説明

メタボローム解析による同定方法、薬物代謝物の同定方法、およびこれらのスクリーニング方法

【課題】メタボローム網羅的解析におけるメタボロームの効率的な同定方法ならびに特異的バイオマーカーのハイスループットスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】生体試料から生体物質および代謝物を含む分析用サンプルを得る工程、該分析用サンプルを高分解能質量分析装置で分析して、該質量分析データが、精密質量、保持時間、およびイオン強度を含む工程、該質量分析データにおいて、該分析用サンプルごとに該精密質量および該保持時間の少なくとも一方の昇順または降順に該イオン強度を並べ替えたデータを得る工程、該並べ替えたデータについて、該分析用サンプル間で比較して、該精密質量または該保持時間の少なくとも一方の一致または不一致を検索する工程、該一致した精密質量または該保持時間の少なくとも一方について、該精密質量および該保持時間に基づいて物質名を同定する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボローム網羅的解析におけるメタボロームの同定方法、薬物代謝物の同定方法、ならびに特異的バイオマーカーのハイスループットスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
創薬や医療診断の基礎研究としてゲノミクスやプロテオミクスがある。ゲノミクスは、DNAマイクロアレイ、DNAチップなどの有効な分析ツールの開発およびこれらの実用化により、ヒト遺伝子が全て解明されるなどの成果を修めている。プロテオームの網羅的解析(プロテオミクス)も、蛋白質の構造および量の異常で起こる病気に対して、その蛋白質を特定し、診断方法、治療方法、および治療薬を開発するために盛んに行われている。さらに、代謝物総体(メタボローム)を解析するメタボロミクスも、医療診断、病因解析などに有用であるが、測定対象となる化学物質が多岐にわたるため、実用化が困難な状況にある。
【0003】
現在のところ、メタボロミクスでは、マススペクトル比較により差を見い出すことによって、バイオマーカー探索解析、薬物代謝物探索解析などが行われている。いずれも創薬には重要であり、多くの医薬品メーカーにおいて研究されている。
【0004】
マススペクトル比較法として、現状では、(i)多変量解析(主成分解析:PCA)による解析;(ii)フルスキャン比較解析;および(iii)MSスペクトルのコサイン相関解析(PLS)が開発されている(例えば、非特許文献1〜3を参照のこと)。比較法(i)および(ii)は、フルスキャン(MSスペクトル)を比較するものであり、データ間の差を見出して解析を行う。比較法(i)は群比較が可能であり、すなわち、2つ以上のデータを使用して解析できる。比較法(ii)は2つのデータを比較できるが、多数のデータを一度に処理できないため群比較ができない。したがって、薬物代謝物探索解析に用いられることが多い。比較法(iii)は、MSスペクトルを比較して類似するものを抽出する手法であり、例えば、標準物質のデータと類似するデータを未知のデータから抽出することができる。「検索」的な概念を比較法に応用した手法であり、主に薬物代謝物探索解析に用いられる。
【0005】
より具体的には、比較法(i)のPCA解析は、3次元空間に「m/z」、「保持時間」、および「イオン強度」をそれぞれx、y、およびzとしてプロットし、相関性が強い軸を2本設定して2次元表示して解析を行っている。
【0006】
比較法(ii)のフルスキャン比較には、差スペクトルを使用する方法と、データを画像化して比較する方法がある。差スペクトルを使用する方法として、代謝物検索ソフトウエア「Metworks」(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)などが市販されている。画像化して比較する方法には、DeCyder MS(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)、Progenesis LC-MS(PerkinElmer社)などが市販されている。一方、比較法(ii)の画像化して比較する方法は、m/z−保持時間の平面に、イオン強度(厳密にはイオン強度から算出したピーク面積または体積値)を色の濃淡で表示する方法であり、マススペクトルデータ比較は、同じ座標のイオン強度を比較して行う。この場合、専用のソフトウエアが必要であるが、直接的にデータを比較できる。
【非特許文献1】及川彰ら、生物工学会誌、2006年、第6号、pp.219-222
【非特許文献2】福崎英一郎、生物工学会誌、2006年、第6号、pp.231-234
【非特許文献3】山口真一ら、J. Mass Spectrom. Soc. Jpn.、2007年4月、第55巻2号、pp.83-89
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、メタボロミクスでは、測定される化学物質の種類が非常に多いこと、そのため測定結果から得られるデータが膨大になること、さらに、プロテオミクスとは異なり有効なデータベースが存在しないことなどにより、効率的なメタボロームの解析は実現されていない。そこで、本発明は、メタボローム網羅的解析におけるメタボロームの効率的な同定方法ならびに特異的バイオマーカーのハイスループットスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の方法は、上記比較法(ii)の画像化して比較する方法と類似の概念である。しかし、m/z−保持時間を平面に記載するのではなく、1次元的に数値としてリスト形式で記載できることに着目して、複数のSampleのイオン強度を平面に並べて記載することによって、群比較ができるように、すなわち、2つ以上のデータを一度に解析できるように工夫されている。また、発明の方法ではデータ間の差を見出すことだけでなく、類似データを見出すことも可能である。なお、本発明の方法は、統計解析を使用しない点で比較法(i)とは異なり、データ表示法および画像解析を使用しない点で比較法(ii)とも異なる。また、類似を見出すことが主たる目的である比較法(iii)とは概念的にも異なり、主に使用するデータがMSスペクトルである点でも異なる。
【0009】
本発明は、メタボローム解析における生体物質および代謝物の同定方法を提供し、該方法は、
(a)生体試料から生体物質および代謝物を含む分析用サンプルを得る工程;
(b)該分析用サンプルを高分解能質量分析装置で分析して、該分析用サンプルごとに質量分析データを得る工程であって、該質量分析データが、精密質量、保持時間、およびイオン強度を含む、工程;
(c)該質量分析データにおいて、該分析用サンプルごとに該精密質量および該保持時間の少なくとも一方の昇順または降順に該イオン強度を並べ替えたデータを得る工程、または該分析用サンプルごとに該イオン強度の降順に該精密質量および該保持時間の少なくとも一方を並べ替えたデータを得る工程;
(d)該並べ替えたデータについて、該分析用サンプル間で比較して、該精密質量または該保持時間の少なくとも一方の一致または不一致を検索する工程;および
(e)該一致した精密質量または該保持時間の少なくとも一方について、該精密質量および該保持時間に基づいて物質名を同定する工程;
を含む。
【0010】
1つの実施態様では、上記同定方法の上記工程(c)において、上記精密質量および上記保持時間の少なくとも一方は、該精密質量と該保持時間とを組み合わせて作成されたcodeである。
【0011】
本発明はまた、メタボローム解析における特異的バイオマーカーのスクリーニング方法を提供し、該方法は、
(a)特異群および対照群の生体試料から生体物質および代謝物を含む分析用サンプルを得る工程;
(b)該分析用サンプルを高分解能質量分析装置で分析して、該分析用サンプルごとに質量分析データを得る工程であって、該質量分析データが、精密質量、保持時間、およびイオン強度を含む、工程;
(c)該質量分析データにおいて、該分析用サンプルごとに該精密質量および該保持時間の少なくとも一方の昇順または降順に該イオン強度を並べ替えたデータを得る工程、または該分析用サンプルごとに該イオン強度の降順に該精密質量および該保持時間の少なくとも一方を並べ替えたデータを得る工程;
(d)該並べ替えたデータについて、該特異群および該対照群の各群内において該分析用サンプル間で比較して、該精密質量または該保持時間の少なくとも一方の一致または不一致を検索する工程;
(e)該一致した該精密質量または該保持時間の少なくとも一方について、該特異群と該対照群との間で該精密質量または該保持時間の少なくとも一方の一致または不一致を検索する工程;および
(f)該群間の不一致精密質量または保持時間の少なくとも一方について該精密質量および該保持時間に基づいて物質名を同定する工程;または、該群間の一致精密質量または保持時間の少なくとも一方のイオン強度差を算出して差の大きいものから降順に並べ、差の大きい精密質量または保持時間の少なくとも一方について、該精密質量および該保持時間に基づいて物質名を同定する工程;
を含む。
【0012】
ある実施態様では、上記スクリーニング方法の上記工程(c)において、上記精密質量および上記保持時間の少なくとも一方は、該精密質量と該保持時間とを組み合わせて作成されたcodeである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多種類の生体成分および代謝物を含む試料を包括的に分析した際の膨大なデータを解析するための手法が提供され、生体成分および代謝物の候補を効率よく絞り込むことができる。本発明の方法では、従来のメタボローム解析と比較して、スクリーニングの結果の再現性および正確性が向上している。また、本発明の方法は、比較的低コストかつハイスループットでの、生体成分および代謝物の同定および特異的バイオマーカーのスクリーニングが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のメタボローム解析における生体物質および代謝物の同定方法は、生体成分および代謝物の候補を効率よく絞り込むことができる。この方法は、以下の工程:
(a)生体試料から生体物質および代謝物を含む分析用サンプルを得る工程;
(b)該分析用サンプルを高分解能質量分析装置で分析して、該分析用サンプルごとに質量分析データを得る工程であって、該質量分析データが、精密質量、保持時間、およびイオン強度を含む、工程;
(c)該質量分析データにおいて、該分析用サンプルごとに該精密質量および該保持時間の少なくとも一方の昇順または降順に該イオン強度を並べ替えたデータを得る工程、または該分析用サンプルごとに該イオン強度の降順に該精密質量および該保持時間の少なくとも一方を並べ替えたデータを得る工程;
(d)該並べ替えたデータについて、該分析用サンプル間で比較して、該精密質量または該保持時間の少なくとも一方の一致または不一致を検索する工程;および
(e)該一致した精密質量または該保持時間の少なくとも一方について、該精密質量および該保持時間に基づいて物質名を同定する工程;
を含む。
【0015】
また、本発明のメタボローム解析における特異的バイオマーカーのスクリーニング方法は、種々の要因(例えば、病態、薬物への曝露など)によって代謝が特異的に変動する生体成分を特定するために特に有用な方法である。この方法は、上記生体物質および代謝物の同定方法とは、
工程(a)で、特異群および対照群の生体試料から生体物質および代謝物を含む分析用サンプルを得る点;
工程(d)において、該並べ替えたデータについて、該特異群および該対照群の各群内において該分析用サンプル間で比較して、該精密質量または該保持時間の少なくとも一方の一致または不一致を検索する点;
工程(e)において、該一致した該精密質量または該保持時間の少なくとも一方について、該特異群と該対照群との間で該精密質量または該保持時間の少なくとも一方の一致または不一致を検索する点;および
工程(f)該群間の不一致精密質量または保持時間の少なくとも一方について該精密質量および該保持時間に基づいて物質名を同定する工程;または、該群間の一致精密質量または保持時間の少なくとも一方のイオン強度差を算出して差の大きいものから降順に並べ、差の大きい精密質量または保持時間の少なくとも一方について、該精密質量および該保持時間に基づいて物質名を同定する工程、をさらに含む点が異なる。
【0016】
以下、本発明のこれらの方法を工程の順に詳細に説明する。
【0017】
工程(a):
本発明の方法では、まず、工程(a)において、生体試料から生体物質および代謝物を含む分析用サンプルを得る。
【0018】
本発明において、「生体試料」とは、メタボローム解析対象となる生体由来成分をいう。例えば、血液(血清、血漿)、尿、体液、培養液、細胞または組織抽出物などが挙げられる。「細胞または組織」とは、単離された細胞または組織をいう。例えば、培養細胞、バイオプシーにより体内から取り出された組織または細胞などが挙げられる。
【0019】
このような生体試料は、質量分析装置に応じて、適切に前処理されて分析用サンプルが調製される。前処理としては、濾過、抽出、誘導体化、これらの組み合わせなどが挙げられる。誘導体化は、液体クロマトグラフィー(LC)またはガスクロマトグラフィー(GC)と組み合わせた質量分析装置を用いる場合に必要な場合がある。あるいは、組織または細胞を、適切な緩衝液中で、ホモジナイザーなどの当業者が通常用いる手段を用いて破砕した後、上清あるいは溶媒抽出物を分析用サンプルとしてもよい。
【0020】
本発明において、「特異群」とは、スクリーニングの対象となる群をいい、種々の要因(例えば、病態、薬物への曝露など)によって代謝が特異的に変動する生体成分の存在が予想される群をいう。例えば、特定の病態群;化学物質、光、温度などの特定の条件への曝露群が挙げられる。「対照群」とは、上記特異群と比較するための群であり、例えば、特定の病態ではない群(例えば、正常群);種々の条件の曝露などを受けていない群が挙げられる。また、本発明において、特異群において、種々の要因(例えば、病態、薬物への曝露など)によって代謝が特異的に変動する生体成分を、「特異的バイオマーカー」という。ここで、変動とは、増加および減少の両方を意図する。
【0021】
工程(a)において、試料のn数は、特に限定されないが、試料の個体差の影響を除くことができる点で、n数が多い方が好ましい。
【0022】
工程(b):
工程(b)では、上記分析用サンプルを高分解能質量分析装置で分析して、該分析用サンプルごとに質量分析データを得る。
【0023】
「質量分析」(MS)とは、分析する試料をイオン化させて導入し、電気力や磁気力により質量ごとの差をつくり、イオンの質量を分析することである。MSの測定原理としては、イオントラップ型MS法、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT−ICR/MS)法、イオンスキャン法、Q−TOF型MS法などが挙げられ、それぞれの原理に基づく質量分析計が存在する。本発明の方法においては、1方法だけ(すなわち、1つの質量分析計のみ)で分析してもよく、あるいは複数の質量分析計を連結させて分析(以下MS/MS解析)してもよい。
【0024】
「高分解能質量分析」とは、小数点以下4桁以上の精度で測定可能な質量分析をいう。例えば、保持時間が同一の物質について、精密質量m/zの小数点以下3桁が一致すれば、同一組成の物質である確率は非常に高い。
【0025】
Rawデータには、ノイズデータと重複するデータ(重複データ)とがあり、これらは事前に排除することが好ましい。質量分析により得られるRawデータは、質量分析から出力される形式のデータであり、質量分析計のメーカーごとに形式が異なる。また、一般的には、そのRawデータのファイル構造などは開示されていない。本発明の方法の実現には、Rawデータを、一般的にアクセス可能である形式(例えば、テキスト形式)に抽出するためのツールを用いることが必要である。このようなツールの作成は、質量分析計のメーカーの協力を得て行うことができる。本発明においては、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社の協力により開発された、Rawデータを一般的にアクセスすることが可能なテキスト形式(厳密にはcsv形式)に抽出するツールであるRaw Filtering Writerを使用した。それにより、Rawデータへのアクセスが可能である。Raw Filtering Writerで出力されるデータは、例えば、図1に示すとおりである。
【0026】
質量分析データは、「m/z」、「保持時間(RT)」および「イオン強度」の3つの要素からなる。Raw Filtering Writerで出力されるデータには、それらに加えて、Scan No.が記載される。Scan No.とは、そのスペクトルが、測定開始から何番目に取得されたスペクトルであるかを表す数値である。
【0027】
工程(c):
工程(c)では、該質量分析データにおいて、該分析用サンプルごとに該精密質量および該保持時間の少なくとも一方の昇順または降順に該イオン強度を並べ替えたデータを得るか、あるいは該分析用サンプルごとに該イオン強度の降順に該精密質量および該保持時間の少なくとも一方を並べ替えたデータを得る。
【0028】
マススペクトルデータの比較において重要となるのは、「m/z」、「保持時間」および「イオン強度」の3次元の要素をできるだけ情報量を落とさずに、2次元の要素で表示することである。例えば、分析用サンプルごとに、まず「m/z」および「保持時間」のいずれか一方の昇順または降順にイオン強度を並べ替えて、他方の要素を考慮しない2次現データを得ることができる。この場合は、以下の工程(d)、(e)または(f)の後、「m/z」および「保持時間」のいずれか一方の考慮されていないデータを照合することになる。
【0029】
Rawデータは、非常に膨大であるが、その多くが不要なデータである。不要なデータとは、主にノイズデータおよび重複データである。
【0030】
ノイズデータは、機械的にそれを判断することは困難であり、予備実験などを行うことによってノイズデータを排除することが好ましい。例えば、Raw Filtering Writerで閾値を設定すれば、ノイズデータの一部は排除できる。
【0031】
重複データとは、全く同じ化合物のデータを指す。例えば、LTQ FT MSの場合、1分間に100近くのスペクトルを測定することができるが、その1分間に溶出する化合物の数は、さほど多くはない。すなわち、100のうちのいくつかは同じ化合物を測定していることになる。そこで、重複データを排除することが必要となる。これも非常に労力を要する作業である。しかし、プログラムを作成して、このような重複データを排除することができる。
【0032】
あるいは、例えば、「m/z」と「保持時間」とを組み合わせた数字を新しく作成することにより、3次元データを2次元で表記することができる。例えば、8桁の数字(code)を設定し、m/zを最初の6桁で表示し、保持時間を後の2桁で表示する。この8桁の数字を1列目に表示するようにデータを作成する(図2)。具体的には、保持時間15分のm/z1234.56の場合は、codeは12345615となる。この作成は、非常に労力を要するが、例えば、以下の示すデータ選択と同時にマクロで作成することができる(図3参照)。codeは、m/zと保持時間とを組み合わせたものであり、重複しない方が望ましい。codeが重複しても、解析が煩雑になるだけであり、エラーは出ない。
【0033】
得られたcodeのすべてについて、分析用サンプルごとにイオン強度を並べ替えたデータを得るか、または分析用サンプルごとにイオン強度の降順に該codeを並べ替えたデータを得る。
【0034】
より具体的には、データ作成が終了した各マススペクトルデータについて、codeごとにイオン強度を記載する必要がある。例えば、1列目にcode、2列目にSample1のイオン強度、3列目にSample2のイオン強度、以降、各列に各Sampleのイオン強度を並べる(図4)。
【0035】
codeごとに各Sampleのデータのイオン強度を整理するために、本発明においては、プログラムを用いてデータを並べた。このソフトウエアは、結果が出るまでの時間が短く、取り扱い可能なデータ数が多いという利点がある。表示される結果は、同じSampleのイオン強度が縦に並び、すぐ横に別のSampleのデータが並ぶことから、画像比較ソフトの結果と比較しても、視覚的に比較しやすい。
【0036】
工程(d):
工程(d)では、並べ替えたデータについて、分析用サンプル間で比較して、精密質量または保持時間の少なくとも一方の一致または不一致を検索する。なお、特異的バイオマーカーのスクリーニングの場合は、特異群および対照群の各群内において分析用サンプル間で比較して、精密質量または保持時間の少なくとも一方の一致または不一致を検索する。
【0037】
解析結果が表形式で表示されるため、Microsoft Excel(登録商標)などの表計算ソフトで表示し、横の列に解析用の関数を入力することにより、より詳細な比較解析を行うことができる。
【0038】
例えば、図4に示すように、精密質量および保持時間から作成されたcodeごとにSampleのデータ数を数え、その数を解析関数として表示する列を設定すれば、Sampleに共通のcodeが明確にわかる。
【0039】
工程(e):
工程(e)では、一致した精密質量または保持時間の少なくとも一方について、精密質量および保持時間に基づいて物質名を同定する。
【0040】
Raw Filtering Writerには、MSスペクトルを測定したイオンのリストを作成する機能がある。MSスペクトルが測定されたイオンとは、測定の設定にも依存するが、イオン強度が比較的高く、ノイズとは考えにくいイオンであることが多いため、このイオンを対象として解析を行うことは、効率的である。
【0041】
元のデータからMSスペクトルが測定されたイオンを選択するには、MSスペクトルを測定したイオンのリストと、Microsoft Access(登録商標)を用いて比較すればよい。しかし、この場合は、例えば、図5に示すように、上で例示したcodeとは別のcodeを設定する必要がある。
【0042】
さらに、図5のMSスペクトルを測定したイオンのリストの代わりに、種々の化合物についてのデータベースのリストを利用することも可能である。この場合、データベース検索を行うことができる。
【0043】
なお、特異的バイオマーカーのスクリーニングの場合は、この工程(e)において、一致した精密質量または保持時間について、特異群と対照群との群間で精密質量または保持時間の一致または不一致を検索する。この検索は、上記工程(d)と同様に行われる。
【0044】
工程(f):
工程(f)では、群間の不一致精密質量または保持時間の少なくとも一方について精密質量および保持時間に基づいて物質名を同定するか、または、群間の一致精密質量または保持時間の少なくとも一方のイオン強度差を算出して差の大きいものから降順に並べ、差の大きい精密質量または保持時間の少なくとも一方について、精密質量および保持時間に基づいて物質名を同定する。
【0045】
例えば、Sample1〜3のイオン強度の平均値とSample4〜6のイオン強度の平均値との差を解析関数として表示するように設定すると、群間でのイオン強度の差が大きな精密質量または保持時間を容易に選定できる。
【0046】
このように、本発明の方法では、複雑な統計学的処理を行わずに、単純比較によって、多種類の生体成分および代謝物を含む試料を包括的に分析した際の膨大なデータを解析することができる。本発明の方法では、単純比較にもかかわらず、スクリーニングの結果の再現性および正確性が良好である。また、本発明の方法では、比較的低コストかつハイスループットでの、生体成分および代謝物の同定および特異的バイオマーカーのスクリーニングが可能であり、生体成分および代謝物の候補を効率よく絞り込むことができる。
【実施例】
【0047】
以下の実施例において、ミクロソーム試料または尿試料の質量分析には、LC/ESI/LTQ FT MS高分解能質量分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いた。
【0048】
(実施例1:ミクロソームによる薬物メタボロームの検索)
肝ミクロソームにおける主な代謝反応は、第1相(酸化、還元、脱メチル化など)および第2相(グルコース抱合、グルクロン酸抱合など)である。本実施例では、抗うつ薬であるイミプラミン(C1924;精密質量m/z:281.20123)をモデル薬物として用いた。肝ミクロソームによるイミプラミンの代謝物としては、44種の組成式が予想される。本実施例においては、主な代謝物である10種(本実施例ではM1〜M10と記載する)について、代謝物を正確に検索できるかどうかについて、従来の解析ソフトと本発明の方法とによる解析結果を比較した。
【0049】
NADPH再生系を含む80mMリン酸緩衝液(pH7.4)中にラット肝ミクロソーム(XenoTech)を終濃度1mg/mLとなるように加え、37℃にて5分間プレインキュベートした。次いで、塩酸イミプラミンを、0、10、または100μMになるように加え、37℃にて15または60分間インキュベートした。各反応条件について、6サンプルずつ行った。アセトニトリルの添加によって反応を停止し、遠心分離によって除タンパクして、上清をサンプルとして高速液体クロマトグラフ−質量分析(LC−MS)に供した。測定条件は、以下のとおりである。
【0050】
(1)高速液体クロマトグラフの条件
カラム:Xterra MS C18、2.1×150mm、5μm(Waters)
移動相:溶媒A=水/酢酸(1000:1,v/v)
溶媒B=アセトニトリル/酢酸(1000:1,v/v)
グラジエント:0〜20分でA/B=90/10(v/v)→0/100(v/v);20〜25分でA/B=0/100(v/v);25〜26分でA/B=0/100(v/v)→90/10(v/v);26〜40分でA/B=90/10(v/v)
流速:0.2mL/分
カラム温度:40℃
オートサンプラー温度:4℃
(2)質量分析の条件
イオン化:ESI
測定モード:ポジティブ
【0051】
なお、各代謝条件(濃度および反応時間)で生じる代謝物M1〜M10については、これらの代謝物のm/zおよび保持時間に基づいてマスクロマトグラムを比較することによって、以下の表1に白丸で示すように、条件により生じる代謝物が異なることがわかった。
【0052】
【表1】

【0053】
得られたマススペクトルRawデータについて、まず、質量分析装置の解析部に組込み可能な市販の2種類の代謝物検索ソフトウエアMetWorks(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いて解析を行った。その結果、表2に黒丸で示す代謝物が検出された。同代謝物検索ソフトウエアの検索設定を変更し、10μM−15分の試料で代謝物M6が検出される条件で検索したところ、300個以上の代謝物候補ピークがヒットし、代謝物を絞り込むことができなかった。
【0054】
【表2】

【0055】
次に、得られたRawデータをテキスト形式(csv形式)に変換した。必要に応じて、変換したデータをデータベースソフトまたは表計算ソフトに取り込み、以下のような処理を行った。(1)保持時間およびm/zについて、四捨五入または切捨てなどを行って、数値の画一化を行った。(2)ピークを代表する数値、例えば、m/zの値やm/zと保持時間とを組み合わせた数値を用いた。この「ピークを代表する数値」を「code」と称する。(3)同じcodeが重複する場合は適宜削除した。この(1)〜(3)の工程はプログラムにより自動化した。
【0056】
具体的には、m/z281.20123(イミプラミン)は、約13.2分に溶出するので、(1)の操作において、それぞれの値をm/z281.20および13分と四捨五入し、codeを「2812013」とした。10μM−15分の試料には、codeが2812013となるピークは約600個あったため、イオン強度が最も高いものを残し、その他を削除した。
【0057】
次いで、(4)codeごとに各試料のイオン強度を整理した。例えば、上記(1)〜(3)の操作により、10μM−15分の試料について、1列目にcodeおよび2列目にイオン強度が表示されたリストを作成した。そのリストの3列目に、0μM−15分の試料(未代謝試料)のイオン強度を表示した。例えば、2812013は10μM−15分には含まれているが、0μM−15分には含まれていないため、3列目が空欄となった。つまり、2列目に数値が表示されているが、3列目が空欄であるcodeにより示されるピークは、代謝物であると同定される。また、3列目が空欄でなくとも2列目と3列目との差が大きい場合も同様である。この(4)での操作はプログラムにより自動化した。
【0058】
その結果、上記表1に示した既知代謝物のうち10μM−15分の試料のM3以外の全ての代謝物を検出した(以下の表3の黒丸を参照)。他に、代謝物候補ピークが数十種〜百種程度ヒットしたが、そのほとんどが炭素同位体のピークなどの代謝物関連のピークまたは化学種は不明であるが未代謝試料には観察されず、10μM−15分の試料のみに観察されるピークであった。このように、codeを設定して比較することにより、従来の代謝物検索ソフトウエアよりも確実に、代謝物を見い出すことができることがわかった。
【0059】
【表3】

【0060】
(実施例2:ヒト尿中代謝物の検索)
10名の健常成人男性群のヒト尿および5名の健常成人男女群のヒト尿について、全生体成分および全代謝物(メタボローム)の精密質量を測定した。
【0061】
尿試料は、0.22μmフィルターでろ過後、分析用サンプルとしてLC−MSに供した。10名の健常人男性群の尿の測定条件(A)および5名の健常成人男女群の尿の測定条件(B)は、それぞれ以下のとおりである。
【0062】
(A)10名の健常人男性群の尿の測定条件
(A−1)高速液体クロマトグラフの条件
カラム:Mightysil RP-18 GP、2.0×250mm、3μm(関東化学株式会社)
移動相:溶媒A=水/メタノール(95:5,v/v)(終濃度10mM酢酸アンモニウムを含む)
溶媒B=水/メタノール(9:95,v/v)(終濃度10mM酢酸アンモニウムを含む)
グラジエント:0〜20分でA/B=100/0(v/v);20〜110分でA/B=100/0(v/v)→20/80(v/v);110〜120分でA/B=20/80(v/v);120〜121分でA/B=20/80(v/v)→100/0(v/v)
流速:0.15mL/分
カラム温度:40℃
オートサンプラー温度:4℃
(A−2)質量分析の条件
イオン化:ESI
測定モード:ポジティブおよびネガティブ
【0063】
(B)5名の健常成人男女群の尿の測定条件
(B−1)高速液体クロマトグラフの条件
カラム:Inertsil ODS-3、3μm、2.1×100mm(GL Sciences)
移動相:溶媒A=10mMギ酸アンモニウム水溶液(pH3.75)
溶媒B=アセトニトリル
グラジエント:0〜5分でA/B=90/10(v/v);5〜25分でA/B=90/10(v/v)→5/95(v/v);25〜30分でA/B=5/95(v/v);30〜31分でA/B=5/95(v/v)→90/10(v/v);31〜40分でA/B=90/10(v/v)
流速:0.2mL/分
カラム温度:40℃
オートサンプラー温度:4℃
(B−2)質量分析の条件
イオン化:ESI
測定モード:ポジティブおよびネガティブ
【0064】
得られたRAWデータをテキスト形式(csv形式)に変換し、表計算ソフトに取り込み、m/zを四捨五入してその値を「code」とした。また、RAWデータとは別に、0.01毎にm/z50から1000までの数値一覧(95000種のcodeを全部記載したリスト)を作成した。
【0065】
データベースソフトを用いて、RAWデータとは別に作成した全codeのリストを1列目に表示し、次いで、2列目から11列目にそのcodeに対応する各試料のイオン強度を表示した。この表を表計算ソフトに出力した後、(A)10名の健常人男性群の尿の測定の例では12列目にカウント関数を用いて2列目から11列目のデータ数を数えるように設定し、その値が7以上のものを選択した。また、(B)5名の健常成人男女群の尿の測定の例では、12列目に2列目から6列目(男性試料のデータ)のデータ数を数える設定、13列目に7列目から11列目(女性試料のデータ)のデータ数を数えるように設定し、12列目および13列目ともに4以上のcodeについては男女間で差が見られなかったと判定し、12列目および13列目のうちいずれかが4以上、他方が0または1であるcodeについては男女間で差があったと判定した。
【0066】
上記操作で選択されたcodeの示すm/zから、その精密分子量を計算し、データベース検索を行った。
【0067】
10名の健常人男性群の尿のデータベース検索結果を、以下の表4に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
ネガティブモードで測定した場合、健常成人男子10名に共通に存在する尿中代謝物を、143個検出できた。
【0070】
データベース検索によりヒットした化合物について、一致および不一致を検索した結果、以下の数の化合物が各尿中で特徴的であることがわかった。データベース検索では、測定で検出された1つの化合物に対して異性体などの複数の化合物がヒットすることも多いので、それら異性体を差し引いた時の数ならびに差し引く前の数(カッコ内)を示した。
【0071】
<男女で尿中含量が同程度であると推定された化合物>
データベース検索でヒットした化合物数(ポジティブ):33個(74個)
データベース検索でヒットした化合物数(ネガティブ):16個(74個)
<男性に多いと推定された化合物>
データベース検索でヒットした化合物数(ポジティブ):3個(14個)
データベース検索でヒットした化合物数(ネガティブ):4個(9個)
<女性に多いと推定された化合物>
データベース検索ではヒットしなかった。なお、用いたデータベースには登録されていないが、ネガティブモードでは、プレグナンジオールグルクロニドと同じ質量の化合物が女性に多いと推定された。後の詳細な解析により、これがプレグナンジオールグルクロニドであることを確認した。
【0072】
(実施例3:マウス尿中代謝物の検索)
ヒト尿の代わりに、3匹の有機カチオントランスポーター(OCT)ノックアウトマウス群のマウス尿および3匹の野生型マウス群のマウス尿を用いたこと以外は、上記実施例2と同様の手順で、全生体成分および全代謝物(メタボローム)の精密質量を測定し、得られた質量分析データを処理した。得られたデータについて、上記実施例2と同様に、データベース検索を行って、マウス尿中代謝物を分析した。
【0073】
これとは別に、約10万(正確には99,282)の物質について、プロトン化分子、脱プロトン化分子、アンモニア付加体、ナトリウム付加体、およびカリウム付加体のそれぞれの精密質量m/z、ならびに分子量・分子式・物質名のデータベースをMicrosoft Excel(登録商標)で作成した。
【0074】
各群の個別の全生体成分および全代謝物(メタボローム)の精密質量m/z、イオン強度(%)、および保持時間をMicrosoft Excel(登録商標)にコピーし、イオン強度の降順にm/zを比較した。その結果、各群に共通する精密質量m/zおよび共通しない精密質量m/zが多く存在した。精密質量m/zの小数点以下3桁が一致すれば、同一組成の物質であると識別できる。同一組成の物質は、上記データベースに複数個存在するものもあった。それらは、標準物質の保持時間の一致により識別した。
【0075】
各群の個別の全生体成分および全代謝物(メタボローム)の精密質量m/zを、Microsoft Excel(登録商標)からMicrosoft Access(登録商標)にトランスポートして、不一致クエリを使って、不一致精密質量m/zおよび一致精密質量m/zを検索した。一致する精密質量m/zが記載されている各セルは、背景または数値をそれぞれ同じ色で示すように設定した。
【0076】
各群の個別の全生体成分および全代謝物(メタボローム)の精密質量m/zのエクセルデータ、ならびに予め作成した約10万の物質のデータベースのエクセルデータをMicrosoft Excel(登録商標)からMicrosoft Access(登録商標)にトランスポートして、不一致クエリを使って、不一致精密質量m/zおよび一致精密質量m/zを検索した。一致精密質量m/zからデータベースの物質名を同定した。次いで、各群間の不一致精密質量m/zおよび一致精密質量m/zを検索し、不一致精密質量m/zからデータベースの物質名を同定した。次いで、各群間の一致精密質量m/zの強度差を計算し、差の大きいものから降順に並べ、差の大きい物質を同定した。
【0077】
その結果、OCTノックアウト群マウスの尿中代謝物として平均1610個の化合物を検出し、このうち、データベース検索でヒットした化合物数は575であった。また、野生型マウスでは尿中代謝物として平均8415個の化合物を検出し、データベース検索でヒットした化合物数は、628個であった。
【0078】
イオン強度の強い代謝物は、両群の尿試料に共通して観測された。70%以上の尿試料において共通する代謝物も多数存在した。したがって、類似m/zを有する代謝物が多いが、精密質量により別の物質として識別できた。同じ組成で代謝部位の異なる物質も多く、カラム分離およびフラグメント解析が重要であり、標準物質での保持時間およびフラグメント解析による同定も必要であった。
【0079】
測定条件に関して、ポジティブモードよりもネガティブモードのほうが、多くの代謝物をより強い強度で測定することができ、測定された物質は数万に及んだ。したがって、尿試料のメタボローム解析には、ネガティブモードのほうが適すると思われる。また、移動相は、10mM酢酸アンモニウム/アセトニトリル系と0.1%(v/v)ギ酸/アセトニトリル系のグラジエントとで、検出パターンが異なった。そのため、同じ組成で代謝部位の異なる物質の解析には、分離条件を変えて測定することが有効と思われる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の方法によれば、多種類の生体成分および代謝物を含む試料を包括的に分析した際の膨大なデータを解析するための手法が提供され、生体成分および代謝物の候補を効率よく絞り込むことができる。本発明のメタボローム解析における特異的バイオマーカーのスクリーニング方法は、種々の要因(例えば、病態、薬物への曝露など)によって代謝が特異的に変動する生体成分を特定するために特に有用な方法である。本発明の方法では、従来のメタボローム解析と比較して、スクリーニングの結果の再現性および正確性が向上している。また、本発明の方法は、比較的低コストかつハイスループットでのスクリーニングが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】Raw Filtering Writerで出力されるデータの形式を示す概略図である。
【図2】本発明の方法によるcodeの設定方法を示す概念図である。
【図3】本発明の方法によるcodeの設定後のデータの形式を示す概略図である。
【図4】本発明の方法によるデータの比較解析の一例を示す概念図である。
【図5】本発明の方法によるMSスペクトルを有するイオンのリスト作成方法の一例を示す概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタボローム解析における生体物質および代謝物の同定方法であって、
(a)生体試料から生体物質および代謝物を含む分析用サンプルを得る工程;
(b)該分析用サンプルを高分解能質量分析装置で分析して、該分析用サンプルごとに質量分析データを得る工程であって、該質量分析データが、精密質量、保持時間、およびイオン強度を含む、工程;
(c)該質量分析データにおいて、該分析用サンプルごとに該精密質量および該保持時間の少なくとも一方の昇順または降順に該イオン強度を並べ替えたデータを得る工程、または該分析用サンプルごとに該イオン強度の降順に該精密質量および該保持時間の少なくとも一方を並べ替えたデータを得る工程;
(d)該並べ替えたデータについて、該分析用サンプル間で比較して、該精密質量または該保持時間の少なくとも一方の一致または不一致を検索する工程;および
(e)該一致した精密質量または該保持時間の少なくとも一方について、該精密質量および該保持時間に基づいて物質名を同定する工程;
を含む、方法。
【請求項2】
前記工程(c)において、前記精密質量および前記保持時間の少なくとも一方が、該精密質量と該保持時間とを組み合わせて作成されたcodeである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
メタボローム解析における特異的バイオマーカーのスクリーニング方法であって、
(a)特異群および対照群の生体試料から生体物質および代謝物を含む分析用サンプルを得る工程;
(b)該分析用サンプルを高分解能質量分析装置で分析して、該分析用サンプルごとに質量分析データを得る工程であって、該質量分析データが、精密質量、保持時間、およびイオン強度を含む、工程;
(c)該質量分析データにおいて、該分析用サンプルごとに該精密質量および該保持時間の少なくとも一方の昇順または降順に該イオン強度を並べ替えたデータを得る工程、または該分析用サンプルごとに該イオン強度の降順に該精密質量および該保持時間の少なくとも一方を並べ替えたデータを得る工程;
(d)該並べ替えたデータについて、該特異群および該対照群の各群内において該分析用サンプル間で比較して、該精密質量または該保持時間の少なくとも一方の一致または不一致を検索する工程;
(e)該一致した該精密質量または該保持時間の少なくとも一方について、該特異群と該対照群との間で該精密質量または該保持時間の少なくとも一方の一致または不一致を検索する工程;および
(f)該群間の不一致精密質量または保持時間の少なくとも一方について該精密質量および該保持時間に基づいて物質名を同定する工程;または、該群間の一致精密質量または保持時間の少なくとも一方のイオン強度差を算出して差の大きいものから降順に並べ、差の大きい精密質量または保持時間の少なくとも一方について、該精密質量および該保持時間に基づいて物質名を同定する工程;
を含む、方法。
【請求項4】
前記工程(c)において、前記精密質量および前記保持時間の少なくとも一方が、該精密質量と該保持時間とを組み合わせて作成されたcodeである、請求項3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−20037(P2009−20037A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184048(P2007−184048)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(505202637)株式会社JCLバイオアッセイ (2)
【Fターム(参考)】