説明

メタボリック症候群の包括的な治療的処置又は包括的予防に適した、薬物又は補助食品の形態の、キトサンを有する組成物

本発明は、メタボリック症候群の包括的な治療的処置又は包括的予防に適した、薬物又は保険食品の形態の、キトサンを有する組成物に関する。また、その調製方法についても述べる。より一般的には、本発明は、メタボリック症候群の包括的な治療的処置又は包括的予防のためのキトサンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリック症候群の包括的な治療的処置又は包括的予防に適した、薬物又は補助食品の形態の、キトサンを有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
20年来、脂質異常症、グルコース耐性、高血圧及び肥満などの疾患と種々関連する心臓血管疾患及びII型糖尿病の持続的な増加は、最も明らかな原因と考えられる食品衛生の成分の食事要素に加えて、これらの病態の可能な共通の原因の同定をもたらしており、「症候群」と組み合わされるべき上記の症候群の全てを引き起こしてきている。このように定義された症候群の共通の原因は、インスリン耐性であると最初は同定された(非特許文献1)。
【0003】
種々の名称がこの新規の症候群について提案されており、例えば、症候群X、リーベン症候群(Reaven’s syndrome)(最初にインスリン耐性を同定した人物)、メタボリック、多重性メタボリック(multiple metabolic)、プルリメタボリック(plurimetabolic)、ディスメタボリック(dysmetabolic)、心臓血管ディスメタボリック(cardiovascular dysmetabolic)及びカルディオメタボリックシンドローム(cardiometabolic syndrome)又はシンドロームの用語ではなく、「H現象(H phenomenon)」又は「死の四重奏(deadly quartet)」などが挙げられる。このような名称な違いは、いまなお現存する。しかしながら、このような関連性を定義するのに「メタボリック症候群」との暗黙の一致がある。
【0004】
1998年以来、WHOは、メタボリックシンドロームの患者を診断する種々の主要な特性を提案してきた(非特許文献2)。
【0005】
2005年、全米コレステロール教育プログラム成人処置パネルIII(National Cholesterol Education Adult Treatment Panel III;ATP III)は、その予防とより一層関連した成果をもって、メタボリックシンドロームの分類を再提案した(非特許文献3)。AACE(米国臨床内分泌学会)、EGIR(欧州グループ勉強会インスリン耐性;European Group Study Insulin Resistance)、及びIDF(国際糖尿病基金;International Diabetes Foundation)などのその他の分類も存在し、これらは、同様のパラメーターに基づいており、このパラメーターを評価する最大値又は最小値に若干の違いがあるのみである。メタボリック症候群(以下、MSと表記する。)の分類は、ATP IIIの2005年のものとして、下記の通り参照されている。参照される診断的パラメーターは、MS、並びに続く心臓血管及び内分泌の関係の診断及び予防を促進するために、非常に簡単で、容易に同定し得るものである;しかしながら、全体としてMSを扱う治療が存在しないままである。
【0006】
今日でさえ、示唆された治療は、事実、単一の特定の治療で個々の病態、つまり、別々に高血圧、脂肪異常症及び過剰な体重などを処置することであって、これらのそれぞれは、重篤な病態(心臓血管疾患、II型糖尿病)のリスクを伴うものである。
【0007】
キトサンを含む、個々の病態の治療として、多くの方法及び化合物が提案されてきており、これは、体重及びコレステロールのレベルを低減するのに提案されている(非特許文献4及び5)。
【0008】
経口血糖降下剤(チアゾリデンジオン又はメトフォルミン)を用いたMSへの試験的な治療が提案されており、その活性は、確認が待たれる。しかしながら、これらは、血糖値及びインスリン感受性を改変することを標的としており、これらは、MSの一部のみを示す病態に過ぎない。
【非特許文献1】Reaven GM,”Banting lecture, 1988: Role of insulin resistance in human disease”、Diabetes、1988年、37巻、p.1595−1607
【非特許文献2】Albertiら著、”Definition, diagnosis and classification of diabetes mellitus and its complications. Part 1 : diagnosis and classification of diabetes mellitus: provisional report of a WHO consultation.”、Diabetes Med.、1998年、15巻、p.539−553
【非特許文献3】Grundy SMら著、”Diagnosis and management of the Metabolic Syndrome. An American Heart Association/National Heart, Lung, and Blood Institute scientific statement.”、Circulation、2005年、112巻、p.e285−290
【非特許文献4】Singla AKら著、”Some pharmaceutical and biological aspects − an update.”、Journal of Pharmacy and Pharmacology、2000年、53巻、p.1047−1067
【非特許文献5】Schillerら著、”A randomized, double blind, placebo controlled study examining the effect of a rapidly soluble chitosan dietary supplement on weight loss and body composition in overweight and mildly obese individuals.”、JANA、2001年、4巻、p.42−49
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、単一の治療で、メタボリック症候群に関連した病態を包括的に処置することが問題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、薬物又は保険食品の形態で、キトサンを有する組成物に関するものであって、メタボリック症候群の包括的な治療又は包括的な予防に適するものである。また、その方法についても述べる。
【0011】
さらに一般的に、本発明は、メタボリック症候群の包括的な治療的処理及び包括的な予防用のキトサンの使用に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
下記の用語は、下記の意味を有する:
【0013】
メタボリック症候群(MS)−ATP IIIの2005年の分類に従ってともに診断される一群の病態、及び単一の病因に貢献し得る可能性のあるもの。
【0014】
ATP III 2005年−患者がMSを罹患しているかどうかを診断する分類。MSとして分類されるのは、下記のパラメーターのうち少なくとも3つのものが、患者において陽性と評価される必要がある。
a)ウェスト周りが、男性で102cmを超え、女性で88cmを超えること
b)トリグリセリドのレベルが、150mg/dLを超えること
c)HDLコレステロールのレベルが、男性で40mg/dL未満、女性で50mg/dL未満であること
d)動脈血圧が、130/85mmHg以上であること
e)空腹時血糖が高いレベル(110mg/dLを超える)であること、又はグルコース負荷曲線が変化されていること
【0015】
本発明は、メタボリック症候群(MS)の包括的な治療的処置又は包括的な予防に適した、薬物又は保険食品の形態の、キトサンを有する組成物に関する。
【0016】
驚くべきことに、医薬組成物又は保険食品が、ATP IIIの2005年の基準に従って分類されたMSの病態の包括的な治療的処置又は包括的な予防に適して、調製され得ることを見出した。
【0017】
特に、キトサンは、動脈血圧を130/85mmHg未満に低減するとともに、グルコースの基底レベルを110mg/dL未満と低減するのを誘導することが見出された。
【0018】
本発明の組成物は、キトサンに加えて、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、並びに酒石酸などのその他の賦形剤及び/又はアジュバント及び/又は香料を含有してもよい。
【0019】
また、本発明の組成物は、存在するキトサンの重量に対して、1〜10重量%の量でアスコルビン酸を好ましく有し、さらに好ましくは、4〜8重量%を有する。
【0020】
本発明の組成物は、錠剤の形態が好ましい種々の医薬的に許容な形態で調製されてもよいが、種々の投与手段が可能であり、考慮され得るものである。
【0021】
本発明の組成物におけるキトサンの量は、可変であって、投与量に依存する:好ましくは、単位投与形態当たり、0.1〜1.5g、さらに好ましくは、0.25〜1g、よりさらに好ましくは400〜600mgのキトサンを含有する。
【0022】
本発明のさらなる態様は、メタボリック症候群の包括的な治療的処置又は包括的な予防に適した、医薬組成物又は保険食品を調製する方法であって、キトサンを、適当な賦形剤若しくは希釈剤又は相補的な活性を有する適当な物質と混ぜ合わせることによるものである。種々の化合物を薬物又は保険食品中に混ぜ合わせることにより調製する全ての公知の方法を使用し得る。錠剤の調製方法、特に、アスコルビン酸及びステアリン酸マグネシウムを含有する錠剤の調製方法が、好ましい。
【0023】
本発明のさらなる態様は、メタボリック症候群の包括的な治療的処置又は包括的な予防に適した薬物又は保険商品の調製への、キトサンの使用に関する。特に、キトサンを使用することにより、体重及びコレステロールのレベルを低減し得るとともに、グルコースの基底レベルを、110mg/dL未満に、動脈血圧を130/85mmHg未満に、それぞれ低減可能である。
【実施例】
【0024】
(例1)
メタボリック症候群を構成する病態に対する、キトサンを含有する錠剤の効果を評価する臨床的検討
20から75歳の年齢の70人の被検者を登録した。許容基準は、下記のパラメーターを満たすように要求した:体格指数(BMI)>25kg/m、全コレステロールのレベル>150mg/dL
【0025】
登録された全ての被検者は、Spoltore/San Valentino(PE)の実験センターに集合し、センターの研究者によって、必要な臨床パラメーターについて、検討された。被検者は、食物の摂取及び生理的活動を一定に保つように要求され、これにより、検討下の治療作用を最も良好な様式で評価し得ることとなる。全ての被検者には、検討下の処置の前及び終期(3ヶ月後)において、血液学的及び血液化学的検討が行われた。実験的評価のため、血液採取を行う前12時間に絶食を要求した。上腕静脈から適当にヘパリン化されたチューブに血液を採取し、続いて遠心分離して、実験的評価を行う血漿を単離した。全ての試験は、血液の採取後4時間以内に行い、これを評価まで氷上で保持した。
【0026】
70人の登録した被検者のうち64人について、試行を完了した。6人の失踪したケースは、産物の採取の月毎に訪れず、従って、結果の計算からは除外した。表1には、処置を完了した登録した被検者の一般的特徴を記載した。
【0027】
表1.処置下の被検者の一般的特徴
平均年齢±SD(標準偏差);MS=ATP III 2005年の基準に従ったメタボリック症候群
【0028】
【表1】

【0029】
2つの患者グループについて、表2に示す臨床的/診断的パラメーターの特徴付けを行った。
【0030】
表2.診断目的で考慮されるパラメーター:平均±SD
MS=ATP III 2005年の基準に従ったメタボリック症候群
MxBP=最大動脈血圧
MnBP=最小動脈血圧
【0031】
【表2】

【0032】
*p<0.05;MS有りとMSなしとを比較した、独立データに関するt−検定
【0033】
全ての患者に関し、3ヶ月間、4錠/日の投与量で処置を開始した。製品の各錠剤は、91%のキトサン(下記の表3の特徴を有するもの)と、6%のアスコルビン酸と、3%の酒石酸とからなる混合物500mgを含有する。
【0034】
表3.キトサンの特徴
【0035】
【表3】

【0036】
簡便のため、この組成物を、ポリグルコサミン、又はPGと称する(検討下及び/又はこの紙面において、体重及び脂質異常症について全ての実験試行に使用する用語)。主食の前30分において、グラスの半分の水で2錠/食事の程度で錠剤を消費した。従って、日の投与量は、2g/日であった。結果を表4に示す。
【0037】
表4.PG治療後のMS有り及びMSなしの患者間のパラメーター及び差異の比較
【0038】
【表4】

【0039】
*p<0.05;独立データに関するt−検定
【0040】
示したデータが示すように、2つのグループ間の効果の差異は、実質的なものではなかった。最大動脈血圧及び最小動脈血圧の両方での処置で誘導された作用のみが明らかに異なっていた。
【0041】
MSは、多重的なパラメーターを構成要素とするものであるので、示した平均的なデータは、安定する傾向にある。この点、標準的な血圧、高い血糖値、肥満及び高いトリグリセリドの患者(ATP IIIの2005年の5つのパラメーターのうち、下記のものとは異なる3つが変化)のように、高い血糖値及び肥満の高血圧患者は、MSにより影響を受けた(ATP IIIの2005年の5つのパラメーターのうち3つが変化)。この理由は、平均をとった種々のパラメーターが安定した傾向を有するためである。
【0042】
(例2)
キトサンの投与によりMSから回復した患者の数の評価
例1で述べた検討におけるデータの「安定(levelling out)」するという欠点を克服し、上記の治療の臨床的な有効性を同定するため、処置前のMSを有する患者を抽出し、その後、処置の後にMSから「回復」した患者の数を同定した。
【0043】
この基準に基づいて、MSに影響を受けた27のケースのうち、16以上のケースで、検討下の製品を用いた3ヶ月の処理の後にMSから回復することが分かった。
【0044】
従って、上記の製品は、全ケースの59%に効果が見られること、及びMSからのこれらの「回復」により同定されたキーとなる要素は、グルコースレベルの低減及び動脈血圧の低減であることが驚くべきことに見出された。結論としては、この試行で示すのは、キトサンを基礎としたPGの産物を用いた処理は、メタボリック症候群の包括的な治療的処置及び包括的な予防に効果的であることである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタボリック症候群の包括的な処置又は包括的な予防に適した、薬物又は保険食品の形態の、キトサンを含有する組成物。
【請求項2】
前記の包括的な処置又は包括的な予防は、下記の状態:
a)ウェスト周りが、男性で102cmを超え、女性で88cmを超えること;
b)トリグリセリドのレベルが、150mg/dLを超えること;
c)HDLコレステロールのレベルが、男性で40mg/dL未満、女性で50mg/dL未満であること;
d)動脈血圧が、130/85mmHg以上であること;及び
e)空腹時血糖が高いレベル(110mg/dLを超える)であること、又はグルコース負荷曲線が変化されていること;
のうち少なくとも3つのものに関連することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記状態のひとつは、状態(e)であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記状態の2つは、状態(d)及び(e)であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
潤滑剤及び/又は賦形剤及び/又はアジュバント及び/又は香料及び/又は抗酸化剤をさらに有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記潤滑剤は、ステアリン酸マグネシウムであることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
アスコルビン酸が存在することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記アスコルビン酸は、キトサンに対して1〜10重量%の量で存在することを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記アスコルビン酸は、キトサンに対して4〜8重量%の量で存在することを特徴とする請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
錠剤の形態であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
投与単位当たり0.1〜1.5gの量でキトサンを含有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
投与単位当たり0.25〜1gの量でキトサンを含有することを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
投与単位当たり400〜600mgの量でキトサンを含有することを特徴とする請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
キトサンを適当な物質と混ぜ合わせることにより、メタボリック症候群の包括的な処置又は包括的な予防に適した、医薬組成物又は保険食品を調製する方法。
【請求項15】
前記の適当な物質は、賦形剤、アジュバント、潤滑剤、抗酸化剤及び香料から選択されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記潤滑剤は、ステアリン酸マグネシウムであることを特徴とする請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
混ぜ合わされる物質は、相補的な治療物質であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項18】
アスコルビン酸も混ぜ合わされることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記医薬組成物又は保険食品は、錠剤の形態で製造されることを特徴とする請求項14乃至18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
メタボリック症候群の包括的な処置又は包括的な予防に適した薬物又は保険食品の調製への、キトサンの使用。
【請求項21】
前記メタボリック症候群は、下記の状態:
a)ウェスト周りが、男性で102cmを超え、女性で88cmを超えること;
b)トリグリセリドのレベルが、150mg/dLを超えること;
c)HDLコレステロールのレベルが、男性で40mg/dL未満、女性で50mg/dL未満であること;
d)動脈血圧が、130/85mmHg以上であること;及び
e)空腹時血糖が高いレベル(110mg/dLを超える)であること、又はグルコース負荷曲線が変化されていること;
のうち少なくとも3つのものを有することを特徴とする請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記状態のひとつは、状態(e)であることを特徴とする請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記状態の2つは、状態(d)及び(e)であることを特徴とする請求項21に記載の使用。
【請求項24】
必要とする個々にキトサンの有効量の投与を含む、メタボリック症候群の包括的な治療的処置又は包括的な予防のための方法。
【請求項25】
前記メタボリック症候群は、下記の状態:
a)ウェスト周りが、男性で102cmを超え、女性で88cmを超えること;
b)トリグリセリドのレベルが、150mg/dLを超えること;
c)HDLコレステロールのレベルが、男性で40mg/dL未満、女性で50mg/dL未満であること;
d)動脈血圧が、130/85mmHg以上であること;及び
e)空腹時血糖が高いレベル(110mg/dLを超える)であること、又はグルコース負荷曲線が変化されていること;
のうち少なくとも3つのものを有することを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記状態のひとつは、状態(e)であることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記状態の2つは、状態(d)及び(e)であることを特徴とする請求項25に記載の方法。

【公表番号】特表2009−531306(P2009−531306A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557733(P2008−557733)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【国際出願番号】PCT/EP2007/052023
【国際公開番号】WO2007/099170
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(508266487)
【Fターム(参考)】