説明

メチレンアルキルフェニルケトン化合物の製造方法

【課題】メチレンアルキルフェニルケトンを製造する方法を提供する。
【解決手段】式(1)


で表されるアルキルフェニルケトンを塩基の存在下、アルデヒドと反応させて、式(3)


で表されるメチレンアルキルフェニルケトンを製造するに際し、反応系にテトラアルキルアンモニウム=ハライドを共存させることを特徴とするメチレンアルキルフェニルケトンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬中間体として有用なアルキルインダノン化合物の合成中間体である メチレンアルキルフェニルケトン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチレンアルキルフェニルケトン化合物の製造法としては、例えば、2−クロロプロピオフェノンと37%濃度ホルムアルデヒド溶液の混合物に対して水酸化ナトリウム水溶液を加え、40℃で2.5時間撹拌下、反応することにより合成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
本発明者が、上記従来技術文献を参考にして1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−1−ブタノンと37%濃度ホルムアルデヒド溶液とを反応させて1−(2−クロロフェニル)−2−メチリデン−3−メチル−1−ブタノンの製造を行った結果、未反応の1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−1−ブタノンがかなりの量残存しており、1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−1−ブタノンとホルムアルデヒドから1−(2−クロロフェニル)−2−メチリデン−3−メチル−1−ブタノンへの反応が効率よく進行しないことが判明した(後述の比較例1および2)。なお、この原因は1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−1−ブタノンとホルムアルデヒドとの反応よりも、ホルムアルデヒド2分子によるCannizzaro反応が速く進行することによるものと推察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−519779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、後述する式(1)で表されるアルキルフェニルケトン(以下、アルキルフェニルケトン(1)という)と式(2)で表されるアルデヒド(以下、アルデヒド(2)という)から効率よく式(3)で表されるメチレンアルキルフェニルケトン(以下、メチレンアルキルフェニルケトン(3)という)を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するため、本発明者が検討したところ、塩基の存在下でアルキルフェニルケトン(1)とアルデヒド(2)との反応を行う際に、反応系にテトラアルキルアンモニウム=ハライドを共存させることにより、アルキルフェニルケトン(1)とアルデヒド(2)からメチレンアルキルフェニルケトン(3)への反応が効率よく進行することがわかった。
【0006】
すなわち、本発明は、式(1):
【0007】
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜6のアルキル基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子又は炭素数2〜6のアルキル基を示す。)で表されるアルキルフェニルケトンを塩基の存在下、式(2):
【0008】
【化2】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。)で表されるアルデヒドと反応させて式(3):
【0009】
【化3】

(式中、R、R及びRは、前記に同じ。)で表されるメチレンアルキルフェニルケトンを製造するに際し、反応系にテトラアルキルアンモニウム=ハライドを共存させることを特徴とするメチレンアルキルフェニルケトンの製造方法に関する。なお、本発明の反応系は、反応液が複相になっている場合も、反応液が単相の場合と同様に、反応液全体を意味するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルキルフェニルケトン(1)とアルデヒド(2)からメチレンアルキルフェニルケトン(3)を効率よく製造することができるため、本発明の方法は工業的に優れた方法である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0012】
式(1)中、Rは炭素数2〜6のアルキル基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子又は炭素数2〜6のアルキル基を示す。炭素数2〜6のアルキル基としては、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられ、好ましくはプロピル基、イソプロピル基である。
【0013】
アルキルフェニルケトン(1)の具体例としては、プロピルフェニルケトン、ブチルフェニルケトン、ペンチルフェニルケトン、イソペンチルフェニルケトン等が挙げられ、好ましくはペンチルフェニルケトンである。
【0014】
式(2)中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。炭素数1〜3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
【0015】
アルデヒド(2)の具体例としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒドが挙げられ、中でもホルムアルデヒドが好ましい。
【0016】
アルデヒド(2)の使用量は、アルキルフェニルケトン(1)1モルに対して、通常1モル以上、好ましくは1〜5モル、より好ましくは1〜2モルである。
【0017】
塩基としては、具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられ、中でも水酸化ナトリウムが好ましい。
【0018】
塩基の使用量は、アルキルフェニルケトン(1)1モルに対して、通常1モル以上、好ましくは1〜3モル、より好ましくは1〜2モルである。
【0019】
テトラアルキルアンモニウム=ハライドとしては、たとえば、テトラブチルアンモニウム=クロリド、テトラブチルアンモニウム=ブロミドが挙げられる。
【0020】
テトラアルキルアンモニウム=ハライドの使用量は、アルキルフェニルケトン(1)1モルに対して、通常1モル%以上、好ましくは1〜10モル%、より好ましくは1〜5モル%である。
【0021】
反応温度は、通常、40℃以上であり、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜70℃である。
【0022】
反応は、通常、水溶媒中で行われる。溶媒の使用量としては、特に制限されないが、アルキルフェニルケトン化合物(1)1重量部に対して、通常、10重量部、好ましくは5〜30重量部である。
【0023】
本発明の製造方法を実施するには、アルキルフェニルケトン(1)と塩基を含有する水溶液とを混合した後、当該混合物にアルデヒド(2)とテトラアルキルアンモニウム=ハライドを添加して所定温度まで昇温させてもよいし、アルキルフェニルケトン(1)、アルデヒド(2)および塩基を含有する水溶液の混合物にテトラアルキルアンモニウム=ハライドを添加した後、昇温させてもよい。また、アルキルフェニルケトン(1)、塩基を含有する水溶液およびテトラアルキルアンモニウム=ハライドとの混合物に対して、所定温度でアルデヒド(2)滴下することにより反応を実施してもよい。
【0024】
こうして得られたメチレンアルキルフェニルケトン(3)を含有する反応混合物からメチレンアルキルフェニルケトン(3)を単離する方法としては、メチレンアルキルフェニルケトン(3)がオイルである場合は、そのまま分液するか、または有機溶媒により抽出した後、蒸留する方法が挙げられる。また、メチレンアルキルフェニルケトン(3)が結晶である場合は、晶析により粗結晶を取得後、当該粗結晶を再結晶する方法が挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、反応混合物の分析は、ガスクロマトグラフィー(GC)により行い、GCの分析結果から1−(2−クロロフェニル)−2−メチリデン−3−メチル−1−ブタノンの収率(1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−1−ブタノン基準)、及び1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−1−ブタノンと1−(2−クロロフェニル)−2−メチリデン−3−メチル−1−ブタノンの比率(重量)を算出した。
【0026】
実施例1
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−1−ブタノン500mg(2.5ミリモル)と2%水酸化ナトリウム水溶液5.1mL(2.5ミリモル)を混合し、当該混合物に37%ホルムアルデヒド水溶液250mg(3.1ミリモル)およびテトラブチルアンモニウム=ブロミド42mg(0.13ミリモル)を添加した。この混合物を60℃で2.5時間攪拌することにより反応を行い、反応混合物を得た。得られた反応混合物をオイル層と水層とに分液し、得られたオイル層と水層をそれぞれGC分析した結果、1−(2−クロロフェニル)−2−メチリデン−3−メチル−1−ブタノンの収率は79.1%であり、1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−1−ブタノンと1−(2−クロロフェニル)−2−メチリデン−3−メチル−1−ブタノンの比率(重量)は、25:75であった。
【0027】
実施例2
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−1−ブタノン500mg(2.5ミリモル)と2%水酸化ナトリウム水溶液5.1mL(2.5ミリモル)を混合し、当該混合物に37%ホルムアルデヒド水溶液410mg(5.1ミリモル)およびテトラブチルアンモニウム=ブロミド42mg(0.31ミリモル)を添加した。この混合物を60℃において2.5時間攪拌することにより反応を行い、反応混合物を得た。得られた反応混合物をオイル層と水層とに分液し、得られたオイル層と水層をそれぞれGC分析した結果、1−(2−クロロフェニル)−2−メチリデン−3−メチル−1−ブタノンの収率は97.4%であり、1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−1−ブタノンと1−(2−クロロフェニル)−2−メチリデン−3−メチル−1−ブタノンの比率(重量)は、5:95であった。
【0028】
比較例1
テトラブチルアンモニウム=ブロミドを加えない以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果、1−(2−クロロフェニル)−2−メチリデン−3−メチル−1−ブタノンの収率は41.0%であり、1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−1−ブタノンと1−(2−クロロフェニル)−2−メチリデン−3−メチル−1−ブタノンの比率(重量)は、66:34であった。
【0029】
比較例2
テトラブチルアンモニウム=ブロミドを加えない以外は、実施例2と同様にして反応を行った。その結果、1−(2−クロロフェニル)−2−メチリデン−3−メチル−1−ブタノンの収率は45.4%であり、1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−1−ブタノンと1−(2−クロロフェニル)−2−メチリデン−3−メチル−1−ブタノンの比率(重量)は、62:38であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜6のアルキル基を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子又は炭素数2〜6のアルキル基を示す。)で表されるアルキルフェニルケトンを塩基の存在下、式(2):
【化2】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。)で表されるアルデヒドと反応させて式(3):
【化3】

(式中、R、R及びRは、前記に同じ。)で表されるメチレンアルキルフェニルケトンを製造するに際し、反応系にテトラアルキルアンモニウム=ハライドを共存させることを特徴とするメチレンアルキルフェニルケトンの製造方法。
【請求項2】
式(2)で表されるアルデヒドがホルムアルデヒドである請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2012−51849(P2012−51849A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196845(P2010−196845)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000167646)広栄化学工業株式会社 (114)
【Fターム(参考)】