説明

モナティンまたはその塩の製造方法

【課題】 2位の立体配置がS配置であるモナティンの2位を異性化することにより2位の立体配置がR配置であるモナティン又はその塩を製造する方法の提供。
【解決手段】 アルデヒド存在下、水と有機溶媒の混合溶媒中で、2位の立体配置がS配置であるモナティンの2位の異性化反応を行った後、2位の立体配置がR配置であるモナティンまたはその塩を晶析する工程を含むことを特徴とする、2位の立体配置がR配置であるモナティンまたはその塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は甘味料として有用なモナティンの製造方法に関し、特に2位の立体配置がR配置である光学活性モナティンを効率的に製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(3)で表される4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−アミノグルタル酸(以下「モナティン」と称することがある)の(2S,4S)体は、南アフリカ北部トランスバール(Northern Transvaal)地方に自生する植物シュレロチトン イリシホリアス(Schlerochitom ilicifolius)の根皮に含まれ、ショ糖の数百倍の甘味を有し、甘味料として有用なアミノ酸誘導体であることが知られている(特許文献1参照)。
【0003】

【0004】
モナティンは2位と4位に不斉炭素原子を有し、以下の4種の光学異性体が存在する。
【0005】

【0006】
モナティンの製造方法については、種々の報告がなされており(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、特許文献2、特許文献3等参照)、光学活性なモナティンの製造方法についてもいくつか検討された例はあるが、製造に非常に多くの工程を必要とし工業的に適した製造方法とは言えなかった。
【0007】
一方本出願人は、最近、インドール−3−ピルビン酸からモナティン前駆体を合成し、特定の光学活性アミンとジアステレオマー塩を形成させて光学分割する工程を経て、最終的に特定の光学活性モナティンを製造する方法を見出し、報告している(特許文献4参照)。例えば、(2R,4R)モナティンを例にとると、該方法は以下のスキームで表すことができる。
【0008】

【0009】
本製造方法は、従来の方法と比較し工程数が少なく、効率的に光学活性モナティンを製造でき、工業的にも適した製造方法である。しかし、晶析工程で目的外の2位光学異性体は母液側に淘汰され、例えばこれを異性化して目的とする光学活性モナティンに変換できれば効率性は更に向上することになる。
【0010】
また、本出願人は、4種のモナティンの光学異性体中では、2位の立体配置がSのモナティンよりも2位の立体配置がRであるモナティン、すなわち(2R,4R)モナティンおよび(2R,4S)モナティンが甘味強度の点ではるかに優れていることを見出し、報告している(特許文献5参照)。従って、甘味強度のより低い、(2S,4S)モナティンまたは(2S,4R)体モナティンの2位を異性化し、それぞれ(2R,4S)モナティンまたは(2R,4R)モナティンに効率的に誘導できれば、モナティンを甘味料として用いる場合に好都合である。
【0011】
アミノ酸などの光学活性体のラセミ化方法としては、強酸性、強アルカリ性条件又は高温にて処理する方法、アルデヒド存在下比較的温和な条件でラセミ化させる方法(特許文献6、特許文献7参照)などが知られているが、これらの方法では異性対比が1:1に収束するため最大収率が50%程度であり効率的なラセミ方法とは言い難い。また特定の光学活性体と組み合わせて目的の光学異性体を高収率で生成させる異性化析出法も知られているが(非特許文献4、非特許文献5参照)、その組み合わせを見出すには膨大な試行錯誤が必要となる。
【0012】
【特許文献1】特開昭64−25757号公報
【特許文献2】米国特許第5994559号明細書
【特許文献3】特開2002−60382号公報
【特許文献4】国際公開第03/059865号パンフレット
【特許文献5】国際公開第03/045914号パンフレット
【特許文献6】特開昭57−123150号公報
【特許文献7】特開昭58−167562号公報
【非特許文献1】テトラヘドロン・レターズ(Tetrahedron Letters),2001年,42巻,39号,p6793−6796
【非特許文献2】オーガニック・レターズ(Organic Letters),2000年,2巻,19号,p2967−2970
【非特許文献3】シンセティック・コミュニケーション(Synthetic Communication),1994年,24巻,22号,p3197−3211
【非特許文献4】テトラへドロン(Tetrahedron),1997年,53巻,28号,p9417−9476
【非特許文献5】テトラへドロン・アシンメトリー(Tetrahedron Asymmetry),2002年,13巻,2649−2652
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、2位の立体配置がS配置であるモナティンの2位を異性化することにより2位の立体配置がR配置であるモナティン又はその塩を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記解決課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、アルデヒド存在下、水と有機溶媒の混合溶媒中で、2位の立体配置がS配置であるモナティン(以下、(2S)モナティンと略称することがある)の2位の異性化反応(エピメリ化反応)を行った後、2位の立体配置がR配置であるモナティン(以下、(2R)モナティンと略称することがある)またはその塩を晶析することで、(2R)モナティンを優先的に得られることを見出し、更に(2R)モナティンを晶析する前に、(2S)モナティンを晶析により除去し、その後(2R)モナティンを晶析することにより、より純度の高い(2R)モナティンが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明には、以下の内容が含まれる。
[1] アルデヒド存在下、水と有機溶媒の混合溶媒中で、2位の立体配置がS配置であるモナティンの2位の異性化反応を行う工程、および該異性化反応を行う工程の後、2位の立体配置がR配置であるモナティンまたはその塩を晶析する工程を含むことを特徴とする、2位の立体配置がR配置であるモナティンまたはその塩の製造方法。
[2] 異性化反応を行う工程の後に行われる、2位の立体配置がR配置であるモナティンまたはその塩を晶析する工程が、反応溶液から2位の立体配置がS配置であるモナティンまたはその塩を晶析により除去し、晶析母液から2位の立体配置がR配置であるモナティンまたはその塩を晶析することにより行われる上記[1]記載の製造方法。
[3] 異性化反応を行う工程の後に行われる、2位の立体配置がR配置であるモナティンまたはその塩を晶析する工程が、反応溶液を晶析して得られる結晶を再結晶することにより行われる上記[1]記載の製造方法。
[4] 異性化反応が、2位の立体配置がS配置であるモナティンおよび2位の立体配置がR配置であるモナティンの存在下に行われる上記[1]〜[3]記載の製造方法。
[5] アルデヒドが芳香族アルデヒドである上記[1]〜[3]記載の製造方法。
[6] 芳香族アルデヒドがサリチルアルデヒドである上記[5]記載の製造方法。
[7] 有機溶媒がアルコールである上記[1]〜[3]記載の製造方法。
[8] 異性化反応の反応溶媒のpHが2〜8の条件で行われる上記[1]〜[3]記載の製造方法。
[9] 異性化反応の反応温度が60〜90℃である上記[1]〜[3]記載の製造方法。
[10] アルデヒド存在下、水と有機溶媒の混合溶媒中で、式(1):

で表される(2S,4R)モナティンの2位の異性化反応を行った後、式(2):

で表される(2R,4R)モナティンまたはその塩を晶析する工程を含むことを特徴とする、(2R,4R)モナティンまたはその塩の製造方法。
[11] 異性化反応を行う工程の後に行われる、式(2)で表される(2R,4R)モナティンまたはその塩を晶析する工程が、反応溶液から式(1)で表される(2S,4R)モナティンまたはその塩を晶析により除去し、晶析母液から式(2)で表される(2R,4R)モナティンまたはその塩を晶析することにより行われる上記10記載の製造方法。
[12] 異性化反応を行う工程の後に行われる、式(2)で表される(2R,4R)モナティンまたはその塩を晶析する工程が、反応溶液を晶析して得られる結晶を再結晶することにより行われる上記[1]記載の製造方法。
[13] 異性化反応が、式(1)で表される(2S,4R)モナティンおよび式(2)で表される(2R,4R)モナティンの存在下に行われる上記[10]または[11]記載の製造方法。
[14] アルデヒドが芳香族アルデヒドである上記[10]または[11]記載の製造方法。
[15] 芳香族アルデヒドがサリチルアルデヒドである上記[14]記載の製造方法。
[16] 有機溶媒がアルコールである上記[10]または[11]記載の製造方法。
[17] 異性化反応の反応溶媒のpHが2〜8の条件で行われる上記[10]または[11]記載の製造方法。
[18] 異性化反応の反応温度が60〜90℃である上記[10]または[11]記載の製造方法。
【0016】
なお本発明において、2位の立体配置がS配置であるモナティンとは、(2S,4R)モナティンおよび/または(2S,4S)モナティンを意味する用語であり、2位の立体配置がR配置であるモナティンとは、(2R,4R)モナティンおよび/または(2R,4S)モナティンを意味する用語である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、(2S)モナティンを、異性化反応により、より甘味強度の高い(2R)モナティンへ誘導することができ、特に(2S)モナティンと(2R)モナティンが混在する系で簡便に(2R)モナティンを優先的に得ることができるため、(2R,4R)モナティン及び(2R,4S)モナティンの工業的規模の生産に有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の製造方法に出発原料として使用されるモナティンは、(2S,4R)モナティン又は(2S,4S)モナティンが単独で存在する場合のみならず、(2S,4R)モナティンと(2R,4R)モナティンが任意の割合で存在する混合物及び(2S、4S)モナティンと(2R、4S)モナティンが任意の割合で存在する混合物なども挙げることができる。
【0019】
本発明の製造方法は、(2S,4R)モナティン及び(2R,4R)モナティンが任意の割合で存在する4位光学活性モナティンにおいて(2R,4R)モナティンを選択的に取得したい場合、又は(2S,4S)モナティン及び(2R,4S)モナティンが任意の割合で存在する4位光学活性モナティンにおいて(2R、4S)モナティンを選択的に取得したい場合に特に好適に用いることができる。
【0020】
本発明の製造方法に出発原料として用いられるモナティンは、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の各種塩の形態であってもよい。また本発明の製造方法で得られる(2R,4R)モナティン及び(2R,4S)モナティンも、同様に各種塩の形態であってもよい。これら各種モナティンは、例えば特許文献4または特許文献5に記載された方法に従って製造することができる。
【0021】
特許文献4に記載された光学活性モナティンの製造方法を例にとると、例えば、式(4):

で表される(4R)−4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタミン酸をロジウム炭素等の触媒で水素添加反応を行い(2S、4R)モナティンと(2R、4R)モナティンが含まれる反応混合物を得る。反応混合物中の触媒を濾過し、水とアルコールの混合溶媒で晶析を行うことで、(2R、4R)モナティンを選択的に得ることができる。
【0022】
この場合、反応混合物中に含まれる(2S、4R)モナティンは母液側に淘汰されることになる。しかしながら、本発明の製造方法に従って特定の条件で晶析と同時に異性化反応を行い、(2S、4R)モナティンを(2R,4R)モナティンへに変換することで、より効率的に(2R、4R)モナティンを取得することができる。
【0023】
また、(2R,4R)モナティンと(2S,4R)モナティンの反応混合物から晶析により(2R,4R)モナティンを取得した後の晶析母液には、目的物である(2R,4R)モナティンよりもその2位光学異性体である(2S,4R)モナティンが高比率で含まれる。該母液に本発明の製造方法を適用し、(2S,4R)モナティンを(2R、4R)モナティンに異性化させ、母液から(2R、4R)モナティンを回収するために用いることもできる。異性化反応の効率を考えると、晶析前の反応混合物ではなく、目的物の異性体がより高い比率で含まれる晶析母液に本発明を適用する方が好ましいと言える。このように晶析母液から本発明の方法により得られた(2R,4R)モナティン結晶を、一連のモナティン製造プロセスの一工程に循環することで、生産性を高めることができる。例えば該モナティン結晶を(2S,4R)モナティンと(2R,4R)モナティンの反応混合物から(2R,4R)モナティンを晶析する工程における反応混合物に加えることで、より効率的に(2R,4R)モナティンを製造することが可能である。晶析母液から得られた、(2R,4R)モナティン結晶の純度が高ければ、そのまま該結晶を、反応混合物から晶析して得られた(2R,4R)モナティンの結晶と混合することもできる。
【0024】
以上、(2R,4R)モナティンを取得する場合を例にとり説明したが、(2R,4S)モナティンを取得する場合も全く同様である。また本発明における異性化反応は、例えばモナティンの4種の光学異性体混合物、(2S,4R)モナティンと(2R,4S)モナティンの混合物および(2S,4S)モナティンと(2R,4R)モナティンの混合物などの各種混合物にも適用することができる。その場合、例えば目的に応じて、(2S,4S)モナティンと(2R,4R)モナティンの混合物または(2S,4R)モナティンと(2R,4S)モナティンの混合物を取得することもできる(後掲参考例3参照)。
【0025】
本発明の製造方法においては、異性化反応のためにアルデヒドが使用される。アルデヒドは脂肪族アルデヒド又は芳香族アルデヒドのいずれを使用してもよい。
【0026】
脂肪族アルデヒドとしては、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、1−ブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、カプロンアルデヒド、n−ヘプチルアルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン等の炭素数1〜7の飽和又は不飽和アルデヒドを用いることができる。
【0027】
芳香族アルデヒドとしては、例えばベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、m−ヒドロキシアルデヒド、p−ヒドロキシアルデヒド、o−ニトロベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、5−ニトロサリチルアルデヒド、アニスアルデヒド、o−バニリン、バニリン、フルフラール、ピルドキサール等を用いることができる。
【0028】
アルデヒドとしては、特に、サリチルアルデヒド、ピルドキサール、o−バニリンが好ましい。
【0029】
アルデヒドは、系に存在するモナティンに対して0.01〜1.0モル当量、より好ましくは0.05〜0.5モル当量、更に好ましくは0.1から0.3当量の範囲で使用することができる。
【0030】
本発明の製造方法における異性化反応の反応溶媒としては水と有機溶媒との混合溶媒が使用される。有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒が使用されるが、特にメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコールが好ましい。有機溶媒は異なる2種以上のものを混合して用いてもよい。有機溶媒と水の比率は好ましくは体積比で有機溶媒:水=1:0.01〜1:1、更に好ましくは1:0.1〜1:0.5の範囲で設定される。
【0031】
異性化反応の温度は好ましくは50〜100℃、更に好ましくは60〜90℃の範囲で設定される。異性化反応のpHは通常2〜8、好ましくは3〜7の範囲で設定される。pHの調整は酸及びアルカリを用いて行うことができる。用いられる酸は特に限定されず、酢酸などの有機酸、又は塩酸、硫酸などの無機酸を使用することができる。アルカリも特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、アンモニア、アミン等の有機塩基を使用することができる。
【0032】
異性化反応の反応時間は通常1〜48時間、好ましくは1〜6時間の範囲とすることができる。なお異性化反応において、副反応によりモナティンのラクタム化化合物が生成するが、反応時間が長いほど該ラクタム化化合物の生成量が多くなる傾向にあるため、異性化反応において(2R)モナティンと(2S)モナティンの比率が平衡値に達した時点で反応を終了するのが好ましい。該ラクタム化化合物は、アルカリ条件で加熱することで、ラクタム環が加水分解され、もとのモナティンに誘導することができ、必要に応じて、該ラクタムの加水分解工程を行ってもよい。
【0033】
異性化反応終了後、反応溶液を晶析することにより、(2R)モナティン又はその塩を結晶として得ることができる。晶析方法は特に限定されないが、好ましくは、反応溶液に例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基を加えた後、反応溶液を濃縮または反応溶液中の溶媒を留去し、残渣を適量の水に溶解した後、適量のエタノールを添加することにより(2R)モナティン塩の結晶を析出させる方法が挙げられる。なお、異性化反応において、一定時間経過後、(2R)モナティンと(2S)モナティンの比率が平衡値に達し、例えば、(2S,4R)モナティンを用いて異性化反応を行った場合、反応溶液中の(2R,4R)モナティンと(2S,4R)モナティンの比率は約2:1に収束する。従って、上述したような方法で反応溶液を晶析することにより得られる結晶には(2S,4R)モナティン塩が相当量含まれることになるため、より純度の高い(2R,4R)モナティン塩を得るために、得られた結晶を再結晶するのが好ましい。再結晶は上記と同様に水−エタノール溶媒を用いて行うことができる。また再結晶の際、適量の酸を加えることにより、遊離体のモナティンを得ることができ、また必要により、適量の塩基を加えて再結晶を行いモナティン塩の結晶を得ることもできる。
【0034】
なお、(2S,4R)モナティンと(2R,4R)モナティンと、或は(2R,4S)モナティンと(2S,4S)モナティンとのエタノールに対する溶解度の差を利用することにより、効率的に立体異性体を分離することもできる。即ち、エタノールを貧溶媒として晶析を行う場合、(2R,4R)モナティンと比較して(2S,4R)モナティンがエタノールに対する溶解度が低いため、(2S,4R)モナティンの存在比が少ないにもかかわらず(2S,4R)モナティンの結晶が優先的に析出する傾向にある。従って、(2R,4R)モナティン(塩)の晶析に先立って、まず(2S,4R)モナティンを晶析し、得られた結晶を除去する。得られる晶析母液中の(2R,4R)モナティンの比率は反応直後の反応溶液よりも大幅に高くなるため、これを再度晶析することにより、より純度の高い(2R,4R)モナティン塩の結晶を得ることができる。(2S,4R)モナティンの結晶を晶析により予め除去する場合、晶析温度を70〜80℃程度の高温に設定し、晶析で得られた結晶を好ましくは高温のまま濾過することで、効率的に(2S,4R)モナティンを反応溶液から除去することができる。また得られた(2R,4R)モナティン(塩)の結晶は、更に純度を高めるため上記と同様に再結晶を行ってもよい。(2R,4S)モナティンと(2S,4S)モナティンについても同様である。
【0035】
塩の形態で得られた(2R)モナティンは、当業者に公知の方法により、塩から遊離体に変換することもできる。
【0036】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は当該実施例に何等限定されるものではない。なお実施例中、光学純度測定は下記条件でHPLCにて行った。
【0037】
H−NMRスペクトルについては、Bruker AVANCE400(400MHz)により、MSスペクトルについては、Thermo Quest TSQ700により、それぞれ測定した。陽イオン交換樹脂として、AMBERLITE IR120B H AGを使用した。
【0038】
モナティンの高速液体クロマトグラフィーによる分析は以下の条件で行った。
(分析条件1)
カラム:Inertsil ODS−80A 6×150mm
溶離液:12%CHCNaq 0.05%TFA
流速:1.5ml/min
検出:UV 210nm
カラム温度:室温
(分析条件2)
カラム:CROWNPAK CR(+) 4×150mm
溶離液:HClOaq(pH2.0)/CHOH=90/10
流速:1.2ml/min
検出:UV 210nm
カラム温度:室温
【実施例1】
【0039】
(2R,4R)モナティンのナトリウム塩と(2S,4R)モナティンのナトリウム塩の混合物[(2R,4R):(2S,4R)=26:74]3.152g(10ミリモル)、サリチルアルデヒド244mg(0.2当量)及び酢酸601mg(1.0当量)を25%メタノール水溶液60mlに加え、85℃で6時間加熱撹拌した。加熱終了後の反応液をHPLCで分析したところ、(2R,4R)モナティンと(2S,4R)モナティンの比は63:27であった。反応溶液を減圧下にて濃縮し、残渣に水5mlを加え溶解した後にエタノール50mlを加えると結晶が析出した。スラリー状のまま、85℃にて1時間加熱すると、一度結晶が溶解し均一になった後、再び結晶が析出した。高温のまま反応溶液を濾過し、析出した結晶を濾取した。得られた結晶の(2R,4R)モナティンと(2S,4R)モナティンの比率は15:85であった。得られた結晶を5%アンモニア水に溶解後、減圧下にて濃縮して活性炭を加えた。活性炭を濾過により除去し、濾液にエタノールを加えて晶析し、(2S,4R)モナティンのアンモニウム塩773mg[2.50ミリモル、(2R,4R):(2S,4R)=4:94]を得た。
上記濾過により得られた晶析母液を、2N水酸化ナトリウム水溶液5mlで弱アルカリ性に調整し、反応溶液を減圧下に濃縮した。得られた残渣に水5mlを加えて溶解し、これにエタノール60mlを加え攪拌し、析出した結晶を濾取した。得られた結晶の(2R,4R)モナティンと(2S,4R)モナティンの比率は90:10であった。得られた結晶を水50mlに溶解し、陽イオン交換樹脂を加えてpHをほぼ中性に調整した後に陽イオン交換樹脂を濾過により除去した。濾液に活性炭を加えしばらく撹拌した後に活性炭を濾過により除去した。濾液を減圧濃縮した後にエタノールを加えて結晶化を行い、(2R,4R)モナティンのナトリウム塩(0.6エタノール和物)851mg[2.48ミリモル、(2R,4R):(2S,4R)=88:12]を得た。
【0040】
(2R,4R)モナティンのナトリウム塩結晶(0.6エタノール和物)のH−NMR及び質量分析の結果は以下の通りであった。
【0041】
H−NMR(DO)[主要ピーク]δ:1.95−2.02(m,1H),2.58−2.62(m,1H),3.01−3.05(m,1H),3.21−3.24(m,1H),3.55−3.58(m,1H),7.07−7.11(m,1H),7.14−7.18(m,2H),7.42−7.44(d,1H),7.66−7.68(d,1H)。
【0042】
ESI−MS:291.49(M−H)
【0043】
(2R,4S)モナティンのアンモニウム塩結晶のH−NMR及び質量分析の結果は以下の通りであった。
【0044】
H−NMR(DO)[主要ピーク]δ:2.11−2.17(m,1H),2.38−2.43(m,1H),3.16(s,2H),3.90−3.93(m,1H),7.06−7.10(m,1H),7.13−7.17(m,2H),7.41−7.43(d,1H),7.66−7.68(d,1H)。
【0045】
ESI−MS:291.19(M−H)
【実施例2】
【0046】
(2R,4R)モナティンのナトリウム塩と(2S,4R)モナティンのナトリウム塩との混合物[(2R,4R):(2S,4R)=26:74]3.152g(10ミリモル)、サリチルアルデヒド244mg(0.2当量)及び酢酸601mg(1.0当量)を25%メタノール水溶液60mlに加え、85℃で6時間加熱撹拌した(反応開始時pH=4.27、反応終了時pH=4.31)。反応終了後、反応溶液に2N水酸化ナトリウム水溶液5mlを加え(pH=6.21)、85℃で30分間加熱撹拌した。反応溶液を減圧下に濃縮し、得られた残渣を水5mlに溶解し、エタノール75mlを加えて結晶を析出させた。得られた結晶を一旦水に溶解した後に、減圧下に濃縮し、残渣をイソプロパノールとエタノールの1:1混合溶媒100mlで晶析し、(2R,4R)モナティンのナトリウム塩結晶[(2R,4R):(2S,4R)=64:36]を得た。該結晶を乾燥せずにそのまま水に溶解後、減圧下に濃縮して溶媒量を約10mlとした。溶液に2N塩酸水溶液5mlを加え、得られた(2R,4R)モナティン遊離体結晶(結晶1)を濾取した[(2R,4R:(2S,4R)=84:16)。結晶1の晶析母液を水−エタノールにより晶析し、結晶2を得た[(2R,4R):(2S,4R)=12:88]。結晶2の晶析母液を水−エタノールにより晶析し、結晶3を得た[(2R,4R):(2S,4R)=85:15]。結晶1と結晶3を合わせ、5%アンモニア水に溶解した後に、反応液を減圧下に濃縮し、残渣にエタノールを加えて晶析した。この晶析操作をもう一度繰り返し、(2R,4R)モナティンのアンモニウム塩結晶1.19g[3.38ミリモル、(2R,4R):(2S,4R)=92:8]を得た。結晶2と結晶3の晶析母液を合わせ、水−エタノールにより晶析し、(2S,4R)モナティンのアンモニウム塩978mg[3.16ミリモル]、(2R,4R):(2S,4R)=33:67]を得た。
【0047】
(参考例1)
モナティン(2R,4R)体のナトリウム塩と(2S,4R)体のナトリウム塩の26:74の混合物158mg(0.5ミリモル)を50%メタノール水溶液3mlに溶解し、所定の酢酸とサリチルアルデヒドを加えた。反応液を85℃で加熱し、モナティン(2R,4R)体と(2S,4S)体の比率をHPLCで測定した。併せて、副生物であるモナティンのラクタムも測定した。尚、生成したラクタムのほとんどがモナティン(2R,4R)体に由来する立体異性体であった。
【0048】
【表1−1】

【0049】
【表1−2】

【0050】
【表1−3】

【0051】
【表2】

【0052】
(参考例2)
(2R,4R)モナティンのナトリウム塩と(2S,4R)モナティンのナトリウム塩の26:74の混合物158mg(0.5ミリモル)を25、50及び75%メタノール水溶液3mlに溶解し、1.0当量の酢酸と0.2当量のサリチルアルデヒドを加えた。反応液を85℃で加熱し、モナティン(2R,4R)体と(2S,4S)体の比率をHPLCで測定した。併せて、副生物であるモナティンのラクタムも測定した。尚、生成したラクタムのほとんどがモナティン(2R,4R)体に由来する立体異性体であった。
【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
(参考例3)
(2S,4R)モナティンのアンモニウム塩と(2R,4S)モナティンのアンモニウム塩の混合物[(2S,4R):(2R,4S)=1:1]300mg(0.97ミリモル)、酢酸233mg(4.0当量)及びサリチルアルデヒド120mg(1.0当量)をメタノール30mlに加え、反応液を80℃で16時間撹拌した。反応溶液をHPLCで分析した所、[モナティン(2S,4S)体+(2R,4R)体]:[モナティン(2S,4R)体+(2R,4S)体]=45:55であった。
反応液を減圧濃縮し、残渣に2N水酸化ナトリウム水溶液1.5mlと水30mlを加えた。反応液を80℃で30分間加熱した後に、陽イオン交換樹脂を加え反応液を中和した。樹脂を濾過して除去した後に濾液を減圧濃縮した。残渣を水とエタノールを用いて結晶化し、結晶を濾過して集め、モナティンナトリウム塩の4種立体異性体混合物200mgを得た。結晶をHPLCで分析した所、[モナティン(2S,4S)体+(2R,4R)体]:[モナティン(2S,4R)体+(2R,4S)体]=43:57であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルデヒド存在下、水と有機溶媒の混合溶媒中で、2位の立体配置がS配置であるモナティンの2位の異性化反応を行う工程、および該異性化反応を行う工程の後、2位の立体配置がR配置であるモナティンまたはその塩を晶析する工程を含むことを特徴とする、2位の立体配置がR配置であるモナティンまたはその塩の製造方法。
【請求項2】
異性化反応を行う工程の後に行われる、2位の立体配置がR配置であるモナティンまたはその塩を晶析する工程が、反応溶液から2位の立体配置がS配置であるモナティンまたはその塩を晶析により除去し、晶析母液から2位の立体配置がR配置であるモナティンまたはその塩を晶析することにより行われる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
異性化反応を行う工程の後に行われる、2位の立体配置がR配置であるモナティンまたはその塩を晶析する工程が、反応溶液を晶析して得られる結晶を再結晶することにより行われる請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
異性化反応が、2位の立体配置がS配置であるモナティンおよび2位の立体配置がR配置であるモナティンの存在下に行われる請求項1〜3記載の製造方法。
【請求項5】
アルデヒドが芳香族アルデヒドである請求項1〜3記載の製造方法。
【請求項6】
芳香族アルデヒドがサリチルアルデヒドである請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
有機溶媒がアルコールである請求項1〜3記載の製造方法。
【請求項8】
異性化反応の反応溶媒のpHが2〜8の条件で行われる請求項1〜3記載の製造方法。
【請求項9】
異性化反応の反応温度が60〜90℃である請求項1〜3記載の製造方法。
【請求項10】
アルデヒド存在下、水と有機溶媒の混合溶媒中で、式(1):

で表される(2S,4R)モナティンの2位の異性化反応を行った後、式(2):

で表される(2R,4R)モナティンまたはその塩を晶析する工程を含むことを特徴とする、(2R,4R)モナティンまたはその塩の製造方法。
【請求項11】
異性化反応を行う工程の後に行われる、式(2)で表される(2R,4R)モナティンまたはその塩を晶析する工程が、反応溶液から式(1)で表される(2S,4R)モナティンまたはその塩を晶析により除去し、晶析母液から式(2)で表される(2R,4R)モナティンまたはその塩を晶析することにより行われる請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
異性化反応を行う工程の後に行われる、式(2)で表される(2R,4R)モナティンまたはその塩を晶析する工程が、反応溶液を晶析して得られる結晶を再結晶することにより行われる請求項1記載の製造方法。
【請求項13】
異性化反応が、式(1)で表される(2S,4R)モナティンおよび式(2)で表される(2R,4R)モナティンの存在下に行われる請求項10または11記載の製造方法。
【請求項14】
アルデヒドが芳香族アルデヒドである請求項10または11記載の製造方法。
【請求項15】
芳香族アルデヒドがサリチルアルデヒドである請求項14記載の製造方法。
【請求項16】
有機溶媒がアルコールである請求項10または11記載の製造方法。
【請求項17】
異性化反応の反応溶媒のpHが2〜8の条件で行われる請求項10または11記載の製造方法。
【請求項18】
異性化反応の反応温度が60〜90℃である請求項10または11記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−284349(P2007−284349A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218442(P2004−218442)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】