説明

メタマテリアル

【課題】透磁率のみを負とするシングルネガティブ異方性媒質であるメタマテリアルを、従来技術に比較して損失が少なくかつ平面回路で実現する。
【解決手段】少なくとも1個のスパイラル導体を備えて構成されたメタマテリアルであって、上記メタマテリアルの実効的な誘電率と透磁率のうちの透磁率のみが負となり、負屈折率特性を有する。ここで、第1のスパイラル導体を誘電体基板の第1の面に形成し、第2のスパイラル導体を上記誘電体基板の第2の面に上記第1のスパイラル導体と対向しかつ電磁的に結合し互いに同一方向で又は逆方向で形成することにより単位セルとして構成された複数の単位セルを1次元方向、2次元方向又は3次元方向に配列して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁波を伝播させるための人工的な媒質であるメタマテリアルに関し、特に、電磁波伝播媒質として機能し、媒質の等価的な誘電率と透磁率のうちの透磁率のみが負となるメタマテリアルに関する。
【背景技術】
【0002】
金属、誘電体、磁性体、超伝導体などの小片(単位構造体)を、波長に対して十分短い間隔(波長の10分の1程度以下)で並べることで自然にはない性質を持った媒質を人工的に構成することができる。この媒質を自然にある媒質のカテゴリに比べてより大きいカテゴリに属する媒質と言う意味でメタマテリアル(Metamaterials)と呼んでいる(例えば、特許文献1〜3参照。)。メタマテリアルの性質は、単位構造体の形状、材質及びそれらの配置により様々に変化する。なかでも、等価的な誘電率εと透磁率μとが同時に負となるメタマテリアルは、その電界と磁界と波数ベクトルが左手系をなすことから「左手系媒質(LHM:Left-Handed Materials)」と名付けられた。この左手系媒質を本明細書においては左手系メタマテリアルと呼ぶ。これに対して、等価的な誘電率εと透磁率μとが同時に正となる通常の媒質は「右手系媒質(RHM:Right-Handed Materials)」と呼ばれる。
【0003】
現在、上記の「メタマテリアル」の概念を用いて負の屈折率を持つ「負屈折率媒質」が提案されている。この負屈折率媒質の持つ負の屈折率やエバネセント波の増大の性質を用いて、分解能が物理的な制限である回折限界を超えるスーパーレンズの実現の可能性が理論的に示されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
また、この負屈折率媒質を実現するために、これまで実効的な誘電率と透磁率とが共に負となる「左手系媒質」が提案されている。これは誘電率を負とするためのワイヤ共振器と透磁率とを負とするためのスプリットリング共振器(SRR)を配列したもので、その負屈折率動作が示されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO2008/038542号公報
【特許文献2】特開2008−244683号公報
【特許文献3】特開2008−252293号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. B. Pendry, "Negative Refraction Makes a Perfect Lens", Physical Review Letters, Vol.85, No.18, pp. 3966-3969, October 2000.
【非特許文献2】R. A. Shelby et al., "Experimental Verification of a Negative Index of Refraction", Science, Vol. 292, No. 5514, pp. 77-79, April 2001.
【非特許文献3】Masashi HOTTA et al., "Modal Analysis of Finite-Thickness Slab with Single-Negative Tensor Material Parameters", IEICE Transactions on Electron, Vol.E89-C, No.9, September 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の左手系媒質では、誘電率を負とするためのワイヤ共振器と透磁率を同時に負とするためのスプリットリング共振器(SRR)を共に用いており、これらに流れる電流による損失は大きい。また平面回路での構成は困難であるという問題点があった(例えば、非特許文献2参照。)。
【0008】
また、例えば非特許文献3において、誘電率あるいは透磁率のみを負とするシングルネガティブ異方性媒質が、負の屈折率を持つことを理論的に示されている。しかし、負屈折率をもつことは理論的にのみ示されているが、実験的には示されていない。また、実現法として基板片面のエッジ結合SRRを配列する構成法のみが示されている。
【0009】
さらに、上述のレンズを用いて、これまでにない高分解能リソグラフィや回路や機器間の信号伝送への利用が考えられるが、これまで提案された負屈折率媒質は損失が大きくまた回路に適さないものであった。負屈折率媒質の低損失化及びリソグラフィ技術で作製の容易な多層平面回路で容易に実現可能な構成法が望まれている。
【0010】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、透磁率のみを負とするシングルネガティブ異方性媒質であるメタマテリアルを、従来技術に比較して損失が少なくかつ平面回路で実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明に係るメタマテリアルは、少なくとも1個のスパイラル導体を備えて構成されたメタマテリアルであって、上記メタマテリアルの実効的な誘電率と透磁率のうちの透磁率のみが負となり、負屈折率特性を有することを特徴とする。
【0012】
上記メタマテリアルにおいて、第1のスパイラル導体を誘電体基板の第1の面に形成し、第2のスパイラル導体を上記誘電体基板の第2の面に上記第1のスパイラル導体と対向しかつ電磁的に結合し互いに同一方向で又は逆方向で形成することにより単位セルとして構成された複数の単位セルを1次元方向、2次元方向又は3次元方向に配列して構成されたことを特徴とする。
【0013】
第2の発明に係るメタマテリアルは、それぞれ所定のギャップを有し互いに対向しかつ互いに電磁的に結合するように設けられた1対のスプリットリング導体を備えて構成されたメタマテリアルであって、上記メタマテリアルの実効的な誘電率と透磁率のうちの透磁率のみが負となり、負屈折率特性を有することを特徴とする。
【0014】
上記メタマテリアルにおいて、第1のスプリットリング導体を誘電体基板の第1の面に形成し、第2のスプリットリング導体を上記誘電体基板の第2の面に形成することにより単位セルとして構成された複数の単位セルを1次元方向、2次元方向又は3次元方向に配列して構成されたことを特徴とする。
【0015】
また、上記メタマテリアルにおいて、上記第1のスプリットリング導体と上記第2のスプリットリング導体とは、互いに同方向結合し、逆方向結合し、もしくは、同方向結合と逆方向結合との間の中間結合で結合するように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るメタマテリアルによれば、透磁率のみを負とするシングルネガティブ異方性媒質であるメタマテリアルを、従来技術に比較して損失が少なくかつ平面回路で実現できる。従って、例えば、当該メタマテリアルを用いて負屈折率レンズを構成した場合、当該レンズの分解能を大幅に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)の構成を示す斜視図である。
【図2】図1の2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質の単位セルを示す斜視図である。
【図3】図2の単位セルの詳細構成を示す斜視図である。
【図4】図1の2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質に対する数値シミュレーションによる分散特性を示すグラフである。
【図5】図1の2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質の透過特性及び反射特性を測定するための実験システムを示す平面図である。
【図6】図5の実験システムを用いて測定及び数値シミュレーションされた結果である反射係数S11及び透過係数S21の周波数特性を示すグラフである。
【図7】図1の2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質について測定及び数値シミュレーションされた結果である分散特性を示すグラフである。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)の単位セルの構成を示す斜視図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)の単位セルの構成を示す斜視図である。
【図10】図2、図8及び図9の単位セルを用いた2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)について数値シミュレーションされた結果である分散特性を示すグラフである。
【図11】本発明の第4の実施形態に係る2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)の構成を示す斜視図である。
【図12】図11の単位セルの詳細構成を示す斜視図である。
【図13】図11の単位セルの変形例の詳細構成を示す斜視図である。
【図14】図12及び図13の単位セルを用いた2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)について数値シミュレーションされた結果である分散特性を示すグラフである。
【図15】第1〜第4の実施形態に係る2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)の単位セルを3次元で実現したときのメタマテリアルの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0019】
第1の実施形態.
図1は本発明の第1の実施形態に係る2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)の構成を示す斜視図であり、図2は図1の2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質の単位セルを示す斜視図である。第1の実施形態に係る2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)は、図2のスパイラル導体11を単位セルとして、図1に示すように2次元状に周期的に配列したものである。図2において、スパイラル導体11は、所定の幅を有するストリップ導体を、外形が矩形形状となるように中心から外側に向かって巻回されて形成される。スパイラル導体11は、その平面に直交する磁場成分を持つ入射電磁波に対して誘導電流による磁気モーメントMを持つ。このため、この媒質は、1軸の磁気異方性を持つ。この透磁率テンソル成分は、ローレンツ型の分散を持ち、共鳴周波数ω0とプラズマ周波数ωpの範囲で負透磁率となる周波数領域が存在する。
【0020】
図3は図2の単位セル1の詳細構成を示す斜視図である。当該メタマテリアルを実現するためには、誘電体基板10上にスパイラル導体11を導体パターンとして形成してそれを2次元で配列することが好ましい。ここで、単位セル1の矩形の1辺の長さをaとし、誘電体基板10の厚さをhとし、誘電体基板10の比誘電率をεとし、スパイラル導体11の線幅及び線間隔をそれぞれs,wとする。なお、uは単位セル1のエッジから外側のスパイラル導体11の外側エッジまでの長さである。
【0021】
図4は図1の2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質に対する数値シミュレーションによる分散特性を示すグラフである。本発明者らは、有限要素法に基づく電磁界シミュレーションにより、本実施形態に係る媒質中を伝搬する電磁波の分散特性を求めた。数値計算では、比誘電率ε=2.17、厚さh=0.508mm、誘電体損=0.00085を有するPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)にてなる誘電体基板10上に、図3に示すような線幅s=0.3mm、線間隔w=0.3mmを有する銅にてなるスパイラル導体11の単位セルを格子定数a=4mmで無限周期配列するものとした。図4から明らかなように、4.05〜4.64GHzの帯域内に位相速度と群速度の符号が異なるバックワード波の伝搬モード(モード1)が存在することが確認できた。このときの周波数帯域は592.9MHzで、比帯域(4.05〜4.64GHzの帯域の平均周波数に対する帯域幅の割合)は13.6%である。
【0022】
図5は図1の2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質の透過特性及び反射特性を測定するための実験システムを示す平面図であり、図6は図5の実験システムを用いて測定及び数値シミュレーションされた結果である反射係数S11及び透過係数S21の周波数特性を示すグラフである。
【0023】
本発明者は、上記数値計算に用いた構造を持つ単位セル1を12×12セルで配置した構造を試作し、図5に示すように2個の磁気ループプローブ31,32を用いて、当該媒質の面内伝搬波に対する通過特性及び反射特性を求めた。磁気ループプローブ31,32は、ループを貫く磁束がスパイラルの持つ磁気モーメントと電磁的に結合するように、ループ面をスパイラル導体11の平面と平行に配置した。媒質表面から3mm上方の距離にある面内に配置しかつプローブ間距離が12mmである2個の磁気ループプローブ31,32間の通過係数S21及び反射係数S11をベクトルネットワークアナライザで測定した。図6には、同一の単位セル1を3×6セル配列した構造に対する数値シミュレーションにより得られた通過特性及び反射特性の計算結果も併せて示した。図6において、分散特性の数値シミュレーションから得られたバックワード波の伝搬帯域を示している。
【0024】
図6から明らかなように、測定で得られた通過帯域と分散特性の数値シミュレーションによるバックワード波伝搬帯域とはある程度一致することが確認できた。また、有限個構造に対する数値シミュレーションによる伝搬帯域ともほぼ一致した。
【0025】
図7は図1の2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質について測定及び数値シミュレーションされた結果である分散特性を示すグラフである。本発明者は、自動ステージを用いてプローブ間距離とポート間の移相の関係を調べた。図7はx軸方向の移動距離に対する移相量の変化の測定結果を示している。図7には数値シミュレーションにより得られた分散特性も併せて示した。
【0026】
図7から明らかなように、測定により得られた分散曲線から3.96〜4.75GHzの間に伝搬域があり、この周波数帯は数値シミュレーションによる左手系伝搬帯域と良く一致した。またこの伝搬域では周波数の増加に対して波数が小さくなるバックワード波伝搬の性質が確認でき、本媒質の負屈折率特性が実験的に確認できたと言える。
【0027】
以上説明したように、本実施形態によれば、2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質を作製し、本媒質が負屈折率特性を持つことを実験的に確認した。本実施形態に係る2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質は平面形状で形成されているために、小型軽量であり、伝送損失も従来技術に比較して低い。また、スパイラル導体11を用いたスパイラル共振器は、スパイラル長を長く巻くことで共振周波数を下げることができるため、単位セルの小型化に有効である。負屈折率レンズを構成する際の分解能は単位セルのサイズ以下とすることはできないため、これは分解能の向上に役立つ。
【0028】
第2及び第3の実施形態.
図8は本発明の第2の実施形態に係る2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)の単位セルの構成を示す斜視図である。また、図9は本発明の第3の実施形態に係る2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)の単位セルの構成を示す斜視図である。図8の単位セル1Aは、誘電体基板10のおもて面にスパイラル導体11を形成し、それに対向するように、誘電体基板10の裏面に、スパイラル導体11と同方向で巻回しかつ同一の仕様を有するスパイラル導体12を電磁的に結合するように形成して構成され、これを同一方向の単位セル1Aという。また、図9の単位セル1Bは、誘電体基板10のおもて面にスパイラル導体11を形成し、それに対向するように、誘電体基板10の裏面に、スパイラル導体11と逆方向で巻回しかつ同一の仕様を有するスパイラル導体12を電磁的に結合するように形成して構成され、これを逆方向の単位セル1Bという。
【0029】
図10は図2、図8及び図9の単位セル1,1A,1Bを周期的に無限配列してなる2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)について、図7と同様に数値シミュレーションされた結果である分散特性を示すグラフである。図10から明らかなように、1個のスパイラル導体11からなる単位セル1及び同一方向の単位セル1Aを用いた媒質では、3.8〜4.6GHzの帯域で16.0%の比帯域であるのに対して、逆方向の単位セル1Bを用いた媒質では、2.8〜3.3GHzの帯域で18.7%の比帯域を有する。すなわち、逆方向で多層化することで、磁気モーメントを大きくすることができ、帯域幅を増大させることができ、しかも動作周波数を大幅に下げることができ、同一サイズでの単位セルで大幅に小型化できるという特有の効果を有する。
【0030】
第4の実施形態.
図11は本発明の第4の実施形態に係る2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)の構成を示す斜視図であり、図12は図11の単位セル2Aの詳細構成を示す斜視図である。第4の実施形態に係る2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)の単位セル2Aは、図12に示すように、誘電体基板10のおもて面に所定のギャップを有する円形のスプリットリング導体13を形成し、それに対向するように、誘電体基板10の裏面に、スプリットリング導体13に対してそのギャップ位置が180度の位置にあるように互い違いでかつ同一の仕様を有し所定のギャップを有する円形のスプリットリング導体14を電磁的に結合するように形成して構成され、これを逆方向結合の単位セル2Aという。このように、スプリットリング導体13,14を上下方向で結合することで、横方向に配置するエッジ結合に比較して、広帯域でブロードサイド結合することができ、配列密度を高くすることができる。図11の媒質では、逆方向結合の単位セル2Aを2次元方向で周期的に配置したことを特徴としている。
【0031】
図13は図11の単位セルの変形例の詳細構成を示す斜視図である。図13の単位セル2Bは、誘電体基板10のおもて面に円形のスプリットリング導体13を形成し、それに対向するように、誘電体基板10の裏面に、スプリットリング導体13に対してそのギャップ位置が上下で一致するようにかつ同一の仕様を有する円形のスプリットリング導体14を電磁的に結合するように形成して構成され、これを同方向結合の単位セル2Bという。
【0032】
図14は図12及び図13の単位セルを用いた2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)について図10と同様に数値シミュレーションされた結果である分散特性を示すグラフである。なお、スプリットリング導体13,14の半径は2.4mmであり、幅は0.8mm、ギャップは200μmであり、その他の仕様は図10と同様である。図14から明らかなように、以下のことがわかる。
(a)いずれの単位セル2A,2Bを用いても負屈折率特性を確認することができた。
(b)逆方向結合の単位セル2Aを用いた場合、同方向結合の単位セル2Bを用いた場合に比較して、動作周波数を75%以下程度に低くすることができ、これにより、同一サイズで実現する場合に小型化することができる。
(c)いずれの単位セル2A,2Bを用いても広帯域で動作させることができる。これは、強い磁気共振により負の透磁率の周波数範囲が増大したためである。
【0033】
本実施形態を含む本発明の新規性と特徴.
本実施形態を含む本発明の新規性と特徴は以下の通りである。
(a)シングルネガティブ異方性媒質は従来は理論的に予想されていたのみであるが、本発明では、メタマテリアルの具体的な実現手法を始めて提案して数値シミュレーション及び実験にて確認した。
(b)ダブルネガティブによるメタマテリアルは、誘電率を負とする構造も必要なため、構成がより複雑(立体的)になりかつ金属メッシュ等による導体損失が増えるが、シングルネガティブ異方性媒質は上述のように低損失化が可能である。本発明者の数値計算では、20GHz帯で134%〜150%のQ値が向上した。
(c)当該媒質は、スパイラル導体11,12あるいはスプリットリング導体13,14による単純な構成であり、平面的な回路で実現が可能であり、半導体プロセスに適用することがきわめて簡単である。
【0034】
変形例.
第1〜第3の実施形態において、スパイラル導体11,12を正方形状で形成しているが、本発明はこれに限らず、その外形について矩形形状、多角形状、円形状、楕円形状などの形状で形成してもよい。
【0035】
第4の実施形態において、スプリットリング導体13,14を円形状で形成しているが、本発明はこれに限らず、その外形について矩形形状、多角形状、楕円形状などの形状で形成してもよい。
【0036】
第4の実施形態の単位セル2Aにおいて、スプリットリング導体13,14のギャップ位置を互いに180度の位置となるように配置して逆方向結合を構成し、単位セル2Bにおいて、スプリットリング導体13,14のギャップ位置を互いに一致して0度の位置となるように配置して同方向結合を構成しているが、本発明はこれに限らず、0度を超えて180未満の位置で配置して、逆方向結合と同方向結合の間の中間結合でスプリットリング導体13,14が結合するように構成してもよい。
【0037】
図15は第1〜第4の実施形態に係る2次元スパイラルシングルネガティブ異方性媒質(メタマテリアル)の単位セル1,1A,1B,2A,2Bを3次元で実現したときのメタマテリアルの構成を示す斜視図である。単位セル1,1A,1B,2A,2Bを上下方向では所定の厚さを有する誘電体層20を挟んで、3次元方向に配列して多層化したことを特徴としている。ここで、単位セル1,1A,1B,2A,2Bを上下方向(誘電体基板10,20の厚さ方向)で電磁的に結合している。なお、単位セル1の場合は誘電体層20を省略してもよい。ここで、単位セルの配列については、1次元のみの配列でもよいし、2次元の配列でもよい。さらに、上記の実施形態では、単位セル1,1A,1B,2A,2Bを周期的に配置しているが、本発明はこれに限らず、非周期的に配列してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上詳述したように、本発明に係るメタマテリアルによれば、透磁率のみを負とするシングルネガティブ異方性媒質であるメタマテリアルを、従来技術に比較して損失が少なくかつ平面回路で実現できる。従って、例えば、当該メタマテリアルを用いて負屈折率レンズを構成した場合、当該レンズの分解能を大幅に向上できる。
【0039】
従って、本発明に係るメタマテリアルを、バックワード波を伝送する1次元線路として構成した場合、移相器や全方向放射漏洩アンテナなどに応用することができる。また、本発明に係るメタマテリアルを2次元媒質として構成した場合、負屈折率レンズ、スーパーレンズ、レンズアンテナなどに応用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1,1A,1B,2A,2B…単位セル、
10…誘電体基板、
11,12…スパイラル導体、
13,14…スプリットリング導体、
20…誘電体層、
31,32…プローブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個のスパイラル導体を備えて構成されたメタマテリアルであって、上記メタマテリアルの実効的な誘電率と透磁率のうちの透磁率のみが負となり、負屈折率特性を有することを特徴とするメタマテリアル。
【請求項2】
第1のスパイラル導体を誘電体基板の第1の面に形成し、第2のスパイラル導体を上記誘電体基板の第2の面に上記第1のスパイラル導体と対向しかつ電磁的に結合し互いに同一方向で又は逆方向で形成することにより単位セルとして構成された複数の単位セルを1次元方向、2次元方向又は3次元方向に配列して構成されたことを特徴とする請求項1記載のメタマテリアル。
【請求項3】
それぞれ所定のギャップを有し互いに対向しかつ互いに電磁的に結合するように設けられた1対のスプリットリング導体を備えて構成されたメタマテリアルであって、上記メタマテリアルの実効的な誘電率と透磁率のうちの透磁率のみが負となり、負屈折率特性を有することを特徴とするメタマテリアル。
【請求項4】
第1のスプリットリング導体を誘電体基板の第1の面に形成し、第2のスプリットリング導体を上記誘電体基板の第2の面に形成することにより単位セルとして構成された複数の単位セルを1次元方向、2次元方向又は3次元方向に配列して構成されたことを特徴とする請求項3記載のメタマテリアル。
【請求項5】
上記第1のスプリットリング導体と上記第2のスプリットリング導体とは、互いに同方向結合し、逆方向結合し、もしくは、同方向結合と逆方向結合との間の中間結合で結合するように構成されたことを特徴とする請求項4記載のメタマテリアル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−175522(P2012−175522A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37115(P2011−37115)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会2010年ソサイエティ大会講演論文集」のS29〜S30頁(CS−2−2)及びS31〜S32頁(CS−2−3)において、2010年8月31日に発表した。
【出願人】(396023993)株式会社半導体理工学研究センター (150)
【Fターム(参考)】