説明

メトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物表面修飾材料

【課題】タンパク質の非特異吸着を抑制することができる薄膜を形成可能な、高感度バイオセンンシング素子の表面修飾材料となる新規化合物を提供すること。
【解決手段】タンパク質の非特異吸着を抑制することができ、かつ薄膜を形成可能な新規化合物であって、高感度バイオセンンシング素子の表面修飾材料として有用な、下記の(化学式1)で表されるメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物を提供する。


(式中、X〜Xはそれぞれ独立してハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。ただし、X〜Xのうちの少なくとも1つはハロゲン、又は炭素数1〜3のアルコキシ基である。aは1〜10の整数である。Rは、−(CH−(OCHCH−を表す。mは2〜10の整数であり、nは0〜5の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種材質表面を薄膜修飾可能なメトキシオリゴエチレングリコールを導入したシラン化合物、及びその製造方法、並びに当該メトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物を用いた薄膜表面修飾材料に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサー開発では、測定試料に含まれるタンパク質がセンシング素子表面に非特異に吸着してセンシング機能を低下させるため、タンパク質の非特異吸着を抑制する表面修飾材料が必要である。そのような表面修飾材料に導入される官能基として、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル化合物やホスホリルコリンなどのツビッターイオン化合物等が知られている。特にポリエチレングリコールは、その扱い易さからタンパク質の非特異吸着を抑制する生体適合性表面修飾材料として広く研究されている(特許文献1、2)。
表面プラスモン共鳴(SPR)センサーや導波モードセンサーなどの高感度バイオセンサー開発では、センシング素子表面での分子認識をより感度よく検出するため、単分子膜を始めとするできるだけ薄い膜による表面修飾が求められる。表面修飾材料には、修飾表面と反応する種々の官能基が導入されている。官能基としてチオールを導入することによって金表面への単分子膜修飾が容易にできることから、チオールを導入した種々の表面修飾材料が開発され、多方面で利用されている。その一方でシランを導入した化合物は、ガラス、布、プラスチック、カーボンなどの多様な材料表面を修飾でき、さらに単分子膜修飾も可能であることから、より汎用性のある表面修飾材料として知られている。
タンパク質の非特異吸着を抑制する表面修飾材料として、チオールやシランを導入したポリエチレングリコール表面修飾材料が開発・市販されているが、高分子である故に修飾表面の膜厚が厚くなり、高感度センシング素子の開発にあたって問題となりうることが知られている。この問題を解決できる薄膜構築表面修飾材料として、チオールを導入したオリゴエチレングリコールやメトキシオリゴエチレングリコール表面修飾材料が開発され、自己集合膜のような高密度な単分子膜を形成することによってタンパク質の非特異吸着抑制機能を発揮していることが報告されている(非特許文献1、2)。しかし修飾できるセンシング素子表面は金に限られ、血清のような医療現場で用いる試料に対するタンパク質などの非特異吸着抑制能力も十分とは言い難い。したがって、金属以外の材質表面にも適用可能な、より広汎な材質の基材表面を薄膜修飾できるような表面修飾材料の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−139587号公報
【特許文献2】特開2008−1794号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S. Herrwerth, W. Eck, S. Reinhardt, and M. Grunze, J. Am. Chem. Soc., 2003, 125, 9359-9366.
【非特許文献2】Z. Zhang, M. Zhang, S. Chen, T. A. Horbett, B. D. Ratner, and S. Jiang, Biomaterials, 2008, 29, 4285-4291.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、単分子膜を初めとする薄膜表面修飾が可能で、血清のような試料を用いた場合でも十分なタンパク質等の非特異吸着抑制効果を示し、ガラスやプラスチックなど、多様な基材表面を修飾できる表面修飾材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、タンパク質などの非特異吸着を効果的に抑制するために、自己集合膜のように高密度単分子膜修飾が有効であること、そのような修飾のためには水素結合を形成するアミド基の導入が有効であることに鑑み、メトキシオリゴエチレングリコールを有するカルボン酸誘導体とアミノ基を有するシラン化合物とを反応させることで水素結合を形成するアミド基を有する各種のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン誘導体を合成した。これら誘導体及びその薄膜形成能について鋭意研究した結果、下記(化学式1)の一般式で示される、メトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物が自己集合膜に匹敵する高密度単分子膜修飾可能であることを見出した。当該メトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物を用いることで、いろいろな材質のセンシング基板を薄膜表面修飾し、タンパク質の非特異吸着を効果的に抑制することが可能になった。即ち、本発明は、高感度バイオセンサー開発に資する、タンパク質の非特異吸着を抑制する表面修飾材料として有望なメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物を提供するものである。
本願発明の新規化合物は、下記(化学式1)の一般式で記載することができ、下記(化学式2)及び(化学式3)を反応させて合成することができる(反応式1)。
【化1】

(式中、X〜Xはそれぞれ独立してハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。ただし、X〜Xのうちの少なくとも1つはハロゲン、又は炭素数1〜3のアルコキシ基である。aは1〜10の整数である。
Rは、−(CH−(OCHCH−を表す。mは2〜10の整数であり、nは0〜5の整数である。)
【化2】

(式中、aは(化学式1)における定義と同じであり、Yはカルボン酸活性基を表す。)
【化3】

(式中X〜X、Rは、(化学式1)における定義と同じである。)
【化4】

【0007】
即ち、本発明は以下の通りのものである。
〔1〕 下記の(化学式1)で表される、メトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物;
【化1】

(式中、X〜Xはそれぞれ独立してハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。ただし、X〜Xのうちの少なくとも1つはハロゲン、又は炭素数1〜3のアルコキシ基である。aは1〜10の整数である。
Rは、−(CH−(OCHCH−を表す。mは2〜10の整数であり、nは0〜5の整数である。)
〔2〕 前記〔1〕に記載のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物(化学式1)の製造方法であって、
下記(化学式2)で表される
【化2】

(式中、aは(化学式1)の定義と同じであり、Yはカルボン酸活性基を表す。)
と、下記(化学式3)で表される
【化3】

(式中、X〜X、Rは、(化学式1)の定義と同じである。)
とを反応させることを特徴とする、方法。
〔3〕 前記〔1〕に記載のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物からなる薄膜であって、装置又はその基材表面の少なくとも1部を修飾している薄膜。
〔4〕 前記〔1〕に記載のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物により、少なくとも1つの表面が修飾されている装置又はその基材。
〔5〕 前記装置が導波モードセンサーであり、その基材が当該装置に用いるバイオセンシング素子である、前記〔4〕に記載の装置又はその基材。
【発明の効果】
【0008】
本発明のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物を用いて、いろいろな材質のセンシング基板を薄膜表面修飾することが可能である。修飾した表面は優れたタンパク質等の非特異吸着抑制効果を示し、高感度バイオセンシング素子の構築材料として有望である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】コントロール血清に対する非特異吸着抑制効果 縦軸は反射率ピーク波長シフト値(単位nm)を表し、図中、M3EGはメトキシトリエチレングリコール−トリエトキシシランを、M4EGはメトキシテトラエチレングリコール−トリエトキシシランを、M5EGはメトキシペンタエチレングリコール−トリエトキシシランを表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.本発明のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物について
本発明のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物は文献未記載の新規化合物であり、いろいろな材質のセンシング素子表面を薄膜表面修飾することが可能である。修飾した表面は優れたタンパク質等の非特異吸着抑制効果を示し、高感度バイオセンシング素子の構築材料として有望である。本発明では、合成したメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物のタンパク質非特異吸着抑制効果を評価するために、導波モードセンサーチップのシリカ表面を修飾し、導波モードセンサーにてタンパク質非特異吸着抑制効果を評価した。
本発明のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物は下記の一般式(化学式1)で表される。
【化1】

上記式中、X〜Xはそれぞれ独立してハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。ただし、X〜Xのうちの少なくとも1つはハロゲン、又は炭素数1〜3のアルコキシ基である。ここで、アルコキシ基としては、メトキシ基又はエトキシ基が好ましい。aは1〜10の整数であり、好ましくはa=2〜5である。
Rは、−(CH−(OCHCH−を表す。mは2〜10の整数であり、好ましくは、m=2〜6である。nは0〜5の整数であり、好ましくはn=0〜2である。
なお、本明細書中の化学式、反応式内で用いている記号、符号は、同一記号、符号であればそれぞれ全て同じ意味を表す。
【0011】
2.本発明のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物の製造法
以下、本発明のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物の製造法を説明する。
(2−1)オリゴエチレングリコールカルボン酸エチルエステル誘導体の合成
まず、下記の反応式に従って、グリシンエチルエステル塩酸塩からジアゾ酢酸エチルエステルを合成する。
【化5】

ジアゾ酢酸エチルエステルの製造方法は周知であるが、不安定な化合物であるため市販はされていない。例えば、グリシンエチルエステル塩酸塩と亜硝酸ナトリウムを水−ジクロロメタン混合溶媒に溶かし、希硫酸を加えて撹拌しながら反応させる。生成したジアゾ酢酸エチルエステルを逐次ジクロロメタン層への溶媒抽出により取り出すことによって、80%以上の高い収率で取得できる。
次いで、下記反応式に従って、上記ジアゾ酢酸エチルエステルを、「H−(OCHCH−OR」具体的には、「H−(OCHCH−OCH」で表されるオリゴエチレングリコールモノメチルエーテル、又は「H−(OCHCH−OH」で表されるオリゴエチレングリコールと反応させる。なお、これらの式中、Rはメチル基、あるいは水素である。bは1〜10で、かつa以下の整数であり、好ましくはb=2〜5である。
具体的には、ジアゾ酢酸エチルエステルのジクロロメタン溶液に、上記オリゴエチレングリコールモノメチルエーテル又はオリゴエチレングリコールを加え、三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体のジクロロメタン溶液を滴下して反応させる方法が採用できる。
その後、ジクロロメタンを留去した後、減圧蒸留などの周知手段で精製することで60%以上の収率で、目的の下記「メトキシオリゴエチレングリコールカルボン酸エチルエステル又はオリゴエチレングリコールカルボン酸エチルエステル」を得ることができる。
【化6】

得られるカルボン酸エステル含有オリゴエチレングリコール誘導体は、下記(化学式4)、すなわち(化学式5)又は(化学式6)として示すことができる。
【化7】

【化8】

【化9】

【0012】
(2−2)メトキシオリゴエチレングリコールカルボン酸の合成
下記反応式に従って、カルボン酸エステル含有オリゴエチレングリコール誘導体を、アルカリ加水分解させることによって、目的とするメトキシオリゴエチレングリコールカルボン酸、又はオリゴエチレングリコールカルボン酸を得ることができる。
【化10】

得られるメトキシオリゴエチレングリコールカルボン酸は(化学式7)、オリゴエチレングリコールカルボン酸は(化学式8)として示すことができる。
【化11】

【化12】

上記オリゴエチレングリコールカルボン酸の場合は、さらに下記反応式に従って、「Z−(CHCHO)−CH」で表されるオリゴエチレングリコールモノメチルエーテル誘導体と反応させる。なお、これらの式中、Zはハロゲン、トシラート、メシラートなどの、水酸基と反応してエーテル結合を形成する反応性の基を表す。cは0〜9で、かつa未満の整数であり、好ましくはb+c=2〜5であり、c=0の場合はメチル誘導体となる。
具体的には、オリゴエチレングリコールカルボン酸と水素化ナトリウムのTHF溶液に、上記オリゴエチレングリコールモノメチルエーテル誘導体のTHF溶液を滴下して反応させる方法が採用できる。
その後、THFを留去した後、シリカゲルカラムなどの周知手段で精製することで目的のメトキシオリゴエチレングリコールカルボン酸を得ることができる。
【化13】

【0013】
(2−3)メトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物の合成
本発明の最終目的物であるメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物を得るためには、上記(2−2)の合成法によりメトキシオリゴエチレングリコールを導入したカルボン酸誘導体と共に、下記(化学式3)で表されるアミノ基を有するシラン誘導体が必要であるが、当該シラン誘導体は、ほとんど市販化合物として入手可能である。例えば、3−アミノプロピルトリハロゲン化シラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが東京化成社などにより市販されている。本実施例では、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(東京化成社製)を用いている。
【化3】

なお、上記式中、X〜X、Rは、(化学式1)の定義と同じである。
そして、当該(化学式3)のシラン誘導体を、上記(2−2)に従って合成した下記(化学式2)とを下記(反応式1)に従って反応させることによって、目的とするメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物を得ることができる。
【化2】

なお、上記式中、aは(化学式1)の定義と同じであり、Yはカルボン酸活性基を表す。カルボン酸活性基としては、当業者に周知であり、典型的にはハロゲン、ヒドロキシスクシンイミド、DCC付加体(ジシクロヘキシルカルボジイミド付加体)などが用いられる。
【化4】

この反応は、触媒としてトリエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジンなどの塩基性触媒を用いて行うことができる。触媒として、好ましくはトリエチルアミンが使用される。
使用される溶媒としては、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、アセトニトリル等の有機溶媒であるが、好ましくはテトラヒドロフランを用いて行われる。メトキシオリゴエチレングリコールを導入したカルボン酸誘導体とシラン誘導体の反応割合は、前者1モルに対して後者を0.5〜2モル程度、好ましくは等モル程度とすればよい。触媒の使用量は、メトキシオリゴエチレングリコールを導入したカルボン酸誘導体1モルに対して1〜5モル、好ましくは2モル程度とすればよい。反応温度は0〜50℃程度、好ましくは室温(25℃)とし、反応時間は12時間程度とすればよい。
このようにして得られるメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物は、慣用されている精製法、例えばHPLC法、カラムクロマトグラフィー法、薄層クロマトグラフィー法などにより、又はこれら手法を組み合わせることによって容易に単離精製できる。
また、本発明の目的物が合成できたことは、NMRや質量分析等により確認できる。
【0014】
3.本発明のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物を用いた基材表面の薄膜形成方法
本発明のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物は、ペプチドアレイ、抗体アレイ、DNAチップなどのようなタンパク質の非特異吸着の厳密な排除が求められる高感度の各種バイオセンシング素子、チップに用いられる種々の材料表面、例えばシリカ、窒化ケイ素、酸化処理プラスチック、酸化処理カーボンのチップ表面に薄膜を形成することができる。そして、きわめて高いタンパク質の非特異吸着抑制機能を示すことから、広範なバイオセンシング素子表面修飾材料として有効に利用できる。これらのセンシング素子の他、繊維やステンレスの表面にも用いることもでき、広く医療機器類や食品用器具などの外表面や内表面のコート材料としても用いることができる。
本発明において、基材表面が本発明のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物のシリル基と共有結合を形成した薄膜により被覆されることを「表面修飾」という。表面修飾の手法として浸積法の他、塗布、噴霧方法を用いることができるため、対象となる基材の形状、大きさはどのようなものでもよく、タンパク非特異性吸着抑制機能が求められる一部表面のみを修飾することが可能である。本発明における各種の修飾対象を「装置又はその基材」と表現することがある。
【0015】
本発明のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物を用いてチップ表面を薄膜修飾するための手法は、対象となるセンシング素子、チップ毎に最適な手法を選択すればよいが、典型的な手法としては、修飾したい基材、チップなどを完全に洗浄し乾燥した後、本発明のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物の溶液中に当該基材、チップなどを浸積し、洗浄、乾燥する方法を適用できる。浸積工程に変えて塗布、噴霧法を用いても良い。メトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物の溶剤としてはシラン化合物を分解しない有機溶媒であれば何でも使用することができるが、典型的なものとしては、トルエン、エタノール、THFがある。ただし、基材の材質がプラスチックの場合は、プラスチック溶解性のあるトルエン、THFなどは用いることができないので、エタノールなどのアルコール系溶媒が好ましい。
通常の医療機器類や食品用器具などの表面コートに際しては以上示した薄膜修飾手順により簡便に表面修飾することが可能であるが、導波モードセンサーのように高感度バイオセンサーに用いる場合など、厳格性が要求される場合には自己組織化された単分子膜のような制御された薄膜形成が求められる。そのような、より困難な単分子膜修飾の手順としては、例えば、以下の様に行うことができる。
(1)アセトン中で10分間超音波洗浄
(2)エタノール中で5分間超音波洗浄
(3)1時間減圧乾燥
(4)合成した表面修飾材料の1mMトルエン溶液に浸積
(5)アセトン中で1分間超音波洗浄後、エタノール洗浄
ここで、上記(4)のチップの浸積時間と温度は、用いるメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物により左右され、M3EGの場合、0℃〜室温で24〜72時間、好ましくは48時間、M4EG及びM5EGの場合、加熱条件下(50℃)で8〜36時間、好ましくは15〜24時間である。
単分子膜が形成されたことは、XPS(X線光電子分光法)やエリプソメトリー(偏光解析法)などの膜厚測定法により確認することができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はそれに限られるものではない。
(実施例1)メトキシトリエチレングリコール−トリエトキシシラン(M3EG)の合成
(1−1)ジアゾ酢酸エチルの合成
【化5】

三口フラスコ(1L)に亜硝酸ナトリウム38.1g(0.55mol)、グリシンエチルエステル塩酸塩68.4g(0.49mol)、酢酸ナトリウム1.36g、水250mlを入れ、溶かした後に0℃に冷却する一方で、10wt%硫酸水溶液200ml、10wt%炭酸ナトリウム水溶液500mlを調製し、同様に0℃に冷却した。冷却したジクロロメタン80mlと10wt%硫酸水溶液3mlを加え、0℃で5分間撹拌した後に分液ロートにてジクロロメタン層を分離し、水溶液は三口フラスコに、ジクロロメタン層は直ちに冷却した炭酸ナトリウム水溶液50mlで洗浄した後0℃で保存した。再び冷却したジクロロメタン80mlを加え、10wt%硫酸水溶液15mlを3分かけて滴下し、0℃で3分間撹拌した後に分液ロートにてジクロロメタン層を分離し、水溶液は三口フラスコに、ジクロロメタン層は直ちに冷却した炭酸ナトリウム水溶液50mlで洗浄した後0℃で保存した。この操作をジクロロメタン層に黄色い着色がなくなるまで繰り返した(7〜8回)。集めたジクロロメタン層をまとめて等量の水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて一晩脱水し、溶液のまま次の反応に用いた。
黄色液体
粗収率80%
【0017】
(1−2)メトキシトリエチレングリコールカルボン酸エチルエステルの合成
【化14】

三口フラスコ(2L)にトリエチレングリコールモノメチルエーテル164g(1.18mol)、粗ジアゾ酢酸45.1g(392mmol、ジクロロメタン溶液)、ジクロロメタン合計1.2Lを入れ、加熱還流した。三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体エーテル溶液1.5mL(47wt%)のジクロロメタン溶液40mLを還流が維持できる速度で30分かけて滴下し、さらに3時間加熱還流した。放冷後反応液を水1Lに注ぎ、ジクロロメタン層を分離し、ジクロロメタン層はもう一度水1Lで洗浄した。ジクロロメタンを留去し、減圧蒸留にて目的物を精製した。
無色液体、b.p.115〜120℃/0.2mmHg
収率65%
【0018】
(1−3)メトキシトリエチレングリコールカルボン酸の合成
【化15】

三口フラスコ(300mL)にメトキシトリエチレングリコールグリコールカルボン酸エチルエステル12.5g(50mmol)とTHF100mLを入れ、室温で撹拌した。水酸化ナトリウム10.0g(250mmol)の水溶液100mLを加え、12時間加熱還流した。放冷後反応液に濃塩酸を加えて酸性にし、THF、水を留去し、残渣にベンゼン100mLを加えて不溶物を除去した。ベンゼンを留去し、減圧乾燥してそのまま次の反応に用いた。
無色液体
粗収率97%
【0019】
(1−4)メトキシトリエチレングリコールカルボン酸クロライドの合成
【化16】

ナスフラスコ(200mL)に粗メトキシトリエチレングリコールカルボン酸1.11g(5mmol)、オキザリルクロライド1.27g(10mmol)、ベンゼン80mLを入れ、室温で撹拌した。DMF4滴を加え、室温で6時間撹拌した。ベンゼン、オキザリルクロライドを留去し、減圧乾燥してそのまま次の反応に用いた。
淡褐色液体
粗収率100%
【0020】
(1−5)メトキシトリエチレングリコール−トリエトキシシランの合成
【化17】

ナスフラスコ(300mL)に窒素雰囲気下アミノプロピルトリエトキシシラン1.08g(6mmol)、トリエチルアミン1.21g(12mmol)、脱水THF100mLを入れ、0℃で撹拌した。粗メトキシトリエチレングリコールカルボン酸クロライド1.20g(5mmol)の脱水THF溶液30mLを滴下し、室温で12時間撹拌した。THFを留去し、シリカゲルカラム(クロロホルム:エタノール =100:0→0.5)にて目的物を精製した。
無色液体
収率79%
H−NMR;(CDCl、500MHz)δ:0.60(2H、t、J=8.48Hz)、1.18(9H、t、J=7.10Hz)、1.55〜1.65(2H、m)、3.24(2H、q、J=6.88Hz)、3.34(3H、s)、3.48〜3.54(2H、m)、3.58〜3.68(10H、m)、3.78(6H、q、J=7.02Hz)、3.95(2H、s)、3.99(1H、t、J=5.70Hz)
【0021】
(実施例2)メトキシテトラエチレングリコール−トリエトキシシラン(M4EG)の合成
(2−1)トリエチレングリコール酸エチルエステルの合成
【化18】

三口フラスコ(2L)にジエチレングリコール208g(1.96mol)、粗ジアゾ酢酸45.1g(392mmol、ジクロロメタン溶液)、ジクロロメタン合計1.2Lを入れ、加熱還流した。三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体エーテル溶液1.5mL(47wt%)のジクロロメタン溶液40mLを還流が維持できる速度で30分かけて滴下し、さらに3時間加熱還流した。放冷後反応液を水1Lに注ぎ、ジクロロメタン層を分離した。水層はクロロホルム400mLで二回抽出した。ジクロロメタン、クロロホルムを留去し、減圧蒸留にて目的物を精製した。
無色液体、b.p.98〜102℃/0.25mmHg
収率90%
【0022】
(2−2)トリエチレングリコール酸カリウムの合成
【化19】

三口フラスコ(300mL)にトリエチレングリコールグリコール酸エチルエステル3.84g(20mmol)とエタノール100mLを入れ、室温で撹拌した。炭酸カリウム5.52g(40mmol)の水溶液100mLを加え、12時間加熱還流した。放冷後エタノール、水を留去し、減圧乾燥してそのまま次の反応に用いた。
無色固体
粗収率100%
【0023】
(2−3)ジエチレングリコールモノメチルエーテルトシラートの合成
【化20】

三口フラスコ(300mL)にジエチレングリコールモノメチルエーテル6.01g(50mmol)、水酸化ナトリウム7.00g(175mmol)、THF35mL、水35mLを入れ、氷冷した。p−トルエンスルホニルクロライド11.44g(60mmol)のTHF溶液50mLを2時間かけて滴下し、さらに0℃で2時間、室温で12時間撹拌した。反応液を0℃の5wt%塩酸200mLに注ぎ、クロロホルム300mLで抽出した。クロロホルム層を水200mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した。クロロホルムを留去し、減圧乾燥してそのまま次の反応に用いた。
褐色液体
粗収率100%
【0024】
(2−4)メトキシテトラエチレングリコールカルボン酸の合成
【化21】

三口フラスコ(300mL)に水素化ナトリウム2.00g(60%、50mmol)とTHF200mLを入れ、室温で撹拌した。トリエチレングリコール酸カリウム9.36g(20mmol、炭酸カリウム5.54gを含む)を発熱に注意しながら加え、100℃に加熱した。ジエチレングリコールメチルエーテルトシラート8.23g(30mmol)のTHF溶液50mLを滴下し、12時間加熱還流した。放冷後反応液にメタノールを加えて過剰の水素化ナトリウムを分解した。THFを留去し、得られた残渣を5wt%塩酸100mLに注ぎ、クロロホルム100mLで五回抽出した。クロロホルムを留去し、得られた残渣に5wt%水酸化ナトリウム水溶液100mLを加え、室温で12時間撹拌した。発熱に注意しながら反応液に濃塩酸を加えて酸性にし、クロロホルム100mLで五回抽出した。クロロホルムを留去し、シリカゲルカラム(クロロホルム:メタノール=100:1→25)にて目的物を精製した。
淡褐色液体
収率53%
【0025】
(2−5)メトキシテトラエチレングリコールカルボン酸クロライドの合成
【化22】

ナスフラスコ(200mL)にメトキシテトラエチレングリコールカルボン酸266mg(1mmol)、オキザリルクロライド254mg(2mmol)、ベンゼン30mLを入れ、室温で撹拌した。DMF3滴を加え、室温で6時間撹拌した。ベンゼン、オキザリルクロライドを留去し、減圧乾燥してそのまま次の反応に用いた。
淡褐色液体
粗収率100%
【0026】
(2−6)メトキシテトラエチレングリコール−トリエトキシシランの合成
【化23】

三口フラスコ(100mL)に窒素雰囲気下アミノプロピルトリエトキシシラン266mg(1.2mmol)、トリエチルアミン151mg(1.5mmol)、脱水THF30mLを入れ、0℃で撹拌した。粗メトキシテトラエチレングリコールカルボン酸クロライド285mg(1mmol)の脱水THF溶液20mLを滴下し、室温で12時間撹拌した。THFを留去し、シリカゲルカラム(クロロホルム:エタノール=100:1→5)にて目的物を精製した。
無色液体
収率36%
H−NMR;(CDCl、500MHz)δ:0.62(2H、t、J=8.48Hz)、1.21(9H、t、J=7.10Hz)、1.58〜1.67(2H、m)、3.27(2H、q、J=6.88Hz)、3.37(3H、s)、3.52〜3.56(2H、m)、3.61〜3.68(14H、m)、3.81(6H、q、J=7.03Hz)、3.97(2H、s)、6.97(1H、t、J=6.65Hz)
【0027】
(実施例3)メトキシペンタエチレングリコール−トリエトキシシラン(M5EG)の合成
(3−1)トリエチレングリコールモノメチルエーテルトシラートの合成
【化24】

三口フラスコ(300mL)にトリエチレングリコールモノメチルエーテル8.21g(50mmol)、水酸化ナトリウム7.00g(175mmol)、THF35mL、水35mLを入れ、氷冷した。p−トルエンスルホニルクロライド11.44g(60mmol)のTHF溶液50mLを2時間かけて滴下し、さらに0℃で2時間、室温で12時間撹拌した。反応液を0℃の5wt%塩酸200mLに注ぎ、クロロホルム300mLで抽出した。クロロホルムを留去し、減圧乾燥してそのまま次の反応に用いた。
褐色液体
粗収率96%
【0028】
(3−2)メトキシペンタエチレングリコールカルボン酸の合成
【化25】

三口フラスコ(300mL)に水素化ナトリウム2.00g(60%、50mmol)とTHF200mLを入れ、室温で撹拌した。トリエチレングリコール酸カリウム9.36g(20mmol、炭酸カリウム5.54gを含む)を発熱に注意しながら加え、100℃に加熱した。トリエチレングリコールメチルエーテルトシラート9.55g(30mmol)のTHF溶液50mLを滴下し、12時間加熱還流した。放冷後反応液にメタノールを加えて過剰の水素化ナトリウムを分解した。THFを留去し、得られた残渣を5wt%塩酸100mLに注ぎ、クロロホルム100mLで五回抽出した。クロロホルム100mLで五回抽出した。クロロホルムを留去し、得られた残渣に5wt%水酸化ナトリウム水溶液100mLを加え、室温で12時間撹拌した。発熱に注意しながら反応液に濃塩酸を加えて酸性にし、クロロホルム100mLで五回抽出した。クロロホルムを留去し、シリカゲルカラム(クロロホルム:メタノール=100:1→25)にて目的物を精製した。
淡褐色液体
収率33%
【0029】
(3−3)メトキシペンタエチレングリコールカルボン酸クロライドの合成
【化26】

ナスフラスコ(200mL)にメトキシペンタエチレングリコールカルボン酸310mg(1mmol)、オキザリルクロライド254mg(2mmol)、ベンゼン30mLを入れ、室温で撹拌した。DMF3滴を加え、室温で6時間撹拌した。ベンゼン、オキザリルクロライドを留去し、減圧乾燥してそのまま次の反応に用いた。
淡褐色液体
粗収率100%
【0030】
(3−4)メトキシペンタエチレングリコール−トリエトキシシランの合成
【化27】

三口フラスコ(100mL)に窒素雰囲気下アミノプロピルトリエトキシシラン266mg(1.2mmol)、トリエチルアミン151mg(1.5mmol)、脱水THF30mLを入れ、0℃で撹拌した。粗メトキシペンタエチレングリコールカルボン酸クロライド329mg(1mmol)の脱水THF溶液20mLを滴下し、室温で12時間撹拌した。THFを留去し、シリカゲルカラム(クロロホルム:エタノール=100:1→5)にて目的物を精製した。
無色液体
収率38%
H−NMR;(CDCl、500MHz)δ:0.63(2H、t、J=8.48Hz)、1.22(9H、t、J=7.08Hz)、1.58〜1.67(2H、m)、3.28(2H、q、J=7.08Hz)、3.37(3H、s)、3.52〜3.57(2H、m)、3.61〜3.69(18H、m)、3.81(6H、q、J=7.02Hz)、3.97(2H、s)、6.97(1H、t、J=6.18Hz)
【0031】
(実施例4)メトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物のタンパク質非特異吸着抑制機能評価
合成したM3EG、M4EG、M5EGを用いて導波モードセンサーチップのシリカ表面を修飾し、修飾表面のタンパク質非特異吸着抑制効果を、コントロール血清を用いて評価した。チップの表面修飾は、
(1)アセトン中で10分間超音波洗浄
(2)エタノール中で5分間超音波洗浄
(3)1時間減圧乾燥
(4)合成した表面修飾材料の1mMトルエン溶液に浸積
(5)アセトン中で1分間超音波洗浄後、エタノール洗浄
という手順で行った。チップ表面修飾の浸積条件は、M3EGでは室温で浸積48時間、M4EGでは50℃で浸積15時間、M5EGでは50℃で24時間である。
導波モードセンサーにおける反射率ピークの波長シフト測定は、まずPBS中でピーク波長を測定し、コントロール血清にチップを5分間浸積した後等量のPBS溶液で三回洗浄し、再びピーク波長の測定を行い、その波長シフト値を求めた。
図1に、それぞれの化合物で表面修飾した場合の反射率ピーク波長シフト値を示した。比較対象として、表面修飾していない場合の波長シフト値も図に示した。表面修飾していない場合は、コントロール血清に含まれるタンパク質等の非特異吸着によって大きなピーク波長シフト値が観測された。その一方で、表面修飾した場合はいずれも非特異吸着が効果的に抑制され、特にM3EG、M4EGにおいてはほぼ完全に非特異吸着が抑制されるという結果が得られた(図1)。

以上の結果より、本発明で合成された化合物、M3EG、M4EG、M5EGは、いずれもタンパク質の非特異吸着を抑制するシリカ表面修飾材料として有用であることが明らかになった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式(1)で表される、メトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物;
【化1】

(式中、X〜Xはそれぞれ独立してハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。ただし、X〜Xのうちの少なくとも1つはハロゲン、又は炭素数1〜3のアルコキシ基である。aは1〜10の整数である。
Rは、−(CH−(OCHCH−を表す。mは2〜10の整数であり、nは0〜5の整数である。)
【請求項2】
請求項1に記載のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物(化学式1)の製造方法であって、
下記(化学式2)で表される
【化2】

(式中、aは(化学式1)の定義と同じであり、Yはカルボン酸活性基を表す。)
と、下記(化学式3)で表される
【化3】

(式中、X〜X、Rは、(化学式1)の定義と同じである。)
とを反応させることを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1に記載のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物からなる薄膜であって、装置又はその基材表面の少なくとも1部を修飾している薄膜。
【請求項4】
請求項1に記載のメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物により、少なくとも1つの表面が修飾されている装置又はその基材。
【請求項5】
前記装置が導波モードセンサーであり、その基材が当該装置に用いるバイオセンシング素子である、請求項4に記載の装置又はその基材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−232904(P2012−232904A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100313(P2011−100313)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】