説明

メタルハライドランプ

【課題】
発光管の電極間が絶縁破壊されたときに強誘電体セラミックコンデンサの放電により生ずる電歪現象の変形速度を遅延させ、その破損事故を未然に防止できるようにする。
【解決手段】
メタルハライドランプ(1)の外管(2)内に発光管(3)と共に並列接続されて収納配設された始動回路(4)に、予め設定された抗電圧以上の電圧が印加されたときに充放電を起して安定器から高電圧の始動パルスを出力させる強誘電体セラミックコンデンサ(13)と、予め設定されたブレークオーバー電圧以上の電圧が印加されたときに導通状態に切り換わる半導体スイッチ(15)と、発光管が絶縁破壊されたときにコンデンサから放電される電荷の放電時間を遅延させる時定数調整抵抗(14)とを、直列に接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極間で放電発光する発光管とその始動回路が並列に接続された状態で外管内に収納配設された始動器内蔵型メタルハライドランプに関する。
【背景技術】
【0002】
始動器内蔵型メタルハライドランプは、そのランプ内にパルスを発生する始動回路を内蔵しており、従来より広く普及している安価な水銀灯用安定器を利用して点灯できるようになっている。
【特許文献1】特開平11−162413号公報
【0003】
このような始動器内蔵型メタルハライドランプ31の基本構造は、図6に示すように、金属蒸気が封入された発光管33とその始動回路34が並列に接続された状態で外管32内に収納配設されている。
発光管33は、交流電源35からランプ電力供給回路36を介して交流ランプ電力が供給され、その電極37A、37B間で放電発光される。
【0004】
始動回路34は、ランプ電力供給回路36に介装される安定器38に電流変化を生じさせ、安定器38から高電圧の始動パルスを出力させてランプ電極37A、37B間に放電を起こさせて絶縁破壊するための回路であり、非線形セラミックコンデンサなどの強誘電体セラミックコンデンサ(以下、単に「FEC」と略す。)39と、双方向2端子サイリスタなどの半導体スイッチ40と、カレントダンパと称する溶断抵抗41が直列に接続されている。
【0005】
また、FEC39に対して並列に焦電流バイパス抵抗42が接続され、FEC39が約90℃のキュリー温度を超える際に発生する焦電流をバイパスさせてその特性劣化を防止するようになっており、また、パルス位相安定用抵抗43が、半導体スイッチ40に対して並列に接続されている。
【0006】
これによれば、交流電源電圧の半サイクルごとに、電圧が正負のブレークオーバー電圧を超えた高電圧状態で半導体スイッチ40が導通状態となり、前の交流サイクルにより逆分極飽和状態となっていたFEC39が放電/充電されて正分極飽和状態となり充電が完了する。
この逆分極飽和状態から正分極飽和状態に至るまでのFEC39の放電/充電動作により、これが安定器38に電流が流れ、FEC39が正分極飽和状態となった時点で電流は0となる。
【0007】
すなわち、安定器38では、逆分極飽和状態から正分極飽和状態に至るまで流れていた電流の流れが急に止まるので、その電流の時間変化とリアクタンスに応じた高電圧の始動パルスが発光管33の電極37A,37Bに対して印加され、その結果、電極37A,37B間で絶縁破壊が起きると発光管33が点灯開始される。
このとき、FEC39が正分極飽和状態となって流れが止まる直前の電流値が高ければ高いほど電流変化量が高くなるので、安定器38から出力される始動パルスの電圧が高くなり、発光管33は始動しやすい。
【0008】
ところで、一般に、安定器(コイル)で発生するパルス電圧Vは、
=−L(di/dt)
L:安定器の自己インダクタンス
dt:時間
di:電流変化量
で表される。
【0009】
コンデンサに交流の電源電圧が印加される場合、その電圧値は常に変化するので、そのピーク電圧近傍で放電/充電されるようにすれば、コンデンサの放電電圧が電源電圧に重畳されるため、その分、電流値も高くなり、電流が停止されたときの電流変化量が多くなる。
このため、FEC39と直列に半導体スイッチ40を接続し、そのブレークオーバー電圧をピーク電圧近傍の所定の値に設定することにより、電源電圧が高いときに、FEC39が充電/放電されるように成されている。
これによって、安定器38から高電圧(1.6〜2.2kV程度)の始動パルスが出力さると、発光管33が絶縁破壊される前であれば、高電圧始動パルスがFEC39にも印加されてさらに電荷が追加蓄積され、次の放電/充電時に安定器に流れる電流をより高く維持できるというメリットがある。
【0010】
一方、電流変化量diは、コンデンサの静電容量Cに依存し、その静電容量Cは、
C=εε(S/D)
C:静電容量
S:電極面積
D:電極間距離
ε:絶縁体の誘電率
ε:真空の誘電率(8.854×10-12
で表される。
これより、FEC39においては、強誘電体となるセラミック基板の厚さを薄く(距離Dを小さく)すればするほど静電容量は大きくなり、対向する電極面積Sを広くすればするほど静電容量は大きくなるが、FEC39を薄く広く形成すれば機械的強度が低下するという問題が生じ、長時間使用しているうちに、発光管33が破損する前に、FEC39にクラックが入って点灯不能となる事例が発見された。
【0011】
このため、本発明者らがその原因を究明すべく実験を重ねたところ、安定器38から始動パルスが出力されて電極37A、37B間で絶縁破壊されたときに、始動回路34と、これに並列接続されているが発光管33とで閉回路が形成され、その瞬間、FEC39に充電されていた電荷がFEC39の一方の電極から発光管33を通り、他方の電極へ向かって急激に放電される現象が観察された。
FEC39には絶縁破壊されるまで始動パルスの電圧が印加されて電荷が蓄積されるので、絶縁破壊に伴って放電される電荷量は、絶縁破壊のタイミングにより大きく異なり、タイミングによっては始動パルスの最大電圧値(例えば2.0kV)が印加されて、絶縁破壊と同時にその電圧値に匹敵する放電電圧で放電されることになる。
【0012】
放電時間を測定したところ、2.0kVから0電位に落ちるまでの放電時間が1μ秒以下の0.1〜0.5μ秒であり、安定器38から出力される始動パルスの半値幅(数十〜百数十μ秒)に比して、1/100〜1/1000程度の短時間で放電されていることが判明した。
【0013】
FEC39に用いられる強誘電体は圧電材料でもあるため、電荷が蓄積されるとその電界に応じた歪が発生する電歪現象を生じ、放電により電界が変化するとその歪量も変化する。
また、強誘電体は多結晶構造を有しており、電圧変化によって一つ一つの結晶が変形すると、隣合う結晶同士の位置関係がずれて摩擦力や応力を生じる。
したがって、放電時間が短ければ短いほど、電界の変化が速いため、FEC39の単位時間当たりの変形量が大きく、これが衝撃となって結晶同士がはがれ、クラックが発生して割れたり、割れないまでもクラックに電流が流れてショートしたりするなどして、FEC39にダメージを与えていることが判明した。
しかも、通常は、電極37A、37B間で一旦絶縁破壊されても即時に安定点灯するわけではなく、始動開始から安定点灯に移行するコンマ数秒〜十数秒の間に、始動パルスにより絶縁破壊されては立消えるという現象を繰り返し、数回〜数百回の始動パルスが出力されるので、ランプ始動時には、始動パルスが出力されるたびに生ずる電歪現象によりFEC39がコンマ数秒〜十数秒間にわたって変形を繰り返し、振動することは避けられず、これが、FEC39のクラックの原因となっていると推測される。
【0014】
この対応策として、強誘電体となるセラミック基板を厚く、あるいは、対向する電極面積を狭くすれば機械的強度が向上するが、静電容量が小さくなり、その結果、安定器に流れる電流変化が小さくなり、ひいては始動パルスの電圧が低下するという問題を生ずる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで本発明は、始動パルスの電圧を低下させることなく、発光管の電極間が絶縁破壊されたときに強誘電体セラミックコンデンサの放電により生ずる電歪現象の変形速度を遅延させ、その破損事故を未然に防止することを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この課題を解決するために本発明は、外管内に、ランプ電力供給回路を介して供給される交流電力により電極間で放電発光する発光管と、前記ランプ電力供給回路に介装された安定器を流れる電流を急変させて安定器から高電圧始動パルスを出力させる始動回路が、並列に接続された状態で収納配設されたメタルハライドランプにおいて、
前記始動回路には、
予め設定された抗電圧以上の電圧がランプ電力供給回路を介して印加されたときに充放電を生じ、前記安定器に流れる電流を変化させて安定器から高電圧の始動パルスを出力させる強誘電体セラミックコンデンサと、
予め設定されたブレークオーバー電圧以上の電圧が印加されたときに導通状態に切り換わる半導体スイッチと、
前記始動パルスにより発光管が絶縁破壊されたときに、前記コンデンサの一方の電極から発光管を介して他方の電極に至る閉回路を介して放電される電荷の放電時間を遅延させる時定数調整抵抗が、直列に接続されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、始動回路に、FEC(強誘電体セラミックコンデンサ)と、半導体スイッチと、時定数調整抵抗が、直列接続されている。
発光管の始動時にランプ電力供給回路を介して始動回路に印加される交流の電源電圧が、半サイクルごとに正負のブレークオーバー電圧を超えた時点で半導体スイッチが導通状態に切り換わり、前の交流サイクルにより逆分極飽和状態となっていたFECに高電圧の電荷が充電され、正分極飽和状態となり充電が完了する。
この逆分極飽和状態から正分極飽和状態に至る放電/充電動作の間、安定器に電流が流れ、正分極飽和状態となった時点で電流は0となる。
【0018】
安定器では、FECが逆分極飽和状態から正分極飽和状態に至るまで流れていた電流の流れが急に止まるので、その電流の時間変化と自己インダクタンスに応じた高電圧の始動パルスが発光管の電極に対して印加され、その結果、電極間で絶縁破壊が起き、発光管が安定点灯に移行するまで、以上の動作が繰り返される。
【0019】
一方、絶縁破壊により発光管の電極間が導通されると、始動回路と、これに並列接続されているが発光管とで閉回路が形成され、その瞬間、FECに充電されていた電荷がFECの一方の電極から発光管33を通り、他方の電極へ向かって急激に放電される。
FECには絶縁破壊されるまで始動パルスの電圧が印加されて電荷が蓄積されるので、絶縁破壊のタイミングによっては始動パルスの最大電圧値(例えば2.0kV)に匹敵する放電電圧で電荷が放電されるが、始動回路には、時定数調整抵抗が介装されてその閉回路の時定数が大きく設定されている。
したがって、例えば、その閉回路の時定数が2倍になるように時定数調整抵抗の抵抗値を選択すれば、FECの放電時間も2倍に延び、その分、FECを構成する強誘電体の変形速度が低下するので、電歪衝撃によるクラックの発生を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本例では、始動パルスの電圧を低下させることなく、発光管の電極間が絶縁破壊されたときに強誘電体セラミックコンデンサの放電により生ずる電歪現象の変形速度を遅延させ、その破損事故を未然に防止するという目的を達成するために、発光管と始動回路が並列に接続された状態で外管内に収納配設されたメタルハライドランプにおいて、始動回路に、予め設定された抗電圧以上の電圧がランプ電力供給回路を介して印加されたときに充放電を起して安定器から高電圧の始動パルスを出力させる強誘電体セラミックコンデンサと、予め設定されたブレークオーバー電圧以上の電圧が印加されたときに導通状態に切り換わる半導体スイッチと、発光管が絶縁破壊されたときにコンデンサから放電される電荷の放電時間を遅延させる時定数調整抵抗とを、直列に接続した。
【0021】
以下、本発明を図面に示す実施例に基づいて説明する。
図1は本発明に係るメタルハライドランプの一例を示す回路図、図2はその外観図、図3は強誘電体セラミックコンデンサの断面図、図4は始動時の電圧/電流変化を示すグラフ、図5は時定数調整抵抗の効果を示すグラフである。
【実施例1】
【0022】
本例のメタルハライドランプ1は、外管2内に、発光管3と始動回路4が並列に接続された状態で配されている。
外管2は透明硬質ガラスで発光管2及び始動回路4を収納可能な大きさに形成されると共に、その片端側に口金5が配され、該口金5を介して交流電源6及び安定器7が介装された電力供給回路8に接続できるようになっている。本例では、AC200V(最大値:±282V)の交流電源6が用いられ、400W水銀灯に適合した安定器7が用いられている。
【0023】
発光管3は、透光性セラミックで形成されて保護管21内に収納されて外管2内に配されている。
そして、両端封止部9A、9Bに電極10A,10Bが挿通されて封止され、内部には、始動補助ガスと共に水銀及びスカンジウム,ナトリウム等の金属ハロゲン化物(金属蒸気)が封入されており、交流電源6からランプ電力供給回路8を介して供給される交流の交流電力により放電発光される。本例では、定格電力360Wのものを用いた。
【0024】
始動回路4には、常温時導通−ランプ点灯時遮断型のバイメタルスイッチ11と、カレントダンパと称する0.8〜1.0Ω程度の溶断抵抗12と、強誘電体セラミックコンデンサ(FEC)13と、半導体スイッチ14が直列に接続され、FEC13と半導体スイッチ14の間に時定数調整抵抗15が介装されている。
溶断抵抗12は、発光管の点灯中に発光管内の金属蒸気が外管内に漏洩して前記強誘電体セラミックコンデンサの電極間で沿面放電が生じたときに、当該始動回路に流れる過電流により溶断されて、FECが破損するのを防止している。
【0025】
FEC13は、安定器7に流れる電流を変化させて安定器7から高電圧の始動パルスを出力させるため、予め設定された抗電圧以上の電圧がランプ電力供給回路8を介して印加されたときに充放電が行われる。
本例では、強誘電体(バルク)16が厚さ×直径=1mm×19mm、電極17A、17Bが直径16.8mm、その抗電圧が±40Vに設計されており、印加電圧が±40Vを越えた時点で充放電が行われるようになっている。
【0026】
半導体スイッチ14は、双方向2端子サイリスタなどからなり、交流の電源電圧のピークに近い高い電圧をFEC13に印加させることができるように、印加電圧が上昇して予め設定された所定のブレークオーバー電圧に達したときに導通状態に切り換わるスイッチング素子として機能する。
本例では、例えば、電源電圧が交流200V(最大値:±282V)である場合に、ブレークオーバー電圧が±200Vに設定されている。
【0027】
これにより、交流の電源電圧が、FEC13の抗電圧(±40V)と半導体スイッチ14のブレークオーバー電圧(±200V)の合計電圧(±240V)を超えると、半導体スイッチ14が導通して、電源電圧がFEC13に電源電圧が印加され、逆分極飽和状態にあったFEC13が放電/充電されて正分極飽和状態に反転し、この充放電動作が行われている間、安定器7に電流が流れる。
そして、FEC13が正分極飽和状態に達した時点で、安定器7に流れる電流が0となり、この電流変化によって安定器7から高電圧(1.6〜2kV程度)の始動パルスが出力される。
【0028】
さらに、時定数調整抵抗15は、発光管3の電極10A及び10Bが絶縁破壊されたときに、FEC13から放電される電荷の放電時間を遅延させるもので、本例では抵抗値100Ω、定格電力1/4Wのものが用いられている。
発光管3の電極10A、10B間が絶縁破壊され、FEC13に充電された電荷が放電される現象は、始動回路4及び発光管3で形成されるRC回路18で生じる放電であると考えられ、放電開始から放電終了に至る放電時間は、発光管インピーダンスRと、時定数調整抵抗15の抵抗値Rに依存すると考えられる。
【0029】
そして、発光管インピーダンスRは、絶縁破壊直後(例えば0.05μ秒後)は高く、0.2〜0.3μ秒後には激減するという特性を有しているのに対し、時定数調整抵抗15は抵抗値Rが一定の固定抵抗であるから、時定数調整抵抗15による電圧降下曲線は「RC放電」の基本式で表すことができる。
このとき、固定抵抗による時定数Tは、
=R
C:FEC13の静電容量
で表され、RC回路18の放電時間は、時定数T成分に影響されて、その分、遅延するものと考えられる。
【0030】
ただし、時定数調整抵抗15抵抗値Rが大きすぎると、安定器7で始動パルスを発生させる際に、安定器7を流れる電流が低くなって、始動パルスの電圧値が低下するので、時定数調整抵抗15の抵抗値を0としたときの始動パルスの電圧値Vの90%以上に維持できる程度に抵抗値Rを低く設定した。
本例では、時定数調整抵抗15としてR=100Ωの炭素膜抵抗を用いており、始動パルスの電圧値Vは電圧値Vの92%であった。
【0031】
そして、FEC13が約90℃のキュリー温度を超える際に発生する焦電流をバイパスさせてその特性劣化を防止する焦電流バイパス抵抗19がFEC13に対して並列に接続され、また、パルス位相安定用抵抗20が、半導体スイッチ14に対して並列に接続されている。
【0032】
以上が本発明の一構成例であって、次に、その作用について、交流波形の電圧変化に伴う各素子の動作を図4及び図5に基づいて説明する。
スイッチ(図示せず)をオンして、交流電源6からランプ電力供給回路8を介してAC200Vの電源電圧を供給すると、その交流電圧は±282Vをピークとするサイン波形として出力される。
【0033】
[図4:P〜P間、P〜P間]
まず、電源電圧が0から±240Vに達するまでは、発光管3の電極10A、10B間が絶縁状態にあり、始動回路4の半導体スイッチ14も非導通状態であるので、始動回路4及びランプ電力供給回路8には一切の電流は流れない。
[図4:P〜P間、P〜P間]
次いで、電源電圧がFEC13の抗電圧(±40V)と半導体スイッチ14のブレークオーバー電圧(±200V)の合計電圧(±240V)を超えると、半導体スイッチ14が導通して、電源電圧がFEC13に電源電圧が印加され、前の交流サイクルで逆分極飽和状態にあったFEC13が放電/充電されて正分極飽和状態に反転し、この充放電動作が行われている一瞬の間、安定器7に電流が流れる。
[図4:P〜P間、P〜P間]
FEC13が正分極飽和状態に達した時点で、安定器7に流れる電流が0となるので、この電流変化によって安定器7から高電圧(例えば2kV)の始動パルスが出力される。
【0034】
そして、始動開始からコンマ数秒〜十数秒の間に、交流サイクルの半サイクルごとに高電圧の始動パルスが出力されて、発光管3の電極10A、10B間で断続的に絶縁破壊が起こり、その後、安定点灯に移行する。
すなわち、この間、発光管3の電極は絶縁破壊/立消えを繰り返し、安定点灯に至るまで数回〜数百回の始動パルスが出力されることとなる。
【0035】
一方、絶縁破壊が起きると、FEC13に蓄積されていた電荷が発光管3を介して、FEC13の一方の電極17A(17B)から他方の電極17B(17A)へ放電され、FEC13の電極間電位が0になる。
このとき、FEC13には、絶縁破壊が起きる直前まで始動パルスの電圧が印加されているから、その放電電圧は絶縁破壊が起きる瞬間の始動パルスの電圧に等しい。
始動パルスが出力されるときの電源電圧が約240Vであり、始動パルスは240Vから2kVまで瞬間的に変化するため、FEC13の放電電圧は最大で2kVに達する。
【0036】
そして、絶縁破壊により、FEC13が放電されてその電極間電圧が2kVから0Vに変化するが、そのときFEC13の電極間を短絡する始動回路4には時定数調整抵抗が介装されているので、時定数が大きくなり放電時間が遅くなる。
このため、FEC13の放電によりその電極間電圧が2kVから0Vに変化しても、その変化速度が遅いため、電歪によりFEC13の強誘電体が変形しても、その変形速度が遅いゆっくりとした変形となる。
したがって、強誘電体の単位時間当たりの変形量が小さくなり、これが衝撃となることもなく、FEC13に与えるダメージを減少させることができる。
【0037】
図5は、始動回路4と絶縁破壊された発光管3とで形成されるRC回路18の等価回路を組み、印加電圧約2kVで充電されたFEC13を放電させて、FEC13の両端の電圧変化を測定する実験結果を示すグラフである。
図5(a)は時定数調整抵抗15が介装された等価回路の実験結果、図5(b)は比較のため時定数調整抵抗15が介装されていない回路の実験結果を示す。
【0038】
時定数調整抵抗15が介装されていない場合は、発光管3以外のインピーダンスはゼロに近く、発光管インピーダンスRは、絶縁破壊直後(例えば0.05μ秒後)は高く、0.2〜0.3μ秒後には激減する。
その結果、発光管3で生ずる電圧降下(FEC13の電極間電圧に相当)は、図5(b)に示す通り、絶縁破壊から0.2μ秒経過するまでは緩やかな勾配Aで低下し、その後、0.3μ秒経過後から急激な勾配Bで低下する。
これにより、約2kVに充電されたFEC13の電極間電圧がその30%(600V)に低下するまでの放電時間が僅か約0.6μ秒であった。
【0039】
一方、時定数調整抵抗15を介装した場合は、固定抵抗による電圧降下曲線は「RC放電」の基本式と同じであり、RC回路18のインピーダンス(回路抵抗)は、発光管3のインピーダンスと時定数調整抵抗15の抵抗値を合成した合成インピーダンス(R+R)≧Rに維持される。
したがって、その電圧降下は、図5(a)に示す通り、絶縁破壊から0.2μ秒経過するまでは緩やかな勾配Aで低下し、その後、0.3μ秒経過後も比較的緩やかな勾配Bで低下していく。
これにより、約1.9kVに充電されたFEC13の電極間電圧がその30%(570V)に低下するまでの放電時間が約1.2μ秒であった。
【0040】
さらに、電極間電圧がその100%から10%にまで低下するまでの時間で比較すると、時定数調整抵抗15が介装されていない場合は、図5(b)に示す通り、電極間電圧がその10%(200V)に低下するまでの放電時間が1μ秒以下であるのに対し、時定数調整抵抗15が介装されている場合は、図5(a)に示す通り、3.0μ秒経過しても電極間電圧がその10%(190V)に低下しなかった。
【0041】
このように、本例では、時定数調整抵抗15を介装することにより放電時間が延びるので、始動開始から安定点灯に至るまでの間、始動パルスにより絶縁破壊されるたびに生ずるFEC13の電歪変形の変形速度を低下させることができ、FEC13の放電に伴う衝撃を緩和して、クラックや割れの発生を防止し、ランプ寿命を延ばすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上述べたように、本発明は、強誘電体セラミックコンデンサを備えた始動回路を内蔵したセラミックメタルハライドランプの用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係るメタルハライドランプの一例を示す回路図。
【図2】その外観図。
【図3】強誘電体セラミックコンデンサの断面図。
【図4】始動時の電圧/電流変化を示すグラフ。
【図5】時定数調整抵抗の効果を示すグラフ。
【図6】従来装置を示す回路図。
【符号の説明】
【0044】
1 メタルハライドランプ
2 外管
3 発光管
4 始動回路
6 交流電源
7 安定器
8 電力供給回路
12 溶断抵抗
13 FEC(強誘電体セラミックコンデンサ)
14 半導体スイッチ
15 時定数調整抵抗



【特許請求の範囲】
【請求項1】
外管内に、ランプ電力供給回路を介して供給される交流電力により電極間で放電発光する発光管と、前記ランプ電力供給回路に介装された安定器を流れる電流を急変させて安定器から高電圧始動パルスを出力させる始動回路が、並列に接続された状態で収納配設されたメタルハライドランプにおいて、
前記始動回路には、
予め設定された抗電圧以上の電圧がランプ電力供給回路を介して印加されたときに充放電を生じ、前記安定器に流れる電流を変化させて安定器から高電圧の始動パルスを出力させる強誘電体セラミックコンデンサと、
予め設定されたブレークオーバー電圧以上の電圧が印加されたときに導通状態に切り換わる半導体スイッチと、
前記始動パルスにより発光管が絶縁破壊されたときに、前記コンデンサの一方の電極から発光管を介して他方の電極に至る閉回路を介して放電される電荷の放電時間を遅延させる時定数調整抵抗が、直列に接続されたことを特徴とするメタルハライドランプ。
【請求項2】
前記始動回路には、発光管の点灯中に発光管内の金属蒸気が外管内に漏洩して前記強誘電体セラミックコンデンサの電極間で沿面放電が生じたときに、当該始動回路に流れる過電流により溶断される溶断抵抗が介装された請求項1記載のメタルハライドランプ
【請求項3】
前記始動パルスの電圧値が前記時定数調整抵抗の抵抗値を0としたときの始動パルスの電圧値の90%以上となるように前記時定数調整抵抗の抵抗値が選定された請求項1又は2記載のメタルハライドランプ。




【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−3414(P2010−3414A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158617(P2008−158617)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】