説明

メタンからの芳香族炭化水素の製造

【課題】メタンの芳香族化において反応熱を供給するための、改善された方法を提供する。
【解決手段】(a)メタンを含む供給原料14と反応ゾーン11の脱水環化触媒を接触(b)触媒の第1部分を反応ゾーンから加熱ゾーン16へ移送(c)触媒の第1部分を炭化水素を含む補助燃料源15を燃焼生成させた燃焼ガスと接触させて加熱する工程であって、炭化水素を酸素が不足した雰囲気下で燃焼させて合成ガスを生成(d)合成ガスを炭化水素生成物又は燃料に転換(e)加熱された触媒の第1部分を反応ゾーンへ返送(f)触媒の第2部分を反応ゾーンから別の再生ゾーンへ移送(g)再生ゾーンで触媒の第2部分からコークスの一部を除去できる条件下で再生ガスに接触(h)再生触媒の第2部分を反応ゾーンへ返送する工程を備える方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、メタン、特に天然ガスからの芳香族炭化水素の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族炭化水素、特にベンゼン、トルエン、エチルベンゼンやキシレンは、石油化学産業における重要な化学品である。現在、芳香族炭化水素は、触媒改質や触媒クラッキングなどを含む様々な方法により、石油ベースの原料油から製造することが、最も一般的に行われている。しかし、世界的に石油や原料油の供給が減少しているため、芳香族炭化水素の代替原料に対する必要性が高まっている。
【0003】
可能性のある代替原料のひとつは、天然ガスやバイオガスの主成分であるメタンである。現在、石油よりも天然ガスの発見量の方が多くなっているため、世界的に天然ガスの埋蔵量は増加している。大量の天然ガスの輸送に付随する問題のため、石油とともに生産される天然ガスの大部分は、特に遠隔地では、燃やされ、無駄にされている。したがって、付随する技術的困難性を克服できるなら、天然ガスに含まれるアルカンを芳香族炭化水素などの高級炭化水素に直接転換することは、天然ガスの高付加価値化を図る上で魅力的である。
【0004】
メタンを液状炭化水素に転換する方法の主流は、先ずメタンをHとCOの混合物である合成ガスに転換する方法である。合成ガスの製造には、集約的な設備投資とエネルギーが必要である。したがって、合成ガスの生成を必要としない方法が好ましい。
【0005】
メタンを高級炭化水素に直接転換するための、多くの代替プロセスが提案されている。このようなプロセスのひとつには、メタンを酸化力のある触媒によりカップリングしてオレフィンとし、次に触媒によりオレフィンを、芳香族炭化水素を含む液状炭化水素に転換するものである。
例えば、米国特許第5336825号に、メタンを、芳香族炭化水素を含むガソリン相当の炭化水素に酸化性転する二段階プロセスが開示されている。第1ステップで、メタンを遊離酸素の存在下で、アルカリ土類金属と希土類金属酸化触媒を用いて温度500℃から1000℃で、エチレンと少量のCとCオレフィンに転換する。次に、第1ステップで生成したエチレンと高級オレフィンを、高級シリカペンタシル(pentasil)ゼオライトを含む酸性固体触媒上で、ガソリン相当の液状炭化水素に転換する。
【0006】
しかしながら、これらの酸化性カップリング法は、高発熱反応でありメタンの燃焼反応が生じる危険性があり、また、環境に影響を及ぼす二酸化炭素を大量に生じる問題がある。
【0007】
高温の還元性カップリングによるメタンの脱水芳香族化(Dehydroaromatization)も、メタンを高級炭化水素、特にエチレン、ベンゼン、ナフタレンに変える方法として提案されている。すなわち、例えば、米国特許第4727206号は、液状成分の多い芳香族炭化水素の製造方法を開示している。この方法では、メタンを酸素の不存在下、600℃から800℃の温度で触媒組成物に接触させる。この触媒組成物は、シリカ対アルミナのモル比が少なくとも5:1のアルミノシリケートを有し、このアルミノシリケートは、(i)ガリウムまたはその化合物と、(ii)周期律表第VIIB族の金属またはその化合物とともに充填される。
【0008】
さらに、米国特許第5026937号は、0.5モル%以上の水素と、50モル%のメタンを含む供給流を、温度が550℃から750℃、絶対圧力が10気圧(1000kPa−a)未満、容積空間速度が400から7500時間−1の条件を含む転換条件下で、ZSM−5と、リンを含むアルミナとを備える固体触媒床を有する反応ゾーンに流通させるステップを有するメタンの芳香族化の方法を開示している。生成物には、メタン、水素、少なくとも3モル%のC炭化水素と、少なくとも5モル%のCからCの芳香族炭化水素が含まれるとされている。凝縮によりC+留分を除去した後、極低温で生成物中の水素と、軽質炭化水素(メタン、エタン、エチレンなど)を分離することが提案されている。
【0009】
米国特許第6239057号、第6426442号は、メタンなどの炭素数の少ない炭化水素を、表面にレニウムと、鉄、コバルト、バナジウム、マンガン、モリブデン、タングステン、およびこれらの混合物などの反応促進金属が分散された、例えばZMS−5などの多孔質の担体から成る触媒に接触させることによって、ベンゼンなどの炭素数の多い炭化水素を製造する方法を開示している。一酸化炭素または二酸化炭素を原料に添加することにより、ベンゼンの収率が向上し、触媒の安定性が増すとされている。
【0010】
しかし、これまでに提案されたメタンの脱水芳香族化は、ほとんどの場合、芳香族に対する選択性が低く、芳香族に対する選択性を向上させるため、高価な添加剤を併用・供給する必要があった。さらに、還元性のカップリングプロセスは大量の水素を生成させるため、経済的に成立させるには、副生水素の有効な利用方法が必要となる。天然ガス田は遠隔地にあることが多いため、水素の有効な利用方法は重要な課題である。
【0011】
還元性カップリングプロセスでメタンを高級炭化水素に転換する際のもう1つの問題は、反応に大量の熱を供給する必要がある点にある。すなわち、プロセスが非常に吸熱性であるばかりでなく、反応が熱力学的に限定される。別言すれば、何らかの方法で外部から熱が供給されなければ、反応の冷却効果により反応温度が低下し、反応速度と熱力学的転化率が減少してしまう。メタンの芳香族化において熱を供給するための種々の方法が提案されているが、今のところ完全に満足できるものはない。
【0012】
例えば、メタンの芳香族化において熱を供給するための公知の方法の1つは、反応ゾーンを流通する流体に熱交換手段を用いることであり、この方法では、反応ゾーンの触媒が間接的に加熱される。しかし、この方法では、熱交換は必ずしも十分ではなく、固定床ではない反応器の場合、触媒の流動が乱れることがある。
【0013】
また、メタンの芳香族化において熱を供給するための別の公知の方法は、2つ以上の反応ゾーンを直列に配して、反応物を反応ゾーンの間で再加熱する方法である。この中間再加熱方法では、第1触媒床を出た反応流体は、下流の第2触媒床に適した入口温度まで加熱される。
【0014】
中間再加熱の1つの方法は、間接的熱交換を利用するものであり、この方法では上流側の反応ゾーンからの流体が、次の反応ゾーンに供給される前に熱交換器を通過する。この間接的熱交換を利用する方法で用いられる熱媒体は高温のスチーム、燃焼ガス、高温のプロセススチーム、またはこの他の容易に調達できる高温の熱媒体である。この中間再加熱方法は反応物を希釈することはないが、反応系の圧力損失を生じ、また、反応物を望ましくない高温に曝すことになる。
【0015】
例えば、ロシア特許第2135441号には、メタンをより重質の炭化水素に転換する方法が開示されており、この方法では、メタンにベンゼンなどのC+炭化水素を少なくとも5wt%混合し、メタンの分圧が少なくとも0.05Mpa、温度が少なくとも440℃の条件で、酸化度がゼロより大きい白金金属を含む触媒に接触させる。この方法は、中間再加熱方法を用いた多段反応系で行われる。プロセスで生じた炭素の酸化物と接触させてメタンを発生させ、副生する水分を除去した後、メタン供給源に追加される。メタン転化後の生成物はCからCのガス相と、C+の液相であるが、実施例によれば、供給原料と比較した芳香族環の増分は、ごく僅か(5wt%未満)であるか、ほとんど無い。
【0016】
他の中間再加熱方法は、酸化反応による加熱方法であり、制御された量の酸素を反応物に混合添加して、芳香族化プロセスで生じた水を選択的に酸化するものである。酸化は、価値のある供給原料や炭化水素生成物を損なう酸化反応や燃焼反応と比較して、水素の酸化反応をより選択的に生じさせる触媒の存在下で行われる。しかし、この反応は芳香族化触媒に有害なスチームを生じさせ、このスチームはメタンと反応して、水素と一酸化炭素を生成する。さらに第2の選択的酸化触媒を用いることになるため、この方法は、複雑さとコストが増す。
【0017】
還元性カップリングプロセスに反応熱を供給する別のアプローチは、芳香族化反応で触媒により生じるコークスを利用する方法である。このコークスは徐々に触媒を不活性化させるので、コークスを除去するため触媒を繰り返し再生して、触媒を再活性化させる必要がある。触媒の再生は、触媒と酸素を含有するガスとを接触させて行われ、発熱性が高いため、プロセス全体の顕熱に利用することができる。
このようなプロセスは、国際公開パンフレットWO03/000826に開示されており、このプロセスでは、脱水芳香族化触媒を反応系と再生系との間を循環させ、触媒は、O,H,HOを含む異なる複数の再生用ガスに、異なる時に接触させられ、触媒の異なる部分が再生される。
各再生用ガスに接触させられる触媒の割合は、反応系と再生系のヒートバランスが一定に保たれるよう制御される。反応系には上昇流反応器の触媒流動床が含まれ、再生系には気泡床反応器に保持された第2の触媒流動床が含まれている。
【0018】
しかし、反応熱の供給に触媒再生工程を利用する方法の場合、触媒を再生工程の目標温度よりも高い温度まで加熱しなければならないという問題があり、このため触媒の劣化が促進され、触媒の寿命が短くなる。さらにこの方法では、ヒートバランスを保つために、目的の芳香族生成物よりも、コークスに対する選択性が高いことが要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、メタンの芳香族化において反応熱を供給するための、改善された方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
<発明の概要>
この発明の1つの側面は、メタンを、芳香族炭化水素を含む高級炭化水素に転換する方法に関し、この方法は、
(a)メタンを含む供給原料を、反応ゾーンにある脱水環化触媒に、メタンを芳香族炭化水素に転換する条件で接触させる工程;
(b)触媒の第1部分を反応ゾーンから加熱ゾーンへ移送する工程;
(c)加熱ゾーンにある触媒の第1部分を、補助燃料源を燃焼させて発生させた燃焼ガスを触媒に接触させて加熱する工程;および
(d)加熱された触媒の第1部分を、反応ゾーンへ返す工程;
を含む。
【0021】
好ましくは、触媒の第1部分を、加熱工程(c)で補助燃料源に直接接触させる。あるいは、補助燃料源を加熱ゾーンと分離された燃焼ゾーンで燃焼させて、燃焼ゾーンで発生した燃焼ガスを加熱ゾーンに供給することもできる。
【0022】
好ましくは、補助燃料源は炭化水素、および/または水素から成る。
【0023】
補助燃料源が炭化水素のとき、炭化水素は好ましくはメタンであり、補助燃料源は好ましくは工程(a)で接触させた供給原料の一部である。好ましくは、炭化水素補助燃料源を酸素が不足した雰囲気で燃焼させて合成ガスを生成させ、好ましくは、合成ガスは追加の炭化水素生成物、および/または、燃料を発生させるために用いられる。
【0024】
補助燃料源が水素のときは、補助燃料源は接触工程(a)の副生成物として生じた水素から成る。
【0025】
好ましくは、加熱ゾーンは細長く、加熱ゾーンの長さ方向に沿って互いに離間した複数の場所で、触媒の第1部分に熱が加えられる。
ひとつの実施形態では、実質的に全ての補助燃料が、加熱ゾーンの一端に供給され、加熱ゾーンの互いに離間した複数の場所に、酸素含有ガスが段階的に供給される。別の実施形態では、実質的に全ての酸素含有ガスが加熱ゾーンの一端に供給され、加熱ゾーンの互いに離間した複数の場所に、補助燃料が段階的に供給される。
また別の実施形態では、高温燃焼ガスを加熱ゾーンと分離した燃焼ゾーンで発生させ、加熱ゾーンの互いに離間した複数の場所に供給する。
【0026】
好ましくは、この方法では、触媒の第2部分を加熱ゾーンと分離した再生ゾーンへ移送し、触媒の第2部分を、再生ゾーンで再生ガスと接触させて接触工程(a)で生じたコークスの少なくとも一部を除去する工程を備える。
【0027】
好ましくは、再生ゾーンの温度は、反応ゾーンの温度と同じか、より低温である。
【0028】
べつの側面では、この発明はメタンを、芳香族炭化水素を含む高級炭化水素に転換する方法に関し、この方法は、
(a)メタンを含む供給原料を、反応ゾーンにある脱水環化触媒に、メタンを芳香族炭化水素に転換する条件で接触させる工程;
(b)触媒の第1部分を反応ゾーンから加熱ゾーンへ移送する工程;
(c)触媒の第1部分を、補助燃料源を燃焼させて発生させた燃焼ガスを触媒に直接接触させて加熱する工程;
(d)加熱された触媒の第1部分を、反応ゾーンへ返す工程
(e)触媒の第2部分を反応ゾーンから、反応ゾーンから分離した再生ゾーンへ移送する工程;
(f)触媒の第2部分を、再生ゾーンにおいて、触媒の第2部分からコークスの少なくとも一部を除去できる条件で、再生ガスに接触させる工程;
(g) 再生された触媒の第2部分を反応ゾーンへ返す工程
を含む。
【0029】
好ましくは、移送工程(b)と(e)、および、返し工程(d)と(g)は、連続的に行われる。
【0030】
好ましくは、反応ゾーンは垂直方向に配置された沈降床反応器であり、供給原料は反応器の下部またはその近くに導入され、加熱された触媒の第1部分と、再生された触媒の第2部分は、反応器の上部またはその近くに返される。好ましくは、触媒の第1部分と第2部分は、工程(b)において、反応器の下部またはその近くから取出される。好ましくは、芳香族炭化水素は、反応器の上部またはその近くから回収される。
【0031】
本願では、「脱水環化触媒」という用語は、触媒の活性成分だけでなく、触媒の機械的物性、および/または、活性成分に加えて熱移動を増すために用いられる、不活性固体成分も含む意味で用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施態様に係る脱水環化反応器と、触媒再加熱器とを表す図である。
【図2】第2実施態様に係る脱水環化反応器と、触媒再加熱器と、触媒再生器とを表す図である。
【図3】第3実施態様に係る多段流動床の脱水環化反応器を表す図である。
【図4】この発明の第1、第2、第3実施態様で用いられる上昇流反応器のための触媒リフト装置を表す図である。
【図5】燃焼ガスの温度分布と、上昇流反応器内において、上昇流反応器のボトムで燃焼する燃料から供給される全ての熱で加熱される、直径3650μmの触媒粒子内の異なる半径における温度分布とを比較する図である。
【図6】燃焼ガスの温度分布と、上昇流反応器内において、上昇流反応器の長さ方向に沿って互いに離間した位置で燃焼する燃料から供給される全ての熱で加熱される、直径3650μmの触媒粒子内の異なる半径における温度分布とを比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本願で「高級炭化水素」というときは:1分子あたり2以上の炭素原子を有する炭化水素、1分子あたり少なくとも1つの炭素原子を有する酸素含有化合物を意味し、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、および/または、メチルナフタレン;および/または少なくとも1つの炭素原子と、少なくとも1つの水素以外の原子を有する有機化合物、例えばメタノール、エタノール、メチルアミン、および/または、エチルアミンなどを言う。
【0034】
本願で「芳香族炭化水素」というときは、1以上の芳香族環を有する分子を意味する。芳香族炭化水素の例として、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、およびメチルナフタレンが挙げられる。
【0035】
本願で「移動床」反応器というときは、固体粒子床の空隙率を95%未満にするために、空搭速度(U)が固体粒子の希釈気相輸送に必要な速度以下で、固体粒子とガス流が接触するゾーンまたは容器を意味する。移動床反応器は、沈降または移動充填層域(U<Umf)、気泡域(Umf<U<Umb)、スラグ域(Umb<U<Uc)、および、高速流動域(U>Ub)が含まれる、いくつかの異なる流速域で操作される。
これらの異なる流動域は、例えばKunii, D., Levenspiel, Oの「Fluidization Engineering, 2nd Edition, Butterworth-Heinemann, Boston, 1991」の第3章、Walas, S.M.の「 Chemical Process Equipment, Butterworth- Heinemann, Boston, 1990」の第6章に記載されている。
【0036】
本願で「沈降床」というときは固−気バックミキシングを最小にするために、少なくとも反応ゾーンの一部において、空搭速度(U)が固体粒子を流動させるために必要な速度以下で、すなわち最小流動速度(Umf)に関しU<Umfで、固体粒子とガス流を接触させるか、および/または、最小流動速度より速い速度で、ガスおよび/または固体粒子の特性(温度、固気比率など)の変化率を、反応器内壁を利用して反応床の垂直上方に沿って維持しながら操業するゾーンまたは容器を意味する。
最小流動速度は、例えば、D. KuniiとO. Levenspielの「Fluidization Engineering」Butterworth-Heinemann, Boston, 1991第2版の第3章、S. M. Walasの「Chemical Process Equipment」Butterworth- Heinemann, Boston, 1990の第6章に記載されており、その内容は参照として本願に取り込まれる。
【0037】
本願で「流動床」反応器というときは、固体粒子床の空隙率を95%未満にするために、空搭速度(U)が固体粒子を流動させるために十分な速度(すなわち最小流動速度(Umf)以上)で、かつ、空搭速度(U)が固体粒子の希釈気相輸送に必要な速度以下で、固体粒子とガス流を接触させるゾーンまたは容器を意味する。
本願で「転送流動床」というときは、1つの流動床から別の流動床へ固体粒子またはガスが転送されたときに、ガスおよび/または固体粒子の特性(温度、固気比率、圧力など)が変化するように、個別の流動床を連続的に配列したものを意味する。最小流動速度の軌跡は、例えば、上記のKuniiとWalasの文献に記載されている。
【0038】
本願で「上昇流」反応器というときは、高速流動域、または気相輸送流動域で、固体粒子を全体に上方へ移送するゾーン、または容器(垂直な円筒状パイプなど)を意味する。高速流動域、あるいは気相輸送流動域は、空塔速度が輸送速度(Utr)より大きい点が特徴である。高速流動域と気相輸送流動域は、上記のKuniiとWalasの文献にも記載されている。
【0039】
この発明は、H、CO、および/または、COを随伴するメタンを含有する供給原料と、反応ゾーンにある脱水環化触媒とを、メタンと芳香族炭化水素および水素に転化することができる条件下で接触させて、芳香族炭化水素を製造する方法を提供する。
上述のように、脱水環化反応は吸熱反応であり、この発明は、脱水環化触媒の一部を反応ゾーンから取出し、この一部の脱水環化触媒を、加熱ゾーンにおいて補助燃料源を燃焼させて生じた熱燃焼ガスで加熱し、次いで加熱された一部の脱水環化触媒を反応ゾーンへ返すことにより、脱水環化反応に熱を供給する方法を提供する。
【0040】
さらに、この発明は、脱水環化反応の副生物として生成した水素を利用する方法を提供し、特にこの水素の少なくとも一部を、より付加価値の高い製品に転化する方法を提供する。
【0041】
<供給原料>
この発明に係る方法には、メタンを含有するいかなる供給原料でも用いることができるが、一般に、この方法は天然ガス供給原料を用いることを意図している。この他の使用可能なメタンを含有する供給原料には、石炭層、廃棄物埋立地、農業あるいは地方自治体の廃棄物発酵施設、および/または、製油所のガスなどが含まれる。
【0042】
天然ガスなどのメタンを含有する供給原料は、一般に、メタンに加え二酸化炭素とエタンを含有する。供給原料に含まれるエタンと他の脂肪族炭化水素は、脱水環化反応により当然目的の芳香族に転化される。さらに、以下説明するように、二酸化炭素も、脱水環化反応により直接的に、あるいは、脱水素工程におけるメタンおよび/またはエタンへの転化反応を通じて間接的に、有用な芳香族に転化される。
【0043】
一般にメタンを含有する原料に含まれる不純物の窒素、および/または硫黄は、この発明の方法で使用される前に除去されるか、または、低濃度まで削減されることが好ましい。ひとつの実施形態では、脱水環化工程への供給原料は、窒素および硫黄の各々を、100ppm未満、例えば10ppm未満、あるいは1ppm未満含有する。
【0044】
メタンに加え、脱水環化工程へ送られる供給原料は、コークス除去を助けるために、水素、水、一酸化炭素、および二酸化炭素の少なくともいずれか1つを含有する。これらの添加剤は、副原料として供給されるか、あるいは、例えば、メタンが二酸化炭素を含む天然ガスから供給されるような場合のように、メタン中に含まれている。この他の二酸化炭素の供給源には、燃焼ガス、LNGプラント、水素プラント、アンモニアプラント、グリコールプラント、無水フタル酸プラントが含まれる。
【0045】
ひとつの実施形態では、脱水環化工程への供給原料は二酸化炭素を含有し、その組成は、メタンが約90から約99.9モル%、例えば約97から約99モル%であり、COが約0.1から約10モル%、例えば約1から約3モル%である。
別の実施形態では、脱水環化工程への供給原料は一酸化炭素を含有し、その組成は、メタンが約80から約99.9モル%、例えば約94から約99モル%であり、COが約0.1から約20モル%、例えば約1から約6モル%である。
また別の実施形態では、脱水環化工程への供給原料はスチームを含有し、その組成は、メタンが約90から約99.9モル%、例えば約97から約99モル%であり、スチームが約0.1から約10モル%、例えば約1から約3モル%である。
さらに別の実施形態では、脱水環化工程への供給原料は水素を含有し、その組成は、メタンが約80から約99.9モル%、例えば約95から約99モル%であり、水素が約0.1から約20モル%、例えば約1から約5モル%である。
【0046】
また、脱水環化工程への供給原料は、芳香族炭化水素を含む、メタンより高級な炭化水素を含有することができる。このような高級炭化水素は、脱水素工程からリサイクルされて来るものであり、副原料に加えられるか、あるいは、例えばエタンが供給原料の天然ガス中に含有されている場合のように、メタン中に含まれる。脱水素工程からリサイクルされて来る高級炭化水素は、一般に、単環の芳香族、および/または、パラフィン、および主に6以下、例えば5以下、例えば4以下、典型的には3以下の炭素原子を含む。一般に、脱水環化工程への供給原料は、5wt%未満、例えば3wt%未満のC+炭化水素を含有する。
【0047】
<脱水環化反応>
この発明の脱水環化工程では、メタンを含有する供給原料を、通常は非酸化条件下、好ましくは還元条件下で、メタンをベンゼン、ナフタレンを含む高級炭化水素に転換できる条件で、脱水環化触媒に接触させる。
脱水環化工程に含まれる全反応は、次の通りである。
【化1】

【0048】
供給原料中に存在する一酸化炭素、および/または二酸化炭素は、次のような反応を促進し、触媒の活性と安定性を向上させる。
【化2】

しかし、全反応に対し逆行する次のような反応を生じ、平衡に影響を与える。
【化3】

【0049】
脱水環化工程に適した条件には、温度が約400℃から約1200℃、例えば約500℃から約975℃、例えば、約600℃から約950℃、圧力が約1kPaから約1000kPa、例えば約10kPaから約500kPa、例えば約50kPaから約200kPa、重量空間速度が約0.01から約1000時間―1、例えば約0.1から約500時間―1、例えば約1から約20時間―1、が含まれる。脱水環化工程は、酸素の存在下でおこなわれることが好ましい。
【0050】
この発明の脱水環化触媒には、メタンを芳香族に転換できるものであれば、いかなる触媒でも用いることができる。しかし、一般に、脱水環化触媒には、金属成分、特に無機担体に担持された遷移金属、またはその化合物が用いられる。金属成分の含有量は、全触媒に対する重量%が約0.1%から約20%、例えば約1%から約10%であることが好ましい。一般に、金属成分は触媒中に炭化物の形態で存在する。
【0051】
触媒に適した金属成分には、カルシウム、マグネシウム、バリウム、イットリウム、ランタン、スカンジウム、セリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、白金、銅、銀、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、シリコン、ゲルマニウム、インジウム、錫、鉛、ビスマス、超ウラン金属が含まれる。これらの金属成分は元素の状態で存在するか、あるいは、酸化物、カーバイド、窒化物、および/または、リン化物などの金属化合物として存在し、単独または組み合わせて用いられる。白金とオスミウム金属成分として用いることができるが、一般には好ましくない。
【0052】
無機材料の担体は、アモルファス、または結晶性であり、特に、ホウ素、アルミニウム、シリコン、リン、チタン、スカンジウム、クロム、バナジウム、マグネシウム、マンガン、鉄、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、イリジウム、錫、バリウム、ランタン、ハフニウム、セリウム、タンタル、タングステン、あるいは、その他超ウラン元素の酸化物、カーバイド、または窒化物である。さらに、担体は、ミクロポーラスな結晶性材料、またはメソポーラスな孔質材料である。本願で「ミクロポーラス」というときは、直径が2ナノメートル未満の孔であることを意味し、「メソポーラス」というときは、直径が2から50ナノメートルの孔であることを意味する。
【0053】
好ましいミクロポーラスナ結晶性材料には、シリケート、アルミノシリケート、チタノシリケート、チタノアルミノシリケート、アルミノホスフェート、メタロホスフェート、メタロアルミノホスフェート、シリコアルミノホスフェート、またはこれらの混合物が含まれる。このようなミクロポーラスナ結晶性材料には、骨格の型がMFI(例えば、ZSM−5、TS−I、TS−2と、シリカライト)、MEL(例えば、ZSM−11)、MTW(例えば、ZSM−12)、TON(例えば、ZSM−22)、 MTT(例えば、ZSM−23)、FER(例えば、ZSM−35)、MFS(例えば、ZSM−57)、MWW(例えば、MCM−22、 PSH−3、SSZ−25、ERB−I、ITQ−I、ITQ−2、MCM−36、MCM−49と、MCM−56)、IWR(例えば、ITQ−24)、KFI(例えば、ZK−5)、*BEA(例えば、ゼオライトベータ)、ITH(例えば、ITQ−13)、MOR(例えば、モルデナイト)、FAU(例えば、ゼオライトX、Y、超安定化Y と脱アルミ化Y)、 LTL(例えば、ゼオライトL)、IWW(例えば、ITQ−22)、VFI(例えば、VPI−5)、AEL(例えば、SAPO−11)、AFI(例えば、ALPO−5)および、 AFO(SAPO−41)、さらに、MCM−68、EMM−I、EMM−2、ITQ−23、ITQ−24、ITQ−25、ITQ−26、ETS−2、ETS−10、ETAS−10、ETGS−10、SAPO−17、SAPO−34、およびSAPO−35等の材料が含まれる。好ましいメソポーラス材料には、MCM−41、MCM−48、MCM−50、FSM−16と、SBA−15が含まれる。
【0054】
好ましい触媒の例には、モリブデン、タングステン,レチウム、および、ZSM−5、シリカ、またはアルミナ上でのこれらの組合せ、および化合物が含まれる。
【0055】
金属成分は、共沈法、IW(incipient wetness)法、蒸発乾固法、含浸法、スプレイ乾燥法、ゾル−ゲル法、イオン交換法、化学蒸着法、拡散法および物理的混合など、周知の方法で無機担体上に分散される。さらに、無機担体は、例えば、スチーミング、酸洗、苛性洗浄、および/または、含珪素化合物による処理、含リン化合物による処理、および/または、周期律表の1,2,3、および13族の元素または化合物による処理などの、公知の方法で修飾することができる。このような修飾は、担体の表面活性を変え、担体の内部孔構造へのアクセスを妨げ、あるいは促進する。
【0056】
脱水環化工程は、1以上の固定床、移動床、または流動床反応ゾーンにおいて、メタンを含有する供給原料を脱水環化触媒に接触させて行う。一般に、供給原料は、各反応ゾーンの脱水環化触媒の移動床に接触させる。供給原料の流れる方向は、脱水環化触媒の移動方向に対し向流である。
ひとつの実施形態では、反応ゾーンは沈降床反応器で構成され、触媒が垂直方向に配置された反応器の頂部または頂部付近から入れられ、重力に従って流動して触媒床を形成し、一方、供給原料は反応器の底部または底部付近から供給され、上方に向かって流れ触媒床を通過する。
別の実施形態では、反応ゾーンは複数の連結された流動床反応器で構成され、触媒粒子は一方向に沿って、1つの反応器から隣接する次の反応器へ連続的に転送され、一方、供給原料は一方向と反対方向に流れ、反応器とそれらの連結部を通過する。
【0057】
脱水環化反応は吸熱反応であり、この反応に熱を供給するため、触媒の第1部分が反応ゾーンから、連続的または間欠的に、より好ましくは連続的に抜き出され、別の場所にある加熱ゾーンへ移送され、ここで触媒の第1部分は、補助燃料源を燃焼させて発生させた熱燃焼ガスと直接接触し、加熱される。次に、触媒の第1部分は反応ゾーンへ送り返される。
【0058】
補助燃料源というときは、この燃料源は物理的に触媒と分離されたものであり、従って、例えば、脱水環化反応により触媒上に副生成物として生じたコークスなどではない。一般に、補助燃料源は例えばメタンなどの炭化水素であり、特に好ましい燃料源は、この方法の供給原料として用いられる天然ガスである。
好ましくは、触媒の第1部分を加熱する炭化水素燃料から合成ガスが生じるように、反応ゾーンを酸素が乏しい条件に維持して、生じた合成ガスを追加の炭化水素生成物を生成させるために用いるか、および/または、燃料として用いるようにする。さらに、酸素が乏しい状態にすることにより、脱水環化触媒中の金属炭化物の酸化が阻害され、スチームの分圧が最小になる結果、触媒の熱水劣化が低減される。
【0059】
また、別の好ましい補助燃料源は水素であり、特に芳香族化反応の副生成物として生じた水素の一部である。
【0060】
好ましくは、触媒の第1部分を、加熱ゾーンの燃焼源に直接接触させる。あるいは、加熱ゾーンと分離した燃焼ゾーンで燃料源を燃焼させ、燃焼ゾーンで発生した燃焼ガスを加熱ゾーンへ送り、触媒の第1部分を加熱する。
【0061】
ひとつの実施形態では、加熱ゾーンは細長く、触媒の第1部分は加熱ゾーンを、加熱ゾーンの一端またはその近傍にある入口から、加熱ゾーンの他端またはその近傍にある出口へ向けて通過し、加熱ゾーンの長さ方向に沿って間隔をおいて配置された複数の場所で触媒の第1部分に熱が加えられる。これにより、触媒の第1部分に加えられる熱は加熱ゾーンの長さ方向に沿って分配されるので、触媒の表面と内部の温度勾配を最小にすることができる。
【0062】
触媒の第1部分が加熱ゾーンで燃料の燃焼源に直接接触して加熱される場合、実質的に全ての補助燃料源を加熱ゾーンの燃料入口に供給し、加熱ゾーンの長さ方向に沿って間隔をおいて配置された複数の場所に、酸素を含む気体を漸増的に供給することによって、触媒を徐々に加熱することができる。あるいは、実質的に全ての酸素を含む気体を加熱ゾーンの燃料入口に供給し、加熱ゾーンの長さ方向に沿って間隔をおいて配置された複数の場所に、補助燃料源を漸増的に供給することによって、触媒を徐々に加熱することができる
【0063】
触媒の第1部分を、別の場所にある燃焼ゾーンで発生させた熱燃焼ガスに直接接触させて加熱する場合、熱燃焼ガスを、加熱ゾーンの長さ方向に沿って間隔をおいて配置された複数の場所に供給することにより、触媒を徐々に加熱することができる。
【0064】
ひとつの実施形態では、加熱ゾーンは上昇流反応器で構成され、触媒の第1部分は、再加熱されるとき、上昇流反応器を上方に向かって通過する。好ましくは、加熱ゾーンは並列に配列された複数の上昇流反応器で構成される。あるいは、加熱ゾーンは触媒の移動床を備える。
【0065】
一般に、触媒の第1部分が加熱ゾーンに入るときの温度は約500℃から約900℃であり、加熱ゾーンを出るときの温度は約800℃から約1000℃である。熱燃焼ガスの温度は一般に1300℃未満であり、好ましくは1100℃未満、より好ましくは1000℃未満で、例えば約800℃から約1000℃未満の温度範囲である。一般に、加熱ゾーンは圧力が10から100psia(60から690kPa)であり、より好ましくは、15から60psia(103から414kPa)である。一般に、触媒の加熱ゾーンでの滞留時間は、0.1から100秒、より好ましくは1から10秒である。
【0066】
触媒の第1部分を反応ゾーンに再導入する前に、好ましくは加熱ゾーンを通過させた後に、触媒の第1部分を1以上のストリッピング工程に送り、(a)触媒の表面に生じたコークスまたは重質炭化水素、および/または、(b)触媒に吸収された水または酸素の少なくとも一部を除去することが好ましい。コークスまたは重質炭化水素を除去するストリッピング工程は、触媒の第1部分をスチーム、水素、および/または、COに接触させて行うことが好ましい。水または酸素を除去するストリッピング工程は、触媒の第1部分をメタン、CO、または水素に接触させて行うことが好ましい。
【0067】
さらに、再加熱工程は、触媒の第1部分に含まれる触媒活性を有する金属成分、特に金属炭化物を酸化することがあるため、再加熱された触媒を反応ゾーンに再導入する前に、浸炭工程で処理することが好ましい。浸炭工程は、触媒の第1部分をH、CO、CO,および/または、メタン、エタン、プロパンなどの炭化水素と、触媒の第1部分とを接触させて行うことが好ましく、また、水/酸素のストリッピング工程を同時、あるいは別に行うことができる。
【0068】
脱水環化反応も吸熱性であるため、触媒上にコークスが生成することがあるので、脱水環化触媒の活性を維持するために、反応ゾーンから触媒の第2部分を、間欠的に、あるいはより好ましくは連続的に取り出し、別の場所にある再生ゾーンへ移送することが好ましい。触媒の第2部分の移送に用いられるガスは、酸素を含むが、酸素含有量を空気より少なくすることが好ましく、酸素含有量を例えば10wt%未満、より好ましくは5wt%未満にする。
移送ガスは、触媒の第2部分に由来するコークスの一部を気化させるため、CO、および/または、Hを含むが、HOを実質的に含まないことが好ましく、また触媒が酸化されず、再生ゾーンの目標温度以上に加熱されないように、低温(一般に200℃未満)であることが好ましい。
【0069】
再生ゾーンでは、触媒の第2部分を、少なくとも触媒上のコークスの一部を除去可能な条件下で、酸素を含有するガスに接触させることにより触媒を再生する。再生ガスは空気より少ない量の酸素を含有することが好ましく、例えば10%未満、より好ましくは5wt%未満の酸素を含有し、実質的に水を含有しないことが好ましい。
再生ガスはまた、触媒の第2部分からコークスの一部をガス化させるための二酸化炭素を含有する。再生ガスの供給源は、空気分離装置からの酸素を減少させ窒素の量が増えたガスや、工業ガスまたは天然ガス加工工程からの二酸化炭素が除かれ、空気または酸素が添加されて目標の酸素濃度にされたガスであることが好ましい。
一般に、再生ガスは再生ゾーンと処理ゾーンの間を循環し、処理ゾーンでは使用された再生ガスが冷却され、余分な水が除去され、メイクアップ酸素含有ガス(好ましくは空気)が目標酸素濃度を維持するために添加され、再生ガスの一部は圧力を一定に保つためにパージされる。一般に、再生ガスは、圧力が10から100psia(69から690kPa)、より好ましくは15から60psia(103から414kPa)で操業される。
【0070】
再生ゾーンは、流動床反応器、沸騰床反応器、沈降床反応器、上昇流反応器あるいは、これらの組合せの反応器で構成される。再生ゾーンには、例えば複数の並列に配置された上昇流反応器などの、複数の反応器が備えられる。再生ゾーンは、滞留時間の設計において除去すべきとされた量のコークスを除去するために必要な最低温度で操業されるべきであり、特に、金属酸化物の蒸発が生じる温度、または触媒の担体が急激に劣化する温度を超えるべきではない。
一般に、再生ゾーンの温度は反応ゾーンの温度より低く、一般に、再生ゾーンの温度は約400℃から約700℃、例えば約550℃から約650℃である。再生ゾーンにおける触媒の滞留時間も最小にし、触媒の劣化速度を低減し、触媒が反応器の中に在って有効に働いている時間の割合を最大にする。一般に、触媒粒子の再生ゾーンにおける平均滞留時間は、0.1から100分、より好ましくは1から20分である。
【0071】
再生ゾーンを出た後、触媒の第2部分は反応ゾーンへ送り返される。しかし、触媒の第2部分を反応ゾーンへ送り返す前に、再生された触媒の第2部分をメタンに接触させ、吸着した水、および/または、酸素の少なくとも一部を除去することが好ましい。
さらに、触媒の第2部分を反応ゾーンへ送り返す前に、浸炭工程において、再生された触媒の第2部分を、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、および/または、メタン、エタン、またはプロパンなどの炭化水素などと接触させる浸炭処理することが望ましい。
【0072】
触媒の第1部分が所定時間内に加熱ゾーンへ移送される重量と、触媒の第2部分が同一の所定時間内に再生ゾーンへ移送される重量の比は、約5:1から約100:1の範囲であり、好ましくは約10:1から20:1とすることができる。
【0073】
ひとつの好ましい実施形態では、脱水環化工程は、垂直に設置された沈降床反応器で行われ、供給原料は反応器の底部またはその近傍に供給され、加熱された触媒の第1部分と再生された触媒の第2部分は反応器の頂部、またはその近傍に送り返される。触媒の第1部分と触媒の第2部分は、反応器の底部またはその近傍から抜き出され、反応生成物は反応器の頂部、またはその近傍から回収される。
【0074】
別の実施形態では、脱水環化工程は、連続して配列された複数の流動床反応器で行われ、供給原料は、連続する反応器の一番目の反応器に供給され、加熱された触媒の第1部分と触媒の第2部分は、連続する反応器の一番最後の反応器に送り返される。触媒の第1部分と触媒の第2部分は、一番目の反応器から抜き出すことができる。
【0075】
脱水環化工程の生成物の主成分は、水素、ベンゼン、ナフタレン、一酸化炭素、エチレン、および未反応のメタンである。一般に、この生成物は芳香族環を、供給原料よりも少なくとも5wt%、例えば少なくとも20wt%、好ましくは少なくとも30wt%多く含む。
【0076】
次に、例えば溶剤抽出の次に分留を行うことにより、ベンゼンとナフタレンを脱水環化生成物から回収する。しかし、以下に説明するように、回収工程の前に、これらの芳香族化合物の少なくとも一部が、より付加価値の高い、例えばキシレンなどの物質を製造するために、アルキル化工程へ送られる。
【0077】
<水素の管理>
水素は脱水環化生成物の主成分であるため、芳香族成分を回収した後、未反応のメタンを脱水環化工程へ送り返す前に、供給原料の利用度を最大にし生成物中の水素含量を減らすために、生成物を水素除去工程へ送る。
一般に、水素除去工程は、脱水環化生成物中の水素の少なくとも一部を、好ましくは一酸化炭素、および/または、二酸化炭素などの酸素含有化合物と反応させて、水と、最初の脱水環化生成物と比較して減少した水素含有率の第2の生成物を発生させる。適切な水素除去工程は、本願発明者らのPCT出願番号PCT/US2005/044042(2005年12月2日出願)に記載されている。
【0078】
水素除去工程には好ましくは、(i)メタン化反応、および/または流出(emanation)工程、(ii)フィッシャー−トロプシュ合成工程、(iii)CからCのアルコール、特にメタノール、およびその他の酸素含有化合物(iv)中間体にメタノールまたはジメチルエーテルを用いる軽質オレフィン、パラフィン、および/または、芳香族の合成工程、および/または、(v)水素の選択的燃焼工程が含まれる。
これらの工程は効率が最大になるように順次行われ、例えばC+成分に富む生成物を得るために最初にフィッシャー−トロプシュ合成工程を行ない、次に高い水素の転化率を得るためにメタン化反応を行うことができる。
【0079】
一般に、以下に説明するように、水素除去工程では炭化水素が発生し、この場合、副生物の水を除去した後炭化水素の少なくとも一部を脱水環化工程へ送り返すことができる。
例えば、水素除去工程で発生した炭化水素がパラフィンとオレフィンを含む場合、脱水環化工程へ送り返される炭化水素には、炭素数が6以下、例えば炭素数が5以下、例えば炭素数が4以下、例えば炭素数が3以下のパラフィンまたはオレフィンが含まれる。水素除去工程で発生した炭化水素が芳香族を含む場合、脱水環化工程へ送り返される芳香族には、好ましくは単環の芳香族が含まれる。
【0080】
<メタン化、エタン化>
ひとつの実施形態では、水素除去工程には、以下の式で表される反応が含まれ、脱水環化生成物中の水素の少なくとも一部と、二酸化炭素とにより、メタン、および/または、エタンが発生する。
【化4】

【0081】
用いられる二酸化炭素は、天然ガスの一部、好ましくは脱水環化工程へ送られる供給原料と同じ天然ガスの一部とすることができる。二酸化炭素がメタンを含む供給流の一部である場合は、供給流のCO:CHを、1:1から0.1:1の範囲に保つことが好ましい。二酸化炭素を含む供給流と脱水環化生成物の混合は、ガス状の供給原料をジェットエジェクターの入り口に供給することにより行うことができる。
【0082】
メタンまたはエタンを発生させる水素除去工程は、通常は、目的の反応6または反応7に要求される化学量論比に近いH:COモル比を用いる。しかし、二酸化炭素を含有する第2の生成物、または水素を含有する第2の生成物を発生させたい場合には、化学量論比から少しずらすことができる。メタンまたはエタンを発生させる水素除去工程は、金属成分、特に遷移金属またはその化合物を含む2機能性で、無機担体に担持された触媒の存在下で行なうことができる。
適切な金属成分には、銅、鉄、バナジウム、クロム、亜鉛、ガリウム、ニッケル、コバルト、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、タングステン、イリジウム、白金、金、ガリウムと、これらの組合せ、および化合物が含まれる。
無機担体は、シリカ、アルミナ、またはシリカ−アルミナなどのアモルファス材料であり、脱水環化触媒で挙げられたものなどである。さらに、無機担体は、ミクロポーラス、またはメソポーラスな結晶性の材料でもよい。適切なポーラスな結晶性の材料には、脱水環化触媒に挙げられたアルミノシリケート、アルミノホスフェートや、シリコアルミノホスフェートが含まれる。
【0083】
メタンおよび/またはエタンを発生させる水素除去工程は、温度が約100℃から約900℃、例えば温度約150℃から約500℃、例えば温度約200℃から約400℃、圧力が約200kPaから約20000kPa、約500kPaから約5000kPa、重量空間速度が約0.1時間−1から約10000時間−1、約1時間−1から約1000時間−1の広い範囲で操業することができる。
二酸化炭素の転化率は、一般に、20から100%の間で、好ましくは90%を超え、例えば99%を超える。この吸熱反応は、複数の触媒床で行われ、触媒床間で除熱され、さらに、上流側の触媒床は反応速度を大きくするため高温で操業され、下流側の触媒床は熱力学的転化率を大きくするため低温で操業される。
【0084】
この反応の主な生成物は、水と、H:COのモル比により、メタン、エタン、と高級アルカン、さらに不飽和Cと高級炭化水素である。さらに、二酸化炭素の一部が水素化されて一酸化炭素が生じることが好ましい。水を除去した後、メタン、一酸化炭素、未反応の二酸化炭素と高級炭化水素を、脱水環化工程に直接供給し、さらに芳香族化合物を生成させることができる。
【0085】
<フィッシャー−トロプシュ合成工程>
別の実施形態では、水素除去工程は、フィッシャー−トロプシュ合成により、脱水環化生成物中の水素の少なくとも一部を一酸化炭素と反応させて、CからCのパラフィンとオレフィンを生成させる反応を含む。
【0086】
フィッシャー−トロプシュ合成工程は公知であり、例えば、本願に参照として組み込まれる米国特許第5348982号、第5545674号が参照される。この方法には水素と一酸化炭素の反応が含まれ、モル比が約0.5:1から4:1、好ましくは約1.5:1から2.5:1、温度が約175℃から約400℃、好ましくは約180℃から約240℃、圧力が約1から約100バール(100から10000kPa)、好ましくは約10から約40バール(1000から4000kPa)と、一般に、担持され、または担持されていない第VIII族、Fe、Ni、Ru、Coなどの非貴金属、ルテニウム、レチウム、ハフニウム、ジルコニウム、チタンなどの促進剤を含有または含有しないフィッシャー−トロプシュ触媒が存在する条件で行われる。
担体が用いられるときは、耐火性の、例えば第IVB族の金属、すなわち、チタン、ジルコニウムの金属酸化物、またはシリカ、アルミナ、またはシリカ−アルミナを用いることができる。ひとつの実施形態では、この触媒は、例えばコバルトまたはルテニウム、好ましくはコバルトを含む非シフト触媒であり、レニウムまたはジルコニウムを促進剤として有し、好ましくは、コバルトとレニウムがシリカまたは酸化チタン、好ましくは酸化チタンに担持されている。
【0087】
別の実施形態では、炭化水素合成触媒は、ZSM−5上のCu、Cu/Zn,または、Cr/Znなどの金属を含み、この方法は大量の単環の芳香族炭化水素を生成するように操業される。
このような方法の例は、Jose Erenaの「Study of Physical Mixtures of Cr2O3-ZnO and ZSM-5 Catalysts for the Transformation of Syngas into Liquid Hydrocarbons」; Ind. Eng. Chem Res. 1998, 37, 1211-1219に記載されており、本願に参照として組み込まれる。
【0088】
フィッシャー−トロプシュ液、すなわち、C+は回収され、軽いガス、例えば未反応の水素、CからCまたはCの成分および水は、より重い炭化水素から分離される。より重い炭化水素は製品として回収されるか、あるいは、さらに芳香族生成物を発生させるために脱水環化工程に送られる。
【0089】
フィッシャー−トロプシュ反応に必要な一酸化炭素は、全部または一部がメタンを含有する供給原料中にあるか、供給原料とともに供給され、脱水環化工程で副生物として発生する。必要であれば、追加の一酸化炭素を、二酸化炭素を含有するガス、例えば天然ガスをシフト触媒に供給し、次に示す逆水性ガスシフト反応により一酸化炭素を発生させることができる。
【化5】

および次の反応
【化6】

【0090】
<アルコール合成>
さらに別の実施形態では、水素除去工程には、脱水環化生成物中の少なくとも一部と、一酸化炭素とによりCからCのアルコール、特にメタノールを生成させる反応が含まれる。メタノールや他の酸素含有化合物を合成ガスから製造することはよく知られており、例えば、米国特許第6114279号、第6054497号、第5767039号、第5045520号、第5254520号、第5610202号、第4666945号、第4455394号、第4565803号、第5385949号に開示されており、本願に参照として取り込まれる。
一般に、用いられる合成ガスは、水素(H)と炭素の酸化物(CO + CO)のモル比が、約0.5:1から約20:1の範囲、好ましくは2:1から約10:1の範囲であり、任意に二酸化炭素が全合成ガスの重量に対し、好ましくは50%を超えない量で存在する。
【0091】
メタノール合成工程に用いられる触媒は、銅、銀、亜鉛、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、バナジウム、クロム、マンガン、ガリウム、パラジウム、オスミウムおよびジルコニウムから成るグループから選択される少なくとも1つの元素の酸化物を含有する。
この触媒は、酸化銅のような、銅がベースの触媒であり、任意に、銀、亜鉛、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、バナジウム、クロム、マンガン、ガリウム、パラジウム、オスミウム、およびジルコニウムから成るグループから選択される、少なくとも1つの元素の酸化物が存在することが好ましい。この触媒は、酸化銅を含有し、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、クロム、およびジルコニウムから成るグループから選択される、少なくとも1つの元素の酸化物が存在することが好ましい。ひとつの実施形態では、メタノール合成触媒は、酸化銅、酸化亜鉛、および酸化アルミニウムから成るグループから選択される。より好ましくは、この触媒には銅と亜鉛の酸化物が含まれる。
【0092】
メタノール合成は、広い温度および圧力範囲で行うことができる。適切な温度は、約150℃から約450℃、例えば約175℃から約350℃、例えば約200℃から約300℃の範囲である。適切な圧力は、約1500kPaから約12500kPa、例えば約2000kPaから約10000kPa、例えば約2500kPaから約7500kPaの範囲である。
重量空間速度は、用いられるプロセスにより異なるが、一般に、触媒床を通過するガスの重量空間速度は、約50時間−1から約50000時間−1、例えば約250時間−1から約25000時間−1、より好ましくは約500時間−1から約10000時間−1の範囲である。
この吸熱反応は、複数の触媒床と触媒床間での除熱を備える固定床または流動床で行うことができ、さらに、上流側の触媒床は反応速度を大きくするため高温で操業され、下流側の触媒床は熱力学的転化率を大きくするため低温で操業される。
【0093】
生成するメタノール、および/またはその他の酸素含有化合物は別の製品として販売することができ、また、脱水環化工程で生成した芳香族化合物のアルキル化に用いてキシレンなどにし、付加価値を高めることができる。また、特にエチレンとプロピレンなどの低級オレフィンの製造用の供給原料に用いることができる。メタノールからオレフィンへの転化はよく知られたプロセスであり、例えば米国特許第4499327号に開示されており、本願に参照として組み込まれる。
【0094】
<水素の選択的燃焼>
また別の実施形態では、水素除去工程には、水素の選択的燃焼が含まれ、これは、水素を含む生成物を酸素と反応させ、かつ、生成物中の炭化水素が酸素と反応して一酸化炭素、二酸化炭素、および/または、酸化された炭化水素が発生しないようにして、水またはスチームを生成させる工程である。一般に、水素の選択的燃焼は、酸素の一部を水素に放出する金属酸化物などの、酸素を含む物質の存在下で行われる。
【0095】
適切な水素の選択的燃焼方法は、本願に参照として組み込まれる米国特許第5430210号に開示されており、反応条件化で炭化水素と水素を含む第1ストリームと、酸素を含む第2ストリームとを、酸素を含まないガスを浸透させない膜を隔てて接触させるものであり、この膜は水素を選択的に燃焼させる金属酸化物からなり、水素の選択的燃焼で生じた生成物を回収する。一般に、金属酸化物は、ビスマス、インジウム、アンチモニー、タリウム、および/または、亜鉛の金属酸化物の混合物である。
【0096】
本願に参照として組み込まれる米国特許第5527979号には、触媒酸化によりアルカンを脱水素して、アルケンを製造する方法が開示されている。この方法では、アルカンの脱水素によるアルケンの生成の反応平衡と、脱水素で生じた水素の選択的燃焼の反応平衡とが同時に生じ、脱水素反応の平衡をさらにアルケンが生じる方向へずらす。特に、アルカン供給原料は、第1反応器において、平衡脱水素触媒上で脱水素され、第1反応器からの酸素を随伴する流出物は、水素の選択的燃焼の選択的触媒として用いられる金属酸化物が備えられた、第2反応器へ送られる。平衡脱水素触媒は白金と、ビスマス、アンチモニー、インジウム、亜鉛、タリウム、鉛、およびテルルまたはこれらの混合物などの金属酸化物の選択的燃焼触媒を含有する。
【0097】
本願に参照として組み込まれる2004年8月5日出願の米国特許公開広報第2004/0152586号には、クラッキング反応器からの流出物中の水素含有量を低減させる方法が開示されている。この方法では、(1)少なくとも1つの酸性固体クラッキング触媒と(2)少なくとも1つの金属を含む選択的水素燃焼成分を用いており、選択的水素燃焼成分は、
(a)以下のi)からiv)からなるグループから選択される金属の組み合わせと、
i)少なくとも1つの周期律表の第3族金属と、少なくとも1つの周期律表の第4−15族金属と;
ii)少なくとも1つの周期律表の第5−15族金属と、少なくとも1つの周期律表の第1,2、および4族金属と;
iii) 少なくとも1つの周期律表の第1,2族金属と、少なくとも1つの周期律表の第3族金属と、少なくとも1つの周期律表の第4−15族金属と;
iv)2以上の周期律表の第4−15族金属。
(b)少なくとも酸素と硫黄のいずれかを含み、前記酸素と硫黄のいずれかは、それ自体の結合と金属との結合の両者を含むものである。
【0098】
この発明の水素の選択的燃焼反応は、一般に、温度が約300℃から約850℃の範囲、圧力が約1atmから約20atm(100から2000fcPa)の範囲で行われる。
【0099】
<芳香族生成物の回収、処理>
脱水環化工程の主生成物はベンゼンとナフタレンである。これらの生成物は、一般に溶剤抽出した後に分留して脱水環化生成物から分離され、直接汎用化学品として販売される。あるいは、ベンゼンとナフタレンの一部または全部はアルキル化され、例えば、トルエン、キシレン、アルキルナフタレン、および/または、水素化されて、例えば、シクロヘキサン、シクロヘキセン、ジヒドロナフタレン(ベンジルシクロヘキサン)、テトラヒドロナフタレン(テトラリン)、ヘキサヒドロナフタレン(ジシクロヘキサン)、オクタヒドロナフタレン、および/または、デカヒドロナフタレン(デカリン)が製造される。
適切なアルキル化および水素化方法は以下に説明され、さらに、詳細は2005年12月2日出願のPCT出願番号PCT/US2005/043523、2005年12月2日出願のPCT出願番号PCT/US2005/044038に開示されている。
【0100】
<芳香族のアルキル化>
ベンゼンやナフタレンなどの芳香族のアルキル化は周知であり、一般に、酸性触媒の存在下で、オレフィン、ハロゲン化アルキルのアルコールと、気相または液相の芳香族種とを反応させて行う。適切な酸性触媒には、中孔径のゼオライト(すなわち、米国特許第4016218号に示されたコンストレインインデックス(Constraint Index)が2から12のもの)であって、骨格がMFI型(例えばZSM−5やシリカ)、MEL型(例えばZSM−Il)、MTW型(例えばZSM−12)、TON型(例えばZSM−22)、MTT型(例えばZSM−23)、MFS型(例えばZSM−57)、およびFER型(例えばZSM−35)および、ZSM−48型、また、大孔径のゼオライト(すなわち、コンストレインインデックスが2未満のもの)であって、例えば、骨格がBEA型(例えばゼオライトベ−タ)、FAU型(例えばZSM−3、ZSM−20、ゼオライトX、Y、 超安定化Yと脱アルミ化Y)、MOR型(例えばモルデナイト)、MAZ型(例えばZSM−4)、MEI型(例えばZSM−18)およびMWW型(例えばMCM−22、PSH−3、SSZ−25、ERB−I、ITQ−I、ITQ−2、MCM−36、MCM−49およびMCM−56)のものが含まれる。
【0101】
この発明のひとつの実施形態では、ベンゼンは脱水環化生成物から回収され、エタン化/メタン化を行う水素除去工程の副生物として得られたエチレンなどのオレフィンでアルキル化される。一般に、気相中でエチレンによりベンゼンのアルキル化を行う反応条件は、温度が華氏約650度から約900度(343から482℃、圧力がほぼ大気圧から約3000psig(100から20800kPa)、エチレン基準の重量空間速度が約0.5時間−1から約2.0時間−1、ベンゼン:エチレンのモル比が1:1から30:1.である。
液相中でベンゼンをエチレンでアルキル化するときの反応条件は、温度が華氏約300度から約650度(150から340℃)、圧力が最大約3000psig(20800kPa)、エチレン基準の重量空間速度が約0.1時間−1から約20時間−1、ベンゼン:エチレンのモル比が1:1から30:1.である。
【0102】
ベンゼンのエチル化は、少なくとも一部が液相で行い、触媒には、ゼオライトベータ、ゼオライトY、MCM−22、PSH−3、SSZ−25、ERB−1、ITQ−1、ITQ−2、ITQ−13、ZSM−5、MCM−36、MCM−49およびMCM−56の内の、少なくともいずれか1つを用いることが好ましい。
【0103】
ベンゼンのエチル化は、脱水環化/水素除去工程プロセスの工場で行うことができ、あるいは、ベンゼンを別の場所へ輸送してエチルベンゼンに転化することもできる。得られたエチルベンゼンは販売され、あるいは、例えばスチレンの製造や、公知の方法による混合キシレンの製造の前駆体に用いられる。
【0104】
この発明の方法の別の実施形態では、アルキル化剤はメタノールまたはジメチルエーテル(DME)であり、脱水環化生成物から回収されたアルキル化されたベンゼン、および/または、ナフタレンに適用され、トルエン、キシレン、メチルナフタレン、および/または、ジメチルナフタレンの製造に用いられる。メタノールまたはジメチルエーテルをベンゼンのアルキル化に適用する場合、2,2ジメチルブタンの圧力60torr(8kPa)、温度120℃で測定した2,2ジメチルブタンに対する拡散係数が0.1から15秒−1になるようにスチーミングで改質処理されたZSM−5、ゼオライトベータ、ITQ−13、MCM−22、MCM−49、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48などのゼオライトを含む触媒の存在下で行うことができる。このような方法はパラ−キシレンの製造に対する選択性があり、本願に参照として組み込まれる米国特許第6504272号に開示されている。
メタノールをベンゼンのアルキル化に用いる場合、ZSM−5、MCM−22、PSH−3、SSZ−25、ERB−1、ITQ−1、ITQ−2、ITQ−13、MCM−36、MCM−49、またはMCM−56からなる触媒を用いて行なうことができる。このような方法は2,6−ジメチルナフタレンの製造に対する選択性があり、例えば、本願に参照として組み込まれる米国特許第4795847号、第5001295号に開示されている。
【0105】
この発明の方法で、メタノールまたはジメチルエーテルをアルキル化剤に用いる場合、別の供給源から供給するか、あるいは、その少なくとも一部を、脱水環化工程からの生成物の一部または全部に二酸化炭素を含有する天然ガスなどの供給ガスを添加することにより、その場で生成させることができる。特に、芳香族成分を分離する前に、脱水環化生成物を逆シフト反応器へ送り、生成物中の一酸化炭素濃度が高くなるような条件下で、例えば前述の反応5,8のようにして、二酸化炭素を含有する供給ガスと反応させる。
【0106】
さらに、メタンと二酸化炭素、および/または、スチームを逆シフト反応器へ送って合成ガスを発生させ、これを脱水環化反応の生成物の一部に混合して、アルキル化工程で要求されるH2/CO/CO2モル比に調整する。
【0107】
一般に、逆シフト反応器は、遷移金属が担体に担持された触媒、例えばFe、Ni、Cr、Zn、アルミナが、シリカ、酸化チタンに担持された触媒を備え、温度が約500℃から約1200℃の範囲、例えば温度が約600℃から約1000℃の範囲、例えば温度が約700℃から約950℃の範囲、圧力が約1kPaから約10000kPaの範囲、例えば約2000kPaから約10000kPaの範囲、例えば約3000kPaから約5000kPaの範囲で行なわれる。
容積空間速度は使用するプロセスにより異なるが、一般に、触媒を通過するガスの容積空間速度は、約50時間−1から約50000時間−1、例えば約250時間−1から約25000時間−1、より好ましくは約500時間−1から約10000時間−1である。
【0108】
逆シフト反応器からの流出物は、次に下記の反応が生じる条件で操業されるアルキル化反応器へ送られる。
【化7】

【0109】
アルキル化反応器の適切な反応条件には、温度が約100℃から約700℃の範囲、圧力が約1から約300気圧(100から30000kPa)、および、芳香族炭化水素の重量空間速度が約0.01時間−1から約100時間−1が含まれる。適切な触媒はコンストレインインデックスが1から12の、ZSM−5などのモレキュラーシーブを含み、一般に、銅、 クロム、および/または、酸化亜鉛などの1以上の金属成分または金属酸化物が併用される。
【0110】
アルキル化触媒がモレキュラーシーブを含むときは、反応11で発生するキシレン異性体の主成分がパラキシレンになるように、モレキュラーシーブの拡散性を改質する。拡散性の改質に適した方法には、スチーミングや、反応器内または反応器外で、シリコン化合物、コークス、MgO、などの金属酸化物、および/またはPを、モレキュラーシーブの表面または開口部に堆積させる方法などである。また、活性金属をモレキュラーシーブに組み入れて、より反応性の高い化学種、例えばオレフィンを飽和させることが好ましい。オレフィンは、副生物として生じるものであり、触媒の不活性化を起こす。
【0111】
アルキル化反応器からの流出物は分離セクションへ移送され、ここで芳香族生成物は、好ましくは溶剤抽出法により、水素やその他の低分子量から分離される。次に、芳香族生成物は、ベンゼン留分、トルエン留分、C留分、ナフタレンやアルキル化されたナフタレンを含む重質分留分に分留される。次に、C芳香族留分は、結晶化、または収着プロセスへ送られ、価値のあるパラ−キシレンを分離し、残余の混合キシレンは販売されるか、さらにパラ−キシレンを製造するために、異性化ループへ送られる。トルエン留分は販売されるか、アルキル化反応器へ送り返されるか、あるいはトルエン不均化装置、好ましくは追加のパラ−キシレン製造の準備のための選択的トルエン不均化装置へ送られる。
【0112】
<芳香族の水素付加>
アルキル化工程に加え、あるいはアルキル化工程に代えて、脱水環化生成物中の芳香族化合物の少なくとも一部が水素化されて、シクロヘキサン、シクロヘキセン、ジヒドロナフタレン(ベンジルシクロヘキサン)、テトラヒドロナフタレン(テトラリン)、ヘキサヒドロナフタレン(ジシクロヘキサン)、オクタヒドロナフタレン、および/または、デカヒドロナフタレン(デカリン)が製造される。これらの生成物は、燃料や中間体に用いられ、テトラリンとデカリンについては、脱水環化工程の生成物から芳香族化合物を抽出するときの溶剤に用いられる。
【0113】
水素化は、脱水環化生成物の分離処理をした後に、脱水環化反応で生じた水素の一部を用いて行なわれる
が、必ずしも必要ではない。水素化方法は公知であり、一般に、アルミナまたはシリカ担体に担持されたNi、Pd、Pt、Ni/Mo、または硫化Ni/Mo触媒が用いられる。水素化方法の一般的操業条件は、温度が華氏約300から約1000度(150から540℃)、例えば華氏約500から約700度(260から370℃)の範囲、圧力が約50から約2000psig(445から13890kPa)、例えば約100から約500psig(790から3550kPa)の範囲、重量空間速度が約0.5時間−1から約50時間−1、例えば約2時間−1から約10時間−1の範囲で行なわれる。
【0114】
炭素−炭素間の二重結合の一部を残す部分水素化も、ポリマー重合やその他の下流での化学反応用の物質を製造するために望ましい。部分水素化方法は公知であり、一般に、貴金属、好ましくはルテニウムを含み、La2O3-ZnOなどの金属酸化物に担持された触媒を用いて行なわれる。均一な貴金属触媒も使用することができる。部分水素化の例は、本願に参照として組み込まれる米国特許第4678861号、第4734536号、第5457251号、第5656761号、第5969202号、および第5973218号に開示されている。
【0115】
別の水素化方法には、アルキルベンゼンを製造するためのナフタレンの低圧下でのクラッキングが含まれ、アモルファスなアルミノシリケート、または、ゼオライトX、ゼオライトY、またはゼオライトベータなどのゼオライトに担持された、硫化Ni/Wまたは硫化Ni触媒を用いて行なわれる。
ナフタレンの低圧下でのクラッキングの適切な反応条件には、温度が華氏約300から約1000度(150から540℃)、例えば華氏約500から約700度(260から370℃)の範囲、圧力が約50から約2000psig(445から13890kPa)、例えば約100から約500psig(790から3550kPa)の範囲、重量空間速度が約0.5時間−1から約50時間−1、例えば約2時間−1から約10時間−1の範囲で行なわれる。
【0116】
この発明のいくつかの非限定的実施形態を、図面と実施例を参照しながら詳しく説明する。
【0117】
図1は、この発明の第1実施形態に係る脱水環化反応器と、触媒再加熱器とを簡略化して表す図である。
この実施形態では、脱水環化反応器は垂直に設置された沈降床反応器11を備え、沈降床反応器11の頂部近傍に配置された入口12を通して加熱された触媒が流入し、反応器11の底部近傍に配置された出口13を通して温度が低下した触媒が流出する。通常、加熱された触媒は沈降床反応器11に温度約900℃で流入し、温度が低下した触媒は温度約650℃で沈降床反応器11から流出する。
【0118】
メタン供給原料14は、沈降床反応器11の底部近傍から導入され、補助燃料源としての追加のメタン、または空気を含むメタン15が、温度が低下した触媒を触媒再加熱器16へ移送するために用いられる。
通常、合成ガスの併産を目的とするときは、補助燃料源として使われるメタンの量は、脱水環化工程への供給原料14として用いられるメタンの120wt%である。合成ガスの併産を目的としないときの補助燃料源として使われるメタンの量は、脱水環化工程への供給原料14として用いられるメタンの65wt%である。
【0119】
触媒再加熱器16は、垂直な上昇流反応器であり、上昇流反応器の長さ方向に沿って互いに離間した複数の入口17を通して上昇流反応器に注入されるメタン燃料と酸素によって、温度が低下した触媒が上昇流反応器中を上方に向けて移送される。触媒再加熱器16に注入された酸素はメタン燃料を燃焼させ、触媒が上昇流反応器内を移動するとき、触媒の温度を上昇させる。各入口17に注入される酸素の量は、上昇流反応器内が、酸素の乏しい雰囲気になるように制御され、補助燃料源の燃焼と触媒の加熱は、触媒が上昇流反応器内を上昇するとき徐々に生じる。これにより、触媒が高温にさらされることと、燃焼流出物が一酸化炭素リッチになるような燃料の不完全な酸化とを最小にすることができる。燃焼流出物触媒再加熱器16から出口18を通って流出し、通常は59wt%の水素と、30wt%の一酸化炭素と、8wt%の水と、3wt%の二酸化炭素を含む。
【0120】
加熱された触媒は、入口12を通って沈降床反応器11に送り返される前に、上昇流反応器16の頂部またはその近傍で触媒ストリッパー19を通過し、追加のメタンに接触して、触媒に吸着している水と酸素が除去される。芳香族炭化水素を含む反応生成物は、沈降床反応器11から、沈降床反応器11の頂部またはその近傍にある出口(図示せず)を通して回収される。
【0121】
この発明の第2の実施形態を図2に示す。この実施形態では、脱水環化反応器は、触媒再加熱器と分離された触媒再生器の両者を備える。第1の実施例のように、脱水環化反応器は垂直に設置された沈降床反応器21を備え、沈降床反応器21の頂部近傍に配置された入口22を通して加熱された触媒が流入し、反応器21の底部近傍に配置された第1、第2出口23、24のそれぞれを通して温度が低下した触媒が流出する。
メタン供給原料25は、沈降床反応器21に、その底部近傍から導入される。
【0122】
温度が低下した触媒の第1部分は、重力により第1出口23を通って、沈降床反応器21から触媒再加熱用上昇流反応器26へ流入する。触媒は空気/メタン混合ガスにより触媒再加熱用上昇流反応器26の上方に向けて輸送され、触媒再加熱用上昇流反応器26を通過している間に、メタンの燃焼により加熱される。
マニホールド27を通して触媒再加熱用上昇流反応器26に導入される混合ガスは、触媒を所与の反応温度まで加熱するために必要な燃料を有するが、酸素は不足している。このため、追加の空気が触媒再加熱用上昇流反応器26に、触媒再加熱用上昇流反応器26の長さ方向に沿って互いに離間した複数の入口28を通して導入され、これにより、触媒は触媒再加熱用上昇流反応器26の中を上昇するに従い徐々に加熱される。なお、図2では、簡略化のため入口28を2個しか図示していないが、実際にはこれより多数設けられる。
【0123】
加熱された触媒は、触媒再加熱用上昇流反応器26の頂部から出て分離器29に入り、固体の触媒粒子が燃焼ガスから分離され、次いで活性化/ストリップ塔32へ送られる。燃焼ガスは、熱回収に先立ち、触媒の微粉末を除去するためサイクロン31へ送られる。再加熱のための燃焼媒体に空気を用いているため、燃焼ガスは一般に、窒素67.9wt%、酸素0.2wt%、水素1.3wt%、一酸化炭素3.6wt%、二酸化炭素7.9wt%、および水17.3wt%を含む。
【0124】
温度が低下した触媒の第2部分は、重力により第2の出口24から再生用上昇流反応器33の基部に達し、ここで触媒は第2の酸素を含有するガスに乗せられ、再生用上昇流反応器33の中を上昇する。触媒の第2部分が再生用上昇流反応器33の中を上昇するに従い、脱水環化反応器21で触媒上に生成したコークスが燃焼し、これにより触媒は加熱される。
しかし、再生用上昇流反応器33は、再生用上昇流反応器33を出る触媒の第2部分の温度が、脱水環化反応器21を出たときの温度より低くなるように、例えば再生用上昇流反応器33に供給される酸素含有ガスの温度を下げて制御することが好ましい。一般に、再生用上昇流反応器33を出る触媒の第2部分の温度は約550℃で、脱水環化反応器21を出る触媒の第2部分の温度は約650℃である。
【0125】
触媒の第2部分は、再生用上昇流反応器33を出た後、分離器34に入り、固体の触媒粒子が燃焼ガスから分離され、次にサイクロン31へ送られ触媒の微粉末が除去される。次に、この分離された触媒は、活性化/ストリップ塔32へ送られる。
【0126】
活性化/ストリップ塔32では、再生された触媒を先ず、塔内の底部から上昇するメタン、エタン、あるいはプロパンと、水素と、および/または、一酸化炭素などの炭化水素ストリームと接触させ、触媒の金属を再浸炭する。これは、再生工程では、触媒表面のコークスが除去されるだけでなく、触媒活性を有する触媒中の金属成分の炭化種が酸化されることがあるためである。
次に、触媒に吸着された水または酸素を除去するために、触媒をメタンストリーム36に接触させる。次に、再生された触媒を、触媒再加熱用上昇流反応器26からの加熱された触媒と混合し、混合された触媒を、残存するコークス、あるいは重質炭化水素を除去するために、水素、および/または、二酸化炭素ストリーム37と接触させる。
触媒をストリッピングした後、熱ガスの上昇流により再浸炭により再生された触媒の部分を加熱する。次いで、混合された触媒を入口22から反応器21へ送り返す。温度低下を最小にするため、この容器に供給するガスの全てを予備加熱することが好ましい。なお、図面では全ての操作を1つの容器で行うように図示しているが、設置、あるいは操作を容易にするために、複数の容器で操作を行うこともできる。
【0127】
この発明の第3の実施形態を図3に示す。この実施形態では、脱水環化反応器は、複数の、図上では3基の、垂直に配置、され連設された流動床反応器41で構成される。流動床反応器41では、触媒再加熱器(図示せず)のストリッパー42からの熱触媒が流動床反応器41の最上段に入り、下方へ移動する。流動床反応器41の最下段の入口43からはメタンが導入され、下方へ移動する熱触媒に対し向流となる。
温度が低下した触媒は、流動床反応器41の最下段から抜き出され、触媒再加熱器へ送られる。図3の流動床を用いた設計の場合に用いられる触媒再加熱器と触媒再生反応器は、一般に、図2に示されたものと同等である。
しかし、図3の流動床を用いた設計の場合に用いられる触媒の粒径は、一般に図1、図2の沈降床を用いた設計の場合に用いられ、一般に約1000μmから約10000μmである、触媒の粒径より小さく、例えば約50μmから約500μmである。
【0128】
図4は、図1、図2の触媒再加熱器に用いられる上昇流反応器、および/または、図2の触媒再生装置を通る触媒の流速の制御に適した装置を表した図である。この装置は、触媒収容タンク51を備え、触媒収容タンク51は、導管52を通して脱水環化反応器(図示せず)から受容される温度が低下した/使用された触媒で構成される触媒床を収容する。
再生用の酸素が不足した状態の空気、あるいは、触媒再加熱用の燃料/空気混合ガスのいずれかの上昇気体が、導管53からバルブ54,55で第1ガス流と第2ガス流に分配されて触媒収容タンク51に供給される。第1ガス流は、導管56からタンク51内の上昇流反応器57の下端部直下の領域に供給される。このとき、第1ガス流が実質的に触媒床を厚み方向に通過せずに上昇流反応器57を上昇するように供給される。
【0129】
第2ガス流は導管58から、タンク51内の上昇流反応器57の下端部から離間した領域に供給される。このとき、第2ガス流が実質的に触媒床を厚み方向に通過して上昇流反応器57に達するように供給される。第2ガス流は、触媒粒子を第1ガス流に押し込み、両ガス流は合流して上昇流反応器57内を上昇する。
バルブ54,55を制御して第1、第2ガス流の相対流量を変えることにより、上昇流反応器57を流れる触媒粒子の量、すなわち、上昇流反応器57内の触媒粒子の流量を変えることができる。一般に、第2ガス流の流量は、全ガス流量の5から15%の範囲で変化させることができる。
【0130】
各図に示した実施形態の、触媒再加熱装置と触媒再生装置に用いられる上昇流反応器は、一般に、上昇流反応器の長さ方向に沿って、内径が一定である。しかし、上昇流反応器の底部から上部に向かうに従い内径が大きくなる構成にすることもできる。
【0131】
図示していないが、このプロセスの他の部分で生じる「廃熱」をメタン(芳香族に転換する供給原料と触媒再加熱の燃料の両者のメタン)の予備加熱に用い、好ましくは約600℃まで加熱し、触媒を再加熱するための酸素を含有する供給原料を可能な限り高い温度にすることが好ましい。
【0132】
<実施例1>再加熱装置における触媒の空間的および経時的温度分布
上昇流反応器の軸方向上方に沿った触媒粒子内部(空間的)の温度分布と、その経時変化を次の2つの場合について計算した。
(A)メタンの酸化に必要な空気の全てを上昇流反応器の底部に導入した場合。(すなわち、上昇流反応器内での触媒滞留時間がゼロの場合。)
(B)空気の供給が上昇流反応器の軸方向に沿って分布。(理論的に最良のケースをシミュレートするための、実際に生じ得る不連続な触媒滞留時間の間隔、または、微小な時間(あるいは微小な上昇流反応器の長さ)の間隔をおいた「連続的」空気注入ポイント。)
触媒粒子を球とみなした場合の温度分布、経時変化T(r,t)を計算する方法として、均一反応は粒子表面の伝導境界条件の対流および放射熱を伴わない一次元の熱伝導であるとした、非定常状態での近似熱伝導方程式を用いた。
【数1】

ここで、rは球の中心からの半径方向距離であり、tは上昇流反応器内の触媒滞留時間であり、Dは熱拡散係数であり、kは触媒の熱伝導率であり、hは対流熱伝導係数、TsurfaceとTflueはそれぞれ、触媒表面の温度(r=R)、燃焼ガスの温度(r>>R)であり、σはStefan−Boltzmann定数であり、εは触媒表面の放射率である。
簡略化のため、触媒の熱伝導率、熱拡散係数、および表面の放射率を一定とみなした。対流熱伝導係数は、ガス流中の離間した球面のGeankoplisの相関関係を用い、上昇流反応器の頂部と底部の条件における燃焼ガスの物性を用いて計算した。これらの熱伝導係数の差は20%未満であったため、この平均値を上昇流反応器全体について用いた。次の表1に、このモデルで用いた各物理定数と触媒の物性を示す。
【表1】

【0133】
熱移動の計算に加え、触媒粒子と燃焼ガス全体のエネルギー収支が、次式を満足する必要がある。
【数2】

ここで、HoutとHinは、入口と出口の状態(各微小時間増分毎)における燃焼ガスのエンタルピーであり、ΔH°rxnはξモルのメタンが反応したときのエンタルピー変化、Qcatは微小時間増分したときの触媒への熱移動である。
ガス混合物のエンタルピーは、次式で計算した。
【数3】

(ここで、t=T(K)/1000)
ここで、AからHは特定成分の熱伝導係数である。エネルギー収支の式により、上昇流反応器の軸方向に沿った燃焼ガスの温度を計算することができる。
【0134】
熱移動の偏微分方程式は、有限差分時間領域法(finite−difference method)を用いて数値解析することができる。
【数4】

ここで、添字iは0からNまでの半径インデックス、添字jは時間インデックス、添字aは燃焼ガスの物性を表し、αとβはそれぞれ、無次元の放射と対流の境界条件指数である。
【0135】
<ケースA:空気の全てを上昇流反応器の底部に導入した場合>
図5は、触媒の上昇流反応器内での滞留時間に対する、触媒内の異なる半径位置ごとの、触媒の温度分布を表す図である。これらの温度分布は、沈降床(非流動床)反応器で用いられる触媒を代表する直径3650μmの触媒について求めたものである。
時間ゼロにおける燃焼ガスの最初の温度は、断熱温度上昇による2254℃である。触媒粒子は約0.95秒後に全体の平均温度が850℃になるが、この時点では、実質的に内部の温度勾配はまだ存在する。0.95秒後、触媒粒子は上昇流反応器の外へ出て、燃料ガスから開放される。次にプロセスガスによる加熱がないとみなした場合、内部の温度勾配に平均化が生じる。約3.5秒後に触媒粒子は平衡温度の850℃に達する。
最初の燃焼ガス温度が高いため、触媒の表面温度は望ましい温度の850℃をはるかに超えており、0.05秒後に最大1073℃に達する。なお、この数値シミュレーションは、短時間でおきる出来事を正確に捉えるため0.0004秒刻みで行った。
【0136】
<ケースB:空気の供給が上昇流反応器の軸方向に沿って分布する場合>
図6は、触媒の上昇流反応器内での滞留時間に対する、触媒内の異なる半径位置ごとの、触媒の温度分布を表す図である。これらの温度分布は直径3650μm(図5と同じ)の触媒について求めたものである。
空気は上昇流反応器の長さ方向に沿って分配され(1注入点につき約3.5フィート)、各注入点に注入する空気の量は、燃焼ガスの温度を1000℃まで上げるために必要なエネルギーの量に基づき決めた。全ての空気が消費された後は酸素の追加の注入は無く、燃焼ガスは固体粒子への熱伝導により温度が下がる。触媒粒子全体の平均温度は1.96秒後に850℃になる。これはケースA(空気の全てを上昇流反応器の底部に導入した場合)の時間のおよそ2倍であり、加熱が穏やかなことと一致する。
しかし、触媒表面の温度904℃は、実質的にケースAの1073℃より低い。この方法によれば、触媒が高温に曝される時間を最小にすることができ、焼結、気化、または活性サイトの変化による触媒の不活性化が緩和され、温度勾配の減少により、触媒の機械的品位が改善される。
【0137】
<実施例2:触媒表面の最大温度の制御>
触媒の表面温度を最小にすることは、上昇流反応器中での触媒の熱水劣化を低減する上で重要である。触媒の表面温度分布に重要な影響を及ぼす2つの因子は、
(1)燃焼ガスの最大温度(上昇流反応器の長さ方向に沿って空気注入量の分布を変えて操作される)
(2)触媒の粒径
である。
他の触媒および流体の物性(例えば、熱伝導率、表面拡散率、対流熱伝導係数、熱容量など)も触媒の温度分布に影響する。しかし、触媒、および/または、反応器の設計の観点から触媒の温度分布を制御することはさらに難しい。この実施例では、(特定の触媒粒径について)燃焼ガスの温度を操作することにより、触媒の表面温度を最小にできることを示す。
以下のシミュレーションでは、理論的に最善の状態(すなわち、最小の触媒底流時間)をシミュレートする目的で、燃焼ガス温度を一定に保つために(全ての空気が消費されるまで)、触媒滞留時間が微小な間隔(または上昇流反応器長さ)の「連続」空気注入点を用いた。
【0138】
表2に、(1)沈降床の場合を代表する3650μmと、(2)流動床の場合を代表する250μmの2つの粒径のシミュレーション結果を示す。表2は、一定の粒径で燃焼ガス温度を選択した場合について、 粒子が加熱中に達する最大表面温度と、粒子の平均温度を850℃に昇温するために必要な最小の滞留時間を示す。
全ての空気が上昇流反応器の底部に注入された極端なケースのとき、250μmの粒子の最大表面温度871℃は、実質的に3650μmの粒子の最大表面温度1073℃より低い。これは、250μmの粒子の表面−体積比が大きいことと、熱伝導距離が小さいことによる。さらに、小粒径の場合、必要な滞留時間も顕著に減少する。一定の粒径の場合、等温ゾーンにおける最初の燃焼ガス温度を下げることにより、触媒の最大表面温度が低下し、必要な滞留時間が増大する。
燃焼ガス温度が上昇流反応器の全長にわたって一定(900℃)の極端なケースでは、250μmの粒子の最大表面温度は最終的平均温度より5℃高いだけであるが、3650μmの粒子の最大表面温度は22℃高い。これらの各粒径に必要な滞留時間と燃焼ガス温度は、上昇流反応器の高さと触媒粒子速度により調節することができる。
【0139】
この発明について実施形態に基づいて説明したが、当業者であればここに説明されていない態様でこの発明を実施することができるであろう。このため、この発明の真の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づき決められる。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンを芳香族炭化水素を含む高級炭化水素に転換する方法であって、
(a)メタンを含む供給原料と、反応ゾーンにある脱水環化触媒とを、メタンを芳香族炭化水素に転換する条件で接触させる工程と;
(b)触媒の第1部分を反応ゾーンから加熱ゾーンへ移送する工程と;
(c)加熱ゾーンにある触媒の第1部分を、炭化水素を含む補助燃料源を燃焼させて生成させた燃焼ガスを前記触媒の第1部分に接触させることにより加熱する工程であって、前記補助燃料源に含まれる前記炭化水素を酸素が不足した雰囲気下で燃焼させて合成ガスを生成させる工程と
(d)前記合成ガスを追加の炭化水素生成物及び/又は燃料に転換する工程と;
(e)加熱された触媒の第1部分を、反応ゾーンへ返送する工程と;
(f)触媒の第2部分を前記反応ゾーンから、前記加熱ゾーンと分離された再生ゾーンへ移送する工程と;
(g)前記触媒の第2部分を、前記再生ゾーンにおいて前記触媒の第2部分からコークスの少なくとも一部を除去できる条件下で再生ガスに接触させる工程と;
(h)再生された前記触媒の第2部分を反応ゾーンへ返送する工程とを備える方法。
【請求項2】
前記加熱工程(c)で、前記触媒の第1部分を、前記補助燃料源に直接接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補助燃料源を前記加熱ゾーンと分離された燃焼ゾーンで燃焼させて、前記燃焼ゾーンで発生した燃焼ガスを前記加熱ゾーンに供給する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記補助燃料源にさらに水素が含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記補助燃料源にメタンが含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記加熱ゾーンが細長く、加熱ゾーンの長さ方向に沿って互いに離間した複数の場所で、前記触媒の第1部分に熱が加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
全ての補助燃料が前記加熱ゾーンの一端に供給され、加熱ゾーンの互いに離間した前記複数の場所に酸素含有ガスが段階的に供給される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記補助燃料を燃焼させるために必要な全ての酸素含有ガスが加熱ゾーンの一端に供給され、加熱ゾーンの互いに離間した前記複数の場所に、前記補助燃料が段階的に供給される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
高温燃焼ガスを加熱ゾーンと分離した燃焼ゾーンで発生させ、加熱ゾーンの互いに離間した前記複数の場所に供給する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記加熱ゾーンが上昇流反応器であり、前記触媒の第1部分が前記上昇流反応器内を上昇する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記触媒の第1部分が前記加熱ゾーンに入るときの温度が500℃から900℃であり、前記加熱ゾーンを出るときの温度が800℃から1000℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記燃焼ガスの温度が1300℃未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
さらに、前記触媒の第1部分をストリッピング工程に送り、触媒の表面に生じたコークス、及び/又は重質炭化水素の少なくとも一部を除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ストリッピング工程において、前記触媒の第1部分をスチ−ム、水素、及び/又は、COのいずれかと接触させる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ストリッピング工程を前記加熱工程(c)の後に行う、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
さらに、加熱された前記触媒の第1部分をメタンに接触させ、触媒に吸収された水及び/又は酸素の少なくとも一部を除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記触媒が金属成分を含有し、前記加熱された触媒の第1部分を浸炭工程で処理する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記浸炭工程において、前記加熱された触媒の第1部分を、炭化水素、CO、COのいずれかと、及び任意にHと接触させる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記再生ゾーンの温度が前記反応ゾーンの温度より低い、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記再生ゾーンの温度が400℃から700℃である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
所定時間内に加熱ゾーンへ移送される触媒の重量と、同一の所定時間内に再生ゾーンへ移送される触媒の重量の比が5:1から100:1の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記再生ガスが酸素を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記再生ガスがさらに二酸化炭素、及び/又は、窒素を含有し、再生ガス中の酸素濃度が10wt%未満である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記再生ゾーンが上昇流または移動床である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
再生された前記触媒の第2部分を、さらにメタンまたは水素と接触させ、触媒に吸着された水、及び/又は酸素の少なくとも一部を除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記触媒が金属成分を含有し、前記再生された触媒の第2部分を浸炭工程で処理する、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記浸炭工程において、前記加熱された触媒の第2部分を、炭化水素、CO、及びCOのいずれかと、及び任意にHと接触させる、と接触させる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記供給原料を、前記反応ゾーンにおいて前記脱水環化触媒の移動床に接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記供給原料の流れ方向が前記脱水環化触媒の移動方向に対し向流である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記供給原料を、前記反応ゾーンにおいて前記脱水環化触媒の1以上の流動床に接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記移送工程(b)及び(f)、並びに前記返送工程(e)及び(h)を連続的に行う、請求項1に記載の方法
【請求項32】
前記反応ゾーンが垂直に設置された沈降床反応器で構成され、前記供給原料が反応器の底部またはその近傍に供給され、加熱された触媒の第1部分と再生された触媒の第2部分が反応器の頂部、またはその近傍に送り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
触媒の第1部分と触媒の第2部分が、前記工程(b)及び(e)において、反応器の底部またはその近傍から抜き出される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記反応ゾーンが連続して配列された複数の流動床反応器で構成され、加熱された触媒の第1部分が連続する反応器の最初の反応器に供給され、一番最後の反応器に供給される供給原料に対し向流となる方向に動く、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−107016(P2012−107016A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−282571(P2011−282571)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【分割の表示】特願2008−543295(P2008−543295)の分割
【原出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(599134676)エクソンモービル・ケミカル・パテンツ・インク (301)
【Fターム(参考)】