説明

モノカルボン酸のシリル化法

2〜C10モノカルボン酸と一般式(I)SiHal4-xx〔式中、Halはフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素の群から選択されるハロゲン原子であり、Rは相互に独立して水素、C1〜C10アルキル又はアリールであり、かつxは0〜3の整数である]のハロゲンシランとの反応により、補助塩基の存在下でハロゲン化水素を形成する、シリル化されたモノカルボン酸の製造方法であって、前記補助塩基がハロゲン化水素と塩を形成し、前記塩が有価生成物又は有価生成物の溶液と適切な溶剤中で2つの非混和相を形成するものであり、かつ前記塩が分離される、前記製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノカルボン酸を補助塩基の存在下で反応させることによる、シリル化されたモノカルボン酸の製造方法に関する。
【0002】
カルボン酸のシリル化は、文献で公知である。A. Shihada et al.はZ. Naturforsch. B 1980, 35, 976-980において、ジエチルアミンを添加しながらジエチルエーテル中で酢酸とトリメチルクロロシランとを反応させることを開示している。V. F. Mironov et al.はChem. Heterocycl. Compd. 1966, 2, 334-337において、補助塩基としてのN,N−ジエチルアニリンの存在下、ジエチルエーテル中で同様にトリメチルクロロシランによるとりわけメタクリル酸のシリル化を記載している。この方法の欠点は、濾過性が悪い塩酸塩沈殿物が大量に形成されることであり、これにより濾過の際の収率損失につながる。経済的に魅力的な補助塩基の再生は、コストのかかる固体操作によって困難になる。
【0003】
ヘキサメチルシリザンによるアクリル酸のシリル化は、V. I. Rakhlin et al.著のRuss. J. Org. Chem. 2004, 40pに記載されている。放出されるアンモニアの連続的な除去が必要なため、この反応は不利である。その上この方法は、比較的高い温度で長い反応時間を必要とし、平凡な収率しか得られない。
【0004】
トリメチルシリルカルボキシレートの製造は同様に、C. PalermoによってSynthesis 1981 , 809-811に記載されている。カルボン酸の変換は、N−トリメチルシリル−2−オキサゾリドンを用いて、ハロゲン化された溶剤、例えば四塩化炭素又はジクロロメタン中で行われる。工業的な適用のためには、この反応経路は実用的ではない。と言うのもまず、ハロゲン化された溶剤の使用が問題だからである。これに加えて、この合成はコストが高い。と言うのも、さらになお従来のシリル化試薬の合成が必要だからである。生成物からの2−オキサゾリドンの分離は、コストのかかる再結晶と濾過により行われる。
【0005】
従来のシリル化試薬の合成はまた、Banerji et al.のSynth. Commun. 1982, 12, 225-230に開示されている。カルボン酸による変換の場合、イミダゾールが副生成物として生じ、この副生成物は、収率損失を甘受して生成物から濾過により分離しなければならないものである。
【0006】
他の製造経路は、Y. -F. Du et al.により、Chem. Res. Synop. 2004,3, p. 223-225に記載されている。ここに開示されているのは、溶剤、例えばジエチルエーテル、PEG−400、又はベンゼン中での、酢酸ナトリウムと、トリメチルクロロシランとの反応である。出発物質としてはカルボン酸のナトリウム塩が使用され、この塩をまず製造し、入念に乾燥しなければならなかった。そのため合成の際には塩化ナトリウムが副生成物として生じ、これは濾別しなければならなかった。
【0007】
WO 2003/062171 A2では、反応の過程で副生成物として生成する酸、又は混合物に例えばpH値制御のために添加される酸を、補助塩基、例えば1−メチルイミダゾール又は2−エチルピリジンを用いて反応混合物から分離する方法が公知である。酸は補助塩基と液体の塩を形成し、この塩は有価生成物とは混和性ではないため、液−液の相分離によって分離できる。例示的に、ハロゲンシランによるアルコール又はアミンのシリル化が記載されている。分離すべき酸としては、塩酸と酢酸が開示されている。モノカルボン酸のシリル化法は開示されていない。
【0008】
国際出願WO 2005/061416 A1は、同様に補助塩基を用いて反応混合物から酸を分離するための方法を開示しており、ここでこの補助塩基は、25℃で30質量%の塩化ナトリウム溶液中での溶解性が10質量%未満であり、かつその塩酸塩の融点が55℃未満のアルキルイミダゾールである。この出願の教示によれば、反応の過程で生成する酸、又は反応の間に例えばpH値制御のために添加される酸を分離するために、補助塩基を使用する。モノカルボン酸のシリル化法は開示されていない。
【0009】
よって本発明の課題は、高収率及び高選択性が優れており、かつ経済的に魅力のある、モノカルボン酸のシリル化のためのさらなる代替的な方法を提供することであった。
【0010】
この課題は、C2〜C10モノカルボン酸と、一般式(I)
SiHal4-xx (I)
[式中、
Halはフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素の群から選択されるハロゲン原子であり、
Rは相互に独立して水素、C1〜C10アルキル又はアリールであり、かつ
xは0〜3の整数である]
のハロゲンシランとの反応により、補助塩基の存在下でハロゲン化水素を形成する、シリル化されたモノカルボン酸の製造方法によって解決され、
本方法では、前記補助塩基がハロゲン化水素と塩を形成し、前記塩が有価生成物又は有価生成物の溶液と適切な溶剤中で2つの非混和相を形成するものであり、かつ前記塩が分離される。
【0011】
本発明による方法によれば、シリル化されたモノカルボン酸は容易に、かつ経済性に優れて製造され、本方法では反応の間に放出されるハロゲン化水素が補助塩基と塩を形成し、この塩はシリル化されたモノカルボン酸と混和性ではない。この際、添加される補助塩基は意外なことに、反応混合物からハロゲン化水素を選択的に除去し、モノカルボン酸は除去しない。容易な相分離により有価生成物は、補助塩基とハロゲン化水素との塩から分離できる。モノカルボン酸のシリル化は素早く、かつ高収率で進行する。
【0012】
本発明による方法は、C2〜C10モノカルボン酸と、一般式(I)のハロゲンシランとの反応に適している。この際に飽和のモノカルボン酸であるか、又は一価若しくは多価の不飽和モノカルボン酸であるかは、重要ではない。本発明による方法は好ましくは、飽和C2〜C8モノカルボン酸と、モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸に適している。
【0013】
飽和C2〜C8モノカルボン酸は例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、バレリアン酸(ペンタン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、ヘプタン酸、及びオクタン酸(カプリル酸)、並びにこれらの異性体である。この群のうち好ましいのは、C2〜C4モノカルボン酸、例えば酢酸、プロピオン酸、及び酪酸である。
【0014】
3〜8個のC原子を有するモノエチレン性不飽和モノカルボン酸の群に該当するのは例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ジメタクリル酸、エタクリル酸、α−クロロアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、アコニット酸、メチレンマロン酸、アリル酢酸、ビニル酢酸、及びクロトン酸である。好ましいモノエチレン性不飽和モノカルボン酸は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタクリル酸、及びマレイン酸である。
【0015】
本発明による方法ではもちろんまた、上述のC2〜C10モノカルボン酸の任意の混合物を使用することができるが、好ましくは1種だけのC2〜C10モノカルボン酸を、ハロゲンシランと反応させる。
【0016】
使用されるC2〜C10モノカルボン酸は、ハロゲンシランに対して等モル量で、又は過剰量で使用する。好ましくは1.0〜2.0mol/mol、特に好ましくは1.0〜1.5mol/mol、及びとりわけ1.0〜1.2mol/molで使用する。過剰量のC2〜C10モノカルボン酸が必要となるのはとりわけ、相媒介(phasenvermittelnd)作用のある抽出剤によって補助塩基が汚染されている場合である。
【0017】
ハロゲンシランは一般式(I)
SiHal4-xx (I)
[式中、
Halはフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素の群から選択されるハロゲン原子であり、
Rは相互に独立して水素、C1〜C10アルキル又はアリールであり、かつ
xは0〜3の整数である]
のものである。
【0018】
好ましいハロゲンは、塩素及び臭素である。ハロゲンシランが1つ以上のハロゲン原子を含む場合、つまりxが3でない場合には、ハロゲン原子の混合物が含まれていてよい。しかしながらハロゲンシランは好ましくは、1種のみのハロゲン原子から、特に好ましくは塩素又は臭素のみから成る。
【0019】
置換基Rは同であるか又は異なっていてもよく、相互に独立して水素、C1〜C10アルキル又はアリールであってよい。好ましくは置換基Rは同じであるか又は異なっていてよく、相互に独立してC1〜C10アルキル又はアリール、特に好ましくは同じであってかつC1〜C4アルキル又はフェニルである。
【0020】
本発明の意味合いにおいてC1〜C10アルキルとは、最大10個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状の炭化水素基と理解され、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル1,1−ジメチルエチル、ペンチル、2−メチルブチル、1,1−ジメチルプロピル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、ヘキシル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、1,1−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチル−1−メチルプロピル、1−エチル−2−メチルプロピル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、2,4,4−トリメチルペンチル、1,1,3,3−テトラメチルブチル、ノニル、及びデシル、並びにこれらの異性体である。好ましいのは、1〜4個のC原子を有する直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基である。
【0021】
本発明の意味合いにおいてアリールとは、6〜14炭素員環を有する、核が1〜3個の芳香族環系と理解され、例えばフェニル、ナフチル、及びアントリルであり、好ましくは核が1つの芳香族環系、特に好ましくはフェニルである。
【0022】
式(I)中、xは0〜3の整数であり、好ましくは1〜2の整数、特に好ましくはx=1である。
【0023】
典型的に使用されるハロゲンシランは例えば、
【化1】

であり、好ましくは
【化2】

である。
【0024】
本発明による方法ではもちろんまた、上記ハロゲンシランの任意の混合物を使用することができるが、好ましくは上記ハロゲンシランのうち1種のみを使用する。
【0025】
補助塩基として適しているのはとりわけ、WO 03/062171 A2及びWO 05/061416 A1に補助塩基として挙げられている化合物である。これらの開示内容についてはここで明示的に、とりわけWO 03/062171 A2の7頁4行目〜17頁28行目で挙げられた補助塩基、及びWO 05/061416 A1に挙げられたアルキルイミダゾールについて援用する。WO 03/062171 A2に挙げられた補助塩基の中でも、イミダゾールの誘導体とピリジンの誘導体が好ましく、とりわけ1−メチルイミダゾール、1−n−ブチルイミダゾール、2−メチルピリジン、及び2−エチルピリジンが好ましい。
【0026】
本発明によれば補助塩基とは、反応の間に形成されるハロゲン化水素と塩を形成し、この塩が有価生成物又は有価生成物の溶液と適切な溶剤中で2つの非混和層を形成し、分離される化合物である。
【0027】
好ましいのは、反応体として反応に関与しない補助塩基である。さらに好ましくは、この補助塩基は反応において求核性触媒として作用し、これによりさらなる塩基、例えば文献で言及された塩基であるジエチルアミン又はトリエチルアミンを添加する必要がなくなる。
【0028】
特に好ましいのは、反応の間に形成されるハロゲン化水素と塩を形成し、かつ有価生成物を塩から分離する温度で液体の補助塩基である。
【0029】
先に記載したように、補助塩基は反応の間に形成されるハロゲン化水素と塩を形成する。ここでハロゲン化シランは、使用されるハロゲンシランによって、フッ化水素(HF)、塩化水素(HCl)、臭化水素(BrH)、又はヨウ化水素(HI)あるか、又は式(I)の混合ハロゲンシランの場合には、上記ハロゲン化水素の混合物である。本発明による方法で好ましくは、塩化水素(HCl)、又は臭化水素(HBr)が形成される。
【0030】
さらに補助塩基は、例えば反応の間にpH値調整のために添加される他の酸、例えば硝酸、亜硝酸、炭酸、硫酸、リン酸、又はスルホン酸、例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、又はp−トルエンスルホン酸を除去するために適している。
【0031】
反応混合物が、使用されるC2〜C10モノカルボン酸の他にさらなる酸を含まなければ、分離すべきハロゲン化水素1molあたり通常、少なくとも1molの補助塩基を使用し、好ましくは1.0〜1.5mol/mol、特に好ましくは1.0〜1.3mol/mol、及びとりわけ1.0〜1.25mol/molである。例えばpH値調整のために添加される他の酸は、補助塩基の量に相応して適合させなければならない。
【0032】
反応混合物における補助塩基の滞留時間は通常、数分〜数時間、好ましくは5〜120分、特に好ましくは10〜60分、極めて特に好ましくは10〜30分である。
【0033】
補助塩基は理想的には、シリル化すべきC2〜C10モノカルボン酸と一緒に装入し、引き続きハロゲンシランを完全に、又は連続的に加える。
【0034】
補助塩基と、反応の間に形成されるハロゲン化水素との塩は、有価生成物又は有価生成物の溶液と適切な溶剤中で2つの非混和相を形成する。「非混和」とは、2つの相が相界面により分離して、液相を形成するということである。
【0035】
純粋な有価生成物が補助塩基とハロゲン化水素との塩と完全に、又は大部分混和性である場合には、偏折又は溶解度の減少を達成するため、有価生成物に溶剤を添加してもよい。このことは例えば、有価生成物中での塩の溶解度、又は反対に塩中での有価生成物の溶解度が20質量%又はそれ以上、好ましくは15質量%又はそれ以上、特に好ましくは10質量%又はそれ以上、殊に好ましくは5質量%又はそれ以上である場合には、重要である。溶解度は、それぞれの分離の条件下で定められる。溶解性は好ましくは、塩の融点を超え、かつ次の温度の最低値を下回る温度、好ましくは10℃、特に好ましくは20℃下回る温度で測定する:有価生成物の沸点、溶剤の沸点、及び有価生成物の有意な分解温度。
【0036】
溶剤は、有価生成物と溶剤との混合物が塩を上記の量よりも僅かに溶解する能力を有するか、又は塩が有価生成物又は有価生成物と溶剤との混合物を上記の量よりも僅かに溶解する能力を有する場合に、適当であると見なすことができる。溶剤として使用可能なのは、例えばベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン又はp−キシレン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル、アセトン、イソブチルメチルケトン、ジエチルケトン、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、t−ブチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エステル、酢酸メチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、クロロホルム、ジクロロメタン、メチルクロロホルム又はこれらの混合物である。
【0037】
しかしながら有価生成物は通常、補助塩基とハロゲン化水素とからの塩とは非混和性であり、このため溶剤の添加は省略できる。
【0038】
本発明による方法の特別な利点は、補助塩基とハロゲン化水素とからの塩の分離が、単純な液−液相分離によって行えることであり、これによって方法技術的にコストのかかる固体の取り扱いがなくなる。
【0039】
有価生成物から分離された補助塩基の塩から、当業者は公知の方法で遊離補助塩基を回収でき、これをプロセスに再度送ることができる。
【0040】
遊離補助塩基の回収は、例えば補助塩基の塩を、強塩基、例えばNaOH、KOH、Ca(OH)2、石灰乳、Na2CO3、NaHCO3、K2CO3、又はKHCO3によって、場合によっては溶剤中、例えば水、メタノール、エタノール、n−プロパノール又はイソプロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、又はブタノール異性体混合物若しくはペンタノール異性体混合物、又はアセトン中で遊離することにより行なうことができる。こうして遊離された補助塩基は、この補助塩基がそれ自体で相を形成する場合には分離でき、この補助塩基がより強塩基の塩又はより強塩基の塩の溶液と混和性である場合には、蒸留によって混合物から分離される。必要であれば遊離された補助塩基は、抽出剤、例えば溶剤、アルコール、又はアミンによる抽出によって、より強塩基の塩又はより強塩基の塩の溶液と分離することができる。
【0041】
必要であれば補助塩基は、水又はNaCl水溶液又はNa2SO4水溶液で洗浄でき、引続き、例えば場合によっては含まれる水をベンゼン、トルエン、キシレン、ブタノール又はシクロヘキサンによる共沸蒸留で分離することによって乾燥できる。
【0042】
必要であれば補助塩基は新たに使用する前に、本発明による方法で蒸留することができる。
【0043】
前述のように補助塩基は、反応の間に形成されるハロゲン化水素を分離するために適している一方で、C2〜C10モノカルボン酸のシリル化における求核性触媒としても適している。
【0044】
前記シリル化の実施は制限されておらず、本発明によれば、遊離されたハロゲン化水素、及び場合により添加された酸の捕捉下で非連続的又は連続的に、空気下、又は保護ガス雰囲気下で実施することができる。
【0045】
シリル化は圧力をかけずに、また過圧若しくは減圧で行うことができるが、好ましくは常圧で作業する。
【0046】
反応温度は、補助塩基とハロゲン化水素との塩がそれぞれの圧力下で液体で存在するように選択し、これにより液−液相分離が可能になる。
【0047】
モノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸、並びにこれらのシリル化生成物は、重合可能な化合物である。従ってモノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸の場合に重要となるのは、重合阻害性が充分であるように注意することであり、公知の重合阻害剤を通常量で存在させて作業することである。不所望の重合は、大量の熱量が放出されるため、技術安全上で問題となる。
【0048】
モノエチレン性不飽和モノカルボン酸に対して通常、各物質につき適切な安定剤を1〜10,000ppm、好ましくは10〜5,000ppm、特に好ましくは30〜2,500ppm、及びとりわけ50〜1,500ppm使用する。
【0049】
適切な安定剤は例えば、N−オキシド(ニトロキシルラジカル又はN−オキシルラジカル、つまり>N−O基を少なくとも1つ有する化合物)、例えば4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−N−オキシル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4,4’,4’’−トリス(2,2,6,6,−テトラメチル−ピペリジン−N−オキシル)ホスフィット、又は3−オキソ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−N−オキシル;場合により1つ又は複数のアルキル基を有する一価又は多価のフェノール、例えばアルキルフェノール、例えばo−、m−、又はp−クレゾール(メチルフェノール)、2−t−ブチルフェノール、4−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2−メチル−4−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−t−ブチル−4−メチルフェノール、4−t−ブチル−2,6−ジメチルフェノール、又は6−t−ブチル−2,4−ジメチルフェノール;キノン、例えばヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2−メチルヒドロキノン、又は2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン;ヒドロキシフェノール、例えばブレンツカテキン(1,2−ジヒドロキシベンゼン)、又はベンゾキノン;アミノフェノール、例えばp−アミノフェノール;ニトロソフェノール、例えばp−ニトロソフェノール;アルコキシフェノール、例えば2−メトキシフェノール(グアヤコール、ブレンツカテキンモノメチルエーテル)、2−エトキシフェノール、2−イソプロポキシフェノール、4−メトキシフェノール(ヒドロキノンモノメチルエーテル)、モノ−又はジ−t−ブチル−4−メトキシフェノール;トシフェロール、例えばα−トコフェロール、並びに2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチル−7−ヒドロキシベンゾフラン(2,2−ジメチル−7−ヒドロキシクマラン)、芳香族アミン、例えばN,N−ジフェニルアミン、又はN−ニトロソ−ジフェニルアミン;フェニレンジアミン、例えばN,N’−ジアルキル−p−フェニレンジアミン、ここでアルキル基は同じであるか又は異なっていてよく、それぞれ相互に独立して1〜4個の炭素原子からなっていてよく、直鎖状又は分枝鎖状であってよく、例えばN,N’−ジメチル−p−フェニレンジアミン、又はN,N’−ジエチル−p−フェニレンジアミン、ヒドロキシアミン、例えばN,N−ジエチルヒドロキシアミン、イミン、例えばメチルエチルイミン、又はメチレンバイオレット、スルホンアミド、例えばN−メチル−4−トルエンスルホンアミド、又はN−t−ブチル−4−トルエンスルホンアミド、オキシム、例えばアルドオキシム、ケトオキシム、又はアミドオキシム、例えばジエチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、又はサリシルアドキシム、リン含有化合物、例えばトリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィット、トリエチルホスフィット、次亜リン酸、又はリン酸のアルキルエステル;硫黄含有化合物、例えばジフェニルスルフィド又はフェノチアジン;金属塩、例えば銅塩、又はマンガン塩、セリウム塩、ニッケル塩、クロム塩、例えばこれらの塩化物、硫酸塩、サリシレート、トシレート、又は酢酸塩、例えば酢酸銅、塩化銅(II)、サリチル酸銅、酢酸セリウム(III)、又はセリウム(III)エチルヘキサノエート、又はこれらの混合物であり得る。
【0050】
重合禁止剤(混合物)として好ましくは、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、4−ヒドロキシ2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、2−t−ブチルフェノール、4−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4−メチルフェノール、6−t−ブチル−2,4−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−メチル−4−t−ブチルフェノール、次亜リン酸、酢酸銅、塩化銅(II)、サリチル酸銅、及び酢酸セリウム(III)の群からの少なくとも1つの化合物を使用する。
【0051】
極めて特に好ましくは、フェノチアジン、及び/又はヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)を重合禁止剤として使用する。
【0052】
重合禁止剤(混合物)は好ましくは、水溶液として使用する。
【0053】
更に安定化を支持するために、酸素含有ガス、好ましくは空気、または空気と窒素とからなる混合物(貧空気)が存在していてもよい。
【0054】
シリル化の出発原料、並びに場合により存在するその他の助剤、例えば溶剤又は重合禁止剤は、任意で添加できる。
【0055】
好ましい実施態様では、C2〜C10モノカルボン酸及び補助塩基を、それぞれ少なくとも部分的に、好ましくはそれぞれ完全に、適切な反応器に装入して加熱する。引き続きハロゲンシランを計量供給し、ここでは通常、数分〜数時間のうちに、好ましくは5〜120分以内に、特に好ましくは10〜60分以内に、極めて特に好ましくは10〜30分以内に連続的に、又は少しずつ計量供給する。
【0056】
シリル化に引き続き、前述のように補助塩基の塩の液−液分離を行い、その後に分離された相から補助塩基を回収する。
【0057】
本発明による方法で製造されるシリル化されたC2〜C10モノカルボン酸は、コポリマー中のコモノマーとして、様々な適用に使用できる。
【0058】
以下の実施例は本発明を説明するが、それにより本発明は制限されない。
【0059】
本明細書中において使用される%とppmの記載は、特に記載がない限り、質量%および質量ppmを示す。
【0060】
実施例
実施例1
トリメチルシリルメタクリレートの製造
1Lの反応槽に湿分遮断下で、250ppmのヒドロキノンモノメチルエーテルで安定化されたメタクリル酸220.5g(2.54mol)を装入した。1−メチルイミダゾール231.3g(2.81mol)を素早く滴加し、この際に添加はやや発熱性で進行した。80℃で20分以内にクロロトリメチルシラン281.1g(2.59mol)を滴加した。約3分の1を供給後に反応混合物が濁り始め、2つの層が形成された。完全に供給後、90℃で下部相を外し、下部相330gを分離した。
【0061】
上部相にトリメチルシリルメタクリレート408g(収率99%)が純度98%(GC分析)で得られ、これをフェノチアジン25ppmと混合した。
【0062】
比較例1
トリメチルシリルメタクリレートの製造
0.5Lの反応槽に湿分遮断下で、250ppmのヒドロキノンモノメチルエーテルで安定化されたメタクリル酸50.0g(0.58mol)をトルエン250mL中に撹拌下で装入した。トリエチルアミン58.8g(0.58mol)を素早く滴加し、この際に添加はやや発熱性で進行した。50℃で20分以内にクロロトリメチルシラン63.7g(0.59mol)を滴加した。すぐに濃くて白い懸濁液が生じ、この混合物は撹拌が非常に困難であった。この懸濁液はガラスフィルターヌッチェを介して吸い取り、フィルターケークを2度トルエンで洗浄した。
【0063】
ロータリーエバポレータで溶剤を除去後、トリメチルシリルメタクリレート63.4g(収率58%)が、純度84%(GC分析)で得られた。
【0064】
実施例2
トリメチルシリルメタクリレートの製造
1m3の鋼/エナメル製撹拌槽に、湿分及び酸素の遮断下で1−メチルイミダゾール289kg(3.51kmol)を装入した。引き続き、純粋なメタクリル酸363kg(4.21kmol;1.2当量)を1時間以内に計量供給し、この際に内部温度は45℃に上昇した。それからクロロトリメチルシラン381kg(3.51kmol)を2時間以内に添加し、この際に84℃への温度上昇が観察された。引き続き90℃の温度で45分、後撹拌し、相分離を行った。1−メチルイミダゾリウムクロリドの下相476kg、及び上相557kgが得られ、この上相は99%(GC分析)が生成物のトリメチルシリルメタクリレートから成っていた(収率:99%)。この生成物をフェノチアジン250ppmで安定化した。
【0065】
実施例3
トリメチルシリルアセテートの製造
2Lの反応槽で、酢酸403g(6.70mol)と、1−メチルイミダゾール550g(6.70mol)とを相互に混合し、引き続きクロロトリメチルシラン728g(6.70mol)とゆっくり混合した。添加終了後、反応混合物を90℃に加熱し、1時間、後撹拌し、2時間以内に相分離を行った。下相の1−メチルイミダゾリウムクロリドが804g、及び上相生成物が867g得られた。上相は97%(GC分析)がトリメチルシリルアセテートから成り、これは95%の収率に相応する。
【0066】
実施例4
トリメチルシリルアクリレートの製造
2Lの反応槽に1−メチルイミダゾール517g(6.30mol)を装入し、クロロトリメチルシラン684.3g(6.30mol)をゆっくりと添加し、この際に内部温度は50℃に上昇した。引き続きアクリル酸454g(6.30mol)を添加し、この際に反応混合物の温度は70℃に上昇した。添加終了後に1時間85℃で後撹拌し、最大2時間、相分離を待った。下相の1−メチルイミダゾリウムクロリドが783g、及び上相生成物が859g得られた。上相生成物は96%(GC分析)がトリメチルシリルアクリレートから成り、これは90%の収率に相応する。
【0067】
実施例5
ジメチルシリルービス−メタクリレートの製造
2Lの反応槽に1−メチルイミダゾール550g(6.70mol)を装入し、メタクリル酸697g(8.10mol;1.2当量)をゆっくりと添加し、この際に内部温度は60℃に上昇した。引き続きジクロロジメチルシラン437g(3.37mol)を添加し、反応混合物の温度を外部冷却によって60℃に維持した。添加終了後に1時間85℃で後撹拌し、最大2時間、相分離を待った。下相の1−メチルイミダゾリウムクロリドが903g、及び上相生成物が765g得られた。上相生成物は98%(GC分析)がジメチルシリル−ビス−メタクリレートから成り、これは97%の収率に相応する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2〜C10モノカルボン酸と一般式(I)
SiHal4-xx (I)
[式中、
Halはフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素の群から選択されるハロゲン原子であり、
Rは相互に独立して水素、C1〜C10アルキル又はアリールであり、かつ
xは0〜3の整数である]
のハロゲンシランとの反応により、補助塩基の存在下でハロゲン化水素を形成する、シリル化されたモノカルボン酸の製造方法において、
前記補助塩基がハロゲン化水素と塩を形成し、前記塩が有価生成物又は有価生成物の溶液と適切な溶剤中で2つの非混和相を形成するものであり、かつ前記塩が分離されることを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
前記C2〜C10モノカルボン酸が、飽和C2〜C8モノカルボン酸、及びモノエチレン性不飽和C3〜C8モノカルボン酸の群から選択されていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記飽和C2〜C8モノカルボン酸が、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸から選択されていることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記モノエチレン性不飽和C2〜C8カルボン酸が、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタクリル酸、及びマレイン酸から選択されていることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ハロゲンシランのハロゲン原子が、塩素又は臭素であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ハロゲンシランの置換基Rが同一であり、かつC1〜C4アルキル又はフェニルであることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ハロゲンシランが、
【化1】

から選択されていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記補助塩基が同時に、シリル化のための求核性触媒として作用することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記補助塩基が、1−メチルイミダゾール、1−n−ブチルイミダゾール、2−メチルピリジン、及び2−エチルピリジンから選択されていることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
分離すべきハロゲン化水素1molあたり、補助塩基を少なくとも1mol使用することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
有価生成物中、又は有価生成物の溶液中の補助塩基の塩が、適切な溶剤中に20質量%未満溶解性であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
2〜C10モノカルボン酸及び補助塩基を少なくとも部分的に反応器に装入し、引き続きハロゲンシランの供給を行うことを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−512219(P2012−512219A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541295(P2011−541295)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/066332
【国際公開番号】WO2010/072532
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】