飼料及び水道水を8週間自由に摂取させた。馴化飼育期間及びその後の試験飼料投与期間を通じて、マウスは、温度22±3℃、相対湿度55±20%、換気回数12回/時、明暗時間12時間(明期:8時〜20時)の条件下で集団飼育した。馴化飼育期間中は、飼料としてAIN93Gをそのまま使用した。
【0046】
(脂肪細胞サイズ、糞中総脂質量の測定)
試験飼料投与期間終了後、各群のマウスについて、エーテル麻酔下、心採血、解剖を行い、腸間膜脂肪細胞サイズ、副睾丸周辺脂肪細胞サイズ、後腹壁脂肪細胞サイズ及び糞中総脂質量を測定した。
【0047】
(結果)
結果(平均±標準偏差)を表3、4及び図2〜5に示す。図2〜4は、それぞれ、各群のマウスの腸間膜脂肪細胞サイズ、副睾丸周辺脂肪細胞サイズ及び後腹壁脂肪細胞サイズを示すグラフである。図5は、各群のマウスの糞中総脂質量を示すグラフである。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
表3及び図2〜4から明らかなように、腸間膜脂肪細胞サイズ、副睾丸周辺脂肪細胞サイズ及び後腹壁脂肪細胞サイズはいずれも、低分子量β−グルカン群において、セルロース群及び高分子量β−グルカン群に比べて低い値を示し、特にセルロース群に比べて顕著に低い値を示した。また、表4及び図5から明らかなように、糞中総脂質量は、低分子量β−グルカン群において、セルロース群及び高分子量β−グルカン群に比べて高い値を示し、特にセルロース群に比べて顕著に高い値を示した。
【0051】
[試験例2]
(マウスの群分け)
一般状態が良好なマウス(4週齢、雄、C57BL/6Jマウス、日本チャールス・リバー)30頭を、初体重(平均)が群間でバラつかないように各群10頭の3群(セルロース群、高分子量β−グルカン群、低分子量β−グルカン群)に分けた。
【0052】
(試験飼料の調製)
各群のマウスに投与する試験飼料は、試験例1と同様にして調製した。
【0053】
(試験飼料の投与)
1週間馴化飼育した後、各群のマウスに所定の試験飼料及び水道水を8週間自由に摂取させた。馴化飼育期間及びその後の試験飼料投与期間を通じて、マウスは、温度22±3℃、相対湿度55±20%、換気回数12回/時、明暗時間12時間(明期:8時〜20時)の条件下で個別飼育した。馴化飼育期間中は、飼料としてAIN93Gをそのまま使用した。
【0054】
(脂肪重量、脂肪細胞サイズ、血漿AST、肝臓トリグリセリド量の測定)
試験飼料投与期間終了後、各群のマウスについて、エーテル麻酔下、心採血、解剖を行い、腸間膜脂肪重量、副睾丸周辺脂肪重量、後腹壁脂肪重量、腸間膜脂肪細胞サイズ、血漿AST及び肝臓トリグリセリド量を測定した。なお、血漿ASTは、一般に肝機能の指標として用いられる。
【0055】
肝臓トリグリセリド量は、Folch法により測定した。具体的には、まず、マウスの肝臓を摘出し、これを凍結乾燥した。凍結乾燥した肝臓0.2gをクロロホルム/メタノール(2:1(体積比))20mLで一晩抽出した後、遠心分離(3000rpm、10分)を行い、上清を回収した。次いで、遠心分離で得られた沈殿物にクロロホルム/メタノール(2:1(体積比))10mLを添加、攪拌し、更に遠心分離(3000rpm、10分)を行い、上清を回収した。得られた全ての上清を合わせて濾紙(No.2)で濾過し、濾液をクロロホルム/メタノール(2:1(体積比))で50mLに定容して、肝臓脂質抽出液を得た。抽出液5mLを分取し、Folch水洗用ブランク[クロロホルム/メタノール/水(3:28:47(体積比))]で水洗後、溶媒を窒素気流下、60℃で蒸発、乾固させた。これをイソプロパノール0.5mLに溶解して、検液を得た。検液中のトリグリセリド量を、トリグリセライドE−テストワコー(和光純薬工業)を用いて測定した。
【0056】
(結果)
結果(平均±標準偏差)を表5〜11及び図6〜12に示す。図6〜9は、それぞれ、各群のマウスの腸間膜脂肪重量、副睾丸周辺脂肪重量、後腹壁脂肪重量及び腹腔内総脂肪重量を示すグラフである。図6〜9において、(a)のグラフは個体当たりの脂肪重量を示し、(b)のグラフは体重100g当たりの脂肪重量を示す。図10は、各群のマウスの腸間膜脂肪細胞サイズを示すグラフである。図11は、各群のマウスの血漿ASTを示すグラフである。図12は、各群のマウスの肝臓トリグリセリド量を示すグラフである。なお、腹腔内総脂肪重量は、腸間膜脂肪重量、副睾丸周辺脂肪重量及び後腹壁脂肪重量の合計に相当する。
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
【表9】
【0062】
【表10】
【0063】
【表11】
【0064】
表5〜11及び図6〜12から明らかなように、腸間膜脂肪重量、副睾丸周辺脂肪重量、後腹壁脂肪重量、腹腔内総脂肪重量、腸間膜脂肪細胞サイズ、血漿AST及び肝臓トリグリセリド量はいずれも、低分子量β−グルカン群において、セルロース群及び高分子量β−グルカン群に比べて低い値を示し、特にセルロース群に比べて顕著に低い値を示した。
【0065】
以上の実施例により、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンは、内臓脂肪蓄積抑制作用、脂肪細胞肥大化抑制作用、肝機能改善作用及び肝臓トリグリセリド蓄積抑制作用を有し、メタボリックシンドローム改善又は予防剤の成分として有用であることが確認された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリックシンドローム改善又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メタボリックシンドローム(内臓脂肪の蓄積に起因して高血圧、高脂血症、糖尿病等の生活習慣病が発症した状態)は、動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞等)の発症リスクを高めるものとして広く認知されるようになっている。
【0003】
メタボリックシンドローム改善又は予防剤としては、例えば、水溶性β−グルカンを最大含有量とする食物繊維集合体を有効成分として含有するものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/077929号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、メタボリックシンドローム改善又は予防剤としては、生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能なものが望ましい。しかしながら、そのようなメタボリックシンドローム改善又は予防剤に関しては、未だ、消費者の多様な需要を満たすのに十分な選択肢が存在するとはいえないのが実情である。
【0006】
そこで、本発明は、生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能な新規のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、低分子量のβ−1,3−1,4−グルカンをマウスに投与すると、大麦抽出物に含まれる高分子量のβ−1,3−1,4−グルカンを投与した場合に比べて、内臓脂肪の蓄積を始めとするメタボリックシンドロームの症状が強く抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンを有効成分として含有するメタボリックシンドローム改善又は予防剤を提供する。
【0009】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、内臓脂肪の蓄積を抑制し、また、脂肪細胞の肥大化を抑制することを可能とする。そして、そのような作用を介して、内臓脂肪型肥満ないしメタボリックシンドロームを改善(治療、軽減)及び予防することを可能とする。ここで、内臓脂肪の「蓄積の抑制」とは、内臓脂肪の増大を抑制するか、内臓脂肪を低減させることをいうものとする。
【0010】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤はまた、肝機能を改善し、また、肝臓トリグリセリドの蓄積を抑制することを可能とする。そして、そのような作用を介して、肝障害(脂肪肝、肝炎、肝線維化、肝硬変、肝癌等)を抑制(治療、軽減、予防)することを可能とする。ここで、肝臓トリグリセリドの「蓄積の抑制」とは、肝臓トリグリセリドの増大を抑制するか、肝臓トリグリセリドを低減させることをいうものとする。また、肝機能が改善されたかどうかは、例えば、血漿AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)が低下したかどうかで判定することができる。
【0011】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、内臓脂肪蓄積抑制作用及び脂肪細胞肥大化抑制作用を有することから、内臓脂肪蓄積抑制剤又は脂肪細胞肥大化抑制剤として使用することもできる。
【0012】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤はまた、肝機能改善作用、肝臓トリグリセリド蓄積抑制作用及び肝障害抑制作用を有することから、肝機能改善剤、肝臓トリグリセリド蓄積抑制剤又は肝障害抑制剤として使用することもできる。
【0013】
β−1,3−1,4−グルカンはイネ科植物(特に大麦、オート麦)に多く含有されるものであり、生体に対する安全性が確立されている。そのため、本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能であり、医薬品、飲食品、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等の成分として使用するのに好適である。
【0014】
また、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンは、高分子量のものに比べて水溶性が高く、また、溶液の粘度が低い。この点でも、本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、医薬品、飲食品、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等の成分として使用するのに好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生体に対する安全性が高く、日常的、継続的に摂取可能な新規のメタボリックシンドローム改善又は予防剤が提供される。また、そのようなメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する医薬品、飲食品、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】β−グルカン粉末中のβ−1,3−1,4−グルカンの分子量分布曲線である。
【図2】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの腸間膜脂肪細胞サイズを示すグラフである。
【図3】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの副睾丸周辺脂肪細胞サイズを示すグラフである。
【図4】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの後腹壁脂肪細胞サイズを示すグラフである。
【図5】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの糞中総脂質量を示すグラフである。
【図6】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの腸間膜脂肪重量を示すグラフである。
【図7】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの副睾丸周辺脂肪重量を示すグラフである。
【図8】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの後腹壁脂肪重量を示すグラフである。
【図9】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの腹腔内総脂肪重量を示すグラフである。
【図10】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの腸間膜脂肪細胞サイズを示すグラフである。
【図11】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの血漿ASTを示すグラフである。
【図12】β−1,3−1,4−グルカンを投与したマウスの肝臓トリグリセリド量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンを有効成分として含有する。
【0019】
本発明において、「メタボリックシンドローム」とは、内臓脂肪が蓄積され、高血圧、高脂血症、糖尿病等の生活習慣病のいずれかが発症した状態をいうものとする。例えば、日本人の場合は、「ウエスト周囲径:男性≧85cm、女性≧90cm(男女とも、内臓脂肪面積≧100cm2に相当)」という要件を満たし、かつ、下記(1)〜(3)のうちの少なくとも2つの要件を満たせば、メタボリックシンドロームと診断することができる(日本内科学会誌、94(4)、794−809、2005参照)。
(1)リポタンパク異常: 高トリグリセリド血症(トリグリセリド値≧150mg/dL)及び/又は低HDLコレステロール血症(HDLコレステロール値<40mg/dL)
(2)血圧高値: 収縮期血圧≧130mmHg及び/又は拡張期血圧≧85mmHg
(3)高血糖: 空腹時血糖≧110mg/dL
【0020】
本発明において、β−1,3−1,4−グルカンは、β−1,3−グルコシド結合及びβ−1,4−グルコシド結合を有するβ−グルカンであればよく、また、例えば、植物由来であっても、微生物(細菌、担子菌等)由来であってもよい。β−1,3−1,4−グルカンを得る天然物としては、β−1,3−1,4−グルカンの含有量が多い点で、例えば、イネ科植物(大麦、オート麦、ライ麦、はと麦、小麦等)が好適であり、特に大麦及びオート麦が好適である。また、例えば、イネ科植物から得る場合は、種子が好適である(全粒、胚乳、糠等のいずれでもよい)。
【0021】
重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンは、例えば、大麦種子を粉砕し、粉砕物をα−アミラーゼで処理して高分子量β−1,3−1,4−グルカン(重量平均分子量:70万〜120万Da)を得、更にこれをβ−グルカナーゼで処理することによって得ることができる。ここで、大麦種子粉砕物のα−アミラーゼ処理は、例えば、80〜95℃の水中で、40〜60分間、粉砕物とα−アミラーゼとを攪拌することによって行うことができる。α−アミラーゼ処理後、固液分離を行い、液層をアルコール(メタノール、エタノール等)で沈殿させて濃縮すれば、高分子量β−1,3−1,4−グルカンを得ることができる。高分子量β−1,3−1,4−グルカンのβ−グルカナーゼ処理は、例えば、50〜60℃の水中で、5〜30分間、高分子量β−1,3−1,4−グルカンとβ−グルカナーゼとを攪拌することによって行うことができる。β−グルカナーゼ処理後、濃縮を行えば、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンを得ることができる。なお、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンは、市販のものがあれば、それを使用してもよい。
【0022】
本発明において、β−1,3−1,4−グルカンの重量平均分子量は5万〜50万Daであればよいが、例えば、5万〜30万Daが好ましく、5万〜20万Daがより好ましく、5万〜15万Daが更に好ましい。
【0023】
β−1,3−1,4−グルカンの重量平均分子量は、公知の方法(例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、ゲル濾過クロマトグラフィー(GFC))により測定することができる。また、重量平均分子量の決定に用いる検量線は、例えばプルランの標準品を用いて作成することができる。
【0024】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、固体(例えば、凍結乾燥させて得られる粉末)、液体(水溶性又は脂溶性の溶液又は懸濁液)、ペースト等のいずれの形状でもよく、また、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、軟膏剤、硬膏剤等のいずれの剤形をとってもよい。また、本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンからなるものであってもよい。
【0025】
上述の各種製剤は、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンと、薬学的に許容される添加剤(賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等)と、を混和することによって調製することができる。
【0026】
例えば、賦形剤としては、ラクトース、スクロース、デンプン、デキストリン等が挙げられる。結合剤としては、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、Tween60、Tween80、Span80、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。基剤としては、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール、米糠油、魚油(DHA、EPA等)、オリーブ油等が挙げられる。溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、Tween80等が挙げられる。懸濁化剤としては、上述の界面活性剤の他、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0027】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、医薬、飲食品(飲料、食品)、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等の成分として使用することができる。例えば、飲料としては、水、清涼飲料水、果汁飲料、乳飲料、アルコール飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンク等が挙げられる。食品としては、パン類、麺類、米類、豆腐、乳製品、醤油、味噌、菓子類等が挙げられる。本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤はまた、特定保健用食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康食品、機能性食品、病者用食品等の成分として使用することもできる。
【0028】
飲料、食品、飼料等におけるメタボリックシンドローム改善又は予防剤(重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカン)の含有割合は、例えば、0.01〜20質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましく、0.01〜5質量%が更に好ましい。
【0029】
飲料、食品、飼料等は、当該分野で通常使用される添加物を更に含有していてもよい。そのような添加物としては、例えば、苦味料、香料、リンゴファイバー、大豆ファイバー、肉エキス、黒酢エキス、ゼラチン、コーンスターチ、蜂蜜、動植物油脂;グルテン等のタンパク質;大豆、エンドウ等の豆類;グルコース、フルクトース等の単糖類;スクロース等の二糖類;デキストロース、デンプン等の多糖類;エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール類;ビタミンC等のビタミン類;亜鉛、銅、マグネシウム等のミネラル類;CoQ10、α−リポ酸、カルニチン、カプサイシン等の機能性素材、が挙げられる。これらの添加物は、各々を単独で、又は複数種を組み合わせて使用することができる。
【0030】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、ヒトに摂取されても、非ヒト哺乳動物に摂取されてもよい。摂取量及び摂取方法は、個体の状態、年齢等に応じて適宜決定することができる。好適な摂取方法としては、例えば、経口摂取が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0032】
[高分子量β−グルカン粉末の調製及び分析]
ステンレス製抽出タンク(200L)に張った湯(約40〜50℃)約60Lに大麦(CDC Fibar)種子の粉砕物6kg及び耐熱性α−アミラーゼ(クライスターゼYC15、大和化成)300gを投入し、95℃で60分間攪拌した。その後、混合液10Lをポリタンクに分注し、20℃、8000rpmで20分間遠心分離した。得られた半透明、高粘度の上清約45Lをドラム缶リフト(250L)に投入し、メタノール約140Lを添加して、十分な攪拌後、1時間静置した。
【0033】
静置後、混合液をステンレス篩(φ400)上に流し込んで固形物を分取した。メタノール20Lで洗浄し、防爆用エバポレーターでメタノールを除去した後、ステンレスパット上で固形物を凍結乾燥した。凍結乾燥した固形物をラボミルサー(IFM−150、岩谷産業)で2分間断続粉砕して、高分子量β−グルカン粉末を得た。
【0034】
高分子量β−グルカン粉末の0.2%水溶液の粘度は3.49mPa・sであった。
【0035】
高分子量β−グルカン粉末中のβ−1,3−1,4−グルカンの分子量分布は図1に示す通りであった。また、高分子量β−グルカン粉末中のβ−1,3−1,4−グルカンの重量平均分子量は約90万Daであった。分子量分布及び重量平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により行った。GPC条件は下記の通りである。ポンプは2台(ポンプA、B)使用し、ポンプA、Bには、それぞれ溶離液A、Bを流した。分析用サンプルとしては、高分子量β−グルカン粉末10mgを水10mLに溶解した溶液を0.45μmのフィルターで濾過して得た濾液を使用した。分子量分布及び重量平均分子量は、プルラン標準品(Shodex)を用いて作成した検量線に基づいて決定した。
【0036】
GPC条件:
・オーブン温度:40℃
・カラム:Shodex OHPak SB−805HQ(分子量400万排除)
+ Shodex OHPak SB−804HQ(分子量100万排除)
+ Shodex OHPak SB−803HQ(分子量10万排除)
・ミキシングコイル:内径0.5mm,空寸体積0.5mLのステンレスチューブ
・溶離液A:超純水
流量:1mL/分
・溶離液B:カルコフロー溶液
流量:0.5mL/分
・HPLC装置:島津製作所 LC−10 Series
システムコントローラー:SCL−10Avp
ポンプ:LC−10ATvp
オーブン:CTO−10ACvp
オートサンプラー:SIL−10ADvp
検出器:RID−10A,RF−10AxL
・解析ソフトウェア:Class−VP,Class−VP用GPC解析ソフトウェア
・検出器:示差屈折率(RI)検出器(温度:40℃);蛍光(FL)検出器(励起波長:360nm;蛍光波長:420nm)
・注入量:100μL
・分析時間:40分
【0037】
高分子量β−グルカン粉末の成分組成は表1に示す通りであった。表中、各成分量の単位は質量%である。なお、β−1,3−1,4−グルカン量は、カルコフローを用いたFL分析により測定されたものである。
【0038】
【表1】
【0039】
[低分子量β−グルカン粉末の調製及び分析]
ステンレス製プラントマイクロ抽出機(20L)に水10Lを入れ、80℃まで昇温後、高分子量β−グルカン粉末300gを投入した。攪拌後、更に水10L及び高分子量β−グルカン粉末300gを投入して、80℃で1時間攪拌した。62℃まで冷却してβ−グルカナーゼ(新日本化学工業)300mgを添加した後、再び80℃まで昇温して10分間保持した。その後、混合液をステンレスパット上で凍結乾燥し、得られた固形物をラボミルサー(IFM−150、岩谷産業)で2分間断続粉砕して、低分子量β−グルカン粉末を得た。
【0040】
低分子量β−グルカン粉末の0.2%水溶液の粘度は1.20mPa・sであった。
【0041】
低分子量β−グルカン粉末中のβ−1,3−1,4−グルカンの分子量分布は図1に示す通りであった。また、低分子量β−グルカン粉末中のβ−1,3−1,4−グルカンの重量平均分子量は約10万Daであった。分子量分布及び重量平均分子量の測定は、高分子量β−グルカン粉末の場合と同様にして行った。
【0042】
[試験例1]
(マウスの群分け)
一般状態が良好なマウス(4週齢、雄、C57BL/6Jマウス、日本チャールス・リバー)24頭を、初体重(平均)が群間でバラつかないように各群8頭の3群(セルロース群、高分子量β−グルカン群、低分子量β−グルカン群)に分けた。
【0043】
(試験飼料の調製)
各群のマウスに投与する試験飼料は、粉末飼料AIN93Gをベースにして、表2の組成が得られるように調製した。表中、各成分量の単位はg/kg飼料である。
【0044】
【表2】
【0045】
(試験飼料の投与)
1週間馴化飼育した後、各群のマウスに所定の試験飼料及び水道水を8週間自由に摂取させた。馴化飼育期間及びその後の試験飼料投与期間を通じて、マウスは、温度22±3℃、相対湿度55±20%、換気回数12回/時、明暗時間12時間(明期:8時〜20時)の条件下で集団飼育した。馴化飼育期間中は、飼料としてAIN93Gをそのまま使用した。
【0046】
(脂肪細胞サイズ、糞中総脂質量の測定)
試験飼料投与期間終了後、各群のマウスについて、エーテル麻酔下、心採血、解剖を行い、腸間膜脂肪細胞サイズ、副睾丸周辺脂肪細胞サイズ、後腹壁脂肪細胞サイズ及び糞中総脂質量を測定した。
【0047】
(結果)
結果(平均±標準偏差)を表3、4及び図2〜5に示す。図2〜4は、それぞれ、各群のマウスの腸間膜脂肪細胞サイズ、副睾丸周辺脂肪細胞サイズ及び後腹壁脂肪細胞サイズを示すグラフである。図5は、各群のマウスの糞中総脂質量を示すグラフである。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
表3及び図2〜4から明らかなように、腸間膜脂肪細胞サイズ、副睾丸周辺脂肪細胞サイズ及び後腹壁脂肪細胞サイズはいずれも、低分子量β−グルカン群において、セルロース群及び高分子量β−グルカン群に比べて低い値を示し、特にセルロース群に比べて顕著に低い値を示した。また、表4及び図5から明らかなように、糞中総脂質量は、低分子量β−グルカン群において、セルロース群及び高分子量β−グルカン群に比べて高い値を示し、特にセルロース群に比べて顕著に高い値を示した。
【0051】
[試験例2]
(マウスの群分け)
一般状態が良好なマウス(4週齢、雄、C57BL/6Jマウス、日本チャールス・リバー)30頭を、初体重(平均)が群間でバラつかないように各群10頭の3群(セルロース群、高分子量β−グルカン群、低分子量β−グルカン群)に分けた。
【0052】
(試験飼料の調製)
各群のマウスに投与する試験飼料は、試験例1と同様にして調製した。
【0053】
(試験飼料の投与)
1週間馴化飼育した後、各群のマウスに所定の試験飼料及び水道水を8週間自由に摂取させた。馴化飼育期間及びその後の試験飼料投与期間を通じて、マウスは、温度22±3℃、相対湿度55±20%、換気回数12回/時、明暗時間12時間(明期:8時〜20時)の条件下で個別飼育した。馴化飼育期間中は、飼料としてAIN93Gをそのまま使用した。
【0054】
(脂肪重量、脂肪細胞サイズ、血漿AST、肝臓トリグリセリド量の測定)
試験飼料投与期間終了後、各群のマウスについて、エーテル麻酔下、心採血、解剖を行い、腸間膜脂肪重量、副睾丸周辺脂肪重量、後腹壁脂肪重量、腸間膜脂肪細胞サイズ、血漿AST及び肝臓トリグリセリド量を測定した。なお、血漿ASTは、一般に肝機能の指標として用いられる。
【0055】
肝臓トリグリセリド量は、Folch法により測定した。具体的には、まず、マウスの肝臓を摘出し、これを凍結乾燥した。凍結乾燥した肝臓0.2gをクロロホルム/メタノール(2:1(体積比))20mLで一晩抽出した後、遠心分離(3000rpm、10分)を行い、上清を回収した。次いで、遠心分離で得られた沈殿物にクロロホルム/メタノール(2:1(体積比))10mLを添加、攪拌し、更に遠心分離(3000rpm、10分)を行い、上清を回収した。得られた全ての上清を合わせて濾紙(No.2)で濾過し、濾液をクロロホルム/メタノール(2:1(体積比))で50mLに定容して、肝臓脂質抽出液を得た。抽出液5mLを分取し、Folch水洗用ブランク[クロロホルム/メタノール/水(3:28:47(体積比))]で水洗後、溶媒を窒素気流下、60℃で蒸発、乾固させた。これをイソプロパノール0.5mLに溶解して、検液を得た。検液中のトリグリセリド量を、トリグリセライドE−テストワコー(和光純薬工業)を用いて測定した。
【0056】
(結果)
結果(平均±標準偏差)を表5〜11及び図6〜12に示す。図6〜9は、それぞれ、各群のマウスの腸間膜脂肪重量、副睾丸周辺脂肪重量、後腹壁脂肪重量及び腹腔内総脂肪重量を示すグラフである。図6〜9において、(a)のグラフは個体当たりの脂肪重量を示し、(b)のグラフは体重100g当たりの脂肪重量を示す。図10は、各群のマウスの腸間膜脂肪細胞サイズを示すグラフである。図11は、各群のマウスの血漿ASTを示すグラフである。図12は、各群のマウスの肝臓トリグリセリド量を示すグラフである。なお、腹腔内総脂肪重量は、腸間膜脂肪重量、副睾丸周辺脂肪重量及び後腹壁脂肪重量の合計に相当する。
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
【表9】
【0062】
【表10】
【0063】
【表11】
【0064】
表5〜11及び図6〜12から明らかなように、腸間膜脂肪重量、副睾丸周辺脂肪重量、後腹壁脂肪重量、腹腔内総脂肪重量、腸間膜脂肪細胞サイズ、血漿AST及び肝臓トリグリセリド量はいずれも、低分子量β−グルカン群において、セルロース群及び高分子量β−グルカン群に比べて低い値を示し、特にセルロース群に比べて顕著に低い値を示した。
【0065】
以上の実施例により、重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンは、内臓脂肪蓄積抑制作用、脂肪細胞肥大化抑制作用、肝機能改善作用及び肝臓トリグリセリド蓄積抑制作用を有し、メタボリックシンドローム改善又は予防剤の成分として有用であることが確認された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンを有効成分として含有するメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項2】
内臓脂肪蓄積抑制剤として使用される、請求項1に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項3】
脂肪細胞肥大化抑制剤として使用される、請求項1又は2に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項4】
肝機能改善剤として使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項5】
肝臓トリグリセリド蓄積抑制剤として使用される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する飲食品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する飲食品添加物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する飼料。
【請求項1】
重量平均分子量5万〜50万Daのβ−1,3−1,4−グルカンを有効成分として含有するメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項2】
内臓脂肪蓄積抑制剤として使用される、請求項1に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項3】
脂肪細胞肥大化抑制剤として使用される、請求項1又は2に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項4】
肝機能改善剤として使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項5】
肝臓トリグリセリド蓄積抑制剤として使用される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する飲食品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する飲食品添加物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する飼料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−241699(P2010−241699A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89428(P2009−89428)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
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