説明

メタンスルホン酸水性溶液を取り扱う方法

本発明は、クロム含量15〜22質量%およびニッケル含量9〜15質量%を有するオーステナイト鋼から成る装置中で、メタンスルホン酸水性溶液を取り扱う方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム含量5〜22質量%およびニッケル含量9〜15質量%を有するオーステナイト鋼から成る装置中で、メタンスルホン酸水性溶液を取り扱う方法に関する。
【0002】
メタンスルホン酸(HCSOH、MSA)は、数多くの異なるプロセス、例えば電気めっきプロセスのため、化学合成中で、洗剤中で、あるいは第3の鉱油生産のために使用される強い有機酸である。
【0003】
MSAは、種々のプロセスによって、たとえばメタンチオールのClによる酸化およびこれに引き続いての加水分解によって、たとえばUS3626004に開示されている。代替的に、さらにジメチルジスルフィドをClにより酸化することができる。この方法は、精製にもかかわらずなおも著量の塩素化合物、たとえば塩化物を含有するMSAを導く。
【0004】
WO00/31027は、ジメチルジスルフィドを硝酸によりMSAに酸化する方法が開示されており、その際、形成された酸化窒素をOによりさらに硝酸に変換し、かつこれを、そのプロセス中に返送する。CN1810780Aは、亜硫酸アンモニウムおよび/または亜硫酸水素アンモニウムをジメチルスルフェートにより、アンモニウムメタンスルホネートおよびアンモニウムスルフェートに変換する方法を開示している。
【0005】
アンモニウムスルフェートはCa2+により、CaSOとして沈澱する。残留するCa(CHSOから硫酸を用いて、MSAを放出および後処理し、その際、再度、CaSOが沈澱する。EP906904A2は、亜硫酸ナトリウムをジメチルスルフェートにより変換する方法を開示している。得られた混合物から、MSAを濃硫酸で酸化後に放出することができる。最後に挙げられた3つの方法は、得られたMSAがほぼ塩素化合物不含であるといった利点を有する。
【0006】
酸として、MSAは当然に金属を攻撃しうる。低合金鋼は、通常、MSAに対して安定ではない。WO2006/092439A1は、70%濃度のMSA中で、加圧容器のための低合金鋼(材料番号1.0425、約0.3%Cr、約0.3%Ni、0.8〜1.4%Mn)の腐蝕挙動を試験している。鋼は、MSAにより、たしかに塩酸よりも本質的に少ない量で攻撃されるが、しかしながら、金属損失は許容可能な程度に減少させるために腐蝕防止剤の添加が要求される。
【0007】
メタンスルホン酸を取り扱うための材料として、上記文献ではポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ガラスエナメル、セラミック、タンタルまたはジルコニウムが提案されている。さらに、材料番号1.4539および1.4591の鋼の使用も提案されている(Broschuere Lutropur(R) MSA, "Die "gruene"Saeure fuer Reiniger",Ausgabe 10/2005, BASF SE, Ludwigshafen)。このような鋼は、高合金クロム−ニッケル鋼である(1.4539:Cr約20%、Ni約25%、1.4591:Cr約33%、Ni約31%)。
【0008】
MSA処理のため、たとえば貯蔵および/または運搬のための装置用の材料としては、MSAに対して十分な耐性を有する鋼をより高い程度に使用することが要求され、それというのも、腐蝕耐性材料から成る内張りを備えた容器、装置および管路を回避することができる唯一の方法であるためである。前記鋼は、極めて高価であって、かつ入手困難な特殊鋼である。したがって、これら鋼から成る加工品は相応して高価であり、かつこのような鋼の使用は、より大きい部材、たとえば槽に関して経済的ではない。
【0009】
したがって本発明の課題は、このような部材の製造のための廉価な低合金鋼を提供することであり、これは廉価な低合金鋼であるにもかかわらず、MSA水性溶液に対してさらに良好な腐蝕耐性を示すものである。
【0010】
したがって、MSA水性溶液を鋼表面と接触させる装置中で、MSA50〜99質量%濃度および50mg/kg未満の塩素含量を有する、メタンスルホン酸(MSA)水性溶液を取り扱う方法が見出され、その際、鋼は、クロム含量15〜22質量%およびニッケル含量9〜15質量%を有するオーステナイト鋼である。
【0011】
本発明は、詳細には以下のようにして実施する:
本発明による方法は、MSA水性溶液は鋼表面と接触する装置中で、メタンスルホン酸(HCSOH、MSA)水性溶液を取り扱う方法に関する。
【0012】
これに関して、MSA水性溶液は、水性溶液の全構成成分の合計に対して50〜99質量%のMSAの濃度を示す。好ましくは、55〜90質量%、特に好ましくは60〜80質量%、およびとりわけ好ましくは約70質量%の濃度を示す。
【0013】
さらにMSA水性溶液は、水およびMSAの他に、なおも通常の副次的成分および/または不純物を含有していてもよい。
【0014】
本発明によれば、MSA水性溶液中の全塩素含量は50mg/kg未満であり、好ましくは25mg/kg未満および特に好ましくは10mg/kg未満である。塩素は、たとえば塩化物イオン、あるいは有機化合物と結合した塩素の形の塩素であってもよい。
【0015】
このような低い全塩素含量を有するMSA溶液は、当業者に知られた方法、たとえばジメチルジスルフィドの硝酸による酸化によって、WO00/21027に開示された方法によってか、あるいは亜硫酸アンモニウムおよび/または亜硫酸水素アンモニウムから、ジメチルスルフェートでの変換によって製造することができる。
【0016】
さらに水性MSA溶液は、不純物として硫酸イオンを含有していてもよい。しかしながら硫酸イオンの量は一般に300mg/kg未満、好ましくは200mg/kg未満、特に好ましくは100mg/kg未満、およびとりわけ30mg/kg未満である。
【0017】
用語「取り扱い」とは、装置中でのMSA水性溶液の取り扱いに関するすべてのものを含み、特に、製造から使用までのすべてのプロダクトフローの間における取り扱いを含む。特に、MSA溶液の貯蔵、運搬または使用であってもよい。特に、MSA水性溶液の貯蔵および/または運搬である。
【0018】
装置は、MSA水性溶液の取り扱いにおいて使用されるすべて種類の装置であってよく、この装置は、鋼から成る表面を有し、その表面でMSA水性溶液と接触しうることを前提とする。これに関して装置は、全体としてこのような鋼から成るものであってもよいが、しかしながら当然に、さらに他の材料を含むものであってもよい。たとえば、これは、本発明による鋼を内張りされた、他の材料または他の鋼から成る装置であってもよい。
【0019】
装置は、閉鎖系または開放系の装置であってもよく、例えばタンク、貯蔵容器、タンク列車の釜、タンカートラックの釜、タンクコンテナ、反応釜、計量供給装置、管路、フランジ、ポンプまたは計器および調整部材、桶、樽、電気めっき装置、釜の内部部材、たとえば邪魔板、撹拌機または計量供給管であってもよい。
【0020】
本発明によれば、水性MSA溶液と接触する鋼表面は、15〜22質量%のクロム含量および9〜15質量%のニッケル含量を有するオーステナイト鋼からなる表面である。
【0021】
用語「オーステナイト鋼」とは、たとえば"Roempp Online, Version 3.5, Georg Thieme Verlag 2009"から当業者に公知である。
【0022】
好ましいクロム含量は16〜20質量%であり、好ましいニッケル含量は10〜14質量%である。
【0023】
さらに一般に鋼はマンガンを含み、特に1〜3質量%の量でマンガンを含む。
【0024】
さらに本発明によれば、鋼は1〜5質量%、好ましくは1.5〜4質量%、特に好ましくは2〜3質量%のモリブデンを含んでいてもよい。
【0025】
さらに鋼は、0.1〜2質量%のチタンを含んでいてもよく、好ましくは0.5〜1質量%のチタンを含んでいてもよい。
【0026】
特に、これは、以下に示す元素を含む鋼であってもよい(表記はそれぞれ質量%):
【表1】

【0027】
MSAの温度は、接触する鋼表面における取り扱い中で一般に40℃未満であるが、本発明をこの温度により制限すべきではない。好ましくは10〜40℃であり、特に好ましくは15〜30℃であり、かつたとえばほぼ周囲温度である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1a】鋼番号1の本発明によるオーステナイト鋼に関する腐蝕速度(CR)をmm/年で示すグラフ図
【図1b】銅番号2の本発明によるオーステナイト鋼に関する腐蝕速度(CR)をmm/年で示すグラフ図
【図1c】銅番号3の本発明によるオーステナイト鋼に関する腐蝕速度(CR)をmm/年で示すグラフ図
【図2】鋼番号V4の本発明によらないマルテンサイト鋼に関する腐蝕速度(CR)をmm/年で示すグラフ図
【0029】
本発明は、以下の実施例により詳細に例証される:
使用された材料:
以下の試験のために、それぞれ水中70質量%MSAからなる溶液を使用した。それぞれ使用されたMSAのための製造方法は第1表にまとめ、第2表には分析データをまとめた。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
試験に関しては、第3表に示す鋼の種類を使用した。鋼番号1、2および3は、オーステナイト鋼であり、鋼番号4はマルテンサイト鋼である(比較試験)。
【0033】
【表4】

【0034】
試験の実施:
試験を、1Lの平底ガラスフラスコ中で攪拌しながら実施し、MSA流をシミュレートした。固定のために上記鋼の種類の試験片(20mm×50mm×1mm)を使用し、この片は5mmの細孔を備えているものであって、超音波浴中で洗浄し、窒素ガス流で乾燥させ、かつ計量した。この片を、テフロンからなるホルダーにより、フラスコ中につり下げ、かつこのフラスコを密閉した。このフラスコ中のMSAを、マグネットステーラーを用いて750Upmで攪拌した。試験終了後に、この片を試験容器から取り出し、その際、完全脱塩水で洗浄し、吸収紙で注意深く拭き取り(粗い腐蝕性生成物を除去するため)、再度、完全脱塩水で洗浄乾燥し、かつ計量した。試験期間は、それぞれ7日間であり、温度は23℃であった。鋼番号4の場合には、試験期間は1日であった。
【0035】
質量差から、それぞれ腐蝕速度を、mm(除去)/年で、以下の式により算定した:
【数1】

【0036】
[式中、Δは片の質量変化[g]であり、Aは片の面積[cm]であり、ρは鋼の密度[g/cm]であり、かつ、tは試験期間[h]を示す。係数87600は、cm/hからmm/aに換算するのに役立つ。]
【0037】
結果は、図1および2にまとめる。
【0038】
図1は、鋼番号1(図1a)、銅番号2(図1b)、銅番号3(図1c)に関する腐蝕速度(CR)をmm/年で示す。この試験は、少ない全塩素含量を示すメタンスルホン酸を使用した場合にのみ、すべての試験において低い腐蝕速度を達成することを示す。
【0039】
MSA3は、さらに鋼番号1および鋼番号3を用いた場合にまずまずの結果を示すが、しかしながら試験番号2ではよい結果が得られないことを示す。MSA1および鋼番号1に関しては、腐蝕割合は約0.01mm/aであり、鋼番号2および3を使用した場合にはほぼ0.01mm/aを下回る。
【0040】
図2は、鋼番号V4の本発明によらないマルテンサイト鋼に関する腐蝕速度(CR)をmm/年で示す。比較試験は、腐蝕速度が、すべてのメタンスルホン酸の場合に0.1mm/aを上回り、その際、興味深いことに、鋼番号4の場合には、より高い塩素含量を有するMSA3、MSA4およびMSA5が、塩素の少ないMSA1およびMSA2と比較して多少除去が改善されている。腐蝕速度は、0.1を上回る。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
MSA濃度50〜99質量%および全塩素含量50mg/kg未満を有するメタンスルホン酸(MSA)水性溶液を、MSA水性溶液と鋼表面が接触する装置中で取り扱う方法において、当該鋼が、クロム含量15〜22質量%およびニッケル含量9〜15質量%を有するオーステナイト鋼であることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
鋼がさらに1〜5質量%のモリブデンを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
鋼がさらに0.1〜2質量%のチタンを含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
取り扱いの間におけるMSAの温度が40℃未満である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
水性溶液中のMSAの濃度が60〜80質量%である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
装置が、タンク、貯蔵容器、タンク列車の釜、タンカートラックの釜、タンクコンテナ、反応釜、計量供給装置、管路、フランジ、ポンプまたは計器および調整部材である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。

【図2】
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【公表番号】特表2013−510109(P2013−510109A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537344(P2012−537344)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066181
【国際公開番号】WO2011/054703
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】