説明

メタボリック症候群改善剤

【課題】メタボリック症候群の症状を改善する作用に優れたメタボリック症候群改善剤を提供する。
【解決手段】本発明のメタボリック症候群改善剤は、冠元顆粒を有効成分として含有することを特徴とし、例えば、高血圧、高血糖、高中性脂肪血症及び低HDLコレステロール血症から選ばれる少なくとも一種の症状を改善することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリック症候群改善剤に係り、詳しくは冠元顆粒を有効成分として含有するメタボリック症候群改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高カロリ食、飲酒・喫煙、運動不足、ストレス等の生活習慣が原因で生ずる病気として、肥満、高血圧、高血糖、高脂血症等の生活習慣病が知られている。これらの生活習慣病は、心筋梗塞、脳梗塞等の成人病の原因とされる動脈硬化症の危険因子として知られ、社会的に重大な問題となっている。一般に、動脈硬化症の危険因子である生活習慣病のうち複数種類の生活習慣病を併発している症状をメタボリック症候群という。より具体的には、内臓脂肪蓄積等の中心性肥満の症状がある他に、高血圧、高血糖、高中性脂肪血症及び低HDLコレステロール血症のうち2つ以上の症状に該当する場合をいう。これらの症状は、食生活の改善、適度な運動以外に根本的な治療法が確立されていないのが現状である。メタボリック症候群に該当する人は、健常者に比べ、心筋梗塞や脳梗塞を発症するリスクが高いため、現在、高血圧、高血糖等のメタボリック症候群該当因子の予防薬や治療薬の開発が急務となっている。
【0003】
ところで、従来より生薬成分として「活血化お」の作用を有する紅花(コウカ)、芍薬(シャクヤク)、センキュウ及び丹参(タンジン)の4種類の薬草と、理気作用を有する香附子(コウブシ)及び木香(モッコウ)の2種類の薬草を所定の配合割合で調合した冠元顆粒が知られている。従来より、冠元顆粒は各種有効成分により中年以降又は高血圧傾向のある者の頭痛、肩こり、めまい、動悸等の症状改善に適用されている。また、特許文献1,2に記載されるような、細胞の老化を抑制する作用や糖尿病の合併症を抑制する作用も知られている。
【特許文献1】特開2006−28155号公報
【特許文献2】特開2006−63076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、天然薬草成分からなる冠元顆粒がメタボリック症候群の症状を改善する作用を有するという新規な薬理作用を解明したことによりなされたものである。その目的とするところは、メタボリック症候群の症状を改善する作用に優れたメタボリック症候群改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明のメタボリック症候群改善剤は、冠元顆粒を有効成分として含有することを特徴とする。
請求項2記載の発明は、請求項1記載のメタボリック症候群改善剤において、高血圧、高血糖、高中性脂肪血症及び低HDLコレステロール血症から選ばれる少なくとも一種の症状を改善することを特徴とする。
【0006】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載のメタボリック症候群改善剤において、動脈硬化症改善剤又は動脈硬化症予防剤として適用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、メタボリック症候群の症状を改善する作用に優れたメタボリック症候群改善剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を具体化したメタボリック症候群改善剤の一実施形態を説明する。
本実施形態のメタボリック症候群改善剤は、冠元顆粒を有効成分として含有する。メタボリック症候群とは、生活習慣病のうち複数種類の生活習慣病を併発している症状のことをいう。より具体的には、メタボリック症候群とは中心性肥満の症状がある他に、高血圧、高血糖、高中性脂肪血症及び低HDLコレステロール血症のうち2つ以上の症状に該当する場合をいう。一般に、高カロリ食、飲酒・喫煙、運動不足、ストレス等の生活習慣が原因で生ずる病気として、肥満、高血圧、高血糖、高脂血症等の生活習慣病が知られている。これらの生活習慣病は、心臓病等の成人病の原因とされる動脈硬化症の危険因子として知られている。動脈硬化が進行すると例えば、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、腎不全、閉塞型動脈硬化症等の循環器病を発症する。したがって、メタボリック症候群に該当する患者は、健常者に比べ、動脈硬化症に伴う心筋梗塞や脳梗塞等を発症するリスクが高くなる。本実施形態のメタボリック症候群改善剤は、有効成分である冠元顆粒によりメタボリック症候群該当因子である生活習慣病の改善作用を発揮する。
【0009】
メタボリック症候群の定義である中心性肥満とは、体の中心、すなわちお腹(内臓)に脂肪が溜まることをいい、内臓脂肪型肥満ともいう。腹部CT撮影により判別することが可能である。簡易的な判断基準としては、ウエストサイズ(おへその高さの腹囲)を用いる場合、男性で85cm以上、女性で90cm以上を指す。ウエスト/ヒップ比を用いる場合、男性で0.9以上、女性で0.85以上を指す。BMI(ボディマス指数:体重(kg)/身長(m))を用いる場合、30以上を示す。内臓脂肪型肥満は、皮下脂肪型肥満に比べより動脈硬化症との関連性が高いとされる。
【0010】
メタボリック症候群における高血圧とは、具体的には、最大血圧130mmHg以上及び最小血圧85mmHg以上の少なくとも一方に該当する場合をいう。高血圧症状が生ずると高い圧力によって血管内皮の損傷及び血管壁の肥厚化をもたらす。それらの症状が進行することによって動脈硬化症が起こる。動脈硬化症が悪化すると硬くなった血管がさらに高血圧を助長するという悪循環が生ずる。
【0011】
メタボリック症候群における高血糖とは、空腹時に血糖値が110mg/dl以上の場合、又はグリコヘモグロビン(糖化ヘモグロビン:HbA1c)の値が5.6を超える場合を示す。グリコヘモグロビンは、ヘモグロビンがグルコースと生体内で非酵素的に共有結合した糖結合色素である。高血糖状態が長く続いた場合に赤血球中のヘモグロビンにグルコースが結合していくため、従来より糖尿病の指標の一つとしても用いられている。高血糖状態は、活性酸素及び過酸化脂質の発生を伴い血管内皮に損傷を与える。かかる血管内皮の損傷により、動脈硬化症が進行する。
【0012】
メタボリック症候群における高中性脂肪血症とは、具体的には、血中の中性脂肪の濃度が150mg/dl以上の場合を示す。中性脂肪とは、グリセリンの脂肪酸エステルであり、代表的なものがトリアシルグリセロール(トリグリセリド(TG))である。血中のTGは、リポ蛋白のコアに組み込まれた状態で運ばれる。中性脂肪は、食事による摂取の他、肝臓中においては過剰エネルギー摂取の場合に脂肪酸と糖を原料に合成される。肝臓において過剰に合成されると脂肪が過剰に蓄積された脂肪肝となり、さらに肝臓から中性脂肪が放出されると高中性脂肪血症となる。血中の中性脂肪は、健常者の場合通常約4時間で最高値を示し、約12時間で元に戻る。しかしながら、高中性脂肪血症の場合、食後の中性脂肪値が異常に高くなり、時間が経っても食前の数値への回復が穏やかである。高中性脂肪血症は、内臓脂肪型肥満や動脈硬化症の危険因子とされる。
【0013】
メタボリック症候群における低HDLコレステロール血症とは、具体的には、血中のHDLコレステロールの濃度が40mg/dl未満の場合をいう。HDLコレステロールとは高比重リポ蛋白質コレステロールのことであり、俗に善玉コレステロールとも呼ばれる。HDLコレステロールは、各細胞又は血管壁の余分なコレステロールを肝臓に戻す役割を有するため抗動脈硬化作用を有する。肝臓に戻されたコレステロールは、胆汁として排出又はホルモンやLDL(低比重リポ蛋白質)として再利用される。HDLコレステロール濃度が低くなると、全身の細胞にコレステロールを運搬するLDLコレステロール(低比重リポ蛋白質コレステロール)濃度とのバランスを崩し、動脈硬化症を促進する。
【0014】
本実施形態のメタボリック症候群改善剤は、有効成分である冠元顆粒により、上記メタボリック症候群の各症状の改善作用を発揮するため、各症状の改善剤として好ましく適用される。これらメタボリック症候群の各症状のうち、有効成分である冠元顆粒は、特に高血圧、高血糖、高中性脂肪血症及び低HDLコレステロール血症の改善作用に優れる。したがって、メタボリック症候群の患者に対する高血圧改善剤、高血糖改善剤、高中性脂肪血症改善剤及び低HDLコレステロール血症改善剤として、より好ましく適用される。さらには、高血圧、高血糖、高中性脂肪血症及び低HDLコレステロール血症は、動脈硬化の危険因子とされるものであるため、動脈硬化症改善剤又は動脈硬化症予防剤として好ましく適用することができる。
【0015】
本実施形態の有効成分である冠元顆粒は、生薬成分として「活血化お」の作用を有する紅花(コウカ)、芍薬(シャクヤク)、センキュウ及び丹参(タンジン)の4種類の薬草と、理気作用(気のめぐりを改善する)を有する香附子(コウブシ)及び木香(モッコウ)の2種類の薬草を所定の配合割合で調合した漢方薬(漢方方剤)である。
【0016】
この冠元顆粒は、1960年代に中国で脳・心血管疾患に対する治療薬の研究から誕生し、1969年には9種類の生薬からなる冠心一号方、続いて1978年には5種類の生薬(丹参、芍薬、センキュウ、紅花、降香)からなる冠心二号方が誕生し、さらに降香を木香、香附子に置き換えた冠元顆粒が1990年に日本で医薬品として承認された。
【0017】
冠元顆粒に含まれる各構成生薬の配合割合は、丹参2.6〜6.8重量部、香附子0.6〜1.7重量部、木香0.6〜1.7重量部、紅花1.1〜3.4重量部、芍薬1.1〜3.4重量部、センキュウ1.1〜3.4重量部が好ましく、丹参、香附子、木香、紅花、芍薬及びセンキュウが重量比で4:1:1:2:2:2であるのがより好ましい。この冠元顆粒は、従来より中年以降又は高血圧傾向のあるものの頭痛、頭重、肩こり、めまい、動悸等の諸症状を改善する効能・効果を有していることが知られている。
【0018】
丹参はシソ科(Labiatae)の多年草タンジン(Salvia miltiorrhiza Bunge)の根である。香附子はカヤツリグサ科(Cyperaceae)の多年草ハマスゲ(Cyperus rotundus Linne)の根茎である。木香はキク科(Compositae)の多年草サウスレアラパア(Aucklandia lappa Decne (Saussurea lappa Clarke))の根である。紅花はキク科(Compositae)の1〜2年草木ベニバナ(Carthamus tinctorius Linne)の管状花である。芍薬はボタン科(Paeoniaceae)の多年草シャクヤク(Paeonia lactiflora Pallas)の根である。センキュウはセリ科(Umbelliferae)の多年草センキュウ(Cnidium officinale Makino)の根茎である。
【0019】
この冠元顆粒は、前記構成生薬を所定の配合割合で混合し、この混合物全重量の5〜30倍量、好ましくは10〜20倍量の水にて熱水抽出した後、抽出された熱水抽出液(冠元顆粒エキス)を濃縮及び乾燥することにより製造される顆粒状品である。前記濃縮及び乾燥は常用手段、例えば減圧蒸発濃縮法、スプレードライ法、凍結乾燥法等により行われる。この冠元顆粒の製造方法によれば、例えば、丹参4.5g、香附子1.125g、木香1.125g、紅花2.25g、芍薬2.25g及びセンキュウ2.25g(合計13.5g)から、固形分4.5gの冠元顆粒エキスが得られる。このように製造された冠元顆粒は、本実施形態においてメタボリック症候群改善剤として用いられる。
【0020】
こうして得られた冠元顆粒(固形物)は、そのまま散剤や粉剤等の形態で服用してもよく、或いは適当な賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等の添加剤とともに顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等の形態に加工して投与してもよい。また、前記乾燥前の熱水抽出液又はその濃縮液を基に、ドリンク剤等の形態に加工して服用することも可能である。
【0021】
メタボリック症候群改善剤は、有効成分としての冠元顆粒を成人1日当たり好ましくは1〜20g、さらに好ましくは4.5g程度投与するように処方され、前記1日当たりの投与量を1日複数回(3回程度)に分けて食間又は空腹時に服用するように処方されることが特に好ましい。冠元顆粒を有効成分とするメタボリック症候群改善剤は、漢方薬等の医薬品、又は健康食品や一般食品等の食品に含有させることにより、医薬品又は食品としての用途で利用可能である。
【0022】
本実施形態のメタボリック症候群改善剤によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態のメタボリック症候群改善剤では、6種類の生薬成分が配合される冠元顆粒を有効成分として含有する。したがって、摂取によりメタボリック症候群改善作用を発揮することができる。
【0023】
(2)本実施形態のメタボリック症候群改善剤は、有効成分である冠元顆粒により、特に、高血圧、高血糖、高中性脂肪血症及び低HDLコレステロール血症の改善作用を有効に発揮することができる。したがって、それらの疾患に罹患している人に好適に用いることができると期待される。
【0024】
(3)また、高血圧、高血糖、高中性脂肪血症及び低HDLコレステロール血症は、動脈硬化の危険因子とされるものである。したがって、本実施形態のメタボリック症候群改善剤は、動脈硬化症改善剤又は動脈硬化症予防剤として好ましく適用することができる。
【0025】
(4)また、動脈硬化症は、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、腎不全、閉塞型動脈硬化症等の循環器病の原因とされる症状であるため、本実施形態のメタボリック症候群改善剤をそれらの循環器病の改善剤又は予防剤として適用することができる。
【0026】
(5)本実施形態のメタボリック症候群改善剤は、天然の植物を原料とするとともに既に広く使用されている漢方薬を基礎としていることから、副作用の心配がない。
(6)また、本実施形態のメタボリック症候群改善剤に有効成分として配合される冠元顆粒は、その他の薬効(頭痛、頭重、肩こり、めまい、動悸等の諸症状を改善する効能・効果、糖尿病の合併症を抑制する作用)を有しているため、摂取によりそれらの効能も期待することができる。
【0027】
なお、本実施形態のメタボリック症候群改善剤は、次のように変更して具体化することも可能である。
・本実施形態のメタボリック症候群改善剤は、好ましくはメタボリック症候群の患者の治療に適用される。しかしながら、治療の用途のみならず、健常者がメタボリック症候群の予防のために摂取してもよい。
【0028】
・本実施形態のメタボリック症候群改善剤は、ヒト以外にも、ウマ、ウシ、ブタのような家畜(非ヒト哺乳動物)、ニワトリ等の家禽、或いは犬、猫、ラット及びマウス等のペットに投与してもよい。
【0029】
・前記有効成分である冠元顆粒を、パン、ケーキ、スナック菓子等の嗜好品、牛乳やヨーグルト等の乳製品、清涼飲料等の飲料品に含有させてもよい。
【実施例】
【0030】
次に、各試験例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(冠元顆粒の調製)
本試験に用いた冠元顆粒の構成生薬及びその含有量は、2.25gの芍薬、2.25gのセンキュウ、2.25gの紅花、1.125gの香附子、1.125gの木香及び4.5gの丹参からなる。これらの構成生薬を調合したものに20倍量の水を加えて100℃で1時間熱水抽出した。次いで、ろ過後に減圧濃縮して溶媒を留去したところ、収率44%の冠元顆粒(冠元顆粒エキス)が得られた。
【0031】
(高フルクトース食負荷ラットの作成と評価)
メタボリック症候群の評価モデルとしては、従来より高フルクトース食負荷ラットが用いられている。フルクトース(果糖)は、通常体内においてエネルギー源として利用されている。しかしながら、高フルクトース食において過剰摂取すると余ったフルクトースは、肝臓において糖新生でブドウ糖に変換されたり、中性脂肪(トリグリセリド)に変換される。肝臓での中性脂肪(トリグリセリド)の増加は、VLDLコレステロール(超低比重リポ蛋白質コレステロール)を増加させ、高脂血症(高中性脂肪血症)等の生活習慣病を引き起こす。
【0032】
【表1】

8週齢のウイスター系雄性ラットを用い、高フルクトース食を与えることにより、高フルクトース食負荷ラットを作製した。まず、表1に示されるような各栄養成分を所定の配合比で混合させた高フルクトース食(フルクトース65%)を作製した。次に、高フルクトース食をラットに一週間投与した。その後採血し、一群につき11匹ずつ3群(コントロール群、第1群及び第2群)にグループ分けをした。なお、各群に属するラットはそれぞれ血清中トリグリセリド値及び体重が概ね揃うようにグループ分けされた。次いで、第1群及び第2群のモデルラットに対し、冠元顆粒をそれぞれ一日当たり50mg/kg体重及び100mg/kg体重の投与量となるように胃ゾンデで14日間、連日経口投与した。なおこのとき、前記冠元顆粒は蒸留水に溶解した状態で経口投与された。一方、コントロール群(Control Rat)は冠元顆粒の代わりに蒸留水のみを与えた。連日経口投与終了後、血液及び肝臓を採取するとともに、下記評価項目について測定した。また、高フルクトース食の代わりに表1に示される正常食(Normal Diet)を投与したラットを正常ラット(Normal Rat)として比較のため同評価項目を測定した。
【0033】
(ラットの形態学的測定、血圧及び脂質量の測定)
各投与群のラットの体重、肝重量、心臓の収縮期血圧及び拡張期血圧を測定した。また、各ラット群の総コレステロール濃度及びトリグリセリド濃度を公知の比色法を用いて測定した。結果を表2に示す。また、各投与群のラットの肝組織中のトリグリセリド量及び総コレステロール量も同様に測定した。結果を図1に示す。
【0034】
【表2】

表2に示されるように、高フルクトース食によって肝重量が増加していることが確認される。また、表2及び図1に示されるように血清中の総コレステロール濃度及びトリグリセリド濃度、並びに肝組織中の総コレステロール量及びトリグリセリド量が増加していることが確認された。高フルクトース食によって、高中性脂肪血症を含む高脂血症、及び肝臓中に脂肪が蓄積する脂肪肝が発症しているものと思料される。一方、高フルクトース食に冠元顆粒を併せて投与したラット群において、これらの数値は、冠元顆粒の投与量依存的に減少していることが確認された。
【0035】
また、表2に示されるように、高フルクトース食によって収縮期血圧値及び拡張期血圧値が上昇していることが確認される。高フルクトース食によって、高血圧症が発症しているものと思料される。一方、高フルクトース食に冠元顆粒を併せて投与したラット群において、これらの数値は、冠元顆粒の投与量依存的に低下していることが確認された。
【0036】
(血糖値の測定)
血清中のグルコース濃度(血糖値)を公知の比色法を用いて測定した。また、血清中の糖蛋白濃度を測定した。糖蛋白濃度は、高血糖状態が長く続いた場合に血清中の蛋白質にグルコースが結合していくため、慢性的な高血糖状態を判断する一つの指標として用いられている。糖蛋白は、動脈硬化症を促進させる作用を有する。例えば、LDLコレステロールにおいて、糖化蛋白からなるLDLコレステロールは血管内皮に沈着しやすくなり、HDLコレステロールにおいて、糖化蛋白からなるHDLコレステロールは肝臓にコレステロールを運ぶ作用が低下する。
【0037】
糖蛋白の測定は、まず採取した血液から血清を分離した後、該血清を蒸留水で10倍希釈し、その1mLに0.75mLのシュウ酸(oxalic acid)を加え、100℃で270分間加熱後、40%トリクロロ酢酸を加えて混和後、3,000rpmで20分間遠心分離した。遠心分離後の上清1mLに0.25mLのチオバルビツール酸を加え、37℃で30分間反応後、443nmにおける吸光度を測定し、糖化蛋白量に換算した。結果を表2に示す。
【0038】
また、表2に示されるように、高フルクトース食によって血糖値が上昇していることが確認される。また、糖蛋白濃度も上昇していることが確認された。高フルクトース食によって、慢性的な高血糖状態である高血糖症が発症しているものと思料される。一方、高フルクトース食に冠元顆粒を併せて投与したラット群において、これらの数値は、冠元顆粒の投与量依存的に減少していることが確認された。冠元顆粒は、糖蛋白の濃度上昇を抑制するとともにLDL、HDL等のリポ蛋白質の作用低下を抑制することにより、動脈硬化を抑制するものと期待される。
【0039】
(過酸化脂質量の測定)
血清中、肝組織中の過酸化脂質の量を測定した。さらに肝組織においては、細胞内において活性酸素の発生が特に著しいミトコンドリア分画中の過酸化脂質の量を測定した。過酸化脂質は、動脈硬化症や脂肪肝等の肝硬変の原因とされる。つまり、血清中の過酸化脂質量の増加は、動脈硬化症の発症を増加させ、肝組織中の過酸化脂質量の増加は、脂肪肝の発症を増加させるおそれがある。また、高血圧及び高血糖患者は血中の過酸化脂質の量が上昇傾向にあることが知られている。
【0040】
具体的測定方法は、まずサンプル溶液150mL、0.05N塩酸1.5mL、0.67%チオバルビツール酸0.5mLを95℃で30分間反応させることにより、過酸化脂質量の指標としてのマロンジアルデヒド(MDA)構造を有するチオバルビツール酸反応物(TBA−RS)を生成させた。反応停止後に15%メタノール含有ブタノールを2mL加え、3,000rpmで10分間遠心分離後、535nmにおける吸光度を測定することにより定量した。結果を表3に示す。TBA−RSの量が多いほど過酸化脂質の量が多いことを示す。
【0041】
【表3】

表3に示されるように、高フルクトース食によって血清中及び肝組織(特に肝ミトコンドリア)中の過酸化脂質の量が著しく増加していることが確認される。一方、高フルクトース食に冠元顆粒を併せて投与したラット群において、これらの数値は、冠元顆粒の投与量依存的に減少していることが確認された。
【0042】
(核内転写因子SREBP−1のウェスタンブロッティング解析)
核内転写因子SREBP−1は、脂肪酸代謝関連遺伝子情報の発現調節を行うことが知られている。SREBP−1遺伝子の発現の増加は、脂肪酸の合成が活発化していることを示す。本実験では、各ラット群における肝組織における核内転写因子SREBP−1の発現をウェスタンブロッティングにより調べた。まず、肝組織より、抽出緩衝液(25mM Tris-HCl (pH 7.5), 250mM NaCl, 5mM EDTA, 1% nonidet P-40, 1mM phenylmethylsulfonyl fluoride (PMSF), 1mM DTT, 50μL プロテアーゼインヒビターカクテル)を用いて、組織内の蛋白質成分を抽出した。ウェスタンブロッティングは、30μgの蛋白質が含まれるように電気泳動用緩衝液に溶解させ、常法にてSDS−PAGEを行った後、ニトロセルロース膜にトランスファーし、当該ニトロセルロース膜について免疫ブロット解析(immunoblot analysis)を行った。尚、ほとんど全ての臓器に恒常的に発現している蛋白質であるβ−アクチンが、本実験において蛋白質発現量の標準マーカーとして用いられた。
【0043】
この免疫ブロット解析では、anti-SREBP−1モノクローナル抗体、anti-β−アクチンモノクローナル抗体、及びペルオキシダーゼ標識化2次抗体(peroxidase-labeled secondary antibody)を用いた。これらの抗体は、いずれもSanta Cruz Biotechnology Inc.から購入した。なお、前記免疫ブロット解析は、ニトロセルロース膜をECL(enhanced chemiluminescence)法にて撮影することにより実施した。結果を図2に示す。
【0044】
図2に示されるように、高フルクトース食によって核内転写因子SREBP−1の量が著しく増加していることが確認される。一方、高フルクトース食に冠元顆粒を併せて投与したラット群において、これらの数値は、冠元顆粒の投与量依存的に減少していることが確認された。冠元顆粒によりSREBP−1の発現量が低下し、SREBP−1が関連する脂肪酸の合成が低下しているものと思料される。
【0045】
(核内転写因子NF−κB及びCOX−2のウェスタンブロッティング解析)
シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)は、炎症に関わるプロスタグランジンE2の生成に関与しており、多くの動脈硬化関連疾患の病因となり得る蛋白質成分である。COX−2の遺伝子発現は転写因子のNF−κBの活性化により起こる。通常NF−κBは細胞質内でI−κBと結合して不活化状態で存在する。NF−κBは、I−κBから解離して活性化されると核内に移行し、COX−2遺伝子等の炎症関連酵素遺伝子の転写を促進させる。フリーラジカル等による酸化ストレスは、この転写因子のNF−κBを活性化させることが知られている。
【0046】
本実験では、各ラット群における肝組織における核内転写因子NF−κB及びCOX−2の発現をウェスタンブロッティングにより調べた。まず、肝組織より、抽出緩衝液(25mM Tris-HCl (pH 7.5), 250mM NaCl, 5mM EDTA, 1% nonidet P-40, 1mM phenylmethylsulfonyl fluoride (PMSF), 1mM DTT, 50μL プロテアーゼインヒビターカクテル)を用いて、組織内の蛋白質成分を抽出した。ウェスタンブロッティングは、30μgの蛋白質が含まれるように電気泳動用緩衝液に溶解させ、常法にてSDS−PAGEを行った後、ニトロセルロース膜にトランスファーし、当該ニトロセルロース膜について免疫ブロット解析(immunoblot analysis)を行った。尚、ほとんど全ての臓器に恒常的に発現している蛋白質であるβ−アクチンが、本実験において蛋白質発現量の標準マーカーとして用いられた。
【0047】
この免疫ブロット解析では、anti-NF−κBモノクローナル抗体、anti-COX−2モノクローナル抗体、anti-β−アクチンモノクローナル抗体、及びペルオキシダーゼ標識化2次抗体(peroxidase-labeled secondary antibody)を用いた。これらの抗体は、いずれもSanta Cruz Biotechnology Inc.から購入した。なお、前記免疫ブロット解析は、ニトロセルロース膜をECL(enhanced chemiluminescence)法にて撮影することにより実施した。結果を図3に示す。
【0048】
図3に示されるように、高フルクトース食によって核内転写因子NF−κB及びCOX−2の量が増加していることが確認される。一方、高フルクトース食に冠元顆粒を併せて投与したラット群において、これらの数値は、冠元顆粒の投与量依存的に減少していることが確認された。特に核内転写因子NF−κBの発現量は、正常マウス比べても減少していることが確認される。
【0049】
上述したように、高フルクトース食負荷ラットにおいて、メタボリック症候群該当因子である高血圧、高血糖、高中性脂肪血症の症状が確認された。また、動脈硬化に関連する過酸化脂質及びプロスタグランジンE2合成関連蛋白であるCOX−2等の酸化ストレス関連因子の増加も確認された。一方、高フルクトース食負荷ラットにおいて、冠元顆粒を併せて投与したマウスは、冠元顆粒の濃度依存的にそれらの症状が改善されることが確認された。冠元顆粒は、メタボリック症候群の各症状を改善するとともに、動脈硬化症を改善又は予防する作用を有することが確認された。
【0050】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)循環器病の改善剤又は予防剤として使用されることを特徴とするメタボリック症候群改善剤の投与方法。従って、この(a)に記載の発明によれば、動脈硬化症の改善又は予防効果により、動脈硬化症に伴う循環器障害の改善又は予防効果が期待される。
【0051】
(b)前記メタボリック症候群改善剤を有効成分として含有する医薬品又は飲食品。従って、この(b)に記載の発明によれば、本メタボリック症候群改善剤を効率的に摂取することができる。
【0052】
(c)前記有効成分を50〜100mg/kg体重/日投与することを特徴とするメタボリック症候群改善剤の投与方法。従って、この(a)に記載の発明によれば、メタボリック症候群改善作用を有効に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】肝組織中の脂質量の冠元顆粒による影響を示すグラフ。(a)肝組織中のトリグリセリドの量を示すグラフ。(b)肝組織中の総コレステロールの量を示すグラフ。
【図2】核内転写因子SREBP−1の発現をウェスタンブロッティングにより調査した際のメンブレンの写真及び発現量を定量した結果を示すグラフ。
【図3】核内転写因子NF−κB及びCOX−2の発現をウェスタンブロッティングにより調査した際のメンブレンの写真及び発現量を定量した結果を示すグラフ。(a)核内転写因子NF−κBの発現量を示すグラフ。(b)COX−2の発現量を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冠元顆粒を有効成分として含有することを特徴とするメタボリック症候群改善剤。
【請求項2】
高血圧、高血糖、高中性脂肪血症及び低HDLコレステロール血症から選ばれる少なくとも一種の症状を改善することを特徴とする請求項1記載のメタボリック症候群改善剤。
【請求項3】
動脈硬化症改善剤又は動脈硬化症予防剤として適用されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のメタボリック症候群改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−184449(P2008−184449A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20502(P2007−20502)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(591082650)イスクラ産業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】