メチルトランスフェラーゼ活性の検出方法およびメチルトランスフェラーゼ活性調節因子のスクリーニング方法
本発明は、ポリペプチドのメチルトランスフェラーゼ活性を測定するため、およびメチルトランスフェラーゼ活性の調節因子に関してスクリーニングするための方法に関する。本発明はさらに、結腸直腸癌もしくは肝細胞癌を調節因子を用いて予防もしくは治療するための方法または薬学的組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、転写調節に関する。なお、本出願は、2004年1月23日に提出された米国特許仮出願第60/538,658号の恩典を主張し、その内容はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景技術
肝細胞癌(HCC)は世界中で最も一般的な癌の一つであり、その発生率は日本でも米国でも徐々に増加している(Akriviadis EA, et al.、 Br J Surg. 1998 Oct;85(10): 1319-31)。最近の医学の進歩によって診断は大きく進展したにもかかわらず、HCCを有する患者の多くは依然として進行期になって診断されており、疾患からの完全治癒は困難なままである。加えて、肝硬変または慢性肝炎の患者はHCCに対する高いリスクを有し、彼らは最初の腫瘍が完全に除去された後であってさえ複数の肝腫瘍または新たな腫瘍を生じる可能性がある。したがって、有効性の高い化学療法薬および予防策の開発は、差し迫った懸念事項となっている。
【0003】
結腸直腸癌は、先進諸国における癌による死因の第一位である。具体的に、米国では毎年130,000例を超える結腸直腸癌の新規症例が報告されている。結腸直腸癌は、癌全体の約15%を占める。これらの中で、約5%が遺伝性の遺伝子欠損に直接関係している。多くの患者が癌の発症前に前癌性結腸ポリープまたは直腸ポリープという診断を受けている。多くの小さい結腸直腸ポリープは良性であるが、いくつかのタイプは癌へと進行する可能性がある。最も広く用いられている結腸直腸癌のスクリーニング試験は、結腸鏡検査である。この方法は、疑わしい増殖を可視化するため、および/または組織生検を採取するために用いられる。典型的に、組織生検を組織学的に調べて、生検を行った細胞の顕微鏡所見に基づいて診断を下す。しかしながら、この方法は、主観的な結果を生じることと、前癌状態を非常に早期に検出するために用いることができないことから限界がある。非常に初期の段階の結腸直腸癌または前悪性病変を検出するための、高感度、特異的、かつ簡便な診断系の開発は、それによってこの疾患を最終的に根絶し得ることから非常に望ましい。
【発明の開示】
【0004】
発明の概要
本発明は、一部には、癌細胞の増殖に関与するポリペプチドである、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性の発見に基づく。さらに、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性は、90-kD熱ショックタンパク質(HSP90A)の存在下で発現する。
【0005】
したがって、本発明は、本発明のポリペプチドを、メチルトランスフェラーゼ基質および補助因子と、基質のメチル化に適した条件下で接触させる段階、ならびに基質のメチル化レベルを検出する段階による、メチルトランスフェラーゼ活性を測定する方法を特徴とする。本発明のポリペプチドは、ZNFN3A1ポリペプチドまたはその機能的等価物である。例えば、本発明のポリペプチドは、配列番号:51のアミノ酸配列を含み得る。または、本発明のポリペプチドは、配列番号:51のアミノ酸配列を含み得、ここで1つまたは複数のアミノ酸は置換、欠失、または挿入され、かつそのポリペプチドは配列番号:51のポリペプチドの生物活性を有する。配列番号:51のポリペプチドの生物活性には、例えば、細胞増殖の促進および標的遺伝子の転写活性化が含まれる。加えて、ポリペプチドには、配列番号:50のオープンリーディングフレーム、または配列番号:50のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下(例えば、低または高)でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、かつ配列番号:51の生物活性を有する、428アミノ酸のタンパク質が含まれる。低ストリンジェント条件は、例えば、42℃、2×SSC、0.1%SDS、または好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSである。好ましくは、高ストリンジェント条件が用いられる。高ストリンジェント条件は、例えば、2×SSC、0.01%SDS中で室温20分間の洗浄を3回行い、次いで1×SSC、0.1%SDS中で37℃20分間の洗浄を3回行い、かつ1×SSC、0.1%SDS中で50℃20分間の洗浄を2回行うことである。しかしながら、温度および塩濃度などのいくつかの要因がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼす可能性があり、当業者は必要なストリンジェンシーを達成するためにこれらの要因を適切に選択することができる。任意で、ポリペプチドをさらに90-kD熱ショックタンパク質と接触させる。メチル化は、メチル基が別の化合物、例えば受容体分子に移動する触媒作用として定義される。メチル化は、放射性メチル供与体を用いるなどの方法によって検出される。基質は、タンパク質、核酸(RNAまたはDNA)または低分子などの、メチル基を受容し得る任意の化合物である。例えば、基質は、ヒストン、またはメチル化領域を含むヒストンの断片である。実際、ヒストンH3リジン4はZNFN3A1によってメチル化され得ることが確かめられている。したがって、ヒストンH3、またはリジン4を含むその断片は、基質として有用である。補助因子、例えばメチル供与体は、メチル基を供与し得る任意の化合物である。例えば、補助因子はS-アデノシル-Lメチオニンである。メチル化に適した条件には、例えば、Tris-HClなどの当技術分野で公知の塩基性緩衝液条件が含まれる。
【0006】
本発明はさらに、、本発明のポリペプチドを、被験作用因子の存在下で、メチルトランスフェラーゼ基質および補助因子と、基質のメチル化に適した条件下で接触させる段階、ならびに基質のメチル化レベルを決定する段階により、メチルトランスフェラーゼ活性を調節する(例えば、上昇または低下させる)作用因子を同定する方法を提供する。正常対照メチル化レベルと比較したメチル化のレベルの低下は、その被験作用因子がメチルトランスフェラーゼ活性の阻害物質であることを示す。メチルトランスフェラーゼ活性を阻害する(例えば、低下させる)化合物は、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するため、予防するため、またはその症状を緩和するために有用である。例えば、それらの化合物は癌細胞の増殖を抑制する。または、正常対照レベルと比較したレベルまたは活性の上昇は、被験作用因子がメチルトランスフェラーゼ活性のエンハンサーであることを示す。正常対照レベルとは、被験化合物の非存在下で検出される、基質のメチル化のレベルのことを意味する。
【0007】
本発明は、ポリペプチドを、被験作用因子の存在下で、熱ショックタンパク質90A(HSP90A)ポリペプチドと接触させる段階、およびポリペプチドとHSP90A間の結合を検出する段階による、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニングの方法を提供する。被験化合物の存在下におけるポリペプチドとHSP90Aとの結合を被験化合物の非存在下と比較した。ポリペプチドとHSP90Aとの結合を低下させる被験化合物を選択する。ポリペプチドとHSP90Aとの結合は、ポリペプチドとHSP90A間の非共有的な会合と定義される。結合は、酵母ツーハイブリッドスクリーニング系などの当技術分野で公知の方法によって測定される。
【0008】
本発明はまた、結腸直腸癌細胞または肝細胞癌細胞を上記のように同定した化合物と接触させることにより、結腸直腸癌または肝細胞癌の症状を緩和するための組成物および方法も含む。例えば、結腸直腸癌および肝細胞癌のいずれかまたは両方を治療する方法は、このような病状と診断された哺乳動物、例えばヒト患者に、上記のように同定した化合物の薬学的有効量および薬学的担体を含む組成物を投与することによって行われる。
【0009】
本発明はまた、化合物のメチルトランスフェラーゼ活性を、メチルトランスフェラーゼポリペプチド、基質、補助因子およびHSP90Aを用いて検出するためのキットを提供する。試薬はキットの形態で共に包装される。試薬、例えば、本発明のメチルトランスフェラーゼポリペプチド、基質、補助因子、対照試薬(陽性および/または陰性)および/または検出可能な標識は、別々の容器に包装される。本発明のもう一つの態様は、メチルトランスフェラーゼ活性、および/または本発明のZNFN3A1ポリペプチドと熱ショックタンパク質90Aポリペプチド(HSP90A)間の結合を調節するための、被験化合物の活性を検出するためのキットである。本キットは、ZNFN3A1ポリペプチドまたはその断片、およびHSP90Aポリペプチドを含む。この態様のいくつかの局面において、ZNFN3A1は、天然のZNFN3A1のSETドメインを有するアミノ酸配列を含む、ポリペプチド、好ましくは組換えポリペプチドである。さらに、本発明はまた、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニングのためのキットを提供し、キットは、配列番号:51のアミノ酸配列より選択される連続したアミノ酸配列(このアミノ酸配列はNHSCDPN(配列番号:52)およびGEELTICY(配列番号:53)のいずれかまたは両方を含む)を含むポリペプチドの構成成分;ならびにS-アデノシル-Lメチオニンを含む。アッセイを行うための指示書(例えば、書面、テープ、VCR、CD-ROM、その他)がキットに含まれる。キットのアッセイ形式は、当技術分野で公知のトランスフェラーゼアッセイ法または結合アッセイ法である。
【0010】
他に特記しない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、全て、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本発明の実施または試行においては、本明細書に記載されたものに類似するかまたは等価の方法および材料が使用され得るが、適当な方法および材料を以下に記載する。本明細書において言及される出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、その全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合、定義を含む本明細書によって統制される。さらに、材料、方法、および実施例は、例示的なものに過ぎず、本発明を制限するためのものではない。
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、一部には、癌細胞の増殖にかかわる新規ヒストンメチルトランスフェラーゼZNFN3A1の発見に基づく。ZNFN3A1のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性は90kD熱ショックタンパク質(HSP90A)の存在下で発現し、したがってHSP90Aはヒストンメチルトランスフェラーゼ活性に対して役割を果たす。
【0012】
ZNFN3A1の発現は、非癌肝臓組織および非癌結腸直腸組織と比較して結腸直腸癌および肝細胞癌(HCC)で著しく上昇している(WO 03/27143)。ZNFN3A1 cDNAは、配列番号:50に記載の、1284ヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む1622ヌクレオチドからなる。オープンリーディングフレームは、配列番号:51に示されているように、ジンクフィンガーモチーフおよびSETドメインを有する428アミノ酸のタンパク質をコードする。ZNFN3A1タンパク質の細胞内局在は、細胞周期の進行の間および培養細胞の密度によって変化する。細胞がS期の中期から後期にある場合、または低密度な条件下で培養されている場合、ZNFN3A1タンパク質は核内に蓄積する。一方、細胞が細胞周期の他の時期にある場合、または高密度な条件下で増殖している場合、ZNFN3A1タンパク質は細胞質にも核内と同様に局在する。
【0013】
ZNFN3A1は、保存された2つのアミノ酸配列「NHSCXXN」(配列番号:54)および「GEELXXXY」(配列番号:55)によって定義されるSETドメインを含む(図1A)。SETドメインを有するタンパク質をコードする遺伝子は、SETドメインの相同性に従って4つのファミリー、すなわちSUV39、SET1、SET2、およびRIZファミリーに分類される。ZNFN3A1のSETドメインは、これらのサブファミリーに保存されているpre-SET、post-SET、AWS、SANT、またはC2H2ドメインのいずれも含まず、したがってZNFN3A1はSETドメインタンパク質のサブファミリーの新規のクラスを構成し得る。
【0014】
ZNFN3A1はRNAヘリカーゼKIAA0054と直接会合してRNAポリメラーゼIIと複合体を形成し、これは、上皮増殖因子受容体(EGFR)を含む下流遺伝子の転写を、この複合体とEGFR遺伝子の5'隣接領域内の「(C)CCCTCC(T)」というエレメントとの直接結合を通して活性化する。さらに、ZNFN3A1はRNAヘリカーゼ(HELZ)および90kD熱ショックタンパク質(HSP90A)と会合することが示されている。
【0015】
NIH3T3細胞におけるZNFN3A1の外因性発現は細胞増殖の増加を引き起こした。一方、アンチセンスS-オリゴヌクレオチドによるその発現の抑制は、肝癌細胞の著しい増殖阻害を引き起こした。さらに、ZNFN3A1のsiRNAは肝癌細胞および直腸結腸腺癌の増殖を阻害し得る(WO2004/76623)。これらの所見は、ZNFN3A1が、RNAヘリカーゼおよびRNAポリメラーゼIIを有する複合体を通したEGFRを含む標的遺伝子の転写活性化によって癌細胞に発癌活性を与えること、ならびに複合体の活性の阻害が結腸直腸癌および肝細胞癌の治療のための戦略であることを示している。他のSETドメインタンパク質の調節解除はヒト新生物に関与することが示されている。例えば、ヒト白血病において、SET1ファミリーに属するショウジョウバエトリソラックス遺伝子のヒトホモログであるMLL(10,11)における頻繁な転座が観察される。MLL機能の喪失または獲得が発癌の原因であるか否かは不明であるが、MLLは、Hoxプロモーター配列との直接結合を通したSETドメインのメチラーゼ活性によって媒介されるH3リジン4特異的メチル化を通して、Hox遺伝子の転写を活性化する(12)。SET1ファミリーの2つのメンバーであるMLL2およびEZH2は、膵臓癌、グリオーム、またはホルモン抵抗性の転移性前立腺癌で増幅される(13-15)。
【0016】
本発明は、したがって、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を調節する化合物のスクリーニング方法を提供する。本方法は、ZNFN3A1ポリペプチドまたはメチルトランスフェラーゼ活性を有するその機能的等価物を、1つまたは複数の候補化合物と接触させること、および接触させたZNFN3A1または機能的等価物のメチルトランスフェラーゼ活性をアッセイすることによって実行される。ZNFN3A1または機能的等価物のメチルトランスフェラーゼ活性を調節する化合物がそれによって同定される。
【0017】
本発明において、「機能的に等価の」という用語は、対象タンパク質が、ZNFN3A1と同じかまたは実質的に同じメチルトランスフェラーゼ活性を有することを意味する。特に、タンパク質は、ヒストンH3またはリジン4を含むヒストンH3の断片のメチル化を触媒する。対象タンパク質が標的活性を有するか否かを本発明によって決定することができる。すなわち、ポリペプチドを基質(例えば、ヒストンH3またはリジン4を含む断片)および補助因子(例えば、S-アデノシル-L-メチオニン)と、基質のメチル化に適した条件下で接触させること、ならびに基質のメチル化レベルを検出することにより、メチルトランスフェラーゼ活性を決定することができる。
【0018】
所定のタンパク質と機能的に等価のタンパク質を調製する方法は当業者に周知であり、これにはタンパク質に変異を導入する公知の方法が含まれる。例えば、当業者は、部位特異的突然変異によってヒトZNFN3A1タンパク質のアミノ酸配列内に適切な変異を導入することにより、ヒトZNFN3A1タンパク質と機能的に等価のタンパク質を調製することができる(Hashimoto-Gotoh, T. et al. (1995), Gene 152, 271〜275;Zoller, MJ, and Smith, M. (1983), Methods Enzymol. 100, 468〜500;Kramer, W. et al. (1984), Nucleic Acids Res. 12, 9441〜9456;Kramer W, and Fritz HJ. (1987) Methods. Enzymol. 154, 350〜367;Kunkel, TA (1985), Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82,488〜492;Kunkel (1988), Methods Enzymol. 85, 2763〜2766)。アミノ酸変異は自然下でも起こり得る。本発明に用いられるタンパク質には、結果的に生じた変異タンパク質がヒトZNFN3A1タンパク質と機能的に等価であるという前提で、1つまたは複数のアミノ酸が変異したヒトZNFN3A1タンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質が含まれる。このような変異体において変異させるアミノ酸の数は一般に10アミノ酸またはそれ未満、好ましくは6アミノ酸またはそれ未満、およびより好ましくは3アミノ酸またはそれ未満である。メチルトランスフェラーゼ活性を維持するために、SETドメイン「NHSCXXN」(配列番号:54)および"GEELXXXY」(配列番号:55)が、変異タンパク質のアミノ酸配列中に保存され得る(「X」は任意のアミノ酸を表す)。
【0019】
変異または改変されたタンパク質、特定のアミノ酸配列の一つまたは複数のアミノ酸残基を欠失、付加、および/または置換することによって改変されたアミノ酸配列を有するタンパク質は、当初の生物学的活性を保持することが公知である(Mark, D.F. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1984)81:5662〜5666;Zoller, M.J.およびSmith, M.、Nucleic Acids Research(1982)10:6487〜6500;Wang, A. et al.、Science 224:1431〜1433;Dalbadie-McFarland, G. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1982)79:6409〜6413)。
【0020】
変異されるアミノ酸残基は、好ましくは、アミノ酸側鎖の特性が保存される異なるアミノ酸に変異される(保存的アミノ酸置換として公知の過程)。アミノ酸側鎖の特性の例は、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および以下の官能基または共通の特徴を有する側鎖:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);ならびに芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)である。括弧内の文字はアミノ酸の一文字コードを示すことに注意されたい。
【0021】
一つまたは複数のアミノ酸残基がヒトZNFN3A1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:51)に付加されるタンパク質の例は、ヒトZNFN3A1タンパク質を含む融合タンパク質である。融合タンパク質は、ヒトZNFN3A1タンパク質と他のペプチドまたはタンパク質との融合体であり、これらも本発明に用いられる。融合タンパク質は、当業者に周知の技術、例えば本発明のヒトZNFN3A1タンパク質をコードするDNAを、他のペプチドまたはタンパク質をコードするDNAに、フレームが一致するように連結させ、融合DNAを発現ベクターに挿入し、宿主でそれを発現させることによって作製することができる。本発明のタンパク質に融合させるペプチドまたはタンパク質に関して制限はない。
【0022】
ZNFN3A1タンパク質に融合されるペプチドとして用いることができる公知のペプチドには、例えば、FLAG(Hopp, T.P.et al.、Biotechnology(1986)6:1204〜1210)、6個のHis残基を含む6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-myc断片、VSP-GP断片、p18HIV断片、T7-タグ、HSV-タグ、E-タグ、SV40T抗原断片、lckタグ、α-チューブリン断片、B-タグ、プロテインC断片等が含まれる。本発明のタンパク質に融合し得るタンパク質の例には、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、インフルエンザ凝集素(HA)、免疫グロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)等が含まれる。
【0023】
融合タンパク質は、上記の融合ペプチドまたはタンパク質をコードする市販のDNAを、本発明のタンパク質をコードするDNAと融合させて、調製された融合DNAを発現させることによって調製することができる。
【0024】
機能的に等価なタンパク質を単離するための当技術分野で公知のもう一つの方法は、例えば、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook, J.et al.、Molecular Cloning、第2版、9.47〜9.58、コールドスプリングハーバー研究所出版、1989)を用いる方法である。当業者は、ヒトZNFN3A1タンパク質をコードするZNFN3A1 DNA配列(例えば、配列番号:50)の全て、または一部と高い相同性を有するDNAを容易に単離することができ、単離されたDNAからヒトZNFN3A1タンパク質と機能的に等価なタンパク質を単離することができる。本発明のタンパク質には、ヒトZNFN3A1タンパク質をコードするDNA配列の全てまたは一部とハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質、およびヒトZNFN3A1タンパク質と機能的に等価であるタンパク質が含まれる。これらのタンパク質には、ヒトまたはマウスに由来するタンパク質に対応する哺乳類相同体が含まれる(例えば、サル、ラット、ウサギ、およびウシ遺伝子によってコードされるタンパク質)。ヒトZNFN3A1タンパク質をコードするDNAと高い相同性を示すcDNAを動物から単離する場合、骨格筋、精巣、HCC、または結腸直腸腫瘍由来の組織を用いることが特に好ましい。
【0025】
ヒトZNFN3A1タンパク質と機能的に等価であるタンパク質をコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーション条件は、当業者によってルーチン的に選択することができる。例えば、ハイブリダイゼーションは、「Rapid-hyb緩衝液」(Amersham LIFE SCIENCE)を用いて、68℃で30分またはそれ以上プレハイブリダイゼーションを行い、標識プローブを加えて、68℃で1時間またはそれ以上加温することによって行ってもよい。次に続く洗浄段階は、例えば低ストリンジェント条件で行うことができる。低ストリンジェント条件は、例えば、42℃、2×SSC、0.1%SDS、または好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSである。より好ましくは高ストリンジェント条件を用いる。高ストリンジェント条件は、例えば、2×SSC、0.01%SDS中で室温20分間の洗浄を3回行い、次いで1×SSC、0.1%SDS中で37℃20分間の洗浄を3回行い、かつ1×SSC、0.1%SDS中で50℃20分間の洗浄を2回行うことである。しかしながら、温度および塩濃度のようないくつかの要因がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼす可能性があり、当業者は必須のストリンジェンシーを達成するために要因を適切に選択することができる。
【0026】
ハイブリダイゼーションの代わりに、遺伝子増幅法、例えば、ヒトZNFN3A1タンパク質(配列番号:51)をコードするDNA(配列番号:50)の配列情報に基づいて合成されたプライマーを用い、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いて、ヒトZNFN3A1タンパク質と機能的に等価なタンパク質をコードするDNAを単離することができる。
【0027】
上記のハイブリダイゼーション技術または遺伝子増幅技術によって単離されたDNAによってコードされる、ヒトZNFN3A1タンパク質と機能的に等価のタンパク質は、通常、ヒトZNFN3A1タンパク質のアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」(「高い同一性」とも呼ばれる)とは典型的に、2つの最適に整列化された配列(ポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列)間の同一性の程度を指す。典型的には、高い相同性または同一性とは、40%またはそれ以上、好ましくは60%またはそれ以上、より好ましくは80%またはそれ以上、さらにより好ましくは85%、90%、95%、98%、99%またはそれ以上の相同性を指す。2つのポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列の間の相同性または同一性の程度は、「Wilbur, W. J. and Lipman, D. J. Proc.Natl. Acad.Sci. USA (1983) 80, 726〜730」におけるアルゴリズムに従って決定することができる。
【0028】
本発明の状況において有用なタンパク質は、その産生のために用られる細胞もしくは宿主または用いる精製方法に依存して、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無または形態に関して差異がある可能性がある。しかしながら、それがヒトZNFN3A1タンパク質(配列番号:51)の機能と等価の機能を有する限り、それは本発明において有用である。
【0029】
本発明の状況において有用なタンパク質は、当業者に周知の方法によって、組換え型タンパク質または天然のタンパク質として調製することができる。組換え型タンパク質は、本発明のタンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:50のヌクレオチド配列を含むDNA)を、適当な発現ベクターに挿入し、ベクターを適当な宿主細胞に導入し、抽出物を得、かつ抽出物にクロマトグラフィー、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過、または本発明のタンパク質に対する抗体を固定したカラムを利用するアフィニティクロマトグラフィーを行うか、または上記のカラムの複数を組み合わせることにより、タンパク質を精製することによって調製され得る。
【0030】
同様に、本発明の状況において有用なタンパク質が宿主細胞(例えば、動物細胞および大腸菌(E.coli))内において、グルタチオン-S-トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、または多数のヒスチジンを加えた組換え型タンパク質として発現する場合、発現された組換え型タンパク質は、グルタチオンカラムまたはニッケルカラムを用いて精製することができる。
【0031】
融合タンパク質を精製した後、必要に応じてトロンビンまたは第Xa因子による切断によって、目的とするタンパク質以外の領域を除去することも可能である。
【0032】
天然のタンパク質は、当業者に公知の方法、例えば下記のZNFN3A1タンパク質に結合する抗体を結合させたアフィニティカラムを、本発明のタンパク質を発現する組織または細胞の抽出物に接触させることによって単離することができる。抗体はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であり得る。
【0033】
本発明において、ZNFN3A1ポリペプチドのメチルトランスフェラーゼ活性は、当技術分野で公知の方法によって決定することができる。例えば、ZNFN3A1および基質は、標識されたメチル供与体と共に、適したアッセイ条件下でインキュベートされ得る。ヒストンH3、ヒストンH3ペプチド、およびS-アデノシル-[メチル-14C]-L-メチオニンまたはS-アデノシル-[メチル-3H]-L-メチオニンが、好ましくは、それぞれ基質およびメチル供与体として用いられ得る。放射性標識のヒストンまたはヒストンペプチドへの移行は、例えば、SDS-PAGE電気泳動およびフルオログラフィーによって検出することができる。または、反応に続き、ヒストンまたはヒストンペプチドを濾過によってメチル供与体から分離し、かつフィルター上に保持された放射標識の量をシンチレーション計数法によって定量することができる。メチル供与体と結合し得る他の標識、例えば発色性標識および蛍光標識、ならびにこれらの標識のヒストンおよびヒストンペプチドへの移行を検出する方法は当技術分野で公知である。
【0034】
または、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を、非標識メチル供与体(例えば、S-アデノシル-L-メチオニン)、およびメチル化ヒストンまたはヒストンペプチドを選択的に認識する試薬を用いて決定することができる。例えば、ZNFN3A1、メチル化しようとする基質、およびメチル供与体を、基質のメチル化が可能な条件下でインキュベートした後、メチル化基質を免疫学的方法によって検出することができる。メチル化基質を認識する抗体を用いる任意の免疫学的技術を検出のために用いることができる。例えば、メチル化ヒストンに対する抗体が市販されている(abcam Ltd.)。メチル化ヒストンを認識する抗体を用いるELISAまたはイムノブロット法を本発明のために用いることもできる。
【0035】
抗体を用いる代わりに、メチル化ヒストンを、メチル化ヒストンと高い親和性で選択的に結合する試薬を用いて検出することもできる。このような試薬は当技術分野で公知であり、または当技術分野で公知のスクリーニングアッセイ法によって決定することもできる。結合試薬の例には、リジン4がメチル化されたヒストンH3(H3-K4)と結合するヘテロクロマチンタンパク質HP1がある。HP1またはその結合断片を標識し、メチル化H3-K4と結合したHP1または断片を検出することができる。または、HP1または断片を標識する必要なしに、その代わりにELISAアッセイ法で抗HP1抗体を用いて検出することもできる。
【0036】
本発明において、物質のメチル化を増強する作用因子が用いられ得る。例えば、Flag標識ZNFN3A1のH3メチルトランスフェラーゼ活性は、S-アデノシルホモシステインヒドロラーゼ(SAHH)の存在下の方がSAHHの非存在下よりも有意に高かった(図3d)。したがって、SAHHまたはその機能的等価物は好ましいメチル化増強因子である。この作用因子は物質のメチル化を増強し、それによってメチルトランスフェラーゼ活性をより高い感度で測定することができる。ZNFN3A1を、増強因子の存在下で基質および補助因子と接触させることもできる。
【0037】
さまざまなロースループットおよびハイスループット酵素アッセイ形式が当技術分野で公知であり、かつZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性の検出または測定のために容易に適合させることができる。ハイスループットアッセイ法のために、ヒストンまたはヒストンペプチド基質は、マルチウェルプレート、スライドガラス、またはチップなどの固体支持体上に、都合良く固定化され得る。反応に続き、メチル化産物を固体支持体上で上記の方法によって検出することができる。または、メチルトランスフェラーゼ反応は溶液中で行われ得、その後ヒストンまたはヒストンペプチドが固体支持体上に固定化され得、およびメチル化産物が検出される。そのようなアッセイ法を容易にするため、固体支持体はストレプトアビジンでコーティングされ得、かつビオチン標識ヒストン、または固体支持体は抗ヒストン抗体でコーティングされ得る。当業者は、スクリーニングの所望のスループット能力に依存して、適したアッセイ形式を決定することができる。
【0038】
ZNFN3A1またはその機能的等価物は、メチルトランスフェラーゼ活性を発現するために熱ショックタンパク質90A(HSP90A)を必要とする。したがって、ZNFN3A1またはその機能的等価物とHSP90A間の結合を妨げる化合物は、メチルトランスフェラーゼ活性の調節のために有用である。化合物は以下の方法によってスクリーニングされ得る。したがって、本発明はまた、以下の段階を含む、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニング方法を提供する:
a.以下からなる群より選択されるポリペプチドを、被験化合物の存在下で熱ショックタンパク質90Aポリペプチド(HSP90A)と接触させる段階;
i.配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
ii.1つもしくは複数のアミノ酸が置換、欠失または挿入された、配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、かつ該ポリペプチドが配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、ポリペプチド;
iii.配列番号:51に対して少なくとも約80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
vi.配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、配列番号:50のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;
b.ポリペプチドとHSP90A間の結合を検出する段階;
c.被験化合物の存在下におけるポリペプチドとHSP90Aとの結合を、被験化合物の非存在下における結合と比較する段階;ならびに
d.ポリペプチドとHSP90Aとの結合を低下させる被験化合物を選択する段階。
【0039】
本発明において、ポリペプチドとHSP90Aとの結合は、当業者に公知の任意の適した方法によって検出することができる。例えば、ポリペプチドおよびHSP90Aのいずれか一方を固体支持体に結合し、かつ他方は検出用の標識物質で標識し得る。本方法におけるポリペプチドまたはHSP90Aの標識のためには、放射性同位体(例えば、3H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ)、蛍光物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)およびビオチン/アビジンなどの標識物質が用いられ得る。標識物質の検出のための方法は周知である。
【0040】
本発明はまた、本発明のタンパク質の部分的ペプチドの使用方法も含む。部分的ペプチドは、ZNFN3A1のタンパク質に特異的なアミノ酸配列を有し、かつ約400アミノ酸未満、通常は約200アミノ酸未満、およびしばしば約100アミノ酸未満であり、ならびに少なくとも約7アミノ酸、好ましくは約8アミノ酸またはそれ以上、およびより好ましくは約9アミノ酸またはそれ以上からなる。部分的ペプチドは、例えば、ZNFN3A1のタンパク質と結合する化合物のスクリーニングのため、および、ZNFN3A1とその補助因子(SAMなど)間の結合の阻害物質のスクリーニングために用いられ得る。これらのスクリーニングのために、好ましくはSETドメインを含む部分的ペプチドが用いられ得る。
【0041】
本発明に用いられる部分的ペプチドは、遺伝子操作により、ペプチド合成の公知の方法により、または本発明のタンパク質を適切なペプチダーゼで消化することにより作製され得る。ペプチド合成のために、例えば、固相合成または液相合成が用いられ得る。
【0042】
SETドメインの変異を有するZNFN3A1変異体は、細胞増殖に対する阻害作用を示す(図4または5)。したがって、ZNFN3A1の部分的ペプチドは、好ましくは、SETドメイン「NHSCXXN」(配列番号:54)および/または「GEELXXXY」(配列番号:55)を含む。
【0043】
本発明の、HCCまたは結腸直腸癌を治療または予防するための化合物のスクリーニングのための方法のさらなる態様において、本方法は、ZNFN3A1のその補助因子(SAMなど)に対する結合能を利用する。S-アデノシル-L-メチオニンと結合するSETドメインに変異を有するタンパク質は、癌の細胞増殖を阻害する。これらの知見は、ZNFN3A1が、細胞増殖の機能を、S-アデノシル-L-メチオニンなどの分子との結合を介して発揮することを示唆する。したがって、ZNFN3A1とその補助因子間の結合の阻害は細胞増殖の抑制をもたらし、この結合を阻害する化合物は、HCCもしくは結腸直腸癌を治療または予防するための薬剤として役立つ。
【0044】
このスクリーニング方法は以下の段階を含む:
a.配列番号:51のアミノ酸配列由来の連続したアミノ酸配列を含むポリペプチドを、被験化合物の存在下でS-アデノシル-L-メチオニンと接触させる段階であって、ここでアミノ酸配列がNHSCDPN(配列番号:52)およびGEELTICY(配列番号:53)の一方または両方を含む、段階;
b.ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニン間の結合を検出する段階;
c.被験化合物の存在下におけるポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニンとの結合を、被験化合物の非存在下における結合と比較する段階;ならびに
d.ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニンとの結合を低下させる被験化合物を選択する段階。
【0045】
スクリーニングに用いられるポリペプチドは、天然物に由来する組換えポリペプチドもしくはタンパク質でもよく、またはS-アデノシル-L-メチオニンに対する結合能を保持する限り、その部分的ペプチドでもよい。スクリーニングに用いられるポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質であり得る。
【0046】
任意の被験化合物、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物の産物、海洋生物からの抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成マイクロ分子化合物および天然化合物を用いることができる。
【0047】
本明細書に記載したアッセイ法において有用な被験化合物は、ZNFN3A1と特異的に結合する抗体、またはメチルトランスフェラーゼ活性を持たない部分的ZNFN3A1ペプチドでもあり得る。例えば、抗体(例えば、モノクローナル抗体)は、ZNFN3A1とその基質、S-アデノシル-L-メチオニンまたはHSP90A間の結合を阻止する能力に関して試験され得る。同様に、部分的ZNFN3A1ペプチドは、ZNFN3A1とその基質、S-アデノシル-L-メチオニンまたはHSP90A間の結合を阻害する能力に関して試験され得、ZNFN3A1活性の阻害物質として用いられ得る。このような抗体および部分的ペプチドは、したがって、ZNFN3A1活性の阻害物質として用いられ得る。
【0048】
ZNFN3A1とS-アデノシル-L-メチオニン間の結合を阻害する化合物のスクリーニング方法として、当業者に周知の多くの方法が用いられ得る。このようなスクリーニングは、インビトロアッセイ系、例えば細胞系において行われ得る。より具体的には、まず、ポリペプチドまたはS-アデノシル-L-メチオニンのいずれかを支持体に対して結合させ、かつ他方の構成成分を被験試料と共にそこへ添加する。次に、この混合物をインキュベートし、洗浄し、かつ支持体と結合した他方の構成成分を検出および/または測定する。
【0049】
タンパク質を結合させるために用い得る支持体の例には、アガロース、セルロースおよびデキストランなどの不溶性多糖類;ならびにポリアクリルアミド、ポリスチレンおよびシリコンなどの合成樹脂が含まれる;好ましくは、以上の材料から作成された市販のビーズおよびプレート(例えば、マルチウェルプレート、バイオセンサーチップ、その他)が用いられ得る。ビーズを用いる場合、それらをカラムに充填してもよい。
【0050】
支持体に対するポリペプチドまたはS-アデノシル-L-メチオニンの結合は、化学的結合および物理的吸着などのルーチン的な方法に従って行われ得る。または、ポリペプチドを特異的に認識する抗体を介してポリペプチドは支持体に結合され得る。さらに、ポリペプチドの支持体に対する結合は、アビジンおよびビオチンの結合を用いて行われ得る。
【0051】
ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニン間の結合は、緩衝液がタンパク質同士の結合を阻害しない限りにおいて、制限されないが、緩衝液、例えばリン酸緩衝液およびTris緩衝液中で行われる。
【0052】
本発明において、表面プラスモン共鳴現象を用いるバイオセンサーが、ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニンとの結合を検出または定量するための手段として用いられ得る。このようなバイオセンサーを用いる場合、微量のポリペプチドのみを用いて、標識せずに、ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニン間の相互作用を表面プラスモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。したがって、BIAcoreなどのバイオセンサーを用いて、ポリペプチドならびにポリペプチドおよびS-アデノシル-L-メチオニン間の結合を評価することが可能である。
【0053】
または、ポリペプチドまたはポリペプチドおよびS-アデノシル-L-メチオニンのいずれかを標識し、その標識を、結合したポリペプチドまたはポリペプチドおよびS-アデノシル-L-メチオニンを検出または測定するために用いてもよい。具体的には、ポリペプチドまたはS-アデノシル-L-メチオニンの一つをあらかじめ標識した後、標識した構成成分を被験化合物の存在下で他方の構成成分と接触させ、次いで、結合した構成成分を洗浄後に標識によって検出または測定する。
【0054】
本方法におけるポリペプチドまたはS-アデノシル-L-メチオニンの標識のために、放射性同位体(例えば、3H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ)、蛍光物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)およびビオチン/アビジンなどの標識物質が用いられ得る。ポリペプチドまたはS-アデノシル-L-メチオニンを放射性同位体で標識する場合、検出または測定は液体シンチレーションによって行うことができる。または、酵素で標識したポリペプチドまたはS-アデノシル-L-メチオニンは、呈色などの基質の酵素的変化を検出するため、酵素の基質を添加することにより、吸光光度計で検出または測定することができる。さらに、蛍光物質を標識として用いる場合、結合した構成成分は、蛍光光度計を用いて検出または測定すしてもよい。
【0055】
さらに、ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニンとの結合を、ポリペプチドに対する抗体を用いて検出または測定することもできる。例えば、支持体上に固定化したS-アデノシル-L-メチオニンを被験化合物およびポリペプチドと接触させた後、混合物をインキュベート、および洗浄し、かつポリペプチドに対する抗体を用いて検出または測定を行うことができる。
【0056】
抗体を本スクリーニングに用いる場合、好ましくは、抗体を上記の標識物質の一つによって標識し、かつ標識物質に基づいて検出または測定する。さらに、本発明のスクリーニングにおいてタンパク質に結合した抗体は、プロテインGまたはプロテインAカラムを用いて検出または測定され得る。
【0057】
本スクリーニングによって単離された化合物は、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を阻害する薬剤の候補であり、HCCまたは結腸直腸癌の治療または予防に応用することができる。
【0058】
さらに、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を阻害する化合物の構造の一部が、付加、欠失および/または置換によって変換された化合物も、本発明のスクリーニング方法によって得られる化合物に含まれる。
【0059】
上に注記したように、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を阻害する化合物は、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を欠く部分的ペプチドのいずれかであり得、またはZNFN3A1に対する抗体であり得る。本明細書で用いる場合、「抗体」という用語は、抗体を合成するために用いた抗原またはそれと密接に関連した抗原のみと相互作用する(すなわち、結合する)、特異的な構造を有する免疫グロブリン分子のことを指す。さらに、抗体は、ZNFN3A1遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する限り、抗体または修飾された抗体の断片であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはH鎖およびL鎖からのFv断片が適当なリンカーによって連結されている一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Huston, J.S.et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879〜5883(1988))。より具体的には、抗体断片は、パパインまたはペプシンのような酵素によって抗体を処理することによって生成してもよい。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して、発現ベクターに挿入し、適当な宿主細胞において発現してもよい(例えば、Co, M.S.et al.、J. Immunol. 152:2968〜2976(1994);Better, M.およびHorwitz, A.H.、Methods Enzymol. 178:476〜496(1989);Pluckthun, A.およびSkerra, A.、Methods Enzymol. 178:497〜515(1989);Lamoyi, E.、Methods Enzymol. 121:652〜663(1986);Rousseaux, J.et al.、Methods Enzymol. 121:663〜669(1986);Bird, R.E.およびWalker, B.W.、Trends Biotechnol. 9:132〜137(1991)を参照されたい)。
【0060】
抗体を、ポリエチレングリコール(PEG)のなどの多様な分子との結合によって修飾してもよい。本発明は、そのような修飾された抗体を提供する。修飾された抗体は、抗体を化学修飾することによって得ることができる。そのような修飾法は当技術分野において一般的である。または、抗体を、非ヒト抗体に由来する可変領域およびヒト抗体に由来する定常領域を有するキメラ抗体、または、非ヒト抗体に由来する相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体に由来するフレームワーク領域(FR)、および定常領域を含むヒト化抗体を含み得る。そのような抗体は、公知の技術を用いて調製することができる。ヒト化は、ヒト抗体の対応する配列の代わりに、齧歯類のCDRまたはCDR配列を用いることによって実施され得る(例えば、Verhoeyen et al.、 Science 239:1534〜1536 (1988)を参照されたい)。したがって、そのようなヒト化抗体は、実際には、ヒト可変ドメインの全域より狭い領域が、非ヒト種由来の対応する配列によって置き換えられたキメラ抗体である。
【0061】
ヒトフレームワーク領域および定常領域に加えて、ヒト可変領域を含む完全ヒト抗体もまた用いることができる。そのような抗体は、当技術分野で公知のさまざまな技術を用いて作製することができる。例えば、インビトロの方法は、バクテリオファージ上に提示されたヒト抗体断片の組換えライブラリーの使用を含む(例えば、Hoogenboom & Winter, J. Mol. Biol. 227:381 (1991))。同様に、ヒト免疫グロブリン座位を、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されたトランスジェニック動物、例えばマウスに導入することによってヒト抗体を作製することができる。このアプローチは例えば、米国特許第6,150,584号、第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,661,016号に記載されている。
【0062】
本発明の方法によって単離された化合物を、ヒトおよび他の哺乳動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーに対して製剤として投与する場合、単離された化合物を直接投与してもよく、または公知の薬学的調製法を用いて剤形に製剤化してもよい。例えば、必要に応じて、薬剤を糖衣錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、およびマイクロカプセルとして経口投与することもでき、または水もしくは他の任意の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液である注射剤の形態として非経口的に投与することもできる。例えば、化合物を、一般に認められる薬剤の実現のために必要な単位用量の形で、薬学的に許容される担体または媒体、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、媒質、保存料、結合剤などと混合することができる。これらの製剤における有効成分の量により、指定された範囲内にある適した投与量が得られる。
【0063】
錠剤およびカプセル剤に混合し得る添加剤の例には、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴムおよびアラビアゴムなどの結合剤;結晶セルロースなどの媒質;コーンスターチ、ゼラチンおよびアルギン酸などの膨潤剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;スクロース、ラクトースまたはサッカリンなどの甘味料;ならびにペパーミント、冬緑油、およびチェリーなどの香味剤がある。単位用量剤形がカプセル剤である場合、油などの液体担体も上記の成分にさらに含めることができる。注射用の滅菌混合物は、通常の薬剤の実現に倣って、注射用の蒸留水などの媒体を用いて製剤化することができる。
【0064】
生理食塩水、グルコース、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトールおよび塩化ナトリウムなどのアジュバントを含むその他の等張液を、注射用の水溶液として用いることができる。これらは適した可溶化剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールなどの多価アルコール、Polysorbate 80(商標)およびHCO-50などの非イオン性界面活性剤などと組み合わせて用いることができる。
【0065】
ゴマ油またはダイズ油は油脂性液体として用いることができ、これらを可溶化剤としての安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールと組み合わせて用いることもでき、さらにこれらをリン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液などの緩衝液;塩酸プロカインなどの鎮痛薬;ベンジルアルコールおよびフェノールなどの安定剤;ならびに抗酸化剤と共に製剤化することもできる。調製された注射剤は適したアンプルに充填することができる。
【0066】
本発明の薬学的組成物を、例えば動脈内注射、静脈内注射、または皮下注射として、および同じく鼻腔内投与、経気管支投与、筋肉内投与または経口投与として患者に投与するために、当業者に周知の方法を用いることができる。投与量および投与方法は患者の体重および年齢ならびに投与方法に応じて異なる。しかしながら、当業者はルーチン的に適切な投与方法を選択することができる。前記化合物がDNAによってコードされ得る場合、DNAを遺伝子治療用のベクターに挿入し、治療を行うためにそのベクターを患者に投与することができる。投与量および投与方法は患者の体重、年齢および症状に応じて異なるが、当業者はそれらを適切に選択することができる。
【0067】
例えば、ZNFN3A1と結合してその活性を調節する化合物の投与量は、その症状に依存するとはいえ、標準的な成人(体重60 kg)に対して経口投与する場合、約0.1 mg〜約100 mg/日、好ましくは約1.0 mg〜約50 mg/日、およびより好ましくは約1.0 mg〜約20 mg/日である。
【0068】
標準的な成人(体重60 kg)に対して注射剤の形態として非経口的に投与する場合、患者、標的臓器、症状および投与方法に応じて若干の違いはあるものの、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、およびより好ましくは約0.1〜約10 mg/日の用量を静脈注射することが好都合である。同じく、他の動物の場合にも、体重60 kgに換算した量を投与することが可能である。
【0069】
本発明はさらに、対象におけるHCCまたは結腸直腸癌を治療するための方法を提供する。投与は、ZNFN3A1の異常なメチルトランスフェラーゼ活性と関連する障害に対するリスクのある(もしくは感受性のある)またはそのような障害を有する対象に対して、予防的または治療的に行うことができる。本方法は、HCC細胞または結腸直腸癌細胞におけるZNFN3A1の機能を低下させる段階を含む。機能は、本発明のスクリーニング方法によって得られた化合物の投与によって阻害することができる。
【0070】
もう一つの局面において、本発明は、本明細書に記載の1つまたは複数の治療的化合物を含む、薬学的または治療的な組成物を含む。または、本発明は、HCCまたは結腸直腸癌の治療および/もしくは予防のための薬学的または治療的な組成物を製造するための、本明細書に記載の1つまたは複数の治療的化合物の使用方法を提供する。薬学的製剤には、経口、直腸、鼻、局所(頬および舌下を含む)、膣、もしくは非経口(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)の投与に適したもの、または吸入もしくは通気による投与に適したものが含まれ得る。製剤は、適宜、個別の投与量単位で都合良く提示でき、薬学分野における周知の方法のいずれかによって調製できる。そのような薬学の方法は、全て、必要に応じて、液状担体もしくは微細に粉砕された固形担体またはその両方と活性化合物とを会合させる段階を含み、かつ必要であれば、次いで、その生成物を所望の製剤へと成形する段階を含む。
【0071】
経口投与に適した薬学的製剤は、所定の量の活性成分を各々含有しているカプセル剤、カシェ剤、もしくは錠剤のような個別の単位として;散剤もしくは顆粒剤として;または液剤、懸濁剤、もしくは乳濁剤として、都合良く提示できる。活性成分は、ボーラス舐剤またはペースト剤として提示してもよく、そして純粋な(即ち、担体を含まない)形態であってもよい。経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、結合剤、増量剤、滑沢剤、崩壊剤、または湿潤剤のような従来の賦形剤を含有し得る。錠剤は、任意で、1個以上の製剤化成分を用いて、圧縮または成型により作成してもよい。圧縮錠剤は、結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、滑沢、界面活性、または分散剤と任意に混合された散剤または顆粒剤のような流動性の高い形態の活性成分を適当な機械で圧縮することにより調製できる。成型錠剤は、不活性液状希釈剤で湿らされた粉末化合物の混合物を適当な機械で成型することにより作成できる。錠剤は、当技術分野における周知の方法に従い、剤皮を施してもよい。経口液状調製物は、例えば、水性もしくは油性の懸濁剤、液剤、乳濁剤、シロップ剤、もしくはエリキシル剤の形態であってもよいし、または乾燥生成物として提示し、使用前に水もしくはその他の適当な媒体で調製してもよい。そのような液状調製物は、懸濁化剤、乳化剤、非水性媒体(食用油を含み得る)、または保存剤のような従来の添加剤を含有し得る。錠剤は、任意で、含まれる活性成分を徐放するようにまたは放出が制御されるように製剤化してもよい。
【0072】
非経口投与用の製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および対象となるレシピエントの血液と等張にする溶質を含有し得る水性および非水性の無菌の注射液剤;ならびに懸濁化剤および濃化剤を含み得る水性および非水性の無菌の懸濁剤が含まれる。製剤は、単位用量容器または多回用量容器、例えば、密封されたアンプルおよびバイアルで提示でき、使用直前に無菌の液状担体、例えば、生理食塩水、注射用水の添加のみを必要とする、フリーズドライ(凍結乾燥)状態で保管してもよい。または、製剤は連続注入用に提示してもよい。即席の注射用の液剤および懸濁剤は、前記の種類の無菌の散剤、顆粒剤、および錠剤から調製できる。
【0073】
直腸投与用の製剤は、カカオバターまたはポリエチレングリコールのような通常の担体を含む坐剤として提示できる。口内、例えば、頬または舌下への局所投与用の製剤には、ショ糖およびアラビアゴムもしくはトラガカントゴムのような風味付きの基剤中に活性成分が含まれたロゼンジ剤、ならびにゼラチンおよびグリセリンもしくはショ糖およびアラビアゴムのような基剤中に活性成分が含まれた香錠が挙げられる。鼻腔内投与の場合、本発明の化合物は、液状スプレーもしくは分散可能な散剤として、または滴剤の形態で使用できる。滴剤は、1つ以上の分散剤、可溶化剤、または懸濁化剤も含む水性または非水性の基剤を用いて製剤化できる。液状スプレーは、加圧パックから都合良く送達される。
【0074】
吸入による投与の場合、化合物は、注入器、ネブライザー、加圧パック、またはエアロゾルスプレーを送達するその他の便利な手段から都合良く送達される。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、またはその他の適当なガス等の適当な噴霧剤を含み得る。加圧エアロゾル剤の場合、投与量単位はバルブによって決定され、計量された量が送達される。
【0075】
または、吸入または通気による投与の場合、化合物は、乾燥粉末組成物、例えば、化合物と乳糖またはデンプンのような適当な粉末基剤との粉末混合物の形態をとり得る。粉末組成物は、単位剤形、例えば、カプセル、カートリッジ、ゼラチン、またはブリスター包装で提示でき、それらから、吸入器または注入器を使用して粉末を投与できる。
【0076】
所望の場合、活性成分を徐放するよう適合させた上記の製剤が利用されてもよい。薬学的組成物は、抗微生物剤、免疫抑制剤、または保存剤のようなその他の活性成分を含有していてもよい。
【0077】
特に上で言及した成分に加え、本発明の製剤には、問題となる製剤の型を考慮した上で、当技術分野において一般的なその他の薬剤が含まれていてもよいこと、例えば、経口投与に適した薬剤には着香料が含まれていてもよいことが理解される。
【0078】
好ましい単位投与量製剤は、下記のような有効量またはその活性成分の適切な画分を含有しているものとする。
【0079】
前記の各条件のため、組成物は、1日当たり約0.1〜約250 mg/kgの用量で経口的にまたは注射により投与され得る。成人のヒトに対する用量範囲は、一般に、約5 mg〜約17.5 g/日、好ましくは約5 mg〜約10 g/日、最も好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。個別の単位で提供される錠剤またはその他の単位剤形には、そのような投与量またはその多回数の投与量で有効量となる量、例えば、約5 mg〜約500 mg、通常約100 mg〜約500 mgを含有する単位が都合良く含まれる。
【0080】
薬学的組成物は、好ましくは、経口的にまたは注射(静脈内もしくは皮下)により投与され、対象へ投与される正確な量は、担当医師の責任であろう。しかしながら、用いられる用量は、対象の年齢および性別、治療が施される正確な障害およびその重傷度を含む多数の要因によるものと考えられる。また、投与経路も、状態およびその重症度によって変動し得る。
【0081】
実施例1:一般的な方法
インビトロでのヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMTアーゼ)アッセイ法
293T細胞に、Flag標識ZNFN3A1を発現するプラスミド(pFLAG-CMV-ZNFN3A1)、SET7タンパク質またはモック(mock)を発現するプラスミドをトランスフェクトし、抗Flag抗体を用いた免疫沈降により、標識タンパク質を精製した。インビトロHMTアーゼアッセイ法を、わずかな修正を加えたプロトコール(1)に従い実施した。手短に述べると、免疫沈降させたタンパク質を、基質としての25 μgの遊離ヒストン(H3、H2B、H2AおよびH4の混合物;Roche)およびメチル供与体としての2.5 μCi S-アデノシル-L-[メチル-3H]メチオニンと共に、40 μlのメチラーゼ活性緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 8.5、20 mM KCl、10 mM MgCl2、10 mM β-メルカプトエタノール、250 mMスクロース)混合液中にて37℃で60分間インキュベートした。ヒストンH3メチルトランスフェラーゼ活性の測定のために、免疫沈降タンパク質を、基質としての1 μgの組換えヒストンH3タンパク質(Upstate)およびメチル供与体としての2 μCi S-アデノシル-L-[メチル-3H]メチオニン(SAM)(Amersham Biosciences)と共に、20 μlのメチラーゼ活性緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 8.5、100 mM NaCl、10 mM DTT)混合液中にて30℃で1時間インキュベートした。タンパク質を18% SDS-PAGEによって分離し、クーマシー染色およびフルオログラフィーによって可視化した。
【0082】
インビトロでのヒストンH3メチルトランスフェラーゼ(HMTアーゼ)アッセイ法
H3-K4特異的メチルトランスフェラーゼ活性を、20 μMの非標識S-アデノシル-L-メチオニン(SAM)および2 μgのHSP90Aの存在下で免疫沈降物と共に30℃で1時間インキュベートした組換えアフリカツメガエル(Xenopus)H3タンパク質(UBI)の、モノメチル化H3-K4(Abcam;ab8895)、ジメチル化H3-K4(Abcam;ab7766)、トリメチル化H3-K4(Abcam;ab8580)、全H3(Abcam;ab1791)またはトリメチル化H3-K9(UBI;07523)に対する抗体を用いたウエスタンブロット分析によって検討した。Flag標識野生型ZNFN3A1、変異型ZNFN3A1、SET7/9、SUV39H1またはモックを発現するプラスミドをトランスフェクトした細胞の溶解物を、抗Flag抗体(Sigma)を用いて免疫沈降させた。ジメチル化H3-K4(Abcam;ab7768、ARTK-Me2-QTAR-GGC)およびジメチル化H3-K9(Abcam;ab1772、QTARK-Me2-ST-GGC)に対するペプチドを、競合アッセイ法に用いた。組換えZNFN3A1は、GST融合ZNFN3A1を発現するプラスミドを用いて大腸菌バクテリアにおいて、またはHA標識ZNFN3A1を発現するプラスミドを用いてSf9細胞において発現させた。H3-メチルトランスフェラーゼ活性もまた、0.04U SAHH(Sigma)の存在下または非存在下で、免疫沈降させたZNFN3A1タンパク質またはSf9細胞から精製した組換えZNFN3A1を用いて分析した。
【0083】
コロニー形成アッセイ法
野生型ZNFN3A1および変異型ZNFN3A1(ΔEELおよびΔNHSC)の全コード配列を、p3xFLAG-CMV-10(SIGMA)の適切なクローニング部位中にクローニングした。野生型ZNFN3A1のセンス鎖を発現するように設計されたプラスミド(p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1)または変異型ZNFN3A1のセンス鎖を発現するように設計されたプラスミド(p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1-ΔEEL、p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1-ΔNHSC)または対照プラスミド(p3xFLAG-CMV-10)を、FuGENE6試薬を供給元の推奨(Roche)に従って用い、HEK293細胞、結腸直腸癌細胞または肝癌細胞にトランスフェクトした。トランスフェクト細胞は、最適化された濃度のジェネティシンを加えた培地中で維持された。細胞生存度は、Cell Counting Kit-8によって製造元のプロトコール(DOJINDO)に従って測定した。
【0084】
cDNAマイクロアレイによる下流遺伝子の同定
ZNFN3A1を発現するHEK293細胞に、pcDNAZNFN3A1またはモックベクターをトランスフェクトした。トランスフェクションから18時間後にRNAを抽出し、Cy3またはCy5色素で標識し、かつ以前に記載した通り(2,3)の13,824種の遺伝子を含む自施設内cDNAマイクロアレイスライドグラス上で同時ハイブリダイゼーションに供した。データの標準化の後、カットオフ値を上回るシグナルを有する遺伝子をさらに分析した。
【0085】
クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイ法
HEK293細胞、HepG2細胞、およびHuh7細胞に対してpFLAG-CMV-ZNFN3A1をトランスフェクトし、その後1%ホルムアルデヒド中で固定した。固定したクロマチン試料を、ChIPアッセイキット用いて製造元の指示(Promega)に従い、免疫沈降に供した。HEK293細胞由来のDNAは抗Flag抗体または抗ジメチル化ヒストンH3抗体を用いて沈降させ、HepG2細胞またはHuh7細胞由来のDNAは抗ZNFN3A1抗体を用いて沈降させた。ChIPアッセイ法に用いたプライマーのセットは表1に示した。
【0086】
(表1)ChIPアッセイ法に用いたプライマー
【0087】
ルシフェラーゼアッセイ法
Nkx2.8プロモーターの断片を、プライマーのセット、5'-AGCGGGCCTGGTACCAAATTTGTG-3'(配列番号:46)および5'-CCGGGATGCTAGCGCATTTACAGC-3'(配列番号:47)を用いるPCRによって増幅し、その産物をpGL3基本ベクター(pGL3-Nkx2.8-wtZBE)中にクローニングした。変異型レポータープラスミド(pGL3-Nkx2.8-mutZBE)は、QuickChange部位特異的突然変異キットを用い、供給元の推奨(Stratagene)に従って、pGL3-Nkx2.8-wtZBE中のZNFN3A1結合配列を置換すること(CCCTCCTをCCGACCTに、およびGAGGGGをGTCGGGに)によって調製した。ルシフェラーゼアッセイ法は、デュアル-ルシフェラーゼレポーターアッセイシステムを用い、製造元の指示(Promega)に従って行った。
【0088】
HEK293-Nkx2.8Luc細胞の確立
HEK293-Nkx2.8Luc細胞の安定形質転換体を、FuGENE6試薬を用い、供給元の推奨(Roche)に従って、HEK293細胞へのpGL3-Nkx2.8-wtZBEおよびpcDNA(+)3.1プラスミド(10:1)のトランスフェクションによって確立した。トランスフェクトした細胞は、0.9 μg/μlのジェネテシンを加えた培地中に維持され、トランスフェクションから2週後に単一コロニーを選択した。
【0089】
細胞株
ヒト胎児腎臓293(HEK293)細胞およびヒト子宮頸癌(HeLa)細胞はIWAKI社から入手した。ヒト肝癌細胞株HepG2、ヒト子宮頸癌細胞株HeLa、およびヒト結腸癌細胞株HCT116は、American Type Culture Collection(ATCC)から入手した。もう一つのヒト肝癌細胞株Huh7はJapanese Collection of Research Bioresources(JCRB)から入手し、SNU423およびSNU475は韓国細胞株バンクから入手した。細胞株はすべて適切な培地中で単層として増殖させた。
【0090】
RT-PCR
標準的なRT-PCRを容積20 μlのPCR緩衝液(TAKARA)中で行い、Gene Amp PCRシステム9700(Perkin-Elmer)において、94℃ 4分間の変性に続いて、94℃ 30秒間、56℃ 30秒間、72℃ 30秒間の30サイクルによって増幅した。RT-PCR実験のために用いたプライマー配列は表2に示した。
【0091】
(表2)RT-PCRに用いたプライマー
【0092】
変異型ZNFN3A1のウエスタンブロット分析
野生型およびさまざまな変異型のFlag標識ZNFN3A1を発現するプラスミドをトランスフェクトした細胞を、抗ZNFN3A1抗体または抗Flag抗体を用いてイムノブロットした。変異型ZNFN3A1を発現するプラスミドを、表3に列記したプライマーのセットを用いて増幅したPCR産物と共に、p3xFLAG-CMV-10ベクターにクローニングした。
【0093】
(表3)変異型ZNFN3A1を構築するために用いたプライマー
【0094】
実施例2:ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性の決定
ZNFN3A1の野生型SETドメインを含むタンパク質、および2つの領域の一方を欠く2種類の形態の変異型タンパク質を調製し、同量の各タンパク質を、UV照射に曝露することによって[3H]標識SAMと架橋させた。図1bに示されているように、野生型SETドメインは[3H]標識SAMと相互作用が可能であり、変異体はいずれもそれと相互作用せず、このことがSETドメインとメチル供与体との相互作用を示した。さらに、野生型SET、またはSET7の対照組換えタンパク質を、[3H]標識SAMおよび基質としてのヒストンの混合物と共にインキュベートし、SDS-PAGEによる分離後に標識タンパク質を測定した。予想通り、対照SET7(図1c、レーン3)による[3H]標識ヒストンH3タンパク質に対応する強いバンドが検出された。基質をZNFN3A1の野生型SETと共にインキュベートした場合、標識ヒストンH3に対応する弱いバンドが検出されたが、モックを用いた場合は観察されなかった(図1c、レーン1および2)。
【0095】
酵母ツーハイブリッドスクリーニングによってHSP90AがZNFN3A1の相互作用性タンパク質として同定されたため、HSP90AはSETのタンパク質の折りたたみを補助する可能性があると推定された。この仮説を検証するために、SAMおよびヒストンを野生型SETおよび組換えHSP90Aタンパク質と組み合わせてインキュベートしたところ、ヒストンH3に対するメチルトランスフェラーゼ活性の増強が生じた(図1c、レーン4および5)。これらのデータは、ZNFN3A1が、クロマチン構造および付随するRNAポリメラーゼII活性の改変を通して、下流遺伝子の発現を調節することを示している。
【0096】
実施例3:ZNFN3A1のヒストンH3メチルトランスフェラーゼ活性
SETドメインを含むタンパク質はヒストンH3のリジン4(H3-K4)またはリジン9(H3-K9)のメチル化に重要な役割を果たすことから、本発明者らは、ZNFN3A1がH3-K4またはH3-K9をメチル化する能力を有するか否かを調べた。本発明者らはインビトロで、組換えヒストンH3を、SAMおよびHSP90Aの存在下で、野生型または変異型のZNFN3A1またはSET7と共にインキュベートした。以前の報告(26)と一致して、SET7はH3-K4のモノメチル化およびジメチル化を増強したが、そのトリメチル化は誘導しなかった(図2a、レーン2)。これに対して、野生型ZNFN3A1はモノメチル化を引き起こさなかった。しかしながら、これはH3-K4のジメチル化およびトリメチル化は引き起し得た(図2a、レーン3)。このメチル化は、ジメチル化H3-K4ペプチドの添加によって完全に阻害されたが、ジメチル化H3-K9ペプチドの添加による影響は受けなかった(図2b)。H3-K9を用いた実験により、H3-K9は野生型または変異型ZNFN3A1のいずれによってもメチル化されないことが示され(図2c)、このことからZNFN3A1がH3-K4特異的なメチルトランスフェラーゼ活性を有することが示唆された。
【0097】
実施例4:組換えZNFN3A1のヒストンH3-K4メチルトランスフェラーゼ活性
さらに、野生型または変異型ZNFN3A1の全コード領域をpGEX6P-1ベクターの適切なクローニング部位にクローニングし、DH10B細胞において発現させた。組換えGST-ZNFN3A1融合タンパク質をSepharose 4Bビーズ(Amersham)によって精製し、Precisionプロテアーゼ(Amersham)を用いて供給元のプロトコールに従い、組換えZNFN3A1をさらに分離した(図3a、レーン4)。組換えZNFN3A1もインビトロでヒストンH3に対するHMTアーゼ活性を示した(図3b)。抗ジメチル化H3-K4抗体および抗トリメチル化H3-K4抗体を用いたウエスタンブロット分析により、組換えZNFN3A1がヒストンH3-K4に対するジメチル化およびトリメチル化を誘導することが示された(図3c、それぞれ上パネルおよび下パネル)。S-アデノシルホモシステインヒドロラーゼ(SAHH)は、SAMによって触媒され、かつメチル化を阻害するSAHを加水分解し、かつメチルトランスフェラーゼ活性を増強するため(4)、本発明者らは、SAHHがZNFN3A1のヒストンH3メチルトランスフェラーゼ活性に影響を及ぼすか否かを調べた。Flag標識ZNFN3A1のH3メチルトランスフェラーゼ活性は、SAHHの存在下の方がSAHHの非存在下よりも有意に高かった(図3d)。
【0098】
実施例5:ZNFN3A1のHMTアーゼ活性と癌細胞の増殖の関連性
細胞増殖に対するHMTアーゼ活性の影響を分析するため、本発明者らは、ZNFN3A1の野生型を発現するプラスミド(p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1)、もしくはZNFN3A1のHMTアーゼ不活性変異型を発現するプラスミド(p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1-ΔEEL、p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1-ΔNHSC)、または対照プラスミド(p3xFLAG-CMV)をトランスフェクトすることにより、コロニー形成アッセイ法を行った。野生型ZNFN3A1の形質導入は、内因性ZNFN3A1を発現しないHEK293細胞において、対照または変異型ZNFN3A1よりも著しく多くのコロニーを生じさせ、それはZNFN3A1の発癌活性を反復した(図4a)。一貫して、HCT116結腸癌細胞において、p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1によるトランスフェクションは、対照と比較してコロニー数を増加させた(図4b)。一方、p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1-ΔEELを用いた場合、HCT116細胞の増殖はp3xFLAG-CMVと比較して低下し、このことは変異型ZNFN3A1が内因性ZNFN3A1の機能を妨げる可能性を示唆する。さらに、本発明者らは、種々の結腸直腸癌細胞株および肝癌細胞株における変異型プラスミドの増殖阻害作用についても調べた(図5)。その結果、HMTアーゼ不活性ZNFN3A1(p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1-ΔEEL、p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1-ΔNHSC)の形質導入は、対照と比較して、癌細胞の増殖を有意に低下させることが示され、このことからZNFN3A1のHMTアーゼ活性は結腸癌および肝癌細胞の増殖と関連する可能性が示唆された。
【0099】
実施例6:ZNFN3A1によって調節される遺伝子の同定
ZNFN3A1によって調節される下流遺伝子を同定するため、ZNFN3A1発現がRT-PCRによって検出不能なレベルを示したHEK293細胞にpcDNA-ZNFN3A1をトランスフェクトし、13,824種の遺伝子を含むcDNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現の変化をモニターした。イムノブロット分析により、ZNFN3A1の時間依存的な誘導が早くも12時間の時点で示され(図6a)、したがってpcDNA-ZNFN3A1をトランスフェクトした細胞およびpcDNA-モックをトランスフェクトした細胞からトランスフェクション後18時間でRNAを抽出した。発現プロファイル分析により、モックトランスフェクト細胞と比較して、pcDNA-ZNFN3A1トランスフェクト細胞において3倍を上回って上方制御された62種の遺伝子、および3倍を下回って下方制御されたび19種の遺伝子を含む、発現量が変化した81種の遺伝子が同定された(表5)。62種の上方制御された遺伝子の中には、Myc、Crk、JunD、MafおよびWnt10Bなどの一組の癌遺伝子、細胞周期調節に関与する遺伝子(サイクリンG1、Cdk2、およびトポイソメラーゼII)およびホメオボックス遺伝子(Nkx2.5、Nkx2.8、およびLIMホメオボックスタンパク質2)が、ZNFN3A1の導入によって上方制御されることが見いだされた。cdk2はサイクリンAおよびサイクリンEと会合してS期の進行に重要な役割を果たし(5,6)、サイクリンE/cdk2複合体の増幅はCRCおよびHCCを含むいくつかの腫瘍において腫瘍の発達に関与することが示された(7,8)。ホメオボックス遺伝子は、発生における形態変化、および腫瘍発生にとって重要な因子であることが周知である(9)。したがって、ZNFN3A1の発現上昇は、これらの下流遺伝子の活性化を通して、ヒト発癌現象において重要な役割を果たす。
【0100】
Nkx2.8、C/EBPδ、Nkx2.5、Wnt10B、PIK3CB、NEURL、PSMD9、ECEL1、CRKL、APSおよびSeb4Dを含む11種の上方制御された遺伝子を選択し、ZNFN3A1またはモックをトランスフェクトした細胞由来のRNAを用いて半定量的RT-PCRを実施した。半定量的RT-PCRに用いたプライマーのセットは表2に示した。
【0101】
予想通り、この結果から、ZNFN3A1による、これらの遺伝子の発現増強が実証された(図6b)。推定ZNFN3A1結合配列を、Nkx2.8の転写開始部位の上流の1.5kb領域内で検索した。2つの配列が同定された(図7a)。pFLAG-ZNFN3A1をトランスフェクトした細胞および抗Flag M2抗体を用いた、その後のクロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイ法により、これらの配列を含む1つのゲノムセグメント(ChIP-4)はZNFN3A1と会合し、およびZNFN3A1結合配列を有さない他のセグメント(ChIP-1、-2および-3)は会合しないことが確かめられた(図7b)。ChIP-4セグメントは、5'隣接領域の-510bp〜-467bp内に2つの推定結合配列(CCCTCCTおよびGAGGGG)を含んでいた(図7a)。このZNFN3A1結合エレメント(ZBE)を含む二本鎖オリゴヌクレオチドプローブを調製し、かつ組換えGST、GST-ZNFN3A1、および対照としてGST-wtTcf4を用いて、インビトロ結合アッセイ法を行った(図7c)。インビトロ結合アッセイ法に用いたプローブは表4に示した。
【0102】
(表4)インビトロ結合アッセイ法に用いたオリゴヌクレオチド
【0103】
これらの結果は、野生型Tcf4結合モチーフ(wtTBM)を含むオリゴヌクレオチドプローブは、GST-wtTcf4とは会合するが、GSTまたはGST-ZNFN3A1タンパク質とは会合しないことを示している。同様に、ZBEはGSTとは会合しなかったが、これはGST-ZNFN3A1タンパク質とは結合することができた。さらに、非放射性競合DNAの添加によって相互作用が阻害されることが判明し、このことからGST-ZNFN3A1とZBE間の特異的相互作用が示唆された。
【0104】
(表5)ZNFN3A1によって上方制御および下方制御される遺伝子
【0105】
実施例7:ZNFN3A1はNkx2.8の転写活性を調節する
ZBEが癌細胞におけるNkx2.8のトランス活性化の原因であるか否かを検討するために、野生型ZBEを含むNkx2.8の-791〜+109をルシフェラーゼ遺伝子の上流領域にクローニングしたレポータープラスミド(pGL3-Nkx2.8-wtZBE)、ならびに変異型ZBEを含むもの(pGL3-Nkx2.8-mutZBE)を調製した。これらのレポータープラスミドをHepG2細胞またはSNU475細胞にトランスフェクトし、ZNFN3A1に対するsiRNAの存在下または非存在下において、それらのルシフェラーゼ活性を測定した(図7d)。これらの細胞において、変異型レポータープラスミドは野生型プラスミドよりも有意に低い活性を示し、このことからZBEがこれらの細胞におけるNkx2.8のトランス活性化の原因であることが示された。特に、ZNFN3A1に対するsiRNAを発現するプラスミド(psiU6BX-ZNFN3A1-12は、以下の二本鎖オリゴヌクレオチドをpsiU6BXベクターのBbs1部位にクローニングすることによって調製した;フォワード:5'-CACCAACATCTACCAGCTGAAGGTGTTCAAGAGACACCTTCAGCTGGTAGATGTT-3'(配列番号:48)、リバース:5'-AAAAAACATCTACCAGCTGAAGGTGTCTCTTGAACACCTTCAGCTGGTAGATGTT-3'(配列番号:49))(WO2004/76623))との同時トランスフェクションは、モック(psiU6BX-モック)と比較して、野生型レポータープラスミドのルシフェラーゼ活性を低下させたが、これは変異型プラスミドの活性には影響を及ぼさなかった。
【0106】
これらのデータは、ZNFN3A1が、ZBEとの相互作用を通して、Nkx2.8の転写活性を直接調節することを示している。
【0107】
実施例8:Nkx2.8はZNFN3A1のHSP90A依存的HMTアーゼ活性と関連性がある
ZNFN3A1のHMTアーゼ活性がNkx2.8の発現と関連するか否か、およびHSP90Aがその調節に関与するか否かを判定するため、HEK293細胞に、野生型またはHMTアーゼ不活性変異型のZNFN3A1を発現するプラスミド(ZNFN3A1-ΔEELおよびZNFN3A1-ΔNHSC)をトランスフェクトし、トランスフェクト細胞から単離したRNAを用いて半定量的RT-PCRを実施した(図7e)。予想された通り、野生型プラスミドはNkx2.8の発現を増強したが、どちらのタイプの変異型プラスミドも発現を誘導することができなかった。さらに、HSP90Aの特異的阻害剤であるゲルダナマイシンの添加は、野生型ZNFN3A1によって引き起こされる発現増強を抑制し(図7e、レーン3)、これはインビトロでHSP90AがZNFN3A1のHMTアーゼ活性を増強するという所見に一致する(図1c)。Nkx2.8のプロモーター領域およびルシフェラーゼ遺伝子(pGL3-Nkx2.8-wtZBE)がゲノム中に組み込まれたHEK293-Nkx2.8Luc細胞を確立した。野生型ZNFN3A1を発現するプラスミドによるトランスフェクションは、ルシフェラーゼ活性を用量依存的な様式で上昇させたが、2 μMゲルダナマイシンを添加した場合、またはHMTアーゼ不活性変異型を用いた場合には活性は増強しなかった(図7f)。以上を総合すると、これらの結果は、Nkx2.8の発現がZNFN3A1のHSP90A依存的HMTアーゼ活性と関連することを示している。
【0108】
実施例9:Nkx2.8プロモーター内のChaIP-4領域とZNFN3A1間の会合
本発明者らは、ZNFN3A1を豊富に発現するHepG2またはHuh7肝癌細胞由来の抽出物を用いて、抗ZNFN3A1抗体を用いてさらなるChIPアッセイ法を行い、それによって内因性ZNFN3A1タンパク質とChIP-4領域間の相互作用をさらに実証した(図8a)。抗ジメチル化H3-K4抗体を用いたさらなるChIPアッセイ法により、野生型ZNFN3A1をトランスフェクトしたHEK293細胞におけるジメチル化H3-K4とChIP-4領域間の会合が明らかにされた(図8b)。
【0109】
産業的な適用性
本発明者らは、ZNFN3A1がメチルトランスフェラーゼ活性を有し、およびその活性の抑制が癌細胞の細胞増殖の阻害につながることを示した。したがって、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性または結合を阻害する作用因子、およびその活性を妨げるその補助因子は、抗癌剤として、特にHCCまたは結腸直腸癌の治療のための抗癌剤としての治療的有用性を有する。
【0110】
HCCまたは結腸直腸癌において、ZNFN3A1の発現が上方制御されることが報告されている。したがって、本発明によるZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を検出するための方法は、これらの癌の同定にも有用である。具体的には、正常細胞と比較して、より高いメチルトランスフェラーゼ活性を示す細胞は、癌細胞として同定することができる。
【0111】
さらに、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を調節する修飾因子も癌の同定のために有用である。例えば、このような修飾因子は、対象細胞において検出されたメチルトランスフェラーゼ活性がZNFN3A1に由来するか否かを確かめるために用いることができる。具体的には、メチルトランスフェラーゼ活性が修飾因子によって改変される(阻害または増強される)場合、その活性は偽陽性でないと判断される。
【0112】
本明細書において引用される特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照により組み入れられる。さらに、本発明は、詳細に、かつ特定の態様を参照しつつ記載したが、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、様々な変更および修正をそれらに施し得ることが、当業者には明白である。
【0113】
参考文献
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【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】図1aは、メチルトランスフェラーゼのSETドメインにおける保存配列を示した図である。図1bは、野生型ZNFN3A1とS-アデノシル-L-メチオニン(SAM)間の相互作用を示したSDS-PAGEゲルの写真である。同量の野生型または変異型ZNFN3A1(矢印)を、[3H]標識したSAMと共にインキュベートした(上パネル)。SAMと会合したZNFN3A1(矢印)が蛍光図によって検出された(下パネル)。図1cは、組換えHSP90Aの存在下/非存在下での、ZNFN3A1のSETドメインのインビトロHMTアーゼアッセイ法の写真である。SET7を対照として用いた。
【図2】図2aは、インビトロでのヒストンH3-K4メチルトランスフェラーゼアッセイ法の写真である。ヒストンH3を、SAMおよびHSP90Aの存在下で、野生型もしくは変異型のZNFN3A1またはSET7と共にインキュベートした。図2bは、ジメチル化H3-K4に対する特異的ペプチドの添加によるH3-K4ジメチル化の阻害を示した写真である。図2cは、インビトロでのヒストンH3-K9メチルトランスフェラーゼアッセイ法の写真である。SUV39H1を陽性対照として用いた。
【図3】図3aは、CBB染色による免疫沈降ZNFN3A1タンパク質および組換えZNFN3A1タンパク質の検出を示したSDS-PAGEゲルの写真である。レーン1.タンパク質マーカー1、レーン2.タンパク質マーカー2、レーン3.免疫沈降Flag標識ZNFN3A1、レーン4.組換えZNFN3A1タンパク質、レーン5.アルブミン(1 μg)、レーン6.アルブミン(2 μg)、レーン7.アルブミン(5 μg)。図3bは、免疫沈降Flag-ZNFN3A1および組換えZNFN3A1タンパク質のインビトロでのヒストンH3 HMTアーゼ活性を示した写真である。。図3cは、免疫沈降Flag-ZNFN3A1または組換えZNFN3A1タンパク質による、ジメチル化(上パネル)およびトリメチル化(下パネル)ヒストンH3-K4を示した写真である。図3dは、ZNFN3A1のHMTアーゼ活性に対するSAHHの影響を示した棒グラフである。
【図4】図4aは、HEK293細胞におけるZNFN3A1の発癌活性の影響を示した棒グラフである。トランスフェクション後の第14日の時点で、生細胞の数をCell Counting Kit-8により測定した。*、Fisherの制約付最小有意差検定によって判定された有意差(p<0.05)。図4bは、HCT116細胞におけるZNFN3A1の発癌活性の影響を示した棒グラフである。トランスフェクション後の第14日の時点で、生細胞の数をCell Counting Kit-8により測定した。*、Fisherの制約付最小有意差検定によって判定された有意差(p<0.05)。
【図5】図5aは、プラスミドのトランスフェクションから14日後にCell Counting Kit-8により測定した、結腸癌株の細胞生存度を示した棒グラフである。細胞は、HCT116に関しては0.5 μg/μlのG418を含むマッコイ培地により、SW948に関しては1.0 μg/μlのG418を含むL-15培地により選択された。*、Fisherの制約付最小有意差検定によって判定された有意差(p<0.05)。図5bは、プラスミドのトランスフェクションから14日後にCell Counting Kit-8により測定した、肝癌細胞株の細胞生存度を示した棒グラフである。細胞は、HepG2に関しては1.0 μg/μlのG418を含むDMEMにより、Huh7およびAlexanderに関しては0.8 μg/μlのG418を含むDMEMにより選択された。*、Fisherの制約付最小有意差検定によって判定された有意差(p<0.05)。
【図6】図6aは、HEK293細胞におけるZNFN3A1の外因性発現を示した写真である。pcDNA(モック)またはpcDNA-ZNFN3A1をトランスフェクトした細胞におけるZNFN3A1の時間依存的発現をウエスタンブロット分析により調べた。図6bは、外因性ZNFN3A1に応答する候補下流遺伝子の発現を示した写真である。pcDNA-ZNFN3A1またはモックをトランスフェクトしたHEK293細胞由来のRNAを用いて半定量的RT-PCR分析を実施した。
【図7】図7aは、Nkx2.8の5'隣接領域内の、推定されるZNFN3A1結合配列を示した図である。ZNFN3A1によるNkx2.8のHSP90A依存的トランス活性化は、推定される結合配列とのその相互作用によって発現する。図7bは、ChIPアッセイ法による、Nkx2.8プロモーター領域内のZNFN3A1結合エレメントの同定を示した写真である。図7cは、組換えGST-ZNFN3A1とZNFN3A1結合エレメント(ZBE)を含む二本鎖DNAプローブ間のインビトロ結合アッセイ法の結果を示した棒グラフである。図7dは、HCC細胞における、ZNFN3A1-siRNAの存在下もしくは非存在下での、野生型または変異型ZNFN3A1結合エレメント(ZBE)を含むNkx2.8の転写アッセイ法を示した写真である。図7eは、HEK293細胞における、野生型(レーン2および3)または変異型(レーン4および5)ZNFN3A1の外因性発現に応答するNkx2.8の発現を示したゲルの写真である。HSP90A特異的阻害物質であるゲルダナマイシンの添加により、野生型ZNFN3A1によって引き起こされるNkx2.8の増強された発現が減少する(レーン3)。図7fは、ゲノム中に組み込まれたNkx2.8プロモーター-ルシフェラーゼ遺伝子を含むHEK293-Nkx2.8Luc細胞における、ルシフェラーゼ活性に対する野生型または変異型ZNFN3A1の影響を示した棒グラフである。
【図8】図8aは、肝癌細胞における内因性ZNFN3A1とNkx2.8のChIP-4領域間の相互作用を示した写真である。図8bは、HEK293細胞における、ZNFN3A1の存在下で、ジメチル化ヒストンH3リジン4(H3-K4)とChIP-4間の相互作用を示した写真である。
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、転写調節に関する。なお、本出願は、2004年1月23日に提出された米国特許仮出願第60/538,658号の恩典を主張し、その内容はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景技術
肝細胞癌(HCC)は世界中で最も一般的な癌の一つであり、その発生率は日本でも米国でも徐々に増加している(Akriviadis EA, et al.、 Br J Surg. 1998 Oct;85(10): 1319-31)。最近の医学の進歩によって診断は大きく進展したにもかかわらず、HCCを有する患者の多くは依然として進行期になって診断されており、疾患からの完全治癒は困難なままである。加えて、肝硬変または慢性肝炎の患者はHCCに対する高いリスクを有し、彼らは最初の腫瘍が完全に除去された後であってさえ複数の肝腫瘍または新たな腫瘍を生じる可能性がある。したがって、有効性の高い化学療法薬および予防策の開発は、差し迫った懸念事項となっている。
【0003】
結腸直腸癌は、先進諸国における癌による死因の第一位である。具体的に、米国では毎年130,000例を超える結腸直腸癌の新規症例が報告されている。結腸直腸癌は、癌全体の約15%を占める。これらの中で、約5%が遺伝性の遺伝子欠損に直接関係している。多くの患者が癌の発症前に前癌性結腸ポリープまたは直腸ポリープという診断を受けている。多くの小さい結腸直腸ポリープは良性であるが、いくつかのタイプは癌へと進行する可能性がある。最も広く用いられている結腸直腸癌のスクリーニング試験は、結腸鏡検査である。この方法は、疑わしい増殖を可視化するため、および/または組織生検を採取するために用いられる。典型的に、組織生検を組織学的に調べて、生検を行った細胞の顕微鏡所見に基づいて診断を下す。しかしながら、この方法は、主観的な結果を生じることと、前癌状態を非常に早期に検出するために用いることができないことから限界がある。非常に初期の段階の結腸直腸癌または前悪性病変を検出するための、高感度、特異的、かつ簡便な診断系の開発は、それによってこの疾患を最終的に根絶し得ることから非常に望ましい。
【発明の開示】
【0004】
発明の概要
本発明は、一部には、癌細胞の増殖に関与するポリペプチドである、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性の発見に基づく。さらに、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性は、90-kD熱ショックタンパク質(HSP90A)の存在下で発現する。
【0005】
したがって、本発明は、本発明のポリペプチドを、メチルトランスフェラーゼ基質および補助因子と、基質のメチル化に適した条件下で接触させる段階、ならびに基質のメチル化レベルを検出する段階による、メチルトランスフェラーゼ活性を測定する方法を特徴とする。本発明のポリペプチドは、ZNFN3A1ポリペプチドまたはその機能的等価物である。例えば、本発明のポリペプチドは、配列番号:51のアミノ酸配列を含み得る。または、本発明のポリペプチドは、配列番号:51のアミノ酸配列を含み得、ここで1つまたは複数のアミノ酸は置換、欠失、または挿入され、かつそのポリペプチドは配列番号:51のポリペプチドの生物活性を有する。配列番号:51のポリペプチドの生物活性には、例えば、細胞増殖の促進および標的遺伝子の転写活性化が含まれる。加えて、ポリペプチドには、配列番号:50のオープンリーディングフレーム、または配列番号:50のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下(例えば、低または高)でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、かつ配列番号:51の生物活性を有する、428アミノ酸のタンパク質が含まれる。低ストリンジェント条件は、例えば、42℃、2×SSC、0.1%SDS、または好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSである。好ましくは、高ストリンジェント条件が用いられる。高ストリンジェント条件は、例えば、2×SSC、0.01%SDS中で室温20分間の洗浄を3回行い、次いで1×SSC、0.1%SDS中で37℃20分間の洗浄を3回行い、かつ1×SSC、0.1%SDS中で50℃20分間の洗浄を2回行うことである。しかしながら、温度および塩濃度などのいくつかの要因がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼす可能性があり、当業者は必要なストリンジェンシーを達成するためにこれらの要因を適切に選択することができる。任意で、ポリペプチドをさらに90-kD熱ショックタンパク質と接触させる。メチル化は、メチル基が別の化合物、例えば受容体分子に移動する触媒作用として定義される。メチル化は、放射性メチル供与体を用いるなどの方法によって検出される。基質は、タンパク質、核酸(RNAまたはDNA)または低分子などの、メチル基を受容し得る任意の化合物である。例えば、基質は、ヒストン、またはメチル化領域を含むヒストンの断片である。実際、ヒストンH3リジン4はZNFN3A1によってメチル化され得ることが確かめられている。したがって、ヒストンH3、またはリジン4を含むその断片は、基質として有用である。補助因子、例えばメチル供与体は、メチル基を供与し得る任意の化合物である。例えば、補助因子はS-アデノシル-Lメチオニンである。メチル化に適した条件には、例えば、Tris-HClなどの当技術分野で公知の塩基性緩衝液条件が含まれる。
【0006】
本発明はさらに、、本発明のポリペプチドを、被験作用因子の存在下で、メチルトランスフェラーゼ基質および補助因子と、基質のメチル化に適した条件下で接触させる段階、ならびに基質のメチル化レベルを決定する段階により、メチルトランスフェラーゼ活性を調節する(例えば、上昇または低下させる)作用因子を同定する方法を提供する。正常対照メチル化レベルと比較したメチル化のレベルの低下は、その被験作用因子がメチルトランスフェラーゼ活性の阻害物質であることを示す。メチルトランスフェラーゼ活性を阻害する(例えば、低下させる)化合物は、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するため、予防するため、またはその症状を緩和するために有用である。例えば、それらの化合物は癌細胞の増殖を抑制する。または、正常対照レベルと比較したレベルまたは活性の上昇は、被験作用因子がメチルトランスフェラーゼ活性のエンハンサーであることを示す。正常対照レベルとは、被験化合物の非存在下で検出される、基質のメチル化のレベルのことを意味する。
【0007】
本発明は、ポリペプチドを、被験作用因子の存在下で、熱ショックタンパク質90A(HSP90A)ポリペプチドと接触させる段階、およびポリペプチドとHSP90A間の結合を検出する段階による、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニングの方法を提供する。被験化合物の存在下におけるポリペプチドとHSP90Aとの結合を被験化合物の非存在下と比較した。ポリペプチドとHSP90Aとの結合を低下させる被験化合物を選択する。ポリペプチドとHSP90Aとの結合は、ポリペプチドとHSP90A間の非共有的な会合と定義される。結合は、酵母ツーハイブリッドスクリーニング系などの当技術分野で公知の方法によって測定される。
【0008】
本発明はまた、結腸直腸癌細胞または肝細胞癌細胞を上記のように同定した化合物と接触させることにより、結腸直腸癌または肝細胞癌の症状を緩和するための組成物および方法も含む。例えば、結腸直腸癌および肝細胞癌のいずれかまたは両方を治療する方法は、このような病状と診断された哺乳動物、例えばヒト患者に、上記のように同定した化合物の薬学的有効量および薬学的担体を含む組成物を投与することによって行われる。
【0009】
本発明はまた、化合物のメチルトランスフェラーゼ活性を、メチルトランスフェラーゼポリペプチド、基質、補助因子およびHSP90Aを用いて検出するためのキットを提供する。試薬はキットの形態で共に包装される。試薬、例えば、本発明のメチルトランスフェラーゼポリペプチド、基質、補助因子、対照試薬(陽性および/または陰性)および/または検出可能な標識は、別々の容器に包装される。本発明のもう一つの態様は、メチルトランスフェラーゼ活性、および/または本発明のZNFN3A1ポリペプチドと熱ショックタンパク質90Aポリペプチド(HSP90A)間の結合を調節するための、被験化合物の活性を検出するためのキットである。本キットは、ZNFN3A1ポリペプチドまたはその断片、およびHSP90Aポリペプチドを含む。この態様のいくつかの局面において、ZNFN3A1は、天然のZNFN3A1のSETドメインを有するアミノ酸配列を含む、ポリペプチド、好ましくは組換えポリペプチドである。さらに、本発明はまた、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニングのためのキットを提供し、キットは、配列番号:51のアミノ酸配列より選択される連続したアミノ酸配列(このアミノ酸配列はNHSCDPN(配列番号:52)およびGEELTICY(配列番号:53)のいずれかまたは両方を含む)を含むポリペプチドの構成成分;ならびにS-アデノシル-Lメチオニンを含む。アッセイを行うための指示書(例えば、書面、テープ、VCR、CD-ROM、その他)がキットに含まれる。キットのアッセイ形式は、当技術分野で公知のトランスフェラーゼアッセイ法または結合アッセイ法である。
【0010】
他に特記しない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、全て、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本発明の実施または試行においては、本明細書に記載されたものに類似するかまたは等価の方法および材料が使用され得るが、適当な方法および材料を以下に記載する。本明細書において言及される出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、その全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合、定義を含む本明細書によって統制される。さらに、材料、方法、および実施例は、例示的なものに過ぎず、本発明を制限するためのものではない。
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、一部には、癌細胞の増殖にかかわる新規ヒストンメチルトランスフェラーゼZNFN3A1の発見に基づく。ZNFN3A1のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性は90kD熱ショックタンパク質(HSP90A)の存在下で発現し、したがってHSP90Aはヒストンメチルトランスフェラーゼ活性に対して役割を果たす。
【0012】
ZNFN3A1の発現は、非癌肝臓組織および非癌結腸直腸組織と比較して結腸直腸癌および肝細胞癌(HCC)で著しく上昇している(WO 03/27143)。ZNFN3A1 cDNAは、配列番号:50に記載の、1284ヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む1622ヌクレオチドからなる。オープンリーディングフレームは、配列番号:51に示されているように、ジンクフィンガーモチーフおよびSETドメインを有する428アミノ酸のタンパク質をコードする。ZNFN3A1タンパク質の細胞内局在は、細胞周期の進行の間および培養細胞の密度によって変化する。細胞がS期の中期から後期にある場合、または低密度な条件下で培養されている場合、ZNFN3A1タンパク質は核内に蓄積する。一方、細胞が細胞周期の他の時期にある場合、または高密度な条件下で増殖している場合、ZNFN3A1タンパク質は細胞質にも核内と同様に局在する。
【0013】
ZNFN3A1は、保存された2つのアミノ酸配列「NHSCXXN」(配列番号:54)および「GEELXXXY」(配列番号:55)によって定義されるSETドメインを含む(図1A)。SETドメインを有するタンパク質をコードする遺伝子は、SETドメインの相同性に従って4つのファミリー、すなわちSUV39、SET1、SET2、およびRIZファミリーに分類される。ZNFN3A1のSETドメインは、これらのサブファミリーに保存されているpre-SET、post-SET、AWS、SANT、またはC2H2ドメインのいずれも含まず、したがってZNFN3A1はSETドメインタンパク質のサブファミリーの新規のクラスを構成し得る。
【0014】
ZNFN3A1はRNAヘリカーゼKIAA0054と直接会合してRNAポリメラーゼIIと複合体を形成し、これは、上皮増殖因子受容体(EGFR)を含む下流遺伝子の転写を、この複合体とEGFR遺伝子の5'隣接領域内の「(C)CCCTCC(T)」というエレメントとの直接結合を通して活性化する。さらに、ZNFN3A1はRNAヘリカーゼ(HELZ)および90kD熱ショックタンパク質(HSP90A)と会合することが示されている。
【0015】
NIH3T3細胞におけるZNFN3A1の外因性発現は細胞増殖の増加を引き起こした。一方、アンチセンスS-オリゴヌクレオチドによるその発現の抑制は、肝癌細胞の著しい増殖阻害を引き起こした。さらに、ZNFN3A1のsiRNAは肝癌細胞および直腸結腸腺癌の増殖を阻害し得る(WO2004/76623)。これらの所見は、ZNFN3A1が、RNAヘリカーゼおよびRNAポリメラーゼIIを有する複合体を通したEGFRを含む標的遺伝子の転写活性化によって癌細胞に発癌活性を与えること、ならびに複合体の活性の阻害が結腸直腸癌および肝細胞癌の治療のための戦略であることを示している。他のSETドメインタンパク質の調節解除はヒト新生物に関与することが示されている。例えば、ヒト白血病において、SET1ファミリーに属するショウジョウバエトリソラックス遺伝子のヒトホモログであるMLL(10,11)における頻繁な転座が観察される。MLL機能の喪失または獲得が発癌の原因であるか否かは不明であるが、MLLは、Hoxプロモーター配列との直接結合を通したSETドメインのメチラーゼ活性によって媒介されるH3リジン4特異的メチル化を通して、Hox遺伝子の転写を活性化する(12)。SET1ファミリーの2つのメンバーであるMLL2およびEZH2は、膵臓癌、グリオーム、またはホルモン抵抗性の転移性前立腺癌で増幅される(13-15)。
【0016】
本発明は、したがって、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を調節する化合物のスクリーニング方法を提供する。本方法は、ZNFN3A1ポリペプチドまたはメチルトランスフェラーゼ活性を有するその機能的等価物を、1つまたは複数の候補化合物と接触させること、および接触させたZNFN3A1または機能的等価物のメチルトランスフェラーゼ活性をアッセイすることによって実行される。ZNFN3A1または機能的等価物のメチルトランスフェラーゼ活性を調節する化合物がそれによって同定される。
【0017】
本発明において、「機能的に等価の」という用語は、対象タンパク質が、ZNFN3A1と同じかまたは実質的に同じメチルトランスフェラーゼ活性を有することを意味する。特に、タンパク質は、ヒストンH3またはリジン4を含むヒストンH3の断片のメチル化を触媒する。対象タンパク質が標的活性を有するか否かを本発明によって決定することができる。すなわち、ポリペプチドを基質(例えば、ヒストンH3またはリジン4を含む断片)および補助因子(例えば、S-アデノシル-L-メチオニン)と、基質のメチル化に適した条件下で接触させること、ならびに基質のメチル化レベルを検出することにより、メチルトランスフェラーゼ活性を決定することができる。
【0018】
所定のタンパク質と機能的に等価のタンパク質を調製する方法は当業者に周知であり、これにはタンパク質に変異を導入する公知の方法が含まれる。例えば、当業者は、部位特異的突然変異によってヒトZNFN3A1タンパク質のアミノ酸配列内に適切な変異を導入することにより、ヒトZNFN3A1タンパク質と機能的に等価のタンパク質を調製することができる(Hashimoto-Gotoh, T. et al. (1995), Gene 152, 271〜275;Zoller, MJ, and Smith, M. (1983), Methods Enzymol. 100, 468〜500;Kramer, W. et al. (1984), Nucleic Acids Res. 12, 9441〜9456;Kramer W, and Fritz HJ. (1987) Methods. Enzymol. 154, 350〜367;Kunkel, TA (1985), Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82,488〜492;Kunkel (1988), Methods Enzymol. 85, 2763〜2766)。アミノ酸変異は自然下でも起こり得る。本発明に用いられるタンパク質には、結果的に生じた変異タンパク質がヒトZNFN3A1タンパク質と機能的に等価であるという前提で、1つまたは複数のアミノ酸が変異したヒトZNFN3A1タンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質が含まれる。このような変異体において変異させるアミノ酸の数は一般に10アミノ酸またはそれ未満、好ましくは6アミノ酸またはそれ未満、およびより好ましくは3アミノ酸またはそれ未満である。メチルトランスフェラーゼ活性を維持するために、SETドメイン「NHSCXXN」(配列番号:54)および"GEELXXXY」(配列番号:55)が、変異タンパク質のアミノ酸配列中に保存され得る(「X」は任意のアミノ酸を表す)。
【0019】
変異または改変されたタンパク質、特定のアミノ酸配列の一つまたは複数のアミノ酸残基を欠失、付加、および/または置換することによって改変されたアミノ酸配列を有するタンパク質は、当初の生物学的活性を保持することが公知である(Mark, D.F. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1984)81:5662〜5666;Zoller, M.J.およびSmith, M.、Nucleic Acids Research(1982)10:6487〜6500;Wang, A. et al.、Science 224:1431〜1433;Dalbadie-McFarland, G. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1982)79:6409〜6413)。
【0020】
変異されるアミノ酸残基は、好ましくは、アミノ酸側鎖の特性が保存される異なるアミノ酸に変異される(保存的アミノ酸置換として公知の過程)。アミノ酸側鎖の特性の例は、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および以下の官能基または共通の特徴を有する側鎖:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);ならびに芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)である。括弧内の文字はアミノ酸の一文字コードを示すことに注意されたい。
【0021】
一つまたは複数のアミノ酸残基がヒトZNFN3A1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:51)に付加されるタンパク質の例は、ヒトZNFN3A1タンパク質を含む融合タンパク質である。融合タンパク質は、ヒトZNFN3A1タンパク質と他のペプチドまたはタンパク質との融合体であり、これらも本発明に用いられる。融合タンパク質は、当業者に周知の技術、例えば本発明のヒトZNFN3A1タンパク質をコードするDNAを、他のペプチドまたはタンパク質をコードするDNAに、フレームが一致するように連結させ、融合DNAを発現ベクターに挿入し、宿主でそれを発現させることによって作製することができる。本発明のタンパク質に融合させるペプチドまたはタンパク質に関して制限はない。
【0022】
ZNFN3A1タンパク質に融合されるペプチドとして用いることができる公知のペプチドには、例えば、FLAG(Hopp, T.P.et al.、Biotechnology(1986)6:1204〜1210)、6個のHis残基を含む6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-myc断片、VSP-GP断片、p18HIV断片、T7-タグ、HSV-タグ、E-タグ、SV40T抗原断片、lckタグ、α-チューブリン断片、B-タグ、プロテインC断片等が含まれる。本発明のタンパク質に融合し得るタンパク質の例には、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、インフルエンザ凝集素(HA)、免疫グロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)等が含まれる。
【0023】
融合タンパク質は、上記の融合ペプチドまたはタンパク質をコードする市販のDNAを、本発明のタンパク質をコードするDNAと融合させて、調製された融合DNAを発現させることによって調製することができる。
【0024】
機能的に等価なタンパク質を単離するための当技術分野で公知のもう一つの方法は、例えば、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook, J.et al.、Molecular Cloning、第2版、9.47〜9.58、コールドスプリングハーバー研究所出版、1989)を用いる方法である。当業者は、ヒトZNFN3A1タンパク質をコードするZNFN3A1 DNA配列(例えば、配列番号:50)の全て、または一部と高い相同性を有するDNAを容易に単離することができ、単離されたDNAからヒトZNFN3A1タンパク質と機能的に等価なタンパク質を単離することができる。本発明のタンパク質には、ヒトZNFN3A1タンパク質をコードするDNA配列の全てまたは一部とハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質、およびヒトZNFN3A1タンパク質と機能的に等価であるタンパク質が含まれる。これらのタンパク質には、ヒトまたはマウスに由来するタンパク質に対応する哺乳類相同体が含まれる(例えば、サル、ラット、ウサギ、およびウシ遺伝子によってコードされるタンパク質)。ヒトZNFN3A1タンパク質をコードするDNAと高い相同性を示すcDNAを動物から単離する場合、骨格筋、精巣、HCC、または結腸直腸腫瘍由来の組織を用いることが特に好ましい。
【0025】
ヒトZNFN3A1タンパク質と機能的に等価であるタンパク質をコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーション条件は、当業者によってルーチン的に選択することができる。例えば、ハイブリダイゼーションは、「Rapid-hyb緩衝液」(Amersham LIFE SCIENCE)を用いて、68℃で30分またはそれ以上プレハイブリダイゼーションを行い、標識プローブを加えて、68℃で1時間またはそれ以上加温することによって行ってもよい。次に続く洗浄段階は、例えば低ストリンジェント条件で行うことができる。低ストリンジェント条件は、例えば、42℃、2×SSC、0.1%SDS、または好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSである。より好ましくは高ストリンジェント条件を用いる。高ストリンジェント条件は、例えば、2×SSC、0.01%SDS中で室温20分間の洗浄を3回行い、次いで1×SSC、0.1%SDS中で37℃20分間の洗浄を3回行い、かつ1×SSC、0.1%SDS中で50℃20分間の洗浄を2回行うことである。しかしながら、温度および塩濃度のようないくつかの要因がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼす可能性があり、当業者は必須のストリンジェンシーを達成するために要因を適切に選択することができる。
【0026】
ハイブリダイゼーションの代わりに、遺伝子増幅法、例えば、ヒトZNFN3A1タンパク質(配列番号:51)をコードするDNA(配列番号:50)の配列情報に基づいて合成されたプライマーを用い、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いて、ヒトZNFN3A1タンパク質と機能的に等価なタンパク質をコードするDNAを単離することができる。
【0027】
上記のハイブリダイゼーション技術または遺伝子増幅技術によって単離されたDNAによってコードされる、ヒトZNFN3A1タンパク質と機能的に等価のタンパク質は、通常、ヒトZNFN3A1タンパク質のアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」(「高い同一性」とも呼ばれる)とは典型的に、2つの最適に整列化された配列(ポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列)間の同一性の程度を指す。典型的には、高い相同性または同一性とは、40%またはそれ以上、好ましくは60%またはそれ以上、より好ましくは80%またはそれ以上、さらにより好ましくは85%、90%、95%、98%、99%またはそれ以上の相同性を指す。2つのポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列の間の相同性または同一性の程度は、「Wilbur, W. J. and Lipman, D. J. Proc.Natl. Acad.Sci. USA (1983) 80, 726〜730」におけるアルゴリズムに従って決定することができる。
【0028】
本発明の状況において有用なタンパク質は、その産生のために用られる細胞もしくは宿主または用いる精製方法に依存して、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無または形態に関して差異がある可能性がある。しかしながら、それがヒトZNFN3A1タンパク質(配列番号:51)の機能と等価の機能を有する限り、それは本発明において有用である。
【0029】
本発明の状況において有用なタンパク質は、当業者に周知の方法によって、組換え型タンパク質または天然のタンパク質として調製することができる。組換え型タンパク質は、本発明のタンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:50のヌクレオチド配列を含むDNA)を、適当な発現ベクターに挿入し、ベクターを適当な宿主細胞に導入し、抽出物を得、かつ抽出物にクロマトグラフィー、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過、または本発明のタンパク質に対する抗体を固定したカラムを利用するアフィニティクロマトグラフィーを行うか、または上記のカラムの複数を組み合わせることにより、タンパク質を精製することによって調製され得る。
【0030】
同様に、本発明の状況において有用なタンパク質が宿主細胞(例えば、動物細胞および大腸菌(E.coli))内において、グルタチオン-S-トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、または多数のヒスチジンを加えた組換え型タンパク質として発現する場合、発現された組換え型タンパク質は、グルタチオンカラムまたはニッケルカラムを用いて精製することができる。
【0031】
融合タンパク質を精製した後、必要に応じてトロンビンまたは第Xa因子による切断によって、目的とするタンパク質以外の領域を除去することも可能である。
【0032】
天然のタンパク質は、当業者に公知の方法、例えば下記のZNFN3A1タンパク質に結合する抗体を結合させたアフィニティカラムを、本発明のタンパク質を発現する組織または細胞の抽出物に接触させることによって単離することができる。抗体はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であり得る。
【0033】
本発明において、ZNFN3A1ポリペプチドのメチルトランスフェラーゼ活性は、当技術分野で公知の方法によって決定することができる。例えば、ZNFN3A1および基質は、標識されたメチル供与体と共に、適したアッセイ条件下でインキュベートされ得る。ヒストンH3、ヒストンH3ペプチド、およびS-アデノシル-[メチル-14C]-L-メチオニンまたはS-アデノシル-[メチル-3H]-L-メチオニンが、好ましくは、それぞれ基質およびメチル供与体として用いられ得る。放射性標識のヒストンまたはヒストンペプチドへの移行は、例えば、SDS-PAGE電気泳動およびフルオログラフィーによって検出することができる。または、反応に続き、ヒストンまたはヒストンペプチドを濾過によってメチル供与体から分離し、かつフィルター上に保持された放射標識の量をシンチレーション計数法によって定量することができる。メチル供与体と結合し得る他の標識、例えば発色性標識および蛍光標識、ならびにこれらの標識のヒストンおよびヒストンペプチドへの移行を検出する方法は当技術分野で公知である。
【0034】
または、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を、非標識メチル供与体(例えば、S-アデノシル-L-メチオニン)、およびメチル化ヒストンまたはヒストンペプチドを選択的に認識する試薬を用いて決定することができる。例えば、ZNFN3A1、メチル化しようとする基質、およびメチル供与体を、基質のメチル化が可能な条件下でインキュベートした後、メチル化基質を免疫学的方法によって検出することができる。メチル化基質を認識する抗体を用いる任意の免疫学的技術を検出のために用いることができる。例えば、メチル化ヒストンに対する抗体が市販されている(abcam Ltd.)。メチル化ヒストンを認識する抗体を用いるELISAまたはイムノブロット法を本発明のために用いることもできる。
【0035】
抗体を用いる代わりに、メチル化ヒストンを、メチル化ヒストンと高い親和性で選択的に結合する試薬を用いて検出することもできる。このような試薬は当技術分野で公知であり、または当技術分野で公知のスクリーニングアッセイ法によって決定することもできる。結合試薬の例には、リジン4がメチル化されたヒストンH3(H3-K4)と結合するヘテロクロマチンタンパク質HP1がある。HP1またはその結合断片を標識し、メチル化H3-K4と結合したHP1または断片を検出することができる。または、HP1または断片を標識する必要なしに、その代わりにELISAアッセイ法で抗HP1抗体を用いて検出することもできる。
【0036】
本発明において、物質のメチル化を増強する作用因子が用いられ得る。例えば、Flag標識ZNFN3A1のH3メチルトランスフェラーゼ活性は、S-アデノシルホモシステインヒドロラーゼ(SAHH)の存在下の方がSAHHの非存在下よりも有意に高かった(図3d)。したがって、SAHHまたはその機能的等価物は好ましいメチル化増強因子である。この作用因子は物質のメチル化を増強し、それによってメチルトランスフェラーゼ活性をより高い感度で測定することができる。ZNFN3A1を、増強因子の存在下で基質および補助因子と接触させることもできる。
【0037】
さまざまなロースループットおよびハイスループット酵素アッセイ形式が当技術分野で公知であり、かつZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性の検出または測定のために容易に適合させることができる。ハイスループットアッセイ法のために、ヒストンまたはヒストンペプチド基質は、マルチウェルプレート、スライドガラス、またはチップなどの固体支持体上に、都合良く固定化され得る。反応に続き、メチル化産物を固体支持体上で上記の方法によって検出することができる。または、メチルトランスフェラーゼ反応は溶液中で行われ得、その後ヒストンまたはヒストンペプチドが固体支持体上に固定化され得、およびメチル化産物が検出される。そのようなアッセイ法を容易にするため、固体支持体はストレプトアビジンでコーティングされ得、かつビオチン標識ヒストン、または固体支持体は抗ヒストン抗体でコーティングされ得る。当業者は、スクリーニングの所望のスループット能力に依存して、適したアッセイ形式を決定することができる。
【0038】
ZNFN3A1またはその機能的等価物は、メチルトランスフェラーゼ活性を発現するために熱ショックタンパク質90A(HSP90A)を必要とする。したがって、ZNFN3A1またはその機能的等価物とHSP90A間の結合を妨げる化合物は、メチルトランスフェラーゼ活性の調節のために有用である。化合物は以下の方法によってスクリーニングされ得る。したがって、本発明はまた、以下の段階を含む、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニング方法を提供する:
a.以下からなる群より選択されるポリペプチドを、被験化合物の存在下で熱ショックタンパク質90Aポリペプチド(HSP90A)と接触させる段階;
i.配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
ii.1つもしくは複数のアミノ酸が置換、欠失または挿入された、配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、かつ該ポリペプチドが配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、ポリペプチド;
iii.配列番号:51に対して少なくとも約80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
vi.配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、配列番号:50のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;
b.ポリペプチドとHSP90A間の結合を検出する段階;
c.被験化合物の存在下におけるポリペプチドとHSP90Aとの結合を、被験化合物の非存在下における結合と比較する段階;ならびに
d.ポリペプチドとHSP90Aとの結合を低下させる被験化合物を選択する段階。
【0039】
本発明において、ポリペプチドとHSP90Aとの結合は、当業者に公知の任意の適した方法によって検出することができる。例えば、ポリペプチドおよびHSP90Aのいずれか一方を固体支持体に結合し、かつ他方は検出用の標識物質で標識し得る。本方法におけるポリペプチドまたはHSP90Aの標識のためには、放射性同位体(例えば、3H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ)、蛍光物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)およびビオチン/アビジンなどの標識物質が用いられ得る。標識物質の検出のための方法は周知である。
【0040】
本発明はまた、本発明のタンパク質の部分的ペプチドの使用方法も含む。部分的ペプチドは、ZNFN3A1のタンパク質に特異的なアミノ酸配列を有し、かつ約400アミノ酸未満、通常は約200アミノ酸未満、およびしばしば約100アミノ酸未満であり、ならびに少なくとも約7アミノ酸、好ましくは約8アミノ酸またはそれ以上、およびより好ましくは約9アミノ酸またはそれ以上からなる。部分的ペプチドは、例えば、ZNFN3A1のタンパク質と結合する化合物のスクリーニングのため、および、ZNFN3A1とその補助因子(SAMなど)間の結合の阻害物質のスクリーニングために用いられ得る。これらのスクリーニングのために、好ましくはSETドメインを含む部分的ペプチドが用いられ得る。
【0041】
本発明に用いられる部分的ペプチドは、遺伝子操作により、ペプチド合成の公知の方法により、または本発明のタンパク質を適切なペプチダーゼで消化することにより作製され得る。ペプチド合成のために、例えば、固相合成または液相合成が用いられ得る。
【0042】
SETドメインの変異を有するZNFN3A1変異体は、細胞増殖に対する阻害作用を示す(図4または5)。したがって、ZNFN3A1の部分的ペプチドは、好ましくは、SETドメイン「NHSCXXN」(配列番号:54)および/または「GEELXXXY」(配列番号:55)を含む。
【0043】
本発明の、HCCまたは結腸直腸癌を治療または予防するための化合物のスクリーニングのための方法のさらなる態様において、本方法は、ZNFN3A1のその補助因子(SAMなど)に対する結合能を利用する。S-アデノシル-L-メチオニンと結合するSETドメインに変異を有するタンパク質は、癌の細胞増殖を阻害する。これらの知見は、ZNFN3A1が、細胞増殖の機能を、S-アデノシル-L-メチオニンなどの分子との結合を介して発揮することを示唆する。したがって、ZNFN3A1とその補助因子間の結合の阻害は細胞増殖の抑制をもたらし、この結合を阻害する化合物は、HCCもしくは結腸直腸癌を治療または予防するための薬剤として役立つ。
【0044】
このスクリーニング方法は以下の段階を含む:
a.配列番号:51のアミノ酸配列由来の連続したアミノ酸配列を含むポリペプチドを、被験化合物の存在下でS-アデノシル-L-メチオニンと接触させる段階であって、ここでアミノ酸配列がNHSCDPN(配列番号:52)およびGEELTICY(配列番号:53)の一方または両方を含む、段階;
b.ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニン間の結合を検出する段階;
c.被験化合物の存在下におけるポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニンとの結合を、被験化合物の非存在下における結合と比較する段階;ならびに
d.ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニンとの結合を低下させる被験化合物を選択する段階。
【0045】
スクリーニングに用いられるポリペプチドは、天然物に由来する組換えポリペプチドもしくはタンパク質でもよく、またはS-アデノシル-L-メチオニンに対する結合能を保持する限り、その部分的ペプチドでもよい。スクリーニングに用いられるポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質であり得る。
【0046】
任意の被験化合物、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物の産物、海洋生物からの抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成マイクロ分子化合物および天然化合物を用いることができる。
【0047】
本明細書に記載したアッセイ法において有用な被験化合物は、ZNFN3A1と特異的に結合する抗体、またはメチルトランスフェラーゼ活性を持たない部分的ZNFN3A1ペプチドでもあり得る。例えば、抗体(例えば、モノクローナル抗体)は、ZNFN3A1とその基質、S-アデノシル-L-メチオニンまたはHSP90A間の結合を阻止する能力に関して試験され得る。同様に、部分的ZNFN3A1ペプチドは、ZNFN3A1とその基質、S-アデノシル-L-メチオニンまたはHSP90A間の結合を阻害する能力に関して試験され得、ZNFN3A1活性の阻害物質として用いられ得る。このような抗体および部分的ペプチドは、したがって、ZNFN3A1活性の阻害物質として用いられ得る。
【0048】
ZNFN3A1とS-アデノシル-L-メチオニン間の結合を阻害する化合物のスクリーニング方法として、当業者に周知の多くの方法が用いられ得る。このようなスクリーニングは、インビトロアッセイ系、例えば細胞系において行われ得る。より具体的には、まず、ポリペプチドまたはS-アデノシル-L-メチオニンのいずれかを支持体に対して結合させ、かつ他方の構成成分を被験試料と共にそこへ添加する。次に、この混合物をインキュベートし、洗浄し、かつ支持体と結合した他方の構成成分を検出および/または測定する。
【0049】
タンパク質を結合させるために用い得る支持体の例には、アガロース、セルロースおよびデキストランなどの不溶性多糖類;ならびにポリアクリルアミド、ポリスチレンおよびシリコンなどの合成樹脂が含まれる;好ましくは、以上の材料から作成された市販のビーズおよびプレート(例えば、マルチウェルプレート、バイオセンサーチップ、その他)が用いられ得る。ビーズを用いる場合、それらをカラムに充填してもよい。
【0050】
支持体に対するポリペプチドまたはS-アデノシル-L-メチオニンの結合は、化学的結合および物理的吸着などのルーチン的な方法に従って行われ得る。または、ポリペプチドを特異的に認識する抗体を介してポリペプチドは支持体に結合され得る。さらに、ポリペプチドの支持体に対する結合は、アビジンおよびビオチンの結合を用いて行われ得る。
【0051】
ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニン間の結合は、緩衝液がタンパク質同士の結合を阻害しない限りにおいて、制限されないが、緩衝液、例えばリン酸緩衝液およびTris緩衝液中で行われる。
【0052】
本発明において、表面プラスモン共鳴現象を用いるバイオセンサーが、ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニンとの結合を検出または定量するための手段として用いられ得る。このようなバイオセンサーを用いる場合、微量のポリペプチドのみを用いて、標識せずに、ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニン間の相互作用を表面プラスモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。したがって、BIAcoreなどのバイオセンサーを用いて、ポリペプチドならびにポリペプチドおよびS-アデノシル-L-メチオニン間の結合を評価することが可能である。
【0053】
または、ポリペプチドまたはポリペプチドおよびS-アデノシル-L-メチオニンのいずれかを標識し、その標識を、結合したポリペプチドまたはポリペプチドおよびS-アデノシル-L-メチオニンを検出または測定するために用いてもよい。具体的には、ポリペプチドまたはS-アデノシル-L-メチオニンの一つをあらかじめ標識した後、標識した構成成分を被験化合物の存在下で他方の構成成分と接触させ、次いで、結合した構成成分を洗浄後に標識によって検出または測定する。
【0054】
本方法におけるポリペプチドまたはS-アデノシル-L-メチオニンの標識のために、放射性同位体(例えば、3H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ)、蛍光物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)およびビオチン/アビジンなどの標識物質が用いられ得る。ポリペプチドまたはS-アデノシル-L-メチオニンを放射性同位体で標識する場合、検出または測定は液体シンチレーションによって行うことができる。または、酵素で標識したポリペプチドまたはS-アデノシル-L-メチオニンは、呈色などの基質の酵素的変化を検出するため、酵素の基質を添加することにより、吸光光度計で検出または測定することができる。さらに、蛍光物質を標識として用いる場合、結合した構成成分は、蛍光光度計を用いて検出または測定すしてもよい。
【0055】
さらに、ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニンとの結合を、ポリペプチドに対する抗体を用いて検出または測定することもできる。例えば、支持体上に固定化したS-アデノシル-L-メチオニンを被験化合物およびポリペプチドと接触させた後、混合物をインキュベート、および洗浄し、かつポリペプチドに対する抗体を用いて検出または測定を行うことができる。
【0056】
抗体を本スクリーニングに用いる場合、好ましくは、抗体を上記の標識物質の一つによって標識し、かつ標識物質に基づいて検出または測定する。さらに、本発明のスクリーニングにおいてタンパク質に結合した抗体は、プロテインGまたはプロテインAカラムを用いて検出または測定され得る。
【0057】
本スクリーニングによって単離された化合物は、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を阻害する薬剤の候補であり、HCCまたは結腸直腸癌の治療または予防に応用することができる。
【0058】
さらに、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を阻害する化合物の構造の一部が、付加、欠失および/または置換によって変換された化合物も、本発明のスクリーニング方法によって得られる化合物に含まれる。
【0059】
上に注記したように、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を阻害する化合物は、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を欠く部分的ペプチドのいずれかであり得、またはZNFN3A1に対する抗体であり得る。本明細書で用いる場合、「抗体」という用語は、抗体を合成するために用いた抗原またはそれと密接に関連した抗原のみと相互作用する(すなわち、結合する)、特異的な構造を有する免疫グロブリン分子のことを指す。さらに、抗体は、ZNFN3A1遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する限り、抗体または修飾された抗体の断片であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはH鎖およびL鎖からのFv断片が適当なリンカーによって連結されている一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Huston, J.S.et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879〜5883(1988))。より具体的には、抗体断片は、パパインまたはペプシンのような酵素によって抗体を処理することによって生成してもよい。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して、発現ベクターに挿入し、適当な宿主細胞において発現してもよい(例えば、Co, M.S.et al.、J. Immunol. 152:2968〜2976(1994);Better, M.およびHorwitz, A.H.、Methods Enzymol. 178:476〜496(1989);Pluckthun, A.およびSkerra, A.、Methods Enzymol. 178:497〜515(1989);Lamoyi, E.、Methods Enzymol. 121:652〜663(1986);Rousseaux, J.et al.、Methods Enzymol. 121:663〜669(1986);Bird, R.E.およびWalker, B.W.、Trends Biotechnol. 9:132〜137(1991)を参照されたい)。
【0060】
抗体を、ポリエチレングリコール(PEG)のなどの多様な分子との結合によって修飾してもよい。本発明は、そのような修飾された抗体を提供する。修飾された抗体は、抗体を化学修飾することによって得ることができる。そのような修飾法は当技術分野において一般的である。または、抗体を、非ヒト抗体に由来する可変領域およびヒト抗体に由来する定常領域を有するキメラ抗体、または、非ヒト抗体に由来する相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体に由来するフレームワーク領域(FR)、および定常領域を含むヒト化抗体を含み得る。そのような抗体は、公知の技術を用いて調製することができる。ヒト化は、ヒト抗体の対応する配列の代わりに、齧歯類のCDRまたはCDR配列を用いることによって実施され得る(例えば、Verhoeyen et al.、 Science 239:1534〜1536 (1988)を参照されたい)。したがって、そのようなヒト化抗体は、実際には、ヒト可変ドメインの全域より狭い領域が、非ヒト種由来の対応する配列によって置き換えられたキメラ抗体である。
【0061】
ヒトフレームワーク領域および定常領域に加えて、ヒト可変領域を含む完全ヒト抗体もまた用いることができる。そのような抗体は、当技術分野で公知のさまざまな技術を用いて作製することができる。例えば、インビトロの方法は、バクテリオファージ上に提示されたヒト抗体断片の組換えライブラリーの使用を含む(例えば、Hoogenboom & Winter, J. Mol. Biol. 227:381 (1991))。同様に、ヒト免疫グロブリン座位を、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されたトランスジェニック動物、例えばマウスに導入することによってヒト抗体を作製することができる。このアプローチは例えば、米国特許第6,150,584号、第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,661,016号に記載されている。
【0062】
本発明の方法によって単離された化合物を、ヒトおよび他の哺乳動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーに対して製剤として投与する場合、単離された化合物を直接投与してもよく、または公知の薬学的調製法を用いて剤形に製剤化してもよい。例えば、必要に応じて、薬剤を糖衣錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、およびマイクロカプセルとして経口投与することもでき、または水もしくは他の任意の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液である注射剤の形態として非経口的に投与することもできる。例えば、化合物を、一般に認められる薬剤の実現のために必要な単位用量の形で、薬学的に許容される担体または媒体、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、媒質、保存料、結合剤などと混合することができる。これらの製剤における有効成分の量により、指定された範囲内にある適した投与量が得られる。
【0063】
錠剤およびカプセル剤に混合し得る添加剤の例には、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴムおよびアラビアゴムなどの結合剤;結晶セルロースなどの媒質;コーンスターチ、ゼラチンおよびアルギン酸などの膨潤剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;スクロース、ラクトースまたはサッカリンなどの甘味料;ならびにペパーミント、冬緑油、およびチェリーなどの香味剤がある。単位用量剤形がカプセル剤である場合、油などの液体担体も上記の成分にさらに含めることができる。注射用の滅菌混合物は、通常の薬剤の実現に倣って、注射用の蒸留水などの媒体を用いて製剤化することができる。
【0064】
生理食塩水、グルコース、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトールおよび塩化ナトリウムなどのアジュバントを含むその他の等張液を、注射用の水溶液として用いることができる。これらは適した可溶化剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールなどの多価アルコール、Polysorbate 80(商標)およびHCO-50などの非イオン性界面活性剤などと組み合わせて用いることができる。
【0065】
ゴマ油またはダイズ油は油脂性液体として用いることができ、これらを可溶化剤としての安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールと組み合わせて用いることもでき、さらにこれらをリン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液などの緩衝液;塩酸プロカインなどの鎮痛薬;ベンジルアルコールおよびフェノールなどの安定剤;ならびに抗酸化剤と共に製剤化することもできる。調製された注射剤は適したアンプルに充填することができる。
【0066】
本発明の薬学的組成物を、例えば動脈内注射、静脈内注射、または皮下注射として、および同じく鼻腔内投与、経気管支投与、筋肉内投与または経口投与として患者に投与するために、当業者に周知の方法を用いることができる。投与量および投与方法は患者の体重および年齢ならびに投与方法に応じて異なる。しかしながら、当業者はルーチン的に適切な投与方法を選択することができる。前記化合物がDNAによってコードされ得る場合、DNAを遺伝子治療用のベクターに挿入し、治療を行うためにそのベクターを患者に投与することができる。投与量および投与方法は患者の体重、年齢および症状に応じて異なるが、当業者はそれらを適切に選択することができる。
【0067】
例えば、ZNFN3A1と結合してその活性を調節する化合物の投与量は、その症状に依存するとはいえ、標準的な成人(体重60 kg)に対して経口投与する場合、約0.1 mg〜約100 mg/日、好ましくは約1.0 mg〜約50 mg/日、およびより好ましくは約1.0 mg〜約20 mg/日である。
【0068】
標準的な成人(体重60 kg)に対して注射剤の形態として非経口的に投与する場合、患者、標的臓器、症状および投与方法に応じて若干の違いはあるものの、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、およびより好ましくは約0.1〜約10 mg/日の用量を静脈注射することが好都合である。同じく、他の動物の場合にも、体重60 kgに換算した量を投与することが可能である。
【0069】
本発明はさらに、対象におけるHCCまたは結腸直腸癌を治療するための方法を提供する。投与は、ZNFN3A1の異常なメチルトランスフェラーゼ活性と関連する障害に対するリスクのある(もしくは感受性のある)またはそのような障害を有する対象に対して、予防的または治療的に行うことができる。本方法は、HCC細胞または結腸直腸癌細胞におけるZNFN3A1の機能を低下させる段階を含む。機能は、本発明のスクリーニング方法によって得られた化合物の投与によって阻害することができる。
【0070】
もう一つの局面において、本発明は、本明細書に記載の1つまたは複数の治療的化合物を含む、薬学的または治療的な組成物を含む。または、本発明は、HCCまたは結腸直腸癌の治療および/もしくは予防のための薬学的または治療的な組成物を製造するための、本明細書に記載の1つまたは複数の治療的化合物の使用方法を提供する。薬学的製剤には、経口、直腸、鼻、局所(頬および舌下を含む)、膣、もしくは非経口(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)の投与に適したもの、または吸入もしくは通気による投与に適したものが含まれ得る。製剤は、適宜、個別の投与量単位で都合良く提示でき、薬学分野における周知の方法のいずれかによって調製できる。そのような薬学の方法は、全て、必要に応じて、液状担体もしくは微細に粉砕された固形担体またはその両方と活性化合物とを会合させる段階を含み、かつ必要であれば、次いで、その生成物を所望の製剤へと成形する段階を含む。
【0071】
経口投与に適した薬学的製剤は、所定の量の活性成分を各々含有しているカプセル剤、カシェ剤、もしくは錠剤のような個別の単位として;散剤もしくは顆粒剤として;または液剤、懸濁剤、もしくは乳濁剤として、都合良く提示できる。活性成分は、ボーラス舐剤またはペースト剤として提示してもよく、そして純粋な(即ち、担体を含まない)形態であってもよい。経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、結合剤、増量剤、滑沢剤、崩壊剤、または湿潤剤のような従来の賦形剤を含有し得る。錠剤は、任意で、1個以上の製剤化成分を用いて、圧縮または成型により作成してもよい。圧縮錠剤は、結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、滑沢、界面活性、または分散剤と任意に混合された散剤または顆粒剤のような流動性の高い形態の活性成分を適当な機械で圧縮することにより調製できる。成型錠剤は、不活性液状希釈剤で湿らされた粉末化合物の混合物を適当な機械で成型することにより作成できる。錠剤は、当技術分野における周知の方法に従い、剤皮を施してもよい。経口液状調製物は、例えば、水性もしくは油性の懸濁剤、液剤、乳濁剤、シロップ剤、もしくはエリキシル剤の形態であってもよいし、または乾燥生成物として提示し、使用前に水もしくはその他の適当な媒体で調製してもよい。そのような液状調製物は、懸濁化剤、乳化剤、非水性媒体(食用油を含み得る)、または保存剤のような従来の添加剤を含有し得る。錠剤は、任意で、含まれる活性成分を徐放するようにまたは放出が制御されるように製剤化してもよい。
【0072】
非経口投与用の製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および対象となるレシピエントの血液と等張にする溶質を含有し得る水性および非水性の無菌の注射液剤;ならびに懸濁化剤および濃化剤を含み得る水性および非水性の無菌の懸濁剤が含まれる。製剤は、単位用量容器または多回用量容器、例えば、密封されたアンプルおよびバイアルで提示でき、使用直前に無菌の液状担体、例えば、生理食塩水、注射用水の添加のみを必要とする、フリーズドライ(凍結乾燥)状態で保管してもよい。または、製剤は連続注入用に提示してもよい。即席の注射用の液剤および懸濁剤は、前記の種類の無菌の散剤、顆粒剤、および錠剤から調製できる。
【0073】
直腸投与用の製剤は、カカオバターまたはポリエチレングリコールのような通常の担体を含む坐剤として提示できる。口内、例えば、頬または舌下への局所投与用の製剤には、ショ糖およびアラビアゴムもしくはトラガカントゴムのような風味付きの基剤中に活性成分が含まれたロゼンジ剤、ならびにゼラチンおよびグリセリンもしくはショ糖およびアラビアゴムのような基剤中に活性成分が含まれた香錠が挙げられる。鼻腔内投与の場合、本発明の化合物は、液状スプレーもしくは分散可能な散剤として、または滴剤の形態で使用できる。滴剤は、1つ以上の分散剤、可溶化剤、または懸濁化剤も含む水性または非水性の基剤を用いて製剤化できる。液状スプレーは、加圧パックから都合良く送達される。
【0074】
吸入による投与の場合、化合物は、注入器、ネブライザー、加圧パック、またはエアロゾルスプレーを送達するその他の便利な手段から都合良く送達される。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、またはその他の適当なガス等の適当な噴霧剤を含み得る。加圧エアロゾル剤の場合、投与量単位はバルブによって決定され、計量された量が送達される。
【0075】
または、吸入または通気による投与の場合、化合物は、乾燥粉末組成物、例えば、化合物と乳糖またはデンプンのような適当な粉末基剤との粉末混合物の形態をとり得る。粉末組成物は、単位剤形、例えば、カプセル、カートリッジ、ゼラチン、またはブリスター包装で提示でき、それらから、吸入器または注入器を使用して粉末を投与できる。
【0076】
所望の場合、活性成分を徐放するよう適合させた上記の製剤が利用されてもよい。薬学的組成物は、抗微生物剤、免疫抑制剤、または保存剤のようなその他の活性成分を含有していてもよい。
【0077】
特に上で言及した成分に加え、本発明の製剤には、問題となる製剤の型を考慮した上で、当技術分野において一般的なその他の薬剤が含まれていてもよいこと、例えば、経口投与に適した薬剤には着香料が含まれていてもよいことが理解される。
【0078】
好ましい単位投与量製剤は、下記のような有効量またはその活性成分の適切な画分を含有しているものとする。
【0079】
前記の各条件のため、組成物は、1日当たり約0.1〜約250 mg/kgの用量で経口的にまたは注射により投与され得る。成人のヒトに対する用量範囲は、一般に、約5 mg〜約17.5 g/日、好ましくは約5 mg〜約10 g/日、最も好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。個別の単位で提供される錠剤またはその他の単位剤形には、そのような投与量またはその多回数の投与量で有効量となる量、例えば、約5 mg〜約500 mg、通常約100 mg〜約500 mgを含有する単位が都合良く含まれる。
【0080】
薬学的組成物は、好ましくは、経口的にまたは注射(静脈内もしくは皮下)により投与され、対象へ投与される正確な量は、担当医師の責任であろう。しかしながら、用いられる用量は、対象の年齢および性別、治療が施される正確な障害およびその重傷度を含む多数の要因によるものと考えられる。また、投与経路も、状態およびその重症度によって変動し得る。
【0081】
実施例1:一般的な方法
インビトロでのヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMTアーゼ)アッセイ法
293T細胞に、Flag標識ZNFN3A1を発現するプラスミド(pFLAG-CMV-ZNFN3A1)、SET7タンパク質またはモック(mock)を発現するプラスミドをトランスフェクトし、抗Flag抗体を用いた免疫沈降により、標識タンパク質を精製した。インビトロHMTアーゼアッセイ法を、わずかな修正を加えたプロトコール(1)に従い実施した。手短に述べると、免疫沈降させたタンパク質を、基質としての25 μgの遊離ヒストン(H3、H2B、H2AおよびH4の混合物;Roche)およびメチル供与体としての2.5 μCi S-アデノシル-L-[メチル-3H]メチオニンと共に、40 μlのメチラーゼ活性緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 8.5、20 mM KCl、10 mM MgCl2、10 mM β-メルカプトエタノール、250 mMスクロース)混合液中にて37℃で60分間インキュベートした。ヒストンH3メチルトランスフェラーゼ活性の測定のために、免疫沈降タンパク質を、基質としての1 μgの組換えヒストンH3タンパク質(Upstate)およびメチル供与体としての2 μCi S-アデノシル-L-[メチル-3H]メチオニン(SAM)(Amersham Biosciences)と共に、20 μlのメチラーゼ活性緩衝液(50 mM Tris-HCl pH 8.5、100 mM NaCl、10 mM DTT)混合液中にて30℃で1時間インキュベートした。タンパク質を18% SDS-PAGEによって分離し、クーマシー染色およびフルオログラフィーによって可視化した。
【0082】
インビトロでのヒストンH3メチルトランスフェラーゼ(HMTアーゼ)アッセイ法
H3-K4特異的メチルトランスフェラーゼ活性を、20 μMの非標識S-アデノシル-L-メチオニン(SAM)および2 μgのHSP90Aの存在下で免疫沈降物と共に30℃で1時間インキュベートした組換えアフリカツメガエル(Xenopus)H3タンパク質(UBI)の、モノメチル化H3-K4(Abcam;ab8895)、ジメチル化H3-K4(Abcam;ab7766)、トリメチル化H3-K4(Abcam;ab8580)、全H3(Abcam;ab1791)またはトリメチル化H3-K9(UBI;07523)に対する抗体を用いたウエスタンブロット分析によって検討した。Flag標識野生型ZNFN3A1、変異型ZNFN3A1、SET7/9、SUV39H1またはモックを発現するプラスミドをトランスフェクトした細胞の溶解物を、抗Flag抗体(Sigma)を用いて免疫沈降させた。ジメチル化H3-K4(Abcam;ab7768、ARTK-Me2-QTAR-GGC)およびジメチル化H3-K9(Abcam;ab1772、QTARK-Me2-ST-GGC)に対するペプチドを、競合アッセイ法に用いた。組換えZNFN3A1は、GST融合ZNFN3A1を発現するプラスミドを用いて大腸菌バクテリアにおいて、またはHA標識ZNFN3A1を発現するプラスミドを用いてSf9細胞において発現させた。H3-メチルトランスフェラーゼ活性もまた、0.04U SAHH(Sigma)の存在下または非存在下で、免疫沈降させたZNFN3A1タンパク質またはSf9細胞から精製した組換えZNFN3A1を用いて分析した。
【0083】
コロニー形成アッセイ法
野生型ZNFN3A1および変異型ZNFN3A1(ΔEELおよびΔNHSC)の全コード配列を、p3xFLAG-CMV-10(SIGMA)の適切なクローニング部位中にクローニングした。野生型ZNFN3A1のセンス鎖を発現するように設計されたプラスミド(p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1)または変異型ZNFN3A1のセンス鎖を発現するように設計されたプラスミド(p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1-ΔEEL、p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1-ΔNHSC)または対照プラスミド(p3xFLAG-CMV-10)を、FuGENE6試薬を供給元の推奨(Roche)に従って用い、HEK293細胞、結腸直腸癌細胞または肝癌細胞にトランスフェクトした。トランスフェクト細胞は、最適化された濃度のジェネティシンを加えた培地中で維持された。細胞生存度は、Cell Counting Kit-8によって製造元のプロトコール(DOJINDO)に従って測定した。
【0084】
cDNAマイクロアレイによる下流遺伝子の同定
ZNFN3A1を発現するHEK293細胞に、pcDNAZNFN3A1またはモックベクターをトランスフェクトした。トランスフェクションから18時間後にRNAを抽出し、Cy3またはCy5色素で標識し、かつ以前に記載した通り(2,3)の13,824種の遺伝子を含む自施設内cDNAマイクロアレイスライドグラス上で同時ハイブリダイゼーションに供した。データの標準化の後、カットオフ値を上回るシグナルを有する遺伝子をさらに分析した。
【0085】
クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイ法
HEK293細胞、HepG2細胞、およびHuh7細胞に対してpFLAG-CMV-ZNFN3A1をトランスフェクトし、その後1%ホルムアルデヒド中で固定した。固定したクロマチン試料を、ChIPアッセイキット用いて製造元の指示(Promega)に従い、免疫沈降に供した。HEK293細胞由来のDNAは抗Flag抗体または抗ジメチル化ヒストンH3抗体を用いて沈降させ、HepG2細胞またはHuh7細胞由来のDNAは抗ZNFN3A1抗体を用いて沈降させた。ChIPアッセイ法に用いたプライマーのセットは表1に示した。
【0086】
(表1)ChIPアッセイ法に用いたプライマー
【0087】
ルシフェラーゼアッセイ法
Nkx2.8プロモーターの断片を、プライマーのセット、5'-AGCGGGCCTGGTACCAAATTTGTG-3'(配列番号:46)および5'-CCGGGATGCTAGCGCATTTACAGC-3'(配列番号:47)を用いるPCRによって増幅し、その産物をpGL3基本ベクター(pGL3-Nkx2.8-wtZBE)中にクローニングした。変異型レポータープラスミド(pGL3-Nkx2.8-mutZBE)は、QuickChange部位特異的突然変異キットを用い、供給元の推奨(Stratagene)に従って、pGL3-Nkx2.8-wtZBE中のZNFN3A1結合配列を置換すること(CCCTCCTをCCGACCTに、およびGAGGGGをGTCGGGに)によって調製した。ルシフェラーゼアッセイ法は、デュアル-ルシフェラーゼレポーターアッセイシステムを用い、製造元の指示(Promega)に従って行った。
【0088】
HEK293-Nkx2.8Luc細胞の確立
HEK293-Nkx2.8Luc細胞の安定形質転換体を、FuGENE6試薬を用い、供給元の推奨(Roche)に従って、HEK293細胞へのpGL3-Nkx2.8-wtZBEおよびpcDNA(+)3.1プラスミド(10:1)のトランスフェクションによって確立した。トランスフェクトした細胞は、0.9 μg/μlのジェネテシンを加えた培地中に維持され、トランスフェクションから2週後に単一コロニーを選択した。
【0089】
細胞株
ヒト胎児腎臓293(HEK293)細胞およびヒト子宮頸癌(HeLa)細胞はIWAKI社から入手した。ヒト肝癌細胞株HepG2、ヒト子宮頸癌細胞株HeLa、およびヒト結腸癌細胞株HCT116は、American Type Culture Collection(ATCC)から入手した。もう一つのヒト肝癌細胞株Huh7はJapanese Collection of Research Bioresources(JCRB)から入手し、SNU423およびSNU475は韓国細胞株バンクから入手した。細胞株はすべて適切な培地中で単層として増殖させた。
【0090】
RT-PCR
標準的なRT-PCRを容積20 μlのPCR緩衝液(TAKARA)中で行い、Gene Amp PCRシステム9700(Perkin-Elmer)において、94℃ 4分間の変性に続いて、94℃ 30秒間、56℃ 30秒間、72℃ 30秒間の30サイクルによって増幅した。RT-PCR実験のために用いたプライマー配列は表2に示した。
【0091】
(表2)RT-PCRに用いたプライマー
【0092】
変異型ZNFN3A1のウエスタンブロット分析
野生型およびさまざまな変異型のFlag標識ZNFN3A1を発現するプラスミドをトランスフェクトした細胞を、抗ZNFN3A1抗体または抗Flag抗体を用いてイムノブロットした。変異型ZNFN3A1を発現するプラスミドを、表3に列記したプライマーのセットを用いて増幅したPCR産物と共に、p3xFLAG-CMV-10ベクターにクローニングした。
【0093】
(表3)変異型ZNFN3A1を構築するために用いたプライマー
【0094】
実施例2:ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性の決定
ZNFN3A1の野生型SETドメインを含むタンパク質、および2つの領域の一方を欠く2種類の形態の変異型タンパク質を調製し、同量の各タンパク質を、UV照射に曝露することによって[3H]標識SAMと架橋させた。図1bに示されているように、野生型SETドメインは[3H]標識SAMと相互作用が可能であり、変異体はいずれもそれと相互作用せず、このことがSETドメインとメチル供与体との相互作用を示した。さらに、野生型SET、またはSET7の対照組換えタンパク質を、[3H]標識SAMおよび基質としてのヒストンの混合物と共にインキュベートし、SDS-PAGEによる分離後に標識タンパク質を測定した。予想通り、対照SET7(図1c、レーン3)による[3H]標識ヒストンH3タンパク質に対応する強いバンドが検出された。基質をZNFN3A1の野生型SETと共にインキュベートした場合、標識ヒストンH3に対応する弱いバンドが検出されたが、モックを用いた場合は観察されなかった(図1c、レーン1および2)。
【0095】
酵母ツーハイブリッドスクリーニングによってHSP90AがZNFN3A1の相互作用性タンパク質として同定されたため、HSP90AはSETのタンパク質の折りたたみを補助する可能性があると推定された。この仮説を検証するために、SAMおよびヒストンを野生型SETおよび組換えHSP90Aタンパク質と組み合わせてインキュベートしたところ、ヒストンH3に対するメチルトランスフェラーゼ活性の増強が生じた(図1c、レーン4および5)。これらのデータは、ZNFN3A1が、クロマチン構造および付随するRNAポリメラーゼII活性の改変を通して、下流遺伝子の発現を調節することを示している。
【0096】
実施例3:ZNFN3A1のヒストンH3メチルトランスフェラーゼ活性
SETドメインを含むタンパク質はヒストンH3のリジン4(H3-K4)またはリジン9(H3-K9)のメチル化に重要な役割を果たすことから、本発明者らは、ZNFN3A1がH3-K4またはH3-K9をメチル化する能力を有するか否かを調べた。本発明者らはインビトロで、組換えヒストンH3を、SAMおよびHSP90Aの存在下で、野生型または変異型のZNFN3A1またはSET7と共にインキュベートした。以前の報告(26)と一致して、SET7はH3-K4のモノメチル化およびジメチル化を増強したが、そのトリメチル化は誘導しなかった(図2a、レーン2)。これに対して、野生型ZNFN3A1はモノメチル化を引き起こさなかった。しかしながら、これはH3-K4のジメチル化およびトリメチル化は引き起し得た(図2a、レーン3)。このメチル化は、ジメチル化H3-K4ペプチドの添加によって完全に阻害されたが、ジメチル化H3-K9ペプチドの添加による影響は受けなかった(図2b)。H3-K9を用いた実験により、H3-K9は野生型または変異型ZNFN3A1のいずれによってもメチル化されないことが示され(図2c)、このことからZNFN3A1がH3-K4特異的なメチルトランスフェラーゼ活性を有することが示唆された。
【0097】
実施例4:組換えZNFN3A1のヒストンH3-K4メチルトランスフェラーゼ活性
さらに、野生型または変異型ZNFN3A1の全コード領域をpGEX6P-1ベクターの適切なクローニング部位にクローニングし、DH10B細胞において発現させた。組換えGST-ZNFN3A1融合タンパク質をSepharose 4Bビーズ(Amersham)によって精製し、Precisionプロテアーゼ(Amersham)を用いて供給元のプロトコールに従い、組換えZNFN3A1をさらに分離した(図3a、レーン4)。組換えZNFN3A1もインビトロでヒストンH3に対するHMTアーゼ活性を示した(図3b)。抗ジメチル化H3-K4抗体および抗トリメチル化H3-K4抗体を用いたウエスタンブロット分析により、組換えZNFN3A1がヒストンH3-K4に対するジメチル化およびトリメチル化を誘導することが示された(図3c、それぞれ上パネルおよび下パネル)。S-アデノシルホモシステインヒドロラーゼ(SAHH)は、SAMによって触媒され、かつメチル化を阻害するSAHを加水分解し、かつメチルトランスフェラーゼ活性を増強するため(4)、本発明者らは、SAHHがZNFN3A1のヒストンH3メチルトランスフェラーゼ活性に影響を及ぼすか否かを調べた。Flag標識ZNFN3A1のH3メチルトランスフェラーゼ活性は、SAHHの存在下の方がSAHHの非存在下よりも有意に高かった(図3d)。
【0098】
実施例5:ZNFN3A1のHMTアーゼ活性と癌細胞の増殖の関連性
細胞増殖に対するHMTアーゼ活性の影響を分析するため、本発明者らは、ZNFN3A1の野生型を発現するプラスミド(p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1)、もしくはZNFN3A1のHMTアーゼ不活性変異型を発現するプラスミド(p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1-ΔEEL、p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1-ΔNHSC)、または対照プラスミド(p3xFLAG-CMV)をトランスフェクトすることにより、コロニー形成アッセイ法を行った。野生型ZNFN3A1の形質導入は、内因性ZNFN3A1を発現しないHEK293細胞において、対照または変異型ZNFN3A1よりも著しく多くのコロニーを生じさせ、それはZNFN3A1の発癌活性を反復した(図4a)。一貫して、HCT116結腸癌細胞において、p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1によるトランスフェクションは、対照と比較してコロニー数を増加させた(図4b)。一方、p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1-ΔEELを用いた場合、HCT116細胞の増殖はp3xFLAG-CMVと比較して低下し、このことは変異型ZNFN3A1が内因性ZNFN3A1の機能を妨げる可能性を示唆する。さらに、本発明者らは、種々の結腸直腸癌細胞株および肝癌細胞株における変異型プラスミドの増殖阻害作用についても調べた(図5)。その結果、HMTアーゼ不活性ZNFN3A1(p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1-ΔEEL、p3xFLAG-CMV-ZNFN3A1-ΔNHSC)の形質導入は、対照と比較して、癌細胞の増殖を有意に低下させることが示され、このことからZNFN3A1のHMTアーゼ活性は結腸癌および肝癌細胞の増殖と関連する可能性が示唆された。
【0099】
実施例6:ZNFN3A1によって調節される遺伝子の同定
ZNFN3A1によって調節される下流遺伝子を同定するため、ZNFN3A1発現がRT-PCRによって検出不能なレベルを示したHEK293細胞にpcDNA-ZNFN3A1をトランスフェクトし、13,824種の遺伝子を含むcDNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現の変化をモニターした。イムノブロット分析により、ZNFN3A1の時間依存的な誘導が早くも12時間の時点で示され(図6a)、したがってpcDNA-ZNFN3A1をトランスフェクトした細胞およびpcDNA-モックをトランスフェクトした細胞からトランスフェクション後18時間でRNAを抽出した。発現プロファイル分析により、モックトランスフェクト細胞と比較して、pcDNA-ZNFN3A1トランスフェクト細胞において3倍を上回って上方制御された62種の遺伝子、および3倍を下回って下方制御されたび19種の遺伝子を含む、発現量が変化した81種の遺伝子が同定された(表5)。62種の上方制御された遺伝子の中には、Myc、Crk、JunD、MafおよびWnt10Bなどの一組の癌遺伝子、細胞周期調節に関与する遺伝子(サイクリンG1、Cdk2、およびトポイソメラーゼII)およびホメオボックス遺伝子(Nkx2.5、Nkx2.8、およびLIMホメオボックスタンパク質2)が、ZNFN3A1の導入によって上方制御されることが見いだされた。cdk2はサイクリンAおよびサイクリンEと会合してS期の進行に重要な役割を果たし(5,6)、サイクリンE/cdk2複合体の増幅はCRCおよびHCCを含むいくつかの腫瘍において腫瘍の発達に関与することが示された(7,8)。ホメオボックス遺伝子は、発生における形態変化、および腫瘍発生にとって重要な因子であることが周知である(9)。したがって、ZNFN3A1の発現上昇は、これらの下流遺伝子の活性化を通して、ヒト発癌現象において重要な役割を果たす。
【0100】
Nkx2.8、C/EBPδ、Nkx2.5、Wnt10B、PIK3CB、NEURL、PSMD9、ECEL1、CRKL、APSおよびSeb4Dを含む11種の上方制御された遺伝子を選択し、ZNFN3A1またはモックをトランスフェクトした細胞由来のRNAを用いて半定量的RT-PCRを実施した。半定量的RT-PCRに用いたプライマーのセットは表2に示した。
【0101】
予想通り、この結果から、ZNFN3A1による、これらの遺伝子の発現増強が実証された(図6b)。推定ZNFN3A1結合配列を、Nkx2.8の転写開始部位の上流の1.5kb領域内で検索した。2つの配列が同定された(図7a)。pFLAG-ZNFN3A1をトランスフェクトした細胞および抗Flag M2抗体を用いた、その後のクロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイ法により、これらの配列を含む1つのゲノムセグメント(ChIP-4)はZNFN3A1と会合し、およびZNFN3A1結合配列を有さない他のセグメント(ChIP-1、-2および-3)は会合しないことが確かめられた(図7b)。ChIP-4セグメントは、5'隣接領域の-510bp〜-467bp内に2つの推定結合配列(CCCTCCTおよびGAGGGG)を含んでいた(図7a)。このZNFN3A1結合エレメント(ZBE)を含む二本鎖オリゴヌクレオチドプローブを調製し、かつ組換えGST、GST-ZNFN3A1、および対照としてGST-wtTcf4を用いて、インビトロ結合アッセイ法を行った(図7c)。インビトロ結合アッセイ法に用いたプローブは表4に示した。
【0102】
(表4)インビトロ結合アッセイ法に用いたオリゴヌクレオチド
【0103】
これらの結果は、野生型Tcf4結合モチーフ(wtTBM)を含むオリゴヌクレオチドプローブは、GST-wtTcf4とは会合するが、GSTまたはGST-ZNFN3A1タンパク質とは会合しないことを示している。同様に、ZBEはGSTとは会合しなかったが、これはGST-ZNFN3A1タンパク質とは結合することができた。さらに、非放射性競合DNAの添加によって相互作用が阻害されることが判明し、このことからGST-ZNFN3A1とZBE間の特異的相互作用が示唆された。
【0104】
(表5)ZNFN3A1によって上方制御および下方制御される遺伝子
【0105】
実施例7:ZNFN3A1はNkx2.8の転写活性を調節する
ZBEが癌細胞におけるNkx2.8のトランス活性化の原因であるか否かを検討するために、野生型ZBEを含むNkx2.8の-791〜+109をルシフェラーゼ遺伝子の上流領域にクローニングしたレポータープラスミド(pGL3-Nkx2.8-wtZBE)、ならびに変異型ZBEを含むもの(pGL3-Nkx2.8-mutZBE)を調製した。これらのレポータープラスミドをHepG2細胞またはSNU475細胞にトランスフェクトし、ZNFN3A1に対するsiRNAの存在下または非存在下において、それらのルシフェラーゼ活性を測定した(図7d)。これらの細胞において、変異型レポータープラスミドは野生型プラスミドよりも有意に低い活性を示し、このことからZBEがこれらの細胞におけるNkx2.8のトランス活性化の原因であることが示された。特に、ZNFN3A1に対するsiRNAを発現するプラスミド(psiU6BX-ZNFN3A1-12は、以下の二本鎖オリゴヌクレオチドをpsiU6BXベクターのBbs1部位にクローニングすることによって調製した;フォワード:5'-CACCAACATCTACCAGCTGAAGGTGTTCAAGAGACACCTTCAGCTGGTAGATGTT-3'(配列番号:48)、リバース:5'-AAAAAACATCTACCAGCTGAAGGTGTCTCTTGAACACCTTCAGCTGGTAGATGTT-3'(配列番号:49))(WO2004/76623))との同時トランスフェクションは、モック(psiU6BX-モック)と比較して、野生型レポータープラスミドのルシフェラーゼ活性を低下させたが、これは変異型プラスミドの活性には影響を及ぼさなかった。
【0106】
これらのデータは、ZNFN3A1が、ZBEとの相互作用を通して、Nkx2.8の転写活性を直接調節することを示している。
【0107】
実施例8:Nkx2.8はZNFN3A1のHSP90A依存的HMTアーゼ活性と関連性がある
ZNFN3A1のHMTアーゼ活性がNkx2.8の発現と関連するか否か、およびHSP90Aがその調節に関与するか否かを判定するため、HEK293細胞に、野生型またはHMTアーゼ不活性変異型のZNFN3A1を発現するプラスミド(ZNFN3A1-ΔEELおよびZNFN3A1-ΔNHSC)をトランスフェクトし、トランスフェクト細胞から単離したRNAを用いて半定量的RT-PCRを実施した(図7e)。予想された通り、野生型プラスミドはNkx2.8の発現を増強したが、どちらのタイプの変異型プラスミドも発現を誘導することができなかった。さらに、HSP90Aの特異的阻害剤であるゲルダナマイシンの添加は、野生型ZNFN3A1によって引き起こされる発現増強を抑制し(図7e、レーン3)、これはインビトロでHSP90AがZNFN3A1のHMTアーゼ活性を増強するという所見に一致する(図1c)。Nkx2.8のプロモーター領域およびルシフェラーゼ遺伝子(pGL3-Nkx2.8-wtZBE)がゲノム中に組み込まれたHEK293-Nkx2.8Luc細胞を確立した。野生型ZNFN3A1を発現するプラスミドによるトランスフェクションは、ルシフェラーゼ活性を用量依存的な様式で上昇させたが、2 μMゲルダナマイシンを添加した場合、またはHMTアーゼ不活性変異型を用いた場合には活性は増強しなかった(図7f)。以上を総合すると、これらの結果は、Nkx2.8の発現がZNFN3A1のHSP90A依存的HMTアーゼ活性と関連することを示している。
【0108】
実施例9:Nkx2.8プロモーター内のChaIP-4領域とZNFN3A1間の会合
本発明者らは、ZNFN3A1を豊富に発現するHepG2またはHuh7肝癌細胞由来の抽出物を用いて、抗ZNFN3A1抗体を用いてさらなるChIPアッセイ法を行い、それによって内因性ZNFN3A1タンパク質とChIP-4領域間の相互作用をさらに実証した(図8a)。抗ジメチル化H3-K4抗体を用いたさらなるChIPアッセイ法により、野生型ZNFN3A1をトランスフェクトしたHEK293細胞におけるジメチル化H3-K4とChIP-4領域間の会合が明らかにされた(図8b)。
【0109】
産業的な適用性
本発明者らは、ZNFN3A1がメチルトランスフェラーゼ活性を有し、およびその活性の抑制が癌細胞の細胞増殖の阻害につながることを示した。したがって、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性または結合を阻害する作用因子、およびその活性を妨げるその補助因子は、抗癌剤として、特にHCCまたは結腸直腸癌の治療のための抗癌剤としての治療的有用性を有する。
【0110】
HCCまたは結腸直腸癌において、ZNFN3A1の発現が上方制御されることが報告されている。したがって、本発明によるZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を検出するための方法は、これらの癌の同定にも有用である。具体的には、正常細胞と比較して、より高いメチルトランスフェラーゼ活性を示す細胞は、癌細胞として同定することができる。
【0111】
さらに、ZNFN3A1のメチルトランスフェラーゼ活性を調節する修飾因子も癌の同定のために有用である。例えば、このような修飾因子は、対象細胞において検出されたメチルトランスフェラーゼ活性がZNFN3A1に由来するか否かを確かめるために用いることができる。具体的には、メチルトランスフェラーゼ活性が修飾因子によって改変される(阻害または増強される)場合、その活性は偽陽性でないと判断される。
【0112】
本明細書において引用される特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照により組み入れられる。さらに、本発明は、詳細に、かつ特定の態様を参照しつつ記載したが、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、様々な変更および修正をそれらに施し得ることが、当業者には明白である。
【0113】
参考文献
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16. Kwon, T. et al. Mechanism of histone lysine methyl transfer revealed by the structure of SET7/9-AdoMet. Embo J 22, 292-303 (2003).
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】図1aは、メチルトランスフェラーゼのSETドメインにおける保存配列を示した図である。図1bは、野生型ZNFN3A1とS-アデノシル-L-メチオニン(SAM)間の相互作用を示したSDS-PAGEゲルの写真である。同量の野生型または変異型ZNFN3A1(矢印)を、[3H]標識したSAMと共にインキュベートした(上パネル)。SAMと会合したZNFN3A1(矢印)が蛍光図によって検出された(下パネル)。図1cは、組換えHSP90Aの存在下/非存在下での、ZNFN3A1のSETドメインのインビトロHMTアーゼアッセイ法の写真である。SET7を対照として用いた。
【図2】図2aは、インビトロでのヒストンH3-K4メチルトランスフェラーゼアッセイ法の写真である。ヒストンH3を、SAMおよびHSP90Aの存在下で、野生型もしくは変異型のZNFN3A1またはSET7と共にインキュベートした。図2bは、ジメチル化H3-K4に対する特異的ペプチドの添加によるH3-K4ジメチル化の阻害を示した写真である。図2cは、インビトロでのヒストンH3-K9メチルトランスフェラーゼアッセイ法の写真である。SUV39H1を陽性対照として用いた。
【図3】図3aは、CBB染色による免疫沈降ZNFN3A1タンパク質および組換えZNFN3A1タンパク質の検出を示したSDS-PAGEゲルの写真である。レーン1.タンパク質マーカー1、レーン2.タンパク質マーカー2、レーン3.免疫沈降Flag標識ZNFN3A1、レーン4.組換えZNFN3A1タンパク質、レーン5.アルブミン(1 μg)、レーン6.アルブミン(2 μg)、レーン7.アルブミン(5 μg)。図3bは、免疫沈降Flag-ZNFN3A1および組換えZNFN3A1タンパク質のインビトロでのヒストンH3 HMTアーゼ活性を示した写真である。。図3cは、免疫沈降Flag-ZNFN3A1または組換えZNFN3A1タンパク質による、ジメチル化(上パネル)およびトリメチル化(下パネル)ヒストンH3-K4を示した写真である。図3dは、ZNFN3A1のHMTアーゼ活性に対するSAHHの影響を示した棒グラフである。
【図4】図4aは、HEK293細胞におけるZNFN3A1の発癌活性の影響を示した棒グラフである。トランスフェクション後の第14日の時点で、生細胞の数をCell Counting Kit-8により測定した。*、Fisherの制約付最小有意差検定によって判定された有意差(p<0.05)。図4bは、HCT116細胞におけるZNFN3A1の発癌活性の影響を示した棒グラフである。トランスフェクション後の第14日の時点で、生細胞の数をCell Counting Kit-8により測定した。*、Fisherの制約付最小有意差検定によって判定された有意差(p<0.05)。
【図5】図5aは、プラスミドのトランスフェクションから14日後にCell Counting Kit-8により測定した、結腸癌株の細胞生存度を示した棒グラフである。細胞は、HCT116に関しては0.5 μg/μlのG418を含むマッコイ培地により、SW948に関しては1.0 μg/μlのG418を含むL-15培地により選択された。*、Fisherの制約付最小有意差検定によって判定された有意差(p<0.05)。図5bは、プラスミドのトランスフェクションから14日後にCell Counting Kit-8により測定した、肝癌細胞株の細胞生存度を示した棒グラフである。細胞は、HepG2に関しては1.0 μg/μlのG418を含むDMEMにより、Huh7およびAlexanderに関しては0.8 μg/μlのG418を含むDMEMにより選択された。*、Fisherの制約付最小有意差検定によって判定された有意差(p<0.05)。
【図6】図6aは、HEK293細胞におけるZNFN3A1の外因性発現を示した写真である。pcDNA(モック)またはpcDNA-ZNFN3A1をトランスフェクトした細胞におけるZNFN3A1の時間依存的発現をウエスタンブロット分析により調べた。図6bは、外因性ZNFN3A1に応答する候補下流遺伝子の発現を示した写真である。pcDNA-ZNFN3A1またはモックをトランスフェクトしたHEK293細胞由来のRNAを用いて半定量的RT-PCR分析を実施した。
【図7】図7aは、Nkx2.8の5'隣接領域内の、推定されるZNFN3A1結合配列を示した図である。ZNFN3A1によるNkx2.8のHSP90A依存的トランス活性化は、推定される結合配列とのその相互作用によって発現する。図7bは、ChIPアッセイ法による、Nkx2.8プロモーター領域内のZNFN3A1結合エレメントの同定を示した写真である。図7cは、組換えGST-ZNFN3A1とZNFN3A1結合エレメント(ZBE)を含む二本鎖DNAプローブ間のインビトロ結合アッセイ法の結果を示した棒グラフである。図7dは、HCC細胞における、ZNFN3A1-siRNAの存在下もしくは非存在下での、野生型または変異型ZNFN3A1結合エレメント(ZBE)を含むNkx2.8の転写アッセイ法を示した写真である。図7eは、HEK293細胞における、野生型(レーン2および3)または変異型(レーン4および5)ZNFN3A1の外因性発現に応答するNkx2.8の発現を示したゲルの写真である。HSP90A特異的阻害物質であるゲルダナマイシンの添加により、野生型ZNFN3A1によって引き起こされるNkx2.8の増強された発現が減少する(レーン3)。図7fは、ゲノム中に組み込まれたNkx2.8プロモーター-ルシフェラーゼ遺伝子を含むHEK293-Nkx2.8Luc細胞における、ルシフェラーゼ活性に対する野生型または変異型ZNFN3A1の影響を示した棒グラフである。
【図8】図8aは、肝癌細胞における内因性ZNFN3A1とNkx2.8のChIP-4領域間の相互作用を示した写真である。図8bは、HEK293細胞における、ZNFN3A1の存在下で、ジメチル化ヒストンH3リジン4(H3-K4)とChIP-4間の相互作用を示した写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、ポリペプチドのメチルトランスフェラーゼ活性を測定する方法:
a.以下からなる群より選択されるポリペプチドを、メチル化される基質、および補助因子と、基質のメチル化が可能な条件下で接触させる段階;
i.配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチド(ZNFN3A1);
ii.1つもしくは複数のアミノ酸が置換、欠失または挿入された、配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、かつ該ポリペプチドが配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、ポリペプチド;
iii.配列番号:51に対して少なくとも約80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
vi.配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、配列番号:50のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;
b.基質のメチル化レベルを検出する段階;ならびに
c.段階(b)のメチル化レベルをメチルトランスフェラーゼ活性と相関づけることにより、メチルトランスフェラーゼ活性を測定する段階。
【請求項2】
基質が、ヒストン、または少なくともメチル化領域を含むその断片である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
メチル化領域がヒストンH3リジン4である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
補助因子がS-アデノシル-L-メチオニンである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
基質のメチル化が可能な条件が、熱ショックタンパク質90A(HSP90A)の存在下で与えられる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
メチル化の増強因子の存在下で、ポリペプチドを、基質および補助因子と接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
メチル化の増強因子が、S-アデノシルホモシステインヒドロラーゼ(SAHH)である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
以下の段階を含む、メチルトランスフェラーゼ活性を調節する作用因子を同定する方法であって、対照レベルと比較してメチル化レベルの上昇または低下が、被験化合物がメチルトランスフェラーゼ活性を調節することを示す、方法:
a.以下からなる群より選択されるポリペプチドを、被験化合物の存在下で、メチル化される基質、および補助因子と、基質のメチル化が可能な条件下で接触させる段階;
i.配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
ii.1つもしくは複数のアミノ酸が置換、欠失または挿入された、配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、かつ該ポリペプチドが配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、ポリペプチド;
iii.配列番号:51に対して少なくとも約80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
vi.配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、配列番号:50のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;
b.基質のメチル化レベルを検出する段階;ならびに
c.メチル化レベルを対照レベルと比較する段階。
【請求項9】
以下の構成成分を含む、メチルトランスフェラーゼ活性を調節する、被験化合物の活性を検出するためのキット:
a.以下からなる群より選択されるポリペプチド;
i.配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
ii.1つもしくは複数のアミノ酸が置換、欠失または挿入された、配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、かつ該ポリペプチドが配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、ポリペプチド;
iii.配列番号:51に対して少なくとも約80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
iv.配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、配列番号:50のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;
b.(a)のポリペプチドによるメチル化が可能な基質;
c.基質のメチル化のための補助因子;ならびに
d.HSP90A。
【請求項10】
基質が、ヒストン、または少なくともメチル化領域を含むその断片である、請求項9記載のキット。
【請求項11】
以下の要素をさらに含む、請求項9記載のキット
e.S-アデノシルホモシステインヒドロラーゼ(SAHH)。
【請求項12】
以下の段階を含む、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニング方法:
a.請求項7記載の方法により、メチルトランスフェラーゼ活性を調節する活性を有する化合物を同定する段階;および
b.対照レベルと比較して、基質のメチル化レベルを低下させる化合物を選択する段階。
【請求項13】
以下の段階を含む、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニング方法:
a.以下からなる群より選択されるポリペプチドを、被験化合物の存在下で熱ショックタンパク質90Aポリペプチド(HSP90A)と接触させる段階;
i.配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
ii.1つもしくは複数のアミノ酸が置換、欠失または挿入された、配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、かつ該ポリペプチドが配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、ポリペプチド;
iii.配列番号:51に対して少なくとも約80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
vi.配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、配列番号:50のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;
b.ポリペプチドとHSP90A間の結合を検出する段階;
c.被験化合物の存在下におけるポリペプチドとHSP90Aとの結合を、被験化合物の非存在下における結合と比較する段階;ならびに
d.ポリペプチドとHSP90Aとの結合を低下させる被験化合物を選択する段階。
【請求項14】
以下の構成成分を含む、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニングのためのキット:
a.以下からなる群より選択されるポリペプチド;
i.配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
ii.1つもしくは複数のアミノ酸が置換、欠失または挿入された、配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、かつ該ポリペプチドが配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、ポリペプチド;
iii.配列番号:51に対して少なくとも約80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
vi.配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、配列番号:50のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;ならびに
b.HSP90A。
【請求項15】
以下の段階を含む、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニング方法:
a.配列番号:51のアミノ酸配列から選択された連続したアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、ここでアミノ酸配列がNHSCDPN(配列番号:52)およびGEELTICY(配列番号:53)の一方または両方を含むポリペプチドを、被験化合物の存在下でS-アデノシル-L-メチオニンと接触させる段階;
b.ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニン間の結合を検出する段階;
c.被験化合物の存在下におけるポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニンとの結合を、被験化合物の非存在下における結合と比較する段階;ならびに
d.ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニンとの結合を低下させる被験化合物を選択する段階。
【請求項16】
以下の構成成分を含む、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニングのためのキット:
a.配列番号:51のアミノ酸配列から選択された連続したアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、ここでアミノ酸配列がNHSCDPN(配列番号:52)およびGEELTICY(配列番号:53)の一方または両方を含む、ポリペプチド;および
b.S-アデノシル-L-メチオニン。
【請求項17】
結腸直腸癌または肝細胞癌の症状を緩和するための組成物であって、ZNFN3A1により媒介されるメチル化を低下させる化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、組成物。
【請求項18】
結腸直腸癌または肝細胞癌の症状を緩和するための方法であって、結腸直腸癌細胞または肝細胞癌細胞を、ZNFN3A1により媒介されるメチル化を低下させる化合物の薬学的有効量と接触させる段階を含む、方法。
【請求項19】
結腸直腸癌または肝細胞癌の症状を緩和するための方法であって、結腸直腸癌細胞または肝細胞癌細胞を、ZNFN3A1とHSP90A間の相互作用を低下させる化合物の薬学的有効量と接触させる段階を含む、方法。
【請求項20】
結腸直腸癌または肝細胞癌の症状を緩和するための方法であって、結腸直腸癌細胞または肝細胞癌細胞を、ZNFN3A1とS-アデノシル-L-メチオニン間の相互作用を低下させる化合物の薬学的有効量と接触させる段階を含む、方法。
【請求項1】
以下の段階を含む、ポリペプチドのメチルトランスフェラーゼ活性を測定する方法:
a.以下からなる群より選択されるポリペプチドを、メチル化される基質、および補助因子と、基質のメチル化が可能な条件下で接触させる段階;
i.配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチド(ZNFN3A1);
ii.1つもしくは複数のアミノ酸が置換、欠失または挿入された、配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、かつ該ポリペプチドが配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、ポリペプチド;
iii.配列番号:51に対して少なくとも約80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
vi.配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、配列番号:50のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;
b.基質のメチル化レベルを検出する段階;ならびに
c.段階(b)のメチル化レベルをメチルトランスフェラーゼ活性と相関づけることにより、メチルトランスフェラーゼ活性を測定する段階。
【請求項2】
基質が、ヒストン、または少なくともメチル化領域を含むその断片である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
メチル化領域がヒストンH3リジン4である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
補助因子がS-アデノシル-L-メチオニンである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
基質のメチル化が可能な条件が、熱ショックタンパク質90A(HSP90A)の存在下で与えられる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
メチル化の増強因子の存在下で、ポリペプチドを、基質および補助因子と接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
メチル化の増強因子が、S-アデノシルホモシステインヒドロラーゼ(SAHH)である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
以下の段階を含む、メチルトランスフェラーゼ活性を調節する作用因子を同定する方法であって、対照レベルと比較してメチル化レベルの上昇または低下が、被験化合物がメチルトランスフェラーゼ活性を調節することを示す、方法:
a.以下からなる群より選択されるポリペプチドを、被験化合物の存在下で、メチル化される基質、および補助因子と、基質のメチル化が可能な条件下で接触させる段階;
i.配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
ii.1つもしくは複数のアミノ酸が置換、欠失または挿入された、配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、かつ該ポリペプチドが配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、ポリペプチド;
iii.配列番号:51に対して少なくとも約80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
vi.配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、配列番号:50のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;
b.基質のメチル化レベルを検出する段階;ならびに
c.メチル化レベルを対照レベルと比較する段階。
【請求項9】
以下の構成成分を含む、メチルトランスフェラーゼ活性を調節する、被験化合物の活性を検出するためのキット:
a.以下からなる群より選択されるポリペプチド;
i.配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
ii.1つもしくは複数のアミノ酸が置換、欠失または挿入された、配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、かつ該ポリペプチドが配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、ポリペプチド;
iii.配列番号:51に対して少なくとも約80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
iv.配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、配列番号:50のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;
b.(a)のポリペプチドによるメチル化が可能な基質;
c.基質のメチル化のための補助因子;ならびに
d.HSP90A。
【請求項10】
基質が、ヒストン、または少なくともメチル化領域を含むその断片である、請求項9記載のキット。
【請求項11】
以下の要素をさらに含む、請求項9記載のキット
e.S-アデノシルホモシステインヒドロラーゼ(SAHH)。
【請求項12】
以下の段階を含む、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニング方法:
a.請求項7記載の方法により、メチルトランスフェラーゼ活性を調節する活性を有する化合物を同定する段階;および
b.対照レベルと比較して、基質のメチル化レベルを低下させる化合物を選択する段階。
【請求項13】
以下の段階を含む、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニング方法:
a.以下からなる群より選択されるポリペプチドを、被験化合物の存在下で熱ショックタンパク質90Aポリペプチド(HSP90A)と接触させる段階;
i.配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
ii.1つもしくは複数のアミノ酸が置換、欠失または挿入された、配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、かつ該ポリペプチドが配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、ポリペプチド;
iii.配列番号:51に対して少なくとも約80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
vi.配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、配列番号:50のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;
b.ポリペプチドとHSP90A間の結合を検出する段階;
c.被験化合物の存在下におけるポリペプチドとHSP90Aとの結合を、被験化合物の非存在下における結合と比較する段階;ならびに
d.ポリペプチドとHSP90Aとの結合を低下させる被験化合物を選択する段階。
【請求項14】
以下の構成成分を含む、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニングのためのキット:
a.以下からなる群より選択されるポリペプチド;
i.配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
ii.1つもしくは複数のアミノ酸が置換、欠失または挿入された、配列番号:51のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、かつ該ポリペプチドが配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、ポリペプチド;
iii.配列番号:51に対して少なくとも約80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;および
vi.配列番号:51のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価の生物活性を有する、配列番号:50のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;ならびに
b.HSP90A。
【請求項15】
以下の段階を含む、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニング方法:
a.配列番号:51のアミノ酸配列から選択された連続したアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、ここでアミノ酸配列がNHSCDPN(配列番号:52)およびGEELTICY(配列番号:53)の一方または両方を含むポリペプチドを、被験化合物の存在下でS-アデノシル-L-メチオニンと接触させる段階;
b.ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニン間の結合を検出する段階;
c.被験化合物の存在下におけるポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニンとの結合を、被験化合物の非存在下における結合と比較する段階;ならびに
d.ポリペプチドとS-アデノシル-L-メチオニンとの結合を低下させる被験化合物を選択する段階。
【請求項16】
以下の構成成分を含む、結腸直腸癌または肝細胞癌を治療するための化合物のスクリーニングのためのキット:
a.配列番号:51のアミノ酸配列から選択された連続したアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、ここでアミノ酸配列がNHSCDPN(配列番号:52)およびGEELTICY(配列番号:53)の一方または両方を含む、ポリペプチド;および
b.S-アデノシル-L-メチオニン。
【請求項17】
結腸直腸癌または肝細胞癌の症状を緩和するための組成物であって、ZNFN3A1により媒介されるメチル化を低下させる化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、組成物。
【請求項18】
結腸直腸癌または肝細胞癌の症状を緩和するための方法であって、結腸直腸癌細胞または肝細胞癌細胞を、ZNFN3A1により媒介されるメチル化を低下させる化合物の薬学的有効量と接触させる段階を含む、方法。
【請求項19】
結腸直腸癌または肝細胞癌の症状を緩和するための方法であって、結腸直腸癌細胞または肝細胞癌細胞を、ZNFN3A1とHSP90A間の相互作用を低下させる化合物の薬学的有効量と接触させる段階を含む、方法。
【請求項20】
結腸直腸癌または肝細胞癌の症状を緩和するための方法であって、結腸直腸癌細胞または肝細胞癌細胞を、ZNFN3A1とS-アデノシル-L-メチオニン間の相互作用を低下させる化合物の薬学的有効量と接触させる段階を含む、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図7e】
【図7f】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図7e】
【図7f】
【図8】
【公表番号】特表2007−519391(P2007−519391A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520534(P2006−520534)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001172
【国際公開番号】WO2005/071102
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(504445356)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (22)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001172
【国際公開番号】WO2005/071102
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(504445356)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (22)
【Fターム(参考)】
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