説明

メラミン樹脂製食器及びその圧縮成形方法

【課題】 メラミン樹脂製食器を、グレーズやコーイングによる表層をもって、本体表面を金粉や銀粉の分散による蒔絵風の地模様により装飾することで、漆器のように美しいものとなす。
【解決手段】 圧縮成形によるメラミン樹脂の食器本体と、本体表面に二次成形されたコーテング又はグレーズの表層と、その表層に含まれて二次成形時の加熱圧縮による表層材の溶融流動により本体表面に分散し、蒔絵風の地模様を形成した多数の金粉又は銀粉とからなる。上記表層はアルミ箔による大きさが0.1〜0.5mmの金粉又は銀粉を1〜3質量%の割合で含み、かつ厚さが0.03〜0.18mmからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多数の金粉又は銀粉による蒔絵風の地模様の装飾により、漆器と同様な印象を与えるメラミン樹脂製食器と、その圧縮成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この発明が対象とするメラミン樹脂製の食器(例えば皿、椀、鉢)は、上金型と下金型との間にメラミン樹脂を填入し、加熱された金型により圧縮して成形している。また表面にグレーズやコーティングを二次成形により施して、表面に光沢を持たせたり、表面の着色又は汚染防止などをしている。
【0003】
また絵付けを行う場合には、一般にフォイルと称されている樹脂を含浸させた絵付け用紙を使用しており、そのフォイルに絵柄や模様などを印刷して、フォイルをグレーズ又はコーティング処理を行う前に、型開した下金型の内側面や圧縮成形した食器本体の表面に置き、二次成形によりフォイルの印刷を本体表面に転写している。
【0004】
この転写による絵付は、本体表面の所要個所に絵付けを部分的に行うときには技術的な困難さはないが、表面全体に及ぶような絵付けでは、フォイルの配置や印刷の転写などに特別な技術を要するのであまり行われていない。また転写による絵付けでは、本体表面に金砂や銀砂が分散した蒔絵風の地模様を施すことができず、そのような地模様を有する成形品は、アルミ粉等の金属粉を混練した樹脂を、金型に射出充填して成形品となすことができる射出成形であれば可能とされている。
【特許文献1】特開平7−329088号公報
【特許文献2】特開昭63−28617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、射出成形でも樹脂に混入した金属粉の分散に偏りが生じ易いことと、樹脂内に取り込まれて表面に出ない金属粉の量が多いことなどから、不透明な食器本体の表面にデザイン通りの地模様を表出させることは難しい。また食器本体の表面に金属粉を混入した樹脂を射出成形して表層を形成し、それにより本体表面の模様付けをすることも考えられるが、通常の射出成形が可能とする成形品の最低肉厚は0.2mmが限度であるので、それよりも薄肉のグレーズやコーイングによる表層を射出成形によりメラミン樹脂の食器本体に形成することは極めて困難なことである。
【0006】
この発明は、上記メラミン樹脂製の食器における模様付けの課題を解決するために考えられたものであって、その目的は、グレーズやコーイングによる表層をもって、本体表面を金粉や銀粉の分散による蒔絵風の地模様により装飾したメラミン樹脂製食器と、その食器の圧縮成形方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的によるこの発明のメラミン樹脂製食器は、圧縮成形によるメラミン樹脂の食器本体と、本体表面に二次成形されたコーテング又はグレーズの表層と、その表層に含まれて二次成形時の加熱圧縮による表層材の溶融流動により本体表面に分散し、蒔絵のような地模様を形成した多数の金粉又は銀粉とからなるというものであり、上記表層はアルミ箔による大きさが0.1〜0.5mmの金粉又は銀粉を1〜3質量%の割合で含み、かつ厚さが0.03〜0.18mmからなる、というものである。
【0008】
この発明の圧縮成形方法は、食器本体の内側を成形する上金型と外側を成形する下金型とによりメラミン樹脂を加熱圧縮して、内表面を上向きに食器本体を一次成形する工程と、上金型の型開により露出した食器本体の内表面に、アルミ箔による大きさが0.1〜0.5mmの金粉又は銀粉を1〜3質量%混入したコーテング又はグレーズの表層材を載せ入れる工程と、上金型の型閉により表層材を加熱圧縮して溶融流動し、食器本体の内表面に表層を形成するとともに、その溶融流動により金粉又は銀粉を内表面に分散させて蒔絵のような地模様を形成する工程とからなる、というものである。
【0009】
またこの発明の圧縮成形方法は、食器本体の外側を成形する上金型と内側を成形する下金型とによりメラミン樹脂を加熱圧縮して、糸底を有する外表面を上向きに食器本体を一次成形する工程と、上金型の型開により露出した食器本体の糸底近傍の外表面の複数個所に、アルミ箔による大きさが0.1〜0.5mmの金粉又は銀粉を1〜3質量%混入したコーテング又はグレーズの表層材を載せ入れる工程と、上金型の型閉により表層材を加熱圧縮して溶融流動し、食器本体の外表面に表層を形成するとともに、その溶融流動により金粉又は銀粉を外表面に分散させて蒔絵のような地模様を形成する工程とからなる、というものである。
【発明の効果】
【0010】
上記構成のメラミン樹脂製食器では、内表面又は外表面が表層に含まれて分散した金粉又は銀粉による地模様により装飾されているので、その地模様によって蒔絵を施した漆器と同様な印象を与えるようになる。またコーテング材又はグレーズ材に金粉又は銀粉を混入し、それを表層の圧縮成形時に食器本体の表面に分散させて地模様にするだけでよいので、これまでのように圧縮成形により食器の製造が行えるので、製造コストがアップするようなこともない。また黒色の食器本体の表層を透明なグレーズにより形成した場合には、光沢のある漆黒調の本体表面と、その面内に生じた細かな金色の輝きとにより一段と美しい装飾が施された食器となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、メラミン樹脂を圧縮成形して製造した深皿1を示すもので、11は一次成形したメラミン樹の皿本体、12は二次成形により皿本体1の内表面13に施したグレーズ又はコーティングの表層、14は多数の金粉又は銀粉(以下金粉という)で表層12に含まれており、二次成形時の加熱圧縮による表層材の溶融流動により、内表面13の外縁まで全体に分散して蒔絵風の地模様を形成している。なお、図示の深皿1は外縁まで地模様を施しているが、地模様は平らな内底表面にのみ施される場合もある。
【0012】
図2は、メラミン樹脂を圧縮成形して製造した汁椀2である。この汁椀2ではメラミン樹脂を圧縮成形して一次成形した椀本体21の外表面23に、グレーズ又はコーティングの表層22が施されており、上記深皿1と同様に表層22に含まれた多数の金粉24が、二次成形時の加熱圧縮による表層材の溶融流動により、外表面23の全体に分散して蒔絵風の地模様を形成している。
【0013】
上記金粉14,24は、金色に着色されたアルミ箔(場合によっては金箔)を正方形に裁断した1辺が0.5〜0.1cmの微細な箔片からなり、メラミン樹脂によるグレーズ又はコーティングの表層材に1〜3質量%の割合で混入されている。また表層13は厚さが0.03〜0.18mmからなる。この厚さであれば金粉14,24の分散に偏りがなく、その殆どが表出するので地模様の仕上がり状態が良好となる。厚さが0.2mmを超えると食器の形状によっては、表層にひび割れが発生することがある。成形後のひび割れを考慮しないでよければ0.2mmを超える厚さでもよい。また金粉14,24は大きさが異なるものを混ぜて使用することができ、この場合には、図は省略するが、大小様々な金粉の分散による地模様を形成する。
【0014】
上記深皿1及び汁椀2の何れも、その内表面13又は外表面23が、表層12,22に分散した金粉14,24による蒔絵風の地模様により装飾され、それによりメラミン樹脂製の食器であるのにもかかわらず、漆器と同様な印象を与えるようになる。特に本体基色を黒色として透明なグレーズによる表層を施した場合には、光沢のある漆黒調の本体表面と、その面内に生じた細かな金色の輝きとにより美しく気品のある食器となる。
【0015】
次に、上記深皿1の圧縮成形法について、図3により工程順に説明する。
図3(A) [皿本体の材料填入]
秤量後に予備乾燥したメラミン樹脂の成形材料11aを、深皿1の内側を成形する上金型3と、外側を成形する下金型4との間に填入する。上金型3と下金型4は160°〜180℃に加熱してある。
【0016】
図3(B) [皿本体の一次成形]
成形材料11aを填入したのち、上金型3を降下して型閉し、成形材料11aを100〜120Kgf/cm2 の圧力により加熱圧縮して皿本体11を成形する。加熱圧縮を25秒維持して皿本体11の加熱硬化を行う。
【0017】
図3(C)[表層材の載せ入れ]
成形後に上金型3を上昇して型開する。この型開により皿本体11は内表面13を上向きにして露出するので、その内表面13の中央に内層材12aを粉状で盛り入れる。内層材13は透明なグレーズに金粉(0.5〜0.1mm)を1〜3質量%混入したものからなり、これを通常のタンブラー機(例えばRPM/28)により10〜15分間回転して均等に混ぜたたものからなる。
【0018】
図3(D)[表層の二次成形]
表層材12aを盛り入れたのち、上金型3を降下して型閉して、表層材12aを150〜180Kgf/cm2 の圧力により加熱圧縮する。表層材12aは加熱溶融して皿本体11の内表面13に沿って流動し、最終時には周縁まで達して金粉を含む表層12となる。この表層12の厚さは表層材12aの盛り入れ量により異なるが、厚さとしては0.03〜0.18mmの範囲が好ましい。
【0019】
この厚さ範囲で金粉の混入量が1〜3質量%であれば、表層材12aの溶融流動により図示しない金粉が、全体的に見て溶融状態の表層材と共に加熱状態の内表面13を偏りなく分散して、金粉が内表面全体に及ぶ絵蒔のような地模様を形成し、図1に示すように、皿本体11の内表面13を装飾する。この二次成形は表層12が加熱硬化するまで50秒維持して終了し、その後に上金型3の型開を行って、下金型4から成形された深皿1の取出しとなる。
【0020】
図4は、汁椀2の外表面23に表層22による金粉の地模様を形成する場合の工程示すものである。
【0021】
図4(A)[表層材の盛り入れ]
椀本体21の外側を成形する上金型3′と内側を成形する下金型4′とによりメラミン樹脂を加熱圧縮して、糸底を有する外表面23を上向きに椀本体21を成形したのち、上金型3′を上昇して型開する。この型開により椀本体21は外表面23を上向きにして露出するので、図5に示すように、上記金粉を1〜3質量%混入したコーテングの表層材22aを、糸底内の中央と、外表面23の糸底近傍の三個所に等間隔に粉状で盛り入れる。なお、糸底内の盛り入れは省略する場合もある。
【0022】
図4(B)[表層の二次成形]
表層材22aを盛り入れたのち、上金型3を降下して型閉して、表層材22aを150〜180Kgf/cm2 の圧力により加熱圧縮する。表層材22aは加熱溶融して糸底内の底面と、椀本体21の外表面23に沿って流動し、最終時には椀本体21の縁辺に達して金粉を含む表層22となる。この表層22の厚さは表層材22aの盛り入れ量により異なるが、厚さとしては上記深皿の場合と同様に0.03〜0.18mmの範囲が好ましい。
【0023】
この厚さ範囲で金粉の混入量が1〜3質量%であれば、弯曲した外表面23でも表層材22aの溶融流動により図示しない金粉が、全体的に見て溶融状態の表層材と共に加熱状態の外表面23を偏りなく分散して、金粉が外表面全体に及ぶ絵蒔のような地模様を形成し、図2に示すように、椀本体21の外表面23を装飾する。この二次成形は表層22が加熱硬化するまで50秒維持して終了し、その後に上金型3′の型開を行って、下金型4′から成形された汁椀2の取出しとなる。
【0024】
上記実施形態における表層13,23は、何れも透明なグレーズによるものであるが、メラミン樹脂の着色(例えば朱)コーティングによる表層でもよく、この場合も成形手段は上記グレーズによる場合と同様で、圧縮成形により金粉又は銀粉の分散による地模様を形成することができる。また表層材12a,22aの盛り入れも、環状、十字状、放射状など任意に選択して行うことができ、その盛り入れ方に応じて形成される地模様も異なったものとなる。
【実施例】
【0025】
食器の種類 深皿(内表面積 314cm2
汁椀(外表面積 161cm2
材料樹脂 メラミン樹脂(黒色)
使用量(g) 深皿:160、 汁椀:105
表層材料
(1)グレーズ材 MM−102C50K(松下電工株式会社製)
(メラミン樹脂) 粉状 透明
(2)コーティング材 MM−979C40K(松下電工株式会社製)
(メラミン樹脂) 粒状 朱色
金粉又は銀粉
材料 アルミ箔
寸法(mm) 0.2(縦)×0.2(横)×0.012(厚さ)
配合割合(質量%) 1、 2、 3
使用量(g) 深皿:5、 汁椀:10
【0026】
食器の成形方法 圧縮成形(成形機 丸七(株)製200ton)
食器の装飾面 深皿:内表面、 汁椀:外表面
成形条件
金型温度(℃) 上型170〜180 下型160〜165
金型加圧力(Kgf/cm2 )及び時間
一次成形 100〜120(25秒)
二次成形 150〜180(50秒)
【0027】
食器の成形状態
表層の厚さ(mm) 深皿:約0.13、 汁椀:約0.18
金粉・銀粉の分散数(cm2
1質量% 90〜110粒
2質量% 140〜160粒
3質量% 280〜300粒
分散状態 全体的に偏りなく分散している。
食器の効果 黒色又は朱色の本体表面に分散した多数の金粉又は銀粉によ
る蒔絵のような地模様により、漆器と同様な格調の高い美し
食器となった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明によるメラミン樹脂製深皿の表層の一部を切除した平面図である。
【図2】同じくメラミン樹脂製汁椀の表層の一部を切除した側面図である。
【図3】この発明のメラミン樹脂製深皿の圧縮成形工程を示す説明図である。
【図4】同じくメラミン樹脂製汁皿の表層の圧縮成形工程を示す説明図である。
【図5】表層材の盛り載せ状態を示す下金型内の椀本体の平面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 深皿
2 汁椀
3,3′ 上金型
4,4′ 下金型
11 皿本体
12 表層
12a 表層材
13 内表面
14 金粉
21 椀本体
22 表層
22a 表層材
13 外表面
24 金粉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮成形によるメラミン樹脂の食器本体と、本体表面に二次成形されたコーテング又はグレーズの表層と、その表層に含まれて二次成形時の加熱圧縮による表層材の溶融流動により本体表面に分散し、蒔絵のような地模様を形成した多数の金粉又は銀粉とからなることを特徴とするメラミン樹脂製食器。
【請求項2】
上記表層はアルミ箔による大きさが0.1〜0.5mmの金粉又は銀粉を1〜3質量%の割合で含み、かつ厚さが0.03〜0.18mmからなることを特徴とする請求項1記載のメラミン樹脂製食器。
【請求項3】
食器本体の内側を成形する上金型と外側を成形する下金型とによりメラミン樹脂を加熱圧縮して、内表面を上向きに食器本体を一次成形する工程と、
上金型の型開により露出した食器本体の内表面に、アルミ箔による大きさが0.1〜0.5mmの金粉又は銀粉を1〜3質量%混入したコーテング又はグレーズの表層材を載せ入れる工程と、
上金型の型閉により表層材を加熱圧縮して溶融流動し、食器本体の内表面に表層を形成するとともに、その溶融流動により金粉又は銀粉を内表面に分散させて蒔絵のような地模様を形成する工程とからなることを特徴とするメラミン樹脂製食器の圧縮成形方法。
【請求項4】
食器本体の外側を成形する上金型と内側を成形する下金型とによりメラミン樹脂を加熱圧縮して、糸底を有する外表面を上向きに食器本体を一次成形する工程と、
上金型の型開により露出した食器本体の糸底近傍の外表面の複数個所に、アルミ箔による大きさが0.1〜0.5mmの金粉又は銀粉を1〜3質量%混入したコーテング又はグレーズの表層材を載せ入れる工程と、
上金型の型閉により表層材を加熱圧縮して溶融流動し、食器本体の外表面に表層を形成するとともに、その溶融流動により金粉又は銀粉を外表面に分散させて蒔絵のような地模様を形成する工程とからなることを特徴とするメラミン樹脂製食器の圧縮成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−142710(P2006−142710A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337689(P2004−337689)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(392020266)関東プラスチック工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】