説明

メッシュ織物

【課題】スクリーン印刷やふるい分けなどに用いられる金属製のメッシュ織物において、紗厚を厚くして、たとえば高膜厚の印刷を可能にする。
【解決手段】平行に配設された多数本の金属製の経線22…,23…からなる経線群21と、平行に配設された多数本の金属製の緯線32…,33…からなる緯線群31とからなるメッシュ織物11であって、経線群21および緯線群31が、引っ張り強度の高い高強度金属線と、該高強度金属線よりも引っ張り強度が低い低強度金属線とを1本ごと交互に有し、上記高強度金属線には、1900N/mm以上の金属線が使用され、低強度金属線には、650〜1500N/mmの金属線が使用されたメッシュ織物11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえばスクリーン印刷やふるい分けなどに使用されるような金属製のメッシュ織物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製のメッシュ織物は、様々な分野で使用されている。なかでもスクリーン印刷やふるい分けなどでは、メッシュ織物の構造が作用効果に大きな影響を及ぼすので、その目的に応じて工夫がなされている。
【0003】
たとえばスクリーン印刷版に用いられるメッシュ織物としては、下記特許文献1に開示されたようなものがある。
【0004】
これは、高膜厚の印刷を行うためのもので、経線と緯線に引っ張り強度の異なる金属線を用い、引っ張り強度の高い緯線がすべて同一平面上に並ぶようにしたものであり、線径の約3倍の厚さを有するメッシュ織物が得られる。この結果、厚い印刷膜が得られるという顕著な効果を有する。これは、紗厚が厚いほど厚い印刷膜が得られるからである。
【0005】
【特許文献1】特許第3710428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これまで上記の3倍厚よりも厚い金属製のメッシュ織物はなかった。また、ふるい分けに用いられる金属製のメッシュ織物においては、角目や長目などの種別があるが、基本的に平面的な開口を有したものであり、また厚さが厚いものはなかった。
【0007】
そこで、この発明は、厚みの厚い金属製のメッシュ織物を得て、スクリーン印刷やふるい分けに資するようにすることを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのための手段は、平行に配設された多数本の金属製の経線からなる経線群と、平行に配設された多数本の金属製の緯線からなる緯線群とからなるメッシュ織物であって、上記経線群および/または緯線群が、引っ張り強度の高い高強度金属線と、該高強度金属線よりも引っ張り強度が低い低強度金属線とを有し、上記高強度金属線には、1900N/mm以上の金属線が使用され、低強度金属線には、650〜1500N/mmのものが使用されたメッシュ織物である。上記高強度金属線の伸びは5%未満であり、低強度金属線の伸びは9%以上であるとよい。
【0009】
織成にあたっては、高強度金属線を略直線状に維持し、低強度金属線を波打たせるようにする。
【0010】
経線群と緯線群のいずれか一方に高強度金属線と低強度金属線が存在するので、メッシュ織物は厚さ方向に少なくとも2段の階層を有する構造となり、上記の高強度金属線と低強度金属線に並んで織り込まれるその他の経線及び緯線によって、少なくとも線径の4倍程度以上5倍程度の厚さを有するメッシュ織物が得られる。
【0011】
具体的にはたとえば、低強度金属線からなる経線と低強度金属線からなる緯線の交差部分の厚み方向での位置が、当該メッシュ織物の厚み方向の内側寄りに設定され、上記交差部分を構成する経線と緯線の厚み方向の一方側の端部が、当該メッシュ織物の一方側の面で面一になるように設定されるとよい。ここで、「面一」とは、完全なる面一のみを意味するのではなく、略面一であれば足りるという意味である。線径の4倍厚程度のメッシュ織物が得られるとともに、一方側の面が比較的平滑な面となり、他方側の面が粗い粗面となる。
【0012】
別の手段は、上記のメッシュ織物が枠体内に張設されたスクリーン印刷版である。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、この発明によれば、4倍程度以上5倍程度の厚さを得られるので、スクリーン印刷に用いた場合には、印刷膜厚を高めることができる。また、篩に用いた場合には、立体的なメッシュ(目)によって良好な篩効果が得られる。
【0014】
また、経線群と緯線群の少なくとも一方には高強度金属線を用いたので強度の高いメッシュ織物となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、金属製のメッシュ織物11の構造を示す説明図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は図1(a)のA―A断面図、図1(c)はB―B断面図である。
【0016】
この図1に示したように、メッシュ織物11は、平行に配設された多数本の金属製の経線22…,23…からなる経線群21と、平行に配設された多数本の金属製の緯線32…,33…からなる緯線群31とが平織されてなるものである。
【0017】
経線群21と緯線群33を構成する金属線には2種類の金属線を使用する。2種類の金属線は、引っ張り強度の異なる金属線のことであり、引っ張り強度の高い高強度金属線(経線22、緯線32)とこれよりも引っ張り強度の低い低強度金属線(経線23、緯線33)とを用いる。高強度金属線は曲げることができないが、低強度金属線は曲げることができる。すなわち、高強度金属線をあまり曲げずに低強度金属線を曲げて波打たせたような形状にすることによってメッシュ織物11を形成する。
【0018】
織成にあたっては、これら高強度金属線と低強度金属線を、1本ずつ交互に織り込む。
【0019】
高強度金属線としては、引っ張り強度が1900N/mm以上で伸びが5%未満のものを使用でき、低強度金属線としては、引っ張り強度が650N/mm〜1500N/mmで伸びが9%以上のものが使用できる。なお、各経線22,23と緯線32,33の線径d1,d2,d3,d4や、目開きOP(オープニング)、メッシュ数などの平織の条件は、所望のメッシュ織物11が得られるように適宜設定される。
【0020】
このように交互に配設された高強度金属線と低強度金属線を経線群21と緯線群31に用いたメッシュ織物11は、経線群21と緯線群31に低強度金属線を有するので、これらの交差部分41のメッシュ織物11における厚みt方向での位置が、図1(b)、図1(c)に示したように、メッシュ織物11の厚みt方向の内側寄りに位置する。このときに、交差部分41がメッシュ織物11の一方側(図面下側)の面から突出せず、又はいり込まないように設定する。換言すれば、金属線の線径ひとつ分だけ、内側に寄せる。すなわち、上記の交差部分41を構成する経線23と緯線33の厚み方向の一方側(図面下側)の端部41aが、メッシュ織物11の一方側(図面下側)の面で面一になるように設定する。この「面一」とは、完全なる面一のみを意味するのではなく、略面一であればよいという意味である。
【0021】
これにより、波打ち形状に上下に折れ曲がる低強度金属線(経線23、緯線33)のうちの一方の低強度金属線(図示例では緯線33)の波打ちの振幅が小さくなり、メッシュ織物11の一方側の面には、比較的平滑な面(以下、「平滑面11a」という。)が得られる(図1(c)参照)。
【0022】
一方、これと反対側(図面上側)の面(以下、「粗面11b」という。)は、波打ち形状に上下に折れ曲がる低強度金属線のうちの他方の低強度金属線(図示例では経線23)の湾曲部分23aが、1本おきに突出する状態となり、凸状の湾曲部分23aが粗く点在する構造となる。
【0023】
スクリーン印刷版に用いるメッシュ織物11であって高膜厚の印刷を行おうとする場合には、高強度金属線としては、たとえば上記例のうち、2800N/mmで伸びが2〜3%ものを、また低強度金属線としては、たとえば上記例のうち、1000N/mmで伸びが25〜30%のものを使用するとよい。この場合、各金属線の線径は、50μm以下のものを使用するのがよい。
【0024】
一例として、線径d1,d3が28μmで引っ張り強度が2800N/mm、伸びが2〜3%の高強度金属線と、線径d2,d4が28μmで引っ張り強度が1000N/mm、伸びが25〜30%の低強度金属線とを用いて、メッシュ数325、目開き50μmのメッシュ織物を、上記の構造になるように織成して得た。すると、このメッシュ織物の厚さ(紗厚)は、111μmであった。これは線径d1,d2,d3,d4の3.96倍、およそ4倍の厚さであった。
【0025】
このメッシュ織物11を枠体(図示せず)に張設してスクリーン印刷版(周知の構造ゆえ図示省略)を製造し、下記の条件でスクリーン印刷を行い、塗布厚を調べたところ、22.3μmであった。
【0026】
印刷は、自動印刷機(マイクロテック株式会社製の高精度スクリーン印刷機MT―320TV)を使用し、2Kg/cmのスキージ圧力を加え、40mm/secの速度で行った。印刷ペーストとしては、市販の高粘度ガラスフリット(微細ガラスビーズの入ったペースト)を使用した。また印刷は、上記の平滑面をスキージ側に、粗面を被印刷物側にして行った。
【0027】
比較例として、線径が28μmで引っ張り強度が2500N/mmの高強度金属線を緯線、線径が28μmで引っ張り強度が1000N/mmの低強度金属線を経線として、すべての緯線が同一平面状に並ぶように織成して、線径の3倍厚のメッシュ織物を得た。メッシュ数、目開きは上記の例と同一である。このメッシュ織物の厚さ(紗厚)は、77μmで、これは線径の2.75倍の厚さであった。そして、上記と同一条件でスクリーン印刷を行い、塗布厚を調べたら、14.5μmであった。
【0028】
上述のように、メッシュ織物は4倍ほどの厚さとなり、スクリーン印刷に用いた場合には、上記のごとく印刷膜厚を高めることができた。
【0029】
また、経線群21と緯線群31の双方に高強度金属線を用いたので、強度が高く、耐摩耗性の良好なメッシュ織物11となる。
【0030】
さらに、メッシュ織物には平滑面11aと粗面11bが存在するので、平滑面11aをスキージ側に、粗面11bを被印刷物側にして印刷を行うと、平滑面11aは全体的に滑らかであって、スキージの磨耗を低減できる。一方、粗面11bは凸部が点在することになるが、面積の割に接触する部分の数が少なく粗い。このため、印刷時に被印刷物に対する接点を低減することができ、この結果、被印刷物の表面の平滑性が高くなり、干渉縞などの発生を防止して、美麗な印刷をすることができる。
【0031】
さらにまた、メッシュ織物11の厚さが厚い分、上下に波打つ低強度金属線(図示例では経線23)の傾斜する部分23bは比較的長い(図1(b)参照)。このため、スクリーン印刷においては、この傾斜部分では目は大きく、長いオープニングを得たのと同様にペーストが透過しやすい。
【0032】
上記のような構造のメッシュ織物11を、ふるい分けに用いる篩の枠体(図示せず)に張設し、篩(周知の構造ゆえ図示省略)を得る場合には、メッシュ織物11の粗面11bを上面側に、平滑面11aを下面側に設定する。メッシュ織物11を構成する経線22,23および緯線32,33の条件、織成条件は、篩にかける粉体の種類等に応じして適宜設定される。
【0033】
このような篩によれば、メッシュ織物11の表面の凹凸が多くなるので、メッシュ織物11の上にのった粉体が分散しやすい。そのうえ立体的な目を有し、上述のように上下に波打つ低強度金属線(経線23)の傾斜する部分23bは長い。このため、良好な篩作用が得られる。
【0034】
なお、上述の例では、経線群21と緯線群31の双方に、高強度金属線と低強度金属線を用いたが、経線群21または緯線群31のいずれか一方のみに高強度金属線と低強度金属線を用いることもできる。この場合、他方は、高強度金属線のみ、または低強度金属線のみとする。
【0035】
その一例を、図2に示した。この説明において、上記の構成と同一または同等の部位については同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0036】
図2(a)はメッシュ織物11の平面図、図2(b)は図2(a)のA―A断面図、図2(c)はB―B断面図である。すなわち、図2のメッシュ織物11は、経線群21には、先の例と同様に、高強度金属線からなる緯線22と低強度金属線からなる緯線23を1本ごと交互に配設したものを用い、緯線群31を構成する緯線32…には、すべてに高強度金属線を用いた。
【0037】
上記の高強度金属線としては、引っ張り強度が1900N/mm以上で伸びが5%未満のものを使用でき、低強度金属線としては、引っ張り強度が650N/mm〜1500N/mmで伸びが9パーセント以上のものが使用できる。また、各経線22,23と緯線32の線径d1,d2,d3や、目開き(オープニング)、メッシュ数などの平織の条件は、所望のメッシュ織物11が得られるように適宜設定される。図示例では、各経線22,23と緯線32の線径d1,d2,d3を同一に設定した。
【0038】
このような金属線からなるメッシュ織物11では、高強度金属線(経線22、緯線32)をあまり曲げずに低強度金属線(経線23)のみを曲げて波打たせたようにして織成がなされる。この結果、図2に示したように、メッシュ織物11の厚さtは、各経線22,23や緯線32の線径d1,d2,d3のおよそ5倍の厚さとなる。
【0039】
このようなメッシュ織物11をスクリーン印刷版に用いれば、さらに高膜厚の印刷ができ、また、篩に用いれば、立体的な目による粉体に応じた効果的なふるい分けが可能となる。
【0040】
上記の構成は、この発明の一実施の形態であって、この発明は上記の構成のみに限定されるものではなく、その他の形態を採用することもできる。
【0041】
たとえば、高強度金属線と低強度金属線を1本ごと交互に配設するのではなく、数本おきに配設するなどするもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】メッシュ織物の構造説明図。
【図2】他の例に係るメッシュ織物の構造説明図。
【符号の説明】
【0043】
11…メッシュ織物
11a…平滑面
11b…粗面
21…経線群
22,23…経線
31…緯線群
32,33…緯線
41…交差部分
41a…一方側の端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に配設された多数本の金属製の経線からなる経線群と、平行に配設された多数本の金属製の緯線からなる緯線群とからなるメッシュ織物であって、
上記経線群および/または緯線群が、引っ張り強度の高い高強度金属線と、該高強度金属線よりも引っ張り強度が低い低強度金属線とを有し、
上記高強度金属線には、1900N/mm以上の金属線が使用され、
低強度金属線には、650〜1500N/mmの金属線が使用された
メッシュ織物。
【請求項2】
前記高強度金属線の伸びが5%未満であり、
低強度金属線の伸びが9%以上である
請求項1に記載のメッシュ織物。
【請求項3】
前記経線群および/または緯線群が、高強度金属線と低強度金属線を交互に配設して構成された
請求項1または請求項2に記載のメッシュ織物。
【請求項4】
前記経線群と緯線群が、それぞれ高強度金属線と低強度金属線を有する
請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載のメッシュ織物。
【請求項5】
低強度金属線からなる経線と低強度金属線からなる緯線の交差部分の厚み方向での位置が、当該メッシュ織物の厚み方向の内側寄りに設定され、
上記交差部分を構成する経線と緯線の厚み方向の一方側の端部が、当該メッシュ織物の一方側の面で面一になるように設定された
請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載のメッシュ織物。
【請求項6】
前記請求項1から請求項5のうちのいずれか一項に記載のメッシュ織物が枠体内に張設された
スクリーン印刷版。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−155759(P2009−155759A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335664(P2007−335664)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【特許番号】特許第4143681号(P4143681)
【特許公報発行日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(502090482)アサダメッシュ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】