説明

モノクローナル抗体及びこれを産生するハイブリドーマ

本発明は、hEPRの簡便な高感度検出法を確立し、hEPRを発現するヒト腫瘍の新規検出法を提供する。具体的には、本発明は、ヒト型エピレグリン(human epiregulin;hEPR)を特異的に認識するモノクローナル抗体、及びこれを産生するハイブリドーマ、該抗体を用いたhEPRの高感度検出法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ヒト型エピレグリン(human epiregulin;hEPR)を特異的に認識するモノクローナル抗体(monoclonal antibody;MoAb)、該MoAbを産生するハイブリドーマ、該MoAbとhEPRを認識するポリクローナル抗体(hEPR−polyclonal antibody;hEPR−PoAb)を用いたサンプル中のhEPRを特異的に検出する免疫学的測定方法に関する。
【背景技術】
従来、癌細胞において特異的かつ高頻度に出現する遺伝子異常があることが知られており、これに起因して発現する蛋白質がみつかれば、それは癌診断、治療の標的分子となり得ると考えられている。その中で、上皮成長因子EGF(epidermal growth factor)ファミリーに属する分子群とその受容体ErbBファミリー分子群は、癌の増殖、悪性化に関与する分子として癌診断や治療の標的とされてきた(J.Clin.Oncol.,17,2639−2648(1999);Biochem.Biophys.Acta.,1198,165−184(1994);Science,244,707−712(1989);Anticancer Res.,20:91−95(2000);Front Biosci.,1;6:D685−707(2001))。
EGFファミリーメンバーであるエピレグリン(epiregulin;EPR)は、in vitro試験において、正常細胞の増殖を促進し、ある種の癌細胞に対し増殖を抑制するというbifunctionalな性質を持ち、その発現(mRNA)は、胎盤、単球を除き正常組織において極めて低く、ある種の癌細胞では亢進していることが報告されている(例えばThe Journal of Biological Chemistry,1995,Vol.270,p.7495−7500;The Biochemical Journal,1997,Vol.326,p.69−75を参照のこと)。
また、臨床においても、膀胱癌、膵臓癌において発現が亢進しており、有用な癌診断マーカーになることが指摘されている(例えばBiochemical and biophysical research communications,2000,Vol.14,273(3),p.1019−1024;AntiCancer research,2000,Jan−Feb,20 1A9:p.91−95;Cancer research,2001,Vol.61,p.6227−6233を参照のこと)。
これまで、ヒト型エピレグリン(hEPR)を認識するポリクローナル抗体(hEPR−PoAb)を用いて、EPRポリペプチドを検出した報告はある(例えばThe Journal of Biological Chemistry,1995,Vol.270,p.7495−7500;The Biochemical Journal,1997,Vol.326,p.69−75を参照のこと)が、濃縮操作を必要とする、ラジオアイソトープラベルが必要など、スループットのよい、高感度検出方法はなく、また、生体中のEPRポリペプチドを検出したという報告もない。従って、hEPRの簡便な高感度検出法が確立できれば、癌診断法として、癌の早期発見に有用な手段となり得る。
【発明の開示】
EPRと他のEGFファミリーメンバーのタンパク質とは、アミノ酸配列の同一性が24−50%であることが知られている(The Journal of Biological Chemistry,1995,Vol.270,p.7495−7500参照)。また、EPRは種間の配列相同性が非常に高く、例えばヒトとマウスのEPRでは46個のアミノ酸残基中6個のアミノ酸が異なるだけであり、上記のポリクローナル抗体では、上記のように操作が煩雑なだけでなく、これらを識別して検出することができなかった。更に、従来の検出では感度が高々1ng/ml程度であり、生体内におけるEPRの検出は不可能であった。
本発明は、hEPRの簡便な高感度検出法を確立し、ヒト腫瘍の検出に役立てることを課題とする。特に、腫瘍の検出等のために有用な、ピコグラムレベルのhEPRの存在を簡便に検出できる方法を提供する。
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究した結果、hEPRを特異的に認識するモノクローナル抗体(MoAb)を産生するハイブリドーマ2種類(1C3、3E8)を取得するに至った。更に、このMoAbとhEPR−PolyAbを組み合わせたSandwich Enzyme−linked immunosorbent assay法(S−ELISA)を確立し、高感度で且つハイスループットな検出システムを完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(9)を提供する。
(1) ヒト型エピレグリン(human epiregulin;hEPR)を特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
(2) 受託番号FERM BP−08647である、上記(1)に記載のハイブリドーマ。
(3) 受託番号FERM BP−08648である、上記(1)に記載のハイブリドーマ。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかに記載のハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体。
(5) 上記(2)または(3)に記載のハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体によって認識されるエピトープを認識し、かつhEPRを特異的に認識するモノクローナル抗体。
(6) 上記(4)に記載のモノクローナル抗体とhEPRを認識するポリクローナル抗体(hEPR−PoAb)を用いることを特徴とする、サンプル中のhEPRをin vitroで特異的に検出する方法。
(7) 上記(4)に記載のモノクローナル抗体を用いることを特徴とする、hEPRを発現する細胞のin vitro検出方法。
(8) hEPRを発現する細胞がヒト腫瘍である、上記(7)に記載の方法。
(9) 上記(4)に記載のモノクローナル抗体を含む、ヒト腫瘍の検出のためのキット。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2003−070864号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明のハイブリドーマの産生する抗hEPRモノクローナル抗体の力価をELISA法により測定した結果を示す。
図2は、ビオチン化抗hEPRポリクローナル抗体の力価測定の結果を示す。
図3は、ステップワイズ法及び同時添加法を用いたサンドイッチELISA(S−ELISA)系の検出感度を示す。
図4は、一次抗体として1C3モノクローナル抗体を用いたS−ELISA法による本方法の特異性の検討結果を示す。本システムでは、EGFファミリー分子、マウス型EPRとは反応せず、hEPRとのみ反応した。
図5は、ヒト血清中hEPRのウェスタンブロット解析結果を示す。分子量マーカー位置(キロダルトン;kDa)を左側に示した。
図6は、ヒト血清中のhEPRをS−ELISA法により検出した結果を示す。
図7は、各種細胞培養液中のhEPRを検出した結果を示す。
発明を実施するための形態
以下に本発明をより詳細に説明するが、当業者であれば本明細書の記載に基づき、当分野において公知の技術を用いて本発明を種々の態様で実施することが可能であり、本発明は下記の形態に特に限定されるものではない。
本明細書において、「hEPR」とは、特に断らない限りにおいてヒト型エピレグリンの前駆体、成熟体又はその断片をさす。また、「前駆体」とは、酵素切断前の膜結合型の形態をいい、「成熟体」とは、細胞膜から分離したアミノ酸46残基からなるポリペプチド(配列番号1)を意味する。断片としては該ポリペプチドのアミノ酸残基20個以上、より好ましくは30個以上の断片であり、ヒト型エピレグリンに特有の配列を必須に有する。ヒト型エピレグリンに特有の配列とは、特に限定することを意味するものではないが、例えば、ヒト型エピレグリンとマウス型エピレグリンとの比較において異なっていることが知られている、配列番号1のアミノ酸配列における2番目、11番目、26〜29番目、及び39番目のアミノ酸を含む配列である。ヒトとマウスでこれらの部位のアミノ酸残基が異なることは、同じ出願人の特許出願であるWO94/29340に記載されている。これらの部位を含むアミノ酸配列を有する断片は、ヒトとマウス由来のEPR断片で高次構造が異なる。尚、「ヒト型エピレグリン」及び「マウス型エピレグリン」とは、ヒト及びマウスで天然に存在するEPRと同じアミノ酸配列を有するものであるが、必ずしも天然から抽出したタンパク質に限定するものではなく、例えば組み換え体、合成したポリペプチドをも包含することを意図するものである。
「特異的に認識する」とは、hEPRには認識する(または、結合する)が他のEGFファミリーのタンパク質やマウス型EPR等の非ヒト型EPRには実質的に認識しない(結合しない)ことを意味する。例えば、hEPRの前駆体、成熟体そして断片化されたポリペプチドとは認識する(結合する)が、EGFやTGF−α、マウス型EPR等とは実質的に認識しない(結合しない)ことを意味する。具体的には、他のEGFファミリーのタンパク質やマウス型EPR等の非ヒト型EPRに対する結合親和性と比較して100倍以上、好ましくは1,000倍以上、更に好ましくは10,000倍以上の結合親和性を有することをいう。
ここで、「実質的に認識(結合)しない」とは、当分野において通常用いられる検出手段及び本発明の検出方法によって結合が確認されないことをいう。具体的には、hEPRの前駆体、成熟体そして断片化されたポリペプチドとサンドイッチELISA(S−ELISA)法あるいはウェスタンブロット法等で陽性反応を呈するが、EGFファミリーのEGFやTGF−α、またマウス等のヒト以外の哺乳動物由来のEPRとは反応を示さない(検出されない)ことを意味する。
「抗体」とは、完全な全長分子からなるhEPR及びhEPR断片と特異的に結合するポリクローナル抗体(PoAb)又はモノクローナル抗体(MoAb)、又はこれらの抗体の部分フラグメント(例えばパパインまたはペプシンで分解して得られる断片(FabまたはF(ab’)2またはFab’)等を意味し、後述するような製造方法に従って製造することができる。
本発明に係るハイブリドーマ及びモノクローナル抗体は、以下のようにして作製することができる。尚、当業者であれば、以下の記載及び当分野において公知の技術に基づき、適宜改変した方法を用い得る。
(1)抗原の調製
抗原となるhEPRのアミノ酸配列及びこれをコードするヌクレオチド配列については、WO94/29340に記載されている。アミノ酸配列を配列番号1に、ヌクレオチド配列を配列番号2に示す。尚、WO94/29340においては、EPRを腫瘍細胞増殖阻害因子と記載している。
ヒト型リコンビナントEPRは、WO94/29340に記載のように、hEPRをコードするDNA(配列番号2)の断片を含む発現ベクターを構築し、宿主細胞、例えば、限定するものではないが好ましくはBacillus brevis菌に導入して発現させることによって得ることができる。Bacillus brevis菌を用いて発現させた後、培養液を限外濾過膜(1000kDa)を用いて20倍に濃縮後、pHを7.4に1M Tris−HCl(pH8.0)を用いて調製し、陰イオン交換カラム、例えば、Q−sepharoseカラムにより精製を行うことができる。この場合、素通り画分のpHを5.0に調整し、陽イオン交換カラム、例えばS−sepharoseにより精製する。次に逆相カラムクロマトグラフィー(C4カラム)による精製を行うことで電気泳動法による単一バンドまで精製することができる。
あるいはまた、hEPRは、配列番号1に示すアミノ酸配列に基づき、例えば固相法(Merrifield,J.Am.Chem.Soc.,Vol.85,p.2185(1963))によって化学合成することができる。固相法による化学合成は、通常ペプチド自動合成器を用いて標準的な方法で行うことができる。
(2)ポリクローナル抗体の調製
抗原ペプチド溶液を、温血動物に対してそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに計4〜6回程度投与することにより免疫する。用いられる温血動物は、例えば、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット等が挙げられる。3回皮下免疫を行った時点で試採血を行い、抗体価を測定することが好ましい。血清中の抗体価の測定は、抗原として用いたペプチドを96ウェルのマイクロタイタープレートに固定し、ELISA法によって行うことができる。抗体価が十分上昇したことを確認した後、全採血し、通常行われる方法により抗体を分離精製することができる。精製方法は、例えば硫安塩析法、DEAEセルロース等の陰イオン交換体を利用するイオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過法、プロテインA/Gなどの活性吸着剤によるアフィニティークロマトグラフィー等の精製法を挙げることができ、さらにhEPRを固相化したカラムを用いて精製することによりhEPRに対する特異性を向上させることができる。
(3)モノクローナル抗体の調製
モノクローナル抗体産生細胞の作製は、抗原を免疫された温血動物から抗体価の認められた個体を選択し、最終免疫の2〜5日後に脾臓又はリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより、MoAb抗体産生ハイブリドーマ細胞を調製することができる。融合操作は既知の方法、例えばKohler等の方法(Nature,256、495(1975))に従い実施できる。骨髄腫細胞としては、限定するものではないが、例えばPAI、P3U1(ヒューマンサイエンス研究資源バンク(Health Science Research Resources Bank;HSRRB)、日本、カタログNo.JCRB0113及びJCRB0708)などが挙げられる。融合促進剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウイルス(HVJ)をあげることができるが、好ましくは分子量1000〜6000のPEGである。10〜80%程度の濃度で添加し、20〜40℃でインキュベートすることにより、効率よく細胞融合を実施できる。
モノクローナル抗体の選別は、公知の方法に準じて行うことができる。通常HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地で行なわれる。選別及び育種用培地としては、例えば、10〜20%の牛胎児血清を含むRPMI1640培地などを用いることができる。培養は、通常5%炭酸ガス下、培養温度20〜40℃にて5日〜3週間行なわれる。
ハイブリドーマ細胞を培養したウェルから培養上清を回収し、ELISA法によって抗原ペプチドと反応がある抗体を選択することができる。まず96ウェルプレートに抗原ペプチドを固相化した後、仔牛血清でブロッキングする。ハイブリドーマ細胞の上清を、Mouse Immunoglobulins/HRP(Amersham−Pharmacia)と37℃、1時間反応させた後、Tetra Methyl Bendidine Microwell Peroxidase Substrate(TMB;フナコシ)を基質に用いて発色させる。酸で反応を停止させた後、450/540nmの吸光度を測定して3程度の値がでた抗体を選択し,限界希釈法によるクローニングを行う。
かくして得られる目的とするハイブリドーマ細胞を培養してその培養上清よりMoAbを得ることができる。あるいはハイブリドーマ細胞を例えばマウス(Balb/c)に腹腔内投与し、その腹水中からMoAbを得ることもできる。
モノクローナル抗体の精製は上記の通常のPoAbの分離精製と同様に行うことができる。
尚、本発明のhEPRを特異的に認識するモノクローナル抗体を産生する好適なハイブリドーマとして、本発明者等は2種のハイブリドーマを平成14年9月25日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1 中央第6)にそれぞれ受託番号FERM P−19033及びFERM P−19034として寄託し、更に平成16年2月27日にそれぞれ受託番号FERM BP−08647及びFERM BP−08648としてブタペスト条約に基づく国際寄託に移管している。
更に、本発明のモノクローナル抗体として、上記のハイブリドーマ、特に受託番号FERM BP−08647及びFERM BP−08648のハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体によって認識されるエピトープを認識し、かつhEPRを特異的に認識するモノクローナル抗体が包含される。このモノクローナル抗体によって認識されるエピトープは、上記hEPRに特有の配列に含まれるアミノ酸残基を含む。
本発明はまた、上記本発明のモノクローナル抗体とhEPRを認識するポリクローナル抗体(hEPR−PoAb)を用いることを特徴とする、サンプル中のhEPRをin vitroで特異的に検出する方法を提供する。サンプルとしては、被験者から採取した血液、体液、組織等からの抽出液等が挙げられる。該方法は、限定するものではないが、好ましくはS−ELISA法であり、抗原となるhEPRを含む可能性のあるサンプルと本発明のモノクローナル抗体とを接触させる工程と、該工程で生成する抗原−抗体複合体とポリクローナル抗体とを接触させる工程を含むサンドイッチアッセイである。上記の工程を順次行っても(ステップワイズ法)、また同時に行っても(同時添加法)良い。S−ELISA法については、例えば「単クローン抗体、ハイブリドーマとELISA」(岩崎辰夫ら、講談社サイエンティフィック)に記載されており、当業者であれば本明細書の記載に基づいて本発明の方法を実施することができる。本発明の検出方法は非常に検出感度が高く、10pg/ml以上のhEPRであれば特異的に検出することが可能であるので、生体内におけるhEPRの発現濃度(20〜30pg/ml程度)であれば充分な検出が可能である。
本発明はまた、上記本発明のモノクローナル抗体を用いることを特徴とする、hEPRを発現する細胞、特にヒト腫瘍のin vitroにおける検出方法を提供する。hEPRは、細胞において発現した後、細胞膜から分泌されるため、細胞外液における検出が可能であり、サンプルは必ずしも細胞自体を含有する必要はない。
上記方法は、ヒト由来のサンプルと本発明のモノクローナル抗体を接触させる工程と、サンプル中のhEPRの存在を該モノクローナル抗体との結合の有無を指標として検出する工程とを含む。対象となるヒト腫瘍としては、例えば肺癌、大腸癌、膀胱癌、子宮癌、結腸癌等が挙げられるが、特に限定するものではない。
本発明の検出方法は感度が高いことを特徴とするため、サンプルの濃縮等の操作を必要とせず、検出を簡便かつ迅速に行うことができる。本方法は、サンプル中のhEPR濃度が10pg/ml以上の場合に、S−ELISA法等で検出することができるが、充分な検出にはサンプル中のhEPR濃度が25pg/ml以上であることが好ましい。
本発明の検出方法を使用して、特定の腫瘍細胞等におけるhEPRの発現の有無及び発現レベルを決定し、更にはhEPRの発現と腫瘍発生とのメカニズムとの関連性等についての解明にも寄与することができる。更に、hEPRを高発現する腫瘍細胞と正常細胞における発現量に関するデータに基づいて、特定の被験者におけるその腫瘍の有無を容易に検出することができる。
本発明はまた、上記本発明のモノクローナル抗体を含む、ヒト腫瘍の検出のためのキットを提供する。
本発明のキットには、上記本発明のモノクローナル抗体の他、ポリクローナル抗体、緩衝剤、発色試薬、標識試薬、希釈液等を適宜含めることができる。好ましくは、本発明のキットは、S−ELISAを行うためのキットである。
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、上記したように、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1 ハイブリドーマの作製
リコンビナントhEPR(1mg/ml)(WO94/29340号に記載の方法に従って作製)100μlの生理食塩水溶液にフロイント完全アジュバントを同量添加してエマルジョン化し、マウス(Balb/c 6週齢)の背中に免疫した。2週間後に、50μlの1mg/ml抗原ペプチド(hEPR)生理食塩水溶液とフロイント不完全アジュバントを超音波処理によってエマルジョン化したものを追加免疫し、以降1週間毎に追加免疫を行った。免疫後40日目に脾臓を摘出し、RPMI1640培地(ペニシリン,ストレプトマイシン入り)中でリンパ球を取り出し、0.17Mの塩化アンモニウムで赤血球処理を行った。取り出したリンパ球をポリエチレングリコール法(PEG4000)によりマウス骨髄腫由来のミエローマ細胞P3U1株と融合させ、ハイブリドーマ細胞を作製した。得られたハイブリドーマ細胞をフィーダー細胞入りのHAT培地に懸濁して96穴プレート(Nunc)に分注し、15日間培養した。
実施例2 モノクローナル抗体のスクリーニング
実施例1で得られたハイブリドーマ細胞を培養したウェルから培養上清を回収し,ELISA法によって抗原ペプチドと反応があるMoAbを選択した。
まず96ウェルプレートに100μlの10μg/ml抗原ペプチドを添加し、4℃、一晩固相化後、200μlの10%仔牛血清で37℃、一晩ブロッキングを行った。ハイブリドーマ細胞の上清100μlを添加して37℃、2時間反応させた後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)修飾抗マウス抗体(Amersham−Pharmacia)を1000倍に希釈して37℃、1時間反応させ、Tetra Methyl Bendidine Microwell Peroxidase Substrate(TMB;フナコシ)を基質に用いて発色させた。
100μlの4N硫酸を添加して反応を停止させた後、450−540nmの吸光度を測定して吸光度3程度の値がでたMoAb、1C3及び3E8を選択し、限界希釈法によるクローニングを行った。
7日前、3日前にそれぞれ0.5mlのプリスタンを腹腔内投与したマウス(Balb/c)に選択したMoAb、1C3、3E8のハイブリドーマ細胞を腹腔内注射し、約10日後に腹水を採取した。採取した腹水は室温で30分おいた後、4℃で一晩静置し、15000x rpm、10分間遠心して上清を回収した。
選択した2種のMoAbの力価をELISA法により測定した結果を図1に示す。横軸に表示された量のリコンビナントhEPRをマイクロウェルプレートに固相化させ、1C3または3E8(1μg/ml)を添加して反応後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)修飾抗マウス抗体、及びTMBを用いて発色させた。その結果、2種類のMoAbとも濃度依存性の反応を示した。
尚、得られたMoAb1C3、3E8を産生するハイブリドーマを平成14年9月25日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1 中央第6)にそれぞれ受託番号FERM P−19033及びFERM P−19034として寄託した。
実施例3 ポリクローナル抗体の調製
リコンビナントhEPR(1mg/ml)生理食塩水溶液1mlと1mlのフロイント完全アジュバント(Difco)を超音波処理によってエマルジョン化し、ウサギ(日本白色、体重2.7kg、雌;日本クレア)の背中10箇所以上に分けて免疫した。1ヶ月後に0.5mlのリコンビナントhEPR(1mg/ml)生理食塩水溶液1mlと同量のフロイント不完全アジュバント(Sigma)を超音波処理によってエマルジョン化したものを用いて同様に2次免疫し、以降1週間毎に1mlの1mg/mlリコンビナントhEPR生理食塩水溶液と1mlのフロイント不完全アジュバントを超音波処理によってエマルジョン化したものを追加免疫した。採血は免疫した1週間後に行い、採取した血液はパスツールピペットでよく撹拌し室温で1時間おいた後、4℃で一晩静置の後、5,000xg10分間遠心して抗血清を得た。
抗血清を40%硫安塩析し、50mM Tris−HCl(pH8.0)で一晩透析後、Protein−Gカラム(Amersham−Pharmacia)により精製し、IgG画分を得た。さらに抗体を精製するためにNHS−activated Sepharose 4 Fast Flow(Amersham−Pharmacia)約1mlに対し、リコンビナントhEPR 1mgを取扱説明書の記載に基づいて通常の方法で結合させカラムを作製した。上記で得たIgG画分をpH8.0に調製し、このカラムに10時間以上循環し、カラムに吸着した抗体を50mM Glysine−HCl(pH.2.5)/0.15MnaClで溶出し、すぐに1M TrisでpHを中性にもどし、50mM phosphate buffer(pH.7.4)/0.15Mにて透析し、hEPR特異抗体とした。
特異抗体をビオチン化試薬(Amersham−Pharmacia)を用いて通常用いられている方法によりビオチン化した。ビオチン化抗hEPR−PoAbの力価は、以下の方法で測定した。hEPRを200ng/ml(100μl/well)を最高濃度に5倍希釈し96ウェルマイクロプレートに固相化した。25%ブロックエース(大日本製薬;200μl/well)でブロッキング後、ビオチン化抗hEPR−PoAb(0.125μg/ml〜1μg/ml(50%ブロックエース(大日本製薬)を用いて希釈):100μl/well)を添加して室温で2時間反応後、Avidin−HRP(Amersham−Pharmacia)1000倍希釈液100μl/wellを添加し、室温で30分反応させた。TMB添加後、室温で30分反応後、4N−硫酸で反応を止め、450−540nmの吸光度を測定して実施例2と同様に固相化した抗原に対する力価を検出した。その結果、いずれも抗原濃度依存性の反応を示し、使用可能な力価であることを確認した(図2)。
実施例4 サンドイッチELISA系の確立
実施例2で得られたモノクローナル抗体、及び実施例3で得られたポリクローナル抗体を用いたELISA系を作製した。
モノクローナル抗体、1C3を1μg/ml濃度で100μl/wellマイクロプレートに添加して4℃で24時間インキュベートし、固相化した。0.1%Tween20を含む50mM Tris−HCl,pH7.5(TBST)200μl/wellで3回洗浄した。次に、25%ブロックエース200μl/wellを添加し、4℃で24時間インキュベートしてブロッキングを行った。
ステップワイズ法(Stepwise method)として、TBST200μl/wellでウェルを3回洗浄後、hEPRを1ng/mlより2倍系列で希釈して添加後、室温で2時間反応させ、次にビオチン化抗hEPR−PoAb(1μg/ml;100μl/well)を添加し、室温で2時間反応させた。
また、同時添加法(Same time method)として、抗原のhEPRとビオチン化抗hEPR−PoAbを同時添加し、室温で2時間反応させた。
TBSTでウェルを5回洗浄後、アビジン−HRP(Amersham−Pharmacia)1000倍希釈液100μl/wellを添加し、室温で30分反応させた後、4N−硫酸で反応を止め、450/540nmの吸光度を測定した。その結果、同時添加法とステップワイズ法で検出感度に差がなく、いずれも感度が生体内存在量を測定するのに十分な感度(25pg/ml)であった(図3)。一次抗体として3E8を用いて同様な試験を行った場合も同様な結果を得た。
実施例5 サンドイッチELISA系の特異性
実施例4に示した方法(同時添加法)で本システムの特異性を確認した。
一次抗体として1C3 MoAb(1μg/ml,100μl/well)を固相化させ、25%ブロックエース(200μl/well)でブロッキング後、EPRの属するEGFファミリーメンバーの分子群(6種類;表皮成長因子(epidermal growth factor;EGF)、トランスフォーミング成長因子(transforming growth factor−α;TGF−α)、ヘパリン結合EGF様成長因子(heparin−binding EGF−like growth factor;HB−EGF),ベータセルリン(betacellulin;BTC),アンフィレグリン(amphiregulin;AR),ヘレグリン−α(heregulin−α;HRG−α):いずれもR&D社、またはSigma社より購入)、マウス型EPR(ヒト型EPRと同様に製造)、またはヒト型EPRをそれぞれ横軸に表示された量で抗原としてビオチン化抗hEPR−PoAb(2μg/ml、50μl/well;final1μg/ml)と共に添加した。EGFファミリーメンバー6種類とマウス型EPRは最高濃度200ng/mlから4段階の5倍希釈系列で添加した(100μl/well)。ヒト型EPRは最高濃度200pg/mlから同様に4段階5倍希釈系列で添加した。次いで、avidin−HRPと反応させた後、TMBを用いて発色させた。
その結果、図4に示すように、hEPRは高感度に検出したが、他の分子、すなわちEGFファミリー分子及びマウス型EPRは1000倍高い濃度でも全分子ともに検出せず、本サンドイッチELISA系の特異性が確認できた。一次抗体として3E8を用いて同様な試験を行った場合も同様な結果を得た。
実施例6 ヒト血清中のヒト型EPRのウェスタンブロット解析
ヒト血清(Rockland INC.)を50mM Tris−HCl buffer pH7.4(Gibco BRL)を用いて10倍に希釈した。この希釈血清にリコンビナントhEPRを添加し、最終濃度がlane1:0pg/ml,lane2:8pg/ml、lane3:40pg/ml、lane4:200pg/ml、lane5:1000pg/mlになるように5倍系列で希釈して試料を作製した。こうして得られた試料をSDS−PAGE(SDS polyacrylamide gel electrophoresis)を用いて電気泳動し、PVDF膜(第一化学)に転写した後、hEPRを認識する各抗体、抗hEPR−PoAb、MoAb1C3、及び3E8(1μg/ml)を用いてイムノブロッティング法(J.Biol.Chem.,270,7495−7500)により解析した結果、各抗体ともに特異的に3.7〜8.2キロダルトン(kDa)の位置にhEPRを検出した(図5)。尚、PoAbと1C3MoAbにおいて約28kDaにバンドが認められたが、抗原(−)のレーンでも検出されていることから非特異的検出バンドと考えられた。
実施例7 ヒト血清中ヒト型EPRのELISA法による検出
モノクローナル抗体、1C3或いは3E8を1μg/ml濃度で100μl/wellマイクロプレートに添加し、4℃で24時間インキュベートして固着した。プレートを0.1%Tween 20を含む50mM Tris−HCl,pH7.5(TBST)200μl/wellで3回洗浄した後、25%ブロックエースを200μl/wellで添加し、4℃で24時間インキュベートしブロッキングを行った。TBST 200μl/wellで3回洗浄後、2倍希釈ヒト血清を用いてhEPRを最高濃度400pg/mlより2倍系列で希釈し、50μl/wellで添加した。同時にビオチン化抗hEPR−PoAb(2μg/ml)を50μl/wellで添加し、室温で2時間インキュベートした。TBSTで5回洗浄後、Avidin−HRP(Amersham−Pharmacia)1000倍希釈液100μl/wellを添加し、室温で30分反応させた後、4N−硫酸で反応を止め、TMBを用いて発色させて450/540nmの吸光度を測定した。その結果、図6に示すように、1C3及び3E8のいずれも25pg/ml濃度のhEPRを十分検出可能であった。
実施例8 培養ヒト癌細胞の産生するEPRの検出
マウス(IC38、RAW264.7、NIH3T3クローンT7、MoAb−3)及びヒト(T−24、A−549、HCT116、colo205、colo201、HeLa、NB69、A431、SK−BR−3、MDA−MB−468、KB、TR−13)由来の各種培養細胞を、10個/10ml/dishで3日間、10%牛胎児血清存在下培養した培養液を用いて、S−ELISAによるhEPRの検出を行った。
1C3 MoAb(1μg/ml)を100μl/wellで固相化させ、ブロッキング後、各種細胞培養液50μl/wellとビオチン化抗hEPR−PoAb(2μg/ml)を50μl/wellで同時添加し、室温で2時間インキュベートした。以降の操作は実施例4と同様に行った。尚、対照のためにhEPRを添加した、またはしていない血清(10%FBS、ヒト血清、0.1%BSA(hEPR 1ng/ml)、ヒト血清(EPR 1ng/ml))で同様の操作を行った。
その結果、マウス型EPR産生細胞NIH3T3クローンT7をはじめ、マウス細胞の培養液ではA450nmの吸収は認められなかったのに対し、ヒト型癌細胞ではA−549(ヒト肺癌細胞)、HCT116(ヒト大腸癌)、colo201(ヒト大腸癌)、colo205(ヒト大腸癌)、T−24(ヒト膀胱癌)においていずれも高いhEPRの産生が確認され(図7)、培養液中のhEPRを特異的に検出できることが確認された。尚、HeLa(ヒト子宮頸癌)、NB69(ヒト神経芽細胞腫)、KB(ヒト表皮癌(口腔))、A431(ヒト表皮癌(表皮))、SK−BR−3(ヒト乳癌)、MDA−MB−468(ヒト乳癌)、TR−13(ヒト腎癌)のヒト癌細胞の培養液では検出できなかった。
【産業上の利用の可能性】
本発明により、ヒト血液中、組織中等の生体内に存在するhEPRを特異的かつ高感度に検出するシステムの提供が可能となり、hEPRを発現する腫瘍細胞の存在を検出する癌診断等に有用である。更に、本発明の方法を用い、hEPRの発現の有無、更にはhEPRの発現と腫瘍発生とのメカニズムとの関連性等についての解明にも寄与することが期待される。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【配列表】


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト型エピレグリン(human epiregulin;hEPR)を特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項2】
受託番号FERM BP−08647である、請求項1に記載のハイブリドーマ。
【請求項3】
受託番号FERM BP−08648である、請求項1に記載のハイブリドーマ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体。
【請求項5】
請求項2または3に記載のハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体によって認識されるエピトープを認識し、かつhEPRを特異的に認識するモノクローナル抗体。
【請求項6】
請求項4に記載のモノクローナル抗体とhEPRを認識するポリクローナル抗体(hEPR−PoAb)を用いることを特徴とする、サンプル中のhEPRをin vitroで特異的に検出する方法。
【請求項7】
請求項4に記載のモノクローナル抗体を用いることを特徴とする、hEPRを発現する細胞のin vitro検出方法。
【請求項8】
hEPRを発現する細胞がヒト腫瘍である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項4に記載のモノクローナル抗体を含む、ヒト腫瘍の検出のためのキット。

【国際公開番号】WO2004/081047
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503621(P2005−503621)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003424
【国際出願日】平成16年3月15日(2004.3.15)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】