説明

メラニンの製造方法および該製造方法により製造されたメラニン

【課題】 機能性フィルムへの染色性に優れたメラニンおよびその製造方法、詳しくは、機能性フィルムへの染色性に優れ、かつ再現性および保存安定性に優れたメラニンおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のメラニンの製造方法は、管理条件下でメラニンを製造するメラニンの製造方法であって、アルカリ水溶液中においてメラニン前駆体と酸化剤とのモル比を一定に維持しながら前記メラニン前駆体を連続酸化する酸化反応工程と、該酸化工程後の反応液を酸性にすることによりメラニンを析出させる析出工程とを少なくとも含み構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニンおよびその製造方法に関し、詳しくは、機能性フィルムへの染色性に優れ、かつ再現性および保存安定性に優れたメラニンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メラニンは広く動植物界に存在し、紫外線を吸収することにより、目や皮膚の酸化を防止することが知られている。そこで、このメラニンの性質を利用して、紫外線から目を保護することができる、メラニンを含有する機能性フィルムの開発が期待されている。
【0003】
従来から、メラニンは、カテコール等のメラニン前駆体を水溶液中で酸化することで得られることが知られている。(下記特許文献1,2)。また、生成するメラニンは、非晶質で不均質性の高い三次元ポリマーとなり、その構造を特定できないこと、およびこの生成物の不均質さは、メラニン前駆体および反応中間体の活性点の数によるとされている(下記非特許文献1)。
【特許文献1】特表平8−500371号公報
【特許文献2】特表2002−533516号公報
【非特許文献1】エス.モベーリ(S.Mobelli)他、「第12回国際顔料細胞会議」、1983年69−77頁。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献において得られるメラニンは再現性のない生成物である。このため、これを用いてメラニンを含有する機能性フィルムを製造しても再現性が得られず、染色性に劣るものであった。さらにメラニンは保存中にも変質するため、再現性をいっそう悪化させる原因となっていた。
【0005】
したがって、機能性フィルムへの染色性に優れた、均質なメラニンを再現性よく製造することが課題となっていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、機能性フィルムへの染色性に優れたメラニンおよびその製造方法、詳しくは、紫外線から目を保護することができるメラニンであって、2色性色素を含有するポリビニルアルコール系樹脂から形成される偏光フィルムへの染色性にも優れ、かつ再現性および保存安定性に優れたメラニンおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
メラニンが不均質である原因には、メラニン前駆体およびその中間体の活性点の数が多いことが考えられるが、反応条件の不均質さも大きな要因である。従って、本発明者らは、上記課題を解決するために、メラニンの反応条件等について鋭意研究を進めたところ、メラニンの不均質さを実質的に無くすためには反応条件をできる限り均質にすることが必要であり、これにより実質的に均質なメラニンを得る反応条件を見出した。詳しくは、管理条件下でメラニン前駆体を酸化剤により酸化する際に、メラニン前駆体と酸化剤とのモル比を一定に維持することによりメラニンの変動を補正できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明のメラニンの製造方法は、
管理条件下でメラニンを製造するメラニンの製造方法であって、アルカリ水溶液中においてメラニン前駆体と酸化剤とのモル比を一定に維持しながら前記メラニン前駆体を連続酸化する酸化反応工程と、該酸化工程後の反応液を酸性にすることによりメラニンを析出させる析出工程とを少なくとも含むことを特徴とする。
【0009】
前記メラニン前駆体は、ユーメラニン前駆体、ファオメラニン前駆体およびアロメラニン前駆体の中から選択される少なくともいずれか1種であることが好ましく、前記酸化剤は、酸素類、過酸化物、並びにペルオキソ酸、およびペルオキソ酸塩の中から選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。
【0010】
また、前記酸化反応におけるメラニン前駆体と酸化剤とのモル比は1:0.1〜1:10であることが好ましく、前記酸化反応における酸化剤の残存量が供給酸化剤量の1%以下になるまで反応を行うことが好ましい。また、前記酸化反応のpHは7〜13であることが好ましく、前記酸化反応の反応温度が10〜60℃であることが好ましい。
【0011】
さらに、前記析出工程において、反応液はpH0.5〜4の酸性としてメラニンを析出させることが好ましい。また、前記析出工程において析出したメラニンを反応液から分離後、無機塩を含有する中性水溶液で洗浄する精製工程をさらに含むことが好ましく、前記中性水溶液に含まれる無機塩濃度が1〜20重量%であることが好ましく、前記中性水溶液による洗浄を、洗浄後の該水溶液がpH5以上になるまで行うことが好ましく、前記精製工程により得られたメラニンを、80℃以下で乾燥する工程をさらに含むことが好ましい。
【0012】
本発明のメラニンは、上述のメラニンの製造方法により製造されたメラニンである。本発明のメラニンの保存方法は、該メラニンを遮光および密閉下に保存することを特徴とする。また、本発明は本発明のメラニンを含む機能性フィルムを含み、当該フィルムはフィルムの厚みが10〜100ミクロンであり、該フィルム中の前記メラニン含有量が0.1〜1.5wt%である機能性フィルムを含み、および該機能性フィルムを含む光学製品を含む。前記光学製品は、偏光レンズ、偏光板、サングラス、ゴーグル、自動車のガラス、窓ガラス、サンバイザーからなる群より選択される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、メラニンの不均質さが改善され、機能性フィルムへの染色性に優れ、再現性および保存安定性に優れた、均質なメラニンを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本発明は、均質なメラニンの製造に適したメラニンの製造方法であって、管理条件下でメラニンを製造し、アルカリ水溶液中においてメラニン前駆体と酸化剤とのモル比を一定に維持しながら前記メラニン前駆体を連続酸化する酸化反応工程と、該酸化工程後の反応液を酸性にすることによりメラニンを析出させる析出工程とを少なくとも含むことを特徴とする。本発明にかかるメラニンは、メラニン前駆体と酸化剤とのモル比を一定に維持することにより、メラニンの不均質さを実質的に無くし、機能性フィルム、好ましくは2色性色素を含有するポリビニルアルコール系樹脂から形成される偏光フィルムに対し、染色性に優れ、かつ再現性および保存安定性に優れている。
【0015】
ここで管理条件下とは、本発明のメラニンを得るための管理された製造条件下であり、メラニン前駆体と酸化剤とのモル比、反応時のpH、温度、反応時間、析出条件、洗浄条件、乾燥条件等の管理された製造条件下のことをいう。
【0016】
前記メラニンの製造方法において、メラニン前駆体と酸化剤とのモル比を一定に維持することにより、多数あるメラニン前駆体およびその中間体の活性点に対して絶えず同じモル数の酸化剤が作用することになり、反応の均質性を得ることができると考えられ、これによりメラニンの不均質さを実質的に無くすことができる。
【0017】
本発明に用いるメラニン前駆体は特に限定されず、様々なメラニン前駆体を用いることができ、なかでもR.A.Nicolausの定義する3つのメラニンの群、すなわちユーメラニン、ファオメラニンおよびアロメラニンの前駆体の中から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい(R.A.Nicolaus、「Melanins」、1968、Hermann出版を参照)。
【0018】
前記メラニン前駆体としてより具体的には、チロシン、システイン、カテコール、1,8−ジヒドロキシナフタレン、ドーパミン、ドーパ、5,6−ジヒドロキシインドール、5,6−ジヒドロキシインドール−2−カルボン酸、ロイコドパフロム、トリプトアミン、セロトニン、エピネフリン、ノルエピネフリン、アドレノクロム等が挙げられる。
【0019】
これらの前駆体はそれぞれの特性に応じて、均一に溶解しえる状態で反応が行われることが好ましい。
【0020】
本発明に用いる酸化剤は特に限定されず、酸化反応以外の副反応および配位反応がない酸化剤であれば様々な酸化剤を用いることができ、なかでも酸素類、過酸化物およびペルオキソ酸、およびペルオキソ酸塩の中から選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。より具体的には、空気、酸素、オゾン、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化ベンゾイル、過酢酸、過安息香酸、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0021】
本発明は、できる限り反応条件の均質さが求められるが、そのためには、反応の主たる部分を、メラニン前駆体と酸化剤とのモル比を一定に維持しながら行う連続反応を行うことを特徴とする。従って、本発明は上記モル比を一定に維持しながら、メラニン前駆体を連続酸化する。このことにより、多数あるメラニン前駆体およびその中間体の活性点に対して、絶えず同じモル数の酸化剤が作用することになり、反応の均質性を得ることができる。
【0022】
連続反応における、メラニン前駆体と酸化剤との反応モル比は、1:0.1〜1:10とするのが好ましい。さらに好ましくは、反応速度制御の観点から1:0.5〜1:5であり、反応の均質性を管理するためにはより好ましくは、1:0.5〜1:2である。メラニン前駆体と酸化剤との反応モル比が1:0.1未満では反応が遅くなり、モル比が1:10を超えると反応器の冷却能力の点から温度制御が困難となる。
【0023】
均質な管理条件下で反応を完結するには、オーバーフローする反応液中の酸化剤の残存量を、供給酸化剤量の1%以下になるまで反応を行うことが好ましい。そのために、反応温度、反応pH、滞留時間等の反応条件が定められる。必要に応じて、反応をカスケード方式で行うことで、最終段の反応液中の酸化剤の残存量を、供給酸化剤量の1%以下とすることができる。メラニン前駆体と酸化剤との反応モル比を管理することに加えて、反応温度および反応pHを管理することで、反応の完結に至るまで、実質的に均質な反応条件とすることができる。
【0024】
ここでカスケード方式とは連続多段的に反応を行う方式をいう。例えば、まず第1の反応槽にメラニン前駆体および酸化剤が定められたモル比で連続して供給される。ここで反応した反応生成物はオーバーフローにより連続して排出され、第2の反応槽に供給される。第2の反応槽では、残余のメラニン前駆体および酸化剤がさらに反応し、オーバーフローにより連続して排出される。第2の反応槽からオーバーフローする反応液中の残余の酸化剤が第1の反応槽に供給される酸化剤の1%を超える場合の反応液は第3の反応槽に供給され、さらに反応が継続される。これ以降も、排出される反応液中の残余の酸化剤が初期の1%以下となるまで反応が繰り返される。
【0025】
前記酸化反応の反応pHは7〜13が好ましい。さらに好ましくは、pH7.5〜11である。反応pHが7未満では、生成するメラニンが析出する恐れがあり、反応の均質性が損なわれ、pH13を超えると反応が早くなり、反応の均質性の管理が困難になる。pHの管理幅は±0.5が好ましい。さらに好ましくは±0.2である。
【0026】
前記酸化反応の反応温度は10〜60℃が好ましい。さらに好ましくは、20〜40℃である。反応温度が10℃未満では、反応速度が遅くなり、60℃を超えると反応が早くなり、反応の均質性の管理が困難になる。温度の管理幅は±0.5℃が好ましい。さらに好ましくは±0.2℃である。
【0027】
実質的に反応が完結している反応液は、酸性とすることでメラニンを析出させることができる。
【0028】
前記析出工程において、メラニンを析出させるpHは0.5〜4が好ましい。さらに好ましくは、1〜3である。pHが0.5未満では好ましくない不純物の析出が多くなり、また、反応器材質の選定が難しくなる。一方、pH4を超えるとメラニンの析出が不十分となる。
【0029】
前記析出工程で用いる酸としては様々な酸を用いることができるが、なかでも塩酸、硫酸、燐酸、硝酸の中から選択される少なくともいずれか1つが好ましい。
【0030】
前記析出工程において析出したメラニンは、例えば減圧ろ過、加圧ろ過、遠心分離等一般的な分離手段により、不純物を含む反応液と分離できる。
【0031】
分離されたメラニンは、無機塩を含有する中性水溶液により洗浄することにより、精製できる。洗浄に用いる前記無機塩の濃度は中性水溶液中、1〜20重量%が好ましい。さらに好ましくは3〜12重量%である。無機塩の濃度が1重量%よりも少ないとメラニンの一部も溶解する恐れがあり、20重量%より多いと洗浄効果が弱くなる傾向にある。
【0032】
洗浄に用いる前記無機塩は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩が好ましい。より具体的には、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、燐酸カルシウム、燐酸マグネシウムからなる群より選択される少なくともいずれか1つであることが好ましい。
【0033】
前記無機塩を含有する中性水溶液による洗浄は、洗浄後の洗浄液のpHが5以上となるまで実施することが好ましい。さらに好ましくは、pH6以上となるまで実施する。このことにより、低分子量不純物等と分離でき、実質的に均質で、機能性フィルム、特に2色性色素を含有するポリビニルアルコール系樹脂から形成される偏光フィルムに対し、染色性に優れかつ再現性および保存安定性に優れたメラニンを製造することができる。
【0034】
得られたメラニンは、乾燥中の変質を避けるため、80℃以下で乾燥することができ、好ましくは、70℃以下で乾燥する。また、減圧下に乾燥すれば、乾燥時間が低減でき熱履歴が減少するためさらに好ましい。
【0035】
乾燥後のメラニンは、一般的には使用条件である水溶液として保存される。しかしながら、このように水溶液で保存した場合には数ヶ月の保存で水溶液の粘度が上昇したり、不溶物が析出したりする変質が見られる。このことは、反応後のメラニンの活性点が全て失活しておらず、一部の活性点が残存するために、日光や水溶液中の溶存酸素およびバクテリア等の影響を受けて変質してしまうためと考えられる。従って、メラニンを長期に保存するためには、遮光および密閉下に固体として保存するのが好ましい。
【0036】
本発明のメラニンは機能性フィルムに含有させることができる。ここで、機能性フィルムとは、特に光特性に関する機能を有するフィルムのことをいい、この光特性としては、偏光特性、調光特性、遮光特性などの様々な光特性を挙げることができる。機能性フィルムは例えば、偏光フィルムである。
【0037】
機能性フィルムの厚さは特に限定されないが、例えば10〜100ミクロンである。
【0038】
また、前記機能性フィルム中の本発明のメラニン含有量は特に限定されないが、例えば0.1〜1.5wt%である。
【0039】
本発明に用いられるフィルムとは、厚さの大小にかかわらず、フィルム、シートおよび基板などの形状を有する材のことをいう。前記フィルムとしては、透明で親水性基を有する樹脂ならば、特に限定されず様々な樹脂を用いることができる。具体的には、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル酸系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール系樹脂が、染色性などの点から好ましい。前記フィルムとしては、未処理のポリビニルアルコール系樹脂などのフィルムを用いることもでき、さらに2色性色素を含有し、さらに金属化合物およびホウ酸により処理されているポリビニルアルコール系樹脂などのフィルムを用いることもできる。これらの製造方法は、特許第2663440号公報に例示される。
【0040】
さらに、本発明のメラニンは機能性フィルムを含む光学製品に用いることができる。光学製品としては、偏光レンズ、偏光板、サングラス、ゴーグル、自動車のガラス、窓ガラス、サンバイザーなどが挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら制限を受けるものではない。
【0042】
以下に評価方法について説明する。
(A)外観:目視観察により評価した。
(B)透過率:分光光度計V−550(日本分光株式会社製)により測定した。
(C)偏光度(P:%)以下の式により求めた。
【0043】
【数1】

【0044】
上記数式において、平行位透過率(H)は、偏光板2枚を、その分子配向軸が平行になるように重ね合わせたときの光透過率であり、直交位透過率(H90)は、偏光板2枚を、その分子配向軸が直交になるように重ね合わせたときの光透過率である。
【0045】
<実施例1>
攪拌機およびオーバーフロー口を有する1Lの反応器に、200g/Lのカテコール、および500g/Lの過硫酸ナトリウムを、おのおの2.7mL/minで供給した。100g/Lの水酸化ナトリウムを用いて、pHを9.5±0.2に、反応温度を35℃±0.1℃に管理した。オーバーフローした反応液を、塩酸を用いてpH1とした。析出するメラニンをろ過し、洗浄後のpHが6となるまで50g/Lの硫酸ナトリウムを含む水溶液で洗浄した。洗浄したメラニンは70℃で1日乾燥した。得られたメラニンを、アンモニア水でpH8.3とした水溶液に、1.2g/Lとなるように溶解させた。偏光フィルムを、たるみが生じないよう緊張させた状態で、30℃に調整した該メラニン水溶液に3分間浸漬させた。緊張状態を保ったまま、偏光フィルムを取り出し乾燥した。
【0046】
前記偏光フィルムは、特許第2663440号記載の製造方法に従って製造した。具体的には、ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:クラレビニロン#750)をクロランチンファストレッド(C.I.28160)0.25g/L,クリソフェニン(C.I.24895)0.18g/L,ソロフェニルブルー4GL(C.I.34200)1.0g/L及び硫酸ナトリウム10g/Lを含む水溶液中で35℃で3分間染色した後、溶液中で4倍に延伸した。 ついでこの染色フィルムを酢酸ニッケル2.5g/Lおよびホウ酸6.6g/Lを含む水溶液中35℃で3分浸漬した。ついでそのフィルムを緊張状態が保持された状態で室温で3分乾燥を行った後、70℃で3分間加熱処理し、偏光フィルムを得た。ただし、ポリカーボネートとのラミネートは行わずに本実験に用いた。
【0047】
得られた偏光フィルムの外観は良好で、偏光度は96.3%、単板での可視領域、UVA領域およびUVB領域の透過率は、それぞれ20.3%、9.7%および7.4%であった。
【0048】
<実施例2および3>
実施例1と同じ条件で、本発明にかかるメラニンさらに2回生成し、当該メラニンを用いて偏光フィルムを作成した(実施例2および3)。先の結果と合わせて表1に結果を示すが、良好な再現性であった。
【0049】
【表1】

【0050】
<実施例4>
実施例1の反応において、200g/Lのカテコールに変えて139g/Lのドーパミン(4−(2−アミノエチル)−ピロカテコール)を用いた以外は、実施例1と同様に反応し、得られたメラニンを用いて実施例1と同様に偏光フィルムを処理した。
【0051】
<実施例5>
実施例1の反応において、200g/Lのカテコールに変えて179g/Lのドーパ(3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−α−アラニン)を用いた以外は、実施例1と同様に反応し、得られたメラニンを用いて実施例1と同様に偏光フィルムを処理した。
【0052】
【表2】

【0053】
<比較例1>
攪拌機付の1L反応機に、200g/Lのカテコール500mLを仕込んだ。100g/Lの水酸化ナトリウムでpHを10.0に調整した後、500g/Lの過硫酸ナトリウム500mLを2.7mL/minで供給した。供給終了後の反応液は、pH4となっており、メラニンがすでに析出していた。これをろ過、乾燥して黒色のメラニンを得た。得られたメラニンを用いて、実施例1と同様に偏光フィルムを処理した。得られた偏光フィルムの外観検査では、若干の筋状の色むらが見られた。
偏光度は、94.1%、単板での可視領域、UVA領域およびUVB領域の透過率は、それぞれ23.5%、8.7%および6.8%であった。
【0054】
<比較例2および3>
比較例1と同じ条件で、当該比較例にかかるメラニンさらに2回生成し、当該メラニンを用いて偏光フィルムを作成した(比較例2および3)。先の結果と合わせて表3に結果を示すが、再現性が得られなかった。
【0055】
【表3】

【0056】
<比較例4>
比較例1の反応において、200g/Lのカテコール500mLに変えて139g/Lのドーパミン(4−(2−アミノエチル)−ピロカテコール)500mLを用いた以外は、比較例1と同様に反応し、得られたメラニンを用いて実施例1と同様に偏光フィルムを処理した。
【0057】
<比較例5>
比較例1の反応において、200g/Lのカテコール500mLに変えて179g/Lのドーパ(3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−α−アラニン)500mLを用いた以外は、比較例1と同様に反応し、得られたメラニンを用いて実施例1と同様に偏光フィルムを処理した。
【0058】
【表4】

【0059】
<実施例6および7>
実施例1と同様にして得られたメラニンを70℃で減圧乾燥後、遮光および密閉下に保存した。3ヶ月保存後および6ヶ月保存後の各々のメラニンをアンモニア水でpH8.3とした水溶液に1.2g/Lとなるように溶解させた。得られたメラニン水溶液の外観は差がなく、これを用いて実施例1と同様に偏光フィルムを処理した結果にも差がなかった。
【表5】

【0060】
<比較例6および7>
比較例1と同様にして得られたメラニンを乾燥後、アンモニア水でpH8.3とした水溶液に1.2g/Lとなるように溶解させた。得られたメラニン水溶液を3ヶ月及び6ヶ月保存した。3ヶ月保存後の水溶液の(気−液)界面には黒色の析出が見られ、6ヶ月保存後の水溶液の容器壁には多量の黒色析出物が見られた。これを用いて実施例1と同様に偏光フィルムを処理した結果を以下に示した。
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明にかかるメラニンは、メラニンの不均質さが改善され、再現性および保存安定性に優れているので、機能性フィルムへの染色性に優れたメラニンを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管理条件下でメラニンを製造するメラニンの製造方法であって、アルカリ水溶液中においてメラニン前駆体と酸化剤とのモル比を一定に維持しながら前記メラニン前駆体を連続酸化する酸化反応工程と、該酸化反応工程後の反応液を酸性にすることによりメラニンを析出させる析出工程とを少なくとも含むメラニンの製造方法。
【請求項2】
前記メラニン前駆体が、ユーメラニン前駆体、ファオメラニン前駆体およびアロメラニン前駆体の中から選択される少なくともいずれか1種であることを特徴とする、請求項1に記載のメラニンの製造方法。
【請求項3】
前記酸化剤が、酸素類、過酸化物、並びにペルオキソ酸およびペルオキソ酸塩の中から選択される少なくともいずれか1種であることを特徴とする、請求項1または2に記載のメラニンの製造方法。
【請求項4】
前記酸化反応におけるメラニン前駆体と酸化剤とのモル比が1:0.1〜1:10であることを特徴する、請求項1から3のいずれかに記載のメラニンの製造方法。
【請求項5】
前記酸化反応における酸化剤の残存量が供給酸化剤量の1%以下になるまで反応を行うことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のメラニンの製造方法。
【請求項6】
前記酸化反応のpHが7〜13であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載のメラニンの製造方法。
【請求項7】
前記酸化反応の反応温度が10〜60℃であることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載のメラニンの製造方法。
【請求項8】
前記析出工程において、反応液をpH0.5〜4の酸性としてメラニンを析出させることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のメラニンの製造方法。
【請求項9】
前記析出工程において析出したメラニンを反応液から分離後、無機塩を含有する中性水溶液により洗浄する精製工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載のメラニンの製造方法。
【請求項10】
前記中性水溶液に含まれる無機塩濃度が1〜20重量%であることを特徴とする、請求項9に記載のメラニンの製造方法。
【請求項11】
前記精製工程において、前記中性水溶液による洗浄を、洗浄後の該水溶液がpH5以上になるまで行うことを特徴とする、請求項9に記載のメラニンの製造方法。
【請求項12】
前記精製工程により得られたメラニンを、80℃以下で乾燥する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項9〜11のいずれかに記載のメラニンの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のメラニンの製造方法により製造されたことを特徴とするメラニン。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載のメラニンの製造方法により製造されたメラニンを、遮光および密閉下に保存することを特徴とするメラニンの保存方法。
【請求項15】
請求項13に記載のメラニンを含むことを特徴とする機能性フィルム。
【請求項16】
フィルムの厚みが10〜100ミクロンであり、該フィルム中の前記メラニン含有量が0.1〜1.5wt%であることを特徴とする、請求項15に記載の機能性フィルム。
【請求項17】
請求項15または16に記載の機能性フィルムを含むことを特徴とする光学製品。
【請求項18】
偏光レンズ、偏光板、サングラス、ゴーグル、自動車のガラス、窓ガラス、サンバイザーからなる群より選択されるいずれかである請求項17に記載の光学製品。

【公開番号】特開2007−23150(P2007−23150A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207002(P2005−207002)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(597003516)MGCフィルシート株式会社 (33)
【Fターム(参考)】