説明

メチオニンの生産方法

ファインケミカルの生合成、例えば、メチオニン生合成に関与するコリネバクテリウム・グルタミカムに由来する新規なMRタンパク質をコードするMR核酸分子と称する核酸分子を記載する。本発明はまた、アンチセンス核酸分子、MR核酸分子を含むトランスジェニック発現カセットおよびベクター、ならびに該発現カセットまたはベクターが導入された宿主細胞も提供する。本発明はさらに、メチオニンが産生されるような条件下で、少なくとも1種の本発明のMR分子を過剰発現または過少発現する組換え微生物を培養することを含む、微生物、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカムからメチオニンを生産する方法を提供する。また、ファインケミカル、例えば、メチオニンが産生されるような条件下で、選択されたMR遺伝子が欠失または突然変異された組換え微生物を培養することを含む、ファインケミカル、例えば、メチオニンを生産する方法を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチオニンの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチオニンは、よく確立された化学的プロセスによりDL-メチオニンのラセミ混合物として現在製造されている。多くのDL-メチオニンは、毒性の、危険な、可燃性の、不安定な、および高度に芳香性の出発物質または中間体を含む同じ化学的製造方法の変法により製造される。化学合成のための出発物質は、アクロレイン、メチルメルカプタンおよびシアン化水素である。この化学合成は、中間体3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒド(MMP)を産生するメチルメルカプタンとアクロレインとの反応を含む。さらなるプロセスにおいて、MMPはシアン化水素と反応して、5-(2-メチルチオエチル)ヒダントインを形成し、次いで、これを、2当量のNaOHなどの腐食剤と、1/2当量のNa2CO3とを用いて加水分解して、DL-メチオニン酸ナトリウムおよび1当量のNa2CO3、1当量のNH3および1/2当量のCO2を得ることができる。その後の工程では、DL-メチオニン酸ナトリウムを1.5当量の硫酸および1当量のNa2CO3で中和して、DL-メチオニンNa2SO4およびCO2を得る。そのような化学的プロセスにより、製造されるメチオニンの量と比較してモル大過剰量の未使用の塩が得られることが明らかである。この事実は、経済的かつ環境に優しい挑戦を主張する。
【0003】
発酵プロセスは、通常、炭水化物源(例えば、グルコース、フルクトースもしくはサッカロースなどの糖)、窒素源(例えば、アンモニア)および硫黄源(例えば、スルフェートもしくはチオスルフェート)などの栄養素と共に、他の必要な培地成分上で微生物を培養することに基づくものである。このプロセスにより、天然の生成物L-メチオニンのみ、および副生成物としてのバイオマスのみが得られる。発酵プロセスにより、毒性の、危険な、可燃性の、不安定な、および高度に芳香性の出発物質を使用せず、塩も産生されないため、このプロセスは化学的メチオニン合成よりも利点がある。メチオニンを、大腸菌またはコリネバクテリア(Corynebacter)などの生物中で製造することができる(Kase H., Nakayama K. (1975) Agric. Biol. Chem. 39 pp 153-160; Chatterjeeら(1999)、Acta Biotechnol. 14, pp199-204; Harma S. Gomes, (2001) J. Eng. Life Sci. 1 pp. 69-73, JP 50031092, DE 2105189)。
【0004】
全ての生細胞は、多くの相互連絡された経路と共に、複雑な異化的および同化的代謝能力を有する。この極端に複雑な代謝ネットワークの様々な部分間の平衡を維持するために、細胞はよく調律された調節ネットワークを用いている。独立的または同時的に、酵素合成および酵素活性を調節することにより、細胞は、細胞の要求の変化を反映する別々の代謝経路の活性を制御することができる。酵素合成の誘導または抑制は、転写もしくは翻訳のレベル、またはその両方で起こり得る。原核生物における遺伝子発現は、転写のレベルでいくつかの機構により調節される(総論については、例えば、Lewin, B (1990) Genes IV, Part 3: “Controlling prokaryotic genes by transcription”, Oxford University Press: Oxford, p. 213-301,およびそこに記載の参考文献ならびにMichal, G. (1999) Biochemical Pathways: An Atlas of Biochemistry and Molecular Biology, John Wiley & Sonsを参照されたい)。そのような公知の調節プロセスの全ては、それ自身、種々の外部的影響(例えば、温度、栄養素の利用率、または光)に応答する、さらなる遺伝子により媒介される。この型の調節に関与するタンパク質因子の例としては、転写因子が挙げられる。これらは、DNA結合し、それによって遺伝子の発現を増加させる(正の調節)か、または遺伝子発現を低下させる(負の調節)タンパク質である。これらの発現をモジュレートする転写因子は、それ自身、調節の対象であってもよい。その活性を、例えば、DNA結合タンパク質への低分子量化合物の結合により調節することによって、該DNA上の好適な結合部位へのこれらのタンパク質の結合を刺激するか、または阻害することができる(例えば、Helmann, J.D.およびChamberlin, M.J. (1988) “Structure and function of bacterial sigma factors.” Ann. Rev. Biochem. 57: 839-872; Adhya, S. (1995) “The lac and gal operons today”ならびにBoos, W.ら、”The maltose system.” 共にRegulation of Gene Expression in Escherichia coli (Lin, E.C.C.およびLynch, A.S.,(編) Chapman & Hall: New York, p. 181-200および201-229; ならびにMoran, C.P. (1993) “RNA polymerase and transcription factors.” Bacillus subtilis and other gram-positive bacteria, Sonenshein, A.L.ら(編), ASM: Washington, D.C., p. 653-667を参照されたい)。
【0005】
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC 13032の全ゲノムが、GeneBank受託番号AP005283の下で公開されている。しかしながら、メチオニン生合成の特異的調節因子についてはヒントが与えられていない。
【0006】
遺伝子の転写および翻訳のアップまたはダウンレギュレーションを、基質、異化産物、および最終生成物などの、種々の因子の細胞および細胞外レベルにより支配することができる。典型的には、特定の経路の活性にとって必要な酵素をコードする遺伝子の発現は、その経路のための高レベルの基質分子により誘導される。同様に、そのような遺伝子発現は、高い細胞内レベルの該経路の最終生成物が存在する場合には抑制される傾向がある(Snyder, L.およびChampness, W. (1997) The Molecular Biology of Bacteria ASM: Washington)。また、遺伝子発現を、環境条件などの、他の外部的および内部的因子(例えば、熱、酸化ストレス、または飢餓;例えば、Lin, E.C.C.およびLynch, A.S.(編), (1995) Regulation of Gene Expression in Escherichia coli. Chapman & Hall: New York)により調節することもできる。
【0007】
微生物における細胞代謝を支配する調節ネットワークの完全な理解は、発酵による化合物の高収率生産にとって重要である。代謝経路のダウンレギュレーションのための制御系を除去または低下させて、所望の化合物の合成を改善し、同様に、所望の生成物のための代謝経路のアップレギュレーションのための制御系を構成的に活性化するか、または活性を最適化することができる(Hirose, Y.およびOkada, H. (1979) “Microbial Production of Amino Acids”, Peppler, H.J.およびPerlman, D.(編) Microbial Technology(第2版) Vol. 1, ch. 7 Academic Press: New York.に示される)。
【0008】
しかしながら、メチオニン生合成調節系の改変に基づいてメチオニンを発酵的に生産するためのメチオニン生合成方法については、これまでのところ記載されていない。あらゆる報告された事例においては、メチオニンを発酵的に生産するための方法は、経済的な生産にとっては収率が低すぎるようである。従って、改良された方法が必要である。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本発明は、ファインケミカル、好ましくは例えばメチオニンなどの硫黄含有化合物の生合成をモジュレートするための新規方法を提供する。本発明の代謝調節(MR)分子は、ファインケミカル、好ましくは例えばメチオニンなどの硫黄含有化合物の生合成に関与することが見出されている。
【0010】
特に、MR分子RXA00655は、メチオニン生合成、システイン生合成、および/または硫黄還元経路の負の調節因子、例えば、転写調節因子であることが見出されている。また、MR分子RXN02910は、メチオニン生合成の正の調節因子、例えば、転写調節因子であることも見出されている。RXA00655のヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号1として記載されており、RXA00655のポリペプチド配列は本明細書に配列番号2として記載されている。RXN02910のヌクレオチド配列は本明細書に配列番号5として記載されており、RXA00655のポリペプチド配列は本明細書に配列番号6として記載されている。RXA00655の相同タンパク質は、本明細書に配列番号19、21および23として記載されている。前記RXN02910相同タンパク質のヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号18、20および22として記載されている。
【0011】
本発明のMR核酸の発現のモジュレーション、例えば、RXN02910核酸分子の発現の増加またはRXN02910タンパク質の活性の増加、RXA00655核酸分子の発現の抑制もしくはRXA00655タンパク質の活性の抑制、またはMR核酸分子の活性を変化させるための本発明のMR核酸分子の配列の改変を用いて、ファインケミカル、例えば、微生物(例えば、コリネバクテリウムまたはブレビバクテリウム種由来の、ファインケミカル、例えば、メチオニンもしくはメチオニン生合成経路の他の化合物の収率または産生を改良するため)からのメチオニン、システイン、ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物の産生をモジュレート、例えば、増加させることができる。別の実施形態においては、RXN02910核酸またはタンパク質の発現または活性の増加およびRXA00655核酸またはタンパク質の発現または活性の抑制を組み合わせて用いて、ファインケミカル、例えば、微生物(例えば、コリネバクテリウムまたはブレビバクテリウム種)からの、メチオニン、システイン、ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物の産生をモジュレート、例えば、増加させることができる。
【0012】
本発明は、硫黄含有化合物の産生がモジュレートされるような条件下で、メチオニン生合成の少なくとも1種の調節因子の発現または活性がモジュレートされた微生物を培養することを含む、微生物による硫黄含有化合物の産生をモジュレートする方法を特徴とする。好ましくは、前記硫黄含有化合物を、メチオニン、システイン、S-アデノシルメチオニンおよびホモシステインからなる群より選択する。さらに好ましくは、前記硫黄含有化合物(例えば、メチオニン)の産生を増加させる。
【0013】
本発明は、硫黄含有化合物の産生が増加するような条件下で、メチオニン生合成の正の調節因子、例えば、RXN02910を過剰発現する微生物を培養することを含む、微生物による硫黄含有化合物の産生を増加させる方法を特徴とする。さらに、本発明は、硫黄含有化合物の産生が増加するような条件下で、メチオニン生合成の負の調節因子、例えば、RXA00655を過少発現する微生物を培養することを含む、微生物による硫黄含有化合物の産生を増加させる方法を特徴とする。
【0014】
従って、本発明は、メチオニンならびにメチオニン生合成経路の他の化合物を産生させる方法を特徴とする。そのような方法は、メチオニン、またはメチオニン生合成経路の他の化合物が産生されるような条件下で、RXN02910遺伝子産物を過剰発現する微生物を培養することを含む。そのような方法はまた、メチオニン、またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物が産生されるように、RXA00655遺伝子産物の発現が阻害された微生物を培養することを含む。本発明はまた、RXN02910遺伝子産物を過剰発現する微生物と共に、RXA00655遺伝子産物の発現が阻害された微生物を培養することを含む、ファインケミカルを生産する方法も提供する。
【0015】
MRタンパク質は、例えば、細胞の正常な代謝機能にとって重要なタンパク質の転写、翻訳、または翻訳後調節に関与する機能を実行することができる。コリネバクテリウム・グルタミカムにおける使用のためのクローニングベクター(以下に例示するものなど)の利用率が与えられれば、本発明の核酸分子をこの生物の遺伝子操作に用いて、それをファインケミカル、例えば、メチオニンのより良好な、またはより効率的な生産因子にすることができる。
【0016】
ファインケミカル、例えば、メチオニンのこの改良された収率、生産および/または生産効率は、本発明の遺伝子、例えば、RXA00655もしくはRXN02910の遺伝子操作の直接的な影響に起因するものであってもよいし、またはそのような遺伝子操作の間接的な影響に起因するものであってもよい。具体的には、通常、メチオニン代謝経路の収率、生産、および/または生産効率を調節するコリネバクテリウム・グルタミカム(C. glutamicum) MRタンパク質における変化は、ファインケミカル、例えば、メチオニン、システイン、ならびに/またはこの生物に由来するメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物の産生全体または産生速度に直接的な影響を有してもよい。また、メチオニン代謝経路に関与するタンパク質の変化は、所望のファインケミカル、例えば、メチオニンの収率、生産および/または生産効率に間接的な影響を有してもよい。代謝の調節は必然的に複雑であり、異なる経路を支配する調節機構は、2つ以上の経路を特定の細胞事象に従って迅速に調整することができるような複数の点で交わってもよい。これにより、多くの他の経路の調節に影響する1つの経路について調節タンパク質の改変が可能となり、そのうちのいくつかは所望のファインケミカル、例えば、メチオニンの生合成または分解に関与してもよい。この間接的な様式では、MRタンパク質の作用のモジュレーションは、そのMRタンパク質が直接的に調節する経路とは異なる経路により産生されるファインケミカルの産生に影響する。
【0017】
本発明の核酸およびタンパク質分子を用いて、コリネバクテリウム・グルタミカムからのメチオニンの収率、生産、および/または生産効率を直接改良することができる。当業界で周知の組換え遺伝子技術を用いて、本発明の1種以上の調節タンパク質を、その機能または発現がモジュレートされるように遺伝子操作することができる。例えば、もはや転写を抑制することができないような、アミノ酸、例えば、メチオニンの生合成にとって必要なポリペプチドをコードする遺伝子、例えば、metY遺伝子の転写の抑制に関与するMRタンパク質、例えば、RXA00655の突然変異は、そのアミノ酸の産生の増加をもたらし得る。同様に、所望のファインケミカル、例えば、メチオニンの生合成に関与するコリネバクテリウム・グルタミカムタンパク質の翻訳の増加または翻訳後修飾の活性化をもたらすMRタンパク質の活性の変化は、その化合物の産生を増加させ得る。転写もしくは翻訳の抑制の増加、または化合物の分解経路の調節に関与するコリネバクテリウム・グルタミカムタンパク質の翻訳後の負の改変による、反対の状況もまた有益であり、この化合物の産生を増加させることができる。それぞれの場合において、所望のファインケミカルの全体の収率または産生速度を増加させることができる。
【0018】
また、本発明のタンパク質およびヌクレオチド分子におけるそのような変更は、間接的な機構を介して、ファインケミカル、例えば、メチオニンの収率、生産、および/または生産効率を改良することができることも可能である。任意の1つの化合物の代謝は必然的に細胞内の他の生合成および分解経路と絡み合い、1つの経路における必要なコファクター、中間体、または基質は別のそのような経路により供給されるか、または制限されるようである。従って、本発明の1種以上の調節タンパク質の活性をモジュレートすることにより、別のファインケミカルの生合成もしくは分解経路の産生または活性の効率を影響させることができる。さらに、1種以上の調節タンパク質の操作は、増殖条件がほぼ最適である場合、培養、特に大規模発酵培養において細胞が増殖し、分裂する能力全体を増加させることができる。例えば、抑制因子の能力を低下させるような、通常、栄養素のほぼ最適な細胞外供給に応答するヌクレオチドの生合成における抑制(従って、細胞分裂を防止する)を引き起こす本発明のMRタンパク質を突然変異させることにより、ヌクレオチドの生合成を増加させ、そしておそらく細胞分裂を増加させることができる。培養物中の細胞の増殖および分裂の増加をもたらすMRタンパク質の変化は、少なくとも培養物中で化合物を産生する細胞数の増加に起因して、培養物からの1種以上の所望のファインケミカルの収率、生産、および/または生産効率の増加をもたらし得る。
【0019】
本発明は、代謝経路のタンパク質(MRタンパク質)またはその断片をコードする核酸分子と、好ましくは微生物において、該核酸分子の発現をモジュレートすることができる調節配列とを含む新規なトランスジェニック発現カセットを提供する。好ましくは、前記調節配列は、前記核酸分子に関して異種的なプロモーターである。好ましくは、この調節配列は、コリネバクテリウム・グルタミカム中で機能的なプロモーター配列である。
【0020】
MRタンパク質は、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカムにおける代謝経路の転写、翻訳、または翻訳後調節に関与する酵素工程を実行することができる。MRタンパク質をコードする核酸分子を、本明細書においてはMR核酸分子と呼ぶ。好ましい実施形態においては、MRタンパク質は、1種以上の代謝経路の転写、翻訳、または翻訳後調節に関与する。
【0021】
特に好ましい実施形態においては、MR核酸分子は、
a)配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22のヌクレオチド配列、またはその相補体と少なくとも60%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸分子、
b)配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22のヌクレオチド配列、またはその相補体を含む核酸の少なくとも30ヌクレオチドの断片を含む核酸分子、
c)配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子、および
d) 配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23のアミノ酸配列を含むポリペプチドの断片をコードし、該断片が配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23のアミノ酸配列の少なくとも10個の連続したアミノ酸残基を含む、核酸分子、
からなる群より選択される。
【0022】
前記トランスジェニック発現カセットは、前記プロモーター配列に関してアンチセンスまたはセンスの方向でMRタンパク質(例えば、RXA00655またはRXA02910)をコードする核酸分子を含んでよい。
【0023】
本発明の好ましい実施形態においては、MRタンパク質(例えば、RXA00655またはRXA02910)をコードする核酸分子は、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする。前記核酸分子は、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22に記載のヌクレオチド配列を含むのが特に好ましい。前記核酸分子はまた、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドの天然の対立遺伝子変異体をコードしてもよい。
【0024】
本発明の別の態様は、少なくとも1種の本発明のトランスジェニック発現カセットを含むベクターに関する。好ましくは、このベクターは発現ベクターである。
【0025】
本発明のさらに別の態様は、少なくとも1種の本発明のトランスジェニック発現カセットまたは少なくとも1種の本発明のベクターもしくは発現ベクターでトランスフェクトまたは形質転換された宿主細胞に関する。好ましくは、この宿主細胞は、コリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属に属する。一実施形態においては、そのような宿主細胞を用いて、好適な培地中で該宿主細胞を培養することにより、MRタンパク質を生産する。次いで、このMRタンパク質を培地または宿主細胞から単離することができる。
【0026】
本発明のさらに別の態様は、MR遺伝子が導入または変更された遺伝子的に変更された微生物に関する。一実施形態においては、前記微生物のゲノムを、トランスジーンとして野生型または突然変異されたMR配列をコードする本発明の核酸分子の導入により変更する。別の実施形態においては、前記微生物のゲノム内の内因性MR遺伝子を、変更されたMR遺伝子との相同組換えにより、変更、例えば、機能的に破壊する。別の実施形態においては、微生物中の内因性または導入されたMR遺伝子は、1つ以上の点突然変異、欠失、または逆転により変更するが、依然として機能的なMRタンパク質をコードする。さらに別の実施形態においては、微生物中のMR遺伝子の1つ以上の調節領域(例えば、プロモーター、抑制因子、または誘導因子)を、MR遺伝子の発現がモジュレートされるように(例えば、欠失、トランケーション、逆転、または点突然変異により)変更する。好ましい実施形態においては、前記微生物は、コリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属に属するが、コリネバクテリウム・グルタミカムが特に好ましい。好ましい実施形態においては、また前記微生物を、アミノ酸などの所望の化合物の生産に用いるが、メチオニンが特に好ましい。
【0027】
本発明の別の態様は、ファインケミカルを生産する方法に関する。この方法は、ファインケミカルが生産されるような、本発明のMR核酸分子の発現を指令するベクターを含む細胞の培養を含む。好ましい実施形態においては、この方法はさらに、そのようなベクターを含む細胞を取得する工程を含み、細胞をMR核酸の発現を指令するベクターでトランスフェクトする。別の好ましい実施形態においては、この方法はさらに、培養物から、ファインケミカル、例えば、メチオニンを回収する工程を含む。特に好ましい実施形態においては、この細胞はコリネバクテリウム属もしくはブレビバクテリウム属に由来するものであるか、または表1に記載のこれらの株から選択される。
【0028】
本発明の別の態様は、微生物からの分子の生産をモジュレートするための方法に関する。そのような方法は、前記細胞と、細胞に関連する活性が薬剤の非存在下でこの同じ活性と比較して変化するような、MRタンパク質活性またはMR核酸発現をモジュレートする薬剤とを接触させることを含む。好ましい実施形態においては、前記細胞を、この微生物による、所望のファインケミカル、例えば、メチオニンの収率または生産速度が改良されるように、1種以上のコリネバクテリウム・グルタミカム代謝経路の調節系についてモジュレートする。MRタンパク質活性をモジュレートする薬剤は、MRタンパク質活性またはMR核酸発現を刺激する薬剤であってもよい。MRタンパク質活性またはMR核酸発現を刺激する薬剤の例としては、小分子、活性MRタンパク質、および細胞に導入されるMRタンパク質をコードする核酸が挙げられる。MRの活性または発現を阻害する薬剤の例としては、小分子およびアンチセンスMR核酸分子が挙げられる。
【0029】
本発明の別の態様は、細胞に野生型もしくは突然変異MR遺伝子を導入し、別々のプラスミド上で維持するか、または宿主細胞のゲノム中に組み込むことを含む、細胞からの所望の化合物の収率をモジュレートする方法に関する。ゲノム中に組み込む場合、そのような組込みは無作為であってもよく、または天然の遺伝子が導入されたコピーにより置換され、モジュレートしようとする細胞からの所望の化合物の産生を引き起こすように、相同組換えにより起こるものであってもよい。好ましい実施形態においては、前記収率は増加する。別の好ましい実施形態においては、前記化合物はファインケミカルである。特に好ましい実施形態においては、前記ファインケミカルはアミノ酸である。特に好ましい実施形態においては、前記アミノ酸はメチオニンである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
発明の詳細な説明
本発明は、メチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/またはシステイン生合成経路に関与する、ファインケミカルの代謝、例えば、遺伝子(例えば、metY遺伝子)の転写調節によるメチオニン生合成の調節を含む、微生物(例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム)中の代謝の調節に関与する、代謝調節(MR)核酸およびタンパク質分子(例えば、RXA00655およびRXN02910核酸およびタンパク質分子)を提供する。
【0031】
従って、本発明は、ファインケミカル、例えば、硫黄含有化合物(例えば、メチオニン、システイン)ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物を産生するような、微生物におけるメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/またはシステイン生合成経路の操作に基づく方法を特徴とする。
【0032】
用語「メチオニン生合成経路」は、メチオニンの形成または合成において用いられる、メチオニン生合成酵素(例えば、生合成酵素をコードする遺伝子によりコードされるポリペプチド)、化合物(例えば、前駆体、基質、中間体または生成物)、コファクターなどを含む経路を含む。メチオニンは、哺乳動物により栄養学的に要求されるアミノ酸である。細菌は、アミノ酸およびその生合成中間体から自身のメチオニンを合成する(大腸菌およびサルモネラ菌:Cellular and Molecular Biology, Neidhardt, Frederick C. Curtiss, Roy III Ingraham, John L.(編)、(第2版) 1996, ASM Press and Hwang BJ. Yeom HJ. Kim Y. Lee HS. Journal of Bacteriology. 184(5):1277-86, 2002)。用語「システイン生合成経路」は、システインの形成または合成に用いられる、システイン生合成酵素(例えば、生合成酵素をコードする遺伝子によりコードされるポリペプチド)、化合物(例えば、前駆体、基質、中間体または生成物)、コファクターなどを含む経路を含む。用語「硫黄還元経路」は、硫黄およびその誘導体などの無機化合物を代謝するように機能する酵素を含む経路を含む。RXA00655は、ファインケミカル生合成、例えば、メチオニン生合成の負の調節因子、例えば、転写調節因子であることが見出されている。従って、RXA00655遺伝子の発現の抑制もしくは阻害またはRXA00655遺伝子のノックアウトは、微生物(例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム)におけるファインケミカル、例えば、メチオニン、システイン、ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物の産生の増加をもたらす。RXA00655遺伝子の発現もしくはRXA00655ポリペプチドの活性を低下させるか、または阻害する突然変異の導入も、微生物(例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム)におけるファインケミカル、例えば、メチオニン、システイン、ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物の産生の増加をもたらす。
【0033】
また、RXN02910は、ファインケミカル生合成、例えば、メチオニン生合成の正の調節因子、例えば、転写調節因子であることも見出されている。従って、RXN02910遺伝子の過剰発現は、微生物(例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム)における、メチオニンおよびメチオニン生合成経路の他の化合物の産生の増加をもたらす。RXN02910遺伝子の発現もしくはRXN02910ポリペプチドの活性を増加させる突然変異の導入も、微生物(例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム)における、メチオニンおよびメチオニン生合成経路の他の化合物の産生の増加をもたらす。
【0034】
さらに、微生物におけるRXN02910遺伝子の過剰発現と組み合わせたRXA00655の発現の抑制もしくは阻害またはRXA00655遺伝子のノックアウトも、微生物による、ファインケミカル、例えば、メチオニン、システイン、ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物の産生の増加をもたらす。さらに、RXN02910遺伝子を過剰発現する微生物と共に、RXA00655の発現が抑制もしくは阻害された微生物またはRXA00655遺伝子がノックアウトされた微生物を培養することも、微生物による、ファインケミカル、例えば、メチオニン、システイン、ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物の産生の増加をもたらす。
【0035】
従って、本発明の一態様は、ファインケミカル、例えば、メチオニンまたはメチオニン生合成経路の他の化合物が産生されるような条件下で、RXN02910を過剰発現する微生物を培養することを含む、ファインケミカル、例えば、メチオニンまたはメチオニン生合成経路の他の化合物を生産する方法を特徴とする。RXN02910を過剰発現する微生物は、RXN02910が過剰発現されるように遺伝子操作された微生物を含む。
【0036】
用語「過剰発現された」または「過剰発現」は、微生物の遺伝子操作の前に、または遺伝子操作されていない比較可能な微生物中で発現されるものよりも高いレベルでの遺伝子産物(例えば、RXN02910遺伝子産物)の発現を含む。例えば、特定の遺伝子、例えば、RXN02910の過剰発現は、該特定の遺伝子を過剰発現するように遺伝子操作されていない生物による該遺伝子の発現より10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%以上高い発現を含む。上記%に対する範囲および同一性の中間値は本発明により包含される。一実施形態においては、前記微生物を、微生物の遺伝子操作の前に、または遺伝子操作されていない比較可能な微生物において発現されるものよりも高いレベルの遺伝子産物を過剰発現するように遺伝子操作(例えば、遺伝子工学的に操作)することができる。遺伝子操作としては、限定されるものではないが、調節配列もしくは特定の遺伝子の発現と関連する部位を変更または改変すること(例えば、強力なプロモーター、誘導性プロモーターもしくは複数のプロモーターを付加すること、または発現が構成的であるような調節配列を除去することによる)、特定の遺伝子の染色体位置を改変すること、リボソーム結合部位などの特定の遺伝子に近接する核酸配列を変更すること、特定の遺伝子のコピー数を増加させること、特定の遺伝子の転写および/もしくは特定の遺伝子産物の翻訳に関与するタンパク質(例えば、調節タンパク質、抑制因子、エンハンサー、転写活性化因子など)を改変すること、または当業界で日常的な特定の遺伝子の発現を脱調節する任意の他の従来手段(限定されるものではないが、例えば、リプレッサータンパク質の発現を阻害するための、アンチセンス核酸分子の使用など)が挙げられる。
【0037】
別の態様において、本発明は、ファインケミカル、例えば、メチオニン、システイン、ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物が産生されるような条件下で、RXA00655の発現が抑制または阻害された微生物を培養することを含む、ファインケミカル、例えば、メチオニン、システイン、ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物を生産する方法を特徴とする。RXA00655の発現が抑制された微生物は、RXA00655の発現が抑制または阻害されるように遺伝子操作された微生物を含む。
【0038】
用語「発現の抑制」、「発現の阻害」または「過少発現」は、微生物の遺伝子操作の前に、または遺伝子操作されていない比較可能な微生物中で発現されるものよりも低いレベルでの遺伝子産物(例えば、RXA00655遺伝子産物またはRXN02910遺伝子産物)の発現を含む。一実施形態においては、遺伝子発現の抑制または阻害は、遺伝子がもはや発現されないような微生物の遺伝子操作を含む。例えば、特定の遺伝子、例えば、RXA00655の過少発現は、特定の遺伝子を過少発現するように遺伝子操作されていない生物による遺伝子の発現より10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%低い発現を含む。上記%に対する範囲および同一性の中間値は本発明により包含される。一実施形態においては、前記微生物を、微生物の遺伝子操作の前に、または遺伝子操作されていない比較可能な微生物において発現されるものよりも低いレベルの遺伝子産物を発現するように遺伝子操作(例えば、遺伝子工学的に操作)することができる。遺伝子操作としては、限定されるものではないが、調節配列もしくは特定の遺伝子の発現と関連する部位を変更または改変すること、特定の遺伝子の染色体位置を改変すること、リボソーム結合部位などの特定の遺伝子に近接する核酸配列を変更すること、特定の遺伝子のコピー数を減少させること、特定の遺伝子の転写および/もしくは特定の遺伝子産物の翻訳に関与するタンパク質(例えば、調節タンパク質、抑制因子、エンハンサー、転写活性化因子など)を改変すること、アンチセンス核酸分子の使用、標的遺伝子のノックアウト、または当業界で日常的な特定の遺伝子の発現を脱調節する任意の他の従来手段が挙げられる。RXA00655遺伝子発現またはRXN02910発現を欠損する微生物は、RXA00655もしくはRXN02910発現が抑制または阻害された微生物を含む。
【0039】
別の態様において、本発明は、ファインケミカル、例えば、メチオニンが産生されるような条件下で、RXN02910活性が増加した微生物を培養することを含む、ファインケミカル、例えば、メチオニンを生産する方法を特徴とする。「RXN02910活性が増加した微生物」は、RXN02910活性が増加するように遺伝子操作された微生物を含む。
【0040】
さらに別の態様において、本発明は、ファインケミカル、例えば、メチオニン、システイン、ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物が産生されるような条件下で、RXA00655活性が低下した微生物を培養することを含む、ファインケミカル、例えば、メチオニン、システイン、ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物を生産する方法を特徴とする。「RXA00655活性が低下した微生物」は、RXA00655活性が阻害または抑制されるように遺伝子操作された微生物を含む。
【0041】
用語「RXN02910活性」は、ファインケミカルの生合成、例えば、メチオニン生合成をもたらす任意の活性を含む。RXN02910活性としては、限定されるものではないが、メチオニン生合成またはメチオニン生合成経路の他の化合物の生合成をもたらすメチオニン生合成経路の正の調節が挙げられる。メチオニン生合成経路の正の調節は、限定されるものではないが、転写および翻訳の調節ならびに、例えば、タンパク質結合を介するタンパク質調節などの任意の手段によるものであってよい。増加した活性は、微生物の遺伝子操作の前に、または遺伝子操作されていない比較可能な微生物において示されるものよりも高いレベルでの活性を含む。
【0042】
用語「RXA00655活性」は、ファインケミカルの生合成、例えば、メチオニン生合成をもたらす任意の活性を含む。RXA00655活性の例としては、限定されるものではないが、メチオニン生合成の低下、メチオニン生合成経路、硫黄還元経路、もしくはシステイン生合成経路の他の化合物の生合成の低下をもたらす、Escherichia coli and Salmonella: Cellular and Molecular Biology, Neidhardt, Frederick C. Curtiss, Roy III Ingraham, John L.(編)、(第2版)、1996, ASM Press.に記載されたような、メチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/またはシステイン生合成経路の負の調節が挙げられる。メチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/またはシステイン生合成経路の負の調節は、限定されるものではないが、転写および翻訳の調節ならびに、例えば、タンパク質結合を介するタンパク質調節などの任意の手段によるものであってよい。低下した、または抑制された活性は、微生物の遺伝子操作の前に、または遺伝子操作されていない比較可能な微生物において示されるものよりも低い活性を含む。
【0043】
本発明は、硫黄含有化合物の産生が増加するような条件下で、メチオニン生合成の正の調節因子、例えば、RXN02910を過剰発現する微生物を培養することを含む、微生物による硫黄含有化合物の産生を増加させる方法を特徴とする。本発明はまた、硫黄含有化合物の産生が増加するような条件下で、メチオニン生合成の負の調節因子、例えば、RXA00655を過少発現する微生物を培養することを含む、微生物による硫黄含有化合物の産生を増加させる方法を特徴とする。
【0044】
用語「硫黄含有化合物」は、硫黄を含む任意の化合物またはその誘導体を含む。硫黄含有化合物としては、限定されるものではないが、メチオニン、システイン、S-アデノシルメチオニン、およびホモシステインなどのアミノ酸が挙げられる。RXA00655のヌクレオチド配列を本明細書に配列番号1として記載し、RXA00655のポリペプチド配列を本明細書に配列番号2として記載する。RXN02910のヌクレオチド配列を本明細書に配列番号5として記載し、RXA00655のポリペプチド配列を本明細書に配列番号6として記載する。RXA00655の相同タンパク質を本明細書に配列番号19、21および23として記載する。前記RXN02910の相同タンパク質のヌクレオチド配列を本明細書に配列番号18、20および22として記載する。
【0045】
配列番号16および17は、それぞれ突然変異されたRXN02910の核酸およびアミノ酸配列を示す。配列番号16に示されたRXN02910分子は、コード領域のヌクレオチド残基556においてグアニン(G)からアデニン(A)への単一のヌクレオチド変化を含み、これは配列番号17に示される、コードされたタンパク質のアミノ酸残基186においてアスパラギン酸(D)からアスパラギン(N)への変化をもたらす。この多型性は、ファインケミカルの生合成、例えば、RXN02910によるメチオニン生合成の調節のモジュレーション、例えば、メチオニン生合成の低下を引き起こし得る。
【0046】
本発明の分子を、直接的(例えば、メチオニン生合成の調節タンパク質の活性のモジュレーションが、その生物からのメチオニンの収率、生産、および/もしくは生産効率に直接影響する場合)にも、なお所望の化合物の産生の収率、生産、および/もしくは生産効率の増加をもたらす間接的な影響を有する場合(例えば、おそらくヌクレオチド生合成の調節の変化に応答する、これらの化合物に関する生合成もしくは分解経路における付随する調節的変化に起因して、ヌクレオチド生合成タンパク質の調節のモジュレーションが、細菌からの有機酸もしくは脂肪酸の産生に影響する場合)にも、コリネバクテリウム・グルタミカムなどの微生物からの、ファインケミカル、例えば、メチオニンの産生のモジュレーションに用いることができる。本発明の態様を以下にさらに詳しく説明する。
【0047】
用語「ファインケミカル」は、当業界で認識されており、限定されるものではないが、医薬、農薬、および化粧品産業などの種々の産業において用途を有する、生物により産生される分子を含む。そのような化合物としては、酒石酸、イタコン酸、およびジアミノピメリン酸、タンパク質生成性(proteinogenic)および非タンパク質生成性(non-proteinogenic)アミノ酸などの有機酸、プリンおよびピリミジン塩基、ヌクレオシド、ならびにヌクレオチド(例えば、Kuninaka, A. (1996) Nucleotides and related compounds, p. 561-612, Biotechnology vol. 6; Rehmら(編)、VCH: Weinheimおよびそこに含まれる参考文献に記載されたものなど)、脂質、飽和および不飽和脂肪酸(例えば、アラキドン酸)、ジオール(例えば、プロパンジオール、およびブタンジオール)、炭水化物(例えば、ヒアルロン酸およびトレハロース)、芳香族化合物(例えば、芳香族アミン、バニリン、およびインディゴ)、ビタミンおよびコファクター(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, vol. A27, “Vitamins”, p. 443-613 (1996) VCH: Weinheimおよびその参考文献;およびOng, A.S., Niki, E. & Packer, L. (1995) “Nutrition, Lipids, Health, and Disease” Proceedings of the UNESCO/Confederation of Scientific and Technological Associations in Malaysiaおよびthe Society for Free Radical Research - Asia, Sept, 1-3, 1994, Penang, Malaysia, AOCS Press, (1995)に記載されたもの)、酵素、ポリケチド(Caneら(1998) Science 282: 63-68)、ならびにGutcho(1983) Chemicals by Fermentation, Noyes Data Corporation, ISBN: 0818805086およびその参考文献に記載された全ての他の化合物が挙げられる。代謝および特定のこれらのファインケミカルの使用を以下にさらに詳しく説明する。
【0048】
本発明の構成要素および方法
本発明は、少なくとも部分的には、コリネバクテリウム・グルタミカムにおける1種以上の代謝経路、例えば、メチオニン生合成経路を調節またはモジュレートする、本明細書においてはMR核酸およびタンパク質分子、例えば、RXA00655核酸およびタンパク質分子ならびにRXN02910核酸およびタンパク質分子と呼ぶ、以前には未知であった機能の分子の機能的特性評価に基づくものである。RXA00655は、メチオニン生合成経路、硫黄還元経路、およびシステイン生合成経路の負の調節因子であるが、RXN02910はメチオニン生合成の正の調節因子である。従って、本発明は、ファインケミカル、例えば、メチオニン、システイン、ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物を生産し、ファインケミカル、例えば、メチオニン、システイン、ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物の生産をモジュレートする方法を特徴とする。そのような方法は、ファインケミカル、例えば、メチオニン、システイン、ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物が産生されるような条件下で、RXN02910遺伝子産物を過剰発現するか、またはRXN02910活性が増加した微生物を培養することを含む。そのような方法はまた、ファインケミカル、例えば、メチオニン、システイン、ならびに/またはメチオニン生合成経路、硫黄還元経路、および/もしくはシステイン生合成経路の他の化合物が産生されるように、RXA00655遺伝子産物の発現が阻害されるか、またはRXA00655活性が阻害された微生物を培養することを含む。本発明はまた、RXN02910遺伝子産物を過剰発現し、同時にRXA00655遺伝子産物の発現の阻害またはRXA00655活性の阻害を示す微生物を培養することを含む、ファインケミカル、例えば、メチオニンの生産方法も提供する。さらに、本発明はまた、RXN02910遺伝子産物を過剰発現する微生物と共に、RXA00655遺伝子産物の発現が阻害されるか、またはRXA00655活性が阻害された微生物を培養することを含む、ファインケミカル、例えば、メチオニンを生産する方法を提供する。
【0049】
一実施形態においては、本発明のMR分子は、転写で、翻訳で、または翻訳後にコリネバクテリウム・グルタミカムにおける代謝経路を調節する。好ましい実施形態においては、1種以上のコリネバクテリウム・グルタミカム代謝経路を調節する本発明のMR分子の活性は、この生物による、所望のファインケミカル、例えば、メチオニンの生産に影響する。特に好ましい実施形態においては、本発明のMR分子は、本発明のMRタンパク質が調節するコリネバクテリウム・グルタミカム代謝経路が効率または出力においてモジュレートされ、直接的または間接的に、コリネバクテリウム・グルタミカムによる、所望のファインケミカル、例えば、メチオニンの収率、生産、および/または生産効率をモジュレートするように、活性においてモジュレートされる。
【0050】
用語「MRタンパク質」または「MRポリペプチド」は、コリネバクテリウム・グルタミカムにおける代謝経路を転写で、翻訳で、または翻訳後に調節するタンパク質を含む。用語「MR遺伝子」または「MR核酸配列」は、コード領域およびまた対応する非翻訳5’および3’配列領域からなる、MRタンパク質をコードする核酸配列を含む。用語「生産」または「生産性」は当業界で認識されており、所与の時間および所与の発酵容量(例えば、kg生成物/時間/リットル)内で形成される発酵生成物(例えば、所望のファインケミカル)の濃度を含む。用語「生産効率」は、達成しようとする特定レベルの生産にとって必要な時間(例えば、ファインケミカルの出力の特定速度を達成するのに、細胞がどれぐらいの時間がかかるか)を含む。用語「収率」、「生成物/炭素収率」、または「生産」は当業界で認識されており、生成物(すなわち、メチオニン)への炭素源の転換の効率を含む。これは、一般的には、例えば、kg生成物/kg炭素源と書かれる。化合物の収率または生産を増加させることにより、回収される分子の量、または所与の時間量に渡る所与量の培養物中のその化合物の有用な回収される分子の量が増加する。
【0051】
用語「分解」または「分解経路」は当業界で認識されており、細胞による分解産物(一般的には、より小さいか、または複雑さの少ない分子)への、化合物、好ましくは有機化合物の崩壊を含み、これは多段階であり、高度に調節されたプロセスであってもよい。用語「代謝」は当業界で認識されており、生物中で起こる化学反応の総和を含む。特定の化合物の代謝(例えば、グリシンなどのアミノ酸の代謝)は、この化合物に関する、細胞中での生合成、修飾、および分解経路の全体を含む。用語「調節」は当業界で認識されており、別のタンパク質の活性を支配またはモジュレートするタンパク質の活性を含む。用語「転写調節」は当業界で認識されており、標的タンパク質をコードするDNAのmRNAへの変換を妨害するか、または活性化するタンパク質の活性を含む。用語「翻訳調節」は当業界で認識されており、標的タンパク質をコードするmRNAのタンパク質分子への変換を妨害するか、または活性化するタンパク質の活性を含む。用語「翻訳後調節」は当業界で認識されており、標的タンパク質を共有結合的に修飾することにより(例えば、メチル化、グリコシル化もしくはリン酸化、または標的タンパク質への結合により)、標的タンパク質の活性を妨害するか、または改善するタンパク質の活性を含む。
【0052】
別の実施形態においては、本発明のMR分子はコリネバクテリウム・グルタミカムなどの微生物中での、ファインケミカル、例えば、メチオニンなどの所望の分子の産生をモジュレートすることができる。組換え遺伝子技術を用いて、1種以上の本発明の調節タンパク質を、その機能がモジュレートされるように遺伝子操作することができる。例えば、生合成酵素の効率を改良することもできるし、または化合物の産生のフィードバック阻害が防止されるようにそのアロステリックな制御領域を破壊することもできる。同様に、分解酵素を、その分解活性が、細胞の生存能力を悪化させることなく所望の化合物について低下するように、置換、欠失、もしくは付加により欠失または改変することができる。それぞれの場合において、これらの所望のファインケミカルの1つの生産の収率または生産速度全体を増加させることができる。
【0053】
また、本発明のタンパク質およびヌクレオチド分子におけるそのような変更は、間接的な様式でファインケミカル、例えば、メチオニンの生産を改良することも可能である。細胞中の代謝経路の調節機構は必然的に絡み合い、1つの経路の活性化は共存する様式で別の経路の抑制または活性化をもたらし得る。従って、1種以上の本発明のタンパク質の活性をモジュレートすることにより、別のファインケミカルの生合成もしくは分解経路の活性の産生または効率に影響を及ぼすことができる。例えば、特定のアミノ酸の生合成タンパク質をコードする遺伝子の転写を抑制するMRタンパク質の能力を低下させることにより、他のアミノ酸の生合成経路を共存的に抑制することができるが、これはこれらの経路が相互に関連しているからである。さらに、本発明のMRタンパク質を改変することにより、ある程度まで細胞外の環境から細胞の増殖および分裂を切り離すことができ;細胞外条件が増殖および細胞分裂にとってほぼ最適である場合、細胞がこの機能を欠くように、通常はヌクレオチドの生合成を抑制するMRタンパク質を減少させることにより、細胞外条件が貧弱である場合でさえ、増殖を起こさせることができる。これは、特に大規模の発酵的増殖において適合するが、この場合、培養物内の条件が温度、栄養供給または通気の点でほぼ最適であることが多いが、これらの因子の細胞調節系が排除された場合でも増殖および細胞分裂を支持するだろう。
【0054】
本発明の単離された核酸配列は、American Type Culture Collectionの寄託番号ATCC 13032を通して利用可能なコリネバクテリウム・グルタミカム株のゲノム内に含まれる。RXA00655のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1、18、20、22および配列番号2、19、21、23に示し、RXN02910のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号5および6に示す。配列番号16および17は、それぞれ突然変異されたRXN02910の核酸およびアミノ酸配列を示す。配列番号16に示されたRXN02910分子は、コード領域のヌクレオチド残基556においてグアニン(G)からアデニン(A)への1個のヌクレオチド変化を含み、これは配列番号17に示されたコードされるタンパク質のアミノ酸残基186においてアスパラギン酸(D)からアスパラギン(N)への変化をもたらす。この多型性は、RXN02910によるメチオニン生合成または他のファインケミカルの調節のモジュレーション、例えば、メチオニン生合成の低下を引き起こし得る。
【0055】
本発明はまた、配列番号2、6、17、19、21、または23のアミノ酸配列と実質的に相同であるアミノ酸配列を有するタンパク質に関する。本明細書で用いる、選択されたアミノ酸配列と実質的に相同であるアミノ酸配列を有するタンパク質は、選択されたアミノ酸配列、例えば、選択されたアミノ酸配列全体と少なくとも約50%相同である。選択されたアミノ酸配列と実質的に相同であるアミノ酸配列を有するタンパク質はまた、選択されたアミノ酸配列と少なくとも約50〜60%、好ましくは少なくとも約60〜70%、より好ましくは少なくとも約70〜80%、80〜90%、または90〜95%、最も好ましくは少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上相同であってもよい。
【0056】
本発明のMRタンパク質またはその生物学的に活性な部分もしくは断片は、コリネバクテリウム・グルタミカムにおける代謝経路、例えば、メチオニン代謝経路を転写で、翻訳で、もしくは翻訳後に調節することができ、または本明細書に記載する1種以上の活性を有してもよい。
【0057】
本発明の種々の態様を、以下の小節でさらに詳細に説明する。
【0058】
A.トランスジェニック発現カセット、ベクターおよび宿主細胞
本発明は、代謝経路タンパク質(MRタンパク質)またはその断片をコードする核酸分子と共に、該核酸分子の発現を媒介することができる調節配列を含む新規なトランスジェニック発現カセットを提供する。好ましくは、前記調節配列は、前記核酸分子に関して異種性のプロモーターである。好ましくは、この調節配列は、コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて機能的であるプロモーター配列である。
【0059】
MRタンパク質は、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカムにおける代謝経路の転写、翻訳、または翻訳後調節に関与する酵素工程を実行することができる。MRタンパク質をコードする核酸分子を、本明細書においてはMR核酸分子と呼ぶ。好ましい実施形態においては、MRタンパク質は、1種以上の代謝経路の転写、翻訳、または翻訳後調節に関与する。
【0060】
特に好ましい実施形態においては、MR核酸分子は、
a)配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22のヌクレオチド配列、またはその相補体と少なくとも60%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸分子、
b)配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22のヌクレオチド配列、またはその相補体を含む核酸の少なくとも30ヌクレオチドの断片を含む核酸分子、
c)配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子、および
d) 配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23のアミノ酸配列を含むポリペプチドの断片をコードし、該断片が配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23のアミノ酸配列の少なくとも10個の連続したアミノ酸残基を含む核酸分子、
からなる群より選択される。
【0061】
前記トランスジェニック発現カセットは、前記プロモーター配列に関してアンチセンスまたはセンスの方向でMRタンパク質(例えば、RXA00655またはRXA02910)をコードする核酸分子を含んでよい。
【0062】
本発明の好ましい実施形態においては、MRタンパク質(例えば、RXA00655またはRXA02910)をコードする核酸分子は、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする。前記核酸分子は、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22に記載のヌクレオチド配列を含むのが特に好ましい。前記核酸分子はまた、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドの天然の対立遺伝子変異体をコードしてもよい。
【0063】
本明細書で用いる用語「核酸分子」は、DNA分子(例えば、cDNAもしくはゲノムDNA)およびRNA分子(例えば、mRNA)ならびにヌクレオチド類似体を用いて生成されたDNAもしくはRNAの類似体を含むと意図される。この用語はまた、遺伝子のコード領域の3’および5’末端に位置する非翻訳配列:コード領域の5’末端から上流の少なくとも約100ヌクレオチドの配列および遺伝子のコード領域の3’末端から下流の少なくとも約20ヌクレオチドの配列をも包含する。核酸分子は一本鎖でも二本鎖であってもよいが、二本鎖DNAであるのが好ましい。
【0064】
本明細書で用いる用語「トランスジェニック発現カセット」は、分子生物学の方法により得られる全ての種類の核酸構築物を含み、該構築物において、
a) MR核酸またはその一部(例えば、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22のヌクレオチド配列、またはその相補体を含む核酸;または前記の部分)、または
b) a)と結合させた調節配列(例えば、プロモーター配列)、または
c) a)およびb)の両方、
のいずれかはその天然の遺伝的環境内に位置しないか、または分子生物学もしくは遺伝子技術の手段により改変されることが意図される。そのような改変としては、1個以上のヌクレオチド残基の置換、付加、欠失、逆転または挿入が挙げられる。「天然の遺伝的環境」は、特定の遺伝子の天然の遺伝を記載することが意図される。例えば、トランスジェニック発現構築物は、組合せがその天然の遺伝的内容から単離されているか、および/または異なる遺伝的内容に配置されている限り、MR核酸と組み合わせたその天然のプロモーター配列を含んでもよい。プロモーター配列は前記MR核酸に関して異種性であるのが好ましい。
【0065】
「異種性」は、MR核酸と、天然には全く同一のMR核酸の発現を調節しないプロモーター配列との組合せを記述することが意図される。
【0066】
ベクターまたは宿主生物に関する「トランスジェニック」は、上記に定義されたトランスジェニック発現カセットを含むベクターまたは宿主生物を記述することを意図する。
【0067】
「単離された」核酸分子は、核酸の天然の起源中に存在する他の核酸分子から分離された核酸分子である。
【0068】
本発明の核酸分子、例えば、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20もしくは配列番号22のヌクレオチド配列を有する核酸分子、またはその一部を、標準的な分子生物学技術を用いて単離することができ、その配列情報を本明細書に提供する。例えば、コリネバクテリウム・グルタミカムのMR DNAを、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22の配列の1つの全部または一部をハイブリダイゼーションプローブとして用いて、標準的なハイブリダイゼーション技術(例えば、Sambrook, J., Fritsh, E.F.,およびManiatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual.(第2版)、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載のものなど)を用いて、コリネバクテリウム・グルタミカムライブラリーから単離することができる。さらに、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22の配列の1つの全部または一部を含む核酸分子を、この配列に基づいて設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応により単離することができる(例えば、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22の配列の1つの全部または一部を含む核酸分子を、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22のこの同じ配列に基づいて設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応により単離することができる)。例えば、mRNAを、正常な細菌細胞から単離し(例えば、Chirgwinら(1979) Biochemistry 18: 5294-5299のチオシアン酸グアニジウム抽出法により)、DNAを、逆転写酵素(例えば、Gibco/BRL, Bethesda, MDから入手可能なモロニーMLV逆転写酵素;またはSeikagaku America, Inc., St. Petersburg, FLから入手可能なAMV逆転写酵素)を用いて調製することができる。ポリメラーゼ連鎖反応増幅のための合成オリゴヌクレオチドプライマーを、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22に示されるヌクレオチド配列の1つに基づいて設計することができる。本発明の核酸を、標準的なPCR増幅技術に従って、鋳型としてcDNAまたはゲノムDNA、および好適なオリゴヌクレオチドプライマーを用いて増幅することができる。そのように増幅された核酸を好適なベクター中にクローニングし、DNA配列分析により特性評価することができる。さらに、MRヌクレオチド配列に対応するオリゴヌクレオチドを、標準的な合成技術により、例えば、自動化DNA合成装置を用いて調製することができる。
【0069】
好ましい実施形態においては、トランスジェニック発現カセットは、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22に示されるヌクレオチド配列の1つを含む。配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22の配列は、本発明のコリネバクテリウム・グルタミカムMR DNAに対応する。このDNAは、MRタンパク質をコードする配列(すなわち、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22中の各配列に示される「コード領域」)、ならびにこれも配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22に示される5’非翻訳配列および3’非翻訳配列を含む。あるいは、前記核酸分子は、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22の配列のいずれかのコード領域のみを含んでもよい。
【0070】
別の好ましい実施形態においては、本発明のトランスジェニック発現カセットは、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22に示されるヌクレオチド配列のうちの1つ、またはその一部の相補体である核酸分子を含む。配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22に示されるヌクレオチド配列のうちの1つに相補的である核酸分子は、それが配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22に示されるヌクレオチド配列のうちの1つにハイブリダイズし、それによって安定な二本鎖を形成することができるように、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22に示されるヌクレオチド配列のうちの1つと十分に相補的であるものである。
【0071】
さらに別の好ましい実施形態において、本発明のトランスジェニック発現カセットは、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22に示されるヌクレオチド配列、またはその一部と、少なくとも約50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%もしくは60%、好ましくは少なくとも約61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%もしくは70%、より好ましくは少なくとも約71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%もしくは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%もしくは90%、または91%、92%、93%、94%、およびさらにより好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%以上相同であるヌクレオチド配列を含む。上記範囲に対する中間の範囲および同一性値(例えば、70〜90%同一または80〜95%同一など)も、本発明により包含されることが意図される。例えば、上限および/または下限として記載される上記値のいずれかの組合せを用いる同一性値の範囲も含まれると意図される。さらに好ましい実施形態においては、本発明のトランスジェニック発現カセットは、例えば、ストリンジェントな条件下で、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22に示されるヌクレオチド配列のうちの1つ、またはその一部にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む。
【0072】
さらに、本発明のトランスジェニック発現カセットは、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22に示される配列のうちの1つのコード領域の一部のみ、例えば、プローブもしくはプライマーとして用いることができる断片またはMRタンパク質の生物学的に活性な部分をコードする断片を含んでもよい。
【0073】
コリネバクテリウム・グルタミカムに由来するMR遺伝子のクローニングから決定されたヌクレオチド配列により、他の細胞型および生物におけるMR相同体、ならびに他のコリネバクテリアもしくは関連種に由来するMR相同体を同定および/またはクローニングにおける使用のために設計されるプローブおよびプライマーの作製が可能となる。このプローブ/プライマーは、典型的には、実質的に精製されたオリゴヌクレオチドを含む。このオリゴヌクレオチドは、典型的には、ストリンジェントな条件下で、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22に示される配列の1つのセンス鎖、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22に示される配列の1つのアンチセンス配列、またはその天然の変異体の少なくとも約12、好ましくは約25、より好ましくは約40、50または75個の連続したヌクレオチドにハイブリダイズするヌクレオチド配列の領域を含む。配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22のヌクレオチド配列に基づくプライマーを、MR相同体をクローニングするためのPCR反応に用いることができる。MRヌクレオチド配列に基づくプローブを用いて、同一もしくは相同なタンパク質をコードする転写物またはゲノム配列を検出することができる。好ましい実施形態においては、前記プローブはさらに、それに結合した標識基を含み、例えば、この標識基は放射性同位体、蛍光化合物、酵素、または酵素コファクターであってもよい。細胞のサンプル中でMRをコードする核酸のレベルを測定すること、例えば、MR mRNAレベルを検出するか、またはゲノムMR遺伝子が突然変異もしくは欠失されたかどうかを決定することにより、そのようなプローブを、MRタンパク質を発現ミスする細胞を同定するための診断試験キットの一部として用いることができる。
【0074】
一実施形態において、トランスジェニック発現カセットは、タンパク質またはその一部がコリネバクテリウム・グルタミカムにおける代謝経路を転写で、翻訳で、または翻訳後に調節する能力を維持するように、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23のアミノ酸配列に十分に相同であるアミノ酸配列を含むタンパク質またはその一部をコードする核酸分子を含む。
【0075】
本明細書で用いる、用語「十分に相同な」とは、タンパク質またはその一部がコリネバクテリウム・グルタミカムにおける代謝経路、例えば、メチオニン生合成を転写で、翻訳で、翻訳後に調節することができるように、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、もしくは配列番号23のアミノ酸配列に対して、最小数の同一または等価なアミノ酸残基(例えば、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、もしくは配列番号23の配列の1つにおけるアミノ酸残基として類似した側鎖を有するアミノ酸残基)を含むアミノ酸配列を有するタンパク質またはその一部を指す。本明細書に記載のような代謝経路のタンパク質メンバーは、1種以上のファインケミカルの生合成または分解を調節するように機能してもよい。そのような活性の例も本明細書に記載される。かくして、「MRタンパク質の機能」は、1種以上のファインケミカル代謝経路の全体の調節に寄与するか、または1種以上のファインケミカル、例えば、メチオニンの収率、生産、および/もしくは生産効率に、直接的もしくは間接的に寄与する。
【0076】
別の実施形態においては、前記タンパク質は、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、もしくは配列番号23のアミノ酸配列全体に対して、少なくとも約50〜60%、好ましくは少なくとも約60〜70%、およびより好ましくは少なくとも約70〜80%、80〜90%、90〜95%、および最も好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、99%以上相同である。
【0077】
上記のように、相同なMRタンパク質、好ましくは相同なRXA00655またはRXN02910タンパク質は、他の微生物、好ましくは原核微生物に由来するものであってよい。
【0078】
用語「原核微生物」は、グラム陽性およびグラム陰性細菌を含むことが意図される。好ましくは、この用語は腸内細菌科またはノカルジア類の全ての属および種、例えば、腸内細菌種大腸菌(Escherichia)、セラチア菌(Serratia)、プロテウス菌(Proteus)、エンテロバクター菌(Enterobacter)、クレブシエラ菌(Klebsiella)、サルモネラ菌(Salmonnela)、シゲラ菌(Shigella)、エドワードシエラ菌(Edwardsielle)、シトロバクター菌(Citrobacter)、モルガネラ菌(Morganella)、プロビデンシア菌(Providencia)およびエルジニア菌(Yersinia)を含む。さらに好ましいのは、全てのシュードモナス(Pseudomonas)、ブルコルデリア(Burkholderia)、ノカルジア(Nocardia)、アセトバクター(Acetobacter)、ストレプトミセス(Streptomyces)、グルコノバクター(Gluconobacter)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、バチルス(Bacillus)、クロストリジウム(Clostridium)、シアノバクター(Cyanobacter)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、エアロバクター(Aerobacter)、アルカリジェンス(Alcaligenes)、ロドコッカス(Rhodococcus)およびペニシリウム(Penicillium)種である。最も好ましいのは、コリネバクテリウムおよびストレプトミセス種など、例えば、表1に例示されたコリネバクテリウム種、コリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheriae)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)およびストレプトミセス・コエリカラー(Streptomyces coelicolor)である。
【0079】
相同なMRタンパク質の例としては、
a) 好ましくは、配列番号19の配列を含むアミノ酸配列により記載される、コリネバクテリウム・ジフテリアに由来するRXA00655タンパク質、
b) 好ましくは、配列番号21の配列を含むアミノ酸配列により記載される、コリネバクテリウム・エフェイシェンスYS-314に由来するRXA00655タンパク質(Genbank寄託番号AP005223)、
c) 好ましくは、配列番号23の配列を含むアミノ酸配列により記載される、ストレプトミセス・コエリカラーに由来するRXA00655(Genbank寄託番号NC003888)、
が挙げられうる。
【0080】
好ましくは、RXN02910は、
a) 配列番号5または16のヌクレオチド配列と少なくとも60%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸分子、
b) 配列番号5または16のヌクレオチド配列を含む核酸の少なくとも30ヌクレオチドの断片を含む核酸分子、
c) 配列番号6または17のアミノ酸配列と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子、および
d) 配列番号6または17のアミノ酸配列の少なくとも10個の連続したアミノ酸残基を含む、配列番号6のアミノ酸配列を含むポリペプチドの断片をコードする核酸分子、
からなる群より選択される核酸分子を含む核酸分子によりコードされるポリペプチドを記述することを意図される。
【0081】
好ましくは、RXA00655は、
a) 配列番号1、18、20または22のヌクレオチド配列と少なくとも60%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸分子、
b) 配列番号1、18、20または22のヌクレオチド配列を含む核酸の少なくとも30ヌクレオチドの断片を含む核酸分子、
c) 配列番号2、19、21または23のアミノ酸配列と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子、および
d) 配列番号2、19、21または23のアミノ酸配列の少なくとも10個の連続したアミノ酸残基を含む、配列番号2、19、21または23のアミノ酸配列を含むポリペプチドの断片をコードする核酸分子、
からなる群より選択される核酸分子を含む核酸分子によりコードされるポリペプチドを記述することを意図される。
【0082】
本発明のMR核酸分子によりコードされるタンパク質の一部は、MRタンパク質の1つの生物学的に活性な部分であるのが好ましい。本明細書で用いる、用語「MRタンパク質の生物学的に活性な部分」は、コリネバクテリウム・グルタミカムにおける代謝経路を転写で、翻訳で、もしくは翻訳後に調節するか、または本明細書に記載の活性を有するMRタンパク質の一部、例えば、ドメイン/モチーフを含むことが意図される。MRタンパク質またはその生物学的に活性な一部がコリネバクテリウム・グルタミカムにおける代謝経路を転写で、翻訳で、または翻訳後に調節することができるかどうかを決定するために、酵素活性のアッセイを実施することができる。そのようなアッセイ方法は例示の実施例8に詳細に説明されるように、当業者には周知である。
【0083】
MRタンパク質の生物学的に活性な部分をコードするさらなる核酸断片を、MRタンパク質またはペプチドのコードされた部分を発現する配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、もしくは配列番号23、配列番号19、配列番号21、もしくは配列番号23のうちの1つの配列の一部を単離し(例えば、in vitroでの組換え発現により)、MRタンパク質またはペプチドのコードされた部分の活性を評価することにより調製することができる。
【0084】
本発明はさらに、遺伝コードの縮重により、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22、配列番号18、配列番号20、配列番号22(およびその一部)に示されるヌクレオチド配列の1つとは異なり、かくして配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22に示されるヌクレオチド配列によりコードされるものと同じMRタンパク質をコードする核酸分子を包含する。別の実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23、配列番号19、配列番号21、または配列番号23に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する。さらに別の実施形態においては、本発明の核酸分子は、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23、配列番号19、配列番号21、または配列番号23のアミノ酸配列(配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22、配列番号18、配列番号20、または配列番号22に示されるオープンリーディングフレームによりコードされる)と実質的に相同である全長のコリネバクテリウム・グルタミカムタンパク質をコードする。
【0085】
一実施形態において、本発明は、従来技術の配列(例えば、Genbank配列(またはそのような配列によりコードされるタンパク質))のものよりも大きい本発明のヌクレオチドまたはアミノ酸配列との同一性%を有するヌクレオチドおよびアミノ酸配列を含む。当業者であれば、所与の配列に関する3つのトップヒットの各々についてGAPにより算出された同一性%スコアを調べ、100%から最も高いGAPにより算出された同一性%を減算することにより、本発明の任意の所与の配列について、同一性%の低い方の閾値を算出することができるであろう。また、当業者であれば、そのように算出された低い方の閾値よりも大きい同一性%(例えば、少なくとも50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、もしくは60%、好ましくは少なくとも約61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、もしくは70%、より好ましくは少なくとも約71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、もしくは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%もしくは90%、または91%、92%、93%、94%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%以上同一である)を有する核酸およびアミノ酸配列も本発明により包含されることを理解できるであろう。
【0086】
当業者であれば、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22、配列番号18、配列番号20、または配列番号22に示されるコリネバクテリウム・グルタミカムのMRヌクレオチド配列に加えて、MRタンパク質のアミノ酸配列に変化をもたらすDNA配列多型も集団(例えば、コリネバクテリウム・グルタミカムの集団)内に存在してもよいことが理解できるであろう。MR遺伝子のそのような遺伝的多型は、天然の変異に起因して集団内の個体間に存在してもよい。本明細書で用いる、用語「遺伝子」および「組換え遺伝子」は、MRタンパク質、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミカムのMRタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む核酸分子を指す。そのような天然の変異は、典型的にはMR遺伝子のヌクレオチド配列に1〜5%の変異をもたらす。任意の、および全てのそのようなヌクレオチド変異ならびに天然の変異の結果であり、MRタンパク質の機能的活性を変化させないMRにおける得られるアミノ酸多型が本発明の範囲内にあることが意図される。
【0087】
本発明のコリネバクテリウム・グルタミカムのMR DNAの天然変異体および非コリネバクテリウム・グルタミカム相同体に対応する核酸分子を、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、標準的なハイブリダイゼーション技術に従ってハイブリダイゼーションプローブとしてコリネバクテリウム・グルタミカムのDNA、またはその一部を用いて、本明細書に開示されるコリネバクテリウム・グルタミカムのMR核酸との相同性に基づいて単離することができる。従って、別の実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、少なくとも15ヌクレオチドの長さであり、ストリンジェントな条件下で、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22、配列番号18、配列番号20、または配列番号22のヌクレオチド配列を含む核酸分子にハイブリダイズする。別の実施形態においては、この核酸は少なくとも15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、225ヌクレオチド以上の長さである。本明細書で用いる、用語「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、典型的には互いに少なくとも60%相同であるヌクレオチド配列が、互いにハイブリダイズしたままであるハイブリダイゼーションおよび洗浄のための条件を記述することを意図している。好ましくは、この条件は、互いに、典型的には少なくとも約65%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約75%以上相同である配列が、互いにハイブリダイズしたままであるようなものである。そのようなストリンジェントな条件は当業者には公知であり、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に見出すことができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい、非限定的な例は、6X塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中、約45℃でハイブリダイゼーション、次いで0.2 X SSC、0.1% SDS中、50〜65℃で1回以上の洗浄である。好ましくは、ストリンジェントな条件下で、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22、配列番号18、配列番号20、または配列番号22の配列にハイブリダイズする本発明の単離された核酸分子は、天然の核酸分子に対応する。本明細書で用いる、「天然の」核酸分子は、天然に存在するヌクレオチド配列を有する(例えば、天然のタンパク質をコードする)RNAまたはDNA分子を指す。一実施形態においては、この核酸は天然のコリネバクテリウム・グルタミカムのMRタンパク質をコードする。
【0088】
当業者であれば、集団中に存在してもよいMR配列の天然の変異体に加えて、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22、配列番号18、配列番号20、または配列番号22のヌクレオチド配列中に突然変異により変化を導入することによって、MRタンパク質の機能的な能力を変更することなく、コードされるMRタンパク質のアミノ酸配列に変化をもたらすことができることを理解できるであろう。例えば、「非必須」アミノ酸残基にアミノ酸置換をもたらすヌクレオチド置換を、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22、配列番号18、配列番号20、または配列番号22の配列中で作製することができる。「非必須」アミノ酸残基は、MRタンパク質の活性を変更することなく、MRタンパク質の1つの野生型配列(配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23、配列番号19、配列番号21、または配列番号23)から変化させることができる残基であるが、「必須」アミノ酸残基はMRタンパク質活性にとって必要である。しかしながら、他のアミノ酸残基(例えば、MR活性を有するドメイン中で保存されないか、または半分しか保存されないもの)は活性にとって必須ではない場合があり、かくしてMR活性を変更することなしに変化を受けやすいようである。
【0089】
従って、本発明の別の態様は、MR活性にとって必須ではないアミノ酸残基における変化を含むMRタンパク質をコードする核酸分子に関する。そのようなMRタンパク質は、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23、配列番号19、配列番号21、または配列番号23に含まれる配列とはアミノ酸配列において異なり、本明細書に記載のMR活性の少なくとも1つを依然として維持する。一実施形態においては、前記単離された核酸分子は、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、もしくは配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約50%相同であるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、コリネバクテリウム・グルタミカムにおける代謝経路を転写で、翻訳で、もしくは翻訳後に調節することができるか、または本明細書に記載の1種以上の活性を有する。好ましくは、前記核酸分子によりコードされるタンパク質は、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23の配列の1つと少なくとも約50〜60%相同であり、より好ましくは、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23の配列の1つと少なくとも約60〜70%相同であり、さらにより好ましくは、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23の配列の1つと少なくとも約70〜80%、80〜90%相同であり、最も好ましくは、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23の配列の1つと少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%相同である。
【0090】
2つのアミノ酸配列(例えば、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、もしくは配列番号23の配列の1つ、およびその突然変異形態)、または2つの核酸の相同性%を決定するために、これらの配列を最適な比較目的のために整列させる(例えば、他方のタンパク質もしくは核酸との最適なアラインメントのために一方のタンパク質もしくは核酸の配列中にギャップを導入することができる)。次いで、対応するアミノ酸の位置またはヌクレオチドの位置でアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。一方の配列(例えば、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、もしくは配列番号23の配列の1つ)中の位置が、他方の配列(例えば、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、もしくは配列番号23から選択される配列の突然変異形態)中の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドにより占有された場合、この分子はその位置で相同である(すなわち、本明細書で用いるアミノ酸または核酸の「相同性」は、アミノ酸または核酸の「同一性」と等価である)。2つの配列間の相同性%は、該配列により共有される同一の位置の数の関数である(すなわち、相同性%=同一の位置数/位置の総数X100)。
【0091】
配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、もしくは配列番号23のタンパク質配列に相同なMRタンパク質をコードする単離された核酸分子を、1個以上のアミノ酸の置換、付加または欠失がコードされるタンパク質に導入されるように、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22のヌクレオチド配列に1個以上のヌクレオチドの置換、付加または欠失を導入することにより作製することができる。部位特異的突然変異誘発およびPCR媒介性突然変異誘発などの標準的な技術により、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22の配列の1つに突然変異を導入することができる。好ましくは、保存的アミノ酸置換を、1個以上の推定非必須アミノ酸残基で行う。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基を、類似する側鎖を有するアミノ酸残基と置換するものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当業界で定義されている。これらのファミリーとしては、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β-分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が挙げられる。かくして、MRタンパク質中の推定非必須アミノ酸残基を、同じ側鎖ファミリーに由来する別のアミノ酸残基と置換するのが好ましい。あるいは、別の実施形態においては、飽和突然変異誘発などにより、突然変異をMRをコードする配列の全部または一部に沿って無作為に導入し、得られた突然変異体を、本明細書に記載のMR活性についてスクリーニングして、MR活性を保持する突然変異体を同定することができる。配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22の配列の1つの突然変異誘発の後、コードされるタンパク質を組換え的に発現させ、該タンパク質の活性を、例えば、本明細書に記載のアッセイ(例示の実施例6を参照)を用いて決定することができる。
【0092】
本発明はまた、MRキメラまたは融合タンパク質も提供する。本明細書で用いる、MRの「キメラタンパク質」または「融合タンパク質」は、非MRポリペプチドに機能し得る形で連結されたMRポリペプチドを含む。「MRポリペプチド」は、MRタンパク質に対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを指すが、「非MRポリペプチド」は、MRタンパク質と実質的に相同ではないタンパク質、例えば、MRタンパク質とは異なり、同じか、または異なる生物に由来するタンパク質に対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。融合タンパク質内では、用語「機能し得る形で連結された」とは、MRポリペプチドと非MRポリペプチドを互いにフレームを合わせて融合することを示すことが意図される。非MRポリペプチドをMRポリペプチドのN末端またはC末端に融合することができる。例えば、一実施形態においては、融合タンパク質は、MR配列をGST配列のC末端に融合させるGST-MR融合タンパク質である。そのような融合タンパク質により、組換えMRタンパク質の精製が容易になる。別の実施形態においては、融合タンパク質は、そのN末端に異種性のシグナル配列を含むMRタンパク質である。特定の宿主細胞(例えば、哺乳動物宿主細胞)中で、MRタンパク質の発現および/または分泌を、異種性シグナル配列の使用を介して増加させることができる。
【0093】
好ましくは、本発明のMRキメラまたは融合タンパク質を、標準的な組換えDNA技術により製造する。例えば、異なるポリペプチド配列をコードするDNA断片を、従来の技術に従って、例えば、連結のための平滑末端もしくは付着末端の使用、好適な末端を提供するための制限酵素消化、好適な付着末端の充填、望ましくない連結を回避するためのアルカリホスファターゼ処理および酵素的連結などにより、フレームを合わせて連結する。別の実施形態においては、融合遺伝子を、自動化DNA合成装置などの従来の技術により合成することができる。あるいは、遺伝子断片のPCR増幅を、2つの連続する遺伝子断片間で相補的な突出部を生じるアンカープライマーを用いて実行し、続いてアニーリングさせ、再増幅させてキメラ遺伝子配列を作製することができる(例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubelら(編), John Wiley & Sons: 1992を参照)。さらに、既に融合部分をコードする多くの発現ベクター(例えば、GSTポリペプチド)が市販されている。MRをコードする核酸を、融合部分がMRタンパク質にフレームを合わせて連結されるような発現ベクター中にクローニングすることができる。
【0094】
MRタンパク質の相同体を、突然変異誘発、例えば、MRタンパク質の個別的点突然変異またはトランケーションにより作製することができる。本明細書で用いる、用語「相同体」は、MRタンパク質の活性のアゴニストまたはアンタゴニストとして働くMRタンパク質の変異体を指す。MRタンパク質のアゴニストは、実質的に同じか、またはサブセットのMRタンパク質の生物活性を保持しうる。MRタンパク質のアンタゴニストは、例えば、MRタンパク質を含むMR調節カスケードのメンバーの上流または下流に競合的に結合することにより、MRタンパク質の天然の形態の1つ以上の活性を阻害し得る。かくして、本発明のコリネバクテリウム・グルタミカムのMRタンパク質およびその相同体は、MRタンパク質がこの微生物中で調節する1つ以上の代謝経路の活性をモジュレートすることができる。
【0095】
別の実施形態においては、MRタンパク質の相同体を、MRタンパク質の突然変異体、例えば、トランケーション突然変異体のコンビナトリアルライブラリーを、MRタンパク質のアゴニストまたはアンタゴニスト活性についてスクリーニングすることにより同定することができる。一実施形態においては、MR変異体の多様化ライブラリーを、核酸レベルでコンビナトリアル突然変異誘発により作製し、多様化遺伝子ライブラリーによりコードさせる。MR変異体の多様化ライブラリーを、例えば、潜在的なMR配列の縮重セットが、個々のポリペプチドとして、あるいは、MR配列のセットを含むより大きい融合タンパク質(例えば、ファージ展示のための)のセットとして発現可能となるように、合成オリゴヌクレオチドの混合物を酵素的に遺伝子配列中に連結することにより作製することができる。縮重オリゴヌクレオチド配列から潜在的なMR相同体のライブラリーを作製するのに用いることができる様々な方法が存在する。縮重遺伝子配列の化学合成を自動化DNA合成装置中で実施した後、合成遺伝子を好適な発現ベクター中に連結することができる。遺伝子の縮重セットを使用することにより、潜在的なMR配列の所望のセットをコードする配列の全てを、1つの混合物中で得ることができる。縮重オリゴヌクレオチドの合成方法は当業界で公知である(例えば、Narang, S.A. (1983) Tetrahedron 39:3; Itakuraら(1984) Annu. Rev. Biochem. 53:323; Itakuraら(1984) Science 198:1056; Ikeら(1983) Nucleic Acid Res. 11:477を参照されたい)。
【0096】
さらに、MRタンパク質をコードする断片のライブラリーを用いて、MRタンパク質の相同体をスクリーニングし、その後選択するためのMR断片の多様化集団を作製することができる。一実施形態においては、コード配列断片のライブラリーを、ニック化が1分子あたり約1回だけ起こる条件下でMRコード配列の二本鎖PCR断片をヌクレアーゼで処理し、二本鎖DNAを変性させ、DNAを再生して、異なるニック化産物に由来するセンス/アンチセンス対を含んでもよい二本鎖DNAを形成させ、S1ヌクレアーゼを用いた処理により、再形成された二本鎖から一本鎖部分を除去し、得られた断片ライブラリーを発現ベクターに連結することにより作製することができる。この方法により、種々のサイズのMRタンパク質のN末端、C末端および内部断片をコードする発現ライブラリーを誘導することができる。
【0097】
点突然変異またはトランケーションにより作製されたコンビナトリアルライブラリーの遺伝子産物をスクリーニングしたり、選択された特性を有する遺伝子産物についてcDNAライブラリーをスクリーニングするためのいくつかの技術が当業界で公知である。そのような技術は、MR相同体のコンビナトリアル突然変異誘発により作製された遺伝子ライブラリーの迅速なスクリーニングに適用可能である。大きな遺伝子ライブラリーをスクリーニングするための、容易に高効率分析できる最も幅広く用いられる技術は、典型的には、遺伝子ライブラリーを複製可能な発現ベクター中にクローニングすること、得られたベクターのライブラリーを用いて好適な細胞を形質転換すること、および所望の活性の検出により、産物が検出された遺伝子をコードするベクターの単離が容易になる条件下で、コンビナトリアル遺伝子を発現させること、を含む。ライブラリーにおける機能的突然変異体の頻度を増強する新しい技術である回帰集団突然変異誘発(REM)を、スクリーニングアッセイと組み合わせて使用して、MR相同体を同定することができる(ArkinおよびYourvan(1992) PNAS 89:7811-7815; Delgraveら(1993) Protein Engineering 6(3):327-331)。
【0098】
別の実施形態においては、細胞に基づくアッセイを用いて、当業界で周知の方法を用いて、多様化MRライブラリーを分析することができる。
【0099】
上記のMRタンパク質をコードする核酸分子に加えて、本発明の別の態様は、それに対してアンチセンスである単離された核酸分子に関する。「アンチセンス」核酸は、タンパク質をコードする「センス」核酸に対して相補的である、例えば、二本鎖DNA分子のコード鎖に対して相補的またはmRNA配列に対して相補的であるヌクレオチド配列を含む。従って、アンチセンス核酸は、センス核酸に水素結合することができる。アンチセンス核酸は、MRコード鎖全体、またはその一部のみに対して相補的であってもよい。一実施形態においては、アンチセンス核酸分子は、MRタンパク質をコードするヌクレオチド配列のコード鎖の「コード領域」に対してアンチセンスである。用語「コード領域」は、アミノ酸残基に翻訳されるコドンを含むヌクレオチド配列の領域を指す。別の実施形態においては、アンチセンス核酸分子は、MRをコードするヌクレオチド配列のコード鎖の「非コード領域」に対してアンチセンスである。用語「非コード領域」は、アミノ酸に翻訳されないコード領域にフランキングする5’および3’配列を指す(すなわち、5’および3’非翻訳領域とも呼ぶ)。
【0100】
本明細書に開示されるMR分子をコードするコード鎖配列(例えば、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22に記載の配列)が与えられれば、本発明のアンチセンス核酸を、WatsonおよびCrickの塩基対の規則に従って設計することができる。このアンチセンス核酸分子は、MR mRNAのコード領域全体に対して相補的であってよいが、より好ましくはMR mRNAのコード領域または非コード領域の一部のみに対してアンチセンスであるオリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約5、10、15、20、25、30、35、40、45または50ヌクレオチドの長さであってよい。本発明のアンチセンス核酸を、当業界で公知の手順を用いる化学合成および酵素的連結反応を用いて構築することができる。例えば、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)を、天然のヌクレオチドまたは分子の生物学的安定性を増加させるように、もしくはアンチセンス核酸とセンス核酸の間で形成される二本鎖の物理的安定性を増加させるように設計された種々に改変されたヌクレオチドを用いて化学的に合成することができる。あるいはおよび好ましくは、アンチセンス核酸を、核酸がアンチセンスの向きにサブクローニングされた発現ベクター(すなわち、挿入された核酸から転写されるRNAが、以下の小節にさらに記載される、目的の標的核酸に対してアンチセンスの向きのものである)を用いて生物学的に製造することができる。
【0101】
本発明の別の態様は、MRタンパク質(またはその一部)をコードする核酸を含む、少なくとも1個の本発明のトランスジェニック発現カセットを含むベクター、好ましくは発現ベクターに関する。
【0102】
本明細書で用いる、用語「ベクター」は、それが連結された別の核酸を輸送することができる核酸分子を指す。ベクターの1つの型は「プラスミド」であり、これは追加のDNAセグメントを連結することができる環状の二本鎖DNAループを指す。ベクターの別の型はウイルスベクターであり、追加のDNAセグメントをウイルスゲノム中に連結することができる。特定のベクターは、それらが導入された宿主細胞中で自己複製することができる(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクター)。他のベクターを、宿主細胞への導入に際して宿主細胞のゲノム中に組込むことによって、宿主のゲノムに沿って複製させる。さらに、特定のベクターは、それらが機能し得る形で連結された遺伝子の発現を指令することができる。そのようなベクターを、本明細書では「発現ベクター」と呼ぶ。一般的には、組換えDNA技術における使用のための発現ベクターはプラスミドの形態であることが多い。プラスミドは最も一般的に用いられる形態のベクターであるので、本明細書では、「プラスミド」および「ベクター」を互換的に用いることができる。しかしながら、本発明は、等価な機能を有するファージベクターなどの他の形態の発現ベクターを含むことが意図される。
【0103】
本発明のトランスジェニック発現ベクターは、宿主細胞中でのMR核酸の発現にとって好適な形態の本発明のトランスジェニック発現カセットを含む。
【0104】
トランスジェニック発現カセットは、発現に用いられる宿主細胞に基づいて選択され、発現される核酸配列に機能し得る形で連結された1個以上の調節配列(プロモーター)を含む。トランスジェニック発現カセット内で、「機能し得る形で連結された」とは、目的のヌクレオチド配列が、該ヌクレオチド配列の発現を可能にする様式で(例えば、in vitro転写/翻訳系、またはベクターが宿主細胞に導入された場合の該宿主細胞において)調節配列に連結されていることを意味することが意図される。
【0105】
用語「調節配列」は、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現制御エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むことが意図される。そのような調節配列は、例えば、Goeddel;Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)およびVasicova P. Patek M. Nesvera J. Sahm H. Eikmanns B. Journal of Bacteriology (1999) 181(19):6188-91, Patek M.ら(1996) Microbiology 142;1297-309,およびMateosら(1994) Journal of Bacteriology 176:7362-71に記載されている。調節配列としては、多くの型の宿主細胞中でヌクレオチド配列の構成的な発現を指令するものおよび特定の宿主細胞中でのみヌクレオチド配列の発現を指令するものが挙げられる。好ましい調節配列は、例えば、好ましくは細菌中で用いられる、cos-、tac-、trp-、tet-、trp-tet-、lpp-、lac-、lpp-lac-、lacIq-、T7-、T5-、T3-、gal-、trc-、ara-、SP6-、arny、SPO2、λ-PRまたは-λPLなどのプロモーターである。また、人工のプロモーターを用いることもできる。当業者であれば、発現ベクターの設計が、形質転換しようとする宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどの因子に依存し得ることが理解できるであろう。本発明の発現ベクターを、宿主細胞中に導入することによって、本明細書に記載の核酸によりコードされる、融合タンパク質またはペプチドなどのタンパク質またはペプチド(例えば、MRタンパク質、MRタンパク質の突然変異形態、融合タンパク質など)を製造することができる。
【0106】
本発明のトランスジェニック発現カセットまたは発現ベクターを、原核または真核細胞中でのMRタンパク質の発現のために設計することができる。例えば、MR遺伝子を、コリネバクテリウム・グルタミカムなどの細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを用いる)、酵母および他の真菌細胞、藻類および多細胞植物細胞、または哺乳動物細胞において発現させることができる。好適な宿主細胞は、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA(1990)でさらに考察されている。あるいは、トランスジェニック発現カセットまたは発現ベクターを、例えば、T7プロモーター調節配列およびT7ポリメラーゼを用いて、in vitroで転写および翻訳させることができる。
【0107】
原核生物におけるタンパク質の発現は、融合または非融合タンパク質の発現を指令する構成的または誘導的プロモーターを含むベクターを用いて実行されることが最も多い。
【0108】
融合ベクターはいくつかのアミノ酸を、そこにコードされるタンパク質、通常、組換えタンパク質のアミノ末端に加える。典型的な融合発現ベクターは、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質、またはプロテインAを、それぞれ標的組換えタンパク質に融合することができる。
【0109】
好適な誘導性大腸菌発現ベクターの例としては、pTrc(Amannら(1988) Gene 69:301-315)、pLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、λgt11、pBdC1、およびpET11d(Studierら、Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, California (1990) 60-89;およびPouwelsら(編)、(1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York ISBN 0 444 904018)が挙げられる。
【0110】
誘導性大腸菌コリネバクテリウム・グルタミカムシャトル発現ベクターの他の例は、Eikmanns B.J.ら(1991) Gene 102:93-8に見出すことができる。コリネバクテリウム・グルタミカムにおける使用のための好適なクローニングベクターは、例えば、Sinskeyら、米国特許第4,649,119号に開示されたもの、ならびにコリネバクテリウム・グルタミカムおよび関連するブレビバクテリウム種(例えば、ラクトファーメンタム(lactofermentum))(Yoshihamaら、J. Bacteriol. 162: 591-597 (1985); Katsumataら、J. Bacteriol. 159: 306-311 (1984);およびSantamariaら、J. Gen. Microbiol. 130: 2237-2246 (1984))の遺伝子操作のための技術である。
【0111】
pTrcベクターに由来する標的遺伝子発現は、ハイブリッドtrp-lac融合プロモーターからの宿主のRNAポリメラーゼ転写に依るものである。他の様々な細菌の形質転換のために、好適なベクターを選択することができる。例えば、プラスミドpIJ101、pIJ364、pIJ702およびpIJ361はストレプトミセスを形質転換するのに有用であることが知られているが、プラスミドpUB110、pC194、またはpBD214はバチルス種の形質転換に好適である。コリネバクテリアへの遺伝子情報の導入における使用のためのいくつかのプラスミドとしては、pHM1519、pBL1、pSA77、またはpAJ667(Pouwelsら(編)、(1995) Cloning Vectors. Elsevier: New York ISBN 0 444 904018)が挙げられる。組換えタンパク質発現を最大化するための1つの戦略は、組換えタンパク質をタンパク質分解的に切断する能力が低下した宿主細菌中で該タンパク質を発現させることである(Gottesman, S., Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, California (1990) 119-128)。別の戦略は、発現ベクター中に挿入しようとする核酸の核酸配列を、各アミノ酸についての個々のコドンが、コリネバクテリウム・グルタミカムなどの、発現のために選択された細菌中で優先的に用いられるように変更することである(Wadaら(1992) Nucleic Acids Res. 20: 2111-2118)。本発明の核酸配列のそのような変更を、標準的なDNA合成技術により行うことができる。
【0112】
本発明の別の態様は、本発明のトランスジェニック発現カセットまたは発現ベクターが導入されたトランスジェニック宿主細胞に関する。用語「宿主細胞」および「トランスジェニック宿主細胞」は、本明細書では互換的に用いられる。そのような用語は、特定の目的の細胞だけでなく、そのような細胞の子孫または潜在的な子孫も指すと理解される。特定の改変が、突然変異または環境の影響に起因してその後の世代において発生し得るため、そのような子孫は、実際には、親細胞と同一ではないかもしれないが、本明細書で用いられる用語の範囲内に依然として含まれる。
【0113】
宿主細胞は任意の原核または真核細胞であってよい。例えば、MRタンパク質を、コリネバクテリウム・グルタミカムなどの細菌細胞、昆虫細胞、酵母または哺乳動物細胞中で発現させることができる。他の好適な宿主細胞は当業者には公知である。本発明の核酸およびタンパク質分子のために宿主細胞として都合よく用いることができるコリネバクテリウム・グルタミカムに関連する微生物を、表1に記載する。
【0114】
ベクターDNAを、従来の形質転換またはトランスフェクション技術を介して原核または真核細胞中に導入することができる。本明細書で用いる、用語「形質転換」および「トランスフェクション」は、宿主細胞中に、外来の核酸(例えば、線状DNAもしくはRNA(例えば、線状ベクターもしくはベクターを用いない遺伝子構築物のみ))またはベクター(例えば、プラスミド、ファージ、ファスミド、ファージミド、トランスポゾンもしくは他のDNA)の形態の核酸を導入するための当業界で認知されている様々な技術を指し、例えば、リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈降、DEAE-デキストラン媒介性トランスフェクション、リポフェクション、またはエレクトロポレーションが挙げられる。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトするのに好適な方法は、Sambrookら(Molecular Cloning: A Laboratory Manual.第2版、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989)、および他の実験室マニュアルに見出すことができる。
【0115】
微生物の形質転換については、用いる発現ベクターおよび形質転換技術に応じて、細胞の小画分のみがエピゾーム局在化を用いて、または組換えを含むプロセスによりそのゲノム中へ外来DNAを取り込むことが知られている。これらの形質転換体を同定および選択するために、一般的には、選択マーカー(例えば、抗生物質に対する耐性)をコードする遺伝子を、目的の遺伝子と共に宿主細胞中に導入する。好ましい選択マーカーとしては、カナマイシン、テトラサイクリン、ブレオマイシン、クロラムフェニコール、リンコマイシンなどの薬剤に対する耐性を付与するものが挙げられる。選択マーカーをコードする核酸を、MRタンパク質をコードするのと同じベクター上で宿主細胞に導入するか、または別のベクター上で導入することができる。導入された核酸により形質転換された細胞を、例えば、薬剤選択(例えば、選択マーカー遺伝子を取り込んだ細胞は生存するが、他の細胞は死ぬ)により同定することができる。
【0116】
コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて用いることができる抗生物質耐性遺伝子の例は、Tauch A. Puhler A. Kalinowski J. Thierbach G. Plasmid. 44(3): 285-91, 2000, Kim HJ. Kim Y. Lee MS. Lee HS. Molecules & Cells. 12(1): 112-6, 2001 Guerrero C. Mateos LM. Malumbres M. Martin JF. Applied Microbiology & Biotechnology. 36(6): 759-62, 1992, Eikmanns BJ. Kleinertz E. Liebl W. Sahm H. Gene. 102(1): 93-8, 1991, Yoshihama M. Higashiro K. Rao EA. Akedo M. Shanabruch WG. Follettie MT. Walker GC. Sinskey AJ. Journal of Bacteriology. 162(2): 591-7, 1985, Tauch A. Zheng Z. Puhler A. Kalinowski J. Plasmid. 40(2): 126-39, 1998, Cadenas RF. Martin JF. Gil JA. Gene. 98(1): 117-21, 1991に見出すことができる。
【0117】
別の実施形態においては、導入された遺伝子の発現調節を可能にする選択された系を含むトランスジェニック宿主生物(好ましくは、微生物)を製造することができる。例えば、lacオペロンの制御下にMR遺伝子を置くベクター上にMR遺伝子を含有させることにより、IPTGの存在下でのみMR遺伝子を発現させることができる。そのような調節系は当業界で周知であり、例えば、Eikmanns B.J.ら(1991) Gene 102: 93-9に記載されている。
【0118】
培養中の原核または真核宿主細胞などの、本発明の宿主細胞を用いて、MRタンパク質を製造する(すなわち、発現させる)ことができる。従って、本発明はさらに、本発明の宿主細胞を用いる、MRタンパク質の製造方法を提供する。一実施形態においては、この方法はMRタンパク質が産生されるまで、好適な培地中で本発明の宿主細胞(MRタンパク質をコードするトランスジェニック発現カセットまたは発現ベクターを導入したか、またはゲノムが野生型もしくは変更されたMRタンパク質をコードする遺伝子を導入された)を培養することを含む。別の実施形態においては、この方法はさらに、培地または宿主細胞からMRタンパク質を単離することを含む。
【0119】
B. MRタンパク質の発現を抑制する方法
生物中で特定の遺伝子に関して欠損を誘導するか、または前記遺伝子もしくは対応する遺伝子産物の発現もしくは活性を抑制もしくは低下させるいくつかの方法が当業者には公知である。前記方法を、メチオニン生合成の負の調節因子(例えば、RXA00655)に適用することによって、メチオニン生合成を増加させることが、本発明の好ましい実施形態である。
【0120】
前記方法は、
a) 前記MRタンパク質(例えば、負の調節タンパク質)をコードする遺伝子のノックアウト;
b) 遺伝子のコード領域、非コード領域、もしくは調節領域中で誘導することができる、前記MRタンパク質(例えば、負の調節タンパク質)をコードする遺伝子の突然変異誘発;
c) 前記MRタンパク質(例えば、負の調節タンパク質)をコードするRNAの少なくとも一部に相補的である、アンチセンスRNAの発現;
d) 前記MRタンパク質(例えば、負の調節タンパク質)をコードする遺伝子からの発現を阻害もしくは低下させるDNA結合タンパク質の発現;
e) 前記タンパク質(例えば、負の調節タンパク質)をコードする遺伝子からの発現を阻害もしくは低下させるタンパク質結合因子の発現;
f) 前記タンパク質(例えば、負の調節タンパク質)のドミナントネガティブ変異体の発現;および
g) 前記タンパク質(例えば、負の調節タンパク質)をコードするmRNAの脱安定化、
からなる方法の群より選択される1つ以上の方法を含みうる。
【0121】
好ましい実施形態においては、宿主細胞中の内因性MR遺伝子を、そのタンパク質産物の発現が起こらないように、破壊する(例えば、当業界で公知の相同組換えまたは他の遺伝的手段により)。別の実施形態においては、宿主細胞中の内因性または導入されたMR遺伝子を、1個以上の点突然変異、欠失、または逆転により変更した。前記MR遺伝子は依然として機能的なMRタンパク質をコードしてもよいが、非機能的なMRタンパク質または活性が改変された(例えば、増加もしくは低下した)MRタンパク質をコードしてもよい。さらに別の実施形態においては、微生物中のMR遺伝子の1個以上の調節領域(例えば、プロモーター、リプレッサー、またはインデューサー)を、MR遺伝子の発現がモジュレートされるように変更した(例えば、欠失、トランケーション、逆転、または点突然変異により)。当業者であれば、記載されたMR遺伝子およびタンパク質改変の2つ以上を含む宿主細胞を、本発明の方法を用いて容易に製造することができ、これが本発明に含まれることを意味することを理解できるであろう。
【0122】
相同組換え微生物を作製するために、欠失、付加または置換を導入することによって、例えば、MR遺伝子を機能的に破壊したMR遺伝子の少なくとも一部を含むベクターを調製する。好ましくは、このMR遺伝子はコリネバクテリウム・グルタミカムのMR遺伝子であるが、関連する細菌または哺乳動物、酵母、もしくは昆虫起源に由来する相同体であってもよい。好ましい実施形態においては、このベクターを、相同組換えに際して、内因性のMR遺伝子が機能的に破壊される(すなわち、もはや機能的なタンパク質をコードしない;「ノックアウト」ベクターとも呼ぶ)ように設計する。あるいは、このベクターを、相同組換えに際して、内因性のMR遺伝子が突然変異されるか、または変更される(例えば、上流の調節領域を変更することによって、内因性のMRタンパク質の発現を変化させることができる)ように設計することができる。相同組換えベクターにおいては、MR遺伝子の変更された部分は、相同組換えが、該ベクターにより担持された外因性のMR遺伝子と微生物中の内因性のMR遺伝子との間で起こるようにできるMR遺伝子の追加の核酸により、その5’および3’末端でフランキングする。追加のフランキングするMR核酸は、内因性遺伝子との相同組換えを成功させるのに十分な長さのものである。典型的には、フランキングするDNAは100塩基対〜数キロ塩基の長さであるべきであり(5’および3’末端で)、前記ベクター中に含まれる(例えば、相同組換えベクターの記載については、Thomas, K.R.およびCapecchi, M.R. (1987) Cell 51: 503を参照)。さらに、別の選択を用いて、選択マーカーを陽性選択の方法により回収する染色体組換え物を構築することができる方法が公知である(Schafer A. Tauch A. Jager W. Kalinowski J. Thierbach G. Puhler A. Gene. 145(1): 69-73, 1994)。このベクターを、微生物(例えば、エレクトロポレーションにより)および細胞中に導入し、導入されたMR遺伝子が内因性のMR遺伝子と相同的に組みかえられた微生物および細胞を、当業界で公知の技術を用いて選択する。
【0123】
MRタンパク質の発現の減少を、MRをコードするmRNAに対するアンチセンスRNAを発現させることにより達成することができる。前記アンチセンスRNAは上記に記載されている。アンチセンス遺伝子を用いる遺伝子発現の調節のための方法は当業者には周知である(例えば、Weintraub, H.ら、Antisense RNA as a molecular tool for genetic analysis, Reviews Trends in Genetics, Vol. 1(1) 1986参照)。典型的には、本発明のアンチセンス核酸分子を、それらがMRタンパク質をコードする細胞のmRNAおよび/もしくはゲノムDNAとハイブリダイズするか、または結合することによって、例えば、転写および/もしくは翻訳を阻害することにより該タンパク質の発現を阻害するように、細胞に投与するか、またはin situで生成させる。このハイブリダイゼーションは、安定な二本鎖を形成する従来のヌクレオチド相補性によるものであるか、または、例えば、DNA二本鎖に結合するアンチセンス核酸分子の場合、二重らせんの主要な溝中での特異的な相互作用を介するものであってもよい。アンチセンス分子を、それが選択された細胞表面上に発現される受容体または抗原に特異的に結合するように、例えば、該アンチセンス核酸分子を、細胞表面の受容体または抗原に結合するペプチドまたは抗体に結合させることにより、改変することができる。アンチセンス核酸分子を、本明細書に記載のベクターを用いて細胞に送達することもできる。アンチセンス分子の十分な細胞内濃度を達成するために、アンチセンス核酸分子を強力な原核プロモーター、ウイルスプロモーター、または真核プロモーターの制御下に置くベクター構築物が好ましい。
【0124】
さらに別の実施形態においては、本発明のアンチセンス核酸分子はα-アノマー(α-anomeric)核酸分子である。α-アノマー核酸分子は、相補的RNAと特異的な二本鎖ハイブリッドを形成し、ここでは通常のβ-ユニットとは違って、鎖が互いに平行に走る(Gaultierら(1987) Nucleic Acids. Res. 15: 6625-6641)。また、アンチセンス核酸分子は2’-o-メチルリボヌクレオチド(Inoueら(1987) Nucleic Acids Res. 15: 6131-6148)またはキメラRNA-DNA類似体(Inoueら(1987) FEBS Lett. 215: 327-330)を含んでもよい。
【0125】
さらに別の実施形態においては、本発明のアンチセンス核酸はリボザイムである。リボザイムは、相補的領域を有する、mRNAなどの一本鎖核酸を切断することができるリボヌクレアーゼ活性を有する触媒RNA分子である。かくして、リボザイム(例えば、ハンマーヘッドリボザイム(HaselhoffおよびGerlach(1988) Nature 334: 585-591)に記載)を用いて、MR mRNA転写物を触媒的に切断することによって、MR mRNAの翻訳を阻害することができる。MRをコードする核酸に対する特異性を有するリボザイムを、本明細書に開示されたMR DNAのヌクレオチド配列(すなわち、配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22)に基づいて設計することができる。例えば、活性部位のヌクレオチド配列が、MRをコードするmRNA中で切断されるヌクレオチド配列と相補的であるテトラヒメナのL-19 IVS RNAの誘導体を構築することができる。例えば、Cechら、米国特許第4,987,071号およびCechら、米国特許第5,116,742号を参照されたい。あるいは、MR mRNAを用いて、RNA分子のプールから、特異的リボヌクレアーゼ活性を有する触媒RNAを選択することができる。例えば、Bartel, D.およびSzostak, J.W. (1993) Science 261: 1411-1418を参照されたい。
【0126】
あるいは、MR遺伝子発現を、標的細胞中でMR遺伝子の転写を防止する三重らせん構造を形成するMRヌクレオチド配列の調節領域に相補的なヌクレオチド配列(例えば、MRプロモーターおよび/またはエンハンサー)を標的化することにより阻害することができる。一般的には、Helene, C.(1991) Anticancer Drug Des. 6(6):569-84; Helene, C.ら(1992) Ann. N.Y. Acad. Sci. 660:27-36;およびMaher, L.J. (1992) Bioassays 14(12): 807-15を参照されたい。
【0127】
さらに別の実施形態においては、当業者には公知のさらなる方法または代替的な方法を用いて、遺伝子(例えば、メチオニン生合成の負の調節因子をコードする遺伝子)からの発現をモジュレートする、例えば、抑制するか、もしくは増加させるか、または対応する遺伝子産物の活性をモジュレートする、例えば、増加させるか、もしくは抑制するか、もしくは阻害することができる。
【0128】
用いることができる1つの方法は、遺伝子産物(例えば、メチオニン生合成の負の調節因子をコードする遺伝子)のドミナントネガティブ変異体を発現させて、例えば、メチオニン生合成の負の調節因子の活性を抑制することである。
【0129】
メチオニン生合成の負の調節因子(例えば、配列番号1、18、20または22により例示されるRXA00655)は好ましい転写調節因子である。転写調節因子は、いわゆる一対対称と呼ばれる反復配列を含む構造物と反対部分のDNAに結合するダイマーとして存在することが知られている。DNA結合の活性を、転写調節因子のアミノ酸配列内で決定する。そのような転写調節因子のダイマー結合の構造的基本の例はSchumacher M.A.およびBrennan R.G. (2002) Molecular Microbiology. 45:885-93に見出すことができる。例えば、調節タンパク質の突然変異していない対立遺伝子および突然変異した対立遺伝子からなるヘテロダイマータンパク質を産生することにより、1個の細胞中で同じタンパク質の異なる対立遺伝子を発現させることは、そのような生物にドミナントネガティブ表現型を付与する。同じ遺伝子の突然変異していない対立遺伝子をも発現する生物において突然変異ドミナントネガティブリプレッサータンパク質を構築するための方法の例は、Journal of Molecular Biology (2002) 322(2): 311-24およびJournal of Biological Chemistry (1994). 269(11): 8246-54に見出すことができる。例えば、メチオニン生合成の前記の負の調節因子のDNA結合ドメインを不活化することができる。別の実施形態においては、mRNAの安定化および不安定化を、所与のmRNA分子の寿命を増加または減少させるための方法として用いることができる。所与のmRNAの寿命に影響を与える方法は、Smolke C.D.およびKeasling J.D. (2002) Biotechnology & Bioengineering. 78(4): 412-24、Smolke C.D.ら(2001) Metabolic Engineering 3(4): 313-21、およびCarrier T.A.およびKeasling J.D. (1999) Biotechnology Progress 15(1): 58-64に見出すことができる。遺伝子の発現をモジュレートするのに用いることができる別の方法としては、遺伝子、例えば、メチオニン生合成の調節タンパク質をコードする遺伝子からの発現を増加または阻害または低下させるDNA結合タンパク質の発現が挙げられる。
【0130】
遺伝子、例えば、メチオニン生合成の負の調節タンパク質をコードする遺伝子からの発現を阻害または低下させることは、例えば、ジンクフィンガータンパク質クラスの転写因子の特異的DNA結合タンパク質を利用することによるものであってよい。前記因子は、例えば、抑制しようとする遺伝子の調節領域に向けられたものであってもよい。前記因子の利用により、対応する遺伝子配列を変更することなく、発現を抑制することができる。特定の標的配列に結合することができる人工DNA結合因子を構築する方法は当業者には公知である。例えば、メチオニン生合成の正の調節因子をコードする遺伝子の発現を増加させることは、上記の人工DNA結合因子を転写活性化ドメインと融合させることによって、転写の人工的な開始因子を作製することにより、前記因子を使用することによるものであってよい(Dreier Bら(2001) J Biol Chem 276(31): 29466-78; Dreier Bら(2000) J Mol Biol 303(4): 489-502; Beerli RRら(2000) Proc Natl Acad Sci USA 97(4): 1495-1500; Beerli RRら(2000) J Biol Chem 275(42): 32617-32627; Segal DJおよびBarbas CF 3rd. (2000) Curr Opin Chem Biol 4(1): 34-39; Kang JSおよびKim JS (2000) J Biol Chem 275(12): 8742-8748; Beerli RRら(1998) Proc Natl Acad Sci USA 95(25): 14628-14633; Kim JSら(1997) Proc Natl Acad Sci USA 94(8): 3616-3620; Klug A (1999) J Mol Biol 293(2): 215-218; Tsai SYら(1998) Adv Drug Deliv Rev 30(1-3): 23-31; Mapp AKら(2000) Proc Natl Acad Sci USA 97(8): 3930-3935; Sharrocks ADら(1997) Int J Biochem Cell Biol 29(12): 1371-1387; Zhang Lら(2000) J Biol Chem 275(43): 33850-33860)。また、遺伝子発現の抑制は、例えば、ポリアミド型のカスタマイズされた低分子量合成化合物を使用することによるものであってもよい(Dervan PBおよびBurli RW (1999) Current Opinion in Chemical Biology 3: 688-693; Gottesfeld JMら(2000) Gene Expr 9(1-2):77-91)。これらの化合物を、抑制、またはこの化合物が転写活性化ドメインとの融合物中で用いる場合、遺伝子発現の開始を可能にする任意の特異的DNA標的配列に対する合理的な基礎に採用することができる。特定の標的配列に結合することができる人工DNA結合因子を構築する方法は当業者には公知である(Bremer REら(2001) Bioorg Med Chem. 9(8): 2093-103; Ansari A.Z.ら(2001) Chem Biol. 8(6): 583-92; Gottesfeld J.M.ら(2001) J Mol Biol. 309(3): 615-29; Wurtz N.R.ら(2001) Org Lett 3(8): 1201-3; Wang C.C.ら(2001) Bioorg Med Chem 9(3): 653-7; Urbach A.R.およびDervan P.B. (2001) Proc Natl Acad Sci USA 98(8): 4343-8; Chiang S.Y.ら(2000) J Biol Chem. 275(32): 24246-54)。別の実施形態においては、メチオニン生合成の調節タンパク質をコードする遺伝子の発現もしくは活性を活性化または阻害または低下させるタンパク質結合因子の発現を利用することができる。
【0131】
メチオニン生合成の調節因子に結合し、それにより活性を抑制するのに好適なタンパク質結合因子は、例えば、アプタマー(Famulok MおよびMayer G (1999) Curr Top Microbiol Immunol 243: 123-36)、抗体、抗体フラグメント、または一本鎖抗体などのRNAに基づくものであってもよい。これらのタンパク質結合因子の構築および使用のための方法は、当業者には公知である。
【0132】
C. 本発明の使用および方法
本明細書に記載の核酸分子、タンパク質、タンパク質相同体、融合タンパク質、プライマー、トランスジェニック発現カセット、発現ベクター、および宿主細胞を、以下の方法:ファインケミカル、例えば、メチオニンなどの所望の化合物の細胞生産のモジュレーション;コリネバクテリウム・グルタミカムおよび関連生物の同定;コリネバクテリウム・グルタミカムに関連する生物のゲノムのマッピング;目的のコリネバクテリウム・グルタミカム配列の同定および局在化;進化の研究;機能にとって必要なMRタンパク質領域の決定;MRタンパク質活性のモジュレーション;および1種以上の代謝経路の活性のモジュレーション、の1つ以上において用いることができる。
【0133】
本発明のMR核酸分子は、様々な用途を有する。本発明のMR核酸分子の操作、例えば、それぞれ、該核酸またはタンパク質分子の発現もしくは活性を抑制または増加させることは、メチオニン生合成のモジュレーションをもたらす。例えば、メチオニン生合成の正の調節因子であるRXN02910を過剰発現するか、またはその発現が増加したコリネバクテリウム・グルタミカム株は、メチオニンまたはメチオニン生合成経路の他の化合物の産生の十分な増加を示す。さらに、メチオニン生合成の負の調節因子であるRXN00655が欠損するか、またはその発現が抑制されたコリネバクテリウム・グルタミカム株も、メチオニンまたはメチオニン生合成経路の他の化合物の産生の十分な増加を示す。
【0134】
さらに、本発明のMR核酸分子の操作は、野生型MRタンパク質とは機能的に異なるMRタンパク質の産生をもたらし得る。これらのタンパク質を、効率もしくは活性を改良することができ、細胞中で通常より多い数で存在させることができ、または効率もしくは活性を低下させることができる。
【0135】
本発明は、MRタンパク質自身もしくは基質もしくはMRタンパク質の結合パートナーと相互作用させるか、または本発明のMR核酸分子の転写もしくは翻訳をモジュレートすることにより、MRタンパク質の活性をモジュレートする分子をスクリーニングする方法を提供する。そのような方法において、本発明の1種以上のMRタンパク質を発現する微生物を、1種以上の試験化合物と接触させ、MRタンパク質の活性もしくは発現レベルに対する各試験化合物の効果を評価する。
【0136】
活性におけるそのような変化は、コリネバクテリウム・グルタミカムに由来する1種以上のファインケミカル、例えば、メチオニンの収率、生産、および/または生産効率を直接的にモジュレートすることができる。例えば、MRタンパク質、例えば、所望のファインケミカルの生合成タンパク質をコードする遺伝子の転写もしくは翻訳を活性化する、メチオニン生合成の正の調節因子、例えばRXN02910の活性を最適化することにより、またはMRタンパク質、例えば、そのような遺伝子の転写もしくは翻訳を抑制する、メチオニン生合成の負の調節因子、例えばRXA00655の活性を低下させるか、もしくは無効にすることにより、その生合成経路の活性または活性の速度を増加させることもできる。同様に、MRタンパク質が所望のファインケミカルの分解経路に関与するタンパク質を構成的に翻訳後に不活性化するように、該タンパク質の活性を変化させることにより、またはMRタンパク質がそのような遺伝子の転写もしくは翻訳を構成的に抑制するように、該タンパク質の活性を変化させることにより、該化合物の分解の低下に起因する、細胞からのファインケミカルの収率および/または生産の速度を増加させることができる。
【0137】
さらに、1種以上のMRタンパク質の活性をモジュレートすることにより、別々の代謝経路の相互関係に起因する、細胞からの1種以上のファインケミカルの生産を間接的に刺激するか、または生産の速度を改良することができる。例えば、1種以上のリジン生合成酵素の発現を活性化することによって収率、生産、および/または生産効率を増加させることにより、リジンがより大量に必要である場合に、細胞が天然により大きな量を必要とする、他のアミノ酸などの他の化合物の発現を付随して増加させることができる。また、細胞が発酵的培養の環境条件下(栄養素および酸素の供給が貧弱であり、該環境中の可能性のある毒性廃棄産物が高いレベルでありうる)でより良く増殖または複製することができるように、該細胞を介する代謝の調節を変更することができる。例えば、細胞外培地における高レベルの廃棄産物に応答する細胞膜産生にとって必要な分子の合成を抑制するMRタンパク質を、それがもはやそのような合成を抑制することができなくなるように、突然変異誘発することにより(最適以下の増殖条件下で細胞の増殖および分裂を阻害するために)、増殖条件が最適以下である場合でも培養における細胞の増殖および複製を増加させることができる。そのように増強された増殖または生存能力は、培養物中のこの化合物を産生する比較的多い数の細胞に起因して、発酵的培養からの所望のファインケミカルの収率および/または生産の速度をも増加させるべきである。
【0138】
コリネバクテリウム・グルタミカムからの、ファインケミカル、例えば、メチオニンの収率の増加をもたらすMRタンパク質のための上記の突然変異誘発戦略は、限定を意味するものではない;これらの戦略上の変更は当業者には用意に理解できるであろう。そのような戦略を用いて、および本明細書に開示された機構を組み込み、本発明の核酸およびタンパク質分子を用いて、所望の化合物の収率および/または生産効率が改良されるように、突然変異したMR核酸およびタンパク質分子を発現する細菌のコリネバクテリウム・グルタミカムまたは関連株を作製することができる。この所望の化合物は、生合成経路の最終産物および天然の代謝経路の中間体、ならびにコリネバクテリウム・グルタミカムの代謝においては天然に存在しないが、本発明のコリネバクテリウム・グルタミカム株によって産生される分子を含む、コリネバクテリウム・グルタミカムの任意の天然産物であってよい。
【0139】
また、本発明のMR分子を用いて、コリネバクテリウム・グルタミカムまたはその近接関連株である生物を同定することもできる。また、これらを用いて、微生物の混合集団中でコリネバクテリウム・グルタミカムまたはその関連株の存在を同定することができる。本発明は、ストリンジェントな条件下で、微生物のユニークな、もしくは混合された集団の培養物の抽出されたゲノムDNAを、この微生物にとってユニークであるコリネバクテリウム・グルタミカム遺伝子の領域に広がるプローブを用いてプローブ化することにより、いくつかのコリネバクテリウム・グルタミカム遺伝子の核酸配列を提供し、当業者であればこの生物が存在するかどうか確認することができる。
【0140】
本発明の核酸およびタンパク質分子は、ゲノムの特定領域のためのマーカーとしても役立ちうる。これは、ゲノムのマッピングだけでなく、コリネバクテリウム・グルタミカムタンパク質の機能的研究にとっても有用である。例えば、特定のコリネバクテリウム・グルタミカムのDNA結合タンパク質が結合するゲノムの領域を同定するために、コリネバクテリウム・グルタミカムのゲノムを消化し、その断片を該DNA結合タンパク質と共にインキュベートすることができる。該タンパク質に結合するものを、本発明の核酸分子、好ましくは容易に検出できる標識を用いてさらにプローブ化することができる;そのような核酸分子のゲノム断片への結合により、コリネバクテリウム・グルタミカムのゲノム地図への該断片の局在化が可能になり、異なる酵素を用いて複数回行った場合、該タンパク質が結合する核酸配列の迅速な決定が容易になる。さらに、本発明の核酸分子は、これらの核酸分子がブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)などの関連細菌におけるゲノム地図の構築のためのマーカーとして役立つように、関連種の配列と十分に相同であってよい。
【0141】
本発明を、限定として解釈されるべきではない以下の実施例によりさらに説明する。本出願を通して引用された、全参考文献、図面、特許出願、特許、公開された特許出願、表、および配列表の内容は参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【実施例】
【0142】
実施例1:コリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032の全ゲノムDNAの調製
コリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC 13032)の培養物を、BHI培地(Difco)中で激しく振とうしながら、30℃で一晩増殖させた。細胞を遠心分離により回収し、上清を廃棄し、細胞を5 mlのバッファーI(培養物の元の容量の5%-全ての指示された容量は100 mlの培養物容量について算出されたものである)中に再懸濁した。バッファーIの組成:140.34 g/lスクロース、2.46 g/l MgSO4 x 7H2O、10 ml/l KH2PO4溶液(100 g/l、KOHでpH 6.7に調整)、50 ml/l M12濃縮物(10 g/l (NH4)2SO4、1 g/l NaCl、2 g/l MgSO4 x 7H2O、0.2 g/l CaCl2、0.5 g/l酵母抽出物(Difco)、10 m/l微量元素混合物(200 mg/l FeSO4 x H2O、10 mg/l ZnSO4 x 7H2O、3 mg/l MnCl2 x 4H2O、30 mg/l H3BO3、20 mg/l CoCl2 x 6H2O、1 mg/l NiCl2 x 6H2O、3 mg/l Na2MoO4 x 2H2O、500 mg/l錯化剤(EDTAまたはクエン酸)、100 ml/lビタミン混合物(0.2 mg/lビオチン、0.2 mg/l葉酸、20 mg/l p-アミノ安息香酸、20 mg/lリボフラビン、40 mg/l パントテン酸カルシウム、140 mg/lニコチン酸、40 mg/l塩酸ピリドキソール、200 mg/lミオイノシトール)。リゾチームを、2.5 mg/mlの最終濃度となるように懸濁液に加えた。37℃にて約4時間インキュベートした後、細胞壁を分解し、得られたプロトプラストを遠心分離により回収した。ペレットを5 mlのバッファーIで1回、5 mlのTEバッファー(10 mM Tris-HCl、1 mM EDTA、pH 8)で1回洗浄した。ペレットを4 mlのTEバッファーに再懸濁し、0.5 mlのSDS溶液(10%)および0.5 mlのNaCl溶液(5M)を加えた。200μg/mlの最終濃度となるようにプロテイナーゼKを加えた後、懸濁液を37℃にて約18時間インキュベートした。DNAを、標準的な手順を用いて、フェノール、フェノール-クロロホルム-イソアミルアルコールおよびクロロホルム-イソアミルアルコールを用いた抽出により精製した。次いで、1/50容量の3M酢酸ナトリウムおよび2倍量のエタノールを加えることによりDNAを沈降させた後、20℃にて30分間インキュベートし、SS34ローター(Sorvall)を用いる高速遠心分離機中、12,000 rpmで30分間遠心分離した。DNAを、20μg/ml RNaseAを含む1 mlのTEバッファー中に溶解し、1000 mlのTEバッファーに対して、少なくとも3時間、4℃にて透析した。この時間の間、バッファーを3回交換した。0.4 mlの透析したDNA溶液のアリコートに、0.4 mlの2M LiClおよび0.8 mlのエタノールを加えた。-20℃にて30分間インキュベートした後、DNAを遠心分離(13,000 rpm、Biofuge Fresco、Heraeus、Hanau、Germany)により回収した。DNAペレットをTEバッファーに溶解した。この手順により調製されたDNAを、サザンブロッティングまたはゲノムライブラリーの構築などの全ての目的に用いることができる。
【0143】
実施例2:コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の、大腸菌におけるゲノムライブラリーの構築
実施例1に記載のように調製されたDNAを用いて、公知でよく確立された方法(例えば、Sambrook, J.ら(1989) “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, Cold Spring Harbor Laboratory PressまたはAusubel, F.M.ら(1994) “Current Protocols in Molecular Biology”, John Wiley & Sons.を参照)に従って、コスミドおよびプラスミドライブラリーを構築した。
【0144】
任意のプラスミドまたはコスミドを用いることができる。特に使用したものは、プラスミドpBR322 (Sutcliffe, J.G.(1979) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75:3737-3741);pACYC177 (Change & Cohen (1978) J. Bacteriol 134: 1141-1156)、pBSシリーズのプラスミド(pBSSK+、pBSSK-など;Stratagene, LaJolla, USA)、またはSuperCos1 (Stratagene, LaJolla, USA)もしくはLorist6 (Gibson, T.J., Rosenthal A.およびWaterson, R.H. (1987) Gene 53:283-286)などのコスミドであった。コリネバクテリウム・グルタミカムにおける使用に特異的な遺伝子ライブラリーを、プラスミドpSL109 (Lee, H.-S.およびA.J. Sinskey (1994) J. Microbiol. Biotechnol. 4: 256-263)を用いて構築することができる。
【0145】
実施例3:DNA配列決定およびコンピューターによる機能解析
実施例2に記載したゲノムライブラリーを、標準的な方法に従って、特に、ABI377配列決定装置(例えば、Fleischman, R.D.ら(1995) “Whole-genome Random Sequencing and Assembly of Haemophilus Influenzae Rd.”, Science, 269: 496-512)を用いるチェーンターミネーター法によりDNA配列決定に用いた。以下のヌクレオチド配列:5’-GGAAACAGTATGACCATG-3’(配列番号18)または5’-GTAAAACGACGGCCAGT-3’(配列番号19)を有する配列決定プライマーを用いた。
【0146】
実施例4:in vivoにおける突然変異誘発
コリネバクテリウム・グルタミカムのin vivoにおける突然変異誘発を、その遺伝子情報の完全性を維持する能力が低下した大腸菌または他の微生物(例えば、Bacillus spp.もしくはサッカロミセス・セレビジアなどの酵母)を介するプラスミド(もしくは他のベクター)DNAの継代により実施することができる。典型的なミューテーター(mutator)株は、DNA修復系に関する遺伝子(例えば、mutHLS、mutD、mutTなど;参考文献については、Rupp, W.D. (1996) DNA repair mechanisms, Escherichia coli and Salmonella, p. 2277-2294, ASM: Washingtonを参照されたい)における突然変異を有する。そのような株は当業者には周知である。そのような株の使用は、例えば、Greener, A.およびCallahan, M. (1994) Strategies 7: 32-34に例示されている。
【0147】
実施例5:コリネバクテリウム・グルタミカムの増殖 - 培地および培養条件
コリネバクテリアを、合成または天然の増殖培地中で培養する。コリネバクテリア用のいくつかの異なる増殖培地が当業界で周知であり、容易に入手可能である(Liebら(1989) Appl. Microbiol. Biotechnol., 32: 205-210; von der Ostenら(1998) Biotechnology Letters, 11: 11-16; 特許DE 4,120,867; Liebl (1992) “The Genus Corynebacterium”, The Procaryotes, Volume II, Balows, A.ら(編), Springer-Verlag)。これらの培地は、1種以上の炭素源、窒素源、無機塩、ビタミンおよび微量元素からなる。好ましい炭素源は、モノ-、ジ-、またはポリサッカリドなどの糖である。例えば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、ソルボース、リブロース、ラクトース、マルトース、スクロース、ラフィノース、スターチまたはセルロースは、非常に良好な炭素源として働く。また、糖蜜または糖精製に由来する副産物などの複雑な化合物を介して、糖を培地に供給することもできる。異なる炭素源の混合物を供給することも有利でありうる。他の可能性のある炭素源は、メタノール、エタノール、酢酸または乳酸などのアルコールおよび有機酸である。窒素源は、通常、有機もしくは無機の窒素化合物、またはこれらの化合物を含む材料である。窒素源の例としては、アンモニアガスまたはNH4Clもしくは(NH4)2SO4、NH4OHなどのアンモニア塩、硝酸塩、尿素、アミノ酸またはコーンスティープ液、大豆粉、大豆タンパク質、酵母抽出物、肉抽出物などの複雑な窒素源が挙げられる。
【0148】
培地中に含まれうる無機塩化合物としては、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、コバルト、モリブデン、カリウム、マンガン、亜鉛、銅および鉄の塩酸塩、リン酸塩または硫酸塩が挙げられる。キレート化化合物を培地に添加して、溶液中で金属イオンを維持することができる。特に有用なキレート化化合物としては、ジヒドロキシフェノール、ライクカテコールもしくはプロトカテコエート、またはクエン酸などの有機酸が挙げられる。この培地は、典型的にはビタミンもしくは増殖促進剤などの他の増殖因子をも含み、その例としては、ビオチン、リボフラビン、チアミン、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸およびピリドキシンが挙げられる。増殖因子および塩は、酵母抽出物、糖蜜、コーンスティープ液などの複雑な培地成分に由来することが多い。培地化合物の抽出組成物は、中間実験に強く依存し、各特定例について個々に決められる。培地の最適化に関する情報は、教科書「Applied Microbiol. Physiology, A Practical Approach」(編、P.M. Rhodes, P.F. Stanbury, IRL Press (1997) pp. 53-73, ISBN 0 19 963577 3)で入手可能である。また、スタンダード1(Merck)またはBHI(grain heart infusion, DIFCO)などの、商業的な供給業者から増殖培地を選択することも可能である。
【0149】
全ての培養成分を、加熱(1.5バールおよび121℃にて20分間)または滅菌濾過により滅菌する。この成分を、一緒に滅菌してもよいし、または必要に応じて、別々に滅菌してもよい。全ての培地成分は増殖の開始時に存在してもよいし、または必要に応じて、これらを連続的もしくはバッチ式に添加してもよい。
【0150】
培養条件を、各実験について別々に規定する。温度は、15℃〜45℃の範囲にあるべきである。温度を一定に維持してもよいし、または実験の間に変化させてもよい。培地のpHは、5〜8.5の範囲にあるべきであるが、約7.0が好ましく、培地へのバッファーの添加により維持することができる。この目的のためのバッファーの例は、リン酸カリウムバッファーである。MOPS、HEPES、ACESなどの合成バッファーを代替的または同時に用いることができる。また、増殖中にNaOHまたはNH4OHの添加を介して、一定の培養pHを維持することもできる。酵母抽出物などの複雑な培地成分を用いる場合、追加バッファーの必要性を減少させることができるが、これは多くの複雑な化合物が高いバッファー能力を有するという事実に起因するものである。発酵装置を微生物の培養に用いる場合、気体アンモニアを用いてpHを制御することもできる。
【0151】
インキュベーション時間は、通常、数時間から数日の範囲である。この時間を、ブロス中に蓄積する生成物の量が最大となるように選択する。開示された増殖実験を、マイクロタイタープレート、ガラス管、ガラスフラスコまたは異なる大きさのガラス製もしくは金属製の発酵装置などの種々の容器中で実行することができる。多数のクローンをスクリーニングするためには、バッフルを用いて、または用いずに、マイクロタイタープレート、ガラス管または振とうフラスコ中で前記微生物を培養するべきである。10%(容量で)の必要な増殖培地を充填した、100 mlの振とうフラスコを用いるのが好ましい。このフラスコを、100〜300 rpmの速度範囲を用いる回転式振とう器(振幅25 mm)上で振とうするべきである。湿度を維持することにより、蒸発による損失を減少させることができる;あるいは、蒸発による損失に関する機械的な補正を行うべきである。
【0152】
遺伝的に改変されたクローンを試験する場合、改変されていない対照クローンまたは挿入物を含まない基本プラスミドを含む対照クローンも試験するべきである。この培地に、30℃でインキュベートしたCMプレート(10 g/lグルコース、2.5 g/l NaCl、2 g/l尿素、10 g/lポリペプトン、5 g/l酵母抽出物、5 g/l肉抽出物、22 g/l NaCl、2 g/l尿素、10 g/lポリペプトン、5 g/l酵母抽出物、5 g/l肉抽出物、22 g/l寒天、2M NaOHを用いてpH6.8)などの寒天プレート上で増殖させた細胞を用いて、0.5〜1.5のOD600で接種する。培地の接種を、CMプレートからのコリネバクテリウム・グルタミカム細胞の生理食塩水懸濁液の導入またはこの細菌の液体前培養物の添加により達成する。
【0153】
実施例6:突然変異タンパク質の機能のin vitroにおける分析
DNAに結合するタンパク質の活性を、DNAバンドシフトアッセイ(ゲル遅延アッセイとも呼ぶ)などのいくつかのよく確立された方法により測定することができる。他の分子の発現に対するそのようなタンパク質の効果を、リポーター遺伝子アッセイ(Kolmar, H.ら(1995) EMBO J. 14: 3895-3904およびそこに記載された参考文献に記載のものなど)を用いて測定することができる。β-ガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質などの酵素を用いる、原核および真核細胞における用途のためのリポーター遺伝子試験系が周知であり、確立されている。
【0154】
実施例7:所望の生成物の産生に対する突然変異タンパク質の影響の分析
所望の化合物(アミノ酸など)の産生に対するコリネバクテリウム・グルタミカムにおける遺伝子改変の効果を、好適な条件(上記のものなど)下で改変された微生物を増殖させ、培地および/または細胞成分を所望の生成物(すなわち、アミノ酸)の産生の増加について分析することにより評価することができる。そのような分析技術は当業者には周知であり、分光分析、薄層クロマトグラフィー、種々の染色法、酵素的および微生物学的方法、ならびに高速液体クロマトグラフィーなどの分析的クロマトグラフィーが挙げられる(例えば、Ullman, Encyclopedia of Industrial Chemistry, vol. A2, p. 89-90 and p. 443-613, VCH: Weinheim (1985); Fallon, A.ら(1987) “Applications of HPLC in Biochemistry”: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, vol. 17; Rehmら(1993) Biotechnology, vol. 3, Chapter III: “Product recovery and purification”, p. 469-714, VCH: Weinheim; Belter, P.A.ら(1988) Bioseparations: downstream processing for biotechnology, John WileyおよびSons; Kennedy, J.F.およびCabral, J.M.S. (1992) Recovery processes for biological materials, John WileyおよびSons; Shaeiwitz, J.A.およびHenry, J.D. (1988) Biochemical separations, : Ulmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, vol. B3, Chapter 11, p. 1-27, VCH: Weinheim;ならびにDechow, F.J. (1989) Separation and purification techniques in biotechnology, Noyes Publications.を参照されたい)。
【0155】
発酵の最終生成物の測定に加えて、中間体および副生成物などの所望の化合物の産生に用いられる代謝経路の他の成分を分析して、前記化合物の全体の収率、生産、および/または生産効率を決定することもできる。分析方法としては、培地中の栄養素(例えば、糖、炭水化物、窒素源、ホスフェートおよび他のイオンなど)のレベルの測定、バイオマス組成物および増殖の測定、生合成経路の共通の代謝物の産生の分析、ならびに発酵の間に産生された気体の測定が挙げられる。これらの測定に関する標準的な方法は、Applied Microbial Physiology, A Practical Approach, P.M. RhodesおよびP.F. Stanbury, (編), IRL Press, p. 103-129; 131-163;および165-192 (ISBN: 0199635773)ならびにそこに引用された参考文献に概略されている。
【0156】
実施例8:コリネバクテリウム・グルタミカムの培養物からの所望の生成物の精製
コリネバクテリウム・グルタミカム細胞または上記培養物の上清からの所望の生成物の回収を、当業界で周知の様々な方法により行うことができる。所望の生成物が細胞から分泌されない場合、この細胞を低速遠心分離により培養物から回収し、得られた細胞を、機械的な力または超音波などの標準的な技術により溶解することができる。細胞破片を遠心分離により除去し、可溶性タンパク質を含む上清画分を、所望の化合物のさらなる精製のために保持する。生成物がコリネバクテリウム・グルタミカムの細胞から分泌される場合、この細胞を低速遠心分離により培養物から除去し、上清画分をさらなる精製のために保持する。
【0157】
いずれかの精製方法から得た上清画分を、好適な樹脂を用いるクロマトグラフィーにかけるが、ここでは、所望の分子はクロマトグラフィー樹脂上に保持されるが、サンプル中の多くの不純物は保持されないか、または不純物は樹脂により保持されるが、サンプルは保持されない。そのようなクロマトグラフィー工程を、同じか、または異なるクロマトグラフィー樹脂を用いて、必要なだけ繰り返すことができる。当業者であれば、好適なクロマトグラフィー樹脂の選択および精製しようとする特定の分子のためのその最も効果的な用途に精通しているであろう。精製された生成物を、濾過または限外濾過により濃縮し、生成物の安定性が最大化される温度で保存することができる。
【0158】
当業界で公知の精製方法が多く存在するが、先述の精製方法は限定されることを意味するものではない。そのような精製技術は、例えば、Bailey, J.E. & Ollis, D.F. Biochemical Engineering Fundamentals, McGraw-Hill: New York (1986)に記載されている。
【0159】
単離された化合物の同一性および純度を、当業界で標準的な技術により評価することができる。これらのものとしては、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、分光分析法、染色法、薄層クロマトグラフィー、NIRS、酵素アッセイ、または微生物的方法が挙げられる。そのような分析方法は、Patekら(1994) Appl. Environ. Microbiol. 60: 133-140; Malakhovaら(1996) Biotekhnologiya 11: 27-32;およびSchmidtら(1998) Bioprocess Engineer. 19: 67-70. Ulmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, (1996) vol. A27, VCH: Weinheim, p. 89-90, p. 521-540, p. 540-547, p. 559-566, 575-581およびp. 581-587; Michal, G. (1999) Biochemical Pathways: An Atlas of Biochemistry and Molecular Biology, John WileyおよびSons; Fallon, A.ら(1987) Applications of HPLC in Biochemistry : Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, vol. 17に概説されている。
【0160】
実施例9:本発明の遺伝子配列の分析
2つの配列間の配列の比較および相同性%の決定は当業界で公知の技術であり、KarlinおよびAltschul(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77で改変された、KarlinおよびAltschul(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68のアルゴリズムなどの数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。そのようなアルゴリズムはAltshulら(1990) J. Mol. Biol. 215:403-10のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み入れられている。BLASTヌクレオチド検索を、NBLASTプログラム(スコア=100、ワード長=12)を用いて実施して、本発明のMR核酸分子と相同なヌクレオチド配列を取得することができる。BLASTタンパク質検索を、XBLASTプログラム(スコア=50、ワード長=3)を用いて実施して、本発明のMRタンパク質と相同なアミノ酸配列を取得することができる。比較目的でギャップを有するアラインメントを取得するために、ギャップBLASTを、Altschulら(1997) Nucleic Acids Res. 25(17):3389-3402に記載のように利用することができる。BLASTおよびギャップBLASTプログラムを用いる場合、当業者であれば、分析しようとする特定の配列のためにプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のパラメーターを最適化する方法を知っているであろう。
【0161】
配列の比較に用いられる数学的アルゴリズムの別の例は、MeyersおよびMiller((1998) Comput. Appl. Biosci. 4:11-17)のアルゴリズムである。そのようなアルゴリズムはGCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み入れられている。アミノ酸配列を比較するためのALIGNプログラムを用いる場合、PAM120重量残渣表、ギャップ長ペナルティ12、およびギャップペナルティ4を用いることができる。配列分析のためのさらなるアルゴリズムは当業界で公知であり、TorelliおよびRobotti(1994) Comput. Appl. Biosci. 10:3-5に記載されたADVANCEおよびADAM;ならびにPearsonおよびLipman(1988) P.N.A.S. 85:2444-8に記載されたFASTAが挙げられる。
【0162】
2つのアミノ酸配列間の相同性%を、Blosum 62マトリックスまたはPAM250マトリックス、および12、10、8、6、もしくは4のギャップ重量および2、3、もしくは4の長重量を用いて、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comにて入手可能)中のGAPプログラムを用いて達成することもできる。2つの核酸配列間の相同性%を、50のギャップ重量および3の長重量などの標準的なパラメーターを用いて、GCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムを用いて達成することができる。
【0163】
実施例10:DNAマイクロアレイの構築および操作
本発明の配列を、DNAマイクロアレイの構築および適用においてさらに用いることができる(DNAアレイの設計、方法、および使用は当業界で周知であり、例えば、Schena, M.ら(1995) Science 270: 467-470; Wodicka, L.ら (1997) Nature Biotechnology 15: 1359-1367; DeSaizieu, A.ら(1998) Nature Biotechnology 16: 45-48;およびDeRisi, J.L.ら(1997) Science 278: 680-686に記載されている)。
【0164】
DNAマイクロアレイは、ニトロセルロース、ナイロン、ガラス、シリコン、もしくはその他の材料からなる固体または可撓性の支持体である。核酸分子を、指示された様式でその表面に付着させることができる。適当に標識化した後、他の核酸または核酸混合物を、固定化した核酸分子とハイブリダイズさせ、標識を用いて、規定の領域でハイブリダイズした分子の個々のシグナル強度をモニターおよび測定することができる。この方法により、印加された核酸サンプルまたは混合物中の全核酸または選択された核酸の相対量または絶対量の同時的な定量が可能になる。従って、DNAマイクロアレイにより、複数(6800以上)の核酸の発現を平行して分析することが可能になる(例えば、Schena, M. (1996) BioEssays 18(5): 427-431を参照)。
【0165】
本発明の配列を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応などの核酸増幅反応により1個以上のコリネバクテリウム・グルタミカム遺伝子の規定の領域を増幅することができるオリゴヌクレオチドプライマーを設計することができる。5’もしくは3’オリゴヌクレオチドプライマーまたは好適なリンカーの選択および設計により、得られたPCR産物を、上記(また、例えば、Schena, M.ら(1995) Science 270: 467-470にも記載されている)の支持媒体の表面に共有結合させることができる。
【0166】
核酸マイクロアレイを、Wodicka, L.ら(1997) Nature Biotechnology 15: 1359-1367により記載されたようなin situオリゴヌクレオチド合成により構築することもできる。写真平板法により、マトリックスの正確に規定された領域を光に露出する。それにより、光不安定な保護基は活性化され、ヌクレオチド付加を受けるが、光から遮断された領域はいかなる改変も受けない。それに続く保護および光活性化の周期により、規定の位置で異なるオリゴヌクレオチドの合成が可能になる。本発明の遺伝子の小さい規定の領域を、固相オリゴヌクレオチド合成によりマイクロアレイ上で合成することができる。
【0167】
サンプルまたはヌクレオチドの混合物中に存在する本発明の核酸分子を、マイクロアレイにハイブリダイズさせることができる。これらの核酸分子を、標準的な方法に従って標識することができる。簡単に述べると、核酸分子(例えば、mRNA分子またはDNA分子)を、例えば、逆転写またはDNA合成の間に、放射能標識された、または蛍光標識されたヌクレオチドの取り込みにより標識する。マイクロアレイとの標識された核酸のハイブリダイゼーションは記載されている(例えば、Schena, M.ら(1995) 上掲;Wodicka, L.ら(1997) 上掲;およびDeSaizieu A.ら(1998) 上掲)。ハイブリダイズした分子の検出および定量を、特異的な取り込まれた標識に対して行う。放射活性標識を、例えば、Schena, M.ら(1995) 上掲に記載のように検出することができ、蛍光標識を、例えば、Shalonら(1996) Genome Research 6: 639-645の方法により検出することができる。
【0168】
上記のような、DNAマイクロアレイ技術への本発明の配列の適用により、コリネバクテリウム・グルタミカムの異なる株または他のコリネバクテリアの比較分析が可能になる。例えば、個々の転写物のプロフィールならびに病原性、生産性およびストレス寛容性などの特異的および/または所望の株特性にとって重要である遺伝子の同定に基づく株間変動の試験は、核酸アレイ法により容易になる。また、発酵反応の過程における本発明の遺伝子の発現プロフィールの比較が、核酸アレイ技術を用いて可能になる。
【0169】
実施例11:細胞タンパク質集団の力学(プロテオミクス)の分析
本発明の遺伝子、組成物、および方法を、タンパク質集団の相互作用および力学(「プロテオミクス」と呼ぶ)の研究に適用することができる。目的のタンパク質集団としては、限定されるものではないが、コリネバクテリウム・グルタミカムの総タンパク質集団(例えば、他の生物のタンパク質集団との比較における)、特定の環境もしくは代謝条件(例えば、高温もしくは低温、または高pHもしくは低pHでの発酵中)下で活性を有するタンパク質、または増殖および発達の特定の相中において活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0170】
タンパク質集団を、ゲル電気泳動などの種々の周知の技術により分析することができる。細胞タンパク質を、例えば、溶解もしくは抽出により取得し、種々の電気泳動技術を用いて互いに分離することができる。ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)は、大まかにはタンパク質の分子量に基づいてタンパク質を分離するものである。等電点ポリアクリルアミドゲル電気泳動(IEF-PAGE)は、タンパク質の等電点(タンパク質のアミノ酸配列だけでなく、翻訳後修飾をも反映する)によりタンパク質を分離するものである。別の、より好ましいタンパク質分析方法は、2次元ゲル電気泳動(例えば、Hermannら(1998) Electrophoresis 19: 3217-3221; Fountoulakisら(1998) Electrophoresis 19: 1193-1202; Langenら(1997) Electrophoresis 18: 1184-1192; Antelmannら(1997) Electrophoresis 18: 1451-1463に記載されている)としても知られる、IEF-PAGEおよびSDS-PAGEの両方の連続的組合せである。キャピラリーゲル電気泳動などの他の分離技術をタンパク質分離に用いることもできる;そのような技術は当業界で周知である。
【0171】
これらの方法により分離されたタンパク質を、染色または標識化などの標準的な技術により可視化することができる。好適な染料は当業界で公知であり、クマシーブリリアントブルー、銀染色、またはSypro Ruby(Molecular Probes)などの蛍光染料が挙げられる。コリネバクテリウム・グルタミカムの培地中への放射能標識されたアミノ酸または他のタンパク質前駆体(例えば、35S-メチオニン、35S-システイン、14C-標識されたアミノ酸、15N-アミノ酸、15NO3もしくは15NH4+または13C-標識されたアミノ酸)の包含により、これらの細胞に由来するタンパク質を標識した後、それらを分離することができる。同様に、蛍光標識を用いることができる。これらの標識されたタンパク質を、上記の技術に従って、抽出、単離および分離することができる。
【0172】
これらの技術により可視化されたタンパク質を、用いた染料または標識の量を測定することによりさらに分析することができる。所与のタンパク質の量を、例えば、視覚的な方法を用いて定量的に測定し、同じゲルまたは他のゲル中の他のタンパク質の量と比較することができる。ゲル上のタンパク質の比較を、例えば、視覚的な比較により、顕微鏡により、ゲルの画像走査および分析により、または写真フィルムおよびスクリーンの使用を介して行うことができる。そのような技術は当業界で周知である。
【0173】
任意の所与のタンパク質の同一性を決定するために、直接配列決定または他の標準的な技術を用いることができる。例えば、N-および/またはC-末端アミノ酸配列決定(Edman分解など)と同時に、質量分析法を用いることができる(特に、MALDIまたはESI技術(例えば、Langenら(1997) Electrophoresis 18: 1184-1192を参照))。本明細書で提供されるタンパク質配列を、これらの技術によるコリネバクテリウム・グルタミカムタンパク質の同定に用いることができる。
【0174】
これらの方法により得られた情報を用いて、種々の生物学的条件(例えば、異なる微生物、発酵の時点、培地条件、または異なるバイオトープなど)に由来する異なるサンプル間のタンパク質の存在、活性、または修飾のパターンを比較することができる。そのような実験のみから得られたデータ、または他の技術と組み合わせて得られたデータを、所与の(例えば、代謝)状況における種々の生物の振る舞いを比較するため、ファインケミカルを産生する株の生産性を増加させるため、またはファインケミカルの生産効率を増加させるためなどの種々の用途に用いることができる。
【0175】
実施例12:メチオニン生合成の負の調節因子(RXA00655)を欠損したコリネバクテリウム・グルタミカム株の調製
メチオニン生合成の負の調節因子(RXA00655)を欠損したコリネバクテリウム・グルタミカム株の調製を、相同組換えに基づく自己クローニング技術を用いることにより行う。前記技術の原理を図1に示す。
【0176】
メチオニン生合成の負の調節因子(RXA00655)を欠損したコリネバクテリウム・グルタミカム株の調製のためのpS_delta655 (配列番号3)と命名したプラスミドを、RXA00655 (配列番号1)の5’および3’領域のPCR増幅された断片を、標準的な方法(Sambrookら(1989), Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor; Innisら(1990) PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications, Academic Press)を用いて、ベクターpCLiK5MCS_integrativ_sacB(配列番号4)中に連結することにより構築する。PCR増幅された5’断片を、プライマーを導入されたXhoI部位によりその5’末端に、および内因性NheI部位によりその3’末端にフランキングさせる。PCR増幅された3’断片を、プライマーにより導入された、NheI部位、次いでTAA停止コドンによりその5’末端に、およびプライマー導入されたMluI部位によりその3’末端にフランキングさせる。
【0177】
pS_delta655(配列番号3)を、記載(Lieblら(1989) FEMS Microbiol Let 53: 229-303)のようにコリネバクテリウム・グルタミカム株ATCC13032中にエレクトロポレーションする。分子間相同組換えにより取り込まれたプラスミドによる形質転換体を、50 mg/lカナマイシンを供給されたCM寒天プレート上で選択する。
【0178】
CM寒天:
10.0 g/L D-グルコース
2.5 g/L NaCl
2.0 g/L 尿素
10.0 g/L バクトペプトン(Difco)
5.0 g/L 酵母抽出物 (Difco)
5.0 g/L 牛肉抽出物(Difco)
22.0 g/L 寒天(Difco)
オートクレーブ(20分、121℃)
【0179】
カナマイシン耐性クローンを、CM培地中で一晩、非選択的に(カナマイシンを用いずに)インキュベートして、RXA00655の染色体コピーと一緒にプラスミドの切り出しを達成する。培養物を、10%スクロースを含むCM寒天上に塗布する。取り込まれたpS_delta655プラスミドが切り出されたクローンだけがスクロースを含むCM寒天上で増殖することができるが、これはpS_delta655中のsacB遺伝子がスクロースをコリネバクテリウム・グルタミカムにとっては毒性的であるレバンスクロースに転換するからである。切り出しにおいて、RXA00655の欠失構築物またはRXA00655の染色体コピーがプラスミドと一緒に排出される。
【0180】
RXA00655の染色体コピーを排出したクローンを同定するために、全ての可能性のあるクローンに由来する染色体DNAを調製し(Tauchら(1995) Plasmid 33: 168-179またはEikmannsら(1994) Microbiology 140: 1817-1828)、Sambrookら(1989), Molecular Cloning. A Laboratoy Manual, Cold Spring Harbor)に従ってサザンブロット分析を用いて制御する。ノックアウト株を、ATCC13032_delta_rxa00655と呼ぶ。
【0181】
実施例15:ATCC13032_DELTA_RXA00655を用いるメチオニンの調製
株ATCC13022およびATCC13032_delta_rxa00655を、30℃で2日間、CM寒天プレート上でインキュベートする。細胞をプレートから引っかき、生理食塩水中に懸濁する。主培養のために、100 mlコニカルフラスコ中の10 mlの培地IIおよび0.5 gのオートクレーブしたCaCO3(Riedel de Haen)に、1.5の最終OD600nmになるように細胞懸濁液を接種する。培養を30℃で72時間行う。
【0182】
培地II:
40 g/l スクロース
60 g/l 糖蜜(100%糖含量上で算出)
25 g/l (NH4)2SO4
0.4 g/l MgSO4*7H2O
0.6 g/l KH2PO4
0.3 mg/l チアミン*HCl
1 mg/l ビオチン(NH4OHでpH 8.0に調整した1 mg/mlの滅菌濾過したストック溶液から)
2 mg/l FeSO4
2 mg/l MnSO4 NH4OHでpH 7.8にする。その後、培地をオートクレーブ(121℃、20分)する。ストック溶液(200μg/ml、滅菌濾過されたもの)に由来するさらなるビタミンB12を、200μg/lの最終濃度まで添加する。
【0183】
形成されたメチオニンの量を、Agilentからの方法に従って、Agilent 1100シリーズLC系HPLCを用いて決定した。オルトフタルアルデヒドプレカラムにより送達されたアミノ酸を、Hypersil AAカラム(Agilent)上で分離する。株ATCC13032_delta_rxa00655は、ATCC13032より有意に多くのメチオニンを産生する。
【0184】
実施例16:メチオニン生合成の正の調節因子(RXN02910)を過剰発現するコリネバクテリウム・グルタミカム株の調製
メチオニン生合成の正の調節因子(RXN02910;配列番号5または6)を過剰発現させるためのpGrxn2910(配列番号13)と命名したプラスミドを、RXN02910のPCR増幅された断片(配列番号9)を、標準的な方法(Sambrookら(1989), Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor; Innisら(1990) PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications, Academic Press)を用いて、ベクターpG(配列番号12)中に連結することにより構築する。以下のオリゴヌクレオチドプライマーの対を、増幅に用いる:
センスプライマー(配列番号7):
5’-GAGAGACTCGAGTGGTTTAGGGGATGAGAAACCG-3’
アンチセンスプライマー(配列番号8):
5’-CTCTCACTAGTCTACCGCGCCAACAACAGCG-3’
【0185】
PCR増幅された断片を、プライマーにより導入されたXhoI部位によりその5’末端に、およびプライマーにより導入されたBcuI部位によりその3’末端にフランキングさせる。増幅された断片は、RXN02910のオープンリーディングフレーム(ORF)と共に、プロモーターを含む対応する遺伝子のさらなる5’領域を含む。
【0186】
得られたプラスミドpGrxn02910(配列番号13)を、記載(Lieblら(1989) FEMS Microbiology Letters 53:299-303)のように、コリネバクテリウム・グルタミカム株ATCC13032中にエレクトロポレーションする。形質転換体を、50 mg/lカナマイシンを供給したCM寒天プレート上で選択する(上記を参照)。得られた株をATCC13032/pGrxn02910と命名する。
【0187】
実施例17:ATCC13032/PGRXN02910を用いるメチオニンの調製
株ATCC13032およびATCC13032/pGrxn02910を、30℃にて2日間、CM寒天プレート上でインキュベートする。細胞をプレートから引っかき、生理食塩水に懸濁する。主培養のために、100 mlコニカルフラスコ中の10 mlの培地II(上記を参照)および0.5 gのオートクレーブしたCaCO3(Riedel de Haen)に、1.5の最終OD600nmになるように細胞懸濁液を接種する。培養を30℃で72時間行う。ATCC13032/pGrxn02910の場合、全てのプレートおよび培養物は、さらなる50μg/lのカナマイシンを含む。形成されたメチオニンの量を、Agilentからの方法に従って、Agilent 1100シリーズLC系HPLCを用いて決定した。オルトフタルアルデヒドプレカラムにより派生されたアミノ酸を、Hypersil AAカラム(Agilent)上で分離する。株ATCC13032/pGrxn02910は、ATCC13032より有意に多くのメチオニンを産生する。
【0188】
実施例18:メチオニン生合成の正の調節因子(RXN02910)を欠損するコリネバクテリウム・グルタミカム株の調製
メチオニン生合成の正の調節因子(RXN02910)を欠損するコリネバクテリウム・グルタミカム株の調製を、カナマイシンにより選択可能なベクターの挿入により行う。
【0189】
メチオニン生合成の正の調節因子(RXN02910)を欠損するコリネバクテリウム・グルタミカム株の調製のためのpIntegrativ_delta2910(配列番号15)と命名したプラスミドを、rxn2910のPCR増幅された断片を、標準的な方法(Sambrookら(1989), Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor; Innisら(1990) PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications, Academic Press)を用いて、ベクターpIntegrativ(配列番号14)中に連結することにより構築する。PCR増幅された断片を、プライマーにより導入されたXhoI部位によりその5’末端に、およびプライマーにより導入されたEcoRV部位によりその3’末端にフランキングさせる。
【0190】
pIntegrativ_delta2910(配列番号15)を、記載(Lieblら(1989) FEMS Microbiology Let 53:299-303)のように、コリネバクテリウム・グルタミカム株ATCC13032中にエレクトロポレーションする。分子間相同組換えを介して組み込まれたプラスミドによる形質転換体を、50 mg/lカナマイシンを供給されたCM寒天プレート上で選択する。組み込まれたプラスミドを有し、かくしてRXN02910の染色体コピーを破壊したクローンを同定するために、潜在的なクローンに由来する染色体DNAを調製(Tauchら(1995) Plasmid 33: 168-179またはEikmannsら(1994) Microbiology 140: 1817-1828)し、Sambrookら(1989), Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harborに従うサザンブロット分析により制御する。
【0191】
ノックアウト株をATCC13032_delta_rxn02910と呼ぶ。形成されたメチオニンの量を、Agilentからの方法に従って、Agilent 1100シリーズLC系HPLCを用いて決定した。オルトフタルアルデヒドプレカラムにより派生されたアミノ酸を、Hypersil AAカラム(Agilent)上で分離する。
【0192】
株ATCC13032_delta_rxn02910は、ATCC13032よりも有意に少ないメチオニンを産生するが、それにより、rxn02910が実際にメチオニン生合成の正の調節因子であることを示している。
【0193】
等価物
当業者であれば、日常的に過ぎない実験を用いて、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、または確認することができるであろう。そのような等価物は添付の特許請求の範囲により包含されることが意図される。
【表1】

【0194】

【0195】

【0196】

【0197】

【0198】
ATCC: American Type Culture Collection, Rockville, MD, USA
FERM: Fermentation Research Institute, Chiba, Japan
NRRL: ARS Culture Collection, Northern Regional Research Laboratory, Peoria, IL, USA
CECT: Coleccion Espanola de Cultivos Tipo, Valencia, Spain
NCIMB: National Collection of Industrial and Marine Bacteria Ltd., Aberdeen, UK
CBS: Centraalbureau voor Schimmelcultures, Baarn, NL
NCTC: National Collection of Type Cultures, London, UK
DSMZ: Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen, Braunschweig, Germany
参考文献については、Sugawara, H.ら(1993) World directory of collections of cultures of microorganisms: Bacteria, fungi and yeasts (第4版), World federation for culture collections world data center on microorganisms, Saimata, Japanを参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】図1は、メチオニン生合成の負の調節因子(RXA00655、配列番号1に記載)を欠損するコリネバクテリウム・グルタミカム株の調製に用いられる相同組換えに基づく自己クローニング技術の原理を示す。
【配列表】



























【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄含有化合物の産生がモジュレートされるような条件下でメチオニン生合成の少なくとも1つの調節因子の発現または活性がモジュレートされた微生物を培養することを含む、微生物による硫黄含有化合物の産生をモジュレートする方法。
【請求項2】
前記硫黄含有化合物がメチオニン、システイン、S-アデノシルメチオニンおよびホモシステインからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
メチオニンの産生が増加する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
メチオニン生合成の調節因子が、正または負の転写調節タンパク質である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法がメチオニン生合成の正の調節因子の過剰発現を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
メチオニン生合成の正の調節因子がRXN02910である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
RXN02910が、
a) 配列番号5または16のヌクレオチド配列と少なくとも60%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸分子、
b) 配列番号5または16のヌクレオチド配列を含む核酸の少なくとも30ヌクレオチドの断片を含む核酸分子、
c) 配列番号6または17のアミノ酸配列と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子、および
d)配列番号6または17のアミノ酸配列の少なくとも10個の連続するアミノ酸残基を含む、配列番号6または17のアミノ酸配列を含むポリペプチドの断片をコードする核酸分子、
からなる群より選択される核酸分子を含む核酸分子によりコードされる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
RXN02910が、配列番号5または配列番号16に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子によりコードされる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
メチオニンの産生が増加するような条件下で、メチオニン生合成の負の調節因子を欠損する微生物またはメチオニン生合成の負の調節因子の活性の低下を示す微生物を培養することを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
メチオニン生合成の負の調節因子がRXA00655である、請求項1〜4または9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
RXA00655が、
a) 配列番号1、18、20または22のヌクレオチド配列と少なくとも60%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸分子、
b) 配列番号1、18、20または22のヌクレオチド配列を含む核酸の少なくとも30個のヌクレオチドの断片を含む核酸分子、
c) 配列番号2、19、21または23のアミノ酸配列と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子、および
d) 配列番号2、19、21、または23のアミノ酸配列の少なくとも10個の連続するアミノ酸残基を含む、配列番号2、19、21、または23のアミノ酸配列を含むポリペプチドの断片をコードする核酸分子、
からなる群より選択される核酸分子を含む核酸分子によりコードされる、請求項1〜4または9または10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
RXA00655が、配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子によりコードされる、請求項1〜4または9〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
欠損または活性の低下が、
a) 前記負の調節タンパク質をコードする遺伝子のノックアウト、
b) 負の調節タンパク質をコードする遺伝子のコード領域、非コード領域、もしくは調節領域中で誘導することができる、前記遺伝子の突然変異誘発、
c) 前記負の調節タンパク質をコードするRNAの少なくとも一部と相補的であるアンチセンスRNAの発現、
d) 前記負の調節タンパク質をコードする遺伝子からの発現を阻害もしくは低下させるDNA結合タンパク質の発現、
e) 前記負の調節タンパク質をコードする遺伝子からの発現を阻害もしくは低下させるタンパク質結合因子の発現、
f) 前記負の調節タンパク質のドミナントネガティブ変異体の発現、および
g) 前記負の調節タンパク質をコードするmRNAの不安定化、
からなる群より選択される方法により達成される、請求項1〜4または9〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
メチオニンが産生されるような条件下で、RXN02910を過剰発現するか、またはRXN02910活性が増加した微生物を培養することを含む、メチオニンの生産方法。
【請求項15】
メチオニンが産生されるような条件下で、RXA00655の発現が抑制されるか、またはその活性が低下した微生物を培養することを含む、メチオニンの生産方法。
【請求項16】
メチオニンが産生されるような条件下で、
a) RXN02910を過剰発現するか、またはRXN02910活性が増加した微生物、および
b) RXA00655の発現が抑制されるか、またはその活性が低下した微生物、
を培養することを含む、メチオニンの産生方法。
【請求項17】
前記微生物が、コリネバクテリウムまたはブレビバクテリウム属に属する、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・ハーキュリス(Corynebacterium herculis)、コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)、コリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicum)、コリネバクテリウム・アセトフィラム(Corynebacterium acetophilum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・フジオケンス(Corynebacterium fujiokense)、コリネバクテリウム・ニトリロフィラス(Corynebacterium nitrilophilus)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)、ブレビバクテリウム・ブタニカム(Brevibacterium butanicum)、ブレビバクテリウム・ジバリカタム(Brevibacterium divaricatum)、ブレビバクテリウム・フラヴァム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ヒーリイ(Brevibacterium healii)、ブレビバクテリウム・ケトグルタミカム(Brevibacterium ketoglutamicum)、ブレビバクテリウム・ケトソレダクタム(Brevibacterium ketosoreductum)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)、ブレビバクテリウム・パラフィノリティカム(Brevibacterium paraffinolyticum)、および表1に記載の株からなる群より選択される、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記微生物がコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
メチオニンを回収することをさらに含む、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
下記のもの:
a) 配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22のヌクレオチド配列またはその相補体と少なくとも60%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸分子、
b) 配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、もしくは配列番号22のヌクレオチド配列またはその相補体を含む核酸の少なくとも30個のヌクレオチドの断片を含む核酸分子、
c) 配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、もしくは配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子、および
d) 配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、もしくは配列番号23のアミノ酸配列の少なくとも10個の連続するアミノ酸残基を含む、配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、もしくは配列番号23のアミノ酸配列を含むポリペプチドの断片をコードする核酸分子、
からなる群より選択される核酸分子と、微生物中で該核酸分子の発現を媒介することができる調節配列とを含むトランスジェニック発現カセット。
【請求項22】
前記調節配列が、前記核酸分子に関して異種性のプロモーター配列である、請求項21に記載のトランスジェニック発現カセット。
【請求項23】
前記核酸分子が、前記プロモーター配列に関してアンチセンスまたはセンスの向きに配置される、請求項21または22に記載のトランスジェニック発現カセット。
【請求項24】
前記核酸分子が配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、請求項21〜23のいずれか1項に記載のトランスジェニック発現カセット。
【請求項25】
前記核酸分子が配列番号1、配列番号5、配列番号16、配列番号18、配列番号20、または配列番号22に記載のヌクレオチド配列を含む、請求項21〜24のいずれか1項に記載のトランスジェニック発現カセット。
【請求項26】
前記核酸分子が配列番号2、配列番号6、配列番号17、配列番号19、配列番号21、または配列番号23に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドの天然の対立遺伝子変異体をコードする、請求項21〜25のいずれか1項に記載のトランスジェニック発現カセット。
【請求項27】
請求項21〜26のいずれか1項に記載のトランスジェニック発現カセットを含むベクター。
【請求項28】
発現ベクターである請求項27に記載のベクター。
【請求項29】
請求項21〜26のいずれか1項に記載のトランスジェニック発現カセット、または請求項27もしくは28に記載のベクターを用いてトランスフェクトされたトランスジェニック宿主細胞。
【請求項30】
前記宿主細胞がコリネバクテリウムまたはブレビバクテリウム属に属する、請求項29に記載のトランスジェニック宿主細胞。

【図1】
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【公表番号】特表2006−521083(P2006−521083A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556063(P2004−556063)
【出願日】平成14年11月29日(2002.11.29)
【国際出願番号】PCT/EP2002/013504
【国際公開番号】WO2004/050694
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】