説明

メッキ洗浄水の再利用システムおよび処理装置

【課題】 メッキ工程で使用される洗浄水中の細菌類による製品歩留まりの悪化、洗浄水中の貴金属類の流失のないメッキ洗浄水の再利用システム及び装置の提供。
【解決手段】 メッキ工程で使用される洗浄水を浄化処理する装置において、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とTiを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のTiの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しており、光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布から形成した成形物を、反応容器内に複数段配置し、活性光線の照射下に、成形物と洗浄水とを接触させることを特徴とするメッキ洗浄水の再利用システム、及びメッキ洗浄水の処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性光線照射器、例えば紫外線照射ランプからの紫外線照射下あるいは可視光線照射下に、光触媒とメッキ工程で使用された洗浄水とを接触させ、光触媒反応により使用済み洗浄水中の細菌類の分解を行うと共に貴金属回収の容易なメッキ洗浄水の再利用システム及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光触媒を用いた有害物質の浄化は、光触媒として粉末状の酸化チタンが主として用いられてきた。しがしながらこれら粉末状の光触媒は、取り扱いが難しい上、水の浄化においては水中に酸化チタンが混ざるために処理水から酸化チタンを分離する必要がある。
【0003】
この問題を解決するために、基材に光触媒粉末を担持させることが行われている。例えば特許文献1に示されているように、ガラスフィルター上に酸化チタンをコーティングすることにより得られるフィルターが提案されている。また、例えば特許文献2に示されているように、目開きクロスに光触媒を担持させた光触媒担持体からなる光触媒カートリッジが提案されている。この光触媒担持体は中空円錐台形状の一定目開きクロスの積み重ね構造である。
【0004】
しかしながら、一般にコーティングによる光触媒粉末の担持では被処理物との接触等により光触媒粉末が脱落しやすいために処理物に光触媒粉末が混入するという問題がある。また、特許文献2のように、クロスに触媒を担持する方法では、クロスを構成する繊維同士のブリッジングが避けられない。その結果、処理流体が繊維間を通過することが難しく、圧力損失が大きくなる。この圧力損失を回避するために、ある一定以上の目開きを規定するか、あるいは上記触媒担持体に意図的に穴を開けるという方策が取られる。器壁に単に光触媒をコーティングした浄化装置の構造では光触媒と被処理物との接触は非常に悪く、効率の良い浄化は望めない。光触媒作用による有害物質の浄化においては、光触媒と処理流体との接触を良くすることが重要である。これらの課題を解決するものとして、本発明者らは特許文献3記載の装置を提案した。
【0005】
近年、電子工業分野において技術革新のスピードが速く、電子回路が益々微細化されている。メッキ工程において使用する洗浄水に細菌類が含まれると製品に細菌類が付着し、回路の短絡などを生じ、製品の歩留まりが悪化する。そのため通常は、紫外線殺菌により洗浄水中の細菌類の殺菌を行なわれている。また、電子回路形成には金などの貴金属をメッキする場合があり、この場合、メッキ工程で使用される洗浄水には貴金属類が微量ではあるが含まれており、資源の有効利用の観点からこれらを回収する方法も求められている。これらの微量貴金属の回収は主に、吸着法によって行なわれている。すなわち、細菌類対策と貴金属回収が異なる工程で行なわれている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−103631号
【特許文献2】特開平7−227547号
【特許文献3】特許3436267号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
紫外線による細菌類の不活化効果は様々な用途において広く用いられている。しかしながら、紫外線による不活化は細菌類の増殖能を抑えるものであることから、水中には細菌類がそのまま残存することになる。したがって、紫外線処理はメッキ工程における歩留まり向上に効果はない。また、紫外線によって不活化された細菌類は近紫外線の照射によって増殖能を回復(光回復)することが知られており、使用環境によっては紫外線は有効な手段とはいえない。一方、貴金属回収は、吸着法によって行なわれているが、これは上記細菌類対策と全く異なる工程で行なわれることになるため、殺菌対策と貴金属回収の2種類の機器を設置する必要がある。
【0008】
本発明の目的は、洗浄水を繰り返し循環使用しても、回路の短絡などの問題が無く、製
品歩留まりの悪化を防ぐと共に貴金属回収が容易なメッキ洗浄水の再利用システムおよびメッキ洗浄水処理装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、メッキ工程で使用される洗浄水を浄化処理する装置において、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とTiを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のTiの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しており、光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布から形成した成形物を、反応容器内に複数段配置し、活性光線の照射下に、成形物と洗浄水とを接触させて浄化し、浄化された洗浄水を再度メッキ工程で循環使用することを特徴とするメッキ洗浄水の再利用システムを提供する。
【0010】
本発明は、成形物が円錐状、中空円錐台状又は円盤状のいずれかである上記のメッキ洗浄水の再利用システムを提供する。
【0011】
本発明は、成形物が連結棒に複数段直列状に設置されている、反応容器内への脱着自在である光触媒カートリッジとして使用される前記のメッキ洗浄水の再利用システムを提供する。
【0012】
本発明は、成形物が少なくとも1個の開口部を備えている前記のメッキ洗浄水の再利用システムを提供する。
【0013】
本発明は、成形物が反応容器の中心軸と水平方向に反応容器内に配置されている前記のメッキ洗浄水の再利用システムを提供する。
【0014】
本発明は、活性光線照射器が反応容器の中心軸と平行に反応容器内及び/又は反応容器外に設けられている前記のメッキ洗浄水の再利用システムを提供する。
【0015】
本発明は、繊維全体に対する第1相の存在割合が98〜40重量%、第2相の存在割合が2〜60重量%である前記のメッキ洗浄水の再利用システムを提供する。
【0016】
本発明は、第2相を構成する金属酸化物のTiの存在割合の傾斜が、繊維表面から5〜500nmの深さで存在する前記のメッキ洗浄水の再利用システムを提供する。
【0017】
本発明は、第2相の金属酸化物がチタニアであり、その結晶粒径が15nm以下である前記のメッキ洗浄水の再利用システムを提供する。
【0018】
本発明は、浄化処理に使用された成形物に付着した貴金属類を燃焼法または溶解法などにより回収する上記のメッキ洗浄水の再利用システムを提供する。
【0019】
本発明は、メッキ工程で使用される洗浄水を浄化処理する装置において、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とTiを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のTiの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しており、光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布から形成した成形物を、反応容器内に複数段配置し、活性光線の照射下に、成形物と洗浄水とを接触させることにより、メッキ洗浄水中の細菌類に由来する粒子状物を低減し、かつメッキ洗浄水中の貴金属類の回収が容易なメッキ洗浄水の処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、メッキ工程で使用された洗浄水から、洗浄水中の細菌類の完全分解のみならず、貴金属類が光触媒表面に析出することにより回収できるメッキ洗浄水の再利用システム及び処理装置が提供される。即ち本発明によれば、製品の歩留まり低下の原因となる細菌類由来の粒子状物の低減と同時に、メッキ洗浄水中に含まれる微量な貴金属類の回収を同時に1種類の装置で行なうことができるメッキ洗浄水の再利用システム及び処理装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明者らは、すでに特許第3436267号に示す光触媒を利用した浄化装置の開発に成功している。光触媒(主としてチタニア)の原理は以下の通りである。光(主として紫外線)の照射により励起し、価電子帯の電子が伝導帯へと移動する。このときチタニアの価電子帯には正孔(ホール)が生成する。この正孔はチタニア周囲の水から電子を奪うことにより強力な酸化力を持ったOHラジカルを代表とする活性酸素種を生成する。一方、伝導帯へ移動した電子はチタニア周囲の酸素を還元する。上記浄化装置は、このような特性を利用して有機物の酸化分解による環境浄化に利用されている。
【0022】
この浄化装置の有機物分解性能は、細菌類に対しても極めて有効であり、この浄化装置を用いることによって細菌類が完全に酸化分解され、水中に細菌類を由来とする粒子状物が大きく低減できることを本発明者らは見出した。さらに、細菌類とともに微量な貴金属類を含む水の浄化に本浄化装置を利用することにより、細菌類の完全分解だけでなく、貴金属類が光触媒表面に析出することにより回収できることを見出した。これは、上記光触媒の原理において、通常では伝導帯の電子は酸素を還元するが、水中に貴金属類イオンが存在する場合、これらは酸素よりも還元されやすいために、光触媒上で貴金属類イオンが還元されることにより析出するものであると推定される。このように、メッキ洗浄水に本浄化装置を用いることによって、製品の歩留まり低下の原因となる細菌類由来の粒子状物の低減と同時に、メッキ洗浄水中に含まれる微量な貴金属類の回収を同時に1種類の装置で行なうことが可能となる。即ち本発明によれば、特許第3436267号に示す光触媒を利用した浄化装置を活用した、浄化されたメッキ洗浄水を再度メッキ工程で循環使用するメッキ洗浄水の再利用システムが提供される。
【0023】
本発明のシリカ基複合酸化物繊維において、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とは、非晶質であっても結晶質であっても良く、またシリカと固溶体或いは共融点化合物を形成し得る金属元素或いは金属酸化物を含有していても良い。シリカと固溶体を形成し得る金属元素(A)あるいはその酸化物がシリカと特定組成の化合物を形成し得る金属元素(B)としては特に限定されるものではないが、例えば(A)としてチタン、また(B)としてアルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、リチウム、ナトリウム、バリウム、カルシウム、ホウ素、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム、鉄等があげられる。
【0024】
この第1相は、本発明で得られる繊維の内部相を形成しており、力学的特性を負担する重要な役割を演じている。繊維全体に対する第1相の存在割合は98〜40重量%であることが好ましく、目的とする第2相の機能を十分に発現させ、なお且つ高い力学的特性をも発現させるためには、第1相の存在割合を50〜95重量%の範囲内に制御することが好ましい。
【0025】
一方、第2相を構成する金属酸化物は、光触媒機能を発現させる上で重要な役割を演じるものである。金属酸化物相を構成する金属としては、Tiが挙げられる。この金属酸化物は、単体でもよいし、その共融点化合物やある特定元素により置換型の固溶体を形成したもの等でもよい。この繊維の表層部を構成する第2相の存在割合は、酸化物の種類により異なるが、2〜60重量%が好ましく、その機能を十分に発現させ、また高強度をも同時に発現させるには5〜50重量%の範囲内に制御することが好ましい。また、第2相のTiを含む金属酸化物の結晶粒径は15nm以下、特に10nm以下が好ましい。
【0026】
この第2相を構成する金属酸化物のTiの存在割合は、繊維の表面に向って傾斜的に増大しており、その組成の傾斜が明らかに認められる領域の厚さは5〜500nmの範囲に制御することが好ましいが、繊維直径の約1/3に及んでも良い。尚、本発明において、第1相及び第2相の「存在割合」とは、第1相を構成する金属酸化物と第2相を構成する金属酸化物全体、即ち繊維全体に対する第1相の金属酸化物及び第2相の金属酸化物の重量%を意味している。
【0027】
また、このシリカ基複合酸化物繊維は、光触媒機能を有すると同時に優れた耐熱性を有している。例えば、加熱空気中に1時間保持した後に元の繊維強度の90%以上残存する温度が1000℃である。
【0028】
次に、本発明のシリカ基複合酸化物繊維の製造方法について説明する。本発明においては、主として一般式
【0029】
【化1】


(但し、式中のRは水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基又はフェニル基を示す。)で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランを、Tiを含む有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシラン、或いは変性ポリカルボシランとTiを含む有機金属化合物との混合物を溶融紡糸し、不融化処理後、空気中又は酸素中で焼成することにより、シリカ基複合酸化物繊維を製造することができる。
【0030】
第1工程は、シリカ基複合繊維を製造するための出発原料として使用する数平均分子量が1,000〜50,000の変性ポリカルボシランを製造する工程である。上記変性ポリカルボシランの基本的な製造方法は、特開昭56−74126号に極めて類似しているが、本発明では、その中に記載されている官能基の結合状態を注意深く制御する必要がある。これについて以下に概説する。
【0031】
出発原料である変性ポリカルボシランは、主として一般式
【0032】
【化2】

【0033】
(但し、式中のRは水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基又はフェニル基を示す。)で表される主査骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランと、一般式、M(OR')n或いはMR''m(Mは少なくともTi、R'は炭素原子数1〜20個を有するアルキル基またはフェニル基、R"はアセチルアセトナート、mとnは1より大きい整数)を基本構造とするTiを含む有機金属化合物(以下、単に有機金属化合物という)とから誘導されるものである。
【0034】
ここで、本発明の傾斜組成を有する繊維を製造するには、上記有機金属化合物の一部のみがポリカルボシランと結合を形成する緩慢な反応条件を選択する必要がある。その為には280℃以下、好ましくは250℃以下の温度で不活性ガス中で反応させる必要がある。この反応条件では、上記有機金属化合物はポリカルボシランと反応したとしても、1官能性重合体として結合(即ちペンダント状に結合)しており、大幅な分子量の増大は起こらない。この有機金属化合物が一部結合した変性ポリカルボシランは、ポリカルボシランと有機金属化合物の相溶性を向上させる上で重要な役割を演じる。
【0035】
尚、2官能以上の多くの官能基が結合した場合は、ポリカルボシランの橋掛け構造が形成されると共に顕著な分子量の増大が認められる。この場合は、反応中に急激な発熱と溶融粘度の上昇が起こる。一方、上記1官能しか反応せず未反応の有機金属化合物が残存している場合は、逆に溶融粘度の低下が観察される。
【0036】
本発明では、未反応の有機金属化合物を意図的に残存させる条件を選択することが望ましい。本発明では、主として上記変性ポリカルボシランと未反応状態の有機金属化合物或いは2〜3量体程度の有機金属化合物が共存したものを出発原料として用いるが、変性ポリカルボシランのみでも、極めて低分子量の変性ポリカルボシラン成分が含まれる場合は、同様に本発明の出発原料として使用できる。
【0037】
第2工程においては、前記第1工程で得られた変性ポリカルボシラン、或いは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物(以下前駆体ポリマーという)を溶融させて紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してミクロゲル、不純物等の紡糸に際して有害となる物質を除去し、これを通常用いられる合成繊維紡糸用装置により紡糸する。紡糸する際の紡糸原液の温度は原料の変性ポリカルボシランの軟化温度によって異なるが、50〜200℃の温度範囲が有利である。上記紡糸装置において、必要に応じてノズル下部に加湿加熱筒を設けても良い。尚、繊維径は、ノズルからの吐出量と紡糸機下部に設置された高速巻き取り装置の巻き取り速度を変えることにより調整される。
【0038】
第2工程は、前記溶融紡糸の他に、前記第1工程で得られた前駆体ポリマーを、例えばベンゼン、トルエン、キシレンあるいはその他前駆体ポリマーを溶融することのできる溶媒に溶解させ、紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してマクロゲル、不純物等紡糸に際して有害な物質を除去した後、前記紡糸原液を通常用いられる合成繊維紡糸装置により乾式紡糸法により紡糸し、巻き取り速度を制御して目的とする繊維を得ることができる。
【0039】
これらの紡糸工程において、必要ならば、紡糸装置に紡糸筒を取り付け、その筒内の雰囲気を前記溶媒のうち少なくとも1つの気体との混合雰囲気とするか、或いは空気、不活性ガス、熱空気、熱不活性ガス、スチーム、アンモニアガス、炭化水素ガス、有機ケイ素化合物ガスの雰囲気とすることにより、紡糸筒中の繊維の固化を制御することができる。
【0040】
第3工程においては、前記紡糸繊維を酸化雰囲気中で、張力または無張力の作用の下で予備加熱を行い、前記紡糸繊維の不融化を行う。この工程は、後工程の焼成の際に繊維が溶融せず、且つ隣接繊維と接着しないことを目的として行うものである。処理温度並びに処理時間は、組成により異なり、特に規定しないが、一般に50〜400℃の範囲内で、数時間〜30時間の処理上条件が選択される。また、上記酸化雰囲気中には、水分、窒素酸化物、オゾン等、紡糸繊維の酸化力を高めるものが含まれていても良く、酸素分圧を意図的に変えても良い。
【0041】
ところで、原料中に含まれる低分子量物の割合によっては、紡糸繊維の軟化温度が50℃を下回る場合もあり、その場合は、あらかじめ上記処理温度よりも低い温度で、繊維表面の酸化を促進する処理を施す場合もある。尚、同第3工程並びに第2工程の際に、原料中に含まれている低分子量化合物の繊維表面へのブリードアウトが進行し、目的とする傾斜組成の下地が形成されるものと考えている。
【0042】
第4工程においては、前記不融化した繊維を、張力または無張力下で、500〜1800℃の温度範囲で酸化雰囲気中において焼成し、目的とする、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とTiを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなり、表層に向かって第2相を構成する金属酸化物のTiの存在割合が傾斜的に増大するシリカ基複合酸化物繊維を得る。この工程において、不融化繊維中に含まれる有機物成分は基本的には酸化されるが、選択する条件によっては、炭素や炭化物として繊維中に残存する場合もある。このような状態でも、目的とする機能に支障を来さない場合はそのまま使用されるが、支障を来す場合は、更なる酸化処理が施される。その際、目的とする傾斜組成並びに結晶構造に問題が生じない温度、処理時間が選択されなければならない。
【0043】
本発明においては、上記製法により得られた光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維を短繊維にした後、ニードルパンチを行うことにより不織布とする。不織布の目付けや厚みについては特に限定は無いが通常、目付けが50〜500g/m2、厚みが0.5〜20mmのものが用いられるが、必要に応じてこの不織布を必要な厚みになるように積層しても良い。
【0044】
また、本発明のシリカ基複合酸化物繊維の不織布は、メルトブロー法を用いて、前記前駆体ポリマーを溶融し、溶融物を紡糸ノズルから吐出すると共に、前記紡糸ノズルの周囲から加熱窒素ガスを噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させ、次いで、該不織布を不融化処理後、酸化雰囲気中で焼成することにより製造することができる。
【0045】
紡糸ノズルの直径は通常100〜500μm程度のものを用いる。窒素ガス噴出速度は30〜300m/s程度であり、速度が速いほど細い繊維が得られる。また、窒素ガスの加熱温度は、所望の紡糸繊維が得られれば、特に制限はないが、通常500℃程度に加熱した窒素ガスを噴出させる。従来、一般的なメルトブロー法では、噴出ガスとして空気が用いられているが、前記前駆体ポリマーを紡糸するには窒素を用いる必要がある。噴出ガスとして窒素を用いることにより、安定して紡糸を行うことができる。
【0046】
また、前記前駆体ポリマーを紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集する際、吸引可能な受器を用いて、受器の下側から吸引しながら行うことが好ましい。吸引することにより、繊維が効果的にからまり、高強度の不織布が得られる。吸引速度は2〜10m/s程度の範囲が好ましい。
【0047】
次に、得られた不織布に上記溶融紡糸の場合と同様の不融化処理及び焼成を行うことにより、本発明のシリカ基複合酸化物繊維の不織布が得られる。上記メルトブロー法により製造されるシリカ基複合酸化物繊維は、平均繊維径が1〜20μm、好ましくは、1〜8μm、より好ましくは、2〜6μmと、溶融紡糸法で製造される繊維に比べてより細いものとすることができる。これにより、繊維の表面積も大きくでき、触媒活性が増大する。また、メルトブロー法により製造される不織布は、溶融紡糸法で製造された長さ40〜50μm程度の短繊維をニードルパンチ法で不織布としたものに比べて、繊維が長いものとなる。その結果、不織布は強度が高く(引張強度2N以上)、フィルター等に加工する際に、十分なプリーツ加工性を有する。
【0048】
次いで、上記により得られた不織布を所望の形状に成形し、得られた成形物を例えば連結棒のような枠体により間隔を設けて直列状に連結することにより、反応容器内に着脱可能な光触媒カートリッジが得られる。成形方法については、特に制限はないが、例えばステンレス製の金網等を支持部材として特定形状物に成形することができる。
【0049】
図1は、不織布の成形物5が中空円錐台状である本発明のメッキ洗浄水再利用システムに使用されるメッキ洗浄水処理装置を示す。このメッキ洗浄水処理装置は反応容器2の底部にメッキ洗浄水の入口7、反応容器2の天井部にメッキ洗浄水の出口8を備え、該反応容器1の中央部に保護管4内に配置された紫外線ランプ3が設置されている。入口7から供給されたメッキ工程で使用された洗浄水は、成形物5を形成する繊維一本一本の隙間を通過して、出口8から排出される。排出された洗浄水は、再度入口7から反応容器1に供給され、必要回数循環処理されることとなる。循環時間は必要に応じ適宜の時間が選択される。
【0050】
図2は、不織布の成形物5が円盤状である本発明のメッキ洗浄水再利用システムに使用されるメッキ洗浄水処理装置を示す。このメッキ洗浄水処理装置は反応容器2の底部にメッキ洗浄水入口7、反応容器2の天井部に出口8を備え、反応容器2の外周部に紫外線ランプ3が設置されている。本装置においては、成形物5が連結棒6により連結された光触媒カートリッジ1が設置されている。反応容器2の入口7から供給されたメッキ工程で使用された洗浄水は、円盤状成形物の一部に設けられた開口部を経て、成形物と接触しながら、反応容器2の出口8から排出される。排出された洗浄水は、再度入口7から反応容器2に供給され、必要回数循環処理されることとなる。なお、図1、図2共に、不織布の成形物は、その周辺を結ぶ線が反応容器の中心軸に垂直方向に設置されており、紫外線ランプは反応容器の中心軸と平行に配置されている。
【0051】
不織布からの成形物としては、通常金網等の支持部材の両面に不織布を固着したものが使用される。成形物から支持部材を除いたものを、燃焼又は溶解することにより貴金属類が回収される。溶解法の場合、フッ酸のような本発明で使用される不織布を溶解する溶剤が使用される。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により説明する。
参考例1
5リットルの三口フラスコに無水トルエン2.5リットルと金属ナトリウム400gとを入れ窒素ガス気流下でトルエンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間加熱還流し沈殿物を生成させた。この沈殿をろ過し、まずメタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。ポリジメチルシラン250gを水冷還流器を備えた三口フラスコ中に仕込み、窒素気流下、420℃で30時間加熱反応させて数平均分子量が1200のポリカルボシランを得た。
【0053】
合成されたポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシチタン64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、更に250℃まで昇温して5時間反応して変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランに意図的に低分子量の有機金属化合物を共存させる目的で5gのテトラブトキシチタンを加えて、変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物を得た。
【0054】
この変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物をトルエンに溶解させたのちガラス製の紡糸装置に仕込み、内部を十分に窒素置換してから昇温してトルエンを留去させて、180℃で溶融紡糸を行った。紡糸繊維を、空気中、段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1200℃の空気中で1時間焼成を行いチタニア/シリカ繊維を得た。
【0055】
得られた繊維(平均直径:13μm)は、X線回折の結果、非晶質シリカとアナターゼのチタニアからなっており、繊維全体のTi/Si(モル比)は0.17であった。また、EPMAによる構成原子の分布状態を調べたところ、最外周部から1μmの領域でTi/Si(モル比)=0.87、最外周から3〜4μmの領域でTi/Si(モル比)=0.15、中心部でTi/Si(モル比)=0.04と、表面に向ってチタンが増大する傾斜組成になっていることを確認した。同繊維の引張り強度は1.5GPaで、従来知られているゾルゲル法により得られたアナターゼ型チタニア/シリカ繊維に比べて極めて高強度を示すものであった。
【0056】
得られたチタニア/シリカ繊維を長さ50mmの短繊維にした後、ニードルパンチを行うことにより目付け100g/m、厚さ1mmのチタニア/シリカ繊維製フェルトを得た。
【0057】
実施例1
参考例1で得られたチタニア/シリカ繊維製フェルトを10枚積層し、約10mmの厚みとし、これをステンレス製の金網(線径1mm、3メッシュ)を支持部材として直径約85mm、高さ41mmで中央部に直径15mmの穴を開けた中空円錐台状成形物を作成した。これを図1に示すように反応容器2に多段で配置してメッキ洗浄水処理装置を作成した。
【0058】
反応容器の直径は約85mmとし、40Wの紫外線ランプを用いた。この装置を用いてメッキ洗浄槽(容積3m3)の水を3000L/hの流速で循環浄化した。浄化前の水中の生菌数は3600cfu/mlであり、5μm以下の粒子状物質は5700個/mlであった。3時間循環処理後の水質を調べたところ、生菌数は20cfu/mlであり、5μm以下の粒子状物は100個/ml以下であった。このように、殺菌性能とともに、粒子状物の低減効果も確認された。さらに、処理後の水に近紫外線(波長:360nm、照射強度200μW/cm2)を1時間照射照射した後に、生菌数を再度測定したところ20cfu/mlと変化はなく、光回復現象は認められなかった。この状態で製造したメッキ製品の品質を検査したところ、洗浄槽中の細菌と粒子状物による不良率は0%であった。
【0059】
比較例1
実施例1に示すメッキ洗浄水処理装置において、中空円錐台状成形物を取り外して紫外線殺菌装置を作成した。この装置を用いてメッキ洗浄槽(容積3m3)の水を3000L/hの流速で循環浄化した。浄化前の水中の生菌数は3600cfu/mlであり、5μm以下の粒子状物質は5700個/mlであった。3時間循環処理後の水質を調べたところ、生菌数は50cfu/mlであり、5μm以下の粒子状物は5500個/mlであった。さらに、処理後の水に近紫外線(波長:360nm、照射強度200μW/cm2)を1時間照射照射した後に、生菌数を再度測定したところ600cfu/mlと増殖しており、光回復現象が認められた。この状態で製造したメッキ製品の品質を検査したところ、メッキ洗浄槽中の細菌と粒子状物による不良率は20%であった。
【0060】
実施例2
実施例1に示す装置を用いてメッキ洗浄槽(容積3m3)の水を3000L/hの流速で循環浄化した。浄化前の水中の生菌数は10000cfu/mlであり、5μm以下の粒子状物質は15000個/mlであった。さらに2ppmの金イオンが含まれていた。3時間循環処理後の水質を調べたところ、生菌数は20cfu/mlであり、5μm以下の粒子状物は100個/ml以下であった。また、金イオン濃度は0.1ppm以下であった。このように、殺菌性能とともに、粒子状物の低減効果も確認された。さらに、処理後の光触媒表面をEPMAで分析した結果、成形物表面への金の析出が確認された。この成形物を燃焼、破砕、抽出を経て精製したしたところ、純度99.5%以上の金が5g回収できた。
【0061】
比較例2
実施例1に示す装置から中空円錐台状成形物を取り外して紫外線殺菌装置を作成した。この装置を用いてメッキ洗浄槽(容積3m3)の水を3000L/hの流速で循環浄化した。浄化前の水中の生菌数は10000cfu/mlであり、5μm以下の粒子状物質は15000個/mlであった。さらに200ppmの金イオンが含まれていた。3時間循環処理後の水質を調べたところ、生菌数は50cfu/mlであり、5μm以下の粒子状物は15000個/mlであった。また、金イオン濃度は2ppmであり、生菌数以外は変化は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のメッキ洗浄水処理装置を示す。
【図2】本発明のメッキ洗浄水処理装置の他の例を示す。
【符号の説明】
【0063】
1 光触媒カートリッジ
2 反応容器
3 紫外線ランプ
4 保護管
5 成形物
6 連結部材
7 洗浄水入口
8 洗浄水出口
9 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッキ工程で使用される洗浄水を浄化処理する装置において、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とTiを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のTiの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しており、光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布から形成した成形物を、反応容器内に複数段配置し、活性光線の照射下に、成形物と洗浄水とを接触させて浄化し、浄化された洗浄水を再度メッキ工程で循環使用することを特徴とするメッキ洗浄水の再利用システム。
【請求項2】
成形物が、円錐状、中空円錐台状又は円盤状であることを特徴とする請求項1記載のメッキ洗浄水の再利用システム。
【請求項3】
成形物が枠体に複数段直列状に設置されている、反応容器内への脱着自在である光触媒カートリッジとして使用されることを特徴とする請求項1記載のメッキ洗浄水の再利用システム。
【請求項4】
成形物が、少なくとも1個の開口部を備えていることを特徴とする請求項2又は3記載のメッキ洗浄水の再利用システム。
【請求項5】
成形物が、反応容器の中心軸と垂直方向に反応容器内に配置されていることを特徴とする請求項1乃至4記載のメッキ洗浄水の再利用システム。
【請求項6】
活性光線の照射器が、反応容器の中心軸と平行に反応容器内及び/又は反応容器外に設けられていることを特徴とする請求項1記載のメッキ洗浄水の再利用システム。
【請求項7】
繊維全体に対する第1相の存在割合が98〜40重量%、第2相の存在割合が2〜60重量%である請求項1記載のメッキ洗浄水の再利用システム。
【請求項8】
第2相を構成する金属酸化物のTiの存在割合の傾斜が、繊維表面から5〜500nmの深さで存在することを特徴とする請求項1記載のメッキ洗浄水の再利用システム。
【請求項9】
第2相の金属酸化物がチタニアであり、その結晶粒径が15nm以下であることを特徴とする請求項1記載のメッキ洗浄水の再利用システム。
【請求項10】
浄化処理に使用された成形物に析出した貴金属類を燃焼法または溶解法などにより回収することを特徴とする請求項10記載のメッキ洗浄水の再利用システム。
【請求項11】
メッキ工程で使用される洗浄水を浄化処理する装置において、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とTiを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のTiの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しており、光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布から形成した成形物を、反応容器内に複数段配置し、活性光線の照射下に、成形物と洗浄水とを接触させることを特徴とするメッキ洗浄水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−18352(P2008−18352A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192844(P2006−192844)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】